説明

乳管への炎症メディエータの侵入を検知して、低減、阻止するデバイス、システム、および方法

乳管の流体移動を計測、低減、または予防するため、または、胸部の病状を検知、予防するためのデバイス、システム、および方法が開示される。開示されている技術、方法、およびデバイスは、上皮性悪性腫瘍を含む様々な疾患に応用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2010年1月14日提出の米国仮特許出願第61/295,003号明細書の優先権を主張しており、この内容全体を参照として本開示に組み込むこととする。
【0002】
本発明は炎症に係る。特に本発明は、乳管への炎症メディエータの侵入を検知して、低減、阻止するデバイス、システム、および方法に係る。
【背景技術】
【0003】
乳がんは、全てのがんのなかで最も罹患者数が多く悲惨な病の1つである。毎年男女問わず数百万人がこの病気に罹り、失われる命も数知れない。ここ50年間でこの分野における技術はかなり進歩したが、この病は、その発症原因、早期発見、および、予防法等、まだ研究の余地が多く残されている。より深い研究が必要な数多くの課題の1つに、がんが悪性化する前の予防方法がある。
【0004】
乳がんは、胸部の細胞ががん化して異常増殖する病気である、というのが現在の認識である。乳がんは、特にアメリカ人女性のなかで2番目に多く、死に至らしめるがんである。女性のうち浸潤性の乳がんを発症する確率は8人に1人である。乳がんの最大の脅威は、大元の発症原因が不明であり、現在調査段階にある、ということである。ある研究結果は、乳がんは、その大部分が乳管の上皮細胞で発生する、と示している。注目すべき例外もあるが、腫瘍の多くは乳頭から数センチ以内の距離の乳管の領域に多く発生する。しかし乳頭を覆うおよそ20個の乳管のいずれかの悪性化を特定する予測パターンは存在していない。
【0005】
この病の主要原因が不明であることから、正確な診断器具、効果的な処置法、治療法を開発することは困難である。ある研究結果は、乳がんの主要原因はエストロゲンのレベルが高いことにある、としている。しかし、エストロゲンが直接がんの直接の発症原因なのか、あるいは、がん性細胞を増殖させる成長促進要因の1つに過ぎないのか、に関する研究は進んでいない。
【0006】
また現在、洗剤(detergents)または遊離脂肪酸等の外部毒素が、細胞および腫瘍の増殖に直接関連性を持っているか、についての研究も進められている。これらの化学物質は、がん化を引き起こすような遺伝子の突然変異を引き起こしたり、多くのがんの先駆体として知られている慢性炎症反応の原因となったりすることが知られている。しかし、これらの細胞が外部の有害物質に晒されているか、またはどのようにして晒されるかは分かっていない。乳頭から、授乳時のような流体が出てくることが知られている。解剖学的研究によって、胸部は乳頭からの分泌物を防ぐ弁のような機構がないようであることが分かっている。
【0007】
長年の調査結果により、炎症マーカは、悪性化およびがんに進行する前に見られることが示唆されている。このコンテキストでは、炎症カスケードは、基本的に、修正機構であることが注目に値する。「炎症の消散」により、一組の循環細胞(例えば好中球、Tリンパ球、マクロファージ)、幹細胞、およびこれらもまた原始胚発生の一翼を担う幾つかの信号経路を利用する修正中に、傷ついた組織および炎症カスケードが修復され、組織を、瘢痕組織に、また場合によっては、元々の実質的な機能にまで修復することができる。従って、炎症マーカ(例えばサイトカイン、リンホカイン、プロアテーゼ、成長因子)のレベルの上昇は、組織が修復プロセスを行っていることを示す。
【0008】
従って、乳管における炎症マーカの検知には、どの機構がこれらチャネルに沿った上皮細胞の損傷を起こしたかを知ることが重要な課題となる。この重要な課題に対する答えが、まさに、炎症の早期発見および炎症に対する最適な治療介入の設計の可能性を広げることとなる。また最も重要なことは、損傷の機構を理解することで、この病に対して最初に取り組むべき予防法の示唆が見つかるだろうことである。
【0009】
これまでのところ、胸部の組織に直接損傷を与えうるような機構(つまり、壊死またはアポトーシスを生じさせないレベルの、乳管の上皮細胞のDNAへの損傷)を発見した研究はあまりない。機械的ストレス、熱、放射線、または類似した損傷機構による外傷が軟部組織の細胞に損傷を与えうることは明らかではあるが、これらの形態の損傷が乳がんの発症原因として主要なものである、という疫学上の裏づけは少ない。従って、乳管の上皮細胞に対する損傷原因として考えうる他の機構を探ることが課題である。
【0010】
悪性化する前に乳がんを防ぐ方法はまだ見つかっていない。しかし、開発段階の技術は幾つか存在しており、これには、乳がんの手術時、または「乳頭からの分泌物」がある所見において、カニューレおよび/または内視鏡を乳管の上皮に挿入してがん細胞を採取して、研究、生体検査または切除を行う、または目視による検査および生体組織検査(biopsy histology)と照らし合わせる、という従来の技術(乳管内視鏡(Ductoscopy))が含まれている。しかしこれら技術は患者に不快感を生じさせ、非常に限定的であり、複数の欠点を有する。
【0011】
このように、胸部の健康および炎症に関する因子を検知して制御するための新たな方法が望まれている。願わくば、方法は実行しやすく、個人に対して、乳がんに関する炎症メディエータの有害な悪影響を低減させる、または防ぐことができるものが望ましい。
【発明の概要】
【0012】
本発明は、乳頭の表面の乳管の開口から外部有害物質が入ることで、上皮細胞が損傷を受ける、という仮説に基づいている。従って、乳頭の表面の潜在的に開いている乳管からの、マイクロリットルレベルの流体の移動を検知して、これら流体または汚染物質の移動を低減させる、または止めるデバイスの開発が望まれる。
【0013】
本発明は、一部に、環境における流体(例えば、浴槽、風呂水等における洗剤、石鹸、または塩化物)が、乳頭の上皮の乳腺管から侵入することで、炎症メディエータが発生する、という仮説に基づいている。これらの損傷を引き起こす流体が、乳管または乳管洞内に侵入すると、乳管および乳管洞の上皮細胞と接触して損傷を引き起こす。外部の流体との接触場所としては、乳頭の、乳口に近い箇所が最も可能性が高いが、そこに限定されるわけではない。流体の入り口となる管は、上皮を通り、乳頭の先端部の終点部の外側に開かれ、通じている。管が開いているか、という点ではいくつかの可能性が考えられる。-つまり、幾つかの管は覆われていない、または、流体が存在していると開いて、膨張して、乳頭を覆う上皮に浸透させる(以下を参照のこと)。本発明の目的の1つは、乳頭を通って皮下組織に流れ込む流体の流れを計測することで、開いている乳管を発見することである。
【0014】
この仮説の重要な点が、乳腺組織において乳頭から流体を入り込ませる機構の存在である。このためには、乳腺組織における流体輸送の仕組みを研究する必要がある。その重要性にも関わらず、胸部における母乳輸送の仕組みは、今日においてもあまり研究が進んでいない分野である。乳管から出る流体は、主に、母乳分泌物および乳胞(lactiferous alveolae)の上皮細胞からの他の流体に後押しされる。流体分泌物が小葉(intraductal compartment)に入ると、乳胞の端部における流体圧が上がり、これが、乳胞の内腔の流体圧を上げ、母乳を乳管洞に送る主要な仕組みとなる。乳管洞は、母乳貯蔵庫のような働きをしており、おそらく他の乳管組織よりも拡張性を有することで、乳胞で生成された流体を一次保存して、乳頭の細管を通じて乳管足瓶嚢(ampullae)するために備える。ヒトの胸部の乳腺組織は比較的小さいために、上皮細胞から流体が生成される速度も比較的遅いことから、小葉からの流体の流れも、低いレイノルド係数を示す。しかし胸部および乳管洞は外部が圧迫されているので、乳頭の乳腺組織を流れる流体の流れがより高いレイノルド係数を有して、これにより慣性流が速くなり乳頭の先端から流体を噴射させる場合もある。レイノルド係数の高低に関わらず、母乳が乳管組織から外部に出るためには、胸部の流体圧が、乳管が外部に向けて開口している乳頭における圧力よりも高くなる必要がある。これが一般的な母乳分泌において流体機構に必要な要件である。
【0015】
しかし、乳管は乳頭で封止されているわけではなく、外部に開口しているので、外部の流体が乳腺組織および乳管洞へと逆流することがある。この逆流が生じるための要件は、乳腺組織および乳管洞内の流体圧が乳頭の外部の流体圧(気圧)より低くなる、ということである。このような状況はどのようにして生じるのであろうか?
【0016】
先ず言及しておきたいのは、流体の再吸収機構による上皮細胞を通る流体逆流には確証が得られておらず、乳腺組織の壁部から胸部の間質腔への流体の逆流の確証もない、ということである。しかし、上皮細胞の一部が流体の輸送を停止して(アポトーシス等の場合)、このサイトが間質腔に流体をリークさせて、乳腺組織と間質腔との間を滞りなく通じさせる場合もある。このような場合には、間質水の圧力が外部圧より低くなり、乳頭の先端から流体が侵入する可能性がある。
【0017】
そうではなくて、乳管が開口している場合は、乳管内の流体圧が、乳頭で開いている外部の流体圧力より低くなると、流体が胸部内へと逆流する危険性が高くなる。このような状況は、いかなる種類の胸部組織の運動中であっても、乳管が一時的に圧縮拡張するときに(例えば通常の呼吸時、一時的な胸部の変形時または恣意的に圧迫された場合)生じる。乳管の圧縮期には、乳腺からの分泌物が先端から出て、乳管の体積が部分的に小さくなる。組織の反跳期には、乳管は可撓性をもって反跳して、その安定期の形状に戻る(つまり、圧縮された構成にはとどまらない)。このためには、乳管の体積を大きくする必要があるが、乳管からの分泌物を圧縮できない場合には、乳頭から乳管への流体の逆流を利用することでしか、安定期の形状に戻ることはできない。従って、圧縮され、部分的に排出された乳管の可撓性のある反跳が、流体を侵入させる可能性をもっている。比較的少量の流体が侵入した場合には、乳管の圧縮が小さいので、外部の流体は、乳管における、乳頭の直近部のみの領域にしか侵入しないが、これは、乳頭付近において乳管の炎症が生じる確率が高いことをよく説明している。乳管の開口が圧縮する程度が低いと、侵入した環境流体に乳頭が近くなる可能性も低くなり、乳管の圧縮する程度が高いと、流体が乳腺組織の奥深くに侵入する可能性が高くなる、ということになる。
【0018】
乳頭において全ての乳管が閉じている場合には、乳腺組織には流体の逆流が生じないことになる。従って胸部の上皮細胞の炎症に関する基本的な課題は、逆流して侵入して上皮に炎症反応を開始させるような開口した乳管の存在である。乳頭付近の乳腺組織に病変形成の確率が高い、という観察結果は、本発明の仮説と合致している。
【0019】
本発明は、炎症、病変状態、および前がん状態を生じさせる可能性のある炎症メディエータの侵入を検知して、評価して、低減させ、または防ぐ技術を提供する。開示された技術は、主に乳がんに対して語られるが、ここで提示する診断の考え方は、他の類似した病状(例えば前立腺の炎症およびがん、卵巣および大腸における炎症およびがん、および、一部の脳に関する炎症およびがん)にも応用可能である。本開示を検討した当業者であれば、上述した条件以外の条件に本開示を応用する技術について想到するであろう。
【0020】
より広義には、本開示の技術は、上皮細胞由来の炎症およびがん全般(つまり上皮性悪性腫瘍)に応用可能であるが、これは上皮細胞が洗剤その他の化学物質に晒される可能性を持っているからであり、上皮性悪性腫瘍は、全てのがんの中の85%を占めるからである。
【0021】
本発明のある態様では、(a)開口している乳管を検知する、(b)開口している乳管を閉じて、炎症および乳管の上皮性悪性腫瘍を予防する、(c)開口している乳管を通じて抗炎症/抗がん治療を施すための技術が提示される。
【0022】
本開示では、以下を含むがこれらに限定なされない様々な目的で胸部の乳頭/乳輪領域を覆うように配置する自動接着式キャップ/包帯(「乳管キャップ」)の利用を含む方法を提案する。
・乳管の経皮を一時的に封止して、水に溶けない、または、石鹸に溶けないローション/クリームで、潜在的に環境毒物の侵入点として機能しうる、外部に開いている乳管を封止する(経皮用)ための乳管キャップ。
・乳管の経皮を診断するための乳管キャップ。乳管キャップには、開いている乳管を検知するために蛍光(その他の追跡物質)を含む流体(スポンジ状の物質)が塗布されている。
・乳管の経皮を封止することを目的とした乳管キャップ。この種類の乳管キャップは、乳管の経皮を覆う外科用接着剤、または、乳管の経皮の侵入点の皮膚を封止する皮膚成長因子/肝細胞を塗布される。
・治療目的の乳管キャップ。この種類の乳管キャップは、開いている乳管に対して、抗炎症材、抗がん剤を直接投与(経皮に対してではなくて)するためのものである。この種類の乳管キャップは、抗炎症剤または抗がん剤を含んだ水溶液に浸したスポンジ状の材料を塗布されており、流体が逆流して乳管に吸収されるまで、選択した一定の期間装着される。
【0023】
乳管の炎症の低減または予防、乳管の経皮の検知、乳管の封止、または、既に生じている炎症/上皮性がんの治療のための技術としてこれに匹敵するものは考えられない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1A】汚染物質の水溶液に浸したときの胸部の一例の側部断面図である。
【0025】
【図1B】汚染物質の水溶液に浸して、汚染物質が乳管に侵入したときの胸部の一例の側部断面図である。
【0026】
【図1C】物理的障壁によって乳管に汚染物質の水溶液および温泉物質の侵入を妨げたときの胸部の一例の側部断面図である。
【0027】
【図2】本発明の一実施形態における、胸部の乳管に、追跡子、マーカ、治療薬を導入するためのデバイスの側面図である。
【0028】
【図3】本発明の一実施形態における、胸部の乳管に導入された追跡子、マーカ、汚染物質、治療薬を感知、検知するために利用するための撮像システムの概略図である。
【0029】
【図4A】本発明の一実施形態における乳管キャップの一例の上部概略図である。
【0030】
【図4B】本発明の一実施形態における乳管キャップの一例の側部概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
乳がんは、全てのがんのなかで最も罹患者数が多く悲惨な病の1つである。乳がんの最大の脅威は、大元の発症原因が不明であるということである。これまで、この病の生化学的要因を指摘する仮説はいくつも提起されているが、この病を引き起こすメカニズムに焦点をあてるような原因の研究はあまりなされてこなかった。本発明の開示は、外部環境からの有害物質が、乳頭の表面の開口から乳管に入り込み、上皮細胞に突然変異を引き起こさせてがん化させる、という説を導入する。この仮説をテストするために、蛍光性追跡材料としてインドシアニングリーン(ICG)を利用する近赤外線撮像システムを開発した。従って、本発明では、胸部組織を照明して、再侵入した蛍光物質を監視して、開口した乳管を検知する方法が提示される。われわれの最初の研究では、撮像システムの感度および実験パラメータの検知も行った。
【0032】
乳管が開いているということは、形態的には目視しても容易に判別がつかない場合が多い。しかし乳がん患者のなかには、乳管が開いていることが明らかに見てとれる事例があり、このような事象は、管からの流体を収集して診断に役立てるための研究対象となっている。症状のない胸部では、開いている乳管を見つけるためには、乳管内で流体が動いていることを示すための、機能的なテストを行う必要がある。この一例に、開いている乳管からの、蛍光性の追跡子(例えばインドシアニングリーン)の侵入、または、流体(空気等)の退出を検知する、というものがある。
【0033】
追跡子の開口した乳管への侵入は、乳管の先端に追跡流体を配置して、乳管の通常の圧縮/拡張(歩いて呼吸しているときに行われるような胸部組織の通常の運動)に合わせて侵入させることで、近赤外線蛍光物質を利用して乳管を高解像度で撮像することで検知することができる。
【0034】
開口した乳管からの流体の退出は、乳管に外部から圧迫を加えることで検知することができる。一案としては、開いて、部分的に流体が満たされた乳管から出てゆく空気(粘度の低い媒体なので、開口した乳管に進入させる目的には理想的である)を検知するものがある。胸部組織の普通の変形時および乳管の圧縮/拡張時に、空気が通常の乳管の流体を追い出すような乳管が存在する可能性がある。この案では、乳頭を水に沈めて、胸部を圧縮しつつ、乳管を通じて乳頭からでる気泡形成を記録する。
【0035】
各年齢層、および、いろいろな月経、授乳段階にある人々を含めて、通常の症状のない人々が開いた乳管を有しているかどうかについては、まだ研究実績がない。
【0036】
乳管は乳頭を網羅している。授乳時には外部に開いているが、乳管の多くは、育児中ではないときには封止されているように見える。しかし詳細はわかってはおらず、通常の個人において開いた乳管を計測する手段はないが、がんの罹患者を診断すると開いた乳管が見つかることがある。
【0037】
胸部への流体の逆流を防ぐことができる、乳管内の弁の存在を示す証拠は存在せず、体内(例えば静脈内、リンパ管内、または心臓内)の他の管系統にもその性質のものが存在する証拠はない。従って、流体が乳管から胸部内に逆流しないようにするためには、乳頭部が封止されるか否かにかかっている、と思われる。乳管を封止する正確な分子メカニズムは未だわかっていないことが多い。乳管の封止には、幾つかの仕組みが関わっていると考えられている。
1.ケラチン生成細胞層で乳管の終端部が覆われており、その厚みは、必ずしも均等ではなく、実際には幾つかの開口がある場合がある。
2.乳管は、乳頭の個々の乳管の内腔の破損または閉塞により封止される場合があり、このプロセスが生じるには、乳管に沿って存在する細胞内の上皮と上皮との癒着が必要となる。内胞はまた、乳管を取り囲む単一内皮細胞の集中によっても閉塞されて閉じられることがある(収縮する細動脈が一例である)と考えられている。
3.さらに、授乳時以外には、乳管の先端に位置する上皮細胞がアポトーシス状態になり、乳管が乳頭の結合組織で終端して、これにより、二重になった結合組織の層およびケラチン生成細胞層で覆われることもあると考えられる。
【0038】
第3のカテゴリーに属する乳管は、外に向かって開く可能性が最も低いにもかかわらず、薄いケラチン生成細胞層が覆う乳管は、このケラチン生成細胞層が、洗剤を含む外部流体に晒されると、より容易に浸透させてしまい、細胞の整合性を脅かす可能性がある。内胞の閉塞に主に依存しているメカニズムにより封じられる乳管(2番目の場合)は、洗剤がある場合に開きやすいと思われるが、これは洗剤が、細胞と細胞との癒着またはミオサイトの収縮等の殆どの細胞機能を脅かすからである。乳頭の先端の乳管の周端部におけるケラチン生成細胞層または結合組織の完全性について正しい結論を導き出すに足る、形態上の再建についての詳細を述べた文献はいまだかつて存在していない。
【0039】
流体がひとたび乳管内に入ると、胸部の上皮に直接接触することになる。上皮性腫瘍は、胸部の他の細胞系を脅かす腫瘍と比べて、この接触が主な損傷メカニズムであることを示している。
【0040】
我々の仮説は、乳がんの新たな対処法を提供する。最も重要なのは、開いている乳管の存在を見つけて、炎症性の環境流体になるべく晒さないようにすることで、この病の新たな予防法を提供することである。特に、開いている乳管がある場合には、次の予防措置をとることができる。1つの予防措置は、乳頭をなるべく風呂水に漬けないようにして、乳管の上皮細胞を傷つけるような流体の侵入を最小限に抑え/なくす(例えば泡風呂、洗浄剤を入れた浴槽に漬からない)、ということである。次の妊娠がある場合の、別の予防措置としては、開いている乳管を一時的に閉じる(乳管の先端に外科用接着剤を塗ったり、環境流体(洗剤等)で溶けない、開いている乳管の先端を封止するクリームを利用したり、開いている乳管に皮膚を閉じる顕微鏡手術用閉塞物を利用したり、耐水密閉用のシールキャップを乳頭に装着したり、ケラチン生成細胞/線繊芽細胞/上皮(既に存在している皮膚細胞および幹細胞由来のもの)による)を成長させる、というものがある。次の妊娠や授乳がない場合には、また別の予防措置として、開いている乳管を永久に閉じる(乳管の周りの縫合、開いている乳管の上の皮膚を閉じること、顕微鏡手術による開口の除去等により)というものもある。
【0041】
この仮説は、胸部の炎症発症メカニズムが、乳管に外部流体が意図せず逆流して入り込むことに起因している、という考え方を支持する。逆流は、皮膚の外部と通じた、封止されていない乳管で生じる可能性がある。
【0042】
乳がんの公知の危険因子との関連で考えても、我々の仮説は、乳がんの危険因子の疫学研究からの裏づけがある(例えば、上皮細胞に損傷を与える可能性がある石鹸、洗剤その他の成分を入れた浴槽に浸かる文化のある国で乳がんが多いこと等)。乳頭の付近に位置する乳管/胞の部分で腫瘍が生じる確率が比較的高いことも、この仮説の裏づけである。
【0043】
肥満も乳がんの危険因子であることを示す証拠がある。肥満は、マクロファージの脂肪組織への侵食、および、マトリクスメタロプロテイナーゼの活性化と関連している。このようなたんぱく質分解作用は、細胞外受容体の亀裂、および、間質たんぱく質の破壊を生じさせて、乳管の封止に関係している細胞接着受容体を妨害する可能性がある。さらに、脂肪組織が伸びることで胸部の皮膚が伸びると、乳頭の皮膚も伸び、縮むことも考えられる。こうなると、乳管が短くなり、乳管の多くが封止を失い、外部と自由に通じてしまう。
【0044】
さらにはエストロゲンと乳がんの関連性も指摘されている。エストロゲンは、がん細胞(つまり、DNAが破壊され、前がん状態の(precarcinogenic)細胞)を自然死させない役割を果たしてしまう。
【0045】
今日では、この病の遺伝的原因についての研究が重点的に進められている。しかしこの方面の研究は、遺伝に起因した突然変異が生じてきた期間と比べて、この病の歴史が浅い点に留意する必要がある。さらに今日の乳がんの地理的発生パターンを見ると、環境要因の影響のほうが重要な危険因子であることがわかる。現在の着目点は主に、乳がんを引き起こす可能性のある環境要因に当てられている。しかし、分子(上皮接着分子)が、乳管を開かせることに大きな関連性を有する、乳管の封止を不完全にしたり、皮膚の厚みを薄くしたり、乳頭の他の解剖学上の特徴等の、その他の遺伝子的な同型を有している、という可能性は考えられる。
【0046】
図1A、図1B、および図1Cは、1以上の汚染物質121を含む水溶液120にさされている胸部の側部断面図の一例である。図1Aでは、胸部110がまず水溶液120に晒されて、乳頭111が少なくとも部分的に、または、完全に水溶液120内に浸かっている様子を示している。本明細書の他の箇所でも説明するように、水溶液120の一例は、浴槽、プール、またはその他の1以上の汚染物質121を含む、水を利用する環境であってよい。汚染物質121は、広義な意味では、化学物質、バクテリア、ウィルス、有機体、またはその他の、身体に侵入して望ましくない反応を生じさせる異物粒子を含む。図1Bに示すように、一定の汚染物質121が乳頭111から胸部110に侵入して、乳管112に閉じ込められる、または留まる。このプロセスは、水溶液が温かい、または熱い場合に顕著であるが、これは、このような温度によって乳頭111が緩み、汚染物質121を含む水溶液120が乳管112内に入りやすくなるからである。
【0047】
以下に詳述するように、本発明の一態様は、乳頭111から乳管112に入った汚染物質121を検知することに係る。本発明の別の態様は、150などの物理的障壁を乳頭111の表面に装着して、乳管112への入り口を塞ぐことで、汚染物質121が乳管112に入らないようにすることに係る。本開示を考慮すれば、本発明の範囲内の他の方法を思いつくだろう。
【0048】
現在のところ、乳頭内の開いた乳管を通り胸部組織に塩素等の外部有害物質が入ったことを検知する技術または方法は存在していない。これらを見つけることは、乳がんの早期発見および予防に特に重要である。この技術は、胸部に外部有害物質を招き入れる可能性のある開いた乳管を有することで、乳がんを発症しやすいと思われる患者を発見する診察ツールとして利用することができる。乳頭の乳管が開いていることを知るためには、これらの開いた乳管を通るマイクロリットルの流体の流れを計測するデバイスまたは方法を設計することが必要である。一般的に本設計は、侵襲性を最小限に抑え、ヒトに利用しても安全で、処置法が簡単で、様々な乳頭の構造にも対応可能な技術である。
【0049】
研究者たちは、この技術を利用して、乳がんだけではなく胸部の機械的特性をも研究することができるようになるだろう。研究サイドでは、この技術の利用により、開いた乳管と乳がんとの相関性を検証することができるようになる。強い相関性が見つかると、この技術を25歳以上の女性に利用することができるようになる。本発明の診断法は、定期健康診断およびマモグラフィーによる検診のときなどに行うことができる。医師は、この診断テストを行い、乳管が外部環境に対して開いているかを判断することができる。開いている場合には開いた乳管を一時的に塞ぐ等の予防措置を講じることができる。概してこの解決法は、乳管が開いている患者に対して有効である。
【0050】
本発明は、数多くの乳がんに存在する、胸部の乳管の炎症および悪性化の原因、および、乳管の上皮細胞の炎症及び悪性化の原因に関する新たな仮説に基づいている。本願では主に、開いた乳管関連の危険性を有する個人を特定して(悪性化の前であっても後であっても)、これら乳管をすぐに塞ぎ、外部からの流体の侵入の危険性を低減させる方法の例を提起する。本願における診断によって、環境からの炎症メディエータ(例えば、浴槽の湯、その他の上皮細胞に炎症を与え乳頭領域の開いた乳管から胸部に侵入しかねない流体に含まれる石鹸、化粧品、塩素、塩素、バクテリア、ウィルス、真菌性の生産物等の炎症性防腐剤)が侵入する危険性を有する個人を、検査により早期に特定することができるようになる。現在のところ、後で乳がんに進行するおそれのある炎症および前がん状態の前に、炎症を検知する方法は存在していない。
【0051】
本発明には、以下の診断および治療コンポーネントを含む複数の変形例が含まれる。診断および治療コンポーネントの例は、何歳であっても、造影剤検知技術を利用して、乳頭の乳管のレベルで、正常および異常のある胸部に関わらず炎症性のメディエータの侵入を検知する段階と、(複数の異なる技術を利用して)、顕微鏡手術、薬理学、または、物理的阻止技術により、開いている乳管を封止して、外部の炎症メディエータが乳管に入ったり、上皮炎症および悪性化を起こしたりしないようにする段階と、開いた乳管から流体を収集して、開いた乳管から悪性化した細胞の有無、初期段階の悪性細胞の有無を調べて、顕微注入により、および/または、定期的外部組織圧縮を利用して圧縮・拡張を繰り返させる乳管充填により、抗腫瘍剤を投与する段階などが含まれる。
【0052】
診断には様々な技術を利用することができる。外部に対して自由に通じている乳管診断方法の限定的ではない1つの例を記載したが、当業者であれば理解するだろうように、本願の範囲内で様々な他の技術も利用可能である。
【0053】
一実施形態では、造影媒体(例えばインドシアニングリーン、イソスルファンブルー、その他の、撮像技術を用いて胸部内で検知することのできる造影媒体)を乳頭の先端に適用することができる。これらの、開いた乳管への侵入は、胸部組織の機械的な圧縮および拡張により生成される乳管内の吸気圧力により促進される。乳頭および胸部の奥の組織層の乳管の先端は、撮像技術(個々の乳管を検知することができる解像度を有するもの)を用いて検査することができる。造影媒体が乳頭またはその下の胸部組織内に存在する場合には、乳管が開いていることの指標となる。例えばインドシアニングリーンの検知(i.v.注入することが許可されている)により、皮膚の約1cm下の(外部に通じている乳管の検知に十分な距離である)組織層の近赤外線蛍光物質による撮像が可能になる。
【0054】
造影媒体の侵入のテストは、流体前処理している真皮(湿った皮膚)または液体前処理していない真皮(乾いた皮膚)いずれであっても、乳頭に対して、水、石鹸、その他の炎症メディエータが存在している真皮の膨張の後にのみ検知される潜在的なリークサイトを露呈することで行うことができる。この目的のために、乳頭を、微細環境(例えば、流体を満たした封止されたコップ)に予め選択された期間(乳頭が浴槽の湯に浸かっている通常の入浴時間に相当する時間)晒す。乳管内の流体は、開かれた管から集められ、乳管内に悪性細胞または分子マーカがないかを既存の技術により検査する。
【0055】
悪性が検出されなかった場合、開かれた乳管は、一時的技術(妊娠するまで)により封止され、または、より永久的な外科的技術を施される(例えば最終妊娠の後で)。これらには、以下に限定はされないが、乳頭の先端の開いた乳管に外科的接着剤を直接入れたり、乳頭の周りを外科的に縫合して、乳頭の先端に集まる乳管(bungle of lactiferous ducts)を集めたり、以下で詳述する一時的な他の解決方法などが含まれる。方法はさらに、乳管の周囲の皮膚の平滑筋の収縮を薬理学的に向上させること、平滑筋の細胞にトランスフェクションしたり、薬理学的に処置したりすること、または、上皮細胞をトランスフェクションして、上皮細胞間の接着、乳管の内胞の閉鎖を向上させたりすることを含む。
【0056】
悪性の所見があった場合には、乳管はカニューレ挿入したり、および/または、開いた乳管に定期的な圧縮および拡張を与えて抗腫瘍治療(例えば抗腫瘍細胞抗体、微小管阻害剤、遺伝子抑制剤、酵素抑制剤、DNA/RNA転写抑制剤、DNA合成抑制剤、DNA挿入剤/架橋剤その他)を行ったりすることができる。悪性の所見が無いと分かると、乳管は上述した外科的技術により封止される。
【0057】
乳頭内のインドシアニングリーンを近赤外線撮像技術で検知する。実験条件下で炎症メディエータが進入した後の悪性化についての研究を続けることもできる。ヒトにおける乳管の上皮の悪性化が、この炎症メディエータにより引き起こされるのか、については現在定かではなくさらなる研究を行う必要がある。
【0058】
本発明は、これらに限定はされないが、例えば専用赤外撮像カメラなどの利用により胸部の開いた乳管の検知を光学近赤外線またはX線スクリーニング法を含む様々な方法で行う用途に利用可能である。本発明の発見により、さらに、この技術を最適に行うために外科的接着剤の新たな用途、専用の縫合の設計が可能となる。
【0059】
本発明によるデバイスおよび方法は、一定の性能、健康および安全性、およびサイズおよび重量の要件を満たす必要がある。例えば、デバイスは、高い感度を有し、乳管のサイズに基づいて+0.05マイクロリットルまでの流体の動きを計測できる精度を有することが望ましい。デバイスは、様々な乳頭の形状に適合できるものであることが望ましく、テスト手順は、誤ったデータを生じうるので、乳頭の機械的特性または構成を歪曲させないよう気をつける。デバイスは、乳頭内への流れと乳頭外への流れとを区別できるものであるべきであり、計測値は、±5%の範囲の精度を有し、再生可能であるべきである。健康および安全性に関しては、有害物質を利用すべきではなく、流体は、乳頭内への注入が想定されるものなので、放射性の追跡子を混入すべきではない。さらに、ヨウ素放射は発がん物質として知られているために、走査デバイスはヨウ素放射をなるべく利用するべきではない。さらに、上皮組織をかく乱する、または炎症的反応を引き起こす可能性のあるものは利用すべきではない。表皮層をかく乱するおそれのあるものは何であれ利用すべきではない。サイズおよび重量は、その分野のヘルスケア従事者の扱いが容易なものであると好適であり、理想的なデバイスの大きさとしては、12インチ×12インチ×12インチであり、理想的なデバイスの最大重量は約10キログラム以下である。
【0060】
これらに限定はされないが、コンピュータ断層撮影(CT)、近赤外線(NIR)蛍光追跡子、および、電磁流量計等の様々な撮像技術を利用して、乳管を流れる物質を検知することができる。それぞれ長所短所があるが、ここで好適な技術として利用したのはNIRであった。
【0061】
NIRを利用する場合、1つの目的は、インドシアニングリーン(ICG)等のNIR蛍光追跡子を追跡子(ヒトに対する利用に関してFDAが承認済みの染料である)として利用して、乳頭の開いた乳管を発見することである。適切な濃度のICGは、最初に生理的食塩水溶液に溶けて、乳頭に配置される。次に胸部を圧縮して、生理的食塩水を乳頭に行き渡らせる。開いている乳管がある場合、理論的には追跡子も乳管から胸部に入ることになる。この追跡子は、光学撮像デバイスを利用することでその量を調べることができ、究極的には、乳頭から開いた乳管へと流体が侵入するかという情報を提供する。
【0062】
インドシアニングリーンは、近赤外線周波数で機能する染料である。NIR蛍光体を利用すると、低周波数で動作して組織を透明にするので有用である。従ってICG追跡子は、胸部の組織内で発見して撮像することができる。加えて、NIR検知機は空間解像度を提供する。実際の画像は、どの乳管が開いているかを二次元で提示することができる。合焦レンズを操作すると、流体が移動できる深さを量的に検知することができるようになる。785nmの光源を直接乳頭に照射することができる。これに応じて、ICGが785nmの光を吸収して、830nmで再出射する。入射光を複数のステージで調節することができる検知装置が存在している。785nmノッチフィルタの後に830nmバンドパスフィルタを設けることで、発光を選択的に選択しつつ、蛍光信号を透過させることができる。次に、両凸レンズを利用して、合焦面の深さおよび焦点のずれた光源の減光状態(dimming)を判断する。最後に、電荷結合素子が、デジタル形式の画像を撮像する。
【0063】
本発明の例示的なシステムを図3に示す。好適なシステムでは、これら乳管に流れた流体を検知することで、開いた乳管を最も直接的な方法で計測することができる。このような設計により、最大の空間解像度が提供され、乳頭内でどの乳管が開いているかを特定することができる。究極的目標は、ヒトの胸部に診断および予防措置を行うためのテストを行うことであるので、この設計は、潜在的に危険グループである患者に健康被害を与えないという重要な目的が達成することができる。NIR追跡子による撮像には、蛍光造影撮像を行うためにICGを必要とする。ICGは、FDAによってヒトの検査への利用が承認されている。図3は、NIR追跡子撮像方法を示す。この設計は、(1)ICGを含む生理的水溶液を機械的に注入する乳頭接着デバイス(図2参照)と、(2)NIR CCD撮像カメラおよびフィルタシステム(図3)からなる。CCDカメラおよびフィルタは、市販の標準的なパーツであるが、機械的注入デバイスは製造する必要がある。機械的注入デバイス(図2)は、乳頭の表面を漏れなく覆い、胸部を変形させるような内圧を形成せずにデバイスにICGを投与することができるようなものである必要がある。
【0064】
NIR造影撮像は、新しい技術として捉えられているが、今日のがん研究にNIR蛍光撮像は数多く利用されている。本発明は、NIRを読み取る数多くの方法を含む。限定ではない1つの例がSevick−Muraca,E.M.の「蛍光で向上された、造影剤を利用する近赤外線診断撮像」、Current Opinion in Chemical Biology6.5(2002):642−650であり、この文献全体を参照としてこの開示に組み込むこととする。本発明の範囲内の他の方法を利用することもできる。
【0065】
インドシアニングリーン(ICG)は、現在ヒトへの利用がFDAにより認められているので、NIR追跡子として利用できる。FDAの処方量では、ICGの利用に健康上の危険は知られていないが、例外として、ヨウ素ベースの化学物質に副作用を示す患者には適用できないだろう。ICGは785nmの光を吸収して、830nmの光を再放出する。この化学物質のモル質量は775g/molであり、電気的に中立であり、乳管を通って上皮細胞間の密着結合部を越えて外部の細胞マトリックスに到達することができる程度に十分小さい。結果が待ち状態の実験で上皮細胞間の密着結合部がICGを通すことが実証されると、ICGはアルブミンを含む溶液に輸送される。これは、ICGがヒトの血清アルブミンに結合され、しかも、その吸収または励起プロフィールを実質的に変化させないので、既存のアルブミン経路を介してECMに輸送させることができるからである。ICGはECMからリンパ系に吸収され、人体がここでこの化学物質を濾過、廃棄することは証明済みである。
【0066】
この設計の形成の第1のステップは、乳頭を蛍光追跡流体に晒して、開いた乳管が存在している場合に双方向の流体転送を行うことができるデバイスの構築である。利用されるデバイス130の一例を図2に示す。このデバイス130は、胸部110の乳頭111の上に輪郭がぴったりフィットする開口を持ち、一時的な組織用接着剤またはその他の公知技術によって密閉可能な封止133をもつ簡易容器132であってよい。ひとたび封止されると、容器132にはインドシアニングリーン追跡流体135が満たされる。患者は、胸部110に圧力をかけて、乳管112を圧迫するよう指示される。かけた圧力を解放すると、乳管112が再度膨らみ、乳管112と乳頭111の外部環境との間の圧力勾配を生じさせ、液体運動136を促す。開いた乳管112が存在している場合、この勾配により、少量の追跡粒子135が乳管112内に侵入することになる。
【0067】
この設計プロセスにおける次のステップは、図3でシステム140として示しているような、必要となる撮像装置を構築することである。ここでは、830nmの光に感度を有する近赤外線CCDカメラ141を利用する。適切な倍率の接写レンズを利用すると、このカメラ141は、50x50umの断面のオブジェクトを解像することができるはずであり、画像全体が数センチメートルの断面を有する。この解像度により、ICGが存在するときには個々の乳管112を特定することができ、乳頭111全体を走査することができる。この倍率が、集めた全光束に悪影響を及ぼし、ICG放射を認識することができないほどにカメラ141の感度が落ちるような場合には、患者110とカメラ141との間にNIR光倍増器142を配置する。785nmのレーザダイオードを、平凸レンズと共に利用することで、必要な光源を生成して組織を照明することができる。CCDカメラ141にICG蛍光放射のみを記録させるためには、830nmの光学バンドパスフィルタをカメラとレンズとに直列接続する。また必要に応じて、785nmのホログラフィーノッチ阻止フィルタをさらに利用することで、そのままでは強度が高いことが想定される光源光143を減衰させることができる。次にCCDカメラ141で撮像を行い、コンピュータ144に送り、解析用に保存しておく。
【0068】
注入方法によっては、乳頭111の表面117には高濃度のインドシアニングリーン追跡流体が残留する確率が高い。そうなると、このコーティングから生じる強度の高い放射により、LFチャネル内のICG検知が阻止されることが予想される。このような状況を解決するためには、撮像画像を周波数解析するように設計を変形して、放射光の深さを解決する、等の方法をとることができる。この変形例には、最小シャッター速度期間が5nm以下のゲート増圧器(gated intensifier)等が必要である。さらにデジタルアナログ変換器および様々な周波数生成器および制御機構も、レーザダイオード放射、CCD画像取得、および、コンピュータ画像処理を行うために必要となる。
【0069】
この検知システムの構成を変更するためには様々な実施形態を利用することができる。例えば、オリジナルのプロトタイプは、インドシアニングリーン(ICG)溶液に対して位置合わせされた平凸レンズに対して位置合わせされた70mWのレーザダイオードからなっていた。加えて、バンドパスフィルタが、カメラレンズの真向かいに設けられて、830nmを除く全ての波長の光をフィルタリングしていた。この設計に対して幾つかの変形を施した。先ず、バンドパスフィルタの配置を、レンズの真向かいの位置から、カメラレンズ内への配置に変更した。平凸レンズは設計から除いた。平凸レンズを除いた理由は、レーザダイオードが5mmx5mmの視野で配光していたので、凸レンズは不要だったからである。元の回路を再編成することで、レーザダイオードの動作電力を元々の70mWから5%削減することができた。レーザの電力供給を調節した理由は、提供されていた背景光がフィルタリング不可能で望ましくないことが実験によって分かったからである。この問題を無視すると、偽陽性の結果がでると思われた。
【0070】
上述したように、本発明は乳管の通路を利用する複数の診断方法を提供する。以下に、これらの乳管の炎症および関連する異常を低減する、あるいは防ぐ方法を記載する。従来の予防方法には、乳がんの手術時、または「乳頭からの分泌物」がある所見において、カニューレおよび/または内視鏡を乳管の上皮に挿入してがん細胞を採取して、研究、生体検査または切除を行う、または目視による検査および生体組織検査(biopsy histology)と照らし合わせる、という従来の技術(乳管内視鏡(Ductoscopy))がある。さらに、「HALOテスト」も、胸部からの分泌物を採取するために利用される。しかしこの技術は流体を採取する方法であり、開いた乳管を撮像によって検知する手法をとる本願の手法と違っている。「HALOテスト」は、診断を目的としており、治療は行うことができない。
【0071】
本発明の方法は、それぞれ異なる用途向けに異なる材料を塗布された乳管キャップの利用に基づいている。図4Aおよび図4Bに示すTAでは、乳管キャップ150は、上から見たときに2つの同心円を含む。外円151は、自己接着式可撓性材料を有して、シンブル型の内径部分153は、その高さ、直径および体積154が個人の乳頭のサイズに合致している内表面152で直接皮膚(輪形状である)に貼付され(サイズは大中小等の標準サイズを決める)、乳頭を圧迫しないよう設計されている。
【0072】
乳管キャップは、乳輪線を含む乳頭の周りの胸部の皮膚の部分を覆う。キャップの貼付部は、乳頭の外側である。キャップの乳頭にあたる部分は、用途に応じて異なる材料を塗布される/詰められる(図を参照のこと)。より詳細には以下のようになる。1.乳管の経皮を一時的に覆う乳管キャップ:(封止キャップへの非水溶性コーティング)乳頭を覆うキャップの先端部の内側は、環境洗浄剤/消毒液(石鹸、洗剤、塩素)に溶けない水溶性ではないローションが何層にも塗布されており、乳管の経皮を一時的に封止する。封止材料には、低刺激性ペースト(酸化亜鉛(Destin)等)および/またはその均等物である材料が含まれる。これらのキャップは、好適には乳頭を(例えば浴槽のお湯、水泳プールの塩素水に)晒す前に装着されるとよい。2.乳管の経皮の診断検知用の乳管キャップ:(キャップに診断用のコーティングを施す)キャップの(乳頭を覆う)先端部の内部は、造影剤を浸した水溶性のスポンジが何層にも塗布されている。利用可能な造影剤は上述したとおりである。胸部の乳頭/先端部を撮像するまでの間(または、開いた乳管を見つけるための任意の他のモードに移るまでの間)、一定期間装着されることで(数分から数時間)、乳管の経皮を観察することができることは上述したとおりである。3.乳管の経皮を封止するための乳管キャップ:(キャップの成長因子コーティング)キャップの(乳頭を覆う)先端部の内部は、皮膚または結合組織の細胞のための真皮/線維芽細胞の成長因子(例えば線維芽細胞の成長因子、表皮成長因子、ヘパリン結合EGF類似成長因子)を何層にも塗布され、乳管の開いた経皮を閉じる。4.乳管の炎症性のまたは悪性の上皮を治療するための乳管キャップ:(キャップへの抗炎症コーティング)キャップの(乳頭を覆う)先端部の内部は、上皮細胞の炎症反応を低減させるための薬剤を何層にも塗布される、または、前がん状態のまたはがん状態の細胞が存在する場合には効腫瘍治療薬として機能する薬剤を何層にも塗布される(一例は、選択的エストロゲン受容体モジュレータであるTamoxifen Evista「塩酸ラロキシフェン」)。
【0073】
乳管キャップは、様々な家庭用、診断用、および治療用の用途に市販することができる。この例には、これらに限定はされないが以下を含む。1.胸部の病斑/腫瘍は見つかっていないが、炎症性の流体に触れる可能性のある健康な個人の検診中に経皮が開いている乳管を発見する用途。2.乳管の外科的封鎖が禁忌である場合(例えば将来の妊娠のために、または個人の好みで)、一時的に乳管を(例えば泡風呂、水泳プールの塩素水から)守って流体の侵入を防ぐべく、個人の乳管を一時的に封止する所謂家庭向けの用途。3.経皮が開いている乳管の先端の結合組織および真皮層を再生するための用途。4.既存の開いた病斑から治療薬剤を通じて直接初期の病斑を治療する目的の用途。 これらのうち用途1、2および3は、主に乳がんまたは胸部の炎症の予防を目的としている。用途4は、主に初期の病斑/乳管の上皮における腫瘍の治療(または治療の補助)の可能性を探ることを目的としている。
【0074】
以下の参考文献を上で引用したので、これらの全体をここに参照目的で組み込むことにする。
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【0075】
本発明の好適な実施形態について上述した開示は、例示および説明を目的としたものである。本発明の全貌を網羅したり、または、記載された例に本発明を限定したりすることを意図はしていない。ここで記載する実施形態には、上述した開示を読めば当業者であれば様々な変形例および変更例を想到するだろう。従って、本発明の範囲は、添付請求項およびその均等物によってのみ画定される。
【0076】
さらに、本発明の代表的な実施形態を記載する上で、明細書では、本発明の方法および/またはプロセスを一定の段階のシーケンスとして提示した。しかし、本発明の方法またはプロセスは、記載した段階のシーケンスには限定されず、方法またはプロセスはここで開示する特定の順序の段階に依存しない。当業者であれば、他の段階のシーケンスも利用可能であることを理解するだろう。従って、本明細書に記載した特定の段階のシーケンスに請求項が限定されるわけではない。加えて、本発明の方法および/またはプロセスを請求している請求項においては、記載されている段階を記載されている順序で行わねばならない、と限定しているわけではなく、当業者であれば、段階を変更しても本発明の精神および範囲内におさまる場合があることを容易に理解する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開いた乳管を利用して胸部の健康を検知、評価、および促進する方法であって、
造影媒体を含む流体に乳頭を晒す段階と、
時間をおく段階と、
前記造影媒体が前記乳管に存在するかを検知することで、前記乳管が開いているかを判断する段階と
を備える方法。
【請求項2】
前記乳管が開いていると判断される場合には、前記乳管から流体のサンプルを採取する段階をさらに備える請求項1に記載の方法。
【請求項3】
採取した前記流体のサンプル内に腫瘍細胞が存在するかを評価する段階をさらに備える請求項2に記載の方法。
【請求項4】
腫瘍細胞が検知されると、前記乳管に抗腫瘍化合物を注入する段階をさらに備える請求項3に記載の方法。
【請求項5】
腫瘍細胞が検知されなかった場合には、前記乳管にこれ以上流体が入らないようにする段階をさらに備える請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記流体が入らないようにする段階は、
前記乳管を接着剤で封止する段階を有する請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記流体が入らないようにする段階は、
前記乳管を縫合して封止する段階を有する請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記流体が入らないようにする段階は、
前記乳管をキャップで封止する段階を有する請求項5に記載の方法。
【請求項9】
胸部の乳頭を覆うように配置されるシンブル型の凸型の内径部分と、
前記凸型の内径部分から伸びる外縁部と
を備え、
前記外縁部は、前記胸部の乳輪に貼付するために接着剤を含む、乳管キャップ。
【請求項10】
前記内径部分の内部に、前記乳頭に接触させるための非水溶性の封止剤コーティングが含まれる請求項9に記載の乳管キャップ。
【請求項11】
前記内径部分の内部に、前記乳頭に接触させるための診断用のコーティングが含まれる請求項9に記載の乳管キャップ。
【請求項12】
前記内径部分の内部に、前記乳頭に接触させるための成長因子コーティングが含まれる請求項9に記載の乳管キャップ。
【請求項13】
前記内径部分の内部に、前記乳頭に接触させるための抗炎症性コーティングが含まれる請求項9に記載の乳管キャップ。
【請求項14】
治療薬(therapeutic)を胸部の乳頭内に注入して、前記治療薬の存在を検知するためのシステムであって、
胸部の乳頭および乳輪の周りに適切にフィットする縁部をもち、内部に液体治療薬を含有しており、前記乳輪に貼付されたときに、前記液体治療薬が前記乳頭に直接接触して、前記液体治療薬を前記乳頭から乳管に注入させる容器と、
前記乳頭内の前記液体治療薬の存在を検知して、その濃度を計測する撮像システムと
を備えるシステム。
【請求項15】
前記液体治療薬にはマーカが組み合わされている請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
前記マーカは、インドシアニングリーンである請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
前記容器の前記縁部は前記胸部に接触すると封止がなされる請求項14に記載のシステム。
【請求項18】
前記封止は、一時的な身体用接着剤で維持される請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
前記撮像システムのコンポーネントは近赤外線画像を検知することができる請求項14に記載のシステム。
【請求項20】
前記撮像システムのコンポーネントは、インドシアニングリーンを検知することができる請求項14に記載のシステム。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【公表番号】特表2013−517067(P2013−517067A)
【公表日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−549138(P2012−549138)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【国際出願番号】PCT/US2011/021395
【国際公開番号】WO2011/088392
【国際公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(506115514)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (87)