位置推定方法および装置
【構成】センサの位置を示すセンサ頂点VS、空間領域の位置を示す領域頂点VR、および領域頂点VRとセンサ頂点VSとを結ぶエッジEからなるグラフ構造G上に粒子の分布が制限された1または2以上の粒子フィルタを用いて、空間領域内の対象の位置を推定する位置推定方法であって、
センサにおいて対象が検出されたとき、グラフ構造G上において当該センサを示すセンサ頂点VSと最も距離が近い粒子フィルタを伝播モードとし(S29)、それ以外の粒子フィルタを固定モードとし(S31)、センサにおいて対象が検出されないとき、すべての粒子フィルタを固定モードとする(S25)。
【効果】対象が一定の空間領域に長期間存在して検出されない場合や任意の粒子フィルタが観測を勝ち取らなかった場合でも粒子がグラフ構造G上の方々に分散することを防止できる。
センサにおいて対象が検出されたとき、グラフ構造G上において当該センサを示すセンサ頂点VSと最も距離が近い粒子フィルタを伝播モードとし(S29)、それ以外の粒子フィルタを固定モードとし(S31)、センサにおいて対象が検出されないとき、すべての粒子フィルタを固定モードとする(S25)。
【効果】対象が一定の空間領域に長期間存在して検出されない場合や任意の粒子フィルタが観測を勝ち取らなかった場合でも粒子がグラフ構造G上の方々に分散することを防止できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、位置推定方法および装置に関し、特に、1または2以上の粒子フィルタを用いて、空間領域を移動する対象の現在の位置を推定する位置推定方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、人が活動する空間領域のいたるところにコンピュータが存在する状況となり、人とコンピュータとの間のインターフェースをどのように発展させるかが大きな課題となっている。現状では、人々の間にコンピュータを扱う能力の格差が存在するため、すべての人々がコンピュータによって提供される各種のサービスによる恩恵を等しく享受しているとはいい難い。
【0003】
そこで、この恩恵をすべての人々が等しく享受することができる環境の実現が強く望まれている。この環境の実現への鍵となる技術として、コンピュータが周囲の人やオブジェクトの状態を認識し、その状態による環境に応じたサービスを能動的に提供する“コンテクストアウェアネス”がある。
【0004】
このような技術の実現に向けて、人の姿勢推定、視線推定、音声認識などの数多くの状態推定に関する研究が行われている。そして、これらの状態推定の中でも、人の位置の推定は、人が存在する場所とその場所で起こしうる行動との相関が非常に高いことから、人の行動を認識する上で最も重要な推定の1つであると考えられている。
【0005】
そのため、人の位置を推定する方法としてさまざまな方法が提案されているが、その1つとして、非特許文献1に記載されているように、粒子フィルタ(モンテカルロ・フィルタ)を用いるものがある。この従来の方法では、単一の粒子フィルタを用いて、移動するロボットの位置を推定しており、粒子フィルタの粒子の分散はロボットが移動する複数の空間領域の互いの繋がりの構造を示すボロノイ・グラフ上に制限されている。そして、この粒子フィルタで、ロボットの位置の予測と複数の空間領域からなる場所にまばらに設けられたセンサによるロボットの検出結果に基づく当該予測の修正とを繰り返すことによってロボットが存在する位置を推定(追跡)している。
【非特許文献1】Liao, L., Fox, D., Hightower, J., Kautz, H., Schulz, D.: Voronoi tracking: Location estimation using sparse and noisy sensor data. In: Proc. of the IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems. (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、このような粒子フィルタを用いて複数の空間領域からなる建物内を移動する人の現在の位置を推定する場合、人が所定の空間領域内のセンサに検出されない位置で長期間存在する状況が発生すると、人の検出による予測の修正が行われず、予測のみが行われるため、時間の経過に伴い粒子が方々に分散して人の存在位置の確率を示す正しい粒子の分布を維持できなくなるという問題がある。
【0007】
また、このような粒子フィルタを用いて複数の空間領域からなる建物内を移動する人の現在の位置を推定する場合、センサの検出範囲が複数の空間領域にまたがっていてセンサが位置する空間領域と異なる空間領域に存在する人を誤検出したり、一連のセンサによる連続した人の検出の間に所定のセンサが正常に人を検出しなかったりして、ボロノイ・グラフ上において連続しない空間領域において突発的に人が検出された場合には、正しく人の現在の位置を推定(追跡)することができないという問題がある。
【0008】
なお、センサの検出範囲の複数の空間領域へのまたがりは、たとえば、人が移動する場所がショッピングモールやコンビニエンスストアなどで、空間領域の区切りが陳列棚などの高さの低いものであり、所定の空間領域の天井に設けられた赤外線センサが、当該空間領域以外の空間領域に存在する人が携帯する赤外線発信機から発信された赤外線を受信する場合に起こりうる。空間領域を区切る陳列棚が、赤外線発信機が発信する赤外線を遮断しないためである。
【0009】
それゆえに、この発明の主たる目的は、新規な、位置推定方法および装置を提供することである。
【0010】
また、この発明の他の目的は、対象が一定の空間領域に長期間存在するなどしてセンサで検出されない場合がある環境であっても高い精度で対象の現在の位置を推定できる、位置推定方法および装置を提供することである。
【0011】
さらに、この発明の他の目的は、対象が空間領域の移動可能経路上において連続しない空間領域で突発的に検出される環境であっても高い精度で対象の現在の位置を推定できる位置推定方法および装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の構成を採用した。なお、括弧内の参照符号および補足説明などは、本発明の理解を助けるために後述する実施の形態との対応関係を示したものであって、本発明を何ら限定するものではない。
【0013】
第1の発明は、空間領域の境界に設けられ当該境界を通過する対象を検出するセンサの位置を示すセンサ頂点、空間領域の位置を示す領域頂点、および領域頂点と当該領域頂点が示す空間領域の境界に設けられたセンサを示すセンサ頂点とを結ぶエッジからなるグラフ構造上に粒子の分布が制限され、粒子の確率分布に基づく対象の位置の予測とセンサによる対象の検出に基づく予測の修正とを繰り返す1または2以上の粒子フィルタを用いて、空間領域を移動する対象の位置を推定する位置推定方法であって、センサにおいて対象が検出されたとき、当該センサを示すセンサ頂点とグラフ構造上において最も距離が近い粒子フィルタに属する粒子の確立分布に基づく対象の位置の予測を検出に基づいて修正し、当該粒子フィルタに属する粒子をグラフ構造上に伝搬させる伝搬ステップ(A)、およびセンサにおいて対象が検出されたとき、当該センサを示すセンサ頂点とグラフ構造上において最も距離が近い粒子フィルタ以外の粒子フィルタに属する粒子をグラフ構造上において当該粒子フィルタに最も近い領域頂点の周辺に収束させる第1固定ステップ(B)を含む、位置推定方法である。
【0014】
第1の発明では、位置推定方法は、空間領域の境界に設けられ当該境界を通過する対象を検出するセンサ(10、12)の位置を示すセンサ頂点(VS)、空間領域の位置を示す領域頂点(VR)、および領域頂点と当該領域頂点が示す空間領域の境界に設けられたセンサを示すセンサ頂点とを結ぶエッジ(E)からなるグラフ構造(G)上に粒子の分布が制限され、粒子の確率分布に基づく対象の位置の予測とセンサによる対象の検出に基づく予測の修正とを繰り返す1または2以上の粒子フィルタを用いて、空間領域を移動する対象の位置を推定する。
【0015】
そして、この位置推定方法において、伝搬ステップ(A)(S29)では、センサにおいて対象が検出されたとき、当該センサを示すセンサ頂点とグラフ構造上において最も距離が近い粒子フィルタに属する粒子の確立分布に基づく対象の位置の予測を検出に基づいて修正し、当該粒子フィルタに属する粒子をグラフ構造上に伝搬させ、第1固定ステップ(B)(S31)では、センサにおいて対象が検出されたとき、当該センサを示すセンサ頂点とグラフ構造上において最も距離が近い粒子フィルタ以外の粒子フィルタに属する粒子をグラフ構造上において当該粒子フィルタに最も近い領域頂点の周辺に収束させる。
【0016】
第1の発明によれば、粒子フィルタは、伝搬ステップ(A)が実行される伝播モードの他に、第1固定ステップ(B)が実行される固定モードを備えるので、センサによる対象の検出により予測が修正されない粒子フィルタの粒子がグラフ構造上の方々に分散することを防止し、高い精度で位置の推定を行うことができる。
【0017】
第2の発明は、第1の発明に従属する発明であって、いずれのセンサにおいても対象が検出されないとき、すべての粒子フィルタについて各粒子フィルタに属する粒子をグラフ構造上において当該粒子フィルタに最も近い領域頂点の周辺に収束させる第2固定ステップ(C)をさらに含む。
【0018】
第2の発明では、第2固定ステップ(C)(S25)において、いずれのセンサにおいても対象が検出されないとき、すべての粒子フィルタについて各粒子フィルタに属する粒子をグラフ構造(G)上において当該粒子フィルタに最も近い領域頂点の周辺に収束させる。
【0019】
第2の発明によれば、粒子フィルタの固定モードではさらに第2固定ステップが実行されるので、対象が一定の空間領域に長期間存在するなどしてセンサで検出されない場合に粒子がグラフ構造上の方々に分散することを防止し、高い精度で位置の推定を行うことができる。
【0020】
第3の発明は、第1の発明または第2の発明に従属する発明であって、グラフ構造上において、粒子フィルタの位置から他のセンサによって検出されることなく対象が移動不可能な位置に存在するセンサ頂点が示すセンサが対象を検出した場合に、粒子の確率分布が当該センサ頂点を中心とする新規の粒子フィルタを生成する生成ステップ(D)、異なるセンサによる連続した所定回数の対象の検出のうちのいずれの検出によっても粒子の確立分布に基づく対象の位置の予測の修正が行われないとき、当該粒子フィルタを消滅させる消滅ステップ(E)、2以上の粒子フィルタがそれぞれ予測する対象の位置が同じであるとみなせるとき、当該2以上の粒子フィルタを結合する結合ステップ(F)、および1または2以上の粒子フィルタから対象の位置の推定に利用する粒子フィルタを選択する選択ステップをさらに含む位置推定方法である。
【0021】
第3の発明では、生成ステップ(D)(S33)で、グラフ構造(G)上において、粒子フィルタの位置から他のセンサによって検出されることなく対象が移動不可能な位置に存在するセンサ頂点(VS)が示すセンサが対象を検出した場合に、粒子の確率分布が当該センサ頂点を中心とする新規の粒子フィルタを生成し、消滅ステップ(E)(S43)において、異なるセンサによる連続した所定回数の対象の検出のうちのいずれの検出によっても粒子の確立分布に基づく対象の位置の予測の修正が行われないとき、当該粒子フィルタを消滅させ、結合ステップ(F)(S39)において、2以上の粒子フィルタがそれぞれ予測する対象の位置が同じであるとみなせるとき、当該2以上の粒子フィルタを結合し、選択ステップ(G)(S45)において、1または2以上の粒子フィルタから対象の位置の推定に利用する粒子フィルタを選択する。
【0022】
第3の発明によれば、人を検出したセンサと粒子フィルタの位置関係、異なるセンサによる連続した所定回数の対象の検出のうちのいずれかの検出によって予測の修正が行われたか否か、および複数の粒子フィルタの位置関係に基づいて、粒子フィルタの生成、消滅、結合を行うので、対象が空間領域の移動可能経路上において連続しない空間領域で突発的に検出された場合でも高い精度で対象の現在の位置を推定することができる。
【0023】
第4の発明は、第3の発明に従属する発明であって、選択ステップ(G)では、属する粒子の確立分布に基づく予測の修正に寄与した検出の数がより多く、属する粒子の確立分布に基づく予測の修正に寄与した検出が行われたセンサを示すセンサ頂点の位置の変化の履歴が、検出を行ったすべてのセンサのそれぞれを示すセンサ頂点の位置の変化の履歴とよりよく一致する粒子フィルタを選択する。
【0024】
第4の発明では、選択ステップ(G)(S45)において、属する粒子の確立分布に基づく予測の修正に寄与した検出の数がより多く、属する粒子の確立分布に基づく予測の修正に寄与した検出が行われたセンサを示すセンサ頂点(VS)の位置の変化の履歴が、検出を行ったすべてのセンサのそれぞれを示すセンサ頂点の位置の変化の履歴とよりよく一致する粒子フィルタを選択する。
【0025】
第4の発明によれば、複数存在する粒子フィルタの中から最も確かに対象の位置を予測したであろう粒子フィルタを選択するので、複数存在する粒子フィルタを用いて精度よく対象の現在の位置を推定することができる。
【0026】
第5の発明は、空間領域の境界に設けられ当該境界を通過する対象を検出するセンサの位置を示すセンサ頂点、空間領域の位置を示す領域頂点、および領域頂点と当該領域頂点が示す空間領域の境界に設けられたセンサを示すセンサ頂点とを結ぶエッジからなるグラフ構造上に粒子の分布が制限され、粒子の確率分布に基づく対象の位置の予測とセンサによる対象の検出に基づく予測の修正とを繰り返す1または2以上の粒子フィルタを用いて、空間領域を移動する対象の位置を推定する位置推定装置であって、センサにおいて対象が検出されたとき、当該センサを示すセンサ頂点とグラフ構造上において最も距離が近い粒子フィルタに属する粒子の確立分布に基づく対象の位置の予測を検出に基づいて修正し、当該粒子フィルタに属する粒子をグラフ構造上に伝搬させる伝搬手段、およびセンサにおいて対象が検出されたとき、当該センサを示すセンサ頂点とグラフ構造上において最も距離が近い粒子フィルタ以外の粒子フィルタに属する粒子をグラフ構造上において当該粒子フィルタに最も近い領域頂点の周辺に収束させる第1固定手段を備える、位置推定装置である。
【0027】
第5の発明では、位置推定装置は、空間領域の境界に設けられ当該境界を通過する対象を検出するセンサ(10、12)の位置を示すセンサ頂点(VS)、空間領域の位置を示す領域頂点(VR)、および領域頂点と当該領域頂点が示す空間領域の境界に設けられたセンサを示すセンサ頂点とを結ぶエッジ(E)からなるグラフ構造(G)上に粒子の分布が制限され、粒子の確率分布に基づく対象の位置の予測とセンサによる対象の検出に基づく予測の修正とを繰り返す1または2以上の粒子フィルタを用いて、空間領域を移動する対象の位置を推定する。
【0028】
そして、この位置推定装置では、伝搬手段(A)(S29)が、センサにおいて対象が検出されたとき、当該センサを示すセンサ頂点とグラフ構造上において最も距離が近い粒子フィルタに属する粒子の確立分布に基づく対象の位置の予測を検出に基づいて修正し、当該粒子フィルタに属する粒子をグラフ構造上に伝搬させ、第1固定手段(B)(S31)が、センサにおいて対象が検出されたとき、当該センサを示すセンサ頂点とグラフ構造上において最も距離が近い粒子フィルタ以外の粒子フィルタに属する粒子をグラフ構造上において当該粒子フィルタに最も近い領域頂点の周辺に収束させる。
【0029】
第5の発明によれば、粒子フィルタは、粒子の伝搬が実行される伝播モードの他に、粒子の収束が実行される固定モードを備えるので、センサによる対象の検出により予測が修正されない粒子フィルタの粒子がグラフ構造上の方々に分散することを防止し、高い精度で位置の推定を行うことができる。
【0030】
第6の発明は、第5の発明に従属する発明であって、いずれのセンサにおいても対象が検出されないとき、すべての粒子フィルタについて各粒子フィルタに属する粒子をグラフ構造上において当該粒子フィルタに最も近い領域頂点の周辺に収束させる第2固定手段をさらに備える。
【0031】
第6の発明では、第2固定手段(S25)が、いずれのセンサにおいても対象が検出されないとき、すべての粒子フィルタについて各粒子フィルタに属する粒子をグラフ構造(G)上において当該粒子フィルタに最も近い領域頂点の周辺に収束させる。
【0032】
第6の発明によれば、粒子フィルタの固定モードではさらに第2固定手段により粒子の収束が実行されるので、対象が一定の空間領域に長期間存在するなどしてセンサで検出されない場合に粒子がグラフ構造上の方々に分散することを防止し、高い精度で位置の推定を行うことができる。
【0033】
第7の発明は、第5の発明または第6の発明に従属する発明であって、グラフ構造上において、粒子フィルタの位置から他のセンサによって検出されることなく対象が移動不可能な位置に存在するセンサ頂点が示すセンサが対象を検出した場合に、粒子の確率分布が当該センサ頂点を中心とする新規の粒子フィルタを生成する生成手段、異なるセンサによる連続した所定回数の対象の検出のうちのいずれの検出によっても粒子の確立分布に基づく対象の位置の予測の修正が行われないとき、当該粒子フィルタを消滅させる消滅手段、2以上の粒子フィルタがそれぞれ予測する対象の位置が同じであるとみなせるとき、当該2以上の粒子フィルタを結合する結合手段、および1または2以上の粒子フィルタから対象の位置の推定に利用する粒子フィルタを選択する選択手段をさらに備える位置推定装置である。
【0034】
第7の発明では、生成手段(S33)が、グラフ構造(G)上において、粒子フィルタの位置から他のセンサによって検出されることなく対象が移動不可能な位置に存在するセンサ頂点(VS)が示すセンサが対象を検出した場合に、粒子の確率分布が当該センサ頂点を中心とする新規の粒子フィルタを生成し、消滅手段(S43)が、異なるセンサによる連続した所定回数の対象の検出のうちのいずれの検出によっても粒子の確立分布に基づく対象の位置の予測の修正が行われないとき、当該粒子フィルタを消滅させ、結合手段(S39)が、2以上の粒子フィルタがそれぞれ予測する対象の位置が同じであるとみなせるとき、当該2以上の粒子フィルタを結合し、選択手段(S45)が、1または2以上の粒子フィルタから対象の位置の推定に利用する粒子フィルタを選択する。
【0035】
第7の発明によれば、人を検出したセンサと粒子フィルタの位置関係、異なるセンサによる連続した所定回数の対象の検出のうちのいずれかの検出によって予測の修正が行われたか否か、および複数の粒子フィルタの位置関係に基づいて、粒子フィルタの生成、消滅、結合を行うので、対象が空間領域の移動可能経路上において連続しない空間領域で突発的に検出された場合でも高い精度で対象の現在の位置を推定することができる。
【0036】
第8の発明は、第7の発明に従属する発明であって、選択手段は、属する粒子の確立分布に基づく予測の修正に寄与した検出の数がより多く、属する粒子の確立分布に基づく予測の修正に寄与した検出が行われたセンサを示すセンサ頂点の位置の変化の履歴が、検出を行ったすべてのセンサのそれぞれを示すセンサ頂点の位置の変化の履歴とよりよく一致する粒子フィルタを選択する。
【0037】
第8の発明では、選択手段(S45)は、属する粒子の確立分布に基づく予測の修正に寄与した検出の数がより多く、属する粒子の確立分布に基づく予測の修正に寄与した検出が行われたセンサを示すセンサ頂点(VS)の位置の変化の履歴が、検出を行ったすべてのセンサのそれぞれを示すセンサ頂点の位置の変化の履歴とよりよく一致する粒子フィルタを選択する。
【0038】
第8の発明によれば、複数存在する粒子フィルタの中から最も確かに対象の位置を予測したであろう粒子フィルタを選択するので、複数存在する粒子フィルタを用いて精度よく対象の現在の位置を推定することができる。
【発明の効果】
【0039】
この発明によれば、センサによる対象の検出により予測が修正されない粒子フィルタの粒子がグラフ構造上の方々に分散することを防止し、高い精度で位置の推定を行うことができる。
【0040】
また、この発明によれば、対象が一定の空間領域に長期間存在するなどしてセンサで検出されない場合がある環境でも高い精度で対象の現在の位置を推定できる。
【0041】
さらに、この発明によれば、対象が空間領域の移動可能経路上において連続しない空間領域で突発的に検出される環境であっても高い精度で対象の現在の位置を推定できる。
【0042】
この発明の上述の目的、その他の目的、特徴および利点は、図面を参照して行う以下の実施例の詳細な説明から一層明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
本発明の位置推定方法の一例として以下に説明する位置推定方法は、たとえば、図1に示すように、ショッピングモールなどにおいて、商品の陳列棚100によって区切られた複数の空間領域(たとえば空間領域α、β、γ)内を移動する買い物客の現在の位置の推定を行う。このショッピングモールでは、空間領域Aを成す(空間領域αに面している)陳列棚100には、たとえば、ネコ用の缶詰のキャットフードが陳列され、空間領域βを成す陳列棚100には、たとえば、ネコ用の袋詰めのキャットフードが陳列され、空間領域γを成す陳列棚100には、たとえば、イヌ用の袋詰めのドックフードが陳列されるというように、各空間領域を成す陳列棚100ごとに陳列されている商品が異なっている。
【0044】
このような空間領域の各出入り口(境界)のたとえば天井に、一対の赤外線センサ10からなるゲートセンサ12を配置する。ゲートセンサ12は、一方の赤外線センサ10が隣接する空間領域の一方側に位置し、他方の赤外線センサ10が隣接する空間領域の他方側に位置するように配置される。そして、陳列棚100によって形成されたこれらの空間領域内を移動する買い物客に赤外線発信機(不図示)を携帯させる。たとえば、買い物カゴ(不図示)に赤外線発信機を取り付けるようにしてもよい。
【0045】
このようにして、買い物客が携帯する赤外線発信機から発信された赤外線を、赤外線センサ10で受信することによって、買い物客の位置を検出し、買い物客が存在する空間領域を特定することによって、たとえば、買い物客が現在どの商品の購入を検討しているかを知ることができる。また、1つの空間領域内に存在し続ける時間を計測することによって、買い物客がどの程度の時間、所定の商品の購入を検討していたかを知ることができる。なお、買い物客が携帯する赤外線発信機から発信される赤外線には買い物客を識別するID情報(以下、“識別ID”と呼ぶ。)が含まれ、複数存在する買い物客のぞれぞれの位置を推定することができる。
【0046】
このようなシステムにおいて、買い物客を検出した赤外線センサ10の位置をそのまま、買い物客が現在に存在する位置であると判断できれば問題はない。しかし、ショッピングモールなどでは、空間領域を区切る陳列棚100は天井まで届いておらず、また、赤外線発信機から発信される赤外線を遮断するような構造ではないので、天井に設置された赤外線センサ10の赤外線の検出範囲R(図1の斜線を施した楕円の部分)は、赤外線センサ10が設置されている空間領域の範囲をはみ出して他の空間領域にまたがっている。(このように、赤外線が空間領域を区切る陳列棚100や壁によって遮断されない環境を“半開放型環境”と呼ぶ。)そのため、たとえば、買い物客が空間領域αから赤外線センサ(5)10および赤外線センサ(6)10を通過して空間領域γに入り、空間領域γの図面上部を移動した場合、空間領域γの内部で、赤外線センサ(3)10および赤外線センサ(4)10によって赤外線が検出され、買い物客が空間領域γに存在するにもかかわらず、買い物客が空間領域γから直接的に空間領域βに移動したと誤判断する可能性がある。
【0047】
また、買い物客の移動を追跡している場合において、買い物客がゲートセンサ12を通過する際に、買い物カゴなどに取り付けられた赤外線発信機から赤外線が下方向や横方向に発射されたときには、通過するゲートセンサ12の赤外線センサ10によって赤外線が受信されない事態が発生する。このような場合には、受信漏れを起こしたのとは別の赤外線センサ10で次に買い物客が検出されると、買い物客が連続しない空間領域を移動したこととなり、正常に買い物客の移動を追跡することができない。
【0048】
このような誤判断を防止し、また、正常に対象としての買い物客を追跡するために、いわゆる粒子フィルタを用いる。粒子フィルタは高次元の一般状態空間モデルに対するフィルタと平滑化のために提案されたものであり、条件付分布をその分布からの多数の実現値で近時表現するものであり、モンテカルロ・フィルタとも呼ばれる。
【0049】
より具体的には、粒子フィルタは、追跡対象(ここでは、買い物客)の状態を、N個の離散的な状態ベクトルx(i)tとこれに対応する重みw(i)tを持つ多数の粒子{x(i)t, w(i)t }(i = 1,…,N)を用いて離散変数の集合に近似して逐次的に推定する方法である。
【0050】
状態ベクトルxtを非線形関数Ft、システムノイズvtを用いて表した式(1)をシステムモデルと呼び、観測ベクトルytを非線形関数Ht、観測ノイズwtを用いて表した式(2)を観測モデルと呼ぶ。そして、状態ベクトルxtと観測ベクトルytとの関係を示すシステムモデルと観測モデルとの組を一般状態空間モデルと呼ぶ。なお、システムモデルは状態予測モデルとも呼ばれる。
【0051】
[システムモデル] xt =Ft(Xt-1,vt) (1)
[観測モデル] yt =Ht(xt,wt) (2)
これらのシステムモデルおよび観測モデルは、状態xt-1,xtが与えられたときの条件付分布Qt,Rtを用いて以下の式(3)および式(4)のように一般化される。
【0052】
[システムモデル] xt 〜Qt(・|xt-1) (3)
[観測モデル] yt 〜 Rt(・|xt) (4)
粒子フィルタは、これらの式(3)および式(4)に示す、システムモデルと観測モデルを用いて、観測対象(ここでは買い物客)の状態の予測と、実際の観測結果に基づいた状態の予測の修正を繰り返す。状態の予測と予測の修正は、図2に示すフロー図の手順に従って実行される。
【0053】
このフロー図に示すように、手順では、まず、ステップS1では、i=1,…,NのN個の粒子からなる粒子の集団の初期状態X0={x(1)0,…,x(N)0}を生成する。
【0054】
そして、ステップS3では、変数“t”を“1”だけインクリメントする。この変数“t”は“1”〜“T”までの値をとり、時間をカウントするための変数である。ステップS3からステップS11までの手順が、変数“t”が“T”に等しくなるまで繰り返される。なお、変数“t”の初期値は“0”である。
【0055】
次に、ステップS5では、すべての“i”(粒子)について、式(5)のシステムモデルに基づいて、状態x^(i)tを予測し、
【0056】
【数1】
【0057】
また、観測によって得たytを用いて、すべての“i”(粒子)について、式(6)の観測モデルに基づいて、粒子の重みw(i)tを計算する。
【0058】
【数2】
【0059】
ここで、粒子フィルタを用いて買い物客の位置を推定する場合には、“観測”とは、赤外線センサ10によって買い物客が検出されることであり、“yt”は買い物客が検出された空間領域の位置などの情報である。
【0060】
次に、ステップS7では、式(7)に基づいて、各粒子の重みの合計を計算する。
【0061】
【数3】
【0062】
そして、ステップS9では、すべての“i”(粒子)について、式(8)に基づいて、ステップS7で求めた重みの合計に対する、状態(粒子)x^(i)tの重みw(i)tの割合w~(i)tを計算する。つまり、重みw(i)t(w~(i)t)の合計が“1”となるように正規化する。なお、“w~(i)t”は、“i”番目の粒子の“importance weight”と呼ばれる。
【0063】
【数4】
【0064】
さらに、時刻“t”における粒子の集団X^t={x^(1)t,…,x^(N)t}の中からx^(i)tをw~(i)tの確率で復元抽出する。この復元抽出をリサンプリングと呼ぶ。そして、リサンプリングされたN個の粒子からなる時刻“t”における新たな粒子の集団Xt={x(1)t,…,x(N)t}を生成する。このようにして、状態x^(i)tの予測が観測(検出)された“yt”によって修正される。
【0065】
こうして生成された時刻“T”における粒子の集団XT={x(1)T,…,x(N)T}において、最も大きい重みを持つ(最も尤度が高い)粒子の状態x(i)Tが示す位置が時刻“T”における対象(買い物客)の現在の位置として推定される。
【0066】
本発明の位置推定方法で用いられる粒子フィルタは、属する粒子の分布が、空間領域の位置を示す領域頂点VRと、赤外線センサ10の位置を示すセンサ頂点VSと、領域頂点VRおよびセンサ頂点VS並びにセンサ頂点VSおよびセンサ頂点VSを結ぶエッジEによって決定されるグラグ構造G上に制限される。
【0067】
図1においては、領域頂点VRを“□”で、センサ頂点VSを“○”で、エッジEを太線でそれぞれ示している。図1からもわかるように、領域頂点VRは、各空間領域に1つ設定され、その空間領域に隣接するセンサ頂点VSに対するハブ(hub)の役目を果たす。また、センサ頂点VSは、赤外線センサ10の受信部の位置を示し、グラフ構造G上で唯一、対象としての買い物客が検出される場所である。赤外線センサ10で買い物客が検出されることを、センサ頂点VSで“観測”が得られると表現する。
【0068】
本発明の位置推定方法では、得られた“観測”や粒子フィルタの状況などに応じて複数の粒子フィルタを生成し、また、複数の粒子フィルタの結合や粒子フィルタの消滅を行う。より具体的には、時刻tにおいて“観測”が得られたセンサ頂点VSの位置が、グラフ構造G上において、時刻t−1における既存の粒子フィルタの位置から他の1つ以上のセンサ頂点VSにおいて“観測”されることなく買い物客が移動することができない位置である場合に、時刻tにおいて“観測”が得られたセンサ頂点VSを粒子の確率分布の中心として新規の粒子フィルタを生成する。このような位置のセンサ頂点VSにおいて得られる“観測”を“突発的な観測”と呼ぶ。
【0069】
そして、複数の粒子フィルタのそれぞれが予測する買い物客の位置が同じ空間領域内であるとみなせる場合に、これらの粒子フィルタを結合して1つの粒子フィルタとする。
【0070】
また、複数の粒子フィルタが存在する場合には、センサ頂点VSにおける“観測”は、“観測”が得られたセンサ頂点VSの位置から最も近い粒子フィルタに対してのみ“観測”として影響を与える。つまり、予測を修正する。このように“観測”によって粒子フィルタが影響を受けて予測を修正することを、粒子フィルタが“観測を勝ち取る”と表現する。
【0071】
さらに、異なるセンサ頂点VSで所定の回数だけ連続して発生する“観測”について、“観測”を一度も勝ち取らなかった粒子フィルタは消滅させる。
【0072】
詳細については後述するが、このように、粒子フィルタの生成、結合、消滅を行うことによって、赤外線センサ10による誤検出が発生しても買い物客の現在の位置を高い精度で推定することができる。
【0073】
また、“観測”を勝ち取った粒子フィルタは“観測”による影響に基づいて予測を修正して粒子をグラフ構造G上に伝搬させるが、“観測”を勝ち取らなかった粒子フィルタは、粒子を最も近い領域頂点VRの周辺に収束させる。なお、いずれのセンサ頂点VSにおいても観測が得られない場合は、すべての粒子フィルタの粒子を最も近い領域頂点VRの周辺に収束させる。この粒子フィルタの粒子をグラフ構造G上を伝搬させる状態を粒子フィルタの“伝搬モード”と呼び、粒子を領域頂点VRの周辺に収束させる状態を粒子フィルタの“固定モード”と呼ぶ。
【0074】
このように、粒子フィルタに伝搬モードの他に固定モードを与えることによって、“観測”を勝ち取らなかった粒子フィルタの粒子が時間経過とともにグラフ構造G上の方々に分散することを防止することができる。
【0075】
本発明の位置推定方法で用いられる粒子フィルタは、伝搬モードのシステムモデルを式(9)ないし式(11)で定めることによって、粒子の分布をグラフ構造G上に制限する。なお、本発明の位置推定方法で用いられる粒子フィルタのシステムモデルには、上述のように伝搬モードと固定モードとがあるが固定モードについては後述する。
【0076】
【数5】
【0077】
P^(xt|xt-1)は、粒子が時刻“t−1”においてある状態xt-1にあった場合に、時刻tで状態xtに変化する確率を示している。D(xt,xt-1)は、グラフ構造G上における2つの粒子(状態)の距離を示しており、式(11)からわかるように、P^(xt|xt-1)は、2つの粒子の状態xt,xt-1の間のグラフ構造G上における距離に基づいて決定される。なお、2つの粒子(状態)間の距離D(xt,xt-1)は、経験的に平均“0”、分散“σd=0.3”の正規分布に従うとしている。
【0078】
ところで、本発明の位置推定方法で用いられる粒子フィルタの粒子は、式(12)に示すようなパラメータを持つ。
【0079】
粒子状態空間 x=<e,d,m> (12)
式(12)において、“e”は粒子が現在存在するエッジEであり、“d”は粒子が現在存在するエッジEの端点からの距離であり、“m”は粒子フィルタの現在の動作モード(伝搬モード/固定モード)である。
【0080】
そして、グラフ構造G上における2つの粒子(状態)間の距離D(xt,xt-1)は、式(13)によって決定される。
【0081】
【数6】
【0082】
式(13)によると、異なる2つの粒子(状態)が同一エッジE上にある場合(ei = ej)は、単純に、そのエッジE上において距離を計算する。一方、異なる2つの粒子(状態)が同一エッジE上に存在しない場合(otherwise)は、2つの粒子(状態)を結ぶ経路をどのように選択するかによって距離が異なってくるので、経路の距離が最短となるエッジEを選択する。式(13)における、“Σk|ek|”は、点“di”と点“dj”との間に存在する1つの経路に含まれるエッジEの距離の和を示している。なお、領域頂点VRとセンサ頂点VSをつなぐエッジEの距離を一様に“0.5”とし、センサ頂点VSとセンサ頂点VSをつなぐエッジEの距離を一様に“1.0”とする。
【0083】
式(10)におけるP(et|et-1)は、図3に示すように、粒子がエッジE(ei)の分岐点である領域頂点VRに到達したときに、次に所定のエッジE(ei、ej、ekのいずれか)に遷移する確率(以下、“遷移確率”と呼ぶ。)を表しており、式(14)で決定される。
【0084】
【数7】
【0085】
ここで、“時刻tにおいてセンサ頂点v(j)Sで“観測”されたID受信頻度(freq(v(j)S,t))”とは、ある固定の時間間隔(ウィンドウ幅)“tw”を設定したとき、[t−tw,t]の時間内に、センサ頂点v(j)Sに位置する赤外線センサ10によって、その買い物客の識別IDが“観測”(検出)された回数を示している。
【0086】
また、式(14)における“α”は、買い物客の識別IDがまったく観測されない赤外線センサ10のセンサ頂点VSが接続されたエッジEへの遷移確率が完全に“0”になることを防止するための値である。つまり、現実には、買い物客が赤外線センサ10の近くに移動したにもかかわらず、赤外線センサ10の誤った“観測”によって、“観測”が得られない場合が考えられることに対応して“α”という一定値のゲタをはかせている。
【0087】
なお、式(14)における右辺は、確率ではないので、実際にコンピュータなどで、P(et,et-1)を計算する場合には、すべてのエッジE(1,…,Ne)について、式(14)の右辺を計算し、計算された各エッジEについての右辺を、右辺の各右辺の合計に対する割合と置き換えて、置き換えられた各右辺の合計が“1”となるように正規化したものを用いる。
【0088】
このように、エッジEの遷移確率P(et,et-1)は、センサ頂点VS(赤外線センサ10)における買い物客の識別IDの受信頻度(観測回数)に基づいて動的に変更される。
【0089】
伝搬モードのシステムモデルは以上に説明した通りであるが、観測モデルは、式(15)によって決定される。
【0090】
【数8】
【0091】
この式からわかるように、粒子の尤度は、“ID受信頻度/粒子から観測されたセンサ頂点VSまでのホップ数”によって決定される。そして、式(15)は、同時刻において、複数のセンサ頂点VS上で“観測”が得られた場合、状態xtの粒子の尤度は、複数の“観測”で得られた尤度の和によって計算されることを示している。
【0092】
そして、先述の“importance weight”は、式(15)を利用して、式(16)によって決定される。
【0093】
【数9】
【0094】
この“importance weight”は、先述の通り、次の時刻における粒子フィルタに属する粒子の分布を決定するリサンプリングに利用される。
【0095】
以上が、伝搬モードにおけるシステムモデルと観測モデルであるが、固定モードにおけるシステムモデルは式(17)によって決定される。
【0096】
【数10】
【0097】
式(17)からわかるように、粒子フィルタの固定モードでは、すなわち、粒子フィルタが“観測”を勝ち取らない状態においては、その粒子フィルタに属する粒子をすべて、当該粒子フィルタに最も近い領域頂点VRの周辺に収束させる。つまり、粒子フィルタに属する粒子は、当該粒子フィルタが“観測”を勝ち取らない期間、最近傍の領域頂点VRを中心とした正規分布に従って分散される。なお、この場合の正規分布の分散は伝搬モードと同様に経験上“σd=0.3”とする。
【0098】
本発明の位置推定方法では、以上に説明したような伝搬モードおよび固定モードのシステムモデルと観測モデルとに基づく粒子フィルタを用いて、上述したように、たとえば、ショッピングモール内を移動する買い物客の現在の位置を推定する。
【0099】
しかし、この例のように、空間領域の出入り口に設けられた赤外線センサ10によるまばらな“観測”しか得られない環境では、得られる“観測”が少ないことや誤った“観測”が原因となり、現在の時刻までの“観測”に基づいて一意に買い物客の位置を決定することができない場合が発生する。このような場合、粒子の尤度が示す買い物客の位置の事後分布は、多峰性を有すると考えられる。
【0100】
そこで、本発明の位置推定方法では、新たな粒子フィルタの生成、粒子フィルタの結合、および粒子フィルタの消滅を繰り返すことによって、多峰性を有する事後分布に対応する。
【0101】
そして、複数の粒子フィルタが存在する場合には、詳しくは後述するが、尤もらしい買い物客の移動軌跡に対応する粒子フィルタを選択することによって、高精度に買い物客の位置の推定を行う。
【0102】
先述したが、図4に示すように、グラグ構造G上において、領域頂点VRとセンサ頂点VSを接続するエッジEの距離を一様に“0.5”とし、隣接するセンサ頂点VS同士を接続するエッジEの距離を一様に“1.0”とする。
【0103】
そして、図4に示すように、新たに“観測”が得られたセンサ頂点VSと既存の粒子フィルタとの距離が“2.0”以上である場合には、粒子が、新たに観測が得られたセンサ頂点VSを中心とした正規分布に従う新たな粒子フィルタを生成する。なお、このように、粒子フィルタとの距離が“2.0”以上であるセンサ頂点VSにおいて得られる“観測”が、上述した“突発的な観測”である。
【0104】
ここで、図5に示すような、センサ頂点VSと粒子フィルタkとの距離を式(18)で決定する。
【0105】
【数11】
【0106】
式(18)からわかるように、あるセンサ頂点VSとある粒子フィルタkとの距離は、粒子フィルタkに属するすべての粒子とあるセンサ頂点VSとの間の距離の合計を、粒子フィルタkに属する粒子の総数で割って得られる平均の距離によって表現する。
【0107】
したがって、式(18)によって得られる値が“2.0”以上である場合に、新たな粒子フィルタを生成する。なお、粒子とあるセンサ頂点VSとの間の距離は、粒子が存在するエッジEの端点からの距離d(式(12)参照)と、粒子が存在するエッジEに接続されている頂点V(センサ頂点VS/領域頂点VR)およびあるセンサ頂点VSの距離に基づいて求めることができる。
【0108】
また、2つの粒子フィルタのグラフ構造G上における距離が“2.0”未満である場合には、2つの粒子フィルタが予測する買い物客の現在の位置は同一であるとみなし、これらの2つの粒子フィルタを結合して新たな1つの粒子フィルタを生成する。
【0109】
ここで、図6に示すような、2つの粒子フィルタk1と粒子フィルタk2との間の距離を、式(18)を用いた式(19)で決定する。
【0110】
【数12】
【0111】
式(19)からわかるように、2つの粒子フィルタk1と粒子フィルタk2との間の距離は、基準となる頂点V(センサ頂点VS/領域頂点VR)および粒子フィルタk1の距離と、基準となる頂点V(センサ頂点VS/領域頂点VR)および粒子フィルタk2の距離との和から計算される。ここで、粒子フィルタk1と粒子フィルタk2とを結ぶグラフ構造G上の経路が複数ある場合は、最短の経路上の頂点V(センサ頂点VS/領域頂点VR)を基準とする。
【0112】
なお、2つの粒子フィルタk1と粒子フィルタk2とを結合して新たな粒子フィルタknewを生成する際には、粒子フィルタk1の粒子の集団X(k1)tと粒子フィルタk2の粒子の集団X(k2)tとから尤度が高い順に粒子を選び出して粒子フィルタknewの粒子の集団X(new)tとする。
【0113】
これらのようにして生成された粒子フィルタは、ある一定の回数、たとえば3回以上だけ連続して異なるセンサ頂点VSで得られる“観測”について、一度も“観測”を勝ち取らなかった場合には消滅させる。このように粒子フィルタを消滅させることによって、赤外線センサ10による誤った“観測”を排除することができる。
【0114】
以上に説明したように、本発明の位置推定方法では、複数の粒子フィルタが存在する可能性があるが、複数の粒子フィルタが存在する場合には、先述のように、尤も確からしい買い物客の移動軌跡に対応する粒子フィルタに基づいて買い物客の現在の位置を推定する。
【0115】
つまり、各粒子フィルタが勝ち取った“観測”の履歴、具体的には“観測”に基づく買い物客の空間領域の通過方向の履歴、および“観測”の数が、各粒子フィルタ毎に記録される。そして、“観測”の数がより多く、より一貫性のある通過方向の履歴が記録されている粒子フィルタを尤も確からしい買い物客の移動軌跡に対応する粒子フィルタであるとする。ここで、通過方向の履歴とは、粒子フィルタが勝ち取った“観測”を得たセンサ頂点VSの位置とその“観測”の順序からなる“観測”の位置の変化の記録である。また、より一貫性のある通過方向の履歴とは、“観測”の位置の変化が、グラフ構造G上において“観測”を得たすべてのセンサ頂点VSの位置とその“観測”の順序からなる“観測”の位置の変化とよりよく一致する履歴である。
【0116】
また、2つの粒子フィルタを結合して1つの新たな粒子フィルタを生成する場合には、それぞれの粒子フィルタに対応つけて記録されている買い物客の空間領域の通過方向の履歴と“観測”の数とを1つにまとめる必要がある。この際には、“観測”の数については、より数の多い“観測”の数を、通過方向の履歴については、より一貫性のある通過方向の履歴を、新たな粒子フィルタの“観測”の数、よび通過方向の履歴とする。
【0117】
なお、買い物客の通過方向は、ゲートセンサ12に含まれる一対の赤外線センサ10による買い物客が携帯する赤外線発信機から発せられる赤外線の受信の順序によって知ることができる。
【0118】
このように、より多くの“観測”を勝ち取り、かつ、より一貫性のある通過方向の履歴を有し、尤も確からしい買い物客の移動軌跡に対応する粒子フィルタを“尤も確からしい粒子フィルタ”と呼ぶ。
【0119】
図7は以上に説明した、本発明の位置測定方法を、コンピュータを用いて実現する場合に、当該コンピュータによって実行される処理手順を逐次的に示したフロー図である。このフロー図にしたがって、コンピュータで実行される処理を説明する。図7のフロー図に示す処理を実行するコンピュータは一般的で周知のパーソナルコンピュータなどである。赤外線センサ10で買い物客を検出した旨を示す情報をパーソナルコンピュータに与える方法(図10参照)やパーソナルコンピュータの構成(図11参照)などについては後述する。なお、以下のフロー図に示す処理は適宜に並列に実行してもかまわない。また、このコンピュータの記憶装置には、先述の各粒子フィルタが勝ち取った“観測”の数と、各粒子フィルタが勝ち取った“観測”に基づく通過方向の履歴が記録される。
【0120】
まず、コンピュータのCPUは、ステップS21で、変数“t”を“1”だけインクリメントする。この変数“t”は、コンピュータで本発明の位置測定方法を実行する際の処理単位となる時間をカウントするものであり、コンピュータのCPUは、ステップS21からステップS45の処理を変数“t”が“1”だけカウントされる度に実行する。なお、この変数“t”は、図2のフロー図において示した変数“t”と同じとみなせる。
【0121】
ステップS23では、いずれかの赤外線センサ10(センサ頂点VS)において、“観測”が得られたか否か、つまり、赤外線センサ10が、買い物客が携帯する赤外線発信機から発信された赤外線を検出したか否かを判断する。
【0122】
“観測”が得られなかったと判断すると(ステップS23:NO)、CPUはステップS25で、存在するすべての粒子フィルタを固定モードとし、各粒子フィルタの粒子を最も近くの領域頂点VRの周辺に収束させる。そして、ステップS45に進む。
【0123】
一方、ステップS23で“観測”が得られたと判断すると(ステップS23:YES)、CPUは、次に、ステップS27において、式(18)による演算に基づいて“観測”が得られた赤外線センサ10の位置を示すセンサ頂点VSからの距離が“2.0”より短い粒子フィルタが存在するか否かを判断する。
【0124】
距離が“2.0”より短い粒子フィルタが存在すると判断する(ステップS27:YES)と、ステップS29において、“観測”が得られたセンサ頂点VSからの距離が最も近い粒子フィルタ、つまりステップS23において得られたと判断された“観測”を勝ち取った粒子フィルタを伝搬モードにする。そして、ステップS31において、“観測”を勝ち取らなかったすべての粒子フィルタを固定モードにする。なお、“観測”を勝ち取り、伝搬モードとなった粒子フィルタについては、式(9)ないし式(11)のシステムモデルおよび式(15)の観測モデルを用いて、図2に示したステップS5ないしステップS9の処理の手順が実行される。
【0125】
一方、ステップS27において、“観測”が得られたセンサ頂点VSからの距離が“2.0”より短い粒子フィルタが存在しないと判断すると(ステップS27:NO)、ステップS33において、“観測”が得られたセンサ頂点VSを中心とする新たな粒子フィルタを生成し、ステップS35において、新たに生成した粒子フィルタを伝搬モードにする。
【0126】
ステップS37では、式(19)による演算に基づいて、互いの距離が“2.0”よりも短い粒子フィルタが存在するか否かを判断する。そして、互いの距離が“2.0”よりも短い粒子フィルタが存在すると判断すると(ステップS37:YES)、距離が“2.0”よりも短い複数の粒子フィルタを結合して新たな粒子フィルタを生成する。
【0127】
一方、互いの距離が“2.0”よりも短い粒子フィルタが存在しないと判断すると(ステップS37:NO)、ステップS39をスキップする。
【0128】
次に、ステップS41では、異なるセンサ頂点VSで3回連続して得られる“観測”について、1つの“観測”も勝ち取らなかった、つまり3回連続して“観測”を勝ち取らなかった粒子フィルタが存在するか否かを判断する。
【0129】
3回連続して“観測”を勝ち取らなかった粒子フィルタが存在すると判断すると(ステップS41:YES)、ステップS43において、3回連続して“観測”を勝ち取らなかった粒子フィルタを消滅させる。
【0130】
一方、3回連続して“観測”を勝ち取らなかった粒子フィルタが存在しないと判断すると(ステップS41:NO)、ステップS43をスキップしてステップS45に進む。
【0131】
そして、ステップS45では、“尤も確からしい粒子フィルタ”の粒子の尤度に基づいて、買い物客の現在の位置を推定する。粒子フィルタが1つしか存在しない場合には、その粒子フィルタに基づいて買い物客の現在の位置を推定する。
<実施例>
本発明の位置推定方法の有効性を証明するために以下のような実験を行った。この実験では、後述するような“半開放型環境”を構築し、この“半開放型環境”に2つの赤外線センサ10からなるゲートセンサ12を設置し、“半開放型環境”内に形成された空間領域を移動する赤外線発信機を携帯した人物(この人物が実験の対象ではないが、以下、“被験者”と呼ぶ。)の現在の位置を推定(追跡)する。
【0132】
実験のための“半開放型環境”(以下、“実験環境”と呼ぶ。)は、壁などの遮蔽物がない横7.5m、縦8.8mの空間を、ポールと、そのポール間に張られたビニールテープによって、図8に示すように、空間領域Aないし空間領域Iの9つの部屋や通路に区切ることによって作成した。
【0133】
この実験環境は、観測の単位となる空間領域間AないしIに、赤外線を遮断する壁などによる明確な区切りは存在しないが、ポール間に張られたビニールテープにより、被験者の移動が制限される。
【0134】
そして、被験者が各空間領域AないしI内を移動する際に、必ず通過する空間領域の境界に、合計9台のゲートセンサ(通過方向検知センサ)12を配置した。また、被験者の正しい位置データを得るために、被験者を撮影するビデオカメラ(不図示)をこの実験環境に合計8台だけ配置した。
【0135】
ゲートセンサ12は、図9に示すように構成した。つまり、ゲートセンサ12は、所定のボードを組み立てて作成したアーチ状のゲート枠14、ゲート枠14の天井部分に設けられた一対の赤外線センサ10、および赤外線センサ10から得られた情報を処理するセンサモジュール16からなる。
【0136】
このようなゲートセンサ12は、空間領域の境界に、一方の赤外線センサ10が当該境界に面する一方の空間領域側に位置し、他方の赤外線センサ10が当該境界に面する他方の空間領域側に位置するように配置される。
【0137】
実験環境に設けられた9台のゲートセンサ12のそれぞれを、図10に示すように(図10には紙面の都合上、4つのゲートセンサ12を示している。)、無線通信中継ポイント30を介したIEEE802. 11b規格の無線LANによって、パーソナルコンピュータ40と接続する。
【0138】
実験環境内を移動する被験者は、頭部に小型の赤外線タグ(赤外線発信機)20を装着する。
【0139】
ゲートセンサ12の一方の赤外線センサ10が赤外線タグ20から赤外線を受信することによりタグIDを受け取ると、センサモジュール16は赤外線センサ10からタグIDを受け取り、当該IDタグに、当該IDタグを受信した赤外線センサ10の識別IDとタイムスタンプとを付加し、このタグIDを無線通信中継ポイント30に送信する。無線通信中継ポイント30は、センサモジュール16から送信されたタグIDを中継してパーソナルコンピュータ(位置推定装置)40に送信する。
【0140】
タグIDを受信したパーソナルコンピュータ40は、図2および図7に示した処理手順を実行して、本発明の位置推定方法により、被験者の現在の位置を推定する。パーソナルコンピュータ40はタグIDに付加された、赤外線センサ10の識別IDによって被験者を検出した位置(赤外線センサ10の位置)を特定し、タイムスタンプによって被験者を検出した順序を判断する。
【0141】
パーソナルコンピュータ40は、図11に示すように構成されている。つまり、パーソナルコンピュータ40は、CPU42、メモリ44、HDD(Hard Disc Drive)46、液晶モニタなどの表示装置48、キーボードやマウスなどの入力装置50、およびIEEE 802. 11b規格に対応した無線通信装置52から構成される。
【0142】
パーソナルコンピュータ40のHDD46には、図2および図7に示した処理手順を実行するための位置推定プログラム46a、当該位置推定プログラム46aによって利用されるグラグ構造Gのデータ(グラフ構造データ)46b、および同様に位置推定プログラム46aによって利用される粒子フィルタのシステムモデルや観測モデルを示すデータ(粒子フィルタデータ)46cが記憶されている。そして、位置推定プログラム46aの実行時には、HDD46には、生成された各粒子フィルタに対応した履歴データ(“観測”の回数や通過方向の履歴を示すデータ)46dが記録される。なお、被験者を検出した赤外線センサ10の位置は、当該赤外線センサ10の識別IDとグラフ構造データ46bとに基づいて特定される。つまり、HDD46には、グラフ構造G上のセンサ頂点VSの位置と赤外線センサ10の識別IDとが対応つけて記憶されている。
【0143】
この実験では、実験環境のいたるところ(ビニールテープ、机の上、床など)に、“1”から“27”までの番号が記載された番号札を配置し、被験者に、実験環境に配置された番号札を番号順に探し出し、探し出した番号札を手で触れさせるというタスクを与えた。なお、被験者には番号札の大まかな位置が記載された地図を手がかりとして与えた。本実験の被験者は15人であり、各被験者は、このタスクを2回ずつ実行した。
【0144】
このようなタスクは、ショッピングモール、コンビニエンスストア、図書館などのような“半開放型環境”において、目的の品物を探し出すことを想定している。
【0145】
本発明の位置推定方法の有効性を示すための比較対象として、実験環境において、他の3つの位置推定方法も施行した。他の位置推定方法とは、“最頻反応センサ選択法(距離制約なし)”、“最頻反応センサ選択法(距離制約あり)”、および“単一粒子フィルタ法”である。
【0146】
“最頻反応センサ選択法(距離制約なし)”とは、単位時間内の反応回数が最大である赤外線センサの近傍に人物が存在しているとみなす手法である。
【0147】
“最頻反応センサ選択法(距離制約あり)”とは、“最頻反応センサ選択法”で得られた結果に対して、赤外線センサ10の間を人物が移動するために必要な時間を考慮し、突発的に他の空間領域で誤って生じた“観測”(突発的な観測)を後処理で取り除く手法である。なお、本実験では、人物の歩行速度を1.4m/sとした。
【0148】
“単一粒子フィルタ法”とは、図8に示したセンサ頂点VS、領域頂点VR、およびエッジEからなるグラフ構造G上に、単体の粒子フィルタを適用して被験者の位置推定を行う手法である。
【0149】
図12の表に実験の結果を示す。図9の表において、“正解時間率”とは、図7のフロー図におけるステップS45において時間“t”ごとに行われる、被験者(買い物客)の現在の位置の推定結果の正解率を、全実験時間に占める正解した時間“t”の割合(率)で表したものである。また、“遷移数”とは、各手法において、被験者の位置がある空間領域から別の空間領域に移動したと判断された回数である。
【0150】
図12の表の実験結果によれば、“最頻反応センサ選択法(距離制約なし)”を用いた場合の位置推定制度は、正解時間率が約20%、正解遷移率が約30%、本発明の位置推定方法と比較して低い値となっている。このことから、異なる空間領域に配置された赤外線センサの検出範囲Rが複数の空間領域にまたがっていない従来の環境(遮蔽型環境)を前提とした“最頻反応センサ選択法”では、その前提が成り立たない“半開放型環境”では、正確に被験者の位置の推定を行うことが困難であるといえる。
【0151】
“最頻反応センサ選択法”に、赤外線センサ10間の物理的距離による制約を設けて誤った“観測”を除去する方法を適用した“最頻反応センサ選択法(距離制約あり)”の場合、“最頻反応センサ選択法(距離制約なし)”と比較して、精度が10%ほど向上している。この精度の向上の原因を検討すると、本実験では、横7.5m、縦8.8mという狭い空間に9つの空間領域を設けたため、頻繁に被験者の空間領域の移動が発生したことが原因であると考えられる。
【0152】
つまり、空間領域の境界に設置された赤外線センサ10において、比較的高頻度に“観測”が得られ(空間領域の平均滞留時間は3秒程度)、時間的に連続な“観測”が得られる環境において有用な、センサ間の距離の制約を用いた“最頻反応センサ選択法(距離制約あり)”がより精度を向上することが可能となったと考えられる。
【0153】
しかし、本発明の位置推定方法と比較すると、正解時間率が約10%、正解遷移率は約14%、低い値となっている。したがって、“最頻反応センサ選択法(距離制約あり)”のようにセンサ間の距離の制約により誤った“観測”除去する方法よりも、本発明の位置推定方法のように、センサによる“観測”の順序に基づいて誤った“観測”を除去する方法が有効であることがわかる。
【0154】
“単一粒子フィルタ法”による位置推定の精度は、正解時間率が約24%、正解遷移率にいたっては約43%も本発明の位置推定方法より低い値となっている。その原因として、“半開放型環境”では、空間領域の境界付近において、異なる空間領域に位置する赤外線センサ10上で、長期にわたり誤った“観測”が発生する状況が頻繁に起き、徐々に粒子が誤った“観測”の発生している赤外線センサ10(センサ頂点VS)の方向へ移動してしまうことがあげられる。
【0155】
さらに、粒子フィルタの粒子は誤った“観測”が生じた赤外線センサ10が取り付けられた空間領域には即座に移動できず、その間にある空間領域やエッジE上を移動する。そのため、粒子フィルタの粒子が推定した被験者の移動の軌跡(通過方向の履歴)と、実際の被験者の移動の軌跡とでは大きく異なってしまうことが、正解遷移率を低下させていると考えられる。
【0156】
また、一度、誤った“観測”が得られた赤外線センサ10(センサ頂点VS)に粒子が集中すると、その後に正しい“観測”が得られたときに、その正しい“観測”が得られたセンサ頂点VSに粒子が戻るまでに時間がかかるため、さらに位置推定の精度を下げていると考えられる。
【0157】
以上の原因により、“単一粒子フィルタ法”では、“半開放型環境”において、正確に被験者の位置の推定を行うことは困難であり、実験を行った手法の中で、一番精度が低い結果となっていると考えられる。
【0158】
一方、本発明の位置推定方法では、正解時間率、正解遷移率ともに、85%以上の精度が得られており、“半開放型環境”において高い精度で被験者の位置の推定を行えることが証明された。
【0159】
本発明の位置推定方法は、“最頻反応センサ選択法(距離制約あり)”のように、時間情報に基づいて誤った“観測”の除去を行うのではなく、複数の粒子フィルタを用いて、赤外線センサ10の“観測”の順序に基づいて、誤った“観測”を検出し、修正する。
【0160】
そのため、被験者の空間領域内における滞留により誤った“観測”の前後で長期にわたり正しい“観測”が得られなかった場合においても頑健にその誤った“観測”を除去することが可能となり、このように高い精度が得られたと考えられる。
【0161】
また、赤外線センサ10の検出もれが生じた場合においても、離れた空間領域で得られた赤外線センサ10による正しい“観測”に対して、即座にそのセンサ頂点VSを中心として粒子フィルタを生成する。そのため、その“観測”以降の被験者の位置の推定(追跡)が正確に行えることが本発明の位置推定方法の精度をさらに向上させていると考えられる。
【0162】
なお、本発明の位置推定方法は、上述の“半開放型環境”だけでなく、空間領域が赤外線を遮断する壁などで区切られた一般的な建物の内部などの“遮蔽型空間”にも適用できることは言うまでもない。そして、たとえば、本発明の位置推定方法の適用の舞台を病院内などに設定し、病院内で働く看護師の位置を推定するようにすれば、看護師の現在の位置に基づいて、看護師が現在に従事している看護業務などを予測することが可能となる。
【0163】
また、以上のテキストによる記述においては、使用しているエディタなどの都合上、図13に示す表のように、文字の置き換えを行った。
【図面の簡単な説明】
【0164】
【図1】この発明の位置推定方法により位置が推定される買い物客が移動する空間領域が存在する環境の一例を示す図解図である。
【図2】本発明の位置推定方法に用いられる粒子フィルタのアルゴリズムを示すフロー図である。
【図3】エッジ遷移率を説明する図解図である。
【図4】新規な粒子フィルタの生成を説明する図解図である。
【図5】頂点(センサ頂点/領域頂点)と粒子フィルタとの距離について説明する図解図である。
【図6】2つの粒子フィルタの間の距離について説明する図解図である。
【図7】本発明の位置推定方法を実現するコンピュータによって実行される処理の手順の一例を示すフロー図である。
【図8】本発明の位置推定方法の有効性を証明する実験における半開放型環境を説明する図解図である。
【図9】本発明の位置推定方法の有効性を証明する実験に用いられるゲートセンサの構成の一例を示す図解図である。
【図10】本発明の位置推定方法の有効性を証明する実験におけるネットワーク環境の一例を示す図解図である。
【図11】本発明の位置推定方法を実現する位置推定装置としてのパーソナルコンピュータの構成の一例を示すブロック図である。
【図12】本発明の位置推定方法の有効性を証明する実験の結果の表を示す図解図である。
【図13】文字の置き換えを説明する図解図である。
【符号の説明】
【0165】
10 …赤外線センサ
12 …ゲートセンサ
20 …赤外線タグ(赤外線発信機)
30 …無線中継ポイント
40 …パーソナルコンピュータ(位置推定装置)
100 …陳列棚
V …頂点(センサ頂点/領域頂点)
VS …センサ頂点
VR …領域頂点
k …粒子フィルタ
k1 …粒子フィルタ
k2 …粒子フィルタ
knew …粒子フィルタ
R …検出範囲
【技術分野】
【0001】
この発明は、位置推定方法および装置に関し、特に、1または2以上の粒子フィルタを用いて、空間領域を移動する対象の現在の位置を推定する位置推定方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、人が活動する空間領域のいたるところにコンピュータが存在する状況となり、人とコンピュータとの間のインターフェースをどのように発展させるかが大きな課題となっている。現状では、人々の間にコンピュータを扱う能力の格差が存在するため、すべての人々がコンピュータによって提供される各種のサービスによる恩恵を等しく享受しているとはいい難い。
【0003】
そこで、この恩恵をすべての人々が等しく享受することができる環境の実現が強く望まれている。この環境の実現への鍵となる技術として、コンピュータが周囲の人やオブジェクトの状態を認識し、その状態による環境に応じたサービスを能動的に提供する“コンテクストアウェアネス”がある。
【0004】
このような技術の実現に向けて、人の姿勢推定、視線推定、音声認識などの数多くの状態推定に関する研究が行われている。そして、これらの状態推定の中でも、人の位置の推定は、人が存在する場所とその場所で起こしうる行動との相関が非常に高いことから、人の行動を認識する上で最も重要な推定の1つであると考えられている。
【0005】
そのため、人の位置を推定する方法としてさまざまな方法が提案されているが、その1つとして、非特許文献1に記載されているように、粒子フィルタ(モンテカルロ・フィルタ)を用いるものがある。この従来の方法では、単一の粒子フィルタを用いて、移動するロボットの位置を推定しており、粒子フィルタの粒子の分散はロボットが移動する複数の空間領域の互いの繋がりの構造を示すボロノイ・グラフ上に制限されている。そして、この粒子フィルタで、ロボットの位置の予測と複数の空間領域からなる場所にまばらに設けられたセンサによるロボットの検出結果に基づく当該予測の修正とを繰り返すことによってロボットが存在する位置を推定(追跡)している。
【非特許文献1】Liao, L., Fox, D., Hightower, J., Kautz, H., Schulz, D.: Voronoi tracking: Location estimation using sparse and noisy sensor data. In: Proc. of the IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems. (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、このような粒子フィルタを用いて複数の空間領域からなる建物内を移動する人の現在の位置を推定する場合、人が所定の空間領域内のセンサに検出されない位置で長期間存在する状況が発生すると、人の検出による予測の修正が行われず、予測のみが行われるため、時間の経過に伴い粒子が方々に分散して人の存在位置の確率を示す正しい粒子の分布を維持できなくなるという問題がある。
【0007】
また、このような粒子フィルタを用いて複数の空間領域からなる建物内を移動する人の現在の位置を推定する場合、センサの検出範囲が複数の空間領域にまたがっていてセンサが位置する空間領域と異なる空間領域に存在する人を誤検出したり、一連のセンサによる連続した人の検出の間に所定のセンサが正常に人を検出しなかったりして、ボロノイ・グラフ上において連続しない空間領域において突発的に人が検出された場合には、正しく人の現在の位置を推定(追跡)することができないという問題がある。
【0008】
なお、センサの検出範囲の複数の空間領域へのまたがりは、たとえば、人が移動する場所がショッピングモールやコンビニエンスストアなどで、空間領域の区切りが陳列棚などの高さの低いものであり、所定の空間領域の天井に設けられた赤外線センサが、当該空間領域以外の空間領域に存在する人が携帯する赤外線発信機から発信された赤外線を受信する場合に起こりうる。空間領域を区切る陳列棚が、赤外線発信機が発信する赤外線を遮断しないためである。
【0009】
それゆえに、この発明の主たる目的は、新規な、位置推定方法および装置を提供することである。
【0010】
また、この発明の他の目的は、対象が一定の空間領域に長期間存在するなどしてセンサで検出されない場合がある環境であっても高い精度で対象の現在の位置を推定できる、位置推定方法および装置を提供することである。
【0011】
さらに、この発明の他の目的は、対象が空間領域の移動可能経路上において連続しない空間領域で突発的に検出される環境であっても高い精度で対象の現在の位置を推定できる位置推定方法および装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の構成を採用した。なお、括弧内の参照符号および補足説明などは、本発明の理解を助けるために後述する実施の形態との対応関係を示したものであって、本発明を何ら限定するものではない。
【0013】
第1の発明は、空間領域の境界に設けられ当該境界を通過する対象を検出するセンサの位置を示すセンサ頂点、空間領域の位置を示す領域頂点、および領域頂点と当該領域頂点が示す空間領域の境界に設けられたセンサを示すセンサ頂点とを結ぶエッジからなるグラフ構造上に粒子の分布が制限され、粒子の確率分布に基づく対象の位置の予測とセンサによる対象の検出に基づく予測の修正とを繰り返す1または2以上の粒子フィルタを用いて、空間領域を移動する対象の位置を推定する位置推定方法であって、センサにおいて対象が検出されたとき、当該センサを示すセンサ頂点とグラフ構造上において最も距離が近い粒子フィルタに属する粒子の確立分布に基づく対象の位置の予測を検出に基づいて修正し、当該粒子フィルタに属する粒子をグラフ構造上に伝搬させる伝搬ステップ(A)、およびセンサにおいて対象が検出されたとき、当該センサを示すセンサ頂点とグラフ構造上において最も距離が近い粒子フィルタ以外の粒子フィルタに属する粒子をグラフ構造上において当該粒子フィルタに最も近い領域頂点の周辺に収束させる第1固定ステップ(B)を含む、位置推定方法である。
【0014】
第1の発明では、位置推定方法は、空間領域の境界に設けられ当該境界を通過する対象を検出するセンサ(10、12)の位置を示すセンサ頂点(VS)、空間領域の位置を示す領域頂点(VR)、および領域頂点と当該領域頂点が示す空間領域の境界に設けられたセンサを示すセンサ頂点とを結ぶエッジ(E)からなるグラフ構造(G)上に粒子の分布が制限され、粒子の確率分布に基づく対象の位置の予測とセンサによる対象の検出に基づく予測の修正とを繰り返す1または2以上の粒子フィルタを用いて、空間領域を移動する対象の位置を推定する。
【0015】
そして、この位置推定方法において、伝搬ステップ(A)(S29)では、センサにおいて対象が検出されたとき、当該センサを示すセンサ頂点とグラフ構造上において最も距離が近い粒子フィルタに属する粒子の確立分布に基づく対象の位置の予測を検出に基づいて修正し、当該粒子フィルタに属する粒子をグラフ構造上に伝搬させ、第1固定ステップ(B)(S31)では、センサにおいて対象が検出されたとき、当該センサを示すセンサ頂点とグラフ構造上において最も距離が近い粒子フィルタ以外の粒子フィルタに属する粒子をグラフ構造上において当該粒子フィルタに最も近い領域頂点の周辺に収束させる。
【0016】
第1の発明によれば、粒子フィルタは、伝搬ステップ(A)が実行される伝播モードの他に、第1固定ステップ(B)が実行される固定モードを備えるので、センサによる対象の検出により予測が修正されない粒子フィルタの粒子がグラフ構造上の方々に分散することを防止し、高い精度で位置の推定を行うことができる。
【0017】
第2の発明は、第1の発明に従属する発明であって、いずれのセンサにおいても対象が検出されないとき、すべての粒子フィルタについて各粒子フィルタに属する粒子をグラフ構造上において当該粒子フィルタに最も近い領域頂点の周辺に収束させる第2固定ステップ(C)をさらに含む。
【0018】
第2の発明では、第2固定ステップ(C)(S25)において、いずれのセンサにおいても対象が検出されないとき、すべての粒子フィルタについて各粒子フィルタに属する粒子をグラフ構造(G)上において当該粒子フィルタに最も近い領域頂点の周辺に収束させる。
【0019】
第2の発明によれば、粒子フィルタの固定モードではさらに第2固定ステップが実行されるので、対象が一定の空間領域に長期間存在するなどしてセンサで検出されない場合に粒子がグラフ構造上の方々に分散することを防止し、高い精度で位置の推定を行うことができる。
【0020】
第3の発明は、第1の発明または第2の発明に従属する発明であって、グラフ構造上において、粒子フィルタの位置から他のセンサによって検出されることなく対象が移動不可能な位置に存在するセンサ頂点が示すセンサが対象を検出した場合に、粒子の確率分布が当該センサ頂点を中心とする新規の粒子フィルタを生成する生成ステップ(D)、異なるセンサによる連続した所定回数の対象の検出のうちのいずれの検出によっても粒子の確立分布に基づく対象の位置の予測の修正が行われないとき、当該粒子フィルタを消滅させる消滅ステップ(E)、2以上の粒子フィルタがそれぞれ予測する対象の位置が同じであるとみなせるとき、当該2以上の粒子フィルタを結合する結合ステップ(F)、および1または2以上の粒子フィルタから対象の位置の推定に利用する粒子フィルタを選択する選択ステップをさらに含む位置推定方法である。
【0021】
第3の発明では、生成ステップ(D)(S33)で、グラフ構造(G)上において、粒子フィルタの位置から他のセンサによって検出されることなく対象が移動不可能な位置に存在するセンサ頂点(VS)が示すセンサが対象を検出した場合に、粒子の確率分布が当該センサ頂点を中心とする新規の粒子フィルタを生成し、消滅ステップ(E)(S43)において、異なるセンサによる連続した所定回数の対象の検出のうちのいずれの検出によっても粒子の確立分布に基づく対象の位置の予測の修正が行われないとき、当該粒子フィルタを消滅させ、結合ステップ(F)(S39)において、2以上の粒子フィルタがそれぞれ予測する対象の位置が同じであるとみなせるとき、当該2以上の粒子フィルタを結合し、選択ステップ(G)(S45)において、1または2以上の粒子フィルタから対象の位置の推定に利用する粒子フィルタを選択する。
【0022】
第3の発明によれば、人を検出したセンサと粒子フィルタの位置関係、異なるセンサによる連続した所定回数の対象の検出のうちのいずれかの検出によって予測の修正が行われたか否か、および複数の粒子フィルタの位置関係に基づいて、粒子フィルタの生成、消滅、結合を行うので、対象が空間領域の移動可能経路上において連続しない空間領域で突発的に検出された場合でも高い精度で対象の現在の位置を推定することができる。
【0023】
第4の発明は、第3の発明に従属する発明であって、選択ステップ(G)では、属する粒子の確立分布に基づく予測の修正に寄与した検出の数がより多く、属する粒子の確立分布に基づく予測の修正に寄与した検出が行われたセンサを示すセンサ頂点の位置の変化の履歴が、検出を行ったすべてのセンサのそれぞれを示すセンサ頂点の位置の変化の履歴とよりよく一致する粒子フィルタを選択する。
【0024】
第4の発明では、選択ステップ(G)(S45)において、属する粒子の確立分布に基づく予測の修正に寄与した検出の数がより多く、属する粒子の確立分布に基づく予測の修正に寄与した検出が行われたセンサを示すセンサ頂点(VS)の位置の変化の履歴が、検出を行ったすべてのセンサのそれぞれを示すセンサ頂点の位置の変化の履歴とよりよく一致する粒子フィルタを選択する。
【0025】
第4の発明によれば、複数存在する粒子フィルタの中から最も確かに対象の位置を予測したであろう粒子フィルタを選択するので、複数存在する粒子フィルタを用いて精度よく対象の現在の位置を推定することができる。
【0026】
第5の発明は、空間領域の境界に設けられ当該境界を通過する対象を検出するセンサの位置を示すセンサ頂点、空間領域の位置を示す領域頂点、および領域頂点と当該領域頂点が示す空間領域の境界に設けられたセンサを示すセンサ頂点とを結ぶエッジからなるグラフ構造上に粒子の分布が制限され、粒子の確率分布に基づく対象の位置の予測とセンサによる対象の検出に基づく予測の修正とを繰り返す1または2以上の粒子フィルタを用いて、空間領域を移動する対象の位置を推定する位置推定装置であって、センサにおいて対象が検出されたとき、当該センサを示すセンサ頂点とグラフ構造上において最も距離が近い粒子フィルタに属する粒子の確立分布に基づく対象の位置の予測を検出に基づいて修正し、当該粒子フィルタに属する粒子をグラフ構造上に伝搬させる伝搬手段、およびセンサにおいて対象が検出されたとき、当該センサを示すセンサ頂点とグラフ構造上において最も距離が近い粒子フィルタ以外の粒子フィルタに属する粒子をグラフ構造上において当該粒子フィルタに最も近い領域頂点の周辺に収束させる第1固定手段を備える、位置推定装置である。
【0027】
第5の発明では、位置推定装置は、空間領域の境界に設けられ当該境界を通過する対象を検出するセンサ(10、12)の位置を示すセンサ頂点(VS)、空間領域の位置を示す領域頂点(VR)、および領域頂点と当該領域頂点が示す空間領域の境界に設けられたセンサを示すセンサ頂点とを結ぶエッジ(E)からなるグラフ構造(G)上に粒子の分布が制限され、粒子の確率分布に基づく対象の位置の予測とセンサによる対象の検出に基づく予測の修正とを繰り返す1または2以上の粒子フィルタを用いて、空間領域を移動する対象の位置を推定する。
【0028】
そして、この位置推定装置では、伝搬手段(A)(S29)が、センサにおいて対象が検出されたとき、当該センサを示すセンサ頂点とグラフ構造上において最も距離が近い粒子フィルタに属する粒子の確立分布に基づく対象の位置の予測を検出に基づいて修正し、当該粒子フィルタに属する粒子をグラフ構造上に伝搬させ、第1固定手段(B)(S31)が、センサにおいて対象が検出されたとき、当該センサを示すセンサ頂点とグラフ構造上において最も距離が近い粒子フィルタ以外の粒子フィルタに属する粒子をグラフ構造上において当該粒子フィルタに最も近い領域頂点の周辺に収束させる。
【0029】
第5の発明によれば、粒子フィルタは、粒子の伝搬が実行される伝播モードの他に、粒子の収束が実行される固定モードを備えるので、センサによる対象の検出により予測が修正されない粒子フィルタの粒子がグラフ構造上の方々に分散することを防止し、高い精度で位置の推定を行うことができる。
【0030】
第6の発明は、第5の発明に従属する発明であって、いずれのセンサにおいても対象が検出されないとき、すべての粒子フィルタについて各粒子フィルタに属する粒子をグラフ構造上において当該粒子フィルタに最も近い領域頂点の周辺に収束させる第2固定手段をさらに備える。
【0031】
第6の発明では、第2固定手段(S25)が、いずれのセンサにおいても対象が検出されないとき、すべての粒子フィルタについて各粒子フィルタに属する粒子をグラフ構造(G)上において当該粒子フィルタに最も近い領域頂点の周辺に収束させる。
【0032】
第6の発明によれば、粒子フィルタの固定モードではさらに第2固定手段により粒子の収束が実行されるので、対象が一定の空間領域に長期間存在するなどしてセンサで検出されない場合に粒子がグラフ構造上の方々に分散することを防止し、高い精度で位置の推定を行うことができる。
【0033】
第7の発明は、第5の発明または第6の発明に従属する発明であって、グラフ構造上において、粒子フィルタの位置から他のセンサによって検出されることなく対象が移動不可能な位置に存在するセンサ頂点が示すセンサが対象を検出した場合に、粒子の確率分布が当該センサ頂点を中心とする新規の粒子フィルタを生成する生成手段、異なるセンサによる連続した所定回数の対象の検出のうちのいずれの検出によっても粒子の確立分布に基づく対象の位置の予測の修正が行われないとき、当該粒子フィルタを消滅させる消滅手段、2以上の粒子フィルタがそれぞれ予測する対象の位置が同じであるとみなせるとき、当該2以上の粒子フィルタを結合する結合手段、および1または2以上の粒子フィルタから対象の位置の推定に利用する粒子フィルタを選択する選択手段をさらに備える位置推定装置である。
【0034】
第7の発明では、生成手段(S33)が、グラフ構造(G)上において、粒子フィルタの位置から他のセンサによって検出されることなく対象が移動不可能な位置に存在するセンサ頂点(VS)が示すセンサが対象を検出した場合に、粒子の確率分布が当該センサ頂点を中心とする新規の粒子フィルタを生成し、消滅手段(S43)が、異なるセンサによる連続した所定回数の対象の検出のうちのいずれの検出によっても粒子の確立分布に基づく対象の位置の予測の修正が行われないとき、当該粒子フィルタを消滅させ、結合手段(S39)が、2以上の粒子フィルタがそれぞれ予測する対象の位置が同じであるとみなせるとき、当該2以上の粒子フィルタを結合し、選択手段(S45)が、1または2以上の粒子フィルタから対象の位置の推定に利用する粒子フィルタを選択する。
【0035】
第7の発明によれば、人を検出したセンサと粒子フィルタの位置関係、異なるセンサによる連続した所定回数の対象の検出のうちのいずれかの検出によって予測の修正が行われたか否か、および複数の粒子フィルタの位置関係に基づいて、粒子フィルタの生成、消滅、結合を行うので、対象が空間領域の移動可能経路上において連続しない空間領域で突発的に検出された場合でも高い精度で対象の現在の位置を推定することができる。
【0036】
第8の発明は、第7の発明に従属する発明であって、選択手段は、属する粒子の確立分布に基づく予測の修正に寄与した検出の数がより多く、属する粒子の確立分布に基づく予測の修正に寄与した検出が行われたセンサを示すセンサ頂点の位置の変化の履歴が、検出を行ったすべてのセンサのそれぞれを示すセンサ頂点の位置の変化の履歴とよりよく一致する粒子フィルタを選択する。
【0037】
第8の発明では、選択手段(S45)は、属する粒子の確立分布に基づく予測の修正に寄与した検出の数がより多く、属する粒子の確立分布に基づく予測の修正に寄与した検出が行われたセンサを示すセンサ頂点(VS)の位置の変化の履歴が、検出を行ったすべてのセンサのそれぞれを示すセンサ頂点の位置の変化の履歴とよりよく一致する粒子フィルタを選択する。
【0038】
第8の発明によれば、複数存在する粒子フィルタの中から最も確かに対象の位置を予測したであろう粒子フィルタを選択するので、複数存在する粒子フィルタを用いて精度よく対象の現在の位置を推定することができる。
【発明の効果】
【0039】
この発明によれば、センサによる対象の検出により予測が修正されない粒子フィルタの粒子がグラフ構造上の方々に分散することを防止し、高い精度で位置の推定を行うことができる。
【0040】
また、この発明によれば、対象が一定の空間領域に長期間存在するなどしてセンサで検出されない場合がある環境でも高い精度で対象の現在の位置を推定できる。
【0041】
さらに、この発明によれば、対象が空間領域の移動可能経路上において連続しない空間領域で突発的に検出される環境であっても高い精度で対象の現在の位置を推定できる。
【0042】
この発明の上述の目的、その他の目的、特徴および利点は、図面を参照して行う以下の実施例の詳細な説明から一層明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
本発明の位置推定方法の一例として以下に説明する位置推定方法は、たとえば、図1に示すように、ショッピングモールなどにおいて、商品の陳列棚100によって区切られた複数の空間領域(たとえば空間領域α、β、γ)内を移動する買い物客の現在の位置の推定を行う。このショッピングモールでは、空間領域Aを成す(空間領域αに面している)陳列棚100には、たとえば、ネコ用の缶詰のキャットフードが陳列され、空間領域βを成す陳列棚100には、たとえば、ネコ用の袋詰めのキャットフードが陳列され、空間領域γを成す陳列棚100には、たとえば、イヌ用の袋詰めのドックフードが陳列されるというように、各空間領域を成す陳列棚100ごとに陳列されている商品が異なっている。
【0044】
このような空間領域の各出入り口(境界)のたとえば天井に、一対の赤外線センサ10からなるゲートセンサ12を配置する。ゲートセンサ12は、一方の赤外線センサ10が隣接する空間領域の一方側に位置し、他方の赤外線センサ10が隣接する空間領域の他方側に位置するように配置される。そして、陳列棚100によって形成されたこれらの空間領域内を移動する買い物客に赤外線発信機(不図示)を携帯させる。たとえば、買い物カゴ(不図示)に赤外線発信機を取り付けるようにしてもよい。
【0045】
このようにして、買い物客が携帯する赤外線発信機から発信された赤外線を、赤外線センサ10で受信することによって、買い物客の位置を検出し、買い物客が存在する空間領域を特定することによって、たとえば、買い物客が現在どの商品の購入を検討しているかを知ることができる。また、1つの空間領域内に存在し続ける時間を計測することによって、買い物客がどの程度の時間、所定の商品の購入を検討していたかを知ることができる。なお、買い物客が携帯する赤外線発信機から発信される赤外線には買い物客を識別するID情報(以下、“識別ID”と呼ぶ。)が含まれ、複数存在する買い物客のぞれぞれの位置を推定することができる。
【0046】
このようなシステムにおいて、買い物客を検出した赤外線センサ10の位置をそのまま、買い物客が現在に存在する位置であると判断できれば問題はない。しかし、ショッピングモールなどでは、空間領域を区切る陳列棚100は天井まで届いておらず、また、赤外線発信機から発信される赤外線を遮断するような構造ではないので、天井に設置された赤外線センサ10の赤外線の検出範囲R(図1の斜線を施した楕円の部分)は、赤外線センサ10が設置されている空間領域の範囲をはみ出して他の空間領域にまたがっている。(このように、赤外線が空間領域を区切る陳列棚100や壁によって遮断されない環境を“半開放型環境”と呼ぶ。)そのため、たとえば、買い物客が空間領域αから赤外線センサ(5)10および赤外線センサ(6)10を通過して空間領域γに入り、空間領域γの図面上部を移動した場合、空間領域γの内部で、赤外線センサ(3)10および赤外線センサ(4)10によって赤外線が検出され、買い物客が空間領域γに存在するにもかかわらず、買い物客が空間領域γから直接的に空間領域βに移動したと誤判断する可能性がある。
【0047】
また、買い物客の移動を追跡している場合において、買い物客がゲートセンサ12を通過する際に、買い物カゴなどに取り付けられた赤外線発信機から赤外線が下方向や横方向に発射されたときには、通過するゲートセンサ12の赤外線センサ10によって赤外線が受信されない事態が発生する。このような場合には、受信漏れを起こしたのとは別の赤外線センサ10で次に買い物客が検出されると、買い物客が連続しない空間領域を移動したこととなり、正常に買い物客の移動を追跡することができない。
【0048】
このような誤判断を防止し、また、正常に対象としての買い物客を追跡するために、いわゆる粒子フィルタを用いる。粒子フィルタは高次元の一般状態空間モデルに対するフィルタと平滑化のために提案されたものであり、条件付分布をその分布からの多数の実現値で近時表現するものであり、モンテカルロ・フィルタとも呼ばれる。
【0049】
より具体的には、粒子フィルタは、追跡対象(ここでは、買い物客)の状態を、N個の離散的な状態ベクトルx(i)tとこれに対応する重みw(i)tを持つ多数の粒子{x(i)t, w(i)t }(i = 1,…,N)を用いて離散変数の集合に近似して逐次的に推定する方法である。
【0050】
状態ベクトルxtを非線形関数Ft、システムノイズvtを用いて表した式(1)をシステムモデルと呼び、観測ベクトルytを非線形関数Ht、観測ノイズwtを用いて表した式(2)を観測モデルと呼ぶ。そして、状態ベクトルxtと観測ベクトルytとの関係を示すシステムモデルと観測モデルとの組を一般状態空間モデルと呼ぶ。なお、システムモデルは状態予測モデルとも呼ばれる。
【0051】
[システムモデル] xt =Ft(Xt-1,vt) (1)
[観測モデル] yt =Ht(xt,wt) (2)
これらのシステムモデルおよび観測モデルは、状態xt-1,xtが与えられたときの条件付分布Qt,Rtを用いて以下の式(3)および式(4)のように一般化される。
【0052】
[システムモデル] xt 〜Qt(・|xt-1) (3)
[観測モデル] yt 〜 Rt(・|xt) (4)
粒子フィルタは、これらの式(3)および式(4)に示す、システムモデルと観測モデルを用いて、観測対象(ここでは買い物客)の状態の予測と、実際の観測結果に基づいた状態の予測の修正を繰り返す。状態の予測と予測の修正は、図2に示すフロー図の手順に従って実行される。
【0053】
このフロー図に示すように、手順では、まず、ステップS1では、i=1,…,NのN個の粒子からなる粒子の集団の初期状態X0={x(1)0,…,x(N)0}を生成する。
【0054】
そして、ステップS3では、変数“t”を“1”だけインクリメントする。この変数“t”は“1”〜“T”までの値をとり、時間をカウントするための変数である。ステップS3からステップS11までの手順が、変数“t”が“T”に等しくなるまで繰り返される。なお、変数“t”の初期値は“0”である。
【0055】
次に、ステップS5では、すべての“i”(粒子)について、式(5)のシステムモデルに基づいて、状態x^(i)tを予測し、
【0056】
【数1】
【0057】
また、観測によって得たytを用いて、すべての“i”(粒子)について、式(6)の観測モデルに基づいて、粒子の重みw(i)tを計算する。
【0058】
【数2】
【0059】
ここで、粒子フィルタを用いて買い物客の位置を推定する場合には、“観測”とは、赤外線センサ10によって買い物客が検出されることであり、“yt”は買い物客が検出された空間領域の位置などの情報である。
【0060】
次に、ステップS7では、式(7)に基づいて、各粒子の重みの合計を計算する。
【0061】
【数3】
【0062】
そして、ステップS9では、すべての“i”(粒子)について、式(8)に基づいて、ステップS7で求めた重みの合計に対する、状態(粒子)x^(i)tの重みw(i)tの割合w~(i)tを計算する。つまり、重みw(i)t(w~(i)t)の合計が“1”となるように正規化する。なお、“w~(i)t”は、“i”番目の粒子の“importance weight”と呼ばれる。
【0063】
【数4】
【0064】
さらに、時刻“t”における粒子の集団X^t={x^(1)t,…,x^(N)t}の中からx^(i)tをw~(i)tの確率で復元抽出する。この復元抽出をリサンプリングと呼ぶ。そして、リサンプリングされたN個の粒子からなる時刻“t”における新たな粒子の集団Xt={x(1)t,…,x(N)t}を生成する。このようにして、状態x^(i)tの予測が観測(検出)された“yt”によって修正される。
【0065】
こうして生成された時刻“T”における粒子の集団XT={x(1)T,…,x(N)T}において、最も大きい重みを持つ(最も尤度が高い)粒子の状態x(i)Tが示す位置が時刻“T”における対象(買い物客)の現在の位置として推定される。
【0066】
本発明の位置推定方法で用いられる粒子フィルタは、属する粒子の分布が、空間領域の位置を示す領域頂点VRと、赤外線センサ10の位置を示すセンサ頂点VSと、領域頂点VRおよびセンサ頂点VS並びにセンサ頂点VSおよびセンサ頂点VSを結ぶエッジEによって決定されるグラグ構造G上に制限される。
【0067】
図1においては、領域頂点VRを“□”で、センサ頂点VSを“○”で、エッジEを太線でそれぞれ示している。図1からもわかるように、領域頂点VRは、各空間領域に1つ設定され、その空間領域に隣接するセンサ頂点VSに対するハブ(hub)の役目を果たす。また、センサ頂点VSは、赤外線センサ10の受信部の位置を示し、グラフ構造G上で唯一、対象としての買い物客が検出される場所である。赤外線センサ10で買い物客が検出されることを、センサ頂点VSで“観測”が得られると表現する。
【0068】
本発明の位置推定方法では、得られた“観測”や粒子フィルタの状況などに応じて複数の粒子フィルタを生成し、また、複数の粒子フィルタの結合や粒子フィルタの消滅を行う。より具体的には、時刻tにおいて“観測”が得られたセンサ頂点VSの位置が、グラフ構造G上において、時刻t−1における既存の粒子フィルタの位置から他の1つ以上のセンサ頂点VSにおいて“観測”されることなく買い物客が移動することができない位置である場合に、時刻tにおいて“観測”が得られたセンサ頂点VSを粒子の確率分布の中心として新規の粒子フィルタを生成する。このような位置のセンサ頂点VSにおいて得られる“観測”を“突発的な観測”と呼ぶ。
【0069】
そして、複数の粒子フィルタのそれぞれが予測する買い物客の位置が同じ空間領域内であるとみなせる場合に、これらの粒子フィルタを結合して1つの粒子フィルタとする。
【0070】
また、複数の粒子フィルタが存在する場合には、センサ頂点VSにおける“観測”は、“観測”が得られたセンサ頂点VSの位置から最も近い粒子フィルタに対してのみ“観測”として影響を与える。つまり、予測を修正する。このように“観測”によって粒子フィルタが影響を受けて予測を修正することを、粒子フィルタが“観測を勝ち取る”と表現する。
【0071】
さらに、異なるセンサ頂点VSで所定の回数だけ連続して発生する“観測”について、“観測”を一度も勝ち取らなかった粒子フィルタは消滅させる。
【0072】
詳細については後述するが、このように、粒子フィルタの生成、結合、消滅を行うことによって、赤外線センサ10による誤検出が発生しても買い物客の現在の位置を高い精度で推定することができる。
【0073】
また、“観測”を勝ち取った粒子フィルタは“観測”による影響に基づいて予測を修正して粒子をグラフ構造G上に伝搬させるが、“観測”を勝ち取らなかった粒子フィルタは、粒子を最も近い領域頂点VRの周辺に収束させる。なお、いずれのセンサ頂点VSにおいても観測が得られない場合は、すべての粒子フィルタの粒子を最も近い領域頂点VRの周辺に収束させる。この粒子フィルタの粒子をグラフ構造G上を伝搬させる状態を粒子フィルタの“伝搬モード”と呼び、粒子を領域頂点VRの周辺に収束させる状態を粒子フィルタの“固定モード”と呼ぶ。
【0074】
このように、粒子フィルタに伝搬モードの他に固定モードを与えることによって、“観測”を勝ち取らなかった粒子フィルタの粒子が時間経過とともにグラフ構造G上の方々に分散することを防止することができる。
【0075】
本発明の位置推定方法で用いられる粒子フィルタは、伝搬モードのシステムモデルを式(9)ないし式(11)で定めることによって、粒子の分布をグラフ構造G上に制限する。なお、本発明の位置推定方法で用いられる粒子フィルタのシステムモデルには、上述のように伝搬モードと固定モードとがあるが固定モードについては後述する。
【0076】
【数5】
【0077】
P^(xt|xt-1)は、粒子が時刻“t−1”においてある状態xt-1にあった場合に、時刻tで状態xtに変化する確率を示している。D(xt,xt-1)は、グラフ構造G上における2つの粒子(状態)の距離を示しており、式(11)からわかるように、P^(xt|xt-1)は、2つの粒子の状態xt,xt-1の間のグラフ構造G上における距離に基づいて決定される。なお、2つの粒子(状態)間の距離D(xt,xt-1)は、経験的に平均“0”、分散“σd=0.3”の正規分布に従うとしている。
【0078】
ところで、本発明の位置推定方法で用いられる粒子フィルタの粒子は、式(12)に示すようなパラメータを持つ。
【0079】
粒子状態空間 x=<e,d,m> (12)
式(12)において、“e”は粒子が現在存在するエッジEであり、“d”は粒子が現在存在するエッジEの端点からの距離であり、“m”は粒子フィルタの現在の動作モード(伝搬モード/固定モード)である。
【0080】
そして、グラフ構造G上における2つの粒子(状態)間の距離D(xt,xt-1)は、式(13)によって決定される。
【0081】
【数6】
【0082】
式(13)によると、異なる2つの粒子(状態)が同一エッジE上にある場合(ei = ej)は、単純に、そのエッジE上において距離を計算する。一方、異なる2つの粒子(状態)が同一エッジE上に存在しない場合(otherwise)は、2つの粒子(状態)を結ぶ経路をどのように選択するかによって距離が異なってくるので、経路の距離が最短となるエッジEを選択する。式(13)における、“Σk|ek|”は、点“di”と点“dj”との間に存在する1つの経路に含まれるエッジEの距離の和を示している。なお、領域頂点VRとセンサ頂点VSをつなぐエッジEの距離を一様に“0.5”とし、センサ頂点VSとセンサ頂点VSをつなぐエッジEの距離を一様に“1.0”とする。
【0083】
式(10)におけるP(et|et-1)は、図3に示すように、粒子がエッジE(ei)の分岐点である領域頂点VRに到達したときに、次に所定のエッジE(ei、ej、ekのいずれか)に遷移する確率(以下、“遷移確率”と呼ぶ。)を表しており、式(14)で決定される。
【0084】
【数7】
【0085】
ここで、“時刻tにおいてセンサ頂点v(j)Sで“観測”されたID受信頻度(freq(v(j)S,t))”とは、ある固定の時間間隔(ウィンドウ幅)“tw”を設定したとき、[t−tw,t]の時間内に、センサ頂点v(j)Sに位置する赤外線センサ10によって、その買い物客の識別IDが“観測”(検出)された回数を示している。
【0086】
また、式(14)における“α”は、買い物客の識別IDがまったく観測されない赤外線センサ10のセンサ頂点VSが接続されたエッジEへの遷移確率が完全に“0”になることを防止するための値である。つまり、現実には、買い物客が赤外線センサ10の近くに移動したにもかかわらず、赤外線センサ10の誤った“観測”によって、“観測”が得られない場合が考えられることに対応して“α”という一定値のゲタをはかせている。
【0087】
なお、式(14)における右辺は、確率ではないので、実際にコンピュータなどで、P(et,et-1)を計算する場合には、すべてのエッジE(1,…,Ne)について、式(14)の右辺を計算し、計算された各エッジEについての右辺を、右辺の各右辺の合計に対する割合と置き換えて、置き換えられた各右辺の合計が“1”となるように正規化したものを用いる。
【0088】
このように、エッジEの遷移確率P(et,et-1)は、センサ頂点VS(赤外線センサ10)における買い物客の識別IDの受信頻度(観測回数)に基づいて動的に変更される。
【0089】
伝搬モードのシステムモデルは以上に説明した通りであるが、観測モデルは、式(15)によって決定される。
【0090】
【数8】
【0091】
この式からわかるように、粒子の尤度は、“ID受信頻度/粒子から観測されたセンサ頂点VSまでのホップ数”によって決定される。そして、式(15)は、同時刻において、複数のセンサ頂点VS上で“観測”が得られた場合、状態xtの粒子の尤度は、複数の“観測”で得られた尤度の和によって計算されることを示している。
【0092】
そして、先述の“importance weight”は、式(15)を利用して、式(16)によって決定される。
【0093】
【数9】
【0094】
この“importance weight”は、先述の通り、次の時刻における粒子フィルタに属する粒子の分布を決定するリサンプリングに利用される。
【0095】
以上が、伝搬モードにおけるシステムモデルと観測モデルであるが、固定モードにおけるシステムモデルは式(17)によって決定される。
【0096】
【数10】
【0097】
式(17)からわかるように、粒子フィルタの固定モードでは、すなわち、粒子フィルタが“観測”を勝ち取らない状態においては、その粒子フィルタに属する粒子をすべて、当該粒子フィルタに最も近い領域頂点VRの周辺に収束させる。つまり、粒子フィルタに属する粒子は、当該粒子フィルタが“観測”を勝ち取らない期間、最近傍の領域頂点VRを中心とした正規分布に従って分散される。なお、この場合の正規分布の分散は伝搬モードと同様に経験上“σd=0.3”とする。
【0098】
本発明の位置推定方法では、以上に説明したような伝搬モードおよび固定モードのシステムモデルと観測モデルとに基づく粒子フィルタを用いて、上述したように、たとえば、ショッピングモール内を移動する買い物客の現在の位置を推定する。
【0099】
しかし、この例のように、空間領域の出入り口に設けられた赤外線センサ10によるまばらな“観測”しか得られない環境では、得られる“観測”が少ないことや誤った“観測”が原因となり、現在の時刻までの“観測”に基づいて一意に買い物客の位置を決定することができない場合が発生する。このような場合、粒子の尤度が示す買い物客の位置の事後分布は、多峰性を有すると考えられる。
【0100】
そこで、本発明の位置推定方法では、新たな粒子フィルタの生成、粒子フィルタの結合、および粒子フィルタの消滅を繰り返すことによって、多峰性を有する事後分布に対応する。
【0101】
そして、複数の粒子フィルタが存在する場合には、詳しくは後述するが、尤もらしい買い物客の移動軌跡に対応する粒子フィルタを選択することによって、高精度に買い物客の位置の推定を行う。
【0102】
先述したが、図4に示すように、グラグ構造G上において、領域頂点VRとセンサ頂点VSを接続するエッジEの距離を一様に“0.5”とし、隣接するセンサ頂点VS同士を接続するエッジEの距離を一様に“1.0”とする。
【0103】
そして、図4に示すように、新たに“観測”が得られたセンサ頂点VSと既存の粒子フィルタとの距離が“2.0”以上である場合には、粒子が、新たに観測が得られたセンサ頂点VSを中心とした正規分布に従う新たな粒子フィルタを生成する。なお、このように、粒子フィルタとの距離が“2.0”以上であるセンサ頂点VSにおいて得られる“観測”が、上述した“突発的な観測”である。
【0104】
ここで、図5に示すような、センサ頂点VSと粒子フィルタkとの距離を式(18)で決定する。
【0105】
【数11】
【0106】
式(18)からわかるように、あるセンサ頂点VSとある粒子フィルタkとの距離は、粒子フィルタkに属するすべての粒子とあるセンサ頂点VSとの間の距離の合計を、粒子フィルタkに属する粒子の総数で割って得られる平均の距離によって表現する。
【0107】
したがって、式(18)によって得られる値が“2.0”以上である場合に、新たな粒子フィルタを生成する。なお、粒子とあるセンサ頂点VSとの間の距離は、粒子が存在するエッジEの端点からの距離d(式(12)参照)と、粒子が存在するエッジEに接続されている頂点V(センサ頂点VS/領域頂点VR)およびあるセンサ頂点VSの距離に基づいて求めることができる。
【0108】
また、2つの粒子フィルタのグラフ構造G上における距離が“2.0”未満である場合には、2つの粒子フィルタが予測する買い物客の現在の位置は同一であるとみなし、これらの2つの粒子フィルタを結合して新たな1つの粒子フィルタを生成する。
【0109】
ここで、図6に示すような、2つの粒子フィルタk1と粒子フィルタk2との間の距離を、式(18)を用いた式(19)で決定する。
【0110】
【数12】
【0111】
式(19)からわかるように、2つの粒子フィルタk1と粒子フィルタk2との間の距離は、基準となる頂点V(センサ頂点VS/領域頂点VR)および粒子フィルタk1の距離と、基準となる頂点V(センサ頂点VS/領域頂点VR)および粒子フィルタk2の距離との和から計算される。ここで、粒子フィルタk1と粒子フィルタk2とを結ぶグラフ構造G上の経路が複数ある場合は、最短の経路上の頂点V(センサ頂点VS/領域頂点VR)を基準とする。
【0112】
なお、2つの粒子フィルタk1と粒子フィルタk2とを結合して新たな粒子フィルタknewを生成する際には、粒子フィルタk1の粒子の集団X(k1)tと粒子フィルタk2の粒子の集団X(k2)tとから尤度が高い順に粒子を選び出して粒子フィルタknewの粒子の集団X(new)tとする。
【0113】
これらのようにして生成された粒子フィルタは、ある一定の回数、たとえば3回以上だけ連続して異なるセンサ頂点VSで得られる“観測”について、一度も“観測”を勝ち取らなかった場合には消滅させる。このように粒子フィルタを消滅させることによって、赤外線センサ10による誤った“観測”を排除することができる。
【0114】
以上に説明したように、本発明の位置推定方法では、複数の粒子フィルタが存在する可能性があるが、複数の粒子フィルタが存在する場合には、先述のように、尤も確からしい買い物客の移動軌跡に対応する粒子フィルタに基づいて買い物客の現在の位置を推定する。
【0115】
つまり、各粒子フィルタが勝ち取った“観測”の履歴、具体的には“観測”に基づく買い物客の空間領域の通過方向の履歴、および“観測”の数が、各粒子フィルタ毎に記録される。そして、“観測”の数がより多く、より一貫性のある通過方向の履歴が記録されている粒子フィルタを尤も確からしい買い物客の移動軌跡に対応する粒子フィルタであるとする。ここで、通過方向の履歴とは、粒子フィルタが勝ち取った“観測”を得たセンサ頂点VSの位置とその“観測”の順序からなる“観測”の位置の変化の記録である。また、より一貫性のある通過方向の履歴とは、“観測”の位置の変化が、グラフ構造G上において“観測”を得たすべてのセンサ頂点VSの位置とその“観測”の順序からなる“観測”の位置の変化とよりよく一致する履歴である。
【0116】
また、2つの粒子フィルタを結合して1つの新たな粒子フィルタを生成する場合には、それぞれの粒子フィルタに対応つけて記録されている買い物客の空間領域の通過方向の履歴と“観測”の数とを1つにまとめる必要がある。この際には、“観測”の数については、より数の多い“観測”の数を、通過方向の履歴については、より一貫性のある通過方向の履歴を、新たな粒子フィルタの“観測”の数、よび通過方向の履歴とする。
【0117】
なお、買い物客の通過方向は、ゲートセンサ12に含まれる一対の赤外線センサ10による買い物客が携帯する赤外線発信機から発せられる赤外線の受信の順序によって知ることができる。
【0118】
このように、より多くの“観測”を勝ち取り、かつ、より一貫性のある通過方向の履歴を有し、尤も確からしい買い物客の移動軌跡に対応する粒子フィルタを“尤も確からしい粒子フィルタ”と呼ぶ。
【0119】
図7は以上に説明した、本発明の位置測定方法を、コンピュータを用いて実現する場合に、当該コンピュータによって実行される処理手順を逐次的に示したフロー図である。このフロー図にしたがって、コンピュータで実行される処理を説明する。図7のフロー図に示す処理を実行するコンピュータは一般的で周知のパーソナルコンピュータなどである。赤外線センサ10で買い物客を検出した旨を示す情報をパーソナルコンピュータに与える方法(図10参照)やパーソナルコンピュータの構成(図11参照)などについては後述する。なお、以下のフロー図に示す処理は適宜に並列に実行してもかまわない。また、このコンピュータの記憶装置には、先述の各粒子フィルタが勝ち取った“観測”の数と、各粒子フィルタが勝ち取った“観測”に基づく通過方向の履歴が記録される。
【0120】
まず、コンピュータのCPUは、ステップS21で、変数“t”を“1”だけインクリメントする。この変数“t”は、コンピュータで本発明の位置測定方法を実行する際の処理単位となる時間をカウントするものであり、コンピュータのCPUは、ステップS21からステップS45の処理を変数“t”が“1”だけカウントされる度に実行する。なお、この変数“t”は、図2のフロー図において示した変数“t”と同じとみなせる。
【0121】
ステップS23では、いずれかの赤外線センサ10(センサ頂点VS)において、“観測”が得られたか否か、つまり、赤外線センサ10が、買い物客が携帯する赤外線発信機から発信された赤外線を検出したか否かを判断する。
【0122】
“観測”が得られなかったと判断すると(ステップS23:NO)、CPUはステップS25で、存在するすべての粒子フィルタを固定モードとし、各粒子フィルタの粒子を最も近くの領域頂点VRの周辺に収束させる。そして、ステップS45に進む。
【0123】
一方、ステップS23で“観測”が得られたと判断すると(ステップS23:YES)、CPUは、次に、ステップS27において、式(18)による演算に基づいて“観測”が得られた赤外線センサ10の位置を示すセンサ頂点VSからの距離が“2.0”より短い粒子フィルタが存在するか否かを判断する。
【0124】
距離が“2.0”より短い粒子フィルタが存在すると判断する(ステップS27:YES)と、ステップS29において、“観測”が得られたセンサ頂点VSからの距離が最も近い粒子フィルタ、つまりステップS23において得られたと判断された“観測”を勝ち取った粒子フィルタを伝搬モードにする。そして、ステップS31において、“観測”を勝ち取らなかったすべての粒子フィルタを固定モードにする。なお、“観測”を勝ち取り、伝搬モードとなった粒子フィルタについては、式(9)ないし式(11)のシステムモデルおよび式(15)の観測モデルを用いて、図2に示したステップS5ないしステップS9の処理の手順が実行される。
【0125】
一方、ステップS27において、“観測”が得られたセンサ頂点VSからの距離が“2.0”より短い粒子フィルタが存在しないと判断すると(ステップS27:NO)、ステップS33において、“観測”が得られたセンサ頂点VSを中心とする新たな粒子フィルタを生成し、ステップS35において、新たに生成した粒子フィルタを伝搬モードにする。
【0126】
ステップS37では、式(19)による演算に基づいて、互いの距離が“2.0”よりも短い粒子フィルタが存在するか否かを判断する。そして、互いの距離が“2.0”よりも短い粒子フィルタが存在すると判断すると(ステップS37:YES)、距離が“2.0”よりも短い複数の粒子フィルタを結合して新たな粒子フィルタを生成する。
【0127】
一方、互いの距離が“2.0”よりも短い粒子フィルタが存在しないと判断すると(ステップS37:NO)、ステップS39をスキップする。
【0128】
次に、ステップS41では、異なるセンサ頂点VSで3回連続して得られる“観測”について、1つの“観測”も勝ち取らなかった、つまり3回連続して“観測”を勝ち取らなかった粒子フィルタが存在するか否かを判断する。
【0129】
3回連続して“観測”を勝ち取らなかった粒子フィルタが存在すると判断すると(ステップS41:YES)、ステップS43において、3回連続して“観測”を勝ち取らなかった粒子フィルタを消滅させる。
【0130】
一方、3回連続して“観測”を勝ち取らなかった粒子フィルタが存在しないと判断すると(ステップS41:NO)、ステップS43をスキップしてステップS45に進む。
【0131】
そして、ステップS45では、“尤も確からしい粒子フィルタ”の粒子の尤度に基づいて、買い物客の現在の位置を推定する。粒子フィルタが1つしか存在しない場合には、その粒子フィルタに基づいて買い物客の現在の位置を推定する。
<実施例>
本発明の位置推定方法の有効性を証明するために以下のような実験を行った。この実験では、後述するような“半開放型環境”を構築し、この“半開放型環境”に2つの赤外線センサ10からなるゲートセンサ12を設置し、“半開放型環境”内に形成された空間領域を移動する赤外線発信機を携帯した人物(この人物が実験の対象ではないが、以下、“被験者”と呼ぶ。)の現在の位置を推定(追跡)する。
【0132】
実験のための“半開放型環境”(以下、“実験環境”と呼ぶ。)は、壁などの遮蔽物がない横7.5m、縦8.8mの空間を、ポールと、そのポール間に張られたビニールテープによって、図8に示すように、空間領域Aないし空間領域Iの9つの部屋や通路に区切ることによって作成した。
【0133】
この実験環境は、観測の単位となる空間領域間AないしIに、赤外線を遮断する壁などによる明確な区切りは存在しないが、ポール間に張られたビニールテープにより、被験者の移動が制限される。
【0134】
そして、被験者が各空間領域AないしI内を移動する際に、必ず通過する空間領域の境界に、合計9台のゲートセンサ(通過方向検知センサ)12を配置した。また、被験者の正しい位置データを得るために、被験者を撮影するビデオカメラ(不図示)をこの実験環境に合計8台だけ配置した。
【0135】
ゲートセンサ12は、図9に示すように構成した。つまり、ゲートセンサ12は、所定のボードを組み立てて作成したアーチ状のゲート枠14、ゲート枠14の天井部分に設けられた一対の赤外線センサ10、および赤外線センサ10から得られた情報を処理するセンサモジュール16からなる。
【0136】
このようなゲートセンサ12は、空間領域の境界に、一方の赤外線センサ10が当該境界に面する一方の空間領域側に位置し、他方の赤外線センサ10が当該境界に面する他方の空間領域側に位置するように配置される。
【0137】
実験環境に設けられた9台のゲートセンサ12のそれぞれを、図10に示すように(図10には紙面の都合上、4つのゲートセンサ12を示している。)、無線通信中継ポイント30を介したIEEE802. 11b規格の無線LANによって、パーソナルコンピュータ40と接続する。
【0138】
実験環境内を移動する被験者は、頭部に小型の赤外線タグ(赤外線発信機)20を装着する。
【0139】
ゲートセンサ12の一方の赤外線センサ10が赤外線タグ20から赤外線を受信することによりタグIDを受け取ると、センサモジュール16は赤外線センサ10からタグIDを受け取り、当該IDタグに、当該IDタグを受信した赤外線センサ10の識別IDとタイムスタンプとを付加し、このタグIDを無線通信中継ポイント30に送信する。無線通信中継ポイント30は、センサモジュール16から送信されたタグIDを中継してパーソナルコンピュータ(位置推定装置)40に送信する。
【0140】
タグIDを受信したパーソナルコンピュータ40は、図2および図7に示した処理手順を実行して、本発明の位置推定方法により、被験者の現在の位置を推定する。パーソナルコンピュータ40はタグIDに付加された、赤外線センサ10の識別IDによって被験者を検出した位置(赤外線センサ10の位置)を特定し、タイムスタンプによって被験者を検出した順序を判断する。
【0141】
パーソナルコンピュータ40は、図11に示すように構成されている。つまり、パーソナルコンピュータ40は、CPU42、メモリ44、HDD(Hard Disc Drive)46、液晶モニタなどの表示装置48、キーボードやマウスなどの入力装置50、およびIEEE 802. 11b規格に対応した無線通信装置52から構成される。
【0142】
パーソナルコンピュータ40のHDD46には、図2および図7に示した処理手順を実行するための位置推定プログラム46a、当該位置推定プログラム46aによって利用されるグラグ構造Gのデータ(グラフ構造データ)46b、および同様に位置推定プログラム46aによって利用される粒子フィルタのシステムモデルや観測モデルを示すデータ(粒子フィルタデータ)46cが記憶されている。そして、位置推定プログラム46aの実行時には、HDD46には、生成された各粒子フィルタに対応した履歴データ(“観測”の回数や通過方向の履歴を示すデータ)46dが記録される。なお、被験者を検出した赤外線センサ10の位置は、当該赤外線センサ10の識別IDとグラフ構造データ46bとに基づいて特定される。つまり、HDD46には、グラフ構造G上のセンサ頂点VSの位置と赤外線センサ10の識別IDとが対応つけて記憶されている。
【0143】
この実験では、実験環境のいたるところ(ビニールテープ、机の上、床など)に、“1”から“27”までの番号が記載された番号札を配置し、被験者に、実験環境に配置された番号札を番号順に探し出し、探し出した番号札を手で触れさせるというタスクを与えた。なお、被験者には番号札の大まかな位置が記載された地図を手がかりとして与えた。本実験の被験者は15人であり、各被験者は、このタスクを2回ずつ実行した。
【0144】
このようなタスクは、ショッピングモール、コンビニエンスストア、図書館などのような“半開放型環境”において、目的の品物を探し出すことを想定している。
【0145】
本発明の位置推定方法の有効性を示すための比較対象として、実験環境において、他の3つの位置推定方法も施行した。他の位置推定方法とは、“最頻反応センサ選択法(距離制約なし)”、“最頻反応センサ選択法(距離制約あり)”、および“単一粒子フィルタ法”である。
【0146】
“最頻反応センサ選択法(距離制約なし)”とは、単位時間内の反応回数が最大である赤外線センサの近傍に人物が存在しているとみなす手法である。
【0147】
“最頻反応センサ選択法(距離制約あり)”とは、“最頻反応センサ選択法”で得られた結果に対して、赤外線センサ10の間を人物が移動するために必要な時間を考慮し、突発的に他の空間領域で誤って生じた“観測”(突発的な観測)を後処理で取り除く手法である。なお、本実験では、人物の歩行速度を1.4m/sとした。
【0148】
“単一粒子フィルタ法”とは、図8に示したセンサ頂点VS、領域頂点VR、およびエッジEからなるグラフ構造G上に、単体の粒子フィルタを適用して被験者の位置推定を行う手法である。
【0149】
図12の表に実験の結果を示す。図9の表において、“正解時間率”とは、図7のフロー図におけるステップS45において時間“t”ごとに行われる、被験者(買い物客)の現在の位置の推定結果の正解率を、全実験時間に占める正解した時間“t”の割合(率)で表したものである。また、“遷移数”とは、各手法において、被験者の位置がある空間領域から別の空間領域に移動したと判断された回数である。
【0150】
図12の表の実験結果によれば、“最頻反応センサ選択法(距離制約なし)”を用いた場合の位置推定制度は、正解時間率が約20%、正解遷移率が約30%、本発明の位置推定方法と比較して低い値となっている。このことから、異なる空間領域に配置された赤外線センサの検出範囲Rが複数の空間領域にまたがっていない従来の環境(遮蔽型環境)を前提とした“最頻反応センサ選択法”では、その前提が成り立たない“半開放型環境”では、正確に被験者の位置の推定を行うことが困難であるといえる。
【0151】
“最頻反応センサ選択法”に、赤外線センサ10間の物理的距離による制約を設けて誤った“観測”を除去する方法を適用した“最頻反応センサ選択法(距離制約あり)”の場合、“最頻反応センサ選択法(距離制約なし)”と比較して、精度が10%ほど向上している。この精度の向上の原因を検討すると、本実験では、横7.5m、縦8.8mという狭い空間に9つの空間領域を設けたため、頻繁に被験者の空間領域の移動が発生したことが原因であると考えられる。
【0152】
つまり、空間領域の境界に設置された赤外線センサ10において、比較的高頻度に“観測”が得られ(空間領域の平均滞留時間は3秒程度)、時間的に連続な“観測”が得られる環境において有用な、センサ間の距離の制約を用いた“最頻反応センサ選択法(距離制約あり)”がより精度を向上することが可能となったと考えられる。
【0153】
しかし、本発明の位置推定方法と比較すると、正解時間率が約10%、正解遷移率は約14%、低い値となっている。したがって、“最頻反応センサ選択法(距離制約あり)”のようにセンサ間の距離の制約により誤った“観測”除去する方法よりも、本発明の位置推定方法のように、センサによる“観測”の順序に基づいて誤った“観測”を除去する方法が有効であることがわかる。
【0154】
“単一粒子フィルタ法”による位置推定の精度は、正解時間率が約24%、正解遷移率にいたっては約43%も本発明の位置推定方法より低い値となっている。その原因として、“半開放型環境”では、空間領域の境界付近において、異なる空間領域に位置する赤外線センサ10上で、長期にわたり誤った“観測”が発生する状況が頻繁に起き、徐々に粒子が誤った“観測”の発生している赤外線センサ10(センサ頂点VS)の方向へ移動してしまうことがあげられる。
【0155】
さらに、粒子フィルタの粒子は誤った“観測”が生じた赤外線センサ10が取り付けられた空間領域には即座に移動できず、その間にある空間領域やエッジE上を移動する。そのため、粒子フィルタの粒子が推定した被験者の移動の軌跡(通過方向の履歴)と、実際の被験者の移動の軌跡とでは大きく異なってしまうことが、正解遷移率を低下させていると考えられる。
【0156】
また、一度、誤った“観測”が得られた赤外線センサ10(センサ頂点VS)に粒子が集中すると、その後に正しい“観測”が得られたときに、その正しい“観測”が得られたセンサ頂点VSに粒子が戻るまでに時間がかかるため、さらに位置推定の精度を下げていると考えられる。
【0157】
以上の原因により、“単一粒子フィルタ法”では、“半開放型環境”において、正確に被験者の位置の推定を行うことは困難であり、実験を行った手法の中で、一番精度が低い結果となっていると考えられる。
【0158】
一方、本発明の位置推定方法では、正解時間率、正解遷移率ともに、85%以上の精度が得られており、“半開放型環境”において高い精度で被験者の位置の推定を行えることが証明された。
【0159】
本発明の位置推定方法は、“最頻反応センサ選択法(距離制約あり)”のように、時間情報に基づいて誤った“観測”の除去を行うのではなく、複数の粒子フィルタを用いて、赤外線センサ10の“観測”の順序に基づいて、誤った“観測”を検出し、修正する。
【0160】
そのため、被験者の空間領域内における滞留により誤った“観測”の前後で長期にわたり正しい“観測”が得られなかった場合においても頑健にその誤った“観測”を除去することが可能となり、このように高い精度が得られたと考えられる。
【0161】
また、赤外線センサ10の検出もれが生じた場合においても、離れた空間領域で得られた赤外線センサ10による正しい“観測”に対して、即座にそのセンサ頂点VSを中心として粒子フィルタを生成する。そのため、その“観測”以降の被験者の位置の推定(追跡)が正確に行えることが本発明の位置推定方法の精度をさらに向上させていると考えられる。
【0162】
なお、本発明の位置推定方法は、上述の“半開放型環境”だけでなく、空間領域が赤外線を遮断する壁などで区切られた一般的な建物の内部などの“遮蔽型空間”にも適用できることは言うまでもない。そして、たとえば、本発明の位置推定方法の適用の舞台を病院内などに設定し、病院内で働く看護師の位置を推定するようにすれば、看護師の現在の位置に基づいて、看護師が現在に従事している看護業務などを予測することが可能となる。
【0163】
また、以上のテキストによる記述においては、使用しているエディタなどの都合上、図13に示す表のように、文字の置き換えを行った。
【図面の簡単な説明】
【0164】
【図1】この発明の位置推定方法により位置が推定される買い物客が移動する空間領域が存在する環境の一例を示す図解図である。
【図2】本発明の位置推定方法に用いられる粒子フィルタのアルゴリズムを示すフロー図である。
【図3】エッジ遷移率を説明する図解図である。
【図4】新規な粒子フィルタの生成を説明する図解図である。
【図5】頂点(センサ頂点/領域頂点)と粒子フィルタとの距離について説明する図解図である。
【図6】2つの粒子フィルタの間の距離について説明する図解図である。
【図7】本発明の位置推定方法を実現するコンピュータによって実行される処理の手順の一例を示すフロー図である。
【図8】本発明の位置推定方法の有効性を証明する実験における半開放型環境を説明する図解図である。
【図9】本発明の位置推定方法の有効性を証明する実験に用いられるゲートセンサの構成の一例を示す図解図である。
【図10】本発明の位置推定方法の有効性を証明する実験におけるネットワーク環境の一例を示す図解図である。
【図11】本発明の位置推定方法を実現する位置推定装置としてのパーソナルコンピュータの構成の一例を示すブロック図である。
【図12】本発明の位置推定方法の有効性を証明する実験の結果の表を示す図解図である。
【図13】文字の置き換えを説明する図解図である。
【符号の説明】
【0165】
10 …赤外線センサ
12 …ゲートセンサ
20 …赤外線タグ(赤外線発信機)
30 …無線中継ポイント
40 …パーソナルコンピュータ(位置推定装置)
100 …陳列棚
V …頂点(センサ頂点/領域頂点)
VS …センサ頂点
VR …領域頂点
k …粒子フィルタ
k1 …粒子フィルタ
k2 …粒子フィルタ
knew …粒子フィルタ
R …検出範囲
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間領域の境界に設けられ当該境界を通過する対象を検出するセンサの位置を示すセンサ頂点、前記空間領域の位置を示す領域頂点、および前記領域頂点と当該領域頂点が示す前記空間領域の境界に設けられたセンサを示す前記センサ頂点とを結ぶエッジからなるグラフ構造上に粒子の分布が制限され、前記粒子の確率分布に基づく前記対象の位置の予測と前記センサによる前記対象の検出に基づく前記予測の修正とを繰り返す1または2以上の粒子フィルタを用いて、前記空間領域を移動する前記対象の位置を推定する位置推定方法であって、
前記センサにおいて前記対象が検出されたとき、当該センサを示す前記センサ頂点と前記グラフ構造上において最も距離が近い前記粒子フィルタに属する粒子の確立分布に基づく前記対象の位置の予測を前記検出に基づいて修正し、当該粒子フィルタに属する前記粒子を前記グラフ構造上に伝搬させる伝搬ステップ(A)、および
前記センサにおいて前記対象が検出されたとき、当該センサを示す前記センサ頂点と前記グラフ構造上において最も距離が近い前記粒子フィルタ以外の粒子フィルタに属する粒子を前記グラフ構造上において当該粒子フィルタに最も近い領域頂点の周辺に収束させる第1固定ステップ(B)を含む、位置推定方法。
【請求項2】
いずれの前記センサにおいても前記対象が検出されないとき、すべての前記粒子フィルタについて各粒子フィルタに属する粒子を前記グラフ構造上において当該粒子フィルタに最も近い領域頂点の周辺に収束させる第2固定ステップ(C)をさらに含む、請求項1記載の位置推定方法。
【請求項3】
前記グラフ構造上において、前記粒子フィルタの位置から他のセンサによって検出されることなく前記対象が移動不可能な位置に存在する前記センサ頂点が示す前記センサが前記対象を検出した場合に、前記粒子の確率分布が当該センサ頂点を中心とする新規の前記粒子フィルタを生成する生成ステップ(D)、
異なる前記センサによる連続した所定回数の前記対象の検出のうちのいずれの前記検出によっても前記粒子の確立分布に基づく前記対象の位置の予測の修正が行われないとき、当該粒子フィルタを消滅させる消滅ステップ(E)、
2以上の前記粒子フィルタがそれぞれ予測する前記対象の位置が同じであるとみなせるとき、当該2以上の前記粒子フィルタを結合する結合ステップ(F)、および
1または2以上の前記粒子フィルタから前記対象の位置の推定に利用する前記粒子フィルタを選択する選択ステップ(G)をさらに含む、請求項1または2記載の位置推定方法。
【請求項4】
前記選択ステップ(G)では、属する粒子の確立分布に基づく前記予測の修正に寄与した前記検出の数がより多く、属する粒子の確立分布に基づく前記予測の修正に寄与した前記検出が行われた前記センサを示すセンサ頂点の位置の変化の履歴が、前記検出を行ったすべての前記センサのそれぞれを示すセンサ頂点の位置の変化の履歴とよりよく一致する粒子フィルタを選択する、請求項3記載の位置推定方法。
【請求項5】
空間領域の境界に設けられ当該境界を通過する対象を検出するセンサの位置を示すセンサ頂点、前記空間領域の位置を示す領域頂点、および前記領域頂点と当該領域頂点が示す前記空間領域の境界に設けられたセンサを示す前記センサ頂点とを結ぶエッジからなるグラフ構造上に粒子の分布が制限され、前記粒子の確率分布に基づく前記対象の位置の予測と前記センサによる前記対象の検出に基づく前記予測の修正とを繰り返す1または2以上の粒子フィルタを用いて、前記空間領域を移動する前記対象の位置を推定する位置推定装置であって、
前記センサにおいて前記対象が検出されたとき、当該センサを示す前記センサ頂点と前記グラフ構造上において最も距離が近い前記粒子フィルタに属する粒子の確立分布に基づく前記対象の位置の予測を前記検出に基づいて修正し、当該粒子フィルタに属する前記粒子を前記グラフ構造上に伝搬させる伝搬手段、および
前記センサにおいて前記対象が検出されたとき、当該センサを示す前記センサ頂点と前記グラフ構造上において最も距離が近い前記粒子フィルタ以外の粒子フィルタに属する粒子を前記グラフ構造上において当該粒子フィルタに最も近い領域頂点の周辺に収束させる第1固定手段を備える、位置推定装置。
【請求項6】
いずれの前記センサにおいても前記対象が検出されないとき、すべての前記粒子フィルタについて各粒子フィルタに属する粒子を前記グラフ構造上において当該粒子フィルタに最も近い領域頂点の周辺に収束させる第2固定手段をさらに備える、請求項5記載の位置推定装置。
【請求項7】
前記グラフ構造上において、前記粒子フィルタの位置から他のセンサによって検出されることなく前記対象が移動不可能な位置に存在する前記センサ頂点が示す前記センサが前記対象を検出した場合に、前記粒子の確率分布が当該センサ頂点を中心とする新規の前記粒子フィルタを生成する生成手段、
異なる前記センサによる連続した所定回数の前記対象の検出のうちのいずれの前記検出によっても前記粒子の確立分布に基づく前記対象の位置の予測の修正が行われないとき、当該粒子フィルタを消滅させる消滅手段、
2以上の前記粒子フィルタがそれぞれ予測する前記対象の位置が同じであるとみなせるとき、当該2以上の前記粒子フィルタを結合する結合手段、および
1または2以上の前記粒子フィルタから前記対象の位置の推定に利用する前記粒子フィルタを選択する選択手段をさらに備える、請求項5または6記載の位置推定装置。
【請求項8】
前記選択手段は、属する粒子の確立分布に基づく前記予測の修正に寄与した前記検出の数がより多く、属する粒子の確立分布に基づく前記予測の修正に寄与した前記検出が行われた前記センサを示すセンサ頂点の位置の変化の履歴が、前記検出を行ったすべての前記センサのそれぞれを示すセンサ頂点の位置の変化の履歴とよりよく一致する粒子フィルタを選択する、請求項7記載の位置推定装置。
【請求項1】
空間領域の境界に設けられ当該境界を通過する対象を検出するセンサの位置を示すセンサ頂点、前記空間領域の位置を示す領域頂点、および前記領域頂点と当該領域頂点が示す前記空間領域の境界に設けられたセンサを示す前記センサ頂点とを結ぶエッジからなるグラフ構造上に粒子の分布が制限され、前記粒子の確率分布に基づく前記対象の位置の予測と前記センサによる前記対象の検出に基づく前記予測の修正とを繰り返す1または2以上の粒子フィルタを用いて、前記空間領域を移動する前記対象の位置を推定する位置推定方法であって、
前記センサにおいて前記対象が検出されたとき、当該センサを示す前記センサ頂点と前記グラフ構造上において最も距離が近い前記粒子フィルタに属する粒子の確立分布に基づく前記対象の位置の予測を前記検出に基づいて修正し、当該粒子フィルタに属する前記粒子を前記グラフ構造上に伝搬させる伝搬ステップ(A)、および
前記センサにおいて前記対象が検出されたとき、当該センサを示す前記センサ頂点と前記グラフ構造上において最も距離が近い前記粒子フィルタ以外の粒子フィルタに属する粒子を前記グラフ構造上において当該粒子フィルタに最も近い領域頂点の周辺に収束させる第1固定ステップ(B)を含む、位置推定方法。
【請求項2】
いずれの前記センサにおいても前記対象が検出されないとき、すべての前記粒子フィルタについて各粒子フィルタに属する粒子を前記グラフ構造上において当該粒子フィルタに最も近い領域頂点の周辺に収束させる第2固定ステップ(C)をさらに含む、請求項1記載の位置推定方法。
【請求項3】
前記グラフ構造上において、前記粒子フィルタの位置から他のセンサによって検出されることなく前記対象が移動不可能な位置に存在する前記センサ頂点が示す前記センサが前記対象を検出した場合に、前記粒子の確率分布が当該センサ頂点を中心とする新規の前記粒子フィルタを生成する生成ステップ(D)、
異なる前記センサによる連続した所定回数の前記対象の検出のうちのいずれの前記検出によっても前記粒子の確立分布に基づく前記対象の位置の予測の修正が行われないとき、当該粒子フィルタを消滅させる消滅ステップ(E)、
2以上の前記粒子フィルタがそれぞれ予測する前記対象の位置が同じであるとみなせるとき、当該2以上の前記粒子フィルタを結合する結合ステップ(F)、および
1または2以上の前記粒子フィルタから前記対象の位置の推定に利用する前記粒子フィルタを選択する選択ステップ(G)をさらに含む、請求項1または2記載の位置推定方法。
【請求項4】
前記選択ステップ(G)では、属する粒子の確立分布に基づく前記予測の修正に寄与した前記検出の数がより多く、属する粒子の確立分布に基づく前記予測の修正に寄与した前記検出が行われた前記センサを示すセンサ頂点の位置の変化の履歴が、前記検出を行ったすべての前記センサのそれぞれを示すセンサ頂点の位置の変化の履歴とよりよく一致する粒子フィルタを選択する、請求項3記載の位置推定方法。
【請求項5】
空間領域の境界に設けられ当該境界を通過する対象を検出するセンサの位置を示すセンサ頂点、前記空間領域の位置を示す領域頂点、および前記領域頂点と当該領域頂点が示す前記空間領域の境界に設けられたセンサを示す前記センサ頂点とを結ぶエッジからなるグラフ構造上に粒子の分布が制限され、前記粒子の確率分布に基づく前記対象の位置の予測と前記センサによる前記対象の検出に基づく前記予測の修正とを繰り返す1または2以上の粒子フィルタを用いて、前記空間領域を移動する前記対象の位置を推定する位置推定装置であって、
前記センサにおいて前記対象が検出されたとき、当該センサを示す前記センサ頂点と前記グラフ構造上において最も距離が近い前記粒子フィルタに属する粒子の確立分布に基づく前記対象の位置の予測を前記検出に基づいて修正し、当該粒子フィルタに属する前記粒子を前記グラフ構造上に伝搬させる伝搬手段、および
前記センサにおいて前記対象が検出されたとき、当該センサを示す前記センサ頂点と前記グラフ構造上において最も距離が近い前記粒子フィルタ以外の粒子フィルタに属する粒子を前記グラフ構造上において当該粒子フィルタに最も近い領域頂点の周辺に収束させる第1固定手段を備える、位置推定装置。
【請求項6】
いずれの前記センサにおいても前記対象が検出されないとき、すべての前記粒子フィルタについて各粒子フィルタに属する粒子を前記グラフ構造上において当該粒子フィルタに最も近い領域頂点の周辺に収束させる第2固定手段をさらに備える、請求項5記載の位置推定装置。
【請求項7】
前記グラフ構造上において、前記粒子フィルタの位置から他のセンサによって検出されることなく前記対象が移動不可能な位置に存在する前記センサ頂点が示す前記センサが前記対象を検出した場合に、前記粒子の確率分布が当該センサ頂点を中心とする新規の前記粒子フィルタを生成する生成手段、
異なる前記センサによる連続した所定回数の前記対象の検出のうちのいずれの前記検出によっても前記粒子の確立分布に基づく前記対象の位置の予測の修正が行われないとき、当該粒子フィルタを消滅させる消滅手段、
2以上の前記粒子フィルタがそれぞれ予測する前記対象の位置が同じであるとみなせるとき、当該2以上の前記粒子フィルタを結合する結合手段、および
1または2以上の前記粒子フィルタから前記対象の位置の推定に利用する前記粒子フィルタを選択する選択手段をさらに備える、請求項5または6記載の位置推定装置。
【請求項8】
前記選択手段は、属する粒子の確立分布に基づく前記予測の修正に寄与した前記検出の数がより多く、属する粒子の確立分布に基づく前記予測の修正に寄与した前記検出が行われた前記センサを示すセンサ頂点の位置の変化の履歴が、前記検出を行ったすべての前記センサのそれぞれを示すセンサ頂点の位置の変化の履歴とよりよく一致する粒子フィルタを選択する、請求項7記載の位置推定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−19669(P2010−19669A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−179949(P2008−179949)
【出願日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人電子情報通信学会「電子情報通信学会技術研究報告 信学技報 Vol.108 No.45」2008年5月15日発行 刊行物等 「大阪工業大学情報科学部2007年度修士学位論文公聴会」大阪工業大学主催 2008年2月12日開催
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度独立行政法人情報通信研究機構「民間基盤技術研究促進制度/日常行動・状況理解に基づく知識共有システムの研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(393031586)株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (905)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人電子情報通信学会「電子情報通信学会技術研究報告 信学技報 Vol.108 No.45」2008年5月15日発行 刊行物等 「大阪工業大学情報科学部2007年度修士学位論文公聴会」大阪工業大学主催 2008年2月12日開催
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度独立行政法人情報通信研究機構「民間基盤技術研究促進制度/日常行動・状況理解に基づく知識共有システムの研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(393031586)株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (905)
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