説明

二官能性キレート剤およびマンノシルヒト血清アルブミンの複合体

本発明は、二官能性キレート剤(BCA)が結合したマンノシルヒト血清アルブミン(MSA)、ならびにマクロファージ、クッパー細胞、細網内皮系(RES)、およびリンパ系等の免疫系を画像化するための、放射性同位体で標識されたその化合物に関する。本発明は、BCA‐MSA結合体、それらの放射標識された化合物、および放射標識のためのキットを含む。本発明は、放射標識手順を改善し、リンパ系によるより高い取り込みを示し、陽電子放出断層撮影(PET)による画像化を可能にした。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、免疫細胞、またはマクロファージ、クッパー細胞、細網内皮系(RES)、およびリンパ系等の免疫細胞で構成される免疫組織を画像化するための新規の放射性医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
リンパ系の画像化は、核医学におけるリンパ節診断法のために重要である。乳癌およびメラノーマの場合、腫瘍に放射性コロイドを注入することにより腫瘍組織に最も近いリンパ節であるセンチネルリンパ節が検出できれば、手術中の過剰な切除を避けることができる。検出されたセンチネル節に対して組織診を行うことにより、切除の意思決定に影響を及ぼす転移の存在が検出される。これは、手術後の有害反応および美容の観点から大変重要である。(G. Mariani, L. Moresco, G. Viale, G. Villa, M. Bagnasco, G. Canavese, J. Buscombe, H. W. Strauss, G. Pagenelli. 「Radioguided sentinel lymph node biopsy in breast cancer surgery.」 J. Nucl. Med. 2001; 42:1198-1215(非特許文献1)、G. Mariani, M. Gipponi, L. Moresco, G. Villa, M. Bartolomei, G. Mazzarol, M. C. Bagnara, A. Romanini, F. Cafiero, G. Paganelli, H. W. Strauss. 「Radioguided sentinel lymph node biopsy in malignant cutaneous melanoma」 J. Nucl. Med. 2002; 43:811-827(非特許文献2))
【0003】
リンパ節の画像化は、組織に注入することにより連続的に移動しリンパ節に閉じ込められる適切な放射性コロイドを使用することにより実施することができる。放射活性が蓄積したリンパ節は、ガンマ線プローブにより検出可能である。リンパ節の画像化および検出に使用される放射性医薬の多くは、アンチモン硫黄コロイド(10〜20nm)、アルブミンナノコロイド(50nm)、および硫黄コロイド(100〜200nm)等の99mTc標識されたコロイドである。より小さい粒径のコロイドのほうがリンパ節への取り込みが早いため、より理想的である。アンチモン硫黄コロイドは、粒径が最も小さいため、現在使用されているコロイドの中では最良の剤である。しかしながら、その粒径は、これでも大き過ぎ、標識には2時間沸騰させる必要があり、これは早朝に手術を受けなければならない患者には適切ではない。さらに、強酸媒体において調製されるため、中和後に不安定になる可能性もある。
【0004】
問題を解決するために、粒径が6〜8nmの99mTc‐ヒト血清アルブミン(HSA)が使用されてきた。99mTc‐HSAは迅速に標識化することができ、リンパ節への早い移動が示されている。しかしながら、リンパ節画像のコントラストは低く、リンパ節に蓄積されるのではなく通過するので、センチネルリンパ節のみならずその他のリンパ節にも取り込まれる。(W. T. Phillips, T. Andrews, H.-L. Liu, R. Klipper, A. J. Landry Jr, R. Blumhardt, B. Goins. 「Evaluation of [99mTc] liposomes as lymphoscintigraphic agents: comparison with [99mTc] sulfur colloid and [99mTc] human serum albumin」 Nucl. Med. Biol. 2001; 28:435-444(非特許文献3))。
【0005】
問題を解決するために、免疫細胞に存在するマンノース受容体と強く結合でき、99mTcでの標識が容易であり、リンパ毛細血管への吸収に適した分子の大きさであり、さらに人体に対する有害反応が無いジスルフィド還元マノシル化ヒト血清アルブミン(MSA)と呼ばれる新規の放射性医薬が開発された。(韓国特許第10-0557008号、「Disulfide reduced mannosylated serum albumin for lymphoscintigraphy and radiolabeled compounds comprising it」2006年2月23日(特許文献1)、Jeong JM, Hong MK, Kim YJ, Lee J, Kang JH, Lee DS, Chung JK, Lee MC. Development of 99mTc-neomannosyl human serum albumin (99mTc-MSA) as a novel receptor binding agent for sentinel lymph node imaging. Nucl Med Commun. 2004 25(12):1211-7(非特許文献4))。MSAはマンノース受容体と強く結合できることが知られている(P. Stahl. et al., Cell 1980; 19:207〜215(非特許文献5))。従って、上記の特許では、MSAを画像化に適した放射性核種、例えば99mTcで標識すればリンパ節が画像化できると仮定された。さらに、MSAは小さく6〜8nmであるため、より迅速なリンパ節への取り込みを示すと考えられた。しかしながら、MSAそのものを修飾無しで99mTc標識することはできない。そこで、MSAを適切な還元剤、例えばβ‐メルカプトエタノールおよびジチオスレイトールで処理することによりジスルフィド還元MSAが調製された。ジスルフィド還元されたガラクトシル化またはラクトシル化されたヒト血清アルブミンが、還元剤で処理することによりジスルフィド結合を還元された後、99mTcで標識されるという報告がある。(韓国特許第0464917号「New disulfide reduced galactosylated serum albumin thereof; a liver function imaging composition; and a radiolabeled compound comprising it.」2004年12月24日(特許文献2))。しかしながら、これらの99mTc標識された剤は陽電子放出断層撮影(PET)により画像化することができない。
【0006】
最近、免疫細胞を画像化するための陽電子標識放射性医薬の需要が高まった。これは従来のガンマ線画像に比べてPETが優れているためにそれが広まり、さらに、転移を検出するための陽電子プローブまたはベータ線プローブが開発されているためである。一般的に、18F、11C、13N、および15O等の陽電子放出体は、サイクロトロンにより製造される。これらのうち、18Fの半減期は他の放射性核種と比較して長いため(110分)、18Fのみがリンパ節の画像化に適用可能である。しかしながら、その標識化手順は高温での加熱や蒸発を必要とするため複雑であり、タンパク質変性の原因となる。さらに、18Fの製造には高額なサイクロトロンシステムが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】韓国特許第10-0557008号
【特許文献2】韓国特許第0464917号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】G. Mariani, L. Moresco, G. Viale, G. Villa, M. Bagnasco, G. Canavese, J. Buscombe, H. W. Strauss, G. Pagenelli. 「Radioguided sentinel lymph node biopsy in breast cancer surgery.」 J. Nucl. Med. 2001; 42:1198-1215
【非特許文献2】G. Mariani, M. Gipponi, L. Moresco, G. Villa, M. Bartolomei, G. Mazzarol, M. C. Bagnara, A. Romanini, F. Cafiero, G. Paganelli, H. W. Strauss. 「Radioguided sentinel lymph node biopsy in malignant cutaneous melanoma」 J. Nucl. Med. 2002; 43:811-827
【非特許文献3】W. T. Phillips, T. Andrews, H.-L. Liu, R. Klipper, A. J. Landry Jr, R. Blumhardt, B. Goins. 「Evaluation of [99mTc] liposomes as lymphoscintigraphic agents: comparison with [99mTc] sulfur colloid and [99mTc] human serum albumin」 Nucl. Med. Biol. 2001; 28:435-444
【非特許文献4】Jeong JM, Hong MK, Kim YJ, Lee J, Kang JH, Lee DS, Chung JK, Lee MC. Development of 99mTc-neomannosyl human serum albumin (99mTc-MSA) as a novel receptor binding agent for sentinel lymph node imaging. Nucl Med Commun. 2004 25(12):1211-7
【非特許文献5】P. Stahl. et al., Cell 1980; 19:207〜215
【発明の概要】
【0009】
本発明は、二官能性キレート剤(BCA)およびMSAの結合体、ならびにその放射標識化合物を開発し、かつ放射標識のためのキットを作製することを目的とする。従って、期待される効果は、陽電子放出体68Gaを使用した簡便な標識化、標識された化合物の高い安定性、およびリンパ節、肝臓、および脾臓における高い蓄積によるリンパ節を含む免疫系の優れた画像化である。
【0010】
68Gaと安定な複合体を形成する候補BCAは、1,4,7‐トリアザシクロノナン‐1,4,7‐三酢酸(NOTA)および1,4,7,10‐テトラアザシクロドデカン‐1,4,7,10‐四酢酸(DOTA)であり、この二つの内ではNOTAのほうが好ましい。
【0011】
免疫細胞を検出および画像化するためのMSAとBCAの結合体を標識するために選択された放射性核種は68Gaである。
【0012】
本発明のもう一つの目的は、容易に免疫細胞を検出および画像化するための放射性医薬を調製できるキットを提供することである。具体的には、本発明の目的は、免疫細胞を画像化するための薬学的に適合性のあるキットを提供することであり、そのキットは無菌バイアルに入ったBCA‐MSAおよび緩衝液で構成され、金属放射性核種による標識が容易である。
【0013】
本発明は、
(1)下記式1で表される二官能性キレート剤(BCA)およびマンノシルヒト血清アルブミン(MSA)の結合体:
[式1]
(Man‐L1n‐A‐(L2‐BCA)m
式中、Manはマンノシル基であり、
L1およびL2は、独立して一つもしくは複数のリンカーまたは一つもしくは複数の直接的な結合であり、
Aはヒト血清アルブミンであり、
BCAは、1,4,7‐トリアザシクロノナン‐1,4,7‐三酢酸(NOTA)または1,4,7,10‐テトラアザシクロドデカン‐1,4,7,10‐四酢酸(DOTA)より選択される二官能性キレート剤であり、
mおよびnは、独立して1から58の整数である;
(2)L1およびL2が、独立して、C1〜C10アルキル、C4〜C10アリール、チオウレア、トリアゾール、モノペプチド、ジペプチド、トリペプチド、C4〜C10シクロアルキル、ベンジル、チオエーテル、アミン、アミド、エステル、チオエステル、エーテル、ヒドラジン、ヒドラジド、ペントシル、およびヘキソシルからなる群より選択される一つまたは複数の残基を含む一つもしくは複数のリンカーまたは一つもしくは複数の直接的な結合である、(1)に記載の結合体;
(3)L1およびL2が、独立して下記の式:

より選択され、式中、Manはマンノシル基であり、かつHSAはヒト血清アルブミンである、(1)に記載の結合体;
(4)マンノースのC1炭素がアルブミンまたはリンカーと結合している、(1)に記載の結合体;
(5)免疫系を画像化するための金属放射性同位体で標識された上記(1)または(2)に記載の二官能性キレート剤(BCA)およびマンノシルヒト血清アルブミン(MSA)の結合体を含む、組成物;
(6)免疫系がリンパ系または細網内皮系である、(5)に記載の組成物;
(7)金属放射性同位体が67Ga、68Ga、111In、99mTc、186Re、60Cu、61Cu、62Cu、64Cu、67Cu、212Pb、212Bi、および109Pdからなる群より選択される、(5)に記載の組成物;
(8)金属放射性同位体が68Gaである、(5)に記載の組成物;
(9)金属放射性同位体で標識した医薬組成物の調製のための(1)に記載の結合体を10ng〜100mg含む液体、凍結または凍結乾燥状態の無菌および非発熱性キット;
(10)0.01mL〜10mLの1μM〜10M緩衝液(pH1〜9)をさらに含む、(9)に記載のキット;ならびに
(11)緩衝溶液が、酢酸、リン酸、クエン酸、フマル酸、乳酸、コハク酸、酒石酸、炭酸、グルコヘプトン酸、グルコン酸、グルクロン酸、グルカル酸、およびホウ酸、ならびにそれらのナトリウム塩またはカリウム塩からなる群より選択される酸の混合物である、(10)に記載のキット
に関する。
【0014】
本発明において、BCA‐MSA誘導体、その放射標識された化合物、ならびにその放射標識キットは、68Ga等の金属性陽電子放出体によるさらに容易な放射標識、より高い安定性、ならびに、免疫系の画像化および検出用の従来の放射標識された剤と比較してリンパ系への蓄積がより高いため、リンパ系の画像化にとってはより良い性質を示す。
【0015】
本発明は、下記式1で表されるBCA‐MSA結合体に関する:
[式1]
(Man‐L1n‐A‐(L2‐BCA)m
式中、Manはマンノシル基であり、
L1およびL2は、独立して一つもしくは複数のリンカーまたは一つもしくは複数の直接的な結合であり、
Aはヒト血清アルブミンであり、
BCAは、1,4,7‐トリアザシクロノナン‐1,4,7‐三酢酸(NOTA)または1,4,7,10‐テトラアザシクロドデカン‐1,4,7,10‐四酢酸(DOTA)より選択される二官能性キレート剤であり、
mおよびnは、独立して1から58の整数である。
【0016】
上記ヒト血清アルブミンは、分子量が66,462、長軸が8nm、短軸が6nm、ならびに等電点が4.8であり、血清タンパク質の約50%を構成する単一のポリペプチドタンパク質で構成されている。これは58個のリジンと一つのN末端を含む59個のアミノ酸残基を含有する。従って、アミノ基へのBCAおよびマンノースの結合の最大値は合計59であってよい。
【0017】
上記BCA‐MSA溶液は凍結状態にある方がより安定である。しかしながら、凍結乾燥すれば冷蔵状態で安定となる。凍結乾燥品は、無酸素状態あるいは真空状態ではさらに安定であり得る。
【0018】
本発明においてBCAもしくはマンノースがヒト血清アルブミンと結合する場合、これらは直接またはリンカーを介して結合されてよい。リンカーまたはヒト血清アルブミンは、マンノースのC1〜C6の任意の位置に結合できる。C5が結合している場合、マンノース環は開環できる。また、C1の位置にはα‐またはβ‐結合が含まれる。実施例にはβ‐C1‐結合のみが示されているが、本発明は上記結合の全てを含む。上記リンカーL1またはL2は、C1〜C10アルキル、C4〜C10アリール、チオウレア、トリアゾール、モノペプチド、ジペプチド、トリペプチド、C4〜C10シクロアルキル、ベンジル、チオエーテル、アミン、アミド、エステル、チオエステル、エーテル、ヒドラジン、ヒドラジド、ペントシル、およびヘキソシルより選択される一つまたは複数の残基であってよい。
【0019】
好ましいL1およびL2は、下記の式で表される:

式中、Manはマンノシル基であり、HSAはヒト血清アルブミンである。
【0020】
上記マンノシル基および一つまたは複数のリンカーを含むマンノシル基は血清アルブミンのアミノ基と結合する。例えば、マンノースと直接または一つまたは複数のリンカーを介して結合した血清アルブミンは、下記の式2および3のものである。必要に応じて該マンノシルヒト血清アルブミンは、マンノースまたは一つもしくは複数のリンカーを含むマンノースを1〜58個含んでいてもよい。
[式2]

[式3]

【0021】
式2は直接結合したマンノースとヒト血清アルブミンを示すものであり、式3はリンカーとしてフェニル基を介して結合したマンノースとヒト血清アルブミンを示すものである。式2または式3中の上記MSAは、NOTAまたはDOTA等のBCA類と結合している。
【0022】
本発明は、式1におけるBCA‐MSA結合体を調製する方法を含む。具体的には、MSAを作製するために、マンノースをヒト血清アルブミンと直接またはリンカーを介して結合する工程(工程1)、およびNOTAまたはDOTA等のBCAをMSAと直接またはリンカーを介して結合する工程(工程2)を含む方法であって、工程1および2の順番は逆であってもよい。
【0023】
工程1は、マンノースまたはそのリンカーを、チオシアネート、エステル、アルデヒド、またはイミノメトキシアルキル等の官能基を有するように化学修飾し、それによりこれらをヒト血清アルブミンと結合できるようにすること、およびヒト血清アルブミンと結合することを含む。具体的には、スキーム1は、2‐イミノ‐2‐メトキシエチル‐1‐チオ‐β‐D‐マンノース(IME‐チオマンノース)を使用した式2におけるMSAの調製方法を示す。
[スキーム1]

【0024】
D‐マンノースをアセチル化し、臭素付加し、チオウレアと結合させ、そしてクロロアセトニトリルと反応させることによりシアノメチル2,3,4,6‐テトラ‐O‐アセチル‐1‐チオ‐β‐D‐マンノピラノシドが得られる。生成物をメタノール溶液中でナトリウムメトキシドと反応させることによりIME‐チオマンノースが得られる。MSAは、ヒト血清アルブミンをIME‐チオマンノースとpH8〜9で反応させてチオカルバミル結合を形成することにより合成される(スキーム1)。式3で表されるフェニルマンノシルヒト血清は、スキーム2に従って合成される。
[スキーム2]

【0025】
上記スキーム2に示すように、フェニルマンノースのフェニル基の端に位置するイソチオシアネートがヒト血清アルブミンのアミノ基と結合することにより、式3のフェニルマンノシルヒト血清アルブミンが得られる。
【0026】
工程2は、NOTAまたはDOTA等のBCAとMSAの結合を含む。そのために、例えば、NOTAまたはDOTAのカルボキシル基はアミド結合を形成することによりMSAのアミノ基と結合するか(スキーム3)、またはイソチオシアネートベンジル基を含むNOTAまたはDOTA誘導体は、チオウレアを形成することによりMSAのアミノ基と結合する(スキーム4)。
[スキーム3]

[スキーム4]

【0027】
本発明は、式1の放射標識されたBCA‐MSAを含む。
【0028】
上記放射性同位体は、67Ga、68Ga、111In、99mTc、188Re、186Re、60Cu、61Cu、62Cu、67Cu、64Cu、212Pb、212Bi、および109Pdを含むが、より好ましくは68Gaおよび111Inを含み、最も好ましいものは68Gaである。
【0029】
68Gaは、発生装置により生成された陽電子放出体であり、BCAを介して効率よくタンパク質を標識することができる。さらにこれは、半減期が68分であるため、陽電子プローブを用いた手術におけるリンパ節の画像化および検出において望ましい。
【0030】
上記の標識された化合物は、式1のBCA‐MSAへ放射性同位体を付加することにより調製される。調製直後に直接ヒトに注入するため、この調製は無菌および非発熱性条件下で実施される。
【0031】
上記の調製された化合物は、人体へ皮下注射することにより投与可能であり、リンパ系に蓄積し、PETスキャナーにより画像化でき、さらにリンパ節への転移を確認するためにガンマ線またはベータ線プローブにより検出可能である。上記の剤が静脈内注射を介して投与される場合、肝クッパー細胞または骨髄マクロファージの画像が示される。
【0032】
さらに、本発明は、式1で表される10ng〜100mgのBCA‐MSAを含有する、金属放射性同位体で標識することにより放射性医薬を調製するための、薬学的に適合性のある非発熱性かつ無菌のキットを含む。キットはそれぞれ、さらに0.01〜10mLの緩衝液(pH1〜9、1μM〜10M)を含むことが可能である。キットは溶液、凍結溶液、または凍結乾燥粉末として保存可能である。
【0033】
上記のキットのための緩衝液は、酢酸、リン酸、クエン酸、フマル酸、乳酸、コハク酸、酒石酸、炭酸、グルコヘプトン酸、グルコン酸、グルクロン酸、グルカル酸、およびホウ酸、ならびにそのナトリウム塩またはカリウム塩からなる群より選択される酸の混合物である。
【0034】
上記のキットは、放射標識後の放射線分解を阻止するために、アスコルビン酸およびゲンチシン酸等の追加の抗酸化剤を含んでいてもよい。推奨される抗酸化剤の量は投与量当たり0〜500mgである。
【0035】
上記のキットは不活性ガス存在下で凍結または凍結乾燥することが可能である。上記キットは、放射性医薬の簡便な調製のために、無菌緩衝液を含むバイアル、生理食塩水、注射器、フィルター、カラム等を含むことができる。個人の要件もしくは患者の食事要件、または放射性同位体の提供により、これらのキットを改変および変更できることは当業者にはよく知られている。
【0036】
放射性医薬の調製のために、上記のキットには1つのキット当たり(BCA‐MSA1mg当たり)0.1〜500mCiの放射性核種が加えられ、0.1〜30分間インキュベートされる。例えば、68Ga‐NOTA‐MSAは、免疫細胞の画像化および検出のためのキットに発生装置から溶出された68GaCl3を加え、37℃で1〜30分間連続的にインキュベートすることにより、98〜100%の効率でうまく調製することができる。
【0037】
本発明の実施例から、68Ga‐BCA‐MSAが>95%の効率で得られたことが確認され、これは37℃の血清中で2時間安定であり、マウスの足蹠から注射した後、より迅速に鼠径部リンパ節に移動することが示された。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明のBCA‐MSAの図を示す。マンノースおよびBCAは直接または間接的にヒト血清アルブミンと結合している。Man:マンノシル基、L1およびL2:直接的な結合またはリンカー。
【図2】TLCにより解析した実施例4に記載の68Ga‐NOTA‐MSAを示す。
【図3】様々なpHにおける、68Gaで標識された実施例2に記載のNOTA‐MSAを示す。標識効率対時間変化がプロットされている。
【図4】ヒト血清において37℃で実施例4に記載の68Ga‐NOTA‐MSAの安定性を調べた結果を示す。
【図5】ラットの右足蹠に比較例(99mTc‐HSA、99mTc‐ASC、および99mTc‐MSA)を注射した後に得られたガンマ線カメラ画像を示す。放射活性は注射の1時間後にリンパ節へ移動した。
【図6】マウスの右足蹠へ注射した1時間後に放射活性がリンパ節へ異動したことを示す、実施例4に記載の68Ga‐NOTA‐MSAのPET画像。
【図7】マウスの尾静脈から実施例4に記載の68Ga‐NOTA‐MSAを静脈内注射した後に得られたPET画像を示す。
【実施例】
【0039】
下記の実施例は、本発明を示すために与えられる。しかし当然のことながら、本発明はこれらの実施例に記載される具体的な条件または詳細に限定されるものではない。
【0040】
実施例1:ベンジルNOTA‐チオマンノシルヒト血清アルブミンの調製
工程1:マンノシルヒト血清アルブミンの調製(スキーム1)
400mLの無水酢酸と3mLの過塩素酸の混合物に、100gのD‐マンノースを攪拌しながら30分かけてゆっくりと加えた。反応混合物に30gの無定形のリン光体を添加し、容器を氷冷した。混合物の温度を20℃未満に保ちながら180gの臭素をゆっくりと加え、温度上昇を防ぐために36mLの蒸留水を30分かけてゆっくりと加えた。キャッピング後二時間反応させ、混合物に300mLのクロロホルムを加え、これを800mLの氷水の入った分液漏斗に移した。クロロホルム層をプールし、濾過することによりリン光体を除去し、濾液を氷水で二回洗浄した。クロロホルム層を、残留する酸を取り除くために炭酸水素ナトリウム溶液で洗浄し、塩化カルシウムを用いて脱水し、減圧下で蒸発させ、これをジエチルエーテル中で溶解し、再結晶させ、融点が87℃の結晶が得られた。9.74g(20mmol)の2‐S‐(2,3,4,6‐テトラ‐O‐アセチル‐β‐D‐マンノピラノシル)‐2‐チオシュードウレアHBrを、水およびアセトン(1:1)の混合物40mLに溶解し、クロロアセトニトリルを5mL(79mmol)加えて完全に溶解した。3.2g(23.2mmol)の炭酸カリウムおよび4.0g(40.4mmol)の亜硫酸水素ナトリウムを加え、室温で30分間攪拌した。反応混合物を160mLの氷水に加え、2時間攪拌した。濾過することにより沈殿物を回収し、冷水で洗浄した。風乾させた沈殿物を沸騰メタノールに溶解し、不純物は濾過することにより除去した。冷蔵庫に貯蔵した後、濾液から結晶を得た(収率:72%、融点:95‐97℃)。回収した結晶40mgを1.5mLの無水メタノールに40℃で溶解し、0.8mgのナトリウムメトキシドを攪拌しながら加え、室温で48時間反応させることにより、IME‐チオマンノースを得た(22mg、収率55%)。勢いよく攪拌しながら、1mLの0.2Mホウ酸緩衝液(pH=8.5)中の100mgのヒト血清アルブミンに、22mgのIME‐チオマンノースを加えた。混合物を37℃で1.5時間反応させることによりMSAを得、これを使用するまで−70℃で貯蔵した。
【0041】
工程2:ベンジル‐NOTA‐チオマンノシルヒト血清アルブミンの調製
10mgのp‐SCN‐Bz‐NOTAを、上記工程1の反応で調製したMSA(13.6mg/mL)1mLに加え、1時間反応させた。ベンジル‐NOTA‐チオマンノシルヒト血清アルブミンは、セファデックスG-25カラムクロマトグラフィーを用いて反応混合物より精製された。
【0042】
実施例2:ベンジル‐NOTA‐フェニルマンノシルヒト血清アルブミン
工程1:フェニルマンノシルヒト血清アルブミンの調製(スキーム3)
5mLの0.1M炭酸緩衝液(pH9.5)に20mgのヒト血清アルブミンを溶解した後、5.5mgのα‐L‐マンノピラノシルフェニルイソチオシアネートを加え、室温で20時間攪拌しながら反応させた。結果として得られたフェニルマンノシルヒト血清アルブミン反応混合物は、使用するまで−70℃で貯蔵した。
【0043】
工程2:ベンジル‐NOTA‐フェニルマンノシルヒト血清アルブミンの調製
10mgのp‐SCN‐Bz‐NOTAを、工程1で調製したフェニルマンノシルヒト血清アルブミン1mLに加え、室温で1時間反応させた。結果として得られるベンジル‐NOTA‐フェニルマンノシルヒト血清アルブミンは、セファデックスG-25カラムクロマトグラフィーを用いて反応混合物より精製された。
【0044】
実施例3:免疫細胞画像化のためのキットの作製
1mLのベンジル‐NOTA‐フェニルマンノシルヒト血清アルブミン(13.6mg/mL)および0.3mLの0.5M酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)を混合し、各バイアルが1mgのタンパク質を含むようにこの混合物をバイアルに分注した。バイアルは−70℃で凍結させ、凍結乾燥を行った。
【0045】
実施例4:免疫細胞画像化のためのキットを使用した68Ga標識された剤の調製
1mLの68Ge/68Ga発生装置(Cyclotron Co., ロシア)から溶出された0.1M HCl中の68GaCl3を、上記実施例3で作製したキットに加えた。バイアルを37℃でインキュベートし、TLC(固定相:TLC-SG(Gelman Co.,米国)、移動相:0.1Mクエン酸)を使用して10分、30分、1時間、および2時間の時点で標識効率を確認した。TLCプレート上の放射活性の分布は、TLCスキャナ(Bioscan Co.、米国)により検出された。標識となった68Gaは原点に残り、標識とならなかった68Gaは溶媒先端へ移動した(図2)。37℃およびpH4〜%で30分間インキュベートした後、反応を完了した(図3)
【0046】
比較例1:99mTc‐アンチモン硫黄コロイド(ASC)
1mLの99mTcO4-をASCキット(KAERI、韓国)に加え、50℃で30分間反応させた。
【0047】
比較例2:99mTc‐スズコロイド
1mLの99mTcO4-をスズコロイドキット(KAERI、韓国)に加え、室温で10分間反応させた。
【0048】
比較例3:99mTc‐ヒト血清アルブミン(HSA)
1mLの99mTcO4-をHSAキット(第一製薬、日本)に加え、室温で10分間反応させた。
【0049】
比較例4:99mTc‐マンノシルヒト血清アルブミン(MSA)
1mLの99mTcO4-を、韓国特許第10‐055708号に従って作製したMSAキットに加え、室温で10分間反応させた。
【0050】
実験例1:標識された剤の安定性試験
実施例4に従って調製した68Ga‐NOTA‐MSA10μLを100μLのヒト血清と混合し、37℃でインキュベートした。放射化学的純度は実施例4に記載のとおり、ITLCを用いて確認した。その結果を図4に示す。
【0051】
68Ga‐NOTA‐MSAはヒト血清において37℃で99%よりも高い安定性を示した(図4)。多くの標識された剤は調製後一時間以内に患者に注射されるべきであるため、この安定性は、核医学診療に十分である。
【0052】
実験例2:ガンマ線カメラおよびPET画像を使用したリンパ節への取り込みの確認
ラット(体重200g、雄、スプラーグドーリー系)における99mTc標識された剤のリンパ節への取り込みを、ガンマ線カメラ(Sigma 410、Ohio-Nuclear、米国)を使用して画像化した。比較例1、3、および4として調製された99mTc標識された剤を、500μCi/10μLずつラットの足蹠に注射した。一時間後にガンマ線カメラを用いて画像を取得した。実施例4に記載のとおりに調製された68Ga‐NOTA‐MSA(500μCi/10μL)を、マウス(体重20g、雄、ICR)の足蹠に注射し、一時間後に動物用PETスキャナー(GE Healthcare、米国、プリンストン)を使用して画像を取得した。結果を図5および6に示す。
【0053】
比較例1、3、および4の99mTc標識された剤を使用した従来技術では、ガンマ線カメラによる画像のみ得ることができる(図5)。しかしながら、本発明の実施例4に従って調製された68Ga‐NOTA‐MSAは、さらに進歩したPET画像の取得を可能にした(図6)。
【0054】
実験例3:マウス静脈内注射後の免疫細胞における分布の確認
実施例4に従って調製した68Ga‐NOTA‐MSA(1μCi)を、尾静脈からマウス(体重20g、雄、ICR)に注射した。注射10分後、30分後、1時間後、および2時間後にマウスを屠殺し、臓器を回収した。天秤とガンマ線シンチレーションカウンター(Cobra III、Packard、米国)を用いて各臓器の重量および放射活性を測定した。体内分布データは、得られた値より組織重量当たり注射された用量の割合(%ID/g)として導き出した。結果を表2に示す。
【0055】
(表2)尾静脈注射後のマウスにおける68Ga‐NOTA‐MSAの体内分布

【0056】
いずれの時点においても、肝臓への取り込みが最も高く(58.6〜61.1%ID/g)脾臓への取り込み(16.8〜20.1%ID/g)が次に高かった。骨への取り込み(4.2〜4.4%ID/g)は三番目であった。68Ga‐NOTA‐MSAは、免疫細胞を含む細網内皮系を含有する組織に取り込まれる、という結論に発明者らは達した。
【0057】
実験例4:マウスへ静脈内注射後のPET画像化
実施例4に従って調製した68Ga‐NOTA‐MSAを、2mCiずつ各マウスに尾静脈から注射した。PET画像は、注射1時間後および2時間後に取得した。最も高い取り込みを示した主要な臓器は肝臓であり、脾臓にはかすかに見られた(図7)。その結果から、本発明の68Ga‐NOTA‐MSAが細網内皮系により取り込まれ、免疫細胞画像化に応用可能であることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式1で表される一つまたは複数の二官能性キレート剤(BCA)およびマンノシルヒト血清アルブミン(MSA)の結合体:
[式1]
(Man‐L1n‐A‐(L2‐BCA)m
式中、Manはマンノシル基であり、
L1およびL2は、独立して一つもしくは複数のリンカーまたは一つもしくは複数の直接的な結合であり、
Aはヒト血清アルブミンであり、
BCAは、1,4,7‐トリアザシクロノナン‐1,4,7‐三酢酸(NOTA)または1,4,7,10‐テトラアザシクロドデカン‐1,4,7,10‐四酢酸(DOTA)より選択される二官能性キレート剤であり、
mおよびnは、独立して1から58の整数である。
【請求項2】
L1およびL2が、独立して、C1〜C10アルキル、C4〜C10アリール、チオウレア、トリアゾール、モノペプチド、ジペプチド、トリペプチド、C4〜C10シクロアルキル、ベンジル、チオエーテル、アミン、アミド、エステル、チオエステル、エーテル、ヒドラジン、ヒドラジド、ペントシル、およびヘキソシルからなる群より選択される一つまたは複数の残基を含む一つもしくは複数のリンカーまたは一つもしくは複数の直接的な結合である、請求項1に記載の結合体。
【請求項3】
L1およびL2が、独立して下記の式:

より選択され、式中、Manはマンノシル基であり、かつHSAはヒト血清アルブミンである、請求項1に記載の結合体。
【請求項4】
マンノースのC1炭素が、アルブミンまたはリンカーと結合している、請求項1に記載の結合体。
【請求項5】
免疫系を画像化するための金属放射性同位体で標識された請求項1または2に記載の二官能性キレート剤(BCA)およびマンノシルヒト血清アルブミン(MSA)の結合体を含む、組成物。
【請求項6】
免疫系がリンパ系または細網内皮系である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
金属放射性同位体が、67Ga、68Ga、111In、99mTc、186Re、60Cu、61Cu、62Cu、64Cu、67Cu、212Pb、212Bi、または109Pdより選択される、請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
金属放射性同位体が68Gaである、請求項5に記載の組成物。
【請求項9】
金属放射性同位体で標識した医薬組成物の調製のための請求項1に記載の結合体を10ng〜100mg含む、液体、凍結または凍結乾燥状態の無菌および非発熱性キット。
【請求項10】
0.01mL〜10mLの1μM〜10M緩衝液(pH1〜9)をさらに含む、請求項9に記載のキット。
【請求項11】
前記緩衝溶液が、酢酸、リン酸、クエン酸、フマル酸、乳酸、コハク酸、酒石酸、炭酸、グルコヘプトン酸、グルコン酸、グルクロン酸、グルカル酸、およびホウ酸、ならびにそれらのナトリウム塩またはカリウム塩からなる群より選択される酸の混合物である、請求項10に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−516323(P2012−516323A)
【公表日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−547788(P2011−547788)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【国際出願番号】PCT/KR2010/000488
【国際公開番号】WO2010/087612
【国際公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(509084149)エスエヌユー アールアンドディービー ファウンデーション (19)
【Fターム(参考)】