説明

低収縮性セメント組成物

【課題】 モルタル、コンクリートの乾燥収縮を低減することは、重要な技術課題であるが、これまで高価な収縮低減剤しかなく、経済的理由により普及が妨げられていた。そのため、安価な収縮低減剤が求められていた。
【解決手段】 セメントに対し、0.5〜4%の常温で液体の植物性油脂を配合することにより、モルタル、コンクリートの乾燥収縮を低減する。低収縮性セメント組成物を安価に製造することが可能となり、低収縮性セメント組成物の普及に大きく貢献することが期待される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な低収縮性セメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントを用いたモルタル、コンクリートは一般的に乾燥収縮が大きく、そのためひび割れが発生するなどの問題がある。そのため、乾燥収縮低減剤が開発され一部使用されている。
【0003】
例えば、従来から提案されているセメント用収縮低減剤は、アルキレンオキシド付加体で代表されるような水溶性の有機物であり(特許文献1参照)、これを練り水に溶解することにより表面張力を下げ、その結果乾燥収縮を低減するというものである。
【0004】
しかしながら、上記した従来の乾燥収縮低減剤は、高価な有機合成物であり、セメント組成物に添加する場合、コスト的な面において使用が制限されているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭56−51148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、高価であるが故に普及が十分でなかった、従来の乾燥収縮低減剤を使用した低収縮性セメント組成物に代って、安価で、且つ、乾燥収縮低減効果の優れた低収縮性セメント組成物及び乾燥収縮低減剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的に対して、本発明者は、特定の油脂をセメント組成物に特定の割合で配合することによって、硬化時の乾燥収縮を著しく防止し、且つ、硬化体においても本来の強度の発現が可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、セメントに対し、常温で液体の植物性油脂を0.5〜4質量%の割合で含有することを特徴とする低収縮性セメント組成物である。
【0009】
また、本発明は、常温で液体の植物性油脂を含有することを特徴とするセメント用収縮低減剤をも提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明においては、安価に入手が可能な植物性油脂をセメント用収縮低減剤として使用し、低収縮性セメント組成物を得ることが可能であり、しかも、得られる低収縮性セメント組成物は、従来の高価なセメント用収縮低減剤を使用した場合と同等の性能を発揮することができる。
【0011】
従って、低収縮性セメント組成物を安価に製造することが可能となり、低収縮性セメント組成物の普及に大きく貢献することが期待される。
【0012】
尚、常温で液体であり、水に不溶性である点で植物性油脂と性能が一致する流動パラフィンのような鉱油は、乾燥収縮の低減効果が小さく本発明の目的を達成することができない。これに対して、植物性油脂である本発明のセメント用収縮低減剤が、何故、前記効果を発揮するかは明確ではなく、今後の解明が待たれるところである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳しく説明する。
【0014】
本発明の低収縮性セメント組成物において、使用される植物性油脂は、常温(25℃)で液体であるものであれば、特に限定されないが、価格、入手のし易さ、使い易さ等から、菜種油、綿実油、大豆油、ごま油、紅花油、オリーブオイルなどが挙げられる。これらの植物性油脂は、単独又は2種以上を混合して使用することができる。
【0015】
また、上記植物性油脂をてんぷら等の他の用途に使用した後の廃油も有効に利用することができ、材料コストを大幅に下げることも可能である。
【0016】
また、本発明の低収縮性セメント組成物において、前記植物性油脂の割合は、セメントの使用量に対して、0.5〜4質量%、好ましくは、1〜3質量%の植物性油脂を乾燥収縮低減剤として配合するのが好ましい。前記植物性油脂の割合が上記0.5質量%より少ないと収縮低減効果が小さすぎ、逆に、4質量%より多過ぎると、セメント組成物の硬化後の強度の低下をもたらすという問題がある。
【0017】
本発明の低収縮性セメント組成物は、前記植物性油脂を含有するものであれば、他の構成は従来から公知のセメント組成物において知られている構成が特に制限無く採用される。
【0018】
例えば、本発明の低収縮性セメント組成物に使用されるセメントは、ポルトランドセメントが一般的であるが、その他、早強セメント、高炉セメント、中庸熱セメント等を使用することができる。
【0019】
また、本発明の低収縮性セメント組成物の調製方法は、特に制限されるものではない。例えば、前記組成を乾式で混合して組成物を構成してもよいし、前記植物性油脂の成分を除いた組成を水と混合し、その後、植物性油脂を添加して組成物を構成してもよい。
【0020】
本発明の収縮低減剤は、公知のセメント用混和剤、混和材と併用してセメント組成物を構成することも出来る。混和材の例としては、硬化促進剤、硬化遅延剤、防錆剤などが挙げられるが、収縮量をさらに小さくするために膨張材との併用は、特に推奨される。また、収縮量の大きいセルフレベリング材への応用も期待できる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例に基づき説明する。ただし本発明は本実例に限定されるものではない。
【0022】
実施例
表1の配合によりモルタル試験を行った。収縮試験はJISA1129のコンタクトゲージ法で、圧縮強度は、JIS R5201に従って測定した。20℃で24時間後に脱型、基長測定後、20℃、60%RHで28日放置し、収縮量、強度を測定した。結果は表1に示すが、十分な収縮低減効果が確認できた。
【0023】
【表1】

【0024】
比較例
表1の3の配合で、油種類をサラダ油に変えて、市販のアルキレンオキシド付加体系収縮低減剤、流動パラフィンを使って同様の試験を行った。市販の収縮低減剤は、収縮率200×10−4、圧縮強度43N/mmとなり十分な収縮低減効果があったが、流動パラフィンは、収縮率350×10−4、圧縮強度38N/mmとなり、収縮低減効果がないことがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントに対し、常温で液体の植物性油脂を0.5〜4質量%の割合で含有することを特徴とする低収縮セメント組成物。
【請求項2】
植物性油脂が菜種油、大豆油、綿実油およびごま油より成る群から選ばれた少なくとも一種である、請求項1に記載の低収縮セメント組成物。
【請求項3】
常温で液体の植物性油脂を含有することを特徴とするセメント用収縮低減剤。
【請求項4】
植物性油脂が菜種油、大豆油、綿実油およびごま油より成る群から選ばれた少なくとも一種である、請求項3に記載の低収縮セメント組成物。