説明

亜鉛高含有コムギ

【課題】玄穀中に亜鉛を高濃度含有するコムギ及びその製造法の提供。
【解決手段】玄穀中に亜鉛を4.0mg/100g以上含有するコムギ完熟子実及び亜鉛濃度として0.01〜2重量%含有する液を、コムギの小穂分化期から葉面又は葉面及び小穂に散布する玄穀中に亜鉛を4.0mg/100g以上含有するコムギの製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、玄穀中に亜鉛を高濃度含有し、食品また食品材料として有用なコムギ及びその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトが生命を維持するためには鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、セレン(Se)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、ヨウ素(I)、ケイ素(Si)、フッ素(F)、ヒ素(As)、鉛(Pb)などといった微量金属元素を体外から摂取する必要があり、これらの元素は必須元素と呼ばれている(非特許文献1)。なかでも亜鉛(Zn)は人体内に微量金属元素としては鉄についで多く含まれており、カルボキシペプチダーゼ、炭酸脱水素酵素、アルコール脱水素酵素などの重要な酵素に含有され、体内の代謝系で重要な役割を担っていることが知られている。また、亜鉛が欠乏すると成長障害、性機能低下、皮膚や毛髪の損傷、味覚異常などを示すことが知られており問題となっている。さらに、成人の亜鉛所要量は1日当たり12〜15mgとされている一方で、平均的な日本食では1日あたり9mg程度しか亜鉛を摂取できないとされ、日本人の亜鉛不足が問題視されている(非特許文献2)。このことから平成14年には厚生労働省が栄養機能食品成分として亜鉛を追加し、また平成16年には文部科学省により給食中亜鉛含量の目標値が設定されるなどといった公的機関による対策が講じられている。
【0003】
以上のように、亜鉛(Zn)は人体が生命活動を営む上で重要であるため、適正量を日常的な食事によって摂取することが望まれている。しかしながら、これらの元素を多く含む食品は比較的限られている。例えば亜鉛(Zn)は牡蠣(カキ)中には13.2mg/100g、牛レバーには3.8mg/100gといった高い濃度で含有されている(非特許文献3)。しかしながら、現在の日本人の食生活習慣においてこれらの食材を毎日摂取するのは一般的とはいえない。これに対してコムギはパンやうどん、スパゲティなど麺類などに加工されて日常的に摂取できる食材といえる。この点からコムギにこれらの微量金属元素の含有量を高めることができれば有用と考えられるが、コムギの栽培法に関する技術分野では微量金属元素の研究は必要最低限の施肥方法などの研究は行われているものの、可食部に積極的に取り込ませる技術については満足できるものではなかった。
【0004】
コムギではないものの、最近ライムギの子実中の亜鉛含量を高めるために遺伝子組み換えによってシロイヌナズナ由来の亜鉛トランスポーター遺伝子を過剰発現させるという技術が開発された。しかしながら、この遺伝子組み換え体に亜鉛を施肥しても亜鉛吸収速度は高まらなかった(非特許文献4)。この原因については亜鉛トランスポーター遺伝子が発現していても亜鉛が存在すると他の金属トランスポータータンパク質でみられる(非特許文献5)ように、翻訳後調節によって亜鉛トランスポータータンパク質が消失してしまうためではないかと考察されている。このように現在先端的な技術である遺伝子組み換え技術を用いても作物の可食部に亜鉛などの微量金属元素をとりこませることは困難である。
【0005】
また、従来の施肥技術の一つとして葉面散布法も実用化されている。この方法は散布液が直接接触する細胞中に肥料成分を取り込ませることは可能であるため、葉の要素欠乏症状の防止もしくは改善させるといったことは出来る。しかしながら、葉から種子中に転流させる、すなわち、複数の細胞間を移行させることによって、散布液が直接接触することのない種子中に金属元素含量を高濃度で蓄積させるといった技術はみられなかった。特に亜鉛は窒素、リン、カリウム、マグネシウムなどといった転流しやすい元素ではない(非特許文献6)ため、従来の葉面散布方法では種子中に高濃度で蓄積させることは困難であった。
【非特許文献1】桜井・田中(編著)1993.生物無機化学.廣川書店
【非特許文献2】冨田1998.元気になるミネラル 亜鉛パワーの秘密.宙出版
【非特許文献3】香川(監)2003.『五訂食品分析表2003』女子栄養大学出版部
【非特許文献4】Rameshら2004.Plant Mol.Biol.
【非特許文献5】Connolyら2002.Plant Cell
【非特許文献6】Marschner1995.Mineral Nutrition of Higher Plants(2nd ed.)Academic Press
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、コムギの可食部、すなわち子実中に亜鉛を高濃度含有するコムギ及びその製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者は、コムギの子実中に亜鉛を高濃度で取り込ませるべく種々検討した結果、全く意外にも、亜鉛含有液を葉面及び小穂に散布することにより、土壌に施用する場合に比べて高濃度に子実中に取り込まれ、子実中の亜鉛濃度が従来にない高濃度のコムギが得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、玄穀中に亜鉛を4.0mg/100g以上含有するコムギ完熟子実を提供するものである。
【0009】
また、本発明は、亜鉛濃度として0.01〜2重量%含有する液を、コムギの小穂分化期から葉面又は葉面及び小穂に散布することを特徴とする完熟子実玄穀中に亜鉛を4.0mg/100g以上含有するコムギの製造法を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、亜鉛濃度として0.01〜2重量%含有するコムギの葉面又は小穂散布用液であって、完熟子実玄穀中に亜鉛を4.0mg/100g以上含有するコムギ製造用資材を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のコムギ子実は、従来遺伝子組み換え技術によっても作製し得なかった高濃度の亜鉛を含有しており、栄養価の高い食品及び食品材料として有用である。
また、本発明のコムギの製造法は、土壌施用でなく、葉面等への散布であることから、土壌に亜鉛を大量に施肥した場合に生じるとされている、土壌中の鉄の吸収移動を阻害し、鉄欠乏症状を引き起こしてしまう、いわゆる“重金属誘導クロロシス”という問題(熊沢・西沢1976.植物の養分吸収.東京大学出版会)が生じない。また、土壌に大量に施用した場合は河川への流亡も環境保全上問題となる。例えば日本においては平成15年の環境基本法改正により河川や海水中の亜鉛濃度基準が10〜30μg/L以下と設定されているが、本発明方法によれば、かかる問題も生じない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のコムギ完熟子実は、玄穀中に亜鉛を4.0mg/100g以上含有する。通常完熟コムギ玄穀中の亜鉛濃度は2.0〜3.2mg/100gとされており、本発明のように高濃度の亜鉛を含有する完熟コムギ子実は知られていない。完熟コムギ玄穀中のより好ましい亜鉛濃度は4.0〜12.0mg/100gであり、特に好ましくは4.5〜8.0mg/100gである。ここで、亜鉛濃度は原子吸光法、ICP発光分析法、ICP質量分析法により測定でき、この濃度は乾燥物100g中の亜鉛含有量(mg)である。
【0013】
本発明におけるコムギとしては、パンコムギ(Triticum aestivum)、デューラムコムギ(Triticum durum)、クラブコムギ(Triticum compactum)、エンマコムギ(Triticum dicoccum)、ポーランドコムギ(Triticum polonicum)、イギリスコムギ(Triticum turgidum)、スペルトコムギ(Triticum spelta)、ヒトツブコムギ(Triticum monococcum)及びその交雑種等が挙げられるが、このうちパンコムギ、デューラムコムギ、クラブコムギが好ましく、特にパンコムギが好ましい。ここでパンコムギには、秋播き小麦、春播き小麦が含まれる。
【0014】
本発明の子実中に高濃度亜鉛を含有するコムギは、亜鉛濃度として0.01〜2重量%含有する液を、小穂分化期から葉面又は葉面及び小穂に散布することにより製造できる。
本発明者等の検討によれば、コムギの子実中に亜鉛を高濃度に吸収させるには、土壌処理でなく、葉面又は小穂散布が好ましいことが判明した。従って、亜鉛濃度として0.01〜2重量%含有し、コムギの葉面又は葉面及び小穂散布用液は、子実玄穀中に亜鉛を4.0〜12.0mg/100g以上含有するコムギ製造用資材として有用である。
【0015】
散布に用いる液(以下、葉面散布資材ということもある)は、亜鉛を0.01〜2重量%含有する液が好ましい。当該液を調製するために用いる亜鉛としては水溶性があれば特に制限はなく、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、硝酸亜鉛、蟻酸亜鉛、酢酸亜鉛、及びEDTA亜鉛のようなキレート体亜鉛などが挙げられる。このうち、子実への亜鉛移行性の点から硫酸亜鉛が特に好ましい。
葉面散布資材中の亜鉛濃度としては、亜鉛として0.02〜1重量%が好ましく、特に0.1〜0.5重量%が好ましい。
【0016】
また、本発明で用いる葉面散布資材には、海藻抽出物を含有させることにより、コムギ子実への亜鉛移行率が向上する。海藻としては褐藻類が好ましく、なかでもコンブ目(Laminariales)が好ましい。さらにチガイソ科(Alariaceae)が好ましい。最も好適なのはアイヌワカメ(Alaria praelonga)である。これらの原料となる海藻は水分を含んだままでもよいし、乾燥させてもよいが、処理のしやすさを考慮すると乾燥物のほうが好ましい。
【0017】
海藻抽出物の葉面散布資材中の含有量は、乾燥物換算で0.1〜20重量%、さらに1〜10重量%、特に3〜5重量%が好ましい。
【0018】
海藻抽出物は、例えば以下の如くして調製できる。材料となる海藻は希硫酸水あるいは希塩酸水などの酸を加え、60℃以上に加温することによって加水分解を行う。この場合、用いる酸の種類は硫酸が好ましく、濃度は0.5〜2Nが好ましい。加温する温度については分解速度の速さから煮沸するのが好ましい。得られた加水分解物は適宜アルカリを加えることによってpHを調整したのち、遠心分離又はろ過により固形分を取り除き、海藻抽出物を得る。好ましい葉面散布資材を得るには、この海藻抽出物そのもの又は希釈液に亜鉛を適宜添加すればよい。
【0019】
葉面散布資材には、葉面及び小穂への付着性を高めるため、農業上通常用いられる展着剤、界面活性剤を添加するのが好ましい。用いる展着剤、界面活性剤は特に制限はないが、界面活性剤としては非イオン性、陰イオン性、陽イオン性及び両イオン性のいずれも使用することが出来る。例を挙げると、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、オキシエチレンポリマー、オキシプロピレンポリマー、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル、第四級アンモニウム塩、オキシアルキルアミン、レシチン、サポニン等である。また、必要に応じてゼラチン、カゼイン、デンプン、寒天、ポリビニルアルコール、アルギン酸ソーダなどを補助剤として用いることが出来る。
【0020】
葉面散布資材を散布する場合、農業上通常用いられる葉面散布用肥料と混合してもよい。この場合、肥料成分としては特に制限はないが、溶解後アルカリ性を示すものについては亜鉛が塩として沈殿を起こすため好ましくない。混合する場合に好ましい肥料成分を例示すれば、尿素、燐酸アンモニウム、塩酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、燐酸、ピロ燐酸、などが挙げられる。中でも尿素の混用は亜鉛の吸収量を高める場合があるため好ましい(MortvedtとGilkes1993.Zinc fertilizer.“Zinc in soils and plants”Kluwer academic publishers)。
【0021】
本発明のコムギを栽培する場合の土壌に施用する基肥・追肥はその地域で行われている施肥量・施肥方法に準拠すればよい。ただし、土壌に亜鉛処理すれば子実中亜鉛含量をさらに若干増加させることが出来ることは言うまでもない。
【0022】
本発明のコムギを栽培する場合の栽植密度は、その地域で推奨されている密度でよいが、葉面散布資材中の亜鉛濃度を0.1重量%以上とする場合は、減収を軽減する目的で栽植密度(単位面積あたり播種量)を通常より1.2〜2倍高めることが好ましい。
【0023】
葉面散布資材の散布方法としては、小穂及び葉の裏面まで葉面散布資材が展着するようにすることが望ましい。ブームスプレーヤーを使用する場合は散布液量を1ヘクタール当たり1000リットル以上、好ましくは1000〜3000リットル、より好ましくは1200〜2000リットルとすることが望ましい。その際、噴霧器の加圧は2〜3MPaと高めに設定することが好ましい。また、噴孔を小さくするなど、噴霧される液の粒子径が小さくなるような装置を使用した方がよい点については言うまでもない。また、静電気を利用することにより噴霧液の植物体への付着を促進させるいわゆる静電噴霧機や静電噴霧ノズル口を用いることも望ましい。
【0024】
葉面散布資材の散布時期については小穂分化期から小穂が黄化する時期までがよく、特に穂ばらみ期〜黄化直前までの時期が好ましい。葉面散布資材の散布間隔については1日1回乃至2週間に1回が好ましい。さらに1週間〜2週間に1回散布することがより好ましい。また、作物生育期間中での合計散布回数は2〜8回が好ましい。
【実施例】
【0025】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0026】
製造例1
海藻エキスの調製
アイヌワカメ(Alaria praelonga)、チガイソ(Alaria crassifola)、マコンブ(Laminaria japonica)、スジメ(Costraia costata)の乾燥物はそれぞれハサミで5cm角に細断した。これらの細断物450gに1N硫酸を2,550mL加え、2時間撹拌しながら煮沸した。得られた液体は容器をクラッシュアイス内に入れることにより冷却し、ついで遠心分離機により8,000G×60分で遠心分離した。得られた上澄み1.5Lに水1Lを加えて希釈し、硫酸亜鉛七水和物2.5kgを加えて溶かした。この液に水酸化カリウムを加えpH2.0に調整した。このうち、アイヌワカメを原料としたものを亜鉛入りアイヌワカメエキスと以後称することとする。なお、アイヌワカメ現物中の亜鉛含量は2.34mg/kgであることから、亜鉛含有アイヌワカメエキス中でアイヌワカメそのものに由来する亜鉛は0.11mg/kgに過ぎず、実質上無視できる。
【0027】
実施例1
北海道上川郡清水町の圃場においてコムギ品種「ホクシン」を栽培した。基肥は『北海道施肥ガイド』(北海道農政部編2002、社団法人 北海道農業改良普及協会)の秋まきコムギの施肥基準に準じて行った(標準施肥区)が、その一部に硫酸亜鉛(ZnSO4)を亜鉛含量として5.7及び11.4kg/ha施用した硫酸亜鉛土壌施用区、酸化亜鉛(ZnO)を亜鉛含量として20.6及び41.2kg/ha施用した酸化亜鉛土壌施用区を設けた。播種は9月15日にドリル播きにて行い、播種量は100kg/haとした。標準施肥区で生育している植物体に小穂分化期である5月19日より2週間おきに6回、硫酸亜鉛七水和物の0.5%及び1%水溶液(亜鉛濃度としては0.11%及び0.22%)、及び製造例1に示した亜鉛含有アイヌワカメエキスの1%、2%水溶液(亜鉛濃度としては同じく、0.11%、0.22%となる)にポリオキシエチレンヘキシタン脂肪酸エステル含有展着剤アプローチBI(花王(株)社製)を0.1%加えたものを150mL/m2葉面散布した。試験は各処理2反復とした。サンプリングは収穫期である8月5日に行い、植物体を風乾後、脱穀機で玄穀を分離した。得られた玄穀は重量を測定した後、乾燥機内で90℃、3日間乾燥させた。乾燥後の子実はすみやかに乾物重を測定し、乾物率を算出した。乾燥物は超遠心粉砕機MRK−RETSCH(三田村理研工業社製)で粉砕した後、0.5gを秤量し、精密分析用硝酸(和光純薬社製)5mLを加え、テフロン(登録商標)密閉加圧分解容器にて分解した。分解液を一定量に定容し、その液をICP発光分光分析装置SPS4000(セイコーインスツルメンツ社製)によって亜鉛含量を測定した。定量値は乾物率を用いて逆算することで現物中の亜鉛含有量を算出した。
【0028】
その結果は表1に示した。土壌に硫酸亜鉛を施用し、葉面散布を行わなかった区で比較すると、もっとも玄穀中亜鉛含量が高かったのは11.4kg/ha施用区で、玄穀中亜鉛含量は2.81mg/100gで無施用区より6%高かった。土壌に酸化亜鉛を施用し、葉面散布を行わなかった区で比較すると、もっとも玄穀中亜鉛含量が高かったのは41.2kg/ha施用区であったが、玄穀中亜鉛含量は2.68mg/100gにとどまった(酸化亜鉛よりも硫酸亜鉛の効果が高かった原因としては酸化亜鉛より硫酸亜鉛の水溶性が極めて高いことが考えられる)。
【0029】
一方、土壌に亜鉛を施用せず、硫酸亜鉛七水和物水溶液を葉面散布した区で得られたコムギ玄穀中の亜鉛含量は4.18〜5.42mg/100gであり、いかなる土壌施用区よりも高かった。さらに、製造例1に示した亜鉛含有アイヌワカメエキス散布区は、散布液中の亜鉛濃度が同じであっても玄穀中亜鉛含量が高いことが明らかとなった。以上の結果から、コムギの玄穀中に亜鉛を取り込ませようとする場合、一般的な肥料の施用方法である土壌施用と比較して、小穂分化期からの葉面散布法が有効であり、さらに葉面散布液に海藻抽出物を添加することでその効果をより高めることが明らかとなった。
【0030】
【表1】

【0031】
実施例2
北海道上川郡清水町の圃場においてコムギ品種「春よ恋」を栽培した。基肥は『北海道施肥ガイド』(北海道農政部編2002、社団法人 北海道農業改良普及協会)の春まきコムギの施肥基準に準じて行った。播種は4月22日にドリル播きにて行い、播種量は80kg/haとした。栽培中、小穂分化期である6月16日より2週間おきに4回、実施例1と同様に硫酸亜鉛七水和物、及び製造例1に示した亜鉛含有アイヌワカメエキスにポリオキシエチレンヘキシタン脂肪酸エステル含有展着剤アプローチBI(花王(株)社製)を0.1%加えたものを150mL/m2葉面散布した。試験は各処理2反復とした。サンプリングは収穫期である8月22日に行い、植物体を風乾後、脱穀機で玄穀を分離した。得られた玄穀中亜鉛含量は実施例1と同様に測定した。
【0032】
その結果は表2に示した。玄穀中亜鉛含量は無散布区の2.53mg/100gに比較し、硫酸亜鉛七水和物水溶液を葉面散布した区で4.33mg/100gであり、明らかに玄穀中の亜鉛取り込み量が高まっていた。さらに、製造例1に示した亜鉛含有アイヌワカメエキス散布区は、散布液中の亜鉛濃度が同じであっても玄穀中亜鉛含量が高いことが明らかとなった。以上の結果から、春播きコムギの玄穀中に亜鉛を取り込ませようとする場合でも、小穂分化期からの亜鉛の継続的な葉面散布法が有効であり、さらに葉面散布液に海藻抽出物を添加することでその効果をより高めることが明らかとなった。
【0033】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
玄穀中に亜鉛を4.0mg/100g以上含有するコムギ完熟子実。
【請求項2】
玄穀中の亜鉛含有量が4.0〜12.0mg/100gである請求項1記載のコムギ完熟子実。
【請求項3】
コムギが、パンコムギ(Triticum aestivum)、デューラムコムギ(Triticum durum)、クラブコムギ(Triticum compactum)、エンマコムギ(Triticum dicoccum)、ポーランドコムギ(Triticum polonicum)、イギリスコムギ(Triticum turgidum)、スペルトコムギ(Triticum spelta)、ヒトツブコムギ(Triticum monococcum)及びその交雑種から選ばれる請求項1又は2記載のコムギ完熟子実。
【請求項4】
亜鉛濃度として0.01〜2重量%含有する液を、コムギの小穂分化期から葉面又は葉面及び小穂に散布することを特徴とする完熟玄穀中に亜鉛を4.0mg/100g以上含有するコムギ子実の製造法。
【請求項5】
亜鉛を含有する液が、さらに海藻抽出物を含有するものである請求項4記載の製造法。
【請求項6】
亜鉛を含有する液の散布量が、1ヘクタール当たり1000リットル以上である請求項4又は5記載の製造法。
【請求項7】
亜鉛を含有する液の散布が、小穂分化期から1〜2週間おきに行うものである請求項4〜6のいずれか1項記載の製造法。
【請求項8】
完熟玄穀中の亜鉛含有量が、4.0〜12.0mg/100gである請求項4〜7のいずれか1項記載の製造法。
【請求項9】
コムギが、パンコムギ(Triticum aestivum)、デューラムコムギ(Triticum durum)、クラブコムギ(Triticum compactum)、エンマコムギ(Triticum dicoccum)、ポーランドコムギ(Triticum polonicum)、イギリスコムギ(Triticum turgidum)、スペルトコムギ(Triticum spelta)、ヒトツブコムギ(Triticum monococcum)及びその交雑種から選ばれる請求項4〜8のいずれか1項記載の製造法。
【請求項10】
亜鉛濃度として0.01〜2重量%含有する、コムギの葉面又は小穂散布用液であって、完熟玄穀中に亜鉛を4.0mg/100g以上含有するコムギの製造用資材。
【請求項11】
さらに海藻抽出物を含有するものである請求項10記載の資材。
【請求項12】
コムギが、パンコムギ(Triticum aestivum)、デューラムコムギ(Triticum durum)、クラブコムギ(Triticum compactum)、エンマコムギ(Triticum dicoccum)、ポーランドコムギ(Triticum polonicum)、イギリスコムギ(Triticum turgidum)、スペルトコムギ(Triticum spelta)、ヒトツブコムギ(Triticum monococcum)及びその交雑種から選ばれるものである請求項10又は11記載の資材。

【公開番号】特開2008−263896(P2008−263896A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−113302(P2007−113302)
【出願日】平成19年4月23日(2007.4.23)
【出願人】(302024571)株式会社 山本忠信商店 (8)
【Fターム(参考)】