説明

人工多能性幹細胞の製造方法および培養方法

核が初期化されたヒト体細胞を、ヒト細胞をフィーダー細胞として用いて培養することにより、ヒト体細胞からiPS細胞を製造する。また、核が初期化された体細胞を、自家の細胞をフィーダー細胞として用いて培養することにより、体細胞からiPS細胞を製造する。さらに、体細胞の培養上清を用いてiPS細胞を培養する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工多能性幹細胞の製造方法に関する。本発明はまた、人工多能性幹細胞の培養方法および人工多能性幹細胞培養のための培養液に関する。
【背景技術】
【0002】
人工多能性幹細胞(iPS細胞)は、体細胞へ核初期化因子を導入することで調製するこ
とができる(非特許文献1、特許文献1)。このiPS細胞は、通常、マイトマイシンCやγ線照射により増殖不活性化されたマウス胚性線維芽細胞(MEF)をフィーダー細胞として
用いて、樹立され、培養される。しかし、異種由来の細胞を用いるため、得られたiPS細
胞は未知のウィルスや病原体を保有する可能性がある。従って、従来の方法で樹立・培養されたiPS細胞をヒトの治療用に使用することは、好ましくない場合がある。実際に、MEFをフィーダー細胞として用いて培養したヒト胚性幹細胞(ES細胞)の表面上に、ヒト細胞では産生しないシアル酸を検出したことが報告されている(非特許文献2)。
【0003】
これまでに、新生児の包皮由来のヒト線維芽細胞またはES細胞由来の線維芽細胞様細胞をフィーダー細胞として用いた培養により、ヒトES細胞の自己複製を保持したとの報告があるが(非特許文献3、4、5、6および7)、iPS細胞においての成功例の報告はない

【0004】
また、フィーダー細胞と共に培養したiPS細胞から完全にフィーダー細胞を除去するこ
とは困難である。したがって、iPS細胞を用いた治療においては、異種細胞及び他者細胞
の混入リスクを低減させる必要がある。以上より、iPS細胞の樹立・培養の工程において
全て同種または自家の細胞を用いる技術が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2007/069666
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】K. Takahashi and S. Yamanaka, Cell 126 (4), p663, 2006
【非特許文献2】Martin, MJ. et al. Nat. Med. 11, p228, 2005
【非特許文献3】Richards, S. et al. 20, p933, 2002
【非特許文献4】Park, JH. et al. Bio. Reprod. 69, p2007, 2003
【非特許文献5】Park, SP. et al. 19, 676, 2004
【非特許文献6】Richards, M. et al. Stem Cells 21, p546, 2003
【非特許文献7】Xu, C. et al. Stem Cells 22, p972, 2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、より安全性の高いiPS細胞を製造するための技術を提供することを課題とす
る。本発明はまた、より効率的なiPS細胞の培養技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、核初期化因子が導入されたヒト体細胞を、ヒト細胞をフィーダー細胞として用いて培養を行うことにより、ヒト体細胞からiPS細胞を製造することに成功した。また、核初期化因子が導入された
体細胞を自家の細胞をフィーダー細胞として用いることにより、体細胞からiPS細胞を製
造することに成功した。さらに、体細胞の培養上清を用いることにより、iPS細胞を効率
よく培養できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明の一態様は、体細胞からの人工多能性幹細胞の製造方法であって、核が初期化された体細胞を、自家の細胞をフィーダー細胞として用いて培養する工程を含む方法を提供することである。
本発明の他の態様は、下記の工程を含む前記方法を提供することである。
a)第一の体細胞へ核初期化因子を導入する工程;
b)前記核初期化因子が導入された第一の体細胞を、該第一の体細胞と由来が同じであって、核初期化因子が導入されていない第二の体細胞をフィーダー細胞に用いて培養する工程。
本発明の他の態様は、ヒト体細胞からの人工多能性幹細胞の製造方法であって、核が初期化されたヒト体細胞を、ヒト細胞をフィーダー細胞として用いて培養する工程を含む方法を提供することである。
本発明の他の態様は、下記の工程を含む、前記方法を提供することである。
c)第一のヒト体細胞へ核初期化因子を導入する工程;
d)前記核初期化因子が導入された第一のヒト体細胞を、ヒト由来の体細胞であって、核初期化因子が導入されていない第二の体細胞をフィーダー細胞に用いて培養する工程。
本発明の他の態様は、前記核初期化因子が、Oct遺伝子群、Sox遺伝子群、Klf遺伝子群
、Myc遺伝子群、Nanog遺伝子、Sall遺伝子群およびLin遺伝子群からなる群より選択され
る少なくとも一つである、前記方法を提供することである。
本発明の他の態様は、前記核初期化因子が、Oct3/4遺伝子、Sox2遺伝子、Klf4遺伝子、c-Myc遺伝子、L-Myc遺伝子、Nanog遺伝子、Sall4遺伝子およびLin28遺伝子からなる群よ
り選択される少なくとも一つである、前記方法を提供することである。
本発明の他の態様は、前記核初期化因子が、Oct3/4遺伝子、Sox2遺伝子、Klf4遺伝子およびc-Myc遺伝子である、前記方法を提供することである。
本発明の他の態様は、前記体細胞が線維芽細胞である、前記方法を提供することである。
本発明の他の態様は、前記フィーダー細胞が、マイトマイシンCまたはγ線照射処理さ
れた細胞である、前記方法を提供することである。
本発明の他の態様は、人工多能性幹細胞の培養方法であって、人工多能性幹細胞をヒト体細胞をフィーダー細胞として用いて培養する工程を含む方法を提供することである。
本発明の他の態様は、前記ヒト体細胞が、前記人工多能性幹細胞と由来が同じヒト体細胞である、前記方法を提供することである。
本発明の他の態様は、前記ヒト体細胞が線維芽細胞である、前記方法を提供することである。
本発明の他の態様は、前記体細胞にマイトマイシンCまたはγ線照射処理をする工程を
含む、前記方法を提供することである。
本発明の他の態様は、人工多能性幹細胞の培養方法であって、体細胞の培養上清を用いて人工多能性幹細胞を培養する工程を含む方法を提供することである。
本発明の他の態様は、前記体細胞がヒト体細胞である、前記方法を提供することである。
本発明の他の態様は、前記ヒト体細胞が、前記人工多能性幹細胞と由来が同じヒト体細胞である、前記方法を提供することである。
本発明の他の態様は、前記体細胞が線維芽細胞である、前記方法を提供することである。
本発明の他の態様は、前記人工多能性幹細胞がヒト人工多能性幹細胞である、前記方法を提供することである。
本発明の他の態様は、ヒト体細胞の培養上清を含む人工多能性幹細胞培養のための培養
液を提供することである。
本発明の他の態様は、前記ヒト体細胞がヒト線維芽細胞である、前記培養液を提供することである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、安全性の高いiPS細胞を製造することができる。また、本
発明の培養方法によれば、iPS細胞を効率よく培養することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】マイトマイシンC処理したヒト真皮線維芽細胞(HDF:NHDF、1388、1392および1503)およびSTO細胞由来細胞(SNL)の顕微鏡写真。バーは200μmを示す。
【図2A】1388由来のiPS細胞(201B7)をHDFまたはSNLをフィーダー細胞として培養したときのTRA-1-60陽性コロニーの含有率を示したグラフ。分析は3度行い、グラフはその平均値を示す。エラーバーは、標準偏差を示す。
【図2B】フィーダー細胞としてSNL細胞を用いた場合のコロニー数と各ヒト線維芽細胞を用いた場合のコロニー数の比較を示したグラフ。分析は3度行い、グラフはその平均値を示す。エラーバーは、標準偏差を示す。
【図2C】各線維芽細胞の培養上清を用いて培養したときのiPS細胞の顕微鏡写真。バーは200μmを示す。
【図2D】iPS細胞を、フィーダー上(F)または培養上清(CM)で培養したときの未分化マーカーに対するRT-PCR分析結果を示す写真。コントロールとして、HDFおよびフィーダー細胞としてSNLを用いて培養したH9(ES細胞)および201B7(non CM)を示した。
【図3】iPS細胞(201B7)を、フィーダー細胞上(F)または該フィーダー細胞の培養上清(CM)で培養したときの未分化マーカー(A:Oct3/4、B:Sox2、C:Nanog)に対する定量PCR分析。データはG3PDHを用いて標準化した。グラフは三度の実験の平均値を示す。エラーバーは標準偏差を示す。コントロールとして、HDFおよびフィーダー細胞としてSNLを用いて培養した201B7(non CM)を示した。
【図4A】初期iPS細胞コロニーの顕微鏡写真。1388、1392、1503、またはNHDFへ4因子を導入した。写真は、導入後25日目のコロニーである。
【図4B】樹立した各iPS細胞クローンの顕微鏡写真。各iPS細胞クローンは、それぞれ由来する線維芽細胞上で培養した。写真は、3継代目の細胞。バーは200μmを示す。
【図4C】樹立した各iPS細胞クローンの未分化ES細胞マーカーに対するRT-PCR分析結果を示す写真。各iPS細胞クローンは、それぞれ由来する線維芽細胞上で培養した。コントロールとして、HDFおよび、フィーダー細胞としてSNLを用いて培養したH9および201B7を示した。
【図5】自家の細胞をフィーダー細胞として用いて樹立したiPS細胞、ES細胞(H9)、およびHDFの未分化マーカー(A:Oct3/4、B:Sox2、C:Nanog)に対する定量PCR分析。黒塗りは、全遺伝子発現量を示し、白塗りは、内在性の発現量のみを示す。データはG3PDHを用いて標準化し、H9を基準に算出した。グラフは三度の実験の平均値を示す。エラーバーは標準偏差を示す。
【図6】自家の細胞をフィーダー細胞として用いて樹立したiPS細胞、ES細胞(H9)、およびHDFの未分化マーカー(A:Oct3/4、B:Sox2、C:Nanog)のプロモーター領域におけるメチル化量の分析。縦軸は、H9を基準に算出したメチル化DNAの相対値である。グラフは三度の実験の平均値を示す。エラーバーは標準偏差を示す。
【図7】各iPS細胞から形成させた胚葉体の顕微鏡写真とin vitroでiPS細胞から分化させた細胞の免疫染色の写真。赤色は、Sox17、α-SMA陽性細胞を、緑色は、NESTINを示す。核は、Hoechst 33342により染色し青色で示した。バーは100μmを示す。
【図8】樹立した各iPS細胞を、フィーダー上で培養し、未分化維持(U)または胚葉体形成により分化させたとき(D)の未分化マーカーおよび分化マーカーに対するRT-PCR分析結果を示す写真。コントロールとして、HDFおよびH9を示した。
【図9】各ヒト線維芽細胞またはSNLをフィーダー細胞として用いて培養した各iPS細胞(201B7、1388、1392、1503、およびNHDF)の顕微鏡写真。赤色は、TRA-1-60陽性細胞を示し、中央のHoechst 33342染色は核を示す。バーは200μmを示す。Phaseは両画像の重ね合わせを示す。
【図10】各ヒト線維芽細胞をフィーダー細胞として用いて培養した各iPS細胞(1388、1392、1503、およびNHDF)の核型分析結果(顕微鏡写真)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0013】
実施の形態及び実施例に本項にて特に説明がない場合には、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.などの標準的なプロ
トコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いることができる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いている場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコルを用いることができる。
【0014】
なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的に実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0015】
人工多能性幹細胞の製造方法
本発明は、核が初期化された体細胞を、自家の細胞をフィーダー細胞として用いて培養する工程を含む、体細胞から人工多能性幹細胞(iPS細胞)を製造する方法を提供する。
好ましくは、上記製造方法は、以下の工程を含む。
a)第一の体細胞へ核初期化因子を導入する工程;
b)前記核初期化因子が導入された第一の体細胞を、第一の体細胞と由来が同じであって、核初期化因子が導入されていない第二の体細胞をフィーダー細胞に用いて培養する工程。
【0016】
本発明はまた、核が初期化されたヒト体細胞を、ヒト細胞をフィーダー細胞として用いて培養する工程を含む、ヒト体細胞からiPS細胞を製造する方法を提供する。
好ましくは、上記製造方法は、以下の工程を含む。
c)第一のヒト体細胞へ核初期化因子を導入する工程;
d)前記核初期化因子が導入された第一のヒト体細胞を、ヒト由来の体細胞であって、核初期化因子が導入されていない第二の体細胞をフィーダー細胞に用いて培養する工程。
【0017】
本明細書において、iPS細胞とは、生殖系列にある細胞(例えば、卵細胞、精子細胞、
卵原細胞や精原細胞等それらの前駆細胞)または発生初期胚由来の未分化細胞(例えば、胚性幹細胞)以外の細胞(以下、体細胞と称す)を初期化することにより、人工的に誘導された多分化能及び自己増殖能を有する細胞のことである。
体細胞は、胚由来であっても胎児由来であっても成体由来であってもよく、また、マウス、ヒト等どのような動物種に由来しても構わないが、好ましくはヒトである。その性状
としては、本来、受精細胞が有する全分化能を一部でも失った細胞であれば特に限定されず、例えば、線維芽細胞、上皮細胞、肝細胞などが例示できる。
【0018】
フィーダー細胞とは、目的の細胞の培養条件を整えるために用いる、補助的役割を果たす他の細胞を意味する。本発明における、フィーダー細胞は、iPS細胞の自己複製を補助
する目的に使用される。
【0019】
自家の細胞とは、目的の細胞と由来を同一とする細胞を意味し、iPS細胞を誘導した体
細胞と同じ個体由来の細胞であり、組織の種類は問わない。例えば、iPS細胞を誘導する
際に用いた体細胞である。
【0020】
核初期化因子は、例えば国際公開WO2005/080598、WO2007/069666、WO2008/118820およ
びWO2009/057831に記載された初期化因子が例示される。詳細には、Oct遺伝子群、Klf遺
伝子群、Sox遺伝子群、Myc遺伝子群、Sall遺伝子群、Nanog遺伝子及びLin遺伝子群のそれぞれの遺伝子群から選択された遺伝子の遺伝子産物を含む。
ここで、Oct遺伝子群に属する遺伝子としては、Oct3/4(マウスNM_013633、ヒトNM_002701)、Oct1A(マウスNM_198934、ヒトNM_002697)、Oct6(マウスNM_011141、ヒトNM_002699)などがあり、Klf遺伝子群に属する遺伝子としては、Klf1(マウスNM_010635、ヒトNM_006563)、Klf2(マウスNM_008452、ヒトNM_016270)、Klf4(マウスNM_010637、ヒトNM_004235)、Klf5(マウスNM_009769、ヒトNM_001730)などがあり、Sox遺伝子群に属する遺伝子としては、Sox1(マウスNM_009233、ヒトNM_005986)、Sox2(マウスNM_011443、
ヒトNM_003106)、Sox3(マウスNM_009237、ヒトNM_005634)、Sox7(マウスNM_011446、ヒトNM_031439)、Sox15(マウスNM_009235、ヒトNM_006942)、Sox17(マウスNM_011441、ヒトNM_022454)、Sox18(マウスNM_009236、ヒトNM_018419)などがあり、Myc遺伝子
群に属する遺伝子としては、c-Myc(マウスNM_010849、ヒトNM_002467)、N-Myc(マウスNM_008709、ヒトNM_005378)、L-Myc(マウスNM_008506、ヒトNM_005376)などがあり、Sall 遺伝子群に属する遺伝子としては、Sall1(マウスNM_021390、ヒトNM_002968)、Sall4(マウスNM_175303、ヒトNM_020436)などがあり、Lin遺伝子群に属する遺伝子として
は、Lin28(マウスNM_145833、ヒトNM_024674)、Lin28b(マウスNM_001031772、ヒトNM_001004317)がある。
より好ましい核初期化因子は、Oct3/4遺伝子、Klf4遺伝子、Sox2遺伝子、c-Myc遺伝子、L-Myc 遺伝子、Sall4遺伝子、Nanog遺伝子(特開2005-110565)およびLin28遺伝子である
。核初期化因子としては、他にも遺伝子産物を導入してもよく、例えば、不死化誘導因子などが挙げられる。
【0021】
これらの遺伝子は、マウスおよびヒトの配列をNational Center for Biotechnology Informationのアクセション番号で例示したが、いずれも、脊椎動物で高度に保存されてい
る遺伝子であることから、他の動物由来の遺伝子であってもよく、また、ホモログを含めた遺伝子を表すものとする。また、ポリモルフィズムを含め、変異を有する遺伝子であっても、野生型の遺伝子産物と同等の機能を有する遺伝子であれば、核初期化因子遺伝子に含まれるものとする。
【0022】
初期化の方法は、上記初期化因子を少なくとも1つを体細胞へ導入することによって行われてもよく、前記初期化因子を複数個組み合わせて用いてもよい。含有する初期化因子の数は、2個、3個、好ましくは4個、もしくは4個以上である。より好ましい組み合わせとして、Oct3/4遺伝子、Sox2遺伝子およびKlf4遺伝子からなる組み合わせ、もしくは、Oct3/4遺伝子、Sox2遺伝子、Klf4遺伝子およびc-Myc遺伝子からなる組み合わせがある。
【0023】
初期化因子導入の方法として、核初期化因子が細胞内で機能する蛋白質である場合は、その蛋白質をコードする遺伝子を発現ベクターに組み込み、対象とする体細胞などの分化
細胞に発現ベクターを導入し、細胞内で発現させることが好ましい(遺伝子導入法)。発現ベクターは特に限定されないが、当業者によって適宜選択されたプラスミドベクター、ウィルスベクターまたは人工染色体ベクター(Suzuki N et al., J Biol Chem. 281(36):26615, 2006)が例示され、ウイルスベクターには、アデノウイルスベクター、センダイ
ウィルスベクター、レトロウィルスベクターやレンチウィルスベクターが例示される。また、Protein Transduction Domain(PTD)と呼ばれるペプチドを蛋白質に結合させ、培地に添加することにより、核初期化因子を細胞内に導入してもよい(Protein Transduction
法)。この他にも、精製した蛋白質を、各種のタンパク質導入試薬(例えば、Char
iotTM、またはBioporterTM等)を用いて核初期化因子を細胞内に導入する方法が例示される。細胞外に分泌される蛋白質の場合は、人工多能性幹細胞の調製段階で、分化細胞の培地にその因子を添加すればよい。なお、初期化すべき体細胞で、核初期化因子の一部が発現している場合は、その蛋白質に関しては外部から導入する必要が無い。
【0024】
前記核初期化因子を置換する目的もしくは導入効率を上げる目的で、サイトカインおよび化合物を添加する場合があり、サイトカインとして、例えば、SCF(stem cell factor
)、bFGF、WNT遺伝子群またはLIF(leukemia inhibitory factor)などが挙げられ、化合物として、例えば、Histone Deacetylase阻害剤、DNAメチル化阻害剤、MEK阻害剤、GSK3
β阻害剤またはROCK阻害剤などが挙げられる。
【0025】
体細胞へ初期化因子を導入した後、ヒトES細胞用の培養液中で培養することが好ましい。ここで、ヒトES細胞用の培養液は、特に限定されないが、20%代替血清、2mM L-グルタミン、1 x 10-4 M非必須アミノ酸、1 x 10-4 M 2-メルカプトエタノール、0.5%ペニシリ
ンおよびストレプトマイシン、4ng/ml組み換えヒトbasic fibroblast growth factor(bFGF)を含むDMEM/F12培地であることが好ましい。ヒトES細胞用の培養液で培養する際に、初期化因子導入後の細胞は、培養液を交換して培養してもよいし、もしくは細胞を分離して適切な細胞密度で再培養してもよい。細胞密度は、特に限定されないが、1 x 104個/cm2程度が望ましい。
【0026】
次に、核初期化因子を導入した体細胞を分離し、核初期化因子を導入していない体細胞(以下、フィーダー用体細胞)と共に培養する。ここで、予め培養したフィーダー用体細胞へ、核初期化因子を導入した体細胞を後から加えて培養することが好ましい。このとき核初期化因子を導入した体細胞に対してフィーダー用体細胞が過剰量であることが好ましい。その割合は、好ましくは1:4以上、より好ましくは1:5以上である。
フィーダー用体細胞は、例えば、マイトマイシンCもしくはγ線照射により、その増殖
能を不活性化しておくことが好ましい。
また、フィーダー細胞は、iPS細胞の自己複製を補助するために、SCF、bFGF、WNT遺伝
子群またはLIFなどの外来性サイトカインを分泌するように遺伝子導入されてもよい。
【0027】
核初期化因子を導入した体細胞を分離し、フィーダー用体細胞と共培養する際に、ES細胞様のコロニーを適宜選択して共培養に用いることが好ましい。選択方法の他の態様として、未分化マーカー遺伝子を発現している細胞を選択する方法もしくは細胞の形態を指標にする方法がある。未分化マーカー遺伝子を発現している細胞を選択する方法は特に限定されないが、例えば、未分化マーカー遺伝子のプロモーターの下流にレポーター遺伝子をノックインし、それらマーカー遺伝子を発現している細胞を選択すればよい。このほかにも、PCR法、LAMP法、ノザンハイブリダイゼーション法などによって、転写産物を検出し
てもよく、RIA法、IRMA法、EIA法、ELISA法、LPIA法、CLIA法,あるいはイムノブロット
法などによって、翻訳産物を検出してもよい。ここで、未分化マーカー遺伝子とは、特に限定されないが、ES細胞に特異的に発現している遺伝子であり、例えば国際公開WO2005/080598、WO2007/069666、WO2008/118820、WO2009/057831およびNat Biotechnol. 25, 803,
2007に記載されたES細胞に特異的に発現している遺伝子である。好ましくは、Oct3/4、Sox2、Nanog、Lin28、Rex1、UTF1、Eras、Fgf4、TDGF、Cripto、Dax1、ESG1、GDF3、Sall4、Fbx15 SSEA-1、SSEA-4、 TRA-1-60、 TRA-1-81またはアルカリフォスファターゼ(例えば、TRA-2-54またはTRA-2-49)から成る群より動物種を考慮して選択される(例えば、SSEA-1はマウスに特異的であり、SSEA-4、 TRA-1-60および TRA-1-81はヒトに特異的である)。また、レポーター遺伝子として、緑色蛍光タンパク質(GFP)、黄色蛍光タンパク質
(YFP)、青色蛍光タンパク質(BFP)のような蛍光タンパク質、イクオリンのような発光タンパク質またはβガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、ルシフェラーゼのような酵素をコードする遺伝子がある。
このようにして製造されたiPS細胞は、細胞補充療法のための材料として利用すること
ができる。
【0028】
人工多能性幹細胞の培養方法
本発明は、ヒト体細胞をフィーダー細胞として用いた、iPS細胞の培養方法も提供する
。ここで、ヒト体細胞は、iPS細胞の自己複製を補助できれば特にその種類を問わないが
、ヒト線維芽細胞株であることが好ましい。また、ヒト体細胞は、iPS細胞の由来である
個体から取得された細胞であることが好ましい。より好ましくは、iPS細胞を樹立する際
に用いたのと同じ体細胞である。フィーダー細胞として用いるヒト体細胞は、例えば、マイトマイシンCもしくはγ線照射により、その増殖能を不活性化しておくことが好ましい

【0029】
前記フィーダー細胞として用いる体細胞は、iPS細胞の自己複製を補助するために、外
来性サイトカインを分泌するように遺伝子導入されてもよい。サイトカインとしては、例えば、SCF、bFGF、WNT遺伝子群またはLIFなどが挙げられる。
【0030】
他の態様として、本発明は、ヒト体細胞の培養上清を含む培養液を用いた、iPS細胞の
培養方法も提供する。培養液は、ヒトES細胞用の培養液中で培養したヒト体細胞の培養上清であることが好ましい。ここで、ヒトES細胞用の培養液は、特に限定されないが、代替血清(例えば、KSR、Invitrogen)、L-グルタミン、非必須アミノ酸、2-メルカプトエタ
ノール、ペニシリンおよびストレプトマイシンを含む哺乳動物細胞培養用培地(例えば、DMEM/F12培地)であることが好ましい。上記培養液の各成分の濃度や添加物は、当業者によって適宜調節されてもよく、好ましくは、組み換えヒトbasic fibroblast growth factor(bFGF)を使用直前に添加する。培養上清を作製する際に使用するヒト体細胞は、iPS
細胞の自己複製を補助できれば特にその種類を問わないが、ヒト線維芽細胞株であることが好ましい。また、ヒト体細胞は、iPS細胞の由来である個体から取得した細胞であるこ
とが好ましい。より好ましくは、iPS細胞を樹立する際に用いた体細胞である。
【0031】
培養上清は、例えば、前記体細胞を適当な細胞濃度で1日以上培養した培養液から細胞
を除去したものである。好ましくは、1日培養後、培養液を交換しさらに1日培養し、細胞除去して得られた培養上清である。培養上清を得るために用いる培養液中の細胞濃度は、1 x 105 個/ml以上であることが好ましい。
【0032】
培養液は、iPS細胞の自己複製を補助することができる容量の前記培養上清を含有して
いればよく、少なくとも10%以上含むことが好ましい。より好ましくは、前記培養上清を50%以上、80%以上、90%以上含む培養液である。さらに好ましくは、培養液は、培養上清そのものである。なお、本発明のiPS細胞用培養液中の上記培養上清以外の成分はiPS細胞の増殖を阻害するものでない限り特に制限されないが、通常の哺乳動物細胞培養用培地などを使用することができる。
【実施例】
【0033】
以下に、本発明の実施例と比較例について説明するが、本実施例は本発明の再現を補助する目的でその一実施態様を示すものであって、本実施例から本発明の限界や制限事項は示唆されない。
【0034】
方法
細胞培養
ヒト真皮線維芽細胞(HDF)はCell application Incから購入した。HDF、293T、およびPLAT-Eは、10%牛胎児血清(FBS、Invitrogen)、0.5%ペニシリンおよびストレプトマイシン含有ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM、ナカライテスク)を用いて培養した。ヒトiPS細胞は、DMEM/F12(Invitrogen)、20%代替血清(KSR、Invitrogen)、2mM L-glutamine(Invitrogen)、1 x 10-4 M非必須アミノ酸(Invitrogen)、1 x 10-4 M 2-メルカプトエタノール、0.5%ペニシリンおよびストレプトマイシン、4ng/ml組み換えヒトbasic fibroblast growth factor(bFGF、和光純薬)からなる培地(hES細胞用培地)を用いて培養
した。
【0035】
iPS細胞の調製
iPS細胞は、従来の方法(Takahashi, K. et al. Cell 131, 861, 2007)へ少し修正を
加えた方法でHDFより樹立した。簡潔には、エコトロピックレトロウィルスレセプターを
コードするマウスsolute carrier family 7 (cationic amino acid transporter, y+ system), member 1(Slc7a1)遺伝子をレンチウィルスにより導入したHDFを、2 x 105個/60mmディッシュで蒔き、一晩インキュベートした。次の日、Oct3/4、Sox2、Klf4、およびc-Mycをレトロウィルスで導入した。6日後、細胞をトリプシン処理により回収し、5 x 105個/100mmディッシュで蒔き直した。翌日、hES細胞用培地へ培地交換し、20日間培養した。
遺伝子導入後25日目にES細胞様コロニーを取り上げ、由来の線維芽細胞上へ蒔き直した。この蒔き直しを、1継代とした。
【0036】
フィーダー細胞
12 μg/mlのマイトマイシンCを含有するリン酸緩衝溶液(PBS、ナカライテスク)をほ
ぼコンフルエントの線維芽細胞へ加え、37℃で3時間インキュベートした。処理後、細胞
は、PBSで2度洗浄し、トリプシン処理により回収した。細胞は、24穴プレート、6穴プレ
ート、60mmディッシュ3枚、または100mmディッシュ毎に1 x 106個を蒔いた。
【0037】
培養上清
60mmディッシュ毎に3 x 105個の線維芽細胞を蒔き、一晩インキュベートした。翌日、3mlのhES細胞用培地に取り換え、24時間インキュベートした。その後、線維芽細胞の培養
上清を回収し、フィルター処理した。これに4ng/mlのbFGFを使用直前に加えて用いた。
【0038】
分化誘導
iPS細胞を0.1mg/mlのコラーゲナーゼIV(Invitogen)、0.25%のトリプシン、0.1mM CaCl2(ナカライテスク)、および20%KSRからなる溶液(CTK溶液)で処理して回収し、細胞
クランプを10μM Y-27632(ROCK阻害剤:和光純薬)を添加したbFGFを含まないhES細胞
用培地中で懸濁させた。懸濁された細胞は、Ultra low binding plate(Corning)へ移した。浮遊培養8日後、胚葉体はゼラチンコートしたプレートへ移し、さらに8日間培養した。インキュベーション後、細胞は、4%パラホルムアルデヒドを含有するPBSで固定し、5%正常ヤギ抗体またはロバ血清(Chemicon)、1%ウシ血清アルブミン(ナカライテスク)
、および0.2% TritonX-100を含有するPBSでインキュベートした。一次抗体を以下に示す
;anti-SOX17 (1:300, R & D systems)、anti-α-smooth muscle actin (1:500, α-SMA,
DAKO)、およびanti-βIII-tubulin (1:1000, Sigma)。二次抗体を以下に示す;Cyanine 3-labeled anti-goat IgG (1:500, Zymed)、およびAlexa 546-labeled anti-mouse IgG (1:500, Invitrogen)。核は、1 μg/ml Hoechst 33342 (Invitrogen)で染色した。
【0039】
発現解析
RT-PCRは従来の方法で行った。簡潔には、細胞をTrizol試薬(Invitrogen)で溶解させ、全RNAを抽出した。RNAサンプルは、ゲノムDNAを除去するためTurbo DNA free(Ambion
)で処理した。DNase処理したRNAの1μgをRever tra ace -α-(東洋紡)およびOligo dT20プライマーを用いた逆転写に用いた。定量PCRは、SYBR Premix Ex Taq II(Takara)を用いて行った。プライマー配列は表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
メチル化分析
4μgのゲノムDNAは、ソニケーションにより分断し、95℃で10分間ボイルした。分断さ
れたゲノムDNAは、5 μg/ml BSA および25 μg/ml yeast tRNA (Ambion)を添加したpan-mouse IgG magnetic beads-conjugated anti-5-methyl cytosine antibody (Eurogentec
)と4℃で一晩インキュベートした。ビーズは0.05% TritonX-100を含有するPBSで三度洗
浄し、65℃で5分間インキュベートした。0.15mlの1% SDS/TEを加えて溶出を繰り返した。
溶出液は、2時間50℃の条件下でプロテアーゼKにより処理し、フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコールで抽出し、エタノール沈殿で精製した。プライマーを表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
フローサイトメトリー
細胞は、2mM EDTA含有PBSで回収し、PBSを用いて洗浄した。1 x 105個の細胞は、chicken anti-Neu5Gc (1.5 μg/100 μl) antibody と染色用のDylight 488-conjugated donkey anti-chicken IgY antibody (1:100, Jackson Immunoresearch)とインキュベートさせ
た。FACS Aria (Beckton Dickinson)を用いて測定した。
【0044】
実施例1
4つのヒト線維芽細胞株(NHDF、1388、1392および1503:それぞれ新生児、36歳の女性、56歳の男性および73歳の女性)およびSNL(STO細胞由来細胞)をマイトマシンCで処理
し、培養プレートに播種した(図1)。続いて、1388由来のiPS細胞株(201B7:WO2009/057831)を標準の濃度(iPS細胞:線維芽細胞=1:5)で上記の各線維芽細胞上に蒔いた。
その結果、5つの線維芽細胞は、フィーダー細胞として、iPS細胞の未分化維持培養を補
助した。TRA-1-60陽性細胞コロニーの含有率は、いずれの線維芽細胞およびSNLを用いた
場合でも同等であった(図2A)。各線維芽細胞上のiPS細胞間で接着効率に違いは見られなかった(図2B)。
【0045】
次に、線維芽細胞の培養上清を用いて培養してもiPS細胞の自己複製が可能であるかを
検討するために、マトリゲルをコーティングしたプレートを用いて、iPS細胞(201B7)を、各線維芽細胞もしくはSNLの培養上清、またはbFGF添加した対照培地(non CM)中で培
養した。その結果、対照培地では、密着したコロニーを形成しなかったが、各培養上清では、未分化なES細胞様の形態を示した(図2C)。RT-PCRにより、培養後の各iPS細胞における未分化ES細胞の特異的マーカー遺伝子(Oct3/4、Sox2、NANOG、およびTERT)の発現
を確認した(図2D)。定量PCRにおいても、上記未分化特異的マーカー遺伝子の発現量に変化は見られなかった(図3)。以上のデータより、新生児ならびに成人線維芽細胞がiPS細胞のフィーダー細胞として適していることを示した。
【0046】
実施例2
ヒトiPS細胞が、ヒト線維芽細胞上で樹立できるか否かについて検討するため、4つの核初期化因子(Oct3/4、Sox2、Klf4、およびc-Myc)をレトロウィルスによってヒト線維芽
細胞(NHDF、1388、1392および1503)に導入した。導入6日後、5×105個の上記細胞を、
フィーダー細胞なしのディッシュ(100mm)へ移し、ヒトES細胞の培養条件で培養した。
培養中、細胞はコンフルエントになり、フィーダー細胞様の形態を示した。導入2週間後
、ES細胞様のコロニーが、線維芽細胞様の形態を示す細胞の上に現われた。導入25日後、ES細胞様コロニー(図4A)をピックアップし、マイトマイシンC処理をした親線維芽細胞をフィーダー細胞として用いて培養した。
SNL由来の線維芽細胞(Isogenic)、またはその培養上清(feeder-free)による培養間で、ES細胞様コロニーの数に違いは見られなかった(表3)。本発明で用いた4つの線維芽細胞株由来のiPS細胞は、自己をフィーダー細胞として用いることで未分化状態を維持し
たまま培養できた(図4B)。
【0047】
【表3】

【0048】
実施例3
RT-PCRにより、実施例2で樹立したiPS細胞クローンのOct3/4、Sox2、Nanog、およびTERTの転写量を確認したところ、フィーダー細胞としてSNLを用いて培養したH9(ES細胞)
および201B7(iPS細胞)と同等であった(図4C)。
Oct3/4およびSox2の全発現量および内在性の発現量を定量PCRにより調べた結果、レト
ロウィルスベクターからの転写はサイレンシングされていることが確認された(図5)。
また、自家の細胞をフィーダー細胞として用いて維持および樹立したiPS細胞のOct3/4
およびNanogといった多能性関連遺伝子のプロモーター領域のメチル化を抗メチル化シト
シン抗体を用いた免疫沈降法により調べたところ、メチル化はH9(ES細胞)と同等であることが確認された(図6)。一方、上記iPS細胞のWnt5A、IGF2、およびSlc5A4の上流では、高くメチル化されていた。これらのデータは、由来となった線維芽細胞上で樹立したiPS細胞は、従来のマウス線維芽細胞上で樹立したiPS細胞またはES細胞と同じような特性があることが示唆された。
【0049】
実施例2で樹立したiPS細胞クローンの多能性を調べるため、in vitro分化を行った。
由来となった線維芽細胞上で樹立したiPS細胞クローンから浮遊培養により胚葉体を形成
させた。分化16日目に、Sox17(内胚葉)、α-smooth muscle actin(α-SMA、中胚葉)
およびNESTIN(外胚葉)陽性細胞が確認された(図7)。
【0050】
次に、樹立した各iPS細胞を、フィーダー上で培養し、未分化維持(U)または胚葉体形成により分化させたとき(D)の未分化マーカーおよび分化マーカーに対する各分化マー
カー及び未分化マーカーの発現をRT-PCRで調べた。その結果、分化誘導後のOct3/4、Sox2、およびNanogといった未分化マーカーの減少およびAFP、PDGFRaおよびPax6といった他の分化マーカーの増加を確認した(図8)。なお、これに加えて、iPS細胞を精巣へ投与し
、テラトーマの形成を確認してもよい。
【0051】
また、互いに別(他人)由来のヒト線維芽細胞上でも各iPS細胞が培養できることを確
認するため、各iPS細胞を、各ヒト線維芽細胞またはSNLをフィーダー細胞として用いて培養した。培養開始6日後のiPS細胞をTRA-1-60抗体で染色し、陽性細胞の数を計測した結果、別由来のヒト線維芽細胞を用いて培養した場合でもコロニーの80%以上が、未分化細胞
であった(図9)。さらに、このようにして培養したiPS細胞の核型を分析したところ、
染色体異常は確認できなかった(図10)。以上より、ヒト線維芽細胞は、iPS細胞の培
養の際に、フィーダー細胞として有用であることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体細胞からの人工多能性幹細胞の製造方法であって、核が初期化された体細胞を、自家の細胞をフィーダー細胞として用いて培養する工程を含む、方法。
【請求項2】
次の工程を含む、請求項1に記載の方法。
a)第一の体細胞へ核初期化因子を導入する工程;
b)前記核初期化因子が導入された第一の体細胞を、第一の体細胞と由来が同じであって、核初期化因子が導入されていない第二の体細胞をフィーダー細胞に用いて培養する工程。
【請求項3】
ヒト体細胞からの人工多能性幹細胞の製造方法であって、核が初期化されたヒト体細胞を、ヒト細胞をフィーダー細胞として用いて培養する工程を含む、方法。
【請求項4】
次の工程を含む、請求項3に記載の方法。
c)第一のヒト体細胞へ核初期化因子を導入する工程;
d)前記核初期化因子が導入された第一のヒト体細胞を、ヒト由来の体細胞であって、核初期化因子が導入されていない第二の体細胞をフィーダー細胞に用いて培養する工程。
【請求項5】
前記核初期化因子が、Oct遺伝子群、Sox遺伝子群、Klf遺伝子群、Myc遺伝子群、Nanog遺
伝子、Sall遺伝子群およびLin遺伝子群からなる群より選択される少なくとも一つである
、請求項2または4に記載の方法。
【請求項6】
前記核初期化因子が、Oct3/4遺伝子、Sox2遺伝子、Klf4遺伝子、c-Myc遺伝子、L-Myc遺伝子、Nanog遺伝子、Sall4遺伝子およびLin28遺伝子からなる群より選択される少なくとも
一つである、請求項2または4に記載の方法。
【請求項7】
前記核初期化因子が、Oct3/4遺伝子、Sox2遺伝子、Klf4遺伝子およびc-Myc遺伝子である
、請求項2または4に記載の方法。
【請求項8】
前記体細胞が線維芽細胞である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記フィーダー細胞が、マイトマイシンCまたはγ線照射処理された細胞である、請求項
1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
人工多能性幹細胞の培養方法であって、人工多能性幹細胞をヒト体細胞をフィーダー細胞として用いて培養する工程を含む、方法。
【請求項11】
前記ヒト体細胞が、前記人工多能性幹細胞の誘導に用いたヒト体細胞と同一個体に由来する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ヒト体細胞が線維芽細胞である、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記体細胞にマイトマイシンCまたはγ線照射処理をする工程を含む、請求項10から1
2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
人工多能性幹細胞の培養方法であって、体細胞の培養上清を用いて人工多能性幹細胞を培養する工程を含む、方法。
【請求項15】
前記体細胞がヒト体細胞である、請求項14に記載の方法
【請求項16】
前記ヒト体細胞が、前記人工多能性幹細胞の誘導に用いたヒト体細胞と同一個体に由来する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記体細胞が線維芽細胞である、請求項14から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記人工多能性幹細胞がヒト人工多能性幹細胞である、請求項10〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
ヒト体細胞の培養上清を含む人工多能性幹細胞培養のための培養液。
【請求項20】
前記ヒト体細胞がヒト線維芽細胞である、請求項19に記載の培養液。

【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図2C】
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【図2D】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2012−527888(P2012−527888A)
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−512619(P2012−512619)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【国際出願番号】PCT/JP2010/059493
【国際公開番号】WO2010/137746
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】