説明

介護用シャワー椅子

【課題】 座板に前後方向に貫通する凹溝を有する介護用シャワー椅子に座った際の、凹溝上部のエッジ部による臀部の痛みを解消すること。
【解決手段】少なくとも座部と、脚部と、背もたれとを有する介護用シャワー椅子であって、座部は前後方向に貫通する凹溝が設けられた座板と、座板の上面に着脱自在に装着される左右一対の合成樹脂発泡体製座板パッドからなり、座板パッドの一部を凹溝中央方向に突出させ、この突出部で使用者の座骨結節部又は仙骨部を支持するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高齢者や身体障害者が体を洗ったり、シャワーを浴びる際に使用する、介護用シャワー椅子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高齢者や身体障害者が浴室で体を洗ったり、シャワーを浴びる際には、一般の風呂椅子よりも座面が高い介護用シャワー椅子が使用されている。特に、腰を上げるのが苦痛な人に対しては、座面の中央部にU字溝を設けた入浴椅子(特許文献1参照)や、座盤の前後方向に貫通する貫通溝を有するシャワー椅子(特許文献2参照)が知られている。これらの椅子を使用すると、座面の溝に前後から手やシャワーヘッドを挿入して局部を洗うことができるので、被介護者が腰を上げる必要がなく、負担が軽減される。
【特許文献1】実開平3−94225号公報
【特許文献2】実開平6−77682号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来の椅子では、局部を洗いやすくするためには、座面の凹溝をある程度大きくする必要がある。しかし、凹溝の幅をあまり大きくすると、痩せた人が多い要介護者の臀部が凹溝にはまり込むおそれがある。さらに、凹溝上部のエッジ部が使用者の臀部を圧迫するので、使用者が痛みや違和感をおぼえるという問題があった。
【0004】
一般に、座面の平坦な椅子に座る場合、臀部に加わる圧力の分布は、座骨結節部又は仙骨部が最も高いとされている。また、一般的な人の場合、左右一対の座骨結節の間隔は11〜14cm、左右一対の仙骨の間隔は8cm前後であるので、上記従来の凹溝付きシャワー椅子に座ると、凹溝上部のエッジ部が座骨結節や仙骨の位置に近いので、臀部の痛みが増幅されてしまう。
【0005】
椅子に座った際の臀部の痛みを和らげるために、座面上にクッション材を装着することが一般に行われているが、座面に凹溝がある場合は、凹溝上部のエッジ部の圧迫による痛みは解消されない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記従来の課題を解決するための手段として、少なくとも座部と、脚部と、背もたれとを有する介護用シャワー椅子であって、座部は前後方向に貫通する凹溝が設けられた座板と、座板の上面に着脱自在に装着される左右一対の合成樹脂発泡体製座板パッドからなり、座板パッドの一部を凹溝中央方向に突出させ、この突出部で使用者の座骨結節部又は仙骨部を支持するようにしたことを特徴とする介護用シャワー椅子を提供するのものである。前記凹溝の上部両側に段部が設けられ、前記座板パッドの裏凹溝側には、段部に当接する厚肉部が設けられていることが望ましく、前記合成樹脂発泡体は、EVA、PE又はPPから選択されるポリオレフィンであることが望ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の介護用シャワー椅子は、前後方向に貫通する凹溝が設けられた座板上面に左右一対の合成樹脂発泡体製座板パッドが装着され、座板パッドの一部を凹溝中央方向に突出させ、この突出部で使用者の座骨結節部又は仙骨部を支持するようにしたので、突出部が下方に撓むことにより荷重が分散され、使用者の臀部が局部的に圧迫されることがない。もちろん、使用者の臀部が凹溝にはまり込むこともない。
【0008】
また、凹溝の上部両側に段部が設けられ、座板パッドの裏凹溝側に段部に当接する厚肉部が設けられていると、緩衝効果が大きくなるとともに、座板パッドの曲げ強度も増すので折れることがない。また、前記合成樹脂発泡体を、EVA、PE又はPPから選択すれば、半硬質のパッドとなるので、使用者がぐらつくことなく、安定して座ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明を図1〜図8に示す一実施例によって説明する。この介護用シャワー椅子1は、図1、2に示すように、金属製パイプを骨組みとして構成され、座部2と、背もたれ支柱3に固定された背もたれ4と、肘掛けパイプ5に根端を枢支された跳ね上げ式の肘掛け6と、脚7とからなる。
【0010】
座部2は、ブロー成形された中空のプラスチック製の座板8と、その上に装着される一対の発泡EVA製の座板パッド9からなる。座板8を中空に成形することにより、保温性があり、軽量のため取り扱いも容易である。座板パッド9を発泡体で構成することで断熱性に優れ、使用者に冷たさを感じさせないし、軽量で取り扱いも容易である。
【0011】
背もたれ4は、ブロー成形された中空のプラスチック製の背もたれ板10と、その前に装着された発泡EVA製の背もたれパッド11で構成され、背もたれ支柱3にネジで固定されている。背もたれ板10の上部には、シャワー椅子1を持ち運んだり、移動する際の把持部となる長孔101が設けられている。背もたれ支柱3は、金属製パイプを曲げ加工したもので、下方が水平に折り曲げられ、脚7にネジで固定されている。
【0012】
肘掛け6は、肘掛けパイプ5に根端を枢支され、上下回動自在とされている。肘掛けパイプ5は、金属製パイプを曲げ加工したもので、下側が脚7に、上側が背もたれ支柱3にそれぞれネジで固定されている。肘掛け6を跳ね上げ式としたので、肘掛け6を上方に跳ね上げれば移乗する際や、体を洗う際に邪魔にならないし、シャワー椅子1の使用時は肘掛け6を水平状態にして肘を置き、楽な状態で座ることができる。
【0013】
脚7は、2本の金属製パイプを門型に曲げて中央部でクロス状に固定したもので、下方を二重管スライド方式で伸縮自在とされており、使用者の体型に合わせて座部2の高さを調整することができる。
【0014】
座板8は、図3、4に示すように、その中央前後方向に貫通する凹溝81を有する。凹溝81の幅は100mmで深さは85mmである。凹溝81の上部両側には段部82が設けられている。座板8の上面は平坦面とされ、左右にそれぞれ3個の貫通孔83が設けられている。また、図4で示すように、座板8の前部に切り欠き84が設けられている。座板8の左右両側の裏側には、前後方向に延びる凹嵌部(図示せず)が形成されており、使用者が掴みやすいようにされている。座板8は、脚7の上にしっかりとネジで固定されている。
【0015】
座板パッド9は、図5、6で示すように、座板8に着脱自在に装着される。左右一対の座板パッド9には、その前後方向で中央やや後部に、凹溝81中央方向に突出する突出部91がそれぞれ設けられている。この突出部91は、シャワー椅子使用者の仙骨部や座骨結節部付近を支持する部分である。座板パッド9の厚みは、シャワー椅子1の外側部で25mm、内側部(凹溝81側)で15mmである。このように外側方向ほど厚く、中央方向ほど薄くすれば、使用者を安定に保つことができる。なお、座板パッド9の材質が柔らかすぎると、使用者がシャワー椅子1に座った際に不安定になりやすいので、本実施例の発泡EVAなどの半硬質で腰のある材質が好ましい。
【0016】
座板パッド9の裏側には、図7に示すように、それぞれ3個の突起92が設けられ、突出部91側には座板8の段部82に当接する厚肉部93が前後方向に延設されている。厚肉部93では、座板8より上側が15mm、下側が25mmで計40mmの厚さとなっている。
【0017】
座板パッド9を座板8に装着する際は、座板パッド9を座板8の上に置いて、軽く押し込み、突起92をそれぞれ対応する位置の貫通孔83に嵌入させる。この状態で裏側の厚肉部93が図6に示すように、段部82に当接するようになっている。座板パッド9を座板8から取り外す場合は、座板パッド9の端部を掴んで上に持ち上げると容易に取り外すことができる。座板パッド9の着脱が容易なため、シャワー椅子1を洗う場合に便利である。
【0018】
本発明の介護用シャワー椅子1を使用する際は、まず移乗する側の肘掛け6を跳ね上げてシャワー椅子1に座り、跳ね上げた肘掛け6を水平状態に戻して肘をおき、楽な姿勢を保ちながら介助者に体を洗ってもらう。介助者は、座板8に設けられた凹溝81に前後から手やシャワーヘッドを挿入して局部を洗う。凹溝81の前方から手を挿入する場合は、切り欠き84が設けられているのでさらに洗いやすくなっている。なお、使用者によっては、自分で洗うことももちろん可能である。
【0019】
本発明の実施例の場合、図8に示すように、一対の座面パッド9の突出部91間の間隔aは45mm、凹溝81と左右の段部82でできるエッジ部間の間隔bは100mm、左右の段部82の上端部間の間隔cは150mmである。既述したように、一般的に左右一対の座骨結節の間隔は11〜14cm、左右一対の仙骨の間隔は8cm前後であるので、図8におけるD部が座骨結節部を支持する部分で、E部が仙骨部を支持する部分となる。
【0020】
D部は座板パッド9の厚肉部93であり、肉厚を増すことによって緩衝効果を増大させ、座骨結節部に加わる圧力を低減している。E部も座板パッド9の厚肉部93であることに加え、段部82から凹溝81中央方向に突出し、底面が座板8によって支持されていないので、荷重が加わると下方向に撓み、仙骨部に加わる圧力を低減している。
【0021】
なお、本実施例では肘掛け6を跳ね上げ式としたが、固定式の肘掛けを使用してもよく、また、肘掛けを設けなくてもよい。また、座板パッド9の取付方法も本実施例に限定されることはなく、着脱自在であれば、他の方法を採用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明による一実施例の介護用シャワー椅子の斜視図
【図2】図1の正面図
【図3】図1の座板パッドを外した状態の斜視図
【図4】座板の平面図
【図5】座部の平面図
【図6】図5におけるL−L断面図
【図7】座板パッドの裏側の斜視図
【図8】図6における荷重負荷説明図
【符号の説明】
【0023】
1 介護用シャワー椅子
2 座部
3 背もたれ支柱
4 背もたれ
5 肘掛けパイプ
6 肘掛け
7 脚
8 座板
9 座板パッド
10 背もたれ板
11 背もたれパッド
81 凹溝
82 段部
91 突出部
93 厚肉部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも座部と、脚部と、背もたれとを有する介護用シャワー椅子であって、座部は前後方向に貫通する凹溝が設けられた座板と、座板の上面に着脱自在に装着される左右一対の合成樹脂発泡体製座板パッドからなり、座板パッドの一部を凹溝中央方向に突出させ、この突出部で使用者の座骨結節部又は仙骨部を支持するようにしたことを特徴とする介護用シャワー椅子。
【請求項2】
前記凹溝の上部両側に段部が設けられ、前記座板パッドの裏凹溝側には、段部に当接する厚肉部が設けられていることを特徴とする請求項1記載の介護用シャワー椅子。
【請求項3】
前記合成樹脂発泡体は、EVA、PE又はPPから選択されるポリオレフィンであることを特徴とする請求項1または2記載の記載の介護用シャワー椅子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−61509(P2007−61509A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−254183(P2005−254183)
【出願日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(000000505)アロン化成株式会社 (317)
【Fターム(参考)】