説明

人間の視力のトレーニング装置

【課題】人の視覚系のゾーンのうち、残留視覚機能が維持されているところ等のトレーニングを容易に可能とする視力のトレーニング装置を提供する。
【解決手段】装置の他の手段からのデータを記録、記憶、処理、発信するための中央データ処理手段と、少なくとも一つの視覚刺激表示手段と、人の視線を固定させる視線固定点手段と、知覚された視覚刺激に対する人の反応を入力する手段と、知覚された視覚刺激に対する人の反応の状態に合わせて、前記少なくとも一つの視覚刺激表示手段を制御する手段と、無傷視野の外のゾーンを特定する手段とを備え、前記無傷視野の外のゾーンは訓練されるべきゾーンを含み、人に対して、前記無傷視野の内部のゾーンおよび前記無傷視野の外のゾーンに向けて視覚刺激を与えるように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人間の視力のトレーニング装置に関する。特に、本発明は、光学刺激によって視覚系を刺激することにより、視力の改善または回復のトレーニングを必要とする人々の視覚能力の変化をもたらすことができる機器に関する。
【背景技術】
【0002】
人間に視覚系障害が起こる原因としては、幼年期における視覚系の不完全または障害のある発達、老化による継続的かつ自然な劣化、視覚系に重大な影響を与える病気、あるいは事故による突然の劣化があるだろう。たとえば、子供の視力は、斜視の場合などでは、視覚系の規則的な訓練の実践により実質的に回復できることが発見された。他方で、いかなる理由であれ視力の劣化した人々は、彼らの視覚系劣化の原因に合わせた特定のトレーニングにより、劣化の進行を止めたり、視力を改善することさえある。本発明は、光学刺激を、視力改善を必要とする人の視覚系に与えることで、障害の原因を除去および/またはその人の能力を向上させる見込みがありそうに考えられるすべての障害の場合において、人間の視力を訓練して改善させる方法と装置を提供することを目的とする。
【0003】
近年、人間の頭脳の精神的機能を訓練するために、コンピューター技術が活用されている。たとえば、従来技術では、コンピュータートレーニングをパラダイムとして用いる、言語習得に障害のある子供の一時的な処理能力欠損を治療する方法が報告されている(M. M. Merzenich等、Temporal processingdeficits of language-learning impaired children ameliorated by training; Science 271, 77-81 (1996))。しかし、コンピューターに基づくトレーニングが、脳損傷後の視覚機能等その他の知覚療法に役立つか否かは、明らかではない。
【0004】
発作や外傷に起因するような脳損傷は、しばしば視覚機能を損なう。一般に、患者は視野の半分で視力を失っても、もう半分が損なわれていないことが多い。この部分失明は、治療不可能であると一般に考えられている。なぜなら、適正な視力には、高度に特殊なニューロン組織が必要であると長い間信じられていたからである(D. H. Hubel, T. N. Wiesel, Receptive fields, binocular interaction andfunctional architecture in the cat's visual cortex, J. Physiol.106-154 (1962))。しかし、ニューロン組織のこの特異性にもかかわらず、損傷した視覚系には、かなりの程度の適応性がある(U. Eysel, O. J. Gruesser, Increased transneuronal excitation of the lateral geniculate nucleus after acute deafferentation, Brain Res. 158, 107-128 (1978); J. H. Kaas等、Reorganization of retinotopic cortical maps in adult mammals after lesions of the retina, Science 248, 229-231 (1990); C. D. Gilbert, T. N. Wiesel, Receptive field dynamics changes in adult cerebral cortex, Nature 356, 150-152 (1992))。失われた視覚機能がある程度まで自然に回復できるのは、動物の場合も(J. Sautter, B. A. Sabel, Recovery of vision despite progressive loss of retrogradely labelled retinal ganglion cells after optic
nerve crush, Europ. J. Neurosci. 5, 680-690 (1993); B. A. Sabel, E. Kasten, M. R. Kreutz, Recovery of vision after partial visual system injury as a model of post-lesion neuroplasticity, Adv. Neurol. 73, 251-276 (1997); T. N. Wiesel, D.H. Hubel, Extent of recovery from the effects of visual deprivation in kittens, J. Neurophysiol. 28, 1060-1072 (1965); K. L. Chow, D. L. Steward, Reversal of structural and functional effects of long-term visual deprivation in cats, Exp. Neurol. 34, 409-433 (1972))、人間の場合も然りである(H. -L. L. Teuber, W. S. Battersby, M. B. Bender, Visual field defects after penetrating missile wounds of the brain, Cambridge, Mass., Harvard University Press (1960))。この成人の視覚系の病変後の自然な神経の適応の少なくとも一部は、病変後網膜または皮質で起こる広範囲な受容野の再編成による。(U. Eysel, O. Gruesser, 部分引用.; J. H. Kaas等、部分引用)。
【0005】
従来技術では、脳に損傷のあるサルの視覚機能の改善に利用できるトレーニング方法が開示されており(A. Cowey, Perimetric study of field defects in monkeys after cortical and retinal ablations, Quart. J. Exp. Psychol. 19, 232-245 (1967))、人間を対象としたものもある(J. Zihl, Zur Behandlung von Patienten mit homonymen Gesichtsfeldstorungen, Z. Neuropsychol. 2, 95-101 (1990); E. Kasten, B.A. Sabel, Visual field enlargement after computer traning in brain damaged patients with homonymous deficits; an open pilot trial, Restor. Neurol. Neurosci. 8, 113-127 (1995))。しかし、人間の場合、トレーニングが視力を改善できるとは一般に認められていない。それにもかかわらず、視覚系損傷のある人間が視覚トレーニングから得るところがあるかもしれないことを示唆するいくつかの観察報告がなされている。
【0006】
視覚トレーニングが人間に有効かもしれないという最初の観察報告は、ズィール(Zihl)等(部分引用)による研究であり、彼は視覚刺激を繰り返し与えて、同じ網膜位置での増分閾値を測定した結果、視野欠損のある人々の視野の境界が少し拡大することを発見した。しかし、この状況で試験を繰り返すのは、実験者が訓練を受ける人と共にトレーニングを実施する必要があり、つまり、その人が一人でこの方法を利用することができない。したがって、その人にとっても、また実験者にとっても、大変多くの時間を要する。
【0007】
視覚刺激を手動でみせるこのアプローチを克服するために、従来技術では、自動的な試験が可能な装置がいくつか開示されている。これらの効き目は、数人の個人にしか見られなかったし、しかも厳密に計画された臨床試験は一度も実施されなかったにもかかわらず、これらの方法が視覚機能を改善させるだろうという主張がある。しかし、これら従来技術の装置の使用方法は複雑すぎて、しかもその用途は非能率的すぎるため、臨床の実践では広く認められてはいない。
【0008】
シュミーラウ(Schmielau)が発表した文献番号DE-U9305147では、たとえば、大きな半球の半ボウルからなる人間の視覚系訓練装置が記載されている。ここでは、小さな電球の列が直径の大きい半円形の中に配置されている。光刺激は、互いに近接して配置された前記電球の配列を点灯することで、視覚上固定されるべき中心から様々な偏心位置の視野を刺激するように与えられる。確かにこの装置により、視野全体の最大限の評価とトレーニングが可能ではあるが、いくつかの欠点がその普及を阻んでいる。その欠点とは、(1)その大きさ、(2)視覚刺激を与える位置に柔軟性がないこと、および(3)残留視覚機能に応じたトレーニングの方向づけを行う指導がないことである。刺激付与方法の工夫不足により、従来技術のシュミーラウ装置の使用は長期間を要する。さらに、トレーニング用の半ボウルは、家庭での使用に実用的ではない。
【0009】
シュミーラウの発明の限界は、前記文献の図4から明らかである。図中で、古典教本にも記載されているように、人間の視覚系は、無傷または欠損の領域で表わされている。視野トレーニングを実施する場合の基礎になる障害、残留視覚機能領域には全く触れられていない。
【0010】
このように大きくて非実用的な装置の代替として、コンピューターが有用ではないかと考えられるが、シュミーラウ(部分引用)は不可能であると述べている。
【0011】
したがって、コンピューター制御によるトレーニングが視野トレーニングの目的に有益でなはいと明確に述べられているため、従来技術では、熟練者はコンピューターの使用を常に拒否してきた。
【0012】
我々は、当該技術での一般の予想に反し、人間の視覚機能のためのコンピューター制御によるトレーニング手順が、トレーニング効果の改善にかなり貢献できることを発見した。したがって、別のところでも記載されているコンピュータープログラムが開発された(非特許文献1)。コンピューター制御による装置を用いる主な利点は、装置がずっと小さいこと、およびその人の能力を継続的に記録できることである。しかし、カステン等(部分引用)の記載によるプログラムは、刺激を無作意な順序でコンピュータースクリーン上に表示するもので、視覚的な機能に関するその人の実際の能力を考慮に入れていない。したがって、この方法は初期のパイロットスタディで有効性が証明されたにもかかわらず、トレーニングには時間がかかり、非効率的であった。
【非特許文献1】E. Kasten, B. A. Sabel, Visual field enlargement after computer training in brain damaged patients with homonymous deficits; an open pilot trial. Restor. Neurol. Neurosci. 1995年8月1日、第8巻、第3号、p.113-127
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
カステン等が発表した研究論文(1997; 部分引用)に、このプログラムが記載されている。たとえば、「ゼートラ(Sehtra)」は、視野のあらゆる部分に輝度可変の小光刺激を与えるが、異なる視野セクターにおけるその人の実際の能力には適応しない。刺激は、モニターのあらかじめ決められたセクターから、その人の視野に対して無作為に与えられ、欠損の実際の性質および部分視覚系損傷のゾーンもしくは残留視覚機能(いわゆる「遷移ゾーン」)を考慮に入れていない。
【0014】
このため、訓練を受ける人々は、自分たちの視野の実際には無傷な刺激指定領域に対して反応しなければならない。その結果、治療上有用ではない目的のために、その人は多くの時間を費やすことになる。この状況は、その人の時間と忍耐を不必要に強要することになるため、退屈および動機の喪失がしばしば見られた。
【0015】
この限界を克服するために、本発明の目的は、従来技術で知られている欠点を回避する人間の視力のトレーニング方法および装置を提供することであった。さらに、本発明の目的は、その人の視覚系のゾーンのうち、残留視覚機能が維持されているところ、または自然な視力が部分的に劣化しているだけのところ、または自然な視力が高品質なレベルで維持されるべきところ(いわゆる、「遷移ゾーン」)のトレーニングを考慮にいれた人間の視力のトレーニング方法および装置を提供することであった。本発明のさらなる目的は、その人の視野を前記遷移ゾーン内に広げ、人の視覚が重度損傷である場合、さらに前記遷移ゾーンを実質的な完全視覚系損傷ゾーン内に広げる人間の視力のトレーニング方法および装置を提供することであった。さらに、本発明の目的は、通常のトレーニングセンターで熟練した実験者の監督下においてのみならず、その人の個人環境においても一人で実施できる人間の視力のトレーニング方法および装置を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0016】
驚くことに、上記目的は本発明により達成された。発明者は、人間の視覚系に光学刺激を発する簡単な装置上に、視覚刺激を与える新しい方法を考えた。
【0017】
非常に一般的な意味において、本発明は、人間に光刺激を与えることによって前記人間の視覚系を訓練する方法に関し、前記刺激は前記人間の無傷視野内のゾーンおよび前記人間の無傷視野外のゾーンに対して与えられ、後者のゾーンが訓練されるべきゾーンを含むことにより後者のゾーンにおける視力を改善させることができる。前記方法は、
‐ 人間の視覚系内の視力劣化または残留視覚機能または部分視覚系損傷のゾーン(「遷移ゾーン」)の位置を見つけて特定する工程、
‐ 前記遷移ゾーン内にあるトレーニング領域を特定する工程、
‐ 人間の視覚系に対して視覚刺激を与えることで人間の視覚系を訓練する工程、ただし、前記視覚刺激の大部分は、前記遷移ゾーンの中かその近くに与えられること、
‐ 人間の視覚系の特性変化を記録する工程、
‐ 前記変化に応じて、刺激表示の位置と特定とを前記遷移ゾーンに適応させる工程、および
‐ 以上の工程を継続的に繰り返すことにより、その人間の無傷視野を前記遷移ゾーン内に広げ、さらに前記遷移ゾーンをより視力劣化したゾーン内または残留視覚機能の少ないゾーンまたは実質的な完全視覚系損傷のゾーン内に広げる工程、を含んでいる。
【0018】
さらなる実施例において、本発明は、上記トレーニング方法の実施を可能にする人間の視覚系または視力のトレーニング装置に関する。この装置は、
‐ 装置の他の手段からデータを記録、記憶、処理、発信するための中央データ処理手段、
‐ 少なくとも一つの視覚刺激発信手段、
‐ その人の視線を固定させる視線固定点手段、
‐ 知覚された視覚刺激に対するその人の反応を入力する手段、
‐ 知覚された光刺激に対する人のその人の反応の能力に合わせて、前記少なくとも一つの光学刺激表示手段を制御する手段、を必要不可欠に含んでいる。
【0019】
本発明の一つの好ましい実施例において、前記装置は、
‐ 人間の視覚系内の視力劣化または残留視覚機能または部分視覚系損傷のゾーン(「遷移ゾーン」)の位置を見つけて特定する工程、
‐ 前記遷移ゾーン内にあるトレーニング領域を特定する工程、
‐ 人間の視覚系に対して視覚刺激を与えることで人間の視覚系を訓練する工程、ただし、前記視覚刺激の大部分は、前記遷移ゾーンの中かその近くに与えられること、
‐ 人間の視覚系の特性変化を記録する工程、
‐ 前記変化に応じて、刺激表示の位置と特定とを前記遷移ゾーンに適応させる工程、および
‐ 以上の工程を継続的に繰り返すことにより、その人間の無傷視野を前記遷移ゾーン内に広げ、さらに前記遷移ゾーンをより視力劣化したゾーン内または残留視覚機能の少ないゾーンまたは実質的な完全視覚系損傷のゾーン内に広げる工程の実施を可能にする。
【0020】
したがって、本発明に個有な特徴は、刺激付与によるトレーニングが、訓練の対象となっている視力劣化ゾーンまたは残留視覚機能ゾーンまたは部分視覚系損傷ゾーン、すなわち遷移ゾーンの中または近くで主として行われ、無傷視野での刺激の表示がかなりの程度減らされ、またはなくなっていることさえあることである。
【0021】
これらの特徴において、本発明は、訓練を受ける人の視覚系の残留能力を継続的に監視することを開示していないカステン等(1997、部分引用)の記載による従来技術の方法および装置とは異なっている。むしろ、カステンの装置は、視野のトレーニング領域を一定に保ち、すでに視力が回復した領域または視力障害が全くない領域を繰り返し刺激する。したがって、従来技術の装置は、その人の実際の能力とは無関係に刺激を与えている。前記装置では、トレーニング効果をある程度経験した後も、既にその必要がないにも関わらず、回復された領域をまだ引き続き訓練する。よって、従来技術で開示された視覚表示パラダイムは手間がかかる上に多くの時間を要し、大部分は不必要である。実際に、訓練された人々は、従来技術のトレーニングに対して、時間がかかりすぎ、しかも退屈であると報告している。
【0022】
さらに、従来技術の方法では、視力劣化「のみ」または残留視覚機能または部分視覚系損傷の領域の位置を見つけて、その領域を限定して治療するのは不可能である。従来技術の方法は、視覚能力の最適結果を示す領域またはゾーンのトレーニングを含む時間のかかるトレーニングであるため、所要時間が短く、使用効率の高い光学刺激表示パラダイムの着想が長い間待ち望まれていた。したがって、本発明において、我々は視野のトレーニングを必要とする人の能力を継続的に監視するという革新的な工程を導入して、視覚系のうち視力劣化または部分損傷「のみ」の領域だけを刺激するという視覚系トレーニング方法および装置を着想したのである。
【0023】
したがって、本発明により、我々は視野の中でより効率的なリハビリの進展が期待できる領域に視覚刺激を集中させることで、より効率的なアプローチを開発した。
【0024】
従来技術における装置の限界を克服するため、我々は今、本発明により、まず始めに障害のあるゾーン、つまり視力劣化または残留視覚機能または部分視覚系損傷のゾーンの位置を見つけ、特定し、特性を明らかにすることを提案する。視力劣化または視力障害または部分視覚系損傷のゾーンは、以下では手短に遷移ゾーンと呼ぶ(図1参照)。このような遷移ゾーンは、たとえば、側視覚のように、視力がどんどん制限されていく老齢者たちの間で見られるだろう。遷移ゾーンは、脳損傷、発作または似たような出来事の結果として、視覚系が影響を受けた人々の間でも見られるだろう。別の例としては、色彩、形状または動作を視覚的に識別する能力を完全に維持しているゾーンと全く消失したゾーンとの間の遷移ゾーンである。前記遷移ゾーン内で、本手順の次の工程で定義されるトレーニング領域またはゾーンの位置を見つける。
【0025】
本発明の一つの好ましい実施例において、前記遷移ゾーン内の前記トレーニング領域の大きさおよび位置は、前記人間の部分視覚系劣化、残留視覚機能または視力欠損のゾーンの大きさ、位置および種類に応じて選択される。すなわち、前記人間の視覚系のどの部分が、光刺激を与えることによる次のトレーニングを最も必要としているかを、注意深く確認することが必要である。
【0026】
次に、我々は、前記トレーニング中に継続的または断続的に確認されるその個人の能力に基づき、それらの遷移ゾーンにトレーニングの刺激を与えるよう提案する。本発明の好ましい実施例において、光学および好ましくは光刺激をその人の視覚系に与える。さらに好ましくは、訓練を受ける人の視覚系に対して様々な色、明るさ、強さおよび/または形状の光刺激を与えることである。このような光刺激は、静止型光刺激として、または移動物体の印象を与える一連の光刺激として連続して与えることができる。
【0027】
この「遷移ゾーンに基づく刺激付与」は、人の視力が劣化しているのみの領域、または視覚が無傷でも完全に損傷した訳でもなく、ニューロン構造のいくらかが損傷を免れた部分視界機能の領域が存在するという考察に基づいている。この生き残っているニューロンが、ある最小限の数を上回っている限り(「最小残留構造の仮説」)、トレーニングにより視力の回復を仲介すると推論されており、したがってトレーニングによるこれらの刺激は、採られるべき重要な手段であろう。その結果、すでに認識済の不十分な視野刺激の問題を克服するために、我々はコンピューター制御による刺激装置を用いて、これらの区域(「遷移ゾーン」)を選択的に刺激することにより、新しい付与方法を工夫した。
【0028】
上記付与方法の工夫に続き、特定のアルゴリズムが開発され、このアルゴリズムは、視覚系機能障害または機能不全の領域を非常に効率的に訓練できる。以下に、光刺激により人間の視覚系の特定領域またはゾーンを刺激することに関するトレーニング手順の具体的な工程を示す。
【0029】
トレーニング工程中、訓練を受ける人間の視覚系の特性変化が記録される。すなわち、表示される光学刺激を視覚的に認識すること、および前記視覚認識工程において、その人が望ましい反応を示すことの観点から、訓練を受ける人の能力が、本発明のシステム/装置により記録される。ほんの一例を挙げると、その人の視覚系の遷移ゾーンに対して示された光学刺激に対する訓練者の反応時間が測定され、光学刺激の付与と反応作用(たとえば、装置のボタンを押すこと)との間に経過した時間が、以前に訓練者のベースライン値として測定された平均時間価値に応じて、遷移ゾーンの訓練領域におけるその人の能力と理解される。しかし、この例は、本発明を制限するものと考えられてはならない。人間の視覚系の特性変化を継続的または断続的に記録するために、その他の適切な方策をどのように講じてもよい。
【0030】
上記のような特性変化の継続的な記録に基づき、遷移ゾーンの位置と特定を前記変化に適応させる。これは継続的または断続的でもよい。すなわち、訓練者が視覚系によって表示光学刺激を処理する能力にしたがって、遷移ゾーンは新たに特定される。この説明に拘束されることは望まないが、特定の遷移ゾーンの効果的なトレーニングにより、たとえば視覚系の劣化した機能のいずれかを改善すること(例:周辺視、視力、異なる色彩、形状、動作の識別能力、斜視の減少、視角の増加)、または残留視覚機能を改善すること、あるいは部分視覚系損傷を取り除くことで、訓練者の視力は、前記ゾーン内で改善される。その結果として、遷移ゾーンはその人の視覚系の無傷な領域となり、別の欠損領域が遷移ゾーンとなる(かつ特定される)だろうし、その人の視覚系の前記新規遷移ゾーンに対して光学刺激を表示する別のトレーニング工程または一連の工程に利用される(図1も参照)。
【0031】
上記工程を繰り返すことで、その人の無傷視野は、以前には遷移ゾーンに位置し、特定されていたゾーン内に継続的に広げられ、かつ前記遷移ゾーンは、以前には視力劣化ゾーンまたは残留視覚機能減少ゾーンまたは実質的な完全視覚系損傷ゾーン、すなわち不良ゾーンであったゾーン内に継続的に広げられる(図1参照)。
【0032】
このコンピュータープログラムに基づくトレーニングを用いて、我々は、中枢神経系損傷を患っている人間を対象にした二つの独立したプラセボ制御による臨床試験を行った。本研究はこのような重度の疾患に限定されると考えられるのではなく、我々の方法と装置は視覚系のいかなる疾患にも利用できるが、本研究の訓練および評価の対象となった人々は、視覚皮質または視神経損傷のある人々であった。我々は、厳しく規制された臨床試験において、視野の反復刺激を通してその人の視覚系を訓練することで、残留機能または「遷移ゾーン」の領域を刺激するとき、部分失明を大幅に減少できることを初めて示すことができた。
【0033】
トレーニング用ソフトウエアおよびトレーニングの手順
トレーニングは、家庭用パソコンを用いて、訓練を受ける人々の自宅で規則的に実施された。本発明の好ましい実施例では、暗い部屋内で毎日1時間のトレーニングを長期間、たとえば今回の試験でもそうだったように6ヶ月間行う。ただし、その他のどのようなトレーニング期間であっても有効性は証明された。
【0034】
従来技術の装置が非効率的であったため、訓練を受ける人間の無傷および損傷視野セクターの間に位置する遷移ゾーンに反復視覚刺激を与えるような、モニター上に光刺激の付与を行う特別なアルゴリズムが開発された。第一工程では、「遷移ゾーン」の位置を見つけ、特定し、特性を明らかにした。すなわち、このときに、位置、大きさおよび種類に関して、前記遷移ゾーン内の正確な残留視覚機能が確認された。
【0035】
前記第一工程の後、前記遷移ゾーン内に位置しているトレーニング領域が特定される。前記トレーニング領域は遷移ゾーン内にある区域で、第一工程における遷移ゾーンの特定と特性把握の結果により、たとえば最小限の残留ニューロン構造の存在によりその人の視覚系のニューロン構造の再生が期待できるところである。
【0036】
その次の工程で、第一および第二工程で確認された能力に基づき、機能障害領域が刺激される。このアプローチはより効率的である。なぜなら、視野の無傷領域を刺激せず、機能障害と明らかにされた領域だけを刺激するからである。
【0037】
また、従来技術の装置では、プログラムは後の分析のためにデータをただ記憶するが、それとは異なり、本発明はトレーニングのアルゴリズムを、継続的または断続的に、機能障害領域の中または近くの視覚系能力に適応させる。
【0038】
さらに、毎日の治療結果は、テープまたはディスクのような適切な記憶メディアに保存することができるため、適応性を監視し、かつその人の進度に合わせた治療方針を立てることができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明の構成によれば、人の視覚系のゾーンのうち、残留視覚機能が維持されているところ、または自然な視力が部分的に劣化しているだけのところ、または自然な視力が高品質なレベルで維持されるべきところ(いわゆる、「遷移ゾーン」)のトレーニングを、人間の脳機能を向上させる効果に基づき、効果的に行うことが可能なトレーニング装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
本発明について、以下、図面を参照しながら詳細に説明する。本発明の明細書では、視覚系が重度の損傷を受けた人々のトレーニングを主に扱っているが、本発明の全詳細つまり方法および装置は、老化のために徐々に視覚系が劣化する人々および視力の質を高レベルに維持するために通常の視力を訓練する必要のある人々にも、熟練者により必要に応じて変化を与えながら適用されうる。その限りにおいて、重度の視覚系障害のある人々を対象とするトレーニング手順の記載が、本発明の限定として解釈されるものではない。
【0041】
図面中で、
‐ 図1は、部分失明を患っている人の想定視野を示している。視野は、その人の視覚機能障害がないセクターまたはゾーン(「無傷領域」)、部分視覚系損傷のセクターまたはゾーン(「遷移ゾーン」)、および実質的に完全視覚系損傷のセクターまたはゾーン(「不良領域」)とに分かれる。
【0042】
‐ 図2は、コンピューターに基づく高分解能周辺視野測定法(「HRP」)を示している。図2Aでは人の想定視野が円形で表わされており、不良領域は左側に見られ(円の陰をつけた半分)、中央の正方形はコンピューターに基づくHRPにより査定された領域を表わしている。図2Bは、図2Aの中央の正方形の拡大図であり、右側の白い領域は無傷視覚機能ゾーン、グレーの領域は光刺激に対して一貫性のない反応をする領域(薄いグレーは「当たり」の数が大きいことを示す)、および黒の領域は不良視覚機能のゾーンを表わしている。図2Cは、図2Bの左部分の拡大図であり、残留視覚機能の島を示している。図2Dは、図2Cと同じ領域であるが、回復トレーニング後の状態を示している。さらに、図2Eは、視覚能力の増減を示すために、図2Dと図2Cとの差異を示している。視覚刺激が、「グレー」のゾーン、つまり視覚能力が認められる遷移ゾーンの形状と位置に基づいて与えられることに注意する。視覚刺激の大部分は遷移ゾーンにおいて与えられるのであって、無傷視野セクターにおいてではない。視野全体に無作為に刺激を与えたり、または線から線へと刺激を移動させる従来技術の装置とは対照的に、本発明では、刺激を「遷移ゾーン」でだけ与える。
【0043】
‐ 図3は、視神経または後キアスマ損傷(平均値±SE)のある人々の回復トレーニングまたはプラセボ(視線固定トレーニング)前(白い棒)と後(黒い棒)の視覚機能を示している。HRPデータは、検出された刺激、つまり当たりの数として表示されている(上のグラフ)。下のグラフは、ゼロ垂直経線からの視野境界の位置を視角の度で表わしている。
【0044】
‐ 図4は、ゼロ垂直経線からの黒い正方形の距離(つまり、当たりのない位置、図1の説明文を参照)を、視角の+20°、+10°、0°、−10°および−20°の垂直位置で測定することにより、HRPまたはTAPでの境界が決められたデータを示している。視野拡大の程度は、これらの測定値の平均値を求めて、前後の差異を計算することで確認された。HRPでの境界とTAP周辺視野測定法で得られた境界とが異なることに注意すること。
【0045】
本発明について、図面および好ましい実施例を参照しながらさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
人間の視覚系に視覚刺激を与える工程のためのコンピューターアルゴリズムでは、モニターが視線固定点を表示するのであるが、モニターのどの部分に表示してもよい。視線固定点は、その人の視線の角度を調節するために、その人の視線をある一点に固定する役割を果たす。引き続き、前の工程で位置が確認され、その人の能力に応じて変更された遷移ゾーンの中またはそのすぐ隣に、追加の視覚刺激が与えられる。カステン等が発表した従来技術の装置では、その人の実際の進度とは無関係に視覚刺激が与えられたため、非効率的で手間がかかった。それとは対照的に、本発明では、主として遷移ゾーンの中またはその隣に、つまり部分視覚系損傷または視力劣化だけの領域に視覚刺激を与える。
【0047】
従来技術と同様に本発明でも、その人は、視覚系の遷移ゾーンへの各々の光学刺激に対して、コンピューターのキーボード上の適切なキーを押すことで反応する。しかし、カステン等により開示された従来技術の装置(1997)とは対照的に、ここでは、やる気の起きないトレーニングのレベルを避けることによって治療効果の可能性とトレーニングの適応性を上げるために、個人に合わせたトレーニング手順が利用されている。同時に、視覚刺激の総数を減らしても、同じ効果を上げることが可能である。
【0048】
この開示内容から明らかなように、視野の中で部分損傷または劣化だけの部分をトレーニングの領域として限定するのが有益である。もちろん、実際に付与する刺激は、大きさ、明るさ、形状または色において変化させてもよいし、様々な手段、たとえば投影スクリーン、簡単なコンピューターのモニターまたはバーチャルリアリティゴーグルもしくはヘルメット等のその他の視覚的投影装置を用いて表示することができる。刺激の種類および刺激の表示方法は、刺激の表示位置が、その人個人の欠損に適応しているのが確かな限り、さらに刺激表示の大部分が「遷移ゾーン」、すなわち視覚機能損傷の領域に与えられる限り限定されない。
【0049】
この視野刺激アルゴリズムの背景にある理論は、ニューロンの反復活性化が、さもなくば喪失、妥協または不用となる機能を回復させるという仮定である。本発明が従来技術の装置よりも優れているのは、その人の注意力を視野損傷の領域に集中させることにより、従来技術でその人の視野の欠損部分から無傷部分への線に沿って動く小光刺激に注意を向けなければならない場合に比べて、ニューロンの活性化がより高いことである。この論証から明らかなように、視野の部分損傷セクターに注意力を集中させることは、損傷しても残留視覚機能がまだ検出されうるまさしくその領域にその人の注意力を向けることになるため、ニューロン活動が相対的に活発化することになるだろう。無傷視野セクターにもまた多数の刺激を与えることは、有益ではないだろう。
【0050】
上記の論証は、失明または実質的な完全不良野において、すなわち前に視覚刺激に対する反応のなかったゾーンにおいて、機能が二度と回復できないことを示唆するものではない。むしろ、我々の臨床試験が示すように、視覚機能を完全に失った領域においてさえ、トレーニングは視覚機能を回復させるだろう。図2Cから図2Eが一例を示している。前には見えなかったた領域(図2Cの黒い正方形)が、数ヶ月のトレーニング後には再び見えるように反転していることに注意すること(図2Dの白い正方形)。
【0051】
トレーニングのタイミングもまた、視野欠損がどのくらい速く回復するかを予測するものではない。機能の回復に何週間または何箇月も必要な人々がいる一方で、改善の迅速な人々もいる。したがって、本発明は、トレーニングにある特定の期間が必要であることもまた示唆するものではない。
【0052】
本発明の別の優れている点は、トレーニングにより欠損と判明する領域を特に訓練できることである。図2Cから図2Eにおいて、トレーニングにより能力が下がった領域に注意すること。従来技術の装置では、トレーニングによって機能が低下する可能性を全く考慮に入れていない。その結果、この事実においても、適応的な手順が有益である。ここでもまた、視野のうち欠損を示す領域に集中して刺激を与えることになるだろう。
【0053】
これは、視覚欠損の領域をどのように特定するかという問題を提起する。部分的に損傷した脳の領域を特定するのに、多くの方法がある。理論上は、視覚刺激に対する反応の欠如、刺激に対する反応時間の長さ、または刺激を識別する上での問題があれば、視覚欠損の領域と特定される。従来技術に記載されているように、視覚欠損は、意識するしないにかかわらず、(a)視覚コントラスト感度機能の試験中における閾値の変化、(b)反応時間の減少、または(c)その人の刺激に対する反応の不在として立証される。ここでもまた、本発明は、トレーニングの刺激の大部分が部分損傷機能に対応する視野の領域(「遷移ゾーン」)に与えられる限り、視覚機能の欠損がどのように特定されるかに関して推定は行わない。
【0054】
臨床試験におけるプログラムの有効性検査
以下の試験、および人々の特性が、この発明が原則として視野欠損を減らせるのを立証するために選ばれた。選ばれた具体例は、視覚トレーニングがこれらの人々にのみ有効であり、他のどの人々または異なる視野障害のある人々には効果がないことを示唆するものでは全くない。好ましい実施例においては、神経系の病変した人々を対象にしているが、本発明は、神経系に影響を及ぼさない眼または視覚系のその他の疾患を治療するためにも、当業技術者によって有効に利用されるであろう。
【0055】
この発明の有効性を立証するために、我々は二つの臨床試験を行った。試験に参加する人々は、視神経損傷または1次視覚皮質への損傷のある130人の大量要員の中から選ばれた。彼らはあらかじめ決められた参加および除外の判定基準にしたがって審査され、ベースライン評価が行われた。参加および除外の判定基準の選択範囲は、人々のグループ内で能力のばらつきを減らす目的のためだけに選ばれた。これらの判定基準を満たしていない人が治療できないことを示唆するために選ばれたのではない。事実、この発明は視覚系のいかなる疾患にも有用である。
【0056】
ここで報告されるデータは、それぞれが実験グループと照査グループからなる二つの独立した臨床試験から得られたものである。一番目の試験においては、視神経損傷の人々二つグループ、すなわち実験および照査グループは、年齢に応じて人々を組合わせた(盲目状態、n=19)。二番目の試験では、後キアスマ損傷のある人々が、無作為に指定された(二重盲検、n=19)。その後、この人々は自宅で、モニター上の視覚課題で訓練するように指導された。
【0057】
次に述べる詳細な説明は、この発明の一つの好ましい例にすぎない。与えられる刺激の種類、または必要なトレーニング量もしくは視覚系疾患の種類により限定されるものではない。一つの例証を意図しているにすぎない。
【0058】
HRPにおいて、明白に検出閾値を上回る明るさの500刺激が、17インチのコンピューターモニター上に表示された(図2参照)。人は、視線固定点(中央の星型)を定常的に凝視し、750ミリセカンド以内にキーを押すように指示された。自宅でのトレーニング中に適正な視線の固定を確実にするために、視線固定点(直径4ミリの星型)は、明るい緑色(95cd/m2)から明るい黄色(100cd/m2)へと無作為にその色を変え、その時にその人は500ミリセカンド以内にどのキーでもよいから押すように指示された。
【0059】
白色の明るい刺激が150ミリセカンドの持続時間で、各々が500の異なる位置で連続して与えられた(25×20格子、暗いモニタースクリーン、刺激の大きさ(SS)0.15°、刺激の明るさ(SL)95cd/m2、背景の明るさ(BL)<1cd/m2)。周辺視野測定法の課題およびトレーニングは、安定した頭の位置を確実にするためのあごの支えを用い、モニターから30cm離れて行われた。HRPの全体の解像度は、TAPの場合よりも約4倍も大きかった(E. Kasten, S. Wuest &B. A.Sabel, J. Clin. Exp. Neurophysiol., in press)。
【0060】
TAPは、日々の診療の実践で使用されている固定型周辺視野計であり、偏心度30°までの視野が、閾値に近い明るさの191の刺激を用いて確認される(R. Fendrich, C. M. Wessinger, M. S. Gazzaniga, Residual vision in a scotoma: Implications for blindsight, Science 258, 1489-1491 (1992))。眼の適正な固定は、ビデオカメラを用いて監視した。しかし、TAPには方法論上の制約がある。なぜなら、(a)その人の主観的な評価基準は、閾値近くの刺激に反応しているときに時間と共に変わるかもしれないし、さらに(b)解像度が相対的に低いからである。したがって、TAPの能力は、二次的な結果測定として選ばれた。すべての周辺視野測定の分析には、トレーニングが行われた領域(治療グループ)またはプラセボグループにおいて対応する領域で得られた数値だけを含めた。視力は、ランドルト環の数値で測定され、その数値から最小限の解像度の角度が計算された。さらに、標準病後歴面談が行われ、治療が日常生活での視力の主観的な改善に到ったか否かを確認した。
【0061】
最終結果測定および統計資料
150時間(約6ヶ月)のトレーニング後、ベースライン評価のときと同じ手順を用いて、最終的な結果評価が行われた。パラメータデータの統計分析のために、それぞれの研究に対して、二方向分散分析と共に後続のポストホック(post-hoc)比較が計算された。個々のグループ比較には、学生のtテストが用いられた。
【0062】
人選
試験は、地元の医療倫理委員会により承認された。研究に含まれる人々は、CT、MRI、手術記録または視神経萎縮症の検眼鏡証拠書類をもって、視野欠損および後キアスマまたは視神経損傷の両方のある人でなければならなった。以下の除外判定のうち、一つでも該当する項目のある人々は、入れられなかった(括弧内に除外したケースの数を示す)。
【0063】
− 視線固定能力不足(n=11)
− 軽視(n=1)
− 非視覚神経異名視野欠損(n=7)
− 眼の疾患(n=9)
− 残留視力なし(n=2)
− 視覚欠損なし(n=1)
− 年齢>75歳(n=4)
− 年齢<18歳(n=1)
− 死亡(n=2)
− 病変年齢<12ヶ月(n=3)
− てんかん症または光線過敏症(n=2)
− 認識不足(n=12)
− 試験への参加拒否(n=27)、および
− 第一審査後現れず(n=10)
合計130人を審査した結果、わずか38人が試験に登録された。
【0064】
ベースライン評価
グループ間では、年齢、性別、損傷の分類または損傷の大きさに関して、ベースライン特性に全く違いはなかった(表1参照)。第一審査後、我々はインフォームドコンセントを得た。人々は、診断プログラム「PeriMa」(E. Kasten, H. Strasburger, B. A. Sabel, Programs for diagnosis and therapy of visual deficits in vision rehabilitation, Spatial Vis. 10, 499-503 (1997)、図2参照)および標準環境輝度の条件下での分子テュービンゲン自動周辺視野計(TAP)に慣れるため、一回の練習会に参加した。
【0065】
次に、HRPを用いたベースライン評価が2〜4回個別に行われた。これらの反復測定の集積値を、ベースライン値とした。その後、その人々は治療またはプラセボグループのいずれかに指定された。
【0066】
結果が、次の表2に平均値±SEで示されている。データは、LSDテストを用いて、二方向分散分析と共にポストホック計画比較によって分析された。トレーニングタイプを独立要素Aとし、(トレーニング前後)の時間を従属要素Bとする、二方向分散分析から、F値を取り出した。ベースライン#またはグループ間で個々の時点(§)での比較として、大きな相違が示されている。
*p<0.05;**p<0.025;***p<0.01
(*)p<0.10の傾向。両方のグループとも、双方の時点(+p<0.01)でTAPにおける当たりの数に大きな違いがあったことに注意するべきである。§これらの値は、視野の損傷された半分からの能力だけを含んでいる。
°ゼロ垂直経線からの視角の度
ベースラインデータにおける変化は、学生のtテストにより分析された。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
視野の拡大
第一結果の評価:照査グループを除く両方の回復グループは、トレーニング後、小視覚刺激の認識能力において、検出閾値(HRP試験)を十分に上回る大幅な改善を見せた(表2)。訓練された視野セクターでは、回復トレーニングを受けている人々は、照査グループよりも刺激に対して頻繁に反応した(当たり)(後キアスマの人々:ベースラインの29.4%増、視神経の人々:73.6%、p<0.05)。さらに、照査グループには、全く改善が見られなかった(後キアスマの人々:7.7%)か、またはずっと小さな改善のいずれかであった(視神経の人々:14.4%、表1)。したがって、視神経の人々は、トレーニングから最も得るところが大きかった(図2および3)。
【0070】
治療の前後に、視野境界の位置もまた査定された(図4)。何人かの視神経の人々では、病変は視野の両側に位置していたため、ここではゼロ垂直経線の両側に境界が設定された。境界の移動が、視神経(5.8°±1.2)および後キアスマの人々(4.9°±1.7)の両方で見られたのに対し、プラセボグループの場合には、より小さい変化(4.3°±0.69、n.s.)か、または全く変化が見られなかった(後キアスマ:−0.9°±0.8)。第一結果の評価が証明しているように、ほとんどの人(19人中18人)が、回復トレーニングから得るところがあった。HRPでは、ベースラインを上回る回復率は、20%よりも少ない(n=5)、50%まで(n=5)、100%(n=4)、または4人が100%よりも大きかった(一人の最高:200%)。
【0071】
第二結果の評価:視神経の人々の場合、TAPにより測定された完全欠損領域は、回復グループでは大幅に減少したが、照査グループでは減少しなかった。後キアスマの人々の場合、TAPの能力にこのような違いはなかった。TAPデータを用いて視野境界を視角の度合で決定することによって視野の大きさを計算すると、回復トレーニングにより、回復グループでは境界の移動、すなわち視野の大きさの増加が0.43°±0.34導かれただけであったのに対し、後キアスマの人々のプラセボグループでは−0.51°±0.34減少した。視神経の人々の場合、境界の移動は、それぞれ2.1°±0.5および1.4°±0.5であった。
【0072】
臨床試験に参加した38人のうち30人が、主観的な改善をチェックするための試験後のアンケートに回答した。回復トレーニングを受けた人の72.2%(n=18)が、視力の主観的な回復(カイ二乗=8.89,p<0.003)を報告しているが、照査グループではわずか16.6%(n=12)であった。グループ間では、人々の年齢または性別、視野欠損の大きさもしくは側(右/左)および損傷の年齢による目立った違いはなかった。
【0073】
コンピューター制御によるトレーニングの機能的意義
我々は、コンピューターモニター上の視力回復トレーニングが、視神経および視覚皮質損傷後の両方で視野を大幅に広げることを初めて示した。視線固定点トレーニング(プラセボ)は、視神経の人々では多少の改善が見られたものの、後キアスマの人々の視野を広げはしなかった。回復グループの被験者全員のうち約95%は、光検出でわずかベースラインの56.4%±12.3増の視野拡大、後キアスマまたは視神経の人々の視角では平均4.9°または5.8°の増加をそれぞれ経験した。この変化の大きさは、機能面で有意である。
【0074】
まず、視野の5°増加とは、おおよそ手を伸ばした距離でこの雑誌の半ページに相当し、わずか2〜3°の中心視があれば読書するのに一般には十分である(E. Aufhorn, Soziale Integration in Abhaangigkeit von der Probnose, in W. Hammerstein, W. Lisch (eds.), Ophthalmologische Genetik, Stuttgart (1985), 368-373頁)。
【0075】
次に、回復トレーイングを受けている大多数(約72.2%)の人々が、主観的な改善を報告している。
【0076】
視力回復に係わる神経生物学のメカニズムは、現在分かっていないが、動物および人間での発見を集めると、いくつかの最初の手掛かりになる。我々は、トレーニングが部分損傷構造そのもの、つまり何人かの視覚皮質損傷のある人々に存在する残留視力の境界区域(「遷移ゾーン」)または島領域として生き残っているニューロン要素を活性化することを提案している(R. Fendrich, C. M. Wessinger, M.S. Gazzaniga, Residual vision in a scotoma: Implications for blindsight, Science 258, 1489-1491 (1992))。通常視野の無傷および損傷領域の間に位置している遷移ゾーン(図2および4のグレーの領域を参照)が、部分損傷組織の残留ニューロンの機能の代表であると提案されている(B. A. Sabel等 (1997)、 部分引用; E. Kasten等 (in press)、部分引用)。「最小限残留構造」の仮説(B. A. Sabel (1997)、 部分引用)によれば、わずか10〜15%のニューロンが残留していれば、視力の回復させるのに十分である。すなわち、これらの領域にほんのわずかの残留ニューロンがあれば、視覚機能を再活性するのに足りるだろう(J. Sautter 等 (1993)、部分引用)。これは、視神経損傷のある人々が、我々の試験における回復トレーニングで、より多く得るところがあった理由をも説明するだろう。なぜなら、彼らの遷移ゾーンは特に大きいからである(すなわち、拡散損傷の領域、データ表示なし)。したがって我々は、おそらく不使用のために、視覚目標を不十分にしか活性化できないでいる部分損傷視覚系の残留ニューロンが、回復トレーニング中の反復視覚刺激により活性化することを提案している。
【0077】
カース(J. H. Kaas等 (1990)、部分引用)によって示されたのに似た受容野の拡大が起こっていると考えられる。彼は、網膜病変後のサルの皮質図が、数ヶ月の間に自然に5°拡大しているのを発見した。この数値は、我々の被験者に見られた4.9°〜5.8°の視野の拡大とほとんど同じである。回復トレーニングにより、損傷した境界区域へ規則的な視覚刺激を与えることが視野を大幅に拡大できることから、成人の視覚系の適応潜在能力は人の治療目的に活用できる。自宅でのコンピューター化トレーニングプログラムの利用は、費用効率がよく便利でもあり、明らかな副作用はない。
【0078】
結論として、我々の研究は、以前の動物研究の結果を人間に広げ、部分失明を患っている人々が回復トレーニングで効果を上げ、彼らの失われた視力のいくらかを取り戻すことを示している。我々の発見の一般的な含意は、コンピュータに基づくトレーニングプログラムが、人間の脳機能を大幅に上げることができることである。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によれば、部分失明を患っている人々の回復トレーニングで効果を上げることが可能な人間の視力のトレーニング装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】部分失明を患っている人の想定視野を示す図
【図2】コンピューターに基づく高分解能周辺視野測定法(「HRP」)を示す図
【図3】視神経または後キアスマ損傷(平均値±SE)のある人々の回復トレーニングまたはプラセボ(視線固定トレーニング)の、前(白い棒)と後(黒い棒)の視覚機能を示す図
【図4】ゼロ垂直経線からの黒い正方形の距離を、視角の+20°、+10°、0°、−10°および−20°の垂直位置で測定することにより、HRPまたはTAPでの境界が決められたデータを示す図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置の他の手段からのデータを記録、記憶、処理、発信するための中央データ処理手段と、
少なくとも一つの視覚刺激表示手段と、
人の視線を固定させる視線固定点手段と、
知覚された視覚刺激に対する人の反応を入力する手段と、
知覚された視覚刺激に対する人の反応の状態に合わせて、前記少なくとも一つの視覚刺激表示手段を制御する手段と、
無傷視野の外のゾーンを特定する手段とを備え、
前記無傷視野の外のゾーンは訓練されるべきゾーンを含み、
人に対して、前記無傷視野の内部のゾーンおよび前記無傷視野の外のゾーンに向けて視覚刺激を与えるように構成された、人間の視覚系または視力を訓練するための装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−216051(P2007−216051A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−120850(P2007−120850)
【出願日】平成19年5月1日(2007.5.1)
【分割の表示】特願2000−567166(P2000−567166)の分割
【原出願日】平成10年8月27日(1998.8.27)
【出願人】(504301546)ノヴァヴィジョン、インク. (1)