説明

人工毛髪用繊維束及び頭飾品

【課題】アイロンカールでの課題を解消した人工毛髪用繊維束及びこの人工毛髪用繊維束を用いた頭飾品を提供する。
【解決手段】本発明に係る人工毛髪用繊維束は、ポリアミド樹脂で形成された人工毛髪用繊維40質量部以上90質量部以下と、塩化ビニル樹脂で形成された人工毛髪用繊維10質量部以上60質量部以下とを混在させたものである。塩化ビニル樹脂は、塩化ビニル樹脂100質量部と、塩素化塩化ビニル樹脂5質量部以上30質量部以下を含有した合成樹脂であるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、頭髪装飾用に用いられる人工毛髪用繊維束及びその繊維束を用いた頭飾品に関する。
【背景技術】
【0002】
人工毛髪用繊維として、ポリアミド繊維で形成されたものある。この繊維にあっては、特許文献1にあるにように、光沢や難燃性に問題があり、光沢を調整するために無機微粒子や有機微粒子を配合し、難燃性を付与するために難燃剤が配合されている。
【0003】
ポリアミド繊維への他の対応として、特許文献2、3に示すように、他の種類の合成樹脂を配合したものがある。
【0004】
ポリアミド繊維にあっては、アイロンカール性に優れるが、低温でアイロンカールをしても、耐熱性が高いため、カールがかからないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−332507号公報
【特許文献2】特開2008−002041号公報
【特許文献3】特開2009−138314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、低温であっても、アイロンカールが可能な人工毛髪用繊維束及びその繊維束を用いた頭飾品である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ポリアミド樹脂で形成された人工毛髪用繊維40質量部以上90質量部以下と、塩化ビニル樹脂で形成された人工毛髪用繊維10質量部以上60質量部以下とを混在させた人工毛髪用繊維束である。
【0008】
塩化ビニル樹脂にあっては、塩化ビニル樹脂100質量部と、塩素化塩化ビニル樹脂5質量部以上30質量部以下を含有した合成樹脂であるのが好ましい。
【0009】
他の発明にあっては、上述の人工毛髪用繊維束を用いた頭飾品である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、人工毛髪繊維束に、低温でもアイロンカールを施すことができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、ポリアミド樹脂で形成された人工毛髪用繊維40質量部以上90質量部以下と、塩化ビニル樹脂で形成された人工毛髪用繊維10質量部以上60質量部以下とを混在させた人工毛髪用繊維束である。
【0012】
ポリアミド繊維を採用したのは、人工毛髪として耐熱性の高い樹脂だからである。ポリアミド樹脂としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6・10、ナイロン6・12、又はこれらの共重合体があり、好ましくは、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6とナイロン66の共重合体である。
【0013】
ポリアミド樹脂で形成された人工毛髪用繊維の混在率は、多くなると、低温でのカール性が悪くなる傾向にあり、少なくなると高温でのアイロンカール後、直ちに焼き鏝からはがすと、充分なカール成形の冷却固化がなされないままはがされるので、高いアイロンカール性を得られない傾向にある。そのため、40質量部以上90質量部以下であり、好ましくは、50質量部以上80質量部以下である。
【0014】
塩化ビニル樹脂を採用したのは、人工毛髪用繊維として柔軟性、光沢に優れた合成樹脂だからである。塩化ビニル樹脂は、具体的には、塩化ビニルの単独重合物であるホモポリマー樹脂又は各種のコポリマー樹脂、及び、これらの混合物であり、より具体的には、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂と塩素化塩化ビニル樹脂の混合物、塩化ビニル―アクリロニトリルコポリマーの単体又は2種以上の混合体である。
【0015】
塩化ビニルのコポリマー樹脂としては、例えば、塩化ビニル−酢酸ビニルコポリマー樹脂、塩化ビニル−プロピオン酸ビニルコポリマー樹脂等の塩化ビニルとビニルエステル類とのコポリマー樹脂、塩化ビニル−アクリル酸ブチルコポリマー樹脂、塩化ビニル−アクリル酸2エチルヘキシルコポリマー樹脂等の塩化ビニルとアクリル酸エステル類とのコポリマー樹脂、塩化ビニル−エチレンコポリマー樹脂、塩化ビニル−プロピレンコポリマー樹脂等の塩化ビニルとオレフィン類とのコポリマー樹脂、塩化ビニル−アクリロニトリルコポリマー樹脂がある。
【0016】
塩化ビニル樹脂の粘度平均重合度は600〜2500であることが好ましい。粘度平均重合度が低いと繊維が熱収縮し易くなる傾向にあり、あまりに高いと溶融粘度が高くなってノズル圧力が高くなり安全な製造が困難になる傾向にある。粘度平均重合度は、樹脂200mgをニトロベンゼン50mlに溶解させ、このポリマー溶液の比粘度を30℃恒温槽中において、ウベローデ型粘度計を用いて測定し、JIS K 6720−2により算出したものである。
【0017】
塩化ビニル樹脂で形成された人工毛髪用繊維の混在率は、多くなると、高温でのアイロンカール直後に焼き鏝からはがすと充分なカール成形の冷却固化がなされないままはがされるので、高いアイロンカール性を得られない傾向にあり、少なくなると低温でのカール性が悪くなる傾向にあるため、10質量部以上60質量部以下であり、好ましくは、20質量部以上50質量部以下である。
【0018】
塩化ビニル樹脂にあっては、塩化ビニル樹脂100質量部に対して、塩素化塩化ビニル樹脂を1質量部以上30質量部以下、より好ましくは5質量部以上25質量部以下を配合した混合物であるのが好ましい。塩素化塩化ビニル樹脂の配合量を特定したのは、塩素化塩化ビニル樹脂が少ないと繊維束全体の光沢が強くなる傾向にあり、塩素化塩化ビニル樹脂が多いと繊維束の表面のザラツキが大きくなり触感が悪くなる傾向だからである。
【0019】
本発明に使用する塩素化塩化ビニル樹脂の粘度平均重合度は、450〜800であることが好ましい。粘度平均重合度を下げると人工毛髪用繊維が熱収縮しやすくなる傾向にあり、上げると溶融粘度が高くなってノズル圧力が高くなり安全な製造が困難になる傾向にある。粘度平均重合度は、樹脂200mgをニトロベンゼン50mlに溶解させ、このポリマー溶液の比粘度を30℃恒温槽中において、ウベローデ型粘度計を用いて測定し、JIS K 6720−2により算出したものである。
【0020】
塩化ビニル樹脂には、目的に応じて添加剤を配合することができる。添加剤としては熱安定剤、可塑剤、滑剤、相溶化剤、加工助剤、強化剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、充填剤、難燃剤、顔料、初期着色改善剤、導電性付与剤、表面処理剤、光安定剤、香料がある。
【0021】
本発明の人工毛髪用繊維束における個々の繊維の単繊度は、20デシテックス以上100デシテックス以下が好ましく、より好ましくは35デシテックス以上80デシテックス以下である。単繊度があまりに小さいと柔らかすぎて腰がないばかりかク繊維の波形状の形状保持性に劣り品質の低下が生じる傾向にある。単繊度があまりに大きいと曲げ剛性が大きくなってゴワゴワした硬い触感となる傾向にある。
【0022】
本発明の人工毛髪用繊維束における個々の繊維の断面形状は、円型、繭型、Y型、H型、X型から選択される一種又はこれら繊維の混合体であるのが好ましく、特に好ましくは混合体である。
【0023】
ポリアミド樹脂で形成された人工毛髪用繊維と、塩化ビニル樹脂で形成された人工毛髪用繊維との混在方法は、均一に混合できる方法であればよく、具体的には、双方の繊維束の一方端を保持し、繊維束の途中から他方端に向けて櫛通しを数回行うことを繰り返すハックリングがある。
【0024】
他の発明は、上述の人工毛髪用繊維束を用いた頭飾品である。頭飾品としては、かつら、ヘアピース、ブレード、エクステンションヘア、ドールヘアーがある。
【実施例】
【0025】
以下に、表1を参照しつつ、実施例、比較例を挙げて本発明を詳細に説明する。
最初に、表1記載の実施例、比較例における評価について、説明する。
【0026】
【表1】

【0027】
<アイロンカール性>
アイロンカール性は、長さ50cmの繊維を束ねた繊維束2グラムを、鉄製の焼き鏝(鏝の直径1.4cm)に巻いて10秒間保持してカールをかけた後、一方端を固定して吊り下げ、その根元から先端までの長さを、カール前の全長(50cm)で割った値で評価した。焼き鏝の温度は、アイロンカール性の低温では90℃、高温では150℃とした。値が小さいほどカールがかかっている。評価は、以下の基準であり、優と良が合格値である。
優 値が0.75未満
良 値が0.75以上0.85未満
不良 値が0.85以上
【0028】
<光沢>
光沢は、人工毛髪用繊維処理技術者(実務経験5年以上)の10人の判定より、次の評価基準で評価した。
優:技術者10人全員が、人毛に近い光沢レベルと評価したもの
良:技術者の8人又は9人が、人毛に近い光沢レベルと評価したもの
不良:技術者の7人以下が、人毛に近い光沢レベルと評価したもの
【0029】
<触感>
触感は、人工毛髪用繊維処理技術者(実務経験5年以上)10人の判定より、次の評価基準で評価した。
優:技術者10人全員が、触感が良いと評価したもの
良:技術者の8人又は9人が、触感が良いと評価したもの
不良:技術者の7人以下が、触感が良いと評価したもの
【0030】
(実施例1)
実施例1の人工毛髪用繊維束は、ポリアミド樹脂で形成された人工毛髪用繊維70質量部と、塩化ビニル樹脂で形成された人工毛髪用繊維30質量部とを、ハックリングで混在させたものである。
【0031】
実施例1のポリアミド樹脂は、ナイロン6樹脂(宇部興産社製1013B)100質量部、架橋アクリル粒子(積水化学社製、MXB−2B)5質量部をハンドブレンドし、マル型ノズル形状、ノズル断面積0.2mm、孔数20個の紡糸金型を用いて、シリンダー温度280℃及び押出量1.0kg/時間にて溶融紡糸した後、100℃の空気雰囲気下で300%に延伸したものである。
【0032】
実施例1の塩化ビニル樹脂は、塩化ビニル樹脂(大洋塩ビ社製TH−1000)100質量部であり、表1には記載しなかったが、その添加剤として、ハイドロタルサイト複合安定剤(日産化学工業社製CP−410A)3質量部(熱安定剤成分1.5質量部)、エポキシ化大豆油(旭電化工業社製O−130P)0.5質量部、エステル滑剤(理研ビタミン社製EW−100)0.8質量部を配合した塩化ビニル樹脂組成物を、丸型ノズル形状、ノズル断面積0.06mm、孔数120個の紡糸金型を用いて、シリンダー温度180℃及び押出量10kg/時間にて溶融紡糸した後、100℃の空気雰囲気下で300%に延伸し、120℃の空気雰囲気下で繊維全長が処理前の75%の長さに収縮するまで熱弛緩処理したものである。
【0033】
実施例1の人工毛髪用繊維束は、アイロンカール性にあっては低温、高温のいずれも優であり、光沢では良、触感では優であるという評価であった。
【0034】
(実施例2)
実施例2の人工毛髪用繊維束は、実施例1の塩化ビニル樹脂の組成物に塩素化塩化ビニル樹脂(大洋塩ビ社製、HA−15E)15質量部を追加した以外は実施例1と同様に製造したものである。
【0035】
実施例2の人工毛髪用繊維束は、全ての評価で優であった。
【0036】
(実施例3)
実施例3の人工毛髪用繊維束は、実施例1の塩化ビニル樹脂の組成物に塩素化塩化ビニル樹脂(大洋塩ビ社製、HA−15E)40質量部を追加した以外は実施例1と同様に製造したものである。
【0037】
実施例3の人工毛髪用繊維束は、触感のみ良であり、他の評価で優であった。
【0038】
(実施例4)
実施例4の人工毛髪用繊維束は、実施例2のポリアミド樹脂で形成された人工毛髪用繊維と、塩化ビニル樹脂で形成された人工毛髪用繊維の比率を45質量部、55質量部にした以外は実施例2と同様に製造したものである。
【0039】
実施例4の人工毛髪用繊維束は、低温でのアイロンカール性のみ良であり、他の評価で優であった。
【0040】
(実施例5)
実施例5の人工毛髪用繊維束は、実施例2のポリアミド樹脂で形成された人工毛髪用繊維と、塩化ビニル樹脂で形成された人工毛髪用繊維の比率を60質量部、40質量部にした以外は実施例2と同様に製造したものである。
【0041】
実施例5の人工毛髪用繊維束は、全ての評価で優であった。
【0042】
(実施例6)
実施例6の人工毛髪用繊維束は、実施例2のポリアミド樹脂で形成された人工毛髪用繊維と、塩化ビニル樹脂で形成された人工毛髪用繊維の比率を85質量部、15質量部にした以外は実施例2と同様に製造したものである。
【0043】
実施例6の人工毛髪用繊維束は、低温でのアイロンカール性のみ良であり、他の評価で優であった。
【0044】
(比較例1)
比較例1の人工毛髪用繊維束は、ポリアミド樹脂で形成された人工毛髪用繊維95質量部と、塩化ビニル樹脂で形成された人工毛髪用繊維5質量部とを混在させた以外は、実施例1の人工毛髪用繊維束と同様に製造したものである。
【0045】
比較例1の人工毛髪用繊維束は、低温でのアイロンカール性が不良であった。
【0046】
(比較例2)
比較例2の人工毛髪用繊維束は、ポリアミド樹脂で形成された人工毛髪用繊維30質量部と、塩化ビニル樹脂で形成された人工毛髪用繊維70質量部とを混在させた以外は、実施例1の人工毛髪用繊維束と同様に製造したものである。
【0047】
比較例1の人工毛髪用繊維束は、高温でのアイロンカール性が不良であった。
【0048】
(実施例7)
表には記載しなかったが、実施例1のポリアミド樹脂をナイロン66(東レ社製CM3001−N)に置き換えた実施例7にあっては、実施例1と同様な結果を得た。
【0049】
(実施例8)
表には記載しなかったが、実施例1のポリアミド樹脂をナイロン6とナイロン66の共重合体(インターテック社製666)に置き換えた実施例8にあっては、実施例1と同様な結果を得た。
【0050】
(実施例9)
実施例9は、実施例1の人工毛髪用繊維束を用いて頭飾品としてのエクステンションヘアにしたものである。
【0051】
表には記載しなかったが、実施例6のエクステンションヘアにあっては、低温でのアイロンカール性、高温でのアイロンカール性のいずれでも優れ、光沢は合格範囲、触感では優良な評価であった。
【0052】
(実施例10)
実施例10は、実施例2の人工毛髪用繊維束を用いて頭飾品としてのエクステンションヘアにしたものである。
【0053】
表には記載しなかったが、実施例10のエクステンションヘアにあっては、低温でのアイロンカール性、高温でのアイロンカール性のいずれでも優れ、光沢、触感のいずれでも優良な評価であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂で形成された人工毛髪用繊維40質量部以上90質量部以下と、塩化ビニル樹脂で形成された人工毛髪用繊維10質量部以上60質量部以下とを混在させた人工毛髪用繊維束。
【請求項2】
塩化ビニル樹脂が、塩化ビニル樹脂100質量部と、塩素化塩化ビニル樹脂5質量部以上30質量部以下を含有した合成樹脂である請求項1記載の人工毛髪用繊維束。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の人工毛髪用繊維束を用いた頭飾品。