説明

二本鎖RNA発現ベクターの導入によるノックダウン動物の作製

本発明は、目的遺伝子の二本鎖RNAの形成により内在性の目的遺伝子のmRNAが破壊されている、目的遺伝子ノックダウン動物及び疾患モデル動物、並びに該動物の作出方法に関する。また本発明は、該作出方法において用いる二本鎖RNA発現ベクター、及び該ベクターを導入した動物細胞に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、目的遺伝子の二本鎖RNAの形成により内在性の目的遺伝子のmRNAが破壊されている、目的遺伝子ノックダウン動物及び疾患モデル動物、並びに該動物の作出方法に関する。また本発明は、該作出方法において用いる二本鎖RNA発現ベクター、及び該ベクターを導入した動物細胞に関する。
【背景技術】
特異的な遺伝子の変異マウスは発生学などの基礎科学分野ばかりでなく、疾患モデルマウスとして応用科学分野においても重要な価値を持つ。種々の疾患の診断方法や治療薬の開発には疾患モデルマウスは大変有用である。現在一般的に用いられているES細胞を用いた変異マウスの作製方法はCapecchiらの基礎的な研究によって開発された(Capecchi,MR.,Science(USA),1989年,第244巻,p.1288−1292(review))。この方法では以下のような手順に従って、変異マウスが作製される。1)まず目的遺伝子のゲノムクローンを分離し、機能に必須なエキソン領域をネオマイシンなどの薬剤耐性遺伝子に置換したターゲティングベクターを作製する。2)このターゲティングベクターをES細胞にエレクトロポレーション法などにより導入し、相同組み換えによりES細胞の持つ遺伝子がターゲティングベクターによって置換された組換え細胞を分離する。3)この組み換え細胞を8細胞期胚に導入し、キメラマウスを作製する。4)キメラマウスのうちES細胞由来の生殖細胞が形成されているマウスを選別し、交配によってホモ変異マウスを得る。このように現在一般的に用いられている変異マウス作製方法は多くのステップを含むため、通常は1年程度の時間と多大な労力を必要とする。
最近RNA干渉(RNA interference)という現象が注目を浴びている。これはもともと線虫(C.elegans)、ショウジョウバエ、植物などで見出された現象で、特異的なmRNAの配列に対応する二本鎖RNAを細胞に導入すると、その細胞において転写されたmRNAが速やかに壊れる現象である(Hannon,GJ.,Nature,2002年,第418巻,p.244−251(review);特表2002−516062号公報(WO99/32619号);特表平8−506734号公報;特表2002−507416号公報(WO99/49029号);特表2003−516124号公報(WO01/29058号)参照)。最近このRNA干渉は動物の培養細胞やマウス個体でも起きることが示されている(Elbashir,SM.et al.,Nature,2001年,第411巻,p.494−498;McCaffrey,AP.et al.,Nature,2002年,第418巻,p.38−39;特表2002−502012号公報(WO00/44895号);特表2003−514533号公報(WO01/36646号)参照)。これまでの一連の解析により、培養細胞などに導入した二本鎖RNAは約22ヌクレオチドの小さなRNAに分解され、これがmRNAにハイブリダイズすることによって、mRNAの分解を誘導することが示されている(Tuschl,T.et al.,Nature Biotech.,2002年,第20巻,p.446−448;特表2003−529374号公報(WO01/75164号);WO02/44321号参照)。ショウジョウバエや線虫では長い二本鎖RNAによってmRNAの分解が誘導されることは多くの実験によって確認されている。一方、動物細胞においては、20〜30ヌクレオチドの短い二本鎖RNAによってmRNAの分解が誘導されることは確認されているが、長い二本鎖RNAは配列非特異的に多くのmRNAを壊すことも示唆されている(Elbashir,SM.et al.,Nature,2001年,第411巻,p.494−498;国際特許出願WO00/175164号パンフレット)。
動物細胞におけるRNAiを実現させるため、ポリメラーゼIII系を用いたsiRNA発現システムが多数報告されている(例えば、Miyagishi,M.et al.,Nature Biotechnol.,2002年,第20巻,p.497−500;Hasuwa,H.et al.,FEBS Lett.,2002年,第532巻,p.227−230)が、SiRNAを利用するRNAiは、発現を抑制させようとする標的部位の選択が難しく、現在その効果的な予測方法はない。また、ポリメラーゼIII系プロモーターは全ての組織において機能を有するため、組織特異的にRNAiを達成することは不可能である。
一方、動物細胞におけるポリメラーゼII系を用いたRNAiでは、ウイルス感染などによってキナーゼが二本鎖RNAによって活性化され、インターフェロンシグナル伝達経路が活性化されることが指摘されている(Kaufman,RJ.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1999年,第96巻,p.11693−11695)。実際に上述したようなトランスジェニック動物を作製する過程において、特に長い二本鎖RNAを動物細胞において発現させた場合には、配列非特異的にタンパク質の合成が阻害され、またインターフェロンを誘導する経路が活性化されることも報告されている(Elbashir,S.M.et al.,Nature,2001年,第411巻,p.494−498)。
従って、上述したような問題点を克服し、動物細胞におけるRNAiを効率的に達成することが現在の課題である。
【発明の開示】
本発明は、目的遺伝子がノックダウンされた動物を簡便かつ迅速に作出する方法及びそのツールを提供することを目的とする。
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、目的遺伝子の二本鎖RNAを特異的な組織で発現するトランスジェニック動物を作製することができれば、目的遺伝子のノックダウン動物を簡便かつ迅速に作製できると考えた。そこで本発明者は、目的遺伝子として転写因子Skiを選択し、このSki遺伝子のmRNA配列に対応する540bpの二本鎖RNAを発現するベクターを作製し、この発現ベクターを導入したトランスジェニックマウスを作製したところ、このトランスジェニックマウスが従来のSki変異マウスと同様に、発生途中において形態形成異常や出血などの異常を示すことを確認した。そのような結果から、本発明者は、上記のように構築した発現ベクターを用いたRNA干渉を利用することによって、短時間で特異的に目的遺伝子ノックダウンマウスの作製が可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の(a)〜(c):
(a)以下の(a−1)又は(a−2)の塩基配列:
(a−1)目的遺伝子の全部若しくは一部をコードする塩基配列、又は
(a−2)(a−1)の塩基配列に対し相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAをコードする塩基配列;
(b)(a)の塩基配列に対し相補的であり、かつ逆配向の塩基配列;及び
(c)ループ領域をコードし、上記(a)の塩基配列と(b)の塩基配列とを連結する配列;
を含み、それらがRNAに転写された際に、ステム・ループ構造を有する二本鎖RNA(ds−RNA)が形成されることを特徴とする、二本鎖RNA発現ベクターである。
上記二本鎖RNA発現ベクターは、さらにポリメラーゼII系プロモーター又は発生過程特異的プロモーターを含むことが好ましく、かかるプロモーターとしては、例えばサイトメガロウイルス(CMV)初期遺伝子プロモーターが挙げられる。
また上記二本鎖RNA発現ベクターは、さらに(a)〜(c)の塩基配列の上流に自己触媒的にRNAを切断する配列、例えば限定するものではないが、リボザイム部位を含むことが好ましい。
上記二本鎖RNA発現ベクターはまた、さらに(a)〜(c)の塩基配列の下流にRNAポリメラーゼを停止させる配列、例えば限定するものではないが、MAZドメイン配列を含むことが好ましい。
上記二本鎖RNA発現ベクターにおいて、(c)の塩基配列としては、例えば、配列番号2、5又は6に示す配列が挙げられる。
上記二本鎖RNA発現ベクターにおいて、目的遺伝子としては、例えば疾患関連遺伝子、より具体的にはSki遺伝子が挙げられる。また目的遺伝子の一部としては、Ski遺伝子の5’側540bpの部分とすることができる。
また本発明は、目的遺伝子の二本鎖RNAを発現することを特徴とする目的遺伝子ノックダウン動物である。上記目的遺伝子ノックダウン動物は、目的遺伝子の二本鎖RNAを組織特異的に発現することが好ましい。
また上記目的遺伝子ノックダウン動物は、例えば上記の二本鎖RNA発現ベクターが導入された、目的遺伝子の二本鎖RNAを発現するトランスジェニック動物又はその子孫である。
例えば、目的遺伝子が疾患関連遺伝子である場合には、目的遺伝子ノックダウン動物は疾患モデル動物となりうる。ここで、目的遺伝子としてSki遺伝子を選択した場合には、該目的遺伝子ノックダウン動物は、神経管閉塞異常、虹彩形成異常、及び頭部での出血からなる群より選択される疾患を呈する疾患モデル動物となりうる。
上記目的遺伝子ノックアウト動物の動物としては、限定されるものではないが、マウスが挙げられる。
さらに本発明は、目的遺伝子の二本鎖RNAを発現する二本鎖RNA発現ベクターを導入し、目的遺伝子の二本鎖RNAを形成させることを特徴とする、目的遺伝子ノックダウン動物の作出方法である。
上記作出方法においては、上記いずれかの二本鎖RNA発現ベクターを使用することが好ましい。
また、目的遺伝子として疾患関連遺伝子を選択した場合には、目的遺伝子ノックダウン動物として疾患モデル動物が作出されうる。例えば、目的遺伝子としてSki遺伝子を選択した場合には、神経管閉塞異常、虹彩形成異常、及び頭部での出血からなる群より選択される疾患を呈する疾患モデル動物が作出されうる。
上記作出方法においては、動物が、限定されるものではないが、マウスであることが好ましい。
またさらに本発明は、上記いずれかの二本鎖RNA発現ベクターが導入されている動物細胞である。
【図面の簡単な説明】
図1A及びBは、Ski二本鎖RNA発現ベクターの構造(図1A)、及びSki二本鎖RNAをコードする領域(図1B)を模式的に示す図である。
図2は、構築した種々のプラスミドから転写されるRNAの推定二次構造を示す図である。
図3A及びBは、Ski二本鎖RNA発現ベクターを導入した培養細胞内におけるSkiタンパク質レベルの低下を示すウエスタンブロット解析の結果を示す写真である。
図4は、種々の二本鎖RNA発現ベクターを導入した細胞における、核及び細胞質内に存在するRNAレベルを示すノーザンブロットの結果を示す写真である。
図5は、核における長鎖ds−RNAの発現がeIF2αのリン酸化には影響を及ぼさないことを示す写真である。
図6Aは、Ski二本鎖RNA発現ベクターによるSki mRNAの分解を示すRT−PCRの結果を示す写真である。
図6Bは、Ski二本鎖RNA発現ベクターによるSki mRNAの分解を経時的に分析したRT−PCRの結果を示す図である。
図7A〜Cは、二本鎖RNA発現ベクターから発現された長鎖二本鎖RNAがルシフェラーゼ活性に及ぼす影響を示す図である。図7Aは、ホタルルシフェラーゼ(Pp−luc)活性を任意発光単位(a.u.)でプロットした図である。図7Bは、ウミシイタケルシフェラーゼ(Rr−luc)活性を任意発光単位でプロットした図である。図7Cは、正規化した標的対対照ルシフェラーゼ比を示す図である。
図8Aは、Ski二本鎖RNA発現ベクターが導入されたトランスジェニックマウス胚における導入遺伝子の存在を示すサザンブロット分析の結果を示す写真である。
図8Bは、Ski二本鎖RNA発現ベクターが導入されたトランスジェニックマウス胚におけるsiRNAの存在を示すノーザンブロット分析の結果を示す写真である。
図9は、Ski二本鎖RNA発現ベクターが導入されたトランスジェニックマウスにおける神経管閉塞異常を示す写真である。
図10は、Ski二本鎖RNA発現ベクターが導入されたトランスジェニックマウスにおける眼の虹彩形成異常を示す写真である。
図11は、Ski二本鎖RNA発現ベクターが導入されたトランスジェニックマウスにおける頭部の出血を示す写真である。
図12A〜Gは、Ski mRNAの欠損により引き起こされるSki二本鎖RNA発現ベクター導入トランスジェニックマウスの異常を示す写真である。
図12Aは、頭部切片のヘマトキシリン−エオジン染色を示す。
図12B及びCは、RNA in situハイブリダイゼーションにより検出された中脳及び間葉組織におけるSki mRNA発現(図12B)及びOdc mRNA発現(図12C)を示す。
図12Dは、中脳及び間葉組織の神経上皮を用いたTUNELアッセイにより評価したアポトーシス細胞を示す。
図12Eは、眼のヘマトキシリン−エオジン染色を示す。
図12Fは、in situハイブリダイゼーションにより検出した眼におけるSki mRNA発現を示す。
図12Gは、眼を用いたTUNELアッセイの結果を示す。
図12A〜Gにおいて、aは野生型マウス、bはpDECAP−β−galを導入したトランスジェニックマウス、cはpDECAP−Skiを導入したトランスジェニックマウス、dはSki欠損マウス(Ski−/−)を示す。また、また、図12A及びEにおける「MB」は中脳、「II」は第二脳室、「III」は第三脳室、「O」は眼杯、「L」は水晶体胞を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。本願は、2002年10月29日に出願された日本国特許出願第2002−314764号の優先権を主張するものであり、上記特許出願の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
本発明は、RNA干渉を利用して目的遺伝子をノックダウンしたトランスジェニック動物に関し、そのトランスジェニック動物を簡便かつ迅速に作出するためのツール(二本鎖RNA発現ベクター)及び方法を提供するものである。
本発明者は、RNA干渉を利用してトランスジェニック動物を作出するにあたり、目的遺伝子の二本鎖RNAを特異的な組織で発現させるために、適切な二本鎖RNAの長さ、適切なプロモーターなどを選択することが重要であると考えた。このため、変異マウスの表現型が詳細に解析されている転写因子Skiを選択して実験を行い、トランスジェニック動物における二本鎖RNAの発現を確認した。またSkiの変異は胎仔の段階で種々の形態異常を示すことが知られているため、二本鎖RNAの発現及び形成により目的遺伝子がノックダウンされているか否かを発生初期の段階で解析することができた。
以下に本発明に係る目的遺伝子ノックダウン動物及び疾患モデル動物、並びにその作出方法などについて記載する。
1.RNA干渉(RNA interference)
RNA干渉とは、二本鎖を形成しているRNA(以下、「二本鎖RNA」又は「ds−RNA」ともいう)が細胞内に存在する場合に、そのRNAの塩基配列に相同的な内在性のmRNAが分解されて、結果としてその細胞での遺伝子発現が特異的に抑制される現象であり、RNAインターフェアランス、RNAiとも称される。このRNA干渉は、最初に線虫で報告され、その後ショウジョウバエ、植物、哺乳動物細胞などにおいても確認されている。例えばショウジョウバエにおいては、ヘアピン型の二本鎖RNAを作製し、これが細胞内で二本鎖RNAとして認識されて、内在性のmRNAが分解・破壊されるという手法が知られている。このヘアピン型の二本鎖RNAによりコードされる遺伝子を任意のものに設定することによって、任意の遺伝子をノックダウンすることができる。しかしながら哺乳動物個体におけるRNA干渉の機構に関してはまだ未知の部分が多く、現在は試行錯誤によるものであって一般的な手法としては確立されていない。また哺乳動物個体において二本鎖RNAを発現させようとする場合、位置効果などにより必ずしもRNA干渉が達成されるものではなかった。さらに特に長い二本鎖RNAを動物細胞で発現させた場合には、配列非特異的にタンパク質の合成が阻害されたり、インターフェロンを誘導する経路が活性化されたりすることが報告されている。
2.二本鎖RNA発現ベクターの構築
本発明に係る二本鎖RNA発現ベクター(以下、「本ベクター」ともいう)は、上記RNA干渉を行うために必要な、目的遺伝子の二本鎖RNAが発現・形成されるように動物細胞及び個体に導入することができる。本発明において「発現」とは、例えば二本鎖RNAを例として説明した場合、二本鎖RNAをコードするDNAが、二本鎖RNAを形成するようなmRNAに転写されることを指す。また一般的には「発現」とは、遺伝子をコードするDNAがmRNAに転写されて、さらにmRNAがタンパク質に翻訳されることを指し、本発明においては上記両者を意味するものとする。さらに「目的遺伝子の二本鎖RNA」とは、目的遺伝子に対してRNA干渉を引き起こす二本鎖RNAを指し、具体的には、目的遺伝子に対し相同的な配列を有する二本鎖RNAのことをいう。この目的遺伝子の二本鎖RNAは、本ベクター上において以下の(a)〜(c)の塩基配列:
(a)以下の(a−1)又は(a−2)の塩基配列:
(a−1)目的遺伝子の全部若しくは一部をコードする塩基配列、又は
(a−2)(a−1)の塩基配列に対し相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAをコードする塩基配列;
(b)(a)の塩基配列に対し相補的であり、かつ逆配向の塩基配列;及び
(c)ループ領域をコードし、上記(a)の塩基配列と(b)の塩基配列とを連結する配列;
によりコードされ、それらがRNAに転写された際に、ステム・ループ構造を有する二本鎖RNA(ds−RNA)が形成される。本発明において「ステム・ループ構造」とは、相補性により二本鎖を形成しているステム領域と、その二本鎖を連結しているが一本鎖のループ状の形態をとるループ領域とからなる構造であり、この構造は分子生物学においては周知である。
上記(a)の塩基配列は、ノックダウン対象の目的遺伝子の全部若しくは一部をコードする塩基配列である(a−1)。目的遺伝子とは、RNA干渉を利用してノックダウンさせようとする遺伝子であれば特に限定されるものではなく、疾患に関連すると推測される遺伝子、その他の機能に関連すると推測される遺伝子、その他の研究対象の遺伝子などのあらゆるものを目的遺伝子として取り上げることができる。具体的な目的遺伝子の例としては、限定するものではないが、Ski遺伝子、その他の転写因子、癌関連遺伝子などが挙げられる。
Ski遺伝子は、最初に発癌遺伝子として同定され、最近になって転写コリプレッサーとして機能することが明らかにされている(Nomura,T.et al.,Genes & Development 13:412−423,1999)。転写コリプレッサーは種々のリプレッサーに結合して転写抑制を引き起こす因子である。その1種であるSkiは、様々な発生段階において重要な役割を果たしている。Ski遺伝子は、ヒト、マウス、カエル、ハエなどから単離され、その塩基配列は公知となっており、GenBankに登録されている(登録番号:ヒト(X15218)、マウス(AF435852)、カエル(X68683)、ハエ(NT_033778))。
本発明においては、そのような登録されている塩基配列情報に基づいて(a)の配列を設計することができる。あるいは、二本鎖RNA発現ベクターに導入することが可能であれば、全ての配列が知られている必要はなく、当業者であれば公知の手法に基づいて(a)の配列を有するDNAを調製することができる。目的遺伝子の「一部」とは、RNA干渉を利用して当該遺伝子をノックダウンできる程度の長さの配列を指し、例えば、500〜1000bp、好ましくは500〜700bpのものである。ここでSki遺伝子を用いる場合には、例えばSkiタンパク質のN末端領域に相当する約500〜1000bpの配列が好ましい。特に本発明においては、(a)の塩基配列として、Ski遺伝子の5’側540bpの配列(配列番号1)を用いることが好ましい。配列番号1は、マウスSki遺伝子(GenBank登録番号AF435852)に基づくものであり、その塩基配列1〜540番に相当する。本ベクターでは、約500〜1000bpという長鎖の二本鎖RNAを発現させ、RNA干渉を引き起こすことが可能である。従って、従来のsiRNA(短鎖干渉RNA)を利用する場合のように、特異的に内在性RNAを分解するための領域(約20〜30bp)を選択する必要はなく、簡便かつ容易に二本鎖RNA発現ベクターを構築することが可能となる。
また(a)の塩基配列としては、目的遺伝子の全部若しくは一部をコードする塩基配列に対し相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列も含まれる(a−2)。このような塩基配列であっても、目的遺伝子に対してある程度の相同性を有するものであればRNA干渉を行うことは可能である。ストリンジェントな条件とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、高い相同性(相同性が60%以上、好ましくは80%以上)を有するDNAがハイブリダイズする条件をいう。より具体的には、ナトリウム濃度が150〜900mM、好ましくは600〜900mMであり、温度が60〜68℃、好ましくは65℃での条件をいう。
(b)の塩基配列は、上述した(a)の塩基配列に対し相補的であり、かつ逆配向の塩基配列である。ここで「相補的」とは、厳密な相補性を指すものではなく、(a)の塩基配列と相補性により二本鎖を形成できる程度であればよい。また「逆配向」とは、ベクターに挿入されている配列の向きに関するものであり、例えば(a)の塩基配列がATCGAGTCで挿入されている場合には、(b)の塩基配列はGACTCGATで挿入されることとなる。
(c)の塩基配列は、ループ領域をコードするものであり、また上記(a)の塩基配列と(b)の塩基配列とを連結する。「ループ領域」とは、その領域の塩基配列が相補性などにより自己会合せずに一本鎖のループのような状態となる塩基配列部分を指し、このようなループ領域をコードする塩基配列の設計手法は当技術分野で周知である。ループ領域の長さは、約6〜15bp、好ましくは約12bpである。本発明において好ましい(c)の塩基配列を配列番号2、5及び6に示す。しかし、本発明において利用可能な配列はこれに限定されるものではない。
上記(a)〜(c)の塩基配列は、図1Bに示すように(c)の塩基配列を中心として連結されている。従って、これらの配列は、RNAに転写された際に、(a)及び(b)の塩基配列が相補性により自己会合することによって、ステム・ループ構造を有する二本鎖RNA(ds−RNA)を形成することになる。この二本鎖RNAが目的遺伝子に対しRNA干渉を引き起こす。
また本ベクターには、上記二本鎖RNAの領域の配列が転写されて二本鎖RNAが形成されるように、プロモーター及び/又はその他の制御配列を機能しうる形で連結して挿入してもよい。「機能しうる形で連結して挿入する」とは、本ベクターが導入される細胞又はトランスジェニック動物において、プロモーター及び/又はその他の制御配列の制御下に上記目的遺伝子の二本鎖RNAが発現・形成されて内在性の目的遺伝子のmRNAが破壊・分解されるように、プロモーター及び/又はその他の制御配列を連結してベクターに組み込むことを意味する。本ベクターに組み込むことが可能なプロモーター及び/又は制御配列は特に限定されるものではなく、構成的プロモーター、組織特異的プロモーター、時期特異的プロモーター、その他の調節エレメントなど、当技術分野で公知のプロモーター及び/又は制御配列を、ノックダウン対象の動物、ノックダウン対象の目的遺伝子の性質などの複数の条件に応じて適宜選択することができる。本発明においては、ポリメラーゼII系のプロモーターを使用することが好ましい。ポリメラーゼII系プロモーターは、組織特異的発現を誘導するため、個体における組織特異的な二本鎖RNAの発現を達成することができるためである。
例えばSki遺伝子をノックダウンさせた疾患モデル動物を作出する場合、Ski遺伝子に関連する疾患は発生過程において発症することが知られているため、本ベクターに組み込むプロモーターとしては、例えば発生過程特異的プロモーターを用いることが好ましい。
発生過程特異的プロモーターとは、本発明においては発生過程において特異的に発現することが示されたプロモーターを指す。このようなプロモーターは当技術分野で周知であり、例えば限定するものではないが、サイトメガロウイルス(CMV)初期遺伝子プロモーター、インスリン遺伝子プロモーター、Lck遺伝子プロモーター、CD19遺伝子プロモーター、Nestin遺伝子プロモーターなどが挙げられる。上記例示したプロモーターは、当技術分野で公知であり、当業者であればその配列情報などを容易に入手できる。
さらに、動物細胞においては二本鎖RNAが核から細胞質に運搬される際に種々のmRNAの翻訳を阻害したり、二本鎖RNA依存的なキナーゼを活性化する可能性がある。このような問題を防ぐために、本ベクターには、自己触媒的にRNAを切断する配列及び/又はRNAポリメラーゼを停止させる配列を連結してもよい。自己触媒的にRNAを切断する配列とは、その配列部位において自己触媒的に切断されうる配列を意味し、より具体的にはリボザイム機能によって自己切断される配列である(Huang.Y.,Mo.Cell Biol.16:1534−1542,1996)。自己触媒的にRNAを切断する配列の塩基配列は、当業者であれば容易に設計することができ、例えば限定するものではないが、任意のリボザイム配列、例えば配列番号3に示す配列が挙げられる。mRNAの細胞質への移行には5’末端のキャップ構造が重要であるため(McKendrick,L.et al.,Mol.Cell Biol.21:3632−3641,2001)、目的遺伝子の二本鎖RNAの転写開始点のすぐ下流に自己触媒的にRNAを切断する配列を挿入し、転写によって合成された二本鎖RNAからキャップ構造を取り除くことによって上記問題を回避することができる。自己触媒的にRNAを切断する配列の存在により、転写された二本鎖RNAは自己触媒的にこの配列の部位で切断され、キャップ構造が除去される。
またRNAポリメラーゼを停止させる配列とは、RNAポリメラーゼを鋳型DNA上で停止させて転写を停止させる配列を意味し、具体的には転写因子が結合する配列である(Yonaha,M.et al.,Mol.Cell 3:593−600,1999;Yonaha,M.et al.,EMBO J.19:3770−3777,2000)。このRNAポリメラーゼを停止させる配列もまた当業者であれば容易に設計することができ、例えば限定するものではないが、転写因子MAZドメイン配列が挙げられる。このMAZドメインの配列の一例を配列番号4に示すが、これに限定されるものではない。mRNAの細胞質への移行には3’末端のポリ(A)鎖が重要であり(Huang.Y.,前掲)、ポリ(A)の存在によりmRNAは細胞質へ移行する。しかし本発明においては、転写されて形成された二本鎖RNAを核内に保持させ、RNA干渉を引き起こす必要がある。そこでポリ(A)を除去すればこの問題は解決するが、一般的にポリ(A)付加シグナルは転写の終結に必要である。従って本発明者は、ベクター上のポリ(A)付加シグナルを除き、代わりに、転写を停止させる配列(MAZドメイン配列など)を挿入することによって上記問題を回避することができると考えた。RNAポリメラーゼを停止させる配列の存在により、二本鎖RNAの転写は該配列の部位で停止し、合成される二本鎖RNAにはポリ(A)鎖は付加されない。
適当なベクターに上記構成要素を挿入するには、まず、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクターDNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法等が採用される。上記構成要素のDNAは、当技術分野で公知の手法により合成し、精製することができる。
本ベクターとして利用しうるベクターとしては、プラスミドDNA、コスミドDNA、細菌人工染色体(BAC)DNA、レトロトランスポゾンDNA、酵母人工染色体(YAC)DNA、P1ファージ由来人工染色体(PAC)DNAなどが挙げられるが、特に長さが短いpUC系プラスミド(例えば1〜3kbp程度)が好ましい。
このようにして作製されたベクターは、細胞、組織及び/又は個体に導入することにより目的遺伝子の二本鎖RNAの発現及び形成を導くものであり、これが内在性の目的遺伝子のmRNAを破壊・分解する。本明細書においては、本ベクターを、pDECAPベクター(Deletion of Cap struction and poly(A))と称する。
本二本鎖RNA発現ベクターによって、特定の内在性遺伝子によりコードさせる遺伝子産物の発現を、好ましくは組織特異的に抑制することができる。従って、本二本鎖RNA発現ベクターは、遺伝子の機能解析、遺伝子治療などの種々の用途において有用である。
3.二本鎖RNA発現ベクターが導入された細胞
本発明においては、目的遺伝子の二本鎖RNAを発現する二本鎖RNA発現ベクターを細胞に導入することができ、それにより目的遺伝子の二本鎖RNAを該細胞において発現させることができる。目的遺伝子の二本鎖RNAの形成により内在性の目的遺伝子のmRNAが破壊されることとなるため、目的遺伝子の発現を抑制することが可能である。
二本鎖RNA発現ベクターを導入する細胞は、特に限定されるものではないが、動物細胞が好ましく、例えば、ヒト、マウス、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウサギ、ラット等が挙げられる。
細胞への二本鎖RNA発現ベクターの導入方法は、特に限定されるものではなく、例えばカルシウムイオンを用いる方法、エレクトロポレーション法等が挙げられる。
以上のように作製された細胞は、目的遺伝子の発現を抑制するものであるため、遺伝子機能の解析、ex vivoでの目的遺伝子の発現抑制に有用である。
4.トランスジェニック動物(目的遺伝子ノックダウン動物)の作出
本発明に係る目的遺伝子ノックダウン動物(トランスジェニック動物)は、目的遺伝子の二本鎖RNAを有することを特徴とするものであり、目的遺伝子の二本鎖RNAの形成により内在性の目的遺伝子のmRNAが破壊されているものである。このトランスジェニック動物は、上記構築された二本鎖RNA発現ベクターを動物細胞に導入し、該動物細胞を成長させることにより作出することができる。このようにして作出されたトランスジェニック動物は、二本鎖RNAの存在によって内在性目的遺伝子のmRNAが破壊・分解されることにより目的遺伝子がノックダウンされている。本発明において「内在性」とは、本ベクターの導入対象となる細胞及び/又は個体において天然であるもの、並びに本ベクター導入以前から存在することを指す。また本発明において「ノックダウン」とは、遺伝子産物(例えばタンパク質)の発現を欠損させることを指す。本二本鎖RNA発現ベクターを導入する対象となる動物は、哺乳動物であれば特に限定されず、例えば、マウス、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウサギ、ラット等が挙げられる。本発明においては、疾患モデル動物として扱いやすいマウス、ラット等が好ましい。
本ベクターを動物細胞に導入するには、上記対象動物の受精卵に注入することが好ましい。その結果、目的遺伝子の二本鎖RNAをコードする配列とその制御配列が受精卵の細胞に組み込まれ、その後の受精卵の分裂に伴って、全身の細胞に二本鎖RNAをコードする配列とその制御配列がコピーされる。
動物細胞への遺伝子の導入方法としては、受精卵へのマイクロインジェクション法の他に、ES細胞へ導入する方法、培養細胞へ導入した細胞核を核移植により受精卵に導入する方法などが挙げられる。本ベクターのDNAを、エレクトロポレーション、リポフェクション法等によりES細胞又は他の培養細胞に導入し、ネオマイシン、プロマイシン等でポジティブ選別した後、目的の導入細胞を得る。ES細胞は、胚胎盤胞又は8細胞期胚に毛細管等を用いて注入する。核移植は、DNAが導入された細胞を核を取り除いた受精卵に注入し、電気刺激で細胞融合することにより行われる。
その後、胚胎盤胞又は8細胞期胚を直接仮親の卵管に移植するか、一日培養して胚盤胞まで発生したものを仮親の子宮に移植する。仮親を飼育出産させて、目的の二本鎖RNAが導入された子であるトランスジェニック動物(キメラ動物)を得る。当該動物中における所望の二本鎖RNAの発現を確認するには、当該動物の体の一部(例えば尾部先端)を切断し、体細胞中のDNAを抽出して、PCR法やサザンブロット法などにより導入した配列の存在を確認する。導入した配列の存在が確認された個体を初代とすれば、二本鎖RNAはその子(F1)の50%に伝達される。すなわち、このトランスジェニック動物と正常動物との交配により、ヘテロ接合体動物(F1)が得られ、ヘテロ接合体同士の交配によりホモ接合体動物(F2)を得ることができる。さらに、同種の動物との交配を繰り返すことにより、目的遺伝子ノックダウン動物の子孫を得ることもできる。
このようにして特定の目的遺伝子がノックダウンされたトランスジェニック動物は、以下に記載するように疾患モデル動物、遺伝子解析用の動物などとして有用である。
5.疾患モデル動物
上述のようにして作出されたトランスジェニック動物は、目的遺伝子のノックダウン(変異)により、いくつかの疾患を示すモデル動物(疾患モデル動物)として利用できる可能性がある。例えばSki遺伝子をノックダウンさせたトランスジェニック動物は、神経管の閉塞異常(Neural tube closure defect)、眼の虹彩形成異常、及び頭部での出血を呈する。頭部における出血は、本発明者により初めて見出されたものである。従って、本疾患モデル動物は、そのような疾患の研究、疾患の治療開発などにおいて有用である。
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例にその技術的範囲が限定されるものではない。
〔実施例1〕Ski二本鎖RNA(ds−RNA)発現ベクターの作製
ヘアピン型RNA(すなわち、自己相補性ステムループを有するRNA)を発現するプラスミドは、図1Aに示すように、プラスミドpDECAP(下記参照)に、Ski遺伝子のコード領域の5’側540bp(配列番号1)を挿入し、その下流に下記の配列番号2に示す12bpのスペーサー(ループ領域)を挟んで、上記540bpの配列に対し相補的な配列を逆向きに挿入することにより構築し、pDECAP−Skiとした。
スペーサーの配列:

pDECAPは、CMVプロモーターを有するpcDNA3(Invitrogen社製)に、自己触媒的にRNAを切断する配列として転写されたRNAの5’末端におけるキャップ構造を除去するリボザイムカセット(配列番号3;Huang,Y.and Carmichael,GC,1996,Mol.Cell Biol.16:1534−1542)、及びRNAポリメラーゼIIの転写を停止させる配列としてMAZドメイン(配列番号4;Yonaha,M.and Proudfoot,NJ,1999,Mol.Cell 3:593−600)を含有するものである。またこの構築物上にポリ(A)付加シグナルはない。
この発現ベクターから転写されるmRNAは、12bpのスペーサー部分がループとなったステム・ループ構造を形成し、Ski mRNAの配列をもつds−RNAとなる。
また、上記と同様にして、ホタルルシフェラーゼ遺伝子のコード領域の最初の518bpの配列、又はβ−ガラクトシダーゼ遺伝子の塩基443〜944の配列と、12bpのスペーサー(それぞれ配列番号5又は6)を挟んで、上記配列に対し相補的な配列を逆向きに挿入することにより、それぞれホタルルシフェラーゼを標的とするds−RNA発現ベクター(pDECAP−Luc)及びβ−ガラクトシダーゼを標的とするds−RNA発現ベクター(pDECAP−β−gal)を構築した。
上記のように構築した、逆向き反復配列を含むpDECAPプラスミドは、逆向き反復配列を含むDNAを正確に複製するために大腸菌Sure2株(Stratagene)において増幅させ、EndoFree Plasmid Maxi Kit(Qiagen)を用いて精製した。
また、ホタルルシフェラーゼのセンスRNAを発現するよう構築されたプラスミド(pDECAP−LucS)及びホタルルシフェラーゼのアンチセンスRNAを発現するよう構築されたプラスミド(pDECAP−LucAS)、5’キャップ構造及びポリ(A)テイルを含むホタルルシフェラーゼのRNAを発現するよう構築された通常のプラスミド(pCMV−LucS)、並びに、5’キャップ構造及びポリ(A)テイルを含み、かつβ−ガラクトシダーゼの二本鎖RNAを発現するように構築されたプラスミド(pCMV−gali)を調製した。
上述のようにして構築したプラスミドから転写されるRNAの推定二次構造を図2に示す。pDECAP−Ski、pDECAP−Luc、及びpDECAP−β−galは、5’キャップ構造とポリ(A)テイルを欠損する、Ski、ホタルルシフェラーゼ、及びβ−ガラクトシダーゼの540〜502bpのヘアピンds−RNAをそれぞれコードする。pDECAP−LucS及びpDECAP−LucASからの転写産物は、それぞれルシフェラーゼ遺伝子のセンス及びアンチセンス一本鎖RNAである。pCMV−galiは、pDECAP−β−galと同じヘアピンds−RNAをコードするが、5’キャップ構造、スプライシングイントロン及びポリ(A)テイルを含む。
〔実施例2〕Ski ds−RNA発現ベクターによるSki発現量の低下
本実施例においては、Ski ds−RNA発現ベクターが培養細胞におけるSkiタンパク質レベルに及ぼす影響を調べた。
(1)サザンブロッティング
ヒト腎由来の293T細胞は、10%FBS及び抗生物質(ペニシリン/ストレプトマイシン;Invitrogen社製)を含むDMEM(Invitrogen社製)中で培養した。上記実施例1において作製したpDECAP−Skiプラスミド及び内部対照として0.05μgのTK−Luc(ホタルルシフェラーゼ発現ベクターPromega社製)を用いてLipofectamine(GibcoBRL)により293T細胞(4×10)をトランスフェクトした。42時間経過後、細胞をPassive Lysisバッファー(Promega)に溶解し、細胞抽出物のアリコートをルシフェラーゼアッセイ(Promega)に使用して、トランスフェクション効率を評価した。
残りの細胞ペレットをRIPA溶解バッファー(Triton X−100 1%,デオキシコール酸ナトリウム 1%,SDS 0.1%,NaCl 0.15M,リン酸ナトリウム pH7.2 0.01M,トラジロール 1%)に再懸濁し、ルシフェラーゼアッセイの結果に従って調整した。抗Skiモノクローナル抗体1−1、9−1、11−1及び16−1(Nomura et al.,1999,前掲)の混合物を用いて、イムノブロット(ウェスタンブロッティング)をShinagawaら(Shinagawa,T,et al.,2000,EMBO J.,19:2280−2291)に記載されているように実施した。
ウェスタンブロッティングにより約90kDのSkiタンパク質のバンドが検出される。マウスSki発現ベクター(pact−ski;Nomura,T.et al.,Genes & Development 13:412−423,1999)と共に種々の量のSki ds−RNA発現ベクター(pDECAP−Ski)を導入して、同様にウェスタンブロッティングを行うと、Skiタンパク質の量はds−RNAの量に依存して、低下した(図3A)。
一方、ネガティブコントロールとして、実施例1において作製したpDECAP−β−galプラスミドを同様に、マウスSki発現ベクター(pact−ski)と共に293T細胞に導入し、Ski発現レベルを解析した。この場合にはSkiタンパク質レベルの低下は見られなかった(図3A)。以上の結果から、Ski ds−RNAは、動物の培養細胞内において、特異的にSki発現レベルを低下させることが示された。
また、293T細胞に、pDECAP−Skiプラスミド及びpDECAP−β−galプラスミドをトランスフェクトし、内在性Ski及びSnoタンパク質をイムノブロッティングにより検出した。pDECAP−Skiベクターを単独で293T細胞にトランスフェクトした場合にも、内在性Skiタンパク質レベルは低減した(図3B)。pDECAP−Skiの標的配列と約60%の相同性を有するSnoタンパク質の内在性レベルには変化が観察されなかった。
(2)ノーザンブロッティング
図2に示す種々の発現ベクター(pDECAP−Ski、pDECAP−Luc、pDECAP−β−gal、pDECAP−LucS、pDECAP−LucAS、pCMV−LucS、pCMV−gali)0.8μgを用いてトランスフェクトした293T細胞から、その48時間後に細胞質及び核RNAを抽出した。RNAの細胞小器官分布を、ジゴキシゲニン(DIG)標識LucS DNAプローブを用いたノーザンブロッティングにより分析した。
結果を図4に示す。図4の上の写真はノーザンブロッティングの結果を示し、下の写真はRNAの量が各レーンにおいて同等であることを示すためのコントロールである。pDECAP−LucSから転写されたルシフェラーゼセンスRNAの大部分は核内に存在したのに対し、pCMV−LucSから転写されたルシフェラーゼセンスRNAは細胞質内に存在した。pDECAP−LucSからのルシフェラーゼ転写産物のサイズはプラスミドに挿入されたものと一致するため、長鎖RNAはポリ(A)付加シグナルの欠損のためにリードスルー(readthrough)機構によって転写されたことが示唆される。pDECAP−Lucから転写された長鎖RNAは、ノーザンブロッティングにより細胞質でも核でも検出されなかったため、pDECAP−Lucから転写された長鎖ds−RNAは、すぐに消化切断されて短鎖RNAとなったことが示唆される。
(3)インターフェロン応答
pDECAP−Skiから発現されたSki mRNAがインターフェロン応答を誘導するかどうかを調べるために、ds−RNAにより活性化されるPKRタンパク質キナーゼの基質であるeIF2αのリン酸化状態を試験した。293T細胞を、pDECAP空プラスミド又はpDECAP−Skiプラスミド(0.6μg)と内部対照としてpCMV−β−galプラスミド(0.3μg)を用いて共トランスフェクトした。その48時間後に細胞を回収し、Ser51でリン酸化されたeIF2α(eIF2α−P)に対するホスホ−特異的抗体を用いてイムノブロット分析を行った。同じ膜を、総eIF2α及びβ−ガラクトシダーゼに対する抗体を用いて再度検出を行った。ポリ(I)・ポリ(C)(100μg/mL)を用いて24時間処理した293T細胞の溶解物を陽性対照として使用した。
結果を図5に示す。リン酸化eIF2αのレベルはpDECAP−Skiを用いた293T細胞のトランスフェクションにより増強されなかったが、eIF2αのリン酸化は、ポリ(I)・ポリ(C)で処理した対照細胞においては刺激された(図5)。従って、pDECAP−Skiを導入した細胞では、インターフェロン応答が誘導されなかったことが示された。
(4)RT−PCR分析
内在性Ski mRNAのレベルを調べるために、逆転写酵素PCR(RT−PCR)を行った。具体的には、pDECAP空プラスミド、pDECAP−Skiプラスミド、及びpDECAP−β−galプラスミド(各1.5μg)を、強化緑色蛍光タンパク質(EGFP)発現プラスミド(pMSCV−ir−EGFP)と共に293T細胞にトランスフェクトした。EGFP陽性細胞をセルソーティングにより回収し、アクチノマイシンDで処理した。総RNAを種々の時点で単離し、Ski mRNA量をRT−PCRにより分析した。RT−PCR産物は、2%アガロースゲルで分離し、エチジウムブロミド染色により可視化した。
その結果を図6A及びBに示す。図6Aは、Ski二本鎖RNA発現ベクターによるSki mRNAの分解を示すRT−PCRの結果を示し、図6Bは、Ski二本鎖RNA発現ベクターによるSki mRNAの分解を経時的に分析したRT−PCRの結果を示す。
pDECAP−Skiでのトランスフェクションにより、内在性Ski mRNAのレベルが低減した(図6B)。このSki mRNAレベルの低減がSki mRNAの分解によるものであることを確認するため、転写阻害剤であるアクチノマイシンDによるトランスフェクト細胞の処理後、種々の時点でSki mRNAレベルを測定した(図6B)。pDECAP−Skiプラスミドでトランスフェクトした細胞においては、内在性Ski mRNAの半減期は0.9時間であり、β−ガラクトシダーゼds−RNAを発現するpDECAPプラスミド(pDECAP−β−gal)又は空のプラスミドでトランスフェクトした細胞においてはそれぞれ2.7時間及び3.1時間であった。従って、pDECAPベクターから発現されたSki ds−RNAは、Ski mRNAの分解を刺激することがわかった。
〔実施例3〕マウス胚性繊維芽細胞におけるルシフェラーゼアッセイ
マウス胚性繊維芽細胞を、10%仔ウシ血清(FBS)及び抗生物質を含むDMEM中で培養した。0.5×10個の細胞を12ウエルプレートに移し(1mL/ウエル)、Lipofectamine(Invitrogen)を製造業者の指示に従って使用してホタルルシフェラーゼ(Pp−luc)発現プラスミド(TK−βREx2−Luc;チミジンキナーゼプロモーターとβ−レチノイン酸受容体結合部位を含む)0.1μg、実施例1において構築したプラスミド(pDECAP−ski、pDECAP−Luc及びpDECAP−β−gal、pCMV−gali、並びにpDECAP−LucS及びpDECAP−LucAS)0.4μg、並びにウミシイタケルシフェラーゼ(Rr−luc)発現プラスミド(pRL−CMV、0.02μg)をそれぞれトランスフェクトした。24時間後、1μMのall−transレチノイン酸を添加してホタルルシフェラーゼ(Pp−luc)遺伝子の発現を誘導し、細胞をさらに36時間培養した。続いて、二重ルシフェラーゼアッセイ(Promega)を用いてルシフェラーゼ発現をモニターした。
結果を図7A〜Cに示す。図7Aは、ホタルルシフェラーゼ(Pp−luc)活性を任意発光単位(a.u.)でプロットした図を示す。図7Bは、ウミシイタケルシフェラーゼ(Rr−luc)活性を任意発光単位でプロットした図を示す。また図7Cは、正規化した標的対対照ルシフェラーゼ比を示す。
ホタルルシフェラーゼ(Pp−luc)レベルは、ホタルルシフェラーゼds−RNAを発現するpDECAPプラスミド(pDECAP−Luc)と共に共トランスフェクトした場合に約5分の1に低減した(図7A)。一方、ウミシイタケルシフェラーゼ(Rr−luc)活性は影響を受けなかった(図7B)。また、ホタルルシフェラーゼ遺伝子の同じ領域のセンスRNAを発現するpDECAPプラスミド(pDECAP−LucS)と共トランスフェクトした場合にはホタルルシフェラーゼ活性に影響を及ぼさなかったが、同じ領域のアンチセンスRNAを発現するpDECAPプラスミド(pDECAP−LusAS)と共トランスフェクトした場合にはわずかな影響が観察された(約25%の低減)。従って、この結果は、ds−RNAの構造がホタルルシフェラーゼ活性の効率的な阻害に重要であることを示している。さらに、pDECAPプラスミドからのβ−ガラクトシダーゼ遺伝子の502bp ds−RNAの共発現は、ホタル又はウミシイタケのルシフェラーゼ活性には影響を及ぼさなかったが、別のプラスミド(pCMV−gali;CMVプロモーターを含むが、リボザイム及びMAZドメインを含まない)からの5’キャップ構造、スプライシング部位及びポリ(A)テイルを含むβ−ガラクトシダーゼのds−RNAの共発現では、両方のルシフェラーゼ活性の低減が観察された。この結果は、キャップ構造とポリ(A)の除去が翻訳の非特異的阻害を抑制するために必要であることを示している。
〔実施例4〕Ski ds−RNA発現ベクターを導入したトランスジェニックマウスの作出
(1)サザンブロッティング
pDECAP−Ski又はpDECAP−galiにおける2.2kbのBglII−BamHI断片をバックグラウンド配列から切り出し、精製して、マウス受精卵に注入した。マウス受精卵は、C57BL/6N雄マウスとC57BL/6N又は(C57BL/6J×DBA)F1雌マウス(いずれもクレア社より入手)との交配により得られたものである。導入遺伝子の存在とコピー数を分析するために、Skiコード領域の最初の540bpをプローブとして用いたサザンブロット分析により胚を分析した。サザンブロット分析に用いたゲノムDNAは、胚体外組織から抽出した。結果を図8Aに示す。図8Aにおいて左側のレーンはpDECAP−Ski導入トランスジェニックマウス、右側のレーンは野生型マウス(WT)の結果を示す。図8Aより、トランスジェニックマウスは確かにSkiのds−RNA発現ベクターを有することがわかった。また、この導入遺伝子のコピー数は2〜12コピーと推定された。
(2)ノーザンブロッティング
短鎖RNAがトランスジェニックマウス胚において生成されているか否かを調べるために、Skiセンス鎖プローブを用いてノーザンブロッティングを行った。
トランスジェニックマウス胚の頭部から核RNA(5μg)を抽出し、それをノーザンブロッティングにより分析した。膜は、標的配列に対応するDIG標識センスSkiプローブを用いて検出した。膜上のメチレンブルーで染色されて可視化された5S rRNAを図8B(下側)に示す。この結果は、pDECAP−skiを導入したトランスジェニックマウス胚においては約21〜22塩基の短鎖RNAが検出されたが、野生型マウス胚においては検出されなかったことを示す(図8B)。
(3)リアルタイムRT−PCR
また、マウス胚について分析するために、Isogen(ニッポンジーン)を用いて胚の肢芽よりRNAを単離した。導入遺伝子の発現は、以下に示すプライマー対、及び以下の配列を有するリボザイムカセットの3’末端における二重蛍光プローブを用いてリアルタイムRT−PCRにより調べた。
(プライマー対)

(プローブ)

このRT−PCRの結果を下記表1に示す。表1中、導入遺伝子の発現量は、胚No.257を1.00とした場合の相対値として表す。

〔実施例5〕疾患モデルマウス
(1)神経管形成の異常
Ski変異マウスは神経管の閉塞異常(Neural tube closure defect)が見られることがすでに報告されている(Berk,M.et al,Genes Dev.11:2029−2039,1997)。本発明者は、Ski ds−RNAを発現するトランスジェニックマウスをE10.5の時期に解析し、同様の神経管閉塞異常を呈することを観察した(図9)。図9の矢印で示すように、トランスジェニックマウス(TG)においては神経管が閉じていないことがわかる。13匹のトランスジェニック胎仔のうち、5匹(38.5%)が神経管閉塞異常を示した(上記表1も参照されたい)。ネガティブコントロールとして作製したβガラクトシダーゼds−RNAを発現するトランスジェニックマウス(9匹)では、神経管閉塞異常は観察されなかった。
(2)眼の形成異常
Ski変異マウスは眼の虹彩形成異常が見られることがすでに報告されている(Colmenares,C.et al.,Nature Genet.30:106−109,2002)。本発明者は、Ski ds−RNAを発現するトランスジェニックマウスをE10.5の時期に解析し、同様の眼の虹彩形成異常が起きることを観察した(図10)。図10の矢印で示すように、トランスジェニックマウス(TG)においては眼の虹彩が部分的に欠損していることがわかる。2匹のトランスジェニック胎仔のうち、2匹(100%)共が眼の虹彩形成異常を示した。ネガティブコントロールとして作製したβガラクトシダーゼds−RNAを発現するトランスジェニックマウス(9匹)では、眼の虹彩形成異常は観察されなかった。
(3)頭部での出血
本発明者は、Ski ds−RNAを発現するトランスジェニックマウスが頭部での出血を起こすことを観察した(図11)。図11において、トランスジェニックマウス(TG)及びski遺伝子変異マウス(ski−/−)は頭部出血を示している。従って、ski遺伝子変異マウスは、頭部出血のモデルマウスとして使用可能であることがわかる。
以上の(1)〜(3)の結果から、Ski ds−RNA発現ベクターを導入したトランスジェニックマウスは、Ski変異マウスと同様の異常及び頭部出血を呈することが示された。通常トランスジェニックマウスの系においては、導入された遺伝子を持つ個体のうちの20〜80%の個体において、導入遺伝子効果が観察されると言われている。これは導入遺伝子が組み込まれた位置によっては、その遺伝子が発現されない場合があるからである(位置効果)。本発明者が作製したSki ds−RNA発現ベクターのトランスジェニックマウスでは、38.5%の個体において、神経管閉塞異常が観察された。これは従来のトランスジェニックマウスの報告例から見て、妥当な割合といえる。
〔実施例6〕二本鎖RNAの導入と表現型発現の頻度
CMVプロモーターがマウス胚の種々の領域において活性を示すかどうかを確認するため、CMVプロモーターにより駆動されるβ−ガラクトシダーゼ発現ベクター(pCMV−β−gal)を含むトランスジェニックマウスを作製した。
その結果、pCMV−β−galを含むトランスジェニックマウス胚6つのうち2つにおいては、E9〜E12の時期においてそのほぼ全ての組織(神経上皮細胞を含む)でβ−ガラクトシダーゼの発現が確認された。この頻度(33.3%、2/6)は、異常を示すpDECAP−Skiトランスジェニックマウス(実施例5)の場合と同様であり、注入DNAにより引き起こされる特定の表現型をしめすトランスジェニックマウスの平均頻度の範囲内(10〜40%)である。E14〜E16時期において眼異常を示すpDECAP−Skiトランスジェニックマウス胚において高頻度であった結果と一致して、β−ガラクトシダーゼ発現は、E15時期におけるpCMV−β−galトランスジェニックマウス胚の種々の組織(眼を含む)において高頻度に観察された。
対照実験として、pDECAP−β−galから調製した502塩基のβ−ガラクトシダーゼds−RNAの発現ユニットを含む断片を注入することにより、トランスジェニックマウスを作出した。このマウス胚9つを分析したところ、全てにおいて異常は観察されなかった(下記表2参照)。この結果は、pDECAP−Skiトランスジェニックマウスにおいて観察された異常が、Ski ds−RNAにより特異的に引き起こされたものであり、長鎖ds−RNAによる非特異的には引き起こされなかったことを示す。Ski欠損マウスの典型的な異常、すなわち神経管異常及び眼異常がpDECAP−Skiトランスジェニックマウスにおいてみられたが、Ski欠損マウスの軸後指過剰症などの他の異常は観察されなかった。これは、CMVプロモーターがある組織においては十分に活性を有しないことに起因する可能性がある。

〔実施例7〕トランスジェニックマウスにおける組織学的分析
トランスジェニックマウスにおける内因性Ski遺伝子の発現及びRNAiによる影響を調べるために、以下のように組織のヘマトキシリン−エオジン染色、RNAを用いたin situハイブリダイゼーション、及びTUNEL法を実施した。
ヘマトキシリン−エオジン染色は、サンプルを載せたスライドグラスを以下の手順で各溶液に浸し、処理した:
1)ヘマトキシリン溶液 室温3分
2)流水水洗
3)1%エオジン 室温7分
4)50%エタノール 室温2秒7回
5)70%エタノール 室温2秒7回
6)90%エタノール 室温2秒7回
7)95%エタノール 室温2秒7回
8)100%エタノール 室温15分
9)100%エタノール 室温15分
10)100%エタノール 室温15分
11)キシレン 室温15分
12)キシレン 室温15分
13)キシレン 室温15分
14)キシレンを蒸発乾燥後、スライドグラスに封入剤をのせ、カバーグラスをかぶせた。
in situハイブリダイゼーションは、Butler,K.et al.(Methods,2001年,第23巻,p.303−312)に記載の方法に従って行った。Ski mRNAの検出には、Ski遺伝子の3’側半分をプローブとして使用した。具体的には、使用するc−Ski 3’プローブを調製するために、マウスc−Ski cDNAの塩基754−2223の範囲のプラスミドをBamHIを用いて線状化し、これをT7 RNAポリメラーゼを用いて翻訳した。Odc遺伝子検出用のODCプローブは、既にNomura,T.et al.(Genes & Dev.,1999年,第13巻,p.412−423)に記載されている。
また、TUNEL法は、アポトーシスを研究するために、市販のアポトーシスキット(in situ細胞死検出キット、Roche)を製造業者の指示に従って使用して実施した。
以上の実験結果を図12A〜Gに示す。図12A〜Gにおいて、aは野生型マウス、bはpDECAP−β−galを導入したトランスジェニックマウス、cはpDECAP−Skiを導入したトランスジェニックマウス、dはSki欠損マウス(Ski−/−)を示す。また、図12Aは、頭部切片のヘマトキシリン−エオジン染色を示す。図12B及びCは、RNA in situハイブリダイゼーションにより検出された中脳及び間葉組織におけるSki mRNA発現(図12B)及びOdc mRNA発現(図12C)を示す。図12Dは、中脳及び間葉組織の神経上皮を用いたTUNELアッセイにより評価したアポトーシス細胞を示す。図12Eは、眼のヘマトキシリン−エオジン染色を示す。図12Fは、in situハイブリダイゼーションにより検出した眼におけるSki mRNA発現を示す。図12Gは、眼を用いたTUNELアッセイの結果を示す。また、図12A及びEにおける「MB」は中脳、「II」は第二脳室、「III」は第三脳室、「O」は眼杯、「L」は水晶体胞を示す。
pDECAP−Ski導入トランスジェニックマウス及びSki欠損マウス(ES細胞における相同組換えにより作出したもの)の神経上皮細胞においては、Ski mRNAが検出されなかった(図12Bのc及びd)。対照的に、β−galのds−RNAを導入したトランスジェニックマウス及び野生型マウスの神経上皮細胞においては、Ski mRNAが発現されていた(図12Bのa及びb)。この結果は、RT−PCRでも確認した(データは示さない)。
Ski欠損マウスにおける神経管の閉塞異常は、オルニチンデカルボキシラーゼ(Odc)遺伝子の異所性発現と、その後の神経上皮細胞におけるアポトーシスによって起こる。その理由は、SkiがOdc遺伝子のMad媒介転写抑制に必要であることによる(Nomura,T.et al.,Genes & Dev.,1999年,第13巻,p.412−423)。同様のOdc遺伝子の異所性発現が、pDECAP−Ski導入トランスジェニックマウス胚の神経上皮細胞においても観察された(図12Cのc)。さらに、Odc発現レベルの高い領域においては、異所性アポトーシスが観察された(図12Dのc及びd)。これらの結果によって、pDECAP−Ski導入トランスジェニックマウスにおいて観察された神経管閉塞の異常が、ES細胞における相同組換えにより作出されたSki欠損マウスにおける機構と同じ機構により引き起こされたことが示された。
眼の発達過程においては、所定の時間的順序で種々の網膜細胞型(網膜神経節細胞、錐体光受容細胞、無軸索細胞、杆体光受容細胞など)が網膜前駆体細胞から発生する(Young,R.W.,Anat.Rec.,1985年,第212巻,p.199−205)。野生型マウスの胚においては、E10.5の時期で水晶体胞、眼杯、及び胚上皮においてSki mRNAが検出された(図12Fのa)。pDECAP−Ski導入トランスジェニックマウス及びSki欠損マウスの胚においては、上記領域におけるSki mRNAレベルは顕著に減少していた(図12Fのc及びd)。この観察結果と一致して、pDECAP−Ski導入トランスジェニックマウス及びSki欠損マウスの水晶体胞及び胚上皮においては異所性アポトーシスが観察されたが(図12Gのc及びd)、野生型マウスの胚においては観察されなかった(図12Gのa)。また、Ski欠損マウス胚においては眼杯の異所性アポトーシスが観察されたが、pDECAP−Ski導入トランスジェニックマウス胚においては外観上観察されなかった。このことは、この領域においてはSki mRNAが低レベルで残存していることを示唆している。
本明細書中で引用した全ての刊行物、特許および特許出願は、その全文を参考として本明細書中にとり入れるものとする。
【産業上の利用可能性】
本発明により、目的遺伝子がノックダウンされたトランスジェニック動物及びそのための二本鎖RNA発現ベクターが提供される。本トランスジェニック動物は、RNA干渉を引き起こす二本鎖RNA発現ベクターを用いることにより、簡便かつ迅速に作出することができる。また例えばSki遺伝子をノックダウンさせた本トランスジェニック動物は、いくつかの疾患を呈するためモデル動物として用いることが可能である。さらに本二本鎖RNA発現ベクターは、RNA干渉を効率的に行えるよう構築されており、位置効果をうけることなく目的遺伝子の二本鎖RNAを発現させ、目的遺伝子の発現を抑制することができるものである。
【配列表フリーテキスト】
配列番号2〜9:合成オリゴヌクレオチド
【配列表】




【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)〜(c):
(a)以下の(a−1)又は(a−2)の塩基配列:
(a−1)目的遺伝子の全部若しくは一部をコードする塩基配列、又は
(a−2)(a−1)の塩基配列に対し相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAをコードする塩基配列;
(b)(a)の塩基配列に対し相補的であり、かつ逆配向の塩基配列;及び
(c)ループ領域をコードし、上記(a)の塩基配列と(b)の塩基配列とを連結する配列;
を含み、それらがRNAに転写された際に、ステム・ループ構造を有する二本鎖RNA(ds−RNA)が形成されることを特徴とする、二本鎖RNA発現ベクター。
【請求項2】
さらにポリメラーゼII系プロモーターを含むものである、請求項1記載の二本鎖RNA発現ベクター。
【請求項3】
さらに発生過程特異的プロモーターを含むものである、請求項1記載の二本鎖RNA発現ベクター。
【請求項4】
ポリメラーゼII系プロモーター又は発生過程特異的プロモーターがサイトメガロウイルス(CMV)初期遺伝子プロモーターである、請求項2又は3記載の二本鎖RNA発現ベクター。
【請求項5】
さらに(a)〜(c)の塩基配列の上流に自己触媒的にRNAを切断する配列を含むものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の二本鎖RNA発現ベクター。
【請求項6】
自己触媒的にRNAを切断する配列がリボザイム部位である、請求項5記載の二本鎖RNA発現ベクター。
【請求項7】
さらに(a)〜(c)の塩基配列の下流にRNAポリメラーゼを停止させる配列を含むものである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の二本鎖RNA発現ベクター。
【請求項8】
RNAポリメラーゼを停止させる配列がMAZドメイン配列である、請求項7記載の二本鎖RNA発現ベクター。
【請求項9】
(c)の塩基配列が配列番号2、5又は6に示すものである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の二本鎖RNA発現ベクター。
【請求項10】
目的遺伝子が疾患関連遺伝子である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の二本鎖RNA発現ベクター。
【請求項11】
目的遺伝子がSki遺伝子である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の二本鎖RNA発現ベクター。
【請求項12】
目的遺伝子の一部がSki遺伝子の5’側540bpの部分である、請求項11記載の二本鎖RNA発現ベクター。
【請求項13】
目的遺伝子の二本鎖RNAを発現することを特徴とする目的遺伝子ノックダウン動物。
【請求項14】
目的遺伝子の二本鎖RNAを組織特異的に発現する、請求項13記載の目的遺伝子ノックダウン動物。
【請求項15】
二本鎖RNA発現ベクターが導入された、目的遺伝子の二本鎖RNAを発現するトランスジェニック動物又はその子孫である、請求項13又は14記載の目的遺伝子ノックダウン動物。
【請求項16】
二本鎖RNA発現ベクターが請求項1〜12のいずれか1項に示されるものである、請求項15記載の目的遺伝子ノックダウン動物。
【請求項17】
目的遺伝子が疾患関連遺伝子であり、目的遺伝子ノックダウン動物が疾患モデル動物である、請求項13〜16のいずれか1項に記載の目的遺伝子ノックダウン動物。
【請求項18】
目的遺伝子がSki遺伝子であり、疾患が、神経管閉塞異常、虹彩形成異常、及び頭部での出血からなる群より選択されるものである、請求項17記載の目的遺伝子ノックダウン動物。
【請求項19】
動物がマウスである、請求項13〜18のいずれか1項に記載の目的遺伝子ノックダウン動物。
【請求項20】
目的遺伝子の二本鎖RNAを発現する二本鎖RNA発現ベクターを導入し、目的遺伝子の二本鎖RNAを形成させることを特徴とする、目的遺伝子ノックダウン動物の作出方法。
【請求項21】
二本鎖RNA発現ベクターが請求項1〜12のいずれか1項に示されるものである、請求項20記載の作出方法。
【請求項22】
目的遺伝子が疾患関連遺伝子であり、目的遺伝子ノックダウン動物が疾患モデル動物である、請求項20又は21記載の作出方法。
【請求項23】
目的遺伝子がSki遺伝子であり、疾患が、神経管閉塞異常、虹彩形成異常、及び頭部での出血からなる群より選択されるものである、請求項22記載の作出方法。
【請求項24】
動物がマウスである、請求項20〜23のいずれか1項に記載の作出方法。
【請求項25】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の二本鎖RNA発現ベクターが導入されていることを特徴とする動物細胞。

【国際公開番号】WO2004/039973
【国際公開日】平成16年5月13日(2004.5.13)
【発行日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−548071(P2004−548071)
【国際出願番号】PCT/JP2003/013855
【国際出願日】平成15年10月29日(2003.10.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(000103840)オリエンタル酵母工業株式会社 (60)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】