説明

低融解温度液晶ポリマーを含むポリマーブレンドから形成された医療装置

【課題】 多くの熱可塑性ポリマーはポリエステル類またはポリアミド類よりも高い柔軟性および弾性を有するが、それらのポリマーは、融点が低すぎて、LCPとの溶融混合物において処理不可能である。
【解決手段】 少なくともその一部分がポリマー材料からなる医療装置であって、前記ポリマー材料が少なくとも2つの異なる熱可塑性ポリマーの溶融混合生成物であり、前記熱可塑性ポリマーの1つは250°C未満の融点を有する熱可塑性液晶ポリマー(LCP)である医療装置。該装置の溶融混合物から形成された部分カテーテル本体部分またはカテーテル用バルーンであり得る。LCP混合物は、好適には、約140°C〜265°Cの範囲の融点を有する非LCP基材ポリマーも含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
同時係属中の米国特許出願第08/926,905号(1998年9月4日に出願されたPCT/US98/l8345に対応)において、液晶ポリマーブレンドから形成された医療用バルーンが記載されている。前記混合物は、
a)サーモトロピック主鎖液晶ポリマー(LCP)と、
b)結晶化可能な熱可塑性ポリマーと、
c)a)とb)のための少なくとも1つの相溶化剤とのポリマー溶融混合生成物からなる。
【0002】
したがって、生成された溶融混合物バルーンは非常に高い強度を有するが、比較的低いコンプライアンスおよび柔軟性を有する。
【背景技術】
【0003】
しかしながら、第08/926,905号出願の発明の実施は、熱可塑性ポリマーが結晶化可能なポリエステルまたはポリアミドポリマーのような比較的高い融解温度を有する材料であるという点において制限されている。公知のLCPは、275°Cより高い融点を有しており、よって、溶融混合物処理を行うために、熱可塑性ポリマーはLCP融解温度の付近の温度で、あるいは融解温度より高い温度で安定していることを必要とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多くの熱可塑性ポリマーはポリエステル類またはポリアミド類よりも高い柔軟性および弾性を有するが、それらのポリマーは、融点が低すぎて、LCPとの溶融混合物において処理不可能である。
【0005】
最近、250°C未満の融点を有するLCPが調製され、商品化された。本発明の発明者は、医療装置を形成する際に有用な混合物材料を生成するために、このような低融解温度LCPを非常に広範囲な熱可塑性ポリマーに混合物することが可能であることを発見した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の概要)
一態様においては、本発明は、少なくともその一部分がポリマー材料からなる医療装置を備え、該ポリマー材料は少なくとも2つの異なる熱可塑性ポリマーの溶融混合生成物であり、該熱可塑性ポリマーのうちの一方は約275°C以下の融点、特に250°C以下の融点を有する熱可塑性液晶ポリマーである。本発明が適用され得る特定の医療装置はカテーテルおよびカテーテルバルーンである。
【0007】
低温LCP成分は、比較的低レベルで使用されて、従来、使用可能なLCPと共に使用可能であったものよりも大きな柔軟性、軟度、及び弾性を有する基材ポリマー材料に対して、より高い強度及び収縮に対する抵抗力を与え得る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明のバルーンカテーテル用実施形態の破断斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(発明の詳細な説明)
本発明において使用される混合生成物は、熱可塑性非LCP基材ポリマーを約50〜約99.9%重量パーセント、好ましくは約85〜約99.5重量パーセントの量にて含む。混合生成物はまた、275°C未満の融点、好ましくは250°C未満の融点を有する液晶ポリマーを約0.1〜約20重量パーセント、より好ましくは約0.5〜約15パーセント含む。また、第08/926,905号出願に開示されるような、溶融相溶化剤も、0〜約30重量パーセントの量にて使用され得る。
【0010】
基材ポリマーは、液晶ポリマー成分に関して70°C以内、好ましくは約50°C以内、より好ましくは35°C以内の融点を有さなければならない。好適には、基材ポリマーは、約140°C〜約265°C、好ましくは約220°C未満、より好ましくは、150°C〜210°Cの範囲の融点を有する。液晶ポリマー融解温度によって、基材ポリマーは、例えばアセタールホモポリマーまたはコポリマー(一般的にmp.160〜185°C);セルロース系ポリマー類(mp.140〜190°C);ポリ(クロロトリフルオロエチレン)(mp.200〜220);ポリ(フッ化ビニリジン(vinylidine fluoride))(mp.155〜180°C);ナイロン6,6(mp.250〜260);ナイロン6(mp.215〜225);ナイロン6,10(mp.210〜220);ナイロン12(mp.170〜180);ナイロン11(mp.180〜190);ポリオキシメチレン(mp.165〜185);高溶融グレードのポリ(メタクリル酸メチル)(例えば、mp.140〜160°C);ポリプロピレン系ホモポリマーおよびコポリマー(mp.160〜175);ポリカーボネート系ポリマーおよびコポリマー(mp.220〜230°C);ポリ(エチレンビニルアルコール)(mp.140〜180);ポリエチレンテレフタレート;ポリブチレンテレフタレート;ポリトリメチレンテレフタレート;熱可塑性ポリウレタン類(芳香族及び/または脂肪族);商品名Hytrel(登録商標)およびArnitel(登録商標)として販売されているポリエステルエラストマー、商品名Pebax(登録商標)として販売されているポリアミドエラストマー、および商品名Pellethane(登録商標)として販売されている熱可塑性ポリウレタンエラストマーなどのような熱可塑性エラストマーであり得る。特に好ましい基材ポリマー材料としては、アトケム・ノース・アメリカ(Atochem North America)によって販売されている、Pebax(登録商標)7033(mp.174°C)および7233(mp.175°C)と、DSMエンジニアリングプラスチックス(DSM Engineering Plastics)によって販売されているArnitel EM 740(mp.221°C)がある。
【0011】
LCP混合物中にこれらの基材ポリマーのうちのいくつかを使用すること、例えばPET/LCP混合物が、先の出願第08/926,905号に記載されている。しかしながら、本願に記載されているように、より低い融解温度のLCPを使用することによって、処理はより容易になる。例えば、基材ポリマーとLCP成分との間に大きな温度差がある場合、それらのポリマーが混合され得る前に、それらのポリマーを別々に溶解させるために、二重押出し成形機を使用しななければならないこともある。溶融温度の差がより小さい場合、LCPと基材ポリマーとの溶融混合物は、実質的なポリマーの劣化を生ずることなく、2つのポリマーの乾燥混合物を溶融するか、または、2つのポリマーのうち固体である一方をもう一方の溶融物に添加することによって調製され得る。本発明において使用されるLCPの溶融温度より実質的に低い溶融温度を有する基材ポリマーを用いた混合物を得るためには、二重押出し成形機技術を依然使用することが可能である。したがって、本発明において使用可能な基材ポリマーの範囲は、先の出願第08/926,905号よりも、実質的に増大される。
【0012】
本発明において使用されるLCPは、275°C未満、好ましくは250°C未満、好適には150〜249°Cの範囲、さらにより好ましくは230°C以下の融点を特徴と
するLCPである。LCPは、好適には、サーモトロピック液晶ポリマーである。特定のこのようなLCPとしては、ポリエステル系液晶ポリマー(mp.220°C)であるVectra(登録商標)LKX1107、および、ポリエステルアミド系液晶ポリマー(mp.220°C)であるVectra(登録商標)LKX1111があり、双方ともHoechst社Ticonaによって販売されている。
【0013】
さらに、溶融混合物組成物中に相溶化剤が使用されてもよい。相溶化剤は、例えば、基材ポリマーに構造上類似しているか、または基材ポリマーに可溶のブロックと、LCPに構造上類似しているか、またはLCPに可溶のブロックとからなるブロックコポリマーであり得る。溶融相における混合物の相分離が問題となる場合、相溶化剤が必要とされ得る。しかしながら、固相溶融混合生成物の相分離は、必ずしも相溶化剤を使用する理由ではない。固相分離は、LCP成分の補強効果を向上し得る。しかしながら、固相における相分離によって光学的な透明さが失われる。光学的な透明さが所望の目的である場合、あるいはLCP繊維と基材ポリマーとの間の接着を向上することが所望される場合には、相溶化剤の使用は有用となり得る。
【0014】
本願に記載される混合物材料は、拡張カテーテル、ステント配置カテーテル、または前記カテーテル上のバルーンの形成に使用するのに特に適している。このようなカテーテルは、経皮経管血管形成術および他の最小限の侵襲性処置のために使用される。カテーテル本体の基端部または中間部の形成において使用することによって、ブレードまた他の物理的な補強材の必要性が低減または排除され、それにより縮小されたプロフィールが提供され得る。
【0015】
本願に記載される溶融混合材料の特に好ましい使用法は、カテーテルバルーンの材料として使用することである。バルーン直径は、その用途によって、約1.5〜約30mmであり得、かつ非拡張状態の折り畳まれたバルーン上で測定して、0.00508〜0.0508ミリメートル(0.0002’’〜0.0020’’)の二重壁厚を有するように適当に形成される。
【0016】
本発明のバルーンは、単一層バルーンまたは多層バルーンのどちらでもよい。
図面を参照すると、図1には、本発明によるLCP強化ポリマーブレンドから形成されたバルーン14を備える長尺状可撓チューブ12からなり、バルーン14は長尺状可撓チューブ12の先端に装着されているカテーテル10が示されている。チューブ12の一部分はまた、LCP強化ポリマーブレンドから形成され得、そのLCP強化ポリマーブレンドはバルーンを形成するのに用いられた混合物と同一であっても、異なっていてもよい。
【0017】
バルーンの形成は、ポリマーブレンド材料の溶融物からチューブを押出し成形することによって開始され得る。押出し成形工程中、混合物材料は引き下ろされるので、LCPの初期配向がいくらか生じる。この工程は一般的には機械配向として知られており、押出し操作の方向である。そのように形成チューブ内において繊維形態のLCPの形成を引き起こすので、押出し成形工程中に生じる配向は望ましい。配向は、押出し引き取り機速度を増大させることにより増強され得る。さらに、角度をなす繊維形態が所望される場合、押出し成形においてカウンタ−回転鋳型(counter−rotating die)およびマンドレルシステムを使用することが可能である。
【0018】
押出し成形に続いて、押出し成形されたチューブは、20〜30°C、10〜50%の範囲内に制御された湿度で、少なくとも24時間の間、任意に調整され得る。このコンディショニングは、チューブ中の一定な低水分レベルを提供し、それにより、加水分解を防ぎ、かつ後のブロー工程でポリマーの配向を最適化させるのを助ける。
【0019】
バルーンのブロー成形は、例えば、任意で予備軸延伸工程を備える、宙吹法、型吹法、または双方の組み合わせのような、当業で公知の一工程または多工程技術に従い得る。軸延伸が用いられた場合には、軸延伸率は、適切には約2倍〜約5倍である。バルーン成形は、基材ポリマー材料、および混合物に取り込まれたLCPの量に依存して、一般的には、95〜165°Cの範囲内の温度で行われる。バルーン成形工程は、ガラス転移温度より高いが、基材ポリマー材料の溶融温度より低い温度で行われなければならない。(ブロックコポリマーについては、ブロー温度は、最も高いガラス転移より高くなければならない)。半径方向の伸張率は、好適には、3倍から12倍である。技術によって、伸張圧は約200〜500psi(1379〜3447kPa)の範囲にわたる。
【0020】
形成されたバルーンにヒートセット工程を受けさせることが望ましい場合もある。この工程では、加圧されたバルーンは、バルーンを成形するために使用される温度より高い温度で、短い時間、適切には約5〜60秒保持される。その後、型は周囲温度に急速に急冷され、バルーンは型から外される。
【0021】
相溶化剤が不在な場合、または、相溶化剤が溶融物を相溶化することのみに有効な場合には、LCと基材ポリマーは、一般的には、冷却中に相分離を受け、そのため不透明なものが得られる。しかしながら、相分離は微視的なスケールで生じるので、LC分散相は連続基材ポリマー相中に一様に分配される。LC分散相は繊維状であり、バルーン形成の延伸工程およびブロー工程において繊維は配向する。そのため、高レベルの補強が基材ポリマーに提供される。しかしながら、補強充填材を熱可塑性ポリマー組成物に添加した場合に一般に遭遇する、柔軟性の大幅な減少、及び、融解粘度の大幅な増大を生ずることなく、繊維状LC相による補強が達成され得る。さらに、繊維の大きさは非常に小さいので、血管形成バルーンにおいて遭遇する極薄膜においてさえ、膜の有孔性は形成されない。
【0022】
本発明は以下の非制限的な例によって例証される。

例1
Pebax7033ポリマーを液晶ポリマーVectra LKX 1107と、それぞれ95%重量及び5重要%の比率で、225°Cの温度にて溶融混合し、その混合物を0.018×0.037インチ(0.48×0.94mm)のチューブに押出し成形した。一段階ブロー工程において、98°C、および450psi(4102kPa)の成形圧力で、3.0mmの型枠を使用して、前記チューブから3.0mmのバルーンを形成した。前記バルーンは、0.00175インチ(0.044mm)の二重壁厚を有しており、かつ不透明な外観を有した。前記バルーンは265psi(1827kPa)で破裂した。この強化複合バルーンは100%Pebax7033で形成された同様のバルーンよりはるかに高い穿刺耐性およびより高い耐久性を有する。
【0023】
改善された膨張時の長さ安定性は、ステント展開に用いられる高強度で比較的柔軟なバルーンに望ましい特性である。以下の例2および例3は、本発明において使用されるLCP混合物が、そのようなバルーンの長さ安定性である改良を提供することを示す。
【0024】
例2
例1において示したのと同一の組成物を用いて、0.022×0.036インチ(0.56×0.91mm)のチューブを押出し成形した。95°C、400psi(2758kPa)のブロー圧力で3.0mmのバルーンを形成した。0.0014インチ(0.036mm)の二重壁厚を有するバルーンを、1気圧(101 kPa)増加量で、4気圧(405kPa)から13気圧(1317kPa)まで膨張させると、バルーン長さの変化は4〜13気圧の範囲で2.5%だった。
【0025】
比較のため、0.0192×0.0344(0.49−0.87mm)の寸法を有する100%Pebax7033チューブを使用して、95°C、400psi(2758kPa)のブロー圧力で3.0mmのバルーンを形成した。0.0014インチ(0.036mm)の二重壁厚を有して形成されたバルーンを、1気圧(101 kPa)増加量で、4気圧(405kPa)〜13気圧(1317kPa)まで膨張させると、バルーンは、膨張前のその元の長さの8.0%伸張した。
【0026】
例3
本例には前例におけるのと同一の成形条件を使用した。40mmの長さ、3.0mmの直径を有するバルーン型を使用して、100%Pebax7033バルーンを形成した。バルーンを型から取り外した後、形成されたバルーンは、37.0mmの本体長さを有していた。例1に記載した溶融混合生成物から形成されたLCP強化Pebax7033バルーンに同一の型及びバルーン成形加工条件を使用した。5%のLCP成分を含有した結果、バルーン本体の長さ安定性において50%の改善に相当する、38.5mmの本体長さを有していた。
【0027】
上記の例および開示は、実例として意図されており、網羅的なものではない。これらの例および記載は、当業者に対して、多くの変形例および代替例を示唆するであろう。これらの代替例および変形例はすべて添付する請求項の範囲内に包含されるように意図される。当業者は、本願に記載された特定の実施形態に対する別の均等物を認識し得、それらの均等物もここに添付する請求項によって包含されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その少なくとも一部分がポリマー材料からなるカテーテルバルーンであって、該ポリマー材料は、少なくとも2つの異なる熱可塑性ポリマーを含み、前記熱可塑性ポリマーのうちの一方は熱可塑性液晶ポリマー(LCP)であり、前記熱可塑性ポリマーのうちのもう一方は熱可塑性非LCP基材ポリマーであり、前記ポリマー材料は熱可塑性非LCP基材ポリマー中に分散されたLCP繊維の二相系であるバルーン。
【請求項2】
前記カテーテルバルーンが長尺状構造物であり、かつ、繊維が該構造物の長手方向に配向されている請求項1に記載のバルーン。
【請求項3】
前記カテーテルバルーンが長尺状構造物であり、かつ、繊維が該構造物の長手方向に対して角度をなして配向されている請求項1に記載のバルーン。
【請求項4】
LCPが275°C未満の融点を有し、かつ、基材ポリマーが140°C〜265°Cの範囲にある融点を有する請求項1に記載のバルーン。
【請求項5】
基材ポリマーが熱可塑性エラストマーである請求項1に記載のバルーン。

【図1】
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【公開番号】特開2010−5477(P2010−5477A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−239288(P2009−239288)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【分割の表示】特願2000−600715(P2000−600715)の分割
【原出願日】平成12年2月15日(2000.2.15)
【出願人】(500332814)ボストン サイエンティフィック リミテッド (627)
【Fターム(参考)】