説明

人工皮革用基材の製造方法

【課題】軽量でありながら天然皮革と同等の重厚感を発揮する人工皮革用基材の製造方法を提供すること。
【解決手段】極細繊維からなる繊維質基材に高分子弾性体を主とする含浸液を含浸し、凝固させる人工皮革用基材の製造方法であって、該含浸液がシリコーン化合物を含有する水系含浸液であることを特徴とする。さらには、凝固させる方法が感熱凝固方法であることや、80度以上の蒸気バス中で感熱凝固させる方法であることが好ましい。また、シリコーン化合物としてシリコーン系樹脂とシリコーン系オイルとの両者を含むものであることや、繊維質基材が、含浸液を含浸する前にあらかじめ収縮処理されていることや、繊維質基材を構成する繊維が長繊維であること、繊維質基材重量に対する含浸液の固形分付着量が5〜150%であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工皮革用基材の製造方法に関し、さらに詳しくは軽量かつ柔軟性に優れた水系人工皮革用基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、天然皮革代替物としての人工皮革は、軽さ、イージーケアー、低価格などの特徴が消費者に認められ、衣料用、一般資材およびスポーツ分野などに幅広く利用されるようになっている。しかしながら、市場ではその加工性あるいは着用性の面から天然皮革の有する柔軟性、緻密な構造からくるドレープ性、低反発性をさらに高めた人工皮革が要求され、種々の提案がなされてきている。このような人工皮革の一般的な製造方法としては、繊維質基材に高分子弾性体の有機溶剤溶液を含浸し湿式凝固させるプロセスであり、このときの高分子弾性体としては、DMFなどの良溶剤で溶解された有機溶剤系のポリウレタンが多く用いられている。
【0003】
一方、最近では環境負荷を低減した人工皮革製品の要求も高まりつつあり、近年、有機溶剤を用いない水性タイプの高分子弾性体を用いた人工皮革の製造方法(例えば特許文献1)、工程短縮化のための製造技術(例えば特許文献2)の研究が盛んに行われている。
【0004】
しかし、このような環境負荷の少ない水性タイプの高分子弾性体を用いた製造方法では、まだ柔軟性やドレープ性、低反発性の面で不十分であり、天然皮革に比べると重厚感や高級感に劣るという問題があった。また、重厚感を得るためには多量の高分子弾性体を使用する方法もあるが、その場合には環境負荷を低減させるという目標に逆行するという問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開2001−279579号公報
【特許文献2】特開2006−63474号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術を背景になされたもので、その目的は軽量でありながら天然皮革と同等の重厚感を発揮する人工皮革用基材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の人工皮革用基材の製造方法は、極細繊維からなる繊維質基材に高分子弾性体を主とする含浸液を含浸し、凝固させる人工皮革用基材の製造方法であって、該含浸液がシリコーン化合物を含有する水系含浸液であることを特徴とする。
【0008】
さらには、凝固させる方法が感熱凝固方法であることや、80度以上の蒸気バス中で感熱凝固させる方法であることが好ましい。また、シリコーン化合物としてシリコーン系樹脂とシリコーン系オイルとの両者を含むものであることや、繊維質基材が、含浸液を含浸する前にあらかじめ収縮処理されていることや、繊維質基材を構成する繊維が長繊維であること、繊維質基材重量に対する含浸液の固形分付着量が5〜150%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、軽量でありながら天然皮革と同等の重厚感を発揮する人工皮革用基材の製造方法を提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の製造方法は、極細繊維からなる繊維質基材に高分子弾性体を主とする含浸液を含浸し、凝固させる人工皮革用基材の製造方法に関する。ここで、本発明で用いる極細繊維としては0.5dtex以下であることが好ましく、さらには0.001〜0.3dtexであることが好ましい。また本発明の繊維質基材を作成するための繊維としては、繊維質基材となったときに最終的に上記のような極細繊維となる繊維であれば特に制限は無く、そのような極細化前の繊維としては海島型の混合紡糸繊維、複合紡糸繊維などいずれもが適用できるが、特に好ましくは剥離分割型複合繊維であることである。
【0011】
本発明で用いられるこのような繊維としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリル、ポリオレフィンなどの従来公知の繊維形成可能な合成樹脂の一種、あるいは二種以上の樹脂からなる合成繊維が使用出来る。この中でも、ポリエステル、ポリアミドまたはポリエステル/ポリアミドからなるものを用いることが特に好ましい。繊維となるポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレートなどがあげられ、ポリアミドとしては、ナイロン−6、ナイロン−66、ナイロン−12などがあげられる。中でもポリエチレンテレフタレート、ナイロン−6などが、工程安定性やコスト面から好ましい。
【0012】
また、本発明では、極細化前の繊維でシートを作成し、極細化処理を経て繊維質基材とすることが好ましい。さらにこのときシートを構成する極細化前の繊維には熱収縮性繊維が含まれていることが好ましい。シート形状とした後で熱により繊維を収縮させることにより、高分子弾性体の含浸前に繊維の密度を高くでき、風合いが向上する。このような熱収縮性繊維としては、特に好ましくは収縮応力が大きい高収縮ポリエステル系繊維であり、例えばポリエチレンテレフタレートを主成分とする繊維形成性ポリマーを紡糸した後、温水中で低倍率延伸して得られる熱収縮性繊維などである。さらに、該熱収縮性繊維は延伸条件などの制御により50℃以上100℃以下で収縮特性を発現するものが好ましい。50℃より低い温度で特性を発現するものは品質のバラツキの要因になり、100℃より高い温度で特性を発現するものは、多くの熱量を必要し生産性が悪くなる。合成繊維の収縮特性は、紡糸速度、引取速度、延伸温度、延伸倍率などを調整することにより熱収縮特性を変更することが可能である。このような繊維を用いてシートとした後、繊維質基材となるまでの収縮率は10〜60%、特には20〜50%であることが好ましい。
【0013】
また、最も好ましくはシートを構成する繊維が、熱収縮性繊維から構成され、さらに2種以上の単繊維に分割可能な複合繊維であることである。このように該複合繊維を分割して発生するそれぞれの単繊維の熱収縮性が互いに異なる場合は、収縮処理時に複合繊維の分割がさらにすすみ、より緻密でかつ均質な構造を得ることが出来る。例えば、熱収縮性の高いポリエステル系繊維と熱収縮性の低いポリアミド系繊維とに、最終的に分割、極細繊維化される剥離分割型複合繊維などが好ましい。ポリエステル成分とポリアミド成分とに熱収縮率差を与えるためには、例えば紡糸温度や延伸温度を下げることや、引取温度や延伸倍率を下げる方法を採用することができる。
【0014】
本発明で用いる繊維質基材としては、前記のような繊維を一種類あるいは数種類混合したものが用いられる。またこれらの繊維からなるシートとしては不織布であることがもっとも好ましい。このような不織布を形成する方法は、短繊維からのカーディング、水流や空気流により交絡処理を行う方法、あるいは長繊維のダイレクトシート化、交絡処理による方法などの従来から公知の方法が採用できる。
【0015】
本発明では繊維質基材が、含浸液を含浸する前にあらかじめ収縮処理されていることが好ましく、さらには該繊維質基材を40〜110℃の温水または水蒸気により収縮させる工程を経ることにより収縮緻密化することが好ましい。繊維の熱収縮による不織布の面積収縮率としては10〜60%の範囲であることが好ましく、より好ましくは20〜50%の範囲である。面積収縮率が低いと本発明の緻密かつ均質な構造の不織布が得られにくい傾向にある。一方、面積収縮率が大きいと見掛け密度の高い不織布を得ることはできるものの、人工皮革とした際に柔軟性が低下する傾向にある。面積収縮率は、該繊維質基材を公正する各繊維成分の熱収縮率、混綿率、交絡度、熱処理温度などによって調整可能である。熱収縮前の不織布の密度としては0.1〜0.3g/mであることが、熱収縮後の不織布の密度としては0.15〜0.45g/mであることが好ましい。
【0016】
本発明で用いる繊維質基材としては、さらに緻密でかつ均質とするためには、長繊維のダイレクトシート化を採用し、熱収縮時の各繊維の収縮性を変化させて異方性を高めることにより、より均質で収縮率の高い高密度の人工皮革用基材とすることができる。
【0017】
本発明はこのような極細繊維からなる繊維質基材に高分子重合体を主とする含浸液を含浸し、凝固させる人工皮革用基材の製造方法であって、含浸液が高分子重合体を主とし、かつシリコーン化合物を含有する水系含浸液であることを必須とする。
【0018】
含浸液の主成分である高分子弾性体としては、水の除去後にエラストマー性を示すものであればいずれでも良く、例えば、本発明に用いられる高分子弾性体としては、例えば、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン、NBR、SBR、アクリル等の高分子からなる樹脂が挙げられる。中でも、ポリウレタン樹脂が柔軟性、強度、耐候性、耐摩耗性などの点から好ましい。また、本発明で用いられる高分子弾性体は、水系の水分散体または溶液であることが好ましいが、これらの高分子弾性体は単独で使用しても、複数を併用して使用してもよい。含浸液の固形分中に占める高分子弾性体の量としては50重量%以上、さらには60〜90重量%の範囲にあることが好ましい。
【0019】
また、本発明で含浸液の主成分として好ましく用いられるウレタン樹脂としては、ポリカーボネート系、ポリエーテル系等が挙げられるが、特に人工皮革としての柔軟性、強度、耐候性などの点からは、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が特に好ましい。ウレタン系樹脂の特性としては、pHは6〜7、粘度は10〜50mPa・s、感熱凝固温度は70〜100℃の範囲であることが好ましい。pH6未満(酸性)あるいは、pH7以上(アルカリ性)になると、繊維質基材に用いているポリエステル系繊維あるいはポリアミド系繊維の繊維物性低下が起こりやすく、人工皮革としての十分な風合いが得にくい傾向にある。また、ウレタン樹脂単独の感熱凝固温度が70℃未満では、含浸液中でのウレタン樹脂の架橋反応が十分進まず、最終的に十分な弾性が得られにくい傾向にある。逆に100℃以上になると、ウレタン樹脂を含む含浸液中の水分の蒸発が速くなるため、繊維基材表面での樹脂の固化が速く、内部での樹脂の固化が不十分となり、不均一な風合いとなる傾向にある。
【0020】
そして本発明で用いられる含浸液は、上記のような高分子弾性体を主とするものであるが、それに加えてシリコーン化合物を含有することが必須とされる。シリコーン化合物としては、アミノ変性シリコーン化合物であることが好ましく、より具体的にはたとえば化学構造式(I)で表されるアミノエチルプロピルメチルシロキサンなどのシリコーンエマルジョンがあげられる。シリコーンエマルジョンの固形分濃度としては、1〜10wt%であることが好ましい。
【0021】
化学構造式(I):
【化1】

【0022】
このようなシリコーン化合物を含浸液中に含有させることにより、得られる人工皮革用基材に、染み出しの少ない柔軟性と低反撥性を得ることができる。またシリコーン化合物としては、シリコーン系樹脂とシリコーン系オイルの両者を含むものであることが好ましく、たとえばシリコーン系オイルとしては、ジメチルポリシロキサンやアミノ変性シリコーンからなることが好ましい。本発明ではこれらのシリコーン成分を含むことにより、主成分の高分子弾性体と繊維間に働くことにより、わずかな添加量で柔軟性と低反発性を得ることができる。特にアミノ変性シリコーン化合物を用いた場合には繊維からの脱着が防止されるので、長期にわたって高品質が継続し、また剤の外部付着による汚れも発生しにくい傾向にある。また、ジメチルポリシロキサンを用いることにより、繊維に対する高分子弾性体の接着が防止され、より柔軟な構造とすることができる。
【0023】
本発明の製造方法においては、これらの高分子弾性体と、シリコーン化合物とを同時に含有した水系含浸液を用いることに特徴がある。シリコーン系樹脂を繊維質基材にあらかじめ前処理することによる通常の柔軟化処理では、シリコーン系樹脂の撥水特性により、後から処理する高分子弾性体を繊維質基材に均一に含浸することができなくなり、高分子弾性体が偏在することにより風合が低下するのである。本発明の製造方法では同時に処理されるため、繊維表面に均一に付着させることが可能となり、より少量の含浸液でより柔軟性に優れた人工皮革用基材を提供することができる。
【0024】
本発明で使用される含浸液は、水系の含浸液であることが必須であるが、その主成分である高分子弾性体としては、エマルジョン系の高分子弾性体であることが好ましい。エマルジョンは粒子状に凝固し表面積が大きくなる傾向にあるため、本発明で用いられるシリコーン系の処理剤の効果が、繊維と高分子弾性体との間でより強く発揮される。
【0025】
本発明においては、含浸液は感熱凝固特性を有していることが好ましい。その場合含浸液の凝固特性が発現する温度は30℃以上100℃以下が好ましく、さらには50℃以上95℃以下で凝固特性を発現するものが好ましい。含浸液の凝固特性が発現する温度とは、種々の添加剤を配合した含浸液を攪拌しながら昇温した時に、含浸液が流動性を失い凝固する温度である。感熱凝固を起こすことにより乾燥時のマイグレーションを防止し、シート状物がダンボール構造となることを防止することができる。また、含浸液の粘度については、10mPa・s以下では、ウレタン樹脂が繊維基材中に残らず、十分固着しないため、弾性のない人工皮革となり、逆に、100mPa・s以上では、高密度である繊維基材の内部まで浸透せず、表面が硬く、内部が柔らかい風合いの一定でない人工皮革となるため、好ましくない。高分子弾性体とシリコーン化合物との配合比は固形分重量比率(高分子弾性体/シリコーン化合物)で1〜15、さらには1.5〜12範囲であることが好ましい。
【0026】
特に本発明の製造方法により得られる人工皮革の主用途の一つであるシューズ等では、人工皮革基材の断面が製品等の表面に出るため、人工皮革基材の断面を例えば、顔料等で表面仕上げと同色に加工する必要がある。この際、水系含浸液に顔料を入れて、繊維質基材に含浸する際に、従来の別含浸では、前処理のシリコーン系化合物が高分子弾性体の均一な含浸を阻害し、顔料の均一分散が困難となり、人工皮革基材の断面に色斑が発現する問題があったが、本発明の含浸方法では、同時に両液を処理するため、繊維表面でのシリコーン化合物による付着の阻害を受けることなく、均一に高分子弾性体を塗布することが出来る。
【0027】
また上記含浸液には高分子弾性体の耐光性、耐熱性、耐水性、耐溶剤性等の各種耐久性を改善する目的で酸化防止剤、紫外線吸収剤、加水分解防止剤等の安定剤や、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、イソシアネート化合物、アジリジン化合物、ポリカルボジイミド化合物等の架橋剤を配合して使用することもできる。さらに、着色を目的として水溶性あるいは水分散性の各種無機、有機顔料を配合することができる。
【0028】
本発明の含浸液の繊維質基材への含浸方法は、通常行われる方法であればいずれでも良く、例えばマングルによる含浸法、コーティング法、スプレー法等が挙げられる。
繊維質基材に対する含浸液の固形分付着量としては、5〜150重量%さらには10〜50重量%であることが好ましい。また、その内訳は繊維質基材に対する高分子弾性体の固形分付着量が4〜140重量%、さらには8〜40重量%であることが好ましく、繊維質基材に対するシリコーン化合物の固形分付着量としては1〜10重量%、さらには2〜8重量%であることが好ましい。付着量が少なすぎる場合には得られるシートの充実感が低下する傾向がある。一方付着量が多すぎると、シリコーンの効果が減少し、得られるシートの重厚感や皮革様の風合いが低下する傾向がある。
【0029】
本発明での凝固処理としては感熱凝固方法であることが好ましい。さらには、高温多湿雰囲気下での感熱凝固であることが好ましい。その場合の処理温度は、高分子弾性体エマルジョンの感熱凝固温度以上であることが好ましく、50℃以上180℃以下が好ましいが、より安定的に生産を行うためには感熱ゲル化温度の10℃以上とするのがさらに好ましい。また相対湿度は80%以上であることが好ましく、さらには100%に近づく程表面からの乾燥が抑えられ好ましい。処理時間としては、5秒〜10分間であることが好ましく、さらには30秒〜5分間の範囲であることが好ましい。また特に好ましくは凝固させる方法が80℃以上、さらに好ましくは90〜100℃の蒸気バス中で感熱凝固させる方法であることが好ましい。
【0030】
本発明で得られるシート状物は、見掛け密度の高い皮革様シート状物であることが好ましく見掛け密度は0.20g/cm以上0.50g/cm以下の範囲が好ましく、より好ましくは0.25g/cm以上0.45g/cm以下の範囲であることである。
更に凝固後の処理として上記方法で得られた繊維複合シートを水により洗浄抽出することが好ましい。
【0031】
本発明の方法により得られた人工皮革用基材は、最後に乾燥させる。その方法としては、例えば熱風加熱、赤外線加熱、シリンダー加熱等任意の乾燥方法が可能であるが、一般的にはコスト面から熱風加熱が行われる。乾燥温度は好ましくは80℃以上180℃以下で行う。
【0032】
このようにして本発明の製造方法で得られた人工皮革用基材は柔軟性と腰の強さを同時に有し、重厚感、柔軟性に優れ、人工皮革用基材として好適に使用することができる。例えばこのようにして得られた人工皮革用基材の表面をバッフィングすることによりスエード調の人工皮革が得られ、また上記シートの片面に既知の方法によりポリウレタンなどの弾性ポリマー樹脂層を形成することにより銀面調の人工皮革が得られる。必要により、柔軟化のためのもみ処理や着色処理を行ってもよい。このようにして得られた人工皮革はスポーツシューズ、婦人・紳士靴などの靴用途、競技用各種ボール用途、家具・車輌、内装材、インテリア材などの産業資材用途、手帳・ノートなどの装丁用途、衣料用途などに好ましく用いることができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、これら実施例により限定されるものではない。なお、実施例における各項目は次の方法で測定した。
【0034】
(1)収縮率
不織布の収縮前の面積をS、収縮後の面積をSとし、収縮率を以下の式より算出した。
収縮率(%)={(S−S)/S}×100
【0035】
(2)柔軟度1(曲げ抵抗)
含浸液を含浸した人工皮革用基材の柔軟性を曲げ抵抗測定により評価した。柔軟度試験片25mm×90mmを準備し、長手方向の下部の20mmを保持具で垂直方向に保持し、保持具より20mmの高さの位置にあるUゲージの測定部に試験片のもう一方の片端の先端から20mmの位置の中央部があたるように、試験片を曲げながら、保持具をスライドさせて固定し、固定してから5分後の応力を記録計より読み取り、幅1cmあたりの応力に換算して柔軟度とした。単位はg/cmで表す。
【0036】
(3)柔軟度2(曲げ圧縮応力)
含浸液を含浸した人工皮革用基材の柔軟性を曲げ圧縮応力測定により評価した。柔軟度試験片25mm×90mmを準備し、試験片表外に折り曲げUゲージの間隔を10mmから5mmまで圧縮した時の試験片の反発応力を測定した。なお、試験時の圧縮速度は5mm/分とした。
【0037】
(4)厚さ
厚み測定器(株式会社大栄科学精器製作所、商品名PEACOCKモデルH)を使用し、試料1cmあたり180gの荷重を加えた状態で測定した。
【0038】
[実施例1]
まずポリエステル系とポリアミド系の剥離分割型の複合繊維からなる繊維質基材である不織布の作製を行った。すなわち第1成分としてポリエチレンテレフタレート、第2成分として6−ナイロンを用いてエクストルーダーにて溶融後、中空口金より吐出し、エジェクターにて高速牽引した後、空気流とともに分散板に衝突させ、フィラメントを開繊し、16分割タイプの多層貼り合わせ型断面をもつ剥離分割型の複合繊維からなる長繊維不織布を捕集ネットコンベアーで捕集した。両成分の容積比率は50:50であり、両成分は交互に配列しており、配列数は16であった。また、剥離分割前の繊維の繊度は5dtexであった。作製した長繊維不織布をクロスレイヤー機にて目付が200g/mになるように積層し、その後、ニードルパンチ処理を行った。さらに、シート状打撃式揉み機により剥離分割処理を行い、極細化した後、75℃の温水槽中に60秒間浸漬させ、収縮処理を施し、繊維質基材である不織布を得た。得られた不織布の収縮率は、43.7%、目付は、280g/m、厚さは、平均1.40mmであった。
【0039】
かくして得られた不織布に高分子弾性体(ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、固形分39%、pH=6.7、粘度30mPa・s、感熱凝固温度78℃)と、シリコーン化合物であるアミノエチルプロピルメチルシロキサンエマルジョン(固形分5%、シリコーン系樹脂とシリコーン系オイルの混合物)との割合が固形分重量比率で1.4となるように配合した混合液を、スクレーパー(かき取り治具)にて余分な含浸液をかき取ることにより、繊維重量に対する固形分付着量が約24重量%となるように含浸し、引き続き94℃の蒸気バス中にて60秒間感熱凝固処理を施した。その後、水浴中にて60秒間浸漬後、マングルにてニップを行い、100℃で20分間乾燥処理を行った。
得られた含浸後の人工皮革用基材の目付は、342g/m、厚さは、1.43mm、曲げ抵抗は、0.23g/cm、曲げ圧縮応力は、40.7g/cmであった。得られた人工皮革用基材は、非常に柔軟性に優れたものであった。
【0040】
[実施例2]
高分子弾性体と、シリコーン化合物との割合が固形分重量比率で3.0となるように配合した含浸液を含浸する以外は、実施例1と同様の処理を行った。得られた含浸後の人工皮革用基材の目付は、361g/m、厚さは、1.49mm、曲げ抵抗は、0.47g/cm、曲げ圧縮応力は、42.0g/cmであった。得られた人工皮革用基材は、非常に柔軟性に優れたものであった。
【0041】
[実施例3]
高分子弾性体と、シリコーン化合物との割合が固形分重量比率で5.0となるように配合した含浸液を含浸する以外は、実施例1と同様の処理を行った。得られた含浸後の人工皮革用基材の目付は、346g/m、厚さは、1.39mm、曲げ抵抗は、0.30g/cm、曲げ圧縮応力は、38.0g/cmであった。得られた人工皮革用基材は、非常に柔軟性に優れたものであった。
【0042】
[比較例1]
実施例1と同様に作製した不織布基材にシリコーン化合物の混合物を、乾燥後の繊維重量に対する割合が10重量%となるように含浸し、100℃で20分間乾燥した後、高分子弾性体(ポリウレタン樹脂)を乾燥後の繊維重量に対する割合が14重量%となるように含浸し、スクレーパーにて余分な含浸液をかき取った後、94℃の蒸気バス中にて60秒間感熱凝固処理を施した。その後、水浴中にて60秒間浸漬後、マングルにてニップを行い、100℃で20分間乾燥処理を行った。
得られた含浸後の人工皮革用基材の目付は、343g/m、厚さは、1.35mm、曲げ抵抗は、0.27g/cm、曲げ圧縮応力は、47.7g/cmであった。得られた人工皮革用基材は、実施例1に比べ、風合いが硬く柔軟性が少し劣るものであった。
【0043】
[比較例2、3]
表1のように乾燥後の繊維重量に対する割合を変更した以外は、比較例1と同様に行った。得られた人工皮革用基材の物性を表1に併せて示す。いずれも同時含浸の実施例に比べ、風合いが硬く柔軟性に劣るものであった。
【0044】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
極細繊維からなる繊維質基材に高分子弾性体を主とする含浸液を含浸し、凝固させる人工皮革用基材の製造方法であって、該含浸液がシリコーン化合物を含有する水系含浸液であることを特徴とする人工皮革用基材の製造方法。
【請求項2】
凝固させる方法が感熱凝固方法である請求項1記載の人工皮革用基材の製造方法。
【請求項3】
凝固させる方法が80度以上の蒸気バス中で感熱凝固させる方法である請求項1記載の人工皮革用基材の製造方法。
【請求項4】
シリコーン化合物として、シリコーン系樹脂とシリコーン系オイルとの両者を含むものである請求項1〜3のいずれか1項記載の人工皮革用基材の製造方法。
【請求項5】
繊維質基材が、含浸液を含浸する前にあらかじめ収縮処理されている請求項1〜4のいずれか1項記載の人工皮革用基材の製造方法。
【請求項6】
繊維質基材を構成する繊維が長繊維である請求項1〜5のいずれか1項記載の人工皮革用基材の製造方法。
【請求項7】
繊維質基材重量に対する含浸液の固形分付着量が5〜150%である請求項1〜5のいずれか1項記載の人工皮革用基材の製造方法。