説明

低溶解性化合物の吸収特性の評価法

本発明は、少なくとも一つの所定のpH値において、低溶解性化合物と賦形剤との組み合わせに対する流束関数の変化を評価するステップを有する、低溶解性化合物の予測される吸収特性に対する、賦形剤、pHおよびそれらの組み合わせの効果を評価する方法に関係する。当該方法は、薬剤分子(即ち低溶解性化合物)の吸収を最適化することができる賦形剤の、高速、正確、かつ経済的な評価を可能にする。さらにそのような評価においては、動物実験を排除することができ、かつ化合物の使用を減らすことができる。即ち、当該方法は高速で、化合物を節約し、コスト効率がよく、かつある程度正確である為、薬剤候補の将来的な製剤化の有効性(溶解度および透過率に対するpHおよび賦形剤の効果)についての正当なスクリーニングを行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、独立請求項1のプリアンブルに従えば、低溶解性化合物(low solubility compounds)の予測される吸収特性に対する、賦形剤、pHおよびそれらの組み合わせの効果を評価する方法に関し、とりわけ、独立請求項20に従えば、当該方法を行うために設定(arranged)されているコンピュータープログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
イオン性(ionizable)化合物のヒト腸管吸収(human intestinal absorption;HIA)は、溶解性、透過性、およびpKという主要な三つの特性に同時に依存しうる(Avdeef A., “Absorption and Drug Development”, Wiley Interscience, NY, 2003)。この関連性は、アブソープション・ポテンシャル(the Absorption Potential)(Dressman JB et al., “J. Pharm. Sci.”, 1985, 74, 588)、バイオファーマシューティクス・クラシフィケーション・システム(the Biopharmaceutics Classification System)(Guidance for Industry, “Waiver of In Vivo Bioavailability and Bioequivalence Studies for Immediate Release Solid Oral Dosage Forms Based on a Biopharmaceutics Classification System”, FDA, Washington, D.C., USA, August 2000)、及びマキシマム・アブソーバブル・ドース(the Maximum Absorbable Dose)の関数(Curatolo W. “Pharm. Sci. Tech. Today”, 1998, 1, 387)に例証されている。簡潔に述べると、フィックの拡散法則が、これらのモデル全ての基礎となっている。
【0003】
腸内では、水溶性の弱塩基がわずかにアルカリ性の部位(例、遠位回腸中)からよりよく吸収され、弱酸がわずかに酸性の部位(例、近位空腸)からよりよく吸収される。これはBrodieおよび共同研究者ら(Shore PA et al., “J. Pcol. Exp. Therap.”, 1957, 119, 361)によって理論的に説明されており、彼らは、イオン性薬剤の腸管吸収に対するpHの効果を説明するためにpH分配仮説(pH Partition Hypothesis)を導入した。ラットの腸管を種々のpHの薬剤溶液によりインサイチュで灌流し、それと同時に薬剤を静脈注射した。正味の腸壁輸送がなくなるまで管腔灌流液中の薬剤濃度が調整されたが、それは、血液−管腔バリア率(blood-lumen barrier ratio)
【0004】
【数1】

【0005】
を定義することを可能とするためであった。
【0006】
中性型の薬剤のみが透過するとすれば、式(1)は薬剤のpKおよび腸管バリアの両側間のpH勾配から予測できる(Shore PA et al., “J. Pcol. Exp. Therap.” 1957, 119, 361):
【0007】
【数2】

【0008】
式(2)は、透過性のpH依存性から導かれており、周知のHenderson−Hasselbalch(HH)式に基づいている。インサイチュ腸管灌流での吸収率の直接測定によりpH依存性が裏付けられ、これらの初期の実験において理論と観察とがよく整合していることをさらに支持していた。
【0009】
pH分配仮説から、膜透過性は分子が最も荷電しないpHで最大になることが示唆される。しかし、これは分子が最も溶けないpHでもある。Brodieの研究ではテストされるすべての化合物が比較的高い水溶解性を有していることに留意することが特に重要である。吸収部位における、非荷電化学種の量と中性化学種がリン脂質膜バリアを横断する傾向との両方が、吸収を予測するための重要な判断材料である。固有透過係数(固有透過率、intrinsic permeability coefficient)Pは、非荷電化学種の膜輸送を特徴づける。非荷電化学種の濃度Cは、HH式によれば、分子の量、溶解度、pK、および吸収部位のpHに依存する。
【0010】
コンビナトリアル化学のプログラムは、溶解度が低いと予想される、分子量のより大きい分子を選択する傾向があった。リピンスキーの「ルールオブファイブ」(Lipinski’s ‘Rule of 5’)(Lipinski C., “Amer. Pharm. Rev.” 2002, 5, 82)のような「早期警告」ツールや、二次元構造から溶解度を予測するコンピュータープログラムは、発見計画の早期にそのような分子を除外することを試みている。それでもなお、溶解度を測定するために使用された初期の過度に単純化された方法や、発見測定に使用された有機溶媒(例、ジメチルスルホキシド)の遮蔽効果が原因で、溶解度について解決が難しい多くの分子は識別されないままであった。ネフェロメトリーに基づく動力学的溶解度測定は、高速ではあるが、インシリコでの予測法と同様に信頼できるものでないことは間違いない(Glomme A. et al. “J. Pharm. Sci.”, 2005, 94, 1)。
【0011】
難溶性(sparingly soluble)分子(例、化合物または薬剤)の溶解度の測定は、数多くの理由から困難なものである。とりわけ、HH式は、溶液中にアグリゲートおよびミセル様構造物が多く存在することに主に起因して、難溶性分子のpH依存性を不十分にしか予測していない(Bergstrom CAS et al., “Eur. J. Pharm. Sci”, 2004, 22, 387およびUS 6,569,686 B2)。そのようなアグリゲートは、(荷電化学種が存続するpH溶液中において)著しく高い溶解度を有しており、温度に敏感に依存する。
【0012】
透過性の測定もまた、結果がpHのアッセイ方法に特に依存するため、相当な不確実性を伴い、そのようなアッセイ(細胞膜と人工膜の両方の透過性アッセイ)においては、種々の研究室により、水境界層(aqueous boundary layer;ABL)、および不完全なマスバランスにて処理されている(Avdeef A. et al., “Eur. J. Pharm. Sci”, 2005, 24, 333)。
【0013】
故に、医薬の研究開発中の候補選択段階におけるより正確な(それにも関わらず高速な)溶解度法および透過法が、本当に問題となる分子をかなり早い時期に識別するのに特に役立つであろう(Bergstrom CAS et al., “Eur. J. Pharm. Sci”, 2004, 22, 387およびGlomme A. et al. “J. Pharm. Sci“, 2005, 94, 1)。
【0014】
吸収過程、特にHIA過程におけるpH、溶解性、透過性の上述した効果の他に、賦形剤の使用が、吸収過程、特に難溶性分子の吸収過程に、本質的に影響を及ぼし得る。上記効果の複雑さを考えると、吸収過程の最適化を可能にする好適な賦形剤を評価するのは非常に難しい課題である。今日、そのような評価は動物実験をすることで行われている。動物実験は通常、比較的時間を消費し、比較的多大な労力を要し、そして倫理的にも議論の余地がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従って、前記の吸収における賦形剤の効果を考えると、高速に、化合物を節約して、コスト効率よく、かつある程度正確に難溶性分子(即ち、低溶解性化合物または薬剤)の吸収特性を予測することを可能とする、倫理的にも受け入れることのできる方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
発明の開示
本発明によればこのニーズは、独立請求項1の特徴によって規定される方法、および独立請求項20の特徴によって規定されるコンピュータープログラムによって解決される。好ましい実施形態が、従属請求項の対象となっている。
【0017】
本発明はとりわけ、低溶解性化合物の予測される吸収特性に対する、賦形剤、pHおよびそれらの組み合わせの効果を評価する方法に関係しており、当該方法は、少なくとも一つの所定のpH値において、低溶解性化合物と賦形剤との組み合わせに対する流束関数(flux function)の変化を評価するステップを有する。
【0018】
以下で使用する「低溶解性」は、米国食品医薬品局によって生物学的利用能・生物学的同等性の規制ガイドラインとして採用されているバイオファーマシューティクス・クラシフィケーション・システム中の溶解度の定義に基づいている(“FDA guidance for industry waiver of in vivo bioavailability and bioequivalence studies for immediate release solid oral dosage forms containing certain active moieties/active ingredients based on a biopharmaceutics classification system”, CDERGUID/2062dft.wpd Draft, Jan. 1999)。詳細には、溶解度の大きさは、1から8のpH範囲内の最も低い溶解度において、最大ドーズ量の強度を溶かすのに必要な水の量(例えば、ミリリットル(mL)単位)という面から定義されており、250mLが高溶解性と低溶解性との境界線となっている。つまり低溶解性とは、1から8のpH範囲内で、250ml中に最大ドーズ量が完全には溶解しないことを言う。
【0019】
以下に使用する「流束関数」は、流束関数は単位面積および単位時間あたりのバリアを通過する粒子または質量に対応する、と定義しているAvdeef A., “Absorption and Drug Development”, Wiley Interscience, NY, 2003 の第2章に関係している。
【0020】
より正確には、前記第2章には以下が記載されている:溶質の受動拡散は膜の内部の溶質の拡散性と濃度勾配との産物であることが膜に適用されたフィックの第一法則により示される。見かけの膜/水分配係数が、後者の内部勾配を、外部のバルク水の、膜によって分離された二つの溶液の間の濃度差と関連付ける。イオン性分子が受動拡散により最も効率的に透過するためには、該分子は膜表面において非荷電型である必要がある(pH分配仮説)。所与のpHにおいて存在する非荷電型の量(これは流束に直接的に寄与する)は、pH、元々あるキャリアー(タンパク質および胆汁酸)への結合、自己結合(アグリゲートまたはミセルの形成)、および溶解性(固体形態での自己結合)等の重要ないくつかの要素に依存する。低溶解性は、輸送の機会を低下させる条件としての熱力学的な「スピード・アテニュエーター(speed attenuator)」として、輸送についての考慮に入ってくる。このように、透過性と溶解性とは、膜を横断する輸送についての動力学的および熱力学的に関連がある要素である。
【0021】
均質な脂質膜によって分離されている、二つのチャンバーに分けられた容器(vessel)を考える。左側はドナー(donor)区画であり、そこでサンプル分子がまず導入され;右側はアクセプター(acceptor)区画であり、当該区画は最初は試料分子を持たない。定常状態にある均質な膜に適用されたフィックの第一法則は、輸送方程式
【0022】
【数3】

【0023】
(式中、Jは流束(単位はmol cm−2−1)、CおよびCは二つの水−膜境界における膜内の非荷電型の溶質の濃度(mol cm−3単位)、Dは膜内の溶質の拡散率(単位はcm−1))
である。定常状態では、膜内の濃度勾配dC/dxは線形である。厚さ125μmの膜では、溶液が非常によく攪拌されると仮定すると、定常状態が確立されるためには約3分を要する。
【0024】
膜の様々な部分で溶質の濃度を測定することは非常に不便であるというところに方程式(3)の限界がある。しかしながら、バルク水と膜との分配係数logKd(pH依存的な見かけの分配係数)を見積もることができるかまたは場合によっては測定することができるため、方程式(3)はより利用しやすい形
【0025】
【数4】

【0026】
に変形することができ、Kdで置き換えたことで、ドナー区画のバルク水濃度およびアクセプター区画のバルク水濃度(それぞれCおよびC)を使用することが可能となる。(イオン性分子では、CおよびCは、全ての荷電状態型について合計した溶質の濃度を表す。)これらの濃度は、標準的な技術で容易に測定しうる。方程式(4)はDおよびKdを見積もる必要がある為、依然として十分に便利ではない。これらのパラメーターおよび膜の厚さを、「膜透過率(membrane permeability)」と呼ばれる複合パラメーターP
【0027】
【数5】

【0028】
でまとめるのがよく行われる方法である。
【0029】
分子が単純な膜をどのくらい早く通過するかを予測する方程式(4)の溶解性への関連性は、濃度条件にある。Cが実質的にゼロである「シンク」条件を考える。方程式(4)は、以下の流束方程式
【0030】
【数6】

【0031】
に帰着する。
【0032】
流束は、溶質の有効透過率と、ドナーの膜表面について水側にある全ての荷電状態型について合計した溶質濃度とを掛け合わせた積に依存する。この濃度は、考慮しているpHにおける溶解限界をドーズ量が超えている場合(その場合、当該濃度は溶解度に等しい)でなければ、理想的には薬剤のドーズ量と等しいものでありうる。非荷電分子種は透過物質(permeant)であるため、方程式(6)は
【0033】
【数7】

【0034】
(式中、PおよびCはそれぞれ、非荷電化学種の固有透過率(intrinsic permeability)および濃度である)
と言い換えることができる。固有透過率はpHに依存しないが、流束方程式におけるその補助係数CはpHに依存する。非荷電化学種の濃度は常に、同じくpHに依存しない化学種の固有溶解度Sに等しいかまたはそれよりも小さい。
【0035】
非荷電化学種では、方程式(5)は
【0036】
【数8】

【0037】
(式中、K=C(0)/CD0であり;また、K=C(h)/CA0である;CD0およびCA0は、それぞれドナー側およびアクセプター側の非荷電化学種の水溶液濃度である)
という形をとることに注意されたい。
【0038】
あるpHで飽和している(即ち、余分な固体が存在している)溶液においては、イオン性分子についてのlogC対pHのプロットは極めて単純な形であり、該プロットは、飽和状態と完全な溶解状態との間の境界を示している切れ目の地点でつなげられた直線セグメントの組み合わせである。これらの連結点のpHは、計算に使用されるドーズ量に依存し、logCの最大値は、飽和溶液におけるlogSに常に等しい。
【発明の効果】
【0039】
本発明の方法は、分子(即ち、低溶解性化合物または薬剤)の吸収を最適化することができる賦形剤の、高速、正確、かつ経済的な評価を可能にする。さらにそのような評価においては、動物実験を排除することができ、かつ化合物の使用を減らすことができる。即ち、当該方法は高速で、化合物を節約し、コスト効率がよく、かつある程度正確である為、薬剤候補の将来的な製剤化の有効性(溶解性および透過性に対するpHおよび賦形剤の効果)についての正当なスクリーニングを行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
本発明の方法の第一の好ましい実施形態において、流束関数の変化を評価することは:該化合物を含む所定のpH値にあるキャリブレーション・ドナー(calibration donor)溶液を作製するステップを有し;該化合物および該賦形剤を含む該所定のpH値にあるドナー溶液を作製するステップを有し;該化合物および該賦形剤を含まない該所定のpH値にあるレシーバ(receiver)溶液を作製するステップを有し;バリアによって第一レシーバチャンバーから分離されている第一ドナーチャンバー中へキャリブレーション・ドナー溶液を与え、バリアによって第二レシーバチャンバーから分離されている第二ドナーチャンバー中へドナー溶液を与え、かつ、第一レシーバチャンバーおよび第二レシーバチャンバー中へレシーバ溶液を与えるステップを有し;当該溶液を所定の時間インキュベートするステップを有し;かつ、第一レシーバチャンバーおよび第二レシーバチャンバーのレシーバ溶液における該化合物のレスポンス(response)を測定するステップを有する。以下で使用する用語「レスポンス」は、流束関数の変化、特に濃度の変化を評価するのに好適な次元を有する。このような方法により、化合物の吸収特性に対する賦形剤の効果の効率的な評価が可能となる。さらには、このような方法により、特に、例えばUS 7022528 B2に記載されている装置のような好適な装置にて行われる場合に、高度に自動化された処理が可能となる。
【0041】
流束関数の変化を評価することは、上述のステップを複数の所定のpH値において繰り返し行うことを有することが好ましい。この文脈における繰り返しは、あるpH値でのステップから次のpH値でのステップへ順次処理することに限定されず、同時に複数のpH値でのステップを並行処理することをも特に包含する。このような評価により、化合物の吸収特性についての効果を、pHと関連する効果に拡張することが可能となり、また、賦形剤の効果を、pHと関連する効果と組み合わせることが可能となる。その結果、評価の効率を実質的に損なうことなく評価の質を向上させることができるようにして上記全ての効果を賦形剤の評価についての考慮に入れることができる。約pH5から約pH7.5の範囲から複数のpH値を選択することが有利でありえ、複数のpH値は具体的には、例えばpH5、pH6.2、pH7.5という値を有していてもよい。
【0042】
流束関数の変化を評価することは、第一レシーバチャンバーのレシーバ溶液中の化合物のレスポンス(例、濃度)の測定値と、第二レシーバチャンバーのレシーバ溶液中の化合物のレスポンス(例、濃度)の測定値との比率を決定するステップをさらに有することが好ましい。このような比率により、複数の化合物、複数の賦形剤、および複数のpH値に基づく複数の比率を簡便に表示し概観することができるようにして流束関数の簡便な表現が可能となる。
【0043】
第一レシーバチャンバーおよび第二レシーバチャンバーのレシーバ溶液中の化合物のレスポンス(例、濃度)を測定することは、レシーバ溶液の分光学的特性の測定を有することが好ましい。そのような分光学的特性の測定は、例えば液体クロマトグラフィー質量分析法、紫外/可視吸収分光法、赤外分光法、発光分光法、ラマン分光法などの当該技術分野において公知の種々の方法により行うことができる。このような方法を行う装置を好適に使用することにより、レシーバ溶液中の化合物のレスポンス(即ち、特に濃度)の高速かつ効率的な測定が可能となる。
【0044】
バリアは、ヒト組織、動物組織、植物組織、培養細胞モデル、および人工膜から成る群より選択されることが好ましい。この文脈におけるバリアは、生物学的バリアの物理化学的特性を模倣する、能動拡散性または受動拡散性のバリアにとりわけ関係する。そのため、脂溶性のバリアがさらに好ましい。
【0045】
流束関数の変化を評価することは、複数の化合物および複数の賦形剤に対して:該複数の化合物のそれぞれと該複数の賦形剤のそれぞれとの各組み合わせを含む、該所定のpH値にある複数のドナー溶液を作製すること;バリアによって複数の第二レシーバチャンバーから分離されている複数の第二ドナーチャンバー中へ該複数のドナー溶液を与え、かつ、該複数の第二レシーバチャンバー中へレシーバ溶液を与えること;および、該複数の第二レシーバチャンバーの該レシーバ溶液中の該化合物のレスポンス(例、濃度)を測定することによって行われることが好ましい。このような並行処理によって、複数の化合物、複数の賦形剤、および複数のpH値に対する流束関数の効率的かつ高速な評価が可能となる。上記並行処理は、例えばUS 7022528 B2に記載されている方法および装置を使用することで行うことができる。
【0046】
本発明の方法の第二の好ましい実施形態においては、流束関数の変化を評価することは:該化合物を含む所定のpH値にあるキャリブレーション・ドナー溶液を作製するステップを有し;該化合物および該賦形剤を含む該所定のpH値にあるドナー溶液を作製するステップを有し;キャリブレーション・ドナー溶液中の該化合物の溶解度およびドナー溶液中の該化合物の溶解度を測定するステップを有し;キャリブレーション・ドナー溶液の透過率およびドナー溶液の透過率を測定するステップを有し;かつ、透過率の測定結果および溶解度の測定結果を流束関数に組み込むステップを有する。このような方法により、化合物の吸収特性に対する賦形剤の効果の効率的な評価が可能となる。特に、このような方法は、透過率および溶解度を別個の実体として明示的に決定することなく、化合物の吸収ポテンシャルに対する賦形剤の効果をモニターするために透過率の変化と溶解度の変化の両方を組み合わせており、それが本発明の方法の第二の実施形態をとりわけ高速にしている。このような方法は、脂溶性のバリアによって分けられている二つのチャンバーの透過システムのレシーバチャンバーにおいて現れる化合物のレスポンスの変化(例、濃度の変化)を、ドナーチャンバー中の賦形剤成分(種類および/または濃度)を変化させながらモニターすることを有してもよい。バリアは、人工膜(例、脂溶性溶液に含浸させたフィルター(即ち、パラレル・アーティフィシャル・メンブレーン・パーミアビリティー・アッセイ(the parallel artificial membrane permeability assay)(PAMPA)モデル))、培養内皮細胞(例、RBE4)、またはその他の培養細胞モデル(例、Caco−2、MDCK等)を構成して(constitute)もよい。生物学的に意義のある水境界層の厚さおよびpHを考慮に入れてもよい。本発明の方法のこの第二の実施形態は、調査している化合物の吸収特性および薬物動態学的特性に対する賦形剤の影響を早期に、高速に、かつコスト効率よく評価することを可能とする、ハイスループットのプレフォーミュレーション・スクリーニング技術に繋がる。
【0047】
流束関数の変化を評価することは、複数の所定のpH値において上述したステップを繰り返し行うことを有することが好ましい。「繰り返し」という表現に関しては、上述したものが以下においても適用される。このような評価により、化合物の吸収特性についての効果を、pHと関連する効果に拡張することが可能となり、また、賦形剤の効果を、pHと関連する効果と組み合わせることが可能となる。その結果、評価の効率を実質的に損なうことなく評価の質を向上させることができるようにして上記全ての効果を賦形剤の評価についての考慮に入れることができる。約pH5から約pH7.5の範囲から複数のpH値を選択することが有利でありえ、複数のpH値は具体的には、例えばpH5、pH6.2、pH7.5という値を有していてもよい。
【0048】
従って、好ましくは、キャリブレーション・ドナー溶液中の化合物およびドナー溶液中の化合物の溶解度の測定は:上記溶液を所定の時間インキュベートするステップを有し;上記溶液を濾過するステップを有し;かつ、濾過溶液中の化合物の量を測定するステップを有する。そのような測定は、当該技術分野において公知の種々のプロセスを行うことによって効率よく、高速に、そして正確にして行うことができ、ここでUS 7022528 B2に記載されている方法および装置を使用することはとりわけ有利でありうる。
【0049】
好ましくは、キャリブレーション・ドナー溶液の透過率およびドナー溶液の透過率の測定は:該化合物および該賦形剤を含まない該所定のpH値にあるレシーバ溶液を作製するステップを有し;膜フィルターによって第一レシーバチャンバーから分離されている第一ドナーチャンバー中にキャリブレーション・ドナー溶液を与え、膜フィルターによって第二レシーバチャンバーから分離されている第二ドナーチャンバー中にドナー溶液を与え、かつ、第一レシーバチャンバー及び第二レシーバチャンバー中へレシーバ溶液を与えるステップを有し;当該溶液を所定の時間インキュベートするステップを有し;かつ、第一ドナーチャンバーおよび第二ドナーチャンバーのドナー溶液中の化合物の量ならびに第一レシーバチャンバーおよび第二レシーバチャンバーのレシーバ溶液中の化合物の量を測定するステップを有する。ここでもまた、そのような測定は、当該技術分野において公知の種々のプロセスを行うことによって効率よく、高速に、そして正確にして行うことができ、ここでUS 7022528 B2に記載されている方法および装置を使用することはとりわけ有利でありうる。
【0050】
流束関数の変化を評価することは、第一レシーバチャンバーのレシーバ溶液中の化合物の量の測定値と、第二レシーバチャンバーのレシーバ溶液中の化合物の量の測定値との間の比率を決定するステップをさらに有することが好ましい。このような比率により、複数の化合物、複数の賦形剤、および複数のpH値に基づく複数の比率を簡便に表示し概観することができるようにして流束関数の簡便な表現が可能となる。
【0051】
流束関数の変化を評価することは、複数の化合物および複数の賦形剤に対して:該所定のpH値にある、該複数の化合物のそれぞれと該複数の賦形剤のそれぞれとの各組み合わせの複数のドナー溶液を作製すること;該ドナー溶液のそれぞれにおける該化合物の溶解度を測定すること;および、該ドナー溶液のそれぞれの透過率を測定することによって行われることが好ましい。このような並行処理によって、複数の化合物、複数の賦形剤、および複数のpH値に対する流束関数の効率的かつ高速な評価が可能となる。上記並行処理は、例えばUS 7022528 B2に記載されている方法および装置を使用することで行うことができる。
【0052】
上述した本発明の方法の全ての好ましい実施形態において、レシーバ溶液は、少なくとも一つの添加物を含むことが好ましい。そのような添加物により、流束関数の変化の評価を、好適な条件にまでもたらすことができる。例えば、添加物によって当該条件は、生体内の腸管環境をより近しく表すのに適したものになりうる。さらには、当該条件は、例えば改善された処理またはより簡単な処理を可能にするのに適したものになりうる。
【0053】
添加物は、化合物への高い結合能、低い紫外線吸収性、高い水溶性、および低い蒸気圧の群より選択される少なくとも一つの特性を持つことが好ましい。
【0054】
本発明の方法は、キャリブレーション・ドナー溶液およびドナー溶液を攪拌するステップを有することが好ましい。そのような攪拌によって、流束関数の変化の評価のための条件を最適化することができる。例えば、目的とする環境を表さないようなミクロの条件が流束関数の変化の評価の際にバリアの近くにもたらされることを防ぐことができる。このことは、例えば、天然バリアの両側が生体内の何らかの流れの下に横たわっている腸管環境が表される場合に、とりわけ興味深い。即ち、このような攪拌により、血液のシンク( sink )としての機能を促進することが可能であり、それにより、バリア周辺の拡散勾配を保つことができる。
【0055】
好ましい実施形態において、当該方法は:賦形剤、化合物およびpH値に関する比率を順位付けするステップを有し;かつ、順位付けされた比率を可視化するステップを有する。そのような順位付けおよび可視化により、複数のpH値で複数の賦形剤と組み合わされた複数の化合物を効率的に概観し、効率的に評価することが可能となる。
【0056】
好ましくは、比率の順位付けは:全ての化合物および全てのpH値に対して、各賦形剤についての比率の合計値を計算するステップを有し;かつ、比率の合計値を順位付けするステップを有する。全ての賦形剤についてそのような合計値を作り(building)、該合計値を順位付けすることにより、複数のpH値で複数の賦形剤と組み合わされた複数の化合物を、いっそうより効率的に概観し、いっそうより効率的に評価することが可能となる。
【0057】
好ましくは、当該方法は:全ての賦形剤および全てのpH値に対して、各化合物についての比率のさらなる合計値を計算するステップを有し;かつ、該比率のさらなる合計値を順位付けするステップをさらに有する。全ての化合物についてそのような合計値をさらに作り、該合計値を順位付けすることにより、複数のpH値で複数の賦形剤と組み合わされた複数の化合物を、いっそうより効率的に概観し、いっそうより効率的に評価することが可能となる。
【0058】
本発明の別の側面は、上述した方法の全てまたは一部のステップを行うために設定されているコンピュータープログラムに関係している。そのようなコンピュータープログラムを使用することにより、当該方法のかなりの部分を効率的に、高速に、かつ正確に行うことができるようにして自動化することが可能となる。とりわけ、流束関数の変化の評価結果を可視化する場合に、好適な賦形剤、薬物およびpH値の評価を迅速に行うことができる。
【実施例】
【0059】
本発明の方法および本発明のコンピュータープログラムを、例示的な実施形態により、添付の図面を参照して以下により詳細に説明する。
【0060】
本発明の方法の第一の実施形態は、低溶解性化合物の予測される吸収特性に対する賦形剤、pHおよびそれらの組み合わせの効果を評価するために、透過率の測定結果と溶解度の測定結果とを流束関数に組み込むことを有する。
【0061】
透過性の適切な測定は、種々の方法で行うことができる。発見においては、Caco−2やMadin−Darbyイヌ腎臓などの単層培養細胞モデル(Ho N.F.H. et al., “Quantitative approaches to delineate passive transport mechanisms in cell culture monolayers”, 2000 in: Amidon G. L. et al., “Transport Processes in Pharmaceutical Systems”, Marcel Dekker, New York, pp. 219-316 and Avdeef A. et al., “Caco-2 permeability of weakly basic drugs predicted with the Double-Sink PAMPA pKa flux method”, Eur. J. Pharm. Sci., 2005, 24, 333-349A)がしばしば使用される。製薬産業では、選択された候補分子が開発フェーズに入るまでは通常、細胞でのそのような研究は賦形剤を選択するために使用されない。通常このステージでは、薬物動態学的な動物モデルが使用される。難溶性ではあるがそれ以外では有望である分子の場合、透過性に対する賦形剤の効果を測定するためのコスト効率のよい手段が利用可能であるならば、早期賦形剤スクリーニング(それは、早期前臨床開発の最初のステップであるかもしれない)は、優先順位をつけるのに有益であり、また、動物実験の回数を最小限に抑えるのに有益であるかもしれない。Liu等(Liu, H. et al., “In vitro permeability of poorly aqueous soluble compounds using different solubilizers in the PAMPA assay with liquid chromatography/mass spectrometry detection”, Pharm. Res., 2003, 20, 1820-1826)が、具体的にはBrij(登録商標)35、Cremophor EL、エタノールおよびTween80といった可溶化剤のスクリーニングのために低コストのパラレル・アーティフィシャル・メンブレーン・パーミアビリティー・アッセイ(PAMPA)モデルを使用してまさにそれを行うことを提案した最初である。それまでは、PAMPAは有用な調査ではあったが、それは単に早期発見スクリーニングにおいてのみであった。それ以来、医薬品化学者にとって有用な機構的ツールとしてのPAMPAの価値はいくつかの例において示されてはきたが、早期前臨床開発におけるPAMPAの影響力は、Liu等による上記研究を除いては実証されてこなかった。
【0062】
本発明の方法の第一の実施形態のための実施例として以下に記載する透過性測定においては、Liu等によって研究された主題を拡張することを提案する。透過性に対する賦形剤の効果を評価するために、6つの賦形剤およびイオン強度調整剤:タウロコール酸ナトリウム、2−ヒドロキシプロピル−b−シクロデキストリン、塩化カリウム、プロピレングリコール、1−メチル−2−ピロリドンおよびポリエチレングリコール400の15の組み合わせで測定した、以下の8つの難溶性薬剤:アステミゾール(astemizole)、ブタカイン(butacaine)、クロトリマゾール(clotrimazole)、ジピリダモール(dipyridamole)、グリセオフルビン(griseofulvin)、プロゲステロン(progesterone)、グリベンクラミド(glybenclamide)およびメフェナム酸(mefenemic acid)についての二重シンクPAMPA測定を報告する。
【0063】
透過性測定の当該実施例は、二重シンクPAMPA、およびpION社の二重シンクPAMPA用の脂質(PN 1100669)を用いて、以下の通りに行う。透過性測定のこの実施例において使用する化合物は、表1に挙げた化合物である。二重シンクPAMPA用の脂質は、使用しないときには−20℃で保存する。アッセイされるドナー溶液のpHはpION社のユニバーサル緩衝液(PN 100621、1100151)で調整し、また、血清タンパク質をシミュレートするためにpION社の化学捕捉剤緩衝液(chemical scavenger buffer)ASB−7.4(PN 110139)を含有するpH7.4の緩衝溶液をレシーバ溶液として使用する。賦形剤は、ドナーウェルにのみ加える。
【0064】
【表1】

【0065】
賦形剤およびその濃度に関して、6つの賦形剤の量は、臨床的に意義のある条件にある胃腸液において想定される濃度と重なるように選択する。KClについては、FASSIF/FESSIF培地における濃度(Dressman J. B., “Dissolution testing of immediate-release products and its application to forecasting in vivo performance”, in Dressman J.B.et al., “Oral Drug Absorption”, Marcel Dekker Inc., New York, 2000, pp. 155-181)に従い、二つのレベル:0.1モル(M)および0.2Mを選択する。タウロコール酸ナトリウム(NaTC)溶液は、Dressman J. B.が記載しているような絶食時および摂食時の胃腸管(GIT)の状態に対応して、3ミリモル(mM)および15mMで調製する。液体賦形剤について、最大のカプセル容量はGITの容積250mlに対して0.6ミリリットル(mL)であると仮定し、算出される賦形剤の濃度は0.24% v/vである。従って、1−メチル−2−ピロリドン(NMP)、プロピレングリコール(PG)、およびポリエチレングリコール400(PEG400)については、0.24%v/v、1%v/v、5% v/vの賦形剤溶液を評価する。2−ヒドロキシプロピル−b−シクロデキストリン(HP‐b‐CD)溶液は、0.24% w/vおよび1% w/vという同様の濃度で評価する。賦形剤を含まない緩衝溶液も数に入れて全部で15の異なる溶液を8種類の薬剤分子と共にPAMPAにおける効果を評価する(結果として、120の薬剤−賦形剤の組み合わせである)。
【0066】
pKの測定に関して、電位差滴定装置(instruments potentiomentric)Gemini(pION社)、GLpKa(Sirius Analytical Instruments UK社(Sirius社))、UV−metric D−PAS(Sirius社)およびSGA(Sirius社)を正確な電離定数を決定するために使用する。上述した難溶性分子については、実験上の問題を克服するために、ジメチルスルホキシド(DMSO)およびメタノールを共溶媒として使用するなど、いくつかの対策を試みる。Gemini装置では、水溶液または共溶媒のいずれにおいても、沈殿が一部の滴定の際に存在していたとしてもpKを決定することが可能である。これは、当該装置が溶解度および電離定数を同一滴定中に同時に決定することができるためである。その上、Gemini装置によって、pH電極のキャリブレーションを「インサイチュ」でpKの決定と同時に行うことができる。これは、pKが4から9の範囲の外側にある場合、共溶媒溶液中での決定に関してとりわけ重要な特徴である。これは、Avdeef−Bucherの4つのpH電極パラメーターを決定するために最初に「ブランク(blank)」滴定を行う従来の方法(Avdeef, A. et al., “Accurate measurements of the concentration of hydrogen ions with a glass electrode: calibrations using the Prideaux and other universal buffer solutions and a computer-controlled automatic titrator”, Anal. Chem., 1978, 50, 2137-2142)と比べて大幅な改善でありうる。
【0067】
本明細書に記載する透過率測定の実施例においては、アーティフィシャル・メンブレーン・パーミアビリティー・アッセイ(PAMPA)法を用いる。そのために、pION社(Woburn,MA,USA)のPAMPA Evolution装置を使用し、データを室温(25±2℃)で集める。PAMPAの96ウェルの「サンドイッチ」に96個のpION社のマグネチックスターラー(PN 110212)をあらかじめ入れておく。典型的なサンプル濃度は、賦形剤含有緩衝溶液中、約50μMである。これらの溶液中の残留DMSOは、0.5%v/vである。各化合物についての有効透過率PをpH3からpH10の領域で測定する。ドナー溶液はpHについて様々であるが(NaOH処理したユニバーサル緩衝液)、レシーバ溶液は同一のpH7.4を有する。最適化されたpH勾配条件をpODの方法(Ruell J.A. et al., “PAMPA - a drug absorption in vitro model”, 5, “Unstirred water layer in iso-pH mapping assays and pKaflux-optimized design (pOD-PAMPA)”, Eur. J. Pharm. Sci., 2003, 20, 393-402)を用いて選択するが、それは、pH値が化合物のpKflux値(以下で定義する)の上となるのと下となるのとを確実にするためである。pHの差異は、電離作用および吸収境界層(absorption boundary layer;ABL)の作用に対して、有効透過率の値を補正するために必要である(Avdeef A., “Absorption and Drug Development”, Wiley-lnterscience, 2003, pp. 116-246; Avdeef A. et al., “S. Caco-2 permeability of weakly basic drugs predicted with the Double-Sink PAMPA pKaflux method”, Eur. J. Pharm. Sci., 2005, 24, 333-349;およびAvdeef A. et al., “PAMPA - a drug absorption in vitro model”, 11, “Matching the in vivo aqueous boundary layer by individual-well stirring in microtitre plates”, Eur J. Pharm. Chem., 2004, 22, 365-374)。レシーバ溶液は、薬剤結合タンパク質の機能の一部を模倣するために界面活性剤混合物(「脂溶性シンク」)を含有する(Avdeef A. et al., “High-throughput measurements of permeability profiles” in: van de Waterbeemd H. et al., “Drug Bioavailability. Estimation of Solubility, Permeability, Absorption and Bioavailability”, Wiley - VCH: Weinheim, 2002, pp. 46-71)。当該アッセイでは激しい撹拌が用いられ、撹拌速度は約40μmの厚さの水境界層(ABL)を作り出すよう設定されるが、それは、測定される透過率についてのABLの寄与を、GITにおいて想定されるそれと合致させるためである(Avdeef A. et al., “PAMPA - a drug absorption in vitro model”, 11, “Matching the in vivo aqueous boundary layer by individual- well stirring in microtitre plates”, Eur J. Pharm. Chem., 2004, 22, 365-374)。PAMPAサンドイッチを集め、高透過性分子については、例えば磁気撹拌機構が内蔵されているpION社のGut−Box(商標)(PN 110205)といった、環境制御されたチャンバー中で30分間インキュベートしておく。次いでサンドイッチを分離し、ドナーウェルとレシーバウェルとの両者について、標準参照溶液から得られるUVスペクトル(230nmから500nm)と比較することで、存在する物質の量をアッセイする。膜フィルターに残っている物質の量(%R)およびマイクロタイタープレートのプラスチック壁に付着している物質の量を決定するためにマスバランスを使用する(Avdeef A., “Absorption and Drug Development”, Wiley-lnterscience, 2003, pp. 116-246)。
【0068】
有効透過率Pは、使用可能なフィルター面積0.3cmに見かけの空隙率0.76を乗じることを除いて、以前に記載されたようにして計算する。この後者のステップは、異なる空隙率を有するフィルターを使用するPAMPAアッセイで決定されたABLの厚さが絶対尺度にあることを確かにする(Nielsen P.E. et al., “PAMPA - a drug absorption in vitro model”, 8, “Apparent filter porosity and the aqueous boundary layer”, Eur. J. Pharm. Sci., 2004, 22, 33-41)。
【0069】
GIT上皮環境では、ABLの厚さは30〜100μmであると想定され、一方、攪拌を行わないPAMPAでは、ABLの厚さは4000μmもの高さになりうる(Avdeef A. et al., “S. Caco-2 permeability of weakly basic drugs predicted with the Double-Sink PAMPA pKaflux method”, Eur. J. Pharm. Sci., 2005, 24, 333-349; Avdeef A. et al., “PAMPA - a drug absorption in vitro model”, 11, “Matching the in vivo aqueous boundary layer by individual-well stirring in microtitre plates”, Eur J. Pharm. Chem., 2004, 22, 365-374)。あるpH範囲に渡ってPAMPA(攪拌または非攪拌)のデータを取得し、以下に簡潔に説明するpKafluxの方法を用いることで、ABLの影響を、GITに関して想定されるABLの影響と合致させることが可能である(Avdeef A., “Absorption and Drug Development”, Wiley-lnterscience, 2003, pp. 116-246;およびAvdeef A. et al., “S. Caco-2 permeability of weakly basic drugs predicted with the Double-Sink PAMPA pKafluxmethod”, Eur. J. Pharm. Sci., 2005, 24, 333 - 349)。
【0070】
有効透過係数Pは、膜透過係数およびABL透過係数(それぞれPおよびPABL)と、
【0071】
【数9】

【0072】
のようにして関係する。
【0073】
イオン性分子に関しては、膜透過率Pはバルク水溶液のpHに依存する。可能な最大のPを、非荷電化学種の固有透過率Pと表す。弱い一塩基酸および弱い一酸塩基に関しては、PとPとの関係は、非荷電化学種の割合fの観点から、
【0074】
【数10】

【0075】
のように記述することができ、ここで「+」は酸に対して、「−」は塩基に対して使用されている。その他の場合については、他の場所に記載されている。式(9)と式(10)とを組み合わせることにより、
【0076】
【数11】

【0077】
が導かれる。
【0078】
高透過性分子に関しては、

の場合に、ABLに限定された輸送がしばしば観察される。これは概して脂溶性薬剤で観察されるが、脂溶性薬剤では分子に関わらず同様のP(約30x10−6cm/s)が測定され、このことは膜よりむしろ水の特性を示している。式(11)は、対数の形に帰着する(Avdeef A. et al., “S. Caco-2 permeability of weakly basic drugs predicted with the Double-Sink PAMPA pKafluxmethod”, Eur. J. Pharm. Sci., 2005, 24, 333-349)。
【0079】
【数12】

【0080】
可能な最大の有効透過率(測定値)Pmaxは、
【0081】
【数13】

【0082】
と定義される。
【0083】
>>PABL(高透過性分子)の場合、

であり、これは膜の拡散よりむしろ水の拡散を示している。「流束」の電離定数pKfluxは、透過バリアを横切る輸送に対する抵抗が、50%はABLによるものであり、50%は膜によるものであるpH値をいう。
【0084】
本明細書に記載する例示的な透過率測定の結果およびその解釈に関して、図1は、種々の使用されている「当該技術分野の現状」の方法により決定された電離定数の比較を示している。当該化合物はすべて水にほんの少しだけ溶けるため、共溶媒を使用し、そしてGLpKa装置およびD−PAS装置の場合にはYasuda−Shedlovsky(Avdeef A. et al., “pH-metric logP”, 3, “Glass electrode calibration in methanol-water, applied to pKa determination of water-insoluble substances”, Anal. Chem., 1993, 65, 42-49)の方法により水での値を外挿し、Gemini装置の場合にはゼロwt%の共溶媒にまで直線外挿することにより水での値を外挿する。商業的に作られているSGA装置は現在のところ、共溶媒についての機能を持たないため、ユニバーサル水性緩衝液のみを使用する。D−PAS装置およびSGA装置はUVベースであるため、pKの決定において、より低い濃度の溶液を使用して低い水溶解度という問題の、全てではないが一部を回避することが可能である。最もよく使用されている二つの共溶媒:DMSOおよびメタノールをこの例示的な透過率測定では用いる。ほとんど全ての場合において、DMSOでの外挿したpK値は、メタノール−水混合液から外挿したpK値よりも体系的に低く、pKDMSO=0.61+0.86pKCH3OH(r=0.99、s=0.27、n=8)という傾向に従っている。ブタカインおよびアステミゾールは二酸塩基であるため、共溶媒の非存在下において、低pHのpKを決定することが実際に可能である。両方の場合において、DMSOでの外挿値はメタノールでの外挿値よりもバイアスされている。不一致は、ブタカインの低pHのpK値の場合に特に顕著である。メタノールでの外挿値は概してより正確であるように思われ、これは、メタノールはpKの決定で使用する共溶媒のうち「最も問題ないもの」と見なされていることによって支持される結論である。共溶媒の使用は利用可能な特徴ではなく、また、図1における相等線(identity line)からのずれが大きいため、この例示的な透過率測定においては、DMSOでの結果を除いて、SGAでの値を信頼するべきではない。黒丸が相等線の最も近くにあることで示される通り、最良の一致は電位差滴定でのGLpKaの値とGeminiの値との間で見られることを図1は明らかにしている。
【0085】
GLpKaでの値およびGeminiでの値を、研究セットについて単純に平均化してもよいが、この例示的な透過率測定では以下の理由からそれを行わない:共溶媒−水の比率が沈殿を回避するために十分高く選ばれているという、うまく設計されているアッセイであるにも関わらず、最も低い共溶媒−水の比率において沈殿が起こらないことを確実にすることは不可能に近い。GLpKaのサンプルチェンジャーの設計が原因で、滴定の最中に溶液を見るのには不都合がある。それに対してGeminiは、よく見えるガラスバイアルを有している。多くの場合に、当該低溶解性化合物について多少の沈殿がGLpKa中で起こっていたのはほぼ間違いないことを視覚的観察は示していた。さらには、Geminiでの電極キャリブレーションの方法は、3未満のpK値を、共溶媒溶液においてより信頼できるものにしていた。
【0086】
図2は、GeminiでのpK測定の結果に関する。図2は、従来法で設計されているアッセイおよび、従来法での測定における通常の結果ではどうしてもうまくいかないことがありうるが、対照的にGeminiはそれらを回避して計算する(circumcalculated)ことを示している。11〜49wt%メタノール中でのクロトリマゾールのpKの6つの測定を図2に示している。共溶媒ゼロに外挿したpKは、6.02±0.05である。図2の挿入図は、11wt%、28wt%および39wt%での滴定についてのビエルム(Bjerrum)のプロット(Avdeef A. “Absorption and Drug Development”, Wiley-lnterscience, 2003, pp. 116-246)である。挿入図中の破曲線は、沈殿が起こらないであろう無限に低いサンプル濃度の極限において期待される曲線に対応している。測定点を繋ぐ実曲線は、沈殿なしの破曲線からの有意なずれを示している。このずれは、35wt%より低いメタノールでの滴定ではクロトリマトゾールが沈殿したために生じている。従来の精密化(refinement)プログラムは、このような沈殿を影響に入れず、共溶媒の比率が減少するにつれてpKaを体系的に低く見積もってしまい、11wt%の場合には誤差は対数単位にまでなる(図2挿入図)。バイアスされた値が外挿の基礎であれば、pKは対数単位でずれて5に近くなってしまう(データ示さず)。
【0087】
Gemini装置の精密化プログラムの他とは異なる特徴は、溶解度とpK値とを同時に精密化するため、多少の沈殿の存在下でもバイアスされていないpK値を決定できることである。図2におけるフィットは、個々のセットの精密化で得られた誤差で重み付けされており、ここで当該精密化は、「過度の」沈殿がpK値の正確な決定を妨げる場合には、最も低い共溶媒のwt%の点からの寄与の重みを低くするものである。
【0088】
当該新規pK技術は、最も溶けない化合物の電離定数を決定するのに最適である。以下の改善は明らかである:(a)より低い比率での沈殿を回避して計算するため、より広範な共溶媒の比率が実行可能であること、(b)より精度の高い決定のために、より高いサンプル濃度を使用できること、(c)「最善の」共溶媒の比率を選択することについての外挿プロセスに対する重要性がより低く、該方法をより「フォールト」トレラント(“fault” tolerant)にしていること、および(d)インサイチュでのpH電極のキャリブレーションにより、より広いpH枠でのpKの決定が共溶媒滴定において可能であること。
【0089】
表1(上記参照)に、0.15M(KCl)のイオン強度においてGeminiで決定したpK値を示す。透過性緩衝液のほうが低イオン強度であるため、これらの値を0.01Mのイオン強度レベルに換算し、その後の全てのPAMPA解析で使用するが、それは、緩衝性緩衝液はより低いイオン強度にあるためである。KClが0.1Mおよび0.2Mの場合に、該定数への適切な(appriate)調整を行った(Avdeef A., “Absorption and Drug Development”, Wiley-lnterscience, 2003, pp. 116 - 246)。
【0090】
図3は、賦形剤なしでのPAMPA測定に関する。図3は、上述の分子についての、賦形剤なしの透過率特性を示している。実線は、式(12)に従うpHの関数として、有効透過率値logP(黒丸)の最良適合を示している。pKflux値の実例を図3(a−c、g、h)に示している。計算された水境界層(ABL)の透過率の値(点横線)を有効透過率の値(式(9)および式(10))についての要素から除外した場合に、破線の膜透過率曲線logP対pHとなる。図3((d)および(e)を除いた全て)における実線曲線は、その最大限度においても破線曲線の下にあることから、ABLに限定された輸送の実例である。塩基の場合、pH>>pKfluxでは式(12)は横線となり、pH<<pKfluxでは式(12)は+1の勾配を持つ斜線となる。酸の場合、pH<<pKfluxでは式(12)は横線となり、pH>>pKfluxでは式(12)は−1の勾配を持つ斜線となる。
【0091】
プロゲステロンを除いて全ての透過率データは、40μmのABLに設定したGut−Boxを用いて測定し、また、直接的なpKfluxの方法は非イオン性分子で使用できないため、プロゲステロンの場合には、該設定は25μmのABLである。それらの分子について、キャリブレーションの方法が知られている(Avdeef A. et al., “Caco-2 permeability of weakly basic drugs predicted with the Double-Sink PAMPA pKaflux method”, Eur. J. Pharrn. Sci., 2005, 24, 333 - 349;およびAvdeef A. et al., ,,PAMPA - a drug absorption in vitro model”, 11, “Matching the in vivo aqueous boundary layer by individual-well stirring in microtitre plates”, Eur J. Pharm. Chem., 2004, 22, 365-374)。精密化したABLの厚さ(式(12))を図3に示すが、それらは21〜97μmに及ぶ。75μmを超える3つの値は、ブタカイン、メフェナム酸およびグリベンクラミドが溶液中でアグリゲート化することを示している可能性がある。ABLの透過率は水溶液中に拡散している化学種の分子量に依存するため、モノマー分子量を計算に使用すると、ABLの見かけの厚さが増加する。
【0092】
賦形剤ありでのPAMPA測定に関しては、1200回を上回る二重シンクPAMPA測定を3〜10のpH範囲内で行う。固有透過率およびABLの透過率を計算するために、高精度のpK(High-precision pKas)(Gemini)をpKfluxの方法に用いる。この例示的な透過率測定で決定した120のP値を、最大膜残留率(maximum membrane retention)(%R)およびABLの見かけの厚さとともに、表2にまとめている。
【0093】
【表2】

【0094】
最も透過性の高い分子はアステミゾールであり、P値は0.5cm/s(0.24% v/v PEG400および15mM NaTC)から32cm/s(3mM NaTC)に及んでいる。最も透過性の低い分子はグリセオフルビンであり、P値は1.8x10−4cm/s(5% v/v PG)から4.1x10−4cm/s(0.1M KCl)に及んでいる。
【0095】
膜残留はほとんどの分子でかなりのものであり、アステミゾールが最上位に位置しており、値は典型的に79%〜90%の範囲内である(しかし、15mM NaTCの場合には、24%まで低下している)。水相からこのように減少するにも関わらず、それでもなおPAMPA Evolution装置のソフトウェアによってアステミゾールの透過率にアクセスすることが可能である。表2に示すとおり、他の残留分子については賦形剤とともに順位が変化する。例えば15mM NaTCの場合のように、そして特にクロトリマゾール(賦形剤なしでの値80%と比較して、残留率が4%にまで低下している)についてのように、低い膜残留率は、賦形剤が化合物の保持についてPAMPA膜と効率的に競合することを示している。
【0096】
表2に挙げたABLの厚さは、賦形剤−薬剤相互作用についても示唆している。理想的に、薬剤が賦形剤を含まない溶液中でアグリゲートを形成することもなく、また、賦形剤と結合した複合体を形成することもないとすれば、決定されるABLの厚さhABLは約40μm(あるいは、非常に攪拌されているプロゲステロン溶液の場合には25μm)であったはずである。アステミゾールやクロトリマゾールについてなど多くの場合に、予測されるhABL<50μmが決定されている。しかしながら全く対照的に、15mM NaTC溶液中での計算されたABLの厚さは、多くの場合に1000μmを上回っている。理論的に予測されるPABLおよび実験的なPABLを表2に挙げている。観察された最小値は、非常に大きい分子量を有する、結合した複合体の影響から生じていると解釈することができる。PABLとMWとの関係は当該技術分野において公知である。例えば、Avdeef A., “The Rise of PAMPA”, Expert Opin. Drug Metab. Toxicol., 2005, 1, 325-342の式4を見かけのPABLに適用すれば、賦形剤を含まない溶液(0% NaTC、表3)は、アステミゾール、クロトリマゾールおよびジピリダモールの場合にはモノマーの水拡散を示すようであるが、それは、見かけの分子量MW(40μmのABLという仮定に基づく)の真の分子量に対する割合MW/MWが1に近いためである。他の一部の低溶解性薬剤については、同様の緩衝溶液中で、アグリゲートまたは4〜7のオーダーを示すようである(Streng W.H. et al, “Determination of solution aggregation using solubility, conductivity, calorimetry, and pH measurements”, Int. J. Pharm., 1996, 135, 43-52)。3mMのタウロコール酸ナトリウム溶液中では、ジピリダモールのみがモノマーとして振舞っているようであるが、他の分子は、3〜5のオーダーのアグリゲートとして現れている。これらのアグリゲートは、薬剤と賦形剤との結合でありうる。15mMのNaTC溶液ではABL透過率が極端に減少し、単純化した分析によれば56000ものオーダーのアグリゲート化が示されたが、これは妥当であるとは思われない。15mM NaTC溶液はマイクロタイタープレート中で容易にバブルを形成するためロボット装置中で機能し難いことから、賦形剤との複合体形成が唯一の解釈であるとまさに確信することは困難である。15mM NaTC溶液がPAMPA膜の一部を溶かしている可能性も懸念されるが、その影響の目に見える証拠(溶液の混濁)は観察されていない。
【0097】
賦形剤含有溶液でのlogPと、賦形剤を含まない(基準レベル)溶液でのlogPとの差を、賦形剤の量の関数として図4にプロットしている。塩基性薬剤(bases)は酸性薬物(acids)および中性薬物(neutrals)とは異なる挙動であることが多くの場合に明らかである。KCl溶液、NMP溶液およびPEG400溶液において、塩基性薬剤では、賦形剤存在下で固有透過率が低下するようであるが、酸性薬剤および中性薬剤では、透過率は上昇する。NaTCおよびHP‐β‐CDを含有する溶液では、最大の賦形剤レベルにおいて、全ての化合物で透過率が減少するようである。そのような賦形剤への薬剤の結合は十分に強く、そのため残りの遊離の部分の、結合していない薬剤濃度が著しく低下し、その結果、透過セルにおけるドナー区画とアクセプター区画との間の濃度勾配が減少し、透過率の減少に繋がっているようである。
【0098】
本明細書に記載する例示的な透過率測定の結果の視覚化に関して、図4には賦形剤の効果が記載されてはいるが、図4を迅速に把握して賦形剤の使用に関する実際的な決定をするのは視覚的には困難である。それゆえ、PAMPAマッピング(PAMPA-Mapping)と呼ばれるマッピングスキームを図5、図6および図7に示しており、PAMPAマッピングは賦形剤の効果についての視覚的側面を改善している。示しているのはPAMPAマッピングについての3つの成分のマップである:透過率(図5)、膜残留率(図6)およびABL(図7)。縦軸に沿ってあるのは賦形剤組成物であり、それらは、固有透過率に対する増強効果によって順序付けされている。横軸に沿ってあるのは薬剤であり、透過率を最も増強するものから最も増強しないものの順番で並べている。全ての賦形財についての平均では、酸性薬剤および中性薬剤の固有透過率は増強されているが塩基性薬剤については低下している。赤や黄色などの暖色は、賦形剤の結果としてマップされた特性の増加を示しており、基準レベルは賦形剤なしでの結果として定義されている。青紫(blue violett)などの寒色は、その反対を示している。例えば、設計目標が透過率の増強である場合、透過率マップの左上隅が透過率増加について最も有望な分子と賦形剤との組み合わせを示しており、マップの右下隅が最も問題のあるであろう領域を表している。
【0099】
図6の膜残留率のマップは、図5の透過率マップとある程度重複している。単純化されたフィックの拡散法則のみが輸送に関与しているのであれば、2つのマップは原理的には同一となるはずである。しかしながら、2つのマップの間にはわずかな(suble)違いがあることが分かる。残留率が著しく増加した場合、分析で検出される化合物があまりに少なくなるというのが、この効果を説明する一つの考えである。本明細書で考慮するケースでは、それが問題となるものはない。レシーバ区画においてDouble−Sink捕捉剤が存在しないことにより、膜残留率のマップがPAMPA Evolution装置で使用されるUV検出法に対する解析上の克服出来ない問題を示しているように思われる。
【0100】
図7のABLマップは、大まかには、図5および図6の他の二つのマップのミラーイメージである。hABLの比率の上昇は、水層におけるより遅い拡散と膜残留率の減少とに繋がる高い薬剤−賦形剤相互作用を意味するものと解釈されうる。ABLマップについての予想外の解釈としては、一部の薬剤は賦形剤を含まない溶液中でアグリゲートを形成するが(上記参照)、特定の賦形剤存在下では、該薬剤が自己結合する傾向は減少するということがありうる。これは、例えばマップ上で濃いブルーの領域で示されているように、KCl、0.24% v/v PG、1% v/v NMPおよび1% PEG中のグリベングラミド、ブタカインおよびジピリダモールについて事実でありうる。
【0101】
導入したカラーマップは新しく、その用途はますます発展していく。マップは、外見上システマティックに見えるが、それは一部には賦形剤と化合物とが最適な方法で順序付けされたためである。多くの分子、そしてもしかしたらより多くの条件および種類の賦形剤の場合には、マップがある種の同様のスキームにより「自己組織化」するインシリコのアルゴリズムが開発されうる。
【0102】
本発明の方法の第一の実施形態について適切な溶解度の測定はまた、種々の方法で行うことができる。多くの分子、特に発見プログラム由来の分子は、非常に低い溶解度を有しうるため、溶解度の測定は、迅速であることと化合物を節約することとの両方である必要がある。溶解度に対する賦形剤の効果のスクリーニングが、仕事をさらに厄介なものにしている。それにも関わらず、可溶化剤をシステマティックにスクリーニングする迅速な方法が出てきている。Chenら(Chen, H. et al., “A high-throughput combinatorial approach for the discovery of a Cremophor EL-free paclitaxel formulation”, Pharm. Res., 2003, 20, 1302 - 1308)は、クレモフォアELを含まない改善されたパクリタキセル(非常に確立された市販薬)製剤を発見するための多くの組み合わせのうち、12の賦形剤(PEG400、ポリソルベート80およびエタノールを含む)について約10000の組み合わせをスクリーニングするための全実施要因ロボットアッセイを使用している。一部実施要因実験計画法(DOE)を使用してそのような迅速法の効率と精度との両方を向上させる好機が明らかに存在している。DOEの方法をロボット制御に直接結びつける市販のソフトウェアが当該技術分野において存在している。また、起こりうるアグリゲート化の効果に対して溶解度のデータを適切に処理する計算法を自動化する好機も存在している。
【0103】
本明細書に記載する例示的な溶解度−賦形剤測定においては、PAMPAマッピングの方法が導入されるDouble−Sink PAMPA賦形剤で研究される主題は、6つの賦形剤(タウロコール酸ナトリウム、2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、塩化カリウム、プロピレングリコール、1−メチル−2−ピロリドンおよびポリエチレングリコール400)の15の組み合わせで測定される8つの難溶性薬剤(アステミゾール、ブタカイン、クロトリマゾール、ジピリダモール、グリセオフルビン、プロゲステロン、グリベンクラミドおよびメフェナム酸(mefenemic acid))に基づいている。
【0104】
溶解度測定の上記実施例は、化合物アステミゾール、ブタカイン、クロトリマゾール、ジピリダモール、グリセオフルビン、プロゲステロン、グリベンクラミドおよびメフェナム酸を用いて行う。アッセイするドナー溶液のpHは、pION社のユニバーサル緩衝液(PN 100621、1100151)で調整する。
【0105】
溶解度測定のこの実施例で使用する賦形剤は、臨床的に意義のある条件にある胃腸液で想定される濃度に重なるよう選択されている量の6つの賦形剤を含む。簡潔に述べれば、KClは0.1Mおよび0.2Mに選択し;タウロコール酸ナトリウム(NaTC)溶液は、絶食時および摂食時のGITの状態(35)に対応して、3mMおよび15mMにて調製する。液体賦形剤について、最大のカプセル容量はGITの容積250ml(35)に対して0.6mLであると仮定し、算出される賦形剤の濃度は0.24% v/vである。従って、N−メチルピリリドン(N-methylpyrrilidone)(NMP)、プロピレングリコール(PG)およびポリエチレングリコール400(PEG400)については、0.24% v/v、1% v/vおよび5% v/vの賦形剤溶液を試験する。ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(HP‐β‐CD)(MW 1396、溶解度450mg/mL)などのカプセル化される固体賦形剤については、270mgを0.6mLのカプセルに詰める(GIT容積中、0.1% w/v溶液に一致する)ことができるはずである。溶解度測定のこの実施例においては、わずかに高い値0.24% w/vおよび1% w/vを用いる。賦形剤を含まない緩衝溶液も数に入れて全部で15の異なる溶液を8種類の薬剤分子と共に溶解度に対する効果について試験する(結果として、120の薬剤−賦形剤の組み合わせである)。
【0106】
pKの測定に関して、高精度のpKのデータを、pION社のGemini装置を使用する電位差滴定法により決定するが、該高精度のpKのデータは、Gemini装置が水溶液または共溶媒のいずれにおいても、沈殿が一部の滴定の際に存在していたとしてもpKを決定することが可能であることを利用して、メタノール−水溶液中での外挿によって決定する。pH電極のキャリブレーションをpKの決定と同時に、該装置によってインサイチュで行ったが、それは共溶媒溶液中でpK<3またはpK>10である場合に特に重要な特性である。
【0107】
pION社(Woburn,MA,USA)のμSOL Evolution装置に実装されている、高度に自動化された直接UVの96ウェルマイクロタイタープレートの平衡溶解度法をこの溶解度測定の実施例実施例においては使用し、データは室温(25±2℃)で集める。サンプルは、典型的には10〜30mMのDMSO溶液として導入する。ロボット液体ハンドリングシステム(例、Beckman Coulter Biomek−FX ADMETox Workstation)でDMSOストック溶液の3〜10μLアリコートを取り出し、ユニバーサル緩衝水溶液に、賦形剤含有緩衝溶液中で最終(最大)サンプル濃度が50〜250μMになるように混ぜる。残留DMSO濃度を、最終緩衝液中で1.0%(v/v)に保つ。溶液のpHを様々に変える(NaOH処理したユニバーサル緩衝液)。このことは、アグリゲーションの定数および固有溶解度定数(the aggregation and intrinsic solubility constants)を決定するために必要である(Avdeef A. et al., ”Dissolution - Solubility: pH, Buffer, Salt, Dual-Solid, and Aggregation Effects” in: Testa B. et al., “Comprehensive Medicinal Chemistry II, Vol. 5”, ADME-TOX Approaches: Elsevier: Oxford, UK, 2006)。各溶解度−pH測定を重複して行い、該装置のソフトウェアによりその結果を平均化する。アッセイに使用する緩衝液は、ロボットシステムにより自動的に調製される。緩衝液およびpH電極のクオリティコントロールは、Avdeef−Bucher(Avdeef, A. et al., “Accurate measurements of the concentration of hydrogen ions with a glass electrode: calibrations using the Prideaux and other universal buffer solutions and a computer-controlled automatic titrator”, Anal. Chem., 1978, 50, 2137-2142)の方法を取り入れてアルカリ滴定により行う。18±1時間後に、薬剤固体の懸濁を含有する緩衝溶液を濾過し(0.2μm孔マイクロフィルター)、参照標準で得られたUVスペクトル(230nmから500nm)との比較により、存在する物質の量について上澄み液をアッセイするが、それにはEvolution装置に付随する特許された分光学的方法を用いる。
【0108】
図8のケース1a、1b、2aおよび2bに関して、化合物が水溶液中でダイマーまたはより高次のオリゴマーを形成する場合には、溶解度特性−pHプロファイルは、Henderson−Hasselbalch式(図8の実曲線参照)によっては予測されない形をとり、また、希釈水溶液または希釈共溶媒溶液中での電位差滴定で決定された場合、真のpK(例、図8のケース1aおよび1b)とは異なる見かけのpKをしばしば示すと述べることができる(29)。アグリゲーションによって引き起こされたlogS−pH曲線の歪曲の6種類のケースを図8は示している。ケース1a、1b、2aおよび2bの導き出し方(derivation)は文献に記載されており、また、根底にある固有溶解度の値を取り出す方法は当該技術分野において公知である。ケース3aおよび3axの処理は新しく、それらの導き出し方は以下に簡潔に記載されている。溶解度解析におけるこのようなpKシフトに基づいて、フェナゾピリジン(図8のケース2b)、インドメタシン(図8のケース2a)、2‐ナフトエ酸(図8のケース2a)およびピロキシカム(図8のケース1a)について、1.7x10+3−1から1.8x10+5−1に及ぶ二量化定数(dimerization constants)を提案する(Avdeef A. et al., “Dissolution - Solubility: pH, Buffer, Salt, Dual-Solid, and Aggregation Effects” in: Testa B. et al., “Comprehensive Medicinal Chemistry II, Vol. 5 ADME-TOX Approaches”, Elsevier: Oxford, UK, 2006)。
【0109】
溶解度測定についてのこの実施例の根底にありかつそれを集約している式は、pH−溶解度の関係性を数学的に記述しており、また、データの内挿、外挿、平滑化および圧縮(compaction)といった現実的な目的のために使用することができる。さらには、pKシフトの方法は、迅速な警告ツールとして使用することができる。暗に示されているように、該方法が機能するためには、分子は、利用されうるpH範囲内で電離基を持たなければならない。logS対pHのプロットが調べられ、また、真のpKが独自に知られている場合には、アグリゲートが存在するかどうかについて、および、これらの「異常な」効果が中性型または荷電型の薬剤に起因しているのかどうかについて、迅速に推定することができる。その上、固有溶解度は、pKシフトの大きさまたは方向から計算することができる。これらが、シフトの方法の最良の使いみちである。しかしながら、測定データを機械的に拡大解釈しないよう注意が必要である。非荷電分子が何らかのスペシエーションの異常(アグリゲート化、DMSOの結合、フィルター残留など)を被る場合には、弱酸は真のpKよりも高い見かけのpKを示し(図8のケース1a)、弱塩基は真のpKよりも低い見かけのpKを示すであろう(図8のケース1b)。観察されるシフトが上述したものと逆の場合には、(中性化学種よりむしろ)荷電化学種が異常に関与している(図8のケース2aおよび2b)。異常の正確なメカニズムはあらゆるケースで明らかでないかもしれないが、シフトを見かけの溶解度と組み合わせることにより、固有の(シフトしていない)溶解度Sがしばしば明らかになる。賦形剤を伴う場合、これには実用的なさらなる重要性がある:賦形剤の存在下で溶解度を測定し、そしてそれと同時に、あたかも加えた賦形剤が異常の原因であったかのようにして、加えた賦形剤の非存在下では明白であったであろう溶解度を評価することが多くの場合に可能である。
【0110】
賦形剤存在下における6つのタイプのアグリゲート、(HA)、B、An−、(BH)、(AH.A)n−および(AH.A)n−を考える。それらの導き出し方は、文献で報告されている流れに従う。これについては、新たな二つの状況に関して以下に簡潔にまとめている。
【0111】
第一の状況では、混合の荷電弱酸のアグリゲート(AH・A)n-について考える(図8のケース3a)。ケース2aおよびケース2bにおいては、アグリゲート化のオーダーは、1より大きいlogS−pHプロットにおける勾配によって明らかとなる(Avdeef A. et al., “Dissolution - Solubility: pH, Buffer, Salt, Dual-Solid, and Aggregation Effects” in: Testa B. et al. “Comprehensive Medicinal Chemistry II”, Vol. 5 ADME-TOX Approaches, Elsevier: Oxford, UK, 2006)。溶解度測定についてのこの実施例では、たとえある種のアグリゲート化が明らかに起こっていても、1に近い勾配がいくつかの場合で決定されている。この事実を説明するもっともらしいモデルが存在する。1:1の比率のHAおよびAを含有する、オリゴマー混合の荷電弱酸化学種(AH・A)n−が生じるということを仮定することができる。マスバランスの問題を完全に定義するために必要な平衡の式および関連する濃度の商は、
【0112】
【数14】

【0113】
【数15】

【0114】
【数16】

【0115】
である。
【0116】
溶解度は、
【0117】
【数17】

【0118】
で定義される。
【0119】
式(17)の[A]および[(AH・A)n−]成分は、[HA]、pHおよび種々の平衡定数の観点から:
【0120】
【数18】

【0121】
と拡張することができる。
対数で表した一般形は、
【0122】
【数19】

【0123】
である。
【0124】
式(19)の限定的な2つの形は、
【0125】
【数20】

【0126】
【数21】

【0127】
として示すことができる。
【0128】
混合の荷電アグリゲートの形成により、低pHの溶液における固有溶解度の値は不明瞭にならないことを式(20)は示している(図8のケース3a)。飽和溶液中での見かけのpKが真のpKよりも小さい弱酸についてであれば、pH>>pKに対してlogS対pHのプロットの勾配が+1であることは、ダイマー化学種AH・Aの形成と矛盾しない。しかしながら、+2の勾配は、ケース2aのダイマーまたはケース3aのテトラマーを示しているということもありうるが、それを見分けるのは困難でありうる。
【0129】
第二の状況では、賦形剤存在下での混合の荷電アグリゲート(AH・A)n−について考える(図8のケース3ax)。ケース3aにおいては、logS−pHプロットの勾配は、1より小さくはなりえない。勾配が1より小さいことが観察された場合には、計算モデルに対するさらなる修正が必要であった。弱酸HAの中性型のみに結合する賦形剤Xの存在下では、オリゴマー混合の荷電弱酸化学種(AH・A)n−が生じると仮定することができる。式1および式2に加えて、
【0130】
【数22】

【0131】
が必要である。
【0132】
平衡定数

には、式(22)の反応の平衡定数と、実際的には一定である(即ち、[HA]total<<[X]total)と仮定される賦形剤の濃度Xとの積が組み込まれている。
【0133】
溶解度は、
【0134】
【数23】

【0135】
で定義される。
【0136】
先と同様に、式(23)における非[HA]成分は、[HA]および種々の平衡定数の観点から拡張することができ、一般的な形の式(式(19))となる:
【0137】
【数24】

【0138】
図8におけるケース3axの例は、図中に示す平衡定数に基づいている。前記式の限定的な形を引き出すのは一般には不可能であり、式(24)におけるpHのn依存性のため、極端なpHでの勾配がなお

でなければならないことを示唆することができるだけである。図8のケース3axの例が示しているように、測定データが高いpHにおける曲線の屈曲からのみ得られているならば、勾配は1より小さくなりうるが、より高いpHでのデータを利用できるのであれば、当該モデルは+1の勾配を予測するであろう。
【0139】
記載したアグリゲート化のパラメーターの精密化に関しては、μSOL Evolution装置で測定された溶解度−pHのデータを、搭載されているソフトウェアで処理し、pION社のELM(商標) Data Managerに保存する。ELMに蓄えられた幾つかの異なるアッセイからのデータを、該ソフトウェアによってアグリゲートの存在についてさらにテストする。前記式の一つをEvolutionソフトウェアは自動的に選択し、それに対してlogS−pHのデータを加重非線形回帰法によってフィットさせるが、当該加重非線形回帰法においては、以下の残差関数(residual function)が最小化される:
【0140】
【数25】

【0141】
(式中、Nは当該モデルにおける溶解度値の測定数であり、logSicalcは計算されたlogの溶解度であり、ここでlogSicalcは、精密化されるパラメーター:pKAPP(見かけの電離定数)、logSAPP(見かけの固有溶解度)、logS(真の固有溶解度 −図8のケース1aおよび1bのみ)、logK(アグリゲート化の定数)およびn(アグリゲート化のオーダー)の関数である)。観察されたlogSの推定標準偏差σは、0.05(対数単位)と推定した。全体での精密化のクオリティは、「適合度(goodness-of-fit)」
【0142】
【数26】

【0143】
(式中、Nは精密化されるパラメーターの個数である)
によって評価した。
【0144】
この溶解度測定の実施例についての全ての精密化された結果を表3にまとめている。ロボット装置により迅速に集められた約1200の個々のpH−溶解度測定結果が精密化された値の基となっている。
【0145】
【表3−1】

【0146】
【表3−2】

【0147】
【表3−3】

【0148】
【表3−4】

【0149】
賦形剤なしの条件下でのlogS−pH溶解度プロットを図9に示す。破曲線は、(真のpKを用いた)Henderson−Hasselbalch式から予測される曲線に対応しており、溶解度−pH依存性をより正確に表している曲線との比較として示されている。点横線は見かけの固有溶解度を示している。実曲線は実際のデータ(黒丸)の最良適合に対応している。今回研究した塩基性薬剤は、カチオン性のアグリゲートを形成する傾向があったが(ケース2b)、ブタカインとジピリダモールは例外であり、それらは、明らかに中性のアグリゲートを形成していた(図8のケース1b)。研究した二つの酸性薬剤は、ほとんどはアニオン性のアグリゲートを形成する(図8のケース2aまたはケース3a)。非イオン性化合物に対して「pKシフト」の方法を適用するのが不可能であったため、アグリゲートが形成されうる程度についてはこの研究からは分からない。
【0150】
図9eにおけるグリベンクラミドは、賦形剤なしの結果におけるケース3aの例であるが、それは、見かけのpKにおける1.6対数単位の負のシフトと、高pHのデータにおける単位勾配とによってアグリゲートが示唆されるためである。即ち、該データは、負に荷電したダイマーAH.Aの形成と一致している。クロトリマゾール(図9c)は、n=1.4という勾配値によって示唆されるように、B.BH化学種と(BH)化学種との組み合わせから成るようである。アステミゾール(図9a)は、ダイマー(n=1.8)の(BH)化学種から成るようであり、一方メフェナム酸(図9f)は、この型のダイマーおよびトリマーの両者を有する(n=2.6)。ジピリダモールおよびブタカインはケース1bの挙動を示しており、非荷電性のアグリゲートが形成されていることが憶測されるが、該非荷電性のアグリゲートは、HH式から予測されるであろう値(破曲線)のような、アグリゲートが形成されない場合に予測される値の上に見かけの溶解度を上昇させる。これらの二つの分子はまた、検討したイオン性分子の中で最も溶けやすい。他の場所で指摘されているように(例、Avdeef A. et al., “Dissolution - Solubility: pH, Buffer, Salt, Dual-Solid, and Aggregation Effects”, in: Testa, B. et al., “Comprehensive Medicinal Chemistry II”, Vol. 5, ADME-TOX Approaches, Elsevier: Oxford, UK, 2006)、ケース1aまたはケース1bの依存性が示されている場合には、logS−pHのデータからアグリゲート化の程度(n)を評価することは不可能である。
【0151】
ここで論じる全ての化合物は、賦形剤を含まない緩衝液には難溶性であることが明らかであり(表3における「なし」の横列)、メフェナム酸がもっとも溶けにくく、21±5ng/mLである。ハイスループットのマイクロタイターの方法でこのような低い値を得ることができるというのはかなり驚くべきことかもしれない。18時間のインキュベーション時間を用いているのは決して「ハイスループット」ではないということすら言われるかもしれない。しかし、該装置の24時間の負荷サイクルの間に、4個から10個の96ウェルプレートを処理することができるということに留意すべきである。方法を全体として非常に高速にしているのは、ロボット測定のこの並列的な特性である。18時間というインキュベート時間によって、濁度検出の使用に基づく他の高速な方法での動的な値ではなく、薬剤の最も安定な多形での真の平衡溶解度の値を測定結果が示す可能性が増している。
【0152】
アステミゾール、クロトリマゾールおよびグリベングラミドの固有溶解度は、0.3〜0.4μg/mLと測定されている(表3)。ジピリダモールの固有溶解度は、6.2±1.1μg/mLであった。非イオン性化合物グリセオフルビンおよびプロゲステロンは、その他の化合物と比較するとやや溶け、14〜17μg/mLであった。研究した化合物で最も溶けやすいのはブタカインであり、固有溶解度は40±6μg/mLである。μSOL Evolutionの方法の感度は低ナノグラムの領域まで達していることがこれらおよびその他の測定(下記)から明らかであり、これは部分的には、Evolution装置における高度に開発された分光学的データ処理ソフトウェアによって可能となっている。
【0153】
図9に対応する図であって、一つの賦形剤濃度(1%、15mMまたは0.2M)における、研究したイオン性分子についてlogS−pH曲線の一部を示している図を同様に与えることができる。検討したその他の賦形剤濃度の結果を表2にまとめている。そのような図は、賦形剤なしのプロットでの曲線(図9)に加えて、さらなる「破−点−点」曲線を有しており、該「破−点−点」曲線は、賦形剤なしの場合の実曲線を表している。この基準曲線により、特定の化合物に対する賦形剤の影響の迅速な視覚的評価が可能となる。
【0154】
塩化カリウムに関しては、大まかなパターンは、賦形剤なしの場合のパターンに似ている(図9)。ブタカインおよびクロトリマゾールにおいてのみ、見かけの固有溶解度が0.2M KClによって有意に上昇する。アステミゾールは中性pHの溶液中で、より大きなpH依存性を示しているようであり、より高いオーダーのアグリゲートの形成からそれが起こっていると推測される。クロトリマゾールは反対の効果を示すようであり、高塩濃度の存在により、賦形剤なしの溶液で見られるアグリゲートを壊しているようである。クロトリマゾールの0.2M KClにおける挙動は、Henderson−Hasselbalch式によってうまく予測される。また、その固有溶解度も、0.39μg/mLから3.3μg/mLに上がる。ジピリダモール、グリベングラミドおよびメフェナム酸に対する0.2M KClの効果は最小限であるように思われる。メフェナム酸でのpH>6.5についての曲線からの点のずれは、塩の形成に起因しているのかもしれない。
【0155】
プロピレングリコールに関しては、その効果は、0.2M KClに起因する効果と似ている(図3)。アステミゾールは、固有溶解度のわずかな減少とともに、さらにより高いオーダーのアグリゲート(n=3.6)を示すようである。アステミゾールでは、固有溶解度は低いpHの溶液においてのみ増加するようである。クロトリマゾールの固有溶解度は、0.39μg/mLから2.0μg/mLに増大する。
【0156】
1−メチル−2−ピロリドンに関しては、先に論じた二つの賦形剤に比べて、アグリゲート化のオーダーがアステミゾールおよびグリベングラミドで減少する。その他の効果は、比較的程度が低い。クロトリマゾールは、KClおよびPGについてと同様、NMPで溶解度が高まるようである。メフェナム酸はNMPに対して、固有溶解度のわずかな増加という反応を示す。
【0157】
プロピレングリコール400に関しては、論じた最初の3つの賦形剤が弱い効果を伴っていたのに対し、PEG400では中等度の影響を有している。アステミゾールおよびクロトリマゾールにおけるアグリゲート化の結合定数(アグリゲート化のオーダーではない)は、実曲線がより高いpH値に対して劇的にシフトしていることで示されるように、大きく増大する。メフェナム酸でのアグリゲート化は無くなっているようであり、曲線は古典的なHHの挙動を有している。より溶けやすい薬剤ジピリダモールおよびブタカインの見かけの固有溶解度は、先のより弱く作用する3つの賦形剤で示された値をほぼ2倍上回る。
【0158】
タウロコール酸ナトリウムに関しては、検討した各薬剤に対する効果のパターンは劇的であり、全てについて溶解度が上昇しているが、特にメフェナム酸の場合においてそうであった(表2)。アステミゾールは、グリベングラミドを除く他の全ての分子同様、古典的なHHに従う分子として挙動する。後者の分子は+0.5のpH依存性を示すが、それは、ケース3axの挙動で最もよく表現されうる。残念なことに、アグリゲート化のモデルをさらに検証するための十分なデータをアルカリ性pHにおいて集めなかった。アグリゲート化しがちな大抵の分子は、どうやらそのpH依存性がHH式により説明されうる非荷電性のモノマーとして、NaTCミセルに強く結合する。見かけの結合強度の解析は、ケース1aまたは1bの式により説明できる。
【0159】
2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンに関して、1% HP‐β‐CDは、胆汁酸塩と同様に、アグリゲートを破壊する傾向がある。溶解反応はアグリゲート化のモデルにより表されるが、その結合は複合体形成のものである。アグリゲート化のモデルは、この賦形剤の作用を同様のモデルを伴う他の賦形剤の作用と比較するための、溶解度への効果の分類においてそれでもやはり好都合である。胆汁酸塩とシクロデキストリンの両方とも、研究した薬剤の溶解度の上昇において有意な効果を持つ。両賦形剤ともに、アグリゲートの形成を減少させるようである。グリベングラミドはそれでもなお、溶解度−pHプロットにおいて独特の半pH勾配(half-pH slope)を有している。
【0160】
アステミゾールに関して、表2は、全ての賦形剤の特定の薬剤に対する効果を比較するのに便利な参考資料である。アステミゾールの場合、溶解度は、1% HP−β−CD(賦形剤なしでの値0.29μg/mLが12μg/mLに上昇)によって、そしてまた15mM NaTCによって大いに増大される。アグリゲート化の強度(logK/n)は、0.24%および5%のPEG400によって最も著しく賦形剤なしの溶液での値を上回って上昇する。1% PEG400および1% NMPでは、それよりわずかに小さい上昇を示す。
【0161】
ブタカインに関して、ブタカインは荷電性アグリゲートを形成しないらしいと述べることができる。今回検討した分子の中で最も溶けやすい分子の溶解度は、両濃度のHP‐β‐CD(表2)だけでなく、0.1M KCl、全濃度のPEG400(賦形剤なしの値40μg/mLが152μg/mLに上昇)、および15mM NaTCによっても最もたやすく上昇する。
【0162】
クロトリマゾールに関しては、アステミゾールと同様、クロトリマゾールを伴うアグリゲートは、種々の賦形剤により広い範囲にわたる影響を受ける。アグリゲート化の強度(logK/n)は、0.24%および5%のPEG400によって著しく上昇する。15mM NaTCおよび1% HP−β−CD(賦形剤なしでの値0.39μg/mLが85μg/mLに上昇)を使用することで、溶解度の最も大きな増加となる。
【0163】
ジピリダモールに関しては、PEG400のアグリゲート化強化効果は、ジピリダモールでは、低い賦形剤濃度で見られる。溶解度は、15mM NaTCにより、賦形剤なしでの値6.2μg/mLから15mM NaTCで110μg/mLに上昇する。他の賦形剤は溶解度に対して有意な効果を有する(表2)。
【0164】
グリセオフルビンに関しては、グリセオフルビンとプロゲステロンとの両者は非イオン性であるため、「pKシフト」の方法によりアグリゲート化現象を示すことはできない。溶解度の上昇は、「強い」賦形剤で生じ、賦形剤なしでの値14μg/mLが、15mM NaTCにより54μg/mLに上昇する。グリセオフルビンの溶解度に対する賦形剤の影響は、研究したより溶けにくい他の薬剤の溶解度に対する賦形剤の影響よりも比較的劇的でない。
【0165】
プロゲステロンに関して、プロゲステロンは、グリセオフルビンとは対照的に、シクロデキストリンに強く影響される。グリセオフルビンと同様、溶解度の上昇は「強い」賦形剤で起こるが、プロゲステロンでは、賦形剤なしでの値17μg/mLが、1% HP−β−CDで187μg/mLに上昇する。
【0166】
グリベングラミドに関しては、グリベングラミドを伴うアグリゲート化の強度は、賦形剤によって、特に15mM NaTCによって増加するのみである。これは「塩析」現象である可能性があり、PEG400で最も頻繁に見られる。これは新たで予想外の観察結果であり、さらなる研究が必要であろう。
【0167】
測定した一連の薬剤の中で群を抜いて最も溶けにくいメフェナム酸に関して、溶解度の最も大きな増大は、NaTCおよびHP−β−CDによってもたらされるが、得られる最大の固有溶解度はそれでもなお比較的低く、3μg/mL未満である。NMPおよびPEGは、アグリゲート化の強度(logK/n)を増加させるようである。
【0168】
この溶解度測定の実施例の上述した結果をまとめると、示したように賦形剤が難溶性分子の溶解度を上昇させるというのは怪しげなことではないはずである。そのような効果の程度および性質が使用されるロボット装置によって非常に迅速かつ高い信頼性で評価されうるということが、もしかしたら十分理解されていないかもしれない。当該結果を、DMSOを含まない振とうフラスコでの方法で得られる結果と比較すると、本研究における全ての溶液中に1% DMSOが存在しているにも関わらず、値は、容認できる正確さであるようである。特定の賦形剤の効果を考慮すると、PEG400が(そしてより少ない程度でNMPが)多くの薬剤のアグリゲート化の強度(logK/n)を増加させているようであることは、新たな観察結果であるかもしれない。相互作用の性質が完全に分かっているわけではないが、可能性がある以下の効果について考えることは有用であるかもしれない。中等度の強度のPEG400は、シクロデキストリンおよびタウロコール酸ナトリウムと比較すると、薬剤を引き付ける十分に競合的な疎水性環境を与えないかもしれない。しかしながら、全溶液中に存在する1% DMSO、および溶媒和の水の一部が、PEG400分子に引き付けられ、緩衝溶液中の賦形剤に乏しい部分を、薬剤のアグリゲートにより集中させ、薬剤のアグリゲートのより強い自己会合を導く可能性がある。もちろん、「塩析」効果の類推を用いている。
【0169】
上記の例示的な透過率測定の結果について対応的に示したように、S−マッピングと呼ばれるマッピングスキームを図10に示すが、これは、溶解度に対する賦形剤の効果の視覚的側面を改善し、正確でシステマティックな評価を可能とする。該マップは、この溶解度測定において使用した溶解度の装置に付随しているソフトウェアによって自動的に作成することができる。見かけの固有log溶解度比率(賦形剤の溶解度を賦形剤なしの基準値で割っている)を図10にプロットしている。このような「勾配」マップでは溶解度を正規化して、賦形剤なしのベースラインを基準にしてパターンをシフトさせている。1% DMSOが全溶液中に存在するため、勾配マップではDMSOの影響の一部を取り除くことが望ましい。図10においては、緑色の値が基準となる(影響されていない)値を表している。暖色(黄色から深い橙色)は溶解度の増大を表しており、寒色(濃い青色)は値の低下を意味している。縦軸には賦形剤の組成があり、平均的な固有溶解度の増大が減っていくようにして順序付けされている。横軸には薬物があり、賦形剤によって有益さが減少していく順番に並んでいる。左上隅は、賦形剤と化合物との「最良」の組み合わせを表している。右下隅は、「最悪」の組み合わせを表している。この溶解度−賦形剤分類勾配マップ(Solubility-Excipient Classification Gradient Map)、あるいは省略してS−マッピングを用いれば、最も有望な分子−賦形剤の組み合わせを認識し、次いで優先順位をつけることが非常に効率良くなり、そしてこのようなS−マッピングのスキームは、製薬会社が発見最適化計画において直面するような、非常に多くの分子に対して迅速に作成することができる。
【0170】
この溶解度測定の実施例において最も有用な三つの賦形剤は、1% HP−β−CD、15mM NaTC、および0.24% HP−β−CDであると思われる。最も効果がない賦形剤は、0.24% PEG400、0.1M KCl、および0.24% PGである。図10からは、クロトリマゾールが、該マップにおいて比較的「暖かい」色の縦方向の軌道を有していることから、全体的に上位にあることが視覚的に明らかである。溶解度は、1% HP−β−CDのような強い賦形剤によって増大されるだけでなく、0.2M KClのような中等度および比較的弱い賦形剤によっても上昇する。S−マッピングに視覚的に示されているように、プロゲステロンおよびグリセオフルビンの溶解度の増大は弱くて似ており、これら二つの分子は、マップの右側に分類されている。プロゲステロンは、マップの最上部においてのみ、いくらかの暖色の効果を示して、グリセオフルビンとわずかに違いを出している。
【0171】
本発明の方法の第一の実施形態の、透過率の測定結果および溶解度の測定結果を流束関数に組み込むステップにおいて、上述したようなPAMPA賦形剤測定値と上述したような溶解度−賦形剤測定値とを、新規の順序付けされているバイオファーマシューティクス・クラシフィケーション・グラディエント・マップ(Biopharmaceutics Classification Gradient Map)によりグラフで表されているpH依存性の流束関数に論理的に組み込むことを提案する。それにあたって、本発明によるスクリーニングの方法論を示す土台として、8つの難溶性薬剤(アステミゾール、ブタカイン、クロトリマゾール、ジピリダモール、グリセオフルビン、プロゲステロン、グリベンクラミドおよびメフェナム酸(mefenemic acid))を用い、6つの賦形剤(タウロコール酸ナトリウム、2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、塩化カリウム、プロピレングリコール、1−メチル−2−ピロリドンおよびポリエチレングリコール400)の15の組み合わせで測定する。さらなる三つの分子(アルベンダゾール(albendazole)、アミオダロン(amiodarone)およびナプロキセン(naproxen))を2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(HP−β−CD)を用いて同様に特徴付ける。HP−β−CDの結果の一部を、利用できるインビボのデータと比較する。また、低溶解度かつ高透過率の薬剤を考えた場合、pHの効果が現実的に反転し(即ち、薬剤がより帯電するpHでは、薬剤がより中性であるpHでよりも、より大きい吸収流束(absorptive flux)となる)、現在医薬研究において広く受け入れられている古典的なBroodieのpH分配仮説は破綻しうることが示されている。この現象はpH分配のアンチテーゼ効果(pH Partition Antithesis effect)と呼ばれている。
【0172】
透過率測定の結果と溶解度測定の結果とを流束関数に組み込む上記ステップの基礎として、フィックの第一法則における溶解度および透過率に関して、定常状態(即ち、膜内の透過物質の空間的濃度勾配が線形である)のシンク条件(即ち、膜バリアのアクセプター側において、透過物質の濃度がゼロである)では、均質な膜に適用したフィックの第一法則は、
【0173】
【数27】

【0174】
(式中、Jは透過分子の流束(mol cm−2s−1)、Dは透過物質の膜相での拡散率(cm s−1)、PCAPPは透過物質の、水溶液と膜との間の見かけの(pH依存的な)分配係数、C(mol cm−3)は膜のドナー側での透過分子の濃度、h(cm)は膜の厚さ、P(cm s−1)は「有効」透過率であって式(3)の三つの輸送パラメーターの積である)と記述できる。Cは、薬剤のドーズ量が溶解度限界を超えている場合(その場合にはCは溶解度に等しい(「飽和」溶液))を除いて、該ドーズ量に等しい。水境界層(ABL)の抵抗、アグリゲートの形成、およびその他のそのような厄介な問題などの効果を無視すれば、飽和溶液に適用されたHH式は、
【0175】
【数28】

【0176】
(酸性物質に対しては「+」を用い、塩基性物質に対しては「−」を用いる)となる。PおよびSは、それぞれpH非依存性の固有透過率および固有溶解度である。薬剤の濃度Cは、溶解度Sより小さいか又は等しい。同様に、非荷電化学種の濃度Cは常に、該化学種の固有溶解度Sと等しいかまたはそれより小さい。式(28)によれば、飽和溶液における流束はpH非依存性である。それゆえ、pH分配仮説が飽和溶液では成り立たないのはもっともなことである。しかしながら、以下に示すように、飽和溶液における流束はpHに依存しうるが、必ずしもpH分配仮説によって予測されるものではない。
【0177】
図11には、流束のこの関係を難溶性薬剤であるメフェナム酸について示しているが、それには文献での固有透過率および固有溶解度の値を用いており、また、理想的なHenderson−Hasselbalch式が成り立つ(即ち、溶質のダイマーまたはトリマーが形成されない、ABLの抵抗が起こらない、膜残留がない、など)と仮定している。固有透過率はpHに依存しないが(図11の点線)、流束の式における補助係数CはpHに依存する(破線)。部分的に飽和している溶液(臨床用量250mgでpH<9)では、イオン性分子についてのlogC対pHのプロットは単純に、飽和状態と完全な溶解状態との間の境界を示している切れ目の地点でつなげられた直線セグメントの組み合わせである。この連結点のpHは、計算に使用されるドーズ量に依存し、Cの最大値は、飽和溶液におけるlogSに等しい(式(28))。
【0178】
logC(破線)は、飽和溶液(logC=logS)においては横線であり、溶質が完全に溶解するpH領域では−1の勾配で減少することを図11は示している。臨床ドーズレベルでは、屈曲はpH9にあると計算され、より小さいドーズ量では、屈曲点は、より低いpHにおいてである(例、1mgのドーズ量に対して、臨界pHは6.5に下がる)。メフェナム酸について5.3μg/250mlを下回るドーズ量に対してのみ、logC曲線は完全にドーズ量−溶解度限界の下となり、双曲線型となる。図11には、log流束−pH曲線を実線で示しており、それはlogP曲線とlogC曲線の合計である。pH分配仮説が全てのpH範囲で成り立つのは、ドーズ量が<5.3μgの場合においてのみ(固体が形成されないため)であることに留意すべきである。pH分配仮説はより大きなドーズレベルにおいても有効ではあるが、それは、固体が完全に溶解するpHを上回る、斜線で規定されている領域(250mgのドーズ量ではpH>9)においてのみである。
【0179】
固有の(instrinsic)データの、腸内のpH5.0、ph6.2およびpH7.4の条件への変換には、Henderson−Hasselbalch式よりも複雑な式を用い、上述した透過率測定の結果と上述した溶解度測定の結果とを腸内で意義のある条件に変換するための定数を用いた。溶解度に関して、アグリゲート化によって引き起こされるlogS−pH曲線の歪曲について6種類のケースを上述した。さらに二つの式が導かれるが、表1に全ての溶解度の式をまとめている。これらの式を、pH5.0、6.2および7.4でのSを計算するために用いる。
【0180】
【表4】

【0181】
透過率に関して、有効透過率のpH依存性は、
【0182】
【数29】

【0183】
(酸性物質には「+」を用い、塩基性物質には「−」を用いる)
(式中、PABLは水境界層の透過率である)
と表される。ABLの厚さh(腸内で約40μm)に対して、ABLの透過率は、
【0184】
【数30】

【0185】
(式中、Daqは溶液中での薬剤の拡散率(cm s−1)であり、Daqは25℃では、分子量に基づいた式logDaq=−4.15−0.448logMW(Avdeef A. et al. “Permeability of Weakly Basic Drugs Predicted with the Double-Sink PAMPA pKafluxMethod. Layer”, Eur. J. Pharm. Sci., 2005, 24, 333-349)で近似できる)から予測することができる。式(29)および式(30)は、h=40μmと仮定して、固有透過率をpH5.0、6.2および7.4において有効な値に変換するために用いる。
【0186】
透過率測定の結果と溶解度測定の結果とを流束関数に組み込むこの実施例での精密化の結果を、1% HP−β−CDのありとなしとで表2にまとめている。使用している残りのデータは、上述した透過率測定の実施例および上述した溶解度測定の実施例から取られている。2400より多い個々のpH溶解度測定値およびpH透過率測定値が、精密化した固有の値の基礎となっている。表5の例は、シクロデキストリンが、透過率を下げ、溶解度を上げているが、該二つの効果の大きさは等しくはないことを示している。
【0187】
【表5】

【0188】
pH5.0、pH6.2およびpH7.4での透過率測定における賦形剤の勾配に関しては、薬剤と賦形剤との全ての組み合わせに対して、式(30)を用いて約40μm厚さの層に対応するABLの透過率を計算に織り込んで、式(29)を用いて上記固有の値から計算している。ベースラインの透過率の値は、pH6.2、ABLの厚さ40μm、賦形剤なし(X=0)の条件:Pe,6.2,40x=0で定義した。他の全ての透過率の値を該基準値で割り、比率(Pe,pH,40/Pe,6.2,40x=0)を得た。特定の賦形剤またはpHが透過率を増大させている場合には、計算される該比率は1よりも大きい。賦形剤/pHの組み合わせが透過率を低下させている場合には、計算される該ファクターは1よりも小さい。
【0189】
図12aに示すPAMPA−賦形剤−pH分類勾配マップ(PAMPA-Excipient-pH Classification Gradient Map)は、log(Pe,pH,40/Pe,6.2,40x=0)値の序列化された等高線プロットである。図2aには、360の勾配がプロットされている。ゼロを上回る勾配は透過率の増大を示しており、暖色(橙色、赤色)で表されている。該マップにおけるゼロを下回る勾配は賦形剤/pHでの透過率の低下を示しており、寒色(暗緑色、濃青色)で表されている。このマップにおいては、黄色は、勾配がゼロであるベースラインのレベルを示している。プロットは以下に記載する流束勾配(flux gradient)に基づいて序列化されている。
【0190】
図12aのPAMPA−賦形剤−pH分類勾配マップから、ある種の傾向がただちに認識できる。濃青色の「寒い」領域(透過率の低下)は、主に15mM NaTCと関係しており、pH5のブタカインおよびジピリダモールではほとんどの賦形剤に対してである。「熱い」ゾーン(透過率の増大)は、グリベングラミドおよびメフェナム酸の二つの酸に対しては低pH溶液について、そしてpH7.4のブタカインに対してである。また、プロゲステロン、グリセオフルビンおよびpH7.4のアステミゾールは、多くの賦形剤に対して「暖かい」。
【0191】
pH5.0、pH6.2およびpH7.4における微小溶解度測定での勾配に関しては、薬剤と賦形剤との全ての組み合わせについて、表4の式を用いて固有溶解度およびアグリゲート化の定数から計算している。ベースライン値の溶解度は、pH6.2、賦形剤なし(X=0)の条件:S6.2x=0で定義した。他の全ての溶解度の値を該基準値で割り、比率(SpH/S6.2x=0)を得る。特定の賦形剤または6.2以外のpHが溶解度を増大させている場合には、計算される該比率は1よりも大きい。賦形剤/pHの組み合わせが溶解度を低下させている場合には、計算される該ファクターは1よりも小さい。
【0192】
図12bに示す溶解度−賦形剤−pH分類勾配マップ(Solubility-Excipient-pH Classification Gradient Map)は、log(SpHX/S6.2X=0)値の序列化された等高線プロットである。図12bには、360の勾配がプロットされている。ゼロを上回る勾配は溶解度の増大を示しており、暖色(橙色、赤色)で表されている。該マップにおけるゼロを下回る勾配は賦形剤/pHでの溶解度の低下を示しており、寒色(暗緑色、濃青色)で表されている。このマップにおいては、薄緑色は、勾配がゼロに近いベースラインのレベルを示している。プロットは以下に記載する流束勾配に基づいて序列化されている。
【0193】
図12bの溶解度−賦形剤−pH分類勾配マップから、ある種の傾向がただちに認識できる。濃青色の「寒い」帯(溶解度の低下)は、主に低pHのグリベンクラミドおよびメフェナム酸ならびにpH7.4のブタカインおよびアステミゾールと関係している。「熱い」ゾーン(溶解度の増大)は、低pHのクロトリマゾールおよびジピリダモールならびにpH7.4のグリベンクラミドの溶液と関係している。グリセオフルビン、プロゲステロン、pH7.4のメフェナム酸、pH5のブタカインおよびアステミゾールは全て、賦形剤で動かされない溶解度の値を示している。1% DMSOが全ての溶液中に存在するため、勾配マップはDMSOの影響の一部を取り除くことが望ましい。
【0194】
さらに、選択した薬剤が非常に低い固有溶解度の値を有するときには(メフェナム酸は21ng/mLの固有の値を示す)塩効果が考慮される。しかしながら、分子のpKが5〜7.4の生理的範囲から遠く離れている場合は、表4での式により説明されるpH依存性により、中性pH領域において溶解度は高い値に上昇しうる(例、表5のアミオダロンおよびナプロキセン)。荷電性のアグリゲートの形成により、pH依存性はさらに激しくなる。荷電性化学種が現れるとともに溶解度は上昇するが、永続的ではない。いくつかの高い見かけの溶解度値においては、荷電薬剤と溶液中に存在する対イオンの一つとの間で形成される塩の溶解度積を上回り、塩形態の荷電薬剤が沈殿する。使用した最大濃度(100−200μM)は、上述したように、pH>7でのメフェナム酸を例外として、概して塩沈殿のレベルより下である。塩沈殿の開始は、賦形剤なしの場合に見られる固有溶解度値を3桁上回っているという合理的な仮定がなされる。これは「sdiff3−4」近似と呼ばれている(Avdeef A., “Absorption and Drug Development - Permeability, Solubility, Charge State, Wiley-Interscience, 2003, pp. 116-246)。これは確実な近似ではないが、溶解性を弱めるであろう塩形成を完全に無視するよりは、これを利用したほうがまだよいというのが実際的な前提にある。
【0195】
例えば、ナプロキセンの固有溶解度は、本研究では18μg/mLと測定された。「sdiff3−4」近似によれば、計算された溶解度(表1の式)が18mg/mLを上回るならば、高pHの溶液において塩沈殿の形成が見られると予測するべきである。HH式を用いると、pH7.4における賦形剤なしの溶解度の計算値は20.9mg/mLである。表2では、予測される18mg/mLの塩限界を上回っていることを示すために、ナプロキセンのpH7.4での値にアスタリスクで印をしている。
【0196】
この「sdiff3−4」近似を用いると、本研究でのイオン性薬剤の塩限界は、アステミゾールで288μg/mL、ブタカインで39.8mg/mL、クロトリマゾールで389μg/mL、グリベングラミドで347μg/mL、そしてメフェナム酸で21μg/mLである。これらの限界を用いて、アステミゾールは、全ての賦形剤に対してpH5および6.2で、そしてPEG400に対してpH7.4で塩沈殿することが予測された。ブタカインは、pH5で塩沈殿することが予測された。クロトリマゾールは、0.24%および1.0%のPEG400を用いるとpH5で塩析することが予測された。グリベングラミドおよびメフェナム酸は、いくつかの賦形剤に対してpH7.4で塩析することが予測された。また、メフェナム酸は、0.1M KClおよび1% HP−β−CD中、pH6.2で塩として沈殿することが予測される。
【0197】
塩限界を図12bの溶解度−賦形剤−pH分類勾配マップに組み込んだ。
【0198】
図12aおよび12bに見られるように、先行する二つの分類マップは、概して互いに反対になっている。一方で暖色の領域は、他方で寒色の領域と一致する。大まかにいえば、単純なHH式(式(28))によれば透過率と溶解度のpH依存性は逆の関係であるため、これは予想できることである。図11の飽和溶液の部分(pH<9)では、単純化されたHH式を用いれば、一方の特性での増加は他方の特性での減少により完全に相殺されるため流束はpH非依存性となる。流束に関係する特性である薬剤吸収において最適化をするためには、いずれかの特性を使用するのでは不十分である。透過率および溶解度は、組み合わされた場合に、最適化のニーズに役立ちうるが、これは製薬業界の日常的な実践ではまだほとんど行われていない。(細胞の)透過率の測定は、生物学者によって頻繁に行われている。溶解度の測定は、物理化学者によって頻繁に行われている。二つのグループは別の建物にあることが多く、また、二つの測定は、時として非常に異なる時期に行われる。二組の測定をコヒーレントに統合することは、時として困難な課題である。二つの性質を論理的に統合することに注目した早期試みにより、AP(Dressman J.B. et al., “Absorption potential: estimating the fraction absorbed for orally administered compounds”, J. Pharm. Sci., 1985, 74, 588-589)関数およびMAD(Johnson K. et al., “Guidance in the setting of drug particle size specifications to minimize variability in absorption”, Pharm. Res. 1996, 13, 1795-1798; Curatolo W., “Physical chemical properties of oral drug candidates in the discovery and exploratory development settings”, Pharm. Sci. Tech. Today, 1998, 1, 387-393;およびAvdeef A. et al., “HT Solubility and Permeability: MAD-PAMPA Analysis” in: Kramer S.D. et al., “Physicochemical and Biological Profiling in Drug Research”, Wiley-VCH: Weinheim, 2006)関数、ならびにBCS(Amidon G.L. et al., “A theoretical basis for a biopharmaceutic drug classification: the correlation of in vitro drug product dissolution and in vivo bioavailability”, Pharm. Res., 1995, 12, 413-420;および“Guidance for Industry, Waiver of In Vivo Bioavailability and Bioequivalence Studies for Immediate Release Solid Oral Dosage Forms Based on a Biopharmaceutics Classification System”, FDA, Washington, D.C, USA, August 2000)がもたらされた。吸収の最適化を考慮するための統合関数を本明細書において提案し、それをBCGマッピングと呼ぶ。我々が透過率−賦形剤測定および溶解度−賦形剤測定について提案したように、図12cに示すマッピングスキームを提案するが、それには図12cに示しているもののようなバイオファーマシューティクス・クラシフィケーション・グラディエント・マップを用いている。これらは、流束関数における賦形剤および他のあらゆる効果(ABLの抵抗、膜残留、アグリゲート化、複合体形成、pH、およびその他多くのHH緩和効果)の視覚的な側面を改善して、正確で体系的な評価を可能にするよう設計されている。該マップは、上記で使用しているPAMPAおよび溶解度装置に付随するpION社のELMソフトウェアによって自動的に作成することができる。図12cにプロットしているのは、先行する二つのマップ(式(29)ならびに図12aおよび図12b)の和である:log(Pe,pH,40/Pe,6.2,40x=0)+log(SpH/S6.2x=0)。このような「勾配」マップは、流束の値を正規化して、賦形剤なしの、pH6.2のベースラインを基準にしてパターンをシフトさせている。図12cにおいて、緑色の値は、基準(ゼロ)の残存(residual)を表している。暖色(黄色から濃い橙色)は流束の増大を表しており、寒色(濃青色)は値の低下を意味している。縦軸には賦形剤成分があり、該三つのpH値での目下の全ての薬剤について考慮して平均的な流束の増大が減っていくようにして順序付けされている。横軸には薬剤があり、賦形剤によって、該三つのpH条件の平均で有益性が減少していく順番に並んでいる。左上隅は、賦形剤と化合物との「最も有益な」組み合わせを表している。右下隅は、「最も有益でない」組み合わせを表している。このBCGマッピングを用いれば、最も有望な分子−賦形剤の組み合わせを認識し、次いで優先順位をつけることが非常に効率良くなり、そしてこのようなマッピングスキームは、製薬会社が発見最適化計画において使用する、非常に多くの分子に対して迅速に得ることができる。直接的な比較をより用意に行えるよう、流束のマップに基づく順序付けは、他の二つのマップに対して適用される。
【0199】
本発明の方法の第一の実施形態における最も有用な三つの賦形剤は、0.24%および1%のHP−β−CD、ならびに3mM NaTCであると思われる。驚くべきことに、15mM NaTCは、透過性を弱める強くて全体的な傾向があり(図12a)、それが溶解度の増加(図12b)で完全には相殺されないため、最下位である。最も有効でないその他の賦形剤は、0.24%および1%のPEG400、0.1M KCl、ならびに1% PGである。これらの賦形剤は、図12cにおいて、賦形剤なしの位置(「なし」)よりも下にある。
【0200】
図12cから、クロトリマゾールは、わずかに酸性の溶液において該マップで比較的「暖かい」色の縦方向の軌道を有しており、全体的に最も高い順位であることが視覚的に明らかである。溶解度は、1% HP−β−CDのような強い賦形剤によって増大するだけでなく、0.2M KClのような中等度および比較的弱い賦形剤によっても上昇する。また、賦形剤のうちのいくつかは、透過率の値も上昇させている(図12a)。BCGマッピングが視覚的に示しているように、グリベングラミド、メフェナム酸、ブタカインおよびアステミゾールでの流束の増大はいくつかのpH条件においては弱く、低い溶解性(図12bの濃青色)が、透過率の増大(図12aの橙色)により、完全にではないが部分的に相殺されていることを示している。しかしながら、例えば多くの賦形剤に対するpH7.4でのグリベングラミド、0.24% PEG400に対するpH7.4でのメフェナム酸、0.1M KClに対するpH6.2でのメフェナム酸など、多くの暖色の島が存在している。
【0201】
HP−β−CDの効果に関して、シクロデキストリンは、当該セットにおける難溶性薬剤に対して全体的に最も利益をもたらした。本発明の方法の第一の実施形態における三つのさらなる化合物でのHP−β−CDのデータを作成する。図13に、11の化合物に対する1% HP−β−CDによる正味の流束効果を示している。概して、透過率は賦形剤によって減少し、溶解度は賦形剤によって増加する。しかしながら、二つの効果のバランスは微妙であり、正味の効果をいずれの方向に傾けることもありうる。図13は、正味の増加および正味の減少についての種々の例を示している。アルベンダゾール(図13a)では賦形剤の結果として目下の三つのpH値において一律に増加しているが、それは主に、溶解度の増加が透過率の減少により完全には相殺されなかったためである。ブタカイン(図13b)では全てのpH値において減少しているが、それは、1% HP−β−CDは生理的pHにおいては溶解度を有意な程度では少しも改善しないために、透過率の減少が補われないからである。同様のことがナプロキセンに対しても明らかである(図13j)。メフェナム酸は交差的なpH効果の例である。酸性溶液においては、流束は1% HP−β−CDにより促進されるが、中性溶液においては、該賦形剤の存在により正味の減少となる。ジピリダモール(図13f)は、正確に打ち消しあう増加と減少とを示し、流束は該賦形剤によって影響を受けずにとどまる。経口吸収の予想が溶解度のみに基づいていたら、不適切な擬陽性の分類がなされたであろう。あるいは、透過率のみを決定に用いていれば、分類は擬陰性だったであろう。
【0202】
アミオダロンの場合は、本研究において、正確な数値を出すのが難しい。固有溶解度は非常に低く、「sdiff3−4」近似は、溶解度曲線において比較的低い塩の「上限」を見積もっているが、それは、賦形剤なしのpH7.4を除く全ての条件について同様である(図13b)。賦形剤による透過率の予測される損失は、正味の流束において十分補われておらず、正味の流束はpHの関数として交差のパターンを有している。
【0203】
pH分配アンチテーゼに関して、pH分配仮説(Shore P.A. et al., “The gastric secretion of drugs: a pH Partition Hypothesis”, J. Pcol. Exp. Therap.” 1957, 119, 361-369)は、メフェナム酸およびグリベングラミドは、酸性pHは該分子が最も帯電しないpHであるため、酸性pHにおいて最も良く吸収されるはずであることを示唆している。それとは反対に、クロトリマゾール、ジピリダモール、ブタカインおよびアステミゾールはわずかにアルカリ性の溶液において最も良く吸収されるはずであるが、それは、弱塩基はそのような条件下で最も帯電しないためである。しかしながら、これらの分子について正確に反対の傾向が見られることが図12を検討すれば即座に示される。これはとりわけ、賦形剤についての競争の勝者であるクロトリマゾールで非常に明白である。臨床用量以下のメフェナム酸に基づく図14の一連の枠は、本研究の驚くべきそして刺激的な成果に対して新たな光をいくぶん投げかけようとするであろう。
【0204】
図14aは理想的な状況を表しており、該状況では、伝統的なHenderson−Hasselbalch式を適用できるよう、透過率に対するABLの抵抗、膜による化合物の残留、アグリゲートまたは複合体の形成、ミセル様構造物の形成、塩の沈殿などのような「異常」がないものと想定されている。図14aには、250mgの臨床用量のメフェナム酸(mefenamic)が示されている。透過率のpH依存性は溶解度のpH依存性の鏡写しとなっており、二つの成分の積である流束において、互いが打ち消しあう。従って、最も単純に見れば、吸収はpHに依存しないはずであり、pKが分かっていることは吸収の予測においてそれほど重要ではないという瑣末ではあるが魅力的な考えに繋がる。流束においてはpH依存性がないため、pH仮説が破られていることに注目されたい。
【0205】
図14bは、同様に非常に理想化された計算を示しているが、これは、1mgのドーズ量という亜臨床レベルでの計算である。先行する場合との相違は、6.5を上回るpHで該化合物は完全に溶解しており、溶液中の薬剤濃度が1mg/250mL(17μg/mL)の定数となっているということである。沈殿がない場合には、流束の関数はpH依存性となる(図14b)。pH>6.5の領域では、古典的なpH分配仮説が成り立っている。
【0206】
図14cおよび14dは、先行する二つの場合と似ているが、一つだけ「異常性」がある:水境界層の抵抗を透過率モデルに加えている。図14c,dにおいて見ることができるように、透過率曲線の頂上は、ABL(そのおおよその厚さは、胃腸管で想定される厚さに倣って40μmである(Avdeef A. , “Absorption and Drug Development - Permeability, Solubility, Charge State, Wiley-lnterscience, 2003, pp. 116-246))による抵抗度によって押し下げられている。図14cでは、ABLの効果を加えたことにより、流束の関数は純粋なシグモイド型となっている。pH依存性がBrodieの仮説から予想されるものと反対となっていることは注目に値する。亜臨床用量では(図14d)、pH>6.5に対してはpH分配仮説が成り立つが、このpHを下回ると該仮説は転倒する。この効果を本明細書ではpH分配アンチテーゼと呼ぶ。
【0207】
図14eおよび図14fでは、アグリゲート化というさらなる「異常性」を持ち込んでいるが、アグリゲート化はメフェナム酸について観察されており、メフェナム酸では、アニオン性のダイマーおよびトリマーが溶解度−pH曲線を説明するために提案されている(上記参照)。帯電したアグリゲートの効果は、古典的なBrodieの仮説を実質的に転倒させる。溶解度はメフェナム酸(mefenamic)が(アニオン性アグリゲートの形成により)帯電する領域で増加するため、pH>7の領域では、250mgの臨床ドーズレベル未満であっても、pH分配仮説が順守されている。亜臨床用量の使用(図14f)はBrodieのパターンを、pH6より下にまで少しだけシフトさせる。
【0208】
図14gおよび図14hは、図14eおよび図14fの場合に対して賦形剤(1% HP−β−CD)の効果を加えている。シクロデキストリンはアグリゲートを破壊すると思われるため、アンチBrodie効果は無効化されているようである(図14eおよび図14g)。亜臨床用量では、古典的なpH分配仮説が、本実施例において初めて完全に現れる。
【0209】
イヌで試験され、シクロデキストリンの複合体形成によって有意に増加することが見出されているグリベンクラミドの生物学的利用能、ならびに、HP−β−CDのありとなしとでマウスで試験され、CmaxおよびAUC0−∞は、賦形剤なしの薬剤の懸濁液を伴うよりもシクロデキストリンありで有意に高いことが見出されているアルベンダゾールの経口生物学的利用能が、本発明の方法の第一の実施形態の結果をインビボの生物学的利用能のデータと比較する基準の基礎にある(underly)。二つの薬物動態学的(PK)研究からのパラメーターを表3にまとめている。
【0210】
【表6】

【0211】
図13aおよび図13gは、アルベンダゾールおよびグリベングラミドについてのpH5‐7.4での流束関数を示している。これらの図は、1% HP−β−CDはlog流束値を増加させるが、その効果のpHパターンは異なり、グリベングラミドは実質的により複雑なパターンを示すことを示している。アルベンダゾールでは、流束は、pH5.0、6.2および7.4に対してそれぞれ3.0、3.1および3.1の率で増加しており、増加の平均は3.1の率であることを示している。グリベングラミドでは、対応する流束は、pH5.0では20.1、pH6.2では4.3の率で増加するが、pH7.4では3の率で減少しており、全体の平均として3.1の増加をもたらしている。表4は、アルベンダゾールおよびグリベングラミドについてのCmaxの増加率が、それぞれ4.3および7.3であることを示している。報告した流束勾配とPK研究で見出された流束勾配とは、好ましく類似しているように思われる。
【0212】
本発明の方法の第二の実施形態では、透過率および溶解度を別個の実体として明示的に決定することなく、化合物の吸収ポテンシャルに対する賦形剤の効果をモニターするために透過率の変化と溶解度の変化の両方を組み合わせている。これにより、本発明の方法の第二の実施形態はとりわけ高速になる。当該実施形態は、脂溶性のバリアによって分けられている二つのチャンバーの透過システムのレシーバチャンバーにおいて現れる調査化合物の濃度変化を、ドナーチャンバー中の賦形剤成分(種類および/または濃度)を変化させながらモニターすることを有する。バリアは、人工膜(例、脂溶性溶液に含浸させたフィルター(即ち、PAMPAモデル))、培養内皮細胞(例、RBE4)、またはその他の培養細胞モデル(例、Caco−2、MDCK等)を構成(constitute)しうる。生物学的に意義のある水境界層の厚さおよびpHも考慮に入れる。
【0213】
本発明の方法の第二の実施形態の図解を図1に示す。化合物を、約10mMの濃度のDMSO溶液として与える。該溶液を、ユニバーサル緩衝水溶液中にさらに希釈し、0.5M NaOHでpH5.0、6.2および7.4に調整する。該水溶液中でのバックグラウンドのDMSOの量は、0.5% v/vである。ほとんどの化合物は水に溶けず、水中では、沈殿が存在する飽和溶液を形成する。計算される緩衝液中の化合物の濃度は約50μMであるが、沈殿のため、水媒体中での実際の濃度はそれより低いはずであり、未知である。(濾過していない)飽和溶液を、マグネチックスターラーをあらかじめ入れておいたPAMPAサンドイッチのドナー区画に移す。PAMPAフィルタープレート(PAMPAサンドイッチのアクセプター区画)のフィルターをGITの脂質で覆い、アクセプター・シンク緩衝液(acceptor sink buffer)(ASB)で満たす。ASBは、血流中のタンパク質の結合特性を模倣する界面活性剤混合物(化学シンク)(Double−Sink(商標) PAMPA)を加えたpH7.4の緩衝水溶液を構成する(constitutes)当該アッセイでは激しい撹拌が用いられ、撹拌速度は約40μmの厚さの水境界層(ABL)を作り出すよう設定されるが、それは、GITにおけるABLの条件と合致させるためである。PAMPAサンドイッチを集め、磁気撹拌機構が内蔵されている環境制御されたチャンバー中で30分間インキュベートしておく。次いでサンドイッチを分離し、レシーバウェルをアッセイし、UV分光光度計でUVスペクトルを集める(230nmから500nm)。このプロセスを図15の左に図式的に示している。
【0214】
次いで、該段取り(setup)を、ドナー溶液が化合物に加えて賦形剤を含有していることのみの相違で繰り返す。図15の右手側にこれを図式的に示している。
【0215】
本発明の方法の第二の実施形態の段取りにおいては、攪拌が重要な役割を果たしていることに留意すべきである。攪拌を行わないと、低溶解性化合物の透過率におけるいかなる変化も、ABLの抵抗に圧倒されてしまい、そのために検出できない。
【0216】
アッセイの最後に、ドナーウェルに賦形剤を含有するPAMPAサンドイッチのレシーバ区画由来のUVスペクトルの曲線下面積(AUC)を、賦形剤なしのPAMPAサンドイッチ由来の対応するAUCで割る。得られる比率(賦形剤の効果)は、ドナー区画に加えた賦形剤が吸収特性の改善に役立ったかどうかを示す。
【0217】
当該方法は、透過システムとしてPAMPAを用いて行われるが、細胞透過モデル(例、Caco−2、MDCKなど)に対して用いることが容易にできる。事実、このアッセイは、インビトロのハイスループットPKプレフォーミュレーションの研究に対する初めてのアプローチと考えることができる。実際、インビボのPKでは、薬剤の処方を変えて血流中で濃度対時間のプロファイルをモニターすることから、研究者は、最終的な効果に対する溶解度または透過率の個別の影響を直接的には知らず、問題とするのは血流中の活性成分濃度の増加または減少である。
【0218】
使用した薬剤および化学物質に関しては、使用した化合物は、アステミゾール、ブタカイン、クロトリマゾール、ジピリダモール、プロゲステロン、グリベンクラミドおよびメフェナム酸(mefenemic acid)である。pION社のDouble−Sink(商標)PAMPA用の脂質(PN 1100669)は、使用しないときには−20℃で保存する。アッセイされるドナー溶液のpHはpION社のユニバーサル緩衝液(PN 100621、1100151)で調整し、また、血清タンパク質シミュレートするために化学捕捉剤を含有するpH7.4の緩衝溶液をレシーバ溶液として使用する。賦形剤は、ドナーウェルにのみ加える。
【0219】
賦形剤の濃度に関しては、デモンストレーションの目的のために、上述した本発明の方法の第一の実施形態からの賦形剤の部分集合を、同じく扱う。4つの賦形剤の量は、臨床的に意義のある条件での胃腸液において想定される濃度と重なるように選択する。KClについては、FASSIF/FESSIF培地での濃度に従い、0.2Mの濃度を選択する。プロピレングリコール(PG)、2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(HP−β−CD)およびポリエチレングリコール400(PEG400)については、1% v/vの濃度の賦形剤溶液を当該方法のデモンストレーションのために選択する。
【0220】
提示した本発明の方法の第二の実施形態の結果として出てくる別々の三つのケースがある。
【0221】
ケース1−賦形剤の効果〜1、即ちlog(賦形剤の効果)〜0:この結果は、ドナー区画に賦形剤Xが存在するか否かに関わらずレシーバでの濃度が同一であることを意味している。これは、難溶解性化合物にとっては、賦形剤が溶解度を改善しないか、または、化合物の透過率の減少が溶解度の増加を相殺するかのいずれかを意味している。
【0222】
ケース2−賦形剤の効果<1、即ちlog(賦形剤の効果)<0:この状況は、賦形剤Xの存在による溶解度の増加が透過率の損失よりも小さいか、あるいは、化合物が賦形剤ありまたはなしで十分に溶解し、透過率の減少が支配的な効果であるかのいずれかを意味しているかもしれない。pH5.0のブタカインでの結果がこの状況を示している。pH5.0の緩衝水溶液でのブタカインの溶解度は50μmよりもはるかに大きいことが本発明の方法の第一の実施形態から分かる。それゆえ、pH5.0でのこの化合物の吸収挙動が透過率に支配されていること、および、ドナー区画における賦形剤の存在によりブタカインの透過率が減少することは、驚くべきことではない。本発明の方法の第二の実施形態により、溶解度定数および透過定数を別個に測定することなく、レシーバ区画での化合物濃度の単純比較(UV吸収)により、この挙動の検出が可能となる。
【0223】
ケース3−賦形剤の効果>1、即ちlog(賦形剤の効果)>0:この結果は、最も有望な薬物−賦形剤の組み合わせ結果を示している。この比率が大きければ大きいほど、賦形剤Xは研究化合物の吸収特性の改善により効果的である。
【0224】
本発明の方法の第二の実施形態は一つの時間点に基づいているが、当業者は、インビボの薬物動態学的研究を模倣していくつかの時間点に対して賦形剤の効果を計算するよう、当該実施形態を容易に調整することができる。
【0225】
本発明の方法を上記の例示的な実施形態とともに記載しているとはいえ、本発明の方法の他の代替的実施形態を考えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0226】
【図1】本発明の方法の第一の実施形態の透過率測定の例のために、pKa決定方法の比較を示している。
【図2】図1の方法についての種々のメタノール−水混合液において決定した見かけのpKaの直線外挿を示している。
【図3】図1の方法の透過率測定の実施例で測定した8つの化合物についての、透過率の対数対pHのプロットを示している。
【図4】賦形剤存在下での固有透過率の対数と、賦形剤非存在下での固有透過率の対数との差異のプロットであって、図1の方法の透過率測定の実施例についての賦形剤の量の関数としての前記プロットについて示している。
【図5】図1の方法の透過率測定の実施例に対する、固有透過率の対数に基づくPAMPAマッピングスキームを示している。
【図6】図1の方法の透過率測定の実施例に対する、膜残留率の対数に基づくPAMPAマッピングスキームを示している。
【図7】図1の方法の透過率測定の実施例に対する、水境界層の対数に基づくPAMPAマッピングスキームを示している。
【図8】図1の方法の溶解度測定の例のために、アグリゲート化反応の6つのケースを示している。
【図9】図1の方法の溶解度測定の実施例において検討された化合物に対する、賦形剤なしでのlogS対pHのプロファイルを示している。
【図10】図1の方法の溶解度測定の実施例の化合物と賦形剤との組み合わせに対する、序列化された溶解度賦形剤分類勾配マップを示している。
【図11】250mgの臨床用量でのメフェナム酸についてのlogP、logC、およびlogP(流束)のpHに対するプロットを示しており、図1の方法における、固有濃度に基づくフィックの法則を示している。
【図12】(a)図1の方法でのPAMPA−賦形剤−pH分類勾配マップ;(b)図1の方法での溶解度−賦形剤−pH分類勾配マップ;および、(c)図1の方法の化合物と賦形剤との組み合わせについての序列化された生物薬剤学的分類勾配マップを示している。
【図13】図1の方法について、賦形剤なし(白抜き記号)および1% w/v HP−β−CDの存在(塗り潰し記号)の下での、pH5.0、6.2および7.4における透過率(丸)、溶解度(三角)および流束(四角)のプロットを示している。
【図14】シミュレートしたメフェナム酸の有効透過率(点曲線)、溶解度(破曲線)および流束(実線)の、pHに対する曲線を示している。
【図15】本発明の方法の第二の実施形態の実験的段取りの概略図を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低溶解性化合物の予測される吸収特性に対する、賦形剤、pHおよびそれらの組み合わせの効果を評価する方法であって、少なくとも一つの所定のpH値において、低溶解性化合物と賦形剤との組み合わせに対する、流束関数の変化を評価するステップを特徴とする、方法。
【請求項2】
流束関数の変化を評価することが、以下のステップ:
該化合物を含む所定のpH値にあるキャリブレーション・ドナー溶液を作製するステップ;
該化合物および該賦形剤を含む該所定のpH値にあるドナー溶液を作製するステップ;
該化合物および該賦形剤を含まない該所定のpH値にあるレシーバ溶液を作製するステップ;
バリアによって第一レシーバチャンバーから分離されている第一ドナーチャンバー中へキャリブレーション・ドナー溶液を与え、バリアによって第二レシーバチャンバーから分離されている第二ドナーチャンバー中へドナー溶液を与え、かつ、第一レシーバチャンバーおよび第二レシーバチャンバー中へレシーバ溶液を与えるステップ;
上記溶液を、所定の時間インキュベートするステップ;ならびに
第一レシーバチャンバーおよび第二レシーバチャンバーのレシーバ溶液における該化合物のレスポンスを測定するステップ
を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
流束関数の変化を評価することが、複数の所定のpH値において、請求項2のステップを繰り返し行うことを有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
流束関数の変化を評価することが、第一レシーバチャンバーのレシーバ溶液中の該化合物のレスポンスの測定値と、第二レシーバチャンバーのレシーバ溶液中の該化合物のレスポンスの測定値との比率を決定するステップをさらに有する、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
第一レシーバチャンバーおよび第二レシーバチャンバーのレシーバ溶液中の該化合物のレスポンスの測定が、レシーバ溶液の分光学的特性の測定を有する、請求項2〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
バリアが、ヒト組織、動物組織、植物組織、培養細胞モデル、および人工膜から成る群より選ばれる、請求項2〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
流束関数の変化を評価することが、複数の化合物および複数の賦形剤に対して:
該複数の化合物のそれぞれと該複数の賦形剤のそれぞれとの各組み合わせを含む、該所定のpH値にある複数のドナー溶液を作製すること;
バリアによって複数の第二レシーバチャンバーから分離されている複数の第二ドナーチャンバー中へ該複数のドナー溶液を与え、かつ、該複数の第二レシーバチャンバー中へレシーバ溶液を与えること;並びに、
該複数の第二レシーバチャンバーの該レシーバ溶液中の該化合物のレスポンスを測定すること
によって行われる、請求項2〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
流束関数の変化を評価することが、以下のステップ:
該化合物を含む所定のpH値にあるキャリブレーション・ドナー溶液を作製するステップ;
該化合物および該賦形剤を含む該所定のpH値にあるドナー溶液を作製するステップ;
キャリブレーション・ドナー溶液中およびドナー溶液中の該化合物の溶解度を測定するステップ;
キャリブレーション・ドナー溶液の透過率およびドナー溶液の透過率を測定するステップ;ならびに、
透過率の測定結果および溶解度の測定結果を流束関数に組み込むステップ
を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
流束関数の変化を評価することが、複数の所定のpH値において、請求項8のステップを繰り返し行うことを有する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
キャリブレーション・ドナー溶液中およびドナー溶液中の該化合物の溶解度を測定することが、以下のステップ:
上記溶液を所定の時間インキュベートするステップ;
上記溶液を濾過するステップ;および、
濾過溶液中の該化合物の量を測定するステップ
を有する、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
キャリブレーション・ドナー溶液の透過率およびドナー溶液の透過率を測定することが、以下のステップ:
該化合物および該賦形剤を含まない該所定のpH値にあるレシーバ溶液を作製するステップ;
膜フィルターによって第一レシーバチャンバーから分離されている第一ドナーチャンバー中にキャリブレーション・ドナー溶液を与え、膜フィルターによって第二レシーバチャンバーから分離されている第二ドナーチャンバー中にドナー溶液を与え、かつ、第一レシーバチャンバーおよび第二レシーバチャンバー中へレシーバ溶液を与えるステップ;
上記溶液を、所定の時間インキュベートするステップ;ならびに、
第一ドナーチャンバーおよび第二ドナーチャンバーのドナー溶液中の該化合物の量ならびに第一レシーバチャンバーおよび第二レシーバチャンバーのレシーバ溶液中の該化合物の量を測定するステップ
を有する、請求項8〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
流束関数の変化を評価することが、第一レシーバチャンバーのレシーバ溶液中の該化合物の量の測定値と、第二レシーバチャンバーのレシーバ溶液中の該化合物の量の測定値との間の比率を決定するステップをさらに有する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
流束関数の変化を評価することが、複数の化合物および複数の賦形剤に対して:
該所定のpH値にある、該複数の化合物のそれぞれと該複数の賦形剤のそれぞれとの各組み合わせの複数のドナー溶液を作製すること;
該ドナー溶液のそれぞれにおける該化合物の溶解度を測定すること;および、
該ドナー溶液のそれぞれの透過率を測定すること
によって行われる、請求項8〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
レシーバ溶液が少なくとも一つの添加物を含む、請求項2〜7又は請求項11〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
添加物が、該化合物に対する高い結合能、低い紫外線吸収性、高い水溶性、および低い蒸気圧の群より選択される少なくとも一つの特性を持つ、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
キャリブレーション・ドナー溶液およびドナー溶液を攪拌するステップを有する、請求項2〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
賦形剤、化合物およびpH値に関する比率を順位付けするステップ;および、
順位付けされた比率を可視化するステップ
を有する、請求項4〜7又は12〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
比率を順位付けすることが、以下のステップ:
全ての化合物および全てのpH値に対して、各賦形剤についての比率の合計値を計算するステップ;ならびに
比率の合計値を順位付けするステップ
を有する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
全ての賦形剤および全てのpH値に対して、各化合物についての比率のさらなる合計値を計算するステップ;ならびに
該比率のさらなる合計値を順位付けするステップ
をさらに有する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
請求項17〜19のいずれか一項にて定義されたステップを行うために設定されているコンピュータープログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図12】
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【公表番号】特表2009−528518(P2009−528518A)
【公表日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−556629(P2008−556629)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【国際出願番号】PCT/CH2007/000097
【国際公開番号】WO2007/098625
【国際公開日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【出願人】(502274082)ピオン,インコーポレイテッド (2)