説明

体外免疫方法及び同方法を用いた抗体作製方法

【課題】抗原特異的なヒト抗体を短期間で大量に作製することを可能とする体外免疫方法及び同方法を用いた抗体作製方法を提案する。
【解決手段】
ヒト血液細胞群、抗原、刺激物質及びヒト血清を含む培養液中で免疫するステップ、前記ステップで得られた細胞群から遺伝子を分離し、分離した遺伝子に所定の抗体用プライマーを用いてPCR処理を行うステップ、前記PCR処理後の遺伝子に対し量的分離を行い抗体遺伝子を選別するステップ、当該一本鎖抗体を宿主細胞で培養するステップよりなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体外免疫方法及び同方法を用いた抗体作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体防御機能のなかでもその中心的な存在である免疫機能の解明は、疾病の診断、治療において、重要な課題となりつつある。
例えば、癌、糖尿病等の生活習慣病の他各種疾病の診断に用いられる手法の中で、疾病に深く関わりのあるマーカー物質の濃度、量を目視可能に検出するイムノクロマト法のように、より簡易的診断が可能なものまでも提案されており、研究用試薬、診断用試薬、各種物質モニター用試薬、免疫学的診断、治療の分野はより拡大していくものであるが、当該方法における抗体の安定した確保は、今後より重要になってくる。
また、ファージディスプレイ系を用いた抗体ライブラリー作製技術が開発され、ヒト抗体単離も可能となっている。
【0003】
免疫学的測定に必要なモノクロナール抗体の作製は、まずマウスに抗原を注射(免疫)する工程で約3ヶ月を要する。その後抗体を産生しているB 細胞群を取り出し、ミエローマ細胞と細胞融合する。この工程によって、無限に増殖する事が可能な抗体産生細胞(ハイブリドーマ)群を構築する。最後にこのハイブリドーマ群の中から、目的にあった抗体を産生している細胞を選別(クローニング工程)し、この細胞を用いて抗体の大量調製を実施する。このクローニング工程では、ハイブリドーマ群を希釈し、1 ウェルに1 細胞しかいないという状態にして、1 細胞から培養を行う。これを抗体の性質が検討できる細胞濃度まで増殖させ、得られるモノクローナル抗体の性質を検査する。この検査で陽性となったウェルを再度希釈し、上記と同様に検査を実施する。この操作を複数回実施し、使用に耐えうるハイブリドーマを分離取得する。この工程1サイクルに約2 週間を要し、全体で約3 ヶ月以上を要する場合もある。
この様に手間と時間のかかる作業が必要である為、専門の業者に依頼すると作製費用が高額となる。
国際公開WO2009/072660号公報には、マウス脾臓細胞組織から細胞片を取り出して、これを免疫する手法が記載されている。脾臓細胞は、免疫担当細胞が豊富であり、良く用いられる組織ではあるが、マウスからの摘出作業や、その後、免疫用にある程度の調整を要するものである。
【0004】
ヒト医薬への適用の為には、マウス由来の抗原性を全て排除することの煩雑さがある。
他方膨大なサイズのヒト抗体遺伝子ナイーブライブラリからファージデイスプレイ法等を用いてスクリーニングする方法は、数週間を要して多数回のセレクションを繰り返す必要があり、煩雑さを伴うと共に時間と手間を要する。
特開2004−121237号公報には、ヒト末梢血リンパ球を体外免役することが記載されているが、単球を分離する工程が必要であり、リンパ球を白血球等から分離選別する作業を要するため、手間のかかる作業を要する。
特開平4−281799号には、LPS等のポリクロナール活性化物質を含まない末梢血リンパ球の体外免疫方法が開示され、体外免疫では、必須とされていたポリクロナール活性化物質が末梢血リンパ球に対する体外免疫では、免疫効率を下げることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−121237号公報
【特許文献2】特開平10−282097号公報
【特許文献3】特表2006−516408号公報
【特許文献4】特開2006−180708号公報
【特許文献5】国際公開WO2009/072660号公報
【特許文献6】特開平4−281799号公報
【特許文献7】特開2011−92142号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
体外免疫作業を簡素化し、手間と時間が係る作業が必要な抗体作製をより短時間で、しかも容易に安定したヒト抗体が作製できる手段を提案しようとするものである。
上述した先行技術に記載されている通り末梢血の利用は、ヒト抗体の製造においては、より手軽ではあるが、いずれの手法も特異性及び親和性がある抗体を確実に製造する方法にまでは至っておらず未解明な部分が多い。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ヒト末梢血から採取された血液細胞に対し、LPSを含む刺激物質と、抗原及びヒト血清による体外免疫を行うことで、特異性及び親和性のあるヒト抗体が得られることを知見し、本発明に到達した。
更に、本発明は、ヒト血液細胞に特定の刺激物質、ヒト関連培養成分を添加した培養液で、抗原による感作を行い、この免疫された免疫担当細胞をこの血液細胞群から選別することなく、ヒト抗体遺伝子に特異的なプライマーを適用したPCR増幅操作を行い、PCR処理後の遺伝子を電気泳動等の量的分離手段により、増幅された遺伝子のみを取り出し、この遺伝子から一本鎖抗体(scFv)を作製すると共にこのscFv抗体遺伝子が挿入された発現ベクターを宿主細胞に挿入して形質転換を行い、これを培養して抗体遺伝子の大量生産を短時間で行うことを可能とする。
【0008】
血液細胞は、例えば、単核細胞、リンパ球、マクロファージ、樹状細胞、赤血球等が例示されるが、本発明によれば、血液を遠心分離した後のような個体と液体を分離したものを出発材料としてもよく、赤血球等の選別を要することがない場合もあり、選別工程を簡素化できる。
本発明における量的な分離手法とは、目的とする遺伝子の分子量等の量的相違に基づく分離を行うもの例えば電気泳動による泳動距離の相違による分離手法が示される。又電気泳動に限らず、その他、HPLC等のクロマトグラフィーを用いた手法が利用できる。
【0009】
本発明は、生体外において、所望の抗体産生細胞を得るために、刺激物質をヒト血液細胞に添加して特定の血液細胞を刺激・活性化し、胚中心様B細胞又は、抗体産生細胞(プラズマ細胞)、メモリーB細胞へ分化誘導することも可能とする。
本発明における刺激物質としてはIL-1、IL-2、 IL-3、 IL-4、 IL-5、 IL-6、 IL-7、IL-10、IL-13、IL-21、表面抗原に対する刺激物質としてFas ligand、INF-γ(Interferon-gamma)、TGF-β(Transforming Growth Factor - beta)、BAFF(B cell Activating Factor)、APRIL(A Proliferation-Inducing Ligand)、CD40 ligand、CD38 ligand、BCDF(B Cell Differentiation Factor)、BCAF(B Cell Activation Factor)、シグナル伝達に関与する受容体に対する刺激物質としてLPS(Lipopolysaccharide)CpG等が例示される。
【0010】
これらの刺激物質は、体細胞変異誘導因子、前記B細胞増殖活性化因子、及びクラススイッチ誘導因子に分けられ、それぞれ、前記体細胞変異誘導因子がIL-21、LPS(Lipopolysaccharide)、前記B細胞増殖活性化因子がIL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-6、IL-7、IL-10、IL-11、IL-13、IL-21、IL-22、BAFF(B cell Activating Factor)、CD30 Ligand、anti-CD30抗体、CD40 Ligand、anti-CD40抗体、INF-γ(Interferon-gamma)、Fas Ligand、LPS、前記クラススイッチ誘導因子がIL-4、IL-5、IL-6、IL-13、INF-γ、TGF-β(Transforming Growth Factor - beta)、BAFF、APRIL(A Proliferation-Inducing Ligand)と分けることが出来、これらの刺激物質は、本発明に有効に用いられる。
使用濃度は、免疫する細胞濃度に依存するが、LPS は10ng/mL〜500μg/mLの濃度が良く、特に20〜80μg/mLの濃度が推奨される。また、LPS以外の物質では一般に1ng/mL〜50μg/mL の濃度が良く、特に5ng/mL〜40ng/mLの濃度が推奨される。
また、これら物質の機能を代替するアゴニスト抗体であっても問題はない。
その分化誘導の過程において、特にIL-4、IL-13、IL-21、LPS刺激により、抗体の体細胞変異およびクラススイッチを誘導することがより好ましい場合もある。
【0011】
本発明における、体外免疫手法において、各種刺激物質と各種分化、誘導等との関係について以下に説明する。
本発明で示す抗原は、免疫用血液細胞の調製直後の1回で充分であるが、2〜3日の間隔を置いて、複数回行っても制限はない。またその際の抗原濃度は1pmol〜1mmolが好ましく、1nmolが例示される。
抗原刺激を補助する目的でLPSに代表されるTLR (Toll Like Receptor)を刺激する物質を添加しても良い。この刺激の添加は、抗原刺激の度に行うことが好ましく、添加量は10ng/mL〜500μg/mLの濃度が良く、特に20〜80μg/mLの濃度が良い。
【0012】
本発明で用いられる抗原には、例えば、h(ヒト)S100A10、he(鶏)EL、h(ヒト)Ras、h(ヒト)rap74,h(ヒト)TOPO2B、b(ウシ)SA、b(ウシ)Casein、マウス由来のm(マウス)S100A10、mSA、mMapk1等の蛋白質、ペプチドが例示され、更に本発明は、従来抗体を得るために用いることができない、低分子化合物(ローダミン等の蛍光物質、FITC)を利用可能とする。
本発明は、体外での目的に応じた刺激物質の導入による抗体産生細胞に分化誘導する工程により、低分子抗原の利用が可能になるほか、クラススイッチによる好ましい抗体、親和性成熟による抗体が得られる免疫細胞を得ることができる場合がある。
【0013】
血液細胞から得られる遺伝子に対し、目的とする所定の抗体遺伝子を所定の抗体用のプライマーを導入しPCR(polymerase chain reaction)法により増幅して量的分離を可能とすると共に更に大腸菌、ヒト関連細胞等の宿主細胞により、好ましくはコロニー化させて抗体を得るステップを組み合わせることで、親和性があるヒト抗体を数多く短時間で作製可能としたものである。
宿主細胞としては、大腸菌の他、ストレプトマイセス、枯草菌、酵母、CHO細胞、COS細胞、HEK293細胞、HeLa細胞、等が例示される。
又、本発明では、HepG−2細胞、RPMI8226、HS−スルタン、HeLa細胞、HEK293細胞のようなヒト胎児腎細胞をアデノウィルスのE1遺伝子によりトランスフォーメーションした細胞株や、HEK293T細胞、HEK293S細胞、HEK293EBNA細胞、その他のヒト関連の細胞を宿主細胞として用いてもよく、より親和性が高い抗体の発現が促されるなど好ましい抗体医薬の態様となる場合がある。
【0014】
発現ベクターとしては、宿主細胞で発現されるものであれば良いが、例えば、細菌プラスミド由来、酵母プラスミド由来、染色体、エピソーム、ウィルス由来、レトロウィルス由来のベクターが例示される。ここで、ベクターとは、当業者に周知であって、投与対象となる動物細胞内で組み込まれたDNAから、ポリペプチドを発現するように適切なプロモーターを有していれば特に制限はされず、pcDNA3発現ベクターやpMX発現ベクターが例示される。
本発明における抗体の選別方法としては、例えば、Phageや大腸菌・酵母・動物細胞の表面に抗体を表示させる方法、酵母、大腸菌等を用いる2−ハイブリッド法、IVV法、ribosomeデイスプレイ法のようなDNAやmRNAに提示させる方法、表面プラズモン共鳴を利用したBIACORE法、ELISA法、ウェスタンブロット法、磁気ビーズに抗体もしくは高原を固定化し、磁力を用いた選別(MACS)方法等が例示されるが、タンパク質間相互作用を調べ得る手法であれば、特に限定されるものではない。
【0015】
本発明は、上述した様に特異性及び親和性の高いヒト抗体が製造できる体外免疫法及びこの体外免疫法を導入した抗体作製方法を可能とする。
本発明における体外免疫で用いられる血清の濃度は、例えば、5% 〜 60% (好ましくは20% 〜 50%) の範囲が示される。
【0016】
刺激物質は、上述したものが示されるが、更に特異性及び親和性を備えた抗体を得るためのものとしては、IL-4(5ng/mL〜40ng/mL)、IL-6(5ng/mL〜40ng/mL)、IL-10(5ng/mL〜40ng/mL)、IL-13(5ng/mL〜40ng/mL)、IL-21(5ng/mL〜40ng/mL)、 BAFF(5ng/mL〜40ng/mL)、anti-CD40抗体(50ng/mL〜5μg/mL)、LPS(20〜80μg/mLが例示される。これらの刺激物質を全て組み合わせたものがより好ましい。
体外免疫で一般的に用いられるLPSは、インターロイキン等の他の刺激物質と異なり、作用が複数存在していることからLPSを使用することで刺激物質の種類を少なくすることができ、生産コストを抑えることが出来るが、血液細胞の体外免疫でのLPSの利用は、その他の培養液の成分によっては、免疫効率が低くなる場合もあるが、ヒト抗体を得る工程との組み合わせにおいて、全体として合理的なscFv型のヒト抗体が得られれば本発明に含まれる場合もある。
本発明では、LPSを体外免疫の際の培養液成分を所定の濃度のヒト血清、抗原及び刺激物質と組み合わせることで結果として特異性及び親和性の高いヒト抗体の製造を可能としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、末梢血の血液細胞を分離不要で使用可能であり、遺伝子工学的な手法による抗体を作製することで迅速で医薬に適したヒト抗体の生産・取得を可能とする。
更に本発明は、特異性及び親和性の高いヒト抗体が得られる体外免疫法を実現し、ヒト抗体を製造する方法の他、抗体医薬全般を見据えた手法と成り得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施例を説明する為の図面代用写真である。
【図2】本発明の一実施例を説明する為の図面代用写真である。
【図3】本発明の一実施例を説明する為の図面代用写真である。
【図4】本発明の一実施例を説明する為の図面代用写真である。
【図5】本発明の一実施例を説明する為の図面代用写真である。
【図6】本発明の一実施例を説明する為の図である。
【図7】本発明の一実施例を説明する為の図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、免疫担当細胞を分離することなくヒト末梢血等から得られた血液細胞に体外免疫を行い、その後、所定の抗体によるPCR処理を施して量的に分離可能な状態とすることで抗体遺伝子を得る。
又、ヒト末梢血から採取された血液細胞に対し、LPSを含む刺激物質と、抗原及びヒト血清による体外免疫を行うことで、より特異性や親和性の高いヒト抗体を得る。
この抗体遺伝子から更にPCR法によりH鎖、L鎖の遺伝子を取得、宿主細胞で発現できるように一本鎖抗体scFvに改変してプラスミド化した後、宿主細胞内で発現させて抗体を得るものであれば、抗原については、特定するものではない。
【実施例1】
【0020】
以下、本発明の実施例について、ニワトリ卵白リゾチーム タンパク質を抗原例として用い、一本鎖抗体の作製方法について詳細に説明する。

末梢血単核細胞(peripheral blood mononuclear cell, PBMC)の調製
PBMC(VERITAS社)を購入し、凍結サンプルとして入手した。これをメーカー推奨プロトコールに従い、溶解・回復を行った。免疫に先立ち、細胞は無血清培地で洗浄し、1×107 cells / mLになるように無血清培地で再懸濁した。
【0021】
体外免疫
Hen egg Lysozyme (SIGMA社)をPBS(-)にて1nmol/μLに調製した。0.22μmのフィルターを用いてろ過滅菌を行い、抗原として体外免疫に使用した。15mLの遠沈管に1nmolのHELと、アジュバントとして、N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミン10mg/mL を5μL加えた。ここに、PBMCを1.5×107 cells添加し、室温で15分間感作させた。ここに刺激物質(IL-4 (終濃度10ng/mL)、IL-13 (終濃度10ng/mL)、anti-CD40抗体 (終濃度1μg/mL)、LPS(終濃度40μg/mL))を添加し、次に40% FBS含有RPMI1640培地を3.5mL添加し、5%CO2・37℃で2日間培養した。培養後、IL-21 (終濃度10ng/mL)を添加し、さらに3日間培養した。培養後の細胞を顕微鏡観察し、免疫によって発生すると考えられている細胞塊の発生、細胞の幼若化に伴う細胞サイズの増大を観察した。(図1)
図1では、免疫前後の細胞の顕微鏡画像。免疫によって発生すると考えられている細胞塊の発生、細胞の幼若化に伴う細胞サイズの増大が観察された。
【0022】
DNA抽出、一本鎖抗体scFvプラスミドの作製
免疫後の細胞2.5×106 cellsより、Isogen (ニッポンジーン社製)を用いてTotal RNA を取得した。取得したTotal RNA をテンプレートとして、Quantitect Reverse Transcription Kit (QIAGEN社製)試薬を用いて、一本鎖cDNAを合成した。調製したcDNAをテンプレートとしてプライマーVH forward primer mix/VH reverse primer mix 若しくは VL forward primer mix/VL reverse primer mixを用いて、PrimeSTAR HS Polymerase (TaKaRa社製)により、1st PCR を実施した。使用したプライマー配列は、Antibody Engineering Methods and protocols (pp.120-121)に紹介されているものを利用した。その後、2% Agarose Gel 電気泳動により確認した。(図2)
1st PCR後の2% Agarose Gel 電気泳動画像。VH遺伝子(約400bp)およびVL遺伝子(約350bp)の増幅が確認された。
【0023】
電気泳動後のアガロースゲルから目的の約400bpのバンドを切り取り、QIAquick Gel Extraction kit (QIAGEN社製)を用いてVH 遺伝子, VL 遺伝子を抽出・精製した。そのVH 遺伝子, VL 遺伝子を各200ng用いて、PrimeSTAR HS Polymerase (TaKaRa社製)により、プライマーを添加せず、Link PCR を実施し、scFv遺伝子を構築した。その後、1.8% Agarose Gel 電気泳動により確認した。(図3)
Link PCR後の1.6% Agarose Gel 電気泳動画像。scFv遺伝子(約800bp)の構築が確認された。
【0024】
電気泳動後のアガロースゲルから目的の約800bpのバンドを切り取り、QIAquick Gel Extraction kit (QIAGEN社製)を用いてscFv 遺伝子を抽出・精製した。そのscFv遺伝子10ngをテンプレートとして2nd PCR Primer Premix を用いて、PrimeSTAR HS Polymerase (TaKaRa社製)により、2nd PCR を実施した。使用したプライマー配列は、Antibody Engineering Methods and protocols (pp.121-122)に紹介されているものを利用した。その後、1.6% Agarose Gel 電気泳動により確認した。 (図4)
2nd PCR後の1.6% Agarose Gel 電気泳動画像。scFv遺伝子(約800bp)の構築が確認された。
【0025】
scFv PCR産物を、制限酵素 EcoRIおよびHindIIIと37℃で2時間反応させて分解し、電気泳動後のアガロースゲルから目的のバンドを切り取り、QIAquick Gel Extraction kit (QIAGEN社製)を用いてscFv 遺伝子を抽出・精製した。同様にプラスミドベクターpMAL-c2Eを制限酵素 EcoRI、HindIIIおよびCIAPと37℃で1時間反応させて分解し、電気泳動後のアガロースゲルから目的のバンドを切り取り、QIAquick Gel Extraction kit (QIAGEN社製)を用いてプラスミドベクター遺伝子を抽出・精製した。これらをプラスミドベクター遺伝子1molに対しscFv遺伝子10 mol の割合で混合し、DNA Ligation kit <Mighty Mix> (TaKaRa社製)を用いてライゲーションした。ライゲーション溶液10μLを大腸菌 JM109株のコンピテントセル100μLと混合し、大腸菌JM109株を形質転換した。この形質転換体を100μg/mL のアンピシリンを含むLB寒天培地に塗布し、37℃で18時間培養した。
形成したコロニーを、scFv遺伝子の連結したプラスミドを持つ大腸菌クローンをセレクションするために、コロニーPCR法を実施し、1.6% Agarose Gel 電気泳動により確認した。(図5)
コロニーPCR後の1.6% Agarose Gel 電気泳動画像例。scFv遺伝子(約800bp)の連結したプラスミドを持つ大腸菌クローンが確認できた。
【0026】
大腸菌による一本鎖抗体scFvの発現
形成したコロニーを、画線培養した後、500μLの100μg/mL のアンピシリンとOvernight Express Auto induction system (Novagen社)を含むLB液体培地により30℃で18時間培養した。遠心分離により培地を交換し、500μLの100μg/mL のアンピシリンとOvernight Express Auto induction system (Novagen社)と1mM IPTGを含むLB液体培地に懸濁し、30℃で3時間培養した。培養終了後、遠心分離(2000rpm、15min 、4℃)により大腸菌菌体を回収した。ここに、ガラスビーズを添加し、1300rpm、20min、15℃で振とうすることにより大腸菌を破砕した。遠心分離(2500rpm、15min、4℃)により未破砕菌体やガラスビーズを沈殿させ、scFvを含む培養上清を得た。
【0027】
ELISA Plateの調製
HEL抗原をPBS(-)にて20μg/mLに希釈し、50μLずつ 96well plate(Nunc-Immuno module F8 maxisoap, Nunc社製)に添加した。これを4℃で1日間静置した後、上清を捨て、Protein Free (PBS) Blocking Buffer (Thermo Fisher Scientific社)を400μLずつ添加した。室温で2時間静置したのち、PBS(−)で 3 回洗浄し、HEL ELISA Plateを調製した。同様にBSA、anti-FLAG抗体を固相化したプレートも作製した。
【0028】
ELISA
Anti-FLAG抗体 ELISA Plate に上記大腸菌による一本鎖抗体scFvの発現の項で取得した50μL の培養上清 を加え、37℃インキュベーターにて1時間静置した。上清を捨て、
PBS(−)で 4 回洗浄し、PBS(−)で2000倍に希釈した二次抗体(anti-MBP-HRP、NEB社製)を50μL添加し、37℃インキュベーターにて1時間静置した。上清を捨て、PBS(−)で 4 回洗浄し、100μLのTMB溶液を添加し、室温にて10分間静置した。その後直ちに1N HCl (和光純薬社製)を100μL添加に、反応を止めた。その後、各ウェルの450nmの吸光度をマイクロプレートリーダー(Model 550 , Bio-rad社製)にて測定した。
【0029】
本実施例によれば、体外免疫法によって、10日間で抗原特異的なヒト抗体を取得することが出来た。従来はファージディスプレイ法等を用いている為、数週間を要しているが、短期間で取得することが出来た。本法を用いることによって、免疫して得たヒト抗体を取得することが容易となる。
【実施例2】
【0030】
次に本発明の他の実施例について、ヒト S100A10タンパク質を抗原例として用い、ヒト末梢血単核球に対して特定の刺激物質、抗原、ヒト血清成分を含む培養液を用いて体外免疫を行うことで、免疫効率を下げず、且つ高効率に体細胞変異の導入された、特異性及び親和性の高い抗ヒトタンパク質一本鎖ヒト抗体を作製する方法について詳細に説明する。
【0031】
ヒト末梢血単核細胞(peripheral blood mononuclear cell, PBMC)の調製
ヒトPBMC(VERITAS社)を購入し、凍結サンプルとして入手した。これをメーカー推奨プロトコールに従い、溶解・回復を行った。免疫に先立ち、細胞は無血清培地で洗浄し、1×107 cells / mLになるように無血清培地で再懸濁した。
【0032】
体外免疫
ヒトS100A10 (hS100A10)タンパク質をPBS(-)にて1nmol/μLに調製した。0.22μmのフィルターを用いてろ過滅菌を行い、抗原として体外免疫に使用した。15mLの遠沈管に5 nmolのhS100A10と、アジュバントとして、N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミン10mg/mL を5μL加えた。ここに、PBMCを1.5×107 cells添加し、室温で15分間感作させた。ここに刺激物質(IL-4 (終濃度10ng/mL)、IL-6 (終濃度10ng/mL)、IL-10 (終濃度10ng/mL)、BAFF (終濃度10ng/mL)、IL-13 (終濃度10ng/mL)、anti-CD40抗体 (終濃度1μg/mL)、LPS (40μg/mL))を添加し、次に40% ヒト血清含有RPMI1640培地を4mL添加し、5%CO2・37℃で3日間培養した。培養後、IL-21 (終濃度10ng/mL)を添加し、さらに4日間培養した。
【0033】
DNA抽出、一本鎖抗体scFvプラスミドの作製
免疫後の細胞6.8×106 cells、および免疫せずに同日数培養した細胞1.2×106 cells からそれぞれIsogen (ニッポンジーン社製)を用いてTotal RNA を取得した。取得したTotal RNA をテンプレートとして、Quantitect Reverse Transcription Kit (QIAGEN社製)試薬を用いて、一本鎖cDNAを合成した。調製したcDNAをテンプレートとしてプライマーVH forward primer mix/VH reverse primer mix 若しくは VL forward primer mix/VL reverse primer mixを用いて、PrimeSTAR HS Polymerase (TaKaRa社製)により、1st PCR を実施した。使用したプライマー配列は、Antibody Engineering Methods and protocols (pp.120-121)に紹介されているものを利用した。
【0034】
電気泳動後のアガロースゲルから目的の約400bpのバンドを切り取り、QIAquick Gel Extraction kit (QIAGEN社製)を用いてVH 遺伝子, VL 遺伝子を抽出・精製した。そのVH 遺伝子, VL 遺伝子を各500ng用いて、PrimeSTAR HS Polymerase (TaKaRa社製)により、プライマーを添加せず、Link PCR を実施し、scFv遺伝子を構築した。
電気泳動後のアガロースゲルから目的の約800bpのバンドを切り取り、QIAquick Gel Extraction kit (QIAGEN社製)を用いてscFv 遺伝子を抽出・精製した。
【0035】
そのscFv遺伝子10ngをテンプレートとして2nd PCR Primer Premix を用いて、PrimeSTAR HS Polymerase (TaKaRa社製)により、2nd PCR を実施した。使用したプライマー配列は、Antibody Engineering Methods and protocols (pp.121-122)に紹介されているものを利用した。
scFv PCR産物を、制限酵素 EcoRIおよびHindIIIと37℃で2時間反応させて分解し、電気泳動後のアガロースゲルから目的のバンドを切り取り、QIAquick Gel Extraction kit (QIAGEN社製)を用いてscFv 遺伝子を抽出・精製した。同様にプラスミドベクターpMAL-c2Eを制限酵素 EcoRI、HindIIIおよびCIAPと37℃で1時間反応させて分解し、電気泳動後のアガロースゲルから目的のバンドを切り取り、QIAquick Gel Extraction kit (QIAGEN社製)を用いてプラスミドベクター遺伝子を抽出・精製した。
【0036】
これらをプラスミドベクター遺伝子1molに対しscFv遺伝子10 mol の割合で混合し、DNA Ligation kit <Mighty Mix> (TaKaRa社製)を用いてライゲーションした。ライゲーション溶液10μLを大腸菌 JM109株のコンピテントセル100μLと混合し、大腸菌JM109株を形質転換した。この形質転換体を100μg/mL のアンピシリンを含むLB寒天培地に塗布し、37℃で18時間培養した。
形成したコロニーを、scFv遺伝子の連結したプラスミドを持つ大腸菌クローンをセレクションするために、コロニーPCR法を実施した。
【0037】
大腸菌による一本鎖抗体scFvの発現
形成したコロニーを、未免疫PBMC由来scFvライブラリから64クローン、免疫後PBMC由来ライブラリからランダムに40クローンずつを画線培養した後、500μLの100μg/mL のアンピシリンとOvernight Express Auto induction system (Novagen社)を含むLB液体培地により30℃で18時間培養した。遠心分離により培地を交換し、500μLの100μg/mL のアンピシリンとOvernight Express Auto induction system (Novagen社)と1mM IPTGを含むLB液体培地に懸濁し、30℃で3時間培養した。培養終了後、遠心分離(2000rpm、15min 、4℃)により大腸菌菌体を回収した。ここに、ガラスビーズを添加し、1300rpm、20min、15℃で振とうすることにより大腸菌を破砕した。遠心分離(2500rpm、15min、4℃)により未破砕菌体やガラスビーズを沈殿させ、scFvを含む培養上清を得た。
【0038】
ELISA Plateの調製
hS100A10抗原をPBS(-)にて20μg/mLに希釈し、50μLずつ 96well plate(Nunc-Immuno module F8 maxisoap, Nunc社製)に添加した。これを4℃で一晩静置した後、上清を捨て、Protein Free (PBS) Blocking Buffer (Thermo Fisher Scientific社)を400μLずつ添加した。室温で2時間静置したのち、PBS(−)で 3 回洗浄し、hS100A10 ELISAプレートを調製した。同様にネガティブコントロールとしてHen Egg Lysozyme (HEL)、濃度定量用にanti-FLAG抗体を固相化したプレートも作製した。
【0039】
ELISAによるスクリーニング
Anti-FLAG抗体 ELISA Plate に上記大腸菌による一本鎖抗体scFvの発現の項で取得した50μL の培養上清 を加え、37℃インキュベーターにて1時間静置した。上清を捨て、PBS(−)で 4 回洗浄し、PBS(−)で2000倍に希釈した二次抗体(anti-MBP-HRP、NEB社製)を50μL添加し、37℃インキュベーターにて1時間静置した。上清を捨て、PBS(−)で 4 回洗浄し、100μLのTMB溶液を添加し、室温にて10分間静置した。その後直ちに1N HCl (和光純薬社製)を100μL添加に、反応を止めた。その後、各ウェルの450nmの吸光度をマイクロプレートリーダー(Model 550 , Bio-rad社製)にて測定した。
同様に、精製し濃度定量済みのMBP-FLAG-hS100A10タンパク質を用いて検量線を作製し、これをもとに各クローンのscFv発現量を算出した。
【0040】
算出した濃度値をもとに、各クローン 2 pmol/wellになるように濃度調整し、hS100A10固層化プレートおよびHEL固層化プレートを用いたELISAを実施することで、抗原であるhS100A10への各クローンの親和性および特異性の評価を行った。
その結果、本法を用いた体外免疫を実施することによって、抗原に対して親和性および特異性を有したクローンが多数得られた。加えて、ライブラリに占める抗原陽性クローンの存在比率が大幅に上昇した。(図6)
図6は、ELISAによる、(±)体外免疫実施でのscFvライブラリの活性分布比較例を示すものであって、Y軸には抗原への親和性の指標となるhS100A10固層化プレートを用いた際の450nmの吸光度を、X軸には特異性の指標となるhS100A10固層化プレート対HEL固層化プレートの吸光度比を示した。
図6によれば、本実施例でしめす体外免疫を実施することで、抗原に対して親和性の高いクローン(高Absorbance)および特異性の高いクローン(高hS100A10/HEL比)を有したクローンを高い存在比率で取得することが出来た。
【0041】
DNAならびにアミノ酸配列解析
上記ELISAによるスクリーニングの結果得られた、抗原に対して反応性を有していたクローン(未免疫ライブラリclone No. n1〜n4、免疫後ライブラリclone No. i1〜i4)について、DNAシーケンス解析を行った。
その結果、本法を用いた体外免疫を実施することにより、効率的に体細胞変異が誘導されていることが確認できた。(図7)
図7は、図6中でナンバリングしたクローン(n1〜n4、およびi1〜i4)のDNA配列解析結果に対し、IgBLAST解析を行い、各領域(FWR1、CDR1,FWR2、CDR2、FWR3)について、各scFvクローンの由来となるGermline V gene(データベース)と、これと比較した際のミスマッチ塩基数、およびアミノ酸変異数(図中括弧内に記す)を示した。 図7によれば、免疫せずに同日数培養した場合では体細胞変異は蓄積されておらず、本法を用いた体外免疫を実施することによってDNAレベルにおいてもアミノ酸レベルにおいても高効率に体細胞変異が誘導されていることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、抗原抗体反応に基づいた疾病の治療に利用する、特異性及び親和性の高いヒト抗体の作製をヒト末梢血の血液細胞から短期間に大量におこなえることから、抗体医薬分野の拡大を促し得る。また、特異性及び親和性の高いヒト抗体を短期間に取得できることから、疾病の治療に限らず診断や免疫学的マーカー検査分野の分野の拡大を促し得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト血液細胞を抗原、刺激物質及びヒト血清を含む培養液中で免役する体外免疫方法。
【請求項2】
前記血清濃度が5%〜60%で好ましくは、20%〜50%である請求項1に記載の体外免疫方法。
【請求項3】
前記刺激物質がB細胞増殖活性化因子、体細胞変異誘導因子及びクラススイッチ誘導因子よりなる請求項1に記載の体外免疫方法。
【請求項4】
前記体細胞変異誘導因子がIL-21、LPS(Lipopolysaccharide)、前記B細胞増殖活性化因子がIL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-6、IL-7、IL-10、IL-11、IL-13、IL-21、IL-22、BAFF(B cell Activating Factor)、CD30 Ligand、anti-CD30抗体、CD40 Ligand、anti-CD40抗体、INF-γ(Interferon-gamma)、Fas Ligand、LPS、前記クラススイッチ誘導因子がIL-4、IL-5、IL-6、IL-13、INF-γ、TGF-β(Transforming Growth Factor - beta)、BAFF、APRIL(A Proliferation-Inducing Ligand)であり、これら因子から1乃至複数選ばれてなる請求項3に記載の体外免疫方法。
【請求項5】
前記体外免疫方法で得られた免疫細胞を含む細胞から遺伝子を分離し、分離した遺伝子に所定の抗体用プライマーを用いてPCR処理を行うステップ、前記PCR処理後の遺伝子に対し量的な分離により抗体遺伝子を選別する量的分離ステップを含む抗体作製方法。
【請求項6】
前記抗体遺伝子から一本鎖抗体を形成するステップ、当該一本鎖抗体を宿主細胞で培養するステップを更に有する請求項5に記載の抗体作製方法。
【請求項7】
前記血液細胞が、末梢血からえられた単核細胞である請求項1及び5に記載の抗体作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−29685(P2012−29685A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139752(P2011−139752)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(000126757)株式会社アドバンス (60)
【Fターム(参考)】