説明

人工酵素経路によるバイオ水素の製造方法

本発明は、インビトロで酵素と水のみを用いて、再生可能な多糖類を緩やかな条件下で効果的に大量の水素へと変換する酵素プロセスを含む。上記プロセスには、(1)ホスホリラーゼ、(2)ホスホグルコムターゼ、(3)ヒドロゲナーゼ、(4)ペントース−リン酸塩経路中に含まれる酵素、などの複数の酵素が含まれる。上記プロセスの好適な実施の形態は、純生成物として水素および二酸化炭素のみが生成し、結果として低コストの原料から非常に大量の水素を生成するための安価な方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、米国特許出願第11/747496号(出願日:2007年5月11日)および米国仮特許出願第60/799,685号(出願日:2006年5月12日)の開示内容に依拠し、かつ、これらの出願に対する優先権を主張する。本出願中、これらの出願の開示内容全体を参照して、明細書の一部として取り込む。
【0002】
本発明は、農業及びエネルギー生産分野におけるバイオテクノロジーに関する。より詳細には、本発明は、実質的に多糖類の水素及び二酸化炭素への酵素触媒反応を通じた再生可能多糖類からの水素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
気候変化やそれに起因する世界の化石燃料備蓄量の枯渇は、持続可能な発展を脅かしている(モリス(Morris),2006年、ホファート(Hoffert)ら, 2002年、ファーレル(Farrell)ら, 2006年)。水素は、可動性のエネルギー担体であり、豊富に存在し、汚染物質を出さず、かつ、もちろん炭素を含有していない。米国エネルギー省(2004年)によれば、将来の水素経済のためのR&D優先事項として、(i)水素の製造コストの低減、(ii)高濃度水素保存のための実行可能な方法の発見、(iii)製造から保存及び使用までの水素のシームレス送達のための安全かつ効果的なインフラストラクチャの確立、および(iv)燃料電池のコストの大幅低減及び燃料電池耐久性の大幅な改善が挙げられている。
【0004】
水素は、化石燃料の使用よりもエネルギーの貯蔵に関して非常に有望な代替物である。水素は、化学エネルギー反応を直接電気エネルギーに変換する電気化学的デバイスである燃料電池において、使用することができる。燃料電池は、動力および熱の生成に関して、極めて効率の良いデバイスである。燃料電池は、化石燃料への依存を大幅に低減する可能性を提供する。しかし、燃料電池の場合、燃料供給などが主な障害となっているため、大規模な商業化が阻まれている。
【0005】
ほとんどの燃料電池は、一般的に水素化合物の改質(変換)によって生成された水素ガスを反応物質として使用することによって動作する。水素を豊富に含む化石燃料の改質は、最も一般的には触媒スチーム改質、自己熱改質、あるいは触媒部分酸化改質がある。しかし、我々のエネルギー需要に応える燃料電池技術に関しては、再生可能な水素ソースが必要とされる。非化石燃料ベースの水素生成の例として、太陽エネルギーあるいは風力、水力または地熱エネルギーを用いた水の電気分解、熱化学水分解、工業用地における排ガス、バイオマスのガス化、および有機物成分の消化あるいは太陽光吸収により、水素ガスを生成する生物学的あるいは光生物学的システムが挙げられる。
【0006】
生成と同時に使用されなければならない電気とは異なり、水素は必要になるまで保存することができる。しかし、低濃度の水素の場合は、特に従来の燃料と比べて、エネルギー密度も低くなる。従来の発電方法と比較して高効率の燃料電池を考慮に入れても、エネルギー密度の低い水素では、保存及び輸送方法が限られる恐れがある。
【0007】
多糖類は、糖単位あたり約6.2質量%のH2を含んでおり、また、水と反応した場合に12モルの二水素を生成することができるため、多糖類は良好な水素保存手段である。そして、可能な水素保存能力はおよそ15%である。米国エネルギー省の目標(シュラッバック(Schlapbach)およびザッテル(Zuttel), 2001年)によれば、15%の水素保存能力を伴う物質は、水素保存技術に関する長期目標でさえ上回っている。実際に多糖類及び水から水素を抽出するためには、総括反応C6H10O5 + 7H2O → 6CO2 + 12H2を起こさせる必要があり、ここで、C6H10O5は、デンプンあるいはセルロースのようなバイオマス中に含まれるグルカン反復単位を示す。
【0008】
バイオマスの水素への変換については、以下のようないくつかのパラダイムが存在する(すなわち、(1)直接的多糖ガス化(アンタル(Antal)ら, 2000年)、(2)直接的グルコース化学触媒作用(コートライト(Cortright)ら, 2002年、フーバー(Huber)ら, 2003年)、(3)嫌気的発酵(ダス(Das)およびベジログル(Veziroglu), 2001年、ハレンベック(Hallenbeck)およびベネマン(Benemann), 2002年)、および(4)エタノール発酵(リンド(Lynd)ら, 2002年、チャン(Zhang)ら, 2006年、チャン(Zhang)およびリンド(Lynd), 2004年)およびその後のエタノール改質(デルガ(Deluga)ら, 2004年)。従来の化学的方法の場合は、水素収率は低く(60%以下)、また、高い反応温度(例えば、500-900K)が必要とされる(アンタル(Antal)ら, 2000年、コートライト(Cortright)ら, 2002年、フーバー(Huber)ら, 2003年)。嫌気的水素発酵については、低効率で最大収率が33%であることが周知である(ダス(Das)およびベジログル(Veziroglu), 2001年、ハレンベック(Hallenbeck)およびベネマン(Benemann), 2002年)。エタノール発酵及び改質を組み合わせると、グルコース単位あたり10H2を生成することができる(収率83%)。5〜10%の発酵時の損失および、およそ5%の改質時の損失(デルガ(Deluga)ら, 2004年)を考慮に入れると、エタノールを通じた実質的な水素の収率は、最大収率のおよそ75%であるだろう(最大収率はグルコース単位あたり12H2)。
【0009】
水素に変換するための固形多糖類を保存及び配給すれば、今日の水素技術における多数の問題点を解消することができる。実質的なプロセスおよび装置を、車両などのオンボードモバイル用途に直接使用することができるなら、水素保存デバイスに関連するいくつかの問題を解決することができる。すなわち、水素の圧縮あるいは液化のためのエネルギーの損失は回避できる。さらに、H2脱離のための高温ももはや不要となる。さらに、実際の用途において、固形水素保存物質の寿命および水素の補充時間も問題ではなくなる。また、糖質の保存および配給はガス状の水素と比べて極めて安全である。
【0010】
元素水素からの分子状水素の製造のための生化学的経路は公知である。光化学系I(孤立光化学系Iあるいはチラコイド中の光化学系Iのいずれか)における電子は、典型的には光によって高いエネルギーへと励起され、その結果、外因性電子担体へと電子の寄与が起き、結果的に、電子担体により順々に電子をヒドロゲナーゼ酵素へと伝達することができる。このプロセスにおいて、酸化した光化学系Iは、直接的にあるいはチラコイド膜中で見られる電子伝達鎖を通じて、電子供与体から電子を抽出することができる。水が電子供与体として機能する場合は、電子伝達鎖は光化学系IIを含んでいる。一方、2個に低減した電子担体分子は、電子をヒドロゲナーゼ酵素に供与することができる。ヒドロゲナーゼにより、2個の電子が2個の陽子と組み合わされて、水素分子が形成される。
【0011】
好気性酸素生成光合成生物あるいはこのような生物の細胞成分が、水素ガスを生成するために以前から用いられている(ベネマン(Benemann)ら, 1973年、ローセン(Rosen)およびクラスナ(Krasna), 1980年、ラオ(Rao)ら, 1978年)。これらの参考文献で報告されている無細胞の成分システム(すなわち、インビトロ:試験管内)の場合は、チラコイドからの単離チラコイドあるいは可溶化光化学系Iと、水などの電子供与体あるいはジチオスレイトール酸やアスコルビン酸などのような人工電子供与体と、ヒドロゲナーゼによって酸化可能な電子供与体から電子が受け渡された場合に、2個の電子および2個の陽子の組み合わせを触媒して分子状水素を形成することが可能な光化学系Iから電子を受け取る能力を有するヒドロゲナーゼと、光化学系Iから電子を受け取る能力を有するヒドロゲナーゼと、光化学系Iから電子を受け取り、電子をヒドロゲナーゼに提供することが可能な外因性電子担体とが必要となる。
【0012】
酸素生成光合成生物の少なくとも2つの群は、インビボ(生体内)において水素生成の能力を有する。これらは、シアノバクテリアおよび緑藻類を含んでいる。シアノバクテリアは一般的にニトロゲナーゼ酵素を用いて分子状水素を生成する。この分子状水素生成プロセスにおいて用いられる電子は、保存された糖質から導出され、ニトロゲナーゼに関する直接の電子供与体であるフェレドキシンを低減するために用いられる(マルコフ(Markov)ら, 1995年)。ヒドロゲナーゼを用いて、シアノバクテリア中の分子状水素の生成を触媒することもできる。シアノバクテリアにおいて、分子状水素の生成は、酸素および/または光によって阻害される。
【0013】
緑藻類は、ヒドロゲナーゼを介して分子状水素を光発達(すなわち、生成)することもできる。その電子の移動経路は現在分かっていない。このプロセスの電子源は、内因的に発酵した糖類であることが分かっている(クライン(Klein)およびベッツ(Betz), 1978年)。二酸化炭素の存在下では水素の生成は停止し(バツアラ(Vatsala)およびセシャドゥリ(Seshadri), 1985年)、これは、二酸化炭素還元の電子シンクが、光合成の電子の流れにおいて、ヒドロゲナーゼよりも優れていることを示している。
【0014】
分子状水素(H2)は、多数の商業的用途を有する。分子状水素の用途を挙げると、アンモニア製造、典型的な精油所においてH2を全体的に用いる石油精製、炭素の二重結合から単一結合への変換、あるいは三重結合から単一あるいは二重結合への変換が望まれる化学合成産業、植物性油の水素化を行う食品産業および電子回路製造がある。水素は、また、メタノール、肥料、ガラス、精製金属、ビタミン、化粧品、石鹸、潤滑油、および洗剤の製造においても今日広範に用いられている。さらに、純水素は、従来の燃焼機関および燃料電池どちらにおいても優れた燃料であり、そして、酸素と酸化した場合に水蒸気しか生成しない。液体水素は宇宙船などにおける燃料としても用いることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】アルパー・J(Alper J.)、サイエンス(Science)、2003年、 第299巻、p1686-1687
【非特許文献2】アトキンス・P・W(Atkins P.W.)、フィジカル・ケミストリー(Physical Chemistry)(第4版)、ニューヨーク、W・H・フリーマン・アンド・カンパニー(W.H. Freeman & Co.)、1990年
【非特許文献3】アトキンス・P・W(Atkins P.W.)およびデ・パウラ・J(De Paula J.)、エレメンツ・オブ・フィジカル・ケミストリー(Elements of Physical Chemistry)(第4版)、ニューヨーク、W・H・フリーマン・アンド・カンパニー(W.H. Freeman & Co.)、2005年、p605-613
【非特許文献4】ベネマン(Benemann)ら、米国科学アカデミー紀要(Proc. Nat. Acad. Sci. USA)、第70巻、p2317、1973年
【非特許文献5】ベーグ・J・M(Berg J. M.)ら、バイオケミストリー(Biochemistry)(第5版)、 ニューヨーク、W・H・フリーマン・アンド・カンパニー(W. H. Freeman & Co.)、2002年
【非特許文献6】ブライアント・F・O(Bryant F.O.)および アダムス・M・W・W(Adams M.W.W.)、ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J. Biol. Chem.)、1989、第264巻、p5070-5079
【非特許文献7】コートライト・R・D(Cortright R.D.)ら、ネーチャー(Nature)、2002年、第418巻、p964-967
【非特許文献8】デルガ・G・A(Deluga G.A.)ら、サイエンス(Science)、2004年、第303巻、p993-997
【非特許文献9】ファーレル・A・E(Farrell A.E.)ら、サイエンス(Science)、2006年、第311巻、p506-508
【非特許文献10】ホファート・M・I(Hoffert M.I.)ら、サイエンス(Science)、2002年、第298巻、p981-987
【非特許文献11】フーバー・G・W(Huber G.W.)ら、サイエンス(Science)、2003年、第300巻、p2075-2077
【非特許文献12】クライン(Klein)およびベッツ(Betz)、プラント・フィジオロジー(Plant Physiol.)、第61巻、p953、1978年
【非特許文献13】リンド・L・R(Lynd L.R.)ら、マイクロバイオロジー・アンド・モリキュラー・バイオロジー・レビュー(Microbiol. MoI. Biol. Rev.)、2002年、 第66巻、p506-577
【非特許文献14】リンド・L・R(Lynd L.R.)ら、カレント・オピニオン・イン・バイオテクノロジー(Curr. Opin. Biotechnol.)、2005年、第16巻、p577-583
【非特許文献15】リンド・L・R(Lynd L.R.)ら、 セルローソーム(Cellulosome.) カタエバ・IA(Kataeva IA)編著、ノバ・サイエンス出版社(Nova Science Publishers, Inc.)、2006年
【非特許文献16】マー・K(Ma K.)およびアダムス・M・W(Adams M.W.)、ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(J. Bacteriol.)、1994年、第176巻、p6509-6517
【非特許文献17】マー・K(Ma K.)ら、フェムス・マイクロバイオロジー・レター(FEMS Microbiol. Lett.)、1994年、第122巻、p245-250
【非特許文献18】マー・K(Ma K.)ら、ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(J. Bacteriol.)、2000年、第182巻、p1864-1871
【非特許文献19】マルコフ(Markov)ら、アドバンス・イン・バイオケミカル・エンジニアリング・アンド・バイオテクノロジー(Advances in Biochemical Engineering and Biotechnology)、第52巻、p60、1995年
【非特許文献20】モリス・D(Morris D.)、ジャーナル・オブ・ザ・サイエンス・オブ・フード・アンド・アグリカルチャー(J. Sci. Food Agric.)、第86巻、p1743-1746 、2006年
【非特許文献21】ミューア・M(Muir M.)ら、ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(J. Bacteriol.)、1985年、第163巻、p1237-1242
【非特許文献22】ネルスン・D・L(Nelson D.L.)およびコクス・M・M(Cox M. M.)、レーニンジャー・プリンシプル・オブ・バイオケミストリー(Lehninger Principles of Biochemistry)(第3版)、 ニューヨーク、ワース出版社(Worth Publishers)、 2000年
【非特許文献23】ペドローニ・P(Pedroni P.)ら、マイクロバイオロジー(Microbiol.)、1995年、第141巻、p449-458
【非特許文献24】ラオ(Rao)ら、バイオチャイミー(Biochimie)、第60巻、p291、1978年
【非特許文献25】ローセン(Rosen)およびクラスナ(Krasna)、フォトケミストリー・アンド・フォトバイオロジー(Photochem. Photobiol.)、第31巻、p259、1980年
【非特許文献26】米国エネルギー省、「Basic Research Needs for the Hydrogen Economy」(2004年) http://www.sc.doe.gov/bes/hydrogen.pdf. にて公開
【非特許文献27】バツアラ(Vatsala)およびセシャドゥリ(Seshadri)、プロシーディング・オブ・ザ・インディアン・ナショナル・サイエンス・アカデミー(Proc. Indian Nat'l Sci Acad.)、第B51巻、p282、1985年
【非特許文献28】ウッドワード・J(Woodward J.)ら、ネーチャー・バイオテクノロジー(Nat Biotechnol.)、1996年、第14巻、p872-874
【非特許文献29】ウッドワード・J(Woodward J.)ら、ネーチャー(Nature)、 2000年、第405巻、p1014-1015
【非特許文献30】ウッドワード・J(Woodward J.)ら、エナジー・フューエル(Energy Fuels)、2000年、第14巻、p197-201
【非特許文献31】チャン・Y・-H・P(Zhang Y.-H.P.)およびリンド・L・R(Lynd L.R.)、アプライド・アンド・エンバイロメンタル.マイクロバイオロジー(Appl. Environ. Microbiol.)、2004年、第70巻、p1563-1569
【非特許文献32】チャン・Y・-H・P(Zhang Y.-H.P.)およびリンド・L・R(Lynd L.R.)、米国科学アカデミー紀要(Proc. Nat. Acad. Sci. USA)、2005年、第102巻、p7321- 7325
【非特許文献33】チャン・Y・-H・P(Zhang Y.-H.P.)およびリンド・L・R(Lynd L.R.)、アプライド・マイクロバイオロジー・アンド・バイオテクノロジー(Appl. Microbiol. Biotechnol.)、2006年、第70巻、p123-129
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
今日の水素燃料生成のための最先端技術においては、限られた収率、高エネルギーの入力の必要性、高コスト、燃料が十分に清浄であることを保証するためにさらなる浄化工程が必要など、多数の問題がある。必要とされているのは、水素を極めて大量に生成する低コストな方法であって、燃料電池の集中的利用および水素の他の用途を支えるのに十分な方法である。特に望ましいのは、豊富なバイオマスを含有している多糖類のような再生可能な原料を水素へと直接的に変換するための実用的なプロセス、組成、キットおよび装置である。このプロセスは、大量のH2を高収率および高エネルギー効率で得られ、最終的に低コストであることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、バイオマスから水素を生成する水素の製造方法、組成物およびキットを提供する。生成された水素は、任意の状況で使用可能であり、そしてエネルギー製造の燃料として用いることに十分適している。本発明は、多糖類プラス水を水素および二酸化炭素へとグルカン単位で変換することが可能な酵素反応統合ネットワークに少なくとも部分的に基づく。
【0018】
(グルカン)n + 7H2O → (グルカン)n-1 + 12H2 + 6CO2
ここで、(グルカン)は無水グルコース単位である-C6H10O5-である。水素は、多糖類および水から得られる。本質的には、本発明は、多糖類として保存され、水が分解されて水素を生成するエネルギーに依拠する。多糖類は、デンプン、セルロース、ヘミセルロース、マルトース、イソマルトース、セロビオース、β-1,4-グルカン、β-1,3-グルカン、β-1,6-グルカン、α-1,4-グルカン、α-1,6-グルカン、あるいはグリコシド結合によって連結された単糖類単位の他の任意のオリゴマーを含み得る(ただし、これらに限定されない)。
【0019】
第1の態様において、本発明は、多糖から水素を生成する水素の製造方法を提供する。一般的に、上記水素の製造方法は、上記多糖の少なくとも一部をグルコース-6-リン酸塩に変換することによって上記多糖の長さを低減する工程と、グルコース-6-リン酸塩から水素を生成する工程とを含む。上記水素の製造方法は、多数の特異的な化学工程及び酵素工程を通じて実施をすることができる。
【0020】
例えば、上記多糖の長さを低減する工程は、上記多糖の末端のグルカン単位をリン酸化する工程を含み得、これにより、上記末端単位の発生元である上記多糖から上記末端単位が開裂及び放出される。このようなリン酸化は、任意の数のホスホリラーゼによって達成可能である。ホスホリラーゼは、多糖中のグリコシド結合の開裂をリン酸塩基の取り込みにより放出グルカン単位へと結合して、グルコース-6-リン酸塩を形成することができる。上記工程は、ATPあるいは他の高エネルギーリン酸塩結合化合物を使用しない。
【0021】
さらに、グルコース-6-リン酸塩の製造は、任意の適切な手段によって達成され得る。好適には、上記多糖から放出されたグルカン単位は、グルコース-6-リン酸塩単位である。しかし、より典型的には、酵素反応が用いられる場合、グルコース-1-リン酸塩単位はグルコース-6-リン酸塩単位へと異性化されなければならない。異性化は、任意の適切な化学あるいは酵素プロセスによって達成され得る。酵素変換が好適である。
【0022】
グルコース-6-リン酸塩からの水素の製造はまた、任意の適切な化学あるいは生化学的手段によって達成されることができる。好適な実施の形態によれば、上記グルコース-6-リン酸塩は、上記グルコース-6-リン酸塩からリブロース-5-リン酸塩への変換を用いた、酵素プロセス(典型的には6-ホスホグルコン酸(6PG)を介する)を用いて、水素へと変換される。例示的実施の形態によれば、6モルのグルコース-6-リン酸塩から6モルのリブロース-5-リン酸塩への変換によって、12モルの分子状水素が得られる。
【0023】
化学的反応であれ生化学的反応であれ、このような反応は平衡を持ち、特定の反応が平衡状態になると、純生成物の形成が停止することが深く理解されている。このプロセスにおいて水素製造を容易化及び最大化するために、リブロース-5-リン酸塩から多様な生成物への変換によって、上記反応式からリブロース-5-リン酸塩を除去する。本発明によれば、上記生成物は広範囲にわたって変更可能であり、その目的とするところは、リブロース-5-リン酸塩の使用に向けた反応を促進して、水素製造を継続することである。上記システムにおけるリブロース-5-リン酸塩の量を低減するための簡便な方法は、当該分野において周知であり、広く理解されているペントースリン酸塩経路の酵素工程の一部あるいは全体を通じてリブロース-5-リン酸塩を除去する方法である。
【0024】
明らかなように、上記水素の製造方法が水素の酵素による製造を伴う場合、上記水素の製造方法はヒドロゲナーゼの使用を含む。上記水素の製造方法によって製造された水素は、大気中に放出可能であるが、好適には収集して即座に使用するかあるいは後で燃料源として使用するために保存するとよい。例えば、上記水素の製造方法は、反応槽中に存在する二酸化炭素からの水素の少なくとも部分的分離を含み得る。さらに、水素の一部あるいは全体を燃料電池に供給して、電気の生成あるいは他のエネルギー生産に用いることができる。
【0025】
このように、例示的実施の形態において、上記水素の製造方法は、(a)少なくとも1つの多糖および水を包含する組成物(例えば、混合物)を供給する工程と、(b)ホスホリラーゼ活性を有する1つ以上の酵素を供給する工程と、(c)上記多糖の少なくとも一部をリン酸化して上記多糖の鎖長を低減し、グルコース-1-リン酸塩を生成する工程と、(d)ホスホグルコムターゼ活性を有する1つそれ以上の酵素を供給する工程と、(e)上記工程(c)において生成されたグルコース-1-リン酸塩の少なくとも一部をグルコース-6-リン酸塩に異性化する工程と、(f)上記ペントースリン酸塩経路の工程を触媒するために効果的な複数の酵素を供給する工程と、(g)ヒドロゲナーゼ活性を有する1つ以上の酵素を供給する工程と、(h)上記工程(e)において生成された上記グルコース-6-リン酸塩のうちの少なくとも一部から水素を形成する工程とを含み得る。
【0026】
本発明の水素の製造方法は、その一般的な基本形態あるいは詳細な実施の形態において説明するように、任意の簡便な方法で実施することができる。このように、上記化学的あるいは生化学的反応の工程のすべては、単一の反応槽内において実施することができる。あるいは、上記反応のうち1つまたはいくつかは、別個に実施してもよい。上記水素の製造方法は、バッチプロセスまたは連続的プロセスとして実施してよく、水素及び廃棄物を連続的に除去し、新規原料を導入する。
【0027】
実施の形態において、上記多糖のリン酸化のための酵素のうち少なくとも1つは、ホスホリラーゼ(例えば、1,4-α-グルカンホスホリラーゼ、α-グルカンホスホリラーゼ、アミロペクチンホスホリラーゼ、アミロホスホリラーゼ、グルカンホスホリラーゼ、グルコサンホスホリラーゼ、グリコーゲンホスホリラーゼ、マルトデキストリンホスホリラーゼ、マルトースホスホリラーゼ、セロビオースホスホリラーゼ、セロデキストリンホスホリラーゼおよびスクロースホスホリラーゼ)である。特定の実施の形態において、水素製造のための酵素のうち少なくとも1つは、偏性嫌気性超好熱古細菌からのヒドロゲナーゼである。
【0028】
必要に応じて、上記水素の製造方法において別の方法で生成される無機リン酸塩を超える量の無機リン酸塩を上記水素の製造方法に追加してもよい。好適な実施の形態においては、上記システムにおいてリン酸塩は蓄積しない。また、好適には、上記水素の製造方法においてATPは生成あるいは消費されない。
【0029】
本発明の水素の製造方法が酵素反応を含む場合、上記水素の製造方法は、以下の酵素機能(すなわち、(a)上記多糖の少なくとも一部をリン酸化して、グルコース-1-リン酸塩を生成する工程と、(b)上記グルコース-1-リン酸塩の少なくとも一部をグルコース-6-ホスフェートへと異性化する工程と、(c)上記グルコース-6-リン酸塩の少なくとも一部から水素を形成する工程)を参照しても特徴付けられ得る。
【0030】
有利なことに、上記水素の製造方法は、低温〜中温(例えば、10℃〜100℃)での温度調整で実施することができる。いくつかの実施の形態において、(多糖以外の)外部の化学エネルギー源は追加されず、そして上記システムに追加される唯一のエネルギーは熱である。すなわち、一般的に、総括反応は弱い吸熱反応であるため、必要な熱入力は少量である。例えば、その追加される熱エネルギーは燃料電池から得ることができる。好適には、上記システムは一定の温度で維持され、上記温度は、基質濃度、反応の正味熱および特定のシステム中における熱損失の関数であることを考慮している。実施の形態において、上記水素の製造方法は、上記反応を約10℃〜約100℃の間で加熱する工程を含んでいる。
【0031】
本発明によれば、上記水素の製造方法における水素の収率は、典型的には、当初の多糖に含まれている無水グルコース単位の1モルあたり少なくとも10モルの水素である。好適な実施の形態において、上記水素の収率は、当初の多糖に含まれている無水グルコース単位の1モルあたりおよそまたは少なくとも11、およそまたは少なくとも11.5、およそまたは少なくとも11.6、およそまたは少なくとも11.7、およそまたは少なくとも11.8、およそまたは少なくとも11.9モルの水素である。特に好適な実施の形態において、上記水素の収率は、多糖中における無水グルコース単位の1モル当たり12モルのH2であり、100%の理論上の収率に対応する。
【0032】
本発明のプロセス時における水素製造の最大速度は限定されない。しかし、好適には、少なくとも0.1、少なくとも0.2、少なくとも0.4、少なくとも0.6、少なくとも0.8、または少なくとも1.0(あるいはそれ以上の)mmol/L/hrである。
【0033】
更なる態様において、本発明は、多糖から水素をインビトロで生成するために効果的な組成物を提供する。一般的に、上記組成物は、(a)少なくとも1つの多糖と、(b)水と、(c)上記多糖のグルコース-6-リン酸塩への変換、グルコース-6-リン酸塩の6-ホスホグルコン酸への変換、および6-ホスホグルコン酸のリブロース-5-リン酸塩への変換を触媒することが可能な少なくとも1つの酵素と、(d)NADP+およびグルコース-6-リン酸塩および/またはNADP+および6-ホスホグルコン酸を、NADPHおよび陽子に変換することが可能な少なくとも1つの酵素と、そして(e)NADPHおよび陽子からの水素への変換を触媒することが可能な少なくとも1つの酵素とを備えている。好適な実施例において、上記組成物はペントースリン酸塩経路の一部あるいはすべての工程を触媒することが可能な複数の酵素もまた備えている。
【0034】
特定の実施の形態において、上記組成物は、(EC番号によって特徴づけられるような)以下の酵素を含んでいる(すなわち、(i)少なくとも80%、好適には少なくとも90%、より好適には少なくとも95%のEC2.4.1.1と同一の酵素、(ii)少なくとも80%、好適には少なくとも90%、より好適には少なくとも95%のEC5.4.2.2と同一の酵素、(iii)少なくとも80%、好適には少なくとも90%、より好適には少なくとも95%のEC1.1.1.49と同一の酵素、(iv)少なくとも80%、好適には少なくとも90%、より好適には少なくとも95%のEC1.1.1.44と同一の酵素、(v)少なくとも80%、好適には少なくとも90%、より好適には少なくとも95%のEC5.3.1.6と同一の酵素、(vi)少なくとも80%、好適には少なくとも90%、より好適には少なくとも95%のEC5.1.3.1と同一の酵素、(vii)少なくとも80%、好適には少なくとも90%、より好適には少なくとも95%のEC2.2.1.1と同一の酵素、(viii)少なくとも80%、好適には少なくとも90%、より好適には少なくとも95%のEC2.2.1.2と同一の酵素、(ix)少なくとも80%、好適には少なくとも90%、より好適には少なくとも95%のEC5.3.1.1と同一の酵素、(x)少なくとも80%、好適には少なくとも90%、より好適には少なくとも95%のEC4.1.2.13と同一の酵素、(xi)少なくとも80%、好適には少なくとも90%、より好適には少なくとも95%のEC3.1.3.11と同一の酵素、(xii)少なくとも80%、好適には少なくとも90%、より好適には少なくとも95%のEC5.3.1.9と同一の酵素、および(xiii)少なくとも80%、好適には少なくとも90%、より好適には少なくとも95%のEC1.12.1.3と同一の酵素)。好適な水素の製造方法および組成物の実施の形態において、加水分解酵素は存在しない。
【0035】
別の態様において、本発明は、1つ以上の多糖類から水素を生成するためのキットを提供する。一般的に、本発明のキットは、1つ以上のコンテナを含んでいる。これらのコンテナは、それぞれ、(a)グルカン単位での多糖のリン酸化が可能な1つ以上の酵素、(b)グルコース-1-リン酸塩のグルコース-6-リン酸塩への異性化が可能な1つ以上の酵素、(c)グルコース-6-リン酸塩、6-ホスホグルコン酸あるいはその両方の酸化によって、分子状水素を生成することが可能な1つ以上の酵素のうち1つ以上を独立して含んでいる。実施の形態において、上記キットは、グルコース-6-リン酸塩デヒドロゲナーゼ、6-ホスホグルコン酸デヒドロゲナーゼ、あるいはその両方を含んでいる。実施の形態において、上記キットは、1つ以上のホスホリラーゼ、1つ以上のホスホグルコムターゼおよび1つ以上のヒドロゲナーゼを含んでいる。本発明のキットは、上述したような酵素組成もまた含むことができる。
【0036】
本発明のキットは、本発明の方法(すなわち、バイオマスからの水素の生成)を実施するために必要とされる供給のうち一部あるいはすべてを提供することもできる。よって、本発明のキットは、酵素、緩衝液、溶媒、コンテナ(例えば、本発明の反応プロセスおよびシステムから放出される水素ガスの一部あるいはすべてを収集あるいは使用するための1つ以上のコンテナ)を含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明による多糖および水の水素および二酸化炭素への変換のための合成代謝経路を示す。
【図2】本発明の製造方法およびシステムを通じてH2の生成およびモニタリングをするためのシステムを示す図である。
【図3】本発明による製造方法における2 mMのデンプンからの容量水素製造速度(mmolH2/L/hr)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下の説明により、本発明のシステム、製造方法、組成物、およびキットの特定の実施の形態および特徴についての詳細な議論を提供する。この議論は、このような実施の形態および特徴のすべてを網羅することは意図しておらず、選択された例示的実施の形態および特徴のより深い理解を読者に提供するために提示するものである。
【0039】
本発明へのより深い理解を読者に提供するために、特定の用語について定義および/または説明する。本出願中説明または定義されていない用語は、当該分野において通常的および慣習的に使用されているものとして理解される。
【0040】
「多糖」とは、モノマーよりも大きなグルカン単位の任意のオリゴマーあるいはポリマーを意味する。よって、多糖は、「オリゴ糖」、「グルカン」、「糖オリゴマー」、および「糖ポリマー」と相互交換可能に用いられる。多糖類は、デンプン、セルロース、ヘミセルロース、ペクチン、マルトース、イソマルトース、セロビオース、β-1,4-グルカン、β-1,3-グルカン、β-1,6-グルカン、α-1,4-グルカン、α-1,6-グルカン、あるいはグリコシド結合によって連結される単量体の糖ユニットの他の任意のオリゴマーを含み得る(ただし、これらに限定されない)。任意の数の多糖類の混合物を用いてもよく、そしてこのような混合物も「多糖類」という用語に含まれる。
【0041】
本出願中において用いられるように、「酵素」は化学的および生化学的な反応を触媒する(すなわち、促進する)タンパク質触媒である。本出願中において用いられるように、「酵素」という用語は、単一の酵素、1つ以上の酵素を含む混合物、あるいは酵素複合体包含するような意味を持つ。本出願中において用いられるように、「酵素単位」(あるいは「単位」)という用語は、1分あたり1ミクロモル(um)の基質の変換を触媒する酵素の量として定義される。酵素単位の定義づけの目的のための条件としては、最大基質変換速度が得られる温度30℃、およびpH値および基質濃度がある。
【0042】
酵素番号(EC番号)は、当該酵素が触媒する化学反応に基づいた、酵素の数値的分類法である。本発明の目的のため、EC番号を酵素を指定するためにも用いる。本出願中、ある酵素をEC番号によって特徴づける場合、同一反応をすべて触媒する異なる源あるいは生物からの複数の酵素が存在し得ることが理解される。本発明は、任意の特定の酵素あるいは酵素源に限定されず、以下に説明するように、経路における特定の酵素触媒反応に限定される。「EC2.4.1.1によって特徴づけられる酵素」という文章は、例えば、本出願の出願日時点における少なくとも1つの業界で認知されている酵素情報システム(例えば、ブレンダ(BRENDA)やケグ(KEGG))に従ったEC番号2.4.1.1を有する任意のアミノ酸配列を意味している。
【0043】
当該分野において公知のように、2つの酵素間の「同一性」は、1つの酵素のアミノ酸配列と第2の酵素の配列を比較することにより、決定される。同一性は、当該分野において周知の手順(例えば、ブラスト(BLAST)(米国立生物工学情報センターにおけるベーシックローカルアライメントサーチツール)を用いた手順)により、決定することができる。酵素の同一性が酵素のEC番号と共に列挙された場合、本記載によれば、同一のEC番号を有する多数の異なるアミノ酸配列があり得ることが理解されるべきである。よって、例えば、「EC2.4.1.1と少なくとも90%同一の酵素」という文言は、本出願の出願日時点における少なくとも1つの業界で認知されている酵素情報システム(例えば、ブレンダ(BRENDA)またはケグ(KEGG))に従って、EC番号2.4.1.1を有する少なくとも1つのアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を計算上持つアミノ酸配列を意味する。
【0044】
別の方法で記載が無い限り、本明細書および特許請求の範囲において用いられる成分濃度、反応条件、化学量論などを表す数字はすべて、「約」という用語によってすべての場合において改変されるものであると理解されるべきである。「約」という用語は、記載の該当値が、当該当値の上下5%のすべての値および/または当該値を得るための方法に固有の誤差範囲内のすべての値を包含することを示す。したがって、特に記載が無い限り、以下の明細書および添付の特許請求の範囲中に記載の数値パラメータは近似値であり、少なくとも特定の解析技術に応じて変化し得る。記載の数値は、できるだけ正確に報告されているものの、任意の数値において、各試験測定において見受けられる標準偏差に起因して必然的に発生した特定の誤差が固有に含まれる。
【0045】
本発明のシステム、組成物およびキットの実施の形態の方法および使用の特定の実施の形態の典型的な酵素の実行において、本発明は、以下の総括反応を通じて、多糖類を水素および二酸化炭素ヘと酵素的に変換する。多糖類はグルカン反復単位-C6H10O5-によって表すことができる。
【0046】
-C6H10O5-(s) + 7H2O(l) → 12H2(g) + 6CO2(g) (式1a)
5モルのH2がグルカン反復単位から生成されるのに対し、他の7モルのH2は反応した水から生成する点に留意されたい。(s)、(l)および(g)のタグは、固相、液相および気相における化学種をそれぞれ示している。多糖類は、液相、選択された特定の多糖類および温度および他の条件に応じて、典型的には、懸濁され、実質的に可溶化され、または完全に溶解されることが理解される。
【0047】
図1は、13個の可逆的酵素反応(すなわち、a)ホスホリラーゼ酸性グルコース-1-リン酸塩によって触媒される炭素鎖短縮リン酸化反応(式2)、b)ホスホグルコムターゼによって触媒されるグルコース-1-リン酸塩(G-1-P)のグルコース-6-リン酸塩(G-6-P)への変換(式3)、c)10個の酵素を含んでいるペントースリン酸塩経路(式4)、およびd)ヒドロゲナーゼによって触媒されるNADPHからの水素生成(式5)を含む合成酵素経路を示す。
【化1】

【0048】
実施の形態において、本発明の酵素経路は、3つの主要ブロック(すなわち、(a)(1)ホスホリラーゼによって触媒される多糖の炭素鎖短縮リン酸化、後続の(a)(2)ホスホグルコムターゼによって触媒されるグルコース-1-リン酸塩からグルコース-6-リン酸塩への変換、(b)G-6-Pをリブロース-5-P、CO2、およびNADPHへと変換する酸化段階を含むペントース−リン酸塩経路、および再生するリブロース-5-PをG-6-Pに再生することが可能な非酸化段階、(c)ヒドロゲナーゼによって触媒されるNADPHからの水素生成)を含む。
【0049】
グルカンホスホリラーゼによる炭素鎖短縮化およびG-1-PからG-6-Pへの変換を組み合わせることにより、多糖類のグルコシド結合に保存されたエネルギーを利用することが可能になる。これとは対照的に、従来の多糖類のグリコシド結合の加水分解の場合は、このようなエネルギーが散逸する。上記ガス状反応生成物(H2およびCO2)は、上記溶液から同時に除去することが可能であるため、上記多糖鎖を、同時に起こる反応の経路において同時に炭素鎖短縮化させる一方で、水素製造に向けて上記反応を効果的に促進することができる。
【0050】
一般的に、上記総括反応は、以下のように表すことができる。
【0051】
(グルカン)n + aH2O → (グルカン)n-1 + bH2 + cCO2 (式1b)
ここで、係数bは、上記当初の多糖から得られた水素の収率を規定する。熱力学的に、式1によって表される反応は、自発的プロセス(ΔG°= -48.9 kJ/mol)であり、吸熱反応(ΔH°= 595.6 kJ/mol)である(アトキンス(Atkins)およびデ・パウラ(Depaula), 2005年)。これらのガス状生成物(H2およびCO2)を液体反応溶液から連続的に除去すると、正味反応(式1)はル・シャトリエの原理によって(正方向において)順調になる。そのため、上記ガス状生成物の少なくとも1つを生成物形成と同時に除去するとが好ましく、双方の生成物(H2およびCO2)を生成物形成と同時に同一速度で除去することで、蓄積を回避し、上記多糖の完全変換を促進すると特に好ましい。
【0052】
水を更に消費させても(式1b中a>7)、更に水素が生成するのではなく、従来のグルカン加水分解が生じ易くなり、炭素鎖の短縮化および溶液中へのエネルギーの散逸が発生する。多糖の炭素鎖短縮化基質リン酸化(式2)は、多糖類のグルコシド結合に蓄えられたエネルギー(15.5 kJ/molグルコシド結合)を用いて、ATPの消費無しに、活性化され、リン酸化された単糖(G-1-P)を生成する。本質的には、多糖類に蓄えられたエネルギーは、水分子を分解するために向けられ、上記エネルギーを水素の形態で放出する。
【0053】
余分な水が存在していても、加水分解酵素(例えば、デンプンに対するアミラーゼあるいはセルロースに対するセルラーゼ)が実質的に含まれていない溶液を用いることによって、多糖の加水分解を最小限に抑えられる。そのため、本発明の好適な実施の形態において、上記溶液は大量の活性化された加水分解酵素を含まない。2個のグリコシド単位間の任意のグリコシド結合は、化学結合エネルギーを含んでいる。多糖類およびオリゴ糖に関するグリコシド結合の単純加水分解により、グリコシド結合の結合エネルギーが散逸する。本来、ホスホリラーゼは、基質のリン酸化によって上記エネルギーを保存することができる。
【0054】
ホスホリラーゼは、グルコース-1-リン酸塩の製造を触媒するアロステリック酵素である。より一般的には、ホスホリラーゼは、無機リン酸塩から受容体へのリン酸基の付加を触媒する酵素である。ホスホリラーゼは、EC2.4.1.1(1,4-α-グルカンホスホリラーゼ、α-グルカンホスホリラーゼ、アミロペクチンホスホリラーゼ、アミロホスホリラーゼ、グルカンホスホリラーゼ、グルコサンホスホリラーゼ、グリコーゲンホスホリラーゼ、マルトデキストリンホスホリラーゼ)、EC2.4.1.8(マルトースホスホリラーゼ)、EC2.4.1.20(セロビオースホスホリラーゼ)、EC2.4.1.49(セロデキストリンホスホリラーゼ)、およびEC2.4.1.7(スクロースホスホリラーゼ)を含む。効果的なホスホリラーゼはまた、本段落で列挙した酵素に対して少なくとも80%の同一性(好適には少なくとも90%の同一性)を有する酵素から選択してもよい。
【0055】
デンプンなどのα-1,4-グルコシド結合を含んでいる基質の場合、リン酸化反応は、以下のようになる。
【0056】
(1,4-α-D-グルコシル)n + Pi + H2O → (1,4-α-D-グルコシル)n-1 + G-1-P
マルトース + Pi + H2O → グルコース + G-1-P
セルロースなどのβ-1,4-グルコシド結合を含んでいる基質の場合、リン酸化反応は、以下のようになる。
【0057】
(1,4-β-D-グルコシル)n + Pi + H2O → (1,4-β-D-グルコシル)n-1 + G-1-P
セロビオース + Pi + H2O → G-1-P + グルコース
ホスホリラーゼによって誘導される一連の加リン酸分解反応の後、大量のG-1-Pを可逆的に生成することができる。G-1-Pを除去すると炭素鎖短縮反応が誘導される。
【0058】
ホスホグルコムターゼは、リン酸イオンの部位を変更し、G-1-PとG-6-P間で変換することにより、グルコース異性体を生成する酵素である。ホスホグルコムターゼの一例としては、EC5.4.2.2によって特徴づけられる酵素、あるいはこのような酵素に少なくとも80%の同一性(好適には少なくとも90%の同一性)を持つ酵素である。
【0059】
ヒドロゲナーゼは分子状水素(H2)の可逆的な酸化を触媒する酵素である。ヒドロゲナーゼは、嫌気的代謝において極めて重要な役割を果たす。水素の取り込み(H2酸化)は、酸素、硝酸、硫酸、二酸化炭素、およびフマル酸などの電子受容体の還元に連動している。一方で、陽子の還元(H2発生)は、ピルビン酸の発酵および過剰電子の除去において必要不可欠である。ヒドロゲナーゼは以下の反応に従って、NADPHから水素ガスを生成することができる。
【0060】
NADPH + H+ → NADP+ + H2
ヒドロゲナーゼの一例としては、EC1.12.1.3によって特徴づけられる酵素あるいはこのような酵素に対して少なくとも80%の同一性(好適には少なくとも90%の同一性)を有する酵素がある。本発明のいくつかの実施の形態においては、超好熱性の偏性嫌気性超好熱古細菌から単離されたヒドロゲナーゼを用いている(ブライアント(Bryant)およびアダムス(Adams), 1989年、マ(Ma)およびアダムス(Adams), 1994年、マ(Ma)ら, 1994年、ペドローニ(Pedroni)ら, 1995年、マ(Ma)ら, 2000年)。NADPH還元反応は自発的に促進されないが、特殊な偏性嫌気性超好熱古細菌ヒドロゲナーゼ1がNADPHの還元を触媒して、水素をインビトロで生成することができる。
【0061】
上記ペントース−リン酸塩経路は、酸化段階および非酸化段階からなる。酸化段階において、G-6-Pがリブロース-5-Pに変換され、非酸化段階において、リブロース-6-PからG-6-Pが再生される
G-6-P + 2NADP+ + H2O → リブロース-5-P + 2H+ + CO2 + 2NADPH
リブロース-5-P → 5/6 G-6-P
一般的に、上記ペントース−リン酸塩経路を活性化させる複数の酵素の選択は、当業者の技術の範囲内である。1つの特定の実施の形態について、実施例1において議論する(表1を参照)。他の実施の形態において、同様の酵素(例えば、表1中に羅列されているペントース−リン酸塩経路酵素に対して少なくとも80%(好適には少なくとも90%の)配列同一性を有する酵素)(EC番号1.1.1.49、1.1.1.44、5.3.1.6、5.1.3.1、2.2.1.1、2.2.1.2、5.3.1.1、4.1.2.13、3.1.3.11、および5.3.1.9)が用いられる。
【0062】
いくつかの実施の形態において、多糖類の水溶液に酵素を直接加える。酵素の付加量は、所望の反応温度および滞留時間に依存する。一般的に、反応速度がこれ以上向上しない各特定酵素の濃度の上限が存在する。酵素の最適量は、全体的経済性によって決定される。
【0063】
これらの酵素は、純化され得(ただし、必ずしも純化しなくてもよい)、所望の官能基を有する酵素あるいは酵素複合体の混合物の形態で存在することができる。酵素は、先行発酵プロセスにおいて酵素を生成した溶解細胞の形態で付加することができる。この場合、リアクタに細胞断片を付加してもよい。
【0064】
いくつかの実施の形態において、無機リン酸塩(Pi)および補酵素(NADPH)が、上記システムにおいて連続的に再循環される。すなわち、これらの物質は、等しい速度で生成および消費される。必要な場合、リン酸化を開始するため、製造方法の初期において少量の無機リン酸塩を付加することができる。また、(副反応または他の理由に起因して)必要な場合、さらなるPiおよび/またはNADPHを上記製造方法内の任意のポイントに付加してもよい。
【0065】
溶液のpHは特別重要であるとはみなされないが、pHは、潜在的に異なる様態で各酵素の活性に影響を与える。また、本発明の経路においてH2を生成する反応は陽子を消費し、これらの陽子の濃度は上記溶液のpHによって制御される点に留意されたい。当該分野の当業者であれば、特定の選択された酵素を与えられれば、日常的実験を容易に行い、H2収率または製造速度について上記システムにとって最適なpHを決定するかあるいは好適なpH値の範囲を決定することができる。換言すれば、本発明の水素の製造方法は、上記反応時において1つ以上のパラメータを調節して、パラメータを維持するかまたはパラメータを最適化する工程を含み得る。いくつかの実施の形態における好適なpH値の例示的範囲はpH=2〜12であり、より好適には4〜9であり、最も好適にはpH6〜8などの中性pHである。
【0066】
温度は、本発明において重要とはみなされない。特に中温酵素が選択された場合は、低温〜中温が適している。水素の製造方法は一般的には、約10℃〜約100℃(好適には約25℃〜約75℃)のうちの1つ以上の温度において簡便に実行することができる。選択された酵素はそれぞれ、活性対温度のそれ自身の官能基を持ち、全体的な最適温度は、選択された特定酵素の関数となる。当該分野の当業者であれば、好熱性酵素または好冷性酵素が選択された場合などには、10℃〜100℃の範囲外の温度を使用可能であることを認識するだろう。いくつかの実施の形態において、外部エネルギーは付加されず、上記温度は、基質濃度、反応の正味熱および上記システム中の熱損失の関数となる。
【0067】
圧力も本発明においては重要ではないが、当業者であれば、反応圧力が種の平衡分布に影響を与え得ることを理解するだろう。数気圧などの高圧力があると、生成ガスの発生がが抑制され易い。逆に、低システム圧力があると、生成物(水素および二酸化炭素)に対して平衡が発生し易い。便宜上、これらの反応は好適には雰囲気圧力において行われる。上記水素の製造方法は、真空下において行うことができる。また、上記水素の製造方法は、生成または消費されるガス以外のガス(例えば、空気、窒素、ヘリウム、アルゴン)の存在下で行うことができる。
【0068】
上記水素の製造方法は、バッチリアクタ、連続的リアクタあるいはこれら2個の何らかの組み合わせにおいて実施可能である。多様な攪拌(混合)手段を用いることができ、あるいは、内部混合無しのプラグフローリアクタも効果的である。当該分野において公知のように、未変換反応物質(多糖類)を上記リアクタ入口に再循環させることができる。
【0069】
式1b[(グルカン)n + aH2O → (グルカン)n-1 + bH2 + cCO2]について、当該分野の当業者であれば、過度の実験無しに上記水素の製造方法の最適化が可能であり、係数aは全体的に約7であり得、係数bは約12であり得、係数cは約6であり得る。いくつかの実施の形態において、いくつかの副反応が実際に発生し、H2の収率が低減する。他の実施の形態において、H2に対する水素−原子選択性は極めて高い(少なくとも約90%)が、多糖は完全には生成物に変換されず、その結果収率が低下する。経済性の理由により、その最高の達成可能収率よりも若干低い収率でプロセスを実施しなければならない場合がある。
【0070】
総括反応速度および酵素の一部あるいは全体の安定性を向上させるために、最適化を行ってもよい。このような最適化の例を挙げると、例えば、代謝工学およびモデル化を介した酵素成分の最適化、組み換え好熱性またはさらには超好熱性酵素による中温酵素の置換、酵素活性および/または選択性を向上させるためのタンパク質工学、酵素および基質の高濃度化、pHおよび温度などのプロセスパラメータの変更、添加剤を通じた酵素安定化、酵素固定化、およびH2を生成するインビボでの酵素システムを創成するための最小微生物の開発がある。このような最適化の実施は酵素分野の当業者の技術の範囲内であり、本発明はこの種の実験を含むことを意図する。統計的実験計画によって、広範囲な応答表面を探求し、H2の収率のモデルおよび対プロセス速度ならびに酵素因子および交互作用効果を確立することができる。
【0071】
上述したように、本発明の一態様は、本発明の方法を行うためのキットである。一般的に、これらのキットは、水素ガスの生成および収集のためのキットである。本発明のキットは、本発明の方法の1つ以上の実施の形態を実行するために必要な成分のうち一部またはすべてを含む。よって、本発明のキットは、(a)いくらかのホスホリラーゼ活性を有する1つ以上の酵素と、(b)いくらかのホスホグルコムターゼ活性を有する1つ以上の酵素と、(c)いくらかのヒドロゲナーゼ活性を有する1つ以上の酵素と、(d)多糖、水、および要素(a)、(b)および(c)からの酵素を組み合わせるためのコンテナと、(e)上記コンテナを約10〜100℃の範囲で加熱する手段と、(f)上記コンテナから発生した水素ガスのうち一部を収集または使用する手段のうち1つ以上を含み得る。本発明のキットは、上述したような酵素組成も含んでよい。
【0072】
酵素、試薬および添加剤(所望の場合)および他の成分を上記キット内の1つ以上の適切なコンテナ中に供給することができる。上記キットは、本発明の方法を1回あるいは複数回行うのに十分な成分を含み得る。キットは、任意の適切な材料(例えば、プラスチック、ガラスおよび金属)から製造可能である。
【0073】
本発明の水素の製造方法によって生成された水素は、完全にあるいは部分的に他の物質(例えば、二酸化炭素)から分離することができ、あるいはその他の物質と共に用いてもよい。H2から少なくとも一部のCO2を分離することが所望される場合、多様な分離技術が公知である。1つのこのような技術において、分子ふるいによる分離が用いられる。H2からのCO2の分離を例えば低温蒸留を用いて行ってもよい。
【0074】
H2/CO2混合物の直接的利用の一例として、当該分野において公知のように、クロストリジウムアセチクムを用いたH2およびCO2からのアセテート製造がある。多様な濃度のH2/CO2混合物を生化学的にあるいは化学的に変換する他の手段も公知である。
【実施例】
【0075】
ここで、以下の非限定的例を参照して、本発明をさらに特徴付け、説明する。この例は、ひとえに本発明の例示のためのものであり、いかなる態様においても本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。要約すれば、以下の段落において、本発明の一実施形態を実証する例示的酵素の選択および実験手順について説明する。
【0076】
(実施例1)
−デンプンおよび水からのH2およびCO2の酵素による製造−
本発明の方法、システムおよび組成物の実際的性質を例示するために、本発明による水素の製造方法において、デンプンを水素および二酸化炭素に変換した。氷で冷却されたモイスチャトラップを備えた連続フローシステムにおいて実験を実施した。別の方法の記載が無い限り、全ての化学物質および酵素をシグマアルドリッチ株式会社(Sigma-Aldrich Co.)(米国)から購入した。全ての酵素および触媒作用反応を表1に羅列する。カスタムリアクタの可動範囲は2 mLであった。上記システムを流量50 mL/分のヘリウムで連続的にパージした。ジャケット付反応槽の温度をポリサイエンス(Polyscience)(ナイルズ(Niles),イリノイ州)循環水槽で30℃に維持した。
【表1】

【0077】
図2は、本発明の水素電池システムを示す図である。この水素電池システムは、改変型ハーシュガルバニ電池を備えたフィガロ(Figaro)TGS 822およびO2に基づいたセンサでH2をモニタリングするように、構成されている。CO2アナライザ(図示せず)を反応セルと電解セルとの間に取り付けた。ガス流中の酸素ならびに水素および二酸化炭素をモニタリングした。ブリッジ増幅器を介してケースレー(Keithley)モデル2000マルチメータ(ケースレーインスツルメンツ(Keithley Instruments), クリーブランド, オハイオ州)に接続されたフィガロ(Figaro)TGS 822酸化錫センサによって水素の放出を測定した。ケースレー(Keithley)自動レンジ調節ピコアンメータに接続された電解質として24%のKOHを用いた改変型ハーシュガルバニ電池により、酸素濃度をモニタリングした。ケースレー(Keithley)2000マルチメータに接続されたLI-COR CO2アナライザモデルLI-6252により、二酸化炭素の産出を測定した。IEEE 488汎用インターフェースボードを通じて、上記マルチメータおよびピコアンメータをコンピュータに接続した。インライン電解セルに接続されたケースレー(Keithley)220プログラマブル電流源により、電気化学的同等性のファラデーの法則による水素および酸素の較正のための電気分解を実施した。735 ppmの二酸化炭素および1000 ppmのヘリウム中の酸素(エアリキードアメリカ株式会社(Air Liquide America Corp.), ヒューストン, テキサス州)からなる分析されたガス混合物により、二酸化炭素についての較正を行った。
【0078】
アシスト(ASYST) 4.0ソフトウェア(アシストテクノロジーズ社(ASYST Technologies, Inc.), ロチェスター, ニューヨーク州)により、データ収集および分析を行った。水素(YH2)および二酸化炭素(YCO2)の統合モル/モル収率を以下の式(1)および(2)に示すように計算した。
【数1】

【数2】

【0079】
ここで、rH2およびrCO2は、1時間あたり反応体積1リットルあたりのH2またはCO21モルにおける容量製造速度であり、ΔGEは、グルコース等量(mM)の正味消費である。
【0080】
残留G-6-Pは、シグマ(Sigma)グルコースHKキットを用いて測定することができる。これらの混合物を35℃で5分間保温し、340 nmにおける吸光度変化を判定した。希釈H2SO4の付加および121℃で1時間の加水分解を行うことにより、残留デンプン、G-1-PおよびG-6-Pをグルコースに加水分解した。中和グルコース溶液をグルコースHKキットによって測定した。
【0081】
上記溶液は、1単位の各ペントースリン酸塩サイクル酵素、およそ70単位の偏性嫌気性超好熱古細菌ヒドロゲナーゼ、10単位のα-グルカンホスホリラーゼ、10単位のホスホグルコムターゼ、4 mMリン酸塩、0.5 mMのチアミンピロホスファターゼ、2 mMのNADP+、10 mMのMgCl2、および0.5 mMのMnCl2を2.0 mLの0.1 M HEPES緩衝液(pH 7.5)中に含んでいた。上記実験は約30℃において行った。
【0082】
図3は、2 mMのデンプンからの容量水素製造速度(mmolH2/L/hr)を示す。水素およびCO2の統合収率(mol/mol)は、それぞれ5.19 H2/グルカン単位および5.37 CO2/グルカン単位であった。デンプンからの水素およびCO2の収率は、およそ43%および86%の理論収率であった。この水素収率の低減は、不完全な変換および恐らくはNADPHなどの代謝生成物の蓄積に主に起因すると考えられる。
【0083】
本出願中、例示的実施の形態およびその多様な改変について述べてきたが、当該分野における当業者であれば、本出願はこれらの実施の形態そのものおよび上記した改変に限定される必要はなく、添付の特許請求の範囲中に規定されているような本発明の範囲および意図から逸脱すること無く多様な変更およびさらなる改変が実施可能であることは十分に理解されるだろう。本出願中の記載の特徴および有利点の全てを提供するわけではない実施の形態などの他の実施の形態は、当該分野における当業者にとって明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0084】
水素は、多数の利用可能な用途を有する。分子状水素はアンモニア製造に用いられる。石油精製においては、典型的な精油所においてH2が使用される。化学合成産業において、炭素二重結合から炭素単一結合への変換が所望される場合または炭素三重結合から単一結合あるいは二重結合への変換が所望される場合がある。食品産業において植物性油の水素化を行う場合、および電子回路製造において用いられる。水素はまた、メタノール、肥料、ガラス、精製金属、ビタミン、化粧品、石鹸、潤滑剤および洗浄剤の作製のために今日広範に用いられている。さらに、純水素は従来の燃焼機関および燃料電池の双方において優れた燃料であり、酸素によって酸化した場合に水蒸気のみを生成する。液体水素は宇宙船などにおいて燃料としても使用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのグルカン単位をリブロース-5-リン酸塩に変換することによって、多糖のグルカン単位の数を減少させる工程と、
前記グルカン単位をリブロース-5-リン酸塩ヘと変換することによって水素を生成する工程と
を含み、インビトロ、無細胞で、前記多糖から前記水素を製造することを特徴とする水素の製造方法。
【請求項2】
前記グルカン単位をグルコース-1-リン酸塩へと酵素的に変換する工程と、
前記グルコース-1-リン酸塩をグルコース-6-リン酸塩へと酵素的に変換する工程と、
前記グルコース-6-リン酸塩を6-ホスホグルコン酸へと酵素的に変換する工程と、
前記6-ホスホグルコン酸をリブロース-5-リン酸塩へと酵素的に変換する工程と
を包含し少なくとも1つのグルカン単位をリブロース-5-リン酸塩へと変換することを特徴とする請求項1に記載の水素の製造方法。
【請求項3】
前記水素の生成が、グルコース-6-リン酸塩のリブロース-5-リン酸塩への変換と酵素的に結びついていることを特徴とする請求項2に記載の水素の製造方法。
【請求項4】
前記リブロース-5-リン酸塩を、1つ以上の反応生成物へと酵素的に変換する工程を更に含むことを特徴とする請求項2に記載の水素の製造方法。
【請求項5】
前記水素を、ヒドロゲナーゼによって生成することを特徴とする請求項1に記載の水素の製造方法。
【請求項6】
すべての工程を1つの反応槽中で行うことを特徴とする請求項1に記載の水素の製造方法。
【請求項7】
前記多糖は、デンプンを含むことを特徴とする請求項1に記載の水素の製造方法。
【請求項8】
前記多糖は、セルロースを含むことを特徴とする請求項1に記載の水素の製造方法。
【請求項9】
前記多糖は、ヘミセルロースを含むことを特徴とする請求項1に記載の水素の製造方法。
【請求項10】
前記多糖は、デンプンでもセルロースでもないことを特徴とする請求項1に記載の水素の製造方法。
【請求項11】
前記水素の製造方法によって生成される二酸化炭素から、前記水素を少なくとも部分的に分離する工程を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の水素の製造方法。
【請求項12】
前記水素を、少なくとも部分的に燃料電池内に供給する工程を更に含むことを特徴とする請求項11に記載の水素の製造方法。
【請求項13】
前記水素から発電する工程を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の水素の製造方法。
【請求項14】
前記水素の収率は、当初の前記多糖に含まれる無水グルコース単位1モルあたり少なくとも水素10モルであることを特徴とする請求項1に記載の水素の製造方法。
【請求項15】
前記水素の製造の最大速度は、少なくとも0.4 mmol/L/hrであることを特徴とする請求項1に記載の水素の製造方法。
【請求項16】
(a)多糖および水を包含する混合物を供給する工程と、
(b)ホスホリラーゼ活性を有する1つ以上の酵素を供給する工程と、
(c)グルコース-1-リン酸塩および鎖長が低減された多糖を生成するために、前記多糖の少なくとも一部をリン酸化する工程と、
(d)ホスホグルコムターゼ活性を有する1つ以上の酵素を供給する工程と、
(e)工程(c)において生成する前記グルコース-1-リン酸塩の少なくとも一部を、グルコース-6-リン酸塩に異性化する工程と、
(f)ペントースリン酸塩経路の工程を触媒するために効果的な複数の酵素を供給する工程と、
(g)任意のヒドロゲナーゼ活性を有する1つ以上の酵素を供給する工程と、
(h)工程(e)において生成するグルコース-6-リン酸塩の少なくとも一部から水素を形成する工程と
を含むことを特徴とする請求項1に記載の水素の製造方法。
【請求項17】
(a)多糖と、
(b)水と、
(c)前記多糖のグルコース-6-リン酸塩への変換を触媒することが可能な1つあるいは複数の酵素と、
(d)NADPHおよび陽子から水素への変換を触媒することが可能な1つあるいは複数の酵素と、
(e)ペントースリン酸塩経路の工程を触媒することが可能な複数の酵素と
を備えることを特徴とするインビトロで多糖から水素を生成するために効果的な組成物。
【請求項18】
(a)ホスホリラーゼ活性を有する1つ以上の酵素と、
(b)ホスホグルコムターゼ活性を有する1つ以上の酵素と、
(c)ヒドロゲナーゼ活性を有する1つ以上の酵素と、
(d)多糖、水、および要素(a)、(b)および(c)からの前記酵素を組み合わせるためのコンテナと、
(e)10℃から100℃の範囲で前記コンテナを加熱するための手段と、
(f)前記コンテナから発生する水素ガスの一部あるいはすべてを収集または使用するための手段と
を備えることを特徴とする多糖から水素を生成するためのキット。
【請求項19】
前記水素の収率は、当初の前記多糖に含まれる無水グルコース単位1モルあたり少なくとも水素10モルであることを特徴とする請求項18に記載のキット。
【請求項20】
水素ガスから発電するための手段を更に備えることを特徴とする請求項18に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−536829(P2009−536829A)
【公表日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−510192(P2009−510192)
【出願日】平成19年5月12日(2007.5.12)
【国際出願番号】PCT/US2007/068829
【国際公開番号】WO2007/134268
【国際公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(501251448)バージニア テック インテレクチュアル プロパティーズ インク (2)
【氏名又は名称原語表記】Virginia Tech Intellectual Properties Inc.
【出願人】(301027074)ユーティ―バテル エルエルシー (19)
【Fターム(参考)】