説明

二種の移相器を持つ伝送線路型・集中定数型ウイルキンソン・デバイダ

【課題】高周波、マイクロ波、ミリ波信号を2方向に分配し、その2つの出力信号間に180度の位相差を与える集中定数化180度ウイルキンソン・デバイダの素子数の低減化を図る。
【解決手段】二種の伝送線路型移相器を有する二方向伝送線路型3dBウイルキンソン・デバイダにおいて、移相器の構成を等価な2つのπ型回路とすることで11個の素子からなるウイルキンソン・デバイダの特性を劣化させることなく、その素子数を減らすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二種の伝送線路型移相器を有する二方向伝送線路型3dBウイルキンソン・デバイダに関する。
【背景技術】
【0002】
高周波、マイクロ波、ミリ波信号を2方向に分配し、その2つの出力信号間に180度の位相差を与える回路として良く知られているものに分布定数回路の一種であるラット・レース回路がある。この回路は構成要素として波長の1/4の長さの伝送線路を3本、波長の3/4の長さの伝送線路を1本用いるため回路サイズが大型になる。この解決法の1つとしてキャパシタやインダクタ等の集中定数素子を構成要素として取り入れる方法がある。これにより、基板上の回路占有面積を10万分の1から100万分の1程度まで格段に小さくすることができる。この時、用いるキャパシタやインダクタの素子数はラット・レース基本回路においては10個である(図7)。図7に示すように集中定数化ラットレース回路は4個の入出力端子を持ち、基板上に平面的に構成されるものである。図7の端子1に入力を入れると端子4、端子2から出力される。また、端子2から入力すると端子3,1からの出力となる。通常、通信用回路システムは信号が一方から他方に流れるように構成されるので、図7の集中定数化ラットレースでは、一部が入力側に現れることになる。例えば、図7の端子1に入力を入れた場合、端子4からの出力は配線により端子3側に持ってくる必要が往々にして生じる。このような状況のもとで、ウイルキンソン・デバイダの二つの出力端子に180度位相差を与えることが考えられ、+90度移相器と−90度移相器を接続した集中定数化180度ウイルキンソン・デバイダが提案されている(図8)(非特許文献1)。この回路の端子1に高周波信号を入れると端子2、端子3から出力され、且つ、その二つの出力間に180度の位相差を生じるので都合が良い。ただし、この回路は集中定数素子11個により構成される。
【0003】
【非特許文献1】H.S.Nagi, Miniature lumped element 180゜Wilkinson divider, IEEE MTT-S Symp. Dig., 2003 pp.55-58
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
携帯電話などでは、益々機能の高度化が進み、微細加工技術を駆使して回路サイズの小型化が進められている。回路サイズの小型化の手段として、その構成要素を減らすことで、回路の占有面積を減らし、かつ部品コストの低減を図ることが可能となる。
図8の集中定数化180度ウイルキンソン・デバイダは、その移相器の構成を等価なπ型回路と等価なT型回路の組み合わせとしている。本発明者らは、2つの等価なπ型回路を採用することにより、図8の11個の素子からなるウイルキンソン・デバイダの特性を劣化させることなく、その素子数を減らすことに成功し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0005】
本発明の二種の伝送線路型移相器を有する二方向伝送線路型3dBウイルキンソン・デバイダにより、素子数を減らすことができ、デバイダの小型化、コスト低減化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
図1は、本発明の二方向伝送線路型ウイルキンソン・デバイダを示す。ここで、l01およびl02は移相器の伝送線路長を表す。Z0は基準特性インピーダンス、線路インピーダンスZ1は20.50、吸収抵抗Rは2Z0 であり、それらを規格化し、小文字で表す次式は以下のとおりである。
0=1、z1=20.5、r=2
ここで設計周波数の波長をλ0とし、線路長l01、l02 をそれぞれ λ0/4、 3λ0/4 とする。その差l02-l01 が λ0/2 に等しいとき、二つの出力の位相差ψdif はψdif=πfnで与えられる。ここで、fnは規格化周波数であり、fn=f/f0により定義される。設計周波数にてψdifが零になるように調整するならば、ψdifは次のように書き換えられる。
ψdif=π(fn-1)
【0007】
図2は本発明の二方向伝送線路型ウイルキンソン・デバイダにおいて、線路インピーダンスZ1の伝送線路の線路長がλ0/4の場合の集中定数化した回路図である。ここで、
1=z,Cpa=1/(2−20.5) ,CL=CH=1
w=z,lpa=2+20.5 ,lL=lH=1
【0008】
図3は本発明の二方向伝送線路型ウイルキンソン・デバイダにおいて、線路インピーダンスZ1の伝送線路の線路長が3λ0/4の場合の集中定数化した回路図である。ここで、
w=y,Cdpa=1/(2+20.5) ,CL=CH=1
1=y,ldpa=2−20.5 ,lL=lH=1
【実施例】
【0009】
図4は図2の理論特性を示し、(a)反射と伝送特性および(b)位相特性である。
図2の回路において以下の素子値を用い製作した。
C=Y0n/ω0,L=Z0n/ω0,R=Z0/ga
0=50Ω,Z0=Y0-1,ω0=2πf0,f0:設計周波数,R=Z0/ga
ここでcn,ln,gaは回路図内素子値
図5aは設計周波数500MHzにおける反射と伝送特性、図5bは設計周波数500MHzにおける位相特性に関するそれぞれ理論と実験の対比である。
【0010】
図6は図3の理論特性を示し、(a)反射と伝送特性および(b)位相特性である。
図3の回路は図2において、CとLを交換した双対な回路であり、図5と同等な実験結果が予想される。
【産業上の利用可能性】
【0011】
本発明の二方向伝送線路型3dBウイルキンソン・デバイダは、携帯電話や衛星通信などの通信装置の外来電波入出力部において信号を分配および/または合成する回路として利用できる。また、アンテナへの信号供給回路や高周波整流回路として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の二方向伝送線路型ウイルキンソン・デバイダ
【図2】二方向伝送線路型ウイルキンソン・デバイダにおいて線路インピーダンスZ1の伝送線路長がλ0/4の場合の集中定数化回路図
【図3】二方向伝送線路型ウイルキンソン・デバイダにおいて線路インピーダンスZ1の伝送線路長が3λ0/4の場合の集中定数化回路図
【図4】線路長λ0/4の逆相ウイルキンソン・デバイダの反射と伝送特性および位相特性
【図5a】線路長λ0/4の逆相ウイルキンソン・デバイダの理論と実験の対比(反射と伝送特性)
【図5b】線路長λ0/4の逆相ウイルキンソン・デバイダの理論と実験の対比(位相特性)
【図6】線路長3λ0/4の逆相ウイルキンソン・デバイダの反射と伝送特性および位相特性
【図7】ラット・レース基本回路
【図8】従来の素子数11の逆相ウイルキンソン・デバイダ
【図9】従来の素子数11の逆相ウイルキンソン・デバイダの反射と伝送特性および位相特性

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線路長l01、l02の二種の伝送線路型移相器、ポート1、2および3には端子負荷として同一の基準特性インピーダンスZ0が接続されており、線路インピーダンスZ1が20.50、吸収抵抗Rが2Z0と表記される二方向伝送線路型ウイルキンソン・デバイダであって、ポート2および3に等価なπ型回路が接続されていることを特徴とする二方向伝送線路型・集中定数型3dBウイルキンソン・デバイダ。
【請求項2】
集中定数素子数を10個とした請求項1に記載の構成二方向集中定数型3dBウイルキンソン・デバイダ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5a】
image rotate

【図5b】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2008−17159(P2008−17159A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−186166(P2006−186166)
【出願日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【出願人】(305060567)国立大学法人富山大学 (194)