説明

付着物除去方法

【課題】水系顔料分散体製造装置から付着物を効率よく除去する。
【解決手段】顔料、分散剤としての酸型の水不溶性ポリマー、及び中和剤を含む水系顔料分散体の製造装置における付着物除去方法は、水系顔料分散体による付着物が付着した部分に酸を接液させた後、その部分から付着物を除去するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用インクに好適に用いられる水系顔料分散体の製造装置における付着物除去方法に関する。詳しくは、異なる原料を用いる2種以上の水系顔料分散体を1つの製造装置を用いて製造する場合の色替え時や品種切り替え時における製造装置の付着物除去方法、また、製造装置の洗浄が困難な箇所や付着物が強固に付着している箇所の付着物除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、非常に微細なノズルからインクの液滴を記録部材に直接吐出して付着させることにより文字や画像を得る記録方式である。この方式は、フルカラー化が容易である、安価である、記録部材として普通紙が使用可能である、被印字物に対して非接触である等の数多くの利点があるため、その普及が極めて著しい。また、インクジェット記録用インクには、環境に対して優しい水系インクが好まれて用いられ、そのため、各種の水溶性の染料或いは顔料を水又は水と有機溶剤との混合溶媒の水系インク媒体に溶解乃至分散させた水系顔料分散体の形態のものが広く実用化されている。
【0003】
ところで、水系顔料分散体を製造する場合、混合工程、分散工程、濃縮工程、各種添加物を添加する調整工程等の多くの工程が必要である。そして、これらの各工程において、製造装置の槽内壁、攪拌機、配管等には、顔料や分散剤等を含む付着物が付着する。そして、異なる原料を用いる2種以上の水系顔料分散体を1つの製造装置を用いて製造するような場合、製造装置に一の品種の製品の付着物が残っていると、それが他の品種の製品を汚染してしまう危険性があり、それによって製品である水系顔料分散体が所定の性能を発現しない虞がある。そのため2種以上の水系顔料分散体を1つの製造装置を用いて製造する場合には、一の品種の製品の製造が終了した後、他の品種の製品を製造する前に、水系顔料分散体製造装置を洗浄して付着物を除去する必要がある。
【0004】
そこで、かかる水系顔料分散体製造装置の洗浄方法として、特許文献1及び2には、有機溶剤を含む洗浄剤やアルカリ剤を併用したり、その洗浄の順序を規定することにより洗浄性を高めることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−75023号公報
【特許文献2】特開2008−178842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び2に開示された洗浄方法では、製造装置から付着物を十分に除去することは困難である。
【0007】
本発明の課題は、水系顔料分散体製造装置から付着物を効率よく除去することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、顔料、分散剤としての酸型の水不溶性ポリマー、及び中和剤を含む水系顔料分散体の製造装置における付着物除去方法であって、水系顔料分散体による付着物が付着した部分に酸を接液させた後、その部分から付着物を除去するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、水系顔料分散体による付着物が付着した部分に酸を接液させた後、その部分から付着物を除去することにより、水系顔料分散体製造装置から付着物を効率よく除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】水系顔料分散体製造装置の構成を示す図である。
【図2】水系顔料分散体製造装置の(a)配管の縦断面写真、(b)内部に付着物が付着していない配管の部分拡大電子顕微鏡写真、及び(c)内部に付着物が付着した配管の部分拡大電子顕微鏡写真である。
【図3】付着物除去試験1における(a)スポンジで擦る前の試験片の表面写真、(b)スポンジで擦った後の試験片の表面写真、及び(c)擦った後のスポンジの表面写真である。
【図4】付着物除去試験2における(a)洗浄前の試験片の表面写真及び(b)洗浄後の試験片の表面写真である。
【図5】付着物除去試験3における(a)洗浄前の試験片の表面写真及び(b)洗浄後の試験片の表面写真である。
【図6】付着物除去試験4における(a)洗浄前の試験片の表面写真及び(b)洗浄後の試験片の表面写真である。
【図7】付着物除去試験5における(a)洗浄前の試験片の表面写真及び(b)洗浄後の試験片の表面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態を詳細に説明する。
【0012】
(水系顔料分散体製造装置)
<基本構成>
図1は本実施形態に係る水系顔料分散体製造装置10の一例を示す。
【0013】
本実施形態に係る水系顔料分散体製造装置10は、原料供給側から製品回収側に向かって順に、予備分散槽11、濃縮槽12、及び製品化槽13が設けられている。
【0014】
予備分散槽11の槽上部の流入口11aには原料供給部14が設けられている。
【0015】
予備分散槽11の槽下部の排出口11bからは循環配管15が延びて槽上部の再流入口11cに接続されている。循環配管15には、送液ポンプ16、及びビーズミル17が順に介設されている。循環配管15におけるポンプ16とビーズミル17との間の部分からは分岐配管18が延びて濃縮槽12の槽上部の流入口12aに接続されている。
【0016】
濃縮槽12の槽下部の排出口12bからは濃縮液流通配管19が延びて製品化槽13の槽上部の流入口13aに接続されている。この濃縮液流通配管19にはろ過フィルター20が介設されている。
【0017】
製品化槽13の槽下部の排出口13bからは回収配管21が延びて製品回収部22に接続されている。
【0018】
予備分散槽11、濃縮槽12、及び製品化槽13のそれぞれは、攪拌翼を有する攪拌機、及び温調用ジャケットを備えている。予備分散槽11の容量は例えば300〜2000L、濃縮槽12の容量は例えば300〜2000L、及び製品化槽13の容量は例えば300〜2000Lである。
【0019】
この水系顔料分散体製造装置10を用いて1バッチ当たり200〜1500Lの水系顔料分散体を製造することができる。
【0020】
<水系顔料分散体製造装置の付着物除去が困難な箇所>
水系顔料分散体製造装置10では、その隅々まで水系顔料分散体による付着物の付着が発生するが、そのうち付着物除去が困難な箇所としては、例えば、予備分散槽11、濃縮槽12、及び製品化槽13のそれぞれにおける撹拌軸と撹拌翼とのつなぎ目、それを固定するボルトやボルト穴;循環配管15、分岐配管18、濃縮液流通配管19、及び回収配管21のそれぞれにおける表面の微細な凹凸部、屈曲部、分岐部、接続部、及び溜まり部;送液ポンプ16の内部、吸込口、及び吐出口;ビーズミル17の内部、分散メディア、及びビーズミル17に接続される小径配管;ろ過フィルター20の内部、及びろ過フィルター20の目等が挙げられる。
【0021】
<水系顔料分散体製造装置の部材に使用される材質>
工業的に用いられる水系顔料分散体製造装置10では、水系顔料分散体による付着物の付着が発生する予備分散槽11、濃縮槽12、及び製品化槽13の各槽、並びに循環配管15、分岐配管18、濃縮液流通配管19、及び回収配管21の各配管が例えばSUS304やSUS316等のステンレスで形成されているものが一般的である。これらのうち槽については、#320仕上げ或いは#400仕上げといった研磨による表面仕上げ処理が施されたものが用いられることが多いが、配管については、コスト的な観点から、特に研磨による表面仕上げ処理が施されたものが用いられたり、或いは、サニタリー仕様のものが用いられたりすることは稀である。そのため、水系顔料分散体製造装置10の配管については、通常、図2(a)〜(c)に示すように、表面に微細な凹凸部があり(図2(b))、この凹凸部に水系顔料分散体による付着物が密に付着する(図2(c))。しかしながら、後述の本実施形態の付着物除去方法によれば、No.1仕上げ、No.2D仕上げ、或いはNo.2B仕上げといった表面仕上げ処理が施されたステンレス部材であっても付着物を効率よく除去することができる。
【0022】
(水系顔料分散体の原料)
上記水系顔料分散体製造装置10で製造する水系顔料分散体は、原料として、顔料、分散剤としての酸型の水不溶性ポリマー、及び中和剤、並びに分散媒としての水又は水と水溶性有機溶剤との混合溶媒を含む。また、水系顔料分散体は、その他に防腐・防黴剤を含んでいてもよい。
【0023】
<顔料>
顔料としては有機顔料及び無機顔料が挙げられる。
【0024】
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、ジアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アントラキノン顔料、キノフタロン顔料等が挙げられる。
【0025】
また、有機顔料としては、色相が特に限定されるものではなく、例えば、赤色有機顔料、黄色有機顔料、青色有機顔料、オレンジ有機顔料、グリーンオレンジ有機顔料等の有彩色顔料が挙げられる。
【0026】
好ましい有機顔料の具体例としては、例えば、C.I.ピグメント・イエロー13, 17, 74, 83, 97, 109, 110, 120, 128, 139, 151, 154, 155, 174, 180;C.I.ピグメント・レッド48, 57:1, 122, 146, 176, 184, 185, 188, 202;C.I.ピグメント・バイオレット19, 23;C.I.ピグメントブルー15, 15:1, 15:2, 15:3, 15:4, 16, 60;C.I.ピグメント・グリーン7, 36等の各品番製品が挙げられる。
【0027】
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、金属酸化物、金属硫化物、金属塩化物等が挙げられる。これらのうち、特に黒色水系インク用としてカーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。
【0028】
顔料は、有機顔料又は無機顔料の単一種で構成されていてもよく、また、有機顔料及び/又は無機顔料の複数種で構成されていてもよく、さらに、有機顔料及び/又は無機顔料に加えて、必要に応じて体質顔料を併せて含んでいてもよい。
【0029】
体質顔料としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、タルク等が挙げられる。
【0030】
顔料に含有量は、水系顔料分散体に対して0.5〜24質量%であることが好ましく、1.5〜20質量%であることがより好ましい。
【0031】
<分散剤>
分散剤は酸型の水不溶性ポリマーを含む。
【0032】
ここで、本明細書において、「水不溶性ポリマー」とは、105℃で2時間乾燥させた後、25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が10g以下であるポリマーを意味する。また、本明細書において、「酸型の水不溶性ポリマー」とは、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基等のアニオン性基の酸型の置換基を有する水不溶性ポリマーを意味する。
【0033】
分散剤としての酸型の水不溶性ポリマーは、水酸化ナトリウムで100%中和し、105℃で2時間乾燥させた後、25℃の水100gに溶解させたときの溶解度が5g以下であるものが好ましく、1g以下であるものがより好ましい。
【0034】
酸型の水不溶性ポリマーとしては、例えば、各々、アニオン性基を含有する、水不溶性ビニルポリマー、水不溶性エステル系ポリマー、水不溶性ウレタン系ポリマー等が挙げられる。これらのうち、水系顔料分散体の安定性の観点から、アニオン性基を含有する水不溶性ビニルポリマーが好ましい。
【0035】
酸型の水不溶性ポリマーのより具体的な例としては、十分な印字濃度を発現させる観点から、水不溶性グラフトポリマーであって、主鎖が、少なくともアニオン性基含有モノマー(a)〔以下(a)成分という〕由来の構成単位と、芳香環含有(メタ)アクリレートモノマー(b)〔以下(b)成分という〕由来の構成単位とを含むポリマー鎖であり、側鎖が、少なくとも疎水性モノマー(c)〔以下(c)成分という〕由来の構成単位を含むポリマー鎖であるものが好ましい。また、主鎖には、必要に応じてノニオン性(メタ)アクリレートモノマー(d)〔以下(d)成分という〕が含まれていてもよい。
【0036】
酸型の水不溶性ポリマーの主鎖が(a)成分由来の構成単位と(b)成分由来の構成単位とを含有することで、アニオン性基の運動性を高めることができると考えられる。これにより、製造される水系顔料分散体を用いたインクがノズルから専用紙(写真用紙、光沢紙)上に吐出されたとき、アニオン性基の凝集性が緩和されることで印字(印刷)面の平滑性が増し、印字物(印刷物)の光沢性、耐擦過性が向上すると考えられる。
【0037】
(a)成分であるアニオン性基含有モノマーとしては、例えば、不飽和カルボン酸モノマー、不飽和スルホン酸モノマー、不飽和リン酸モノマー等が挙げられる。
【0038】
不飽和カルボン酸モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。
【0039】
(b)成分由来の構成単位としては、例えば、下記式(1)で表される構成単位を有するものが挙げられる。
【0040】
【化1】

(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは炭素数7〜22、好ましくは炭素数7〜18、更に好ましくは炭素数7〜12のアリールアルキル基若しくはその置換基を有したもの、又は、炭素数6〜22、好ましくは炭素数6〜18、更に好ましくは炭素数6〜12のアリール基若しくはその置換基を有したものを示す。)
【0041】
の具体例としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基(フェニルエチル基)、フェノキシエチル基、ジフェニルメチル基、トリチル基等が挙げられる。上記アリールアルキル基又はアリール基が有してもよい置換基は、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を含んでいてもよい。上記置換基の具体例としては、例えば、炭素数1〜9のアルキル基やアルコキシ基やアシロキシ基、水酸基、エーテル基、エステル基、ニトロ基等が挙げられる。
【0042】
式(1)で表される構成単位は、下記式(2)で表されるモノマーを重合することによって得ることができる。
CH=CRCOOR (2)
(式中、R及びRは上記式(1)と同じである。)
具体的には、式(2)で表される化合物としては、例えば、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、2−フェニルエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、1−ナフタリルアクリレート、2−ナフタリル(メタ)アクリレート、フタルイミドメチル(メタ)アクリレート、p−ニトロフェニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2−メタクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート、2−アクリロイロキシエチルフタレート等が挙げられる。これらの中では、ベンジル(メタ)アクリレートが好ましい。式(2)で表される化合物は、単一種で構成されていてもよく、また、複数種で構成されていてもよい。
【0043】
水不溶性グラフトポリマーは、側鎖に疎水性モノマー(c)由来の構成単位を含んでいると顔料を充分に水不溶性グラフトポリマー粒子に含有し、印字濃度を向上させることができる。
【0044】
(c)成分である疎水性モノマーとしては、例えば、ビニル系モノマーが挙げられ、特にスチレン系モノマーが好ましい。スチレン系モノマーとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられ、これらの中ではスチレンが好ましい。スチレン系モノマー由来の構成単位を含む側鎖は、片末端に重合性官能基を有するスチレン系マクロマー(以下、スチレン系マクロマーという)を共重合することにより得ることができる。スチレン系マクロマーは、顔料への吸着性能を高めて保存安定性を向上させる観点及び水系顔料分散体の粘度を低く抑える観点から、数平均分子量が1000〜10000であるものが好ましく、2000〜8000であるものが更に好ましい。
【0045】
側鎖における(c)成分由来の構成単位の含有量は、顔料を充分に水不溶性グラフトポリマー粒子に含有し、印字濃度を向上させる等の観点から、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることが更に好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。
【0046】
酸型の水不溶性ポリマーの重量平均分子量は、顔料の分散安定性、耐水性、吐出性等の観点から90000〜400000であることが好ましい。なお、酸型の水不溶性ポリマーの重量平均分子量は、溶媒として60ミリモル/Lのリン酸及び50ミリモル/Lのリチウムブロマイドを溶解したジメチルホルムアミドを用いたゲルクロマトグラフィー法により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定することができる。
【0047】
分散剤は、単一種で構成されていてもよく、また、複数種で構成されていてもよい。
【0048】
分散剤の含有量は、水系顔料分散体に対して0.2〜15質量%であることが好ましく、0.6〜12.5質量%であることがより好ましい。
【0049】
<中和剤>
中和剤は酸型の水不溶性ポリマーを中和する塩基を含む。
【0050】
中和剤の塩基としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエタノールアミン等が挙げられる。中和剤の塩生成基の中和度は10〜400%であることが好ましく、30〜250%であることがより好ましい。
【0051】
ここで、中和度は、下記式によって求めることができる。
中和度=A/B×100
A=[中和剤の質量(g)/中和剤の当量]
B=[ポリマーの酸価 (KOHmg/g)×ポリマーの質量(g)/(56×1000)]
なお、酸価は、ポリマーの構成単位から、計算で算出することができる。或いは、適当な溶剤(例えばメチルエチルケトン)にポリマーを溶解させて滴定する方法でも求めることができる。
【0052】
<分散媒>
分散媒は水又は水と水溶性有機溶剤との混合溶媒である。
【0053】
混合溶媒における水溶性有機溶剤としては、例えば、湿潤剤や粘度調整剤としての多価アルコールのグリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0054】
分散媒の含有量は、通常印字濃度、吐出安定性等の観点から、水系顔料分散体の固形分濃度が1〜30質量%となる量であることが好ましく、3〜25質量%となる量であることがより好ましい。
【0055】
<防腐・防黴剤>
防腐・防黴剤としては、分散媒に対して相溶性がよく、また、混合や希釈した際に白濁、変質、増粘、或いはゲル化を起こさず、さらに、熱やpHに対して安定性のよいものが好ましく、例えばイソチアゾール誘導体の1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン(商品名:プロキセル)等が挙げられる。
【0056】
防腐・防黴剤の含有量は、水系顔料分散体、或いは、最終製品の水系インクに対して、防腐性能の観点から、50〜2000mg/kgであることが好ましい。
【0057】
<任意成分>
水系顔料分散体は、その他、消泡剤、キレート剤等を含有していてもよい。
【0058】
(水系顔料分散体の製造)
以上に説明した上記水系顔料分散体製造装置10の原料供給部14から上記原料を仕込むことにより、予備分散槽11における予備分散工程、予備分散槽11及び循環配管15等における分散工程、濃縮槽12における濃縮工程、及び製品化槽13における滅菌工程を順に経て、製品である水系顔料分散体が製造されて製品回収部22で回収される。なお、防腐・防黴剤は、滅菌工程において添加することが好ましい。
【0059】
(水系顔料分散体製造装置における付着物除去方法)
水系顔料分散体製造装置10で水系顔料分散体を製造した後は、各槽及び各配管等には、水系顔料分散体による付着物が強固に付着する。ここで、水系顔料分散体による付着物とは、水系顔料分散体から分散媒を除いた組成物で構成される被膜状の固形物である。
【0060】
以下、本実施形態に係る水系顔料分散体製造装置10における付着物除去方法について説明する。
【0061】
本実施形態に係る水系顔料分散体製造装置10における付着物除去方法では、溶剤使用量を低減するため、水洗い工程、酸接液工程、洗浄工程、及びすすぎ水洗い工程の順に段階的に洗浄を行う。なお、この手順は、定期的なメンテナンスや部品交換等行う際の分解洗浄にも有効である。
【0062】
また、本実施形態に係る水系顔料分散体製造装置10における付着物除去方法では、水系顔料分散体製造装置10の液流通機構を稼働させ、水や付着物除去液剤を原料供給部14から製品回収部22までの各槽及び各配管に流通させる。これにより水系顔料分散体製造装置10からの付着物除去を効率的に行うことができる。なお、このとき、除去効果を高める観点からは、各槽の攪拌機も稼働させて攪拌流動を生じさせることが好ましい。
【0063】
<水洗い工程>
まず、水系顔料分散体製造装置10の液流通機構を稼働させ、原料投入部14から水を供給することにより、水を原料供給部14から製品回収部22までの各槽及び各配管に流通させる。
【0064】
水には消泡剤等を含有させてもよい。水温は10〜70℃とすることが好ましい。1回の水洗いに用いる水量は、水系顔料分散体製造装置10の装置容量に合わせて、満水となる量とすることが好ましい。水の流速は0.01〜50m/sとすることが好ましい。この水洗いは、1回のみ行ってもよく、また、複数回(例えば2〜5回)繰り返して行ってもよい。
【0065】
なお、定期的なメンテナンス等での分解洗浄の際には、部品ごとにかけ洗いや浸漬・通水により、洗浄後の水に水系顔料分散体による濃厚な着色がなくなる程度まで水洗いを行えばよい。
【0066】
<酸接液工程>
水洗いの後、原料投入部14から酸水溶液を供給することにより、酸水溶液を原料供給部14から製品回収部22までの各槽及び各配管に流通させる。この操作により水系顔料分散体製造装置10内における水系顔料分散体による付着物が付着した部分に酸を接液させる。
【0067】
酸としては、例えば、強酸である硫酸、硝酸、及び塩酸、並びに弱酸であるクエン酸、リン酸、乳酸、ホウ酸、及び炭酸等が挙げられる。水不溶性ポリマーを酸型に戻す塩交換を促進する観点からは強酸を用いることが好ましい。ここで、「強酸」とは、酸解離指数pKが3以下のものをいう。酸水溶液に含める酸は、単一種であってもよく、また、複数種であってもよい。
【0068】
酸水溶液は、装置材質の耐食性や酸を取り扱う安全性の観点から、低濃度水溶液とすることが好ましく、例えば強酸の場合、5規定以下とすることが好ましい。酸水溶液の温度は10〜70℃とすることが好ましい。1回の酸接液に用いる酸水溶液の量は、水系顔料分散体製造装置10の装置容量に合わせて、満水となる量とすることが好ましい。酸水溶液の流速は0.01〜50m/sとすることが好ましい。酸接液時間は10秒以上であることが好ましい。この酸接液は、1回のみ行ってもよく、また、複数回(例えば2〜5回)繰り返して行ってもよい。
【0069】
<洗浄工程>
酸接液に続いて、原料投入部14から付着物除去液剤を供給することにより、付着物除去液剤を原料供給部14から製品回収部22までの各槽及び各配管に流通させる。
【0070】
付着物除去液剤としては、例えば、炭素数6〜12の有機溶剤を含む洗浄剤、炭素数1〜5の有機溶剤、水等が挙げられる。これらのうち炭素数6〜12の有機溶剤を含む洗浄剤及び/又は炭素数1〜5の有機溶剤を用いることが好ましい。
【0071】
炭素数6〜12の有機溶剤を含む洗浄剤は、炭素数6〜12の有機溶剤自体であってもよく、また、炭素数6〜12の有機溶剤を溶媒で希釈したものであってもよい。
【0072】
炭素数6〜12の有機溶剤としては、例えば、モノアルキルグリセリルエーテルなどのグリセリルエーテル系溶剤;エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルなどのグリコール系溶剤等が挙げられる。これらのうち下記式(3)で表されるグリセリルエーテルが好ましい。式(3)で表されるグリセリルエーテルのRはアルキル基、アルケニル基が好ましく、炭素数1〜9、特に3〜7のアルキル基が好ましい。
R-OCHCH(OH)CHOH (3)
洗浄剤に含める炭素数6〜12の有機溶剤は、単一種であってもよく、また、複数種であってもよい。
【0073】
炭素数6〜12の有機溶剤を溶媒で希釈する溶媒としては、例えば、水等が挙げられる。その希釈倍率は2〜200倍とすることが好ましく、4〜100倍とすることがより好ましい。
【0074】
炭素数6〜12の有機溶剤を含む洗浄剤には、その他に、界面活性剤、ビルダー、アルカリ剤、消泡剤等を含有させてもよく、炭素数6〜12の有機溶剤を含む洗浄剤として、例えば、特開平11−189796号公報に記載の液体洗浄剤組成物を使用することができる。
【0075】
炭素数1〜5の有機溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール;ニトリル、アミン類、アミド類などの含窒素有機化合物等が挙げられる。これらのうちメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類を用いることが好ましい。炭素数1〜5の有機溶剤に含める有機溶剤は、単一種であってもよく、また、複数種であってもよい。
【0076】
炭素数1〜5の有機溶剤には、その他に、消泡剤等を含有させてもよい。
【0077】
炭素数6〜12の有機溶剤を含む洗浄剤及び/又は炭素数1〜5の有機溶剤を付着物除去液剤とする場合、それらのうち一方のみで洗浄を行ってもよく、また、それらの両方で洗浄を行ってもよい。炭素数6〜12の有機溶剤を含む洗浄剤及び炭素数1〜5の有機溶剤の両方で洗浄を行う場合、どちらで先に洗浄を行ってもよく、また、1回乃至複数回ずつの洗浄を交互に行ってもよい。
【0078】
付着物除去液剤の温度は10〜70℃とすることが好ましい。1回の洗浄に用いる付着物除去液剤の量は、水系顔料分散体製造装置10の装置容量に合わせて、満水となる量とすることが好ましい。付着物除去液剤の平均流速は0.01〜50m/sとすることが好ましく、3m/s以上とすることがより好ましい。この付着物除去液剤による洗浄は、1回のみ行ってもよく、また、複数回(例えば2〜5回)繰り返して行ってもよい。
【0079】
また、このとき、水系顔料分散体による付着物が付着した各槽及び各配管の部分に、化学的洗浄に加え、物理的洗浄を行えば、より一層高い付着物除去効果を得ることができる。かかる物理的洗浄としては、典型的には、こすり洗いが挙げられる。こすり洗いとしては、ブラシやスポンジを用いた洗浄、固液分散液を用い付着面に摩擦力を付与する洗浄、気液混相流を用いて付着面との境膜厚さを小さくし、高流速で行う洗浄等が挙げられる。固液分散液を用いる場合には、例えば水溶性の塩化ナトリウムや重曹などを過飽和状態で用いることにより、洗浄後は溶解状態として設備内から排出させることができる。また、気液混相流を用いる場合には、液ガス比を調整し、環状流や分散流となる領域で操作を行うことが好ましい。
【0080】
その他の物理的洗浄としては、例えば、ジェット洗浄、超音波エネルギーや音響エネルギーを利用した洗浄等が挙げられる。これらのうち超音波エネルギーを利用したものが好適であり、これにより超音波による振動のエネルギーにより付着物の剥離を促進させることができる。ここで、超音波の周波数は例えば20〜1000kHzである。
【0081】
<すすぎ水洗い工程>
最後に、原料投入部14から水を供給することにより、すすぎのための水を原料供給部14から製品回収部22までの各槽及び各配管に流通させる。
【0082】
水には消泡剤等を含有させてもよい。水温は10〜70℃とすることが好ましい。1回のすすぎ水洗いに用いる水量は、水系顔料分散体製造装置10の装置容量に合わせて、満水となる量とすることが好ましい。水の流速は0.01〜50m/sとすることが好ましく、3m/s以上とすることがより好ましい。このすすぎ水洗いは、1回のみ行ってもよく、また、複数回(例えば2〜5回)繰り返して行ってもよい。
【0083】
以上のように水系顔料分散体製造装置10やそこで用いられる機器部品の洗浄を行えば、2種以上の水系顔料分散体を1つの製造装置10を用いて工業的スケールで製造する場合でも、品種替え等における洗浄の際に水系顔料分散体製造装置10に付着した付着物を効率よく除去することができる。従って、これにより、この後異なる品種の水系顔料分散体を製造しても、異なる製品間相互の汚染が抑制され、安定した品質の水系顔料分散体を工業的に製造することができる。
【0084】
なお、本実施形態では、水系顔料分散体製造装置10の液流通機構を稼働させ、水、酸水溶液、或いは付着物除去液剤を原料投入部14から供給し、それを各槽及び各配管を流通させ、そして、製品回収部21から排出することにより付着物の除去を行うようにしたが、特にこれに限定されるものではなく、水系顔料分散体製造装置の各部を個別に同様の手順で付着物の除去を行ってもよい。
【0085】
また、本実施形態では、酸の接液の後、付着物除去液剤での洗浄により付着物の除去を行うようにしたが、特にこれに限定されるものではなく、酸の接液の後、付着物除去液剤を用いずに、こすり洗い等により付着物の除去を行ってもよい。
【実施例】
【0086】
(分散剤となる酸型の水不溶性ポリマーの合成)
300L反応容器内に、メチルエチルケトン4.91kg、重合連鎖移動剤(2−メルカプトエタノール)18.6g、及び表1に示す組成((a)成分:メタクリル酸11質量%、(b)成分:ベンジルメタクリレート49質量%、(c)成分:スチレンマクロマー(50質量%溶液)20質量%、及び(d)成分:ポリプロピレングリコールモノメタクリレート30質量%)のモノマー混合物120kgの10%を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行い、混合溶液を得た。
【0087】
一方、滴下槽に、モノマー混合物の残りの90%を仕込み、重合連鎖移動剤(2−メルカプトエタノール)167g、メチルエチルケトン44.2kg、及び2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)1.09kgを入れて混合し、十分に窒素ガス置換を行い、混合溶液を得た。
【0088】
窒素雰囲気下、反応容器内の混合溶液を攪拌しながら75℃まで昇温し、滴下槽中の混合溶液を5時間かけて滴下した。滴下終了から75℃に保温したまま2時間経過後、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.98kgをメチルエチルケトン13.1kgに溶解した溶液を加え、更に75℃で2時間、80℃で2時間熟成させ、酸型であるアクリル系の水不溶性ポリマー溶液を得た。
【0089】
得られた水不溶性ポリマーの重量平均分子量を、溶媒として60ミリモル/Lのリン酸及び50ミリモル/Lのリチウムブロマイド含有ジメチルホルムアミドを用いたゲルクロマトグラフィー法により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定したところ180000であった。
【0090】
また、得られたアクリル系の水不溶性ポリマー溶液を水酸化ナトリウムで100%中和し、105℃で2時間乾燥させた後、得られた乾燥物を25℃の水100gに約0.5g加えたところで、不溶物の存在が確認された。
【0091】
【表1】

【0092】
なお、表1に示す(c)成分及び(d)成分の詳細は以下の通りである。
(c)成分:スチレンマクロマー(東亜合成株式会社製 商品名:AS−6S、数平均分子量:6000、重合性官能基:メタクロイルオキシ基)
(d)成分:ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(日本油脂株式会社製 商品名:ブレンマーPP−800、プロピレンオキシド平均付加モル数:12)
【0093】
(水系顔料分散体の製造)
図1に示すのと同様の構成の水系顔料分散体製造装置により、上記で合成した酸型の水不溶性ポリマーを用いて水系顔料分散体を製造した。なお、予備分散槽には、ディスパー翼及び温調用ジャケットを有する容量300Lのものを用い、ろ過フィルターには、カートリッジタイプの5μmフィルター(日本ポール社製 商品名:プロファイルスター、材質:ポリプロピレン)を用いた。
【0094】
具体的には、水系顔料分散体製造装置の予備分散槽において、上記水不溶性ポリマー溶液を減圧乾燥させて得られた酸型の水不溶性ポリマー6.7kgをメチルエチルケトン37.9kgに溶かし、その中に中和剤(5N水酸化ナトリウム水溶液)1.52kg(中和度75%)、及びイオン交換水113kg加えて塩生成基を中和することにより乳化組成物を得た。そして、それにマゼンタ顔料:無置換キナクリドン顔料(C.I.ピグメント・バイオレット19〔PV19〕、クラリアントジャパン社製 商品名:Hostaperm Red E5B02)20kgを加え、ディスパー翼を稼働させて20℃の温度下で1時間混合して予備分散体を得た。
【0095】
次いで、得られた予備分散体179kgを循環配管に循環させてビーズミルに周速12m/s及び平均パス回数10パスの条件で繰り返し流通させることにより微粒化分散処理を行った。
【0096】
次いで、得られた分散体を分岐配管を介して濃縮槽に移し、イオン交換水89.7kgを加えて攪拌した後、減圧下、60℃の温水でメチルエチルケトンと一部の水を留去し、続いて、ろ過フィルターが介設された濃縮液流通配管を流通させることにより粗大粒子を除去し、そして、製品化槽及び製品回収管を経由させて製品回収部に固形分濃度25%の水系顔料分散体を回収した。
【0097】
(付着物除去試験評価)
−付着物除去試験1−
上記の水系顔料分散体の製造後、濃縮液流通配管(材質:SUS304、配管径:25A)におけるろ過フィルターの上流側の一部分を切り出すと共に縦に二等分して試験片とし、その試験片を水洗いして内部表面を観察した。その結果、図3(a)に示すように、内部表面に水系顔料分散体による付着物が均一に付着しているのが確認された。
【0098】
また、その試験片の左半分を1N−硫酸水溶液に約30秒間浸漬した後、試験片全体を配管径相当のスポンジを用いて一定加重の摩擦力(1.96N)で1回擦った。そして、その内部表面を観察した。その結果、図3(b)に示すように、1N−硫酸水溶液に浸漬していない右半分に対し、浸漬した左半分の方が効果的に付着物の除去を行えているのが確認された。これは、図3(c)に示す擦った後のスポンジ表面の汚れからも確認できる。
【0099】
−付着物除去試験2−
上記の水系顔料分散体の製造後、濃縮液流通配管(材質:SUS304、配管径:25A)におけるろ過フィルターの上流側の一部分を切り出すと共に縦に二等分して試験片とし、その試験片を水洗いして内部表面を観察した。その結果、図4(a)に示すように、内部表面に水系顔料分散体による付着物が均一に付着しているのが確認された。
【0100】
また、その試験片の左半分を1N−硫酸水溶液に約30秒間浸漬した後、試験片全体を付着物除去液剤としてのメチルエチルケトン(炭素数5の有機溶剤)に浸漬すると共に超音波洗浄機(アイワ医科工業社製 型式:AU−260C)により超音波エネルギーを5分間与えた。そして、その内部表面を観察した。その結果、図4(b)に示すように、1N−硫酸水溶液に浸漬していない右半分に対し、浸漬した左半分の方が効果的に付着物の除去を行えているのが確認された。
【0101】
−付着物除去試験3−
上記の水系顔料分散体の製造後、濃縮液流通配管(材質:SUS304、配管径:25A)におけるろ過フィルターの上流側の一部分を切り出すと共に縦に二等分して試験片とし、その試験片を水洗いして内部表面を観察した。その結果、図5(a)に示すように、内部表面に水系顔料分散体による付着物が均一に付着しているのが確認された。
【0102】
また、その試験片の左半分を1N−硫酸水溶液に約30秒間浸漬した後、試験片全体を付着物除去液剤としてのアミルグリセリルエーテル(炭素数8の有機溶剤)を含有する洗浄剤に浸漬すると共に超音波洗浄機(アイワ医科工業社製 型式:AU−260C)により超音波エネルギーを5分間与えた。そして、その内部表面を観察した。その結果、図5(b)に示すように、1N−硫酸水溶液に浸漬していない右半分に対し、浸漬した左半分の方が効果的に付着物の除去を行えているのが確認された。
【0103】
−付着物除去試験4−
上記の水系顔料分散体の製造後、濃縮液流通配管(材質:SUS304、配管径:25A)におけるろ過フィルターの上流側の一部分を3箇所切り出して試験片とし、それらの試験片を水洗いし、そのうちの1つを縦に二等分して内部表面を観察した。その結果、図6(a)に示すように、内部表面に水系顔料分散体による付着物が均一に付着しているのが確認された。
【0104】
また、残った2つの試験片のうち一方を1N−硫酸水溶液に約30秒間浸漬した。続いて、両方の試験片について、それぞれ平均流速7.8m/sで水を2時間流通させた。そして、それぞれの試験片を縦に二等分して内部表面を観察した。その結果、図6(b)に示すように、1N−硫酸水溶液に浸漬していない試験片(右側)に対し、浸漬した試験片(左側)の方が効果的に付着物の除去を行えているのが確認された。
【0105】
−付着物除去試験5−
上記の水系顔料分散体の製造後、濃縮液流通配管(材質:SUS304、配管径:25A)におけるろ過フィルターの上流側の一部分を切り出すと共に縦に二等分して試験片とし、その試験片を水洗いして内部表面を観察した。その結果、図7(a)に示すように、内部表面に水系顔料分散体による付着物が均一に付着しているのが確認された。
【0106】
また、その試験片の左半分を1N−硫酸水溶液に及び右半分を50%クエン酸水溶液にそれぞれ約30秒間ずつ浸漬した後、試験片全体を付着物除去液剤としてのアミルグリセリルエーテル(炭素数8の有機溶剤)を含有する洗浄剤に浸漬すると共に超音波洗浄機(アイワ医科工業社製 型式:AU−260C)により超音波エネルギーを10分間与えた。そして、その内部表面を観察した。その結果、図7(b)に示すように、1N−硫酸水溶液及び50%クエン酸水溶液のいずれに浸漬した部分も効果的に付着物の除去を行えているのが確認された。但し、1N−硫酸水溶液に浸漬した部分では、細部に渡って効果的に付着物の除去がなされていた。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明は、顔料、分散剤としての酸型の水不溶性ポリマー、及び中和剤を含む水系顔料分散体の製造装置における付着物除去方法について有用である。
【符号の説明】
【0108】
10 水系顔料分散体製造装置
14 原料供給部
22 製品回収部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料、分散剤としての酸型の水不溶性ポリマー、及び中和剤を含む水系顔料分散体の製造装置における付着物除去方法であって、
水系顔料分散体による付着物が付着した部分に酸を接液させた後、その部分から付着物を除去する付着物除去方法。
【請求項2】
上記酸を接液させた部分からの付着物の除去を、付着物除去液剤での洗浄により行う請求項1に記載の付着物除去方法。
【請求項3】
上記付着物除去液剤は、炭素数6〜12の有機溶剤を含む洗浄剤及び/又は炭素数1〜5の有機溶剤である請求項2に記載の付着物除去方法。
【請求項4】
上記酸の接液を、酸を、水系顔料分散体の製造装置の原料供給部から製品回収部まで流通させることにより行い、
上記付着物除去液剤での洗浄を、付着物除去液剤を、3m/s以上の平均流速で、水系顔料分散体の製造装置の原料供給部から製品回収部まで流通させることにより行う請求項2又は3に記載の付着物除去方法。
【請求項5】
上記付着物除去液剤での洗浄の際に、水系顔料分散体による付着物が付着した部分に超音波エネルギーを付与する請求項2乃至4のいずれかに記載の付着物除去方法。
【請求項6】
上記酸が強酸である請求項1乃至5のいずれかに記載の付着物除去方法。
【請求項7】
水系顔料分散体の製造装置における水系顔料分散体が付着した部分がステンレスで形成されている請求項1乃至6のいずれかに記載の付着物除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−132303(P2011−132303A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290973(P2009−290973)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】