説明

人工杢模様付き天然木板材、それを用いた天然木合せ材、及び人工杢模様付き天然木板材の製造方法。

【課題】 天然の風合いに近い人工杢模様を有した天然木板材と、その製造方法を提供する。
【解決手段】 パンチ先端側ほど断面積が縮小する形態のテーパーが側面に施されたパンチ73を、天然木板材80の板主表面80mに、予め定められた深さの凹部81が形成されるように加圧により食い込ませる。凹部81の形成された天然木板材80の表層部を、該凹部81の底から所定深さ隔たった位置に形成される人工杢模様の形成領域83が露出するまで切削する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、人工杢模様付き天然木板材、それを用いた天然木合せ材、及び人工杢模様付き天然木板材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】特開平9−123110号公報
【特許文献2】特開2003−340805号公報
【0003】
天然の樹木の中には、断面において杢模様と呼ばれる美しい組織形態が表れることがある。この杢模様は、木こぶや節の発生になどにより生じた木繊維の異常配列、例えば交走木理や交錯木理に由来して形成されるもので、一般に一定の種類の樹木(特に広葉樹)であってしかも限られた部位にしか見出されないものであり、特に意匠的に優れた交走木理を有する木材は、希少価値として大変尊重されている。しかし、近年の木材資源の枯渇化により、意匠価値の高い杢模様を生ずる樹種の木材の入手がしだいに困難になっている。このため、意匠的に優れた杢模様を有する天然木板材は、取引市場においてますます珍重される傾向にある。
【0004】
天然の杢模様が貴重化すれば、世の常として、こうした杢模様を人工的に再現する方法が検討されることになる。特許文献1では、人工杢単板が天然の銘木単板と混同する程に似たものとすることを課題として掲げ、その銘木単板が本来有する木肌、道管、木理等を人工杢単板において忠実に表現することが必要とされる旨、述べられている。そして、既存の種々の改良技術で作られる人工杢単板は、多くは自然感に欠け、天然木の木理、木肌等についての忠実度、再現度が十分に高いものとは言えない、とも述べられている。その欠点の根本原因として、既存の技術は、数多くの単板部位を寄せ集めて、杢を有する木理の木目曲線を人工的に再現したものに過ぎない点を指摘している。そして、特許文献1では、木材フリッチを反復切削するか、周方向に連続切削することで、同じ原木から木理の連続する単板を作り、未硬化の接着剤層を介してこれを重ね合わせ、上下の凹凸が相補うように形成されたパンチを用いて型押しした後、接着剤層を硬化させ、その後積層体の積層面と交差する向きに切削して単板を得る方法が提案されている。この技術の原理は、要するに、木理の連続するバルク木材を切削により薄板に分解して元通りに重ね合わせ、加圧時には上下の相補う凹凸により木繊維を凹凸に倣って屈曲させることにより、杢模様を形成する点にある。単板への分解により、木繊維は、単板間での面内相対移動の自由度が増し、木割れ等を生ずることなく、木繊維を屈曲変形させることが可能である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、天然の杢模様が何故これほど珍重されるかについては、従来技術が決定的に及んでいない次の特性を有しているからである。すなわち、天然の杢模様は、木繊維の複雑な屈曲により図案的に特異な模様パターンを有しているだけでなく、光学的な風合いを見る角度により微妙に変化させる。よりわかりやすくいえば、見る角度を変えることで光沢模様が鮮やかに変化し、天然ホログラフィーともいえる意匠効果を達成することができるのである。この効果は、光の入射角により木材内部からの反射パターンが変化することにその要因が求められるが、そのためには、木繊維が模様部位にて板面と平行な向きだけでなく、光が入射する板厚方向にも投影成分が生ずるよう、3次元的に屈曲していることが条件となる。
【0006】
この観点で特許文献1の技術を見るに、この方法では、上下の型の凹凸が相補的に形成されていることから、結果的に凹凸に対応する領域も、そうでない領域もほぼ同じプレスストロークで加圧され、また、屈曲変形の際に、上下の単板は面内に滑ることで拘束力が弱まっているので、加圧時の応力分布はプレス軸と平行な平面応力分布状態に近くなる。また、局所的な応力集中による3次元的な木繊維の乱れ発生も期待できず、結局のところ、繊維の屈曲は単板の積層面と直交する面内以外の向きにはほとんど生じないことになる。そして、最終的に得るべき単板は、この積層体を積層面と直角な面にてスライスして製造されているので、単板面内にて平面的に屈曲した木理しか生じず、これでは、光学的な風合いの角度依存性が生じるわけがない。そして、より根本的な問題は、この技術で得られる板は、天然木を一旦単板にスライスして再接着したものを素材として使用しているため、所詮は「寄せ集め」の思想を脱却できておらず、多数の接着剤層が板面に表れるために、天然木の本来的な風合いの相当部分が犠牲にならざるを得ない欠点がある。
【0007】
他方、特許文献2では、接着剤を配合した繊維マットを積層して作った人工的な木質繊維結合板に、型加圧により凹部を形成しつつ接着剤をキュアし、その凹部の下側に生ずる圧縮領域を木目模様パターン等に形成し、その後凹部がなくなるまで板面を切削して模様を形成する圧縮領域を露出させ、化粧板を作る方法が開示されている。しかし、この方法は、出発素材がそもそも天然木でないのだから、「天然の杢模様再現」などといった目的を論ずることは、余りも異質でおこがましいものといえる(当然、形成される模様の光学的な風合いに角度依存性が生ずるはずもない)。
【0008】
本発明の課題は、より天然の風合いに近い人工杢模様を有した天然木板材と、その製造方法、並びに該天然木板材を用いた合せ材を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び作用・効果】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の人工杢模様付き天然木板材は、天然木板材の板主表面に加圧加工に由来した変性模様であって、光反射による模様外観風合いが視認方向により変化する人工杢模様を形成したことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の人工杢模様付き天然木板材の製造方法は、上記本発明の人工杢模様付き天然木板材の製造方法であって、
パンチ先端側ほど断面積が縮小する形態のテーパーが側面に施されたパンチを、天然木板材の板主表面に、予め定められた深さの凹部が形成されるように加圧により食い込ませるパンチ加圧工程と、
凹部の形成された天然木板材の表層部を、該凹部の底から所定深さ隔たった位置に形成される人工杢模様の形成領域が露出するまで切削する切削工程と、を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明の方法によると、素材として天然木板材(特に、寄木等を行わないムクの天然木板材)を使用し、その板主表面を、側面がテーパー状となったパンチにより加圧して凹部を形成する。本発明者が詳細に検討した結果、側面がテーパー状となったパンチを用いて、天然木に適当な圧力(あるいは深さ)で凹部形成したとき、凹部の下方には、天然の杢模様構造に近い三次元的な木繊維の屈曲構造(三次元屈曲領域)が形成されることがわかった。そして、これが露出するまで研削することにより、板主表面に、光反射による模様外観風合いが視認方向により変化する杢模様を人工的に形成できることを見出し、本発明を完成させるに至ったものである。すなわち、本発明の天然木板材は、従来、如何にしてもなし得なかった、光反射による模様外観風合いが視認方向により変化する人工杢模様を有するものであり、該本発明の方法により初めて実現されたものである。
【0012】
この方法は、例えば単板に分解しない、一定厚さ以上(例えば厚さ5mm以上(上限に制限はないが、例えば50cm))のムクの板材に適用することができる。模様を表出する板主表面は、その加工を加えた板主表面を板厚方向に削り込んで作られるから、ムク板材を使用する以上、模様形成された板面も、接着剤層等で分断されないムク板の連続性を保持したものとすることができ、天然木の風合いも損なわれることがない。
【0013】
さて、上記の方法は、適用素材の種別を除けば、引用文献2の方法に一見類似しているが、以下のごとき大きな違いがある。
(1)天然木のムク板材に加圧力を加えた場合は、その生体組織(あるいは成長履歴)に固有の異方的変形挙動を示し、結果として、この性質を利用することで、加圧形成された凹部の下方に、反射模様に光学異方性が生ずる根源となる3次元的な繊維変形部(三次元屈曲領域:反射異方性変形部ともいう)を形成することが可能となる。従って、この反射異方性変形部が露出するまで、加工後の板材を研削することが必須である。しかし、特許文献2で使用している、一旦解砕された木質繊維を接着剤で結合したような素材は、そうした生体的特性あるいは異方性は完全に損なわれる。従って、どんなに強くプレスしても、繊維は単に板厚方向に圧縮されるだけであり、反射異方性変形部は決して形成されない。
【0014】
(2)特許文献2で使用する木質繊維結合板は、接着剤が軟化している状態では、個々の繊維の変形加圧力を加えたときの拘束力がないために、加圧方向に繊維束が一軸的に圧縮される程度の単純な変形挙動となり、しかも接着剤が流動するので、プレスによる深い割れ等も生じない。しかし、天然木は個々の木繊維が生体的に結合された状態なので、拘束が強く、単純な型加圧では深い木割れが生じることが予想される。特に、特許文献に開示されている、図30のような側面が切り立った形状のパンチ73eを天然木に適用すると、パンチ73eのエッジで板材80の表層部の木繊維4が切断されてしまう。また、パンチ73eのエッジには深い木割れが生じやすい。反射異方性杢模様の起源となる三次元屈曲領域が凹部下方に確実に形成されるには、実は、凹部形成に伴う表層部の木繊維の変形フローも大きく影響している。そして、本発明者が検討したところ、先端側ほど断面積が縮小する形態のテーパーが側面に施されたパンチを天然木に適用した場合にのみ、上記の三次元屈曲領域の形成に特に好都合な木繊維変形フローが得られ、プレスによる木割れも極めて効果的に防止できることが判明したのである。
【0015】
上記の天然木板材は、切削工程が終了したムク板材の形でも使用できるが、人工杢模様が現れている表層部だけを次のようにスライスして、薄板を得ることもできる。すなわち、切削工程の後、切削された天然木板材の板主表面側から、三次元屈曲領域深さ方向区間内にて、該天然木板材の表層部をスライシングするスライシング工程を実施し、それによって薄板状の人工杢模様付き天然木板材(以下、人工杢模様付き天然木薄板ともいう)を得る。このような薄板は、合せ材の化粧板部分(いわゆる突き板)等として有効に活用することができる。この場合、三次元屈曲領域深さ方向区間内にて、スライシング工程を繰り返すことにより、該天然木板材の表層部から、複数枚の薄板状の人工杢模様付き天然木板材を得ることができる。また、本発明の天然木合せ材は、上記本発明の人工杢模様付き天然木板材が厚さ0.05mm以上1mm以下の薄板に形成され、その一方の主表面を人工杢模様の視認面として形成する一方、その反対側の主表面に補強用の基材を貼り合わせたことを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。図1は、本発明の人工杢模様付き天然木板材を用いた天然木合せ材の一例を示すものである。該天然木合せ材100は、本発明の人工杢模様付き天然木板材1が厚さ0.05mm以上1mm以下の薄板に形成され、その第一主表面を人工杢模様2の視認面として形成する一方、その反対側の主表面に補強用の基材50を貼り合わせたものである。人工杢模様付き天然木板材1は、天然木板材の板主表面1mに加圧加工に由来した変性模様であって、光反射による模様外観風合いが視認方向により変化する人工杢模様2を形成したものである。
【0017】
図23〜図28に、人工杢模様付き天然木板材1の製造工程を示している。工程の概略は以下の通りである。図23に示すごとく、パンチ先端側ほど断面積が縮小する形態のテーパーが側面に施されたパンチ73を用い、図22に示すように、天然木板材80の板主表面80mに、予め定められた深さの凹部81が形成されるように加圧によりパンチ73の先端部73tを食い込ませる(パンチ加圧工程)。図23に示すように、このようなテーパー状の側面形態を有したパンチ73により、天然木に適当な圧力及び深さで凹部81を形成したとき、凹部81の底の下方には、反射異方性杢模様の起源となる3次元屈曲領域(反射異方性変形部)83が形成される。そして、図26に示すように、凹部81の形成された天然木板材80の表層部を、上記3次元屈曲領域83が露出するまで切削する(切削工程)。図23では、単板に分解しない、一定厚さ以上(例えば厚さ5mm以上)のムクの板材80を使用しており、図26において人工杢模様2を表出する板主表面80m’は、図25に示すごとく、加工を加えた板主表面80mを板厚方向に削り込んで作られる。すなわち、ムク板材を使用することで、模様形成された板面も、接着剤層等で分断されないムク板の連続性を保持したものとすることができ、天然木の風合いも損なわれない。
【0018】
以下、さらに詳細に説明する。
図24に示すように、パンチ加圧工程は、加圧によって形成される凹部81の底の下方に、3次元屈曲領域83として、図2に示すごとく、板主表面と平行な面内においては、該領域内で木繊維群4がV字状に揃って屈曲するとともに、各木繊維のV字底をつないで得られる仮想境界線により、木繊維群が第一の向きに傾斜する第一領域2bと、これとは反対の第二の向きに傾斜する第二領域2aとに区切られ、他方、板主表面と直交する平面により原方向に沿って天然木板材を切断したときの木端断面においては、木繊維群が第一領域2bでは板主表面に向けた下り勾配となり、第二領域2aでは上り勾配となるように屈曲する領域83が形成されるよう、パンチの加圧力を設定することが望ましい。適正な加圧力(及びパンチの食い込み深さ)は、パンチの形状、使用する素材の種別や状態(特に硬さ)、形成する杢模様領域の形状によって変化するが、概ね2mm以上8mm以下の範囲で上記形態の木繊維群の変形フローが得られるよう適宜設定する。そして、切削工程においては、板主表面1mに3次元屈曲領域83が露出するように切削の厚さが設定される。この切削は、例えば平鉋盤を用いて行うことができる。
【0019】
図6に示すように、天然木には、成長速度の遅い硬質の秋材部(符号3)と、成長速度が速いやや軟質の春材部とが交互に形成されて、天然木特有の年輪構造が形成される。このように天然木は、半径方向に生体組織が周期的に変化する特質があり、繊維と直角に加圧力を加えたときの木繊維の変形特性も特異な異方性を示す。
【0020】
すなわち、図24に示すように、板面80mにパンチ73を食い込ませると、パンチ73の形状に倣いながら木繊維群4は圧縮される。具体的には、パンチ73の側面がテーパー面となっているので、このテーパー面に沿って、パンチ73の先端を境として木繊維群4は、一方の側で下り勾配、他方の側で上り勾配となるように変形する。本発明者が詳細に検討したところ、使用する板材が板目材(図6参照)あるいは追い柾材である場合、加圧面が木表面(丸太の中心から遠い面)の場合は、原木年輪外側に位置する層から内側に位置する層へ向けて繊維群は、板面方向に流れるように連動変形しやすく、加圧面が木裏面(丸太の中心に近い面)の場合は、その逆向きに連動変形しやすい性質があるがわかった。これは、天然木が特有に示す実に不思議な変形特性である。この特性により、三次元屈曲領域83内の木繊維群4は、木表及び木裏の各々に固有の板面内方向に、V字状に流れる形で変形する。すなわち、三次元屈曲領域83内では、板厚方向に下向きに凹となる形態で、上り/下りの勾配を形成しつつ、同時に面内横方向にも一定の向きにV字状に屈曲変形するという、複雑な3次元変形を起こすのである。このような三次元屈曲領域83は、加圧力が適性値よりも低いとほとんど形成されず、逆に加圧力が強すぎた場合は、凹部両側の盛り上がり部81rに、三次元屈曲領域83の形成位置まで深く入り込む木割れが生じ、商品価値が瞬時に無くなってしまう。その加圧力の調整は微妙であって職人的な調整が必要であり、前述のごとく、パンチの形状、使用する素材の種別や状態(特に硬さ)、形成する杢模様領域の形状によって試行錯誤により決める。なお、図30のような側面が切り立ったパンチ73eを用いると、パンチ73eが食いこむとともに木繊維群4が切断されてしまい、パンチ73eの下方に、パンチ形状に倣った下り勾配/上り勾配の変形部はほとんど形成されない。
【0021】
また、パンチ加圧を適正に行っても、図25に示すように、凹部両側の盛り上がり部81rには多かれ少なかれ木割れ84が発生する。この木割れ84が人工杢模様の形成領域83に及んでいる場合は、図26に示すごとく、後続の切削工程を、該木割れ84が消滅する厚さにて実施する必要がある。
【0022】
木割れ84は浅ければ浅いほど、研削時間を短縮でき、また、後述のスライスにより薄板を取得する場合は、その歩留まりが向上する。木割れ84の形成を抑制するには、パンチ加圧工程を、加圧の圧力変化が穏やかな油圧式加圧により行うことが望ましい。図23では、天然木板材80がベース70上に固定され、モ門型フレーム71に取り付けられた油圧シリンダ72により、パンチ73が天然木板材80に対して加圧のために接近・離間する。
【0023】
また、木割れ84を抑制するには、図31に示すように、乾燥板材80を一旦煮沸処理した後、パンチ加圧工程に供することも有効である。図31では、乾燥板材80を投入した煮沸浴(水でよい)を熱源Fにより加熱して煮沸を行っている。これにより、板表層部の可撓性が向上し、木割れ84の伝播を抑制することができる。この場合、煮沸処理により水分が浸透した板材80の表面に、パンチ加圧工程により凹部を形成した後、三次元屈曲領域83のうち、下層の水分浸透の影響が及んでいない部分が露出するまで切削工程を実施するとよい。水分浸透の影響が及んでいる部分は、繊維の屈曲変形が戻りやすく、これが残留していると鮮明な模様が得られないからである。
【0024】
図26のようにして三次元屈曲領域83を切削により露出させると、図2に示すような構造が得られる。すなわち、人工杢模様2の周囲領域の、加圧加工履歴の及んでいない天然木固有の木繊維4方向を原方向OLとして、板主表面1m上において人工杢模様領域2は、該領域内で木繊維群4がV字状に揃って屈曲するとともに、各木繊維4のV字底をつないで得られる仮想境界線VBにより、木繊維群4が第一の向きPDに傾斜する第一領域2bと、これとは反対の第二の向きSDに傾斜する第二領域2aとに区切られる。他方、板主表面1mと直交する平面により原方向OLに沿って天然木板材1を切断したときの木端断面1tにおいては、木繊維群4が第一領域2bでは板主表面1mに向けた下り勾配となり、第二領域2aでは上り勾配となるように屈曲する。これによって人工杢模様領域2は、第二領域2aから第一領域2bに向う方向を基準方向SDとして、図3に示すごとく、該基準方向から板主表面1m上を見たときに第二領域2aの木目が逆目、第二領域2bの木目が順目となる。この順目と逆目が人工杢模様領域2内に相伴って現れる点が非常に重要である。
【0025】
繊維が上り勾配の第二領域2aと下り勾配の第一領域2aとは、切削工程で板面を切削することにより、傾斜した木繊維(導管)の切り口が切削断面に表れていること、また、板面方向に木繊維が揃ってV字形態に屈曲していることにより、杢模様と周囲領域との間にコントラストが形成され、模様を視認することができる。他方、各領域2b,2aは順目領域と逆目領域を形成していることで、視認される模様の風合いに、視認方向に応じた光学的異方性を生ずる。すなわち、各領域2b,2aは、模様を視認する板面に対して反射を生ずる木繊維の板厚方向の傾斜方向が異なり、かつ、板面方向にも木繊維が揃ってV字形態に屈曲しているので、板に対する視認角度によって模様反射像の見え方が大きく変化し、例えば視認角度により、見えやすい模様と見えにくい模様とが変化する(あるいは入れ替わる)、といったホログラフィーにも似た視覚効果が得られる。例えば、図4に示すように、板を立てると逆目の第二領域2bがくっきりと見え、逆に板を寝かせると順目の第一領域2aがくっきりと見える。さらに、各領域では、木繊維には板面方向にも傾斜しているから、面内に視認方向を変えた場合には、また見え方が異なることになる。このように、上記のようにして得られる人工杢模様は、光反射による模様外観風合いが視認方向により複雑に変化するものであり、これこそが、その人工的な再現を長らく拒みつづけてきた、天然木杢模様の最大の特質である。
【0026】
なお、順目と逆目とを生ずるだけであれば、木繊維は板厚方向にのみ屈曲していればよいが、模様としてはっきり視認できるためには、模様の領域で木繊維が板面方向にも屈曲していることが必要であり、木繊維の板面方向への屈曲と板厚方向への屈曲とがバランスよく両立していることが、杢模様の人工再現において極めて重要である。そして、板厚方向に加圧しているにも拘わらず、木繊維が板面方向に規則性をもって流れるように屈曲する性質は、天然木の年輪構造にしか見られない重要な特質であり、本発明はこれを利用することより初めて杢模様の人工再現に成功したものである。
【0027】
さて、図1の合せ材100を得るには、さらに以下のような工程が必要である。すなわち、図7に示すように、切削工程の後、切削された天然木板材80の板主表面80m側から、三次元屈曲領域(反射異方性変形部)83内にて、該天然木板材1の表層部をスライシングするスライシング工程を実施し、それによって薄板状の人工杢模様付き天然木板材1を得る。厚さ0.05mm以上1mm以下、特に、0.1mm以上0.5mm以下の薄板を天然木素材から無傷でスライスするには、切断の抵抗を下げるために、素材を煮沸により柔軟化し、可撓性を増した状態でスライスを実施することが有効である。ところが、加圧により形成した反射異方性変形部83は、煮沸により膨潤すると応力緩和して消滅してしまうので、この手法は採用することができない。従って、天然木板材80としては乾燥板材を使用し、切削工程の後、該天然木板材80を乾燥状態のままスライシング工程に供することが重要である。
【0028】
この場合、スライシング工程にて使用するスライスブレード90は、切断の抵抗をできるだけ下げるために、なるべく刃先が鋭利で硬質のものを使用し、かつ、ブレードエッジが天然木板材80の木繊維4の方向と鋭角に交差する形で配置してその状態で天然木板材80をスライスブレード90に対して木繊維方向に相対移動させることにより、斜め切断形態でスライシングを行うことが望ましい。
【0029】
なお、図27に破線で示すように、上記のスライシング工程を繰り返すことにより、人工杢模様2の形成区間内にて、該天然木板材1の表層部からは、複数枚の薄板状の人工杢模様付き天然木板材1を得ることができる。つまり、1回のパンチ加圧工程と、切削工程とのサイクルで、人工杢模様付き天然木板材1を何枚も得ることができ、経済的である。この場合、スライシング工程が終了した残余の天然木板材80を出発素材として、これをパンチ加圧工程にフィードバックすることで、以下同様の工程を繰り返すことにより、さらに多くの薄板状の人工杢模様付き天然木板材1を得ることができる。使用する天然木素材が高価な場合に、この方法は特に有効である。また、天然木板材80の残余厚さが少なくなってきた場合、これを廃材等のダミー板材に貼り合せてパンチ加圧工程以降の工程を繰り返すようにすれば、天然木板材80をほぼ完全に使い切ることができる。
【0030】
上記のようにして得られた薄板状の人工杢模様付き天然木板材1は、図13に示すように、天然木材又は解砕した木繊維を樹脂結合した木質繊維結合板50や、安価なムク材板等からなる補強用基材50に貼り合わせて補強する。また、天然木板材1の人工杢模様2が露出する側の板主表面1mは、該人工杢模様2が透視可能な保護樹脂層10で覆うことができる。保護樹脂層10は、クリアラッカーやワニスなどの合成塗料や、漆などの天然塗料の塗布により形成できる。天然木板材1の部分と保護樹脂層10との屈折率が異なるので、図14に示すごとく、人工杢模様2をより鮮明に表出することができる。このとき、図28に示すように、保護樹脂層10を形成する樹脂の一部を天然木板材1の表層部に含浸させて樹脂含浸部10iを形成しておくと、人工杢模様2内の木繊維群の変形状態が応力緩和により戻って模様が不鮮明化する不具合を抑制できる。かくして、図1の合せ材100が完成する。該合せ板100は、例えば、家具、楽器(例えばピアノやギターなど)、建築内装材等に幅広く活用できる。
【0031】
以下、さらに詳細な各論を説明する。
使用する天然木板材は、図6に示すように、板目板又は追い柾板(柾目板と板目板の中間位置で木取りされ、木口面に年輪が斜めに現れる)を使用することが、板面方向への木繊維の屈曲変形が顕著であり、人工杢模様をより鮮明に形成できる。これに対し、柾目板は、加圧による木繊維の板面方向への変形異方性が顕著でない。従って、柾目板では、側面がテーパー面状のパンチの使用により、逆目/順目の起源となる板厚方向の下り/上り屈曲は生ずるものの、その模様としての視認性を支配する板面方向の屈曲があまり生じないので、鮮明な人工杢模様が得にくい難点がある。
【0032】
また、パンチによる加圧は、板目板又は追い柾板の木表側から行うことが望ましい。図8及び図9に示すように、木表側からの加圧により、板主表面1m上にて人工杢模様領域2における木繊維群4は、V字形状の底が、使用する天然木板材の原木年輪外側に位置する層から内側に位置する層に向う方向に延出するよう屈曲する。他方、図10に示すごとく、木裏側からパンチ加圧を行った場合は、木繊維の屈曲変形方向はその逆となるが、同じ板材であっても木表側と比べて木繊維の屈曲の度合いがかなり小さい。従って、鮮明な人工杢模様を得るには、木表側からパンチ加圧を行うことが圧倒的に有利である。また、板目板と追い柾板とでは、同じ条件でパンチ加圧を行っても、追い柾板の方が人工杢模様をより鮮明に形成できる。図1の実施例では、人工杢模様付き天然木板材1の板主表面1mは、追い柾板の木表面を使用している。特に、図7に示すように、木口面1eに現れる年輪3の木表面1mとのなす角度が35°以上55°以下(特に45°付近)となる追い柾板が、人工杢模様の鮮明形成に最も有利である。
【0033】
なお、板目板と追い柾板の木表側からパンチ加圧して形成した人工杢模様の繊維屈曲方向は、当然のことであるが、これをスライスして得られた薄板の表側(つまり木表側)と裏側(つまり木裏側)とで同じであり、模様が鮮明であれば、装飾面として裏側面を使用することももちろん可能である(この場合、視認方向を固定とすれば、順目と逆目の表れ方も逆になる)。つまり、厚板状態で木裏側から加圧して模様形成した場合に限り、繊維屈曲方向の逆転と不鮮明化が起こるのであり、木表側から加圧して模様形成しスライスして得られた薄板の、裏面(つまり木裏)の利用が不利になることを意味するものではない。
【0034】
使用する天然木板材の種類は、天然杢模様の形成が本来的に顕著な広葉樹板材が、人工杢模様形成の観点からも有利であり、また、高価な人工杢模様付き板材の代替品への要望も高い。広葉樹板材としては、メープル、ケヤキ、クワ、カシ、ヒノキ、ナラ、シカモア、クスノキ、カリン、チーク及びトチなどの板材が、特に本発明に好適であるが、これに限定されるものではない。
【0035】
人工杢模様領域2は、図4に示すように、木繊維4の原方向OLと交差する帯状に形成することができる。木繊維4の原方向と帯状の人工杢模様領域2とのなす角度が90°に近づくほど、木繊維のV字屈曲の半値幅が狭くなり、人工杢模様領域2はより鮮明に現れる。図11に示すように、このような帯状の人工杢模様領域2を原方向OLにおいて複数縞状に配列形成することにより虎杢材の外観を模倣することができるようになる。図11では、横長の板材をスライスすることにより得られた人工杢模様付き天然木板材1を、ロール1Rに巻いた状態を示している(これは、杢模様付き天然木単板の一般的な供給形態である)。
【0036】
人工杢模様を帯状に形成するためには、図23に示すごとく、パンチ73として先端部73tがV字状断面を有するブレード状のものを使用することが、健全で鮮明な人工杢模様を得る上で望ましい。この場合、図24に示すように、該パンチ73の先端エッジ74は、曲率半径1mm以上5mm以下のアール部にて丸められていることが、木割れ84の進展深さを抑制する観点にて望ましい。図29に示すごとく、先端にアール形成しないパンチを用いると、木割れ84が三次元屈曲領域83の奥深くまで進展し、深刻な歩留まり低下につながる。
【0037】
また、パンチ73のV字状断面をなす2つのテーパー状の側面75,75は、食い込み先となる板主表面80mとの交差角度が40°以上50°以下となるように設定することが、三次元屈曲領域83を鮮明かつ深く形成でき、スライスによる薄板製造の歩留まり向上にも寄与する。特に追い柾板を使用する場合、パンチ73の側面角度の一方を、図7に示す木口面1eに現れる年輪3の木表面1mとのなす角度に合せることが、人工杢模様を鮮明に形成する観点において望ましい。
【0038】
図11のように、人工杢模様2を、木繊維4の原方向OLと交差する帯状に形成する場合は、ブレード状のパンチ73を、先端エッジ84が天然木板材80の木繊維4と交差するように配置してパンチ加圧工程を実施すのがよい。
【0039】
一方、図12に示すように、人工杢模様領域22を散点状に形成して、鳥目杢材の外観を模倣することも可能である(メープル材を天然木板材として使用すれば、いわゆるバーズアイメープルに近い風合いを得ることができる)。点状の人工杢模様領域22も、一つ一つが順目及び逆目の第一領域22b及び第二領域22aを備えたものとなり、視認方向により万華鏡のように反射風合いを変化させる美しい杢模様が得られる。
【0040】
人工杢模様2を点状に形成するためには、図34に示すように、パンチとして、側面がテーパー面状とされた突起77を有するものを使用すればよい。散点状に人工杢模様2を形成するには、このような突起77を、基部76上に複数分散形成しておけばよいのである。一方、単一の突起を有するパンチによる加圧を、板面上で位置を変えながら何度も繰り返す方法もある。
【0041】
次に、本発明の方法では、模様の形成する天然木の板面と、その模様形成のためのパンチによる加圧面との向きが一致している。従って、加圧のパターニング形状が、形成される杢模様に一義的に対応するので、デザイナーのイメージ通りに杢模様を形成できる利点がある。特許文献1の方法では、上記2つの向きがが一致していないために、形成される杢模様の形状は、ある程度偶発に委ねるしかない側面がある。他方、本発明の方法では、さらに進んで、特許文献1の方法では絶対に実現できず、かつ天然にも絶対存在しない、次のような杢模様を形成することが可能である。すなわち、図15に示すように、人工杢模様領域32を、人、動物、植物、空想生物及び物品のいずれかを図案化した意匠図案として形成する。人工杢模様領域32を、このような人、動物、植物、空想生物及び物品のいずれかを図案化した意匠図案として形成するためには、図32に示すように、基材76の表面に、当該意匠図案に対応する凸部77を形成したパンチを使用してパンチ加圧工程を実施すればよい。図15では、意匠図案32を、花をモチーフにした図案にしているが、もちろんこれに限定されるもではなく、犬や猫などの動物の、空想生物(例えばアニメの主人公やキャラクター(愛地球博:「モリゾーとキッコロ」など))、物品(自動車や飛行機など)等の、種々のイラストを人工杢模様の図案として採用可能である(また、文字や抽象図形なども図案の対象となる)。
【0042】
図15に示すように、人工杢模様領域32をなす意匠図案の輪郭線32pを、帯状の人工杢模様領域2にて形成することが望ましい。大きな図案の内部を塗りつぶすように加圧パターンを形成するのは工数が係り、時として反射異方性などの模様風合いが不鮮明になることもあるからである。なお、図15に示すように、輪郭線32pの内側にさらに内側模様パターン32iを形成したい場合、図32に示すように、使用するパンチ76として、意匠図案の輪郭をなす帯状の人工杢模様領域2を形成する輪郭凸部77aの内側に、該意匠図案の輪郭内部に配置される意匠構成図形を形成するための内側凸部77bが形成されたものを使用する。この場合、図33に示すように、該内側凸部77bの突出高さを輪郭凸部77aの突出高さよりも大きく設定するとよい。輪郭凸部77aによる加圧により、これに取り囲まれた板面が下がることがあり、その下がり代δを補うために内側凸部77bの突出高さを増しておけば、内側模様パターン32i(図15)の形成に係る内側凸部77bによる圧縮ストロークを十分に確保でき、鮮明な内側模様パターンを形成することができる。
【0043】
次に、図35に示すように、意匠図案の輪郭線の一部2Lが、木繊維4の原方向OLに沿って形成される場合、前述のごとく模様が不鮮明になることがある。そこで、図6に示すように、該輪郭線2Lを、原方向OLと交差する折れ線状又は曲線状の人工杢模様領域2Sを連ねた形で形成すると、繊維4の原方向OLに沿う輪郭線も鮮明化できる。
【0044】
なお、上記のような意匠図案は、散点状の人工杢模様領域の集合にて表現・形成することも可能である。この場合、図37に示すように、パンチ加工工程において、ピン状のパンチ72により点状の凹部を形成する工程を、意匠図案として予定された領域上にて順次位置を変えながら繰り返し実施するとよい。意匠に対応した形状の凸部をパンチに直接パターニングする方法では、板材に対する凸部の食い込みや加圧力にムラが生じ、結果として人工杢模様による図案が均一に形成できないこともありえる。しかし、図37の方法であると、ピン状のパンチ72の加圧ストロークや加圧力を一定に保つことが容易であり、これにより形成される点状の凹部を連ねて、どのような意匠図案でも自由にかつ均一に形成することができる。さらに、ピン状のパンチ72への加圧力は小さくて済み、油圧シリンダのサイズも縮小できるし、また、加圧面積が小さければ木割れの発生確率も小さいから、カム式などの機械式加圧装置でも代用することが可能である(機械式加圧装置を用いれば、加圧周期の短縮により、多数の凹部を形成する能率が劇的に向上する)。
【0045】
図37に示す加圧装置は、加工対象となる天然木板材80をX−Yテーブル149上に載置し、他方、図示しないフレームにより、パンチ72及びこれを加圧のために天然木板材80に対して接近・離間駆動する加圧ユニット(油圧式又は機械式)73が位置固定に配設されている。X−Yテーブル149は、2つのモータ159により、XおよびYの各面内方向に独立に移動可能である。これら2つのモータ159のドライバ158と、加圧ユニッ73のコントローラ157が、いずれもマイコン150の入出力部154に接続されている。
【0046】
マイコン150は、CPU151,ROM152及びRAM153を有し、ROM152内の制御プログラムにより、次のような動作をする。
(1)記憶装置155から図案パターンデータ156を読み出し、これに従って、モータ159の駆動によりX−Yテーブル149を移動させ、パンチ72を、該X−Yテーブル149上にセットされた天然木板材80の、図案輪郭上の指定座標点に対応する位置に位置決めする。
(2)加圧ユニット73を駆動し、パンチ72による加圧を行い、凹部83を形成する。
(3)パンチ72を天然木板材80から離間させ、再びモータ159を駆動して、パンチ72の位置を図案輪郭上にて微動させる。
(4)以下、(2)(3)を繰り返して、図案パターンデータ156が規定する図案輪郭に沿って、パンチ72による加圧を順次行う。輪郭線のエッジにジャギーを生じさせたくなければ、先に形成した凹部83pに対し、後続の凹部83lの一部が重なるように加圧を繰り返せばよい。
【0047】
最後に、本発明のさらなる応用例について説明する。
本発明の天然木合せ材の概念においては、補強用基材を樹脂成形体とすることができ、曲面形状の基材に人工杢模様付き天然木薄板1を貼り合わせることも容易なので、種々の応用製品に適用することが可能である。図16は、樹脂成形体60を、自動車用の内装パネル部材の基部をなすものとして構成した例であり例えばダッシュボードやカーナビゲーションシステムのディスプレイ保護カバーとして使用できるように、旋回用のピボット突起61を形成している。これに貼り合される人工杢模様付き天然木薄板1が該内装パネル部材の装飾面を形成する。本物のバーズアイメープルやトラモクの単板は、このようなパネル大のものでも数千円は下らず、ほんの一握りの高級車にしか採用されていなかったが、本発明によりその代替品を極めて安価に提供できるようになり、中級車や大衆車クラスでも、ゴージャスな木目内装の雰囲気を気軽に享受できるようになる。なお、樹脂成形体60と人工杢模様付き天然木薄板1とをインサート成形によりはじめから一体化した形で製造することも可能である。
【0048】
図18に示すように、本発明の人工杢模様付き天然木薄板1は、形成した人工杢模様部分32が、3次元的な木繊維屈曲構造を有しているために、向こう側に光源32をおいて透視すると、該人工杢模様部分32が透かし模様となって鮮やかに浮き上がる特徴をもつ。そこで、これを利用して、次のような天然木合せ材を作ることができる。すなわち、樹脂成形体を透明(半透明でもよい)樹脂板とし、これに人工杢模様付き天然木薄板1を貼り付けて、図20に示すごとく照明用カバー部材68として使用する。天然木薄層中を照明光が透過することによる照明光の色調変化に加え、これをシルエットにして木の組織と一体化した人工杢模様32が透かし模様となって浮き上がり、非常に斬新な照明効果を達成することができる。
【0049】
電灯フードの場合、例えばフード形状に形成された樹脂成形体の外周面に、対応する形状に整えた人工杢模様付き天然木薄板1を貼り付けることで、図20に示す照明用カバー部材68が得られる。この照明用カバー部材68を、電球Lの周囲に配置することで、電灯65が得られる。また、図21は、壁面照明あるいは天井照明等に使用するの蛍光ランプユニット70に適用した例であり、ケース66内に複数の蛍光ランプFLが収容され、該ケース66の開口部に、透明基材40上に人工杢模様付き天然木薄板1を貼り合わせた、本発明の天然木合せ材たるパネル110がはめ込まれている。
【0050】
なお、本発明の人工杢模様付き天然木板材は、上記のような薄板に限られるものではなく、やや贅沢な使い方ではあるが、スライス工程を省略して得られる模様付きムク材の状態でも種々の用途に適用可能である。図17は、人工杢模様部分32を形成したムク材の装飾品(置物)の実施形態を示す。また、図38は、メープルのムク材の表面に、本発明の方法により縞状の人工杢模様を形成した実例を示す写真であり、年輪と交差する形で縦に現れている虎杢状の縞模様は全て本発明に係る人工杢模様であり、本物そっくりの反射異方性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の人工杢模様付き天然木板材を用いた合せ材の一例を示す斜視図。
【図2】人工杢模様の典型的な形成構造を示す拡大斜視図。
【図3】人工杢模様の順目と逆目の説明図。
【図4】その第一の作用説明図。
【図5】同じく第二の作用説明図。
【図6】丸太からの木取りの説明図。
【図7】追い柾材の木口に現れる年輪角度の説明図。
【図8】板目材の木表側に縞状の人工杢模様を形成した例を示す
【図9】木表側の木繊維の屈曲形態を説明する模式図。
【図10】木裏側の木繊維の屈曲形態を説明する模式図。
【図11】縞状の人工杢模様を形成した薄板の製造形態を示す斜視図。
【図12】鳥目杢状の人工杢模様を形成した薄板の製造形態を示す斜視図。
【図13】保護樹脂層を形成した合せ材の断面構造を示す図。
【図14】保護樹脂層の効果説明図。
【図15】人工杢模様を意匠図案として形成した薄板の例を示す斜視図。
【図16】自動車用の内装用パネル材として合せ材を構成した例を示す斜視図。
【図17】ムク板材として本発明の人工杢模様付き天然木板材を構成した例を示す斜視図。
【図18】人工杢模様が透かし模様として機能する様子を説明する図。
【図19】人工杢模様付き天然木薄板にて電灯用フードをなす合せ材を形成する例を示す斜視図。
【図20】それを用いた電灯の一例を示す斜視図。
【図21】人工杢模様付き天然木薄板を用いた蛍光ランプユニットの部分切欠斜視図。
【図22】パンチ加圧工程に使用する加圧装置の一例を示す模式図。
【図23】帯状の人工杢模様を形成するためのパンチの一例を示す斜視図。
【図24】パンチ加圧工程の作用説明図。
【図25】加圧後の天然木板材の断面構造を示す模式図。
【図26】研削工程が終了した天然木板材の断面構造を示す模式図。
【図27】スライス工程の説明図。
【図28】合せ材の製造工程を示す図。
【図29】先端にアール部を形成しないパンチを用いた場合の不具合説明図。
【図30】特許文献2で使用するパンチを用いた場合の不具合説明図。
【図31】パンチ加圧工程に先立つ煮沸工程の説明図。
【図32】意匠図案形状の人工杢模様形成に使用するパンチの一例を示す斜視図。
【図33】意匠図案に対応する凸部形成形態とその作用を説明する図。
【図34】散点状の人工杢模様形成に使用するパンチの一例を示す斜視図。
【図35】木繊維方向の帯状の人工杢模様領域を形成する際の問題点を説明する図。
【図36】図35の問題の解決手段の説明図。
【図37】点状の凹部を任意のパターンに沿って形成できるようにした装置のブロック図及び作用説明図。
【図38】ケヤキのムク材の表面に、本発明の方法により縞状の人工杢模様を形成した実例を示す写真。
【符号の説明】
【0052】
1 人工杢模様付き天然木板材
1m 板主表面
2,32,83 人工杢模様
2a 第一領域
2b 第二領域
4 木繊維
10 保護樹脂層
50 基材
60 樹脂成形体
72 ピン状のパンチ
73 パンチ
74 先端エッジ
75,75 テーパー状の側面
76 基材
77 凸部
77a 輪郭凸部
77b 内側凸部
80 天然木板材
81 凹部
83 三次元屈曲領域
84 木割れ
100 天然木合せ材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然木板材の板主表面に加圧加工に由来した変性模様であって、光反射による模様外観風合いが視認方向により変化する人工杢模様を形成したことを特徴とする人工杢模様付き天然木板材。
【請求項2】
前記人工杢模様の周囲領域の、加圧加工履歴の及んでいない天然木固有の木繊維方向を原方向として、
前記板主表面上において人工杢模様領域は、該領域内で木繊維群がV字状に揃って屈曲するとともに、各木繊維のV字底をつないで得られる仮想境界線により、前記木繊維群が第一の向きに傾斜する第一領域と、これとは反対の第二の向きに傾斜する第二領域とに区切られ、他方、前記板主表面と直交する平面により前記原方向に沿って前記天然木板材を切断したときの木端断面においては、前記木繊維群が前記第一領域では前記板主表面に向けた下り勾配となり、前記第二領域では上り勾配となるように屈曲し、
これによって前記人工杢模様領域は、前記第二領域から前記第一領域に向う方向を基準方向として、該基準方向から前記板主表面上を見たときに前記第二領域の木目が逆目、前記第一領域の木目が順目となる請求項1記載の人工杢模様付き天然木板材。
【請求項3】
前記天然木板材として広葉樹板材を使用する請求項1又は請求項2に記載の人工杢模様付き天然木板材。
【請求項4】
前記広葉樹板材として、メープル、ケヤキ、クワ、カシ、ヒノキ、ナラ、シカモア、クスノキ、カリン、チーク及びトチのいずれかの板材が使用される請求項3記載の人工杢模様付き天然木板材。
【請求項5】
前記天然木板材として、板目板又は追い柾板を使用する請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の人工杢模様付き天然木板材。
【請求項6】
前記板主表面上にて前記人工杢模様領域における前記木繊維群は、V字形状の底が、使用する天然木板材の原木年輪外側に位置する層から内側に位置する層に向う方向に延出するように屈曲してなる請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の人工杢模様付き天然木板材。
【請求項7】
前記人工杢模様領域が、前記木繊維の前記原方向と交差する帯状に形成されてなる請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の人工杢模様付き天然木板材。
【請求項8】
前記帯状の人工杢模様領域を前記原方向において複数縞状に配列形成することにより虎杢材の外観を模倣した請求項7記載の人工杢模様付き天然木板材。
【請求項9】
前記人工杢模様領域を散点状に形成して、鳥目杢材の外観を模倣した請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の人工杢模様付き天然木板材。
【請求項10】
前記人工杢模様領域を、人、動物、植物、空想生物及び物品のいずれかを図案化した意匠図案として形成した請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の人工杢模様付き天然木板材。
【請求項11】
前記意匠図案の輪郭線を、帯状の前記人工杢模様領域にて形成した請求項10記載の人工杢模様付き天然木板材。
【請求項12】
前記意匠図案の輪郭線の一部が前記木繊維の原方向に沿って形成される場合、該輪郭線を、前記原方向と交差する折れ線状又は曲線状の人工杢模様領域を連ねた形で形成する請求項11記載の人工杢模様付き天然木板材。
【請求項13】
前記意匠図案を、散点状の人工杢模様領域の集合にて形成する請求項10記載の人工杢模様付き天然木板材。
【請求項14】
前記天然木板材の前記人工杢模様が露出する側の板主表面を、該人工杢模様が透視可能な保護樹脂層で覆った請求項1ないし請求項13のいずれか1項に記載の人工杢模様付き天然木板材。
【請求項15】
前記保護樹脂層を形成する樹脂の一部を前記天然木板材の表層部に含浸させてなる請求項14記載の人工杢模様付き天然木板材。
【請求項16】
請求項1ないし請求項15のいずれか1項に記載の人工杢模様付き天然木板材が厚さ0.05mm以上1mm以下の薄板に形成され、その一方の主表面を前記人工杢模様の視認面として形成する一方、その反対側の主表面に補強用の基材を貼り合わせたことを特徴とする天然木合せ材。
【請求項17】
前記補強用基材が天然木材又は解砕した木繊維を樹脂結合した木質繊維結合板である請求項16記載の天然木合せ材。
【請求項18】
前記補強用基材が樹脂成形体である請求項17記載の天然木合せ材。
【請求項19】
前記樹脂成形体が、自動車用の内装パネル部材の基部をなすものであり、これに貼り合される前記人工杢模様付き天然木の薄板が該内装パネル部材の装飾面を形成する請求項18記載の天然木合せ材。
【請求項20】
前記樹脂成形体が透明樹脂板であり、照明用カバー部材として使用される請求項18記載の天然木合せ材。
【請求項21】
請求項1ないし請求項15のいずれか1項に記載の人工杢模様付き天然木板材の製造方法であって、
パンチ先端側ほど断面積が縮小する形態のテーパーが側面に施されたパンチを、前記天然木板材の前記板主表面に、予め定められた深さの凹部が形成されるように加圧により食い込ませるパンチ加圧工程と、
前記凹部の形成された前記天然木板材の表層部を、該凹部の底から所定深さ隔たった位置に形成される前記人工杢模様の形成領域が露出するまで切削する切削工程と、を含むことを特徴とする人工杢模様付き天然木板材の製造方法。
【請求項22】
前記天然木板材として、板目板又は追い柾板を使用するとともに、前記パンチによる加圧を、該板目板又は追い柾板の木表側から行う請求項21記載の人工杢模様付き天然木板材の製造方法。
【請求項23】
前記天然木板材として乾燥板材を使用する請求項21又は請求項22に記載の人工杢模様付き天然木板材の製造方法。
【請求項24】
前記パンチ加圧工程は、加圧によって形成される前記凹部の底よりも下方に、前記板主表面と平行な面内においては、該領域内で木繊維群がV字状に揃って屈曲するとともに、各木繊維のV字底をつないで得られる仮想境界線により、前記木繊維群が第一の向きに傾斜する第一領域と、これとは反対の第二の向きに傾斜する第二領域とに区切られ、他方、前記板主表面と直交する平面により前記原方向に沿って前記天然木板材を切断したときの木端断面においては、前記木繊維群が前記第二領域では前記板主表面に向けた下り勾配となり、前記第一領域では上り勾配となるように屈曲する3次元屈曲領域が形成されるよう、その加圧力が設定され、
前記切削工程においては、板主表面に前記三次元屈曲領域を前記人工杢模様領域として露出させるように前記切削の厚さが設定される請求項21ないし請求項23のいずれか1項に記載の人工杢模様付き天然木板材の製造方法。
【請求項25】
前記パンチ加圧工程は、前記凹部周囲において板厚方向に発生する木割れが前記三次元屈曲領域の形成深さ域に及んでいる場合に、前記切削工程を、該木割れが消滅する厚さにて実施する請求項21ないし請求項24のいずれか1項に記載の人工杢模様付き天然木板材の製造方法。
【請求項26】
前記パンチ加圧工程を油圧式加圧により行う請求項25記載の人工杢模様付き天然木板材の製造方法
【請求項27】
前記乾燥板材を一旦煮沸処理した後、前記パンチ加圧工程に供する請求項21ないし請求項26のいずれか1項に記載の人工杢模様付き天然木板材の製造方法。
【請求項28】
前記煮沸処理により水分が浸透した板材の表面に、前記パンチ加圧工程により凹部を形成した後、前記三次元屈曲領域のうち、下層の水分浸透の影響が及んでいない部分が露出するまで前記切削工程を実施する請求項27に記載の人工杢模様付き天然木板材の製造方法。
【請求項29】
前記人工杢模様を帯状に形成するために、前記パンチとして先端部がV字状断面を有するブレード状のものが使用され、該パンチの先端エッジが曲率半径1mm以上5mm以下のアール部にて丸められてなる請求項21ないし請求項28のいずれか1項に記載の人工杢模様付き天然木板材の製造方法。
【請求項30】
前記パンチのV字状断面をなす2つのテーパー状の側面が、食い込み先となる板主表面との交差角度が40°以上50°以下に設定されてなる請求項29に記載の人工杢模様付き天然木板材の製造方法。
【請求項31】
ブレード状の前記パンチを、前記先端エッジが前記天然木板材の木繊維と交差するように配置して前記パンチ加圧工程を実施する請求項29又は請求項30に記載の人工杢模様付き天然木板材の製造方法。
【請求項32】
前記人工杢模様を点状に形成するために、前記パンチとして、側面がテーパー面状とされた突起を有するものが使用される請求項21ないし請求項31のいずれか1項に記載の人工杢模様付き天然木板材の製造方法。
【請求項33】
前記人工杢模様領域を、人、動物、植物、空想生物及び物品のいずれかを図案化した意匠図案として形成するために、基材の表面に、当該意匠図案に対応する凸部を形成したパンチを使用する請求項21ないし請求項32のいずれか1項に記載の人工杢模様付き天然木板材の製造方法。
【請求項34】
前記パンチは、前記意匠図案の輪郭をなす帯状の人工杢模様領域を形成する輪郭凸部の内側に、該意匠図案の輪郭内部に配置される意匠構成図形を形成するための内側凸部が形成され、該内側凸部の突出高さを前記輪郭凸部の突出高さよりも大きく設定する請求項33記載の人工杢模様付き天然木板材の製造方法。
【請求項35】
前記人工杢模様領域を、人、動物、植物、空想生物及び物品のいずれかを図案化した意匠図案として形成するために、前記パンチ加工工程において、ピン状のパンチにより点状の凹部を形成する工程を、前記意匠図案として予定された領域上にて順次位置を変えながら繰り返し実施する請求項21ないし請求項32のいずれか1項に記載の人工杢模様付き天然木板材の製造方法。
【請求項36】
前記切削工程の後、切削された天然木板材の板主表面側から、前記三次元屈曲領域の深さ方向区間内にて、該天然木板材の表層部をスライシングするスライシング工程を実施し、それによって薄板状の人工杢模様付き天然木板材を得る請求項21ないし請求項35のいずれか1項に記載の人工杢模様付き天然木板材の製造方法。
【請求項37】
前記天然木板材として乾燥板材を使用し、前記切削工程の後、該天然木板材を乾燥状態のまま前記スライシング工程に供する請求項36に記載の人工杢模様付き天然木板材の製造方法。
【請求項38】
前記スライシング工程にて使用するスライスブレードを、ブレードエッジが前記天然木板材の木繊維方向と鋭角に交差する形で配置し、その状態で前記天然木板材を前記ブレードに対して前記木繊維方向に沿って相対移動させることにより、斜め切り形態でスライシングを行う請求項37記載の人工杢模様付き天然木板材の製造方法。
【請求項39】
前記スライシング工程を繰り返すことにより、前記三次元屈曲領域の深さ方向区間内にて、該天然木板材の表層部から、複数枚の前記薄板状の人工杢模様付き天然木板材を得る請求項36ないし請求項38のいずれか1項に記載の人工杢模様付き天然木板材の製造方法。
【請求項40】
前記スライシング工程が終了した残余の天然木板材を出発素材として、これを前記パンチ加圧工程にフィードバックする請求項36ないし請求項39のいずれか1項に記載の人工杢模様付き天然木板材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【公開番号】特開2006−248199(P2006−248199A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−71985(P2005−71985)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【出願人】(505094353)
【Fターム(参考)】