説明

低分子ヒアルロン酸の製造方法

【課題】本発明は、純度の高い低分子ヒアルロン酸、特に4糖の低分子ヒアルロン酸を、効率良く安全かつ低価格で製造する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明の低分子ヒアルロン酸の製造方法は、ヒアルロン酸および/またはその塩を有機スルホン酸水溶液により分解して低分子量化する工程を含む。また、前記有機スルホン酸は、下記式(1)で表される化合物であることが好ましく、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸およびトルエンスルホン酸からなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましく、メタンスルホン酸であることが特に好ましい。
RSO3H ・・・(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低分子ヒアルロン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸(以下「HA」とも記す。)は、基本構成分子であるグルクロン酸およびN-アセチルグルコサミンの2糖を反復構成単位とする多糖類である(下記一般式(a)参照)。
【0003】
【化1】

このような構造を有するヒアルロン酸は、その高い保湿機能により、医薬品、飲食品および化粧品の分野で広く用いられている。
【0004】
上記一般式(a)において、nが1の場合、すなわち、ヒアルロン酸の最小構成単位を2糖のヒアルロン酸(以下「HA2」とも記す。)という。そして、nが2の場合、すなわち、HA2が2つ結合した場合を4糖のヒアルロン酸(以下「HA4」とも記す。)という。ヒアルロン酸は、通常、HA2が多数結合した高分子であり、分子量が50万以上である。
【0005】
近年、分子量を数万未満に低分子量化したヒアルロン酸(以下「低分子ヒアルロン酸」とも記す。)が、様々な活性を示すことが見出されている。特に、HA2およびHA4のような低分子ヒアルロン酸が、様々な活性を示すことが知られるようになっている。HA4の活性としては、たとえば、細胞を高温に維持することによる細胞死を抑制する(HA4がストレスタンパクの一種であるヒートショックプロテイン産生を増加させ、細胞死を防御する)ことや、HA4を神経由来培養細胞株PC12に添加培養すると、PC12細胞の神経細胞への分化誘導を引き起こし、神経突起伸展作用を示すことなどが挙げられる。
【0006】
以上の知見のとおり、HA4が他の低分子ヒアルロン酸と比較して特長的かつ有意な作用を示すことが判明している。
【0007】
このような低分子ヒアルロン酸の製造方法としては、ヒアルロン酸をヒアルロニダーゼ等の酵素で分解する方法(例えば、特許文献1参照)、ヒアルロン酸を塩酸等の酸で処理する方法(例えば、特許文献2および3参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−339393号公報
【特許文献2】特開2009−256683号公報
【特許文献3】特開2006−265287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、ヒアルロン酸をヒアルロニダーゼ等の酵素で分解する方法では、酵素成分が低分子ヒアルロン酸中に残留するため純度が低下するという問題点がある。純度の高い低分子ヒアルロン酸を得るためには、酵素成分を除去する工程が必要になる等、製造工程が煩雑となる。さらに、酵素の価格が極めて高く、経済上不利である。
【0010】
また、ヒアルロン酸を塩酸等の酸で処理する方法では、酵素で分解する方法に比べて反応系が単純であるが、分解反応の制御が難しく、低分子ヒアルロン酸の収率が低いという問題点がある。また、塩酸等の酸による分解反応では、中和により多量の塩が生成するため分解後に脱塩工程が必要になったり、塩酸等揮発性の酸では周辺機器の腐食や人的被害を防ぐ機材が必要となる等、製造工程が煩雑である。
【0011】
これまで低分子ヒアルロン酸、特にHA2およびHA4の製造方法については、ほとんど検討されていない。しかしながら、上述したとおりHA4等の低分子ヒアルロン酸は、医療等の分野で用いられることが期待されるため、上記問題点を解決し、より純度の高い低分子ヒアルロン酸を効率良く、しかも低価格で安全に製造することが望まれている。
【0012】
そこで、本発明は、純度の高い低分子ヒアルロン酸、特にHA4を、効率良く安全かつ低価格で製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、上述した従来のヒアルロン酸の分解方法を改良し、有機スルホン酸をヒアルロン酸の分解に使用することにより、効率良く安全かつ低コストで、しかも非常に高い収率で純度の高い低分子ヒアルロン酸、特にHA4が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0015】
[1] ヒアルロン酸および/またはその塩を有機スルホン酸水溶液により分解して低分子量化する工程を含むことを特徴とする低分子ヒアルロン酸の製造方法。
【0016】
[2] 前記有機スルホン酸が下記式(1)で表される化合物であることを特徴とする[1]に記載の低分子ヒアルロン酸の製造方法。
【0017】
【化2】

(式(1)中、Rは、炭素原子数1〜10の炭化水素基を表す。)
[3] 前記有機スルホン酸が、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸およびトルエンスルホン酸からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする[1]または[2]に記載の低分子ヒアルロン酸の製造方法。
【0018】
[4] 前記有機スルホン酸がメタンスルホン酸であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の低分子ヒアルロン酸の製造方法。
【0019】
[5] 前記低分子ヒアルロン酸が4糖以下の低分子ヒアルロン酸であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の低分子ヒアルロン酸の製造方法。
【0020】
[6] 前記低分子ヒアルロン酸が4糖および/または2糖の低分子ヒアルロン酸であることを特徴とする[1]〜[5]のいずれかに記載の低分子ヒアルロン酸の製造方法。
【0021】
[7] 前記工程が加熱下で行なわれることを特徴とする[1]〜[6]のいずれかに記載の低分子ヒアルロン酸の製造方法。
【0022】
[8] 前記加熱温度が60〜80℃の範囲であることを特徴とする[7]に記載の低分子ヒアルロン酸の製造方法。
【0023】
[9] 前記加熱時間が3〜24時間であることを特徴とする[7]に記載の低分子ヒアルロン酸の製造方法。
【0024】
[10] 前記有機スルホン酸水溶液の濃度が0.1〜0.6Nであることを特徴とする[1]〜[9]のいずれかに記載の低分子ヒアルロン酸の製造方法。
【0025】
[11] 前記有機スルホン酸水溶液100質量部に対して、前記ヒアルロン酸および/またはその塩を1〜10質量部添加することを特徴とする[1]〜[10]のいずれかに記載の低分子ヒアルロン酸の製造方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明の低分子ヒアルロン酸の製造方法によれば、効率良く安全かつ低コストで、しかも非常に高い収率で純度の高い低分子ヒアルロン酸、特にHA4が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例13で得られたHA4のHPLC分析結果の一例を示す図である。
【図2】メタンスルホン酸水溶液で原料ヒアルロン酸を分解したときに生成する低分子ヒアルロン酸のHPLC分析結果の一例を示す図である。
【図3】塩酸で原料ヒアルロン酸を分解したときに生成する低分子ヒアルロン酸のHPLC分析結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について、詳細に説明する。本発明は、以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0029】
本実施形態に係る低分子ヒアルロン酸の製造方法は、ヒアルロン酸および/またはその塩を有機スルホン酸水溶液により分解して低分子量化する工程を含む。
【0030】
本実施形態において、ヒアルロン酸とは、グルクロン酸およびN−アセチルグルコサミンの2糖を反復構成単位とする多糖類を意味する。また、ヒアルロン酸の塩としては、特に限定されないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、亜鉛塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0031】
本実施形態の製造方法の原料であるヒアルロン酸および/またはその塩(以下「原料ヒアルロン酸」とも記す。)は、分子量が通常50万以上の高分子である。
【0032】
本実施形態の製造方法に用いる原料ヒアルロン酸は、一般に、鶏冠、臍の緒、眼球、皮膚、軟骨等の生物組織、あるいはストレプトコッカス属の微生物等のヒアルロン酸生産微生物を培養して得られる培養液等を原料として、これらの原料から抽出(さらに必要に応じて精製)して得られるものである。本実施形態に用いる原料ヒアルロン酸としては、当該粗抽出物および精製物のいずれを用いてもよい。
【0033】
本実施形態において、低分子ヒアルロン酸とは、原料ヒアルロン酸を低分子量化して、分子量を通常数万未満としたものをいう。
【0034】
本実施形態の製造方法において得られる低分子ヒアルロン酸としては、4糖以下の低分子ヒアルロン酸であることが好ましく、4糖および/または2糖の低分子ヒアルロン酸であることがより好ましい。本実施形態の製造方法において得られる4糖の低分子ヒアルロン酸(以下「HA4」とも記す。)は、純度が高く、医薬品、特に脳等の神経系の治療薬として好適に用いることができる。
【0035】
本実施形態の製造方法に用いる有機スルホン酸は、下記式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【0036】
【化3】

上記式(1)中、Rは、炭素原子数1〜10の炭化水素基、好ましくは炭素原子数1〜2の炭化水素基(メチル基、エチル基)、より好ましくは炭素原子数1の炭化水素基(メチル基)を表す。
【0037】
前記有機スルホン酸としては、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、o−トルエンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、m−トルエンスルホン酸、α-ナフタレンスルホン酸、β-ナフタレンスルホン酸からなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましく、メタンスルホン酸であることが特に好ましい。
【0038】
本実施形態の製造方法において、上述したような有機スルホン酸を用いると、原料ヒアルロン酸を適度に分解して低分子量化することができ、純度の高い低分子ヒアルロン酸、特に4糖の低分子ヒアルロン酸を非常に高収率で効率良く得ることができる。
【0039】
このような効果が得られる理由について、本発明者は、以下のように考えている。
【0040】
本発明者は、まず、ヒアルロン酸を構成する要素の結合関係に着目し、当該結合を適度に切断し、目的の低分子ヒアルロン酸を高い選択率で得ることができる物質を探索した。
【0041】
グルクロン酸およびN−アセチルグルコサミンの2糖を反復構成単位とするヒアルロン酸を、酸により加水分解して低分子ヒアルロン酸を得るためには、N−アセチルグルコサミンの還元端側のグリコシド結合は切断するけれども、グルクロン酸の還元端側のグリコシド結合は残存させなければならない。
【0042】
これら二カ所のグリコシド結合には物理化学的に強弱があって、N−アセチルグルコサミンの還元端側のグリコシド結合の方が切断されやすい性質を有する。この切断容易度の差を利用して、N−アセチルグルコサミンの還元端側は切れるけれどもグルクロン酸の還元端側は切れないで残すという条件での加水分解を行うことにより、目的の低分子ヒアルロン酸を効率良く高い収率で得ることができる。
【0043】
したがって、原料ヒアルロン酸を分解する酸としては、グルクロン酸の還元端側のグリコシド結合の切断、さらには糖分子内部の炭素骨格までも破壊するような酸ではなく、N−アセチルグルコサミンの還元端側のグリコシド結合だけを切断する酸が望ましい。さらに、これらの結合が切断される容易度(切断が容易になされるかどうか)は、酸の種類によって異なり、たとえば塩酸による加水分解の場合、ヒアルロン酸の内部結合切断の容易度の差がその切断箇所によって小さく、N−アセチルグルコサミンの還元端側のグリコシド結合にとどまらず他の結合も同時に切断してしまうという過剰な分解反応を起こしやすいと考えられる。
【0044】
本発明者は、塩酸のように過剰な分解反応をおこさず、高純度の低分子ヒアルロン酸を効率良く製造可能な酸を鋭意検討した結果、有機スルホン酸を使用した場合には、結合を切断する容易度の差が切断箇所によって大きく、N−アセチルグルコサミンの還元端側のグリコシド結合を、たとえば塩酸と同様に容易に切断するが、他の結合は容易には切断しないことを見出した。
【0045】
有機スルホン酸は、通常、アミノ酸分解や化学合成反応の触媒として使用され、それ自身では反応性に富み、細胞への染色体変異作用を有する物質である。このような有機スルホン酸を原料ヒアルロン酸の加水分解に用いると、上述したとおり適度に結合が切断されるため、塩酸に比べ過剰な分解が起こりにくく、純度の高い低分子ヒアルロン酸を非常に高収率で効率良く得ることができると考えられる。特に、メタンスルホン酸を使用してヒアルロン酸を加水分解することにより他の強酸、たとえば塩酸を使用した場合よりも過剰な分解をおさえて、純度の高い低分子ヒアルロン酸を非常に高収率で効率良く得ることができると考えられる。
【0046】
さらに有機スルホン酸は一般に不揮発性であり加熱しても気化のおそれが少ない。したがって、有機スルホン酸を用いる方法は、従来の塩酸等揮発性の酸を用いる方法に比べ気化した酸による周辺機器の腐食や人的被害の危険性が低減されるため作業環境の安全性が高く、特殊な設備も要されない。
【0047】
本実施形態に係る製造方法おいて、上述した有機スルホン酸は、通常水溶液として分解工程に用いる。当該有機スルホン酸水溶液の濃度は、0.1〜0.6Nであることが好ましく、0.3〜0.6Nであることがより好ましく、0.3Nであることが特に好ましい。有機スルホン酸水溶液の濃度が前記範囲内であると、より高純度の低分子ヒアルロン酸を効率良く得ることができる傾向にある。
【0048】
原料ヒアルロン酸の添加量は、前記有機スルホン酸水溶液100質量部に対して、1〜10質量部であることが好ましく、1〜5質量部であることがより好ましく、5質量部であることが特に好ましい。原料ヒアルロン酸の添加量が前記範囲内であると、より高純度の低分子ヒアルロン酸を高い収率で得ることができる傾向にある。
【0049】
本実施形態に係る製造方法おいて、原料ヒアルロン酸の分解工程は、加熱下で行なわれることが好ましい。また、当該加熱温度は、60〜80℃の範囲であることが好ましく、70〜80℃であることがより好ましく、80℃であることが特に好ましい。さらに、前記加熱時間は、3〜24時間であることが好ましく、13〜22時間であることがより好ましく、18時間であることが特に好ましい。
【0050】
原料ヒアルロン酸の分解工程がこのような加熱下で行なわれると、高純度の低分子ヒアルロン酸をより短時間で効率良く得ることができる傾向にある。
【0051】
本実施形態に係る低分子ヒアルロン酸の製造方法は、さらに分離・精製工程を含んでいてもよい。当該分離・精製工程としては、公知の分離・精製工程を採用することができ、例えば、イオン交換樹脂カラムを用いて分離・精製する工程、ゲル濾過カラムを用いて分離・精製する工程、限外濾過膜を用いて分離・精製する工程、塩化ナトリウム水溶液、塩酸、精製水等の溶媒を用いて分離・精製する工程などが挙げられる。
【0052】
このような分離・精製する工程を行うことにより、目的の低分子ヒアルロン酸をより高純度で得ることができる。
【0053】
本実施形態に係る低分子ヒアルロン酸の製造方法は、さらにその他の工程、例えば、濃縮工程、乾燥工程等を含んでいてもよい。これらの工程は、特に限定されず、公知の工程を採用することができる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
[実施例1]
以下に、本発明の製法による、工業スケールでのHA4の製造の例を示す。
【0056】
原料ヒアルロン酸として、ヒアルロン酸ナトリウム塩(Baoding Sino-chem Industry製、製品名:Sodium hyaluronate、分子量:1.25×106ダルトン)を用いた。有機スルホン酸として、メタンスルホン酸を用いた。
【0057】
反応容器中に、前記ヒアルロン酸ナトリウム塩(16kg)および0.3Nのメタンスルホン酸水溶液(320リットル)を添加して、80℃で4時間攪拌することにより、前記ヒアルロン酸ナトリウム塩を分解して低分子量ヒアルロン酸を含む反応液を得た。
【0058】
得られた反応液中のHA4の収率を高速液体クロマトグラフィー(HPLC、Agilent Technologies社製、型番:Agilent 1100)を用いて測定した。
【0059】
[実施例2]
実施例1と同様にして、前記ヒアルロン酸ナトリウム塩を分解して低分子量ヒアルロン酸を含む反応液を得て、該反応液中のHA4の収率を測定した。
【0060】
実施例1および実施例2で得られたHA4の収率の平均値を下表1に示す。
【0061】
[実施例3]
加熱分解時間を4時間から5時間に変更した以外は実施例1と同様にして、前記ヒアルロン酸ナトリウム塩を分解して低分子量ヒアルロン酸を含む反応液を得て、該反応液中のHA4の収率を測定した。実施例3で得られたHA4の収率の平均値を下表1に示す。
【0062】
[実施例4]
加熱分解時間を4時間から5.5時間に変更した以外は実施例1と同様にして、前記ヒアルロン酸ナトリウム塩を分解して低分子量ヒアルロン酸を含む反応液を得て、該反応液中のHA4の収率を測定した。
【0063】
[実施例5]
実施例4と同様にして、前記ヒアルロン酸ナトリウム塩を分解して低分子量ヒアルロン酸を含む反応液を得て、該反応液中のHA4の収率を測定した。
【0064】
実施例4および実施例5で得られたHA4の収率の平均値を下表1に示す。
【0065】
[実施例6]
加熱分解時間を4時間から6.5時間に変更した以外は実施例1と同様にして、前記ヒアルロン酸ナトリウム塩を分解して低分子量ヒアルロン酸を含む反応液を得て、該反応液中のHA4の収率を測定した。
【0066】
[実施例7〜11]
実施例6と同様にして、前記ヒアルロン酸ナトリウム塩を分解して低分子量ヒアルロン酸を含む反応液を得て、該反応液中のHA4の収率を測定した。
【0067】
実施例6〜11で得られたHA4の収率の平均値を下表1に示す。
【0068】
[実施例12]
加熱分解時間を4時間から19.87時間に変更した以外は実施例1と同様にして、前記ヒアルロン酸ナトリウム塩を分解して低分子量ヒアルロン酸を含む反応液を得て、該反応液中のHA4の収率を測定した。実施例12で得られたHA4の収率の平均値を下表1に示す。
【0069】
【表1】

[実施例13]
実施例3〜6で得られた反応液について、それぞれ独立して以下の工程を行った。
【0070】
まず、反応液を冷却後、陰イオン交換樹脂(Cl型:Dowex 1x4)カラムに通し、前記メタンスルホン酸を吸着させた。
【0071】
前記陰イオン交換樹脂カラムを通した低分子量ヒアルロン酸を含む反応液を、精製水で5倍以上に希釈し、水酸化ナトリウム水溶液でpHを6に調整した。pH調整した反応液を、陰イオン交換樹脂(Cl型:Dowex 1x4)カラムに通し、低分子量ヒアルロン酸を吸着させた。
【0072】
次に、前記陰イオン交換樹脂カラムに、該カラムの5倍体積の40mMの塩化ナトリウム水溶液を流して夾雑物を洗浄した。さらに前記陰イオン交換樹脂カラムに、40mM〜100mMへ直線的に濃度を増加させた塩化ナトリウム水溶液を流して、低分子量ヒアルロン酸を順次溶出させた。
【0073】
溶出した低分子量ヒアルロン酸を含む溶液からHA4の画分を集め、塩酸でpHを4.2〜4.7に調整した。pH調整した溶液を、陰イオン交換樹脂(Cl型:BioRad High Q)カラムに通し、HA4を吸着させた。
【0074】
前記陰イオン交換樹脂(Cl型:BioRad High Q)カラムに、0.1mMの塩酸を流して夾雑物を洗浄した後、0.5Mの塩化ナトリウム水溶液を流して、HA4を溶出させた。得られた溶出液をロータリーエバポレーターで濃縮した。
【0075】
得られた濃縮液を、希薄塩酸でpHを4〜5に調整したゲル濾過カラム(BioGel P2)に通し、精製水で溶出させることで、脱塩されたHA4を得た。
【0076】
以下の最終精製工程である限外濾過を実施するに先立ち、実施例3〜6で得られた反応液由来の前記脱塩されたHA4を混合し、一つのロットとした。
【0077】
当該ロットを、陽イオン交換樹脂 (酸型:Dowex 50W x 4)カラムに通し、夾雑物を吸着させ、さらに、限外濾過膜(排除分子量5,000〜10,000ダルトン)で濾過した。得られた濾液をロータリーエバポレーターで濃縮し、乾燥して、粉末状のHA4を得た。
【0078】
得られたHA4について、高速液体クロマトグラフィー(HPLC、Agilent Technologies社製、型番:Agilent 1100)により分析したところ、純度98.89%であった。
【0079】
[実施例14]
実施例7〜10で得られた反応液を用いた以外は、実施例13と同様にして粉末状のHA4を得た。得られたHA4について、高速液体クロマトグラフィー(HPLC、Agilent Technologies社製、型番:Agilent 1100)により分析したところ、純度99.14%であった。
【0080】
[実施例15]
実施例11で得られた反応液を単独で用いた以外は、実施例13と同様にして粉末状のHA4を得た。得られたHA4について、高速液体クロマトグラフィー(HPLC、Agilent Technologies社製、型番:Agilent 1100)により分析したところ、純度は99.60%であった。
【0081】
上述したとおり、実施例13〜15得られた3ロットのHA4について、HPLCにより分析したところ、加熱時間を最適な条件にした中間品のみで構成されるロットの純度は99%以上であった。当該HPLC分析結果を図1に示す。
【0082】
[実施例16]
原料ヒアルロン酸として、ヒアルロン酸ナトリウム塩(Baoding Sino-chem Industry製、製品名:Sodium hyaluronate、分子量:1.25×106ダルトン)を用いた。有機スルホン酸として、メタンスルホン酸を用いた。
【0083】
反応器中に、前記ヒアルロン酸ナトリウム塩および0.1Nのメタンスルホン酸水溶液を添加して、80℃で12〜22時間攪拌することにより、前記ヒアルロン酸ナトリウム塩を分解して低分子量ヒアルロン酸を含む反応液を得た。なお、前記メタンスルホン酸水溶液中の前記ヒアルロン酸ナトリウム塩の濃度は5%とした。
【0084】
得られた反応液中のHA4、HA4部分分解物、HA2および単糖分解物の濃度を高速液体クロマトグラフィー(HPLC、Agilent Technologies社製、型番:Agilent 1100)を用いて測定した。測定結果を下表2に示す。
【0085】
【表2】

[実施例17]
メタンスルホン酸水溶液の濃度を0.2Nに変更した以外は、実施例16と同様にして低分子量ヒアルロン酸を含む反応液を得た。
【0086】
得られた反応液中のHA4、HA4部分分解物、HA2および単糖分解物の濃度を高速液体クロマトグラフィー(HPLC、Agilent Technologies社製、型番:Agilent 1100)を用いて測定した。測定結果を下表3に示す。
【0087】
【表3】

[実施例18]
メタンスルホン酸水溶液の濃度を0.3Nに変更した以外は、実施例16と同様にして低分子量ヒアルロン酸を含む反応液を得た。
【0088】
得られた反応液中のHA4、HA4部分分解物、HA2および単糖分解物の濃度を高速液体クロマトグラフィー(HPLC、Agilent Technologies社製、型番:Agilent 1100)を用いて測定した。測定結果を下表4に示す。
【0089】
【表4】

[実施例19]
メタンスルホン酸水溶液の濃度を0.4Nに変更した以外は、実施例16と同様にして低分子量ヒアルロン酸を含む反応液を得た。
【0090】
得られた反応液中のHA4、HA4部分分解物、HA2および単糖分解物の濃度を高速液体クロマトグラフィー(HPLC、Agilent Technologies社製、型番:Agilent 1100)を用いて測定した。測定結果を下表5に示す。
【0091】
【表5】

[実施例20]
メタンスルホン酸水溶液の濃度を0.5Nに変更した以外は、実施例16と同様にして低分子量ヒアルロン酸を含む反応液を得た。
【0092】
得られた反応液中のHA4、HA4部分分解物、HA2および単糖分解物の濃度を高速液体クロマトグラフィー(HPLC、Agilent Technologies社製、型番:Agilent 1100)を用いて測定した。測定結果を下表6に示す。
【0093】
【表6】

[比較例1]
0.1Nのメタンスルホン酸水溶液を1.0Nの塩酸に変更した以外は、実施例16と同様にして低分子量ヒアルロン酸を含む反応液を得た。
【0094】
得られた反応液中のHA4、HA4部分分解物、HA2および単糖分解物の濃度を高速液体クロマトグラフィー(HPLC、Agilent Technologies社製、型番:Agilent 1100)を用いて測定した。測定結果を下表7に示す。
【0095】
【表7】

[実施例21]
原料ヒアルロン酸として、ヒアルロン酸(株式会社フードケミファ社製、製品名:ヒアルロン酸FCH-SU、化粧品グレード 分子量 10万以下)を用いた。有機スルホン酸として、メタンスルホン酸(和光純薬工業株式会社製)を用いた。
【0096】
反応器中に、前記ヒアルロン酸および0.3Nの前記メタンスルホン酸水溶液(3リットル)を添加して、80℃で22時間攪拌することにより、前記ヒアルロン酸を加熱分解して低分子量ヒアルロン酸を含む反応液を得た。なお、前記メタンスルホン酸水溶液中の前記ヒアルロン酸の濃度は5%とした。
【0097】
得られた反応液中のHA4の濃度を高速液体クロマトグラフィー(HPLC、Agilent Technologies社製、型番:Agilent 1100)を用いて測定した。測定結果を下表9に示す。
【0098】
[比較例2]
下表8に示すとおり添加する酸の条件および加熱条件を変更した以外は、実施例21と同様にして低分子量ヒアルロン酸を含む反応液を得た。得られた反応液中のHA4の濃度を高速液体クロマトグラフィー(HPLC、Agilent Technologies社製、型番:Agilent 1100)を用いて測定した。測定結果を下表8に示す。
【0099】
[比較例3]
下表8に示すとおりメタンスルホン酸水溶液中のヒアルロン酸の濃度を10質量%に変更した以外は、比較例2と同様にして低分子量ヒアルロン酸を含む反応液を得た。得られた反応液中のHA4の濃度を高速液体クロマトグラフィー(HPLC、Agilent Technologies社製、型番:Agilent 1100)を用いて測定した。測定結果を下表8に示す。
【0100】
【表8】

[比較例4]
比較例3で得られた反応液を用いた以外は、実施例13と同様にして精製工程を行って粉末状のHA4を得た。得られたHA4について、高速液体クロマトグラフィー(HPLC、Agilent Technologies社製、型番:Agilent 1100)により分析したところ、純度は96.1%であった。
【0101】
以上の結果から、原料ヒアルロン酸を塩酸で加水分解する場合は、過剰な分解による糖自身の分解物が多いことがわかった。これら分解物はその後の低分子ヒアルロン酸の精製工程に於いて不純物となり、精製後の目的とする低分子ヒアルロン酸の純度を下げる原因である。したがって、原料ヒアルロン酸を塩酸で加水分解する場合、上記のとおり精製工程を行っても最終的なHA4の純度は、96%程度となった。
【0102】
一方、原料ヒアルロン酸をスルホン酸水溶液で加水分解する場合は、塩酸を用いる従来法に比べ過剰な分解による糖分解物を減少させることができ、分解工程後にカラム等で分離精製して得られる低分子ヒアルロン酸、特にHA4の純度および収率が、塩酸で分解する場合よりも良好となったと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の低分子ヒアルロン酸の製造方法は、効率良く安全かつ低コストで、しかも非常に高い収率で純度の高い低分子ヒアルロン酸、特にHA4を得ることができる。このような純度の高い低分子ヒアルロン酸は、医薬品、飲食品および化粧品等の広い分野で有効に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒアルロン酸および/またはその塩を有機スルホン酸水溶液により分解して低分子量化する工程を含むことを特徴とする低分子ヒアルロン酸の製造方法。
【請求項2】
前記有機スルホン酸が下記式(1)で表される化合物であることを特徴とする請求項1に記載の低分子ヒアルロン酸の製造方法。
【化1】

(式(1)中、Rは、炭素原子数1〜10の炭化水素基を表す。)
【請求項3】
前記有機スルホン酸が、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸およびトルエンスルホン酸からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2に記載の低分子ヒアルロン酸の製造方法。
【請求項4】
前記有機スルホン酸がメタンスルホン酸であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の低分子ヒアルロン酸の製造方法。
【請求項5】
前記低分子ヒアルロン酸が4糖以下の低分子ヒアルロン酸であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の低分子ヒアルロン酸の製造方法。
【請求項6】
前記低分子ヒアルロン酸が4糖および/または2糖の低分子ヒアルロン酸であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の低分子ヒアルロン酸の製造方法。
【請求項7】
前記工程が加熱下で行なわれることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の低分子ヒアルロン酸の製造方法。
【請求項8】
前記加熱温度が60〜80℃の範囲であることを特徴とする請求項7に記載の低分子ヒアルロン酸の製造方法。
【請求項9】
前記加熱時間が3〜24時間であることを特徴とする請求項7に記載の低分子ヒアルロン酸の製造方法。
【請求項10】
前記有機スルホン酸水溶液の濃度が0.1〜0.6Nであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の低分子ヒアルロン酸の製造方法。
【請求項11】
前記有機スルホン酸水溶液100質量部に対して、前記ヒアルロン酸および/またはその塩を1〜10質量部添加することを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の低分子ヒアルロン酸の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−1696(P2012−1696A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−140837(P2010−140837)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(505192084)株式会社 糖質科学研究所 (21)
【Fターム(参考)】