説明

低カフェイン茶ポリフェノールの製造法

【構成】 茶抽出物を水または含水有機溶媒中に溶解または懸濁し、これをアルカリ性条件下、合成吸着剤と接触させてカフェインを吸着除去することを特徴とする低カフェイン茶ポリフェノールの製造法。
【効果】 本発明によれば、簡便、且つ安全な方法でカフェイン含有量の少ない茶ポリフェノールを効率よく製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は茶ポリフェノールの製造法に関し、詳しくは低カフェイン茶ポリフェノールの製造法に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】茶ポリフェノールは抗酸化作用(特開昭59−219384号公報、特開平1−268683号公報)、抗菌・静菌作用(特開平2−276562号公報、特開平3−246227号公報)、抗毒素効果(特開平2−304079号公報、特開平2−306915号公報)などのほか、生体機能を調節する作用としてコレステロール上昇抑制作用(特開昭60−156614号公報)、血圧上昇抑制作用(特開昭63−214183号公報)、血糖上昇抑制作用(特開平4−253918号公報)を有しており、食品をはじめ医薬農薬等の各種分野で利用が期待されている。
【0003】茶ポリフェノールは種々の方法で製造されており、一般的には茶葉から熱水や有機溶媒で抽出されることが多く、この場合茶抽出物の中に多量のカフェインが含まれてしまうことが避けられない。カフェインは中枢神経興奮作用、強心作用、利尿作用等の生理活性を有しており、頭痛、感冒等の医薬品に汎用されている。ところが、摂取量や個人差によってはカフェインのもつ強い生理活性作用により、めまい、不眠、心悸亢進、悪心等が起こり、カフェイン過敏症の人々にとっては飲食物中のカフェイン含有量が重大な問題となる。また、カフェインには上記急性中毒症のほか、動脈硬化や心筋梗塞の原因となる血中コレステロール上昇作用があるとの疑いもあり、現在研究が行われている(加藤、吉田(1981).Nutr.Rep.Inter.,23:825.)。加えて、カフェイン摂取によりカルシウム分の体外排泄量が増加し、カルシウム尿症になるとの報告もある(Heaney,R.P. and Recker,R.R.(1982). J.Lab.Clin.Med.,99:46)。このような理由から茶抽出物に於いてもカフェイン含有量の少ないものが望まれている。
【0004】従来より行われているカフェイン除去の代表的な方法には、塩素系溶媒により抽出除去する方法(特公平2−22755号公報、特公平2−12474号公報)、超臨界二酸化炭素により抽出除去する方法(特開昭48−4692号公報、特開平1−289448号公報)、活性炭等により吸着除去する方法(特公平1−45345号公報)、酸水溶液により抽出除去する方法(特願平5−344744)などがある。
【0005】しかしながら、これらの方法のうち塩素系溶媒を用いる方法は、含塩素溶媒を使用する点で安全上及び残留性の問題がある上、環境上も好ましくなく、超臨界二酸化炭素により抽出除去する方法は、大規模な設備を要すため、イニシアルコストが高く、且つ生産性が低いという問題がある。活性炭等により吸着除去する方法は、除去すべきカフェインとともに茶ポリフェノールも吸着され、茶ポリフェノールの損失が大きいという欠点がある。また、酸水溶液により抽出除去する方法は、酢酸エチル等の有機溶媒を必要とする上、茶ポリフェノールの回収率が低いという問題がある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、茶抽出物中のカフェインを簡便で効率的、且つ安全な手段で減少させる方法を見出し、本発明を完成した。
【0007】すなわち、本発明は茶抽出物を水または含水有機溶媒中に溶解または懸濁し、これをアルカリ性条件下、合成吸着剤と接触させてカフェインを吸着除去することを特徴とする低カフェイン茶ポリフェノールの製造法に関する。
【0008】本発明の対象とされる茶とは発酵、不発酵の別を問わず、緑茶、紅茶、ウーロン茶、プアール茶等の茶を示し、その種別を問わない。また、これから抽出して得た茶抽出物とは、例えば常法による茶の熱水抽出物、有機溶媒抽出物のほか、これら抽出物の各種有機溶媒処理物、膜処理物、樹脂や吸着剤による処理物等がある。これら抽出物中のカフェイン含有量は通常、5〜15%程度である。ここで、茶の熱水抽出とは、茶葉重量に対し数倍量の熱水や沸騰水を用いて茶葉を浸漬、抽出する方法であり、有機溶媒抽出とは、茶葉重量に対し数倍量の有機溶媒、例えばアセトニトリル、メタノール、エタノール、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の茶ポリフェノール可溶性有機溶媒若しくはこれらの含水溶媒や混合溶媒を用いて茶葉を浸漬、抽出する方法である。
【0009】また、有機溶媒処理物とは、上記熱水抽出物や有機溶媒抽出物を、さらに前記の如き有機溶媒で再抽出したものや、クロロホルム、ジクロロメタン、ヘキサン等の有機溶媒で茶ポリフェノール以外の成分を抽出、除去したものを言い、膜処理物とは、熱水抽出物や有機溶媒抽出物を膜濾過したり、透析処理したものを言う。樹脂や吸着剤による処理物とは、上記熱水抽出物や有機溶媒抽出物を合成吸着剤や活性炭等に接触させて茶ポリフェノールを着脱させるか、茶ポリフェノール以外の成分を吸着除去したものである。
【0010】本発明では上記茶抽出物を水またはエタノール、メタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の茶ポリフェノール可溶性含水有機溶媒またはそれらの混合溶媒に溶解または懸濁したのち、これをアルカリ性とし、合成吸着剤と接触させる。ここでいう含水有機溶媒はその種類を問わないが、エタノール、メタノールが好ましく、特にはエタノールが好ましい。また、有機溶媒の濃度は0〜50%(V/V)が好ましく、0〜30%(V/V)が好適である。合成吸着剤としては、その母体がスチレン系、例えばXAD−16(ローム・アンド・ハース社製)、スチレンジビニルベンゼン系、例えばSEPABEADS HP21(三菱化成(株)製)、アクリル系、例えばDIAION WK20(三菱化成(株)製)、メタクリル系、例えばSEPABEADS HP2MG(三菱化成(株)製)、アクリル酸エステル系、例えばXAD−7(ローム・アンド・ハース社製)、アミド系、例えばXAD−11(ローム・アンド・ハース社製)、デキストラン系、例えばSEPHADEX LH−20(ファルマシア社製)、セルロース系、例えばINDION DS−3(フェニックスケミカルズ社製)、ポリビニル系、例えばSEPABEADS FP−HG(三菱化成(株)製)等が使用でき、その種類を問わない。アルカリ度についてはpH7〜14で有効であるが、pH9〜11が至適である。接触方法は、バッチ式、カラム式等いかなる方法でもよい。
【0011】この処理によって、カフェイン含有量の少ない茶ポリフェノール溶液が得られる。即ち、該茶ポリフェノール溶液中のカフェイン含有量は固形分の0.1〜1.0%程度である。カフェイン含有量の少ない茶ポリフェノール溶液は、そのままあるいは酸による中和後、または常法により脱塩濃縮乾燥して用いられる。また、これを更に高純度の茶ポリフェノールを製造するための原料として利用することもできる。
【0012】本発明の低カフェイン含有茶ポリフェノールは、カフェインを殆ど含有していないために、前述したカフェインのもつマイナス効果を懸念することなく、ポリフェノール類本来の作用、例えばコレステロール上昇抑制作用、生体内抗酸化作用などの生理活性機能をもたせた健康増進食品、健康維持食品、健康快復食品などとして有利に利用できる。
【0013】本発明の低カフェイン含有茶ポリフェノールの利用分野を列挙すれば、調味料、和菓子、洋菓子、氷菓子、シロップ類、果実加工品、野菜加工品、漬物類、畜肉製品、魚肉製品、珍味類、缶・ビン詰類、酒類、清涼飲料、即席飲食物などの食品類、タバコ、練り歯磨き、口紅、リップクリーム、内服薬、トローチ、肝油ドロップ、口中清涼剤、口中香錠、うがい薬など各種固形状、ペースト状、液状の嗜好品、化粧品、医薬品などである。
【0014】
【実施例】次に、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明はこれらにより何等制限されるものではない。
実施例1緑茶抽出物10g(カフェイン含率7%、カテキン含率30%)を水20mlに溶解し、ガラスカラム(40mm I.D.×300mm)に充填した合成吸着剤SP−207(三菱化成(株)製)300mlに通液した。これにpH10の緩衝液1500mlを通液し(SV=2)、溶離した茶ポリフェノール画分を回収した。これを脱塩濃縮乾燥し、粉末2.9gを得た。
【0015】上記により得られたサンプルを高速液体クロマトグラフにより分析した結果、カフェイン含率0.2%、カテキン含率64%であった。なお、分析条件を以下に示す。また、図1に脱カフェイン処理前と処理後のサンプルのクロマトグラムを示す。
【0016】高速液体クロマトグラフ分析条件カラム:資生堂カプセルパック AG−120 S−5 ODS4.6mm I.D.×250mm溶離液:アセトニトリル:酢酸エチル:0.05%リン酸水=12:2:86流 速:1ml/分検出器:紫外部検出器 280nm温 度:40℃
【0017】実施例2緑茶抽出物20g(カフェイン含率7%、カテキン含率30%)を水100mlに溶解し、ガラスカラム(40mm I.D.×300mm)に充填した合成吸着剤HP−20(三菱化成(株)製)300mlに通液した。これにpH11の緩衝液とエタノールが4:1(V/V)となるよう調製した液1500mlを通液し(SV=2)、溶離した茶ポリフェノール画分を回収した。これを脱塩濃縮乾燥し、粉末8.3gを得た。このようにして得られたサンプルを実施例1と同様の方法で分析した結果、カフェイン含率0.6%、カテキン含率56%であった。また、図2に脱カフェイン処理前と処理後のサンプルのクロマトグラムを示す。
【0018】実施例3緑茶の酢酸エチル抽出物15g(カフェイン含率11%、カテキン含率66%)を20%エタノール30mlに溶解し、ガラスカラム(40mm I.D.×300mm)に充填した合成吸着剤HP−2MG(三菱化成(株)製)300mlに通液した。これを実施例2と同様の溶媒で溶出し、粉末11.6gを得た。このようにして得られたサンプルを実施例1と同様の方法で分析した結果、カフェイン含率0.7%、カテキン含率73%であった。また、図3に脱カフェイン処理前と処理後のサンプルのクロマトグラムを示す。
【0019】
【発明の効果】本発明によれば、簡便、且つ安全な方法でカフェイン含有量の少ない茶ポリフェノールを効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1の分析結果であり、上段は脱カフェイン処理前のサンプルのクロマトグラムを示し、下段は処理後のサンプルのクロマトグラムを示す。
【図2】 実施例2の分析結果であり、上段は脱カフェイン処理前のサンプルのクロマトグラムを示し、下段は処理後のサンプルのクロマトグラムを示す。
【図3】 実施例3の分析結果であり、上段は脱カフェイン処理前のサンプルのクロマトグラムを示し、下段は処理後のサンプルのクロマトグラムを示す。
【符号の説明】
ピークa、b、c、d及びeはいずれも茶カテキンを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 茶抽出物を水または含水有機溶媒中に溶解または懸濁し、これをアルカリ性条件下、合成吸着剤と接触させてカフェインを吸着除去することを特徴とする低カフェイン茶ポリフェノールの製造法。
【請求項2】 茶抽出物が茶の熱水抽出物、有機溶媒抽出物あるいはこれら抽出物の有機溶媒処理物、膜処理物または樹脂や吸着剤による処理物のいずれかである請求項1記載の茶ポリフェノールの製造法。
【請求項3】 合成吸着剤の母体がスチレン系、スチレンジビニルベンゼン系、アクリル系、メタクリル系、アクリル酸エステル系、アミド系、デキストラン系、セルロース系及びポリビニル系のいずれかである請求項1記載の茶ポリフェノールの製造法。
【請求項4】 アルカリ性条件がpH7〜14である請求項1記載の茶ポリフェノールの製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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