説明

住宅の部屋内での最適受聴位置提案システム及び最適受聴位置の提案方法

【課題】住宅の部屋内に設置されたオーディオ及び/又はビデオシステム等に関して、最適な受聴位置を予測して顧客に提案する。
【解決手段】住宅の部屋の空間形状に関する空間データをコンピュータに入力する手段と、前記部屋の内装に関する内装データを前記コンピュータに入力する手段と、音源に関する音源データを前記コンピュータに入力する手段と、入力された前記空間データ、内装データ及び音源データに基づいて、前記部屋内での音響データを計算する手段と、前記部屋内に複数の受聴位置を設定する手段と、前記音響データを用いて前記各受聴位置のインパルス応答を計算する手段と、前記各インパルス応答に、予め定めた評価基準を適用し、良評価のインパルス応答が得られる受聴位置を決定する手段と、前記良評価に決定された受聴位置を表示する手段とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅の部屋内に設置されたオーディオ及び/又はビデオシステム等に関して、最適な受聴位置を計算して顧客に提案するのに役立つ住宅の部屋内での最適受聴位置提案システム及び最適受聴位置の提案方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、AV機器等の進歩により、家庭でも容易に5.1chのスピーカシステムなどを導入したホームシアター等を楽しめるようになってきた。しかしながら、ホームシアターなどオーディオルームを論理的に提案・設計する場合には、音響コンサルタントなどの専門家を必要とし、コストや納期の面で問題があった。また、折角このようなホームシアターシステムを導入したにも拘わらず、受聴位置が悪いと、システムの性能を有効に発揮させることができないという課題があった。
【0003】
また、リビングルームには、通常、テレビジョン装置が設置されるが、この場合の最適な受聴位置は、リビングルームの形状や内装状態等によって変化する。従って、これらの内容を熟知している住宅販売メーカが、住宅販売時に、例えばリビングの最適な受聴位置などを顧客に提案できれば便利である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、オーディオスタジオや音楽ホールといった業務用の音響設備においては、古くからこの種の研究がなされている。具体的には、音響計測システム、シミュレーションシステム又はスケールモデルといった設計ツールが実用化され設計現場で活用されている。
【0005】
しかしながら、この種のツールは、いずれも音響専門家用に作られており、高価なシステムになる他、専門的知識を必要とする。従って、住宅販売に従事する営業マンなどが使うには技術的及びコスト的にも大きな制約があった。
【0006】
本発明は、以上のような問題点に鑑み案出なされたもので、住宅内に作られた部屋の空間形状、内装条件、オーディオビデオ機器等の音源に関する情報に応じて、最適な受聴位置を計算しかつ表示することにより、住宅内でのホームシアター並びにオーディオルーム(以下、これらを含めて単に「ホームシアター」と呼ぶ場合がある。)の性能を引き出し、かつ、顧客にも満足のゆく受聴位置の提案が可能なシステム及び方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のうち請求項1記載の発明は、住宅の部屋の空間データをコンピュータに入力する手段と、前記部屋の内装に関する内装データを前記コンピュータに入力する手段と、音源に関する音源データを前記コンピュータに入力する手段と、入力された前記空間データ、内装データ及び音源データに基づいて、前記部屋内の音響データを計算する手段と、前記部屋内に複数の受聴位置を設定する手段と、前記音響データを用いて前記各受聴位置の周波数伝送特性を計算する手段と、予め定めた評価基準を前記周波数伝送特性に適用して良評価となる受聴位置を決定する手段と、前記良評価に決定された受聴位置を表示する手段とを含むことを特徴とする住宅の部屋内での最適受聴位置提案システムである。
【0008】
また請求項2記載の発明は、前記音響データは、前記部屋の空間を囲む面の位置を示す座標データと、前記各面の吸音率を示す吸音率データと、前記音源の位置と、前記音源の最低共振周波数データとを少なくとも含む請求項1記載の住宅の部屋内での最適受聴位置提案システムである。
【0009】
また請求項3記載の発明は、前記音源が左右のスピーカーを含む場合、前記複数の受聴位置は、平面視において前記左右のスピーカーの中間位置を通る中心線上に設けられる請求項1又は2記載の住宅の部屋内での最適受聴位置提案システムである。
【0010】
また請求項4記載の発明は、前記周波数伝送特性を計算する手段は、前記音源の最低共振周波数以下の帯域では、マイナス12dB/1オクターブで減衰する周波数特性を勘案して前記各受聴位置の周波数伝送特性を計算する請求項1乃至3のいずれかに記載の住宅の部屋内での最適受聴位置提案システムである。
【0011】
また請求項5記載の発明は、前記評価基準は、前記周波数伝送特性のスペクトルが平坦であるほど良いとする基準である請求項1乃至4のいずれかに記載の住宅の部屋内での最適受聴位置提案システムである。
【0012】
また請求項6記載の発明は、前記評価基準は、200Hz以下の周波数帯域に適用される請求項5記載の住宅の部屋内での最適受聴位置提案システムである。
【0013】
また請求項7記載の発明は、複数の周波数伝送特性を示すスペクトルパターンと、各スペクトルパターンについての簡単な説明であるコメントとを対で記憶するコメントデータを具え、コメントデータのスペクトルパターンと、前記最適受聴位置の周波数伝送特性のスペクトルパターンとを比較して該最適受聴位置の周波数伝送特性のスペクトルパターンに最も近いスペクトルパターンを前記コメントデータから決定する手段と、前記決定されたスペクトルパターンの前記コメントを表示する手段とを具える請求項1乃至6のいずれかに記載の最適受聴位置提案システムである。
【0014】
また請求項8記載の発明は、住宅の部屋の空間形状に関する空間データを入力するステップ、前記部屋の内装に関する内装データを入力するステップ、音源の位置に関する音源データを入力するステップ、前記空間データ、内装データ及び音源データに基づいて、前記部屋内での音響データを計算するステップ、前記部屋内に複数の受聴位置を設定するステップ、前記音響データを用いて前記各受聴位置の周波数伝送特性を計算するステップ、予め定めた評価基準を前記周波数伝送特性に適用して良評価となる受聴位置を決定するステップ、及び前記良評価に決定された受聴位置を表示するステップとを含むことを特徴とする住宅の部屋内での最適受聴位置提案方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、住宅の部屋の空間形状に関する空間データ、前記部屋の内装に関する内装データ及び音源に関する音源データを入力することにより、音響専門家が行うのと同等の論理的に最適な受聴位置を計算しかつ表示することが可能になる。従って、ホームシアターなどの性能を最大限に発揮させることができる。また、ローコストでかつ迅速な提案が可能となり、住宅販売促進にも多大の効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明を適用した住宅の間取り図である。
【図2】本発明のシステムの実施形態を示すブロック図である。
【図3】本発明の方法の手順の一例を示すフローチャートである。
【図4】メニュー画面の一例を示す構成図である。
【図5】メニュー画面の一例を示す構成図である。
【図6】メニュー画面の一例を示す構成図である。
【図7】複数の受聴位置を説明する概念図である。
【図8】音場シミュレーションを説明する概念図である。
【図9】ある受聴位置での周波数伝送特性の一例を示すグラフである。
【図10】(a)、(b)は任意の受聴位置での周波数伝送特性のグラフであり、(a)は良評価、(b)は悪評価の例を示す。
【図11】最適な受聴位置を表示する方法の一例を示す。
【図12】最適な受聴位置での擬似音を再生させるメニュー画面の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1には、本実施形態の最適受聴位置提案システム(以下、単に「システム」ということがある。)を用いて最適な受聴位置を決定する工業化住宅Hの間取り図の一例を示す。該住宅H内には、グレーで薄く網掛けされているリビングダイニングキッチン(以下、単に「リビングルーム」という。)Lが設けられている。
【0018】
本実施形態のリビングルームLは、長方形を組み合わせた略L字型の平面形状を有する。具体的には、6つの壁面A〜Fを連ねて構成されている。
【0019】
前記リビングルームLには、本実施形態では音源としてスピーカーが接続されたテレビジョン装置TVが壁面Aに沿って配置されている。また、テレビジョン装置TVの正面には、該テレビジョン装置TVと正対するように、テーブル及びソファ等が配置されている。前記スピーカーには、例えばテレビジョン装置TVに予め組み込まれている左右一対の内蔵ステレオタイプでも良いし、別途接続された5.1chシステムなどでも良い。
【0020】
そして、本実施形態のシステムでは、上述のようなリビングルームLにおいて、テレビジョン装置TVのスピーカーから放射される音を、最も良い音で聴くことができる受聴位置を計算しかつ表示することができる。これにより、例えば住宅メーカは、音響専門家が行うのと同等の最適な受聴位置を顧客等に提案でき、リビングルームはもとより、ホームシアター等においてもその性能を最大限に発揮させることができる。また、ローコストでかつ迅速な提案が可能となり、住宅販売促進にも多大の効果を発揮する。
【0021】
図2は、本実施形態のシステム1のハードウエアのブロック図を示す。
本実施形態のシステム1は、入力デバイスとしての入力部2と、出力デバイスとしての出力部3と、最適受聴位置の計算など各種の演算を行う演算部4と、予め定められたデータ及びプログラム等が記憶される記憶部5と、作業用メモリ6とを含んで構成される。このようなシステム1は、コンピュータ装置、好ましくはパーソナルコンピュータを用いて容易に構成できる。
【0022】
前記入力部2には、例えばキーボード及び/又はマウス(図示省略)が用いられる。また前記出力部3は、ディスプレイ(表示手段)、プリンター及びスピーカー等からなり、入力部2から入力された情報や後述の最適受聴位置などを人間が判別可能に表示できる。これらは図示しないインターフェースを介して演算部4に接続される。
【0023】
前記演算部4は、CPU(中央演算装置)であって、予め記憶部5に記憶されているメインプログラムを作業用メモリ6に読み込み、その手順に従って必要な計算を行う。
【0024】
前記記憶部5は、例えば磁気ディスク、光ディスク又はSSD等からなる不揮発性の情報記憶装置であって、本実施形態ではデータ部7とプログラム部8とが含まれる。
【0025】
前記データ部7は、例えば、住宅のリビングルームLの空間形状に関する空間データが記憶された第1データ部7aと、前記リビングルームLの内装に関する内装データが記憶された第2データ部7bと、音源に関する音源データが記憶された第3データ部7cと、本システムで計算された最適な受聴位置で聴こえる音を擬似的に合成して作成するための任意の音の波形データが記憶された音源データ部7dと、前記空間データ等に基づいて計算される音響データ部7eとを含んでいる。
【0026】
前記第1乃至第3データ部7a乃至7cは、ユーザーが各データをシステム1に入力する際に選択肢とするのに役立つ。例えば、前記第1データ部7aには、リビングルームLの空間形状を特定するためのデータが予め記憶されている。該データには、例えば、リビングルームLの平面形状(形)として、例えば「正方形」、「長方形」及び「長方形の組合せ(L字型)」などが予め記憶されている。また、第1データ部7aには、前記平面形状の各壁面の辺の寸法や、リビングルームLの天井高さを特定するための複数の高さ寸法、さらには吹き抜けの平面形状を特定するための複数の縦横寸法の代表値などが予め記憶される。
【0027】
また、第2データ部7bには、前記リビングルームLの内装に関する内装データが予め記憶されている。内装データの具体例としては、床の仕上げ材の種類(フローリング、畳等)と、吸音率とが対で記憶されている。また、第2データ部7bには、壁面(クロス)、カーテン及び天井面のデフォルトの吸音率が予め記憶される。
【0028】
また、第3データ部7cには、音源に関する音源データが予め記憶されている。例えば、スピーカーの種類(2ch、5.1chの種別等)、テレビジョン装置TVのスクリーンサイズ(例えば、50v型、40v型、32v型等)、テレビジョン装置TVの設置場所を示す壁面ないし位置情報が予め記憶されている。なお、スピーカーの種類には、それぞれの最低共振周波数が対の情報として記憶されている。
【0029】
前記音源データ部7dは、各種の音、例えば任意の楽曲の波形データなどが記憶されている。
【0030】
前記音響データ部7eは、前記空間データ、内装データ及び音源データ等から計算される各種のデータが記憶される。これについては後述する。
【0031】
また、本実施形態において、記憶部5のプログラム部8は、メイン部8a、受聴位置作成部8b、音場シミュレーション部8c、最適受聴位置決定部8d及び擬似音合成再生部8eといった各モジュールを含んで構成される。
【0032】
前記メイン部8aは、本システムの全体動作及びアプリケーションインターフェースを司るプログラムが格納されている。また、他のプログラム部8bないし8eの動作については、後で詳しく述べる。また、これら8b〜8dは、作業用メモリ6等に読み込まれて演算部4で実行されることにより、ハードウエアとしての受聴位置作成する手段、音場シミュレーションを実行する手段、最適受聴位置を決定する手段及び擬似音合成を再生する手段としてそれぞれ機能する。
【0033】
次に、以上のようなシステム1を用いた最適受聴位置の提案支援方法について説明する。図3には、該支援方法の一例を示すフローチャートが示される。
【0034】
先ず、演算部4は、作業用メモリ6に、プログラム部8のメイン部8aを読み込んで実行する。具体的には、前記空間データ、内装データ及び音源データをそれぞれ本システム(コンピュータ)に入力するためのメニュー画面からなる空間データ入力手段M1、内装データ入力手段M2及び音源データ入力手段M3をそれぞれ表示部3の例えばディスプレイに表示させる(ステップS1)。
【0035】
図4には、リビングルーム(部屋)Lの空間データを入力するための空間データ入力手段M1の一例が示される。空間データは、音源から放射される音が広がる空間のかたち及び大きさを特定するためのパラメータであり、これらは作業者により入力される。この入力手段M1では、例えば次のようなパラメータを取り込むためのメニュー項目を含むことができる。
【0036】
[メニュー項目a(天井の高さ)]
メニュー項目aでは、解析対象となるリビングルームLの天井高さ(mm)が入力される。該メニュー項目は、マウスで右側の矢印をクリックして値の一覧を表示できるプルダウンメニュー形式である。プルダウンで表示される一覧の値には、前記第1データ部7aに記憶された天井高さの代表値が読み出される。この例では、天井高さ2500mmが入力されている。
【0037】
[メニュー項目b(LDK全体のかたち)]
メニュー項目bでは、リビングルームの全体のかたちが、上記同様、プルダウンメニュー形式で入力される。プルダウンで表示される選択肢の値には、前記第1データ部7aからリビングルームの形が読み出されて使用される。この例では、「長方形の組合せ(L字型)」が入力されている。
【0038】
[メニュー項目c(リビングルームの平面図)]
メニュー項目cでは、上記メニュー項目bで入力された値に基づき、リビングルームの平面図がイメージとして表示される。また、リビングルームの平面図には、各壁面を特定するための符号A〜Fが合わせて表示されている。また、このメニュー項目cでは、マウスにてドラッグさせて「吹き抜け」の位置を入力することができる。
【0039】
[メニュー項目d(LDKの大きさ)]
このメニュー項目dには、上記メニュー項目cで表示されている各壁面の長さ(必要なもののみ)が、上記同様、プルダウンメニュー形式で入力される。この例では、壁面A、B、C及びDが、それぞれ7P、5P、4P及び1Pと入力されている。また、例えば、ユーザーがリビングルームLの平面形状として、上記メニュー項目cにおいて、「長方形の組合せ(L字型)」を選択した場合、本実施形態では、表示部3に「長方形の組合せ(L字型)」の標準的な間取りでの各壁面の寸法を初期値として表示させることができる。また、本実施形態の住宅は、工業化住宅であるため、上記各寸法は、設計モジュールP(この例ではP=900mm)の倍数の値として表示される。なお、該倍数は、0.5の倍数が望ましい。なお、メニュー項目a及びdで入力されたデータに基づき、部屋の容積が計算できる。
【0040】
[メニュー項目e(吹き抜け)]
メニュー項目eには、リビングルームの天井の吹き抜けの有無や、吹き抜けがある場合にはその設置位置をプルダウン形式で入力できる。この例では、吹き抜けなしが入力されている。
【0041】
[メニュー項目f(リビング階段)]
メニュー項目fでは、リビングルームから上階にのびる階段(リビング階段)の有無、及び、有りの場合には、どの壁面に登り口があるのかをプルダウン形式で入力することができる。この例では、リビング階段が「あり」で、登り口は壁面Eと入力されている。
【0042】
図5には、リビングルーム(部屋)Lの内装データを入力するための内装データ入力手段M2の一例が示される。内装データは、リビングルームの空間での音の残響時間に影響を与える吸音率に関するパラメータであり、これらは作業者により入力される。この入力手段M2では、例えば次のようなパラメータを取り込むためのメニュー項目を含むことができる。
【0043】
[メニュー項目g(床の仕上げ)]
このメニュー項目gでは、リビングルームの床の仕上げ材がプルダウン形式で入力される。プルダウンで表示される選択肢の値は、前記第2データ部7bから床仕上げ材が読み出されて使用される。そして、仕上げ材を入力することにより、それに対応した吸音率が第2データ部7bから読み出されて入力される。この例では、フローリングが入力される。これにより、フローリングと対になって記憶されている吸音率(本実施形態では平均値として0.95)が音響データ部7eに記憶される。
【0044】
[メニュー項目h(敷物)]
メニュー項目hでは、リビングルームの床の上に敷かれている敷物の面積が入力される。敷物としては、音を吸収するような柔らかい素材からなるものを対象とし、具体的にはカーペット、ラグ及び/又は絨毯の合計敷設面積を入力する。この例では4m2が入力された状態を示す。
【0045】
[メニュー項目i(ウインドウトリートメント)]
メニュー項目iでは、所定の大きさの窓がいくつあるかがプルダウン形式で入力される。この実施形態では、システム1は、入力された窓の大きさ及び数から、カーテンの敷設面積が計算され。そして、演算部4は、カーテンに予め対で記憶されている吸音率が、第2のデータ部から読み出されて音響データ部7eに記憶される。
【0046】
図6には、リビングルーム(部屋)Lの音源データを入力するための及び音源データ入力手段M3の一例が示される。音源データは、音源の位置及び最低共振周波数に関するパラメータを特定するもので、ユーザーによる入力される。この入力手段M3では、例えば、上記パラメータを入力するために次のメニュー項目を含むことができる。
【0047】
[メニュー項目j(テレビorスクリーンのサイズ)]
メニュー項目jでは、テレビジョン装置のスクリーンのサイズがプルダウン形式で入力される。また、プルダウンで表示される選択肢の値には、前記第3データ部7cに記憶されているスクリーンサイズの値が読み出されて使用される。この例では、「80インチ」が入力された状態を示す。
【0048】
[メニュー項目k(スピーカー種類)]
メニュー項目kでは、スピーカーの種類がプルダウン形式で入力される。プルダウンで表示される選択肢の値には、前記第3データ部7cから「テレビ内蔵2ch」又は「5.1ch」等の値が読み出されて使用される。また、この種類が選択されることにより、第データ部7cに対で記憶されている最低共振周波数が音響データ部7eに記憶される。なお、最低共振周波数が0Hzであるいわゆる「理想スピーカー」を選択肢の一つとして含ませても良い。
【0049】
なお、通常、テレビジョン装置TVに内蔵されているステレオスピーカは、テレビのスクリーンの両側部に設けられていることが多い。従って、例えばメニュー項目kでスピーカーの種類が「テレビ内蔵2ch」が選択された場合、左右のスピーカーの間隔を、スクリーンのサイズに基づいて計算することが望ましい。即ち、例えば50v型の場合、スクリーン幅は約110cmになるので、スピーカーの間隔にこの値を採用しうる。このように、テレビジョン装置TVのスクリーンのサイズから計算されるスクリーン幅の両側部にスピーカーがあるものとして取り扱うことで、テレビジョン装置TVの位置とスクリーンのサイズが決まれば、スピーカーの位置を自動的に計算しかつ特定しうる点で好ましい。
【0050】
[メニュー項目l(画面の設置場所:設置面)]
メニュー項目lでは、音源(テレビジョン装置TV)が、リビングルームのどの位置にあるかがプルダウン形式で入力される。本実施形態のプルダウンメニューには、メニュー項目Cで示した各壁面の上下左右のどの壁面にあるかが入力される。この例では「下」となっており、壁面Aに音源があることが入力されている。
【0051】
[メニュー項目m(画面の設置場所:位置)]
このメニュー項目lでは、音源(テレビジョン装置TV)が、メニュー項目lで入力されたリビングルームの壁面に対して、どの位置(右、センター、又は左)にあるかがプルダウン形式で入力される。この例では、「センター」が選択された状態を示している。これにより、音源は、壁面Aの中央に配置されていることが入力されることになる。
【0052】
以上の空間データ入力手段M1、内装データ入力手段M2及び音源データ入力手段M3により、図7に示されるように、音響データ部7eには、リビングルームLの空間を囲む面の位置を示す座標L1、L2、L3、L4、L5及びL6と、前記空間の吸音率と、前記音源となる左右のスピーカーSL、SRの座標と、前記音源の最低共振周波数データHLとが少なくとも記憶される。また、部屋の床の仕上げ、敷物、天井、壁面及びカーテンの各面積と、それぞれの吸音率の積和から部屋の全吸音率が計算され、これが吸音に関する音響データとなり、後述の音場シミュレーションで使用される。
【0053】
次に、本実施形態では、図7に示されるように、前記リビングルームLに、評価用の複数の受聴位置が作成される(ステップS5)。即ち、これらのいずれかが最適な受聴位置の候補となる。
【0054】
前記評価用の受聴位置は、種々の方法で作成することができる。例えば、図7に示されるように、リビングルームL内の音源が左右のスピーカーSL、SRを含む場合、前記複数の受聴位置Pi(i=1、2…)は、平面視において前記左右のスピーカーSL、SRの中間位置を通る中心線K上に、評価周波数帯域の音の波長前後の距離で等間隔m(例えば50cm)で設けられるのが望ましい。また、評価用の受聴位置Piの座標データは、前記音響データ部7eに記憶されたデータから演算できるのは言うまでもない。なお、音源が複雑に配置される場合等、他の方法として、例えばリビングルームLの空間を格子状に区切り、そのグリッド位置に評価用の受聴位置を適宜設定することもできる。
【0055】
次に、最適受聴位置の探索が指示されると(ステップS6でY)、音場シミュレーションが行われる(ステップS7)。音場シミュレーションでは、予め得られた前記評価用の各受聴位置において、音源から放射される音がどのように聞こえるかを計算によってシミュレーションするものである。
【0056】
図8には、音場シミュレーション方法の一例として虚像法が示される。該虚像法は、既によく知られているように、実の部屋9及び実の音源10(現実の部屋及び現実の音源)のそれぞれ鏡像である部屋の虚像9a及び音源の虚像10aを次々と作り、音源の虚像10aから受聴位置Piを結ぶ音線12を全ての音源の虚像10aに対して求め、各音線12が受聴位置Piに作る音の和によって当該受聴位置Piの音をシミュレーションするものである。これにより、各受聴位置Piでの周波数伝送特性を得ることができる。従って、このステップにより、予め定めた評価用の各受聴位置Piにおいて、周波数伝送特性、即ち、図9に示されるように、周波数と音圧との関係を規定するスペクトルを得ることができる。
【0057】
また、周波数伝送特性を計算する際、音源の最低共振周波数以下の帯域では、マイナス12dB/1オクターブで減衰する周波数特性を持たせるのが望ましい。実際のスピーカーは振動板の質量と振動板を支えるダンパーやエッジのバネが直列に繋がった構造を具える。そして、磁界の中に置かれたボイスコイルに音声信号に比例した電流を流して振動板を駆動させる。スピーカーの振動板には駆動周波数に関係なく一定の力が加わるが、振動板とバネの自由共振周波数を境に振動板の振る舞いは変わる。高い周波数では振動板は質量として振る舞い、加速度は一定となり放射される音圧は一定になる。低い周波数ではバネが守勢となり、加速度は周波数の自乗に比例したものになり、周波数が半分になると放射音圧は1/4になる。これが、1オクターブごとにマイナス12dBで減衰させる理由である。そして、このような周波数特性を持たせることにより、後の擬似音の合成(ステップS9)によって得られる音が実際に部屋で聞く音に近くなるという効果が得られる。
【0058】
この音場シミュレーションにおいて、図8の部屋の虚像9aと音源の虚像10aを作るのに必要かつ充分なデータ(境界条件)は、リビングルームの形を特定する座標、実の音源10の座標及び受聴位置Piの座標である。また、音源からは、シミュレーション用に任意の音が発せられる。これらは既にステップS2及びS4で得られ図7に示したように、音響データ部7eに記憶されている。また、ステップS3により、リビングルームの内装状態が入力され、予め部屋の床、敷物、天井、壁面及びカーテンの各面積と、吸音率の積和から部屋の全吸音率が計算されているので、これが吸音に関する音響データとして音場シミュレーションで使用される。
【0059】
また、図8では理解しやすいように二次元における虚像法の音場シミュレーションを示したが、本発明は、三次元の音場シミュレーションに適用される。即ち、上記二次元のシミュレーションの境界条件に、天井の高さ(このデータも既にステップS2で入力されている)を加えるとともに、実の音源10の座標と、受聴位置Piの座標を三次元で表せば、これが三次元音場シミュレーションに必要充分な該境界条件データとなる。
【0060】
上記音場シミュレーションには、虚像法以外に、有限要素法、境界要素法又は波動方程式の離散解法などが用いられても良い。いずれの方法であっても、虚像法と同一の境界条件で行うことができる。
【0061】
図9には、任意の受聴位置Piでの周波数伝送特性(スペクトルパターン)の一例を示す。横軸は、周波数、縦軸は音圧レベルを示す。また、図10(a)、(b)には、さらに他の受聴位置Piでの周波数伝送特性を示す。このように、受聴位置Pi(i=1、2…)によって、周波数伝送特性、即ち異なる音で聞こえることが分かる。
【0062】
次に、最適な受聴位置を決定しかつそれを表示する処理が行われる(ステップS8)。本実施形態では、ステップS7で計算された複数の受聴位置での周波数伝送特性に、予め定めた評価基準を適用し、良評価の周波数伝送特性が得られる受聴位置を決定し、少なくとも良評価の受聴位置が表示される。
【0063】
前記評価基準は、ユーザーの好み等に応じて種々変えることができるが、一般的に「良い音」は、周波数伝送特性に大きなうねりや波が無く全体的になだらかなものと認識されている。また、臨場感や迫力を生む低音を重点的に評価することも有効である。本実施形態では、「周波数伝送特性の波形が平坦であるほど良い」とする基準を採用している。従って、例えば図10(a)の周波数伝送特性は、同図(b)のものよりも最大振幅HVが小さく良評価とされる。とりわけ、低音の寄与を大きくするために、上記評価基準を200Hz以下の周波数帯域に適用するのが特に好適である。これらの評価基準を各受聴位置の周波数伝送特性のスペクトルパターンに適用し、例えば順位付けがなされ、その中から最適なものが決定される。評価基準は、2以上の基準が含まれても良い。この場合、重み付け等によって結果は線形化される。
【0064】
また、他の方法として、部屋の共振モードが離散的に分布する周波数帯域を概ね評価の対象とすることでも良いし、さらには、音楽音声パワーの少ない周波数帯域(例えば、20〜40Hzの帯域を評価から除外することもできる。このように、評価基準は、種々の変形例が考えられる。
【0065】
そして、ステップS7の音場シミュレーションで得られた評価用の各受聴位置Pi(i=1、2…)での周波数伝送特性に上記評価基準を適用し、最適な周波数伝送特性を有する受聴位置が決定される。そして、本実施形態では、図10(a)の周波数伝送特性を有する受聴位置(この例では音源から2.5m)が最適な受聴位置として決定され、例えば図11のように前記表示部3に人間が判別可能な情報として表示される。
【0066】
また、本実施形態では、データ部7に、複数の周波数伝送特性を示すスペクトルパターンと、各スペクトルパターンについての特徴を表すコメントとを対で記憶するコメントデータが記憶されている。そして、前記最適受聴位置の周波数伝送特性のスペクトルパターンと、このコメントデータのスペクトルパターンとを比較し、最適受聴位置の周波数伝送特性のスペクトルパターンに最も近いスペクトルパターンが前記コメントデータから決定し、そのスペクトルパターンのコメントが表示部に表示される。この例では、最適受聴位置のスペクトルパターンに応じたものとして、20Hz以下の音も伝送されるので、サブウーファの設置が有効である旨のコメントが表示されている。このようなコメントデータは、ユーザーに視聴時の一歩進んだ情報を提供するのに役立つ。
【0067】
また、図示はしていないが、評価が二番目の受聴位置や、最下位の受聴位置を表示することもできる。これにより、最適受聴位置の有意な根拠や、選定位置を視覚的に離間させるとともに、種々の比較を行うのに役立つ。
【0068】
また、本実施形態では、音源データ部7fに予め楽曲等の波形データを記憶している。従って、この波形データと、良評価の周波数伝送特性から計算されるインパルス応答とで畳み込み演算を行い、残響のついた擬似音の合成が行われ(ステップS9)、その音が音源データ部7fに記憶される。そして、そして、最適な受聴位置では、実際にこのように音が聞こえるというデモンストレーションを行うことができる。本実施形態では、図12に示されるように、出力部3にメニュー画面M4を表示し、マウスで所定のボタンをクリックすることで上記擬似音を再生することができ、実際に確認を行うことができる。
【0069】
図12には、上記処理を行うインターフェースが例示される。表示部3には、視聴メニューが表示される。ボタン15のクリックで擬似音の合成が開始される。擬似音の合成は、メニュー20で選択された音源データ(これは音源データ部7dに記憶されている)と、最適受聴位置でのスペクトルパターンとを用いて演算することにより得られる。そして、ボタン16をクリックすることにより、コンピュータは、最適受聴位置で聞こえる音(擬似音)を該コンピュータに装備されたスピーカーから再生する。また、ボタン17で該擬似音をコンピュータの記憶装置内に記憶(録音)することができ、ボタン18で再度再生ができる。また、ボタン19をクリックすることで、異なる条件で合成された擬似音が比較視聴することができる。
【0070】
上記実施形態では、住宅Hの部屋として、リビングルームLを例示したが、これ以外の部屋を対象として同様の処理を行っても良いのは言うまでもないし、また、音源には、テレビジョン装置TVのみならず、オーディオ機器またはそれらの双方であっても良い。
【符号の説明】
【0071】
1 最適受聴位置提案システム
2 入力部
3 出力部
4 演算部
5 記憶部
6 作業用メモリ
7 データ部
8 プログラム部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
住宅の部屋の空間データをコンピュータに入力する手段と、
前記部屋の内装に関する内装データを前記コンピュータに入力する手段と、
音源に関する音源データを前記コンピュータに入力する手段と、
入力された前記空間データ、内装データ及び音源データに基づいて、前記部屋内の音響データを計算する手段と、
前記部屋内に複数の受聴位置を設定する手段と、
前記音響データを用いて前記各受聴位置の周波数伝送特性を計算する手段と、
予め定めた評価基準を前記周波数伝送特性に適用して良評価となる受聴位置を決定する手段と、
前記良評価に決定された受聴位置を表示する手段とを含むことを特徴とする住宅の部屋内での最適受聴位置提案システム。
【請求項2】
前記音響データは、前記部屋の空間を囲む面の位置を示す座標データと、前記各面の吸音率を示す吸音率データと、前記音源の位置と、前記音源の最低共振周波数データとを少なくとも含む請求項1記載の住宅の部屋内での最適受聴位置提案システム。
【請求項3】
前記音源が左右のスピーカーを含む場合、前記複数の受聴位置は、平面視において前記左右のスピーカーの中間位置を通る中心線上に設けられる請求項1又は2記載の住宅の部屋内での最適受聴位置提案システム。
【請求項4】
前記周波数伝送特性を計算する手段は、前記音源の最低共振周波数以下の帯域では、マイナス12dB/1オクターブで減衰する周波数特性を勘案して前記各受聴位置の周波数伝送特性を計算する請求項1乃至3のいずれかに記載の住宅の部屋内での最適受聴位置提案システム。
【請求項5】
前記評価基準は、前記周波数伝送特性のスペクトルが平坦であるほど良いとする基準である請求項1乃至4のいずれかに記載の住宅の部屋内での最適受聴位置提案システム。
【請求項6】
前記評価基準は、200Hz以下の周波数帯域に適用される請求項5記載の住宅の部屋内での最適受聴位置提案システム。
【請求項7】
複数の周波数伝送特性を示すスペクトルパターンと、各スペクトルパターンについての簡単な説明であるコメントとを対で記憶するコメントデータを具え、
コメントデータのスペクトルパターンと、前記最適受聴位置の周波数伝送特性のスペクトルパターンとを比較して該最適受聴位置の周波数伝送特性のスペクトルパターンに最も近いスペクトルパターンを前記コメントデータから決定する手段と、
前記決定されたスペクトルパターンの前記コメントを表示する手段とを具える請求項1乃至6のいずれかに記載の最適受聴位置提案システム。
【請求項8】
住宅の部屋の空間形状に関する空間データを入力するステップ、
前記部屋の内装に関する内装データを入力するステップ、
音源の位置に関する音源データを入力するステップ、
前記空間データ、内装データ及び音源データに基づいて、前記部屋内での音響データを計算するステップ、
前記部屋内に複数の受聴位置を設定するステップ、
前記音響データを用いて前記各受聴位置の周波数伝送特性を計算するステップ、
予め定めた評価基準を前記周波数伝送特性に適用して良評価となる受聴位置を決定するステップ、及び
前記良評価に決定された受聴位置を表示するステップとを含むことを特徴とする住宅の部屋内での最適受聴位置提案方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−53481(P2011−53481A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−202921(P2009−202921)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【出願人】(000004673)パナホーム株式会社 (319)