説明

交流き電回路及びその過電圧の抑制方法

【課題】高調波を抑制しつつ、き電線の電圧が最高き電電圧を超えない交流き電回路及びその過電圧の抑制方法を提供する。
【解決手段】本発明の交流き電回路は、電気車に交流電力を供給する交流き電回路であって、電気車に交流電力を供給するき電線と、レールと、き電線とレールとの間に設けられた高調波共振抑制回路と、き電線とレールとの間に、高調波共振抑制回路と並列に設けられた電力補償回路と、き電線の電圧の電圧値を測定する電圧測定回路と、電圧測定回路の測定した電圧値が予め設定された第1設定電圧を超えた場合、電力補償回路によりき電線に対する無効電力の補償を行う電圧制御回路とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流き電鉄道において、き電の距離が長い場合におけるき電電圧の上昇を抑制する交流き電回路及びその過電圧の抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
交流き電方式の電気鉄道においては、車両に対して走行するための電力を供給する変電所が複数設けられている。
図4に示すように、変電所(SS)と、隣接する変電所(SS)との間において、き電区間を分離するき電区分所(SP)近傍において、き電線が分離されており、このき電区分所近傍のき電線の電圧が上昇する現象を以下に説明する。交流き電方式の場合、隣接する変電所間の位相の異なる交流電流が短絡されないように、き電区分所(SP)に切り換えセクションが設けられており、架線がこの切り換えセクションにおいて絶縁分離されている。
【0003】
き電回路におけるき電線100の浮遊容量Clと電源リアクタンスZs(き電線のリアクタンスXlを含む)により、共振拡大する周波数が、以下の式により決定される。
f=1/(2π(Zs×Cl)1/2
このとき、上記式の周波数が、車両から発生する高調波電流ICnの周波数と合致することにより、変電所から出力される高調波電流ISnが例えば数十倍に拡大されて、高調波障害を発生させる場合がある。
高調波の拡大率は、以下の式により求めることができる。
高調波拡大率=ISn/ICn
このため、上記き電区間が長い場合(例えば、き電区間が数十Kmである場合)、上記高調波の拡大を抑制するために、き電区分所の近傍に高調波共振抑制装置が設置されることになる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】森本大観、久水泰司、兎束哲夫、”交流き電回路におけるパンタ電圧上昇の要因と解析”、電気学会研究会資料、交通・電気鉄道研究会、TER−0828〜37、p.39〜p.44、電気学会、2008年9月11日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、交流き電回路においては、高調波共振抑制装置が設置されると、この進相無効電力によって、き電線の漂遊静電容量に伴うフェランチ効果として、き電区間が長い場合、き電区分所において無負荷時のき電電圧が上昇する。
また、電気車が電力を回生した場合も、パンタ電圧が最高き電電圧を超えてしまうことが考えられる。
【0006】
このき電電圧が最高き電電圧を超えてしまうというフェランチ効果の対策として、現状においては、変電所の送出する交流電圧の電圧値を低下させて、パンタ電圧が最高き電電圧を超えないようにして、パンタ電圧に対する過電圧対策を行っている。
このとき、パンタ電圧が過電圧となることを抑制することはできるが、電気車の力行時にパンタ電圧が低下し、電気車の駆動部が本来のパワーを出せなくなる欠点がある。
【0007】
本発明は、このような事情を鑑みてなされたもので、高調波を抑制しつつ、き電線の電圧が最高き電電圧を超えない交流き電回路及びその過電圧の抑制方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の交流き電回路は、電気車に交流電力を供給する交流き電回路であって、前記電気車に交流電力を供給するき電線と、レールと、前記き電線と前記レールとの間に設けられた高調波共振抑制回路と、前記き電線と前記レールとの間に、前記高調波共振抑制回路と並列に設けられた電力補償回路と、前記き電線の電圧の電圧値を測定する電圧測定回路と、前記電圧測定回路の測定した電圧値が予め設定された第1設定電圧を超えた場合、前記電力補償回路によりき電線に対する無効電力の補償を行う電圧制御回路とを有することを特徴とする。
【0009】
本発明の交流き電回路は、前記高調波共振抑制回路が、抵抗とインダクタンスとの並列接続に対し、コンデンサが直列に接続されて構成され、当該コンデンサが予め設定された設定周波数を超える高調波を抑制する容量に設定されていることを特徴とする。
【0010】
本発明の交流き電回路は、前記電力補償回路がアクティブフィルタ機能を有し、前記設定周波数以下の高調波を抑制することを特徴とする。
【0011】
本発明の交流き電回路は、前記設定周波数が人間の耳の感度の高い周波数領域以下の周波数であることを特徴とする。
【0012】
本発明の交流き電回路の過電圧の抑制方法は、電気車に交流電力を供給する交流き電回路の過電圧の抑制方法であって、き電線とレールとの間に設けられた高調波共振抑制回路が、前記き電線における高調波を抑制し、電圧測定回路が前記電気車に交流電力を供給するき電線の電圧の電圧値を測定し、電圧制御回路が前記電圧値が予め設定された設定電圧を超えた場合、前記高調波抑制回路と並列に接続された電力補償回路により、前記き電線における無効電力の補償を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、高調波障害が発生しないように高調波を抑制し、かつフェランチ効果によって、き電線の電圧が最高き電電圧を超えないき電回路を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1の実施形態(あるいは第2の実施形態)における交流き電回路の構成例を示す図である。
【図2】高調波共振抑制回路4(または高調波共振抑制回路5)の合成インピーダンスと、高調波の周波数との関係を示す図である。
【図3】第3の実施形態における交流き電回路の構成例を示す図である。
【図4】き電線の電圧が上昇する現象を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<第1の実施形態>
以下、本発明の第1の実施形態による交流き電回路を図面を参照して説明する。図1は同実施形態によるATき電方式を用いた交流き電回路の構成例を示すブロック図である。
図1に示すように、電車線は、トロリ線1、レール2、き電線3に代表される電力送電線で構成されている。トロリ線1及びレール2間には、高調波共振制御回路4及び電力補償回路(例えば、SVC:静止形無効電力補償装置)6が設けられている。また、き電線3及びレール2間には、高調波共振制御回路5及び電力補償回路(例えば、SVC:静止形無効電力補償装置)7が設けられている。
【0016】
単巻変圧器(AT:Auto Transformer)8は、中点がレール2に接続され、一端がトロリ線1に接続され、他端がき電線3に接続されている。この単巻変圧器8は、変電所(SS)とき電区分所(SP)との間に、所定の距離(例えば、10km)を置いて、複数配置されている。
また、高調波共振制御回路4及び5と、電力補償回路6及び7とは、き電区間において、き電区分所(SP)の近傍、すなわち、一端が変電所(SS)に接続された電車線の他端に設けられている
【0017】
高調波共振制御回路4及び5は、同様の構成をしており、抵抗100とインダクタンス101とが並列に接続された並列回路に対し、コンデンサ102が直列に接続されて構成されている。また、高調波共振制御回路4において、コンデンサ102は並列回路に一端が接続され、他端がトロリ線1に接続され、並列回路は一端がコンデンサ102に接続され、他端がレール2に接続されている。また、高調波共振制御回路5において、コンデンサ102は並列回路に一端が接続され、他端がき電線3に接続され、並列回路は一端がコンデンサ102に接続され、他端がレール2に接続されている。
すなわち、基本波電流(例えば、50Hzまたは60Hz)が抵抗100に流れる電流量を低下させる目的で、レール2及びトロリ線1(またはき電線3)間において、並列回路に直列に介挿されている。この並列回路において、抵抗Rには高次高調波が流れ、一方、インダクタンス101には低次高調波が流れやすく、それぞれのインピーダンスを設定することにより、抵抗100における電力損失を低減している。
この高調波共振制御回路4及び5の各々は、変電所(SS)からトロリ線1及びき電線3に供給される交流電力の基本周波数に重畳した、電気車から発生する高調波電流を抑制する。
【0018】
ここで、コンデンサ102は、基本波電流が流れることにより、電力損失が発生することを抑制するため、予め設定した設定周波数を超えた場合に、抵抗101のインピーダンスのみとなる容量に設定されている。
すなわち、抵抗100の抵抗値をRとし、コンデンサのインピーダンスをXcとし、インダクタンスのインピーダンスをXlとした場合、高調波共振制御回路4及び5の合成インピーダンスZは、以下の式により求められる。
Z=Xc+(R×Xl/(R+Xl))
周波数が高くなるにつれ、Xc→0、Xl→∞として近似できる領域となり、この領域においては、Z=Rとなる抵抗100の抵抗値のみで、高調波共振制御回路4及び5の合成インピーダンスが決定される。
【0019】
また、トロリ線1における電力補償回路6の接続点A近傍に、トロリ線1のトロリ電圧の電圧値を測定する電圧測定回路11が設けられている。電圧測定回路11は、測定したトロリ電圧の電圧値を、電圧制御回路12へ出力する。
電圧制御回路12は、供給されるトロリ線1の電圧値の絶対値が、予め設定された正常範囲の最大電圧を示す第1設定電圧を超えたか否かの判定を行う。
ここで、電圧制御回路12は、トロリ線1の電圧値の絶対値が第1設定電圧を超えた場合、電力補償回路6にトロリ線1に対する無効電力の補償を行わせ、トロリ1線の電圧値を第1設定電圧未満となるように制御する。
また、電圧制御回路12は、供給されるトロリ線1の電圧値の絶対値が、予め設定された正常範囲の最低電圧を示す第2設定電圧を下回った否かの判定を行う。
ここで、電圧制御回路12は、トロリ線1の電圧値の絶対値が第2設定電圧を下回った場合、電力補償回路6にトロリ線1に対する無効電力の補償を行わせ、トロリ線1の電圧値を第2設定電圧以上となるように制御する。
【0020】
同様に、き電線3における電力補償回路7の接続点B近傍に、き電線3のき電電圧の電圧値を測定する電圧測定回路13が設けられている。電圧測定回路13は、測定したき電電圧の電圧値を、電圧制御回路14へ出力する。この電圧測定回路13は、内部にピークホールド回路を有しており、き電電圧である交流電圧の各周期毎にピーク電圧値を測定し、このピーク電圧値を、き電電圧の測定値として出力する。
電圧制御回路14は、供給されるき電線3の電圧値の絶対値が、予め設定された正常範囲の最大電圧を示す第1設定電圧を超えたか否かの判定を行う。
ここで、電圧制御回路14は、き電線3の電圧値の絶対値が第1設定電圧を超えた場合、電力補償回路7にき電線3に対する無効電力の補償を行わせ、き電線3の電圧値を第1設定電圧未満となるように制御する。
また、電圧制御回路14は、供給されるき電線3の電圧値の絶対値が、予め設定された正常範囲の最低電圧を示す第2設定電圧を下回った否かの判定を行う。
ここで、電圧制御回路14は、き電線3の電圧値の絶対値が第2設定電圧を下回った場合、電力補償回路7にき電線3に対する無効電力の補償を行わせ、き電線3の電圧値を第2設定電圧以上となるように制御する。
これにより、本実施形態においては、き電線3及びトロリ線1の電圧を正常電圧範囲に制御し、き電線3及びトロリ線1における高調波を抑制するため、電気車に対して正常な値の電力を供給するとともに、周辺に対する高調波障害の発生を防止することができる。
【0021】
<第2の実施形態>
以下、本発明の第2の実施形態による交流き電回路を図面を参照して説明する。第2の実施形態による交流き電回路は、第1の実施形態の構成と同様のため、同一の符号を付して、その説明を省略する。以下、第2の実施形態による交流き電回路の第1の実施形態と異なる構成及び動作を説明する。
高調波共振抑制回路4及び5において、変電所(SS)から供給される基本波電流、例えば50Hzまたは60Hzの交流電流が、抵抗に直接に流れることにより、電力損失が発生するため、すでに述べたようにコンデンサ102が高調波成分のみを抑制する容量値として設けられている。
しかしながら、抵抗100は、高調波電流に対しては特性インピーダンス値で終端させる役割がある。このため、コンデンサ102の容量を小さくしすぎると、低次高調波による高調波電流を抑制することができない。したがって、コンデンサ102の容量値を大幅に低下させることができない。
【0022】
次に、図2のグラフは、コンデンサ102の容量値を変え、周波数と高調波共振抑制回路の合成インピーダンスとの関係を示している。ここで、図2は横軸が周波数を示し、縦軸が高調波共振抑制装置の合成インピーダンス(インピーダンス)を示している。
インダクタンス101は50Hzが66.31mH、60Hzが79.58mHであり、抵抗100は125Ωである。図2においては、抵抗100の抵抗値及びインダクタ101のインダクタンスを固定し、コンデンサ102の容量値は2μF、1.5μF、1μF、0.5μFの4種類とした合成インピーダンス(周波数依存)を示している。
容量値としては、基本波周波数の際に、合成インピーダンスが高くなり、基本波の電力損失を低下させ、かつ高調波の周波数領域において、合成インピーダンスが低くなり、高調波を抑制して、共振による拡大を発生させず、高調波障害を起こすことを防止する必要がある。
【0023】
このため、コンデンサ102の容量値は、どの程度の周波数以上の高次高調波を抑制する値に設定するかを決定する必要がある。
本実施形態においては、500Hzを超える高次高調波を抑制するように、コンデンサ102の容量値を、例えば0.5μFとしている。この500Hzの周波数は、人間の聴覚において、1000Hzが最も感度が高い周波数帯域となっている。したがって、1000Hz近傍の周波数帯域の高次高調波を抑制できれば、人間に対する高調波障害を防止することが可能となる。
【0024】
ただし、図2のグラフを見て判るように、1000Hzの高次高調波を十分に抑制するためには、合成インピーダンスがほぼ抵抗100の抵抗値である125Ωとなる必要がある。これを実現するためには、コンデンサ102の容量値を0.5μF近傍とすると良いことが判る。
この結果、従来の1.5μFのコンデンサ102の場合に比較して、本実施形態の0.5μFの場合には、基本波周波数において、従来の3倍の合成インピーダンスとすることができ、電力値としては1/9に削減することができる。
【0025】
上述したように、本実施形態においては、基本波周波数における電力損失を低減させ、かつ人間の聴覚において最も感度が高い周波数領域における高次高調波を抑制するように、コンデンサ102の容量値を設定する例を示した。
本実施形態の場合、基本波周波数近傍の周波数領域における合成インピーダンスのインピーダンス値を、従来例に比較して高くしたため、800Hz以下の高調波を十分抑制することができない。
このため、本実施形態においては、電力補償回路6に低次の高調波を抑制するためのアクティブフィルタを設ける構成としている。
【0026】
以下、電力補償回路7を例として、低次の高調波の抑制の処理について説明する。
電力補償回路7におけるアクティブフィルタは、き電線3から流れ込む高調波電流から、予め除去したい周波数帯域のみを通過させるフィルタ、例えば100Hzから800Hzの範囲の周波数の高調波通過させるバンドパスフィルタを有している。
そして、このアクティブフィルタは、バンドバスフィルタから入力される電圧を打ち消すように、極性が逆で同様の電圧値をき電線3に対して出力し、高調波の電圧成分を打ち消す処理を行う。
また、電力補償回路7において、き電線3のき電電圧の電圧値が、第1設定電圧及び第2設定電圧により設定されている正常範囲を外れた場合における無効電力及び有効電力の補償は第1の実施形態と同様のため、説明を省略する。
【0027】
上述した構成により、本実施形態によれば、第1の実施形態の効果に加えて、人間の聴覚において最も感度が高い周波数帯域の高調波を抑制するため、より高調波障害を防ぐことができ、かつ基本波における電力損失を低下させ、さらに高調波共振抑制装置の取り切れない低次の高調波を電力補償回路により抑制することができる。
【0028】
<第3の実施形態>
以下、本発明の第3の実施形態による交流き電回路を図面を参照して説明する。図3は、第3の実施形態によるATき電方式の交流き電回路の構成例を示す図である。第1の実施形態と同様の構成に対しては同一の符号を付して、その説明を省略する。
以下、第3の実施形態による交流き電回路の第1の実施形態と異なる構成及び動作を説明する。
第1の実施形態は、単線のき電回路についての説明であったが、第3の実施形態は、上下線における上下タイ構成におけるき電回路の構成例について示している。
【0029】
上り線の電車線は、トロリ線1、レール2、き電線3に代表される電力送電線で構成されている。
同様に、下り線の電車線は、トロリ線11、レール12、き電線13に代表される電力送電線で構成されている。
レール2及びレール12の各々はタイ21により接続され、トロリ線1及びトロリ線11の各々はタイ22により接続され、き電線3及びき電線13の各々はタイ23により接続されている。
【0030】
トロリ線1及びレール2間には、高調波抑制回路4と、この高調波抑制回路4と並列に、電力補償回路6が設けられている。
また、き電線13及びレール12間には、高調波抑制回路5と、この高調波抑制回路5と並列に、電力補償回路7が設けられている。
本実施形態における高調波共振抑制装置4及び電力補償回路6は、上り線のトロリ線1及び下り線のトロリ線11とに共用として(共通に)設けられている。
同様に、本実施形態における高調波共振抑制装置5及び電力補償回路7は、上り線のき電線3及び下り線のき電線13とに共用として(共通に)設けられている。
また、高調波共振制御回路4及び5と、電力補償回路6及び7とは、き電区間において、き電区分所(SP)の近傍、すなわち、一端が変電所(SS)に接続された電車線の他端に設けられている
【0031】
単巻変圧器8は、中点がレール2に接続され、一端がトロリ線1に接続され、他端がき電線3に接続されている。この単巻変圧器ATは、変電所(SS)とき電区分所(SP)との間に、所定の距離(例えば、10km)を置いて、複数配置されている。
単巻変圧器18は、中点がレール12に接続され、一端がトロリ線11に接続され、他端がき電線13に接続されている。この単巻変圧器は、変電所(SS)とき電区分所(SP)との間に、所定の距離(例えば、10km)を置いて、上り線及び下り線のそれぞれにおいて複数配置されている。
【0032】
高調波共振制御回路4及び5は、同様の構成をしており、抵抗100とインダクタンス101とが並列に接続された並列回路に対し、コンデンサ102が直列に接続されて構成されている。また、高調波共振制御回路4において、コンデンサ102は並列回路に一端が接続され、他端がトロリ線1に接続されている。また、並列回路は一端がコンデンサ102に接続され、他端がレール2に接続されている。同様に、高調波共振制御回路5において、コンデンサ102は並列回路に一端が接続され、他端がき電線13に接続されている。また、並列回路は一端がコンデンサ102に接続され、他端がレール12に接続されている。
すなわち、基本波電流(例えば、50Hzまたは60Hz)が抵抗100に流れる電流量を低下させる目的で、レール2及びトロリ線1(またはレール12及びき電線13)間において、並列回路に直列に介挿されている。この並列回路において、抵抗Rには高次高調波が流れ、一方、インダクタンス101には低次高調波が流れやすく、それぞれのインピーダンスを設定することにより、抵抗100における電力損失を低減している。
この高調波共振制御回路4及び5の各々は、変電所(SS)からトロリ線1、トロリ線11、き電線3及びき電線13に供給される交流電力の基本周波数に重畳した、電気車から発生する高調波電流を抑制する。
【0033】
また、トロリ線1における電力補償回路6の接続点A近傍に、トロリ線1及びトロリ線11のトロリ電圧の電圧値を測定する電圧測定回路11が設けられている。電圧測定回路11は、測定したトロリ電圧の電圧値を、電圧制御回路12へ出力する。ここで、トロリ線1とトロリ線11とは、タイ22で接続されているため、接続点A近傍にては同電位である。
電圧制御回路12は、供給されるトロリ線1及びトロリ線11の電圧値の絶対値が、予め設定された正常範囲の最大電圧を示す第1設定電圧を超えたか否かの判定を行う。
【0034】
ここで、電圧制御回路12は、トロリ線1及びトロリ線11の電圧値の絶対値が第1設定電圧を超えた場合、電力補償回路6にトロリ線1及びトロリ線11に対する無効電力の補償を行わせ、トロリ1線及びトロリ線11の電圧値を第1設定電圧未満となるように制御する。
また、電圧制御回路12は、供給されるトロリ線1及びトロリ線11の電圧値の絶対値が、予め設定された正常範囲の最低電圧を示す第2設定電圧を下回った否かの判定を行う。
ここで、電圧制御回路12は、トロリ線1及びトロリ線11の電圧値の絶対値が第2設定電圧を下回った場合、電力補償回路6にトロリ線1及びトロリ線11に対する無効電力の補償を行い、トロリ線1及びトロリ線11の電圧値を第2設定電圧以上となるように制御する。
【0035】
同様に、き電線13における電力補償回路7の接続点B近傍に、き電線13及びき電線3のき電電圧の電圧値を測定する電圧測定回路13が設けられている。電圧測定回路13は、測定したき電電圧の電圧値を、電圧制御回路14へ出力する。ここで、き電線3とき電線13とは、タイ23で接続されているため、接続点B近傍にては同電位である。
電圧制御回路14は、供給されるき電線13及びき電線3の電圧値の絶対値が、予め設定された正常範囲の最大電圧を示す第1設定電圧を超えたか否かの判定を行う。
【0036】
ここで、電圧制御回路14は、き電線13及びき電線3の電圧値の絶対値が第1設定電圧を超えた場合、電力補償回路7にき電線13及びき電線3に対する無効電力の補償を行わせ、き電線13及びき電線3の電圧値を第1設定電圧未満となるように制御する。
また、電圧制御回路14は、供給されるき電線13及びき電線3の電圧値の絶対値が、予め設定された正常範囲の最低電圧を示す第2設定電圧を下回った否かの判定を行う。
ここで、電圧制御回路14は、き電線13及びき電線3の電圧値の絶対値が第2設定電圧を下回った場合、電力補償回路7にき電線13及びき電線3に対する無効電力の補償を行い、き電線13及びき電線3の電圧値を第2設定電圧以上となるように制御する。
【0037】
上述した構成により、本実施形態によれば、第1及び第2の実施形態における効果を、上下線タイとされたAT方式のき電回路に対応させることができる。
【符号の説明】
【0038】
1,11…トロリ線
2,12…レール
3,13…き電線
4,5…高調波共振抑制回路
6,7…電力補償回路
8,18…単巻変圧器
11,13…電圧測定回路
12,14…電圧制御回路
21,22,23…タイ
100…抵抗
101…インダクタンス
102…コンデンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気車に交流電力を供給する交流き電回路であって、
前記電気車に交流電力を供給するき電線と、
レールと、
前記き電線と前記レールとの間に設けられた高調波共振抑制回路と、
前記き電線と前記レールとの間に、前記高調波共振抑制回路と並列に設けられた電力補償回路と、
前記き電線の電圧の電圧値を測定する電圧測定回路と、
前記電圧測定回路の測定した電圧値が予め設定された第1設定電圧を超えた場合、前記電力補償回路によりき電線に対する無効電力の補償を行う電圧制御回路と
を有することを特徴とする交流き電回路。
【請求項2】
前記高調波共振抑制回路が、抵抗とインダクタンスとの並列接続に対し、コンデンサが直列に接続されて構成され、当該コンデンサが予め設定された設定周波数を超える高調波を抑制する容量に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の交流き電回路。
【請求項3】
前記電力補償回路がアクティブフィルタ機能を有し、前記設定周波数以下の高調波を抑制することを特徴とする請求項2に記載の交流き電回路。
【請求項4】
前記設定周波数が人間の耳の感度の高い周波数領域以下の周波数であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の交流き電回路。
【請求項5】
電気車に交流電力を供給する交流き電回路の過電圧の抑制方法であって、
き電線とレールとの間に設けられた高調波共振抑制回路が、前記き電線における高調波を抑制し、
電圧測定回路が前記電気車に交流電力を供給するき電線の電圧の電圧値を測定し、
電圧制御回路が前記電圧値が予め設定された設定電圧を超えた場合、前記高調波抑制回路と並列に接続された電力補償回路により、前記き電線における無効電力の補償を行う
ことを特徴とする交流き電回路の過電圧の抑制方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−207266(P2011−207266A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74519(P2010−74519)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(303059071)独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構 (64)