説明

位相比較回路

【課題】回路の対称性が良く配線長の差異がなく、回路規模が小さい位相比較回路を得る。
【解決手段】第1の信号を90度位相が異なる信号に二分配する第1の90度分配器11と、第1の90度分配器11の0度出力を同相で二分配する第1の同相分配器12と、第2の信号を同相で二分配する第2の同相分配器13と、第2の同相分配器13の出力の一方を90度位相が異なる信号に二分配する第2の90度分配器14と、第1の同相分配器12の出力の一方と第2の90度分配器14の90度出力の位相を比較する第1のミクサ15と、第1の同相分配器12の出力の他方と第2の90度分配器14の0度出力の位相を比較する第2のミクサ16と、第2のミクサ16の出力に基づき第1及び第2の信号が逆相状態かを判定する比較器17と、判定結果に基づき第1のミクサ15の出力を変換するリミタ回路18を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は位相比較回路に関し、特に、例えば、レーダ装置等に用いられ、受信信号と基準信号を比較したり、あるいは、主アンテナと補助アンテナとで受信された2つの信号の位相を比較するための位相比較回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術において、マイクロ波無線通信方式の1つとして、主アンテナと補助アンテナの2つのアンテナにより受信した信号を合成することにより、回線の瞬断や雑音の軽減などを図るものがある。当該方式においては、主アンテナと補助アンテナのそれぞれの出力信号の位相を一致させる必要があるため、2つの信号の位相を比較して調整を行う(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の位相比較回路は、主アンテナで受信した第1の信号と、補助アンテナで受信し移相制御した第2の信号とが逆相で同期するのを防ぐため、以下のように動作する。すなわち、第1の信号と移相制御した第2の信号とを同相合成(信号の位相をそのまま合成)および逆相合成(一方の信号の位相を反転して合成)し、同相合成信号と逆相合成信号とを検波した電圧の大小を比較することで第1の信号と移相制御した第2の信号の位相が同相状態にあるか、逆相状態にあるかを判定する。そして、逆相状態にあるときは移相器を強制的に制御して逆相状態で同期するのを防ぐ。
【0004】
また、他の従来の位相比較回路においては、他の方法により、第1の信号と移相制御した第2の信号が逆相で同期するのを防いでいる(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
特許文献2の位相比較回路は、第1の信号と移相制御した第2の信号が逆相で同期するのを防ぐため、以下のように動作する。すなわち、第1の信号と移相制御した第2の信号のいずれか一方を90度移相器で90度移相し、もう一方の信号と第1の位相比較器で比較すると同時に、第1の信号と移相制御した第2の信号を同相のままで第2の位相比較器で比較する。そして、第1の位相比較器の二つの入力信号が互いに直交(90度位相がずれた状態)して、第1の位相比較器の出力がゼロになるように第2の信号を移相制御する。さらに、第2の位相比較器の出力電圧の正負によって第1の信号と移相制御した第2の信号が同相状態にあるか、逆相状態にあるかを判定する。そして、逆相状態にあるときは移相器を強制的に制御して逆相状態で同期するのを防ぐ。
【0006】
【特許文献1】特開平6−164458号公報(特に、第3〜5頁、第1図)
【特許文献2】特開平11−195930号公報(特に、第5〜7頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の従来の位相比較回路においては、第1の信号と移相制御した第2の信号の位相が同相状態にあるか、逆相状態にあるかを判定するために、二つの信号を同相合成および逆相合成し、それぞれを検波した電圧を比較しており、二つの合成回路や検波回路が必要で、回路規模が大きくなってしまうという問題点があった。
【0008】
また、特許文献2に記載の従来の位相比較回路においては、第1の信号と移相制御した第2の信号のいずれか一方を90度移相器で90度移相し、もう一方の信号と第1の位相比較器で比較すると同時に、第1の信号と移相制御した第2の信号を同相のままで第2の位相比較器で比較する。そして、第1の位相比較器の出力を移相制御に使うと共に、第2の位相比較器の出力を使って、第1の信号と移相制御した第2の信号の位相が同相状態にあるか、逆相状態にあるかを判定する。従って、第1の位相比較器には第1の信号と移相制御した第2の信号のいずれか一方だけが90度移相器で90度移相され、他方はそのまま入力される。このため、位相比較器の二つの入力信号において信号経路の対称性が悪く、第2の位相比較器の入力部での配線長の差異によって位相差が生じてしまうという問題点があった。
【0009】
この発明はかかる問題点を解決するためになされたものであり、回路の対称性が良く配線長の差異が生じにくく、かつ、回路規模が小さい回路にて実現可能な位相比較回路を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、第1の信号を、90度位相が異なる2つの信号に二分配する第1の90度分配器と、前記第1の90度分配器の0度出力を同相の2つの信号に二分配する第1の同相分配器と、第2の信号を同相で二分配する第2の同相分配器と、前記第2の同相分配器の出力の一方を、90度位相が異なる2つの信号に二分配する第2の90度分配器と、前記第1の同相分配器の出力の一方と、前記第2の90度分配器の90度出力とを入力して、それら2つの信号の位相を比較する第1の位相比較器と、前記第1の同相分配器の出力の他方と、前記第2の90度分配器の0度出力とを入力して、それら2つの信号の位相を比較する第2の位相比較器と、前記第2の位相比較器の出力の符号に基づいて、前記第1の信号と前記第2の信号が逆相状態にあるか否かを判定する判定手段と、前記判定手段の判定結果に基づいて前記第1の位相比較器からの出力を変換する変換手段とを備え、前記変換手段は、前記判定手段が前記第1の信号と前記第2の信号が逆相状態にあると判定した場合に、前記第1の位相比較器の出力がゼロまたは正のときは、正の電圧を出力し、負の場合は、負の電圧を出力する位相比較回路である。あるいは、前記変換手段は、前記判定手段が前記第1の信号と前記第2の信号が逆相状態にあると判定した場合に、前記第1の位相比較器の出力が正のときは、正の電圧を出力し、ゼロまたは負の場合は、負の電圧を出力する位相比較回路である。
【発明の効果】
【0011】
この発明は、第1の信号を、90度位相が異なる2つの信号に二分配する第1の90度分配器と、前記第1の90度分配器の0度出力を同相の2つの信号に二分配する第1の同相分配器と、第2の信号を同相で二分配する第2の同相分配器と、前記第2の同相分配器の出力の一方を、90度位相が異なる2つの信号に二分配する第2の90度分配器と、前記第1の同相分配器の出力の一方と、前記第2の90度分配器の90度出力とを入力して、それら2つの信号の位相を比較する第1の位相比較器と、前記第1の同相分配器の出力の他方と、前記第2の90度分配器の0度出力とを入力して、それら2つの信号の位相を比較する第2の位相比較器と、前記第2の位相比較器の出力の符号に基づいて、前記第1の信号と前記第2の信号が逆相状態にあるか否かを判定する判定手段と、前記判定手段の判定結果に基づいて前記第1の位相比較器からの出力を変換する変換手段とを備え、前記変換手段は、前記判定手段が前記第1の信号と前記第2の信号が逆相状態にあると判定した場合に、前記第1の位相比較器の出力がゼロまたは正のときは、正の電圧を出力し、負の場合は、負の電圧を出力する位相比較回路であるので、回路の対称性が良く配線長の差異が生じにくいため、配線長の差異によって位相差が生じてしまうことを防止することができるとともに、回路規模の減縮を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1に係る位相比較回路の構成を示す構成図である。図1に示す位相比較回路は、入力される第1の信号と第2の信号が入力されて、それらの位相を比較するための回路である。図1において、1は移相器であり、入力される第2の信号を後述する積分器20からの出力に基づいて移相制御する無限移相器から構成されている。11は、入力される第1の信号を、互いに90度位相が異なる2つの信号に二分配する第1の90度分配器、12は第1の90度分配器11の0度出力を同相の2つの信号に二分配する第1の同相分配器である。なお、第1の90度分配器11の90度出力は抵抗を介して接地されている。13は、移相器1により移相制御された第2の信号を同相の2つの信号に二分配する第2の同相分配器、14は、第2の同相分配器13の出力の一方を、互いに90度位相が異なる2つの信号に二分配する第2の90度分配器である。なお、第2の同相分配器13の残りのもう一方の出力は抵抗を介して接地されている。
【0013】
15は、第1の同相分配器12の出力の一方と、第2の90度分配器14の90度出力からの信号とを入力して、それら2つの信号の位相を比較する第1のミクサ(位相比較器)、16は第1の同相分配器12の出力の残りのもう一方と、第2の90度分配器14の0度出力からの信号とを入力して、それら2つの信号の位相を比較する第2のミクサ(位相比較器)である。また、17は第2のミクサ16の出力の正負を判定する比較器(判定手段)、18は比較器17の比較結果に基づいて第2のミクサ16の出力が負の場合に、第1のミクサ15の出力を強制的に変換するリミタ回路(変換手段)である。19はリミタ回路18の出力が入力されるループフィルタ、20はループフィルタ19からの出力を用いた積分演算を行い、演算結果を移相器1に入力する積分器である。
【0014】
次に図1に示した本実施の形態1に係る位相比較回路の動作について説明する。
まず、第1の90度分配器11は、第1の信号を、互いに90度位相が異なる2つの信号に二分配し、第1の同相分配器12は、第1の90度分配器11の0度出力を同相で二分配する。一方、第2の同相分配器13は、移相器1で移相制御した第2の信号を同相で二分配し、第2の90度分配器14は、第2の同相分配器13の出力の一方を、互いに90度移相が異なる2つの信号に二分配する。そして、第1のミクサ15には、第1の同相分配器12の出力の一方と、第2の90度分配器14の90度出力からの信号とが入力され、2つの信号の位相が比較される。この結果、第1の信号は第1の90度分配器11の入力〜0度出力の経路と第1の同相分配器12の入力〜出力の経路を経て、第1のミクサに15に入力される。一方、移相制御した第2の信号は第2の同相分配器13の入力〜出力の経路と第2の90度分配器14の入力〜90度出力の経路とを経て、第1のミクサに15に入力される。このため、第1と第2の同相分配器、第1と第2の90度分配器がそれぞれ同種のものであれば、移相制御した第2の信号は第1の信号に比べてちょうど90度だけ余計に移相されて第1のミクサ15に導かれる。
【0015】
また、第2のミクサ16には、第1の同相分配器12の出力の残りのもう一方と、第2の90度分配器14の0度出力からの信号が入力され、2つの信号の位相が比較される。この結果、第1の信号は第1の90度分配器11の入力〜0度出力の経路と第1の同相分配器12の入力〜出力の経路を経て第2のミクサに16に入力される。一方、移相制御した第2の信号は第2の同相分配器13の入力〜出力の経路と第2の90度分配器14の入力〜0度出力の経路とを経て第2のミクサ16に入力される。このため、第1と第2の同相分配器、第1と第2の90度分配器がそれぞれ同種のものであれば、移相制御した第2の信号は第1の信号と同じ位相だけ移相されて第2のミクサ16に導かれる。
【0016】
第1および第2のミクサ15,16は、2つの入力信号の位相差θが−90°<θ<90°の場合は出力が正になる一方、位相差がθ≦−90°または90°≦θの場合は出力が負となる。従って、第2のミクサ16の出力が負の場合、第1の信号と移相制御された第2の信号との位相差θはθ≦−90°または90°≦θであり、第1のミクサ15の出力がゼロの場合は完全な逆相になっていることを示している。
【0017】
そこで、第2のミクサ16の出力の符号(正または負の別)を比較器17で判定し、負の場合に、第1のミクサ15の出力がゼロまたは正の場合には、リミタ回路18が、出力電圧として、正の一定電圧(正の最大値)を、負の場合には負の一定電圧(負の最小値)を出力するように、リミタ回路18を制御する。この結果、第1の信号と移相制御された第2の信号とが逆相の場合は必ず強制的に移相制御が行われ、第1の信号と移相制御された第2の信号が同相で同期するように制御される。これにより、位相差が180度のときに、ゼロが出力されないようにすることができる。なお、本例では、第2のミクサ16の出力の符号(正または負の別)が負の場合に、リミタ回路18が第1のミクサ15の出力の符号に応じて正または負の一定電圧を出力するような構成で説明したが、必ずしも一定電圧である必要はなく、第1のミクサ15の出力の符号に応じて正または負のゼロでない電圧を出力すれば同様の効果を奏する。また、本例では、第2のミクサ16の出力の符号(正または負の別)が負の場合に、第1のミクサ15の出力がゼロまたは正のときは、リミタ回路18が正の電圧を出力し、第1のミクサ15の出力が負の場合は、リミタ回路18が負の電圧を出力するような構成で説明したが、第1のミクサ15の出力が正のときは、リミタ回路18が正の電圧を出力し、第1のミクサ15の出力がゼロまたは負の場合は、リミタ回路18が負の電圧を出力しても同様の効果を奏する。
【0018】
リミタ回路18の出力はループフィルタ19を介して積分器20に入力され、積分器20はそれを用いた積分演算を行う。そうして得られた演算結果は移相器1に入力される。移相器1では、当該演算結果により、第1の信号と第2の信号との位相差に基づく第2の信号の移相制御を行って位相同期し、そうして得られた第2の信号を、第2の同相分配器13へ入力するとともに、位相比較回路全体からの出力信号として外部に出力する。
【0019】
以上のように、本実施の形態においては、第1の信号と第2の信号を第1のミクサ15と第2のミクサ16に分配する回路を、同相分配器と90度分配器とを接続して構成するようにしたので、第1と第2のミクサ15,16のそれぞれへの入力信号が同相分配器と90度分配器をひとつずつ経由することになるため、回路の対称性が良く配線長の差異を生じにくい位相比較回路を実現することができる。これにより、線路長の差による位相誤差の発生を抑えることができる。また、信号を同相合成および逆相合成して、それぞれを検波した電圧を比較する従来方式に比べ、合成回路や検波回路が不要となるため回路規模が小さくてすみ、装置の小型化を図ることができる。さらに、第1の信号と第2の信号を第1のミクサ15と第2のミクサ16に分配する回路を、同相分配器と90度分配器とを接続して構成するようにしたので、第1の信号と第2の信号とを正確に同相および90度位相差で比較することができるので、第1および第2のミクサ15,16の入力信号の位相差が180度のとき、制御が行われないという不具合(ハングアップ)を解消することができる。
【0020】
なお、以上の説明では、第1の信号が第1の90度分配器11と第1の同相分配器12を経由し、移相制御した第2の信号が第2の同相分配器13と第2の90度分配器14を経由するように構成しているが、その場合に限らず、その逆、すなわち、移相制御した第2の信号が第1の90度分配器11と第1の同相分配器12を経由し、第1の信号が第2の同相分配器13と第2の90度分配器14を経由するように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明の実施の形態1に係る位相比較器の構成を示した構成図である。
【符号の説明】
【0022】
1 移相器、11 第1の90度分配器、12 第1の同相分配器、13 第2の同相分配器、14 第2の90度分配器、15 第1のミクサ、16 第2のミクサ、17 比較器、18 リミタ回路、19 ループフィルタ、20 積分器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の信号を、90度位相が異なる2つの信号に二分配する第1の90度分配器と、
前記第1の90度分配器の0度出力を同相の2つの信号に二分配する第1の同相分配器と、
第2の信号を同相で二分配する第2の同相分配器と、
前記第2の同相分配器の出力の一方を、90度位相が異なる2つの信号に二分配する第2の90度分配器と、
前記第1の同相分配器の出力の一方と、前記第2の90度分配器の90度出力とを入力して、それら2つの信号の位相を比較する第1の位相比較器と、
前記第1の同相分配器の出力の他方と、前記第2の90度分配器の0度出力とを入力して、それら2つの信号の位相を比較する第2の位相比較器と、
前記第2の位相比較器の出力の符号に基づいて、前記第1の信号と前記第2の信号が逆相状態にあるか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段の判定結果に基づいて前記第1の位相比較器からの出力を変換する変換手段と
を備え、
前記変換手段は、前記判定手段が前記第1の信号と前記第2の信号が逆相状態にあると判定した場合に、前記第1の位相比較器の出力がゼロまたは正のときは、正の電圧を出力し、負の場合は、負の電圧を出力する
ことを特徴とする位相比較回路。
【請求項2】
第1の信号を、90度位相が異なる2つの信号に二分配する第1の90度分配器と、
前記第1の90度分配器の0度出力を同相の2つの信号に二分配する第1の同相分配器と、
第2の信号を同相で二分配する第2の同相分配器と、
前記第2の同相分配器の出力の一方を、90度位相が異なる2つの信号に二分配する第2の90度分配器と、
前記第1の同相分配器の出力の一方と、前記第2の90度分配器の90度出力とを入力して、それら2つの信号の位相を比較する第1の位相比較器と、
前記第1の同相分配器の出力の他方と、前記第2の90度分配器の0度出力とを入力して、それら2つの信号の位相を比較する第2の位相比較器と、
前記第2の位相比較器の出力の符号に基づいて、前記第1の信号と前記第2の信号が逆相状態にあるか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段の判定結果に基づいて前記第1の位相比較器からの出力を変換する変換手段と
を備え、
前記変換手段は、前記判定手段が前記第1の信号と前記第2の信号が逆相状態にあると判定した場合に、前記第1の位相比較器の出力が正のときは、正の電圧を出力し、ゼロまたは負の場合は、負の電圧を出力する
ことを特徴とする位相比較回路。

【図1】
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【公開番号】特開2008−301065(P2008−301065A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−143592(P2007−143592)
【出願日】平成19年5月30日(2007.5.30)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)