説明

人工歯根

【課題】審美的に優れたアーチ形状の歯間乳頭を形成する際に、外周面に外ネジが形成されたフィクスチャーの微妙な位置調整が可能である人工歯根を提供する。
【解決手段】歯槽骨62内に埋入されるフィクスチャー2と、その一端がフィクスチャー2に嵌合されるとともに、その他端に対して義歯4が装着されるアバットメント30と、フィクスチャー2とアバットメント30とを連結する連結手段40と、を備え、フィクスチャー2は、外ネジ12の形成されたベース体10と、ベース体10に対して回動自在に結合されるとともに、アーチ状の歯間乳頭形成の基礎をなす歯間乳頭形成体20と、を含んでなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、義歯を装着するために歯槽骨内に植設される人工歯根に関する。
【背景技術】
【0002】
歯の欠損した部位の歯槽骨内に人工歯根を植設し、人工歯根の末端側に義歯を装着して天然歯の代用することは、臨床的に既に行われている。
【0003】
健全な自然歯の場合、歯肉は歯の解剖学的歯頚部のレベルに位置しており、典型的には大略アーチ形状に発達している。隣接する歯との歯間空隙を埋めている歯肉は、歯間乳頭と呼ばれている。歯間乳頭は、前歯部ではピラミッド状を呈し、臼歯部では鞍状を呈している。健全な自然歯の骨乳頭の稜の縁部は、歯肉溝から先端の方向に約2.5乃至3mmの歯肉溝と同様の大略アーチ形状に発達している。
【0004】
歯間乳頭の存在は、審美性が要求される前部口腔部分においては特に重要である。すなわち、歯の欠損した部位の歯槽骨内に人工歯根を植設する場合、歯の欠損した部位に対して所定の治療を施したあと一定期間経過後に人工歯根を植設することになるために、しばらくの間、歯の存在しない状態になっている。歯の存在しない歯槽骨では、大略アーチ形状をした骨乳頭が破骨細胞の働きによって失われてしまう。人工歯根を植設したあとには、造骨細胞によって骨乳頭が新たに生成されるが、従来の人工歯根ではその末端側の最終面が平坦な円形をしているために、その平坦な円形に沿って骨乳頭及び歯間乳頭が形成されてしまうので、健全な自然歯のような大略アーチ形状の歯間乳頭が形成されることがなかった。したがって、末端側の最終面が平坦な円形を有するタイプの従来の人工歯根は、健全な自然歯と比較して審美的に劣っている。
【0005】
そこで、骨乳頭及び歯間乳頭に基づいた上記審美性を改善する人工歯根が、例えば、特許文献1に開示されている。
【0006】
【特許文献1】特表2003−505141号公報
【0007】
特許文献1に開示された人工歯根は、その末端部の最終面の輪郭が健全な自然歯の歯周における歯槽骨稜の縁部の輪郭に相当するように構成されている。すなわち、人工歯根の末端側の最終面がいわば鞍形状をしていて、義歯の頬側の面では、その末端側の端部が歯槽骨の基部側に向かって凸状に湾曲した輪郭を有しており、いわばアーチ形状をしている。しかしながら、フィクスチャーのアーチ形状が頬側に向くようにフィクスチャーを植設しなければ、審美性を備えた人工歯根と呼ぶことができない。
【0008】
ところで、特許文献1には、フィクスチャーの固定に関する明確な記載は無いが、フィクスチャーの外周面には螺旋状の窪み又は隆起すなわち外ネジを有していてもよいと記載されている。外ネジという強固な固定方法によらなければ、人体が持っている異物排出力によってフィクスチャーが排出されてしまう可能性がある。そこで、フィクスチャーをネジ固定することは一般的に行われているが、フィクスチャーを回動させながらネジ固定するために、必ずしも所望の位置でフィクスチャーを停止させることはできない。したがって、特許文献1の人工歯根では、フィクスチャーのアーチ形状が頬側に向くようにフィクスチャーをうまく位置決めすることは困難であるという問題を有している。
【0009】
また、フィクスチャーの末端側の最終面を鞍形状に加工することは、非常に高度な加工技術が要求される。そして、フィクスチャーに係合するアバットメントの当接面も逆の鞍形状に加工する必要がある。フィクスチャーの末端側を鞍形状に加工することに失敗した場合には、フィクスチャーそのものが無駄になってしまう。また、治療すべき歯の部位に応じた多くの種類のフィクスチャーを準備する必要がある。したがって、特許文献1の人工歯根は、非常に高価であるという問題を有している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の解決すべき技術的課題は、審美的に優れたアーチ形状の歯間乳頭を形成する際に、外周面に外ネジが形成されたフィクスチャーの微妙な位置調整が可能である人工歯根を提供することである。
【課題を解決するための手段および作用・効果】
【0011】
上記技術的課題を解決するために、本発明によれば、以下の人工歯根が提供される。
【0012】
すなわち、本発明に係る人工歯根は、
歯槽骨内に埋入されるフィクスチャーと、
その一端がフィクスチャーに嵌合されるとともに、その他端に対して義歯が装着されるアバットメントと、
フィクスチャーとアバットメントとを連結する連結手段と、を備え、
前記フィクスチャーは、
外ネジの形成されたベース体と、
ベース体に対して回動自在に結合されるとともに、アーチ状の歯間乳頭形成の基礎をなす歯間乳頭形成体と、を含んでなることを特徴とする。
【0013】
上記構成によれば、本発明に係る人工歯根は、いわばフィクスチャーをベース体と歯間乳頭形成体とに分離・分割した分割型フィクスチャーに関するものである。ベース体は、その外周面に形成された外ネジによって歯槽骨内に強固に埋入されるが、その埋入位置は一定ではない。歯間乳頭形成体は、ベース体に対して回動自在に結合されているので、ベース体のネジ止め位置にかかわらず、歯間乳頭形成の基礎をなすアーチ形状が頬側を向く最適な位置に歯間乳頭形成体を回動させることができるので、審美的に優れた歯間乳頭を持った人工歯根を植設することができる。したがって、本発明に係る人工歯根は、歯間乳頭形成の基礎をなすアーチ形状を有するフィクスチャーの微妙な位置調整を行うことができ、フィクスチャーの外ネジによって歯槽骨内に強固に埋入することができる。
【0014】
アーチ状の歯間乳頭形成の基礎をなす歯間乳頭形成体としては、大略円筒形状をしていて、少なくとも、頬側に対応する円筒の側周面では、歯槽骨の基部側に向かって凸状に湾曲した鏡面が形成され、他の部分が粗面に構成されている。
【0015】
上記構成によれば、粗面に骨形成成分が付着するものの、歯槽骨の基部側に向かって凸状に湾曲した鏡面には骨形成成分が付着しない。したがって、フィクスチャーの歯間乳頭形成体には、歯間乳頭形成の基礎をなすアーチ形状が形成される。
【0016】
歯槽骨の基部側に向かって凸状に湾曲した前記鏡面は、舌側に対応する円筒の側周面にも形成されていることが好ましい。
【0017】
頬側にアーチ形状が存在すれば審美的には十分であるが、上記構成によれば、舌側においても、歯間乳頭形成の基礎をなすアーチ形状が形成されるので、歯間乳頭形成体の装着の自由度がアップする。
【0018】
歯間乳頭形成体の粗面及び鏡面の境界をなす部分に沿って凹部が形成されており、当該凹部が鏡面加工されていることが好適である。鏡面加工された凹部に対して生物学的幅径の部分が食らい付くことができるので、マイクロギャップに起因した歯肉の退縮の影響を受けにくくなる。また、生物学的幅径の部分が凹部に対して食らい付いて強固な結合力が得られるので、人工歯根と辺縁歯肉との間隙である遊離歯肉溝からの細菌感染を防止することも可能になる。
【0019】
歯間乳頭形成体の末端部の最終面は、鞍形状をしていて、その側周面の末端側が鏡面でありその側周面の基部側が粗面であるという構成によっても、歯間乳頭形成の基礎をなすアーチ形状が形成される。
【0020】
末端部の最終面が鞍形状をしていてその側周面が粗面である歯間乳頭形成体と、アバットメントとの間で境界をなす部分には凹部が形成されており、少なくとも、当該凹部を構成する歯間乳頭形成体の部分が鏡面であるという構成によっても、歯間乳頭形成の基礎をなすアーチ形状が形成されるとともに、凹部に生物学的幅径の部分が食らい付くように形成されるので、マイクロギャップに起因した歯肉の退縮の影響を受けにくくなる。また、生物学的幅径の部分が凹部に対して食らい付いて強固な結合力が得られるので、人工歯根と辺縁歯肉との間隙である遊離歯肉溝からの細菌感染を防止することも可能になる。
【0021】
ベース体と歯間乳頭形成体とからなるフィクスチャーは、植設部位に応じて準備するという態様で用いることもできるが、数多くのフィクスチャーを準備しなければならないので、どうしてもコストアップになってしまう。そこで、ベース体を共通にしておいて、植設部位に応じて歯間乳頭形成体を変更するという態様でフィクスチャーを用いることが好適である。
【0022】
歯槽骨との親和性・密着性を向上させるために、粗面はリン酸カルシウムのコーティングによって形成されていることが好適である。
【0023】
フィクスチャーは、歯槽骨内に強固に埋入されているために実質的に不動であるが、歯槽骨から露出して歯槽骨で支持されていないアバットメントは実質的に可動である。したがって、アバットメントを実質的に不動とするために、フィクスチャーとアバットメントとの嵌合は、正多角形体の雌雄結合とすることができる。
【0024】
正多角形体は、正十二角形や正八角形や正四角形等も使用可能であるが、正六角形であることが好適である。
【0025】
フィクスチャーとアバットメントとを連結する連結手段は、アバットメントスクリューである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に、本発明に係る人工歯根1の一実施形態を、図1乃至5を参照しながら詳細に説明する。
【0027】
図1は、本発明の一実施形態に係る人工歯根1の正面図である。図2は、図1に示した人工歯根1の縦方向の断面図である。図3は、図1に示した人工歯根1の斜視図である。図4は、図1の人工歯根1を歯槽骨62内に植設した状態を示す模式図である。図5は、図1に示した人工歯根1の分解図である。
【0028】
人工歯根1は、フィクスチャー2と、アバットメント30と、アバットメントスクリュー40と、から構成されている。人工歯根1の材料としては、公知の材料、例えば、純チタンやチタン合金やコバルト・クロム合金、モリブデン合金等の金属材料や、アルミナセラミック等のセラミック材料が使用される。
【0029】
フィクスチャー2は、ベース体10及び歯間乳頭形成体20という二つの要素から構成されている。ベース体10及び歯間乳頭形成体20の外面は、連続的な輪郭を形成しており、いわゆる面一になっている。
【0030】
ベース体10は、わずかに先細の大略円筒形状をしていて、その外周面に外ネジ12が形成されている。外ネジ12は、先端側に行くにしたがって、そのネジ山が高くなっている。また、先端側のネジ山が部分的に切り欠かれており、埋入後に骨成分が切欠部に入り込むことによって埋入後のネジの回動を阻止する働きを有している。このような外ネジ12によって、フィクスチャー2は、歯槽骨62内に強固に埋入固定される。
【0031】
ベース体10の内部には、中空有底穴14が形成されており、その内壁面には内ネジ17が形成されている。この内ネジ17は、後述するアバットメントスクリュー40のネジ43と螺合する。ベース体10の中空有底穴14の末端部には、歯間乳頭形成体20の接続端24を回動自在に受け入れる凹状の受け部16が設けられている。ベース体10の末端端は、歯間乳頭形成体20の基部端と密接する接続端部18を構成している。
【0032】
歯間乳頭形成体20は、大略円筒形状をしていて、その末端側に主面部21を有し、その基部側に凸状の接続端24を有している。円筒形状をした接続端24の径は、円筒形状をした主面部21の径よりも小さい。円筒形状をした凸状の接続端24は、ベース体10の受け部16に回動自在に挿入される。
【0033】
歯間乳頭形成体20の内部には、貫通穴が形成されており、その内壁面には内ネジ27が形成されている。この内ネジ27は、歯槽骨62内に埋入固定されたベース体10に対して、骨が修復して固着するまでの間に蓋の役割をするネジ付きカバーキャップとともに運搬・装着するために使用される。歯間乳頭形成体20の貫通穴の末端側には、アバットメント30の嵌合端36を受け入れる正六角形の凹状の空隙部が設けられている。
【0034】
歯間乳頭形成体20の主面部21において、少なくとも、頬側に対応する側周面では歯槽骨62の基部側に向かって凸状に湾曲した鏡面23が形成され、他の部分が粗面22に構成されている。すなわち、歯肉66と接触する部位は鏡面加工されており、骨乳頭64と接合する部位は機械的手段及び/又は化学的手段によって粗面加工されている。粗面加工の機械的手段としてはサンドブラスト等があり、骨との親和性を高めるために、リン酸カルシウムのコーティング等がある。円筒形状をした歯間乳頭形成体20の側周面に粗面22及び鏡面23を形成したものであるから、非常に製造しやすいという利点を有している。
【0035】
歯槽骨62の基部側に向かって凸状に湾曲した鏡面23は、舌側に対応する主面部21の側周面にも形成されている。頬側にアーチ形状が存在すれば審美的には十分であるが、舌側においても、歯間乳頭形成の基礎をなすアーチ形状を形成することによって、歯間乳頭形成体20の装着の際の自由度がアップする。
【0036】
ベース体10と歯間乳頭形成体20とからなるフィクスチャー2は、植設部位に応じて準備するという態様で用いることもできるが、数多くのフィクスチャー2を準備しなければならないので、コストアップになってしまう。そこで、ベース体10を共通にしておいて、植設部位に応じて歯間乳頭形成体20を変更するという態様でフィクスチャー2を用いることが好適である。
【0037】
例えば、アーチ形状が急峻である前歯用、アーチ形状が中程度である小臼歯用、アーチ形状がなだらかである大臼歯用というように、三種類程度の歯間乳頭形成体20を準備するようにしておけば、様々な植設部位に対して柔軟に対応することができ、低コスト化に寄与することができる。
【0038】
アバットメント30は、大略円筒形状をしていて、その末端側に義歯装着部32を有し、その中間部に傾斜部34を有し、その基部側に嵌合端36を有している。正六角形をした嵌合端36の外寸は、円筒形状をした義歯装着部32及び傾斜部34の径よりも小さい。正六角形をした凸状の嵌合端36は、歯間乳頭形成体20の空隙部に嵌合挿入される。また、図4に示すように、義歯装着部32は長手方向に延在する係止溝33を有しており、義歯4が係止溝33に沿って義歯装着部32に嵌合挿入される。
【0039】
図2に示すように、アバットメント30の内部には、末端側が大径であり基部側が小径である二段構成の貫通穴が形成されている。貫通穴の基部側の内壁面には、内ネジ37が形成されている。この内ネジ37は、歯槽骨62内に埋入固定されたフィクスチャー2の歯間乳頭形成体20に対して、アバットメント30とアバットメントスクリュー40とを一体的に運搬・装着するために使用される。末端側の大径部分は、アバットメントスクリュー40の軸部42が挿入可能なサイズであり、基部側の小径部分は、アバットメントスクリュー40のネジ43が挿入可能なサイズである。末端側の大径部分から基部側の小径部分に切り替わる貫通穴の中ほどには、アバットメントスクリュー40の軸部42を受け止めるストッパー部45が形成されている。
【0040】
したがって、ベース体10の中空有底穴14と、歯間乳頭形成体20の貫通穴と、アバットメント30の二段構成の貫通穴とは、同軸上に形成されており、それらが一列に連通した穴の中にアバットメントスクリュー40が挿通される。
【0041】
アバットメントスクリュー40は、図5に示すように、末端側が大径であり基部側が小径である二段構成の大略円柱形状をしている。すなわち、アバットメントスクリュー40は、大径頭部44の凹状頭部に装入器具(いわゆるドライバー)が装着される大径頭部44と、大径頭部44の基部側に延在する小径の軸部42と、から構成されている。軸部42の基部部には、ネジ43が形成されている。既に説明したように、このネジ43は、ベース体10の内ネジ17とアバットメント30の内ネジ37とに対して、それぞれ螺合する。
【0042】
次に、上記人工歯根1の使用態様について説明する。
【0043】
図4に示すように、健康な2本の自然歯60の間にある歯が喪失したとすると、フィクスチャー2のベース体10の形状に対応したネジ穴が歯槽骨62に形成される。フィクスチャー2のベース体10が当該ネジ穴に埋入される。そして、ネジ付きカバーキャップと歯間乳頭形成体20とを一体化した状態で歯間乳頭形成体20がベース体10上に載置される。歯間乳頭形成体20の位置が最適ではない場合には、歯間乳頭形成体20をわずかに回動させることによって、歯間乳頭68の形成の基礎をなすアーチ形状が頬側を向く最適な位置に位置調整される。カバーキャップのネジを締めて歯間乳頭形成体20の貫通穴に対して蓋をして、この上に歯肉66の粘膜を被せて、この状態でフィクスチャー2を保持する。数ヶ月程度の固着期間が経過すると、歯肉66の粘膜を剥離し、カバーキャップを除去して、歯間乳頭形成体20の貫通穴を露出させる。
【0044】
数ヶ月程度の固着期間が経過する間に、歯間乳頭形成体20の粗面22には骨形成成分が付着するものの、歯槽骨62の基部側に向かって凸状に湾曲する歯間乳頭形成体20の鏡面23には骨形成成分が付着しないので、フィクスチャー2の歯間乳頭形成体20には、歯間乳頭68の形成の基礎をなすアーチ形状の骨乳頭64が形成されている。アーチ形状の骨乳頭64が形成されることによって、当該骨乳頭64に沿って歯間乳頭68が形成され、最終的にアーチ形状の歯間乳頭68が回復する。
【0045】
そして、アバットメント30とアバットメントスクリュー40とを一体化した状態でアバットメント30を歯間乳頭形成体20上に載置して、アバットメントスクリュー40のネジ43をベース体10の内ネジ17に対してネジ止めすることによって、フィクスチャー2とアバットメント30とがアバットメントスクリュー40を介して一体的に固定される。その後さらに、義歯4がアバットメント30の装着部32に対して装着される。
【0046】
したがって、本発明によれば、歯間乳頭形成体20が、外ネジ12で固定されたベース部10に対して回動自在に結合されているために、ベース体10のネジ止め位置にかかわらず、歯間乳頭68の形成の基礎をなすアーチ形状が頬側を向く最適な位置への微妙な位置調整が可能であるので、審美的に優れた歯間乳頭68を持った義歯4が強固に植設される。
【0047】
なお、上記実施形態の歯間乳頭形成体20では、側周面上の粗面22と鏡面23とがなす境界線によって、歯槽骨の基部側に向かって凸状に湾曲したアーチ形状が形成されている。上記実施形態の変形例として、図8及び9に示すように、末端部の最終面を鞍状接続端25にして、主面部21の側周面のほとんど大部分を粗面22にした歯間乳頭形成体20を用いることができる。すなわち、歯間乳頭形成体20の末端部である鞍状接続端25の外形輪郭形状をアーチ形状とし、歯間乳頭形成体20それ自身の外形輪郭形状によってアーチ形状を形成しようとするものである。この場合、アバットメント30の基部側には、歯間乳頭形成体20の鞍状接続端25を受容するように逆の鞍形状をした鞍状受容端35が形成されている。なお、ベース体10と歯間乳頭形成体20との間の結合構造を、上記実施形態と同じように構成することができるが、図9に示すように、ベース体10の受け部16及び歯間乳頭形成体20の接続端24との間の接続構造を、雌雄の正六角形状接続とすることもできる。
【0048】
本発明に係る他の実施形態を図6を参照しながら説明するが、上記実施形態との相違点を中心に説明する。
【0049】
図6に示すように、ベース体10と歯間乳頭形成体20とを連結する連結手段としてのアバットメントスクリュー40の代わりに、ベース体10の中空有底穴14の末端側に設けられた係止受け部55と、歯間乳頭形成体20の接続端24の円環状係止部54とが弾性的にロック係合する構成とすることができる。すなわち、薄肉の接続端24は、基部側に開いたノッチ(割れ目)を備えており、非負荷状態では、基部側に向けてわずかに末広がりした形状をなしている。その結果、薄肉の接続端24は、径方向に弾性的に変形することができるようになっている。接続端24は、中空有底穴14の末端側から挿入される当初は一時的にわずかに縮径されるが、中空有底穴14の円環状係止部54の位置に到達すると、自身の弾性力によってわずかに拡径する。したがって、円環状係止部54が係止受け部55に対してロック係合しているために、歯間乳頭形成体20がベース体10から抜けなくなっている。このように、円環状係止部54と係止受け部55とによって、ベース体10と歯間乳頭形成体20とを連結する連結手段が構成されている。
【0050】
次に、本発明に係るさらに他の実施形態を図7を参照しながら説明するが、上記実施形態との相違点を中心に説明する。
【0051】
図7に示すように、ベース体10と歯間乳頭形成体20とを連結する連結手段として、二重ネジ70が使用されている。当該二重ネジ70は、末端側が大径であり基部側が小径である二段構成の大略円筒形状をしている。すなわち、二重ネジ70は、末端側に位置する大径頭部74と、大径頭部74の基部側に延在する小径の軸部72と、から構成されている。軸部72の基部部には、ネジ73が形成されている。このネジ73は、ベース体10の内ネジ17に対して螺合する。二重ネジ70の内部には、不図示の中空有底穴が形成されており、その内壁面には内ネジ(不図示)が形成されている。この内ネジは、上述したアバットメントスクリュー40のネジ43と螺合する。末端側の大径部分から基部側の小径部分に切り替わる歯間乳頭形成体20の貫通穴の中ほどには、二重ネジ70の大径頭部74を受け止めるストッパー部が形成されていて、大径頭部74がストッパー部と係合する。したがって、歯間乳頭形成体20の貫通穴に対して二重ネジ70を締め付けていくと、ネジ73が内ネジ17に対して螺合するとともに、大径頭部74がストッパー部に対して係合するので、ベース体10と歯間乳頭形成体20とが二重ネジ70を介して一体的に連結される。このように、二重ネジ70とストッパー部と内ネジ17とによって、ベース体10と歯間乳頭形成体20とを連結する連結手段が構成されている。
【0052】
次に、本発明に係るさらに他の実施形態を図10乃至12を参照しながら説明するが、上記実施形態との相違点を中心に説明する。
【0053】
図10は、本発明のさらに他の実施形態に係る人工歯根の斜視図である。図11は、図10に示した人工歯根の分解図である。図12は、図10の人工歯根を歯槽骨内に植設した状態を示す模式図である。
【0054】
図10乃至12に示すように、フィクスチャー2の歯間乳頭形成体20とアバットメント30との間の境界部分には、鞍状に湾曲形態で延在する溝状の凹部50が形成されている。歯間乳頭形成体20の末端部の最終面は、鞍状に湾曲していて鞍状接続端25を構成する。歯間乳頭形成体20の鞍状接続端25は、対向するアバットメント30の基部側に形成されていて、鞍状接続端25を受容するように相補的に鞍状に湾曲した鞍状受容端35と嵌合する。
【0055】
歯間乳頭形成体20の主面21を構成する側周面は、粗面22に加工されている。それに対して、歯間乳頭形成体20の鞍状接続端25を構成する上面は、鏡面23に加工されている。それとともに、鞍状接続端25であって鏡面23に加工された上面は、溝状の凹部50の基端側の一部分を構成している。アバットメント30の鞍状受容端35を構成する下面は、通常の仕上げ面(粗面及び鏡面の中間程度の仕上げ)又は鏡面に加工されていて、溝状の凹部50の末端側の一部分を構成している。すなわち、溝状の凹部50を構成する少なくとも歯間乳頭形成体の基端側の一部分が鏡面である。
【0056】
図12に示すように、歯間乳頭形成体20の主面21を構成する側周面の粗面22は骨乳頭64の形成を誘導するとともに、溝状の凹部50の鏡面23は歯肉66の生物学的幅径80の形成を誘導する。ところで、生物学的幅径(Biologic Width)80とは、上皮性付着部(約1mmの幅)82から結合性付着部(約1mmの幅)84までの幅のことであり、生体の恒常性を維持するための生体防御構成部分と考えられている。結合性付着部(約1mmの幅)84は結合繊維83の先端部分であり、結合性付着部84を含む生物学的幅径80の部分が溝状の凹部50に食らい付いて強固な結合が得られるので、マイクロギャップに起因した歯肉66の退縮の影響を受けにくくなる。歯肉66が退縮することなくアーチ形状の骨乳頭64が形成されることによって、当該骨乳頭64に沿って歯間乳頭68が形成され、最終的にアーチ形状の歯間乳頭68が回復する。また、生物学的幅径80の部分が溝状の凹部50に対して食らい付いて人工歯根1と辺縁歯肉との間隙である遊離歯肉溝を縮小するので、遊離歯肉溝からの細菌感染防止も可能になる。
【0057】
また、上記実施形態においては、溝状の凹部50の末端側の部分がアバットメント30の一部分であり、溝状の凹部50の基端側の鏡面部分が歯間乳頭形成体20の一部分であるという構成になっているが、アバットメント30と歯間乳頭形成体20との境界を画定する境界線は、末端側に変位させることも可能である。境界線を末端側にシフトさせることにより溝状の凹部50の鏡面23の部分の面積が増大して、生物学的幅径80の部分が食らい付く結合強さが増大する。境界線を溝状の凹部50よりもさらに末端側にシフトさせた構成とすることも可能である。この場合には、溝状の凹部50の全面が鏡面23になり、溝状の凹部50の全てが歯間乳頭形成体20に含まれることになる。
【0058】
ところで、歯間乳頭形成体20に溝状の凹部50を設けることは、生物学的幅径80の部分が食らい付く結合強さが増大するという利点を有する。その反面、抜歯によって骨吸収の起こった歯周組織(骨)を骨再生誘導(GBR:guided bone regeneration)法や組織再生誘導(GTR:guided tissue regeneration)法で回復させるために軟組織を縫合して一旦閉じることが行われるが、溝状の凹部50を乗り越えて軟組織を閉じることが必要となるために軟組織の炎症等の障害を引き起こす可能性があることに留意する必要がある。したがって、臨床上の観点を加味すると、溝状の凹部50の末端側の部分がアバットメント30の一部分であり、溝状の凹部50の基端側の鏡面部分が歯間乳頭形成体20の一部分であるという図10乃至12に示した構成の方が好ましい。
【0059】
さらにまた、鞍状に湾曲形態で延在する溝状の凹部50を設ける構成は、図1乃至7に示した大略円筒形状をした歯間乳頭形成体20に対しても適用することができる。この場合、不図示であるが、上述したように、歯間乳頭形成体20の側周面である主面部21は、歯槽骨62の基部側に向かって凸状に湾曲した鏡面23とその残部である粗面22とを有している。鏡面23及び粗面22の境界を画定する境界線は鞍状に湾曲形態で延在し、当該境界線に沿って溝状の凹部50が形成されている。溝状の凹部50は鏡面23に加工されている。すなわち、溝状の凹部50と溝状の凹部50よりも末端側の部分とは鏡面23に加工されていて、溝状の凹部50よりも基端側の部分は粗面22に加工されている。結合性付着部84を含む生物学的幅径80の部分が溝状の凹部50に食らい付くことにより、強固な結合力や細菌感染防止効果が得られる。
【0060】
なお、ベース体10の受け部16と歯間乳頭形成体20の接続端24との間での凹凸結合や、歯間乳頭形成体20とアバットメント30との間での正多角形体の雌雄結合は、上記とは逆の関係にしてもよいことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の一実施形態に係る人工歯根の正面図である。
【図2】図1に示した人工歯根の縦方向の断面図である。
【図3】図1に示した人工歯根の斜視図である。
【図4】図1の人工歯根を歯槽骨内に植設した状態を示す模式図である。
【図5】図1に示した人工歯根の分解図である。
【図6】本発明の他の実施形態に係る人工歯根の説明図である。
【図7】本発明のさらに他の実施形態に係る人工歯根の説明図である。
【図8】本発明のさらに他の実施形態に係る人工歯根の斜視図である。
【図9】図8に示した人工歯根の分解図である。
【図10】本発明のさらに他の実施形態に係る人工歯根の斜視図である。
【図11】図10に示した人工歯根の分解図である。
【図12】図10の人工歯根を歯槽骨内に植設した状態を示す模式図である。
【符号の説明】
【0062】
1:人工歯根
2:フィクスチャー
4:義歯
10:ベース体
12:外ネジ
14:中空有底穴
16:受け部
17:内ネジ(連結手段)
18:接続端部
20:歯間乳頭形成体
21:主面部
22:粗面
23:鏡面
24:接続端
25:鞍状接続端
27:内ネジ
30:アバットメント
32:義歯装着部
33:係止溝
34:傾斜部
35:鞍状受容端
36:嵌合端
37:内ネジ
38:貫通穴
40:アバットメントスクリュー(連結手段)
42:軸部
43:ネジ
44:大径頭部
45:ストッパー部
50:凹部
52:ノッチ(割れ目)
54:円環状係止部(連結手段)
55:係止受け部(連結手段)
60:自然歯
62:歯槽骨
64:骨乳頭
66:歯肉
68:歯間乳頭
70:二重ネジ
72:軸部
73:ネジ
74:大径頭部
80:生物学的幅径
82:上皮性付着部
83:結合繊維
84:結合性付着部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯槽骨内に埋入されるフィクスチャーと、
その一端がフィクスチャーに嵌合されるとともに、その他端に対して義歯が装着されるアバットメントと、
前記フィクスチャーとアバットメントとを連結する連結手段と、を備え、
前記フィクスチャーは、
外ネジの形成されたベース体と、
ベース体に対して回動自在に結合されるとともに、アーチ状の歯間乳頭形成の基礎をなす歯間乳頭形成体と、を含んでなることを特徴とする人工歯根。
【請求項2】
前記歯間乳頭形成体は、大略円筒形状をしていて、少なくとも、頬側に対応する円筒の側周面では、歯槽骨の基部側に向かって凸状に湾曲した鏡面が形成され、他の部分が粗面に構成されていることを特徴とする、請求項1記載の人工歯根。
【請求項3】
歯槽骨の基部側に向かって凸状に湾曲した前記鏡面は、舌側に対応する円筒の側周面にも形成されていることを特徴とする、請求項2記載の人工歯根。
【請求項4】
歯間乳頭形成体の粗面及び鏡面の境界をなす部分に沿って凹部が形成されており、当該凹部が鏡面加工されていることを特徴とする、請求項2記載の人工歯根。
【請求項5】
前記歯間乳頭形成体の末端部の最終面は、鞍形状をしていて、歯間乳頭形成体の側周面の末端側が鏡面であり歯間乳頭形成体の側周面の基部側が粗面であることを特徴とする、請求項1記載の人工歯根。
【請求項6】
末端部の最終面が鞍形状をしていてその側周面が粗面である歯間乳頭形成体と、アバットメントとの間で境界をなす部分には凹部が形成されており、少なくとも、当該凹部を構成する歯間乳頭形成体の部分が鏡面であることを特徴とする、請求項1記載の人工歯根。
【請求項7】
前記ベース体が共通であって、植設される部位に応じて歯間乳頭形成体が変更されることを特徴とする、請求項1記載の人工歯根。
【請求項8】
前記粗面は、リン酸カルシウムのコーティングによって形成されていることを特徴とする、請求項3又は5記載の人工歯根。
【請求項9】
前記フィクスチャーとアバットメントとの嵌合は、正多角形体の雌雄結合であることを特徴とする、請求項1記載の人工歯根。
【請求項10】
前記正多角形体は、正六角形であることを特徴とする、請求項8記載の人工歯根。
【請求項11】
前記連結手段は、アバットメントスクリューであることを特徴とする、請求項1記載の人工歯根。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−149121(P2008−149121A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−291722(P2007−291722)
【出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【出願人】(506392159)
【出願人】(504418084)日本メディカルマテリアル株式会社 (106)
【Fターム(参考)】