説明

人工ゼオライトの製造方法

【課題】水熱処理を用いずにかつ比較的簡便な装置を用いて短時間で人工ゼオライトを製造することができる方法を提供する。
【解決手段】水、水に溶解しているケイ酸のアルカリ金属塩とアルミニウム化合物、そして水に分散している無機物粒子を含む含水組成物を焼成する工程、そして得られた焼成物を粉砕する工程を含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に多孔質アルミノケイ酸アルカリ金属塩層が形成された無機物粒子(即ち、人工ゼオライト)の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミノケイ酸アルカリ金属塩からなる多孔質粒子は、一般にゼオライトと呼ばれ、吸着剤、触媒及びイオン交換材などの各種分野に利用されている。また、焼却灰や石炭灰などの無機物粒子の表面に多孔質アルミノケイ酸アルカリ金属塩層を形成したものは、人工ゼオライトと呼ばれて既に市販されており、ゼオライトと同様に、吸着剤、触媒及びイオン交換材などの各種分野に利用することが検討されている。
【0003】
特許文献1には、人工ゼオライトの製造方法として、フライアッシュや都市ゴミ焼却灰などの焼却灰を水およびアルカリの存在下で100℃以上、好ましくは120〜230℃の温度で加熱処理する方法が記載されている。この特許文献1の実施例では、撹拌機付きオートクレーブに、フライアッシュと水酸化ナトリウム水溶液とを入れ、蓋を閉めた後、飽和蒸気により加圧し、内部温度を120℃で10時間加熱(即ち、水熱処理)することによって、人工ゼオライトを製造している。
【0004】
特許文献2には、微小で、均一な人工ゼオライト(この特許文献では、結晶性アルミノケイ酸塩と呼んでいる)の製造方法として、シリカ源、アルミナ源、アルカリカチオン源及び水を含有する水性反応混合物に、結晶粒子径0.5μm以下のMFI構造を有するコロイド状種結晶物質(例:シリカ質結晶体、結晶性アルミノケイ酸塩)を添加し、該水性反応混合物を水熱反応処理条件下において、結晶性アルミノケイ酸塩が生成するまで加熱維持する方法が記載されている。この特許文献2において、結晶性アルミノケイ酸塩が生成するまでの時間として例示されているのは5時間〜10日間である。
【0005】
特許文献3には、人工ゼオライトとは、石炭火力発電所で生成するフライアッシュ及びボトムアッシュ等の石炭灰(非晶質)と水酸化アルカリ金属(例えば苛性ソーダ)とを混合し、水熱合成して、石炭灰の表面にゼオライト結晶を生成させたアルカリ金属型および該アルカリ金属イオンの一部または全部を他のイオンで交換してなるものをいうとの記載があり、その人工ゼオライトの例として、「シーキュラス」の登録商標名で上市されているものが挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−1311号公報
【特許文献2】特開平11−130424号公報
【特許文献3】特開2009−220026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献1や2に記載されている水熱処理を用いた人工ゼオライトの製造方法は、反応時間が長いという問題がある。また、水熱処理を行なうための耐圧容器が必要となるため、製造設備が大掛かりになるという問題がある。
従って、本発明の目的は、水熱処理を用いずにかつ比較的簡便な装置を用いて短時間で人工ゼオライトを製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、水、水に溶解しているケイ酸のアルカリ金属塩とアルミニウム化合物、そして水に分散している無機物粒子を含む含水組成物を焼成して、得られた焼成物を粉砕することによって、表面に多孔質アルミノケイ酸アルカリ金属塩層が形成されている無機物粒子が得られることを見出した。そして、その表面に多孔質アルミノケイ酸アルカリ金属塩層が形成されている無機物粒子は、気体中のアンモニアガスの吸着及び/又は分解除去に対して、市販の人工ゼオライトと同等もしくはそれ以上の効果を発揮することを確認して本発明を完成させた。
【0009】
従って、本発明は、水、水に溶解しているケイ酸のアルカリ金属塩とアルミニウム化合物、そして水に分散している無機物粒子を含む含水組成物を焼成する工程、そして得られた焼成物を粉砕する工程を含む、表面に多孔質アルミノケイ酸アルカリ金属塩層が形成されている無機物粒子の製造方法にある。
【0010】
本発明の製造方法の好ましい態様は、次の通りである。
(1)上記含水組成物が無機物粒子100質量部に対して、ケイ酸のアルカリ金属塩を0.1〜50質量部の範囲の量、そしてアルミニウム化合物をアルミニウム量として0.1〜50質量部の範囲の量にて含有する。
(2)上記含水組成物の含水率が、10〜50質量%の範囲にある。
(3)上記含水組成物が、さらに多価アルコールを無機物粒子100質量部に対して、0.01〜10質量部の範囲の量にて含有する。
(4)無機物粒子が、二酸化ケイ素と三酸化二アルミニウムとを合計で60質量%以上含有する粒子である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の人工ゼオライトの製造方法は水熱処理を行なう必要がないので、製造設備が大掛かりになりがちな耐圧容器が不要となる。また本発明の人工ゼオライトの製造方法は、水熱処理を利用した従来の人工ゼオライトの製造方法と比較して短い時間で完了するという利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1で得られた粉砕物(人工ゼオライト)の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の表面に多孔質アルミノケイ酸アルカリ金属塩層が形成された無機物粒子(即ち、人工ゼオライト)の製造方法は、水、水に溶解しているケイ酸のアルカリ金属塩とアルミニウム化合物、そして水に分散している無機物粒子を含む含水組成物を焼成する工程、そして得られた焼成物を粉砕する工程を含む。
【0014】
本発明において用いるケイ酸のアルカリ金属塩は、ナトリウム塩もしくはカリウム塩であることが好ましい。ケイ酸のアルカリ金属塩は、M2O・nSiO2(Mはアルカリ金属)の組成式で表したときにnが0.5〜4の範囲となるように、ケイ素とアルカリ金属とを含むことが好ましい。
【0015】
無機物粒子の例としては、石炭灰、ペーパースラッジの焼却灰、高炉スラグ、ケイ砂、タルク、カオリナイトなどの無機酸化物粒子を挙げることができる。無機物粒子は、二酸化ケイ素(SiO2)と三酸化二アルミニウム(Al23)とを合計で60質量%以上含有する粒子であることが好ましい。
【0016】
アルミニウム化合物の例としては、水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、硫酸カリウムアルミニウム、硫酸ナトリウムアルミニウム、硫酸アンモニウムアルミニウム、塩化アルミニウム、過塩素酸アルミニウムを挙げることができる。アルミニウム化合物が水酸化アルミニウムであることが好ましい。
【0017】
上記含水組成物に含まれるケイ酸のアルカリ金属塩の量は、無機物粒子100質量部に対する量として、0.1〜50質量部の範囲にあることが好ましく、5〜50質量部の範囲にあることが特に好ましい。上記含水組成物に含まれるアルミニウム化合物の量は、無機物粒子100質量部に対するアルミニウム量として、0.1〜50質量部の範囲にあることが好ましく、0.1〜20質量部の範囲にあることが特に好ましい。また、アルミニウム化合物の量は、ケイ酸のアルカリ金属塩100質量部に対するアルミニウム量として、1〜50質量部の範囲にあることが好ましい。上記含水組成物の含水率は、一般には10〜50質量%の範囲、好ましくは10〜30質量%の範囲にある。上記含水組成物は粘稠なペースト状であることが好ましい。
【0018】
上記含水組成物は、ケイ酸のアルカリ金属塩水溶液(水ガラス)と無機物粒子とを混合して得た混合物にアルミニウム化合物の粉末もしくは水溶液を加えて混合する方法、ケイ酸のアルカリ金属塩水溶液とアルミニウム化合物の粉末もしくは水溶液とを混合して得た混合物に無機物粒子を加えて混合する方法、アルミニウム化合物の粉末もしくは水溶液と無機物粒子とを混合して得た混合物にケイ酸のアルカリ金属塩水溶液を加えて混合する方法、ケイ酸のアルカリ金属塩水溶液とアルミニウム化合物の粉末もしくは水溶液と無機物粒子とを同時に混合する方法のいずれの方法により製造してもよい。上記含水組成物の製造に用いるアルミニウム化合物は粉末である方が好ましい。
【0019】
上記含水組成物には、含水組成物の粘度を低下させること、あるいは無機物粒子の分散性を向上させることを目的として、多価アルコールを添加してもよい。多価アルコールの例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリンを挙げることができる。多価アルコールは、オキシアルキレン基を有することが好ましい。多価アルコールの添加量は、一般に無機物粒子100質量部に対して0.01〜10質量部の範囲、好ましくは0.01〜1質量部の量である。
【0020】
上記含水組成物を焼成すると、表面に多孔質アルミノケイ酸アルカリ金属塩層が形成された無機物粒子の焼結体が得られる。アルミノケイ酸アルカリ金属塩層は、ケイ酸のアルカリ金属塩とアルミニウム化合物とが反応して生成したアルミノケイ酸アルカリ金属塩が無機物粒子の表面に析出したものである。アルミノケイ酸アルカリ金属塩層が多孔質となるのは、上記含水組成物の加熱によって水分が揮発する際の通り道が気孔としてアルミノケイ酸アルカリ金属塩層に残るためと考えられる。従って、本発明では、上記含水組成物を乾燥しないで、含水状態のまま焼成することが必要である。上記含水組成物の焼成には、連続的な焼成を行なうことができるトンネル炉を用いることが好ましい。焼成温度は、一般に200〜700℃の範囲度、好ましくは300〜500℃の範囲である。焼成時間は、一般に10分〜2時間の範囲である。
【0021】
上記焼成物をミルなどを用いて粉砕すると、表面に多孔質アルミノケイ酸アルカリ金属塩層が形成されている無機物粒子(即ち、人工ゼオライト)が得られる。以上のようにして得られた人工ゼオライトは、吸着剤、触媒及びイオン交換材などの各種分野に利用することができる。
【実施例】
【0022】
[実施例1]
JIS−K1408(けい酸ナトリウム)によって定められたケイ酸ナトリウム3号(濃度約38質量%のケイ酸ナトリウム水溶液)500mLに対して、ジエチレングルコールを1mL加え撹拌混合して、ジエチレングルコール含有ケイ酸ナトリウム水溶液を調製した。
【0023】
火力発電所にて回収された石炭灰(SiO2とAl23の合計含有量が65質量%以上)を用意し、この石炭灰100質量部に対して、上記で調製したジエチレングルコール含有ケイ酸ナトリウム水溶液を40質量部(ケイ酸ナトリウム量として15質量部)加えて、撹拌した。次いで撹拌を続けながら、水酸化アルミニウム粉末を石炭灰100質量部に対して2質量部を加えて、均一になるまでさらに撹拌混合して、ペースト状の含水組成物を得た。得られたペースト状含水組成物をステンレス製トレイに移して、炉内温度が350〜400℃の温度に調整されたトンネル炉に25分間かけて通過させて焼成した。得られた焼成物を室温まで放冷した後、ミルにて粉砕した。
【0024】
得られた粉砕物の表面について走査型電子顕微鏡(SEM)による観察と元素分析とを行なった。図1に粉砕物の表面のSEM写真を示す。図1のSEM写真から、粉砕物は表面に微細な孔を多数有していることが確認された。また、元素分析の結果、粉砕物の表面からケイ素とアルミニウムの外にナトリウムの存在が確認された。これらのSEM写真と元素分析の結果から、粉砕物は、表面に多孔質のアルミノケイ酸ナトリウム層を有する人工ゼオライトであることが確認された。
【0025】
得られた粉砕物(人工ゼオライト)について、次のようにしてアンモニアガスの除去効果を評価した。
プラスチック製の袋(縦20cm×横25cm)を用意し、この袋に空気を入れて充分に膨らませた後、袋にアンモニア放出性物質を入れて、袋の開口部を封した。袋内の気体中のアンモニアガス濃度を検知管にて測定し、アンモニアガス濃度が200μL/Lとなったら、袋の開口部を一旦開けて袋内に試料の粒状粉砕物40g投入し、直ぐに袋の開口部を封した。粉砕物を投入後から1時間後、3時間後、24時間後の袋内の気体中のアンモニアガス濃度を検知管にて測定した。その結果を下記の表1に示す。
【0026】
[比較例1]
実施例1で得られた粉砕物の代わりに市販の人工ゼオライト(シーキュラス、中部電力(株)製)を用いて、アンモニアの除去効果を実施例1と同様にして評価した。その結果を下記の表1に示す。
【0027】
[参考例1]
実施例1で得られた粉砕物を袋に入れずに、袋内の気体のアンモニアガス濃度が200μL/Lとなってから1時間後、3時間後、24時間後の袋内の気体中のアンモニアガス濃度を検知管にて測定した。その結果を下記の表1に示す。
【0028】
表1
────────────────────────────────────────
1時間後(μL/L) 3時間後(μL/L) 24時間後(μL/L)
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実施例1 120 60 40
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比較例1 120 80 80
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参考例1 200 210 230
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【0029】
表1の結果から、本発明の方法に従って得られた、表面に多孔質のアルミノケイ酸ナトリウム層を有する粒子は、市販の人工ゼオライトと同等以上のアンモニアの除去効果を有することが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、水に溶解しているケイ酸のアルカリ金属塩とアルミニウム化合物、そして水に分散している無機物粒子を含む含水組成物を焼成する工程、そして得られた焼成物を粉砕する工程を含む、表面に多孔質アルミノケイ酸アルカリ金属塩層が形成された無機物粒子の製造方法。
【請求項2】
上記含水組成物が無機物粒子100質量部に対して、ケイ酸のアルカリ金属塩を0.1〜50質量部の範囲の量、そしてアルミニウム化合物をアルミニウム量として0.1〜50質量部の範囲の量にて含有する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
上記含水組成物の含水率が、10〜50質量%の範囲にある請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
上記含水組成物が、さらに多価アルコールを無機物粒子100質量部に対して、0.01〜10質量部の範囲の量にて含有する請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
無機物粒子が、二酸化ケイ素と三酸化二アルミニウムとを合計で60質量%以上含有する粒子である請求項1に記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−246192(P2012−246192A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−120121(P2011−120121)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(511100121)株式会社ゼオアッシュ・インターナショナル (1)
【Fターム(参考)】