説明

伝動用ローラチェーンの過負荷防止構造

【課題】
本発明の目的は、安価、簡易な構造で、電子的な過負荷防止装置では間に合わない瞬間的な過負荷を機械的に吸収して、ピンやプレートの破損を確実に防止できる伝動用ローラチェーンの過負荷防止構造を提供することにある。
【解決手段】
駆動スプロケットと従動スプロケットの間に巻回され、内リンクを一対の外プレートで狭持しピンで連結した伝動用ローラチェーンの過負荷防止構造であって、ピンを外プレートから突出させた突出部に弾性体を配置し、前記弾性体によりピンを支点として内リンクと外プレートとを回動させて、三角形状の屈曲部を形成することを特徴とする伝動用ローラチェーンの過負荷防止構造である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝動用ローラチェーンの過負荷防止構造に関し、より詳細には、チェーンの一部を弾性体により三角形状に屈曲させた伝動用ローラチェーンの過負荷防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭等の運搬物を運搬するためには大型のコンベヤが用いられている。コンベヤとは、所要の距離を所要の速度で所要の量を連続的に搬送する機械装置のことである。
【0003】
コンベヤの動力には、駆動モーターによる回転動力が用いられる。図5に、回転動力の伝達機構を表す概要図を示す。一般にこの回転動力は、駆動モーター側に配置された駆動スプロケット101と、従動側に配置された従動スプロケット102との間に巻回された伝動用ローラチェーン103によって伝達される。
【0004】
ここで、伝動用ローラチェーンは、内リンクと一対の外プレートとを交互にピンで連結した構造をしている。このピンやプレートは、伝動用ローラチェーンに作用する通常の負荷(設計負荷)に十分耐えうるように設計されている。
【0005】
運搬物の荷重が変動する場合、伝動用ローラチェーンへの負荷(張力)も変動し、一時的に設計負荷を超える場合もある。そこで、設計負荷を超える過負荷が伝動用ローラチェーンへ作用するのを防止するため、過負荷防止装置が設けられている。過負荷防止装置としては、一般に駆動モーターに電子的な装置(一定以上の電流値により機器を停止させる装置)が取り付けられている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−278978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1等に記載の電子的な過負荷防止装置では、反応時間に限界があり、瞬間的に過負荷状態となった場合には動作が間に合わない場合があった。そのため、瞬間的な過負荷によってピンやプレートの強度を超える応力が作用して、伝動用ローラチェーンが破損する恐れがあった。
【0008】
そこで、以上の課題を踏まえ本発明の目的は、安価、簡易な構造で、電子的な過負荷防止装置では間に合わない瞬間的な過負荷を機械的に吸収して、ピンやプレートの破損を確実に防止できる伝動用ローラチェーンの過負荷防止構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明は、駆動スプロケットと従動スプロケットの間に巻回され、内リンクと一対の外プレートとを交互にピンで連結した伝動用ローラチェーンの過負荷防止構造であって、ピンを外プレートから突出させた突出部に弾性体を配置し、前記弾性体によりピンを支点として内リンクと外プレートとを回動させて、三角形状の屈曲部を形成することを特徴とする伝動用ローラチェーンの過負荷防止構造である。
【0010】
一時的な過負荷を屈曲部の変形で吸収することで、伝動用ローラチェーンの張力の急増を一定時間抑制でき、破損を防止できる。なお、過負荷が継続した場合には、電子的な過負荷防止装置が別途作動するため、結果的に伝動用ローラチェーンの破損を確実に防止できる。また、ローラの動作に影響を与えないように突出部(チェーン外側)に弾性体を配置しており、既設の伝動用ローラチェーンに安価かつ簡易に追設することが可能である。
【0011】
ここで、前記三角形状の屈曲部は、略正三角形状の屈曲部であることが好ましい。屈曲部を略正三角形状とすることで、過負荷防止構造の部分も他の部分と同一のピン(ローラ)のピッチにすることができ、滑らかなスプロケットとのかみ合わせを維持できる。
【0012】
また、前記過負荷防止構造を動作させるのに必要な動作応力は、前記駆動スプロケットの通常伝達トルクにより前記過負荷防止構造に生じる通常発生応力より大きい値であることが好ましい。動作応力を通常発生応力より大きい値とすることで、通常運転時には過負荷防止構造が動作することはなく、伝動用ローラチェーンの機能を阻害しない。
【0013】
また、弾性体は回転バネであることが好ましい。回転バネは多種多様な汎用製品が市販されており、安価かつ入手容易である。
【0014】
さらに、別の発明に係わる伝動用ローラチェーンは、上記伝動用ローラチェーンの過負荷防止構造を略等間隔で少なくとも3箇所配置したことを特徴とする。何時でも伝動用ローラチェーンの張り側に少なくとも1箇所は過負荷防止構造が存在するため、より確実に破損を防止できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係わる伝動用ローラチェーンの過負荷防止構造によれば、安価、簡易な構造で、電子的な過負荷防止装置では間に合わない瞬間的な過負荷を機械的に吸収して、ピンやプレートの破損を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係わる伝動用ローラチェーンの概要図である。
【図2】本発明の実施形態に係わる伝動用ローラチェーンの組合せ構造を表す分解斜視図である。
【図3】本発明の実施形態に係わる過負荷防止構造の詳細構造図である。
【図4】本発明の別の実施形態に係わる過負荷防止構造の詳細構造図である。
【図5】従来の伝動用ローラチェーンの概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。
【0018】
本発明では、伝動用ローラチェーンの過負荷防止構造を対象とする。
まず、伝動用ローラチェーンについて説明する。図1に、本発明の実施形態に係わる伝動用ローラチェーンの概要図を示す。伝動用ローラチェーン30は、駆動スプロケットと従動スプロケットの間に巻回されている。駆動スプロケット10及び従動スプロケット20には複数の歯(図示を省略)があり、伝動用ローラチェーン30のピッチに適合してかみ合うようになっている。
【0019】
ここで、駆動スプロケット10は駆動軸11の端部と連結されている。駆動軸11の他端には駆動源としての駆動モーター(図示を省略)が連結されている。駆動モーターが駆動すると、その回転動力により駆動軸11及び駆動スプロケット10が矢印方向に回転駆動する。伝動用ローラチェーン30を介して回転動力が伝達され、従動スプロケット20及び従動軸21も回転駆動する。図1の場合、伝動用ローラチェーン30の上側が張力のかかる張り側となり、下側は弛み側となる。
【0020】
図2は、本発明の実施形態に係わる伝動用ローラチェーン30の組合せ構造を表す分解斜視図である。伝動用ローラチェーン30は、内リンク40と一対の外プレート50とを交互にピン60で連結して形成されている。
【0021】
内リンク40は、一対の内プレート41と、この内プレート41の一端と他端を連結する2個のブシュ42と、それぞれのブシュ42に外側に配置される回動自在な2個のローラ43とから構成されている。このローラ43が駆動スプロケット10及び従動スプロケット20の歯とかみ合って、回転動力が伝達される。
【0022】
内プレート41と外プレート50は、伝動用ローラチェーン30にかかる張力を主に受け持つ部材である。また、ピン60は、内プレート41及び外プレート50を介してせん断及び曲げを受ける部材である。これらの部材には繰り返し荷重だけでなく衝撃荷重も作用するので、静的な引張強度だけでなく、疲労強度と衝撃強度も考慮して適宜素材、寸法が決定される。
【0023】
図3は、本発明の実施形態に係わる過負荷防止構造の詳細構造図である。図3(a)は無負荷時の正面図、図3(b)は過負荷時の正面図、および図3(c)は過負荷時の平面図である。
【0024】
過負荷防止構造70は、ピン60を外プレート50から突出させた突出部71に弾性体72を配置し、弾性体72によりピン60を支点として内リンク40と外プレート50とを回動させて形成される三角形状の屈曲部73を有する。
【0025】
突出部71とは、ピン60のうち、外プレート50の外側に突出させた部分のことを指す。突出部71の突出長は、弾性体72が余裕を持って配置できる長さに適宜設定すればよい。
【0026】
この突出部71に弾性体72を配置する。外プレート50の外側に配置するため、伝動用ローラチェーン30の通常動作には影響を及ぼさない。よって、過負荷防止構造70は、新設だけでなく既設の伝動用ローラチェーン30にも安価かつ簡易に追設することが可能である。
【0027】
本実施形態では、弾性体72を屈曲部73の頂点77に配置している(図3(a)参照)。なお、一対の外プレート50の両外側2箇所に配置しているが(図3(c)参照)、弾性体72の強度・剛性に問題なければ片側1箇所の配置でも良い。また1箇所の突出部71に1個の弾性体72を配置しているが、設計条件に応じて複数配置しても良い。
【0028】
弾性体72の端部は、内リンク40及び外プレート50に固定された伝達部74に当接している。弾性体72からの力が伝達部74を介して内リンク40及び外プレート50に作用し、ピン60を支点として内リンク40と外プレート50が一定角度回転する。
【0029】
その結果、三角形状の屈曲部73が形成される。屈曲部73の内角76は、伝動用ローラチェーン30に想定される負荷レベルや弾性体72の仕様を考慮して適宜設定され、一般に30°〜120°の範囲から選定される。このうち、特に内角76を約60°とし、略正三角形状の屈曲部73を形成することが好ましい(図3(a)参照)。屈曲部73を略正三角形状とすることで、過負荷防止構造70の部分も他の部分と同一のピン60(ローラ43)のピッチにすることができ、滑らかなスプロケットとのかみ合わせを維持できるためである。
【0030】
伝動用ローラチェーン30に負荷が作用すると屈曲部の内角76が増加して変形し、さらに負荷が増加すると最終的には図3(b)の通り一直線状になる。衝撃的な過負荷を屈曲部73の変形で吸収し、伝動用ローラチェーン30の張力急増を一定時間抑制して破損を防止できる。なお、過負荷が継続した場合には、駆動モータに取り付けられた電子的な過負荷防止装置(図示を省略)が作動するため、結果的に伝動用ローラチェーン30の破損を確実に防止できる。
【0031】
過負荷が解消されれば、弾性体72の復元力によって屈曲部73は元の屈曲形状に戻る(図3(a)参照)。過負荷を受けても伝動用ローラチェーン30のみならず過負荷防止構造70も損傷せず、繰り返し使用できる。
【0032】
ここで、弾性体72には、ねじりコイルバネ等の回転バネが好適に用いられる。 回転バネは多種多様な汎用製品が市販されており、安価かつ入手容易なためである。
【0033】
過負荷防止構造70を動作させるのに必要な動作応力σは、駆動スプロケット10の通常伝達トルクにより過負荷防止構造70に生じる通常発生応力σより大きい値とすることが好ましい。動作応力σを通常発生応力σより大きい値とすることで、通常時には過負荷防止構造70が動作することはなく、伝動用ローラチェーン30の機能を阻害しない。
【0034】
過負荷防止構造70は、伝動用ローラチェーン30に略等間隔で少なくとも3箇所配置することが好ましい。屈曲部73を略等間隔で少なくとも3箇所配置することで、何時でも伝動用ローラチェーン30の張り側に少なくとも1箇所は過負荷防止構造70が存在するため、より確実に破損を防止できる(図1参照)。
【0035】
以上説明の通り、本実施形態に係わる伝動用ローラチェーン30の過負荷防止構造70によれば、安価、簡易な構造で、電子的な過負荷防止装置では間に合わない瞬間的な過負荷を機械的に吸収して、ピン60や外プレート50の破損を確実に防止することができる。
【0036】
なお、弾性体72は、図3のように屈曲部73の頂点77に配置するだけでなく、三角形状が形成できるならば別の位置でもよい。図4に別の実施形態に係わる過負荷防止構造の詳細構造図を示す。図4の通り、屈曲部73の底点75A、75Bに弾性体72を配置しても、三角形状を形成できる。底点75A、75B(2箇所)に配置すれば、頂点77(1箇所)に配置する場合よりも、弾性体72の数を増やすことができる。そのため、別の実施形態は伝動用ローラチェーン30へ作用する張力が大きい場合に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0037】
駆動スプロケット 10
駆動軸 11
従動スプロケット 20
従動軸 21
伝動用ローラチェーン 30
内リンク 40
内プレート 41
ブシュ 42
ローラ 43
外プレート 50
ピン 60
過負荷防止構造 70
突出部 71
弾性体 72
屈曲部 73
伝達部 74
駆動スプロケット 101
従動スプロケット 102
伝動用ローラチェーン 103

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動スプロケットと従動スプロケットの間に巻回され、内リンクと一対の外プレートとを交互にピンで連結した伝動用ローラチェーンの過負荷防止構造であって、
ピンを外プレートから突出させた突出部に弾性体を配置し、
前記弾性体によりピンを支点として内リンクと外プレートとを回動させて、三角形状の屈曲部を形成することを特徴とする伝動用ローラチェーンの過負荷防止構造。
【請求項2】
前記三角形状の屈曲部は、略正三角形状の屈曲部であることを特徴とする請求項1に記載の伝動用ローラチェーンの過負荷防止構造。
【請求項3】
前記過負荷防止構造を動作させるのに必要な動作応力は、前記駆動スプロケットの通常伝達トルクにより前記過負荷防止構造に生じる通常発生応力より大きい値であることを特徴とする請求項1または2に記載の伝動用ローラチェーンの過負荷防止構造。
【請求項4】
弾性体は回転バネであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の伝動用ローラチェーンの過負荷防止構造。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の伝動用ローラチェーンの過負荷防止構造を略等間隔で少なくとも3箇所配置した伝動用ローラチェーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−202727(P2011−202727A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−69848(P2010−69848)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)