説明

伝動ベルト用コードおよび伝動ベルト

【課題】
伝動ベルト用コードおよび伝動ベルト、特に摩擦伝動ベルトとして長期間走行させてもベルト張力を保持でき、走行時の騒音や振動が軽減され、伝動ベルト用コードおよび伝動ベルトを提供すること。
【解決手段】
ポリブチレンテレフタレート繊維からなり、300〜1500dtex//1〜3本(SまたはZ撚り方向)/2〜5本(ZまたはS方向)の下撚りと上撚りが施され下撚りおよび上撚りの撚り係数は600〜2500である諸撚構造を有したゴム補強用コードであって、熱収縮応力が0.03〜0.20cN/dtex、5%伸長時応力が0.2〜1.0cN/dtexである伝動ベルト用コードおよびそれを用いた伝動ベルト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝動ベルト用コードおよび伝動ベルト、特に摩擦伝動ベルトに関するものである。詳しくは、長期間伝動ベルトとして走行させてもベルト張力を保持でき、プーリとのスリップを生じないため、走行時の騒音や振動が軽減され、かつ耐久性に優れた伝動ベルトおよびそのためのコードに関するものである。
【背景技術】
【0002】
伝動ベルトは、自動車用、一般産業用、農機具用など多様な用途に利用されている。伝動ベルトは、その動力伝達機構の違いにより摩擦伝動と同期伝動に大別され、前者に属するものとしてはVベルト、平ベルトなどがあり、後者としては歯付ベルトが、チェーンやギヤと同様に正確な回転を伝える目的で使用されている。
【0003】
伝動ベルトが自動車用のファンベルトとして用いられる場合は、エンジンルームで使用されるため、雰囲気温度が高温であることから耐熱性が要求されるとともに、狭いエンジンルーム中でベルトを配置することからベルトの屈曲が高くなり、耐屈曲疲労性も要求される。また、長期間走行した後のベルトの緩みを避けるため、ベルトの寸法安定性は極めて重要である。
【0004】
伝動ベルトは、走行時には駆動条件に応じた一定の張力を必要とする。もし、走行時、ベルトの張力が低下すると、プーリとのグリップ力が低下してスリップを起こし、十分に動力を伝達できなくなる。ベルト張力の低下は、心体コードの応力緩和によるもの、繰り返し屈曲や伸長圧縮によって生じる心体コードの伸びによるもの、Vベルトのように両側が摩耗して溝に落ち込むことによって緩みかけ上の伸びによるもの等によって起こる。
【0005】
以上のように、伝動ベルトの走行中の張力低下を防ぎ、プーリとのスリップを防止してベルトの摩耗を少なくし、騒音や振動を軽減できる伝動ベルトが求められていた。
【0006】
上記課題を解決するため、伝動ベルトの改良技術が提案開示されている。例えば特許文献1、特許文献2および特許文献3等がある。
【0007】
特許文献1は、ベルト走行中に、プーリ上でベルトがスリップする際に発生する摩擦熱によってベルトが収縮し、緊張して自動的に伝動に必要な張力が得られる自動緊張性の伝動ベルトに関するものである。すなわち、走行中のスリップ、および該スリップによる摩擦熱の発生、そして該摩擦熱によって生じるベルトの熱収縮によってベルト張力を保持するものである。
【0008】
特許文献2は、「ポリエステルコードを抗張体としてゴム層に配設して加硫一体化してなる伝動ベルトであって、ベルトの乾熱収縮率が小さく、高いベルト張力を維持し動力伝達力が高く、しかも寸法変化の小さい特性を備えた動力伝動用ベルトとすること」を課題とし、この課題は、「ベルトから取り出されたポリエステルコードが特定の物性、即ち、初期引張抵抗値58g/d以上、150℃で8分間加熱したときの熱応力0.5g/d以上、そして応力比0.928以上の特性とすること」によって達成されることが記載されている。すなわち、特許文献2は、高強力ポリエステル繊維の原糸特性を生かしながら、熱応力および応力緩和においてバランスのとれた延伸熱固定処理コードを用いることを特徴とし、バランスのとれたポリエステルコードの特性として、高い初期引張抵抗値、高い熱応力、および繰り返し加重・伸長後の応力緩和が少ないことをパラメータを用いて特定している。
【0009】
特許文献3は、「高い引張強度と優れたエネルギー吸収能、および優れた寸法安定性を有し、シートベルト、ロープ、ゴム補強用繊維などの産業資材用途において好ましく用いることができる、高強度ポリブチレンテレフタレート系繊維」を課題とし、この課題は、95〜100モル%がブチレンテレフタレート単位からなる高重合度ポリブチレンテレフタレート系重合体からなるマルチフィラメント繊維であって、引張強度が5.8〜7.1g/d、破断伸度が18.0〜35.0%とすることで達成されるとしている。 しかしながら、特許文献3には、具体的に伝動用ベルトについての記載は勿論、伝動ベルトとして要求されるポリブチレンテレフタレート繊維およびポリブチレンテレフタレート繊維コードの特性と、それを達成するための手段等についても一切記述されていない。特に、シートベルトに要求されるエネルギー吸収能を活かすための原糸設計がなされているのみである。
【特許文献1】特公昭55−50578号公報
【特許文献2】特開昭62−255637号公報
【特許文献3】特開2003−73920号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1の伝動ベルトにおいてはプーリを長時間安定して締め付け、張力を保持するには不十分であり、特許文献2は高い初期引張抵抗値と高い熱応力を有するものであり、長時間のベルト張力の保持には不十分であった。本発明の目的は、上記従来の技術における問題点を解決し、伝動ベルト用コードおよび伝動ベルト、特に摩擦伝動ベルトとして長期間走行させてもベルト張力を保持でき、走行時の騒音や振動が軽減された伝動ベルトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の伝動ベルト用コードは、ポリブチレンテレフタレート繊維からなり、下撚りコードを複数本あわせてこれに上撚りを施した諸撚構造を有するゴム補強用コードであって、熱収縮応力が0.03〜0.20cN/dtex、5%伸長時応力が0.2〜1.0cN/dtexであることを特徴とする。さらに、本発明の伝動ベルト用コードは前記諸撚構造が、300〜1500dtexの繊度を有する1〜3本のコードにSまたはZ方向の撚りを付与して得られた2〜5本のコードを合糸し逆方向のZまたはS方向の撚りを付与した構造であり、トータル繊度が3000〜20000dtexで、強度が3.7〜6.7cN/dtexであることであることが好ましい態様として挙げられる。また、本発明の伝動ベルトは上記した伝動ベルト用コードをベルトの心線として用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】

本発明の伝動ベルト用コードを用いた伝動ベルトは、長期間走行させても初期のベルト張力を保持でき、プーリとのスリップを生じ難いため、走行時の騒音や振動が軽減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の好ましい態様を説明する。
【0014】
本発明の伝動ベルトは、ポリブチレンテレフタレート繊維からなるゴム補強用コードが下撚りコードを複数本あわせてこれに上撚りを施した諸撚構造を有するゴム補強用コードである。好ましくは、300〜1500dtexの繊度を有する1〜3本のコードにSまたはZ方向の撚りを付与して得れらた2〜5本のコードを合糸し逆方向のZまたはS方向の撚りを付与した構造であり、すなわち300〜1500dtex//1〜3本(SまたはZ撚り方向)/2〜5本(ZまたはS方向)の下撚りと上撚りが施され、下撚りおよび上撚りの撚り係数は600〜2500である諸撚構造を有している。つまり、300〜1500dtexのポリブチレンテレフタレート繊維糸を1〜3本引き揃えてSまたはZ撚り方向に下撚りを施し、次にこうして得られた下撚コード2〜5本に下撚りとは反対の撚り方向に上撚りを施し、諸撚り構造とする。
【0015】
なお、下撚りおよび上撚り係数はいずれも通常600〜2500で、好ましくは700〜1500の範囲で撚りを施し生コードする。該コードの撚り係数とは、Tを複数本のフィラメントをヤーンとするときの下撚り及びこのヤーンの複数本をコードとするときの上撚りの各々のコード10cmあたりの撚り数、Dをコードの表示デシテックス数とするとき、T×D1/2で表される。
【0016】
撚り係数が600未満の場合、ベルトの屈曲疲労性が劣り、2500を越える場合は、荷重伸度が高い傾向となるためにベルトの心体として使用するには適さない傾向となる。
【0017】
以上のように、生コードの撚り構造、撚り係数はコード特性のモジュラス、伸度などに影響し、強いては伝動ベルト特性に大きく影響するため、上記の600〜2500範囲でコード特性のバランスの良いところを選択するとが重要である。
【0018】
伝動ベルト用コードは、こうして得られた生コードにつぎのような加工を施し、得られたものである。
【0019】
得られた生コードにエポキシ化合物もしくはポリイソシアネート化合物を主成分とする接着剤を1浴目で付与し、次いでレゾルシン・ホルマリン・ラテックスを主成分とする接着剤を2浴目で付与する。乾燥は100〜200℃で30〜180秒、熱処理は180〜240℃で60〜300秒かけて行う。接着剤は、コード重量に対し1.0〜7.0重量%、通常は2.0〜5.0重量%付与する。熱処理は0.5〜10%、通常は1.0〜8.0%のストレッチをかけて行う。また、接着剤処理は通常、コードを複数本引き揃えて処理される。
【0020】
本発明に係るポリブチレンテレフタレート繊維を用い、上記撚糸、接着剤付与・熱処理を行うことによって、本発明伝動ベルト用の伝動ベルト用コードが得られる。
【0021】
本発明に係る伝動ベルト用コードは熱収縮応力0.03〜0.20cN/dtexのポリブチレンテレフタレート繊維からなる伝動ベルト用コードである。
【0022】
本発明伝動ベルト用コードの熱収縮応力は0.03〜0.20cN/dtex、好ましくは0.05〜0.18cN/dtexである。熱収縮応力は0.20cN/dtexを越えると、寸法変化が著しく大きくなるため、長期間走行するとベルトの緩みが生じ、騒音や振動の発生の原因、伝動効率の低下等の問題が起こる。一方、0.03cN/dtex未満の熱収縮応力では、走行中の伝動ベルトとプーリとの張力が低くなりすぎ、伝動効率が低下する等の問題が生じる。
【0023】
また、本発明に係るポリブチレンテレフタレート繊維コードの5%伸長時応力は、0.2〜1.0cN/dtex、好ましくは0.4〜0.8cN/dtexである。5%伸長時応力が1.0cN/dtexを越える場合、長期走行中のベルトとプーリにスリップが生じ、騒音や振動の発生の原因となる。また、0.2cN/dtex未満の場合、伝動ベルトとプーリに緩みが生じ、伝動効率が低下する等の問題が起こる。
【0024】
そして、本発明に係る伝動ベルト用コードの強度は、好ましくは3.7〜6.7cN/dtex、より好ましくは4.0〜6.7cN/dtexである。強度は6.7cN/dtexを越えても構わないが、これを達成するのは現時点では技術的に困難である。しかし、3.7cN/dtex未満では、伝動ベルト用コードとして使用したとき、引張り特性、屈曲特性などの力学特性が劣り適当でない。
【0025】
本発明伝動ベルトに用いる繊維は、テレフタル酸成分とブチレングリコール成分とからなるポリブチレンテレフタレートであるが、通常10モル%以下を他のジカルボン酸成分で置き換えたポリエステル、およびあるいは、同様にジオール成分の一部を置き換えたポリエステルからなるポリエステル繊維であっても良い。また、通常10重量%以下の範囲で、他のポリエステルポリマをブレンドしたポリエステル繊維でも良い。
【0026】
本発明の伝動ベルト用コードに最も適した繊維は、ポリブチレンテレフタレート繊維および上記一部共重合成分を含むか、あるいは他のポリエステルポリマをブレンドしたポリブチレンテレフタレート繊維である。
【0027】
本発明の伝動ベルト用コードに用いるポリブチレンテレフタレート繊維は、高強力でかつ繰り返し屈曲疲労に優れ、かつ耐摩耗性に優れた伝動ベルト用心体として用いるため、高分子量のポリブチレンテレフタレートポリマを用いられる。ポリブチレンテレフタレート繊維の固有粘度は通常1.0〜3.0である。
【0028】
上記特性によって特徴づけられる本発明に係るポリブチレンテレフタレート繊維コ−ドは、前記以外に以下の特性を有する。
【0029】
伝動ベルト用コード:
繊度 3000〜20000 dtex
強度 3.7〜6.7 cN/dtex
伸度 13〜28 %
乾熱収縮率 5〜20 %
初期引張抵抗度 130〜350 cN/dtex
【0030】
上記特性を有する本発明伝動ベルトは、従来のポリエステル繊維コードを心体として用いた伝動ベルトに比べ、ベルトとプーリが密着し、長期間走行しても張力が低下しないためベルトが殆ど緩まない。そのため、ベルトとプーリのスリップがなく、騒音や振動が小さい。
【0031】
次に、本発明の伝動ベルトに使用する繊維および伝動ベルト用コードならびに伝動ベルトの製造法について、以下に記述する。
【0032】
まず、ポリブチレンテレフタレート繊維の製造法について述べる。
【0033】
前記したポリブチレンテレフタレートポリマチップをエクストルーダー型押出機で溶融し、続いて紡糸パック中で濾過した後、紡糸口金孔から紡糸する。ここで、紡糸温度は240〜280℃とする。紡糸された糸条は徐冷域を通過した後、冷却風を吹き付けられ冷却固化される。
【0034】
口金直下に長さ5〜50cm、好ましくは5〜8cmの加熱筒を取り付ける。該加熱筒内温度を200〜350℃に加熱し、該雰囲気中に紡出糸条を通過させて徐冷する。更に、該加熱筒の下に積極的に加熱しない長さ10〜50cmの断熱筒を設置することが好ましい。
【0035】
上記加熱筒および断熱筒内の高温雰囲気中を通過した糸条は、次いで冷風を吹き付けて冷却固化させるが、該冷却は、冷却風を紡出糸条の周囲から吹き付ける環状冷却方式が好ましい。冷却風の温度は10〜80℃、好ましくは15〜70℃の冷風ないし温風を用いる。
【0036】
次に、冷却固化された糸条は、次いで油剤を付与された後、紡糸速度を制御する引取りロールに捲回して引取られる。付与される油剤は含水系であっても非含水系であっても良い。好ましい油剤組成の例は、平滑剤成分としてアルキルエーテルエステル、界面活性剤成分として高級アルコールのアルキレンオキサイド付加物、極圧剤成分として有機ホスフェート塩等を鉱物油で希釈した非水系油剤や、温水で希釈して得られる水系油剤である。引取速度(紡糸速度)は通常300m/分〜1500m/分、好ましくは300〜1000m/分である。引き取り糸条は通常連続して延伸工程に送られ、直接紡糸延伸プロセスによって延伸される。延伸は2段以上の多段熱延伸法を適用することが好ましい。2段延伸における延伸比率は、1段目の延伸比率を2段目より高くすることが好ましく、これによって、糸揺れ、糸むら、毛羽の発生が抑制でき、品質的に優れた延伸糸を得ることができる。延伸倍率は、3〜7倍、好ましくは4〜5.5倍の高倍率とする。熱延伸後の糸条は引き続き熱固定される。熱固定は糸条を熱ローラに接触させたり、高温気体中を通過させることなどの公知の方法が適用される。熱ローラの場合は140〜250℃、好ましくは150〜230℃である。
【0037】
さらに、この熱固定された延伸糸は弛緩処理した後、巻取り機にて巻き取られる。弛緩処理は0〜10%で行う。
【0038】
次に伝動ベルト用コードの製造法について述べる。
上記で得られたポリブチレンテレフタレート繊維を、300〜1500dtex//1〜3本(SまたはZ撚り方向)/2〜5本(ZまたはS方向)の下撚りと上撚りが施され下撚りおよび上撚りの撚り係数は600〜2500である諸撚構造で撚糸し、ポリイソシアネート化合物を主成分とする接着剤を1浴目で付与し、次いで180〜200℃で30〜180秒乾燥する。さらにレゾルシン・ホルマリン・ラテックスを主成分とする接着剤を2浴目で付与し、180℃〜240℃の雰囲気中で60〜300秒、2〜8%のストレッチを掛けて熱処理を行う。なお、ここにおけるストレッチは一般には一段で2〜8%ストレッチを掛けてそのまま巻き取られるが、一旦1.0〜8.0%ストレッチを掛けたあとに、180℃〜240℃の高温雰囲気中で1〜3%のリラックス処理を施すことにより熱収縮応力の品質バラツキの小さい安定した伝動ベルト用コードを得ることが可能となる。
【0039】
次いで、伝動ベルトの製造法について述べる。
Vリブドベルトの製造法例を示す。図1に示すVリブドベルト1は、上記の接着処理した伝動ベルト用コードを心線に使用した例を示している。これによると、接着ゴム層3中上記心体コードを有する心線2を接着ゴム層3中に埋設し、その下側に弾性体層である圧縮ゴム層4を有している。この圧縮ゴム層4にはベルト長手方向にのびる断面略三角形の複数のリブ6が設けられ、またベルト表面には付着したゴム付帆布5が設けられている。
【0040】
かくして得られた本発明の伝動ベルトは、長期間伝動ベルトとして走行させてもベルト張力を保持でき、プーリとのスリップを生じないため、走行時の騒音や振動が軽減できる。
【0041】
本発明の伝動ベルトは、例えば、Vリブドベルト、ラップドVベルト、ローエッジVベルト、コグドVベルト、結合Vベルト、歯付ベルト、両面Vリブベルト、両面歯付ベルト、歯付Vリブベルト及び平ベルトに適用することができる。そして、本発明伝動ベルトのメリットを活かしてオートテンショナーを省略したり、従来オートテンショナーを採用していない場合はベルトの緩み調整作業の軽減が可能となる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。本発明における各特性の定義および測定法は以下の通りである。
【0043】
(1)熱収縮応力:JISL−1017(1983)の方法に従って測定した。雰囲気温度は150℃とし、放置時間は8分間として測定した。
【0044】
(2)引張り強度:JISL−1017(1995)の方法に従って測定した。
【0045】
(3)5%伸長時応力、強度、伸度および初期引張抵抗度:JISL−1017(2002)の方法により測定した。
【0046】
(4)乾熱収縮率:JISL−1017(2002)、8.10(B法)の方法で測定した。
【0047】
(5)固有粘度(IV):試料0.125gにオルソクロロフェノール25mlを加えて、120℃で30分間加熱して溶解した試料溶液を、オストワルド粘時計を用い、25℃でオルソクロロフェノールとの相対粘度を測定し、次式により求めた。
IV=0.0242ηr+0.2634
ηr=(t×d)/(t×d
但し、tおよびtは、それぞれ試料溶液およびオルソクロロフェノールの落下秒数であり、dおよびdは、試料溶液およびオルソクロロフェノールの25℃における密度である。
【0048】
(6)走行時の騒音レベル:図2に示すように、プーリ径140mmの駆動プーリ7とプーリ径70mmの従動プーリ8との間にVリブドベルト1を巻き掛け、従動プーリ8を無負荷状態とし、駆動プーリ7を7000rpmとなるように駆動してVリブドベルト1を走行させ、駆動プーリ7のベルト出側でのベルト走行10秒後と300時間後の発生音を測音計9により測定し、結果を表1に示した。
【0049】
[実施例1]
IV=1.95のポリブチレンテレフタレートチップをエクストルーダー型押出機に供給して溶融紡糸法により、ホール数96の口金を用いて紡糸した。このとき紡糸温度は255℃とし、口金直下には、長さ7cm、温度300℃の加熱筒を配し、紡糸速度は400m/minとした。
【0050】
紡出糸を巻取ることなく引続き、1段目と2段目の延伸比を5:4で2段延伸することにより、トータル延伸倍率5.0倍、最終延伸ロール温度160℃で延伸熱処理した後、3.0%の弛緩率でリラックス処理を施し、1100dtex、96フィラメントの延伸糸を得た。
【0051】
得られた繊維の強度は6.5cN/dtex、熱収縮応力の値は0.18cN/dtexであった。
【0052】
得られた延伸糸を2×3の撚り構成(1100dtex、96フィラメントの延伸糸を2糸条引き揃えて下撚りを付与したものを3本併せて上撚りを付与した構成)で、下撚り数21.3、上撚り数12.3で、下撚り、上撚り共に撚り係数1000で撚糸して、撚糸コードとした。 続いて、上記撚糸コードポリイソシアネート化合物(PAPI−135:三共化成ダウ株式会社製)5重量%にトルエン95%からなるイソシアネート系接着剤を1浴目で付与した後、190℃で乾燥し、CRラテックス(クロロプレンラテックス)100重量部、レゾルシン14.6重量部、ホルマリン9.2重量部、苛性ソーダ1.5重量部、水262.5重量部からなる接着剤を2浴目付与した後、温度220℃、4.0%のストレッチをかけて熱処理を行い心線用の処理コードにした。
【0053】
得られた伝動ベルト用コードの熱収縮応力の値は0.042cN/dtex、5%伸長時応力は0.6cN/dtex、強度は4.41cN/dtexであった。
【0054】
さらに、円筒状の成形ドラムの周面に1〜複数枚のカバー帆布と接着ゴム層とを巻き付けた後、この上にロープからなる心線を螺旋状にスピニングし、さらに圧縮ゴム層を順次巻き付けて積層体を得た後、これを140℃で30分の条件で加硫して加硫スリープを得た。次に、加硫スリープを駆動ロールと従動ロールに掛架して所定の張力下で走行させ、さらに回転させた研削ホイールを走行中の加硫スリープに当接するように移動して加硫スリープの圧縮ゴム層表面に3〜100個の複数の溝状部を一度に研磨した。このようにして得られた加硫スリープを駆動ロールと従動ロールから取り外し、この加硫スリープを他の駆動ロールと従動ロールに掛架して走行させ、カッターによって所定の幅に切断してVリブドベルトを作製した。
【0055】
[実施例2]
実施例1と同様に、ポリブチレンテレフタレートチップを通常の溶融紡糸法により紡糸した。実施例1と同様に、1100dtex、96フィラメントの延伸糸を得た。得られた繊維の強度は6.5cN/dtex、熱収縮応力の値は0.18cN/dtexであった。得られた延伸糸は実施例1と同様の方法で撚糸コードとし、温度220℃、6.0%のストレッチをかけて熱処理を行い、次いで温度220℃、2%のリラックスをかけて心線用の処理コードにした。得られた伝動ベルト用コードの熱収縮応力の値は0.071cN/dtex、5%伸長時応力は0.6cN/dtex、強度は4.43cN/dtexであった。さらに、処理コードから実施例1と同様の方法でVリブドベルトを作製した。
【0056】
[実施例3]
実施例1と同様に、ポリブチレンテレフタレートチップを通常の溶融紡糸法により紡糸した。実施例1と同様に、紡出糸を巻取ることなく引続き、1段目と2段目の延伸比を5:4で2段延伸することにより、トータル延伸倍率5.0倍、最終延伸ロール温度150℃で延伸熱処理した後、1.0%の弛緩率でリラックス処理を施し、1100dtex、96フィラメントの延伸糸を得た。得られた繊維の強度は6.7cN/dtex、熱収縮応力の値は0.23cN/dtexであった。
【0057】
得られた延伸糸は実施例1と同様の方法で撚糸コードとし、温度220℃、6.0%のストレッチをかけて熱処理を行い心線用の処理コードにした。得られた伝動ベルト用コードの熱収縮応力の値は0.094cN/dtex、5%伸長時応力は0.6cN/dtex、強度は4.58cN/dtexであった。さらに、処理コードから実施例1と同様の方法で、Vリブドベルトを作製した。
【0058】
[実施例4]
実施例1と同様に、ポリブチレンテレフタレートチップを通常の溶融紡糸法により紡糸した。実施例1と同様に、紡出糸を巻取ることなく引続き、1段目と2段目の延伸比を5:4で2段延伸することにより、トータル延伸倍率5.0倍、最終延伸ロール温度150℃で延伸熱処理した後、1.0%の弛緩率でリラックス処理を施し、1100dtex、96フィラメントの延伸糸を得た。得られた繊維の強度は6.7cN/dtex、熱収縮応力の値は0.23cN/dtexであった。
【0059】
得られた延伸糸は実施例1と同様の方法で撚糸コードとし、温度220℃、8.0%のストレッチをかけて熱処理を行い、次いで温度220℃、2%のリラックスをかけて心線用の処理コードにした。得られた伝動ベルト用コードの熱収縮応力の値は0.171cN/dtex、5%伸長時応力は0.6cN/dtex、強度は4.61cN/dtexであった。さらに、処理コードから実施例1と同様の方法で、Vリブドベルトを作製した。
【0060】
[比較例1]
IV=1.95のポリエチレンテレフタレートチップをエクストルーダー型押出機に供給して溶融紡糸法により、ホール数96の口金を用いて紡糸した。このとき紡糸温度は290℃とし、口金直下には、長さ7cm、温度330℃の加熱筒を配し、紡糸速度は400m/minとした。
【0061】
紡出糸を、巻取ることなく引続き、1段目と2段目の延伸比を5:4で2段延伸することにより、トータル延伸倍率5.0倍、最終延伸ロール温度210℃で延伸熱処理した後、3.0%の弛緩率でリラックス処理を施し、1100dtex、96フィラメントの延伸糸を得た。得られた繊維の強度は7.7cN/dtex、熱収縮応力の値は0.46cN/dtexであった。
【0062】
得られた延伸糸は実施例1と同様の方法で撚糸コードとし、温度220℃、3.0%のストレッチをかけて熱処理を行い心線用の処理コードとした。得られた伝動ベルト用コードの熱収縮応力の値は0.32cN/dtex、5%伸長時応力は3.2cN/dtex、強度は6.10cN/dtexであった。さらに、処理コードから実施例1と同様の方法で、Vリブドベルトを作製した。
【0063】
[比較例2]
実施例1と同様に、ポリブチレンテレフタレートチップを通常の溶融紡糸法により紡糸した。実施例1と同様に、1100dtex、96フィラメントの延伸糸を得た。得られた繊維の強度は6.5cN/dtex、熱収縮応力の値は0.18cN/dtexであった。
【0064】
得られた延伸糸は実施例1と同様の方法で撚糸コードとし、温度220℃、6.0%のストレッチをかけて熱処理を行い、次いで温度220℃、0.5%のリラックスをかけて心線用の処理コードにした。得られた伝動ベルト用コードの熱収縮応力の値は0.014cN/dtex、5%伸長時応力は0.7cN/dtex、強度は4.26cN/dtexであった。さらに、処理コードは実施例1と同様の方法で、Vリブドベルトを作製した。
【0065】
[比較例3]
実施例1と同様に、ポリブチレンテレフタレートチップを通常の溶融紡糸法により紡糸した。実施例1と同様に、紡出糸を巻取ることなく引続き、1段目と2段目の延伸比を5:4で2段延伸することにより、トータル延伸倍率5.0倍、最終延伸ロール温度150℃で延伸熱処理した後、1.0%の弛緩率でリラックス処理を施し、1100dtex、96フィラメントの延伸糸を得た。得られた繊維の強度は6.7cN/dtex、熱収縮応力の値は0.23cN/dtexであった。
【0066】
得られた延伸糸は実施例1と同様の方法撚糸コードとし、温度220℃、0.5%のストレッチをかけて熱処理を行い心線用の処理コードにした。得られた伝動ベルト用コードの熱収縮応力の値は0.027cN/dtex、5%伸長時応力は0.7cN/dtex、強度は4.29cN/dtexであった。さらに、処理コードから実施例1と同様の方法で、Vリブドベルトを作製した。
【0067】
実施例1〜4および比較例1〜3のVリブドベルトについて、走行時の騒音レベルを評価し、その結果ならびに繊維物性とコード物性を表1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
表1より明らかなように、本発明(実施例1〜4)では、走行時の騒音の発生が低く抑制されている。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明に係るVリブドベルトの一態様の断面図である。
【図2】本発明に係るベルトの騒音試験装置の概略図である。
【符号の説明】
【0071】
1 Vリブドベルト
2 心線
3 接着ゴム層
4 圧縮ゴム層
5 ゴム付帆布
6 リブ
7,8 プーリ
9 アイドラープーリ
10 駆動プーリ
11 従動プーリ
12 測音計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブチレンテレフタレート繊維からなり、下撚りコードを複数本あわせてこれに上撚りを施した諸撚構造を有するゴム補強用コードであって、熱収縮応力が0.03〜0.20cN/dtex、5%伸長時応力が0.2〜1.0cN/dtexであることを特徴とする伝動ベルト用コード。
【請求項2】
前記諸撚構造が、300〜1500dtexの繊度を有する1〜3本のコードにSまたはZ方向の撚りを付与して得られた2〜5本のコードを合糸し逆方向のZまたはS方向の撚りを付与した構造であり、トータル繊度が3000〜20000dtexで、強度が3.7〜6.7cN/dtexであることを特徴とする請求項1に記載の伝動ベルト用コード。
【請求項3】
請求項1または2記載の伝動ベルト用コードをベルトの心線として用いたことを特徴とする伝動ベルト。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−57221(P2006−57221A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−242416(P2004−242416)
【出願日】平成16年8月23日(2004.8.23)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】