位相情報伝送方法及び位相情報伝送システム
【課題】変換器アレイ部から音源部に向けて、位相情報を正確に伝送することを可能とする。
【解決手段】音源部24からプローブ波を変換器アレイ部20に送信する。変換器アレイ部では、プローブ波を受信して、このプローブ波に対する位相共役波を生成する。そして、この位相共役波に位相変調を施して変調位相共役波を生成して、変換器アレイ部から音源部に送り返す。音源部では、変調位相共役波から位相変調成分を抽出する。また、プローブ波の途中に位相跳躍部を挿入すれば、この部分は位相変調を受けないことを見出した。従って、音源部において、位相跳躍部を位相基準として位相検出する。このような手段によって、音源部がプローブ信号を発信した位置からずれた位置で変調位相共役波を受信した場合であっても、正しい位相情報の伝送が可能となる。
【解決手段】音源部24からプローブ波を変換器アレイ部20に送信する。変換器アレイ部では、プローブ波を受信して、このプローブ波に対する位相共役波を生成する。そして、この位相共役波に位相変調を施して変調位相共役波を生成して、変換器アレイ部から音源部に送り返す。音源部では、変調位相共役波から位相変調成分を抽出する。また、プローブ波の途中に位相跳躍部を挿入すれば、この部分は位相変調を受けないことを見出した。従って、音源部において、位相跳躍部を位相基準として位相検出する。このような手段によって、音源部がプローブ信号を発信した位置からずれた位置で変調位相共役波を受信した場合であっても、正しい位相情報の伝送が可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、位相共役波を利用して位相情報を伝送する方法及びその方法を実現するためのシステムに関する。特に、音源部からプローブ信号を送信して、このプローブ信号を変換器アレイ部で受信して位相共役波を生成し、この位相共役波に、音源位置に生成される信号の位相が規定値になるように、位相変調を施して音源部に送信することで、変換器アレイ部から音源部に位相情報を送信する方法及びこの方法を実現するためのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
海中における情報の伝送には、水中音波(以後、単に「音波」ということもある。)が用いられる。しかしながら、音波の伝播媒質である海水は均質ではない。海中には海流、水塊、渦、等の不均質が存在する。更に、海水の温度と密度とは、深度や海域によって異なっている。音波は、これらの不均質媒質によって屈折、散乱及び反射されるために、その伝播方向が変動することが多い。また、海水面と海底面とによる反射のために、その伝播経路は複雑になり、異なる経路を通った音波が互いに干渉するために、時間的にも空間的にも変動する。
【0003】
音波によって、通常の方法で、音源部が遠方に設置された観測基地あるいは潜水船へ位相情報を送ると、音波が水中を伝播する間に水面あるいは水底による反射を受けてその波形が複雑に変化するため、位相情報が正確に伝送されない場合がある。特に、水底の形状が複雑に入り組んでいたり、水中の温度分布が複雑であったりすると、この水中を伝播する音波はその波形が大きく変化してしまい、位相情報を正確に送ることは困難となる。
【0004】
最近、上述のような状況に鑑みて、海中における位相共役波に関する研究が注目されている(例えば、非特許文献1〜7参照)。音源部から送波された音波を変換器アレイ部で受波して、位相共役処理を施して、変換器アレイ部から放射すると、始めに音波を送波した音源部の位置(以後、「受波点」ということもある。)に音波が収束する。この特性を海中の通信に応用する研究が始まっている。
【0005】
位相共役波とは、ある波と同一の空間的振幅分布を持ち、その波と進行方向が逆である波を言い、時間反転波と呼称されることもある。ある音源部(例えば、潜水船に搭載された音源部)から発した音波を複数の変換器から構成される変換器アレイ部で受信して、その受信した音波を時間軸上で逆転させることによって、受信した音波に対する位相共役波を生成して、この位相共役波をこの変換器アレイ部から送信すると、元の音源部の位置(受波点)に音波は収束する。この場合受波点は、音波の焦点となっている。すなわち、位相共役波による収束は、変換器アレイ部を発した位相共役波が元の音源部の位置である受波点に到達するまでに生成される反射波及び屈折波が、時間的及び空間的に集まることによって実現される現象である。
【0006】
この現象を別の観点で説明すると、次のようになる。位相共役波を変換器アレイ部から発信すると、反射波及び屈折波等を含めた音波伝播の現象が、音源部から音波が送信された時とは時間が反転して起こるので、元の音源部の位置において、音波が送信された時とは進行方向が逆向きになって受信される。すなわち、位相共役波は、音圧の空間的分布形状が同一であって、進行方向だけが逆向きの音波であるから、音源部から送信された時と同一の空間形状で、元の音源部の位置に戻ってくることになり、音波が焦点に収束することになる。
【0007】
位相共役波が有する元の音源部に収束するという特性を利用する通信には、アクティブ方式(例えば、非特許文献8参照)とパッシブ方式(例えば、非特許文献9参照)とが知られている。
【0008】
アクティブ方式は、はじめに帯域制限フィルターを通して同位相成分パルスと直交成分パルスを生成し、これらをプローブパルスとする。そしてプローブパルスを一つの音源部から放射する。このプローブパルスを音源部から離れた位置に置かれた変換器アレイ部で受波する。受波したプローブパルスを基にして、変換器アレイ部側から音源部に向けて、送信しようとする信号をBPSK(Binary Phase Shift Keying)あるいはQPSK(Quadrature Phase Shift Keying)等の1次変調によって符号化して送信する。このようにして変換器アレイ部から送信された信号を音源部の位置で受波して位相分別する。
【0009】
この方式は、デジタル伝送方式として有望視されているが、受波した信号はその位相のばらつきが大きく、正確な位相情報を伝送することは難しいとされている。
【0010】
パッシブ方式は、はじめに一つの音源部から、プローブパルスとデータ列とが連続して構成される送信信号を放射する。次にこの送信信号を、複数の受信器を一列に並べて配置して構成される受信器アレイで受信して、この受信器アレイを構成する各受信器において、それぞれが受信したプローブパルスと受信したデータ列との相関波形を求める。そして、受信器アレイを構成する全ての受信器から出力される相関波形の和を受信信号として求める。従って、パッシブ方式は、音源部側から受信器アレイ側へ情報を伝送する方式である。この方式は、プローブパルスに制限はなく、受信器アレイを用いるなど装置が簡単であるため、デジタル伝送に適していると考えられている。
【0011】
しかしながら、受信したプローブパルスと受信したデータ列との相関波形を求める手法がとられているため、正確な位相情報を伝送することは難しいとされている。
【非特許文献1】D. R. Jackson and D. R. Dowling: "Phase conjugation in underwater acoustics", J. Acoust. Soc. Am., 89, pp. 171-181 (1991).
【非特許文献2】W. A. Kuperman, et al.: "Phase conjugation in the ocean: Experimental demonstration of an acoustic time-reversal mirror", J. Acoust. Soc. Am., 103, pp. 25-40 (1998).
【非特許文献3】W. S. Hodgkiss, et al.: "A long-range and variable forcus phase-conjugation experiment in shallow water", J. Acoust. Soc. Am., 105, pp. 1597-1604 (1999).
【非特許文献4】H. C. Song, et al.: "Iterative time reversal in the ocean", J. Acoust. Soc. Am., 105, pp. 3176-3184 (1999).
【非特許文献5】T. Yokoyama, et al.: "Detection and Selective Focusing on Scatterers Using Decomposition of Time Reversal Operator Method in Pekeris Waveguide Model", Jpn. J. Appl. Phys. 40, pp. 3822-3828 (2001).
【非特許文献6】T. Kikuchi, et al.: "Convergence Characteristics of Phase-Conjugate Waves in Deep Sound Channels", Jpn. J. Appl. Phys. 41, pp. 4739-4741 (2002).
【非特許文献7】T. Shimura, et al.: "Modes and their Phases of Phase Conjugate Waves in Shallow Water", Jpn. J. Appl. Phys. 42 pp. 3216-3218 (2003).
【非特許文献8】G. F. Edimann et al.: "An Initial Demonstration of Underwater Acoustic Communication Using Time Reversal", IEEE J. Oceanic Eng. 27, pp. 602-609 (2002).
【非特許文献9】D. Rouseff et al.: " Underwater Acoustic Communication by Passive-Phase Conjugation : Theory and Experimental Results", IEEE J. Oceanic Eng. 26, pp. 821-831 (2001).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来の位相共役波を利用する、アクティブ方式及びパッシブ方式の通信においては、上述したように、いずれの方式によっても正確な位相情報を伝送することは難しいとされている。そこでこの発明が解決しようとする第1の課題は、上述の変換器アレイ部から音源部に向けて位相情報を正確に伝送することにある。
【0013】
また、潜水船のように水中を移動する移動体に音源部が搭載されている場合、変換器アレイ部から、この音源部に向けて位相情報を送信する場合には、また別の問題がある。すなわち、音源部からプローブ波を発信して、次に変換器アレイ部から送信された変調位相共役波を音源部が受信する時には、潜水船が移動していることによって、音源部はプローブ波を発信した位置とはずれた位置にある。音源部で受信される変調位相共役波は、この音源部の位置ずれ量に比例してその位相もずれるために、本来の受信信号とは異なる信号が受信されることになる。そのために、この場合には、変換器アレイ部から音源部に対して、正しい位相情報が送信できないことが起こり得る。
【0014】
音源部が移動することにともなって発生する上述の問題点に対する解決策は、これまで知られていない。そこで、この発明が解決しようとする第2の課題は、音源部が、プローブ波を発信した位置からずれた位置で、変調位相共役波を受信した場合であっても、変換器アレイ部から音源部に対して正しい情報が送信できる位相情報伝送方法及びこの方法を実現するためのシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
以後の説明においては、混乱を避けるために、次のように用語を使い分けることもある。すなわち、電気的な波としてのプローブ波を電気プローブ波、音波としてのプローブ波を音響プローブ波と、それぞれ区別して記載することもある。電気的な波としての位相共役波を電気位相共役波、音波の状態の位相共役波を音響位相共役波と、それぞれ区別して記載することもある。音源部を構成している内部装置で生成される電気プローブ波を送信電気プローブ波、変換器アレイ部で生成される電気プローブ波を受信電気プローブ波と、それぞれ区別して記載することもある。電気位相共役波に位相変調が施されて変換器を構成している内部装置で生成される電気変調位相共役波を送信電気変調位相共役波と、音源部を構成している内部装置で生成される電気変調位相共役波を受信電気変調位相共役波と、それぞれ区別して記載することもある。
【0016】
上記問題を解決するため、この発明の位相情報伝送方法は、次に示すステップを含む。
(A)音源部で音響プローブ波を生成して、音響プローブ波を音源部から変換器アレイ部に送る第1ステップ
(B)音響プローブ波を基にして生成した音響変調位相共役波を、変換器アレイ部から音源部に送る第2ステップ
(C)音源部で、音響変調位相共役波から位相変調成分を抽出する第3ステップ
更に、上述の第1から第3ステップを、それぞれ以下のようなサブステップを含んで構成するのが好適である。
【0017】
すなわち、第1ステップは、次の3つのサブステップを含んで構成するのが好適である。
(A1)音源部で送信電気プローブ波を生成するステップ
(A2)この送信電気プローブ波を音響プローブ波に変換するステップ
(A3)音源部から音響プローブ波を変換器アレイ部に送るステップ。
【0018】
第2ステップは、次の5つのサブステップを含んで構成するのが好適である。
(B1)変換器アレイ部で、音響プローブ波を受信電気プローブ波に変換するステップ
(B2)受信電気プローブ波を電気位相共役波に変換するステップ
(B3)電気位相共役波に位相変調を施して送信電気変調位相共役波を生成するステップ
(B4)送信電気変調位相共役波を音響変調位相共役波に変換するステップ
(B5)変換器アレイ部から音響変調位相共役波を音源部に送るステップ。
【0019】
第3ステップは、次の2つのサブステップを含んで構成するのが好適である。
(C1)音源部で音響変調位相共役波を受信電気変調位相共役波に変換するステップ
(C2)受信電気変調位相共役波を介して、音響変調位相共役波の位相変調成分を抽出するステップ。
【0020】
上述の第1ステップにおいて、音響プローブ波を、互いの位相が逆位相の関係にある第1部分と第2部分とが時間軸上で直列接続されていて、第1部分と第2部分との接続部が位相跳躍部となっている音響プローブ波として生成して利用するのが好適である。
【0021】
更に、音響プローブ波を、第1プローブ波、第2プローブ波、及び第3プローブ波を含むプローブ波として生成して利用するのが好適である。ここで、第1プローブ波は、正弦波からなるトーンバースト波である。第2プローブ波は、第1プローブ波の位相と同位相の第1部分の正弦波に引き続いて第1プローブ波の位相とπ位相ずれた第2部分の正弦波を時間軸上で直列接続されていて、第1部分の正弦波と第2部分の正弦波との接続部が位相跳躍部となっているトーンバースト波である。第3プローブ波は、第1プローブ波の位相とπ位相ずれた第1部分の正弦波に引き続いて第1プローブ波の位相と同位相の第2部分の正弦波を時間軸上で直列接続されていて、第1部分の正弦波と第2部分の正弦波との接続部が位相跳躍部となっているトーンバースト波である。すなわち、第2プローブ波と第3プローブ波とは、互いの位相が逆位相の関係にある。
【0022】
上述の位相情報伝送方法を実現させるためのシステムは、次のように構成される。すなわち、この発明の位相情報伝送システムは、音源部と変換器アレイ部とを具えている。変換器アレイ部は単一の変換器のみで構成することができるが、一般的には複数の変換器を具えて構成する。音源部は、音響プローブ波を生成して変換器アレイ部に送波するとともに、変換器アレイ部から送られた音響変調位相共役波から位相変調成分を抽出する。変換器アレイ部は、音源部から送波された音響プローブ波を基にして生成した音響変調位相共役波を、音源部に送る。
【0023】
また、上述の音源部は、音響プローブ波を、互いの位相が逆位相の関係にある第1部分と第2部分とが時間軸上で直列接続されていて、第1部分と第2部分との接続部が位相跳躍部である音響プローブ波として生成する機能を有していることが好適である。
【0024】
ここでは、音源部との用語は、上述したように、音響プローブ波を生成する機能、音響変調位相共役波から位相変調成分を抽出する機能等の複数の機能を有する装置としての意味で使用する。また、変換器アレイ部及び変換器アレイ部を構成する変換器との用語は、後述するように、音源部から送波された音響プローブ波を基にして電気位相共役波を生成する機能、電気位相共役波に位相変調を施す機能等の複数の機能を有する装置としての意味で使用する。
【0025】
音源部は、第1トランスジューサーと、プローブ信号生成部と、コード識別/位相検出部と、を具えて構成するのが好適である。ここで、第1トランスジューサーは、送信電気プローブ波を音響プローブ波に変換し、かつ音響変調位相共役波を受信電気変調位相共役波に変換する機能を有する。プローブ信号生成部は、送信電気プローブ波を生成する機能を有する。コード識別/位相検出部は、受信電気変調位相共役波を介して、音響変調位相共役波の位相変調成分を抽出する機能を有する。
【0026】
更に、変換器アレイ部は、第2トランスジューサーと、時間反転部と、変調共役波生成部と、を具えて構成するのが好適である。ここで、第2トランスジューサーは、音響プローブ波を受信電気プローブ波に変換し、かつ送信電気変調位相共役波を音響変調位相共役波に変換する機能を有する。時間反転部は、受信電気プローブ波を電気位相共役波に変換する機能を有する。変調共役波生成部は、電気位相共役波に位相変調を施して送信電気変調位相共役波を生成する機能を有する。
【0027】
上述のプローブ信号生成部で生成された送信電気プローブ波は、音源部に具えられる第1トランスジューサーによって音響プローブ波に変換される。従って、送信電気プローブ波及び音響プローブ波の両者の時間波形は相似形状である。従って、プローブ信号生成部は、送信電気プローブ波を、互いの位相が逆位相の関係にある第1部分と第2部分とが時間軸上で直列接続されていて、第1部分と第2部分との接続部が位相跳躍部である送信電気プローブ波として生成する機能を有するのが好適である。
【0028】
また、上述のプローブ信号生成部は、送信電気プローブ波を、第1プローブ波、第2プローブ波、及び第3プローブ波を含んで生成する機能を有するのが好適である。ここで、第1プローブ波は、正弦波からなるトーンバースト波であ。第2プローブ波は、第1プローブ波の位相と同位相の第1部分の正弦波に引き続いて第1プローブ波の位相とπ位相ずれた第2部分の正弦波とが時間軸上で直列接続されていて、第1部分の正弦波と第2部分の正弦波との接続部が位相跳躍部であるトーンバースト波である。第3プローブ波は、第1プローブ波の位相とπ位相ずれた第1部分の正弦波に引き続いて第1プローブ波の位相と同位相の第2部分の正弦波とが時間軸上で直列接続されていて、第1部分の正弦波と第2部分の正弦波との接続部が位相跳躍部であるトーンバースト波である。
【0029】
ここで、送信電気プローブ波に含まれる第1から第3プローブ波は、もちろん電気プローブ波である。一方音響プローブ波に含まれる第1から第3プローブ波は、もちろん音響プローブ波である。以後の説明においては、特に明確に区別して説明しなければならない場合を除いて、第1から第3プローブ波が電気プローブ波であるか音響プローブ波であるかを断わらない。
【発明の効果】
【0030】
この発明の位相情報伝送方法は、上述したように(A)第1ステップ、(B)第2ステップ及び(C)第3ステップを具えている。
【0031】
これによれば、第1ステップで、音源部から変換器アレイ部に音響プローブ波が送信される。また、詳細は後述するが、第2ステップでは、音響プローブ波を基にして、位相共役波が生成されて、この位相共役波に対して位相変調が施されて音響変調位相共役波が生成される。そして、この音響変調位相共役波が音源部に送信される。第3ステップでは、この音響変調位相共役波から位相変調成分が抽出される。従って、第2ステップで位相共役波に対して実施された位相変調の結果が、音源部に正確に送信され、音源部でその位相変調成分が抽出される。
【0032】
また、詳細は後述するが、第2ステップにおいて、変換器アレイ部では、位相共役処理とともに位相共役性を損なわないで、プローブ波の位相のみを-2πから2πにわたる範囲で、かつ連続的に線形に変調を加えることが可能である。その結果、音源部で受波される位相情報を連続的に変化させて送ることが可能となる。すなわち、変換器アレイ部から音源部に向けて位相情報を正確に伝送するという、上述した第1の課題が解決する。
【0033】
ここで、位相共役性を損なわないで、プローブ波の位相に対して連続的に線形に変調を加えるとの意味を説明する。これは、受信電気プローブ波を時間反転し、それをフーリエ変換して得られる周波数スペクトルを変更せずに、プローブ波の位相を変調することを意味している。一般にプローブ波は多数の周波数成分で構成されている。プローブ波を構成する周波数の異なる全てのフーリエ成分に対して同一の大きさの位相変化を与えると、これら全てのフーリエ成分の位相ずれは同じでも、それぞれのフーリエ成分に対する時間軸上のずれの大きさは異なる。従って、プローブ波の周波数スペクトルを変化させないで、プローブ波の位相を変調することが可能となる。
【0034】
以上説明したように、この発明の位相情報伝送方法は、位相共役波が本来有している、元の音源部の位置に収束する性質が利用されている。従って、音響プローブ波である音波が海中の伝播条件等によって、その波形が大きく変化した場合であっても、変換器アレイ部から音源部に向けて送られる音響プローブ波が、音響プローブ波を送信した時点での音源部の位置に収束する。従って、高いSN比を確保して、変換器アレイ部から音源部に向けて、位相情報を正確に伝送することが可能となる。
【0035】
また、音源部によって生成される位相跳躍部を含む音響プローブ波が、この発明の位相情報伝送方法において利用される。この音響プローブ波において、位相跳躍部とは、この音響プローブ波を構成する第1部分と第2部分とが時間軸上で直列接続されている接続箇所を言う。ここで、第1部分と第2部分とは、互いの位相が逆位相の関係にある。
【0036】
一般に、位相跳躍部が挿入されていない音響プローブ波を用いて、位相共役波を利用した位相情報伝送を行うと、音源部で受信される音響変調位相共役波は、この音源部の位置ずれ量に比例してその位相もずれる。しかしながら、この発明の発明者等は、位相跳躍部が挿入された音響プローブ波を用いて、位相共役波を利用した位相情報伝送を行うと、位相跳躍部は変調を受けないことを、シミュレーションによって確かめた。また、位相跳躍部の特性はプローブ波の周波数スペクトルに関連することが理論的に示されている。この発明の位相情報伝送方法においては、周波数スペクトルを変えずに位相を変調している。このために、音響プローブ波の位相跳躍部を位相基準として位相検出をすることが可能となる。
【0037】
すなわち、音源部で受信される、受信波である音響変調位相共役波は、音源部が移動したことによる位相変化と、変換器アレイ部で行なわれた変調による位相変化とが混在することになる。しかしながら、位相跳躍部は変換器アレイ部で行なわれた変調の影響を受けないので、位相跳躍部を位相基準として、位相検出をすることが可能となる。
【0038】
従って、この発明の位相情報伝送方法によれば、音源部が、プローブ信号を発信した位置からずれた位置で、音響変調位相共役波を受信した場合であっても、位相跳躍部を位相基準として位相検出をすれば、変換器アレイ部から音源部に対して正しい情報が送信できる。すなわち、音源部が、プローブ波を発信した位置からずれた位置で、変調位相共役波を受信した場合であっても、変換器アレイ部から音源部に対して正しい情報が送信できるという、上述した第2の課題が解決する。
【0039】
この発明の位相情報伝送方法は、音源部と変換器アレイ部とを具える位相情報伝送システムで実現される。第1ステップ及び第3ステップは、音源部で実現可能であり、第2ステップは、変換器アレイ部で実現可能である。
【0040】
更に、この発明の位相情報伝送方法は、上述したように、第1ステップを3つのサブステップを含んで構成し、第2ステップを5つのサブステップを含んで構成し、及び第3ステップを2つのサブステップを含んで構成することが可能である。
【0041】
第1ステップを構成する、(A1)に示したサブステップでは、送信電気プローブ波が生成されるが、これは音源部に具えられるプローブ信号生成部を中心に実施される。(A2)に示したサブステップでは、送信電気プローブ波が音響プローブ波に変換されるが、これは音源部に具えられる第1トランスジューサーで実施される。(A3)に示したサブステップでは、音源部から音響プローブ波が変換器アレイ部に送られる。
【0042】
従って、第1ステップでは、上述の(A1)から(A3)に示したサブステップが実行されることによって、結果的に、音源部から変換器アレイ部に音響プローブ波が送信されることになる。
【0043】
第2ステップを構成する、(B1)に示したサブステップでは、音響プローブ波を受信電気プローブ波に変換されるが、これは、変換器アレイ部に具えられる第2トランスジューサーで実施される。(B2)に示したサブステップでは、受信電気プローブ波が電気位相共役波に変換されるが、これは変換器アレイ部に具えられる時間反転部を中心に実施される。(B3)に示したサブステップでは、電気位相共役波に位相変調が施され、送信電気変調位相共役波が生成されるが、これは変換器アレイ部に具えられる変調共役波生成部で実施される。(B4)に示したサブステップでは、送信電気変調位相共役波が音響変調位相共役波に変換されるが、これは変換器アレイ部に具えられる第2トランスジューサーで実施される。(B5)に示したサブステップでは、変換器アレイ部から音響変調位相共役波が音源部に送られる。
【0044】
従って、第2ステップでは、上述の(B1)から(B5)に示したサブステップが実行されることによって、結果的に、音響プローブ波を元にして生成された音響変調位相共役波が、変換器アレイ部から音源部に送信されることになる。
【0045】
第3ステップを構成する(C1)に示したサブステップでは、音響変調位相共役波が受信電気変調位相共役波に変換されるが、これは音源部に具えられる第1トランスジューサーで実施される。(C2)に示したサブステップでは、受信電気変調位相共役波を介して音響変調位相共役波の位相変調成分が抽出さるが、これは音源部に具えられるコード識別/位相検出部を中心として実施される。
【0046】
従って、第3ステップでは、上述の(C1)及び(C2)に示したサブステップが実行されることによって、結果的に、音源部において、音響変調位相共役波から位相変調成分が抽出されることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
以下、図を参照して、この発明の実施の形態につき説明する。なお、各図は、この発明に係る一構成例を図示するものであり、この発明を図示例に限定するものではない。また、各図は、この発明が理解できる程度に各構成要素の配置関係等を概略的に示してある。また、各図において同様の構成要素については、その重複する説明を省略することもある。
【実施例】
【0048】
<位相共役処理方法による位相情報の伝送>
まず、図1(A)及び(B)を参照して、位相共役処理方法による位相情報の伝送の原理について、基本的な事項について説明する。図1(A)は、海底14上の海水12中に、潜水船10が搭載している音源部24から音響プローブ波Sを発信して、潜水船10から水平方向遠方の位置に設置されている変換器アレイ部20で受信される様子を示している。変換器アレイ部20は、変換器20-1から20-7の合計7つの変換器が鉛直方向に直線的に連なって配列されて構成されている。
【0049】
図1(A)においては、合計7つの変換器から構成されている変換器アレイ部20を示しているが、必ずしも変換器の個数は7つに限られるものではない。また、変換器アレイ部20を構成する変換器が、図1(A)では、鉛直方向に一列に配置されているが、このように一列に配置する必要はなく、配置の形状は任意でよい。変換器アレイ部が具える変換器の個数は多いほど、後述する位相共役波の収束性能が高まり、水中音響通信の品質が高くなるが、変換器アレイ部が大型化し、変換器アレイ部の製造、及び海中への設置作業が困難になる。一方変換器アレイ部が具える変換器の個数が少なければ、変換器アレイ部の製造及びその設置作業が軽減される代わりに、位相共役波の収束性が悪くなり、水中音響通信の品質が低下する。従って、変換器アレイ部20を構成する変換器の個数は、位相共役波の収束性能が十分であって、かつ変換器アレイ部20の製造及び海中への設置作業が十分に行えるように、水深や、音源部24と変換器アレイ部20との距離等に応じて、必要にして十分な数とする。
【0050】
潜水船10が搭載している音源部24から発信された音響プローブ波Sは、海底面18や海水面16によって反射され(反射波)、あるいは海水12の音速分布の不均一等に起因して屈折(屈折波)し、また、海水12中に存在する障害物である氷山26等に散乱、回折されて(散乱波、回折波)、変換器アレイ部20を構成する各変換器(変換器20-1から変換器20-7)に到達する。以下の説明において、上述した反射波、屈折波、回折波、散乱波を含めて、マルチパス波ということもある。
【0051】
潜水船10が搭載している音源部24から音響プローブ波Sが発信されると、海水12を伝播中にマルチパス波を生成しつつ、変換器アレイ部20近傍では、潜水船10が搭載している音源部24から発信された直後の音響プローブ波Sとは波面が変形して音響プローブ波R(以後「受信波R」と記載することもある。)となって変換器アレイ部20で受信される。
【0052】
ここで、音源部24から発信される音響プローブ波Sについて図2を参照して説明する。図2は、音源部24から送信される音響プローブ波Sの元になる送信電気プローブ波の時間波形の一例を示す図である。図2の横軸は、秒単位で目盛った時間軸であり、縦軸は、送信電気プローブ波の振幅を任意目盛りで目盛って示してある。この送信電気プローブ波は、音源部24に具えられた第1トランスジューサーによって音響プローブ波に変換されて、音源部24から変換器アレイ部20向けて送信される。この例の場合、図2に示すように、送信電気プローブ波は、正弦波8周期分からなる電気的波であるので、音源部24から発信される音響プローブ波Sも正弦波8周期分からなるトーンバースト波となる。
【0053】
以下の説明においては、音響プローブ波の周波数を500 Hz、水深(海水面16から海底面18までの距離)を100 m、及び音源部24から変換器アレイ部20までの距離を3 kmとしてシミュレーションした結果を基にして、音響プローブ波S、受信波R、変換器アレイ部20から発信される音響変調位相共役波S'及び音源部24で受波される音響変調位相共役波R'(以後「受信波R'」と記載することもある。)について説明する。
【0054】
音源部24から発信される音響プローブ波Sは、変換器アレイ部20を構成する変換器20-1から変換器20-7までの7つの変換器において、それぞれ受信波Rとして受信される。以後の説明において、変換器アレイ部20を構成する任意の変換器について説明する場合には、単に変換器ということとする。
【0055】
図3(A)及び(B)を参照して、変換器アレイ部20を構成する変換器の一つが受波した、受信波Rを変換して生成された受信電気プローブ波の時間波形、及びそれに対する送信電気変調位相共役波の時間波形について説明する。図3(A)及び(B)の横軸は、秒単位で目盛った時間軸であり、縦軸は、振幅を任意目盛りで目盛って示してある。図3(A)は、受信電気プローブ波の時間波形を、図3(B)は、送信電気変調位相共役波の時間波形を示す。ここでは、説明の便宜のために送信電気変調位相共役波には、位相変調が施されていない。すなわち、図3(B)は、図3(A)に示す受信電気プローブ波の位相共役波である(ただし、位相変調を施した位相共役波の時間波形と同じである。)。
【0056】
音源部24から発信される音響プローブ波Sの元となった送信電気プローブ波が、図2に示すように、正弦波8周期分からなるトーンバースト波であったにもかかわらず、変換器アレイ部20を構成する変換器の一つが受波した受信波Rを変換して生成された受信電気プローブ波の時間波形は、図3(A)に示すように、非常に複雑な形状となる。
【0057】
このように受信電気プローブ波の時間波形が複雑な時間波形となる理由は、次のように説明される。音源部24から音響プローブ波Sが発信されると、海水12を伝播中にマルチパス波が順次生成され、これらのマルチパス波が重ね合わさって、変換器アレイ部20で受信される。すなわち、海水12中を伝播する間にマルチパス波が発生し、変換器アレイ部20において受信される際には、これらのマルチパス波が混在しているために、受信波Rの時間波形は複雑なものとなり、受信波Rを変換して生成された受信電気プローブ波も、図3(A)に示すように、複雑な時間波形となる。
【0058】
図3(B)は、図3(A)に示す受信電気プローブ波の位相共役波である。このことは次のように反映されている。図3(A)に示す受信電気プローブ波において、Qで示すこの波の時間軸上での位置は、Pで示すこの波の時間軸上での位置に比べて、時間的に進んだ位置にある。これに対して、図3(B)に示す送信電気変調位相共役波の時間波形においては、逆に、Qで示すこの波の時間軸上での位置は、Pで示すこの波の時間軸上での位置に比べて、時間的に遅れた位置にある。すなわち、図3(B)に示す送信電気変調位相共役波は、図3(A)に示す受信電気プローブ波の時間軸を反転した形となっており、受信電気プローブ波に対する位相共役波(または時間反転波)となっている。
【0059】
図3(B)に示す送信電気変調位相共役波には位相変調が施されていないので、図3(A)に示す受信電気プローブ波とは、互いに時間軸上で左右が逆になっているだけで、波形そのものが異なっているわけではない。すなわち、図3(B)に示す送信電気変調位相共役波は、受信波Rを電気的な波に変換されて得られる受信電気プローブ波から生成される電気位相共役波の厳密な位相共役波となっている。
【0060】
変換器アレイ部20を構成する各変換器で受信される受信波Rは、変換器が設定されている空間的な位置がそれぞれ異なるために、それぞれの時間波形は互いに異なった形状となる。
【0061】
図1(B)は、変換器アレイ部20を構成する各変換器において音響プローブ波Rに対する音響変調位相共役波S'が生成されて発信され、潜水船10で位相共役波R'が受信される様子を示している。
【0062】
変換器アレイ部20を構成している各変換器においては、音響プローブ波Rが受信されて、音響変調位相共役波S'が生成される。変換器アレイ部20から発信された直後の音響変調位相共役波S'は、海水12を伝播中にマルチパス波を生成しつつ、音源部24近傍では、変換器アレイ部20から発信された直後の音響変調位相共役波S'とは波面が変形して音響変調位相共役波R'となって音源部24で受信される。そして、位相共役波が本来的に有する性質として、位相共役波R'は、音源部24に収束する。
【0063】
図4に、音源部24と変換器アレイ部20間の水中での音波の音圧の空間的分布形状を示す。音圧が強い部分を白色で示し、音圧が弱い部分を黒色で示して、その中間強度の音圧をその強さに比例して白色に近づくように諧調をつけた灰色で示してある。図4において、横軸は距離をm単位で表示してあり、縦軸は水深をm単位で表示してある。図4において、Mで示す位置が白色となっていることが分かる。この部分が、音響プローブ波Sを発信した時の音源部24の位置を示す。また、Nで示す破線の長方形で囲われた内部に変換器アレイ部20が配置されている。図4から、音響変調位相共役波R'が音響プローブ波Sを発信した時の音源部24の位置に収束していることが見て取れる。
【0064】
音源部24の位置に、音響変調位相共役波R'が完全に収束するためには、音源部24と変換器アレイ部20との途中の、音波の伝播に対して、反射、屈折、回折、散乱等の効果を与える要素が、音響プローブ波Sが音源部24から発信されて変換器アレイ部20で受信された過程と、音響変調位相共役波S'が変換器アレイ部20から発信されて音源部24で受信される過程とが、同一の状態であることが必要である。
【0065】
例えば、海流等に起因して、海水12の屈折率分布が、音響プローブ波Sが音源部24から発信されて変換器アレイ部20で受信された時と、音響変調位相共役波S'が変換器アレイ部20から発信されて音源部24で受信された時とで異なっていれば、音響変調位相共役波R'は、完全には収束しない。しかしながら、音響プローブ波Rが変換器アレイ部20で受信されてから、音響変調位相共役波S'が発信されるまでの時間はそれほど長くはなく、実際の水中音響通信においては、海水12の屈折率分布等、音波の伝播に対して、反射、屈折、回折、散乱等の効果を与える要素が大きくその状況を変えていることはない。
【0066】
図4に示した音波の音圧の空間的な振幅分布おいては、見やすくするために、音源部と変換器アレイ部との間隔を1 kmに設定してある。これによれば、位相共役波は、空間的な観点から、音響プローブ波Sを発信した時の音源部24の位置に収束していることが分かる。
【0067】
一方、位相変調を加えない場合において、音源部24から送信される音響プローブ波の時間波形と、変換器アレイ部20から送信されてくる音響変調位相共役波の時間波形がどのようになるかを、図5(A)及び(B)を参照して説明する。図5(A)及び(B)には、それぞれ、音響プローブ波を生成するための元となった送信電気プローブ波の時間波形、及び音響変調位相共役波の時間波形を元に変換されて生成された受信電気変調位相共役波の時間波形とを示す。図5(A)及び(B)の横軸は、時間を秒単位で目盛って表示してあり、縦軸は、音圧の振幅を任意スケールで目盛って示してある。
【0068】
図5(A)に表されている送信電気プローブ波の時間波形に対して、図5(B)に示されている受信電気変調位相共役波の時間波形は、ほとんど変化していない。すなわち、受信電気変調位相共役波を構成する、一つ一つの正弦波の振幅が数パーセント揺らいでいるだけである。また、受信電気変調位相共役波の開始時点(横軸0.50秒付近)、及び終了時点(横軸0.52秒付近)に小さな波の成分が現れているが、この小さな波の振幅は、受信電気変調位相共役波の振幅の数パーセント以下である。受信電気変調位相共役波の振幅の揺らぎ、及び受信電気変調位相共役波の開始時点(横軸0.50秒付近)と終了時点(横軸0.52秒付近)とに現れている小さな波の成分は、雑音成分である。
【0069】
すなわち、これら雑音成分は、変換器アレイ部20を構成する変換器の個数を増大させることによって、低減することができる。位相共役波を利用する位相情報伝送システムを構築する場合、上述の雑音成分の大きさをどの程度以下に設定すべきかについての設計指針に対応させて、変換器アレイ部20を構成する変換器の個数を選定することが必要である。
【0070】
<プローブ波の構成>
潜水船のように水中を移動する移動体に音源部が搭載されている場合、音源部がプローブ波を発信した時と受信する時とではその位置がずれている場合がある。この場合、変換器アレイ部から音源部に対して、正しい位相情報が送信できないことが起こり得る。この場合に対処する方法として、次に説明する時間波形形状の音響プローブ波を利用する。すなわち、互いの位相が逆位相の関係にある第1部分と第2部分とが時間軸上で直列接続されていて、第1部分と第2部分との接続部を位相跳躍部として含んでいる音響プローブ波を利用する。
【0071】
既に説明したように、位相跳躍部を含む音響プローブ波を用いて、位相共役波を利用した位相情報伝送を行うと位相跳躍部は変調の影響を受けない。この点について、以下シミュレーションをした結果を用いて具体的に説明する。
【0072】
位相跳躍部は変換器アレイ部で施された変調の影響を受けないので、音源部が音響プローブ波を送波した時点と音響変調位相共役波を受波した時点とでその位置がずれている場合であっても、位相跳躍部を位相基準として、変換器アレイ部で行なわれた変調量を、正確に検出することが可能となる。
【0073】
図6から図11を参照して、この発明の位相情報伝送方法及び伝送システムにおいて利用して好適な、音響プローブ波の時間波形の代表例を3種類(第1から第3プローブ波)説明する。
【0074】
まず、一番単純な時間波形である第1プローブ波であるが、これは位相跳躍部を含まない正弦波からなるトーンバースト波である。第2プローブ波は、第1プローブ波の位相と同位相の第1部分の正弦波に引き続いて第1プローブ波の位相とπ位相ずれた第2部分の正弦波とが時間軸上で直列接続されていて、第1部分と第2部分との接続部を位相跳躍部として含んでいるトーンバースト波である。第3プローブ波は、第1プローブ波の位相とπ位相ずれた第1部分の正弦波に引き続いて第1プローブ波の位相と同位相の第2部分の正弦波とが時間軸上で直列接続されていて、第1部分と第2部分との接続部を位相跳躍部として含んでいるトーンバースト波である。従って、第2プローブ波と第3プローブ波とは、互いにその位相を反転した波形であり、互いに逆位相の関係にある。
【0075】
図6は、第1プローブ波の時間波形を示す図である。横軸は時間を秒単位で目盛って示してあり、縦軸は振幅を1に規格化して示してある。図6に示した第1プローブ波は、8周期分の正弦波で形成されており、この波形には位相跳躍部は含まれていない。この発明の位相情報伝送方法の第1ステップとして、このような時間波形を持つ音響プローブ波を、音源部から送波する。
【0076】
図7は、潜水船で受波された第1プローブ波の位相共役波に位相変調が施された受信信号の時間波形図である。すなわち、図7の時間波形は、この発明の位相情報伝送方法の第3ステップにおいて、音源部で得られた受信電気変調位相共役波の時間波形を示す。横軸は時間を秒単位で目盛って示してあり、縦軸は任意スケールで振幅を示してある。
【0077】
図7において、記号(a)〜(j)を付して示した全部で10個の波形は、それぞれ(a)から順に、変換器アレイ部において施された位相変調量がπ/4位相に相当する量ずつ変化させた場合の、潜水船における受信信号の時間波形を示している。すなわち、記号(a)を付して示す波形は、変換器アレイ部から送られる音響変調位相共役波の位相変調量を5π/4とした場合の、音源部において受信される受信信号の時間波形を示している。同様に記号(b)から記号(j)付して示す波形は、それぞれ音響変調位相共役波の位相変調量を、4π/4、3π/4、2π/4、π/4、0、-1π/4、-2π/4、-3π/4及び-4π/4とした場合の受信信号の時間波形を示している。
【0078】
図7に記号(a)から記号(j)を付して示すそれぞれの波形は、互いに隣接する波形の位相ずれ量が等しくなるように、その位相が時間軸上でシフトしている、そしてこれらの時間波形は変化していないことが読み取れる。このことは、音源部から送波された第1プローブ波の形状を壊さずに、変換器アレイ部から音源部に対して位相情報を送ることができたことを意味している。また、音源部から送波された第1プローブ波の形状を壊さずに位相情報が伝送できるということは、第1プローブ波の形状に依存せずに変換器アレイ部から音源部に対して位相情報を送ることができることを意味している。
【0079】
以上説明したように、この発明の位相共役波を用いる位相情報伝送方法は、従来知られている、アクティブ方式やパッシブ方式とは異なり、利用するプローブ波は一つのみで必要な位相情報を伝送することが可能である方法であるとともに、その利用するプローブ波の形状にも制約がない。そして、変換器アレイ部から音源部に向けて位相情報を正確に伝送することが可能であるという特長を有している。
【0080】
図8は、第2プローブ波の時間波形を示す図である。横軸は時間を秒単位で目盛って示してあり、縦軸は振幅を1に規格化して示してある。図8に示した第2プローブ波は、第1プローブ波の位相と同位相の第1部分(図中でEと示した部分)の正弦波に引き続いて第1プローブ波の位相とπ位相ずれた第2部分(図中でFと示した部分)の正弦波が時間軸上で直列接続されており、第1部分と第2部分との接続部(図中でGと示した部分)を位相跳躍部として含んでいる。第1部分は4周期分の正弦波から成っており、第2部分も4周期分の正弦波から成っている。
【0081】
図9は、潜水船で受波された第2プローブ波の位相共役波に位相変調が施された受信信号の時間波形図である。すなわち、図9の時間波形は、この発明の位相情報伝送方法の第3ステップにおいて、音源部で得られた受信電気変調位相共役波の時間波形を示す。横軸は時間を秒単位で目盛って示してあり、縦軸は任意スケールで振幅を示してある。
【0082】
図9において、記号(a)〜(j)を付して示した全部で10個の波形は、図7に示した波形と同様に、それぞれ位相変調量を、5π/4、4π/4、3π/4、2π/4、π/4、0、-1π/4、-2π/4、-3π/4及び-4π/4とした場合の受信信号の時間波形を示している。
【0083】
図9に記号(a)から記号(j)を付して示すそれぞれの波形は、記号G’を付して示した位相部分を除き、互いに隣接する波形の位相ずれ量が等しくなるように、その位相が時間軸上でシフトしていることが読み取れる。つまり、第2プローブ波として、位相跳躍部を含む音響プローブ波を用いて、位相共役波を利用した位相情報伝送を行うと、次の効果が得られることが分かる。
【0084】
すなわち、潜水船で受波された受信信号の、第2プローブ波の第1部分及び第2部分に対応する部分は、互いに隣接する波形の位相ずれ量が等しくなるように、その位相が時間軸上でシフトしているが、第2プローブ波の位相跳躍部に対応する位相部分である記号G’を付して示した位相部分は、その時間軸上での位置が変動していない。
【0085】
図10は、第3プローブ波の時間波形を示す図である。横軸は時間を秒単位で目盛って示してあり、縦軸は振幅を1に規格化して示してある。図10に示した第3プローブ波は、第1プローブ波の位相とπ位相ずれた第1部分(図中でEと示した部分)の正弦波に引き続いて第1プローブ波の位相と同位相の第2部分(図中でFと示した部分)の正弦波が時間軸上で直列接続されており、この接続部(図中でGと示した部分)を位相跳躍部として含んでいる。
【0086】
図11は、潜水船で受波された第3プローブ波の位相共役波に位相変調が施された受信信号の時間波形図である。横軸は時間を秒単位で目盛って示してあり、縦軸は任意スケールで振幅を示してある。図11において、記号(a)〜(j)を付して示した全部で10個の波形は、図7に示した波形と同様に、それぞれ位相変調量を、5π/4、4π/4、3π/4、2π/4、π/4、0、-1π/4、-2π/4、-3π/4及び-4π/4とした場合の受信信号の時間波形を示している。
【0087】
図11に記号(a)から記号(j)を付して示すそれぞれの波形は、記号G’を付して示した位相部分を除き、互いに隣接する波形の位相ずれ量が等しくなるように、その位相が時間軸上でシフトしていることが読み取れる。
【0088】
上述した第2プローブ波と同様に、位相跳躍部を含む音響プローブ波を用いて、位相共役波を利用した位相情報伝送を行うと、次の効果が得られることが分かる。潜水船で受波された受信信号の、第3プローブ波の第1部分及び第2部分に対応する部分は、互いに隣接する波形の位相ずれ量が等しくなるように、その位相が時間軸上でシフトしているが、第3プローブ波の位相跳躍部に対応する記号G’を付して示した位相部分は、その時間軸上での位置が変動していない。
【0089】
このように、第2及び第3プローブ波において、第1部分の正弦波から、第1部分の正弦波とは逆位相の第2部分の正弦波に変化するという位相跳躍部の特性は、第2及び第3プローブ波の周波数スペクトルに依存していることによって発現した現象であると解釈できる。すなわち、第2及び第3プローブ波において、その周波数スペクトルを変化させさないで、位相の変調及びその伝送が可能であることを示唆しているものと解釈することができる。
【0090】
以上、図6から図11を参照して、位相跳躍部が挿入された音響プローブ波の構成方法の一例について説明したが、この発明の位相情報伝送方法において利用される音響プローブ波としては、この例に限定されない。実施例で用いたように、第2及び第3プローブ波において、第1部分と第2部分とを等し周期としているが、両者を等しい周期とする必要はない。また、ここで例示した第1プローブ波の正弦波の周期は8周期であり、第2及び第3プローブ波において第1部分及び第2部分の周期を4周期としているが、この周期の数に限定されることもない。
【0091】
一般的に、プローブ波としては、フーリエ変換して得られる周波数スペクトルを変更せずに、位相のみを変調することができる波形であれば利用可能である。すなわち、プローブ波を構成する周波数の異なる全てのフーリエ成分に対して同一の大きさの位相変化を与えることが可能であれば、いかなる波形の波であっても、プローブ波として利用することが可能である。
【0092】
また、図7、図9及び図11において、位相変調量の最小単位をπ/4に設定した場合を示したが、位相変調量の最小単位を必ずしもπ/4に設定する必要はない。この発明の位相情報伝送方法が適用される海域の状態、伝送距離等を総合的に勘案して、この位相変調量の最小単位を任意に設定することが許される。例えば、音源部と変換器アレイ部との間隔が短く、また音源部と変換器アレイ部との間でマルチパス波の発生が小さく、伝送条件に恵まれている場合には、この位相変調量の最小単位をπ/4よりも小さく設定しても、十分良好な伝送が実現される。逆に伝送条件が悪い場合には、この位相変調量の最小単位をπ/4よりも大きく設定する必要がある。
【0093】
このような伝送条件が悪い場合とは、変換器アレイ部から受波点の間において雑音成分として付加される位相変調量が、上述の位相変調量の最小単位(図7、図9及び図11においてπ/4)より大きな場合である。この場合は、変換器アレイ部で位相共役波に施された位相変調量と、変換器アレイ部から受波点の間において雑音成分として付加される位相変調量との区別が困難となり、正常な伝送が行えない。従って、位相変調量の最小単位よりも、常に変換器アレイ部から受波点の間において雑音成分として付加される位相変調量が十分に小さくなるように、位相変調量の最小単位を設定する必要がある。
【0094】
上述の第1プローブ波、第2プローブ波、及び第3プローブ波の3種類のプローブ波を利用した位相情報伝送方法によれば、第1から第3プローブ波のそれぞれに、伝送すべき情報の種類を割り当てることができる。例えば、第1プローブ波には、音源部と変換器アレイ部間の伝播損失等の伝播状況に関する情報のやり取りを割り当てる。そして、随時第1プローブ波を音源部から送波し変換器アレイ部から返送されてくる位相共役波を基準信号として更新しつつ利用する。
【0095】
海中における音波の伝播は、時間的にも空間的にも変化するので、海中での通信やデータの伝送においては、まず始めにその海域の特性を取得する必要がある。ここで使用するプローブ波としては、その波形ができるだけ単純であることが望ましい。そこで、上述した音響プローブ波を構成する第1から第3プローブ波の内で、位相跳躍部を含んでいないことによってその波形が最も単純である第1プローブ波を、音源部と変換器アレイ部間の伝播損失等の伝播状況に関する情報のやり取りのために割り当てるのが好ましい。
【0096】
また、潜水船近傍に形成される位相共役波の音場、すなわち、音波の収束の程度等に影響する、音源部と変換器アレイ部間の伝播損失等の伝播状況は、水深や海底の地形、海水中の音速の分布構造及び潜水船と変換器アレイ部との距離に依存する。従って、潜水船の移動に従って、このような伝播状況に関する情報は、こまめに取得する必要がある。すなわち、この伝播状況に関する情報を第1プローブ波によって伝送する。
【0097】
以後の説明において、第1プローブ波、第2プローブ波及び第3プローブ波が伝送する情報の種類を、それぞれコードA、コードB及びコードCと呼ぶこととする。従って、上述したように、コードAには、潜水船と変換器アレイ部との間の伝播状況に関する情報を割り当てる。
【0098】
コードBには、例えば、潜水船の制御コードとその制御量に関する情報を割り当てる。潜水船を制御する項目としては、スラスタの回転数、舵角、浮量調整、潜水船の走行速度など、潜水船の運動に関する項目と、潜水船の深度、距離など潜水船の現況に関する項目とがある。
【0099】
また、コードCには、例えば、搭載している観測機器の制御コードとその制御量に関する情報を割り当てる。
【0100】
以上のように役割を分担された、コードA、コードB及びコードCの各コードに関する情報を伝送する第1から第3プローブ波を、一例として、以下の順序で変換器アレイ部から潜水船(音源部)に送る。
【0101】
コードAについては、A0-A1-A2-A0-A3-A4-A0-A5-A6-A0-.......、
コードBについては、B0-B1-B2-B0-B3-B4-B0-B5-B6-B0-.......、
コードCについては、C0-C1-C2-C0-C3-C4-C0-C5-C6-C0-.......、
ここで、添え字として示す0の記号は、それぞれのコードの基準信号、すなわち、位相変調量がゼロである音響プローブ波が使われることを意味している。また、添え字1あるいは2を付した音響プローブ波によって、制御する項目を示し、添え字1あるいは2以外が付された音響プローブ波によって、制御量を示すように約束しておく。すなわち、これら音響プローブ波に加えられる位相変調量に対応させてあらかじめ制御項目や、その制御量を決めておく。
【0102】
例えば、潜水船の制御コードとその制御量に関する情報が割り当てられた、コードBについて具体的に説明する。伝送する潜水船の制御コードとその制御量とは、全て基準信号B0で挟んで伝送する。最初の信号列B0-B1-B2-B0は、基準信号B0で挟まれたB1とB2とが示す位相変調量に対応させて、例えば、あらかじめ決めておいた制御項目であるスラスタという項目であることを示す。次の信号列B0-B3-B4-B0は、基準信号B0で挟まれたB3とB4とが示す位相変調量に対応させて、スラスタの回転数という制御量(毎分の回転数等)を示す。必要に応じて、信号列B0-B5-B6-B0以降の信号列によって舵角、浮量調整、潜水船の走行速度などを示すことが可能である。
【0103】
コードA及びコードCについても、制御の対象及びその制御量が異なるのみで、コードBと同様に構成する。すなわち、添え字として示す0の記号はそれぞれのコードの基準信号を示し、この基準信号で挟んで具体的な制御項目及びその制御量に関する情報を示すものとして、それぞれに役割を与えることが可能である。
【0104】
<システムの構成>
システムの構成を説明する前に、まず、音源部と変換器アレイ部を構成する変換器とにおいて、実行される処理ステップの流れについて、図12を参照して整理する。図12は、この発明の位相情報伝送方法を構成するステップを説明するためのフローチャートである。
【0105】
既に説明したように、この発明の位相情報伝送方法は、第1ステップであるステップA、第2ステップであるステップB及び第3ステップであるスッテップCを含んで構成される。そして、ステップA、ステップB及びスッテップCのそれぞれが、サブステップを含んで構成される。ステップAはサブステップA1からA3、ステップBはサブステップB1からB5、ステップCはサブステップC1及びC2を、それぞれ含んで構成される。
【0106】
図12は、ステップA、ステップB及びステップCについて、それぞれのステップに含まれるサブステップの処理内容とともに、各ステップの処理の時間的な順序を見やすく示している。まず、音源部24においてステップAが実行され音響プローブ波が変換器アレイ部20に送られる。変換器アレイ部20ではステップBが実行され音響変調位相共役波が音源部24に送られる。音源部24ではステップCが実行される。以後の説明においては、図12に示すフローチャートと対応して見やすくするために、各ステップの内容を説明する文章の後に、そのステップを便宜的に呼称するための識別記号A、A1〜A3、B、B1〜B5、C、C1、C2を括弧で括って示してある。
【0107】
(音源部の構成)
図13を参照して、音源部24の構造とその機能について説明する。図13は、音源部24の概略的ブロック構成図である。音源部24は、音響プローブ波35を生成して変換器アレイ部に送波する(第1ステップ)とともに、変換器アレイ部から送られた音響変調位相共役波65から位相変調成分を抽出する(第3ステップ)機能を果たす。
【0108】
音源部24は、第1トランスジューサー34及びプローブ信号生成及び受信装置30を基本構成として具えている。
【0109】
第1トランスジューサー34は、電気信号を音波信号に変換し、又音波信号を電気信号に変換する機能を有する。従って、第1トランスジューサー34によって、送信電気プローブ波51が音響プローブ波35に変換され、また、音響変調位相共役波65が第1サブ受信電気変調位相共役波59に変換される。この第1トランスジューサー34には、市販の任意好適な構成の音響トランスジューサーを利用することができる。例えば、水中音響トランスジューサー等と称して市販されている。
【0110】
プローブ信号生成及び受信装置(以下、単に「送受信装置」と称する場合もある。)30は、第1信号処理部32及び第1中央制御部56を具えて構成される。
【0111】
第1信号処理部32は、音響プローブ波を生成する機能と、受信電気変調位相共役波39から位相変調成分を抽出する機能とを有している。この第1信号処理部32は、プローブ信号生成部46、第1出力部48、第1入力部38、コード識別/位相検出部40、制御情報等出力部44を具えている。そして、音響プローブ波35を生成し送波する機能は、プローブ信号生成部46と第1出力部48とを中心として実現される。また、位相変調成分を抽出する機能は、第1入力部38とコード識別/位相検出部40とを中心にして実現される。
【0112】
コード識別/位相検出部40は、以下に説明するように、受信電気変調位相共役波39から位相変調成分である位相情報信号41を抽出することによって、音響変調位相共役波65の位相変調成分を抽出する。すなわち、コード識別/位相検出部40は、受信電気変調位相共役波39を介して、音響変調位相共役波65の位相変調成分を抽出する機能を有している。
【0113】
第1中央制御部56は、マイクロコンピュータで構成されている。この第1中央制御部56は、第1表示部42、第1制御部52及び第1記憶部54を具えている。第1制御部52は、いわゆる中央演算処理装置(CPU: Central Processing Unit)で構成されていて、第1記憶部54に記憶されている処理プログラムに従って、第1信号処理部32を制御する。第1記憶部54は、第1信号処理部32を制御するための処理プログラムが記憶されており、また第1信号処理部32において利用され、また、処理されるデータを一時的に保存する。すなわち、第1記憶部54は、後述する第1信号処理部32において処理される信号、例えば、送信電気プローブ波51、受信電気変調位相共役波39、及び識別されたコードやその他の所要のデータその他の制御情報を一時的に保存する。
【0114】
図13において、第1信号処理部32と第1中央制御部56とは双方向矢印で結んで示してあるが、これは、第1中央制御部56の各構成要素との間で所要のデータのやり取りを行うことを示すとともに、第1制御部52で第1信号処理部32の各構成要素の動作制御を行うことを概念的に表示したものである。
【0115】
送受信装置30が動作を開始すると、第1制御部52からの制御信号に応答して第1信号処理部32の各構成要素が始動する。
【0116】
プローブ信号生成部46は、第1サブ送信電気プローブ波47を生成する。このプローブ信号生成部46としては、市販の任意好適な構成の装置を使用すればよい。例えば、出力波形の時間形状を任意に作成するためのソフトウエアを搭載している波形形成装置が市販されているので、これらの中から任意好適な構成の装置を選んで利用することができる(例えば、インターネット<URL: http://www.toyo.co.jp/awg/ARB#SOFT.html>(平成17年6月17日検索)参照)。
【0117】
上述したコードA、B及びCを用いた位相情報伝送方法を実行する場合には、プローブ信号生成部46は、第1から第3プローブ波を生成する。コードAによって、通信海域の特性を取得する場合、プローブ信号生成部46から一定の時間間隔で、第1プローブ信号を生成して、第1出力部48に送り続ける。通信海域の特性を取得するために必要とされるだけの個数の第1プローブ波を生成し終えたら、プローブ信号生成部46から終了信号を第1制御部52に送り、第1プローブ波の生成をやめて、第1プローブ波を第1出力部48に送る動作を終了する。必要とされる第1プローブ波の個数は、第1記憶部54に記憶されており、第1制御部52は、この個数を第1記憶部54から取得して、プローブ信号生成部46に対して、第1プローブ波の生成時期と、生成すべき個数とを指示する。
【0118】
上述したように、第1プローブ波は、変換器アレイ部20で位相共役波に変換され、更に位相変調がされて生成された音響変調位相共役波として、時間軸上で一列に並べられて、A0-A1-A2-A0-A3-A4-A0-A5-A6-A0-.......、の形式で、音源部24に送り返される。そして、この音響変調位相共役波は、後述するように、第1トランスジューサー34で受波される。A0、A1、A2等の記号の意味する内容は、既に説明したとおりである。また、コードB及びコードCに対応する第2及び第3プローブ波を生成する場合も同様である。
【0119】
第1サブ送信電気プローブ波47は、第1出力部48に送られる(ステップAが含むサブステップ(A1))。第1出力部48では、第1サブ送信電気プローブ波47を送信するタイミングが調整され、第2サブ送信電気プローブ波49として、第1増幅器50に送られる。第1サブ送信電気プローブ波47が第1増幅器50に送られるタイミングは、第1トランスジューサー34が音響変調位相共役波65を受信している動作状態にないことを、第1入力部38からの動作信号を基にして第1制御部52が判断して、第1制御部52から、第1出力部に対して動作開始信号を送ることによって、調整される。
【0120】
第1出力部48から第1増幅器50に送られた第2サブ送信電気プローブ波49は、第1増幅器50によって、第1トランスジューサー34が動作可能であるレベルまで増幅され、送信電気プローブ波51として第1トランスジューサー34に送られる。送信電気プローブ波51は、第1トランスジューサー34によって、電気信号から音波信号である音響プローブ波35に変換される(ステップAが含むサブステップ(A2))。そして、音響プローブ波35は、変換器アレイ部20に向けて送波される(ステップAが含むサブステップ(A3))。
【0121】
一方、変換器アレイ部20から送波された音響変調位相共役波65は、第1トランスジューサー34によって受波され、音波信号である音響変調位相共役波65は電気信号である第1サブ受信電気変調位相共役波59に変換されて、第1前置増幅器36に送られる(ステップCが含むサブステップ(C1))。
【0122】
例えば、第1プローブ波に対する変換器アレイ部20から送波される音響変調位相共役波65は、時間軸上で、A0-A1-A2-A0-A3-A4-A0-A5-A6-A0-.......、の形式で一列に並べられて、音源部24に送られてくる。
【0123】
第1前置増幅器36では第1サブ受信電気変調位相共役波59が増幅されて第2サブ受信電気変調位相共役波37として第1入力部38に送られる。また、第1前置増幅器36は、音響プローブ波35を送波する際に、第1サブ受信電気変調位相共役波59に混入する可能性のあるエネルギーの大きな信号が、第1入力部38に入力されることを防ぐ役割も果たす。
【0124】
第1制御部52は、第1入力部38に第2サブ受信電気変調位相共役波37が入力されたことに応答して、予め第1記憶部54に記憶されているフィルタリング指示信号及びタイミング指示信号を読み出してきて、第1入力部38にフィルタリング指示信号を、及び第1出力部48にタイミング指示信号を送る。
【0125】
第1入力部38は、第2サブ受信電気変調位相共役波37に対する時間的なフィルタリングを行うように指示が与えられ、これと同時に、第1出力部48には、第1サブ送信電気プローブ波47を送信するタイミングの指示が与えられる。この指示に従って、第1入力部38では、第2サブ受信電気変調位相共役波37に対して時間的なフィルタリングが行われる。
【0126】
すなわち、このフィルタリング指示信号によって音響プローブ波35として変換器アレイ部20に送波したトーンバースト波の時間幅に等しい時間だけ信号を通過させ、それ以外の時間帯にある信号成分を遮断する、いわゆる時間窓によるフィルター処理が第1入力部38において実行される。一方、タイミング指示信号によって、第1出力部48からは、既に説明したとおり、第1サブ送信電気プローブ波47が出力される。
【0127】
第1トランスジューサー34によって受波される音響変調位相共役波65は、図5(B)に示す電気的な波として変換されて生成された第2サブ受信電気変調位相共役波37の時間波形から分かるように、僅かであるが雑音成分が混ざっている。この雑音成分がこの時間窓によるフィルター処理によって第2サブ受信電気変調位相共役波37から除去される。
【0128】
第2サブ受信電気変調位相共役波37から雑音成分が除去されて、かつ増幅された受信電気変調位相共役波39が、第1入力部38から出力されてコード識別/位相検出部40に入力される。コード識別/位相検出部40では、以下に詳説するように、ステップCが含むサブステップ(C2)が実行される。
【0129】
第1制御部52は、コード識別/位相検出部40に受信電気変調位相共役波39が入力したことに応答して、コード識別/位相検出部40に対して、第1入力部38から出力される受信電気変調位相共役波39を第1記憶部54に一時的に取り込む指示を与える。続いて、第1制御部52は、第1記憶部54に保存されている基準コードと、一時記憶された受信電気変調位相共役波39とを読み出してきてコード識別/位相検出部40に提供する。そしてこれと同時に第1制御部52は、第1記憶部54に記憶されている手順に従って受信電気変調位相共役波39と基準コード信号との相互相関値を計算する指示をコード識別/位相検出部40に与える。
【0130】
コード識別/位相検出部40に入力される受信電気変調位相共役波39は、例えば、コードAである場合、具体的には、時間軸上で、第1プローブ波を搬送波として生成された複数の受信電気変調位相共役波(A0、A1、A2、A0、A3、A4、A0、A5、A6、A0、....、)が時間軸上に一列に並んだプローブ波列である。すなわち、コード識別/位相検出部40には、一定の時間間隔で、受信電気変調位相共役波A0、A1、A2、A0、A3、A4、A0、A5、A6、A0、....、が順次入力される。従って、受信電気変調位相共役波39がコード識別/位相検出部40に入力されるといった場合には、一定の時間間隔で、受信電気変調位相共役波A0、A1、A2、A0、A3、A4、A0、A5、A6、A0、....、が順次入力されることを意味する。コードB及びコードCの場合にも同様である。以後の説明において、受信電気変調位相共役波A0等の一つ一つのプローブ波をパルス波と称することもある。
【0131】
コード識別/位相検出部40では、まず、受信電気変調位相共役波39のコードの識別が行われる。これは、例えば、コードAの場合には、受信電気変調位相共役波A0を用いて行われる。また、コードB及びコードCの場合にも同様である。第1制御部52の指示によって、コード識別/位相検出部40では、受信電気変調位相共役波39のコードと基準コードとが比較されて、両コードが対比されて識別される。
【0132】
基準コードとは、例えば、コードAの場合、図6に示す時間波形に対応する波のことであり、この波に関するデータ(この波を生成するのに必要な振幅、波長等のデータ)は、第1記憶部54に保存されている。第1記憶部54には、コードB、コードCの波に対する基準コードに関するデータも同様に保存されている。
【0133】
コード識別/位相検出部40における、識別動作は、第1記憶部54に保存されている各基準コードと受信電気変調位相共役波39の各コードとの相互相関値を求めることによって行われる。すなわち、受信電気変調位相共役波39のコードは、この相互相関値が最も大きな基準コードに対応するものと判定される。すなわち、これによって、受信電気変調位相共役波39が、コードA、コードBあるいはコードCの何れに属するかが判定される。
【0134】
この判定処理の終了に応答して、第1制御部52は、第1記憶部54に記憶されている位相情報を求めるためのプログラムを起動させる。
【0135】
例えば、受信電気変調位相共役波39がコードAに属すると判定された場合、コードAのパルス波に対してπ/4の整数倍の位相変調を施したパルス波と、受信電気変調位相共役波39としてコード識別/位相検出部40に一定の時間間隔でA0、A1、A2、A0、A3、A4、A0、A5、A6、A0、....、の形で順次送られてくるパルス波との相互相関値が、コード識別/位相検出部40において求められる。この結果、コードAのパルス波において(例えばパルス波A1として時間軸上で割り当てられた位置のパルス波において)、基準コードに対してπ/4の整数倍の位相変調を施して得られるパルス波の内で、最も大きな相互相関値が得られるパルス波の位相変調量が、そのパルス波(この場合、パルス波A1)に施されている位相変調量であると判定する。このようにして、次々に時間軸上に一列に並んだプローブ波列を構成するパルス波の位相変調量が判定されることによって、時間軸上に一列に並んだプローブ波列としての受信電気変調位相共役波39から位相情報がコードAによって送られてきた位相情報の列(以後、単に「位相情報」という。)として識別される。識別された位相情報は、第1制御部52の指示によって第1記憶部54に記憶される。
【0136】
第1制御部52によって、第1記憶部54に記憶されている位相情報と潜水船や観測装置の制御情報との対照関係データをコード識別/位相検出部40に提供する。コード識別/位相検出部40では、第1制御部52からの指示に基づいて、受信電気変調位相共役波39から取得された位相情報が、第1記憶部54に記憶されている対照表から潜水船や観測装置の制御情報として読み取られ、それらの情報が位相情報信号41として供給される。位相情報等出力部44は、コード識別/位相検出部40で取得された潜水船や観測装置の運航制御情報を、潜水船に具えられた音源部以外の各機器へ送るタイミングを調整して、これら各機器へこれらの情報を送るための端末装置である。位相情報信号41は、第1制御部52を介して第1表示部42に取り込まれ表示される。
【0137】
(変換器アレイ部を構成する変換器の構成)
図14を参照して、変換器アレイ部20を構成する変換器の構成とその機能について説明する。変換器アレイ部20は、音源部24から送波された音響プローブ波35を基にして音響変調位相共役波65を生成し、この音響変調位相共役波65を音源部24に送る(ステップB)機能を有している。
【0138】
変換器アレイ部を構成する変換器は、全て同一構成である。図14は、変換器アレイ部20を構成する一つ変換器20-1に関する、概略的ブロック構成図である。変換器20-1は、第2トランスジューサー64及び位相信号生成及び送信装置60を基本構成要素として具えている。
【0139】
第2トランスジューサー64は、第1トランスジューサー34と同様に電気信号を音波信号に変換し、又音波信号を電気信号に変換する機能を有する。従って、第2トランスジューサー64によって、送信電気変調位相共役波85が音響変調位相共役波65に変換され、また、音響プローブ波35が第1サブ受信電気プローブ波57に変換される。この第2トランスジューサー64には、第1トランスジューサー34と同様に通常の音響トランスジューサーの中から任意好適な構成のものを選んで利用することができる。
【0140】
位相信号生成及び送信装置60が動作を開始すると、第2制御部88からの制御信号に応答して第2信号処理部62の各構成要素が始動する。位相信号生成及び送信装置60は、第2信号処理部62及び第2中央制御部92を具えて構成される。
【0141】
第2信号処理部62は、第2入力部68、コード識別部70、時間反転部72、変調共役波生成部94、及び第2出力部82を具えて構成される。そして、第2信号処理部62は、音源部24から送波された音響プローブ波35を受波して、音響プローブ波35に対する電気位相共役波73を生成する機能を有している。また、電気位相共役波73に位相変調を施して第2サブ送信電気変調位相共役波83を生成する機能を有している。
【0142】
第2中央制御部92は、マイクロコンピュータで構成されている。第2中央制御部92は、第2表示部86、第2制御部88及び第2記憶部90を具えている。第2制御部88は、いわゆる中央演算処理装置(CPU)で構成されていて、第2記憶部90に記憶させてある処理プログラムに従って、第2信号処理部62を制御する。第2記憶部90は、第2信号処理部62を制御するための処理プログラムが記憶されており、また第2信号処理部62において利用され、また、処理されるデータを一時的に記憶する。すなわち、第2記憶部90は、第2信号処理部62において処理される信号、例えば、受信信号である音響プローブ波35、電気位相共役波73、スペクトル解析信号75、変調信号77、周波数変調波79、第1サブ送信電気変調位相共役波81等を記憶する。
【0143】
図14において、第2信号処理部62と第2中央制御部92とは双方向矢印で結んで示してあるが、これは、第2中央制御部92の主要構成要素である第2制御部88と、第2信号処理部62を構成している各構成要素との間で所要のデータのやり取りを行うことを示すとともに、第2制御部88で第2信号処理部62の各構成要素の動作制御を行うことを概念的に表示したものである。
【0144】
音源部24から送波された音響プローブ波35を受波してこの音響プローブ波35を基にして電気位相共役波73を生成する機能は、第2トランスジューサー64、第2前置増幅器66、第2入力部68、コード識別部70及び時間反転部72によって実現される。
【0145】
音波信号である音響プローブ波35は、第2トランスジューサー64で受波されて、電気信号である第1サブ受信電気プローブ波57に変換されて第2前置増幅器66に入力される(ステップBが含むサブステップ(B1))。第2前置増幅器66は、第1サブ受信電気プローブ波57を増幅して第2サブ受信電気プローブ波67として出力し、第2入力部68に入力する。また、第2前置増幅器66は、音響変調位相共役波65を送波する際に、第1サブ受信電気プローブ波57に混入する可能性のあるエネルギーの大きな信号が、第2入力部68に入力されることを防ぐ役割も果たす。
【0146】
第2制御部88は、第2入力部68に第2サブ受信電気プローブ波67が入力されたことに応答して、予め第2記憶部90に記憶されているフィルタリング指示信号及びタイミング指示信号を読み出してきて、第2入力部68にフィルタリング指示信号を、及び第2出力部82にタイミング指示信号を送る。
【0147】
すなわち、第2制御部88から、第2入力部68には、第2サブ受信電気プローブ波67に対する時間的なフィルタリングを行うように、指示が与えられ、これと同時に、第2出力部82には第1サブ送信電気変調位相共役波81を入力する指示が与えられる。この指示に従って、第2入力部68では、第2サブ受信電気プローブ波67に対して時間的なフィルタリングが行われる。すなわち、音響プローブ波35として送波されたトーンバースト波がマルチパスによって延伸した時間幅よりやや大きな時間だけ信号を通過させ、それ以外の時間帯にある信号成分を遮断する、いわゆる時間窓によるフィルター処理が第2入力部68において実行される。すなわち、第2サブ受信電気プローブ波67に混入されている雑音成分の一部がこの時間窓によるフィルター処理によって除去され、第3サブ受信電気プローブ波69として出力されてコード識別部70に入力される。
【0148】
第2制御部88は、コード識別部70に第3サブ受信電気プローブ波69が入力したことに応答して、コード識別部70に対して第2入力部68から出力される第3サブ受信電気プローブ波69を第2記憶部90に一時的に取り込む指示を与える。
【0149】
コード識別部70では、第3サブ受信電気プローブ波69に対して第2記憶部90に保存されている基準コードと比較が行われコードが識別される。この識別動作は、第2記憶部90に保存されている基準コードと第3サブ受信電気プローブ波69との相互相関値を求めることによって行われる。すなわち、第3サブ受信電気プローブ波69のコードは、この相互相関値が最も大きな基準コードに対応するものと判定される。コード識別部70でコードが識別された第3サブ受信電気プローブ波69は、受信電気プローブ波71として時間反転部72に入力される。
【0150】
第2制御部88は、時間反転部72に受信電気プローブ波71が入力したことに応答して、時間反転部72に対してコード識別部70から出力される受信電気プローブ波71を第2記憶部90に一時的に取り込む指示を与える。
【0151】
また、コード識別部70で識別されたコード情報は、第2制御部88を介して第2記憶部90に記憶されるとともに、第2表示部86に表示される。
【0152】
時間反転部72は、受信電気プローブ波71を電気位相共役波73に変換する機能を有している(ステップBが含むサブステップ(B2))。時間反転部72では、受信電気プローブ波71に対する時間窓を設定して、時間軸を反転する。これは、識別されたコードに対応する基準コードの時間軸上での幅に等しい時間だけ受信電気プローブ波71を通過させ、通過した時間波形を第2記憶部90に時間の順序のとおりに一時的に記憶させる。受信電気プローブ波71に対する時間窓を通過した全ての信号成分が第2記憶部90に記憶されたら、記憶された時間の順序とは逆に、時間的に最後に記憶された信号成分から順に時間的に最初に記憶された信号成分が最後になるように、第2記憶部90から信号成分を取り出して時間軸上に再配列する。そうすると、受信電気プローブ波71とは時間軸が反転された電気位相共役波73が生成される。この電気位相共役波73は、変調共役波生成部94に入力される。
【0153】
電気位相共役波73に位相変調を施して第1サブ送信電気変調位相共役波81を生成する機能は、変調共役波生成部94によって実現される(ステップBが含むサブステップ(B3))。変調共役波生成部94は、電気位相共役波73に位相変調を施して第1サブ送信電気変調位相共役波81を生成する機能を有している。第1サブ送信電気変調位相共役波81は、第2出力部82に入力され、第2サブ送信電気変調位相共役波83として出力される。第2サブ送信電気変調位相共役波83は、第2増幅器84によって、第2トランスジューサー64が動作可能である強度まで増幅されて、送信電気変調位相共役波85として第2増幅器84から出力される。送信電気変調位相共役波85は、第2トランスジューサー64によって、音響変調位相共役波65に変換されて音源部24に送波される。
【0154】
変調共役波生成部94は、スペクトル解析部74、変調信号生成部76、位相変調部78、及びパルス波生成部80を具えている。
【0155】
スペクトル解析部74は、電気位相共役波73をフーリエ変換して周波数スペクトルを求めて、スペクトル解析信号75として出力する機能を有している。
【0156】
スペクトル解析信号75は、位相変調部78に入力される。また、位相変調部78には、変調信号生成部76から変調信号77も入力される。位相変調部78にスペクトル解析信号75が入力したことに応答して、第2制御部88から、変調信号生成部76に対して変調信号77を出力するように指示する出力指示信号が送られる。変調信号生成部76は、この出力指示信号に基づいてスペクトル解析信号75と同期させて変調信号77を位相変調部78に対して出力する。
【0157】
スペクトル解析信号75と同期させて変調信号77を位相変調部78に対して出力するとは、より具体的に説明すると次のようになる。すなわち、スペクトル解析信号75は、コードA、B及びCを構成するそれぞれの複数のプローブ波に対応するスペクトル解析信号が時間軸上に一列に並んだ、スペクトル解析信号列である。このスペクトル解析信号列を構成する個々のスペクトル解析信号75と同期させて変調信号77を位相変調部78に対して出力するという意味である。変調信号生成部76は、コードAの場合を例にして説明すると、A1、A2、A3、A4、A5、A6のぞれぞれに与える位相変調量に相当する、スペクトル解析信号列を構成する個々のスペクトル解析信号75と同期させて、変調信号77を位相変調部78に対して出力するという意味である。また、コードB及びCについても同様である。
【0158】
位相変調部78にスペクトル解析信号75及び変調信号77が入力したことに応答して、位相変調部78では、スペクトル解析部74で生成されたスペクトル解析信号75に対して、変調信号生成部76で生成された変調信号77に基づいて位相変調が行われて、周波数変調波79が生成される。
【0159】
位相変調部78では、位相共役性を損なわないで、電気位相共役波73の位相に対して連続的に線形に変調が加えられる。これは、電気位相共役波73をフーリエ変換して得られるスペクトル解析信号75を変更せずに、電気位相共役波73の位相を変調することを意味している。電気位相共役波73は多数の周波数成分で構成されている。そこで、位相変調部78では、電気位相共役波73を構成する周波数の異なる全てのフーリエ成分に対して同一の大きさの位相変化が与えられる。これら全てのフーリエ成分の位相変調量は同じでも、それぞれのフーリエ成分に対する時間軸上のずれの大きさは異なる。すなわち、位相変調部78では、電気位相共役波73の周波数スペクトルを変化させないで、電気位相共役波73の位相が変調されて、周波数変調波79として出力される。
【0160】
パルス波生成部80は、周波数スペクトルを逆フーリエ変換して時間列パルスを生成する機能を有している。従ってパルス波生成部80では、周波数変調波79が逆フーリエ変換されて第1サブ送信電気変調位相共役波81が生成されて出力される。第1サブ送信電気変調位相共役波81は、第2出力部82に入力される。変換器アレイ部20を構成する全ての変換器において、第2出力部82では、第1サブ送信電気変調位相共役波81に対して、それぞれ送信するタイミングが調整されて、第2増幅器84に第2サブ送信電気変調位相共役波83として送られる。
【0161】
第2出力部82で行われる上記のタイミング調整は、第2入力部68に第2サブ受信電気プローブ波67が入力されていない時間帯を、第2制御部88が判定して、その判定に基づいて、第2出力部82に対して、第2増幅器84への第2サブ送信電気変調位相共役波83入力許可信号を出す。そして、第2入力部68からは、第2サブ受信電気プローブ波67が入力されたことに応答して、第2サブ受信電気プローブ波67受信信号を第2制御部88に送る。第2制御部88は、この受信信号が第2入力部68から送られていない時間帯を選んで、第2増幅器84への第2サブ送信電気変調位相共役波83入力許可信号を出す。第2サブ送信電気変調位相共役波83は、第2増幅器84への第2サブ送信電気変調位相共役波83入力許可信号が、第2制御部88から第2出力部82に対して出されるまでの間、第2記憶部90に保存される。
【0162】
第2増幅器84では、第2サブ送信電気変調位相共役波83を第2トランスジューサー64が動作するレベルまで増幅し、送信電気変調位相共役波85として2トランスジューサー64に送る。2トランスジューサー64では、送信電気変調位相共役波85が音響変調位相共役波65に変換されて(ステップBが含むサブステップ(B4))、音源部24に送波される(ステップBが含むサブステップ(B5))。
【0163】
第2表示部86は、コード識別部70で識別されたコードに関する情報と、変調信号生成部76から供給される変調信号77に関する位相情報とを表示する機能を有している。また、変換器アレイ部20から音源部にむけて送るべき情報を入力するための機能を有している。第2表示部86に入力された位相情報は、第2制御部88を介して、変調信号生成部76に送られて、入力された位相情報に対応する変調信号77が生成されて位相変調部78に供給される。
【0164】
これによって、観測船22において、変換器アレイ部20で受信される音響プローブ波35及び変換器アレイ部20から送信される位相情報について監視することができるとともに、及び観測船22から潜水船10に送るべき情報を入力できる。
【図面の簡単な説明】
【0165】
【図1】位相情報伝送方法の説明に供する図である。
【図2】音源部から送信される音響プローブ波の元になる送信電気プローブ波の時間波形を示す図である。
【図3】変換器アレイ部の受波及び送波電気信号の時間波形図である。
【図4】水中での音波の音圧分布図である。
【図5】送信電気プローブ波の時間波形及び受信電気変調位相共役波の時間波形を示す図である。
【図6】第1プローブ波の時間波形図である。
【図7】潜水船で受波された第1プローブ波の位相共役波に位相変調が施された受信信号の時間波形図である。
【図8】第2プローブ波の時間波形図である。
【図9】潜水船で受波された第2プローブ波の位相共役波に位相変調が施された受信信号の時間波形図である。
【図10】第3プローブ波の時間波形図である。
【図11】潜水船で受波された第3プローブ波の位相共役波に位相変調が施された受信信号の時間波形図である。
【図12】この発明の位相情報伝送方法のフローチャートである。
【図13】音源部の概略的ブロック構成図である。
【図14】変換器アレイ部を形成する変換器の概略的ブロック構成図である。
【符号の説明】
【0166】
10:潜水船
12:海水
14:海底
16:海水面
18:海底面
20:変換器アレイ部
22:観測船
24:音源部
26:氷山
30:プローブ信号生成及び受信装置
32:第1信号処理部
34:第1トランスジューサー
36:第1前置増幅器
38:第1入力部
40:コード識別/位相検出部
42:第1表示部
44:制御情報等出力部
46:プローブ信号生成部
48:第1出力部
50:第1増幅器
52:第1制御部
54:第1記憶部
56:第1中央制御部
60:位相信号生成及び送信装置
62:第2信号処理部
64:第2トランスジューサー
66:第2前置増幅器
68:第2入力部
70:コード識別部
72:時間反転部
74:スペクトル解析部
76:変調信号生成部
78:位相変調部
80:パルス波生成部
82:第2出力部
84:第2増幅器
86:第2表示部
88:第2制御部
90:第2記憶部
92:第2中央制御部
94:変調共役波生成部
【技術分野】
【0001】
この発明は、位相共役波を利用して位相情報を伝送する方法及びその方法を実現するためのシステムに関する。特に、音源部からプローブ信号を送信して、このプローブ信号を変換器アレイ部で受信して位相共役波を生成し、この位相共役波に、音源位置に生成される信号の位相が規定値になるように、位相変調を施して音源部に送信することで、変換器アレイ部から音源部に位相情報を送信する方法及びこの方法を実現するためのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
海中における情報の伝送には、水中音波(以後、単に「音波」ということもある。)が用いられる。しかしながら、音波の伝播媒質である海水は均質ではない。海中には海流、水塊、渦、等の不均質が存在する。更に、海水の温度と密度とは、深度や海域によって異なっている。音波は、これらの不均質媒質によって屈折、散乱及び反射されるために、その伝播方向が変動することが多い。また、海水面と海底面とによる反射のために、その伝播経路は複雑になり、異なる経路を通った音波が互いに干渉するために、時間的にも空間的にも変動する。
【0003】
音波によって、通常の方法で、音源部が遠方に設置された観測基地あるいは潜水船へ位相情報を送ると、音波が水中を伝播する間に水面あるいは水底による反射を受けてその波形が複雑に変化するため、位相情報が正確に伝送されない場合がある。特に、水底の形状が複雑に入り組んでいたり、水中の温度分布が複雑であったりすると、この水中を伝播する音波はその波形が大きく変化してしまい、位相情報を正確に送ることは困難となる。
【0004】
最近、上述のような状況に鑑みて、海中における位相共役波に関する研究が注目されている(例えば、非特許文献1〜7参照)。音源部から送波された音波を変換器アレイ部で受波して、位相共役処理を施して、変換器アレイ部から放射すると、始めに音波を送波した音源部の位置(以後、「受波点」ということもある。)に音波が収束する。この特性を海中の通信に応用する研究が始まっている。
【0005】
位相共役波とは、ある波と同一の空間的振幅分布を持ち、その波と進行方向が逆である波を言い、時間反転波と呼称されることもある。ある音源部(例えば、潜水船に搭載された音源部)から発した音波を複数の変換器から構成される変換器アレイ部で受信して、その受信した音波を時間軸上で逆転させることによって、受信した音波に対する位相共役波を生成して、この位相共役波をこの変換器アレイ部から送信すると、元の音源部の位置(受波点)に音波は収束する。この場合受波点は、音波の焦点となっている。すなわち、位相共役波による収束は、変換器アレイ部を発した位相共役波が元の音源部の位置である受波点に到達するまでに生成される反射波及び屈折波が、時間的及び空間的に集まることによって実現される現象である。
【0006】
この現象を別の観点で説明すると、次のようになる。位相共役波を変換器アレイ部から発信すると、反射波及び屈折波等を含めた音波伝播の現象が、音源部から音波が送信された時とは時間が反転して起こるので、元の音源部の位置において、音波が送信された時とは進行方向が逆向きになって受信される。すなわち、位相共役波は、音圧の空間的分布形状が同一であって、進行方向だけが逆向きの音波であるから、音源部から送信された時と同一の空間形状で、元の音源部の位置に戻ってくることになり、音波が焦点に収束することになる。
【0007】
位相共役波が有する元の音源部に収束するという特性を利用する通信には、アクティブ方式(例えば、非特許文献8参照)とパッシブ方式(例えば、非特許文献9参照)とが知られている。
【0008】
アクティブ方式は、はじめに帯域制限フィルターを通して同位相成分パルスと直交成分パルスを生成し、これらをプローブパルスとする。そしてプローブパルスを一つの音源部から放射する。このプローブパルスを音源部から離れた位置に置かれた変換器アレイ部で受波する。受波したプローブパルスを基にして、変換器アレイ部側から音源部に向けて、送信しようとする信号をBPSK(Binary Phase Shift Keying)あるいはQPSK(Quadrature Phase Shift Keying)等の1次変調によって符号化して送信する。このようにして変換器アレイ部から送信された信号を音源部の位置で受波して位相分別する。
【0009】
この方式は、デジタル伝送方式として有望視されているが、受波した信号はその位相のばらつきが大きく、正確な位相情報を伝送することは難しいとされている。
【0010】
パッシブ方式は、はじめに一つの音源部から、プローブパルスとデータ列とが連続して構成される送信信号を放射する。次にこの送信信号を、複数の受信器を一列に並べて配置して構成される受信器アレイで受信して、この受信器アレイを構成する各受信器において、それぞれが受信したプローブパルスと受信したデータ列との相関波形を求める。そして、受信器アレイを構成する全ての受信器から出力される相関波形の和を受信信号として求める。従って、パッシブ方式は、音源部側から受信器アレイ側へ情報を伝送する方式である。この方式は、プローブパルスに制限はなく、受信器アレイを用いるなど装置が簡単であるため、デジタル伝送に適していると考えられている。
【0011】
しかしながら、受信したプローブパルスと受信したデータ列との相関波形を求める手法がとられているため、正確な位相情報を伝送することは難しいとされている。
【非特許文献1】D. R. Jackson and D. R. Dowling: "Phase conjugation in underwater acoustics", J. Acoust. Soc. Am., 89, pp. 171-181 (1991).
【非特許文献2】W. A. Kuperman, et al.: "Phase conjugation in the ocean: Experimental demonstration of an acoustic time-reversal mirror", J. Acoust. Soc. Am., 103, pp. 25-40 (1998).
【非特許文献3】W. S. Hodgkiss, et al.: "A long-range and variable forcus phase-conjugation experiment in shallow water", J. Acoust. Soc. Am., 105, pp. 1597-1604 (1999).
【非特許文献4】H. C. Song, et al.: "Iterative time reversal in the ocean", J. Acoust. Soc. Am., 105, pp. 3176-3184 (1999).
【非特許文献5】T. Yokoyama, et al.: "Detection and Selective Focusing on Scatterers Using Decomposition of Time Reversal Operator Method in Pekeris Waveguide Model", Jpn. J. Appl. Phys. 40, pp. 3822-3828 (2001).
【非特許文献6】T. Kikuchi, et al.: "Convergence Characteristics of Phase-Conjugate Waves in Deep Sound Channels", Jpn. J. Appl. Phys. 41, pp. 4739-4741 (2002).
【非特許文献7】T. Shimura, et al.: "Modes and their Phases of Phase Conjugate Waves in Shallow Water", Jpn. J. Appl. Phys. 42 pp. 3216-3218 (2003).
【非特許文献8】G. F. Edimann et al.: "An Initial Demonstration of Underwater Acoustic Communication Using Time Reversal", IEEE J. Oceanic Eng. 27, pp. 602-609 (2002).
【非特許文献9】D. Rouseff et al.: " Underwater Acoustic Communication by Passive-Phase Conjugation : Theory and Experimental Results", IEEE J. Oceanic Eng. 26, pp. 821-831 (2001).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来の位相共役波を利用する、アクティブ方式及びパッシブ方式の通信においては、上述したように、いずれの方式によっても正確な位相情報を伝送することは難しいとされている。そこでこの発明が解決しようとする第1の課題は、上述の変換器アレイ部から音源部に向けて位相情報を正確に伝送することにある。
【0013】
また、潜水船のように水中を移動する移動体に音源部が搭載されている場合、変換器アレイ部から、この音源部に向けて位相情報を送信する場合には、また別の問題がある。すなわち、音源部からプローブ波を発信して、次に変換器アレイ部から送信された変調位相共役波を音源部が受信する時には、潜水船が移動していることによって、音源部はプローブ波を発信した位置とはずれた位置にある。音源部で受信される変調位相共役波は、この音源部の位置ずれ量に比例してその位相もずれるために、本来の受信信号とは異なる信号が受信されることになる。そのために、この場合には、変換器アレイ部から音源部に対して、正しい位相情報が送信できないことが起こり得る。
【0014】
音源部が移動することにともなって発生する上述の問題点に対する解決策は、これまで知られていない。そこで、この発明が解決しようとする第2の課題は、音源部が、プローブ波を発信した位置からずれた位置で、変調位相共役波を受信した場合であっても、変換器アレイ部から音源部に対して正しい情報が送信できる位相情報伝送方法及びこの方法を実現するためのシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
以後の説明においては、混乱を避けるために、次のように用語を使い分けることもある。すなわち、電気的な波としてのプローブ波を電気プローブ波、音波としてのプローブ波を音響プローブ波と、それぞれ区別して記載することもある。電気的な波としての位相共役波を電気位相共役波、音波の状態の位相共役波を音響位相共役波と、それぞれ区別して記載することもある。音源部を構成している内部装置で生成される電気プローブ波を送信電気プローブ波、変換器アレイ部で生成される電気プローブ波を受信電気プローブ波と、それぞれ区別して記載することもある。電気位相共役波に位相変調が施されて変換器を構成している内部装置で生成される電気変調位相共役波を送信電気変調位相共役波と、音源部を構成している内部装置で生成される電気変調位相共役波を受信電気変調位相共役波と、それぞれ区別して記載することもある。
【0016】
上記問題を解決するため、この発明の位相情報伝送方法は、次に示すステップを含む。
(A)音源部で音響プローブ波を生成して、音響プローブ波を音源部から変換器アレイ部に送る第1ステップ
(B)音響プローブ波を基にして生成した音響変調位相共役波を、変換器アレイ部から音源部に送る第2ステップ
(C)音源部で、音響変調位相共役波から位相変調成分を抽出する第3ステップ
更に、上述の第1から第3ステップを、それぞれ以下のようなサブステップを含んで構成するのが好適である。
【0017】
すなわち、第1ステップは、次の3つのサブステップを含んで構成するのが好適である。
(A1)音源部で送信電気プローブ波を生成するステップ
(A2)この送信電気プローブ波を音響プローブ波に変換するステップ
(A3)音源部から音響プローブ波を変換器アレイ部に送るステップ。
【0018】
第2ステップは、次の5つのサブステップを含んで構成するのが好適である。
(B1)変換器アレイ部で、音響プローブ波を受信電気プローブ波に変換するステップ
(B2)受信電気プローブ波を電気位相共役波に変換するステップ
(B3)電気位相共役波に位相変調を施して送信電気変調位相共役波を生成するステップ
(B4)送信電気変調位相共役波を音響変調位相共役波に変換するステップ
(B5)変換器アレイ部から音響変調位相共役波を音源部に送るステップ。
【0019】
第3ステップは、次の2つのサブステップを含んで構成するのが好適である。
(C1)音源部で音響変調位相共役波を受信電気変調位相共役波に変換するステップ
(C2)受信電気変調位相共役波を介して、音響変調位相共役波の位相変調成分を抽出するステップ。
【0020】
上述の第1ステップにおいて、音響プローブ波を、互いの位相が逆位相の関係にある第1部分と第2部分とが時間軸上で直列接続されていて、第1部分と第2部分との接続部が位相跳躍部となっている音響プローブ波として生成して利用するのが好適である。
【0021】
更に、音響プローブ波を、第1プローブ波、第2プローブ波、及び第3プローブ波を含むプローブ波として生成して利用するのが好適である。ここで、第1プローブ波は、正弦波からなるトーンバースト波である。第2プローブ波は、第1プローブ波の位相と同位相の第1部分の正弦波に引き続いて第1プローブ波の位相とπ位相ずれた第2部分の正弦波を時間軸上で直列接続されていて、第1部分の正弦波と第2部分の正弦波との接続部が位相跳躍部となっているトーンバースト波である。第3プローブ波は、第1プローブ波の位相とπ位相ずれた第1部分の正弦波に引き続いて第1プローブ波の位相と同位相の第2部分の正弦波を時間軸上で直列接続されていて、第1部分の正弦波と第2部分の正弦波との接続部が位相跳躍部となっているトーンバースト波である。すなわち、第2プローブ波と第3プローブ波とは、互いの位相が逆位相の関係にある。
【0022】
上述の位相情報伝送方法を実現させるためのシステムは、次のように構成される。すなわち、この発明の位相情報伝送システムは、音源部と変換器アレイ部とを具えている。変換器アレイ部は単一の変換器のみで構成することができるが、一般的には複数の変換器を具えて構成する。音源部は、音響プローブ波を生成して変換器アレイ部に送波するとともに、変換器アレイ部から送られた音響変調位相共役波から位相変調成分を抽出する。変換器アレイ部は、音源部から送波された音響プローブ波を基にして生成した音響変調位相共役波を、音源部に送る。
【0023】
また、上述の音源部は、音響プローブ波を、互いの位相が逆位相の関係にある第1部分と第2部分とが時間軸上で直列接続されていて、第1部分と第2部分との接続部が位相跳躍部である音響プローブ波として生成する機能を有していることが好適である。
【0024】
ここでは、音源部との用語は、上述したように、音響プローブ波を生成する機能、音響変調位相共役波から位相変調成分を抽出する機能等の複数の機能を有する装置としての意味で使用する。また、変換器アレイ部及び変換器アレイ部を構成する変換器との用語は、後述するように、音源部から送波された音響プローブ波を基にして電気位相共役波を生成する機能、電気位相共役波に位相変調を施す機能等の複数の機能を有する装置としての意味で使用する。
【0025】
音源部は、第1トランスジューサーと、プローブ信号生成部と、コード識別/位相検出部と、を具えて構成するのが好適である。ここで、第1トランスジューサーは、送信電気プローブ波を音響プローブ波に変換し、かつ音響変調位相共役波を受信電気変調位相共役波に変換する機能を有する。プローブ信号生成部は、送信電気プローブ波を生成する機能を有する。コード識別/位相検出部は、受信電気変調位相共役波を介して、音響変調位相共役波の位相変調成分を抽出する機能を有する。
【0026】
更に、変換器アレイ部は、第2トランスジューサーと、時間反転部と、変調共役波生成部と、を具えて構成するのが好適である。ここで、第2トランスジューサーは、音響プローブ波を受信電気プローブ波に変換し、かつ送信電気変調位相共役波を音響変調位相共役波に変換する機能を有する。時間反転部は、受信電気プローブ波を電気位相共役波に変換する機能を有する。変調共役波生成部は、電気位相共役波に位相変調を施して送信電気変調位相共役波を生成する機能を有する。
【0027】
上述のプローブ信号生成部で生成された送信電気プローブ波は、音源部に具えられる第1トランスジューサーによって音響プローブ波に変換される。従って、送信電気プローブ波及び音響プローブ波の両者の時間波形は相似形状である。従って、プローブ信号生成部は、送信電気プローブ波を、互いの位相が逆位相の関係にある第1部分と第2部分とが時間軸上で直列接続されていて、第1部分と第2部分との接続部が位相跳躍部である送信電気プローブ波として生成する機能を有するのが好適である。
【0028】
また、上述のプローブ信号生成部は、送信電気プローブ波を、第1プローブ波、第2プローブ波、及び第3プローブ波を含んで生成する機能を有するのが好適である。ここで、第1プローブ波は、正弦波からなるトーンバースト波であ。第2プローブ波は、第1プローブ波の位相と同位相の第1部分の正弦波に引き続いて第1プローブ波の位相とπ位相ずれた第2部分の正弦波とが時間軸上で直列接続されていて、第1部分の正弦波と第2部分の正弦波との接続部が位相跳躍部であるトーンバースト波である。第3プローブ波は、第1プローブ波の位相とπ位相ずれた第1部分の正弦波に引き続いて第1プローブ波の位相と同位相の第2部分の正弦波とが時間軸上で直列接続されていて、第1部分の正弦波と第2部分の正弦波との接続部が位相跳躍部であるトーンバースト波である。
【0029】
ここで、送信電気プローブ波に含まれる第1から第3プローブ波は、もちろん電気プローブ波である。一方音響プローブ波に含まれる第1から第3プローブ波は、もちろん音響プローブ波である。以後の説明においては、特に明確に区別して説明しなければならない場合を除いて、第1から第3プローブ波が電気プローブ波であるか音響プローブ波であるかを断わらない。
【発明の効果】
【0030】
この発明の位相情報伝送方法は、上述したように(A)第1ステップ、(B)第2ステップ及び(C)第3ステップを具えている。
【0031】
これによれば、第1ステップで、音源部から変換器アレイ部に音響プローブ波が送信される。また、詳細は後述するが、第2ステップでは、音響プローブ波を基にして、位相共役波が生成されて、この位相共役波に対して位相変調が施されて音響変調位相共役波が生成される。そして、この音響変調位相共役波が音源部に送信される。第3ステップでは、この音響変調位相共役波から位相変調成分が抽出される。従って、第2ステップで位相共役波に対して実施された位相変調の結果が、音源部に正確に送信され、音源部でその位相変調成分が抽出される。
【0032】
また、詳細は後述するが、第2ステップにおいて、変換器アレイ部では、位相共役処理とともに位相共役性を損なわないで、プローブ波の位相のみを-2πから2πにわたる範囲で、かつ連続的に線形に変調を加えることが可能である。その結果、音源部で受波される位相情報を連続的に変化させて送ることが可能となる。すなわち、変換器アレイ部から音源部に向けて位相情報を正確に伝送するという、上述した第1の課題が解決する。
【0033】
ここで、位相共役性を損なわないで、プローブ波の位相に対して連続的に線形に変調を加えるとの意味を説明する。これは、受信電気プローブ波を時間反転し、それをフーリエ変換して得られる周波数スペクトルを変更せずに、プローブ波の位相を変調することを意味している。一般にプローブ波は多数の周波数成分で構成されている。プローブ波を構成する周波数の異なる全てのフーリエ成分に対して同一の大きさの位相変化を与えると、これら全てのフーリエ成分の位相ずれは同じでも、それぞれのフーリエ成分に対する時間軸上のずれの大きさは異なる。従って、プローブ波の周波数スペクトルを変化させないで、プローブ波の位相を変調することが可能となる。
【0034】
以上説明したように、この発明の位相情報伝送方法は、位相共役波が本来有している、元の音源部の位置に収束する性質が利用されている。従って、音響プローブ波である音波が海中の伝播条件等によって、その波形が大きく変化した場合であっても、変換器アレイ部から音源部に向けて送られる音響プローブ波が、音響プローブ波を送信した時点での音源部の位置に収束する。従って、高いSN比を確保して、変換器アレイ部から音源部に向けて、位相情報を正確に伝送することが可能となる。
【0035】
また、音源部によって生成される位相跳躍部を含む音響プローブ波が、この発明の位相情報伝送方法において利用される。この音響プローブ波において、位相跳躍部とは、この音響プローブ波を構成する第1部分と第2部分とが時間軸上で直列接続されている接続箇所を言う。ここで、第1部分と第2部分とは、互いの位相が逆位相の関係にある。
【0036】
一般に、位相跳躍部が挿入されていない音響プローブ波を用いて、位相共役波を利用した位相情報伝送を行うと、音源部で受信される音響変調位相共役波は、この音源部の位置ずれ量に比例してその位相もずれる。しかしながら、この発明の発明者等は、位相跳躍部が挿入された音響プローブ波を用いて、位相共役波を利用した位相情報伝送を行うと、位相跳躍部は変調を受けないことを、シミュレーションによって確かめた。また、位相跳躍部の特性はプローブ波の周波数スペクトルに関連することが理論的に示されている。この発明の位相情報伝送方法においては、周波数スペクトルを変えずに位相を変調している。このために、音響プローブ波の位相跳躍部を位相基準として位相検出をすることが可能となる。
【0037】
すなわち、音源部で受信される、受信波である音響変調位相共役波は、音源部が移動したことによる位相変化と、変換器アレイ部で行なわれた変調による位相変化とが混在することになる。しかしながら、位相跳躍部は変換器アレイ部で行なわれた変調の影響を受けないので、位相跳躍部を位相基準として、位相検出をすることが可能となる。
【0038】
従って、この発明の位相情報伝送方法によれば、音源部が、プローブ信号を発信した位置からずれた位置で、音響変調位相共役波を受信した場合であっても、位相跳躍部を位相基準として位相検出をすれば、変換器アレイ部から音源部に対して正しい情報が送信できる。すなわち、音源部が、プローブ波を発信した位置からずれた位置で、変調位相共役波を受信した場合であっても、変換器アレイ部から音源部に対して正しい情報が送信できるという、上述した第2の課題が解決する。
【0039】
この発明の位相情報伝送方法は、音源部と変換器アレイ部とを具える位相情報伝送システムで実現される。第1ステップ及び第3ステップは、音源部で実現可能であり、第2ステップは、変換器アレイ部で実現可能である。
【0040】
更に、この発明の位相情報伝送方法は、上述したように、第1ステップを3つのサブステップを含んで構成し、第2ステップを5つのサブステップを含んで構成し、及び第3ステップを2つのサブステップを含んで構成することが可能である。
【0041】
第1ステップを構成する、(A1)に示したサブステップでは、送信電気プローブ波が生成されるが、これは音源部に具えられるプローブ信号生成部を中心に実施される。(A2)に示したサブステップでは、送信電気プローブ波が音響プローブ波に変換されるが、これは音源部に具えられる第1トランスジューサーで実施される。(A3)に示したサブステップでは、音源部から音響プローブ波が変換器アレイ部に送られる。
【0042】
従って、第1ステップでは、上述の(A1)から(A3)に示したサブステップが実行されることによって、結果的に、音源部から変換器アレイ部に音響プローブ波が送信されることになる。
【0043】
第2ステップを構成する、(B1)に示したサブステップでは、音響プローブ波を受信電気プローブ波に変換されるが、これは、変換器アレイ部に具えられる第2トランスジューサーで実施される。(B2)に示したサブステップでは、受信電気プローブ波が電気位相共役波に変換されるが、これは変換器アレイ部に具えられる時間反転部を中心に実施される。(B3)に示したサブステップでは、電気位相共役波に位相変調が施され、送信電気変調位相共役波が生成されるが、これは変換器アレイ部に具えられる変調共役波生成部で実施される。(B4)に示したサブステップでは、送信電気変調位相共役波が音響変調位相共役波に変換されるが、これは変換器アレイ部に具えられる第2トランスジューサーで実施される。(B5)に示したサブステップでは、変換器アレイ部から音響変調位相共役波が音源部に送られる。
【0044】
従って、第2ステップでは、上述の(B1)から(B5)に示したサブステップが実行されることによって、結果的に、音響プローブ波を元にして生成された音響変調位相共役波が、変換器アレイ部から音源部に送信されることになる。
【0045】
第3ステップを構成する(C1)に示したサブステップでは、音響変調位相共役波が受信電気変調位相共役波に変換されるが、これは音源部に具えられる第1トランスジューサーで実施される。(C2)に示したサブステップでは、受信電気変調位相共役波を介して音響変調位相共役波の位相変調成分が抽出さるが、これは音源部に具えられるコード識別/位相検出部を中心として実施される。
【0046】
従って、第3ステップでは、上述の(C1)及び(C2)に示したサブステップが実行されることによって、結果的に、音源部において、音響変調位相共役波から位相変調成分が抽出されることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
以下、図を参照して、この発明の実施の形態につき説明する。なお、各図は、この発明に係る一構成例を図示するものであり、この発明を図示例に限定するものではない。また、各図は、この発明が理解できる程度に各構成要素の配置関係等を概略的に示してある。また、各図において同様の構成要素については、その重複する説明を省略することもある。
【実施例】
【0048】
<位相共役処理方法による位相情報の伝送>
まず、図1(A)及び(B)を参照して、位相共役処理方法による位相情報の伝送の原理について、基本的な事項について説明する。図1(A)は、海底14上の海水12中に、潜水船10が搭載している音源部24から音響プローブ波Sを発信して、潜水船10から水平方向遠方の位置に設置されている変換器アレイ部20で受信される様子を示している。変換器アレイ部20は、変換器20-1から20-7の合計7つの変換器が鉛直方向に直線的に連なって配列されて構成されている。
【0049】
図1(A)においては、合計7つの変換器から構成されている変換器アレイ部20を示しているが、必ずしも変換器の個数は7つに限られるものではない。また、変換器アレイ部20を構成する変換器が、図1(A)では、鉛直方向に一列に配置されているが、このように一列に配置する必要はなく、配置の形状は任意でよい。変換器アレイ部が具える変換器の個数は多いほど、後述する位相共役波の収束性能が高まり、水中音響通信の品質が高くなるが、変換器アレイ部が大型化し、変換器アレイ部の製造、及び海中への設置作業が困難になる。一方変換器アレイ部が具える変換器の個数が少なければ、変換器アレイ部の製造及びその設置作業が軽減される代わりに、位相共役波の収束性が悪くなり、水中音響通信の品質が低下する。従って、変換器アレイ部20を構成する変換器の個数は、位相共役波の収束性能が十分であって、かつ変換器アレイ部20の製造及び海中への設置作業が十分に行えるように、水深や、音源部24と変換器アレイ部20との距離等に応じて、必要にして十分な数とする。
【0050】
潜水船10が搭載している音源部24から発信された音響プローブ波Sは、海底面18や海水面16によって反射され(反射波)、あるいは海水12の音速分布の不均一等に起因して屈折(屈折波)し、また、海水12中に存在する障害物である氷山26等に散乱、回折されて(散乱波、回折波)、変換器アレイ部20を構成する各変換器(変換器20-1から変換器20-7)に到達する。以下の説明において、上述した反射波、屈折波、回折波、散乱波を含めて、マルチパス波ということもある。
【0051】
潜水船10が搭載している音源部24から音響プローブ波Sが発信されると、海水12を伝播中にマルチパス波を生成しつつ、変換器アレイ部20近傍では、潜水船10が搭載している音源部24から発信された直後の音響プローブ波Sとは波面が変形して音響プローブ波R(以後「受信波R」と記載することもある。)となって変換器アレイ部20で受信される。
【0052】
ここで、音源部24から発信される音響プローブ波Sについて図2を参照して説明する。図2は、音源部24から送信される音響プローブ波Sの元になる送信電気プローブ波の時間波形の一例を示す図である。図2の横軸は、秒単位で目盛った時間軸であり、縦軸は、送信電気プローブ波の振幅を任意目盛りで目盛って示してある。この送信電気プローブ波は、音源部24に具えられた第1トランスジューサーによって音響プローブ波に変換されて、音源部24から変換器アレイ部20向けて送信される。この例の場合、図2に示すように、送信電気プローブ波は、正弦波8周期分からなる電気的波であるので、音源部24から発信される音響プローブ波Sも正弦波8周期分からなるトーンバースト波となる。
【0053】
以下の説明においては、音響プローブ波の周波数を500 Hz、水深(海水面16から海底面18までの距離)を100 m、及び音源部24から変換器アレイ部20までの距離を3 kmとしてシミュレーションした結果を基にして、音響プローブ波S、受信波R、変換器アレイ部20から発信される音響変調位相共役波S'及び音源部24で受波される音響変調位相共役波R'(以後「受信波R'」と記載することもある。)について説明する。
【0054】
音源部24から発信される音響プローブ波Sは、変換器アレイ部20を構成する変換器20-1から変換器20-7までの7つの変換器において、それぞれ受信波Rとして受信される。以後の説明において、変換器アレイ部20を構成する任意の変換器について説明する場合には、単に変換器ということとする。
【0055】
図3(A)及び(B)を参照して、変換器アレイ部20を構成する変換器の一つが受波した、受信波Rを変換して生成された受信電気プローブ波の時間波形、及びそれに対する送信電気変調位相共役波の時間波形について説明する。図3(A)及び(B)の横軸は、秒単位で目盛った時間軸であり、縦軸は、振幅を任意目盛りで目盛って示してある。図3(A)は、受信電気プローブ波の時間波形を、図3(B)は、送信電気変調位相共役波の時間波形を示す。ここでは、説明の便宜のために送信電気変調位相共役波には、位相変調が施されていない。すなわち、図3(B)は、図3(A)に示す受信電気プローブ波の位相共役波である(ただし、位相変調を施した位相共役波の時間波形と同じである。)。
【0056】
音源部24から発信される音響プローブ波Sの元となった送信電気プローブ波が、図2に示すように、正弦波8周期分からなるトーンバースト波であったにもかかわらず、変換器アレイ部20を構成する変換器の一つが受波した受信波Rを変換して生成された受信電気プローブ波の時間波形は、図3(A)に示すように、非常に複雑な形状となる。
【0057】
このように受信電気プローブ波の時間波形が複雑な時間波形となる理由は、次のように説明される。音源部24から音響プローブ波Sが発信されると、海水12を伝播中にマルチパス波が順次生成され、これらのマルチパス波が重ね合わさって、変換器アレイ部20で受信される。すなわち、海水12中を伝播する間にマルチパス波が発生し、変換器アレイ部20において受信される際には、これらのマルチパス波が混在しているために、受信波Rの時間波形は複雑なものとなり、受信波Rを変換して生成された受信電気プローブ波も、図3(A)に示すように、複雑な時間波形となる。
【0058】
図3(B)は、図3(A)に示す受信電気プローブ波の位相共役波である。このことは次のように反映されている。図3(A)に示す受信電気プローブ波において、Qで示すこの波の時間軸上での位置は、Pで示すこの波の時間軸上での位置に比べて、時間的に進んだ位置にある。これに対して、図3(B)に示す送信電気変調位相共役波の時間波形においては、逆に、Qで示すこの波の時間軸上での位置は、Pで示すこの波の時間軸上での位置に比べて、時間的に遅れた位置にある。すなわち、図3(B)に示す送信電気変調位相共役波は、図3(A)に示す受信電気プローブ波の時間軸を反転した形となっており、受信電気プローブ波に対する位相共役波(または時間反転波)となっている。
【0059】
図3(B)に示す送信電気変調位相共役波には位相変調が施されていないので、図3(A)に示す受信電気プローブ波とは、互いに時間軸上で左右が逆になっているだけで、波形そのものが異なっているわけではない。すなわち、図3(B)に示す送信電気変調位相共役波は、受信波Rを電気的な波に変換されて得られる受信電気プローブ波から生成される電気位相共役波の厳密な位相共役波となっている。
【0060】
変換器アレイ部20を構成する各変換器で受信される受信波Rは、変換器が設定されている空間的な位置がそれぞれ異なるために、それぞれの時間波形は互いに異なった形状となる。
【0061】
図1(B)は、変換器アレイ部20を構成する各変換器において音響プローブ波Rに対する音響変調位相共役波S'が生成されて発信され、潜水船10で位相共役波R'が受信される様子を示している。
【0062】
変換器アレイ部20を構成している各変換器においては、音響プローブ波Rが受信されて、音響変調位相共役波S'が生成される。変換器アレイ部20から発信された直後の音響変調位相共役波S'は、海水12を伝播中にマルチパス波を生成しつつ、音源部24近傍では、変換器アレイ部20から発信された直後の音響変調位相共役波S'とは波面が変形して音響変調位相共役波R'となって音源部24で受信される。そして、位相共役波が本来的に有する性質として、位相共役波R'は、音源部24に収束する。
【0063】
図4に、音源部24と変換器アレイ部20間の水中での音波の音圧の空間的分布形状を示す。音圧が強い部分を白色で示し、音圧が弱い部分を黒色で示して、その中間強度の音圧をその強さに比例して白色に近づくように諧調をつけた灰色で示してある。図4において、横軸は距離をm単位で表示してあり、縦軸は水深をm単位で表示してある。図4において、Mで示す位置が白色となっていることが分かる。この部分が、音響プローブ波Sを発信した時の音源部24の位置を示す。また、Nで示す破線の長方形で囲われた内部に変換器アレイ部20が配置されている。図4から、音響変調位相共役波R'が音響プローブ波Sを発信した時の音源部24の位置に収束していることが見て取れる。
【0064】
音源部24の位置に、音響変調位相共役波R'が完全に収束するためには、音源部24と変換器アレイ部20との途中の、音波の伝播に対して、反射、屈折、回折、散乱等の効果を与える要素が、音響プローブ波Sが音源部24から発信されて変換器アレイ部20で受信された過程と、音響変調位相共役波S'が変換器アレイ部20から発信されて音源部24で受信される過程とが、同一の状態であることが必要である。
【0065】
例えば、海流等に起因して、海水12の屈折率分布が、音響プローブ波Sが音源部24から発信されて変換器アレイ部20で受信された時と、音響変調位相共役波S'が変換器アレイ部20から発信されて音源部24で受信された時とで異なっていれば、音響変調位相共役波R'は、完全には収束しない。しかしながら、音響プローブ波Rが変換器アレイ部20で受信されてから、音響変調位相共役波S'が発信されるまでの時間はそれほど長くはなく、実際の水中音響通信においては、海水12の屈折率分布等、音波の伝播に対して、反射、屈折、回折、散乱等の効果を与える要素が大きくその状況を変えていることはない。
【0066】
図4に示した音波の音圧の空間的な振幅分布おいては、見やすくするために、音源部と変換器アレイ部との間隔を1 kmに設定してある。これによれば、位相共役波は、空間的な観点から、音響プローブ波Sを発信した時の音源部24の位置に収束していることが分かる。
【0067】
一方、位相変調を加えない場合において、音源部24から送信される音響プローブ波の時間波形と、変換器アレイ部20から送信されてくる音響変調位相共役波の時間波形がどのようになるかを、図5(A)及び(B)を参照して説明する。図5(A)及び(B)には、それぞれ、音響プローブ波を生成するための元となった送信電気プローブ波の時間波形、及び音響変調位相共役波の時間波形を元に変換されて生成された受信電気変調位相共役波の時間波形とを示す。図5(A)及び(B)の横軸は、時間を秒単位で目盛って表示してあり、縦軸は、音圧の振幅を任意スケールで目盛って示してある。
【0068】
図5(A)に表されている送信電気プローブ波の時間波形に対して、図5(B)に示されている受信電気変調位相共役波の時間波形は、ほとんど変化していない。すなわち、受信電気変調位相共役波を構成する、一つ一つの正弦波の振幅が数パーセント揺らいでいるだけである。また、受信電気変調位相共役波の開始時点(横軸0.50秒付近)、及び終了時点(横軸0.52秒付近)に小さな波の成分が現れているが、この小さな波の振幅は、受信電気変調位相共役波の振幅の数パーセント以下である。受信電気変調位相共役波の振幅の揺らぎ、及び受信電気変調位相共役波の開始時点(横軸0.50秒付近)と終了時点(横軸0.52秒付近)とに現れている小さな波の成分は、雑音成分である。
【0069】
すなわち、これら雑音成分は、変換器アレイ部20を構成する変換器の個数を増大させることによって、低減することができる。位相共役波を利用する位相情報伝送システムを構築する場合、上述の雑音成分の大きさをどの程度以下に設定すべきかについての設計指針に対応させて、変換器アレイ部20を構成する変換器の個数を選定することが必要である。
【0070】
<プローブ波の構成>
潜水船のように水中を移動する移動体に音源部が搭載されている場合、音源部がプローブ波を発信した時と受信する時とではその位置がずれている場合がある。この場合、変換器アレイ部から音源部に対して、正しい位相情報が送信できないことが起こり得る。この場合に対処する方法として、次に説明する時間波形形状の音響プローブ波を利用する。すなわち、互いの位相が逆位相の関係にある第1部分と第2部分とが時間軸上で直列接続されていて、第1部分と第2部分との接続部を位相跳躍部として含んでいる音響プローブ波を利用する。
【0071】
既に説明したように、位相跳躍部を含む音響プローブ波を用いて、位相共役波を利用した位相情報伝送を行うと位相跳躍部は変調の影響を受けない。この点について、以下シミュレーションをした結果を用いて具体的に説明する。
【0072】
位相跳躍部は変換器アレイ部で施された変調の影響を受けないので、音源部が音響プローブ波を送波した時点と音響変調位相共役波を受波した時点とでその位置がずれている場合であっても、位相跳躍部を位相基準として、変換器アレイ部で行なわれた変調量を、正確に検出することが可能となる。
【0073】
図6から図11を参照して、この発明の位相情報伝送方法及び伝送システムにおいて利用して好適な、音響プローブ波の時間波形の代表例を3種類(第1から第3プローブ波)説明する。
【0074】
まず、一番単純な時間波形である第1プローブ波であるが、これは位相跳躍部を含まない正弦波からなるトーンバースト波である。第2プローブ波は、第1プローブ波の位相と同位相の第1部分の正弦波に引き続いて第1プローブ波の位相とπ位相ずれた第2部分の正弦波とが時間軸上で直列接続されていて、第1部分と第2部分との接続部を位相跳躍部として含んでいるトーンバースト波である。第3プローブ波は、第1プローブ波の位相とπ位相ずれた第1部分の正弦波に引き続いて第1プローブ波の位相と同位相の第2部分の正弦波とが時間軸上で直列接続されていて、第1部分と第2部分との接続部を位相跳躍部として含んでいるトーンバースト波である。従って、第2プローブ波と第3プローブ波とは、互いにその位相を反転した波形であり、互いに逆位相の関係にある。
【0075】
図6は、第1プローブ波の時間波形を示す図である。横軸は時間を秒単位で目盛って示してあり、縦軸は振幅を1に規格化して示してある。図6に示した第1プローブ波は、8周期分の正弦波で形成されており、この波形には位相跳躍部は含まれていない。この発明の位相情報伝送方法の第1ステップとして、このような時間波形を持つ音響プローブ波を、音源部から送波する。
【0076】
図7は、潜水船で受波された第1プローブ波の位相共役波に位相変調が施された受信信号の時間波形図である。すなわち、図7の時間波形は、この発明の位相情報伝送方法の第3ステップにおいて、音源部で得られた受信電気変調位相共役波の時間波形を示す。横軸は時間を秒単位で目盛って示してあり、縦軸は任意スケールで振幅を示してある。
【0077】
図7において、記号(a)〜(j)を付して示した全部で10個の波形は、それぞれ(a)から順に、変換器アレイ部において施された位相変調量がπ/4位相に相当する量ずつ変化させた場合の、潜水船における受信信号の時間波形を示している。すなわち、記号(a)を付して示す波形は、変換器アレイ部から送られる音響変調位相共役波の位相変調量を5π/4とした場合の、音源部において受信される受信信号の時間波形を示している。同様に記号(b)から記号(j)付して示す波形は、それぞれ音響変調位相共役波の位相変調量を、4π/4、3π/4、2π/4、π/4、0、-1π/4、-2π/4、-3π/4及び-4π/4とした場合の受信信号の時間波形を示している。
【0078】
図7に記号(a)から記号(j)を付して示すそれぞれの波形は、互いに隣接する波形の位相ずれ量が等しくなるように、その位相が時間軸上でシフトしている、そしてこれらの時間波形は変化していないことが読み取れる。このことは、音源部から送波された第1プローブ波の形状を壊さずに、変換器アレイ部から音源部に対して位相情報を送ることができたことを意味している。また、音源部から送波された第1プローブ波の形状を壊さずに位相情報が伝送できるということは、第1プローブ波の形状に依存せずに変換器アレイ部から音源部に対して位相情報を送ることができることを意味している。
【0079】
以上説明したように、この発明の位相共役波を用いる位相情報伝送方法は、従来知られている、アクティブ方式やパッシブ方式とは異なり、利用するプローブ波は一つのみで必要な位相情報を伝送することが可能である方法であるとともに、その利用するプローブ波の形状にも制約がない。そして、変換器アレイ部から音源部に向けて位相情報を正確に伝送することが可能であるという特長を有している。
【0080】
図8は、第2プローブ波の時間波形を示す図である。横軸は時間を秒単位で目盛って示してあり、縦軸は振幅を1に規格化して示してある。図8に示した第2プローブ波は、第1プローブ波の位相と同位相の第1部分(図中でEと示した部分)の正弦波に引き続いて第1プローブ波の位相とπ位相ずれた第2部分(図中でFと示した部分)の正弦波が時間軸上で直列接続されており、第1部分と第2部分との接続部(図中でGと示した部分)を位相跳躍部として含んでいる。第1部分は4周期分の正弦波から成っており、第2部分も4周期分の正弦波から成っている。
【0081】
図9は、潜水船で受波された第2プローブ波の位相共役波に位相変調が施された受信信号の時間波形図である。すなわち、図9の時間波形は、この発明の位相情報伝送方法の第3ステップにおいて、音源部で得られた受信電気変調位相共役波の時間波形を示す。横軸は時間を秒単位で目盛って示してあり、縦軸は任意スケールで振幅を示してある。
【0082】
図9において、記号(a)〜(j)を付して示した全部で10個の波形は、図7に示した波形と同様に、それぞれ位相変調量を、5π/4、4π/4、3π/4、2π/4、π/4、0、-1π/4、-2π/4、-3π/4及び-4π/4とした場合の受信信号の時間波形を示している。
【0083】
図9に記号(a)から記号(j)を付して示すそれぞれの波形は、記号G’を付して示した位相部分を除き、互いに隣接する波形の位相ずれ量が等しくなるように、その位相が時間軸上でシフトしていることが読み取れる。つまり、第2プローブ波として、位相跳躍部を含む音響プローブ波を用いて、位相共役波を利用した位相情報伝送を行うと、次の効果が得られることが分かる。
【0084】
すなわち、潜水船で受波された受信信号の、第2プローブ波の第1部分及び第2部分に対応する部分は、互いに隣接する波形の位相ずれ量が等しくなるように、その位相が時間軸上でシフトしているが、第2プローブ波の位相跳躍部に対応する位相部分である記号G’を付して示した位相部分は、その時間軸上での位置が変動していない。
【0085】
図10は、第3プローブ波の時間波形を示す図である。横軸は時間を秒単位で目盛って示してあり、縦軸は振幅を1に規格化して示してある。図10に示した第3プローブ波は、第1プローブ波の位相とπ位相ずれた第1部分(図中でEと示した部分)の正弦波に引き続いて第1プローブ波の位相と同位相の第2部分(図中でFと示した部分)の正弦波が時間軸上で直列接続されており、この接続部(図中でGと示した部分)を位相跳躍部として含んでいる。
【0086】
図11は、潜水船で受波された第3プローブ波の位相共役波に位相変調が施された受信信号の時間波形図である。横軸は時間を秒単位で目盛って示してあり、縦軸は任意スケールで振幅を示してある。図11において、記号(a)〜(j)を付して示した全部で10個の波形は、図7に示した波形と同様に、それぞれ位相変調量を、5π/4、4π/4、3π/4、2π/4、π/4、0、-1π/4、-2π/4、-3π/4及び-4π/4とした場合の受信信号の時間波形を示している。
【0087】
図11に記号(a)から記号(j)を付して示すそれぞれの波形は、記号G’を付して示した位相部分を除き、互いに隣接する波形の位相ずれ量が等しくなるように、その位相が時間軸上でシフトしていることが読み取れる。
【0088】
上述した第2プローブ波と同様に、位相跳躍部を含む音響プローブ波を用いて、位相共役波を利用した位相情報伝送を行うと、次の効果が得られることが分かる。潜水船で受波された受信信号の、第3プローブ波の第1部分及び第2部分に対応する部分は、互いに隣接する波形の位相ずれ量が等しくなるように、その位相が時間軸上でシフトしているが、第3プローブ波の位相跳躍部に対応する記号G’を付して示した位相部分は、その時間軸上での位置が変動していない。
【0089】
このように、第2及び第3プローブ波において、第1部分の正弦波から、第1部分の正弦波とは逆位相の第2部分の正弦波に変化するという位相跳躍部の特性は、第2及び第3プローブ波の周波数スペクトルに依存していることによって発現した現象であると解釈できる。すなわち、第2及び第3プローブ波において、その周波数スペクトルを変化させさないで、位相の変調及びその伝送が可能であることを示唆しているものと解釈することができる。
【0090】
以上、図6から図11を参照して、位相跳躍部が挿入された音響プローブ波の構成方法の一例について説明したが、この発明の位相情報伝送方法において利用される音響プローブ波としては、この例に限定されない。実施例で用いたように、第2及び第3プローブ波において、第1部分と第2部分とを等し周期としているが、両者を等しい周期とする必要はない。また、ここで例示した第1プローブ波の正弦波の周期は8周期であり、第2及び第3プローブ波において第1部分及び第2部分の周期を4周期としているが、この周期の数に限定されることもない。
【0091】
一般的に、プローブ波としては、フーリエ変換して得られる周波数スペクトルを変更せずに、位相のみを変調することができる波形であれば利用可能である。すなわち、プローブ波を構成する周波数の異なる全てのフーリエ成分に対して同一の大きさの位相変化を与えることが可能であれば、いかなる波形の波であっても、プローブ波として利用することが可能である。
【0092】
また、図7、図9及び図11において、位相変調量の最小単位をπ/4に設定した場合を示したが、位相変調量の最小単位を必ずしもπ/4に設定する必要はない。この発明の位相情報伝送方法が適用される海域の状態、伝送距離等を総合的に勘案して、この位相変調量の最小単位を任意に設定することが許される。例えば、音源部と変換器アレイ部との間隔が短く、また音源部と変換器アレイ部との間でマルチパス波の発生が小さく、伝送条件に恵まれている場合には、この位相変調量の最小単位をπ/4よりも小さく設定しても、十分良好な伝送が実現される。逆に伝送条件が悪い場合には、この位相変調量の最小単位をπ/4よりも大きく設定する必要がある。
【0093】
このような伝送条件が悪い場合とは、変換器アレイ部から受波点の間において雑音成分として付加される位相変調量が、上述の位相変調量の最小単位(図7、図9及び図11においてπ/4)より大きな場合である。この場合は、変換器アレイ部で位相共役波に施された位相変調量と、変換器アレイ部から受波点の間において雑音成分として付加される位相変調量との区別が困難となり、正常な伝送が行えない。従って、位相変調量の最小単位よりも、常に変換器アレイ部から受波点の間において雑音成分として付加される位相変調量が十分に小さくなるように、位相変調量の最小単位を設定する必要がある。
【0094】
上述の第1プローブ波、第2プローブ波、及び第3プローブ波の3種類のプローブ波を利用した位相情報伝送方法によれば、第1から第3プローブ波のそれぞれに、伝送すべき情報の種類を割り当てることができる。例えば、第1プローブ波には、音源部と変換器アレイ部間の伝播損失等の伝播状況に関する情報のやり取りを割り当てる。そして、随時第1プローブ波を音源部から送波し変換器アレイ部から返送されてくる位相共役波を基準信号として更新しつつ利用する。
【0095】
海中における音波の伝播は、時間的にも空間的にも変化するので、海中での通信やデータの伝送においては、まず始めにその海域の特性を取得する必要がある。ここで使用するプローブ波としては、その波形ができるだけ単純であることが望ましい。そこで、上述した音響プローブ波を構成する第1から第3プローブ波の内で、位相跳躍部を含んでいないことによってその波形が最も単純である第1プローブ波を、音源部と変換器アレイ部間の伝播損失等の伝播状況に関する情報のやり取りのために割り当てるのが好ましい。
【0096】
また、潜水船近傍に形成される位相共役波の音場、すなわち、音波の収束の程度等に影響する、音源部と変換器アレイ部間の伝播損失等の伝播状況は、水深や海底の地形、海水中の音速の分布構造及び潜水船と変換器アレイ部との距離に依存する。従って、潜水船の移動に従って、このような伝播状況に関する情報は、こまめに取得する必要がある。すなわち、この伝播状況に関する情報を第1プローブ波によって伝送する。
【0097】
以後の説明において、第1プローブ波、第2プローブ波及び第3プローブ波が伝送する情報の種類を、それぞれコードA、コードB及びコードCと呼ぶこととする。従って、上述したように、コードAには、潜水船と変換器アレイ部との間の伝播状況に関する情報を割り当てる。
【0098】
コードBには、例えば、潜水船の制御コードとその制御量に関する情報を割り当てる。潜水船を制御する項目としては、スラスタの回転数、舵角、浮量調整、潜水船の走行速度など、潜水船の運動に関する項目と、潜水船の深度、距離など潜水船の現況に関する項目とがある。
【0099】
また、コードCには、例えば、搭載している観測機器の制御コードとその制御量に関する情報を割り当てる。
【0100】
以上のように役割を分担された、コードA、コードB及びコードCの各コードに関する情報を伝送する第1から第3プローブ波を、一例として、以下の順序で変換器アレイ部から潜水船(音源部)に送る。
【0101】
コードAについては、A0-A1-A2-A0-A3-A4-A0-A5-A6-A0-.......、
コードBについては、B0-B1-B2-B0-B3-B4-B0-B5-B6-B0-.......、
コードCについては、C0-C1-C2-C0-C3-C4-C0-C5-C6-C0-.......、
ここで、添え字として示す0の記号は、それぞれのコードの基準信号、すなわち、位相変調量がゼロである音響プローブ波が使われることを意味している。また、添え字1あるいは2を付した音響プローブ波によって、制御する項目を示し、添え字1あるいは2以外が付された音響プローブ波によって、制御量を示すように約束しておく。すなわち、これら音響プローブ波に加えられる位相変調量に対応させてあらかじめ制御項目や、その制御量を決めておく。
【0102】
例えば、潜水船の制御コードとその制御量に関する情報が割り当てられた、コードBについて具体的に説明する。伝送する潜水船の制御コードとその制御量とは、全て基準信号B0で挟んで伝送する。最初の信号列B0-B1-B2-B0は、基準信号B0で挟まれたB1とB2とが示す位相変調量に対応させて、例えば、あらかじめ決めておいた制御項目であるスラスタという項目であることを示す。次の信号列B0-B3-B4-B0は、基準信号B0で挟まれたB3とB4とが示す位相変調量に対応させて、スラスタの回転数という制御量(毎分の回転数等)を示す。必要に応じて、信号列B0-B5-B6-B0以降の信号列によって舵角、浮量調整、潜水船の走行速度などを示すことが可能である。
【0103】
コードA及びコードCについても、制御の対象及びその制御量が異なるのみで、コードBと同様に構成する。すなわち、添え字として示す0の記号はそれぞれのコードの基準信号を示し、この基準信号で挟んで具体的な制御項目及びその制御量に関する情報を示すものとして、それぞれに役割を与えることが可能である。
【0104】
<システムの構成>
システムの構成を説明する前に、まず、音源部と変換器アレイ部を構成する変換器とにおいて、実行される処理ステップの流れについて、図12を参照して整理する。図12は、この発明の位相情報伝送方法を構成するステップを説明するためのフローチャートである。
【0105】
既に説明したように、この発明の位相情報伝送方法は、第1ステップであるステップA、第2ステップであるステップB及び第3ステップであるスッテップCを含んで構成される。そして、ステップA、ステップB及びスッテップCのそれぞれが、サブステップを含んで構成される。ステップAはサブステップA1からA3、ステップBはサブステップB1からB5、ステップCはサブステップC1及びC2を、それぞれ含んで構成される。
【0106】
図12は、ステップA、ステップB及びステップCについて、それぞれのステップに含まれるサブステップの処理内容とともに、各ステップの処理の時間的な順序を見やすく示している。まず、音源部24においてステップAが実行され音響プローブ波が変換器アレイ部20に送られる。変換器アレイ部20ではステップBが実行され音響変調位相共役波が音源部24に送られる。音源部24ではステップCが実行される。以後の説明においては、図12に示すフローチャートと対応して見やすくするために、各ステップの内容を説明する文章の後に、そのステップを便宜的に呼称するための識別記号A、A1〜A3、B、B1〜B5、C、C1、C2を括弧で括って示してある。
【0107】
(音源部の構成)
図13を参照して、音源部24の構造とその機能について説明する。図13は、音源部24の概略的ブロック構成図である。音源部24は、音響プローブ波35を生成して変換器アレイ部に送波する(第1ステップ)とともに、変換器アレイ部から送られた音響変調位相共役波65から位相変調成分を抽出する(第3ステップ)機能を果たす。
【0108】
音源部24は、第1トランスジューサー34及びプローブ信号生成及び受信装置30を基本構成として具えている。
【0109】
第1トランスジューサー34は、電気信号を音波信号に変換し、又音波信号を電気信号に変換する機能を有する。従って、第1トランスジューサー34によって、送信電気プローブ波51が音響プローブ波35に変換され、また、音響変調位相共役波65が第1サブ受信電気変調位相共役波59に変換される。この第1トランスジューサー34には、市販の任意好適な構成の音響トランスジューサーを利用することができる。例えば、水中音響トランスジューサー等と称して市販されている。
【0110】
プローブ信号生成及び受信装置(以下、単に「送受信装置」と称する場合もある。)30は、第1信号処理部32及び第1中央制御部56を具えて構成される。
【0111】
第1信号処理部32は、音響プローブ波を生成する機能と、受信電気変調位相共役波39から位相変調成分を抽出する機能とを有している。この第1信号処理部32は、プローブ信号生成部46、第1出力部48、第1入力部38、コード識別/位相検出部40、制御情報等出力部44を具えている。そして、音響プローブ波35を生成し送波する機能は、プローブ信号生成部46と第1出力部48とを中心として実現される。また、位相変調成分を抽出する機能は、第1入力部38とコード識別/位相検出部40とを中心にして実現される。
【0112】
コード識別/位相検出部40は、以下に説明するように、受信電気変調位相共役波39から位相変調成分である位相情報信号41を抽出することによって、音響変調位相共役波65の位相変調成分を抽出する。すなわち、コード識別/位相検出部40は、受信電気変調位相共役波39を介して、音響変調位相共役波65の位相変調成分を抽出する機能を有している。
【0113】
第1中央制御部56は、マイクロコンピュータで構成されている。この第1中央制御部56は、第1表示部42、第1制御部52及び第1記憶部54を具えている。第1制御部52は、いわゆる中央演算処理装置(CPU: Central Processing Unit)で構成されていて、第1記憶部54に記憶されている処理プログラムに従って、第1信号処理部32を制御する。第1記憶部54は、第1信号処理部32を制御するための処理プログラムが記憶されており、また第1信号処理部32において利用され、また、処理されるデータを一時的に保存する。すなわち、第1記憶部54は、後述する第1信号処理部32において処理される信号、例えば、送信電気プローブ波51、受信電気変調位相共役波39、及び識別されたコードやその他の所要のデータその他の制御情報を一時的に保存する。
【0114】
図13において、第1信号処理部32と第1中央制御部56とは双方向矢印で結んで示してあるが、これは、第1中央制御部56の各構成要素との間で所要のデータのやり取りを行うことを示すとともに、第1制御部52で第1信号処理部32の各構成要素の動作制御を行うことを概念的に表示したものである。
【0115】
送受信装置30が動作を開始すると、第1制御部52からの制御信号に応答して第1信号処理部32の各構成要素が始動する。
【0116】
プローブ信号生成部46は、第1サブ送信電気プローブ波47を生成する。このプローブ信号生成部46としては、市販の任意好適な構成の装置を使用すればよい。例えば、出力波形の時間形状を任意に作成するためのソフトウエアを搭載している波形形成装置が市販されているので、これらの中から任意好適な構成の装置を選んで利用することができる(例えば、インターネット<URL: http://www.toyo.co.jp/awg/ARB#SOFT.html>(平成17年6月17日検索)参照)。
【0117】
上述したコードA、B及びCを用いた位相情報伝送方法を実行する場合には、プローブ信号生成部46は、第1から第3プローブ波を生成する。コードAによって、通信海域の特性を取得する場合、プローブ信号生成部46から一定の時間間隔で、第1プローブ信号を生成して、第1出力部48に送り続ける。通信海域の特性を取得するために必要とされるだけの個数の第1プローブ波を生成し終えたら、プローブ信号生成部46から終了信号を第1制御部52に送り、第1プローブ波の生成をやめて、第1プローブ波を第1出力部48に送る動作を終了する。必要とされる第1プローブ波の個数は、第1記憶部54に記憶されており、第1制御部52は、この個数を第1記憶部54から取得して、プローブ信号生成部46に対して、第1プローブ波の生成時期と、生成すべき個数とを指示する。
【0118】
上述したように、第1プローブ波は、変換器アレイ部20で位相共役波に変換され、更に位相変調がされて生成された音響変調位相共役波として、時間軸上で一列に並べられて、A0-A1-A2-A0-A3-A4-A0-A5-A6-A0-.......、の形式で、音源部24に送り返される。そして、この音響変調位相共役波は、後述するように、第1トランスジューサー34で受波される。A0、A1、A2等の記号の意味する内容は、既に説明したとおりである。また、コードB及びコードCに対応する第2及び第3プローブ波を生成する場合も同様である。
【0119】
第1サブ送信電気プローブ波47は、第1出力部48に送られる(ステップAが含むサブステップ(A1))。第1出力部48では、第1サブ送信電気プローブ波47を送信するタイミングが調整され、第2サブ送信電気プローブ波49として、第1増幅器50に送られる。第1サブ送信電気プローブ波47が第1増幅器50に送られるタイミングは、第1トランスジューサー34が音響変調位相共役波65を受信している動作状態にないことを、第1入力部38からの動作信号を基にして第1制御部52が判断して、第1制御部52から、第1出力部に対して動作開始信号を送ることによって、調整される。
【0120】
第1出力部48から第1増幅器50に送られた第2サブ送信電気プローブ波49は、第1増幅器50によって、第1トランスジューサー34が動作可能であるレベルまで増幅され、送信電気プローブ波51として第1トランスジューサー34に送られる。送信電気プローブ波51は、第1トランスジューサー34によって、電気信号から音波信号である音響プローブ波35に変換される(ステップAが含むサブステップ(A2))。そして、音響プローブ波35は、変換器アレイ部20に向けて送波される(ステップAが含むサブステップ(A3))。
【0121】
一方、変換器アレイ部20から送波された音響変調位相共役波65は、第1トランスジューサー34によって受波され、音波信号である音響変調位相共役波65は電気信号である第1サブ受信電気変調位相共役波59に変換されて、第1前置増幅器36に送られる(ステップCが含むサブステップ(C1))。
【0122】
例えば、第1プローブ波に対する変換器アレイ部20から送波される音響変調位相共役波65は、時間軸上で、A0-A1-A2-A0-A3-A4-A0-A5-A6-A0-.......、の形式で一列に並べられて、音源部24に送られてくる。
【0123】
第1前置増幅器36では第1サブ受信電気変調位相共役波59が増幅されて第2サブ受信電気変調位相共役波37として第1入力部38に送られる。また、第1前置増幅器36は、音響プローブ波35を送波する際に、第1サブ受信電気変調位相共役波59に混入する可能性のあるエネルギーの大きな信号が、第1入力部38に入力されることを防ぐ役割も果たす。
【0124】
第1制御部52は、第1入力部38に第2サブ受信電気変調位相共役波37が入力されたことに応答して、予め第1記憶部54に記憶されているフィルタリング指示信号及びタイミング指示信号を読み出してきて、第1入力部38にフィルタリング指示信号を、及び第1出力部48にタイミング指示信号を送る。
【0125】
第1入力部38は、第2サブ受信電気変調位相共役波37に対する時間的なフィルタリングを行うように指示が与えられ、これと同時に、第1出力部48には、第1サブ送信電気プローブ波47を送信するタイミングの指示が与えられる。この指示に従って、第1入力部38では、第2サブ受信電気変調位相共役波37に対して時間的なフィルタリングが行われる。
【0126】
すなわち、このフィルタリング指示信号によって音響プローブ波35として変換器アレイ部20に送波したトーンバースト波の時間幅に等しい時間だけ信号を通過させ、それ以外の時間帯にある信号成分を遮断する、いわゆる時間窓によるフィルター処理が第1入力部38において実行される。一方、タイミング指示信号によって、第1出力部48からは、既に説明したとおり、第1サブ送信電気プローブ波47が出力される。
【0127】
第1トランスジューサー34によって受波される音響変調位相共役波65は、図5(B)に示す電気的な波として変換されて生成された第2サブ受信電気変調位相共役波37の時間波形から分かるように、僅かであるが雑音成分が混ざっている。この雑音成分がこの時間窓によるフィルター処理によって第2サブ受信電気変調位相共役波37から除去される。
【0128】
第2サブ受信電気変調位相共役波37から雑音成分が除去されて、かつ増幅された受信電気変調位相共役波39が、第1入力部38から出力されてコード識別/位相検出部40に入力される。コード識別/位相検出部40では、以下に詳説するように、ステップCが含むサブステップ(C2)が実行される。
【0129】
第1制御部52は、コード識別/位相検出部40に受信電気変調位相共役波39が入力したことに応答して、コード識別/位相検出部40に対して、第1入力部38から出力される受信電気変調位相共役波39を第1記憶部54に一時的に取り込む指示を与える。続いて、第1制御部52は、第1記憶部54に保存されている基準コードと、一時記憶された受信電気変調位相共役波39とを読み出してきてコード識別/位相検出部40に提供する。そしてこれと同時に第1制御部52は、第1記憶部54に記憶されている手順に従って受信電気変調位相共役波39と基準コード信号との相互相関値を計算する指示をコード識別/位相検出部40に与える。
【0130】
コード識別/位相検出部40に入力される受信電気変調位相共役波39は、例えば、コードAである場合、具体的には、時間軸上で、第1プローブ波を搬送波として生成された複数の受信電気変調位相共役波(A0、A1、A2、A0、A3、A4、A0、A5、A6、A0、....、)が時間軸上に一列に並んだプローブ波列である。すなわち、コード識別/位相検出部40には、一定の時間間隔で、受信電気変調位相共役波A0、A1、A2、A0、A3、A4、A0、A5、A6、A0、....、が順次入力される。従って、受信電気変調位相共役波39がコード識別/位相検出部40に入力されるといった場合には、一定の時間間隔で、受信電気変調位相共役波A0、A1、A2、A0、A3、A4、A0、A5、A6、A0、....、が順次入力されることを意味する。コードB及びコードCの場合にも同様である。以後の説明において、受信電気変調位相共役波A0等の一つ一つのプローブ波をパルス波と称することもある。
【0131】
コード識別/位相検出部40では、まず、受信電気変調位相共役波39のコードの識別が行われる。これは、例えば、コードAの場合には、受信電気変調位相共役波A0を用いて行われる。また、コードB及びコードCの場合にも同様である。第1制御部52の指示によって、コード識別/位相検出部40では、受信電気変調位相共役波39のコードと基準コードとが比較されて、両コードが対比されて識別される。
【0132】
基準コードとは、例えば、コードAの場合、図6に示す時間波形に対応する波のことであり、この波に関するデータ(この波を生成するのに必要な振幅、波長等のデータ)は、第1記憶部54に保存されている。第1記憶部54には、コードB、コードCの波に対する基準コードに関するデータも同様に保存されている。
【0133】
コード識別/位相検出部40における、識別動作は、第1記憶部54に保存されている各基準コードと受信電気変調位相共役波39の各コードとの相互相関値を求めることによって行われる。すなわち、受信電気変調位相共役波39のコードは、この相互相関値が最も大きな基準コードに対応するものと判定される。すなわち、これによって、受信電気変調位相共役波39が、コードA、コードBあるいはコードCの何れに属するかが判定される。
【0134】
この判定処理の終了に応答して、第1制御部52は、第1記憶部54に記憶されている位相情報を求めるためのプログラムを起動させる。
【0135】
例えば、受信電気変調位相共役波39がコードAに属すると判定された場合、コードAのパルス波に対してπ/4の整数倍の位相変調を施したパルス波と、受信電気変調位相共役波39としてコード識別/位相検出部40に一定の時間間隔でA0、A1、A2、A0、A3、A4、A0、A5、A6、A0、....、の形で順次送られてくるパルス波との相互相関値が、コード識別/位相検出部40において求められる。この結果、コードAのパルス波において(例えばパルス波A1として時間軸上で割り当てられた位置のパルス波において)、基準コードに対してπ/4の整数倍の位相変調を施して得られるパルス波の内で、最も大きな相互相関値が得られるパルス波の位相変調量が、そのパルス波(この場合、パルス波A1)に施されている位相変調量であると判定する。このようにして、次々に時間軸上に一列に並んだプローブ波列を構成するパルス波の位相変調量が判定されることによって、時間軸上に一列に並んだプローブ波列としての受信電気変調位相共役波39から位相情報がコードAによって送られてきた位相情報の列(以後、単に「位相情報」という。)として識別される。識別された位相情報は、第1制御部52の指示によって第1記憶部54に記憶される。
【0136】
第1制御部52によって、第1記憶部54に記憶されている位相情報と潜水船や観測装置の制御情報との対照関係データをコード識別/位相検出部40に提供する。コード識別/位相検出部40では、第1制御部52からの指示に基づいて、受信電気変調位相共役波39から取得された位相情報が、第1記憶部54に記憶されている対照表から潜水船や観測装置の制御情報として読み取られ、それらの情報が位相情報信号41として供給される。位相情報等出力部44は、コード識別/位相検出部40で取得された潜水船や観測装置の運航制御情報を、潜水船に具えられた音源部以外の各機器へ送るタイミングを調整して、これら各機器へこれらの情報を送るための端末装置である。位相情報信号41は、第1制御部52を介して第1表示部42に取り込まれ表示される。
【0137】
(変換器アレイ部を構成する変換器の構成)
図14を参照して、変換器アレイ部20を構成する変換器の構成とその機能について説明する。変換器アレイ部20は、音源部24から送波された音響プローブ波35を基にして音響変調位相共役波65を生成し、この音響変調位相共役波65を音源部24に送る(ステップB)機能を有している。
【0138】
変換器アレイ部を構成する変換器は、全て同一構成である。図14は、変換器アレイ部20を構成する一つ変換器20-1に関する、概略的ブロック構成図である。変換器20-1は、第2トランスジューサー64及び位相信号生成及び送信装置60を基本構成要素として具えている。
【0139】
第2トランスジューサー64は、第1トランスジューサー34と同様に電気信号を音波信号に変換し、又音波信号を電気信号に変換する機能を有する。従って、第2トランスジューサー64によって、送信電気変調位相共役波85が音響変調位相共役波65に変換され、また、音響プローブ波35が第1サブ受信電気プローブ波57に変換される。この第2トランスジューサー64には、第1トランスジューサー34と同様に通常の音響トランスジューサーの中から任意好適な構成のものを選んで利用することができる。
【0140】
位相信号生成及び送信装置60が動作を開始すると、第2制御部88からの制御信号に応答して第2信号処理部62の各構成要素が始動する。位相信号生成及び送信装置60は、第2信号処理部62及び第2中央制御部92を具えて構成される。
【0141】
第2信号処理部62は、第2入力部68、コード識別部70、時間反転部72、変調共役波生成部94、及び第2出力部82を具えて構成される。そして、第2信号処理部62は、音源部24から送波された音響プローブ波35を受波して、音響プローブ波35に対する電気位相共役波73を生成する機能を有している。また、電気位相共役波73に位相変調を施して第2サブ送信電気変調位相共役波83を生成する機能を有している。
【0142】
第2中央制御部92は、マイクロコンピュータで構成されている。第2中央制御部92は、第2表示部86、第2制御部88及び第2記憶部90を具えている。第2制御部88は、いわゆる中央演算処理装置(CPU)で構成されていて、第2記憶部90に記憶させてある処理プログラムに従って、第2信号処理部62を制御する。第2記憶部90は、第2信号処理部62を制御するための処理プログラムが記憶されており、また第2信号処理部62において利用され、また、処理されるデータを一時的に記憶する。すなわち、第2記憶部90は、第2信号処理部62において処理される信号、例えば、受信信号である音響プローブ波35、電気位相共役波73、スペクトル解析信号75、変調信号77、周波数変調波79、第1サブ送信電気変調位相共役波81等を記憶する。
【0143】
図14において、第2信号処理部62と第2中央制御部92とは双方向矢印で結んで示してあるが、これは、第2中央制御部92の主要構成要素である第2制御部88と、第2信号処理部62を構成している各構成要素との間で所要のデータのやり取りを行うことを示すとともに、第2制御部88で第2信号処理部62の各構成要素の動作制御を行うことを概念的に表示したものである。
【0144】
音源部24から送波された音響プローブ波35を受波してこの音響プローブ波35を基にして電気位相共役波73を生成する機能は、第2トランスジューサー64、第2前置増幅器66、第2入力部68、コード識別部70及び時間反転部72によって実現される。
【0145】
音波信号である音響プローブ波35は、第2トランスジューサー64で受波されて、電気信号である第1サブ受信電気プローブ波57に変換されて第2前置増幅器66に入力される(ステップBが含むサブステップ(B1))。第2前置増幅器66は、第1サブ受信電気プローブ波57を増幅して第2サブ受信電気プローブ波67として出力し、第2入力部68に入力する。また、第2前置増幅器66は、音響変調位相共役波65を送波する際に、第1サブ受信電気プローブ波57に混入する可能性のあるエネルギーの大きな信号が、第2入力部68に入力されることを防ぐ役割も果たす。
【0146】
第2制御部88は、第2入力部68に第2サブ受信電気プローブ波67が入力されたことに応答して、予め第2記憶部90に記憶されているフィルタリング指示信号及びタイミング指示信号を読み出してきて、第2入力部68にフィルタリング指示信号を、及び第2出力部82にタイミング指示信号を送る。
【0147】
すなわち、第2制御部88から、第2入力部68には、第2サブ受信電気プローブ波67に対する時間的なフィルタリングを行うように、指示が与えられ、これと同時に、第2出力部82には第1サブ送信電気変調位相共役波81を入力する指示が与えられる。この指示に従って、第2入力部68では、第2サブ受信電気プローブ波67に対して時間的なフィルタリングが行われる。すなわち、音響プローブ波35として送波されたトーンバースト波がマルチパスによって延伸した時間幅よりやや大きな時間だけ信号を通過させ、それ以外の時間帯にある信号成分を遮断する、いわゆる時間窓によるフィルター処理が第2入力部68において実行される。すなわち、第2サブ受信電気プローブ波67に混入されている雑音成分の一部がこの時間窓によるフィルター処理によって除去され、第3サブ受信電気プローブ波69として出力されてコード識別部70に入力される。
【0148】
第2制御部88は、コード識別部70に第3サブ受信電気プローブ波69が入力したことに応答して、コード識別部70に対して第2入力部68から出力される第3サブ受信電気プローブ波69を第2記憶部90に一時的に取り込む指示を与える。
【0149】
コード識別部70では、第3サブ受信電気プローブ波69に対して第2記憶部90に保存されている基準コードと比較が行われコードが識別される。この識別動作は、第2記憶部90に保存されている基準コードと第3サブ受信電気プローブ波69との相互相関値を求めることによって行われる。すなわち、第3サブ受信電気プローブ波69のコードは、この相互相関値が最も大きな基準コードに対応するものと判定される。コード識別部70でコードが識別された第3サブ受信電気プローブ波69は、受信電気プローブ波71として時間反転部72に入力される。
【0150】
第2制御部88は、時間反転部72に受信電気プローブ波71が入力したことに応答して、時間反転部72に対してコード識別部70から出力される受信電気プローブ波71を第2記憶部90に一時的に取り込む指示を与える。
【0151】
また、コード識別部70で識別されたコード情報は、第2制御部88を介して第2記憶部90に記憶されるとともに、第2表示部86に表示される。
【0152】
時間反転部72は、受信電気プローブ波71を電気位相共役波73に変換する機能を有している(ステップBが含むサブステップ(B2))。時間反転部72では、受信電気プローブ波71に対する時間窓を設定して、時間軸を反転する。これは、識別されたコードに対応する基準コードの時間軸上での幅に等しい時間だけ受信電気プローブ波71を通過させ、通過した時間波形を第2記憶部90に時間の順序のとおりに一時的に記憶させる。受信電気プローブ波71に対する時間窓を通過した全ての信号成分が第2記憶部90に記憶されたら、記憶された時間の順序とは逆に、時間的に最後に記憶された信号成分から順に時間的に最初に記憶された信号成分が最後になるように、第2記憶部90から信号成分を取り出して時間軸上に再配列する。そうすると、受信電気プローブ波71とは時間軸が反転された電気位相共役波73が生成される。この電気位相共役波73は、変調共役波生成部94に入力される。
【0153】
電気位相共役波73に位相変調を施して第1サブ送信電気変調位相共役波81を生成する機能は、変調共役波生成部94によって実現される(ステップBが含むサブステップ(B3))。変調共役波生成部94は、電気位相共役波73に位相変調を施して第1サブ送信電気変調位相共役波81を生成する機能を有している。第1サブ送信電気変調位相共役波81は、第2出力部82に入力され、第2サブ送信電気変調位相共役波83として出力される。第2サブ送信電気変調位相共役波83は、第2増幅器84によって、第2トランスジューサー64が動作可能である強度まで増幅されて、送信電気変調位相共役波85として第2増幅器84から出力される。送信電気変調位相共役波85は、第2トランスジューサー64によって、音響変調位相共役波65に変換されて音源部24に送波される。
【0154】
変調共役波生成部94は、スペクトル解析部74、変調信号生成部76、位相変調部78、及びパルス波生成部80を具えている。
【0155】
スペクトル解析部74は、電気位相共役波73をフーリエ変換して周波数スペクトルを求めて、スペクトル解析信号75として出力する機能を有している。
【0156】
スペクトル解析信号75は、位相変調部78に入力される。また、位相変調部78には、変調信号生成部76から変調信号77も入力される。位相変調部78にスペクトル解析信号75が入力したことに応答して、第2制御部88から、変調信号生成部76に対して変調信号77を出力するように指示する出力指示信号が送られる。変調信号生成部76は、この出力指示信号に基づいてスペクトル解析信号75と同期させて変調信号77を位相変調部78に対して出力する。
【0157】
スペクトル解析信号75と同期させて変調信号77を位相変調部78に対して出力するとは、より具体的に説明すると次のようになる。すなわち、スペクトル解析信号75は、コードA、B及びCを構成するそれぞれの複数のプローブ波に対応するスペクトル解析信号が時間軸上に一列に並んだ、スペクトル解析信号列である。このスペクトル解析信号列を構成する個々のスペクトル解析信号75と同期させて変調信号77を位相変調部78に対して出力するという意味である。変調信号生成部76は、コードAの場合を例にして説明すると、A1、A2、A3、A4、A5、A6のぞれぞれに与える位相変調量に相当する、スペクトル解析信号列を構成する個々のスペクトル解析信号75と同期させて、変調信号77を位相変調部78に対して出力するという意味である。また、コードB及びCについても同様である。
【0158】
位相変調部78にスペクトル解析信号75及び変調信号77が入力したことに応答して、位相変調部78では、スペクトル解析部74で生成されたスペクトル解析信号75に対して、変調信号生成部76で生成された変調信号77に基づいて位相変調が行われて、周波数変調波79が生成される。
【0159】
位相変調部78では、位相共役性を損なわないで、電気位相共役波73の位相に対して連続的に線形に変調が加えられる。これは、電気位相共役波73をフーリエ変換して得られるスペクトル解析信号75を変更せずに、電気位相共役波73の位相を変調することを意味している。電気位相共役波73は多数の周波数成分で構成されている。そこで、位相変調部78では、電気位相共役波73を構成する周波数の異なる全てのフーリエ成分に対して同一の大きさの位相変化が与えられる。これら全てのフーリエ成分の位相変調量は同じでも、それぞれのフーリエ成分に対する時間軸上のずれの大きさは異なる。すなわち、位相変調部78では、電気位相共役波73の周波数スペクトルを変化させないで、電気位相共役波73の位相が変調されて、周波数変調波79として出力される。
【0160】
パルス波生成部80は、周波数スペクトルを逆フーリエ変換して時間列パルスを生成する機能を有している。従ってパルス波生成部80では、周波数変調波79が逆フーリエ変換されて第1サブ送信電気変調位相共役波81が生成されて出力される。第1サブ送信電気変調位相共役波81は、第2出力部82に入力される。変換器アレイ部20を構成する全ての変換器において、第2出力部82では、第1サブ送信電気変調位相共役波81に対して、それぞれ送信するタイミングが調整されて、第2増幅器84に第2サブ送信電気変調位相共役波83として送られる。
【0161】
第2出力部82で行われる上記のタイミング調整は、第2入力部68に第2サブ受信電気プローブ波67が入力されていない時間帯を、第2制御部88が判定して、その判定に基づいて、第2出力部82に対して、第2増幅器84への第2サブ送信電気変調位相共役波83入力許可信号を出す。そして、第2入力部68からは、第2サブ受信電気プローブ波67が入力されたことに応答して、第2サブ受信電気プローブ波67受信信号を第2制御部88に送る。第2制御部88は、この受信信号が第2入力部68から送られていない時間帯を選んで、第2増幅器84への第2サブ送信電気変調位相共役波83入力許可信号を出す。第2サブ送信電気変調位相共役波83は、第2増幅器84への第2サブ送信電気変調位相共役波83入力許可信号が、第2制御部88から第2出力部82に対して出されるまでの間、第2記憶部90に保存される。
【0162】
第2増幅器84では、第2サブ送信電気変調位相共役波83を第2トランスジューサー64が動作するレベルまで増幅し、送信電気変調位相共役波85として2トランスジューサー64に送る。2トランスジューサー64では、送信電気変調位相共役波85が音響変調位相共役波65に変換されて(ステップBが含むサブステップ(B4))、音源部24に送波される(ステップBが含むサブステップ(B5))。
【0163】
第2表示部86は、コード識別部70で識別されたコードに関する情報と、変調信号生成部76から供給される変調信号77に関する位相情報とを表示する機能を有している。また、変換器アレイ部20から音源部にむけて送るべき情報を入力するための機能を有している。第2表示部86に入力された位相情報は、第2制御部88を介して、変調信号生成部76に送られて、入力された位相情報に対応する変調信号77が生成されて位相変調部78に供給される。
【0164】
これによって、観測船22において、変換器アレイ部20で受信される音響プローブ波35及び変換器アレイ部20から送信される位相情報について監視することができるとともに、及び観測船22から潜水船10に送るべき情報を入力できる。
【図面の簡単な説明】
【0165】
【図1】位相情報伝送方法の説明に供する図である。
【図2】音源部から送信される音響プローブ波の元になる送信電気プローブ波の時間波形を示す図である。
【図3】変換器アレイ部の受波及び送波電気信号の時間波形図である。
【図4】水中での音波の音圧分布図である。
【図5】送信電気プローブ波の時間波形及び受信電気変調位相共役波の時間波形を示す図である。
【図6】第1プローブ波の時間波形図である。
【図7】潜水船で受波された第1プローブ波の位相共役波に位相変調が施された受信信号の時間波形図である。
【図8】第2プローブ波の時間波形図である。
【図9】潜水船で受波された第2プローブ波の位相共役波に位相変調が施された受信信号の時間波形図である。
【図10】第3プローブ波の時間波形図である。
【図11】潜水船で受波された第3プローブ波の位相共役波に位相変調が施された受信信号の時間波形図である。
【図12】この発明の位相情報伝送方法のフローチャートである。
【図13】音源部の概略的ブロック構成図である。
【図14】変換器アレイ部を形成する変換器の概略的ブロック構成図である。
【符号の説明】
【0166】
10:潜水船
12:海水
14:海底
16:海水面
18:海底面
20:変換器アレイ部
22:観測船
24:音源部
26:氷山
30:プローブ信号生成及び受信装置
32:第1信号処理部
34:第1トランスジューサー
36:第1前置増幅器
38:第1入力部
40:コード識別/位相検出部
42:第1表示部
44:制御情報等出力部
46:プローブ信号生成部
48:第1出力部
50:第1増幅器
52:第1制御部
54:第1記憶部
56:第1中央制御部
60:位相信号生成及び送信装置
62:第2信号処理部
64:第2トランスジューサー
66:第2前置増幅器
68:第2入力部
70:コード識別部
72:時間反転部
74:スペクトル解析部
76:変調信号生成部
78:位相変調部
80:パルス波生成部
82:第2出力部
84:第2増幅器
86:第2表示部
88:第2制御部
90:第2記憶部
92:第2中央制御部
94:変調共役波生成部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
音源部で音響プローブ波を生成して、該音響プローブ波を該音源部から変換器アレイ部に送る第1ステップと、
該音響プローブ波を基にして生成した音響変調位相共役波を、前記変換器アレイ部から前記音源部に送る第2ステップと、
前記音源部で、前記音響変調位相共役波から位相変調成分を抽出する第3ステップと
を含むことを特徴とする位相情報伝送方法。
【請求項2】
前記第1ステップにおいて、前記音響プローブ波を、互いの位相が逆位相の関係にある第1部分と第2部分とが時間軸上で直列接続されていて、該第1部分と該第2部分との接続部が位相跳躍部である当該音響プローブ波として生成することを特徴とする請求項1に記載の位相情報伝送方法。
【請求項3】
音源部で送信電気プローブ波を生成して、該送信電気プローブ波を音響プローブ波に変換して、前記音源部から該音響プローブ波を変換器アレイ部に送る第1ステップと、
該変換器アレイ部で、該音響プローブ波を受信電気プローブ波に変換して該受信電気プローブ波を電気位相共役波に変換し、該電気位相共役波に位相変調を施して送信電気変調位相共役波を生成し、該送信電気変調位相共役波を音響変調位相共役波に変換して、前記変換器アレイ部から該音響変調位相共役波を前記音源部に送る第2ステップと、
前記音源部で、該音響変調位相共役波を受信電気変調位相共役波に変換して、該受信電気変調位相共役波を介して、前記音響変調位相共役波の位相変調成分を抽出する第3ステップと
を含むことを特徴とする位相情報伝送方法。
【請求項4】
前記第1ステップにおいて、前記送信電気プローブ波を、互いの位相が逆位相の関係にある第1部分と第2部分とが時間軸上で直列接続されていて、該第1部分と該第2部分との接続部が位相跳躍部である当該送信電気プローブ波として生成することを特徴とする請求項3に記載の位相情報伝送方法。
【請求項5】
前記音響プローブ波を、第1プローブ波、第2プローブ波、及び第3プローブ波を含むプローブ波として生成し、
前記第1プローブ波を、正弦波からなるトーンバースト波として生成し、
前記第2プローブ波を、前記第1プローブ波の位相と同位相の前記第1部分の正弦波に引き続いて前記第1プローブ波の位相とπ位相ずれた前記第2部分の正弦波を時間軸上で直列接続されていて、該第1部分の正弦波と該第2部分の正弦波との接続部が位相跳躍部であるトーンバースト波として生成し、
前記第3プローブ波を、前記第1プローブ波の位相とπ位相ずれた前記第1部分の正弦波に引き続いて前記第1プローブ波の位相と同位相の前記第2部分の正弦波を時間軸上で直列接続されていて、該第1部分の正弦波と該第2部分の正弦波との接続部が位相跳躍部であるトーンバースト波として生成する
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の位相情報伝送方法。
【請求項6】
音響プローブ波を生成して変換器アレイ部に送波するとともに、該変換器アレイ部から送られた音響変調位相共役波から位相変調成分を抽出する音源部と、
該音源部から送波された前記音響プローブ波を基にして生成した前記音響変調位相共役波を、前記音源部に送る変換器アレイ部と
を具えることを特徴とする位相情報伝送システム。
【請求項7】
前記音源部が、前記音響プローブ波を、互いの位相が逆位相の関係にある第1部分と第2部分とが時間軸上で直列接続されていて、該第1部分と該第2部分との接続部が位相跳躍部である当該音響プローブ波として生成する機能を有していることを特徴とする請求項6に記載の位相情報伝送システム。
【請求項8】
送信電気プローブ波を生成するプローブ信号生成部と、
前記送信電気プローブ波を音響プローブ波に変換し、かつ音響変調位相共役波を受信電気変調位相共役波に変換する第1トランスジューサーと、
前記受信電気変調位相共役波を介して、前記音響変調位相共役波の位相変調成分を抽出するコード識別/位相検出部と、
を具える音源部と、
前記音響プローブ波を受信電気プローブ波に変換し、かつ前記送信電気変調位相共役波を前記音響変調位相共役波に変換する第2トランスジューサーと、
受信電気プローブ波を電気位相共役波に変換する時間反転部と、
該電気位相共役波に位相変調を施して送信電気変調位相共役波を生成する変調共役波生成部と、
を具える変換器を複数連ねて構成される変換器アレイ部と
を具えることを特徴とする位相情報伝送システム。
【請求項9】
前記プローブ信号生成部は、前記送信電気プローブ波を、互いの位相が逆位相の関係にある第1部分と第2部分とが時間軸上で直列接続されていて、該第1部分と該第2部分との接続部が位相跳躍部である当該送信電気プローブ波として生成する機能を有することを特徴とする請求項8に記載の位相情報伝送システム。
【請求項10】
前記音源部で生成される音響プローブ波は、第1プローブ波、第2プローブ波、及び第3プローブ波を含み、
前記第1プローブ波は、正弦波からなるトーンバースト波であり、
前記第2プローブ波は、前記第1プローブ波の位相と同位相の前記第1部分の正弦波に引き続いて前記第1プローブ波の位相とπ位相ずれた前記第2部分の正弦波を時間軸上で直列接続されていて、該第1部分の正弦波と該第2部分の正弦波との接続部が位相跳躍部であるトーンバースト波であり、
前記第3プローブ波は、前記第1プローブ波の位相とπ位相ずれた前記第1部分の正弦波に引き続いて前記第1プローブ波の位相と同位相の前記第2部分の正弦波を時間軸上で直列接続されていて、該第1部分の正弦波と該第2部分の正弦波との接続部が位相跳躍部であるトーンバースト波である
ことを特徴とする請求項6から9のいずれか一項に記載の位相情報伝送システム。
【請求項1】
音源部で音響プローブ波を生成して、該音響プローブ波を該音源部から変換器アレイ部に送る第1ステップと、
該音響プローブ波を基にして生成した音響変調位相共役波を、前記変換器アレイ部から前記音源部に送る第2ステップと、
前記音源部で、前記音響変調位相共役波から位相変調成分を抽出する第3ステップと
を含むことを特徴とする位相情報伝送方法。
【請求項2】
前記第1ステップにおいて、前記音響プローブ波を、互いの位相が逆位相の関係にある第1部分と第2部分とが時間軸上で直列接続されていて、該第1部分と該第2部分との接続部が位相跳躍部である当該音響プローブ波として生成することを特徴とする請求項1に記載の位相情報伝送方法。
【請求項3】
音源部で送信電気プローブ波を生成して、該送信電気プローブ波を音響プローブ波に変換して、前記音源部から該音響プローブ波を変換器アレイ部に送る第1ステップと、
該変換器アレイ部で、該音響プローブ波を受信電気プローブ波に変換して該受信電気プローブ波を電気位相共役波に変換し、該電気位相共役波に位相変調を施して送信電気変調位相共役波を生成し、該送信電気変調位相共役波を音響変調位相共役波に変換して、前記変換器アレイ部から該音響変調位相共役波を前記音源部に送る第2ステップと、
前記音源部で、該音響変調位相共役波を受信電気変調位相共役波に変換して、該受信電気変調位相共役波を介して、前記音響変調位相共役波の位相変調成分を抽出する第3ステップと
を含むことを特徴とする位相情報伝送方法。
【請求項4】
前記第1ステップにおいて、前記送信電気プローブ波を、互いの位相が逆位相の関係にある第1部分と第2部分とが時間軸上で直列接続されていて、該第1部分と該第2部分との接続部が位相跳躍部である当該送信電気プローブ波として生成することを特徴とする請求項3に記載の位相情報伝送方法。
【請求項5】
前記音響プローブ波を、第1プローブ波、第2プローブ波、及び第3プローブ波を含むプローブ波として生成し、
前記第1プローブ波を、正弦波からなるトーンバースト波として生成し、
前記第2プローブ波を、前記第1プローブ波の位相と同位相の前記第1部分の正弦波に引き続いて前記第1プローブ波の位相とπ位相ずれた前記第2部分の正弦波を時間軸上で直列接続されていて、該第1部分の正弦波と該第2部分の正弦波との接続部が位相跳躍部であるトーンバースト波として生成し、
前記第3プローブ波を、前記第1プローブ波の位相とπ位相ずれた前記第1部分の正弦波に引き続いて前記第1プローブ波の位相と同位相の前記第2部分の正弦波を時間軸上で直列接続されていて、該第1部分の正弦波と該第2部分の正弦波との接続部が位相跳躍部であるトーンバースト波として生成する
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の位相情報伝送方法。
【請求項6】
音響プローブ波を生成して変換器アレイ部に送波するとともに、該変換器アレイ部から送られた音響変調位相共役波から位相変調成分を抽出する音源部と、
該音源部から送波された前記音響プローブ波を基にして生成した前記音響変調位相共役波を、前記音源部に送る変換器アレイ部と
を具えることを特徴とする位相情報伝送システム。
【請求項7】
前記音源部が、前記音響プローブ波を、互いの位相が逆位相の関係にある第1部分と第2部分とが時間軸上で直列接続されていて、該第1部分と該第2部分との接続部が位相跳躍部である当該音響プローブ波として生成する機能を有していることを特徴とする請求項6に記載の位相情報伝送システム。
【請求項8】
送信電気プローブ波を生成するプローブ信号生成部と、
前記送信電気プローブ波を音響プローブ波に変換し、かつ音響変調位相共役波を受信電気変調位相共役波に変換する第1トランスジューサーと、
前記受信電気変調位相共役波を介して、前記音響変調位相共役波の位相変調成分を抽出するコード識別/位相検出部と、
を具える音源部と、
前記音響プローブ波を受信電気プローブ波に変換し、かつ前記送信電気変調位相共役波を前記音響変調位相共役波に変換する第2トランスジューサーと、
受信電気プローブ波を電気位相共役波に変換する時間反転部と、
該電気位相共役波に位相変調を施して送信電気変調位相共役波を生成する変調共役波生成部と、
を具える変換器を複数連ねて構成される変換器アレイ部と
を具えることを特徴とする位相情報伝送システム。
【請求項9】
前記プローブ信号生成部は、前記送信電気プローブ波を、互いの位相が逆位相の関係にある第1部分と第2部分とが時間軸上で直列接続されていて、該第1部分と該第2部分との接続部が位相跳躍部である当該送信電気プローブ波として生成する機能を有することを特徴とする請求項8に記載の位相情報伝送システム。
【請求項10】
前記音源部で生成される音響プローブ波は、第1プローブ波、第2プローブ波、及び第3プローブ波を含み、
前記第1プローブ波は、正弦波からなるトーンバースト波であり、
前記第2プローブ波は、前記第1プローブ波の位相と同位相の前記第1部分の正弦波に引き続いて前記第1プローブ波の位相とπ位相ずれた前記第2部分の正弦波を時間軸上で直列接続されていて、該第1部分の正弦波と該第2部分の正弦波との接続部が位相跳躍部であるトーンバースト波であり、
前記第3プローブ波は、前記第1プローブ波の位相とπ位相ずれた前記第1部分の正弦波に引き続いて前記第1プローブ波の位相と同位相の前記第2部分の正弦波を時間軸上で直列接続されていて、該第1部分の正弦波と該第2部分の正弦波との接続部が位相跳躍部であるトーンバースト波である
ことを特徴とする請求項6から9のいずれか一項に記載の位相情報伝送システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図4】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図4】
【公開番号】特開2007−13305(P2007−13305A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−188369(P2005−188369)
【出願日】平成17年6月28日(2005.6.28)
【特許番号】特許第3753251号(P3753251)
【特許公報発行日】平成18年3月8日(2006.3.8)
【出願人】(504194878)独立行政法人海洋研究開発機構 (110)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年6月28日(2005.6.28)
【特許番号】特許第3753251号(P3753251)
【特許公報発行日】平成18年3月8日(2006.3.8)
【出願人】(504194878)独立行政法人海洋研究開発機構 (110)
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