説明

伸展構造物のモニタシステムおよびモニタ方法

【課題】伸展構造物の伸展状態を直接モニタでき、展開途中の伸展状態をもモニタすることができるモニタシステムおよび方法を得る。
【解決手段】弾性梁部材に貼付されて弾性梁部材の離間した複数箇所での歪みを測定する複数の歪みゲージと、この歪みゲージからの歪み信号を受けて伸展構造物の伸展状態を表す信号を生成する信号処理装置と、この信号を遠隔地に送信する送信機を備えた伸展構造物のモニタシステム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は伸展構造物のモニタシステムおよびモニタ方法、特に弾性縦梁により伸縮可能な伸展構造物の展開状態をモニタする伸展構造物のモニタシステムおよびモニタ方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば人工衛星等の宇宙機に搭載され宇宙空間で伸展させて、様々なセンサあるいはソーラーセイルを取り付けて支持する伸展マスト、あるいはスパイラルアンテナとして使用される伸展構造物が知られている。このような伸展構造物は、例えば3本の弾性縦梁を備え、この各縦梁をコイル状に弾性変形されて縮小され、各縦梁の復元によって柱状に伸展するものである。伸展構造物は、リールに巻かれた引索によって弾性復元力に抗して縮小状態に保持され、引索を開放したときに弾性縦梁の弾性復元力によって伸展状態になる(例えば特許文献1参照)。
【0003】
このような伸展構造物の展開状態をモニタするために、伸展構造物を縮小状態に維持しあるいは展開速度を制御するための引索を利用して、全展開時に引策が巻きつけてあるリールから離れるように構成し、引索が離れたことをマイクロスイッチで検出して、伸展構造物が全展開状態になったと判断するモニタシステムが提案されている。
【0004】
【特許文献1】特公平6−13776号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような引索を利用したモニタシステムにおいては、引索のリールからの離脱を検出しているだけで、伸展マスト等の伸展構造物の展開状態が直接モニタされていない。従って、引索がリールから離れたが、伸展構造物が何らかの理由で完全に展開し終わっていない状態でも、モニタが全展開状態を示すことになる。
【0006】
また、伸展構造物の展開途中の状態をモニタできないため、万が一伸展構造物の伸展が途中で止まった場合には、どの程度まで展開して止まったのかなどの伸展状態を知ることができない。
【0007】
このように、従来のモニタシステムでは、伸展構造物の伸展状態を直接モニタすることができず、また伸展構造物の展開途中の状態をモニタすることもできなかった。
【0008】
従って、この発明の目的は、伸展構造物の伸展状態を直接モニタでき、また伸展構造物の展開途中の伸展状態をもモニタすることができる伸展構造物のモニタシステムおよびモニタ方法を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の伸展構造物のモニタシステムは、畳まれた縮小状態から弾性梁部材の弾性力により伸展状態となる伸展構造物の伸展状態をモニタするために、上記弾性梁部材に貼付されて上記弾性梁部材の離間した複数箇所での歪みを測定する複数の歪みゲージと、この歪みゲージからの歪み信号を受けて上記伸展構造物の伸展状態を表す信号を生成する信号処理装置とを備えたことを特徴とする伸展構造物のモニタシステムである。
【0010】
またこの発明の伸展構造物のモニタ方法は、畳まれた縮小状態から弾性梁部材の弾性力により伸展状態となる伸展構造物の伸展状態をモニタするために、上記弾性梁部材の離間した複数箇所での歪みを測定する複数の歪みゲージを伸展構造物に貼付し、この歪みゲージからの歪み信号を信号処理器に供給して上記伸展構造物の伸展状態を表す伸展状態信号を生成することを特徴とする伸展構造物のモニタ方法である。
【発明の効果】
【0011】
この発明の伸展構造物のモニタシステムおよび方法によれば、伸展構造物の伸展状態を直接モニタでき、また伸展構造物の展開途中の伸展状態をもモニタすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
実施の形態1.
図1において、この発明の伸展構造物のモニタシステムあるいはモニタ方法を適用できる伸展構造物1は、人工衛星2に搭載された所謂コイラブル伸展マストであって、完全に伸展した伸展状態で示されている。図2には伸展構造物1の伸展状態を拡大して示し、図3には伸展構造物1の縮小状態を拡大して示してある。
【0013】
図示の例では、伸展構造物1は両端に一対の円板状の端部材3および4を備え、これら端部材3および4の間に複数、たとえば3本の弾性梁部材51、52および53が配置されている。弾性梁部材51〜53の両端は、ヒンジ機構6によりそれぞれ端部材3および4の周方向に回動自在に取付けられている。これらの弾性梁部材51〜53は、たとえば繊維強化樹脂等の材料で形成された線材状のもので、自由状態では直線状であり、またコイル状に弾性的に変形可能なものである。
【0014】
弾性梁部材51〜53の中間部には、所定の間隔で複数の横部材7が設けられている。横部材7は、図示の例では3本ずつ1組で正三角トラス状に組み合わされてスペーサを構成しており、各頂点部分において弾性梁部材51〜53に連結されて弾性梁部材51〜53を所定の間隔に保持している。これら3本一組の横部材7の各組は、伸展構造物1の軸方向(長さ方向)に所定の間隔をもって互いに平行に配置されていて、弾性梁部材51〜53を11個の区分に区切っている。
【0015】
伸展構造物1には、弾性梁部材51〜53のうちの隣接する2本と、隣接する2本の横部材7との合計4個の連結部分を結んで、対角状に斜部材8が張設されている。これらの斜部材8には可撓性のワイヤ等が使用されている。
【0016】
このようなコイラブル形の伸展構造物1は、図1および図2に示すような伸展状態の場合には、各弾性梁部材51〜53が直線状となり、また各横部材7がこれら弾性梁部材51〜53の間隔を所定の間隔に保持し、また斜部材8がこれらの間に対角状に張設されてトラス状の構造体を構成する。
【0017】
このように構成された伸展構造物1を短縮して図3に示すような縮小状態にする場合には、弾性梁部材51〜53の弾性力に抗して端部材3および4を軸心回りに互いに反対方向に回転させる。すると、弾性梁部材51〜53がコイル状に屈曲し、その軸方向の長さが短縮してゆくのである。この場合に、対角状にX字状に張設された一方の斜部材8は弛んで屈曲してゆき、他方の斜部材8は張設状態に維持されたまま弾性梁部材51〜53がコイル状に屈曲してゆく。また、横部材7は互いに平行な状態のまま伸展構造物1の軸方向に近接してゆき、最終的にはこれら弾性梁部材51〜53が互いにほぼ密着したコイル状に屈曲し、また横部材7は互いに平行に重ねられ、この構造物の軸方向の長さが大幅に短縮されて図3に示す縮小状態となる。
【0018】
縮小状態になった伸展構造物1は、リール9に巻かれた引索11によって弾性復元力に抗して縮小状態に保持され、引索11を開放したときに弾性梁部材51〜53の弾性復元力によって図1および図2に示す伸展状態になる。
【0019】
人工衛星2を打ち上げる際には、伸展構造物1は図3の縮小状態にしてロケットに搭載され、人工衛星2が軌道上で放出されてから引索11を開放して弾性梁部材51〜53の弾性復元力により図1あるいは図2の伸展状態に展開させる。
【0020】
この発明の伸展構造物のモニタシステムは、上述のような畳まれた縮小状態から弾性梁部材51〜53の弾性力により伸展状態となる伸展構造物1の伸展状態をモニタするためのものであり、弾性梁部材51〜53に接着剤等により取付られて弾性梁部材51〜53の離間した複数箇所での歪みを測定する複数の歪みゲージ101〜111と、この歪みゲージ101〜111からの歪み信号を信号線12を通して受入れて、伸展構造物1の伸展状態を表す伸展状態信号を生成する信号処理装置13とを備えている。
【0021】
歪みゲージ101〜111は、伸展構造物1の弾性梁部材51〜53の伸展方向、即ち伸展構造物1の長軸方向に互いに離間して設けられている。また、歪みゲージ101〜111は3本の弾性梁部材51〜53のそれぞれに貼付されている。更に、歪みゲージ101〜111は3本の弾性梁部材51〜53の伸展方向の位置に関してそれぞれ異なる位置に貼付されている。
【0022】
図示の例では、これら3つの配置条件が全て満たされていて、3本の弾性梁部材51〜53に合計11個の歪みゲージ101〜111が設けられているが、各歪みゲージ101〜111の位置が伸展構造物1の軸方向の位置に関して重ならないように、しかも3本の弾性梁部材51〜53にできるだけ均等に分布されるように配置されている。
【0023】
このような配置の一例は、図に示すような配置であって、伸展構造物1の全体を、伸展構造物1の軸に直角な面内で横部材7によって構成された三角トラスによって分けた各区分内の3本の弾性梁部材51〜53のうちの配置の順番に選んだいずれか1本の弾性梁部材51〜53上に歪みゲージ101〜111のうちの一つが順番に取り付けられている。
【0024】
このような配置によれば、伸展構造物1の伸展状態が必要かつ充分にモニタできるが、歪みゲージ101〜111の数および配置は実際の応用状況によって様々に変更することができるが、歪みゲージを1個だけにした場合にはその歪みゲージが取り付けられた弾性梁部材の区分の歪みの状況しかモニタされず、伸展構造物1の伸展状態の把握が不正確になる。
【0025】
伸展構造物のモニタシステムはまた、信号処理装置13からの伸展状態信号を送る送信機14を備えている。伸展構造物1が設置されて伸展される現場としては様々な場所があるが、現場が宇宙である場合には受信器15を備えたモニタ局16は、地上あるいは地下に構築された固定建造物および航空機、船舶あるいは車両などの移動体を含めた地上などの遠隔地に設置されるのが一般的である。現場が宇宙の場合、例えば、人工衛星2に搭載した伸展構造物1は、一旦弾性変形により短縮させて、展開現場である宇宙の軌道上に搬送され、伸展構造物1を伸展させる。
【0026】
宇宙の現場でモニタされて送信機14から送信された展開現場伸展状態信号は、地上の受信器15で受信され、あらかじめ伸展構造物1の複数の伸展状態にそれぞれ対応させて生成してモニタ局に記録して置いた複数個の伸展状態信号と比較される。この比較により、受信した展開現場伸展状態信号がどの伸展状態信号に対応するかを判断し、もって展開現場における伸展構造物1が伸展構造物1の複数の伸展状態のうちのどの伸展状態にあるかを知ることができる。このように、各歪みゲージ101〜111毎に、展開状態と歪値の校正データを取得して伸展状態信号として記録し、この記録した伸展状態信号17と、展開現場の伸展構造物1の歪みゲージ101〜111から得た展開現場伸展状態信号とを比較することで、マストの展開状態を直接モニタすることができる。
【0027】
或る場合には、比較すべき基準の伸展状態信号を生成する際に予測した伸展状態と異なる想定外の伸展状態が展開現場で現れることがある。このような伸展状態が現われると、展開現場から送られてきた展開現場伸展状態信号と比較すべき基準の伸展状態信号が無いことになり、展開現場での伸展状態が把握できない。
【0028】
このような場合には、地上で伸展構造物1と同等の模擬伸展構造物の伸展状態を、この発明の伸展構造物のモニタシステムと同等のシステムによってモニタして模擬伸展構造物伸展状態信号を得て、この模擬伸展構造物伸展状態信号を、受信した展開現場伸展状態信号と比較する。模擬伸展構造物伸展状態信号が展開現場伸展状態信号に対応したとき、模擬伸展構造物の伸展状態が展開現場における伸展構造物の伸展状態にあると判断する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】この発明の伸展構造物のモニタシステムの一例を人工衛星に搭載した状態を示す概略斜視図である。
【図2】図1の伸展構造物の伸展状態を示す斜視図である。
【図3】図2の伸展構造物の縮小状態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0030】
1 伸展構造物、2 人工衛星、3、4 端部材、6 ヒンジ機構、7 横部材、8 斜部材、9 リール、11 引索、12 信号線、13 信号処理装置、14 送信機、15 受信器、16 モニタ局、17 記録した伸展状態信号、51〜53 弾性梁部材、101〜111 ゲージ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
畳まれた縮小状態から弾性梁部材の弾性力により伸展状態となる伸展構造物の伸展状態をモニタするために、
上記弾性梁部材に貼付されて上記弾性梁部材の離間した複数箇所での歪みを測定する複数の歪みゲージと、
この歪みゲージからの歪み信号を受けて上記伸展構造物の伸展状態を表す信号を生成する信号処理装置とを備えたことを特徴とする伸展構造物のモニタシステム。
【請求項2】
上記歪みゲージが上記伸展構造物の伸展方向に互いに離間して設けられていることを特徴とする請求項1に記載の伸展構造物のモニタシステム。
【請求項3】
上記信号処理装置からの信号を遠隔地の受信器に送る送信機を備えたことを特徴とする請求項1あるいは2に記載の伸展構造物のモニタシステム。
【請求項4】
上記弾性梁部材が少なくとも3本あり、上記歪みゲージが3本の上記弾性梁部材のそれぞれに貼付されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の伸展構造物のモニタシステム。
【請求項5】
上記歪みゲージが3本の上記弾性梁部材の伸展方向の位置に関してそれぞれ異なる位置に貼付されていることを特徴とする請求項4に記載の伸展構造物のモニタシステム。
【請求項6】
畳まれた縮小状態から弾性梁部材の弾性力により伸展状態となる伸展構造物の伸展状態をモニタするために、
上記弾性梁部材の離間した複数箇所での歪みを測定する複数の歪みゲージを伸展構造物に貼付し、
この歪みゲージからの歪み信号を信号処理装置に供給して上記伸展構造物の伸展状態を表す伸展状態信号を生成することを特徴とする伸展構造物のモニタ方法。
【請求項7】
上記伸展状態信号を複数個、あらかじめ上記伸展構造物の複数の伸展状態にそれぞれ対応させて生成してモニタ局に記録して置き、
上記伸展構造物を一旦弾性変形により短縮させて展開現場に搬送し、
上記伸展構造物を展開現場において伸展させて展開現場伸展状態信号を生成し、
この展開現場伸展状態信号をモニタ局に送信し、
展開現場伸展状態信号を上記記録された伸展状態信号と比較して、受信した展開現場伸展状態信号がどの伸展状態信号に対応するかを判断し、もって展開現場における伸展構造物が上記伸展構造物の複数の伸展状態のうちのどの伸展状態にあるかを知ることを特徴とする請求項6に記載の伸展構造物のモニタ方法。
【請求項8】
上記伸展構造物を展開現場において伸展させて展開現場伸展状態信号を生成し、
この展開現場伸展状態信号をモニタ局に供給し、
上記伸展構造物と同等の模擬伸展構造物の伸展状態をモニタして模擬伸展構造物伸展状態信号を得て、
上記模擬伸展構造物伸展状態信号を上記展開現場伸展状態信号と比較して、上記模擬伸展構造物伸展状態信号が上記展開現場伸展状態信号に対応したとき、上記模擬伸展構造物の伸展状態が展開現場における伸展構造物の伸展状態にあると判断することを特徴とする請求項6に記載の伸展構造物のモニタ方法。
【請求項9】
上記展開現場が宇宙空間に配置され、上記モニタ局が上記展開現場から遠隔地に配置されていることを特徴とする請求項7あるいは8に記載の伸展構造物のモニタ方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−126267(P2009−126267A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−301465(P2007−301465)
【出願日】平成19年11月21日(2007.11.21)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)