説明

乾式ガスホルダの昇降装置

【課題】電動機を用いることなく、乾式ガスホルダ内で複数の作業員が迅速に昇降可能な昇降装置を提供する。
【解決手段】円筒形の側板2と、側板2の上部を覆う天井部3と、ガスの流出入に応じて側板の内周面に沿って昇降可能に設けられたピストン5と、ピストン5上に設けられたピストンデッキ7とを備えた乾式ガスホルダ1の内部に設けられる昇降装置が提供される。昇降装置は、複数の階段ユニット22が上下方向に相対移動可能に連結された螺旋階段体20からなる。螺旋階段体20は、天井部3とピストンデッキ7との間に側板2の内周面2aに沿って螺旋状に配設され、螺旋階段体20の上端部は天井部3に固定される。ピストンデッキ7に対する螺旋階段体20の接触部分20Aは、ピストン5の昇降に追従して上下動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾式ガスホルダの昇降装置に係り、特に、作業員が乾式ガスホルダ内を迅速に昇降可能な昇降装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば製鉄所においては、コークス炉、高炉、転炉等を用いて操業する場合、コークス炉ガス(COG)、高炉ガス(BFG)、転炉ガス(LDG)等の副生ガスが生成される。これらのガスは、燃料ガスなどとして再利用可能である。よって、生成されたガスは、ガスホルダ内に一旦貯蔵され、必要に応じて取り出され、他のガスと混合されて適宜用途の燃料ガスとして利用される。このようなガスを貯蔵するガスホルダは、ガスの発生箇所と使用箇所とを結ぶ配管系統上に配置される。かかるガスホルダは、一般的に、乾式ガスホルダと、有水式ガスホルダ(湿式ガスホルダともいう。)との2種類に大別される。
【0003】
このうち、乾式ガスホルダは、ガスホルダ内部にガスの流出入に応じて昇降可能なピストンを設置し、このピストンの昇降によりガス貯蔵量を調節するものである。この乾式ガスホルダでは、ピストンと側板との間をシールするシール機構として、例えば、ゴム製の摺動材とシール油を用いた乾式シール機構が設けられる。かかる乾式ガスホルダは、略円筒型の貯蔵設備であり、一般的に例えば数十m規模の大型のものが使用されている。
【0004】
このような乾式ガスホルダにおいては、設備の健全性を確認するため、定期的な検査、保守作業が必要である。例えば、この乾式ガスホルダ内部のピストン、シール機構、側板(側壁)の溶接部分等の検査を行うため、ホルダ内のピストンデッキ上に作業員が降り立つことがある。
【0005】
従来では、乾式ガスホルダ内の保守点検作業を行う場合、作業員は、ガスホルダの天井部(屋根)に設けられた出入口からホルダ内部に入り、内部中央に設けられた内部リフトを用いてピストンデッキ上に降りていた。この内部リフトは、屋根からピストンデッキ上へ昇降するための電動式の昇降装置であり、鳥かご型の内部リフト内に若干名の作業員が搭乗可能である(例えば、特許文献1〜3を参照。)。また、内部リフトの故障時等に備え、非常用の手動巻上げ式の昇降装置が設置される場合もあった。
【0006】
【特許文献1】特開2001−219991号公報
【特許文献2】特開2002−130594号公報
【特許文献3】特開2003−26285号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の昇降装置のうち、内部リフトは、発火源となりうる電動機を使用するため、可燃性ガスを貯蔵するガスホルダへの適用は避けた方が好ましい。また、該内部リフトは、スペースが狭く搭乗人数に限りがあるため、多数の作業員が同時に迅速に昇降したい場合には不向きであった。一方、手動巻上げ式の昇降装置は、昇降スピード及び搬送能力が更に劣り、多数の作業員を迅速に搬送できないという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、電動機を用いることなく、ガスホルダ内で複数の作業員が迅速に昇降することが可能な、新規かつ改良された乾式ガスホルダの昇降装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、略円筒形の側板と、前記側板の上部を覆う天井部と、ガスの流出入に応じて前記側板の内周面に沿って昇降可能に設けられたピストンと、前記ピストン上に設けられたピストンデッキとを備えた乾式ガスホルダの内部に設けられる昇降装置であって、複数の階段ユニットが上下方向に相対移動可能に連結された螺旋階段体からなり、前記螺旋階段体は、前記乾式ガスホルダ内の前記天井部と前記ピストンデッキとの間に、前記側板の内周面に沿って螺旋状に配設され、前記螺旋階段体の上端部は前記天井部に固定され、前記ピストンデッキに対する前記螺旋階段体の接触部分は、前記ピストンの昇降に追従して上下動することを特徴とする、乾式ガスホルダの昇降装置が提供される。
【0010】
また、前記螺旋階段体の外側面に、前記側板の内周面に吸着する磁性体が設置されるようにしてもよい。
【0011】
さらに、前記磁性体は、磁性材料で形成されたガイドローラであり、前記ガイドローラは、前記側板の内周面に沿って上下動する前記螺旋階段体を案内するようにしてもよい。
【0012】
また、前記階段ユニットは、相隣接する前記階段ユニットの上下方向の可動範囲を制限するためのストッパを備えるようにしてもよい。
【0013】
また、前記螺旋階段体は、前記側板の内周面に沿って1周未満の螺旋状に配設されるようにしてもよい。
【0014】
また、前記階段ユニットそれぞれの上面には、スロープ板の一端がヒンジ結合されており、前記スロープ板の他端は、隣接する前記階段ユニットの上面に重なるように配設されるようにしてもよい。
【0015】
上記構成によれば、複数の階段ユニットが上下方向に相対移動可能に連結された螺旋階段体は、その上端部が天井部に固定され、乾式ガスホルダ内の天井部と前記ピストンデッキとの間に側板の内周面に沿って螺旋状に配設される。そして、ピストンデッキに対する螺旋階段体の接触部分は、ピストンの昇降に追従して上下動する。これにより、ピストンが上昇したときには、ピストンデッキに対する螺旋階段体の接触部分が拡大しつつ、該接触部分がピストンに追従して上昇する。一方、ピストンが降下したときには、ピストンデッキに対する螺旋階段体の接触部分が減少しつつ、該接触部分がピストンに追従して下降する。このため、ピストンの高さ位置にかかわらず、螺旋階段体が天井部とピストンデッキとを結ぶ通路を形成できる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように本発明の乾式ガスホルダの昇降装置によれば、電動機を用いることなく、乾式ガスホルダ内で複数の作業員が迅速に昇降することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0018】
なお、説明は以下の順で行うものとする。
1.第1の実施の形態(階段状の昇降装置)
2.第2の実施の形態(スロープ状の昇降装置)
3.乾式ガスホルダの実機への昇降装置の適用を検討した実施例
【0019】
<第1の実施の形態>
[乾式ガスホルダの基本構造]
まず、図1を参照して、本発明の第1の実施形態に係る昇降装置が適用された乾式ガスホルダ1の全体構成について説明する。なお、図1は、本実施形態に係る乾式ガスホルダ1の全体構成を示す一部切り欠き側面図である。
【0020】
図1に示すように、乾式ガスホルダ1は、全体としては略円筒形の殻構造を有するガスホルダである。この乾式ガスホルダ1は、略円筒形状の側板2と、この側板2の上部を覆うように設置される天井部3と、ホルダの底部に設置される底板4と、ガスの流出入に応じて昇降するピストン5と、ピストン5と側板2の間に設けられたシール機構6と、ピストン5上に設置される平板状のピストンデッキ7と、ガスホルダ1内にガスを供給/排出するためのガス出入口配管8とを備える。
【0021】
かかる乾式ガスホルダ1は、例えば、高さ数十〜百m、直径数十mの大型のガス貯蔵設備であり、乾式ガスホルダ1の内部には、例えば高炉ガス(BFG)、コークス炉ガス(COG)、転炉ガス(LDG)といった低圧ガスや、天然ガス、石炭ガス、二酸化炭素ガス、一酸化炭素ガスなどの各種ガスを大量に貯蔵できる。なお、乾式ガスホルダ1の形状は、完全な円筒形状でなくとも、円筒に近い多角筒形状であってもよい。
【0022】
この乾式ガスホルダ1の外殻を成す側板2及び天井部3は、例えば、複数の鋼板等を溶接等により気密に接合して構築されており、このため、正常な乾式ガスホルダ1の内部は気密空間となっている。側板2は、その外周に設置された複数の回廊9と、垂直方向に延設された基柱(図示せず。図3の符号2b参照。)によって補強されている。回廊9は、例えば、側板2の外周を一周するように水平に設置され、側板2の高さ方向に所定間隔離隔して複数設けられる。また、天井部3は、例えばドーム形状を有する屋根であり、その外周に屋根回廊10が設けられ、その中心上部に換気筒11が設けられている。また、天井部3の屋根回廊10に面する部分には、作業員がホルダ内部に出入りするための出入口(図1では図示せず。図2の符号12を参照。)が設けられている。なお、天井部3の形状は、図示のドーム形状の例に限定されず、例えば、平坦な円板形状または円錐形状などであってもよい。
【0023】
ピストン5は、例えばドーム状の板であり、乾式ガスホルダ1内部に、ガスの流出入に応じて側板2に沿って円滑に昇降可能に設けられる。ガスはこのピストン5の下部側に貯蔵され、ガスの貯蔵量が増加するにつれてピストン5は上昇し、ガスの貯蔵量が減少するにつれてピストン5も下降する。シール機構6は、ピストン5の外縁部と側板2の内周面との間をシールする機能を有する。シール機構6は、ピストン5の外縁部に設置された油溝にシール油を配し、このシール油の静圧によりガスシールを行う構造であり、側板2に密着してピストン5の動きに従って摺動するゴム製の摺動材を具備しており、該摺動材によりシール油の漏れを防いでいる。ピストンデッキ7は、例えば、作業員がピストン5上に載るための例えば円板状のデッキであり、ピストン5上に固定的に設置される。このピストンデッキ7は、ガスの流出入に応じてピストン5とともに昇降する。
【0024】
かかる構造の乾式ガスホルダ1において、従来は、天井部3の出入口からピストンデッキ7上に作業員が降りるための昇降装置として、ホルダ内の中央上部に内部リフト(図示せず。)が設けられていた。しかし、かかる従来の内部リフトでは、(a)電動機を使用するため発火源となる恐れがある、(b)同時に複数の作業員が迅速に昇降することができない、(c)非常時に被災者を担架に寝かせた状態で搬送することができず救助が困難である、といった問題があった。そこで、本実施形態では、乾式ガスホルダ1の昇降装置として、ピストン5の昇降動作に追従して上下動する螺旋階段体からなる昇降装置を使用する。これにより、ホルダ内に電動機を設置しないようにできるとともに、多数の作業員が当該昇降装置を利用して同時かつ迅速に昇降できるという利点がある。以下に、本実施形態に係る昇降装置について説明する。
【0025】
[昇降装置の概略構成]
次に、図2及び図3を参照して、本実施形態に係る乾式ガスホルダ1の昇降装置の概略構成について説明する。なお、図2、図3はそれぞれ、本実施形態に係る昇降装置が設置された乾式ガスホルダ1の内部構造を模式的に示す縦断面図、横断面図である。ただし、乾式ガスホルダ1内部にある昇降装置の螺旋階段体20を把握しやすいように、図2では螺旋階段体20を縦断面ではなく正面から見たものを示し、図2では螺旋階段体20を横断面ではなく上面から見たもので示している。なお、図2Aは、ピストン5が最下部まで下降した状態(着底した状態)を示し、図2Bは、図2Aの状態からピストン5が途中まで上昇した状態を示す。
【0026】
図2及び図3に示すように、本実施形態に係る乾式ガスホルダ1の昇降装置は、乾式ガスホルダ1内の天井部3とピストンデッキ7の間に設けられた螺旋階段体20からなる。螺旋階段体20は、側板2の内周面2aに沿って螺旋状に配設されている。螺旋階段体20の上端部は、天井部3に設けられた出入口12付近に固定されている。螺旋階段体20の揺れを防ぐために、螺旋階段体20の下端部はピストンデッキ7に固定されているが、該下端部をピストンデッキ7に固定せずに自由端とすることも可能である。かかる螺旋階段体20は、乾式ガスホルダ1内で、その上端部が天井部3に固定されて吊り下げられた構造となっている。
【0027】
かかる構造の螺旋階段体20では、螺旋階段体20の自重及びその上部を昇降する作業員の重量は、乾式ガスホルダ1の天井部3にかかることになる。ただし、螺旋階段体20がピストンデッキ7上に着床している部分(即ち、上記接触部分20A)の重量は、ピストン5にかかるが、ピストン5が降下したときには、螺旋階段体20の自重の全部又は大半が天井部3にかかる。このため、天井部3の強度を上げれば、螺旋階段体20の重量を大きくできるが、その場合、乾式ガスホルダ1の建設コストも大きくなるので好ましくない。よって、螺旋階段体20は極力軽量であることが求められるので、螺旋階段体20を軽量材質(例えば、アルミニウム等の軽金属、ビニル等の合成樹脂、木材など)を用いて製造し、軽量な構造を適用する。
【0028】
また、ピストンデッキ7に対する螺旋階段体20の接触部分20Aの重量を除く螺旋階段体20の重量は、天井部3に固定された螺旋階段体20の上部にかかる。このため、螺旋階段体20の少なくとも上部は、その全体の重量を自立的に支持可能な構造・材質で形成されている。
【0029】
かかる螺旋階段体20は、ピストン5の昇降に応じて上下方向に伸縮可能な構造であり、ピストン5の昇降に追従して上下動する。即ち、図2Aに示すように、ピストン5が最下部に着底しているときには、螺旋階段体20は、上下方向に伸びきった状態となり、その全体が側板2の内周面2aに沿った螺旋状となる。このとき、螺旋階段体20の下端部は、ピストンデッキ7に接触している。一方、図2Bに示すように、ピストン5が上昇したときには、螺旋階段体20は、その下部側部分がピストンデッキ7上に着底して、ピストンデッキ7と螺旋階段体20の下部側部分とが接触した状態となる。以下、ピストンデッキ7に対して接触した螺旋階段体20の下部側部分を、ピストンデッキ7に対する螺旋階段体20の接触部分20Aと呼ぶ。この図2Bの状態では、螺旋階段体20は、接触部分20A以外の部分が上下方向に伸びて螺旋状となり、接触部分20Aは、上下方向に縮んで、ピストンデッキ7上で円弧状となる。
【0030】
このようなピストンデッキ7に対する螺旋階段体20の接触部分20Aは、ピストン5の昇降に応じて増減し、ピストン5が上昇するほど該接触部分20Aが増加する。該螺旋階段体20の接触部分20Aは、ピストン5の昇降動作に追従して、側板2の内周面2aに沿って上下動し、螺旋階段体20の接触部分20A以外の部分(非接触部分)は、螺旋状のまま上下動しない。かかる構成の螺旋階段体20を設置することにより、ピストン5が天井部3と底板4の間のどの高さ位置にあるときでも、作業員は、出入口12から螺旋階段体20上の通路を通ってピストンデッキ7上に到達することができる。
【0031】
また、図3に示すように、螺旋階段体20は、側板2の内周面2aに沿って1周未満の螺旋状に配設されることが好ましい。つまり、螺旋階段体20が1周以上であると、ピストン5が乾式ガスホルダ1内の上部まで上昇したときに、螺旋階段体20が上下に重なることになる。このため、当該重なる部分を載置するためのデッキが必要となり、構造が複雑化してしまう。これに対して、螺旋階段体20が1周未満であると、ピストン5が上部にあるときであっても、螺旋階段体20が上下に重なることがない。従って、螺旋階段体20を簡単な構造にすることができるとともに、作業員は螺旋階段体20上を容易に昇降できるようになる。
【0032】
[昇降装置の詳細構成]
次に、図4〜図6を参照して、上述した昇降装置を構成する螺旋階段体20の構造について詳細に説明する。図4Aは、図2Aの波線で囲んだ部分Aを拡大した部分拡大正面図であり、図4Bは、図2Bの波線で囲んだ部分Bを拡大した部分拡大正面図である。図5は、図3の波線で囲んだ部分Cを拡大した部分拡大上面図である。
【0033】
図4及び図5に示すように、螺旋階段体20は、同一形状を有する複数の階段ユニット22をリンク部材24により相互に連結して構成される。即ち、螺旋階段体20は、複数の階段ユニット22を環状に配列して(図3参照。)、相隣接する階段ユニット22をリンク部材24で連結した構造である。個々の階段ユニット22は、螺旋階段体20の螺旋階段の1ステップの段差を構成する箱体である。リンク部材24は、相隣接する階段ユニット22の両側(内側面と外側面)に取り付けられる。階段ユニット22の上部には、支柱26aとワイヤ26bとからなる手摺26が設けられている。また、階段ユニット22の一側には、第1のストッパ28が突出形成されており、階段ユニット22の他側には、当該第1のストッパ28と係合する第2のストッパ29が陥没形成されている。
【0034】
リンク部材24は、相隣接する階段ユニット22を、上下方向に相対移動可能に連結する。例えば、図4Bに示すように、同一の高さレベルにある相隣接する階段ユニット22の間に所定の隙間25を空けた状態で、リンク部材24の両端を、相隣接する階段ユニット22にそれぞれに回動自在に取り付ける。これにより、当該隙間25の分だけリンク部材24が回動できるので、該リンク部材24で連結された相隣接する階段ユニット22は、上下方向に相対的に移動可能である。この相隣接する階段ユニット22の上下方向の可動範囲は、リンク部材24の取付位置や、隙間25の大きさ、ストッパ28、29の形状及び配置などで調整できる。このように相隣接する階段ユニット22は、リンク部材24及びストッパ28、29により、上下方向の可動範囲が制限される。
【0035】
このようなリンク部材24で階段ユニット22を連結することで、螺旋階段体20の上部側においては、相隣接する階段ユニット22間に段差を生じさせて、螺旋階段を形成できるとともに、螺旋階段体20の下部側においては、ピストンデッキ7に対する螺旋階段体20の接触部分20Aを、ピストン5の昇降に追従して上下動させることができるようになる。
【0036】
詳細には、例えば、図4Aに示すように、ピストンデッキ7に接触しないように螺旋階段体20をその上端で吊り下げたときには、相隣接する階段ユニット22同士が上下方向に相対的に移動して、下側の階段ユニット22ほど低い高さレベルになるように上下にずれる。このため、螺旋階段体20の個々の階段ユニット22が螺旋階段の1ステップの段差を形成し、螺旋階段体20全体は、側板2の内周面2aに沿った螺旋階段となる。
【0037】
一方、図4Bに示すように、ピストンデッキ7が上昇して、螺旋階段体20の下部側部分(上記接触部分20A)がピストンデッキ7に接触したときには、該接触部分20Aにおける相隣接する階段ユニット22は、上下方向に相対的に移動して、同一の高さレベルとなる。このため、ピストンデッキ7に対する螺旋階段体20の接触部分20Aは、上記階段ユニット22間の段差が無くなって、同一の高さレベルの平坦な通路となり、ピストン5の昇降に追従して上下動できる。
【0038】
ここで、さらに図6、図7を参照して、本実施形態に係る螺旋階段体20の階段ユニット22の構成について詳述する。図6は、本実施形態に係る螺旋階段体20を構成する階段ユニット22の構成例を示す斜視図であり、図7は、本実施形態に係る相隣接する2つの階段ユニット22A、22Bの構成例を示す縦断面図である。
【0039】
詳細には、図6及び図7に示すように、階段ユニット22は、例えば、略直方体形状の箱体であり、アルミニウム等の軽量でかつ所定強度の得られる金属材料で形成される。具体的には、階段ユニット22は、例えば、略直方体の枠組みを構成する構造部材31、29と、該枠組みの前面22a、内側面22c、外側面22d及び上面22eに取り付けられた板材とからなる。このように階段ユニット22は中空構造であり、さらに、階段ユニット22の背面22b、下面22fには、板材は取り付けられずに開放されており、階段ユニット22の軽量化が図られている。なお、階段ユニット22の背面22bの上部に設けられる構造部材は、後述するストッパ29として機能する。
【0040】
また、階段ユニット22の上面22eの板材は、螺旋階段のステップとして作業員の足が載る部分であるので、例えば図5に示したように、該上面22aの板材を例えば縞鋼板で形成して、滑り難くするとともに、強度を確保してもよい。また、該上面22aの板材は、滑りにくく強度が確保されている部材であれば、例えば、網材などで構成することもできる。なお、図5に示すように、螺旋階段体20は側板2の内周面2aに沿って螺旋状に配設されるものであるため、それを構成する個々の階段ユニット22も、厳密には完全な直方体ではなく、側板2の内周面2aに沿って湾曲した形状を有する。このため、各階段ユニット22の外側面22d(例えば627mm)は内側面22c(例えば609mm)よりも長い曲面となっている。
【0041】
次に、リンク部材24の取付構造について説明する。図6及び図7に示すように、階段ユニット22の内側面22c、外側面22dの下部には、隣接する前後の階段ユニット22と連結するための一対のリンク部材24がそれぞれ設けられている。図6及び図8に示すように、リンク部材24は、階段ユニット22の内側面22c、外側面22dにボルト32により回動自在に取り付けられる。リンク部材24の両端には、ボルト32のネジ部32aを貫通させるための貫通孔24aが形成されている。この貫通孔24aとボルト32のネジ部32aとの間には、スペーサとしてのカラー34が介在している。かかる構造により、ボルト32によりリンク部材24を階段ユニット22に対して回動自在に螺着でき、リンク部材24が階段ユニット22に対して円滑に回動できるようになる。なお、リンク部材24の取付構造としては、図8に示す例に限定されず、例えば、階段ユニット22の内側面22c、外側面22dにネジを突設し、このネジにリンク部材24の貫通孔24aを挿通した上で、ナットで締結する構造などであってもよい。
【0042】
次に、相隣接する階段ユニット22の上下方向の稼働範囲を制限するためのストッパ28、29について説明する。図6及び図7に示すように、階段ユニット22の前面22a下部には、例えば横長直方体状のストッパ28が突出形成されており、階段ユニット22の背面22b上部には、該ストッパ28と係合するストッパ29が陥没形成されている。
【0043】
図7(a)に示すように、相隣接する2つの階段ユニット22A、22Bが、同一の高さレベルにあるときには、階段ユニット22Bのストッパ28は、階段ユニット22Aの内部に挿入されているものの、階段ユニット22Aのストッパ29と干渉はしない。つまり、図4Bに示したように、螺旋階段体20がピストンデッキ7上に着底したときには、ピストンデッキ7に対する螺旋階段体20の接触部分Aの複数の階段ユニット22は、同一の高さレベルになる。この場合、図7(a)に示すように、2つの階段ユニット22A、22Bの間に隙間25ができ、階段ユニット22Bの前面22aのストッパ28と、階段ユニット22Aの背面22bのストッパ29とは離隔する。
【0044】
この図7(a)の状態から、ピストン5が降下すると、相隣接する階段ユニット22A、22Bは上下方向に相対移動して、階段ユニット22Bが階段ユニット22Aに対して上昇する。当該相対移動が進むと、図7(b)に示すように、階段ユニット22Bの前面22aのストッパ28が、階段ユニット22Aの背面22bのストッパ29に当接するとともに、階段ユニット22Bの前面22aと階段ユニット22Aの背面22bとが接触する。従って、図7(b)の状態では、ストッパ28がストッパ29により係止されるので、階段ユニット22Bは階段ユニット22Aに対して上昇できなくなり、両者の相対移動は停止して、両者間に所定の段差が生じた状態となる。この状態では、下部側の階段ユニット22Aの重量は、ストッパ28、29及び上記リンク部材24を介して、上部側の階段ユニット22Bにかかる。即ち、上部側の階段ユニット22Bは、下部側の階段ユニット22Aの重量を支持する。
【0045】
以上のようにストッパ28とストッパ29が係合することで、相隣接する階段ユニット22A、22Bの上下方向の相対移動の可動範囲を制限することができるとともに、下側の階段ユニット22Aの荷重を上部側の階段ユニット22Bで支持できるようなる。
【0046】
次に、螺旋階段体20の手摺26について説明する。図6及び図4等に示したように、階段ユニット22の上部には、手摺26が設けられており、螺旋階段体20上を昇降する作業員の落下を防止できるようになっている。該手摺26は、各階段ユニット22に起立状態で取り付けられる支柱26aと、隣接する支柱26a間を結ぶワイヤ26bとからなる。図4A、図4Bに示したように、螺旋階段体20を構成する階段ユニット22は上下方向に相対移動する。そこで、手摺26として柔軟性のあるワイヤ26bを用いることで、ワイヤ26bが各階段ユニット22の上下動に応じて変形できるので、相隣接する階段ユニット22の相対移動を妨げることがない。また、手摺26としてワイヤ26bを用いることで、螺旋階段体20の軽量化も図れる。
【0047】
次に、螺旋階段体20が乾式ガスホルダ1の側板2の内周面2aに沿って円滑に上下動できるようにするための機構について説明する。図5及び図9に示すように、螺旋階段体20を構成する各階段ユニット22の外側面22dに、ガイドローラ36が装着されている。ガイドローラ36は、螺旋階段体20が側板2の内周面2aに沿って円滑に上下動するように、螺旋階段体20を案内する機能を有する。
【0048】
階段ユニット22の外側面22dから外側に向けてローラ支持部38が突設されており、ガイドローラ36は、該ローラ支持部38により回転自在に支持されて、側板2の内周面2aに接触している。これにより、螺旋階段体20が上下動するときには、ガイドローラ36が回転することで、螺旋階段体20は側板2に沿って円滑に上下動できる。なお、図9に示すように、1つの階段ユニット22に複数個(図では2個)のガイドローラ36を上下方向に並設することで、より安定的に螺旋階段体20の上下動を案内できるが、ガイドローラ36を1個のみ設置しても勿論よい。
【0049】
さらに、ガイドローラ36は、磁性材料で形成された車輪状のマグネットからなる。このため、ガイドローラ36は、鋼板等の金属材料で形成された側板2に対して、磁力により吸着する。従って、各階段ユニット22にガイドローラ36を設置することで、上下動する各階段ユニット22を側板2に固定できる。よって、螺旋階段体20の静止時及び上下動時の双方において、螺旋階段体20が側板2から離隔しないように安定化して、螺旋階段体20のフラツキを抑制できるので、作業員は安全に螺旋階段体20上を昇降できる。
【0050】
なお、乾式ガスホルダ1は、上記のシール油を用いたシール機構6を具備しているので、側板2の内周面2aに沿って上方からシール油が流れている。このため、吸盤等により、螺旋階段体20を側板2に吸着することは困難である。従って、吸着方式としては、上記ガイドローラ36のような磁石を用いることが好適である。
【0051】
また、図5に示すように、一般的に乾式ガスホルダ1の側板2の内周面2aには、ピストン5の回転を防止するための回転防止用突起2cが、鉛直方向に沿ってレール状に延設されている。そこで、図5の左側に示すガイドローラ36のように、当該回転防止用突起2cの位置に合わせてガイドローラ36を設置するとともに、ガイドローラ36を支持するローラ支持部38の外側に、回転防止用突起2cを両側から挟む一対の突起37を設けてもよい。これにより、ガイドローラ36が回転防止用突起2cに沿って回転するとともに、突起37により、ガイドローラ36が回転防止用突起2cから、周方向にずれることを防止できる。従って、上下動する螺旋階段体20が側板2の内周面2aに沿って回転することを防止できるので、螺旋階段体20の周方向及び径方向のフラツキを抑制して、より安定させることができる。
【0052】
[昇降装置の動作]
以上、本実施形態に係る乾式ガスホルダ1の昇降装置である螺旋階段体20の構成について詳述した。次に、本実施形態に係る乾式ガスホルダ1における螺旋階段体20の動作について説明する。
【0053】
図2Aに示したように、ピストン5が着底しているときには、螺旋階段体20の全体が、伸びきって、側板2の内周面2aに沿った螺旋階段状となる。このとき、図4Aにしたように、螺旋階段体20を構成する各階段ユニット22は、隣接する階段ユニット22に対して上下方向にずれた状態で配置されており、相隣接する階段ユニット22間に段差が生じる。相隣接する階段ユニット22は、ストッパ28、29とリンク部材24により連結・支持されている。また、かかる状態では、螺旋階段体20全体の重量は、螺旋階段体20の上端で出入口12付近に固定されている階段ユニット22にかかり、上部側の階段ユニット22が、その下部側にある全ての階段ユニット22の重量を支持している。
【0054】
次いで、図2Bに示したように、乾式ガスホルダ1内へのガス流入に応じてピストン5が上昇すると、螺旋階段体20の下部側が順次、ピストンデッキ7上に接触していき、当該ピストンデッキ7に対する螺旋階段体20の接触部分20Aは平坦な通路となり、その他の部分は螺旋階段状のままである。つまり、図4Bに示したように、ピストン5の上昇に応じて、螺旋階段体20の下部側にある階段ユニット22から順にピストンデッキ7上に載置されていき、ピストンデッキ7に対する螺旋階段体20の接触部分20Aにある階段ユニット22は、ピストン5の上昇に追従して、ピストンデッキ7とともに上昇する。このとき、該接触部分20Aでは、相隣接する階段ユニット22のストッパ28、29が係合しておらず、該接触部分20Aの階段ユニット22の荷重はピストンデッキ7にかかる。
【0055】
その後、ピストン5が更に上昇して最上部の天井部3付近に達すると、螺旋階段体20を成す全ての階段ユニット22がピストンデッキ7上に載置されて、螺旋階段体20は、螺旋状ではなく、ほぼ環状となる。
【0056】
次いで、ピストン5が最上部から降下すると、螺旋階段体20の上部側の階段ユニット22から順にピストンデッキ7から離れていき、未だピストンデッキ7に対して接触している下部側の階段ユニット22(螺旋階段体20の接触部分20A)は、ピストン5の下降に追従して、ピストンデッキ7とともに下降する。その後、ピストン5が更に下降して着底すると、図2Aの状態に戻り、螺旋階段体20の全体が、伸びきって、側板2の内周面2aに沿った螺旋階段状となる。
【0057】
以上のように、本実施形態に係る螺旋階段体20を用いた昇降装置では、乾式ガスホルダ1のピストン5の昇降に応じて、螺旋階段体20が上下方向に伸縮し、ピストンデッキ7に対する螺旋階段体20の接触部分20Aは、ピストン5の昇降に追従して上下動する。このため、ピストン5の位置に関わらず、螺旋階段体20は、天井部3の出入口12付近とピストンデッキ7と結ぶ通路(螺旋階段又は平坦な通路)を形成できる。従って、作業員は、螺旋階段体20上を通って、出入口12からピストンデッキ7上に降りたり、逆に、ピストンデッキ7上から出入口12まで上ったりできる。
【0058】
<第2の実施の形態>
次に、図10及び図11を参照して、本発明の第2の実施形態に係る昇降装置を構成する螺旋階段体20の構造について詳細に説明する。図10Aは、図2Aの波線で囲んだ部分Aを拡大した部分拡大正面図であり、図10Bは、図2Bの波線で囲んだ部分Bを拡大した部分拡大正面図である。図11は、第2の実施形態に係る螺旋階段体20を示す斜視図である。
【0059】
上述した第1の実施形態に係る昇降装置は、螺旋階段体20を構成する個々の階段ユニット22が1ステップの段差を成す螺旋階段型の昇降装置であった。これに対し、第2の実施形態に係る昇降装置は、螺旋階段体20の上面がスロープ状となる螺旋スロープ型の昇降装置である。このように第2の実施形態は、上述した第1の実施形態と比して、螺旋階段体20の上面をスロープ状にする点で相違し、その他の機能構成は、第1の実施形態の場合と略同一であるので、重複する詳細説明は省略する。
【0060】
図10及び図11に示すように、螺旋階段体20を構成する各階段ユニット22の上面22eに、スロープ板40が蝶番42を用いて回動可能に取り付けられている。スロープ板40は、例えば、略矩形平板状の金属板で構成される。スロープ板40の幅(図11の左右方向)は、階段ユニット22の上面22eの幅と略同一であり、スロープ板40の長さ(図11の奥行き方向)は、階段ユニット22の上面22eの長さよりも長い。
【0061】
スロープ板40の一端部(一辺)は、蝶番42により階段ユニット22の上面22eの前面側にヒンジ結合されている。これにより、スロープ板40は、蝶番42を中心にして回動可能である。一方、スロープ板40の他端部(他辺)は、隣接する階段ユニット22の上面22eに乗り上げるようにして重ねられており、自由端となっている。以下、スロープ板40のヒンジ結合された一端部を取付端と称し、スロープ板40の他端部を自由端と称する。
【0062】
詳細には、図11に示すように、階段ユニット22Aの上面22aに取り付けられたスロープ板40Aの自由端は、その隣(階段上部側)の階段ユニット22Bの上面22aに取り付けられたスロープ板40Bに重なるようにして配設される。同様に、この階段ユニット22Bの上面22aに取り付けられたスロープ板40Bの自由端は、その隣(階段上部側)の階段ユニット22Cの上面22aに取り付けられたスロープ板40Cに重なるようにして配設される。このように、各階段ユニット22上には、その上面22eよりも長いスロープ板40が相互に折り重なるようにして配設される。
【0063】
かかるスロープ板40を設けることによって、螺旋階段体20の上面をスロープ状にすることができる。例えば、図10Aに示すように、ピストン5が下降して、螺旋階段体20が螺旋階段状となり、隣接する階段ユニット22がピストンデッキ7から持ち上げられた状態になった場合でも、下段側の階段ユニット22に取り付けられたスロープ板40の自由端は、隣の上段側の階段ユニット22上に留まる。これにより、螺旋階段体20上に、複数のスロープ板40によるスロープが形成される。
【0064】
一方、図10Bに示すように、ピストン5が上昇して、ピストンデッキ7に対する螺旋階段体20の接触部分20Aが平坦な通路となり、隣接する階段ユニット22が同一高さとなった場合も、各階段ユニット22に取り付けられたスロープ板40の自由端は、隣の階段ユニット22上に重なっている。つまり、ピストン5の上昇に応じて、上段側の階段ユニット22がピストンデッキ7上に着地すると、該上段側の階段ユニット22に連動して傾斜していた下段側の階段ユニット22のスロープ板40は、ほぼ水平状態となる。これにより、螺旋階段体20の接触部分20A上に、複数のスロープ板40により略平坦な通路が形成される。このとき、スロープ板40の自由端は下向きに若干湾曲しているため、スロープ板40の自由端が、隣のスロープ板40の取付端の蝶番42に覆い被さるようになる。従って、作業員が、螺旋階段体20の接触部分20A上の平坦な通路上を歩くときでも、スロープ板40の自由端につまずくことがない。
【0065】
以上のように、第2の実施形態に係る螺旋階段体20では、各階段ユニット22上にスロープ板40を設置するという簡単な構造により、螺旋階段体20上にスロープ型の通路を形成できる。これにより、作業員は、第1の実施形態に係る螺旋階段体20のような螺旋階段につまずくことなく、スロープ型の通路上を容易に移動できる。また、スロープ型の通路により、台車、車輪のついた機器や担架などを容易かつ迅速に搬送することもできる。
【0066】
<実機への適用を検討した実施例>
[実施例1:螺旋階段体の階段角度の検討]
まず、上記第1、第2の実施形態に係る昇降装置を、実際の乾式ガスホルダ1に適用した場合に、螺旋階段体20の螺旋階段(又はスロープ)の角度が、実用上現実的な角度となるかについて検討した結果を説明する。
【0067】
検討に用いた乾式ガスホルダ1の実機の仕様は以下の通りである。
貯蔵ガス :COG
型式 :MHI COS型
容量 :5万m
ホルダ内径 :42.7m
ホルダ側板高さ :50m
螺旋階段体20の最大高低差:43m
【0068】
螺旋階段体20の階段角度θは、極力小さい方が昇降しやすいが、45°以下であれば実用上問題ないと評価した。検討条件としては、螺旋階段体20の高低差が最大となるピストン5の着底時にて検討した。また、螺旋階段体20の最下段から最上段までの長さが、乾式ガスホルダ1の内周面2aに沿って1周分となるものとした。
【0069】
図12は、上記乾式ガスホルダ1に適用した螺旋階段体20の寸法を示す。図12に示すように、内径42.7mの乾式ガスホルダ1の内部に、階段幅(又はスロープ幅)が0.6mの螺旋階段体20を側板2の内周面2aに沿って設置する場合、螺旋階段体20の階段幅方向の中心が内周面2aから0.7m内側であるとすると、螺旋階段体20の階段幅方向の中心の径は41.3mとなる。この螺旋階段体20の階段幅方向の中心を直線に引き伸ばしたものが図13である。
【0070】
図13に示すように、螺旋階段体20の階段幅方向の中心の長さは、129.7mとなる。また、乾式ガスホルダ1の側板2の高さ50mから、ピストンサポート、ピストンフートリング、ピストンデッキ7等の高さ分7mを減算すると、螺旋階段体20の最大高低差(着底時のピストンデッキ7から天井部3までの高さ)は、43mとなる。
【0071】
よって、螺旋階段体20の階段角度θは、約18.5°となり、実用上問題のない基準角度(45°)よりも大幅に小さい。従って、この螺旋階段体20の階段角度θは、作業員の通常の昇降や、避難、被災者の搬出などが十分に可能であり、現実的な角度であるといえる。
【0072】
[実施例2:螺旋階段体の構造・重量の検討]
次に、上記第1、第2の実施形態に係る昇降装置を、実際の乾式ガスホルダ1に適用した場合に、螺旋階段体20及びその上を昇降する作業員の重量を螺旋階段体20が支持可能であるかについて検討した結果を説明する。
【0073】
上述した螺旋階段体20の構造では、螺旋階段体20の自重及び作業員の重量は、乾式ガスホルダ1の天井部3にかかることになる。また、螺旋階段体20は、構造的に、上部の階段ユニット22がそれ以下の階段ユニット22を吊り上げて支持するものであり、最も大きな荷重がかかるのは、天井部3付近に固定される最上段の階段ユニット22である。具体的には、当該最大荷重は、最上段部の階段ユニット22を連結するリンク部材24とストッパ28、29にかかり、該リンク部材24とストッパ28、29により、それ以下の階段ユニット22全てを吊り上げる構造である。そこで、リンク部材24が、螺旋階段体20全体及び作業員の重量を支持できる強度を有するか否かについて、以下に検討した。
【0074】
検討した螺旋階段体20の仕様は以下の通りである。
螺旋階段体の全段数:210段
1段当りの高さ :21cm
1段当りの重量 :12kg
螺旋階段体の全重量:約2500kg
【0075】
例えば、実施例1で示したような乾式ガスホルダ1に螺旋階段体20を適用する場合、階段ユニット22の1段当りの高さ21cmとすると螺旋階段体20の全段数(階段ユニット22の数)は210段となる。各階段ユニット22は、筐体、手摺26、ストッパ28、29を軽量材料(例えばアルミニウム等)で形成することで、必要な強度を維持しつつ、1段当たりの重量を12kg程度に抑えることができる。
【0076】
また、リンク部材24は、例えば図8に示したようにボルト32により階段ユニット22に取り付けられるが、螺旋階段体20の荷重は、当該ボルト32にかかるので、当該ボルト32の強度を検討する。検討に用いたボルト32の仕様は以下の通りである。
ボルト種類 :M20ボルト
M20ボルト許容剪断応力 :700kg重/cm
M20ボルト断面積A :3.14cm
【0077】
かかるM20ボルトの条件では、M20ボルト1本当りの耐荷重は、700×3.14=2198kgとなる。また、各階段ユニット22の両側に設けられた2本のM20ボルトを用いて螺旋階段体20を支持するので、M20ボルト2本での耐荷重は、2198×2=4396kg重となる。
【0078】
従って、M20ボルト2本での耐荷重、約4400kg重は、上述した螺旋階段体20の全重量2500kgと作業員の重量(例えば数10〜数100kg)を足した重量よりも、十分に大きいので、当該重量の全てがボルト32にかかったとしても、ボルト32は剪断力に耐えることができ、当該重量を支持可能であると判断できる。よって、上述した実施形態の螺旋階段体20の構造であれば、螺旋階段体20の自重及び作業員の重量を螺旋階段体20が支持可能であるといえる。
【0079】
以上、本発明の好適な実施形態に係る乾式ガスホルダ1の昇降装置について説明した。本実施形態に係る昇降装置は、乾式ガスホルダ1の側面2の内周面2aに沿って螺旋状に配設される螺旋階段体20からなる。該螺旋階段体20は、ピストン5の昇降に応じて上下方向に伸縮可能な構造であり、ピストンデッキ7に対する螺旋階段体20の接触部分20Aがピストン5の昇降に追従して上下動できる。このため、ピストン5の高さ位置にかかわらず、螺旋階段体20は、乾式ガスホルダ1内に天井部3とピストンデッキ7上とを結ぶ階段状又はスロープ状の通路を形成できる。
【0080】
よって、天井部3の出入口12からホルダ内に入った作業員は、螺旋階段体20上の通路を通ってピストンデッキ7上に迅速に降りることができ、逆に、ピストンデッキ7上の作業員は、螺旋階段体20上の通路を通って天井部3に迅速に上ることができる。この際、螺旋階段体20は搭乗人数に制限がないので、多数の作業員が同時に螺旋階段体20上を移動することができる。従って、乾式ガスホルダ1内で多数の作業員が螺旋階段体20を用いて迅速に昇降することができる。
【0081】
この螺旋階段体20を用いた昇降装置は、通常の点検・補修作業時に作業員が昇降するときに有益であることは勿論、緊急避難時にも有効である。即ち、乾式ガスホルダ1の故障時、ガス漏れ時などには、ピストンデッキ7上にいる被災者を迅速にホルダ外に退避させる必要がある。しかし、従来の内部リフト(例えば、搭乗人数が若干名、電動式)や、非常用の手動巻上げ式の昇降装置(例えば、積載荷重80kg又は1名)では、搭乗人員が限られ、昇降速度が遅いだけでなく、被災者を担架に乗せて寝かせた状態で搬送できないものであった。これに対し、本実施形態にかかる昇降装置では、螺旋階段体20上を、多数の作業員が同時かつ迅速に移動できる上に、被災者やガス中毒等で意識のない人を安静に担架等で搬送することも可能であるので、緊急時の救助用としても大いに役立つ。
【0082】
さらに、本実施形態にかかる昇降装置は、発火源となりうる電動機が不要であるので、可燃性ガスを貯蔵する乾式ガスホルダ1内に設置しても安全性が高い。即ち、万が一、ホルダ内に可燃性ガスが漏出していたとしても、螺旋階段体20が発火源となって引火することがない。
【0083】
また、螺旋階段体20の階段ユニット22が1段ずつ上下動する構成であるので、螺旋階段体20の各階段ユニット22には、側板2の内周面2aに吸着する磁性体、例えば、ガイドローラ36が装着されている。これにより、螺旋階段体20を側板2に固定して、螺旋階段体20の径方向のフラツキを抑制して安定させることができる。従って、作業員は安全に螺旋階段体20を昇降できる。また、ガイドローラ36により、螺旋階段体20は、側板2の内周面2aに沿って円滑に上下動できる。
【0084】
また、螺旋階段体20を構成する複数の階段ユニット22をリンク部材24とストッパ28、29により連結することで、安定した螺旋階段(スロープ)を形成することができる。さらに、天井部3から吊り下げられた螺旋階段体20の自重を、各階段ユニット22のリンク部材24とストッパ28、29で好適に支持することができる。
【0085】
また、第2の実施形態のように、各階段ユニット22の上面22aにスロープ板40を設置することで、スロープ状の通路を形成できる。よって、作業員は、螺旋階段体20上を、階段の段差につまずくことなく昇降できるとともに、該スロープ上で台車、車輪付きの担架などを容易かつ迅速に搬送することもできる。
【0086】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0087】
例えば、上記実施形態では、螺旋階段体20は側板2の内周面2aに沿って、1周未満の螺旋状であった。しかし、本発明は、かかる例に限定されず、例えば、縦長の乾式ガスホルダでは、螺旋階段体20を1周以上の螺旋状にしてもよい。この場合、ピストン5が上昇したときに、ピストンデッキ7上に螺旋階段体20が上下に重なって着床するので、螺旋階段体20の上部に、重なる部分を支持するデッキを設けてもよい。
【0088】
また、上記実施形態では、側板2の内周面2aに吸着する磁性体として、磁性材料で形成されたガイドローラ36を用いたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、階段ユニット22の外側面に該磁性体としての磁石を装着して、この磁石の磁力により階段ユニット22を側板2に吸着させてもよい。このとき、磁石は、必ずしも側板2の内周面2aに接触させる必要がなく、内周面2aから離隔配置されていても、階段ユニット22を側板2に吸着できるものであればよい。
【0089】
また、相隣接する階段ユニット22に設けられるストッパは、上記実施形態のようなストッパ28、29の形状や配置に限定されない。ストッパは、相隣接する階段ユニット22同士を係合させて、該階段ユニット22の上下方向の可動範囲を制限できるものであれば、任意の形状、配置であってもよい。また、相隣接する階段ユニット22を連結するリンク部材24の構成も、上記実施形態の例に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る乾式ガスホルダの全体構成を示す一部切り欠き側面図である。
【図2A】同実施形態に係る昇降装置が設置された乾式ガスホルダの内部構造を模式的に示す縦断面図である。
【図2B】同実施形態に係る昇降装置が設置された乾式ガスホルダの内部構造を模式的に示す縦断面図である。
【図3】同実施形態に係る昇降装置が設置された乾式ガスホルダの内部構造を模式的に示す横断面図である。
【図4A】図2Aの波線で囲んだ部分Aを拡大した部分拡大正面図である。
【図4B】図2Aの波線で囲んだ部分Bを拡大した部分拡大正面図である。
【図5】図3の波線で囲んだ部分Cを拡大した部分拡大上面図である。
【図6】同実施形態に係る螺旋階段体を構成する階段ユニットの構成例を示す斜視図である。
【図7】同実施形態に係る相隣接する2つの階段ユニットの構成例を示す縦断面図である。
【図8】同実施形態にかかるリンク部材による階段ユニットの取付構造を示す断面図である。
【図9】同実施形態にかかる階段ユニットに装着されたガイドローラを示す正面図である。
【図10A】本発明の第2の実施形態に係る昇降装置に関し、図2Aの波線で囲んだ部分Aを拡大した部分拡大正面図である。
【図10B】本発明の第2の実施形態に係る昇降装置に関し、図2Aの波線で囲んだ部分Bを拡大した部分拡大正面図である。
【図11】同実施形態に係る螺旋階段体を示す斜視図である。
【図12】本発明の実施例に係る乾式ガスホルダに適用した螺旋階段体の寸法を示す上面図である。
【図13】本発明の実施例に係る螺旋階段体の寸法を示す模式図である。
【符号の説明】
【0091】
1 ガスホルダ
2 側板
2a 内周面
3 天井部
4 底板
5 ピストン
6 シール機構
7 ピストンデッキ
8 ガス出入口配管
9 回廊
10 屋根回廊
11 換気筒
20 螺旋階段体
20A 接触部分
22、22A、22B、22C 階段ユニット
24 リンク部材
25 隙間
26 手摺
26a 支柱
26b ワイヤ
28、29 ストッパ
32 ボルト
34 カラー
36 ガイドローラ
37 突起
38 ローラ支持部
40 スロープ板
42 蝶番



【特許請求の範囲】
【請求項1】
略円筒形の側板と、前記側板の上部を覆う天井部と、ガスの流出入に応じて前記側板の内周面に沿って昇降可能に設けられたピストンと、前記ピストン上に設けられたピストンデッキとを備えた乾式ガスホルダの内部に設けられる昇降装置であって、
複数の階段ユニットが上下方向に相対移動可能に連結された螺旋階段体からなり、
前記螺旋階段体は、前記乾式ガスホルダ内の前記天井部と前記ピストンデッキとの間に、前記側板の内周面に沿って螺旋状に配設され、
前記螺旋階段体の上端部は前記天井部に固定され、
前記ピストンデッキに対する前記螺旋階段体の接触部分は、前記ピストンの昇降に追従して上下動することを特徴とする、乾式ガスホルダの昇降装置。
【請求項2】
前記螺旋階段体の外側面に、前記側板の内周面に吸着する磁性体が設置されたことを特徴とする、請求項1に記載の乾式ガスホルダの昇降装置。
【請求項3】
前記磁性体は、磁性材料で形成されたガイドローラであり、
前記ガイドローラは、前記側板の内周面に沿って上下動する前記螺旋階段体を案内することを特徴とする、請求項2に記載の乾式ガスホルダの昇降装置。
【請求項4】
前記階段ユニットは、相隣接する前記階段ユニットの上下方向の可動範囲を制限するためのストッパを備えることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の乾式ガスホルダの昇降装置。
【請求項5】
前記螺旋階段体は、前記側板の内周面に沿って1周未満の螺旋状に配設されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の乾式ガスホルダの昇降装置。
【請求項6】
前記階段ユニットそれぞれの上面には、スロープ板の一端がヒンジ結合されており、
前記スロープ板の他端は、隣接する前記階段ユニットの上面に重なるように配設されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の乾式ガスホルダの昇降装置。


【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−151266(P2010−151266A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−331690(P2008−331690)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)