説明

住宅所有関係別分布表推定システム

【課題】 公表されている市別の住宅所有関係別分布表を用いて未公表である町別の住宅所有関係別分布表を精度良く推定する。
【解決手段】 市別の統計データである学習入力用情報Aから得られた学習入力データA'と、市別の住宅所有関係別分布表Sのデータである学習出力用情報Bから得られた学習出力データB'とを関係付けるモデル式f(x)を作成し、このモデル式f(x)に町丁目別の統計データである推定入力用情報aから得られた推定入力データa'を適用することにより、未公表の町丁目別住宅所有関係別分布表sのデータbを統計的に推定することが可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、既知の住宅所有関係別分布表(世帯年収分布表や家族構成分布表など)から前記既知の住宅所有関係別分布表とは母集団の尺度が異なる住宅所有関係別分布表を推定することが可能な住宅所有関係別分布表推定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
マンション業者が分譲マンションの企画を行う際、分譲価格や間取りをどのように設定するかは非常に重要であり、その判断材料の1つとして住宅所有関係別の分布表(例えば、世帯年収分布表や家族構成分布表など)(S)が用いられる(図1参照)。なお、図1(イ)は、住宅所有関係別世帯年収分布表(S)の一例を示したものであり、図1(ロ)は、住宅所有関係別家族構成分布表(S)の一例を示したものである。
【0003】
マンション建設予定地の集客エリアにおける住宅所有関係別の世帯年収分布表(S)を入手できれば適切な分譲価格を決定することができるし、また、住宅所有関係別の家族構成分布表(S)を入手できれば、ターゲットとする家族構成に応じた間取り設計を行うことが可能となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、住宅所有関係別の世帯年収分布表に相当するものとして、総務省が発表する「住宅・土地統計調査」の統計データ(第20表)が存在する。しかしながら、この統計調査は「市」単位を母集団とする調査結果だけが公表されており、「市」よりも下の階層であり集客エリアに相当する「町」を母集団とする調査結果については公表されていない。
【0005】
上述した市別の住宅所有関係別分布表(世帯年収分布表)(S)を集客エリアである「町」の人口に応じて比例分配すれば、目的とする町別の住宅所有関係別分布表(世帯年収分布表)(s)を推定できるようにも思えるが、実際には、推定値と実際の値との間に相当の誤差が生じてしまい実用に適さない。また、これを実用化できるような先行技術も存在しない。
【0006】
そのため、従来では、分譲マンション建設予定地の集客エリア毎にアンケートや聞き取り調査を実施し、町別の住宅所有関係別分布表(s)を作成していたのであるが、このような作業は、多大な時間と労力とコストを必要とするため、効率的な作成方法の出現が望まれていた。
【0007】
本願発明は、上述した従来の問題点に鑑みてなされたものであり、公表されている市別の住宅所有関係別分布表を用いて未公表である町別の住宅所有関係別分布表を精度良く推定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、「既知の住宅所有関係別分布表(S)から前記既知の住宅所有関係別分布表(S)とは母集団の尺度が異なる住宅所有関係別分布表(s)を推定する住宅所有関係別分布表推定システム(10)であって、既知の住宅所有関係別分布表(S)の統計データである学習出力用情報(B)と、既知の住宅所有関係別分布表(S)とは母集団の尺度が同じであり、かつ、住宅の所有に関連する統計データである学習入力用情報(A)と、既知の住宅所有関係別分布表(S)とは母集団の尺度が異なるが住宅所有に関連する統計データである推定入力用情報(a)とをそれぞれ記憶する記憶手段(14)、学習入力用情報(A)と学習出力用情報(B)とを用いて両情報(A)(B)を関係付けるモデル式f(x)を作成するモデル式作成手段(20)、推定入力用情報(a)とモデル式f(x)とから所定の演算値δを算出する演算値算出手段(22)、演算値算出手段(22)によって算出された演算値δと学習出力用情報(B)とを用いて住宅所有関係別分布表(s)を作成する分布表作成手段(24)、および住宅所有関係別分布表(s)を表示する分布表表示手段(26)を備えることを特徴とする住宅所有関係別分布表推定システム(10)」である。
【0009】
この発明では、モデル式f(x)を作成するために用いられるデータ(即ち、学習入力用情報(A)と学習出力用情報(B))と、住宅所有関係別分布表(s)を作成するために用いられるデータ(即ち、推定入力用情報(a)および住宅所有関係別分布表(s)のデータ(b))とが後述するように互いに自己相似性の関係を有するので、母集団の尺度が互いに異なる2組の統計データ((A)(B)と(a)(b))を1つのモデル式f(x)に適用することが可能となる。
【0010】
ここで、本明細書において「母集団の尺度」とは、統計データの調査対象となっている行政単位(「市」や「町」など)をいい、「母集団の尺度が異なる」とは、比較対象となる統計データの調査対象の行政単位が異なることをいう(反対に、「母集団の尺度が同じである」とは、比較対象となる統計データの調査対象の行政単位が一致することをいう。)。
【0011】
また、「用いて」とは、結果的に何らかの手段を利用することを意味し、その手段は問わない。
【0012】
請求項2に記載の発明は、「前記モデル式f(x)が、二次関数g(x)と、RBFネットワークの中間層の基底関数であるh(x)との組み合わせによって構成されている」ことを特徴とするものであり、かかる構成により、実測値により近い住宅所有関係別分布表を得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本願発明によれば、公表されていない町単位での住宅所有関係別分布表を、公表されている市別の住宅所有関係別分布表等の統計データを用いて統計的にしかも精度良く推定することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本願発明を図示実施例に従って詳述する。図2は、本実施例に係る住宅所有関係別分布表推定システム(10)のブロック図で、入力手段(12)、記憶手段(14)、学習データ作成手段(16)、推定入力データ作成手段(18)、モデル式作成手段(20)、演算値算出手段(22)、分布表作成手段(24)および分布表表示手段(26)を備えている。
【0015】
入力手段(12)は、各種統計データを入力したり、住宅所有関係別分布表(以下、単に「分布表」という。)(s)を推定しようと考えている町名を選択等するためのものであり、例えば、キーボードやマウスなどが該当する。
【0016】
記憶手段(14)は、学習入力用情報データベース(14a)、学習出力用情報データベース(14b)および推定入力用情報データベース(14c)により構成されている。
【0017】
学習入力用情報データベース(14a)は、学習入力用情報(より具体的には、公表されている市別の国勢調査統計データ)(A)を記憶するものであり、学習出力用情報データベース(14b)は、学習出力用情報(より具体的には、公表されている市別の住宅・土地統計調査統計データ)(B)を記憶するものであり、推定入力用情報データベース(14c)は、推定入力用情報(より具体的には、公表されている町丁目別の国勢調査統計データ)(a)を記憶するものである。
【0018】
ここで、学習入力用情報(A)は、図3に示すように、複数(本実施例では、107都市分)の学習入力用市別データにより構成されており、各学習入力用市別データは、例えば、持ち家に住む一般世帯数や公営・公団・公社の借家に住む一般世帯数等、住宅の所有と何らかの関係があると考えられる複数の学習入力用項目データによって構成されている。なお、後述するモデル式f(x)の精度を高めるためには、学習入力用項目データの数は多い方が良く、本実施例では、各学習入力用市別データが23個の学習入力用項目データによって構成されている。
【0019】
学習出力用情報(B)は、住宅所有関係別分布表(S)の構成データである複数(本実施例では、学習入力用情報(A)に合わせて107都市分)の学習出力用市別データにより構成されており、各学習出力用市別データは、複数の学習出力用項目データによって構成されている。例えば、図1(イ)に示すような市別の世帯年収分布表(S)を用いる場合、各学習出力用市別データは、40個(=8つの年収帯×5つの住宅所有関係)の学習出力用項目データによって構成され、図1(ロ)に示すような市別の家族構成分布表(S)の場合には、28個(=7つの家族構成×4つの住宅所有関係)の学習出力用項目データによって構成されることになる。
【0020】
推定入力用情報(a)は、複数の推定入力用町丁目別データにより構成されており、各推定入力用町丁目別データは、住宅の所有と何らかの関係があると考えられる複数の推定入力用項目データによって構成されている。なお、推定入力用項目データを構成する項目は、上述した学習入力用項目データの項目と同一のものが選択される。
【0021】
本願発明にて取り扱われる学習入力用情報(A)、学習出力用情報(B)、推定入力用情報(a)および推定しようとする分布表(s)のデータ(b)は、それぞれ以下に示す関係を有している(図4参照)。
【0022】
まず、学習入力用情報(A)と、学習出力用情報(B)とは、項目は異なるが、何れも統計調査の対象である母集団の尺度が「市」で共通している(これは、既に公表されている分布表(S)の母集団の尺度に対応させたものである。)。なお、本願における「市」には、政令指定都市の「区」が含まれるものとする。
【0023】
推定入力用情報(a)と、推定しようと考えている分布表(s)のデータ(b)とは、項目は異なるが、何れも統計調査の対象である母集団の尺度が「町」で共通している(これは、推定しようと考えている分布表(s)の母集団の尺度に対応させたものである。)。
【0024】
学習入力用情報(A)と、推定入力用情報(a)とは、統計調査の対象である母集団の尺度が大小関係にあり(本実施例では、学習入力用情報(A)の母集団の尺度が「市」であるのに対し、推定入力用情報(a)の母集団の尺度は「町」であり、両者は大小関係にある。)、かつ、調査対象項目が共通している。なお、この関係は、学習出力用情報(B)と分布表(s)のデータ(b)との間においても同様である。
【0025】
学習データ作成手段(16)は、学習入力データ作成手段(28)と、学習出力データ作成手段(30)とで構成されている。
【0026】
学習入力データ作成手段(28)は、学習入力用情報データベース(14a)に記憶されている学習入力用情報(A)を用いて学習入力データ(A')を作成するものであり、また、学習出力データ作成手段(30)は、学習出力用情報データベース(14b)に記憶されている学習出力用情報(B)を用いて学習出力データ(B')を作成するものである。なお、両作成手段(28)(30)における学習入力データ(A')および学習出力データ(B')の具体的な作成方法については後述する。
【0027】
推定入力データ作成手段(18)は、推定入力用情報データベース(14c)に記憶されている推定入力用情報(a)を用いて所定の演算を行うことにより推定入力データ(a')を作成するものである。なお、その具体的な演算方法については後述する。
【0028】
モデル式作成手段(20)は、前記学習入力データ(A')および学習出力データ(B')を用いて両データ(A')(B')を関係付けるモデル式f(x)を作成するものである。
【0029】
ここで、「両データ(A')(B')を関係付ける」とは、横軸にデータ(A')、縦軸にデータ(B')をプロットしたときの相関を求めることを意味し、得られた関係式がf(x)である。
【0030】
演算値算出手段(22)は、モデル式作成手段(20)にて作成されたモデル式f(x)に推定入力データ(a')を代入し、その演算値δを算出するためのものである。
【0031】
分布表作成手段(24)は、演算値算出手段(22)により得られた演算値δと学習出力用情報データベース(14b)に記憶されている学習出力用情報(B)とを用いて所望の分布表(s)を作成するものである。
【0032】
分布表表示手段(26)は、分布表作成手段(24)にて作成された分布表(s)を表示するためのものであり、例えば、モニターやプリンタ等がこれに該当する。
【0033】
なお、本住宅所有関係別分布表推定システム(10)を構成している各手段は、1台のコンピュータに全ての機能を持たせても良いし、複数台のコンピュータに各機能を分担させるようにしてもよい。
【0034】
本願発明では、モデル式f(x)を作成するために用いられるデータ(即ち、学習入力用情報(A)および学習出力用情報(B))と、推定しようと考えている分布表(s)を作成するために用いられるデータ(即ち、推定入力用情報(a)および分布表(s)のデータ(b))とが互いに「自己相似性」の関係を有している点に特徴がある。
【0035】
ここで「自己相似性」とは、一般的には、例えばコッホ曲線(図5参照)のように、或る図形を大きなスケールで見た時の形状と、当該図形の一部分を拡大した時の形状とが一致する性質のことを意味するが、本願発明では、図形で見られるこの関係を統計データの分布状況に適用して、或る同じ尺度の母集団の母数の分布で見たときの2つの統計データの関係が、母集団の尺度が変わった場合にも同じ関係が維持される性質のことを意味する。
【0036】
本願発明では、国全体という尺度で見た場合の市レベル(政令指定都市の区の尺度を含む)のデータ(学習入力用情報(A)と学習出力用情報(B))の分布状況から成立したモデル式f(x)を、市という尺度で見た場合の町丁目レベルのデータ(推定入力用情報(a)と分布表(s)のデータ(b)の分布状況におけるモデル式f(x)に適用しており、「自己相似性」の関係を利用していることになる。
【実施例1】
【0037】
次に、上記構成の住宅所有関係別分布表推定システム(10)を用いて、x町の住宅所有関係別年収帯分布表(以下、単に「年収帯分布表」という。)(s)を推定して表示する方法について、図6のフローチャートに基づき説明する。なお、記憶手段(14)には、上述した学習入力用情報(市別の住宅・土地調査統計データ;図3参照)(A)、学習出力用情報(市別の国勢調査統計データ;図1(イ)参照)(B)および推定入力用情報(町丁目別の国勢統計データ;図示省略)(a)が既に記憶されているものとする(勿論、記憶されている各情報(A)(B)および(a)の内容を更新したり、或いは新規統計データを別途記憶させることができることはいうまでもない。)。
【0038】
なお、学習入力用情報(A)を構成する各学習入力用市別データの学習入力用項目データとしては、種々のデータを用いることが可能であるが、本実施例では、以下の23項目のデータを用いた(推定入力用項目データについても同様である。)。
【0039】
即ち、(1)持ち家に住む一般世帯数、(2)公営・公団・公社の借家に住む一般世帯数、(3)民営の借家に住む一般世帯数、(4)給与社宅に住む一般世帯数、(5)間借りの一般世帯数、(6)一世帯当たり人員、(7)一人当たり延べ面積(以上、第9表より)、(8)一戸建に住む一般世帯数、(9)長屋建に住む一般世帯数、(10)共同住宅(1・2階建)に住む一般世帯数、(11)共同住宅(3〜5階建)に住む一般世帯数、(12)共同住宅(6〜10階建)に住む一般世帯数、(13)共同住宅(10階建以上)に住む一般世帯数(以上、第10表より)、(14)民営の借家に住む一般世帯の総延べ面積(以上、第12表より)、(15)常時雇用者数および(16)役員数(以上、第18表より)、(17)大卒者数および(18)勤労者数(以上、第20表より)、(19)賃金・給料が主な世帯数、(20)農業収入が主な世帯数、(21)事業収入が主な世帯数、(22)内職収入が主な世帯数および(23)恩給・年金が主な世帯数(以上、第22表より)である(図3参照)。
【0040】
まず、入力手段(12)により、年収帯分布を推定しようとする町名(ここでは、x町)が選択される(ステップS1)。なお、ここでいう「選択」には、モニターなどの表示画面に表示されている町名一覧から「x町」をマウスなどにより指定する場合や、キーボードにより「x町」と直接入力する場合等が考えられる。
【0041】
年収帯分布を推定しようとするx町が入力装置(12)によって選択され、世帯年収分布表(s)の作成命令がなされると、学習入力データ作成手段(28)では、学習入力用情報データベース(14a)に記憶されている全ての学習入力用情報(A)を抽出し、所定の演算を行うことにより学習入力データ(A')を作成する(ステップS2)。
【0042】
ここで、学習入力データ作成手段(28)における具体的な演算方法は、(1)全ての学習入力用市別データについて、各学習入力用項目データの値を各項目の母数で除して割合を算出し、(2)前記各学習入力用項目データの値(割合)について全都市分の平均値を算出し、(3)各学習入力用項目データの値(割合)から全都市分の学習入力用項目データの平均値(割合)を引く(ただし、例えば一人当たり延べ面積のように母数が存在しないものについては、割合を算出する必要はない。)。なお、この演算結果が学習入力データ(A')である。
【0043】
また、学習出力データ作成手段(30)では、学習出力用情報データベース(14b)に記憶されている全都市分の学習出力用情報(B)を抽出し、所定の演算を行うことにより学習出力データ(B')を作成する(ステップS3)。
【0044】
学習出力データ作成手段(30)における具体的な演算方法は、(1)全ての学習出力用市別データについて、各学習出力用項目データの値を各学習出力用項目データの母数で除して割合に変換し、(2)前記各学習出力用項目データの値(割合)について全都市分の平均値を算出し、(3)各学習出力用項目データの値(割合)から全都市分の学習出力用項目データの平均値(割合)を引く。なお、この演算結果が学習出力データ(B')である。
【0045】
学習入力データ(A')および学習出力データ(B')の作成が完了すると、モデル式作成手段(20)では、両学習データ(A')(B')を用いてモデル式f(x)が作成される(ステップS4)。
【0046】
モデル式f(x)は、学習入力データ(A')の分布状態と学習出力データ(B')の分布状態とを関係付けるものであり、次式[式1]で表される。なお、上述した学習入力データ(A')がモデル式f(x)への入力値であり、学習出力データ(B')がモデル式f(x)の出力値である。但し、学習入力データ(A')と学習出力データ(B')とは、同じ市のデータが一組の学習データとしてモデル式f(x)に適用される。
【0047】
[式1]

f(x)=g(x)+h(x)
【0048】
g(x)は、モデル式f(x)のベースとなる関数であり、本実施例では、再現性の良い二次関数(式2参照)が採用されている。
【0049】
[式2]

g(x)=ax+bx+cx+dx+ex+f
【0050】
a〜fは未知数であり、最小2乗法を用いて求めることができる。なお、交互作用cx12を無視すれば、未知数の計算工程を大幅に簡略化することが可能であるため、本実施例では、交互作用交互作用cx12を無視した式にて計算を行うこととした。
【0051】
h(x)は、より実測値に近い正確な出力値を得るために導入される近似関数であり、本実施例ではRBFネットワークが利用される。
【0052】
ここで、「RBFネットワーク」とは、図7に示すように、中間層の基底関数の出力を線形結合することによってネットワークの出力を計算するようなネットワークのことをいう。
【0053】
上述した中間層の基底関数として、本実施例では、非線形性に強く、データの再現性に優れた釣鐘状の関数を基底とするガウス分布関数が用いられている(式3参照)。
【0054】
[式3]

【0055】
ただし、rはガウス分布関数の半径であり、半径の最適化を行うことにより半径rの値が定まる(本実施例では、或る市について、学習入力データ23個×学習出力データ40個=920個の式が作成される。そして、これが後述するように107都市分存在するので、全部で920×107=98440個の式が作成されることになる。上述した半径の最適化とは、各項目データを代入することによって得られる98440個の式に対して半径rが最も小さくなるような値を見つけることをいう。)。
【0056】
モデル式f(x)の作成に当たっては、(学習入力データ(A')の変数の数×2+1)×3組のデータがあれば比較的精度の高いモデル式を作成することができることが経験的に分かっている(RBFの近似では、学習入力データ(A')の項目数の3〜7倍のデータがあることが望ましいとされている。)。
【0057】
本実施例では、学習入力データ(A')の変数(項目)の数が23であるから、141都市分の学習データがあれば精度の高いモデル式f(x)を作成することになる(ただし、実際には、107都市分のデータしか存在しないため、本実施例では、与えられた107組のデータでモデル式f(x)を作成するための計算を行うことになる。)。
【0058】
一方、推定入力データ作成手段(18)では、推定入力用情報データベース(14c)に記憶されている推定入力用情報(a)の中から推定しようとするx町の推定入力用町丁目別データ(つまり、23個の推定入力用項目データ)を抽出するとともに、所定の演算を行うことにより推定入力データ(a')が作成される(ステップS5)。
【0059】
推定入力データ作成手段(18)による具体的な演算方法は、(1)x町の各推定入力用項目データの値を各項目の母数で除して割合を算出し、(2)学習入力用情報データベース(14a)に記憶されている学習入力用情報(A)の中からx町が属するX市に関する学習入力用市別データ(つまり、23個の学習入力用項目データ)を抽出するとともに、各学習入力用項目データの値を各項目の母数で除して割合を算出し、(3)前記x町における各推定入力用項目データの値(割合)からX市における各学習入力用項目データの値(割合)を引く。なお、この演算結果が推定入力データ(a')である。
【0060】
そして、モデル式f(x)の作成および推定入力データ(a')の作成の両方が完了すると、演算値算出手段(22)は、推定入力データ(a')をモデル式f(x)に代入して演算値(RBFの予測値)δを算出する(ステップS6)。
【0061】
なお、図8は、x町におけるRBF予測結果の一部を示したものである(ここでは、持ち家に住む一般世帯数における年収帯毎の予測結果が示されている。)。図中、円で囲った部分は、各年収帯毎のRBF予測値δを合計した値であり、この値が0に近いほど正確な予測が行われていることを意味している。図8の結果を見ると、限りなく0に近い値となっており、推定結果の信頼性が高いことが示された。
【0062】
分布表作成手段(24)では、学習出力用情報データベース(14b)に記憶されている学習出力用情報(B)の中からx町が属するX市に関する学習出力用市別データ(即ち、40個の学習出力用項目データ)を抽出するとともに、各学習出力用項目データの値を各項目の母数で除して割合を算出し(図8におけるX市(割合)の欄を参照)、これに演算値δを100で割った値を加算する。これにより、X市という尺度で見た場合におけるx町の分布表の値(割合)が得られることになる(図8におけるx町(割合)の欄を参照)。
【0063】
そして、このようにして得られた値(割合)にx町の母数を積算すれば、x町における分布表(世帯年収分布)(s)の統計データ(推定値)を得ることができ(ステップS7)、これを表化して得られた分布表(s)が分布表表示手段(26)によって表示されることになる(ステップS8)。
【0064】
なお、上述の実施例では、町丁目別の年収帯分布表(s)を推定する例について説明したが、例えば、学習出力用情報(B)として市別の住宅所有関係別家族構成分布表の統計データ(国勢調査統計データ第33表)を用いればx町における家族構成分布表(s)を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】公表されている住宅所有関係別分布表の一例を示した図である。
【図2】本願発明に係る住宅所有関係別分布表推定システムを示すブロック図である。
【図3】学習入力用情報として用いられる市別国勢調査の統計データの一例を示した図である。
【図4】本願発明において用いられるデータの関係を示す概念図である。
【図5】コッホ曲線について説明する図である。
【図6】本願発明を示すフローチャートである。
【図7】RBFネットワークについて説明する図である。
【図8】x町におけるRBF予測結果(持ち家に関する部分)を示した図である。
【符号の説明】
【0066】
10 年収帯分布予想システム
12 入力手段
14 記憶手段
16 学習データ作成手段
18 推定入力データ作成手段
20 モデル式作成手段
22 演算値算出手段
24 分布表作成手段
26 分布表表示手段
28 学習入力データ作成手段
30 学習出力データ作成手段
S 既知の住宅所有関係別分布表
s 未知の住宅所有関係別分布表
A 学習入力用情報
B 学習出力用情報
a 推定入力用情報
b 未知の住宅所有関係別分布表のデータ(推定値)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既知の住宅所有関係別分布表から前記既知の住宅所有関係別分布表とは母集団の尺度が異なる住宅所有関係別分布表を推定する住宅所有関係別分布表推定システムであって、
前記既知の住宅所有関係別分布表の統計データである学習出力用情報と、前記既知の住宅所有関係別分布表とは母集団の尺度が同じであり、かつ、住宅の所有に関連する統計データである学習入力用情報と、前記既知の住宅所有関係別分布表とは母集団の尺度が異なるが住宅所有に関連する統計データである推定入力用情報とをそれぞれ記憶する記憶手段、
前記学習入力用情報と前記学習出力用情報とを用いて前記両情報を関係付けるモデル式を作成するモデル式作成手段、
前記推定入力用情報と前記モデル式とから所定の演算値を算出する演算値算出手段、
前記演算値算出手段によって算出された演算値と前記学習出力用情報とを用いて住宅所有関係別分布表を作成する分布表作成手段、および
前記住宅所有関係別分布表を表示する分布表表示手段を備えることを特徴とする住宅所有関係別分布表推定システム。
【請求項2】
前記モデル式が、二次関数と、RBFネットワークの中間層の基底関数との組み合わせによって構成されていることを特徴とする請求項1に記載の住宅所有関係別分布表推定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−323586(P2006−323586A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−145488(P2005−145488)
【出願日】平成17年5月18日(2005.5.18)
【出願人】(396003375)株式会社穴吹工務店 (1)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)