説明

人工呼吸装置

人工呼吸装置は、患者に呼吸ガスを供給する呼吸回路を備えている。呼吸回路は、密閉チャンバー内に設けられた可変容量部と、可変容量部の容量を可変するため、密閉チャンバーが供給ガスによって加圧されることができる密閉チャンバー内に連通するガス供給通路とを含んでいる。ガス供給用代替通路は、所定の状況で、弁を介して呼吸回路に直接入ることができるように設けられている。チャンバー内のガス供給通路は、ガスが密閉チャンバー内に入る結果、弁が閉じ状態に一層確実に偏移されるように指向されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工呼吸装置(ベンチレータ装置)に関し、特に患者の呼吸に用いられる装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
患者の看護に用いられる人工呼吸装置は、例えば、欧州特許第0830166号明細書に開示されている。この特許に開示されているシステムは、「バッグ・イン・ボトル(ボトル内バッグ)」タイプのベンチレータシステム24であり、このシステムは、透明な密封容器28内に設けられたベローズ26から成っている。このように開示された「バッグ・イン・ボトル」タイプの装置は、患者呼吸回路に接続されることが意図されており、この回路は、幾つかの標準的な公知の設計を有するが、例えば、麻酔呼吸システムに通常用いられる「ソーダ石灰」の容器の如き二酸化炭素浄化成分を含まなければならない。ベローズ26(及びこのベローズが取り付けられる選択された呼吸回路の残りの部分)は、酸素か呼吸ガス混合物のいずれかを収納し、呼吸ガス混合物は、生命を持続するのに十分な酸素、典型的には、21%またはそれ以上の酸素(通常の空気は、21%の酸素を含んでいる)を含んでいる。
【0003】
容器28は、入口30を備えていて人工呼吸装置が「駆動ガス」として循環式にこの容器内に酸素を送ることができるようにし、ベローズを圧縮し、ベローズが取り付けられた呼吸回路を経て肺に空気を送る。ベローズは、「駆動ガス」酸素の少量部分をベローズ(及びベローズが取り付けられた呼吸回路)の内部に入れさせるように開くことができる一方向弁を有するが、これは、連続的な吸気/呼気過程中ベローズが連続して下降してべローズが容器の基部で「衝突ストッパー(bump stops)」38に衝合する場合にのみ生ずる。これが生ずると、ベローズの外部の圧力はベローズの一方向弁36を開くのに十分な量でベローズの内部の圧力よりも大きくなる。
【0004】
このようにすると、人工呼吸器(ベンチレータ)から吸い込まれた「駆動ガス」酸素の小量部分がベローズに入って患者の要求に応じて内部の酸素を自動的に入れ替える。欧州特許第0830166号の装置は、患者に麻酔剤を送るのに用いることができる。この装置の利点は、自動的に酸素で満たし、呼吸している間に、患者の肺から血液に新陳代謝で摂取される酸素を入れ替えることである。(ベローズが取り付けられた)呼吸回路に追加的に付加される麻酔ガスは、閉じたル―プシステムから漏れることはない。このように、呼吸システムから麻酔ガス又は蒸気がなくなることだけは、患者の肺を経て患者の組織の摂取によるので、これは、例えば、キセノンの如き高価な麻酔薬が使用される場合に有益である。特に、麻酔蒸気又はガスが高価である場合、患者によって非常にゆっくりとのみ摂取される蒸気又はガスを有する搬送システムとして、このような設計は、特に費用効率がよくなる。キセノンは、これらの両方の条件を例証するガスの主要な例であるが、一方、セボフルランは、これらの条件を満たす麻酔薬蒸気の例になる。欧州特許第0830166号に開示されているように、閉ループシステムに酸素を十分に補給(top up)するために他の弁装置を使用してもよい。また、ベローズも、膨張式のゴムバッグ74又はそれに類したものの如き他の装置と取り替えてもよい。
【0005】
効率的に作動するシステムにとっては、「トップアップ(補給)」酸素が「酸素置換弁」と見なすことができる弁36を経て吸気の終了時にのみシステムへ内に入り込むことが許されることは重要である。先行技術の装置の問題は、公知の一方向弁における固有の制約により、弁が吸気過程中開いたり、フラッタリング(ばたばた)したりして酸素の漏れが早まるかもしれないことである。このフラッタリングと早期の漏れが非常に小さい場合には、その影響は無視できるが、それは、ベローズ又はバッグが吸気過程の終了時に弁の正確動作によって空になると、酸素を入れ替える残余の要求が終了するからである。
【0006】
しかし、弁のフラッタリングや呼吸回路への酸素の漏出が過度であると、先の呼吸サイクル中に消耗されるよりももっと多くの酸素が付加されることになり、その結果、ベローズ又はバッグは、各終期毎に、ベローズ又はバッグが充満し、膨らむことになる。換言すると、過剰の酸素が多くの時間に亘って患者の吸い込み量(uptake)を超えて加えられる。吸い込みに一致する割合(正確な動作)で酸素を加えることによって、呼吸回路内のガス混合物は、一定に維持され、多時間に亘ってゆっくりと変化するだけであり、これは、例えば、麻酔処理を行う外科医にとって有利である。酸素が患者の吸い込み量を超える割合で加えられると、ベローズは、結局は、完全に充満し、余剰量は、その後、圧力の上昇や肺の損傷を防止するために、すべてのこのような麻酔及びそれに類するシステムに存在する標準の従来の安全弁(図示せず)を経て回路から放出される。回路がこのようにして余剰のガスを放出すると、機械的呼吸回路として機能するが、全密閉の再循環性によって提供されるガス経済性の面から有利性が失われる。患者が新生児であるならば、酸素が(患者の吸入量以上の量で)付加される状況は、呼吸ガス混合物中の過剰に高い酸素濃度として新生児の健康に危険であり、(その結果)例えば、盲目を引き起こす有害がある。患者が身体的に小さく(例えば、赤ん坊であり)、また、酸素消費割合が絶対的に非常に低い場合には、(吸気終期でのみ開いている)酸素置換弁の正確な機能に関して、「エラー」の許容範囲が非常に小さい。この状況では、吸気終期というよりは、吸気過程中の早期弁(premature valve)の「フラッタリング」や酸素付加が小さくても、前の呼吸サイクル中に消費されるよりも多くの酸素が加えられることが非常に容易に行われる。このような状況で、あまりにも多くの酸素がシステムの再循環部分に多時間にわたって加えられるので、弁が早期に開くことは危険で受け入れられない。
【0007】
図1は、上記の問題を受けそうな典型的な装置を示す。人工呼吸器101は、チャンバー102に酸素を入れる。膨張式のラバー・バッグ103は、チャンバーの内部に位置し、呼吸サイクル中に、収縮、拡張する。円板状の弁104(酸素置換弁)は、通常、閉位置にあるが、弁の上下の圧力差が十分になると、装置に送り込まれる酸素を上昇する開位置に上昇せしめられる。これは、正確に操作する装置の吸気過程の終わりに生ずるに過ぎない。図示の装置のループは、例えば、ソーダ石灰粒子を収納している一体の二酸化炭素吸収器106を含んでいる。
【0008】
しかし、実際の動作では、人工呼吸器101が酸素を入れると、チャンバー102内の圧力が膨張式ラバー・バッグ103の内部に伝達されるのにしばらくの時間がかかる。従って、円板弁104の上方の圧力が円板弁104の下方のガス圧力に等しくなるのにしばらくの時間がかかる。そのため、弁は、吸気過程中、開いたりフラッタリングしたりして、酸素が上部チャンバー105に漏れて密閉装置内に早期に入り込む。初期の解決策は、円板弁104を開くために、一層大きな力を必要とするために、円板弁104にばね荷重をかけることである。このようなばね荷重弁を吸気の終期に開くのに必要な力学的エネルギーは、患者によってではなく、患者の面前で人工呼吸器によって提供され、これは、受け入れられるように思われる。しかし、このような装置は、人工呼吸器で記録圧力中に(異常)圧力スパイクを引き起こすことにより、人工呼吸器の動作と干渉するので、満足できるものではない。
【0009】
図2は、ばね荷重弁を有しない(しかし、弁はフラッタリング問題の傾向がある)人工呼吸器の圧力対時間の記録のグラフを示す。このグラフは、吸気過程用であり、肺内の圧力ではなく、人工呼吸器が下部チャンバーに付いている位置の圧力(即ち、下部チャンバーの圧力)を測定している。このグラフにおいて、円板弁の開口圧力は最小である(円板弁は、ばね荷重を受けていない)。この弁を開くために、人工呼吸器によって生ずる圧力の上昇を必要としないで、弁は、吸気の終期(点A)に開く。
【0010】
図3は、図3と同様のグラフを示すが、これは、吸気過程中フラッタリングを防止するようにばね荷重がかけられた円板弁に対するものである。弁は、吸気の終期(点A)に開くが、この時、弁を開くために、人工呼吸器によって発生する圧力の上昇を必要とする。この所要の開口圧力の上昇は、点Aでの段として表されている。その結果、圧力/時間波形は異常となる。患者には必ずしも有害ではないが、ある高度な人工呼吸器は、これを、例えば、患者が人工呼吸器に対して咳をするなどの異常と解釈し、その結果、警報を発生する。ディスプレイから肺に送り込まれることが明らかなピーク圧力が、実際には、22cmH2Oより低い場合に、22cmH2Oと表示されるので、所要の開口圧力のこのような段状の増加は、望ましくない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、フラッタリングを起こすことがない軽量の弁がこの問題に対する好ましい技術的解決策であると判断されて今回、改良装置を考案した。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の面によれば、本発明は、患者に呼吸ガスを供給し、密閉チャンバー内に設けられた可変容量部を含む呼吸回路と、前記可変容量部の容量を可変するため、前記密閉チャンバーが供給ガスによって加圧されるように前記密閉チャンバー内に設けられたガス供給通路と、所定の状況で、供給ガスが弁手段(酸素置換弁)を介して前記呼吸回路に直接入ることができるように設けられたガス供給用代替通路とから成り、前記密閉チャンバー内のガス供給通路は、ガスが前記密閉チャンバー内に入った結果、前記弁手段が閉じ状態に一層確実に偏移される人工呼吸装置を提供する。
【0013】
ガスがチャンバーに入る結果、弁手段の密閉チャンバー側の圧力が減少するように、密閉チャンバー内のガス供給通路が指向されるのが好ましい。これは、弁手段から離れる方向にガスが流れるようにして弁手段のチャンバー側圧力を下げることによって達成される。ベンチュリ管(又はベンチュリ管に類したもの)装置が有益に使用される。
【0014】
有益には、弁手段の密閉チャンバー側圧力は、呼吸回路側圧力に対して僅かに低くなっている。弁手段を閉止状態に一層堅固に付勢する効果は、呼吸サイクルの吸気過程の初めに一時的に生じるように有益に整えられる。
【0015】
本発明の1つの実施において、ガス供給は、弁手段との導管接続部から離れるようにチャンバー内に向けられる。供給ガスを弁から離れるように及び/又は可変容量部に向かうように供給ガスを指向するために、密閉チャンバーに邪魔板又は偏向器が設けられている。
【0016】
さもなければ、チャンバーと連通する出口端を有し、弁手段との導管接続部を越えて延びるガス供給管を用いてもよい。
【0017】
弁手段は、弁を閉じた状態で弁座に乗るように設けられた弁エレメント(弁板の如きもの)を含のが有利である。弁板の重量は、閉じた状態で位置保持するのに充分な程度であるのが有利である。理想的には、上記した改良を有すると、弁は、低質量であり、呼吸終期まで着座したままである。弁エレメントは、弁開放状態で、弁座から持ち上がるようになっている。ケージ又は他の容器が弁エレメントを保持するために設けられていてもよい。
【0018】
弁手段は、可変容量容器が最大に縮小した状態である時に開くようにしているのが好ましい。弁が開くのは、弁手段の両側の圧力差の結果であるのが有利である。
【0019】
1つの実施例では、可変容量容器は、可撓性のバッグ又はポーチから成っている。他の実施例では、可変容量容器は、折畳み式ベローズ装置から成っている。
【0020】
本発明の装置は、患者に麻酔薬を供給するのに特に適している。
【0021】
可変容量容器が可撓性バッグ又はポーチから成っている実施例では、密閉チャンバーの壁が、拡張した状態の可撓性バッグ又はポーチの隣合う部分を嵌め込み又は抱え込む、即ちこの部分の形状に一致したへこんだ表面を含むのが好ましく、これは、密閉チャンバーの「死容量」を最小限にする。
【0022】
この発明は、それ自体、新規で創造性があると確信する。従って、本発明の第2の面では、患者に呼吸ガスを供給し、密閉チャンバーの内部に設けられた可変容量可撓性バッグ又はポーチを含む呼吸回路と、前記バッグ又はポーチの容量を可変するため、前記密閉チャンバーが供給ガスによって加圧されるように前記密閉チャンバー内に設けられたガス供給通路とから成り、前記密閉チャンバーの壁が、拡張した状態の可撓性バッグ又はポーチの隣合う部分を嵌め込み又は抱え込む、即ちこの部分の形状に一致したへこんだ表面を含んでいる人工呼吸装置を提供する。
【0023】
例示に過ぎない特定の実施例において、添付図面を参照して本発明を以下に述べる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明によって克服される問題に関して記載された人工呼吸装置の概略図である。
【図2】非ばね荷重円板弁を有する人工呼吸装置の圧力対時間のグラフである。
【図3】ばね荷重円板弁を有する人工呼吸装置の圧力対時間のグラフである。
【図4】本発明による人工呼吸装置の第1の実施例の呼気過程での概略図である。
【図5】本発明による人工呼吸装置の第1の実施例の吸気過程での概略図である。
【図6】人工呼吸装置の第1の実施例の吸気過程の終期の概略図である。
【図7】人工呼吸装置の他の実施例の概略図である。
【図8】人工呼吸装置の更に他の実施例の呼吸サイクルの1つの位置の図である。
【図9】人工呼吸装置の更に他の実施例の呼吸サイクルの他の位置の図である。
【図10】人工呼吸装置の更に他の実施例の呼吸サイクルの更に他の位置の図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図面、最初に図4−6を参照すると、人工呼吸装置(ベンチレータ装置)は、図1の装置といくつかの面で一般的に類似しており、チャンバー2に酸素を送り込む人工呼吸器1を含む。膨張式のラバー・バッグ3は、チャンバーの内部に位置しており、呼吸サイクル中に収縮、拡張する。円板弁4は、閉位置では、上部チャンバー5とバッグチャンバー2との間を連通する導管9の上方の弁座8に通常では乗っている。弁板4は、この弁板4の上下の圧力差が十分な時に、弁を弁座8から持ち上げるものであって、ケージ10内に保持されている。このような状況では、円板弁4(酸素置換弁)は、トップアップ酸素を装置に供給する開位置に持ち上げられる。システムループは、ソーダ石灰粒子を収納している二酸化炭素吸収器6を含んでいる。この実施例では、全体構造(下部コンテナー、バッグ・イン・ボトル、酸素置換弁及びソーダ石灰室構成壁を一体設計として製造することができるのを容易にする)の一部として有利に便宜に形成されるが、再循環ガスループ(再循環ガスループは、この実施例の機械の上部、ソーダ石灰容器及び一方向弁を有し患者とつなぐホースである)内の異なる位置に機能的に配置してもよい。連通導管11は、一方向弁12を経て患者呼吸接続部13に酸素を供給する。帰還導管14は、呼吸接続部13と連通し、一方向弁15と帰還導管16とを経て膨張式のバッグ3の内部と連通する。患者の肺は、符号18で概略的に示されている。
【0026】
人工呼吸器は、吸気サイクルを誘引するために、管路21を経てバッグチャンバー2内に酸素を送り込む。反対に、呼気過程中には、チャンバー2内の酸素は、人工呼吸器1を経て大気に放出される。
【0027】
使用時には、まず、システムは、酸素又は酸素混合物で満すことによって動作の準備をする。呼吸接続部は、患者(例えば、患者の気管中に入れた気管内チューブ)に接続され固定される。人工呼吸器は、管路21を経てチャンバー2内に酸素を入れ、その後大気へ放出する。従って、各サイクル毎に、酸素は、管路21を経てチャンバー2内に入ってチャンバー2内の圧力を増加し、バッグ3を収縮させる傾向があるバッグ3の壁を加圧する。バッグ3内の酸素含有ガスは、管路11及び一方向弁12を経て患者接続部13に向けて密閉ループ呼吸回路内に駆動される。その後、患者の肺は、ガスで充満され、肺を膨らませる。次いで、呼吸(ベンチレーション)サイクルの呼気過程に対する人工呼吸器サイクルとして、二酸化炭素を含んでいる排気ガスは、患者の胸の受動的な反動により肺18から放散され、接続部(コネクター)13を経て呼吸回路に戻る。その後、ガスは、一方向弁15及び導管16を経てバッグ3の内部に入る。次のサイクルで呼吸される前に、ソーダ石灰粒子を含んでいる二酸化炭素吸収器6は、ガスから二酸化炭素を除去する。人工呼吸器のサイクルは、大気に放出するようにこの時点では切り替える、即ち換気サイクルの吸気過程にあるように、時間合わせされる。
【0028】
連続するサイクルに亘って、バッグ3が各サイクルとともに次第に充満する容量が減少するように、酸素が患者によって吸い取られる。その結果、バッグ3は、チャンバー2の圧力がバッグ3や弁板4の上方のチャンバー5の圧力より大きくなる時点まで究極的に収縮する。このため、弁板4は、弁座8との接触から外れることによって開く。その結果、酸素は、導管9を経て流れることができ、酸素置換弁4をチャンバー5及び呼吸システムに対して開く。酸素の流量は、自己制御されて弁のいずれかの側の圧力の平衡を保ち、従って、前の呼吸サイクル中に患者によって吸い取りガスの容量を置換するように制限される。実際上、この容量は、主に、患者の酸素摂取量である。
【0029】
図4は、装置が呼気過程中であるのを示す。呼気過程中、ガスが肺から流れるので、(チャンバー5内の)一方向円板弁4の上方の圧力は、(導管9内の)一方向円板弁4の下方の圧力と同じ(又は極めて僅かであるが高く)なる。その結果、弁は、呼気過程中に不注意に開くことがない。
【0030】
人工呼吸装置が吸気過程の部分的過程にあるのが示されている図5を参照すると、この過程では、人工呼吸器1からチャンバー2内に入るガスの圧力パルスは、1呼吸の大きさを表わすガス量を肺に押し込む。
【0031】
ガス(酸素)は、人工呼吸器1から下部チャンバー2に流れ込む。理論上、バッグ3内のガス圧力がバッグ外の下部チャンバー2内の圧力と同じとなるように、下部チャンバー2内の圧力は、可撓性のバッグ3の壁を経てその内部のガスに時々刻々伝達される。
【0032】
従って、理論上、バッグ3内のガスに連続する下部チャンバー5内の圧力も、バッグ外の下部チャンバー内のガスと同じ圧力であることになる。従って、酸素置換円板弁4の上下の圧力は、吸気中等しくなければならず、それで、この円板弁4は、呼吸(ベンチレーション)サイクルのこの過程中、(バッグにガスがある限り)、いつでも不注意に開くべきではないことが期待される。このようにすると、呼吸サイクルのこの過程中に上部チャンバー5に偶然に酸素が加わるのを防止することになる。このことは、円板弁がばね荷重を受けないか、さもなければ、弁座に係合する閉位置へ偏移されていない場合であっても、あてはまることが期待される。円板弁8(これは軽い)の重量は、圧力が円板弁4の上下で等しい場合、円板弁が弁座8に着座したままであることを有効に確保するのに、十分な程度とする。
【0033】
しかし、実際上、ガスが人工呼吸器1によって下部チャンバー2に急速に加えられると、すべての圧力が等しくなるのに時間がかかり、円板弁4は、吸気過程中、瞬間的に開いたりフラッタリングしたりする傾向がある。もし、このようなことが起こると、上部チャンバー5にあまりにも多くの酸素が加わるので、これは望ましくない。
【0034】
本発明によれば、問題の解決策は、弁の下方の導管9の圧力が直ちに増加しないか、一層好ましくは、少なくとも瞬間的に低下するように、下部チャンバー2に入るガスを指向することである。図4乃至図6に示される実施例では、これは、ガスが円板弁4から離れて流れるように指向する出口開口を有する図示の「ベンチュリ管」21を経て人工呼吸器から下部チャンバー2に入るガスを指向することによって達成される。このガスジェットをバッグ3に「当てる」(即ち、弁4から離れるようにする)ことの第1の効果は、下部チャンバー2内の圧力パルスがバッグ3内のガスを経て上部チャンバー5に一層急速に伝達される傾向があることである。第2の効果は、ベンチュリ形の流れ構造を用いることによって、ガスの下部チャンバー2への流れがこのチャンバーを囲むガスをその流れに乗せることである。このようにすると、円板弁4の直下の圧力は、円板弁4の上方の圧力より非常に僅かであるが低くなる。これは、ばね荷重を受けていなくても、この過程中に円板を閉じるのを保持し、これは、所望の効果を達成する。
【0035】
同様の効果は、図7に示されるような他の実施例でも達成することができ、この実施例では、デフレクター邪魔板25が下部チャンバー2のガス入口に設けられている。このデフレクター邪魔板25は、図示の実施例では、カーブしており、チャンバー2の壁に一体成型されている。このデフレクター邪魔板の技術的効果は、人工呼吸器1から送給されるガスがチャンバー2に入るとき、円板弁4の下方の圧力が僅かに低下するという点で、先の実施で述べられていたベンチュリ形ガス入口と同様の効果を与えることが分かった。この圧力の小さく一時的な低下は、呼吸サイクルのこの部分で弁4を経てチャンバー5に望まないのに加わるのを防止するのに十分である。従って、フラッタリングの問題は回避される。
【0036】
吸気過程の終期では、バッグ3は、図6に示されるように、完全に収縮する。その理由は、各吸気/呼気サイクル中に、患者の身体が肺のライニング(胸膜)を経て新陳代謝で酸素を消耗することである。この新陳代謝によって生成された二酸化炭素は、吸収器容器6中のソーダ石灰粒子によって循環ガスから除去される。鎮静剤を飲ませられた成人は、典型的には250ml/分の酸素を消費する。従って、もし、人工呼吸器が毎分10回の息をするように設定されると、合計ガス量から25mlの酸素がシステムから除去されることになる。他のガスがキセノンの如きス混合物中にある場合、この他のガスの付加的な摂取があってもよいが、これは酸素摂取量に比べて非常に小さい。
【0037】
従って、呼気終期では、バッグ中のガス容量は、人工呼吸器が下部チャンバー2に供給されるように設定された呼吸量よりも低い約25mlになる。従って、吸気サイクルの終期付近では、バッグが十分に収縮し、一方、人工呼吸器は、下部チャンバーに加えるべき少ない残留量のガスを有する。人工呼吸器は、下部チャンバーに吸気ガスのこの最後の部分を加えると、バッグ3は、それ以上収縮することができないで、そのため、「駆動ガス」(即ち、人工呼吸器からの酸素)のこの最後の商部分(quotient)は、「代替」ルートを通り、酸素置換円板弁4を経て上部チャンバー5に入り、また、吸気サイクルが全く完了するまで、肺はガスで充満し続ける。この時、円板弁4は開くが、それは、円板弁4の下方の圧力が円板弁4の上方の圧力を越える唯一の状況であるからである。図6において、弁が弁座8から持ち上げられて、酸素が上部チャンバー5に直接入ることができるようにしているのが示されている。
【0038】
人工呼吸器が下部チャンバー2を純酸素で換気していることを思い起こさなければならない。この全効果は、各吸気過程の終期に、円板弁4を経て多量の酸素が循環ガスに加えられることである。漏れがないと仮定して、定常状態で加えられた多量の酸素は、前の呼吸サイクル中に患者によって新陳代謝で消費された酸素の量と同じである。
【0039】
従って、このシステムは、閉じられた再呼吸ループであるが、酸素が自動的に添加されて患者による新陳代謝摂取を入れ替える。再循環ガスに添加される他のガスは、患者による摂取を除き漏れることができないことが認識されるべきである。これは、潜在的に非常に費用効率のよい麻酔剤搬送システムに向かうことになる。これは、特に、例えば、キセノンガスの如き麻酔剤が高価である場合である。所要量の麻酔ガス又は麻酔蒸気は、例えば、図4に示されるように、送入管路24によってループ内に加えられ、この管路24は、典型的には、適当な弁によって開閉される。
【0040】
拡張状態にあるバッグ3にへこんだ入れ子2aを形成するために、バッグチャンバー2の壁は、凹状に湾曲していることに注目すべきである。最も拡張した状態(図4)で入れ子2aとバッグの間に小さなスペースが形成あれる。チャンバー2の「デッド空間」が最小となるので、拡張状態のバッグの形状にほぼ近いへこんだ入れ子又は囲みは、改善された性能を有することが解った。
【0041】
本発明の原理を具体化して、人工呼吸装置の他の形態を用いてもよい。このような形態が図8乃至図11に示されており、これらの図において、膨張式のバッグを使用する代わりに、典型的なシステムは、折り畳み式ベローズ503型の構造のような他の手段を使用してもよい。ベローズ503は、チャンバー502の内部に位置し、呼吸サイクル中に垂直方向に伸縮する。円板弁504は、閉位置で、ベローズチャンバー502と閉ループ呼吸回路との間を連通する導管509の上部の弁座508に通常では着座している。弁円板504は、その上下の圧力差が十分な場合、弁を弁座508から上昇せしめるケージ(図示せず)に保持されている。このような状況では、円板弁504は、閉ループシステムにトップアップ(補給酸素を供給するのを許す開位置に上昇せしめられる。システムループは、ソーダ石灰粒子を収納している二酸化炭素吸収器506を含んでいる。連通導管511は、一方向弁512を経て患者呼吸接続部513に酸素を供給する。帰還導管514は、呼吸接続部513と連通し、一方向弁515及び帰還管路516を経て折り畳み式ベローズ503の内部と連通する。患者の肺は、符号518で概略的に示される。
【0042】
人工呼吸器501は、管路521を経てベローズチャンバー502に酸素を吸い込ませて吸気サイクルを誘引する。逆に、呼気過程中に、チャンバー502内の酸素は、人工呼吸器501を経て大気に放出される。
【0043】
使用時には、先ず、(ベローズの内部を含む)システムは、酸素又は酸素含有ガス混合物で充満することにより、動作の準備をする。呼吸接続部は、患者(例えば、患者の気管の中で位置した気管内チューブ)に接続され固定される。人工呼吸器501は、導管521を経てチャンバー502に酸素を供給し、次いで大気へ放出するように交互に動作する。従って、各サイクル毎に、酸素は、導管521を経てチャンバー502に入ってチャンバー502の圧力を増加し、ベローズ503を収縮させる傾向があるベローズ503の壁を中へ加圧する。従って、ベローズ503内のガスは、導管511と一方向弁512とを経て患者コネクター(接続部)513に向けて閉ループ呼吸回路内に駆動される。次いで、患者の肺が酸素で満たされて肺を拡張させる。その後、二酸化炭素を含む吐出ガスは、患者の胸の受動的な反動によって肺18から発散され、コネクター13を経て回路に戻る。更に、このガスは、一方向弁15及び導管16を経てベローズ503の内部に入る。次のサイクルで呼吸が行われる前に、ソーダ石灰粒子を含んでいる二酸化炭素吸収器506は、発散ガスから二酸化炭素を除去する。この人工呼吸器のサイクルは、大気に放出するようにこの時点では切り替える、即ち換気サイクルの吸気過程にあるように、時間合わせされる。
【0044】
連続するサイクルに亘って、ベローズ503が各サイクルとともに次第に充満する容量が減少するように、酸素が患者によって吸い取られる。その結果、ベローズ503は、チャンバー502の圧力がベローズ503や弁板504の上方のチャンバー505の圧力より大きくなるまで究極的に収縮する。このため、弁板504は、弁座508との接触から外れることによって開く(図10参照)。その結果、酸素は、導管509を経て流れることができ、酸素置換弁504をチャンバー505及び呼吸システムに対して開く。酸素の流量は、自己制御されて弁のいずれかの側の圧力の平衡を保ち、従って、前の呼吸サイクル中に患者によって吸い上げられたガス、主に酸素の容量を置換するように制限される。
【0045】
この実施例の動作は、先に述べた実施例とほぼ同様である。図8は、呼気過程中の状態を示す。図9は、吸気過程の途中の状態を示す。図10は、システムが吸気過程の終期であるのを示す。この実施例では、フラッタリングの問題は、弁に通ずる導管509に対して開いた接続部を経てチャンバー502の内部に導管521に沿って向けられた工呼吸器501からのガスのガス流効果によって回避される。このガス流の方向は、先の実施例に関連して述べたのと同様の方法で円板弁504直下の減少圧力又はベンチュリ効果を生ずる。図9に示されるように、真のベンチュリ効果が得られる。導管521の端部は、導管509との接続部を越えて位置してもよく、また、導管509と連通する流路は、導管521の外部であってもよい。このようにすると、チャンバー502に流れ込むガスは、円錐形の規定容量部からのガスを導管521の外部の周りに乗せ、それによって、圧力の減少を生ずる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者に呼吸ガスを供給し、密閉チャンバー内に設けられた可変容量部を含む呼吸回路と、前記可変容量部の容量を可変するため、前記密閉チャンバーが供給ガスによって加圧されるように前記密閉チャンバー内に設けられたガス供給通路と、所定の状況で、前記供給ガスが弁手段(酸素置換弁)を介して前記呼吸回路に直接入ることができるように設けられたガス供給用代替通路とから成り、前記密閉チャンバー内のガス供給通路は、ガスが前記密閉チャンバー内に入った結果、前記弁手段が閉じ状態に一層確実に偏移される人工呼吸装置。
【請求項2】
請求項1に記載の人工呼吸装置であって、ガスが前記チャンバーに入る結果、前記弁手段の前記密閉チャンバー側の圧力が減少するように、前記密閉チャンバー内のガス供給通路が指向される人工呼吸装置。
【請求項3】
請求項2に記載の人工呼吸装置であって、前記弁手段の前記密閉チャンバー側圧力は、前記呼吸回路側圧力に対して僅かに低くなっている人工呼吸装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の人工呼吸装置であって、前記弁手段を閉止状態に一層堅固に付勢する効果は、呼吸サイクルの吸気過程の初めに一時的に生じるようになっている人工呼吸装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の人工呼吸装置であって、ガス供給は、前記弁手段との導管接続部から離れるように前記チャンバー内に向けられる人工呼吸装置。
【請求項6】
請求項5に記載の人工呼吸装置であって、前記弁から離れるように及び/又は前記可変容量部に向かうように前記供給ガスを指向するために、前記密閉チャンバーに邪魔板又は偏向器が設けられている人工呼吸装置。
【請求項7】
請求項5に記載の人工呼吸装置であって、ガス供給管は、前記チャンバーと連通する出口端を有し、前記弁手段との管接続部を越えて延びている人工呼吸装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の人工呼吸装置であって、前記弁手段は、弁を閉じた状態で弁座に乗るように設けられた弁エレメントを含む人工呼吸装置。
【請求項9】
請求項8に記載の人工呼吸装置であって、前記弁エレメントは、弁を開いた状態で前記弁座から持ち上がるように設けられた人工呼吸装置。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載の人工呼吸装置であって、前記弁手段は、前記可変容量部が最大の収縮状態にあるとき、開くようになっている人工呼吸装置。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれかに記載の人工呼吸装置であって、前記可変容量部は、可撓性バッグ又はポーチから成っている人工呼吸装置。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれかに記載の人工呼吸装置であって、前記可変容量部は、伸縮性ベローズ装置から成っている人工呼吸装置。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれかに記載の人工呼吸装置であって、患者にガス混合物を送給するのに用いられ人工呼吸装置。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれかに記載の人工呼吸装置であって、前記可変容量部は、可撓性バッグ又はポーチから成り、前記可変容量部の壁は、拡張状態の前記可撓性バッグ又はポーチ部分に隣接して入れ子式には入り又は乗るようにした凹状の表面を含む人工呼吸装置。
【請求項15】
患者に呼吸ガスを供給し、密閉チャンバーの内部に設けられた可変容量可撓性バッグ又はポーチを含む呼吸回路と、前記バッグ又はポーチの容量を可変するため、前記密閉チャンバーが供給ガスによって加圧されるように前記密閉チャンバー内に設けられたガス供給通路とから成り、前記密閉チャンバーの壁が、拡張状態の可撓性バッグ又はポーチの隣合う部分を嵌め込み又は抱え込む、即ちこの部分の形状に一致したへこんだ表面を含んでいる人工呼吸装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2012−527280(P2012−527280A)
【公表日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−511339(P2012−511339)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【国際出願番号】PCT/GB2010/001009
【国際公開番号】WO2010/133843
【国際公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(511279575)アート オブ ゼン リミテッド (1)