説明

伸縮可能な温度応答性基材、製造方法及びその利用方法

【課題】1種類の温度応答性基材表面から多条件の表面状態を形成する基材を提供すること。
【解決手段】
基材表面に0〜80℃の温度範囲内で水和力が変化する温度応答性ポリマーが被覆され、当該表面を延伸及び/又は収縮させることで生体材料との親和性を変えられる温度応答性基材を利用すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生物学、医学分野における有用な培養基材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日、動物細胞培養技術が著しく進歩し、動物細胞を対象とした研究開発もさまざまな分野に広がって実施されるようになってきた。対象となる動物細胞の使われ方も、開発当初の細胞そのものを製品化したり、その産生物を製品化するだけでなく、今や細胞やその表層蛋白質を分析することで有用な医薬品を設計したり、患者本人の細胞を生体外で増殖させたり、或いはその細胞の機能を高めて生体内へ戻し治療することも実施されつつある。現在、動物細胞を培養する技術は、多くの研究者が注目している一分野であり、特に生体の組織や臓器構造に類似した細胞の配向構造や機能が反映された細胞培養方法は、医薬品設計の評価のみならず生体組織構築技術としても非常に注目されている。
【0003】
ヒト細胞を含め動物細胞の多くは付着依存性のものである。すなわち、動物細胞を生体外で培養しようとするときは、それらを一度、どこかに付着させる必要性がある。そのような背景のもと、以前より多くの研究者らによって細胞にとってより好ましい基材表面の設計、考案がなされてきたが、これらの技術は何れも細胞培養時に関係するものばかりであった。付着依存性の培養細胞は何かに付着する際、自ら接着性蛋白質を産生する。従ってその細胞を剥離させるときには、従来技術ではその接着性蛋白質を破壊しなければならず、通常酵素処理が行われる。その際、細胞が培養中に産生した各種細胞固有の細胞表層蛋白も同時に破壊されてしまうという重大な課題であった。
【0004】
このような背景のもと、特許文献1には、水に対する上限若しくは下限臨界溶解温度が0〜80℃であるポリマーで基材表面を被覆した細胞培養支持体上にて、細胞を上限臨界溶解温度以下または下限臨界溶解温度以上で培養し、その後上限臨界溶解温度以上または下限臨界溶解温度以下にすることにより酵素処理なくして培養細胞を剥離させる新規な細胞培養法が記載されている。また、特許文献2には、この温度応答性細胞培養基材を利用して皮膚細胞を上限臨界溶解温度以下或いは下限臨界溶解温度以上で培養し、その後上限臨界溶解温度以上或いは下限臨界溶解温度以下にすることにより培養皮膚細胞を低損傷で剥離させることが記載されている。さらに、特許文献3には、この温度応答性細胞培養基材を用いて培養細胞の表層蛋白質の修復方法が記載されている。温度応答性細胞培養基材を利用することにより、従来の培養技術に対しさまざまな新規な展開をはかれるようになってきた。
【0005】
細胞が細胞培養基材表面に接着、伸展、増殖する場合、細胞外マトリックスなどのような接着タンパク質の吸着を介して、細胞が接着することが知られている。非特許文献1では、膵島由来の細胞が温度応答性細胞培養表面に接着、増殖するためには特定の細胞外マトリックスの吸着が必要であることが示されている。また、非特許文献2では、ある細胞が材料表面に接着するには、材料表面の接触角を適度にすることが需要であり、良好な接着を実現するには、細胞種によって、その適度な接触角が異なることが示されている。これらの文献は温度応答性細胞培養表面に目的とする臓器、組織由来の細胞を接着、増殖させるには血清中に含まれる、特定の細胞外マトリクスの吸着が必要であり、目的の細胞種を接着、増殖させるには適当な温度応答性細胞培養表面の設計が重要であることが示されている。
【0006】
非特許文献3および非特許文献4では、温度応答性ポリマー層の厚みやポリマー密度が、温度応答性細胞培養基材の表面濡れ性、細胞外マトリックスの吸着量、細胞接着性に大きな影響を与えることが示されている。これらの結果文献から、特定の細胞を温度応答性細胞培養表面に接着させるためには、培養する細胞の種類に応じ、温度応答性細胞培養表面の濡れ性、吸着させる細胞外マトリックス種類やその吸着量の最適化が必要であり、その最適化には温度応答性細胞培養基材の温度応答性ポリマーの厚みや固定化密度の制御が必要であることは周知されている。
【0007】
これまで、製造条件を変化させること温度応答性ポリマー膜厚層あるは温度応答性ポリマー固定化密度を個別に変化させることは可能であったが、ナノオーダーレベルで段階的にポリマー膜厚を変化させたり、数マイクログラム/cmでのポリマー固定化密度を同時に変化させるとは非常に困難であった。温度応答性ポリマー薄膜の厚みや密度を同時に制御し、同時に温度応答性細胞培養表面の細胞接着性や物性を制御する技術はこれまで報告がない。生体由来の細胞が有する多様かつ複雑な物性を有する細胞を温度応答性細胞培養表面上で培養し剥離するには、固定化した温度応答性ポリマーの膜厚、ポリマー密度を制御する技術が強く求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平02−211865号公報
【特許文献2】特開平05−192138号公報
【特許文献3】再表2007−105311号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Biomaterials,30,5943−5949(2009)
【非特許文献2】再生医学「ティシュエンジニアリングの基礎から最先端まで」、図19−2、株式会社エヌ・ティー・エス発行(2002)
【非特許文献3】Langmuir、20,5506−5511(2004)
【非特許文献4】Biomacromol.Bioscie.10,1117−1129(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、温度応答性基材表面へ伸縮という物理的な負荷を与えることで、その表面に被覆される温度応答性ポリマー層の状態を制御することで細胞の接着性および剥離性を制御できる温度応答性細胞培養基材、その製造方法及びその利用方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決するために、種々の角度から検討を加えて、研究開発を行った。その結果、驚くべくことに、温度応答性ポリマーを伸縮性を有する基材表面に化学的に固定化することで、得られた温度応答性ポリマー固定化基材を伸張、収縮させることで、基材表面の温度応答性ポリマー層の状態を変えられ、細胞の接着性および剥離性を変えられることが分かった。本発明はかかる知見に基づいて完成されたものである。
【0012】
すなわち、本発明は、基材表面に0〜80℃の温度範囲内で水和力が変化する温度応答性ポリマーが被覆され、当該表面を延伸及び/又は収縮させることで生体材料との親和性を変えられる、温度応答性基材を提供する。また、本発明は伸縮性能を有する基材の表面へ0〜80℃の範囲で水に対する相互作用が変化する温度応答性ポリマー層を形成させるモノマー、オリゴマー、ポリマーの少なくとも1種以上が含まれる溶液を塗布し、その後、当該基材表面全体に温度応答性ポリマー層を形成させる、温度応答性基材の製造方法を提供する。さらに、本発明はこうして得られた温度応答性基材の利用方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明であれば、温度応答性ポリマーを被覆した1種類の基材を準備し、その基材を伸縮することで生体材料との親和性を変えられ、多様な用途への展開をはかれるようになる。本発明は世界に類のない新規な発想による極めて重要な発明と考えている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1において、原料であるシリコンシートとアミノ基を導入したアミノ化シリコンシートをX線光電子分光法(XPS)で表面元素組成分析を行い比較検討した結果を示す図である。
【図2】実施例2おいて、PIPAAm固定化シリコンシート各サンプルのFT−IR/ATRスペクトルを示す図である。
【図3】実施例2において、PIPAAm固定化シリコンシート各サンプルのXPSによる表面元素組成分析を行い比較検討した結果を示す図である。
【図4】実施例3において、PIPAAm固定化シリコンシート各サンプルの温度変化にともなう表面濡れ性の変化を検討した結果を示す図である。
【図5】実施例4において、50IP−Silicon表面への温度変化の違いによる細胞接着性と剥離性の顕微鏡観察した結果を示す図である(上段:非伸展の50IP−Silicon、下段:伸展させた50IP−Siliconをそれぞれ示す。)。
【図6】実施例4において、NH−Siliconおよび50IP−Siliconへの温度変化の違いによる細胞接着率および細胞剥離率を測定した結果を示す図である。
【図7】実施例5において、使用した50IP−Siliconの培養後の表面形状を走査型電子顕微鏡を用いて観察した結果を示す図である。
【図8】実施例6において、NH−Siliconおよび50IP−Siliconへの温度変化の違いによる細胞接着率および細胞剥離率を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明とは、伸縮性基材表面に0〜80℃の温度範囲内で水和力が変化する温度応答性ポリマーが被覆され、当該表面を延伸及び/又は収縮させることで生体材料との親和性を変えられる、温度応答性基材に関するものである。これまでに、基材表面の温度応答性ポリマー層を特定の状態にすることによって細胞が付着する場合と付着しない場合があること、また基材の環境温度を変えるだけでそれまで付着し増殖していた細胞が剥離すること等が分かっている。本発明はこれらの知見を生かし、温度応答性基材表面を物理的に伸縮させることで1種類の温度応答性培養基材からさまざまな状態の表面とし、その結果として細胞等の生体材料の付着、脱離をはかり、生体材料の分離、精製、濃縮、あるいは細胞シートの作製等の広範囲な用途へ応用展開をはかろうとするものである。
【0016】
本発明で用いられる生体材料とは生体由来のものであれば特に限定されないが、例えばタンパク質、抗体、糖タンパク質、ペプチド、多糖類、核酸等の生理活性物質、細胞、組織、菌等が挙げられるが特に限定されるものではない。その中で細胞について具体的に示すと、使用される細胞は動物細胞であれば良く、その入手先、作製方法は特に限定されるものではない。本発明の細胞は、例えば、動物、昆虫、植物等の細胞、細菌類が挙げられる。特に、動物細胞の由来として、ヒト、サル、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、ヌードマウス、マウス、モルモット、ブタ、ヒツジ、チャイニーズハムスター、ウシ、マーモセット、アフリカミドリザル等が挙げられるが特に限定されるものではない。また、本発明で用いる培地は、動物細胞を培養する培地であれば特に限定されないが、例えば、無血清培地、血清含有培地等が挙げられる。そのような培地は、さらにレチノイン酸、アスコルビン酸等の分化誘導物質を添加しても良い。基材表面への播種密度は常法に従えば良く特に限定されるものではない。
【0017】
本発明で用いられる伸縮性基材とは、物理的に変形なく可逆的に伸縮できるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリウレタン、ゴム及びこれらの各種誘導体が挙げられる。本発明では、これらを単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて良く、何ら限定されるものではない。その中で、ポリジメチルシロキサンについて具体的に示すと、本発明ではポリジメチルシロキサンとして市販のシリコン膜、シリコンシート、シリコン製板等が挙げられる。その際、末端がアミノプロピル基、カロボキシプロピル基、水酸基で修飾されたポリジメチルシロキサン、或いはアミノ基、カルボキシル基、水酸基、チオール基などの官能基を含むシロキサン、ポリシロキサン化合物を利用し、予め目的とする官能基を含んだポリジメチルシロキサン構造体を作製し利用することでもできる。本発明で用いられる伸縮性基材の伸縮能については特に限定されるものでないが、延伸前を0とした場合に、5〜100%延伸できるものが好ましく、より好ましくは10〜90%延伸できるものが良く、さらに好ましくは15〜80%延伸できるものが良く、最も好ましくは20〜60%延伸できるものが良い。5%より長く延伸できない基材の場合、本発明で示すところの基材表面を伸縮することでさまざまな状態の温度応答性表面を作製することができず好ましくない。
【0018】
本発明に用いる温度応答性ポリマーはホモポリマー、コポリマーのいずれであってもよい。このようなポリマーとしては、例えば、特開平2−211865号公報に記載されているポリマーが挙げられる。具体的には、例えば、以下のモノマーの単独重合または共重合によって得られる。使用し得るモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド化合物、N−(若しくはN,N−ジ)アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体、またはビニルエーテル誘導体が挙げられ、コポリマーの場合は、これらの中で任意の2種以上を使用することができる。更には、上記モノマー以外のモノマー類との共重合、ポリマー同士のグラフトまたは共重合、あるいはポリマー、コポリマーの混合物を用いてもよい。また、ポリマー本来の性質を損なわない範囲で架橋することも可能である。その際、培養、剥離されるものが細胞であることから、分離が5℃〜50℃の範囲で行われるため、温度応答性ポリマーとしては、ポリ−N−n−プロピルアクリルアミド(単独重合体の下限臨界溶解温度21℃)、ポリ−N−n−プロピルメタクリルアミド(同27℃)、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(同32℃)、ポリ−N−イソプロピルメタクリルアミド(同43℃)、ポリ−N−シクロプロピルアクリルアミド(同45℃)、ポリ−N−エトキシエチルアクリルアミド(同約35℃)、ポリ−N−エトキシエチルメタクリルアミド(同約45℃)、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルアクリルアミド(同約28℃)、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド(同約35℃)、ポリ−N,N−エチルメチルアクリルアミド(同56℃)、ポリ−N,N−ジエチルアクリルアミド(同32℃)、ポリ(N−(N’−プロピルカルバミド)プロピル(メタ)アクリルアミド(同18〜28℃)などが挙げられる。本発明に用いられる共重合のためのモノマーとしては、ポリアクリルアミド、ポリ−N、N−ジエチルアクリルアミド、ポリ−N、N−ジメチルアクリルアミド、ポリエチレンオキシド、ポリアクリル酸及びその塩、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、セルロース、カルボキシメチルセルロースなどの含水ポリマーなどが挙げられるが、特に制約されるものではない。
【0019】
上述の場合、上述の各ポリマーの基材表面への被覆方法は、特に制限されないが、例えば、基材と上記モノマーまたはポリマーを、電子線照射(EB)、γ線照射、紫外線照射、プラズマ処理、コロナ処理、有機重合反応のいずれかにより、または塗布、混練等の物理的吸着等により行うことができる。その中で、伸縮性基材としてポリジメチルシロキサンを選んだ場合、そのものへの温度応答性ポリマーの固定化方法として、ポリジメチルシロキサンを含む構造体表面にプラズマ処理、塩酸処理、UV処理を行い、親水性化処理を行なった後、アミノ基、カルボキシル基、チオール基などの親水性官能基を含む有機系化合物あるいは無機系化合物を水系溶媒中でポリジメチルシロキサン構造体表面と反応させ、これらの親水性官能基を表面あるいは界面近傍に導入する方法が挙げられるが特に限定されるものではない。その際、モノマー溶液を0.5wt%〜70wt%で溶媒に溶解させた溶液を親水性官能基で修飾したポリジメチルシラン表面に塗布し、電子線照射重合により温度応答性ポリマーを固定化させても良い。親水性官能基を含む有機系化合物としては、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミン、ポルアクリル酸、3−アミノプロピルメタクリルアミドなどが挙げられる。親水性官能基を含む無機系化合物として、アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、(3−メルカプトプロピル)トリメトキシシラン、(3−メルカプトプロピル)トリエトキシシラン、カルボキシエチルシラントリオールを挙げられる。これらの化合物をポリジメチルシロキサンを含む構造体表面の導入する際、溶媒として水あるいは水と有機溶媒の混合溶液が望ましく、混合溶液の場合、有機溶媒の水に対する比率が1wt%〜50wt%が望ましい。混合する有機溶媒はアセトン、酢酸、メタノール、エタノールなどのアルコール系溶媒が好適である。
【0020】
本発明とは、上記伸縮性基材表面に0〜80℃の温度範囲内で水和力が変化する上記温度応答性ポリマーが被覆されたものであり、その基材表面を延伸及び/又は収縮させることで生体材料との親和性を変え、さまざまな用途に展開しようとするものである。このことを実現するためには、上述した生体材料が、まず、本発明の温度応答性基材表面に付着することが必須となる。その生体材料が付着する際の基材表面の条件は、その基材表面に負荷が掛かって延伸、もしくは収縮されていても良く、何ら負荷が掛かっていなくても良く、いずれにせよそのいずれかの負荷状態で、基材表面への温度応答性ポリマーの被覆量が、0.6〜2.5μg/cmの範囲であることが良く、好ましくは1.1〜2.3μg/cmの範囲であることが良く、さらに好ましくは1.3〜2.0μg/cmの範囲であることが良く、最も好ましくは1.5〜1.8μg/cmの範囲であることが良い。0.6μg/cmより少ない被覆量のとき、刺激を与えても当該ポリマー上の生体材料は剥離し難く、作業効率が著しく悪くなり好ましくない。逆に2.5μg/cm以上であると、その領域に生体材料が付着し難く、生体材料を十分に付着させることが困難となる。このような場合、温度応答性ポリマー被覆層の上にさらにタンパク質を被覆すれば、基材表面の温度応答性ポリマー被覆量は2.3μg/cm以上であっても良く、その際の温度応答性ポリマーの被覆量は9.0μg/cm以下が良く、好ましくは8.0μg/cm以下が良く、7.0μg/cm以下が好都合である。温度応答性ポリマーの被覆量が9.0μg/cm以上であると温度応答性ポリマー被覆層の上にさらに細胞接着性タンパク質を被覆しても生体材料が付着し難くなり好ましくない。そのような細胞接着性タンパク質の種類は何ら限定されるものではないが、例えば、コラーゲン、ラミニン、ラミニン5、マトリゲル等の単独、もしくは2種以上の混合物が挙げられる。また、これらの細胞接着性タンパク質の被覆方法は常法に従えば良く、通常、生体材料接着性タンパク質の水溶液を基材表面に塗布し、その後その水溶液を除去しリンスする方法がとられている。本発明は、温度応答性培養皿を利用したなるべく細胞シートそのものを利用しようとする技術である。従って、温度応答性ポリマー層上の細胞接着性タンパク質の被覆量が極度に多くなっては好ましくない。温度応答性ポリマーの被覆量、並びに細胞接着性タンパク質の被覆量の測定は常法に従えば良く、例えばFT−IR−ATRを用いて細胞付着部を直接測る方法、あらかじめラベル化したポリマーを同様な方法で固定化し細胞付着部に固定化されたラベル化ポリマー量より推測する方法などが挙げられるがいずれの方法を用いても良い。
【0021】
同様に、その生体材料が付着する際の基材表面の温度応答性ポリマー層の厚さについては、その基材表面に負荷が掛かって延伸、もしくは収縮されていても良く、何ら負荷が掛かっていなくても良く、いずれにせよそのいずれかの負荷状態で、基材表面への温度応答性ポリマー層の厚さが、0.1〜100nmの範囲であることが良く、好ましくは1〜50nmの範囲であることが良く、さらに好ましくは5〜25nmの範囲であることが良く、最も好ましくは8〜15nmの範囲であることが良い。0.1nmより少ない厚さのとき、刺激を与えても当該ポリマー上の生体材料は剥離し難く、作業効率が著しく悪くなり好ましくない。逆に100nm以上であると、その領域に生体材料が付着し難く、生体材料を十分に付着させることが困難となる。このような場合、温度応答性ポリマー被覆層の上にさらにタンパク質を被覆すれば、基材表面の温度応答性ポリマー被覆量は2.3μg/cm以上であっても良く、その際の温度応答性ポリマーの被覆量は9.0μg/cm以下が良く、好ましくは8.0μg/cm以下が良く、7.0μg/cm以下が好都合である。温度応答性ポリマーの被覆量が9.0μg/cm以上であると温度応答性ポリマー被覆層の上にさらに細胞接着性タンパク質を被覆しても生体材料が付着し難くなり好ましくない。そのような細胞接着性タンパク質の種類は何ら限定されるものではないが、例えば、コラーゲン、ラミニン、ラミニン5、マトリゲル等の単独、もしくは2種以上の混合物が挙げられる。また、これらの細胞接着性タンパク質の被覆方法は常法に従えば良く、通常、生体材料接着性タンパク質の水溶液を基材表面に塗布し、その後その水溶液を除去しリンスする方法がとられている。
【0022】
さらに、本発明ではその生体材料が付着する際の基材表面の温度応答性ポリマー層の密度については、その基材表面に負荷が掛かって延伸、もしくは収縮されていても良く、何ら負荷が掛かっていなくても良く、いずれにせよそのいずれかの負荷状態で、基材表面への温度応答性ポリマー層の密度が、0.5〜2.5g/cmの範囲であることが良く、好ましくは0.7〜2.3g/cmの範囲であることが良く、さらに好ましくは0.9〜2.0g/cmの範囲であることが良く、最も好ましくは1.0〜1.6g/cmの範囲であることが良い。0.5g/cmより少ない厚さのとき、刺激を与えても当該ポリマー上の生体材料は剥離し難く、作業効率が著しく悪くなり好ましくない。逆に2.5g/cmより高いと、その領域に生体材料が付着し難く、生体材料を十分に付着させることが困難となる。このような場合、温度応答性ポリマー被覆層の上にさらにタンパク質を被覆すれば、基材表面の温度応答性ポリマー被覆量は2.3μg/cm以上であっても良く、その際の温度応答性ポリマーの被覆量は9.0μg/cm以下が良く、好ましくは8.0μg/cm以下が良く、7.0μg/cm以下が好都合である。温度応答性ポリマーの被覆量が9.0μg/cm以上であると温度応答性ポリマー被覆層の上にさらに細胞接着性タンパク質を被覆しても生体材料が付着し難くなり好ましくない。そのような細胞接着性タンパク質の種類は何ら限定されるものではないが、例えば、コラーゲン、ラミニン、ラミニン5、マトリゲル等の単独、もしくは2種以上の混合物が挙げられる。また、これらの細胞接着性タンパク質の被覆方法は常法に従えば良く、通常、生体材料接着性タンパク質の水溶液を基材表面に塗布し、その後その水溶液を除去しリンスする方法がとられている。
【0023】
本発明における温度応答性ポリマーの構造は架橋ゲル構造あるいは直鎖状構造であり、直鎖状構造の場合、温度応答性ポリマーの分子量は4000〜150000が良く、好ましくは10000〜100000、さらに好ましくは20000〜80000が良い。分子量が4000以下であると温度を変えても細胞を剥離させるだけに十分な親水性の表面とならず本発明の基材表面として好ましいものではなく、逆に分子量が150000以上のポリマー鎖が基材表面に固定化されているとどの温度域においても細胞は付着することができず、本発明の温度応答性基材として好ましくない。
【0024】
本発明の基材表面は、温度応答性領域,細胞非付着性領域があっても良く、その2層の形態は、上部から観察して、例えば、▲1▼ラインとスペースからなるパターン、▲2▼水玉模様のパターン、▲3▼格子状のパターン、その他特殊な形のパターン、或いはこれらが混ざっている状態のパターンが挙げられ何ら限定されるものではないが、心筋組織、神経等の細胞が配向した各組織の状態を考え、▲1▼ラインとスペースからなるものが好ましい。温度応答性領域,細胞非付着性領域の2層のそれぞれの大きさは何ら限定されるものではないが、得られた細胞シートを剥離した際、収縮することを考え、ライン状のパターンの基材を使用する場合、細胞が付着する温度応答性領域は500nm以下、好ましくは300nm以下、さらに200nm以下、最も好ましくは100nm以下が良い。細胞が付着する温度応答性領域の幅が500nmより大きいとそのライン上で培養した細胞が配向せず好ましくない。その際、本発明における細胞と親和性の低い細胞非付着性高分子とは、細胞が付着しないものならば何ら制約されるものではないが、例えば、ポリ−N−アクリロイルモルホリン、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリエチレングリコール、セルロース等の親水性高分子、或いはシリコーン高分子、フッ素高分子等の強疎水性高分子等が挙げられる。
【0025】
本発明はこうして準備された生体材料が付着した表面に対し、物理的に伸縮させること、或いは基材周囲の温度を変えること、もしくはこれらを併用することで基材表面に固定化されている温度応答性ポリマー層の状態を変えることで、生体物質を剥離させることができるようになる。その際は、生体物質が付着した状態が、負荷が掛かって延伸、もしくは収縮された状態であっても、何ら負荷が掛かっていなくても、その状態から伸縮、あるいは延伸され、上述した生体材料が付着しない温度応答性ポリマーの被覆量の範囲、温度応答性ポリマーの厚さの範囲、温度応答性ポリマーの密度の範囲となれば良く、その収縮、あるいは延伸する方法等のその他の条件は何ら限定されるものでない。本発明では、伸縮性基材表面に被覆されているポリマーは温度応答性を有しており、基材表面を伸縮させなくとも基材の環境温度を変えることでも生体材料を剥離させることができる。その際、生体材料を温度応答性基材から剥離回収するには、生体材料が付着した培養基材の温度を培養基材上の被覆ポリマーの上限臨界溶解温度以上若しくは下限臨界溶解温度以下にすることによって剥離させることができる。その際、培養液中において行うことも、その他の等張液中において行うことも可能であり、目的に合わせて選択することができる。生体材料をより早く、より高効率に剥離、回収する目的で、基材を軽くたたいたり、ゆらしたりする方法、更にはピペットを用いて培地を撹拌する方法等を単独で、あるいは併用して用いてもよい。
【0026】
本発明を幾つか例を挙げ具体的に示すと以下のようになる。温度応答性高分子を10μg/cmの値となるように基材に修飾した表面は細胞接着性を示し、この基材をある方向に150%伸展させた場合、高分子の固定化密度は6.7μg/cmに減少し、より細胞接着性が強い表面となる。同様に12μg/cmの値で温度応答性高分子で修飾された表面は非細胞接着性を示すが、ある方向に150%伸展させた場合、高分子の固定化密度は8μg/cmに減少し、細胞接着性を示すようになる。或いは、温度応答性高分子を10μg/cmの値となるように基材に修飾した表面は細胞接着性を示し、この基材をもとの形状から80%の値になるように収縮させた場合、高分子の固定化密度は12.5μg/cmに増加し細胞は非接着性を示す。同様に8μg/cmの値で温度応答性高分子で修飾された表面は非細胞接着性を示すが、ある方向に80%収縮させた場合、高分子の固定化密度は10μg/cmに増加し、より弱い細胞接着性を示すようになる。さらに、150%伸展させた状態で6.7μg/cmの温度応答性高分子の固定化密度を示す温度応答性高分子基材表面で細胞を37℃で培養し、コンフルエント後、もとの形状から80%になるまで収縮させた場合、高分子固定化密度は12.5μg/cmとなり細胞をシート状で回収することができる。その際、温度を温度応答性高分子の相転移温度以下にすることで、より高速な剥離ができるようになる。本発明はこれらのことに特に限定されるものではない。
【0027】
このようにして得られた温度応答性基材は、本発明においてさまざまな方法で利用できる。その1例を挙げると、温度応答性基材を非伸縮下、もしくは伸縮させることで特定の状態とし、当該状態に固定した基材表面を利用して生体材料を分離させる、温度応答性基材の利用方法を提供する。本発明では得られた温度応答性基材を特定の伸縮条件、温度条件とすることでさまざまな表面を構築させられ、すなわち1種類の温度応答性基材からさまざまな状態の基材表面が得られることとなる。
【0028】
本発明では、また、特定の状態に固定した基材表面に付着した生体材料を、当該表面の伸縮度を変えず、温度変化することだけでも基材表面に被覆された温度応答性ポリマー層の性質の変化を利用することができる。すなわち、本発明の基材表面に付着した生体材料は基材表面の伸縮度を変えずとも、温度を変えるだけで剥離させることができる。
【0029】
或いは、本発明では、特定の状態に固定した基材表面に付着した生体材料を、温度を変えず、当該基材表面を収縮することで剥離させることもできる。すなわち、本発明の基材表面に付着した生体材料は基材表面の温度を変えずとも、伸縮度を変えるだけで剥離させることができる。
【0030】
さらに、本発明では、特定の状態に固定した基材表面に付着した生体材料に対し、温度を変えず、当該表面を伸長することだけでも剥離させられる。このことは温度応答性ポリマー層に付着していた生体材料が、基材表面の延伸により引き離された結果と考えられる。
【0031】
そして、本発明では、特定の状態に固定した基材表面に付着した生体材料を、当該表面の伸縮度を変え、かつ温度変化することで基材表面に被覆された温度応答性ポリマー層の性質の変化を利用することで剥離させることもできる。本発明の場合、伸縮度を変えることと温度を変えることと併用することでより効率良く生体材料の付着、剥離を制御できるようになる。
【発明の効果】
【0032】
本発明により、これまで、温度応答性細胞培養表面基材の精密な重合条件の設計が必要であったが、ポリマー薄膜の厚みとポリマー固定化密度を同時に制御することで、目的とする培養細胞の性質にあわあせ、温度応答性細胞培養基材を伸展、収縮させることで表面の物性を変化させ、目的細胞の細胞接着および剥離を自由に制御することができる。
【実施例】
【0033】
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【実施例1】
【0034】
市販のシリコンシートを2cm角に切断したものを20枚、酸素条件下でプラズマ処理を行い、70℃の超純水400mLが入ったセパラブルフラスコ内にシリコンシート角を攪拌しながら20枚、添加し、その後に(3−アミノプロピル)トリエトキシシラン 4mLを添加し、30分間反応させた。得られたサンプルをX線光電子分光法(XPS)により表面分析を行い、アミノ基の導入を確認した(図1)。
【実施例2】
【0035】
実施例1で得られた、アミノ化シリコン膜に2−プロパノール溶媒中にN−イロプロピルアクリルアミドを10wt%、30wt%、50wt%、55wt%で溶解させた溶液を作製し、各16μLをアミノ化シリコンシート上に塗布し、その後に電子線照射重合を行い、得られたサンプルを4℃で一晩、浸漬した後、十分な洗浄、乾燥を行い、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(PIPAAm)を固定化したシリコンシート得た(10wt%、30wt%、50wt%の条件で作製したサンプルは10IP−Silicon、30IP−Silicon、50IP−Silicon、55IP−Siliconと標記)。各条件で作製したPIPAAm固定化シリコンシートのFT−IR/ATRスペクトルとXPSの表面元素組成分析値を図2、図3に示す。FT−IR/ATRのスペクトルが示すように、1650cm−1付近のPIPAAmのカルボニル基の吸収ピークが仕込みモノマー濃度の増加とともに増加していることから、仕込みモノマー濃度によりPIPAAm固定化量が増大していることを確認した。XPSの表面分析結果からも、仕込みモノマー濃度の増加により窒素原子組成の増加を示したことから、PIPAAmの仕込みモノマー依存性が確認された。
【実施例3】
【0036】
実施例2で作製したPPIAAm固定化シリコンシートの温度変化による表面濡れ性の変化を静的接触角測定法により評価した(図4)。原料となるシリコンシート(Silicon)は高い接触角を示し、温度による大きな接触角変化は示さなかった。また、シリコンシートへのアミノ基導入(NH−Silicon)より、接触角は減少したが、温度変化による大きな接触角変化は示さなかった。PIPAAm固定化量が少ない10IP−Silicon、30IP−Siliconでは、シリコンシートよりも、さらに低い接触角を示したが、温度変化による大きな接触角変化は見られなかった。50IP−Siliconでは温度変化による接触角の変化を示した。これらの結果から、親水性、疎水性変化が顕著に起こるためには一定量のPIPAAmがシリコンシート表面に固定化される必要があることが確認できた。
【実施例4】
【0037】
実施例2で作製した50IP−Siliconを用い非伸縮状態とx−y軸方向に1.13倍伸展した状態で細胞培養および細胞剥離を行った(図5、図6)。コントロールとして、実施例1で作製したアミノ基を導入したシリコンシート(NH−Silicon)を利用した。37℃で細胞播種してから24時間後の細胞接着性はNH−Siliconを100とした場合、非伸展および伸展させたPIPAAm−Silicon表面への細胞接着性は大きな違いは確認できなかった。一方、温度を20℃に変化させた場合、NH2−Siliconからは非伸展、伸展にかかわらず、20%程度の剥離挙動が確認できた。50IP−Siliconの非伸展からは効果的な細胞剥離が観察された。しかし、伸展させた50IP−Siliconからは、非伸展と比較して、効果的な細胞剥離が確認できなかった。この結果は50IP−Siliconの伸展により、固定化したPIPAAm層の密度、厚みが減少し、より疎水性表面となり接着細胞が剥離しにくくなったためである。
【実施例5】
【0038】
実施例4で使用した50IP−Siliconの細胞培養後に低温処理、トリプシン処理により細胞および表面への接着タンパク質を除去した後の走査型電子顕微鏡像を図7に示す。伸展培養後の表面にはクラックなどの亀裂が入っていないことが確認できた。この結果は、伸展した50IP−Silicon表面から細胞がはがれにくい原因はシリコンシート層の亀裂によって引き起こされるものではなく、固定化したPIPAAm層の見かけの密度、厚みの違いによって引き起こされることを示している。
【実施例6】
【0039】
60wt% IPAAmモノマー濃度で作製した表面を用いて、7.8 x 10 cells/cmの播種密度でウシ血管内皮細胞を播種し、37℃で7日間、培養を行った後に、20℃のインキュベーターに本基材を移動した所、30分間から70分の間にシート状として回収することを確認した(図8)。
【実施例7】
【0040】
ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドが基材表面に2.0μg/cm(もとの形状から150%伸展後、強い細胞接着性)被覆された表面で線維芽細胞を37℃でコンフルエントになるまで培養させた。培養後、このものを収縮させ、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドが基材表面に3.7μg/cm(もとの形状から80%収縮、非細胞接着性)の状態にすることで、37℃で細胞をシート状で回収できた。
【実施例8】
【0041】
ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドが基材表面に2.0μg/cm(もとの形状から150%伸展後、強い細胞接着性)被覆された表面で線維芽細胞を37℃でコンフルエントになるまで培養させた。培養後、このものを収縮させ、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドが基材表面に3.7μg/cm(もとの形状から80%収縮、非細胞接着性)とし、さらにポリマーの相転移温度以下にすることで、150%伸展状態の表面よりも高速に細胞をシート状で回収できた。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明であれば、温度応答性ポリマーを被覆した1種類の基材を準備すれば、その基材を伸縮することで生体材料の親和性を変えられ、多様な用途への展開をはかれる世界に類のない新規な発想による極めて重要な発明と考えている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面に0〜80℃の温度範囲内で水和力が変化する温度応答性ポリマーが被覆され、当該表面を延伸及び/又は収縮させることで生体材料との親和性を変えられる、温度応答性基材。
【請求項2】
基材が伸縮性を有する材質である、請求項1記載の温度応答性基材。
【請求項3】
基材の材質がポリジメチルシロキサンである、請求項2記載の温度応答性基材。
【請求項4】
基材表面に被覆された温度応答性ポリマーが、ポリ−N−置換アクリルアミド誘導体、ポリ−N−置換メタアクリルアミド誘導体、ポリアクリレート誘導体、ポリメタクリレート誘導体の単独、もしくはこれらの2つ以上の共重合体からなる、請求項1〜3のいずれか1項記載の温度応答性基材。
【請求項5】
温度応答性ポリマーが、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドである、請求項4記載の温度応答性基材。
【請求項6】
生体材料が、細胞、タンパク質、抗体、ペプチドのいずれか1種以上である、請求項1〜5のいずれか1項記載の温度応答性基材。
【請求項7】
温度応答性基材が細胞培養用基材である、請求項1〜6のいずれか1項記載の温度応答性基材。
【請求項8】
基材表面を延伸又は収縮させ、当該状態において基材表面の温度応答性ポリマー被覆量を2.5μg/cm2以下にさせて生体材料との親和性を高められる、請求項1〜7のいずれか1項記載の温度応答性基材。
【請求項9】
基材表面を延伸又は収縮させ、当該状態において基材表面の温度応答性ポリマー被覆量を2.5μg/cm2より高くさせて生体材料との親和性を弱められる、請求項1〜8のいずれか1項記載の温度応答性基材。
【請求項10】
伸縮性能を有する基材の表面へ0〜80℃の範囲で水に対する相互作用が変化する温度応答性ポリマー層を形成させるモノマー、オリゴマー、ポリマーの少なくとも1種以上が含まれる溶液を塗布し、その後、当該基材表面全体に温度応答性ポリマー層を形成させる、温度応答性基材の製造方法。
【請求項11】
基材の材質がポリジメチルシロキサンである、請求項10記載の温度応答性基材の製造方法。
【請求項12】
基材表面に被覆された温度応答性ポリマーが、ポリ−N−置換アクリルアミド誘導体、ポリ−N−置換メタアクリルアミド誘導体、ポリアクリレート誘導体、ポリメタクリレート誘導体の単独、もしくはこれらの2つ以上の共重合体からなる、請求項10、11のいずれか1項記載の温度応答性基材の製造方法。
【請求項13】
温度応答性ポリマーが、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドである、請求項12記載の温度応答性基材の製造方法。
【請求項14】
当該基材表面全体に温度応答性ポリマー層を形成させる方法として電子線を使用する、請求項10〜13のいずれか1項記載の温度応答性基材の製造方法。
【請求項15】
請求項1〜9のいずれか1項記載の温度応答性基材を非伸縮下、もしくは伸縮させることで特定の状態とし、当該状態に固定した基材表面を利用して生体材料を分離させる、温度応答性基材の利用方法。
【請求項16】
請求項15で特定の状態に固定した基材表面に付着した生体材料を、当該表面の伸縮度を変えず、温度変化することで基材表面に被覆された温度応答性ポリマー層の性質の変化を利用することで剥離させる、請求項15記載の温度応答性基材の利用方法。
【請求項17】
請求項15で特定の状態に固定した基材表面に付着した生体材料を、温度を変えず、当該表面を収縮することで剥離させる、請求項15記載の温度応答性基材の利用方法。
【請求項18】
請求項15で特定の状態に固定した基材表面に付着した生体材料を、温度を変えず、当該表面を伸長することで剥離させる、請求項15記載の温度応答性基材の利用方法。
【請求項19】
請求項15で特定の状態に固定した基材表面に付着した生体材料を、当該表面の伸縮度を変え、かつ温度変化することで基材表面に被覆された温度応答性ポリマー層の性質の変化を利用することで剥離させる、請求項15記載の温度応答性基材の利用方法。
【請求項20】
生体材料が細胞であり、剥離させたものが細胞シートである、請求項16〜19のいずれか1項記載の温度応答性基材の利用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−5789(P2013−5789A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152308(P2011−152308)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(501345220)株式会社セルシード (39)
【出願人】(591173198)学校法人東京女子医科大学 (48)
【Fターム(参考)】