説明

位置決めピン打ち込み具

【課題】 位置決めピンの打ち込み作業を迅速化することができるピン打ち込み具を提供することを課題とする。
【解決手段】 図(a)において、位置決めピン25Aが、ピン排出部13に到達したら回転板20を止める。位置決めピン25Aは下傾面44の押出し作用でLだけ、回転板20から突出させる。ピン受け板24はごく薄い金属板であるため、邪魔にならない。したがって、作業者は位置決めピン25Aの先端(下端)を目視しながら、嵌合穴39に合わせることができる。(b)において、エアハンマー33を作動させ、ロッド36で位置決めピン25Aを嵌合穴39に打ち込む。
【効果】 位置決めピンの先端が露出しているため、嵌合穴へ容易に位置決めピンの先端を臨ませることができる。したがって、位置決めピンの打ち込みを迅速に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置決めピン打ち込み具の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
図9は位置決めピンの使用例を説明する図であり、カムシャフト101、102の支持構造として、例えばOHC(オーバーヘッドカムシャフト)エンジンでは、シリンダヘッド103側に半円筒状の受け面104・・・(・・・は複数を示す。以下同様)を備える下部軸受部105・・・を設け、受け面104・・・にカムシャフト101、102を載せ、ベアリングキャップ(カムシャフトホルダとも言う)106・・・を被せてボルト107・・・で固定する構造を採用する。
【0003】
なお、カムシャフト101、102を取付ける前に、1個の受け面104に1個のベアリングキャップ106をセットした状態で、ベアリング穴の仕上げ加工を行う。この後に、ベアリングキャップ106を外して、カムシャフト101又は102を受け面104に載せ、再度、ベアリングキャップ106を取付ける。
【0004】
このときに、ベアリングキャップ106が受け面104に対してずれた状態で取付けるとカムシャフト101又は102の作動が不安定になる。このような不都合を回避するために、ノックピン、スリットピンに代表される位置決めピン108・・・をベアリング穴の仕上げ加工前に、下部軸受部105・・・とベアリングキャップ106・・・との間に介在させる。すなわち、位置決めピン108・・・の下半部を下部軸受部105・・・に嵌合し、位置決めピン108・・・の上半部をベアリングキャップ106・・・に嵌合する。
【0005】
位置決めピン108、108で下部軸受部105とベアリングキャップ106とを正確に位置決めすることができるため、カムシャフト101、102の円滑な作動が維持できる。
【0006】
このような重要部品である位置決めピン108・・・は、人手で下部軸受部105・・・側のピン穴に軽く挿入し、次にエアハンマーで圧入することで、従来は、取付けられてきた。
しかし、位置決めピン108・・・はエンジン1基につき、数十本になることが珍しくないため、位置決めピン108・・・の取付けに時間が掛かり、生産性向上の妨げになっていた。
【0007】
そこで、自動ピン打ち装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平7−68429号公報(図2)
【0008】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図10は従来の技術の基本構成を説明する図であり、Wはワーク、HはワークWに開けたワーク穴、Pはピンである。ピンPをワーク穴Hに打ち込むピン打ち装置110では、ワークガイド111でワークWを案内し、ワーク搬送シリンダ112でワークWを図面表裏方向へ送る。ワーク穴Hが所定の位置に達したら、ワーククランプ113でワークWを拘束する。そして、ロータリアクチュエータ114でピンPをワーク穴Hに臨ませる。次に、打ち込みシリンダ115を作動させてピンPをワーク穴Hに打ち込む。
【0009】
ピン打ち装置110は自動機械であるため、無人化が可能であり、生産性の向上が期待できる。しかし、シリンダヘッドの動弁室のように、狭いエリアに数十本の位置決めピンを打ち込むには大型過ぎる。そこで、より簡便なピン打ち機が求められる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は位置決めピンの打ち込み作業を迅速化することができ且つ簡便な位置決めピン打ち込み具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る発明は、治具本体にピン導入部とピン排出部とを設定すると共に回転板を回転可能に取付け、この回転板に位置決めピンを収納するポケットを設け、このポケットへピン導入部で位置決めピンを導入し、回転板を所定角度旋回させてポケットをピン排出部へ臨ませ、位置決めピンをピン押出し機構で押出す形式の位置決めピン打ち込み具であって、前記治具本体側に、前記回転板の旋回に追従して位置決めピンを押し下げるカムを設けたことを特徴とする。
【0012】
請求項2に係る発明では、ポケットは、U字ポケットであり、U字ポケットの開口をバネ板で塞ぎ、このバネ板でポケット内の位置決めピンを押さえるようにしたことを特徴とする。
【0013】
請求項3に係る発明は、治具本体に、2箇所のピン導入部と2箇所のピン排出部とを設定し、回転板に2箇所のポケットを設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明では、カムで位置決めピンを押し下げるため、位置決めピンの先端を回転板から露出させることができる。位置決めピンの先端が露出しているため、嵌合穴へ容易に位置決めピンの先端を臨ませることができる。したがって、位置決めピンの打ち込み作業を迅速に行うことができる。
【0015】
加えて、位置決めピン打ち込み具は治具本体と回転板とピン押出し機構とで構成するため、治具は小型化及び軽量化が可能である。
したがって、請求項1によれば、位置決めピンの打ち込み作業を迅速化することができ且つ簡便な位置決めピン打ち込み具を提供することができる。
【0016】
請求項2に係る発明では、ポケットは、U字ポケットであり、U字ポケットの開口をバネ板で塞ぎ、このバネ板でポケット内の位置決めピンを押さえるようにした。
旋回中に位置決めピンが脱落しないようにすることは必須である。仮に磁力で落下を防止すると、位置決めピンが磁化され、微細な鉄粉を吸着するなどの不具合が生じる。
この点、請求項2は、バネ板で位置決めピンを押さえるため、位置決めピンが磁化する心配はない。
【0017】
また、仮にポケットを丸穴にした場合にはバネ板の取付け構造が複雑になるが、本発明ではポケットをU字ポケットにし、この開口をバネ板で塞ぐ構造を採用したので、バネ板は簡単に回転板に取付けることができ、位置決めピン打ち込み具のコストを下げることができる。
【0018】
請求項3に係る発明は、治具本体に2箇所のピン導入部と2箇所のピン排出部とを設定し、回転板に2箇所のポケットを設けたことを特徴とする。
左右2本の位置決めピンを同時に打ち込むことができ、ピン打ち作業量を倍増することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
図1は本発明に係る位置決めピン打ち込み具の平面図であり、位置決めピン打ち込み具10は、ハンドル41を握ることで操作することのできるハンドツールであり、治具本体11に2箇所のピン導入部12、12と2箇所のピン排出部13、13とを設定したことを特徴とする。
【0020】
図2は図1の2−2線断面図であり、位置決めピン打ち込み具10は、筒状の治具本体11にピン案内筒15を縦向きに挿入し、治具本体11の下部にフランジ16及びカム17を備える固定部材18を取付け、この固定部材18の下に回転板20を配置し、この回転板20をリテーナ21で受け、このリテーナ21は固定ボルト22で固定部材18に固定する。これで回転板20は水平回転可能に支持される。
【0021】
リテーナ21に薄い金属板で構成したピン受け板24を設ける。このピン受け板24は位置決めピンを受ける部分と受けない部分(切欠部)とを有するが、その詳細は後述する。
【0022】
また、ピン案内筒15には多数個の位置決めピン25・・・(ただし、以下の説明の便利のために最下位置の位置決めピンを25A、その次の位置決めピンを25Bと呼ぶことにする。)を直列に収納することができる。位置決めピン25・・・を自重で落下させることは差し支えないが、重り26を備えた押し棒27で押すことで、位置決めピン25・・・の落下を促すことが望ましい。
【0023】
図3は図1の3−3線断面図であり、ピン押出し機構30は、治具本体11の上部にホルダ31、32を介して取付けるエアハンマー33と、このエアハンマー33の先端(下端)に当てる二股部材34と、この二股部材34をエアハンマー33へ押付ける(押上げる)スプリング35と、二股部材34の先に設けるロッド36、36とからなる。
【0024】
構成要素のうちで、回転板20だけは移動体であり、回転板20に設けたポケット37、37がピン排出部13、13に合致したときには、位置決めピン25A、25Aの真上にロッド36、36が臨む。また、位置決めピン25A、25Aは後述するカムの作用で寸法Lだけ回転板20から露出するため、作業員は位置決めピン25A、25Aを目視で確認することができる。そのため、ワーク38に設けた嵌合穴39、39に容易に位置決めピン25A、25Aの先端を合わせることができる。ワーク38は、例えばシリンダヘッドの下部軸受部である。
【0025】
そして、エアハンマー33のハンドル41に付属するトリガー42を絞れば、エアハンマー33が作動し、二股部材34及びロッド36、36を振動させながら前進させ、位置決めピン25A、25Aを嵌合穴39、39に打ち込むことができる。エアハンマー33は空気圧で作動するため、油圧に比較して押し作用は穏やかであり、位置決めピン25Aや嵌合穴39を傷つける心配はない。
【0026】
なお、ピン押出し機構30の駆動源には、エアハンマー33が好適ではあるが、エアシリンダとスプリングを組み合わせたもの、油圧シリンダとスプリングを組み合わせたもの、機械式シリンダにバイブレータを組み合わせたものであってもよく、種類を格別に限定するものではない。
【0027】
図4は図2の4−4線断面図である。
(a)において、回転板20に取っ手43を取付け、この取っ手43を操作することで、リテーナ21を中心にして回転板20を旋回させることができる。
【0028】
なお、ポケット37は、位置決めピン25Aの外径より小さな深さのU字ポケットであり、位置決めピン25Aに一部をポケット37からごく僅かだけ突出させる。そして、ポケット37の開口を覆うために、回転板20の外周にバネ板23をビス28、28で取付ける。バネ板23でポケット37内の位置決めピン25Aを押さえることができる。
【0029】
(b)は(a)のb−b線断面図であり、ポケット37を塞ぐ、バネ板23は上部を外方へ傾斜させた傾斜ガイド部29とする。この傾斜ガイド部29で想像線で示す位置決めピン25Aを円滑にポケット37へ案内することができる。
【0030】
図5は本発明に係る固定部材の平面図であり、固定部材18のフランジ16の下面にカム17、17を設けたことを示す。
図6は図5の6−6線断面図(ただし展開図)であり、カム17はフランジ16から下へ傾斜する下傾面44と頂面45とからなり、この頂面45は一般面46と平行である。そして、頂面45はロッド36、すなわちピン排出部13に合致し、一般面46はピン導入部12に合致させる。加えて、ピン受け板24の切欠部47をカム17に臨ませる。
【0031】
以上に述べたカムの作用を次に説明する。
図7はピン導入部における作用説明図である。
(a)において、回転板20を矢印Aのごとく移動する。すなわち、ポケット37がピン導入部12に向かわせる。このときに、ピン導入部12で待機する位置決めピン25Aは回転板20の上面で下降が阻止される。
【0032】
(b)において、ポケット37がピン導入部12に合致したので、一番下の位置決めピン25Aがポケット37に落下する。この位置決めピン25Aはピン受け板24で受けられて、それ以上は落下しない。そして、回転板20を矢印Bのごとく旋回させる。この旋回の途中で位置決めピン25Aは切欠部47の範囲に入り、下降動作が可能となる。
【0033】
(c)において、位置決めピン25Aはカム17の下傾面44の押し下げ作用により矢印Cのごとく徐々に下がる。この際、図4に示すバネ板23の押付け作用で位置決めピン25Aの落下を阻止する。一方、次の位置決めピン25Bは落下するが回転板20に載って止まる。
【0034】
図8はピン排出部における作用説明図である。
(a)において、位置決めピン25Aが、ピン排出部13に到達したら回転板20を止める。またはストッパに当てることで自動的に止まるようにする。
【0035】
位置決めピン25Aは、下傾面44の押出し作用でLだけ、回転板20から突出させる。ピン受け板24はごく薄い金属板であるため、邪魔にならない。したがって、作業者は位置決めピン25Aの先端(下端)を目視しながら、嵌合穴39に合わせることができる。
【0036】
(b)において、エアハンマー33を作動させ、ロッド36で位置決めピン25Aを嵌合穴39に打ち込む。エアハンマー33を止めると、ロッド36が待機位置まで自動的に上昇するため、図7(a)に続けることができる。したがって、回転板20を往復旋回させること及びエアハンマー33を作動させることで、位置決めピン25A、25B・・・を次々と嵌合穴39に打ち込むことができる。
【0037】
尚、実施例では位置決めピン打ち込み具のハンドリング及び回転板の旋回は人手で行ったが、回転板をアクチュエータで自動旋回させることや位置決めピン打ち込み具をロボットアームで移動することは差し支えない。
【0038】
また、請求項1ではポケットを丸穴とし、丸穴の壁に板バネ片を突出させることやクリック機構を用いることで、位置決めピンをポケットに軽く掛止めすることもできる。
請求項1、2ではピン導入部及びピン排出部の数は任意である。
【0039】
さらには、本発明の位置決めピン打ち込み具は、シリンダヘッドに多数本のノックピンもしくはスリットピンを打ち込む作業に好適であるが、用途を限定するものではなく、一般機械、産業機械を対象とした位置決めピン打ち作業に使用することは差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の位置決めピン打ち込み具は、シリンダヘッドに多数本のノックピンもしくはスリットピンを打ち込む作業に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係る位置決めピン打ち込み具の平面図である。
【図2】図1の2−2線断面図である。
【図3】図1の3−3線断面図である。
【図4】図2の4−4線断面図である。
【図5】本発明に係る固定部材の平面図である。
【図6】図5の6−6線断面図である。
【図7】ピン導入部における作用説明図である。
【図8】ピン排出部における作用説明図である。
【図9】位置決めピンの使用例を説明する図である。
【図10】従来の技術の基本構成を説明する図である。
【符号の説明】
【0042】
10…位置決めピン打ち込み具、11…治具本体、12…ピン導入部、13…ピン排出部、17…カム、20…回転板、23…バネ板、25、25A、25B…位置決めピン、30…ピン押出し機構、37…ポケット、L…位置決めピンの突出代。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治具本体にピン導入部とピン排出部とを設定すると共に回転板を回転可能に取付け、この回転板に位置決めピンを収納するポケットを設け、このポケットへピン導入部で位置決めピンを導入し、回転板を所定角度旋回させてポケットをピン排出部へ臨ませ、位置決めピンをピン押出し機構で押出す形式の位置決めピン打ち込み具であって、
前記治具本体側に、前記回転板の旋回に追従して位置決めピンを押し下げるカムを設けたことを特徴とする位置決めピン打ち込み具。
【請求項2】
前記ポケットは、U字ポケットであり、U字ポケットの開口をバネ板で塞ぎ、このバネ板でポケット内の位置決めピンを押さえるようにしたことを特徴とする請求項1記載の位置決めピン打ち込み具。
【請求項3】
前記治具本体に、2箇所のピン導入部と2箇所のピン排出部とを設定し、前記回転板に2箇所のポケットを設けたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の位置決めピン打ち込み具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate