説明

二酸化バナジウム微粒子、その製造方法、及びサーモクロミックフィルム

【課題】サーモクロミック材料として有用なルチル型二酸化バナジウム結晶からなる微粒子であって、担体によることなくその良好なサーモクロミック特性を示し、かつ空気中で酸化されにくく経時での安定性が高い微粒子を提供する。
【解決手段】ルチル型二酸化バナジウム結晶からなる微粒子であって、下記結晶性残存率が75%以上である二酸化バナジウム微粒子。
[結晶性残存率:ルチル型二酸化バナジウム結晶からなる微粒子の粉末X線回折における(011)面のピーク強度(I)に対する、当該微粒子を水中にいれ85℃で100時間加熱を行った後における前記(011)面のX線強度(I)の比率(I/I)。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーモクロミック材料として用いうるルチル型二酸化バナジウム結晶からなる微粒子、該微粒子の製造方法、及び該微粒子から得られるサーモクロミックフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
温度変化によって透過率や反射率等の光学的特性が可逆的に変化するサーモクロミック現象を示す材料がある。かかる性質をもつものとしていくつかの遷移金属酸化物が知られているが、なかでも、二酸化バナジウムは高いサーモクロミック特性を有する。ルチル型二酸化バナジウムの結晶は、相転移温度以下では半導体相を示すが、相転移温度以上では金属相へ転移する。相転移は約68℃で可逆的に起こり、近赤外線及び赤外線(以下、併せて赤外線という)透過率が大幅に変化する。相転移温度以下では、可視光線、赤外線ともに透過するが、相転移温度以上になると可視光線のみを透過して、赤外線を遮断するようになる。この透過率が変化する波長はおよそ800nm以上であり、それ以下の波長の透過率はほとんど変化しない。つまり、相転移温度の上下で可視光透過率はほとんど変化しない特徴がある。また、二酸化バナジウムのバナジウム原子の一部を他の金属原子(W、Mo、Nb、Ta、Re等)で置換することにより、相転移温度を変えることができることが知られている。このような上記材料のもつサーモクロミック特性を利用して、例えば、一定温度以上になると可視光線を透過するが、熱線を遮断する赤外線遮断材として用いることが提案されている。
【0003】
バナジウムを用いてサーモクロミック材料を得る方法として、例えば、バナジウムとタングステンとを過酸化水素水に溶解させたヒドロゾルを基板上にスピンコーティングした後、数100℃で還元焼成して二酸化バナジウムのガラス状被膜を形成する方法が提案されている(非特許文献1参照)。しかし、この方法では、バナジウム溶解液を基板上に塗布した後に高温で加熱する必要があるため、ガラス等の耐熱性を有する基材にしか使えず、その用途が限定的で、かつ大面積化も困難であるという問題がある。
【0004】
さらに、酸化バナジウムと酸化タングステンとを溶融法により合成した材料をビーズミルで粉砕して酸化バナジウムの微粒子を得る方法が提案されている(特許文献2参照)。しかし、この方法では、酸化バナジウム材料を機械的粉砕によって微粒子化しているため、サブマイクロメートルないしナノメートルサイズの粒子を得るためには、苛酷な粉砕条件が必要となり、また均一な粒度分布の粒子を得るのが困難である。かかる点を改善してサーモクロミック性を有する微粒子を作製する方法として、シリカ等の無機質粒子に二酸化バナジウムを担持させる方法が提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−346260号公報
【特許文献2】特開2000−233929号公報
【特許文献3】特開2004−346261号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】I.Takahashi et al., Jpn.J.Appl.Phys., Vol.35(1996), pp.L438−L440
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、サーモクロミック材料として有用なルチル型二酸化バナジウム結晶からなる微粒子であって、担体によることなくその良好なサーモクロミック特性を示し、かつ空気中で酸化されにくく経時での安定性が高い微粒子を提供することを課題とする。また、苛酷な加工処理を必要とせず簡便な製造工程で、必要により実際的な操作でナノメートルサイズにまで微細化することができ、かつ経時での安定性に優れたルチル型二酸化バナジウム結晶からなる微粒子を工業的規模で好適に製造する方法を提供する。さらに、本発明は、空気中で酸化されにくい上記ルチル型二酸化バナジウム結晶からなる微粒子を用いて得られる耐用性、耐久性に優れたサーモクロミックフィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の課題は、下記の手段により解決された。
(1)ルチル型二酸化バナジウム結晶からなる微粒子であって、下記結晶性残存率が75%以上である二酸化バナジウム微粒子。
[結晶性残存率:ルチル型二酸化バナジウム結晶からなる微粒子の粉末X線回折(XRD)における(011)面のピーク強度(I)に対する、当該微粒子を水中にいれ85℃で100時間加熱を行った後における前記(011)面のX線ピーク強度(I)の比率(I/I)の百分率。]
(2)一次粒子の短径の平均粒径が20〜400nmであることを特徴とする(1)記載の二酸化バナジウム微粒子。
(3)メジアン径が50〜600nmであることを特徴とする(1)又は(2)に記載の二酸化バナジウム微粒子。
(4)バナジウム化合物を過酸化水素水に含有させたバナジウム含有液を調製し、前記バナジウム含有液を特定の温度に調節してバナジウム酸化物を多孔質体として析出させ、該多孔質体を粉砕し、この粉砕されたバナジウム酸化物に還元処理を施し、前記還元処理を施したバナジウム酸化物を加熱して得られたことを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の二酸化バナジウム微粒子。
(5)サーモクロミック材料であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の二酸化バナジウム微粒子。
(6)(1)〜(5)のいずれか1項に記載の二酸化バナジウム微粒子を含有するサーモクロミックフィルム。
(7)バナジウム化合物を過酸化水素水に含有させたバナジウム含有液を調製する工程、
前記バナジウム含有液を所定の温度に調節してバナジウム酸化物を多孔質体として析出させる工程、
前記バナジウム酸化物を還元処理する工程、
前記還元処理を施したバナジウム酸化物に加熱処理を施す工程、及び
前記バナジウム酸化物を多孔質体として析出させた後の所定の時期にこれを粉砕する工程
を有することを特徴とする二酸化バナジウム微粒子の製造方法。
(8)前記バナジウム酸化物を析出させる温度を0〜45℃の範囲で調節することを特徴とする(7)に記載の二酸化バナジウム微粒子の製造方法。
(9)前記バナジウム酸化物を析出させるとき、前記バナジウム含有液のpHを0.5〜2.5の範囲で調節することを特徴とする(7)又は(8)に記載の二酸化バナジウム微粒子の製造方法。
(10)前記バナジウム化合物がバナジウムアルコキシドあるいは五酸化二バナジウムであることを特徴とする(7)〜(9)のいずれか1項に記載の二酸化バナジウム微粒子の製造方法。
(11)前記過酸化水素水に、さらにタングステン化合物又はモリブデン化合物を含有させることを特徴とする(7)〜(10)のいずれか1項に記載の二酸化バナジウム微粒子の製造方法。
(12)前記過酸化水素水に含有させるタングステン化合物又はモリブデン化合物の量を、共存するバナジウム原子に対するタングステン原子及びモリブデン原子の総量で12原子%以下となる量にする(11)に記載の二酸化バナジウム微粒子の製造方法。
(13)前記バナジウム酸化物の還元処理が、水素還元処理であることを特徴とする(7)〜(12)のいずれか1項に記載の二酸化バナジウム微粒子。の製造方法。
(14)前記加熱処理が、真空加熱処理もしくは不活性ガス雰囲気下での加熱処理であることを特徴とする(7)〜(13)のいずれか1項に記載の二酸化バナジウム微粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のルチル型二酸化バナジウム結晶からなる微粒子は、サーモクロミック材料として有用であって、担体によることなくその良好なサーモクロミック特性を示し、かつ空気中で酸化されにくく経時での高い安定性を示す。また、本発明の製造方法によれば、苛酷な加工処理を必要とせず簡便な製造工程で、必要により実際的な操作でナノメートルサイズにまで微細化することができ、かつ経時での安定性に優れた上記ルチル型二酸化バナジウム結晶からなる微粒子を工業的規模で好適に製造することができる。さらに、本発明によれば、空気中で酸化されにくいルチル型二酸化バナジウム微粒子を用いて得られる耐用性、耐久性に優れたサーモクロミックフィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1における、真空加熱後の二酸化バナジウム微粒子のXRDパターンである。
【図2】実施例1における、真空加熱後の二酸化バナジウム微粒子のSEM画像である。
【図3】実施例4における、真空加熱処理前後の二酸化バナジウム微粒子のXRDパターンである。
【図4】実施例5における、真空加熱後の二酸化バナジウム微粒子のSEM画像である。
【図5】劣化確認試験の前後における、実施例1で作製した二酸化バナジウムのXRDの経時変化を示す図である。
【図6】劣化確認試験の前後における、比較例1で作製した二酸化バナジウムのXRDの経時変化を示す図である。
【図7】劣化確認試験の前後における、比較例2で作製した二酸化バナジウムのXRDの経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、バナジウム化合物を過酸化水素水に含有させたバナジウム溶液を調製し、そのバナジウム含有液を所定の温度に調節したところ、バナジウム酸化物が多孔質体として析出し、これは極めて容易に粉砕することができ、例えばナノメートルサイズの微粒子にして、しかも所定の処理を施すことによりサーモクロミック性を示すルチル型二酸化バナジウム結晶からなる微粒子(以下、単に「ルチル型二酸化バナジウム微粒子」ともいう。)となることを見出した。さらに、これにより得られたルチル型二酸化バナジウム微粒子は空気中で酸化されにくく、経時での安定性に優れたものであることを見出した。本発明はかかる知見に基づきなされたものである。
【0012】
本発明のルチル型二酸化バナジウム微粒子は、空気中で酸化されにくいという特徴を有する。一般に、バナジウム酸化物は0.5〜5価の酸化数をとることが知られている。中でも、4〜5価の間の酸化数をもつ化合物は、空気中で穏やかに酸化され、酸化数の最も高い5価のVまで酸化反応が進行しやすい。本願発明の微粒子は、後述の実施例中で実証されているように、従来品と比較してVへの酸化反応が進行しにくく、時間が経過しても二酸化バナジウムの残存比率が非常に高い。これはすなわち、本願発明の微粒子は、時間が経ってもそのサーモクロミック特性が劣化しにくいということを示す。
【0013】
二酸化バナジウムの劣化の度合いは、経時後の二酸化バナジウムの残存率により表すことができる。二酸化バナジウムの残存率は、具体的には、経時後の前記XRDにおける(011)面のX線ピーク強度の下記結晶性残存率として求めることができ、本願発明の微粒子は、当該結晶性残存率が75%以上であり、好ましくは85%以上であり、より好ましくは90%以上である。この結晶性残存率が75%以上とは、例えばこの微粒子をサーモクロミックフィルムに組み込んで使用したときに、実用上、屋外における使用において一般的な屋外で使用するフィルムの耐用年数を考慮しても十分に対応できる程度である。
【0014】
<結晶性残存率>
二酸化バナジウム微粒子を水中にて85℃で100時間加熱処理を行い、加熱処理前後において当該微粒子の前記XRDによって得られる(011)面のX線ピーク強度(I)を測定し、加熱処理前のピーク強度(I)に対する加熱処理後のピーク強度の比率(I/I)の百分率。数式で表せば下記数式(1)のとおり。
[数式1]
[結晶性残存率(%)]=[(加熱処理後の(011)面のX線ピーク強度(I)(cps)]/[(加熱処理前の(011)面のX線ピーク強度(I)(cps))×100
【0015】
ルチル型二酸化バナジウム微粒子の結晶系は単斜晶系であり、既知の単斜晶系二酸化バナジウムのXRDパターンより同定される。この結晶系において見られる(011)面に帰属される2θ=27.8°付近の(又はd=3.20付近の)X線ピーク強度(I)は測定条件等により変化するため特に限定されないが、後述の実施例に示した手順及び条件で測定したときに50cps以上であることが好ましい。なお、XRDパターン及びそのX線ピーク強度の評価は、特に断らない限り、後述の実施例に記載の方法による。
【0016】
本発明の微粒子は、粒径がナノメートルサイズと小さいことが好ましく、かつ比較的粒子径が揃っていることが好ましい。具体的には、走査型電子顕微鏡(SEM)観察によって測定される一次粒子の短径の平均粒径(以下、単に一次粒子の平均粒径という)が20〜400nmであることが好ましく、20〜200nmであることがより好ましい。また、動的光散乱法による粒度分布測定で得られるメジアン径(以下、単にメジアン径という)が50〜600nmであることが好ましく、50〜400nmであることがより好ましい。このとき特に断らない限り、50個以上の粒子の短径の平均値をいう。なお、一次粒子の平均粒径及びメジアン径は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
このように、本発明の好ましい二酸化バナジウム微粒子は、その粒径が小さく、かつ比較的粒子径が揃っていることから、これを用いてフィルムとした場合、薄膜化、大型化が容易で、かつ高い可視光透過性を有するサーモクロミックフィルムを作製することができる。
【0017】
以下、本発明のルチル型二酸化バナジウム微粒子の製造方法について説明する。
本発明の製造方法では、まず、バナジウム化合物を過酸化水素水に含有させたバナジウム溶液を調製する。本発明に用いるバナジウム化合物としては、特に限定されないが、バナジウムアルコキシド、金属バナジウム、酸化バナジウム、バナジウム塩等が挙げられる。バナジウムは0価から5価の価数を取りうるが、いずれの価数でもかまわない。なかでも、バナジウムアルコキシド、及び酸化バナジウムが好ましい。バナジウムアルコキシドの具体例として、バナジウムトリイソプロポキシドオキシド、バナジウムトリノルマルプロポキシドオキシド、バナジウムトリメトキシドオキシド、バナジウムトリエトキシドオキシド等が挙げられる。また酸化バナジウムの具体例として、五酸化二バナジウム、三酸化二バナジウム、四酸化二バナジウム等が挙げられる。
【0018】
上記のバナジウム化合物を過酸化水素水に溶解する方法は特に限定されず、バナジウム化合物を過酸化水素水に添加して溶解しても、バナジウム化合物に過酸化水素水をそそいでもよい。過酸化水素水には過酸化水素以外にも共溶解物があってもよい。過酸化水素の濃度は、5%〜35%が好ましく、25%〜35%がより好ましい。過酸化水素水に溶解させるバナジウムの量は、後述する析出工程においてバナジウム酸化物が析出できれば特に限定されないが、好ましくは、Hに対して0.5mol%以上であり、より好ましくは1.5mol%以上である。
【0019】
上記バナジウム化合物を過酸化水素水に溶解する温度条件としては、バナジウム化合物が過酸化水素水に溶解できればよく、特に限定されないが、好ましくは0℃〜45℃、より好ましくは20℃〜40℃、特に好ましくは25℃〜35℃である。この温度範囲内でバナジウム含有液を調製した場合、過酸化水素の分解反応を抑え反応系の制御が容易である。また、これにより得られた析出物は粉砕が容易であり、かつ結晶性のよい二酸化バナジウム粒子が得られるという利点がある。
【0020】
次いで、上記で調製したバナジウム含有液を所定の温度に調節し、バナジウム酸化物を析出させる。本発明において、所定の温度とは、バナジウム酸化物が析出される温度であればよく、好ましくは0℃〜45℃であり、より好ましくは20℃〜40℃であり、特に好ましくは25℃〜35℃である。
また、バナジウム酸化物を析出させるときのバナジウム含有液のpHは、0.5〜2.5の範囲に調節することが好ましく、1.0〜2.0の範囲に調節することがより好ましい。pHの調節はアンモニア、水酸化アルカリ、アミン類等のアルカリ化合物、または酢酸、蟻酸などの有機酸や塩酸、硝酸などの無機酸等によって行うことができるが、生成物のコンタミを考慮した場合、加熱する工程において分解あるいは揮発されるアンモニア、アミン類、有機酸が好ましい。ただし、本発明においては、このときアルカリを添加するのはpH調整のためであり、アルカリで加水分解を行わないことが好ましい。
【0021】
本発明の製造方法において、アルカリ加水分解によらず、上記のような穏和な条件下でバナジウム酸化物の多孔質体が得られる理由は、溶液中に溶解した過酸化水素が時間の経過とともに分解し、あるいは気化して、その濃度が低下するためと考えられる。このような緩やかな反応の進行のために、本発明によれば、ナノメートルサイズにまで簡便に粉砕可能な多孔質状の析出物が得られると考えられる。
【0022】
後述の実施例で実証されているように、本発明の方法では、バナジウム含有液を所定の温度範囲に調節して析出させることで、得られる析出物の性質を制御することができる。好ましくは、上述の温度範囲で析出されたバナジウム酸化物(析出物)は、ポーラス状(多孔質)で、かつ空隙が大きいという特徴を有する。この析出物の形状・性質は、ミリング等の物理的粉砕を容易にするという利点を有する。このように、本発明の方法では、室温付近の温度条件でバナジウム酸化物が析出し、得られる析出物が容易に粉砕可能なため、煩雑な操作・機器等を必要とせず、極めて簡便な方法でバナジウム酸化物の微粒子を得ることができる。
【0023】
さらに、本発明の製造方法においては、上記析出工程により得られたバナジウム酸化物を還元処理して、二酸化バナジウムを調製する。つまり、上記析出工程を経た後のバナジウム酸化物は幾らか又は相当量において五価のもの(V)となっており、還元処理によりこれを四価の二酸化バナジウム(VO)にすることができる。還元処理は、通常の方法で行うことができる。例えば、水素、メタン、アンモニア、ブタジエンなどの還元ガス雰囲気下で加熱処理を行うことが挙げられる。本発明においては、水素気流中で上記還元処理を行うことが特に好ましい。還元処理の温度及び時間は、特に限定されないが、還元が進みすぎず効率的に二酸化バナジウムを得るという観点からは、300℃〜400℃で1〜6時間程度行うことが好ましく、330℃〜350℃で2〜4時間程度行うことがより好ましい。
【0024】
続いて、還元処理で得られた二酸化バナジウムの結晶性向上もしくは結晶相変換のための加熱処理を行うことが好ましい(以下、結晶系変換工程ともいう)。一般に、二酸化バナジウムには様々な結晶相が存在し、サーモクロミック材料として使用するためには、好適に金属相へ相転移可能な結晶相である、ルチル型を得ることが望ましいが、後述の実施例で示すように、上述の還元処理によって得られた二酸化バナジウムにはVO(B)と呼ばれる結晶相が含まれており、これを加熱処理によってルチル型へと結晶相を変換することができる。
本発明において、加熱処理はルチル型を得ることができればよく、通常の方法で行うことができる。具体的には、真空加熱処理、不活性ガス雰囲気下での加熱処理、不活性ガスに還元ガスを混合させた雰囲気下での加熱処理が挙げられる。なかでも、真空下又は不活性ガス雰囲気下で加熱処理を行うことが好ましく、不活性ガス雰囲気下で加熱処理を行うことが特に好ましい。
加熱処理の温度及び時間は、特に限定されないが、VO(B)からルチル型への結晶相変換が十分進行するように、380℃以上で1時間以上行うことが好ましく、500℃〜600℃で2〜3時間程度行うことがより好ましい。
【0025】
本発明の製造方法においては、前記析出工程でバナジウム酸化物を析出させた後の特定の時期に、この析出物を粉砕する工程を含めることができる。具体的には、前記析出工程の後、前記還元処理工程の後、及び前記結晶相変換工程の後のいずれか、又はその複数の段階で、適宜粉砕を行うことができる。この粉砕工程は1回であってもよく、複数回行ってもよい。特に、結晶相変換工程の後に粉砕を行なうことが好ましく、還元処理工程の後及び結晶相変換工程の後に粉砕を行なうことが特に好ましい。
析出物を粉砕する方法としては、通常の機械的・物理的な粉砕方法・装置を用いることができる。粉砕装置としては、例えばボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、サイクロンミル、ビーズミル、ハンマーミル、ピンミル等が挙げられる。
【0026】
本発明の製造方法では、バナジウム化合物を過酸化水素水に含有させる際に、タングステン化合物又はモリブデン化合物をさらに含有させることも好ましい態様である。バナジウム化合物とともにタングステン化合物又はモリブデン化合物を過酸化水素水に添加することで、バナジウム化合物の一部がタングステン又はモリブデンで置換され、相転移温度を変化させることができる。通常、タングステン化合物又はモリブデン化合物の添加により相転移温度を下げることができ、その量の増加にともなって相転移温度をより大きく下げ所望の範囲に制御することが可能である。
よって、本発明においては、前記過酸化水素水に含有させるタングステン化合物又はモリブデン化合物の量に特に制限はく、相転移温度の観点から、適宜選択すればよいが、実際上、共存するバナジウム原子に対するタングステン原子及び/又はモリブデン原子の量で12原子%以下となる量が好ましく、8原子%以下となる量がより好ましく、3原子%以下となる量が好ましい。ドープされたタングステン原子及び/又はモリブデン原子の量でいうと3原子%以下であることが好ましく、1〜2原子%であることがより好ましい。
本発明の製造方法では、バナジウム化合物を過酸化水素水に添加するのと同じ段階でタングステン化合物又はモリブデン化合物を添加することができるため、バナジウム化合物に対するタングステン化合物又はモリブデン化合物の比率を正確にコントロールすることができる。そのため、容易かつ的確に相転移温度をコントロールでき、所望の相転移温度を有するサーモクロミック材料を細かく作り分けて製造することができる。
本発明に用いるタングステン化合物としては特に限定されないが、ペンタエトキシタングステンなどのタングステンアルコキシド、三酸化タングステン、二酸化タングステンなどの酸化物、水酸化タングステン(タングステン酸)、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸アンモニウム水和物、五塩化タングステンや六塩化タングステンなどのタングステン塩などが挙げられる。本発明に用いるモリブデン化合物としては特に限定されないが、ペンタエトキシモリブデンなどのモリブデンアルコキシド、三酸化モリブデン、二酸化モリブデンなどの酸化物、ヘプタモリブデン酸アンモニウムなどのモリブデン酸塩、水酸化モリブデン(モリブデン酸)、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸アンモニウム水和物、六塩化モリブデンなどのモリブデン塩などが挙げられる。
【0027】
さらに、本発明の二酸化バナジウム微粒子を、例えば樹脂等に練りこみ成形することでサーモクロミックフィルムを得ることができる。
サーモクロミックフィルムとする場合、本発明の二酸化バナジウム微粒子の含有量は、フィルムの厚さ、用いる樹脂等の種類、フィルムの用途等によって異なり、特に制限されないが、樹脂100質量部に対して、好ましくは0.001〜1質量部、より好ましくは0.01〜0.1質量部である。含有量が多すぎると、フィルムの可視光透過を低下させる原因となることがあり、少なすぎると十分なサーモクロミック効果を得られないことがある。
【0028】
本発明のサーモクロミックフィルムを作製するときに用いる樹脂としては、フィルムに形成できるものであれば、天然樹脂、半合成樹脂、および合成樹脂のいずれであってもよく、また熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂のいずれであってもよい。具体的な樹脂としては、例えばポリオレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド、ポリスチレン、ポリアセタール、ポリカーボネイト、アクリル樹脂、フッ素樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、およびフェノール樹脂等がある。
必要に応じ、可塑剤、滑剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、防曇剤、熱安定剤、アンチブロッキング剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、分散剤、および/または表面改質剤等を配合することもできる。
【0029】
サーモクロミック材料は、樹脂と混合、混練し、常法によりフィルム化することができる。例えば、インフレーション加工、カレンダー加工、またはTダイ加工を用いることができる。
さらに、フィルムの片面または両面に樹脂層を設けて多層フィルムとすることができる。サーモクロミック材料はどの層に入れてもかまわない。多層フィルムは常法により、例えば、ドライラミネーション、ヒートラミネーション、インフレーション共押し出しにより作製することが出来る。また、樹脂にサーモクロミック材料を添加し塗工することも出来る。塗工方法として、ブレードコーティング、グラビアコーティング、ロッドコーティング、ナイフコーティング、リバースロールコーティング、キスコティング、スプレーコティング、オフセットグラビアコーティング、ディップコート、バーコート、グラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、エアナイフコーティング、マイヤーバーコーティング、およびスプレーコーティング等を用いることができる。
【0030】
本発明のサーモクロミックフィルムは、ガラスに限らず様々な対象(基材)に適用可能であり、また、基材のサイズを選ばず大型のサーモクロミック材料の製造にも有用である。さらに、本発明の二酸化バナジウム微粒子は、空気中で酸化されにくいという特徴を有するため、サーモクロミック効果の長期的維持が期待できる。
【0031】
本発明のルチル型二酸化バナジウム微粒子は、一定温度以上になると可視光線を透過するが、熱線を遮断する赤外線遮断材として好適に用いることができ、例えば、建築物や自動車等の乗り物に用いる窓ガラス、大型テントハウス等の膜建造物、農業用フィルム等のサーモクロミック材料として有用である。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において単に「部」又は「%」というとき、特に断らない限り、質量基準である。
【0033】
以下に、実施例及び比較例における物性値の測定方法をまとめて示す。
(1)粉末X線回折(XRD)
粉末X線回折装置(商品名:RAD−2、製造元:株式会社リガク、光源:銅 Kα)を用い、各スペクトルにおいて2θ=5〜60°の範囲を走査間隔0.01°、走査速度4°/min.の条件で試料を測定した。得られたXRDパターンを既知の単斜晶系二酸化バナジウム結晶のプロファイルと対比して同定した。また、(011)面に帰属される2θ=27.8°付近の(又は面間隔d=3.20付近の)X線ピーク強度を、劣化確認試験後のルチル型二酸化バナジウムの残存率の評価に用いた。二酸化バナジウムの残存率(%)は、劣化確認試験前のX線ピーク強度:I(cps)に対する、劣化試験後のX線ピーク強度I(cps)の比率とし、前記式(1)により求めた。なお、劣化確認試験は0.2gの微粒子を100gの蒸留水中に入れて行った。
【0034】
(2)一次粒子の平均粒径
走査型電子顕微鏡(SEM)(商品名:JSM−6390LA、製造元:日本電子株式会社)を用い、二酸化バナジウムの粒径・形状観察を行った。試料は全て真空蒸着装置(商品名:JFC−1600、製造元:日本電子株式会社)にて白金の蒸着(条件:白金ターゲット・試料間距離45mm、蒸着電流10mA、蒸着時間60秒)を行った。粒径の見積もりは高真空モード、加速電圧5〜15kV、観察倍率は5万倍にて任意の粒子50個について短径を測長し平均値を算出した。
(3)メジアン径
粒度分布測定(商品名:ナノトラックUPA、製造元:日機装株式会社)を用い、動的散乱法による粒度分布測定を行った。水50mLをマグネティックスターラーを用い攪拌しながらVOまたはWドープVO粉末を0.05g分散させ測定サンプルとした。測定サンプルは長時間おくと沈殿を起こしてしまうため、粉末を分散させた後はすみやかに測定を行った。
【0035】
実施例1
35%過酸化水素水500mlにバナジウムトリイソプロポキシドオキシド25gを添加し、30℃で攪拌し、バナジウム含有溶液を得た。このバナジウム溶液を攪拌しながらpH1.8に調整し、35℃で15時間静置したところ、バナジウム酸化物が析出した。この析出物をSEM観察した。その結果、析出物は多孔質状の構造を有することが認められた。
得られたバナジウム酸化物を、スターミルラボスターミニ(アシザワファインテック株式会社製)を用いて粉砕し、水素気流中にて330℃で2時間加熱し、還元処理をした。還元処理後の粉末についてXRD測定を行った。その結果、得られた粉末は、ほぼすべてVO(B)であることが確認された。
還元処理後のVO(B)粉末を、真空条件下にて500℃で約3時間加熱した。真空加熱後の粉末についてXRD測定を行ったところ、ルチル型の二酸化バナジウムであることが確認された(図1)。得られたルチル型二酸化バナジウム微粒子をSEM観察した(図2)。SEM画像より求めた一次粒子の短径の平均が約260nmであった。また動的光散乱法のより求めたメジアン径は338nmであった。また、示差走査熱量測定(DSC)より求めた相転移温度は68℃であった。
【0036】
実施例2
バナジウム酸化物を析出させる際の析出温度を、35℃から25℃に変更した以外は実施例1と同様にして、ルチル型二酸化バナジウム微粒子を得た。実施例1同様、バナジウム酸化物(析出物)は多孔質状の構造を有しており、真空加熱後のSEM画像より求めた一次粒子の短径の平均は約220nm、また動的光散乱法のより求めたメジアン径は286nmであった。またXRD測定の結果、ルチル型二酸化バナジウムであることが確認された。
【0037】
実施例3
還元処理を、300℃〜370℃の温度範囲で変え、また2〜9時間の範囲で変えて加熱を行った以外は、実施例1と同様にして、ルチル型二酸化バナジウム微粒子を得た。この際、還元処理時の温度が330〜350℃前後であって、加熱時間が2〜4時間の場合が、最も効率よく二酸化バナジウムを得られることがわかった。
【0038】
実施例4
還元処理を、340℃、4時間で行い、真空加熱処理を350℃又は500℃、1時間で行った以外は、実施例1と同様にして、ルチル型二酸化バナジウム微粒子を得た。真空加熱処理の前後で、それぞれXRD測定を実施例1と同様に行った。結果を図3(a)〜(c)に示す。図3から、二酸化バナジウムの結晶形は、真空加熱処理前の段階(すなわち還元処理後の段階)では、ほぼ全てVO(B)であるが(図3(a))、500℃で1時間真空加熱することで、ほぼ全てがルチル型へと移行することがわかる(図3(c))。350℃で1時間の真空加熱処理を行った場合は、わずかにルチル型への変化が見られた(図3(b))。
【0039】
実施例5
35%過酸化水素水100gに五酸化二バナジウム3.9gを添加し、30℃で攪拌し、バナジウム含有溶液を得た。このバナジウム溶液を攪拌しながらpH1.4に調整し30℃で15時間攪拌したところ、バナジウム酸化物が析出した。これを水素気流中にて330℃で2時間加熱し還元処理をした。還元処理後の粉末についてXRD測定を行ったところ、ほぼすべてVO(B)であることが確認された。
還元処理後のVO(B)粉末を、真空条件下にて500℃で約3時間加熱した。また得られた粉末のXRD測定を行ったところ、ルチル型二酸化バナジウムであることが確認された。得られたルチル型二酸化バナジウム微粒子をSEM観察した(図4)。SEM画像より求めた一次粒子の短径の平均が約100nm、また動的光散乱法のより求めた149nmであった。
【0040】
実施例6
35%過酸化水素水500gにバナジウムトリイソプロポキシドオキシドを25gとタングステンペンタエトキシド2.2gを添加、30℃で攪拌しバナジウム含有溶液を得た。このバナジウム溶液を攪拌しながらpH1.8に調整し30℃で15時間攪拌したところ、析出物が得られた。これを水素気流中にて340℃で4時間加熱し還元処理をした。還元処理後の粉末についてXRD測定を行ったところ、VO(B)であることが確認された。
還元処理後の粉末を、真空条件下にて500℃で約3時間加熱した。真空加熱後の粉末のSEM画像より求めた一次粒子の短径の平均は110nm、また動的光散乱法のより求めたメジアン径は148nmであった。またXRD測定を行ったところ、ルチル型二酸化バナジウムであることが確認された。DSCより求めた相転移温度は37℃であった。ドープされたタングステンの量は1.35atm%であった(ICPにて測定)。
【0041】
実施例7
35%過酸化水素水500gに五酸化二バナジウムを9.8gとタングステン酸アンモニウム5水和物1.5gを添加、30℃で攪拌しバナジウム・タングステン含有溶液を得た。このバナジウム・タングステン溶液を攪拌しながら30℃で48時間攪拌したところ、析出物が得られた。これを水素気流中にて340℃で2時間加熱し還元処理をした。引き続き窒素気流中にて500℃で約2時間加熱した。加熱後の粉末のSEM画像より求めた一次粒子の短径の平均は約110nm、また動的光散乱法のより求めたメジアン径は144nmであった。またXRD測定を行ったところ、ルチル型の二酸化バナジウムであることが確認された。DSCより求めた相転移温度は36℃であった。ドープされたタングステンの量は1.39atm%であった(ICPにて測定)。
【0042】
実施例8
35%過酸化水素水500gにバナジウムトリイソプロポキシドオキシドを25gとモリブデンペンタエトキシド1.7gを添加、30℃で攪拌しバナジウム含有溶液を得た。このバナジウム溶液を攪拌しながらpH1.7に調整し30℃で15時間攪拌したところ、析出物が得られた。これを水素気流中にて340℃で4時間加熱し還元処理をした。
還元処理後の粉末を、真空条件下にて500℃で約3時間加熱した。真空加熱後の粉末のSEM画像より求めた1次粒子の短径の平均値は約180nm、また動的光散乱法のより求めたメジアン径は223nmであった。またXRD測定を行ったところ、ルチル型の二酸化バナジウムあることが確認された。DSCより求めた相転移温度は57℃であった。ドープされたタングステンの量は1.30atm%であった(ICPにて測定)。
【0043】
比較例1
比較例として、下記の製法によりシリカ微粒子に二酸化バナジウムを担持させたサーモクロミック材料を得た。
エタノール510ml、イオン交換水42ml、28%アンモニア水溶液5ml、およびテトラエトキシシラン42mlを混合し室温で72時間攪拌することによりシリカゲル微粒子分散液を得た。このシリカゲル微粒子分散液に1−ブタノール570mlを添加し、110℃で蒸留することにより溶媒置換を行なった。このシリカゲル微粒子分散液にバナジウムトリイソプロポキシドオキシド13.7gをイソプロパノール130mlに溶解したものを添加した。そして1時間攪拌後、溶媒を除去した。残渣を解砕後、400℃で2時間焼成し、引き続き水素気流中で450℃で2時間焼成することによりサーモクロミック材料を得た。
【0044】
比較例2
市販の二酸化バナジウム(株式会社高純度化学研究所製)を、下記の劣化確認実験に用いた。
【0045】
比較例3
35%過酸化水素水100gに五酸化二バナジウム2gを添加し20℃で攪拌し、バナジウム含有溶液を得た。このバナジウム溶液を攪拌しながら、水酸化ナトリウム0.5%溶液をpH2.0まで添加し、バナジウム酸化物を析出させた。そして1時間攪拌後溶媒を除去した。残渣を解砕後、400℃で2時間焼成し、引き続き水素気流中で450℃で2時間焼成することによりサーモクロミック材料を得た。なお、上記の方法で得られたものは、沈殿物の凝集性が高く粉砕しにくく、実際的な方法では粒子径を十分に小さくすることが難しかった。また、後述する耐劣化性にも劣っていた。
【0046】
<劣化確認試験>
実施例1及び比較例1及び2で作製した二酸化バナジウム粉末0.2gを用いて、下記の二酸化バナジウム劣化確認試験を行った。
二酸化バナジウム粉末0.2g、及びイオン交換水100gを、容器の蓋にピンホールを開けたガラス製容器に入れ、蓋をした後、85℃の恒温装置にて100時間加熱した。二酸化バナジウムをろ別、乾燥後、XRD測定を行なった。結果を図6及び7に示す。
【0047】
図5から明らかなように、実施例1の単斜晶系二酸化バナジウム微粒子は、100時間経過後もほとんどXRDパターンに変化が見られず、酸化反応の進行による二酸化バナジウムの劣化がほとんどないことが確認できた。したがって、本発明の方法により製造されたルチル型二酸化バナジウム微粒子は、製造後もサーモクロミック特性が劣化しにくく、経時における安定性が高いことがわかる。
これに対し、図6、図7に示されるように、比較例では、時間の経過とともに二酸化バナジウムが減少し、その一方で二酸化バナジウムの酸化反応によってV13、Vが生成していることが確認された。
【0048】
<結晶性残存率等の測定>
実施例1及び比較例1〜3で作製した二酸化バナジウムを試料として残存率、一次粒子の平均粒径、メジアン径をそれぞれ測定した。結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
上記表1の結果より、本発明の好ましい実施形態(実施例)に係るルチル型二酸化バナジウム結晶からなる微粒子は、ナノメートルサイズにまで微細化されているにも拘らず、公知の微粒子(比較例)に対して、空気中で酸化されにくく経時での極めて高い安定性を示し、サーモクロミック材料として新規かつ有用であることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルチル型二酸化バナジウム結晶からなる微粒子であって、下記結晶性残存率が75%以上である二酸化バナジウム微粒子。
[結晶性残存率:ルチル型二酸化バナジウム結晶からなる微粒子の粉末X線回折における(011)面のピーク強度(I)に対する、当該微粒子を水中にいれ85℃で100時間加熱を行った後における前記(011)面のX線ピーク強度(I)の比率(I/I)の百分率。]
【請求項2】
一次粒子の短径の平均粒径が20〜400nmであることを特徴とする請求項1記載の二酸化バナジウム微粒子。
【請求項3】
メジアン径が50〜600nmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の二酸化バナジウム微粒子。
【請求項4】
バナジウム化合物を過酸化水素水に含有させたバナジウム含有液を調製し、前記バナジウム含有液を特定の温度に調節してバナジウム酸化物を多孔質体として析出させ、該多孔質体を粉砕し、この粉砕されたバナジウム酸化物に還元処理及び加熱処理を施して得られたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の二酸化バナジウム微粒子。
【請求項5】
サーモクロミック材料であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の二酸化バナジウム微粒子。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の二酸化バナジウム微粒子を含有するサーモクロミックフィルム。
【請求項7】
バナジウム化合物を過酸化水素水に含有させたバナジウム含有液を調製する工程、
前記バナジウム含有液を所定の温度に調節してバナジウム酸化物を多孔質体として析出させる工程、
前記バナジウム酸化物を還元処理する工程、
前記還元処理を施したバナジウム酸化物に加熱処理を施す工程、及び
前記バナジウム酸化物を多孔質体として析出させた後の所定の時期にこれを粉砕する工程
を有することを特徴とする二酸化バナジウム微粒子の製造方法。
【請求項8】
前記バナジウム酸化物を析出させる温度を0〜45℃の範囲で調節することを特徴とする請求項7に記載の二酸化バナジウム微粒子の製造方法。
【請求項9】
前記バナジウム酸化物を析出させるとき、前記バナジウム含有液のpHを0.5〜2.5の範囲で調節することを特徴とする請求項7又は8に記載の二酸化バナジウム微粒子の製造方法。
【請求項10】
前記バナジウム化合物がバナジウムアルコキシドあるいは五酸化二バナジウムであることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の二酸化バナジウム微粒子の製造方法。
【請求項11】
前記過酸化水素水に、さらにタングステン化合物又はモリブデン化合物を含有させることを特徴とする請求項7〜10のいずれか1項に記載の二酸化バナジウム微粒子の製造方法。
【請求項12】
前記過酸化水素水に含有させるタングステン化合物又はモリブデン化合物の量を、共存するバナジウム原子に対するタングステン原子及びモリブデン原子の総量で12原子%以下となる量にする請求項11に記載の二酸化バナジウム微粒子の製造方法。
【請求項13】
前記バナジウム酸化物の還元処理が、水素還元処理であることを特徴とする請求項7〜12のいずれか1項に記載の二酸化バナジウム微粒子の製造方法。
【請求項14】
前記加熱処理が、真空加熱処理もしくは不活性ガス雰囲気下での加熱処理であることを特徴とする請求項7〜13のいずれか1項に記載の二酸化バナジウム微粒子の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−136873(P2011−136873A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−298341(P2009−298341)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000215615)鶴見曹達株式会社 (49)
【Fターム(参考)】