説明

低温硬化性防曇塗料

【課題】 耐熱性の低いプラスチック材等の基材上へのコーティングを可能とした低温硬化性防曇塗料を提供する。
【解決手段】 4官能アルコキシシランの加水分解縮合物と(メタ)アクリル樹脂とグリコールと低級アルコールを含んでなる。ここで、4官能アルコキシシランの加水分解縮合物20〜40重量部、(メタ)アクリル樹脂20〜40重量部、グリコール1〜10重量部、低級アルコール1〜10重量部、残部が水からなるものが好ましい。また、水素イオン濃度指数を8〜10に調整するpH調整剤を添加するとよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材が耐熱性の低いプラスチック材でも使用可能な低温硬化性の防曇塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
防曇塗料としては、水の接触角を小さくし、表面を親水化するコーティング剤としてアルコール系のものが多い。例えば、特開2001−40294号公報には、ケン化が高いPVA(ポリビニルアルコール)を塗料化している。短期間使用の防曇塗料では、界面活性剤を使用し、基材面側には界面活性剤の疎水基を反対に表面側には親水基を配列することにより防曇性を発揮させるようにしたスプレー剤もある(特開2004−143443号公報)。また、特開2000−17620号公報のように、光触媒含有層を付加した提案もある。
他方、表面を撥水性にして基材に水滴を着けないようにして防曇する方法も提案されている。その材料として、特開2001−40294号公報ではシリコン系撥水剤及びフッ素系樹脂を使用している。
設備的方法としては、目的の基材に熱を加え基材を露点以上の温度にすることにより防曇する装置が一般家庭の鏡に使用されているものもある。
【特許文献1】特開2001−40294号公報
【特許文献2】特開2004−143443号公報
【特許文献3】特開2000−17620号公報
【特許文献4】特開2001−40294号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、親水性コーティング剤としてのアルコール系のものでは、低温では硬化するのに時間がかかるため加熱硬化させるのが一般的であるが、その温度が高温であるため、耐熱性の低いアクリル樹脂等の基材では熱により変形してしまう。
界面活性剤を使用する場合も、基材表面は親水性を有するが、空気中の水分と反応するため、劣化が激しく長期の効果は期待できない。そのため、シリカ系の無機物を使用した塗料も開発されているが、表面クラックが発生することが問題となっている。
他方、撥水による水滴除去では、水接触角が150°以上でないと長期に亘って安定して防曇能を期待できないが、現状では120°前後であるため、長期に亘って安定して防曇性を発揮するのは難しいと考えられる。
露点以上の温度を加える方法では、熱源及びその装置が必要となり、高コストとなり、道路反射鏡等への適用は難しい。
【0004】
親水性のコーティング剤として従来のものは、防曇性能を発揮するためには、150〜250℃以上で乾燥させることが多く、ガラス、金属等耐熱性のある基材上へのコーティングであれば問題ないが、耐熱性の低いプラスチック材からなる基材に対しては、このようなコーティング剤は使用できない。
【0005】
そこで、本発明は、耐熱性の低いプラスチック材等の基材上へのコーティングを可能とした低温硬化性防曇塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明による低温硬化性防曇塗料は、4官能アルコキシシランの加水分解縮合物と(メタ)アクリル樹脂とグリコールと低級アルコールを含んでなること、を特徴としている。
ここで、4官能アルコキシシランの加水分解縮合物20〜40重量部、(メタ)アクリル樹脂20〜40重量部、グリコール1〜10重量部、低級アルコール1〜10重量部、残部が水からなるものが好ましい。水の量は30〜50重量部程度である。
また、水素イオン濃度指数を8〜10に調整するpH調整剤を添加するとよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明による低温硬化性防曇塗料は、4官能アルコキシシランの加水分解縮合物と(メタ)アクリル樹脂とグリコールと低級アルコールを含んでなるもので、50〜60℃程度の低温でも硬化し(乾燥し)、基材に対して密着性のよい塗膜の形成が可能である。従って、耐熱性の低いプラスチック材等の基材上へのコーティングが可能となる。
4官能アルコキシシランの加水分解縮合物20〜40重量部、(メタ)アクリル樹脂20〜40重量部、グリコール1〜10重量部、低級アルコール1〜10重量部、残部が水からなるものとすれば、外観(透明性)、長期防曇性、長期耐水性の良好な塗膜を得ることができる。
また、水素イオン濃度指数を8〜10に調整するpH調整剤を添加しておけば、長期に亘って安定的に防曇塗料を保存することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための最良の形態についてより具体的に説明する。
本発明による防曇塗料の適用可能な基材としては、耐熱性の比較的低い(メタ)アクリル樹脂などのプラスチック材である。このような耐熱性の低い基材では、例えば150〜250℃程度の高温での硬化,乾燥は基材の変形を招くためできない。本発明による低温硬化性防曇塗料によれば、50〜60℃程度の低温での乾燥でも、強固に塗膜を基材に密着させることができる。
【0009】
本発明による低温硬化性防曇塗料は、4官能アルコキシシランの加水分解縮合物と(メタ)アクリル樹脂とグリコールと低級アルコールを含んでなるもので、残部は水である。ここで、4官能アルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン,テトラエトキシシラン,テトラプロポキシシランが挙げられる。
【0010】
本発明において4官能アルコキシシランの加水分解縮合物(親水性シロキサン化合物)は、次の化1で示されるものである。
【0011】
【化1】

【0012】
なお、化1において、末端基は「−OH」である。かかる4官能アルコキシシランの加水分解縮合物の粘度は5〜20ミリポアズ程度である。粘度が5ミリポアズ未満では、防曇性が発揮できない。一方、粘度が20ミリポアズを超えると、ゲル化して塗布作業に支障をきたす。粘度が5〜20ミリポアズ程度の範囲で、上記化1におけるnは100〜500程度である。
【0013】
また、かかる4官能アルコキシシランの加水分解縮合物は次のようにして得る。先ず、4官能アルコキシシランを酸性条件下で水を添加して加熱して反応させてシラノール化合物(Si(OH)4 )を得、このシラノール化合物が脱水縮合して化1に示す加水分解縮合物を得る。反応が進み所定の粘度に達した段階で加熱を止めて反応を止める。
【0014】
かかる4官能アルコキシシランの加水分解縮合物中の水酸基(−OH)が親水性に寄与して防曇性を発揮する。即ち、塗膜表面が親水化され、表面に付着する水分は表面に一様に拡散するため、結露し難くなり防曇性を発揮するものである。
【0015】
(メタ)アクリル樹脂は、メタクリル樹脂及び/又はアクリル樹脂を意味する。この(メタ)アクリル樹脂は、基材となる耐熱性の低いプラスチック材、例えばアクリル樹脂等との密着性向上に寄与する。
【0016】
グリコールとしては、エチレングリコール,プロピレングリコールなどが挙げられる。また、低級アルコールとしては、炭素数1〜3からなるもの、具体的にはメチルアルコール,エチルアルコール,プロピルアルコールなどが挙げられる。これらグリコールとアルコールは、塗料の表面張力を低下させて、基材表面への一様な塗膜を形成し易くする。
【0017】
アクリル樹脂,親水性シロキサン,アルコール,グリコールの配合割合の適用条件を評価するために、表1に示す配合割合で塗料を調整し、評価を行った。
ここで、親水性シロキサンは、次のようにして調整した。
テトラエトキシシラン20重量部に0.1N塩酸7重量部、エチルアルコール2重量部、水71重量部を添加して1.2気圧下120〜150℃に加熱し、反応させ、シラノール化合物を経て、これが脱水縮合して化1に示す親水性シロキサン化合物を得た。得られた化合物の粘度は10ミリポアズ程度で、化1におけるnは、200〜300程度である。
【0018】
【表1】

【0019】
表1において、作業性は基材表面への塗料の塗布作業の容易さを示す。初期防曇性は基材表面へ塗布乾燥後、40℃程度の水を霧状にして噴霧して曇り度合いを評価した。初期耐水性は塗布後7日間水に浸漬し、その後乾燥し、塗膜が基材表面に密着しているか否かにより評価した。長期防曇性,長期耐水性は1年程度経過後の防曇性,耐水性を示す。なお、この長期防曇性,長期耐水性はサンシャインウェザーメータでの促進試験により1年程度を想定して評価した。
【0020】
アクリル樹脂が多くなると、防曇性及び長期耐水性が低下する。無機質であるシロキサンが多くなると、防曇性及び耐水性は向上するが、外観の透明性が低下し少し曇った状態となる。
コーティング剤の基材との密着性を確保するためにエチルアルコール及びエチレングリコールを添加した。これらは、コーティング剤の表面張力を低下させる作用のため、硬化後の塗膜をより平滑化させて長期の防曇性も確保できる。
なお、アルコール単独ではなくグリコールと併用することにより、表面張力を低下させる作用をより高めることができる。アルコールだけを用いその量を多くし過ぎると透明性が低下してくる。またエチレングリコールだけを用いその量を多くし過ぎると透明性が低下してくる。このため、アルコールとグリコールとを併用するようにしている。
【0021】
以上より、4官能アルコキシシランの加水分解縮合物は20〜40重量部が好ましく、(メタ)アクリル樹脂は20〜40重量部が好ましく、グリコールは1〜10重量部が好ましく、低級アルコールは1〜10重量部が好ましく、残部が水(水30〜50重量部)からなるものが好ましい。
【0022】
水素イオン濃度指数(pH)を8〜10に調整するpH調整剤を添加しておくのが、長期に亘って安定的に防曇塗料を保存可能とする上で好ましい。このようなpH調整剤としては、例えば、水ガラス(珪酸ナトリウム),アミン系(モノメチルアミン,ジメチルアミン,トリメチルアミンなど)水溶液,苛性アルカリ(水酸化ナトリウム,水酸化カリウムなど)水溶液などが挙げられ、その添加割合は、防曇塗料100重量部に対して0.1〜0.3重量部程度である。
【0023】
上記実施例による防曇塗料(アクリル樹脂25重量部、親水性シロキサン25重量部、エチルアルコール5重量部、エチレングリコール5重量部、残部水からなるもの)(実施例1)と、高温硬化性のアクリル樹脂系防曇塗料(比較例1)と、高温硬化性のPVA(ポリビニルアルコール系)防曇塗料(比較例2)との比較
乾燥温度はプラスチック系へのコーティングを考えた場合、50〜60℃程度の温度が最適であり、これを超える温度では基材の熱による変形が起こる。このため、50℃で10分間の乾燥処理を行った後評価した。その結果を表2に示す。
【0024】
【表2】

【0025】
表2から分かるように、比較例として用いた高温硬化性のアクリル樹脂系防曇塗料(比較例1)と高温硬化性のPVA(ポリビニルアルコール系)防曇塗料(比較例2)はいずれも密着性が悪く、耐水性に問題があり水に浸漬すると5分程度で剥がれた。比較例1及び比較例2のものは、もともと150〜250℃程度の高温で硬化させる塗料であるため、50〜60℃程度の低温では基材への密着性が悪い。これに対して実施例1のものは、外観(光沢性,透明性),防曇性,耐水性のいずれも良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明による低温硬化性防曇塗料は、屋外で使用する道路反射鏡用の防曇塗料として好適である。特に耐熱性の低いアクリル樹脂等のプラスチック基材からなる道路反射鏡用の防曇塗料として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4官能アルコキシシランの加水分解縮合物と(メタ)アクリル樹脂とグリコールと低級アルコールを含んでなることを特徴とする低温硬化性防曇塗料。
【請求項2】
4官能アルコキシシランの加水分解縮合物20〜40重量部、(メタ)アクリル樹脂20〜40重量部、グリコール1〜10重量部、低級アルコール1〜10重量部、残部が水からなる請求項1に記載の低温硬化性防曇塗料。
【請求項3】
水素イオン濃度指数を8〜10に調整するpH調整剤を添加してなる請求項1又は2に記載の低温硬化性防曇塗料。

【公開番号】特開2009−102493(P2009−102493A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−274595(P2007−274595)
【出願日】平成19年10月23日(2007.10.23)
【出願人】(507351665)
【出願人】(507350484)
【出願人】(507351676)有限会社エコクリーン (1)
【出願人】(507350495)
【Fターム(参考)】