説明

低温用鉄筋棒の製造方法

【発明の詳細な説明】
[産業上の利用分野]
本発明は低温用鉄筋棒の製造方法に関する。
[従来の技術]
低温、特に−100℃付近の温度条件で所定の強度と靱性を保持できる鉄筋コンクリート用棒鋼が近年の極低温物質をたくわえる構造物、たとえば冷凍庫、液化ガス用タンク等に使用する目的で求められている。
そこで、低温用鉄筋棒の開発が行われており、特にコスト的に有利な制御圧延による方法が研究され、次の技術が知られている。すなわち、重量%で、C:0.02〜0.17%,Si:0.7%以下,Mn:0.6〜2.0%.solAl:0.01〜0.07%を含有し、さらに必要に応じてLa:0.01%以下,Ce:0/01%以下,およびCa:0.01%以下のうちの1種または2種以上含有し、残りがFeおよび不可避的不純物よりなる組成を有する鋼を、Ac3変態点〜Ac3変態点+20℃の範囲内の温度に加熱したのち、断面減少率にて全圧下率を75%以上、850℃以上で圧延する場合には1パス当りの圧下率を10%以上、850℃以下の累積圧下率を50%以上にして、かつ仕上温度をAr3±30℃とする条件で圧延を行なって、圧延後放冷または強制冷却する低温用棒鋼の製造方法である(特開昭57−185921号公報)。
[従来技術の問題点]
従来の制御圧延による低温用鉄筋の製造方法では鉄筋棒の素地を圧延により微細なフェライト・パーライト組織にすることにより所定の低温靱性が得られる構造となっている。
このようなフェライト・パーライト組織では、強度がベイナイト・マルテンサイト組織に比較し低い。しかし急冷処理により低温での強度を改善すると靱性が悪くなるという欠点がある。
[問題点を解決するための手段]
本発明では、重量%でC:0.02〜0.12%、Si:0.05〜0.5%、Mn:1.0〜1.8%、Ni0.20〜1.0%、Ti:0.010〜0.050%、N≦0.007% Al:0.01〜0.07%、B:0.0006〜0.0030%、残部不純物とFeからなる鋼材を850〜1000℃に加熱し、加熱後の該鋼材の仕上げ圧延を、該鋼材の温度が680〜780℃であるときに、15%以上の圧下量で行い、鉄筋棒にした後、該鉄筋棒を空冷または急冷によって組織をフェライト、ベイナイト、マルテンサイトの混合組織にしたことを特徴とする低温用鉄筋棒の製造方法により問題点を解決した。
ここで成分元素の重量%を限定した理由を示す。
Cは低温靱性の面から添加量が少ない方が望ましく、0.12%以下であることが必要である。一方、添加量を低くすると材料の強度が低下するため所定の強度を得るためには0.02%以上必要である。
Siは脱酸のため0.05%以上必要であるが、添加量を多くすることにより、低温靱性が低下するので上限は0.5%とする。
Mnは焼入れ性を改善し、強度を高めるためには1.0%以上必要であるが、NiやBの効果を併用することによって1.8%以上添加しても焼入れ性の効果が向上しないため上限を1.8%にした。
Niは低温における衝撃特性を改善する効果的元素で、最低0.2%以上必要である。しかし添加量を多くすると改善効果が減少してくることとNiが高価であることから1.0%以下で十分である。
Tiは、Bの焼入れ効果を促進するように鋼材中のNを固定するために添加するもので、0.010%以上必要であるが、溶製時に不可避に入ってくるNを固定するだけなので0.050%以下で十分である。
NはTiと化合しTiNとなって鋼材の靱性を低下させるので最大でも0.007%とする。
Alは脱酸のために添加するもので、脱酸を十分に行うためには0.01%以上必要であるが、多過ぎると熱間加工中に鋼材に割れが生じるので最大値を0.07%とする。
Bは、鋼材の焼入れ性を増し、かつ組織をベイナイトやマルテンサイトにして低温靱性を改善するために必要である。焼入れ性を良くし、低温靱性を改善するには0.0006%以上必要であるが、添加量を増やし、0.0030%より多くしても効果はほとんど変わらないので最大値は0.0030%とする。
ここで鋼材の低温の靱性を高めるとともに強度を高くするためには、圧延中のオーステナイト結晶粒を細粒にして、細粒にしたオーステナイト結晶粒が成長する以前に組織をマルテンサイトとベイナイトに変態させることが必要である。
そのため上記成分からなる鋼材を圧延する時の温度はオーステナイト結晶粒の粗大化を防ぐため低温であることが望ましいが、圧延温度が極端に低温になると圧延割れが生じるので加熱温度は850〜1000℃とする。
また、結晶粒の微細化には低温仕上げ圧延が効果的であるが、あまり低温にすると、圧延中に鋼材の表面割れを生じるようになる。しかし、仕上げ圧延温度を680〜780℃とすると鋼材に表面割れが生じなくなる。また、仕上圧延中の再結晶粒を微細化するためには仕上圧延スタンドで最低15%以上の圧延率が必要で、圧延率が少ないと粗大粒になる。
また、仕上げ圧延後は組織をパーライトにせず、仕上げ圧延後に空冷または急冷し、フェライト、ベイナイト、マルテンサイトの混合組織にすることにより、鋼材の低温における優れた靱性、強度等の特性が得られる。
[実施例]
表に示す成分の鋼を溶製し、鋼片に分魂後、表中の加熱温度に加熱して、圧延をした。圧延の中間水冷によって仕上げ温度のコントロールをした。仕上げ圧延率はNo.6は8%でそれ以外は20%であり、仕上げ寸法は25mm直径の棒で、仕上げロールを出た後に水冷をすることによって700℃から500℃までの平均冷却速度を50℃/secの急冷条件にした。
圧延棒鋼の引張試験と2mmVノッチシャルピー衝撃試験を行なった。その試験結果を表に示す。
尚、ここでは低温用鉄筋とはVノッチシャルピーの破面遷移温度vTrsが−80°以下のものをいう。
比較例のうち、vTrsが−80°以上となったのは、No.2,3,4,6,7であり、このようにvTrsが−80°以上となったのは下記の理由による。
No.2は、Ti,Bが少なく焼入れ性が悪いため、低温特性の悪い中間段階組織(アッパーベイナイト)が多かったためである。
No.3は、Niが少なく焼入れ性が悪く低温特性が劣化したためである。
No.4は、加熱温度と仕上げ温度が高く、結晶粒の大きいものが、混在したためである。
No.6は、仕上げ圧下率が少なく、一部粗粒が発生したためである。
No.7は、仕上げ温度が低すぎ、再結晶しない変形粒が混在していたためである。
実施例であるNo.1,No.5はvTrsが−80°以下を十分満足している。またVノッチエネルギ値(vE-80)も高靱性であることを示している。
[発明の効果]
上述のように、本発明の低温用鉄筋棒の製造方法によれば低温、特に−80℃以下において高強度と高靱性が得られる棒鋼を製造できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】重量%でC:0.02〜0.12%、Si:0.05〜0.5%、Mn:1.0〜1.8%、Ni:0.20〜1.0%、Ti:0.010〜0.050%、N≦0.007% Al:0.01〜0.07%、B:0.0006〜0.0030%、残部不純物とFeからなる鋼材を850〜1000℃に加熱し、加熱後の該鋼材の仕上げ圧延を、該鋼材の温度が680〜780℃であるときに、15%以上の圧下量で行い、鉄筋棒にした後、該鉄筋棒を空冷または急冷によって組織をフェライト、ベイナイト、マルテンサイトの混合組織にしたことを特徴とする低温用鉄筋棒の製造方法。

【公告番号】特公平6−72260
【公告日】平成6年(1994)9月14日
【国際特許分類】
【出願番号】特願昭61−207189
【出願日】昭和61年(1986)9月3日
【公開番号】特開昭63−62819
【公開日】昭和63年(1988)3月19日
【出願人】(999999999)株式会社神戸製鋼所
【参考文献】
【文献】特開昭62−287012(JP,A)
【文献】特開昭61−56264(JP,A)