説明

低コロナ電線及び低コロナ電線用素線

【課題】架空送電線素線の雨滴の付着や架空送電線内部への水分の蓄えを防ぎ、コロナ放電及びコロナ騒音を効果的に防止した低コロナ電線及び低コロナ電線用素線を提供すること。
【解決手段】架空送電線の導体1を構成する各素線2の表面に、超撥水性加工による超撥水膜3が施されている。架空送電線の導体1は、それぞれが複数の素線2により構成される心線10、内層20及び外層30を含み、少なくとも内層20及び外層30を構成する各素線2に超撥水性加工が施されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架空送電線の技術分野に関し、特に、コロナ騒音を低減した低コロナ電線及び低コロナ電線用素線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、架空送電線は、アルミニウムの裸導体を撚り合せた複数本の素線により構成される。このような架空送電線は、降雨があると、素線に雨滴が付着し、この雨滴からコロナ放電が生じるという現象がある。このコロナ放電は、送電線近辺のラジオ電波障害を引き起こす。また、このコロナ放電に伴い、可聴音(コロナ騒音)が発生し、送電線下の住民からの騒音苦情を引き起こしてしまう。
【0003】
架線直後は、表面に製造時の油分が付着しているため、雨滴が形成されやすい。架線後、時間の経過とともに表面の油分は流れ落ち、またアルミニウムからなる素線の表面が酸化することで、電線表面の親水性化が進む。このため、降雨による水分は粒状にならずに電線表面に広がり、コロナ放電の発生は徐々に低減するのが一般的であった。
【0004】
しかし、架空送電線の中央部(内部)の素線間に空隙があると、降雨時に水分が入り込み、そこに蓄えられてしまう。内部の空隙に蓄えられた水分は、架空送電線表面の水滴が消失しても、それを補給する形で表面にしみ出て、水滴を形成し、コロナ放電を発生させてしまう。
【0005】
このコロナ放電の防止を目的として、素線間に非油性充填材を満たすことが提案されているが(例えば、特許文献1参照)、非油性充填材は劣化の懸念があり、素線間への水分の流入防止は困難である。
【0006】
一方、海岸近傍の腐食環境中に架線される架空送電線には、防食対策として一般的に電線表面及び素線間に防食グリスを被覆・充填させる方法が採られており、そのように防食が施された電線では、内部に防食グリスが充填される。このような防食電線では、空隙がグリスで埋められているため、水が入り込むことが出来ず、従って、水がしみ出て水滴を形成し、コロナ放電を発生する現象を防止できるのではないかとも考えられる。
【0007】
また、素線を撚り合わせてなる導体表面を超撥水性表面3a(図2参照)とすることにより、水滴をはじきコロナ放電を防止する架空送電線が提案されており、コロナ騒音の低減が確認されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−255554号公報
【特許文献2】特開2002−75060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の架空送電線の場合、実際には、降雨時の雨水は防食グリスに染み込み、グリスと雨水が一緒に少しずつ電線表面に流れ出てしまう。電線内部に充填されたグリスが電線表面に流れ出して電線表面に残存するため、電線表面に油分が残留する状態が長期間継続する。そのため、降雨時には電線表面に水滴が粒状に付着し、コロナ放電が発生してしまう。
【0010】
また、特許文献2に記載の架空送電線においては、導体表面に超撥水性を持たせることにより、水滴をはじきコロナ放電を抑制することができる。しかし、架空送電線自体は、素線が撚り合わさって作られているため、素線間には隙間が生じてしまい、導体表面を超撥水性にしても水分は内部へ流れ込み蓄えられてしまうという問題がある。
【0011】
よって、本発明は、架空送電線素線の雨滴の付着や架空送電線内部への水分の蓄えを防ぎ、コロナ放電及びコロナ騒音を効果的に防止した低コロナ電線及び低コロナ電線用素線を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明に係る低コロナ電線は、架空送電線の導体を構成する各素線表面に、超撥水性加工が施されていることを特徴としている。
【0013】
本発明によれば、架空送電線の各素線表面の超撥水性により、架空送電線に水滴が付着しづらくなり、付着したとしてもすぐに水滴が落下する。また、素線間に隙間があると架空送電線内部へ水滴が流れるが、内部の素線にも超撥水加工が施してあることにより、水分が架空送電線内部に蓄えられることなく流れ出る。その結果、コロナ放電及びコロナ騒音を減少させることができる。
【0014】
本発明において、前記架空送電線の導体は、それぞれが複数の素線により構成される心線、内層及び外層を含み、それら心線、内層及び外層を構成する各素線のうち、少なくとも内層及び外層を構成する各素線に、前記超撥水性加工が施されていることが望ましい。
【0015】
ここで、表面に超撥水性加工を施す各素線としては、架空送電線の導体を構成する心線、内層及び外層の各素線のうち、芯線を除く内層及び外層の各素線を対象とすることもできる。しかし、コロナ放電及びコロナ騒音をより効果的に防止する観点からは、芯線を含む内層及び外層の各素線のそれぞれの表面に超撥水性加工を施すことが望ましい。このように構成した場合、各素線間への水滴の侵入を防止あるいは低減する効果をさらに高めることができるからである。
【0016】
本発明において、前記各素線表面に超撥水性材料による超撥水膜が形成されていることが望ましい。
【0017】
一方、本発明の低コロナ電線用素線は、複数本撚り合わせて低コロナ電線用の導体を構成するための素線であって、その表面に超撥水性加工が施されていることを特徴としている。
【0018】
本発明によれば、この素線を複数本用いて撚り合わせ、例えば架空送電線の導体を構成することにより、架空送電線素線の雨滴の付着や架空送電線内部への水分の蓄えを防ぎ、コロナ放電及びコロナ騒音を効果的に防止した低コロナ電線を容易に製造することが可能になる。
【0019】
本発明において、各素線表面の超撥水性とは、表面と水との接触角が150度以上のものをいう。しかし、この数値は目安であり、たとえば素線表面が雨にぬれても瞬時に水滴を散乱あるいは滑落させる程度の撥水機能を有する場合も超撥水性の概念に含まれる。
また、本件発明において、架空送電線そのものの組成や構造などは、各素線表面の超撥水性に影響を与えない限り、特別の組成や構造とされることはないので、本発明を既存の電線に極めて容易に適用することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、架空送電線素線の雨滴の付着や架空送電線内部への水分の蓄えを防ぎ、コロナ放電及びコロナ騒音を効果的に防止した低コロナ電線を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態に係る低コロナ電線の概略横断面図である。
【図2】導体表面に超撥水加工を施した従来の架空送電線を示す概略横断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る低コロナ電線の注水荷電試験結果を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る低コロナ電線の水滴滴下試験結果を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る低コロナ電線の浸水試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、図1〜図5を参照して詳細に説明する。
(実施の形態)
図1は、本発明を架空送電線に適用した実施の形態に係る低コロナ電線の横断面図を示し、図2は、導体表面に超撥水性加工を施した従来の架空送電線の横断面図を図1との対比で示したものである。なお、この図1及び図2において、基本的に同一の構成要素については同一符号を付してある。
【0023】
この実施の形態に係る低コロナ電線は、図1に示すように、架空送電線として主に用いられている鋼心アルミより線:ASCR(mm2)に適用した例を示している。この鋼心アルミより線は、それぞれが複数の素線2で構成される心線10と、内層20と、外層(最外層)30とを有している。
【0024】
図1に示す例では、心線10は撚り合わされた7本の素線2で構成され、内層20は心線10の外側に撚り合わされた10本の素線2で構成され、外層30は内層20の外側に撚り合わされた16本の素線2で構成されている。
【0025】
そして、心線10、内層20、外層30の各素線2の表面には、それぞれ超撥水加工が施され、超撥水膜3が形成されている。これにより、各素線2どうしはその表面の超撥水膜3を介して、隣接する素線どうしが相互に接触する形態となるように構成されて(撚り合わされて)いる。したがって、この低コロナ電線は、各素線2の表面に超撥水膜3を形成してから、各素線2が撚り合わされて構成される。
【0026】
ここで、超撥水性とは、一般に表面と水との接触角が150度以上の現象をいう。しかし、本発明でいう超撥水性は、接触角が150度以上に限定されるものではなく、表面に接触した水滴が直ちに弾かれる程度の撥水性能を有しているものも含まれる。
【0027】
また、超撥水性加工としては、超撥水性材料の塗布、吹き付け、コーティング、電着塗装法、等の方法により超撥水膜を形成する他に、撥水性を向上させる微小な凹凸を素線表面に施す加工も含まれる。その場合、素線表面に微小な凹凸加工を施し、その上に超撥水性材料をコーティングしても良い。
【0028】
尚、本件発明において架空送電線そのものの組成や構造などは、各素線表面の超撥水性に影響を与えない限り、特別の組成や構造とされることはない。
【0029】
超撥水性表面を形成する超撥水膜3としては、ここではフッ素系のコーティングを行なって形成したが、上記性能を有すれば、どのような方法を用いてもかまわない。超撥水性は超撥水性材料をコーティングすることによって容易に得ることができる。
【0030】
撥水性の高さに対応する、表面エネルギーの小さい物質を構成する物質としては、飽和フルオロアルキル基、アルキルシル基、フルオロシル基、長鎖アルキル基のような官能基をもつものが代表的である。
【0031】
したがって、このような超撥水膜3を素線2の表面に形成するには、例えばトリアシルグリセリドによるコーティング(接触角160度)、アルキルケテンダイマーによるコーティング(接触角174度)、の他に、PFA(ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂)粒子を天下したカチオン形エポキシ樹脂塗料を用いた電着塗装法(接触角162度)、プラズマエッチング表面にフッ素化界面活性剤を吸着させる化学吸着法(接触角150度)、等により形成することができる。
【0032】
本出願の発明者等は、各素線2の表面に超撥水性加工を施した電線は通常の電線よりコロナ騒音が低減されていること、各素線表面に超撥水性加工を施した電線は、図2に示すように、導体表面を超撥水性にした電線よりも内部に水分を含みづらいことを試験、実験より明らかにした。
【0033】
(1)注水荷電試験
各素線表面に超撥水加工を施した電線と導体表面に超撥水加工を施した電線に注水荷電し、コロナ騒音を測定した。乾燥時の電線表面のGmaxが15kV/cmになるように荷電した条件でのコロナ騒音を測定し、図3に結果を示す。各素線表面に超撥水加工を施した電線は導体表面に超撥水加工を施した電線に比べ、コロナ騒音が低減していることが確認された。
【0034】
(2)水滴滴下試験
各素線表面に超撥水加工を施した電線と導体表面に超撥水加工を施した電線に水滴を滴下し、水滴の電線内部への流れ込みを調べた。水滴滴下量を20gとし、滴下後1分後の電線内部含水量を測定し、図4に結果を示す。各素線表面に超撥水加工を施した電線は導体表面に超撥水加工を施した電線よりも、水滴の電線内部への流れ込みは少なくなった。
【0035】
(3)浸水試験
各素線表面に超撥水加工を施した電線と導体表面に超撥水加工を施した電線を水中に浸水させ、取り出し後の水分の流れ出し量を調べた。電線に対し十分な量の水に電線を1分間浸水させ、取り出し後の電線表面及び内部の水分量と経過時間の関係を測定し、図5に結果を示す。各素線表面に超撥水加工を施した電線は導体表面に超撥水加工を施した電線よりも、内部水分の流れ出し量は多く、内部に蓄えられる水分は少なくなった。
【0036】
以上より明らかなように、各素線表面に超撥水加工を施した電線は通常の電線に比べ、コロナ騒音が低減され、また各素線表面に超撥水加工を施した電線は導体表面に超撥水加工を施した電線より、内部に水分が蓄えられにくく、流れ出しやすいため、よりコロナ騒音を低減することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 導体
2 素線
3 超撥水膜
10 心線
20 内層
30 外層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架空送電線の導体を構成する各素線表面に、超撥水性加工が施されていることを特徴とする低コロナ電線。
【請求項2】
前記架空送電線の導体は、それぞれが複数の素線により構成される心線、内層及び外層を含み、少なくとも前記内層及び外層を構成する各素線に前記超撥水性加工が施されていることを特徴とする、請求項1に記載の低コロナ電線。
【請求項3】
前記各素線表面に、超撥水性材料による超撥水膜が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の低コロナ電線。
【請求項4】
複数本撚り合わせて低コロナ電線用の導体を構成するための素線であって、その表面に超撥水性加工が施されていることを特徴とする低コロナ電線用素線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−181981(P2012−181981A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43503(P2011−43503)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(502308387)株式会社ビスキャス (205)
【Fターム(参考)】