説明

低温域磁気冷凍作業物質ならびに磁気冷凍方式

【課題】 本発明は特に200K以下の低温域で優れた冷却能力を示す磁気冷凍作業物質ならびに磁気冷却方式を提供する
【解決手段】本発明によれば、磁気冷凍作業物質である NaZn13型La(FexSi1-x)13 において、Ceあるいは/およびMnを部分置換し、その組成をLa1-zCez(FexMnySi1-x-y)13 としたことを特徴とする磁気冷凍作業物質、ならびに前記磁気冷凍作業物質NaZn13型La1-zCez(FexMnySi1-x-y)13 を1種類あるいはその組成を変えたものを複数用いて冷却制御を行う磁気冷凍方式を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、190K以下の温度の冷却にも用いることが出来る磁気冷凍作業物質およびその磁気冷凍方式に関する。
【背景技術】
【0002】
オゾン層の破壊、地球温暖化などの環境破壊を引き起こすフロン系ガスを冷媒として用いる従来の気体冷凍に代わる新しい冷凍方式として磁気冷凍が注目されている。磁気冷凍では磁性体を冷媒(冷凍作業物質)とし、その磁気熱量効果、すなわち等温状態で磁性体の磁気秩序を磁場で変化させた際に生じる磁気エントロピー変化、および断熱状態で磁性体の磁気秩序を磁場で変化させた際に生じる断熱温度変化を利用する。そのためフロンおよび代替フロンガスを一切用いずに冷凍を行うことができる。加えて、磁気冷凍の冷凍効率は気体冷凍より高い。つまり、磁気冷凍は省エネにも繋がる環境に優しい冷凍方式である。磁気冷凍の実現に向けて、低い磁場で大きな磁気熱量効果を示す、高効率な冷凍作業物質の開発が望まれている。
【0003】
この様な状況において、NaZn13型La(FexSi1-x)13およびその水素吸収化合物が約190〜340
Kの温度範囲おける冷凍作業物質の候補として上げられている。La(FexSi1-x)13化合物は、キュリー温度約190
K直上において、磁場印加による常磁性から強磁性への1次相転移である遍歴電子メタ磁性転移に伴い巨大磁気熱量効果を示す。このキュリー温度はFe濃度によって可変である。更に、本化合物の約180
Kのキュリー温度は、水素吸収により340 K程度までの温度範囲でその効率を任意に制御可能であり、吸収水素量を制御することで190-340 Kの任意の温度でメタ磁性転移に起因した大きな磁気熱量効果が得られる。La(FexSi1-x)13およびその水素吸収化合物の相乗的な磁気熱量効果は、Fe濃度の磁気熱量効果を向上させることでできる。
【0004】
磁気冷凍は、室温近傍の冷蔵庫や冷凍庫などの家電だけでなく、ガス液化産業や、超伝導デバイスなどを支える冷凍技術への応用も期待されている。しかしながら、NaZn13型La(FexSi1-x)13は、約190
Kのキュリー温度直上において巨大磁気熱量効果を示ため、190 K以下の冷凍技術へ適応することができない。
【特許文献1】特開2000−95862号公報
【特許文献2】特開平6−69190号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、NaZn13型La(FexSi1-x)13は、約190
Kのキュリー温度直上において巨大磁気熱量効果を示す。本発明は、La(FexSi1-x)13のキュリー温度の低下制御を可能とし、190
K以下の温度領域で巨大磁気熱量効果を示す高性能な磁気冷凍作業物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、磁気冷凍作業物質である NaZn13型La(FexSi1-x)13 において、Ceあるいは/およびMnを部分置換し、その組成をLa1-zCez(FexMnySi1-x-y)13 としたことを特徴とする磁気冷凍作業物質が得られる。
【0007】
また、前記xの値を0.86から0.88、前記yの値を0.0から0.025、前記zの値を0.0から0.030において構成することを特徴とする磁気冷凍作業物質が得られる。
【0008】
更には、前記磁気冷凍作業物質NaZn13型La1-zCez(FexMnySi1-x-y)13 を1種類あるいはその組成を変えたものを複数用いて冷却制御を行う磁気冷凍方式が得られる。
【0009】
また、前記磁気冷凍作業物質NaZn13型La1-zCez(FexMnySi1-x-y)13 を用いて、温度70K付近から200K付近の範囲を冷却制御することを特徴とする磁気冷凍方式が得られる。
【0010】
また、前記磁気冷凍作業物質NaZn13型La1-zCez(FexMnySi1-x-y)13 を用いて、温度70K付近から200K付近の範囲を冷却制御する磁気冷凍方式において、NaZn13型La1-zCez(FexMnySi1-x-y)13 の組成を3種類として構成したことを特徴とする磁気冷凍方式が得られる。
【0011】
また、前記3種類の構成は、90K付近の冷却としてLa0.65Ce0.35(Fe0.860Mn0.025Si0.115)13を、130K付近の冷却として La0.65Ce0.35(Fe0.860Mn0.025Si0.115)13 を、200K付近の冷却としてLa(Fe0.88Si0.12)13 として構成したことを特徴とする磁気冷凍方式が得られる。
【0012】
また、前記磁気冷凍作業物質NaZn13型La1-zCez(FexMnySi1-x-y)13 を1種類あるいはその組成を変えたものを複数用いて冷却制御を行う磁気冷凍方式において、磁場を印加し前記磁気冷凍作業物質NaZn13型La1-zCez(FexMnySi1-x-y)13 を作動させることを特徴とする磁気冷凍方式が得られる。
【0013】
また、前記磁場の強さは1Tから2Tの間であることを特徴とする磁気冷凍方式が得られる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、La1-zCez(FexMnySi1-x-y)13のCeおよびMn置換量を制御することで80~190 Kの任意の温度で、比較的低磁場で優れた磁気熱量特性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1にLa(Fe0.89-yMnySi0.11)13の熱磁気曲線を示す。Mn濃度の増加に伴い、キュリー温度は大きく低下する。また、Mn濃度の増加に伴いヒステリシスは減少し、キュリー温度で以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
の温度誘起1次相転移は徐々に不明瞭となる。Maxwellの関係より磁気エントロピー変化は次式で示される。
【化1】

【0016】
ここで、Mは磁化、Bは印加磁場、Tは温度である。つまり、一定磁場中における磁化の温度変化の大きさが磁気エントロピー変化に反映される。Mn濃度の増加に伴い、キュリー温度での磁化の温度変化が小さくなっているため、磁気エントロピー変化の減少が予測され
る。図2に、Si濃度を一定とし、Fe濃度を変えたLa(Fe0.89-yMnySi0.11)13の磁気エントロピー変化を示す。Mn濃度の増加に伴いキュリー温度が低下するため、磁気エントロピー変化はMn部分置換により磁気エントロピー変化のピークは低温側にシフトする。しかしながら、キュリー温度での磁化の温度変化がキュリー温度の低下に伴い小さくなるため、磁気エントロピー変化は徐々に小さくなる。
【0017】
次に、Fe濃度を一定とし、Si濃度を変えたLa(Fe0.88MnySi0.12-y)13の熱磁気曲線を図3に示す。Mn部分置換によりキュリー温度は低下する。キュリー温度が低下しても、キュリー温度での磁化の変化は、部分置換前と同程度と大きい。図4はLa(Fe0.88MnySi0.12-y)13の磁気エントロピー変化の温度依存性である。
【0018】
部分置換によるキュリー温度の低下に伴い、磁気エントロピー変化のピークは低温側へシフトする。この際、磁気エントロピー変化の大きさはほとんど変化しない。その結果、本化合物は170K近傍でー21
J/kg Kの磁気エントロピー変化を示す。図1、2、3および4の結果は、Mn置換後においても大きな磁気エントロピー変化を得るには高いFe濃度が必須となる事を意味している。しかしながら、La-Mnは非固容系なために、例えば、Fe組成が0.88程度の場合、Mnの固容限は0.015程度と小さく、160から180K程度の温度範囲でしかキュリー温度を低下制御することができない。
【0019】
次に、La濃度のみを変えたLa1-zCez(Fe0.88Si0.12)13の熱磁気曲線を図5に示す。Ceの部分置換により、キュリー温度が低下し、キュリー温度での磁化の変化が顕著になる。そのため、図6に示したように、キュリー温度の低下に伴い磁気エントロピー変化も大きくなる。しかしながらCeの固容限は0.2程度と小さく、キュリー温度を大きく低下制御することはできない。
【0020】
そこでLa(Fe0.88Si0.12)13のMnおよびCe両方の部分置換を行った。図7はLa(Fe0.88Si0.12)13、La0.8Ce0.2(Fe0.880Mn0.015Si0.105)13およびLa0.65Ce0.35(Fe0.860Mn0.025Si0.115)13の磁気エントロピー変化の温度依存性である。Fe濃度を0.88とし、MnおよびCeをほぼ固容限まで置換したLa0.8Ce0.2(Fe0.880Mn0.015Si0.105)13において、キュリー温度は130K程度まで低下し、置換前よりも大きな磁気エントロピー変化が観測される。さらに、Fe濃度を0.86とし、MnおよびCeをほぼ固容限まで置換したLa0.65Ce0.35(Fe0.860Mn0.025Si0.115)13では、磁気エントロピー変化は小さくなるが、CeおよびMnの固容限は拡大するため、80K近傍まで、動作温度が低下した。つまり、La1-zCez(FexMnySi1-x-y)13のCeおよびMnの置換量を制御することで70K〜190 Kの任意の温度で大きな磁気エントロピー変化が得られる。
【0021】
次に、RCPを調べた。RCPとは、磁気エントロピー変化のピークの最大値とピークの半値幅の積で定義され、一回の磁気冷凍サイクルで、磁性体が吸放出できる熱量の最大値に相当する。広い温度領域を冷却する際に、特に重要となる磁気熱量特性である。表1にLa(Fe0.88Si0.12)13、La0.8Ce0.2(Fe0.880Mn0.015Si0.105)13およびLa0.65Ce0.35(Fe0.860Mn0.025Si0.115)13のRCPを示す。ここでTcはキュリー温度である。全ての組成におけるRCPは、同程度の大きな値を持つ。従って、La1-zCez(FexMnySi1-x-y)13のCeおよびMnの置換量を制御することで80〜190 Kの任意の温度で大きなRCPを得ることができる。
【0022】
そして、La(Fe0.88Si0.12)13、La0.8Ce0.2(Fe0.880Mn0.015Si0.105)13およびLa0.65Ce0.35(Fe0.860Mn0.025Si0.115)13の断熱温度変化の温度依存性を図8に示す。断熱温度変化に関しても磁気エントロピー変化と同様、Fe濃度が同じであれば、キュリー温度を低下制御しても、置換前とほぼ同程度もしくはそれ以上の値が得られる。
【0023】
一方、La0.65Ce0.35(Fe0.860Mn0.025Si0.115)13は、2Tの磁場印加では約5
Kとなるが、1 Tの磁場印加では約4 Kの断熱温度変化が観測された。この値はLa(Fe0.88Si0.12)13およびLa0.8Ce0.2(Fe0.880Mn0.015Si0.105)13の印加磁場1
Tにおける断熱温度変化とほぼ同程度である。つまり、La1-zCez(FexMnySi1-x-y)13のCeおよびMnの置換量を制御することで70Kから190 Kの任意の温度で大きな断熱温度変化が得られる。
【0024】
La1-zCez(FexMnySi1-x-y)13はCeおよびMnの置換量を制御することで70Kから190 Kの任意の温度で、比較的低磁場で優れた磁気熱量特性を示す。
【0025】
【表1】

La(Fe0.88Si0.12)13、La0.8Ce0.2(Fe0.880Mn0.015Si0.105)13およびLa0.65Ce0.35 (Fe0.860Mn0.025Si0.115)13のキュリー温度とRCP。
【0026】
従って、La1-zCez(FexMnySi1-x-y)13は70Kから190
Kの温度範囲において、磁気冷凍作業物質として有望である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】La(Fe0.89-yMnySi0.11)13のy=0.0、0.1、0.2および0.3における熱磁気曲線。
【図2】La(Fe0.89-yMnySi0.11)13のy=0.0、0.1、0.2および0.3における磁気エントロピー変化の温度依存性。
【図3】La(Fe0.88MnySi0.12-y)13のy=0.000および0.015における熱磁気曲線。
【図4】La(Fe0.88MnySi0.12-y)13のy=0.000、0.010および0.015における磁気エントロピー変化の温度依存性。
【図5】La1-zCez(Fe0.88Si0.12)13のz=0.0、0.1、0.2および0.3における熱磁気曲線。
【図6】La1-zCez(Fe0.88Si0.12)13のz=0.0、0.1、0.2および0.3における磁気エントロピー変化の温度依存性。
【図7】La(Fe0.88Si0.12)13、La0.8Ce0.2(Fe0.880Mn0.015Si0.105)13およびLa0.65Ce0.35(Fe0.860Mn0.025Si0.115)13の磁気エントロピー変化の温度依存性。
【図8】La(Fe0.88Si0.12)13、La0.8Ce0.2(Fe0.880Mn0.015Si0.105)13およびLa0.65Ce0.35(Fe0.860Mn0.025Si0.115)13の断熱温度変化の温度依存性。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気冷凍作業物質である NaZn13型La(FexSi1-x)13 において、Ceあるいは/およびMnを部分置換し、その組成をLa1-zCez(FexMnySi1-x-y)13 としたことを特徴とする磁気冷凍作業物質。
【請求項2】
前記xの値を0.86から0.88、前記yの値を0.0から0.030、前記zの値を0.0から0.035において構成することを特徴とする請求項1記載の磁気冷凍作業物質。
【請求項3】
前記磁気冷凍作業物質NaZn13型La1-zCez(FexMnySi1-x-y)13 を1種類あるいはその組成を変えたものを複数用いて冷却制御を行う磁気冷凍方式。
【請求項4】
前記磁気冷凍作業物質NaZn13型La1-zCez(FexMnySi1-x-y)13 を用いて、温度70K付近から200K付近の範囲を冷却制御することを特徴とする請求項3記載の磁気冷凍方式。
【請求項5】
前記磁気冷凍作業物質NaZn13型La1-zCez(FexMnySi1-x-y)13 を用いて、温度70K付近から200K付近の範囲を冷却制御する磁気冷凍方式において、NaZn13型La1-zCez(FexMnySi1-x-y)13 の組成を3種類として構成したことを特徴とする請求項4記載の磁気冷凍方式。
【請求項6】
前記3種類の構成は、90K付近の冷却としてLa0.65Ce0.35(Fe0.860Mn0.025Si0.115)13を、130K付近の冷却として La0.65Ce0.35(Fe0.860Mn0.025Si0.115)13 を、200K付近の冷却としてLa(Fe0.88Si0.12)13 として構成したことを特徴とする請求項5記載の磁気冷凍方式。
【請求項7】
前記磁気冷凍作業物質NaZn13型La1-zCez(FexMnySi1-x-y)13 を1種類あるいはその組成を変えたものを複数用いて冷却制御を行う磁気冷凍方式において、磁場を印加し前記磁気冷凍作業物質NaZn13型La1-zCez(FexMnySi1-x-y)13 を作動させることを特徴とする請求項3乃至6記載の磁気冷凍方式。
【請求項8】
前記磁場の強さは0Tから2Tの間であることを特徴とする請求項7記載の磁気冷凍方式。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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