説明

体細胞の遺伝的改変とそれらの使用

【課題】核移植により完全な動物を作製するために最適に使用可能な、改変された細胞の作製に利用できる方法を提供する。
【解決手段】遺伝子ターゲッティング事象によって体細胞の遺伝物質を改変することを含む、核移植のための体細胞を作製する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遺伝子改変された動物の作製を記述するものであり、ここでは遺伝子ターゲッティングを使用して、in vitroで培養された体細胞において遺伝子改変が行われる。次いで、遺伝子改変された細胞は、特に、生きた動物を作製するための核ドナーとして使用される。
また、ここに記載する方法を使用して、細胞への導入遺伝子付加に適した動物染色体の遺伝子座を確認することができる。この方法は、自家移植用の細胞のような、予期しない有害な影響のないことが必要とされる細胞のために特に有用である。
【背景技術】
【0002】
核移植の技術は、初期胚の再構築による子孫の生産を可能にする。ドナー細胞または核体由来の遺伝物質を、核またはゲノム遺伝物質が除去された適切なレシピエント細胞に導入する。この技術の最初の実験では、ドナー遺伝物質を初期胚の卵割球から採取したときにのみ発生に成功した。その後、培養で維持された分化した細胞からのドナー遺伝物質、並びに胚(Campbel et al., Nature 380, 64-66, 1996)、胎児および成体組織(Wilmut et al, Nature 385, 810-813, 1997)から単離された遺伝物質を使用して発生が得られた。これらの報告は、特許出願WO97/07669およびWO97/07668の基礎を成しており、また、これら出願は表および図を含む全ての内容が本明細書の一部として本願に援用される。
核移植の方法は、公開された特許出願WO98/39416、WO98/30683、WO98/07841、WO98/3700、WO98/27214、WO99/01163、およびWO99/01164に記載されている。
【0003】
マウスにおいて、ex vivoで直接誘導された静止期の細胞集団を核ドナーとして使用することにより、生きた子孫が得られている(Wakayama et al., Nature 394, 369-373,1998)。また分化した細胞を使用した成功例が、ヒツジ(Wilmut et al., Nature 385, 810-813, 1997)、ウシ(Kato et al., Science 282, 2095-2098,1998; Wells, et al., Theriogenology 1, 217, 1999)およびマウス(Wakayama et al., Nature 394, 369-373)でも示されている。
上記全ての参照文献において、核ドナー細胞およびレシピエント細胞は同じ種から取られている。しかし、異なる種からの核ドナーおよびレシピエント細胞を用いて再構築された胚から、発生を達成するのに成功した例が報告されている(Dominko et al., Theriogenology 49, 385, 1998; Mitalipova, et al., Theriogenology 49, 389,1998)。
【0004】
核移植技術の使用は、多くの立証された利益および潜在的な利益を有し、また哺乳類の胚、胎児および子孫の生産における用途を有している。かかる利益には下記のものが含まれるが、これらに限定されるものではない。
1.胚の再構成の前に、核ドナーとして使用する培養された細胞の遺伝子改変を行う能力。
2.培養中の細胞集団に対する複数の遺伝子改変によって、或いは遺伝子改変、核移植、並びに胚、胎児もしくは生産された動物からの細胞集団の単離を連続的に行うことによって、単一動物において複数の遺伝子改変を行う能力。
3.核移植、およびこうして生産された胚、胎児もしくは生体動物からの細胞集団の再単離によって、遺伝子改変に使用する培養された細胞集団の寿命を延長する能力。
4.遺伝子改変され、選別され、クローン化された細胞集団から、動物の複数のコピーを生産する能力。
【0005】
5.ex vivoで直接採取された細胞、またはin vitroでの培養を伴うかまたは伴わわずに、これら何れかの段階から採取された何れかの組織に由来する細胞集団からの核移植によって、胚、胎児もしくは生体動物の複数のコピーを生産する能力。
6.細胞ドナーの母系株からの卵母細胞を利用することにより、真正クローン(核の遺伝的同一性だけでなく、ミトコンドリアの遺伝的同一性をも有する)を生産する能力。
7.完全なゲノムを長期にわたって保存し(例えば細胞集団を液体N2中で凍結することによる)、その後、核移植による子孫の産生のためにこれら保存細胞を使用する能力。
8.体細胞核を分化させ、また胚凝集または注入により、キメラ胚、胎児、および成体動物を生産するために使用し得る未分化細胞を作製する能力。
9.核移植により何れかの体細胞を分化させ、こうして生産された胚から、胚性幹細胞、または他の望ましい特殊化されまたは特殊化されない細胞タイプ、例えばニューロンを単離する能力。
10.異なる種に由来する核ドナー細胞およびレシピエント細胞を使用して、上記の1〜9で概説した何れかの目的を達成する可能性。
【0006】
このプロセスは、遺伝子操作技術と組合せて、遺伝子導入子孫を生産することができる(Schnieke et al., Science 278, 2130-2133, 1997)。培養細胞の遺伝子改変と組合せた核移植および動物生産前のそれらの選別は、証明された多くの利点を有しており、その中には下記のものが含まれる。
1.遺伝子改変の生殖系伝達を保証する、非モザイク動物の生産(Schnieke, et al., Supra)。
2.このような遺伝子改変された動物の生産における増大した効率(Schnieke, et al., Supra)。
3.子孫の複数のコピーを作製することにより、商業的に重要な動物群の世代間隔を減少させ、またはポピュレーション全体に遺伝子改変を広げるための動物の数を増大させる(Cibelli, et al., Nat. Biotechnol. 16, 642-6, 1998)。
【0007】
培養細胞の遺伝子改変と組合せた核移植技術は、宿主ゲノム内の非選択的遺伝子座に導入遺伝子が組込まれた、単一または複数の遺伝子改変を含んだ動物を提供する。しかし、宿主ゲノムの正確且つ予め定められた位置における操作された所望の遺伝子改変(遺伝子ターゲッティング)を含む培養細胞の作製は、以前には、ES細胞を使用したマウスについての技術において記述されているに過ぎず、またこの公表された方法は核移植技術を含んでいない。他の動物では、これに等しい方法は存在しない。このような改変は、ウシ、ヒツジ、ヤギ、馬、ラクダ、ウサギおよび齧歯類を含む種々の動物種に適用するときに多くの利点を有するであろう。このような利点には下記のものが含まれるが、これらに限定されない。
1.所定の部位に導入遺伝子を配置することによる、導入遺伝子発現の優れたトランスジェニック動物の作製。
2.選択された一つまたは複数の内在性遺伝子および/またはその制御配列の除去、改変、不活性化または置換。
3.このような改変が、得られる動物に対して、例えば内在性遺伝子の破壊、発癌遺伝子の活性化などに起因し得る予期しない有害な効果を持たないことが分かれば、特に、当該部位が前記遺伝子座に配置された導入遺伝子の良好な発現を与えるとき、これは、遺伝子改変のための好ましい部位としての選択された遺伝子座の本質的な確認になるであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本特許明細書の目的はこの状況を改善することであり、核移植により完全な動物を作製するために最適に使用可能な、改変された細胞の作製に利用できる方法を始めて記述することである。これらの方法(および他の方法)は、ex vivo遺伝子療法の一部として、特定の染色体遺伝子座を、導入遺伝子付加のための好ましい標的として同定するためにも使用できる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、遺伝子ターゲッティング事象によって体細胞の遺伝物質を改変することを含む、核移植のための体細胞を作製する方法である。
本発明は、(本発明の第一の側面において記載した)核移植のための体細胞を調製する方法と、および該体細胞からレシピエント細胞への遺伝物質の導入を含む方法とを具備した、核移植の方法でもある。
本発明は、本発明の第一の側面に従う方法によって得られる、核移植に適したトランスジェニック体細胞でもある。
本発明は、本発明の第二の側面に従う方法によって得られるトランスジェニック胚または胎児でもある。
本発明は、動物を本発明の第四の側面に従う胚または胎児から出産日まで発生させることを含む、トランスジェニック動物を作製する方法でもある。
本発明は、本発明の第五の側面に従うトランスジェニック動物またはその子孫でもある。
本発明は、クローン性の多能性または全能性細胞(クローン性の多能性または全能性細胞集団を含む)を得るための方法でもあって、トランスジェニック胚またはトランスジェニック胎児、またはこのような胚または胎児から発生した成体から得たの細胞を、本発明の第四の側面に従って培養することを含む。
本発明は、上記方法によってえられた、多能性または全能性のクローン性細胞または細胞集団でもある。
本発明は、体細胞の遺伝物質を、該細胞の全能性を維持しながら改変する方法でもある。
本発明は、遺伝子ターゲッティング事象に先立つ、遺伝子発現の人工的誘導またはクロマチン変化の誘導の使用でもある。
本発明は、遺伝子ターゲッティングの位置による遺伝子変化を試験するための、遺伝子ターゲッティング事象後の細胞から得られた動物の使用でもある。
本発明は、ターゲッティング遺伝子療法のための遺伝子座を確認する方法であって、
−選択されたタイプの細胞を得ることと;
−選択された遺伝子座に望ましい遺伝子変化を導入することと;
−ターゲッティングされる細胞のクローン性ポピュレーションを増殖させることと;
−動物の生産によって、前記遺伝子変化が許容可能であることを立証することを含む方法でもある。
本発明は、上記方法によって同定可能な、確認された遺伝子座でもある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、COLT-1遺伝子ターゲッティングベクターの構造およびターゲッティングされたヒツジCOLIA1遺伝子座を示す図である。 上段の部分は、ヒツジCOLIA1遺伝子座に対して相同性の5'および3'領域、IRESneo領域および指示したバクテリアプラスミドを含むCOLT-1ベクターの図を示している。 ヒツジCOLIA1遺伝子座における二重交叉(中段)は、図の下段に示したようなターゲッティングされた遺伝子座の構造を生じる。COLT-1ベクターと標的遺伝子座との間の組換えが生じる正確な部位を決定することはできないが、COLT-1ベクター対して相同的な標的遺伝子座の領域が暗い影線で示されている。
【図2−1】図2−1は、ヒツジCOLIA1遺伝子座における遺伝子ターゲッティング事象を同定するために使用したPCRスクリーニング戦略を示す図である。 上段部分は、COLT-1ベクターに特有の領域からCOLIA1遺伝子座に独特の領域までの3.4断片を増幅するのに使用した、二つのプライマーの概略位置を示している。 配列Aは、COLIA1遺伝子座に独特の領域と、COLT-1ベクターとの相同性を共有する5'領域との間の接合部に広がるDNA配列の一部を示している。
【図2−2】図2−2は、ヒツジCOLIA1遺伝子座における遺伝子ターゲッティング事象を同定するために使用したPCRスクリーニング戦略を示す図である。 配列Bは、IRESneo遺伝子と前記相同性を共有する5'領域との間の接合部に広がるDNA配列の一部を示している。COLTPCR8プライマーの位置および配向性が示されている。
【図3】図3は、COLT-1でトランスフェクションされたG418耐性PDFF-2細胞クローンから増幅されたPCR断片の寒天ゲル電気泳動を示す図である。細胞クローン1,2,6、12、13,14および26からのサンプルを含むレーンを示した。増幅された特徴的な3.4kbの位置を矢印で示した。
【図4】図4は、三つの独立に誘導されたターゲッティングされた細胞クローンにおける、ターゲッティングされたヒツジCOLIA1遺伝子座の5'接合部の配列分析を示す図である。 上段部分は、線形化したCOLT-1遺伝子ターゲッティングベクターの5'末端の配列を示している。クローニングベクター由来の末端配列が示されている。 中段部分は、ターゲッティングされた細胞クローン6、13および14の夫々から増幅された、COLIA1遺伝子座に特有の領域と、COLT-1ベクターとの相同性を共有する5'領域との間の接合部に広がる、特徴的3.4 kb断片の配列の一部を示している。 下段部分は、同じ領域を覆うPDFF2 COLIA1遺伝子座の配列を示している。
【図5】図5は、COLT-2導入遺伝子配置ベクターの構築を示す図である。 図の上段部分は、COLT-1ベクターに挿入されたBLG駆動のAAT導入遺伝子の構造を示している。中段部分は、COLT-1ベクターと、AATC2導入遺伝子が挿入された点を示している。図の下段部分は、COLT-2ベクターの構造を示している。各構築物の機能的領域は、指示したとおりのパターンおよび陰影により識別される。
【図6】図6は、COLIA1遺伝子ターゲッティングされた子ヒツジのサザン分析を示している。 キーに示されているレーンは、COLT-1(PDCOL6)およびCOLT-2(PDCAAT90)によってターゲッティングされた細胞クローンからの核移植により誘導された子ヒツジ由来のゲノムDNA、正常子ヒツジ、細胞クローンPDCAAT90および形質導入されないPDFF2細胞に由来する対照DNAサンプルを含んでいる。ターゲッティングされていないCOLIA1遺伝子座由来の7 kb断片、およびターゲッティングされたCOLIA1遺伝子座由来の4.73 kb断片の位置が矢印で示されている。
【図7】図7は、ヒツジCOLIA1遺伝子座およびCOLT-1および2ターゲッティングベクターの構造、並びにCOLT-1および2でターゲッティングされた遺伝子座の構造が示されている。 COLIA1遺伝子座の図は、翻訳停止部位およびポリアデニル化部位の位置を示しており、またCOLIA1転写の方向が矢印で示されている。星印は、ターゲッティングされた遺伝子挿入が行われたSspI制限部位の位置を示している。図6および図8のサザン分析に使用したCOLIA1プローブの位置が示されている。 IRESneoセットが陰影を付したボックスで示されており、バクテリアベクターpSL1180は白抜きのボックスで示され、BLG駆動AAT導入遺伝子は縞を付したボックスで示されている。ターゲッティングされた遺伝子座の図は、COLIA1/IRESneoの二シストロンメッセージの方向および予想範囲を示しており、またAATメッセージが矢印で示されている。 図の縮尺は、2 kbの縮尺バーで指示されている。図示の制限酵素部位は、K、KpnI;A、AspI;Sc、SacII;S、SaII;B、BamHIである。
【図8】図8は、COLT-2で形質導入された(PDCA-AT)細胞クローンのサザン分析を示している。 各細胞クローンの同定は、各レーンの上に示されている。PCRによる陽性信号を与える細胞クローンが示されている。また、トランスフェクションされていないPDFF-2細胞も含まれている。ターゲッティングされていないCOLIA1遺伝子座由来の7kb断片の位置、およびターゲッティングされたCOLIA1遺伝子座由来の4.73 kb断片の位置が矢印で示されている。
【図9】図9は、PDCAAT細胞クローン81および90、並びにターゲッティングされていないPDFF-2細胞に由来する全RNAのノーザン分析を示している。 各RNAサンプルの供給源は、各レーンの上に示されている。左上のオートラジオグラフは、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(neo)プローブに対するハイブリダイゼーションを示し、右上のオートラジオグラフは、COLIA1プローブに対するハイブリダイゼーションを示している。下の二つのパネルは、マウスβアクチンプローブに対するハイブリダイゼーションを示している。28Sおよび18SのリボゾームRNAのバンドが示されている。
【図10】図10は、培養中の初代ヒツジ乳腺上皮細胞(POME)細胞のノーザン分析を示している。 POME細胞を、ファイブロネクチン(FN)またはI型コラーゲンでコーティングされたディッシュの上で、合計4日間および9日間増殖させた。細胞は、増殖培地中で連続的に増殖させるか(誘導なし)、または回収前の最後の3日間は誘導培地中で増殖させた(誘導あり)。全RNAを抽出し、標準の手順を使用してノーザン分析にかけた。オートラジオグラフは、ヒツジβラクトグロブリン(BLG)プローブとのハイブリダイゼーションの結果を示している。夫々のRNAが各レーンの上に示されている。細胞を誘導した乳腺から調製された全RNAも示されている。ヒツジBLG mRNAのサイズおよび位置が矢印で示されている。
【図11】図11は、ヒツジβラクトグロブリン(BLG)遺伝子座およびBLAT-3ターゲッティングベクターの構造を示している。 BLG遺伝子座の図は、BLG翻訳開始部位(ATG)、停止部位およびポリアデニル化部位の位置、並びにBLGプロモータからの転写方向を示している。エクソンは黒塗りのボックスで示されている。ターゲッティングされた挿入が起きるように設計されているエクソン3をマークした。ターゲッティングされた遺伝子座からの断片をPCR増幅するために使用するプライマーの位置が示されている。ヒツジBLG遺伝子座に対して相同的な、BLAT-3ベクターの5'および3'領域がマークされている。IRESneoカセットは陰影を付したボックスで示されており、また、バクテリアベクターpBS(Bluescript)が白抜きのボックスで示されている。図の縮尺は2 kbの縮尺バーで示されている。
【図12】図12は、BLAT-3トランスフェクションされたG418抵抗性POME細胞クローンから増幅されたPCR断片のアガロースゲル電気泳動を示している。BLAT-3トランスフェクションされたPOME細胞クローン1〜16からのサンプルを含むレーンが示されている。BLAT-3でターゲッティングされたBLG遺伝子座の5'構造に模して構築したプラスミドから増幅された断片も含まれており、「陽性対照」としてマークされている。また、トランスフェクションされていないPOME細胞も示されている。2.375 kbの診断的断片の位置が矢印で示されている。
【図13】図13は、ブタα1,3GTプロモータトラップノックアウトベクターpPL501および502の概略マップである。ブタα1,3GTのゲノム構造は、Katayama et al.(Katayama, A et al., Glycoconjugate J. 15, 583-589, 1998)による報告に基づいている。この遺伝子はサイズが24 kbであり、6個のエクソンおよび5個のイントロンを含んでいる;開始コドンはエクソン4に位置している。
【図14】図14は、ブタα1,3GT遺伝子座における相同組換え事象を検出するためのPCRスクリーニング戦略の概略である。小さい矢印は、二つのPCRプライマーの位置を示している。サブクローニングした2.4 kbのPCR断片は、両端からシーケンシングした。
【図15】図15は、ブタα1,3GTターゲッティングされた細胞クローンから増幅されたPCR断片の、3'接合領域に亘る配列分析を示している。 上段部分は、3'相同性アームの3'末端または夫々における、円形遺伝子ターゲッティングベクターpPL501および502の一部の配列を示している。ブタα1,3GT遺伝子に対して相同的な3'領域とバクテリアプラスミド配列との間の接合が示されている。 下段部分は、ターゲッティングされた細胞クローンの4つから増幅された、1,3-GT遺伝子座に特有の領域と、1,3-GT遺伝子ターゲッティングベクターと相同性を共有する3'領域との間の接合に広がる、特徴的な2.65 kb断片の配列を示している。各遺伝子座に由来する配列が同定された。
【図16】図16は、BLGポリAトラップノックアウトベクターの概略マップである。5'相同組換えアームはBLGプロモータの10 kb断片である。3'相同組換えアームは、BLGエクソン2からイントロン3を含む1.9 kbの断片である。
【図17】図17は、BLGノックアウトクローンのPCRスクリーニングおよびDNAシーケンシングを示している。5'プライマーのNeo442sは、neo遺伝子の3'末端に位置する。3'プライマーのBLG3'1は、3'相同アームの3'末端のおよそ260bp 3'である。ターゲッティングされた遺伝子座からのPCR産物は2.3 kbである。
【図18】図18は、三つのヒツジBLGターゲッティングされた細胞クローンから増幅されたPCR断片の、3'接合領域に亘る配列分析を示している。 上段部分は、夫々の3'相同アームの3'末端における、円形遺伝子ターゲッティングベクターpPL522の一部の配列を示している。ヒツジBLG遺伝子に相同性の3'領域とバクテリアプラスミド配列との間の接合が示されている。 下段部分は、ターゲッティングされた細胞クローンの3つから増幅された、BLG遺伝子座に特有の領域と、BLG遺伝子ターゲッティングベクターと相同性を共有する3'領域との間の接合に亘る、特徴的な2.3kbの配列を示している。各クローン由来の配列が同定された。
【図19】図19は、遺伝子導入AATの存在を同定するための、乳サンプルのウエスタンブロットを示している。
【図20】図20は、サンプルミルキングの際の、遺伝子導入AATの発現における変化を示すグラフである。
【図21】図21は、二重核移植法の全体像を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
その第一の側面に従えば、本発明は、遺伝子ターゲッティング事象によって体細胞の遺伝物質を改変することを含む、核移植のための体細胞を作製する方法を提供する。好ましくは、当該体細胞は初代体細胞である。好ましくは、当該体細胞は脊椎動物の体細胞である。好ましくは、該細胞は不死化細胞ではない。伝統的に、細胞は「体細胞」または「生殖系」細胞として定義することができる。幾つかの細胞、例えばES細胞は、明確な体細胞系および生殖細胞系が区別され得る前の胚に由来するので、これら二つの伝統的なカテゴリーには容易に入らない。それらの機能的均等物であるEG細胞(胚性生殖細胞)は、始原生殖細胞に由来するので、「生殖系」細胞として定義し易い。このテキストにおいて、「体細胞」の用語はES細胞またはEG細胞を含まない。
【0012】
本方法の使用は、特定のドナー細胞タイプに限定されない。適切な細胞には、胚細胞、胎児細胞、(正常な核型の)成体の体細胞が含まれる。このテキストにおいて、「成体」細胞または「成体」動物とは、誕生した細胞または動物である。従って、動物およびその細胞は、誕生したときから「成体」とみなされる。このような成体動物は、実際のところ、誕生以降の動物を含み、従って「乳児」および「幼若動物」を含む。本発明は、例えば未分化の細胞、例えば造血幹細胞のような体性幹細胞、少なくとも部分的に分化した細胞、および完全に分化した細胞の使用を含む。部分的に分化した細胞の例には、胚系統または前駆細胞(例えば、神経前駆細胞)が含まれる。
【0013】
本発明の第一の側面に従う適切な体細胞は、必ずしも必要とされるわけではないが、好ましくは培養中の細胞である。適切な体細胞には、繊維芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、神経細胞、ケラチン細胞、造血細胞、メラニン細胞、軟骨細胞、リンパ球(BおよびT)、鳥類赤血球、マクロファージ、単球、単核細胞、心筋細胞、他の筋肉細胞、顆粒膜細胞、卵丘細胞および表皮細胞が含まれる。本発明の第一の側面に従う方法のための細胞は、例えば皮膚、間充織、肺、膵臓、心臓、腸、胃、膀胱、主要血管、腎臓、尿道、再生器官など種々の異なる器官、または胎児もしくは胚の全部または一部の分解標本から得ることができる。
【0014】
適切な細胞は、家禽のような鳥類、両生類、および魚類を含む如何なる動物から得てもよい。しかし実際には、大きな商業的利点が考えられる哺乳動物である。体細胞を得る好ましい動物は、ウシ科、ヒツジ科、シカ科、ブタ科、ウマ科、またはラクダ科から選ばれる有蹄動物である。特に、この有蹄動物は、雌ウシまたは雄ウシ、ヒツジ、ヤギ、バイソン、水牛、またはブタである。また、本発明では、ヒト、ウマ、ラクダ、齧歯類(例えばラット、マウス)またはウサギ目(例えばウサギ)から得た、または誘導された体細胞も想定される。
【0015】
核移植プロセスにおいて、レシピエント細胞の適切な供給源に制限はない。レシピエント細胞は、好ましくは卵母細胞、受精接合体、または二細胞胚であり、これらは全て核を除去されたものである。
遺伝子ターゲッティング事象は、体細胞の遺伝物質を所定の部位で改変することを可能にするものであれば如何なるものであってもよい。このような遺伝子ターゲッティング事象には、遺伝物質の不活性化、除去または改変;遺伝物質機能のアップレギュレーション;遺伝物質の置換;および遺伝物質の導入が含まれる。遺伝物質は、特に、遺伝子もしくはその一部、または一以上の遺伝子の発現に影響する領域を含む。従って、遺伝子ターゲッティング事象には、遺伝子の不活性化、除去もしくは改変、遺伝子のアップレギュレーション、所定の遺伝子座での遺伝子置換もしくは導入遺伝子置換が含まれ得る。
【0016】
好ましくは、遺伝子ターゲッティング事象は相同組換えによって起きる。
好ましくは、遺伝子ターゲッティングされた細胞クローンの誘導は、高い効率で生じる。本発明のこの側面に従えば、この高い効率は、同じ選択された細胞集団内において、遺伝子ターゲッティング:ランダムにトランスフェクションされた細胞クローンの比率として定義され、これは1:100以上である。
遺伝子ターゲッティングの精密な詳細は、効率を改善するために変化し得る。種々の変形によれば、核移植に適した体細胞の遺伝子ターゲッティングは、相同ターゲッティングの頻度を最大にするように設計することができる。相同組換えによる遺伝子ターゲッティングを増加させるために使用できる一つの因子は、標的遺伝物質に対する転写の影響である。好ましくは、遺伝子標的は活発に転写され、または活発に転写される遺伝子座に隣接している。このような遺伝子標的または遺伝子座は、使用する体細胞の種類、および可能性としてはかかる細胞の段階に応じて同定することができる。このような遺伝子は、対応するmRNA分子の量に基づいて同定することができる。適切な遺伝子は、任意に定義された中間体の中に入るmRNA、または細胞当り300以上の核分子コピーで存在する豊富なクラスのmRNAを産生するであろう(Alberts et al., 1994, Molecular Biology of the Cell, Garland Publishing, New York and London)。繊維芽細胞における適切な遺伝子標的の一例は、コラーゲンをコードする何れかの遺伝子または遺伝子座、特に、COLIA1またはCOLIA2遺伝子座である。しかし、細胞の遺伝物質には、例えば乳腺上皮細胞における乳タンパク質遺伝子;リンパ球における免疫グロブリン;肝細胞におけるHSAおよびトランスフェリン;およびケラチン細胞におけるVII型コラーゲンのような、多くの適切な遺伝子座が存在する。
【0017】
本発明のこの側面に従えば、遺伝子ターゲッティング事象を受ける誘導された細胞クローン数を最大にする、トランスフェクションの効率的な手段を使用することができる。例えば、脂質媒介性トランスフェクション試薬、例えば「LipofectaAMINE」(Gibco/LifeSciences)または「GenePorter」(Gene Therapy Systems)を使用すればよい。
別法として、またはこれに加えて、標的遺伝子座に対して相同的な長い領域を遺伝子ターゲッティングベクターに含めてもよい。ターゲッティングベクター内に存在する相同性の全長は7kbよりも大きいことが好ましい。
別法として、またはこれに加えて、非線型の遺伝子ターゲッティングベクターDNA、即ち、制限酵素開裂で線形にされていないDNAを使用してもよい。本発明のこの態様では、トランスフェクションされたDNAは主に円形であり、実質的にスーパーコイルであってもよく、または実質的に弛緩されていてもよい。
トランスフェクション方法の上記特徴は、単独で使用してもよく、また相互に組合せて使用してもよい。
【0018】
遺伝子ターゲッティングを増大させるための特に有用な戦略は、遺伝子発現の人工的誘導、または体細胞タイプにおけるクロマチン変化の誘導である。好ましくは、遺伝子ターゲッティング事象は、ヒストンの脱アシルを阻害する薬剤によって、または標的遺伝子座での転写を刺激する因子によって促進される。該因子は、宿主細胞内で発現されてもよい。この戦略は、本テキストの残りの部分で更に詳細に説明される。
本発明の遺伝子ターゲッティングに従えば、該事象後のある時点、好ましくは如何なる核移植よりも前に、細胞から遺伝物質の一部を除去することが有用または必要である。このような物質は、選択マーカー、例えば導入された遺伝子転写アクチベータであるかもしれない。このような除去は、以下で述べる手法または当該技術で周知の手法によって実施することができる。
(細胞の遺伝物質の改変による)体細胞の調製は、核導入の前工程であってもよい。本発明は、体細胞を遺伝的に改変でき、且つ核移植の成功を支持する方法を初めて提供するものである。核移植の成功を支持するためには、再構成された胚が、誕生した生きた動物、または組織の供給源として使用できる、EG細胞およびES細胞を含む胚または胎児を産生するように進行することが必要とされる。
本発明のための核移植の方法に制限はない。如何なる核移植の方法を用いてもよい。核移植は、一つの動物種または一つの動物タイプから、同一または異なる動物種もしくはタイプのレシピエント細胞への遺伝物質を含んでよい。
【0019】
本発明の第二の側面は、(本発明の第一の側面において記載した)核移植のための体細胞を調製する方法と、および該体細胞からレシピエント細胞への遺伝物質の導入を含む方法とを具備した、核移植の方法を提供する。
上記で述べたように、本発明の第二の側面に従って、全ての如何なる核移植方法を使用してもよい。体細胞は、本発明の第一の側面について上記で説明したものであってよい。レシピエント細胞は、卵母細胞、除核された受精接合体または二細胞胚を含む、何れかの核移植法に適した如何なるレシピエント細胞であってもよい。
【0020】
体細胞からレシピエント細胞への遺伝物質の導入によって、動物胚が与えられる(この動物胚は、何れかのおよび全ての多細胞段階への核移植の結果としての単一細胞を含む)。
また、本発明の第二の側面に従う方法は、核移植によって胚または胎児から誘導され、クローニングされた分化全能細胞または多能性細胞の作製を含んでいてもよい。胚(ES細胞およびES様細胞)から、または後期胚および胎児始原生殖細胞(EG細胞)から、幹細胞のような全能性または多能性細胞を誘導するための方法は、このテキストに後で引用されるように、多くの著者によって記述されてきた。多能性幹細胞は、in vitroにおいて、移植のための細胞供給源を与え得る分化した細胞およびその前駆体を作製するために特に有用である。
また、胚または胎児(もしくは成体)から誘導された細胞(体細胞を含む)は、更なるラウンドの核移植のために使用してもよい。核移植によって作製された胚または胎児からの細胞の再誘導は、最初の初代細胞では可能でない多重もしくは連続的な遺伝子操作を容易にすることがある。
【0021】
あるいは、本発明の第2の側面によって動物胚を得る方法は、更に、動物を胚から出産日まで発生させることを含んでもよい。このような方法において、動物胚は、好ましくは出産日までin vivoで発生される。in vitroで胚盤胞までの発生が生じるばあい、この段階で代理母動物への移植が行われる。胚盤胞発生がin vivoで生じるばあい、原理的には、胚盤胞は予定日まで前胚盤胞宿主の中で発生させることができるが、通常、実際には胚盤胞を暫定的な前胚盤胞レシピエントから取出し、保護媒質から切離した後に、永続的な後胚盤胞レシピエントに移されるであろう。胚から成体ヤギへの発生は、胎児の段階を通過する。
【0022】
本発明の第三の側面は、本発明の第一の側面に従う方法によって得られる、核移植に適したトランスジェニック体細胞を提供する。第一および第二の側面の好ましい特徴は、この第三の側面にも適用される。
本発明の第四の側面は、本発明の第二の側面に従う方法によって得られるトランスジェニック胚または胎児を提供する。
本発明の第五の側面は、動物を本発明の第四の側面に従う胚または胎児から出産日まで発生させることを含む、トランスジェニック動物を作製する方法を提供する。最適には、この第五の側面のトランスジェニック動物は繁殖させることができ、このような子孫(胚、胎児および生体を含む)もまた本発明に包含される。第一の側面から第四の側面の好ましい特徴は、この第五の側面にも適用される。
【0023】
本発明の第六の側面は、本発明の第五の側面に従うトランスジェニック動物またはその子孫を提供する。第一の側面から第五の側面の好ましい特徴は、この第六の側面にも適用される。
本発明の核移植方法は、二重核移植法をも包含するものであるが、これに限定されない。このような方法は、一段階核移植法と同様に、PCT/GB00/00086に記載されており、また以下で説明される。
本発明は、ヒトの再生クローニングに関するものではない。本発明は、ヒト組織細胞、また適用可能な場合にはヒト胚、特に14日齢より前のヒト胚を含む。
【0024】
一般に、第二減数分裂の中期で停止した卵母細胞が、細胞質体レシピエントとして使用されてきた。ドナー遺伝物質は、1)細胞融合、2)完全な細胞、溶解細胞または核の注入プロセスによって、レシピエント細胞質の中に導入されてきた。遺伝物質の導入は、活性化のとき、活性化の前(特許出願WO97/07669およびWO97/07668参照)、または活性化の後(Campbell et al., Biol. Reprod. 49 933-942 (1993); Campbell et al., Biol. Reprod. 50 1385-1393 (1994))の何れかの時点で行ってよい。これらの例の夫々において、再構成された胚の倍数関係は、細胞周期の適切な段階にあるドナー遺伝物質の使用によって維持されなければならない(概説について、Campbell et al., Reviews of Reproduction 1:40-46 (1996)参照)。このプロセスは、トランスジェニック子孫の作製のための遺伝子操作技術と結合してもよい(Schnieke et al., Science 278:2130-2133 (1997))。培養中の細胞の遺伝子改変と組合せた核移植の使用および動物作製前のそれらの選別は、上記で述べた多くの利点を有する。
【0025】
ブタにおいて、生きた子孫を作製するための核移植の使用には困難が伴ってきた。受精接合体の前核を入れ替える(swapping)ことにより子孫が作製されたが、1匹の子豚だけが、後の発生段階(4細胞)から作製された(Prather et al., Biol. Rprod 1989 Sep 41:3 414-8)。
核移植による胚の再構成および生きた子孫の作製プロセスは、多工程の方法である。次に、これら夫々の工程について更に詳細に説明する。以下の説明は工程の説明を提供するものであり、網羅的または制限的な記述ではない。
【0026】
<レシピエント細胞または細胞質体>:
卵母細胞、受精接合体および2細胞胚は、核移植のための細胞質体レシピエントとして使用されてきた。一般的に、第二減数分裂の中期で停止された卵母細胞(未受精卵とも称される)が、選択される細胞質体になっている。卵母細胞発生のこの時点において、遺伝物質は紡錘体上に配置され、機械的手段を使用して容易に除去される。幾つかの報告は、成熟の際、即ち、胚胞段階(第一減数分裂の前期)と第二減数分裂中期での停止との間において、ゲノムDNAを除去することができ、得られた細胞質体を核移植のために使用できることを示している(Kato Y., Tsunoda Y., Mol Reprod Dev (1993) Oct 36:2 276-8)。細胞質体レシピエントとしての受精接合体の使用は、マウス(Kwon O.Y., Kono T., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (1996) Nov 12, 93:23 13010-3)、ウシ(Prather R.S., First N.L., J. Rprod Fertil Suppl (1990) 4)、およびブタ(Prather et al., Biol. Rprod (1989) Sep. 41:3, 414-8)において報告されている。
【0027】
ウシおよびブタにおいて、細胞質体レシピエントとして接合体を使用して再構築された胚の発生は低く、また全体として前核の交換に限定されており、発生の成功に必須の因子が前核と共に除去されることを示唆している。二重核移植法では、好ましくは除核された分裂中期II卵母細胞への適切な前核の導入によって、前核様構造体(前核を含む)を生じさせる。従って、こうして形成された前核様構造体は、一般的には接合体の除核の際に除去されてしまう因子をも含んでいるであろう。次いで、この前核様構造体は、第二の核移植胚再構成のための遺伝物質ドナーとして使用される。如何なる細胞周期段階の核または細胞も、遺伝物質のドナーとして好ましく使用し得るが、それに従って、レシピエント細胞質体の細胞周期段階を制御しなければならない。
【0028】
<ゲノム遺伝物質の除去による細胞質体レシピエントの調製>
このプロセスは、一般には除核と称される。利用されるレシピエントの大部分において、除去の時点でゲノムDNAは核膜内に閉じ込められていない。本発明に従って「除核」の用語で記述される遺伝物質の除去は、遺伝物質が核膜内に存在することを必要としない(そうであるかも知れず、そうでないかも知れず、または部分的にそうであるかも知れない)。除核は、実際に核、前核または中期板(レシピエント細胞に応じて)を除去することによって物理的に、または、例えば紫外線照射もしくは他の除核影響によって機能的に達成すればよい。遺伝物質の除去は、物理的および/または化学的手段によって可能である。核移植の初期の報告では、MII卵母細胞の1/2に遺伝物質が含有され、他方には含まれないことに基づいて、卵母細胞は単純に半分に切断された。除去される細胞質の容積を減少させるために、このアプローチに対する変更が行われた。これは、ガラスマイクロピペッタを使用して、第一極体の下から少量の細胞質を直接吸引することにより、またはナイフを使用して極体の下の卵母細胞部分を切除することによって達成され得る。卵母細胞の柔軟性を促進するために、これを微小管阻害剤であるサイトコカシンB(Cytochalasin B)または細胞骨格を破壊する他の薬剤で前処理してもよい。物理的除核とは対照的に、化学的処理は遺伝物質の完全な除去を生じることがマウスにおいて示された。
【0029】
卵母細胞をトポイソメラーゼ阻害剤であるエクトポシド(ectoposide)で成熟させる処理は、第一極体と共に全ての遺伝物質の排除を生じる(Elsheikh A.S. et al., Jpn. J. Vet. Res. (1998) Feb 45:4, 217-20)。しかし、この方法によって作製された細胞質体レシピエントを使用して分娩まで発生させたことは記載されておらず、また他の種におけるこの方法の報告は存在しない。サイトカラシンB処理と組合せたMII卵母細胞の遠心分離は、ハムスターおよびウシの卵母細胞における除核を生じることが報告されている(Tatham et al., Hum Reprod (1996) Jul. 11:7 1499-503)。このような細胞質体から再構築された胚のウシでの発生が報告されているが、発生の頻度は低い。
接合体を使用するとき、遺伝物質は、機械的吸引によって両前核から除去してもよい。種によっては、接合体の前核の可視化を容易にするために、接合体を除核の前に遠心してもよい。
【0030】
<遺伝物質の導入(胚の再構築)>
適切なレシピエント細胞または細胞質体を調製したら、ドナー遺伝物質を導入しなければならない。下記を含む種々の技術が報告されている。
1.化学的、ウイルス的、または電気的手段により誘導される細胞融合。
2.何れかの方法による完全な細胞の注入。
3.溶解または損傷された細胞の注入。
4.核の注入。
何れかの種において、個々のプロトコールの幾つかの変形を伴って、これら方法の何れかを使用すればよい。
【0031】
<再構築された胚の活性化>
核体から細胞質体へのドナー遺伝物質の移植に加えて、細胞質体は、発生を開始するために刺激されなければならない。受精接合体を細胞質体レシピエントとして使用するときは、受精時の精子侵入によって発生は既に開始されている。MII卵母細胞を細胞質レシピエントとして使用する場合は、卵母細胞は他の刺激によって活性化されなければならない。卵母細胞の活性化を誘導し、初期胚発生を促進するする種々の処理が報告されており、これにはDC電気刺激の印加、エタノール、イオノマイシン、イノシトール三リン酸(IP3)、カルシウムイオノフォアA23187での処理、精子抽出物での処理、または卵母細胞へのカルシウム侵入または内部カルシウム蓄積物の放出を誘導して発生の開始を生じる他の何れかの処理が含まれるが、これらに限定されない。これら処理の単独または組合せの何れかに加えて、同じかまたは異なる時点でのそれらの適用、またはタンパク質合成阻害剤(即ち、シクロヘキシミドまたはピューロマイシン)もしくはセリンスレオニンタンパク質キナーゼ阻害剤(即ち、6-DMAP)との組合せが適用され得る。
【0032】
<再構築された胚の培養>
核移植で再構築された胚は、最終レシピエントに導入するのに適した段階まで、何れかの適切な培地または培養プロセスを使用して培養すればよい。或いは、最終代理母レシピエントに移すのに適した段階に達するまで、胚を適切な宿主動物(一般にはヒツジ)の結紮した卵管の中でin vivo培養してもよい。ウシ、ヒツジ、および他の種に由来する胚は、トランス種レシピエントの中で培養してもよい。単純のために、ヒツジは、ウシ種、ヒツジ種、およびブタ種のための適切なレシピエントを提供する。暫定レシピエントの輸卵管の中にある間の機械的損傷、またはマクロファージによる攻撃を防止して胚を再構築するために、寒天または同様の材料の保護層の中に胚を埋設するのが普通である。
ブタ胚のために現在利用可能なin vitro培養システムは、胚盤胞段階への発生を支持するが、このような胚からの生きた誕生の頻度は低い(Machaty et al., Biology of Reproduction, (1998) 59, 451-455)。二重核移植法において、一回目の核移植で再構築された胚は、前核様構造体体の形成が生じるまで、これら何れかの方法によって培養すればよく、この胚は二回目の核移植による再構成のために使用される。実際には、現在のところ、この第一の培養期間は、適切な培地を用いてin vitroで行うのが好ましい。
【0033】
核移植による哺乳類胚の再構築に含まれる各段階は非効率的である。ブタにおいて、このことは、核移植で再構築された胚からの生きた子孫の作製に関する報告がないことによって特に明かである。二重核移植の基本は、多工程の胚再構築法を使用し、最終代理母レシピエント内で胚を培養することにより、再構築プロセスに含まれる非効率工程を最小限にすることである。二重核移植法は、動物の胚を再構成する方法を提供する。このプロセスは、核を第一の卵母細胞に導入した後に、前記核を除去して、前記卵母細胞から更なるレシピエント細胞に移すことを含む。好ましくは、第一の卵母細胞から移植される核は、前核様構造体の形態にある。好ましくは、第二のレシピエント細胞は卵母細胞、または除核された受精接合体である。これは、二重核移植手法を含む。この手法の第一の工程は、ドナー核を卵母細胞に導入することにより、前核様構造体体を作製することである。好ましくは、卵母細胞は、先にまたは同時にまたはその後に活性化される成熟した中期II卵母細胞(未受精卵)であり、または活性化されたMII卵母細胞(活性化は、通常は物理的または化学的入力による)である。第一工程の一例は、図21に示されている(単純化するために、活性化されたレシピエントの使用は図21には示されないが、これは下記の表Iに記載されている)。この手法の第二の工程において、第一の工程で作製された前核様構造体体が第一の再構築された胚から除去され、卵母細胞、活性化された単為生殖体、または除核された受精接合体に移植される(図21)。卵母細胞への移植の場合、好ましくは、前核様構造体体は第一の再構成された胚から除去されて、その前に、同時に、またはその後に活性化される卵母細胞(除核されるMII卵母細胞)に導入される。第二の核移植に続いて、再構築された胚は、分娩まで発生させるのための最終的な代理母に直接導入すればよい。
【0034】
表 1: 再構築された接合体の核の倍数性を維持するための、最初のNTについてのドナー細胞およびレシピエント細胞の可能な細胞周期の組み合わせ

* 種に依存する
【0035】
胚再構築のためのドナー遺伝物質は、胚、胎児、幼児もしくは成体動物のような動物発生の何れかの段階から直接採取された、分化した、部分的に分化した、または分化していない何れかの細胞、或いはこれらから誘導された何れかの細胞株によって提供されればよい。これまでの報告では、ドナー核の細胞周期段階が発生のために重要であることが示されている。本発明においては、細胞周期の如何なる段階の細胞も、第一の再構成プロセスのための遺伝物質のドナーとして使用することができる。しかし、ドナー核およびレシピエント細胞質の細胞周期段階の組合せは、遺伝物質のドナーに使用する細胞の移植時点での細胞周期段階に依存して変化するであろう。ドナー遺伝物質およびレシピエント細胞は、同じ動物種由来であるのが好ましいが、そうであることを必要としない。
【0036】
<ドナー細胞の調製>
核移植によって胚を再構築するために、核ドナーとして使用するドナー細胞の培養、同調、および選別のための方法および材料は当業者に周知である。動物の生涯における何れかの段階(例えば、胚、胎児または成体動物)から直接得られた如何なる細胞集団も、ドナー遺伝物質として使用できる。或いは、何れかの段階(例えば胚、胎児、幼児、または成体の動物)から誘導され、培養中で維持された何れかのポピュレーション(例えば、未分化の、部分的に分化した、または分化した細胞集団)に由来する細胞または一次単離物を培養する際に、もしくはホルモン、成長因子、または分化状態を変更する化学薬品で細胞集団を処理した結果として生じた、如何なる細胞(例えば、未分化の、部分的に分化した、または分化した細胞)を使用してもよい。当業者が利用可能な何れかの手段を使用して、培養中で維持された細胞の細胞周期段階を操作し、レシピエント細胞質体との協調を保証してもよい。後述の例は非制限的なものであり、当該技術の種々の側面の単なる代表例に過ぎない。
【0037】
<G0期>:
減数分裂および細胞分割の後で且つDNA複製またはS期の開始前に細胞周期を停止されている、静止状態(非増殖性)の二倍体細胞の作製をもたらす如何なる方法を用いてもよい。適切な方法には下記のものが含まれるが、これらに限定されない。
I.培養された細胞集団の接触阻害によって誘導された静止。
II.培養培地中の血清または他の必須栄養素(即ち、ロイシンまたは他のアミノ酸、特定の成長因子)の除去、または濃度減少によって誘導された静止。
III.老化によって誘導された静止。
IV.特定の成長因子または他の物質の添加により誘導された静止。
V.熱ショック、高圧のような何れかの物理的手段、または熱ショックまたはストレス応答を誘起する化合物(例えばプロマイシン、アザシチジン)での処理によって誘導される静止。
【0038】
<G1期>
ドナー核は、停止を生じる何れかの化学物質、ホルモン、成長因子、または他の物質での処理、または細胞周期の停止を誘起する何等かの物理的ストレス(即ち、温度上昇の結果としての熱ショック応答誘導)、またはかかる応答を誘起する化合物(即ち、プロマイシン、アザシチジン)での処理によって、細胞周期のG1期で停止させればよい。或いは、G1期細胞は、何れかの手段および適切な時点でのG1細胞の選別によって、細胞集団の同調により得てもよい。例えば、コルセミド(Colcemid)またはノコダゾール(Nocodazole)のような微小管破壊薬剤での処理によって、細胞を細胞周期のM期で停止させ、次いで、シェイクオフによりポピュレーションから有糸分裂細胞を選択して、別の培養容器に配置してもよい。次いで、シェイクオフの後、適切なときにG1細胞が選別される。また、この技術の変形として、有糸分裂細胞を非同調ポピュレーションから選別してもよい。細胞を増殖周期から出し、静止もしくはG0期に停止させ(上記のように)、次いで限定因子の再添加で増殖を刺激することによって、G1細胞が富化される。次いで、G1細胞は再刺激の後に選別され、個々の細胞タイプ/ポピュレーションのための実験によって見付けられる。この技術は、その後に細胞周期のG1期、またはG1/S期の境界で細胞を停止させる何れかの技術、即ちヒドロキシ尿素またはアフィジコリン(aphidicolin)と組合せてもよい。
【0039】
<S期>
S期の細胞は、複製手順の何れかの点で妨害する何れかの化学薬剤、例えば濃度依存的に鎖伸長を阻害するアフィジコリンでの処理、リボヌクレオチドレダクターゼ酵素を阻害するヒドロキシ尿素での処理によって選択し、または富化させることができる。細胞周期の他の何れかの段階において、同調された細胞を解放し、解放後のS期のタイミングを実験的に決定してもよい。これらに加えて、二つのプロセスを組合せてもよく、または他の何れかの選別もしくは同調法またはそれらの組合せを利用してもよい。
【0040】
<G2期>
G2期の細胞は、何れかの物理的、化学的または選択的方法によって同調された、増殖するポピュレーションから選別すればよい。或いは、G2細胞は、S期の完了の後で且つ有糸分裂の前で細胞周期を特異的に停止させる何れかの薬剤を用いて、同調したまたは同調しない細胞集団を処理することによって富化させてもよい。
【0041】
<M期>
有糸分裂細胞は、有糸分裂シェークオフ、懸濁分離(エルトリエーション)、FAC's(蛍光活性化細胞分類)を含む(これらに限定されない)何れかの可能な手段を使用して、非同調ポピュレーションから選択してよい。或いは、コルセミドまたはノコダゾールのような微小管破壊剤を用いた処理により、DMAPまたは他の何れかのセリンスレオニンタンパク質キナーゼ阻害剤での処理により、または正常な増殖進行を破壊して有糸分裂期で停止させる他の何れかの化学的もしくは物理的手段により、細胞を有糸分裂期で停止させてもよい。
【0042】
<非同調細胞集団>
非同調細胞集団は、如何なる胚、胎児または成体の組織から得てin vitroで培養したものでもよく、または胚、胎児、幼児または生体の動物から直接取り出した如何なる細胞であってもよい。非同調細胞は、レシピエント細胞質体への移植の時点において、その細胞周期段階が未知の細胞として定義される。
【0043】
<核移植>
I)卵母細胞
適切な細胞質体レシピエントとして働く卵母細胞は、種々の技術およびプロトコールを使用して得ることができ、これら技術には下記のものが含まれるが、これらに限定されない。
i) 屠殺で得たか、または外科的に除去された卵巣からの卵胞吸引の後のin vitro成熟。
ii) 経膣的な卵胞穿刺の後のin vitroでの成熟
iii) in vivoで成熟させ、排卵の前に経膣的卵胞穿刺によって回収し、次いでin vitroで成熟を完了させる。
iv) in vivo成熟および外科的回収。
v) in vivo成熟および屠殺時に回収。
【0044】
不可欠ではないが、全てのin vivoで成熟した卵母細胞は、卵管から、1.0%のウシ胎児血清(FCS)を含有し、カルシウムおよびマグネシウムを含まない燐酸緩衝塩水(PBS)(またはカルシウムおよびマグネシウムイオンを含まない他の適切な培地)の中にフラッシュすることによって回収するのが好ましい。同様に、in vitroで成熟された卵母細胞を回収し、カルシウムおよびマグネシウムイオンを含まない適切な培地(例えば、カルシウムおよびマグネシウムイオンを添加しないで調製されたM2培地)に移す。選択された培地には、FCS、BSAまたは他のタンパク質源を補充してもよい。卵母細胞は卵丘細胞を除去され、全ての手順についてカルシウムを含まない培地が好ましい(不可欠ではない)点を除き、先に記述されているようにして除核される(Campbell et al., 1993, 1994)。融合手法は、先に報告された手法(Campbell et al., 1993, 1994)の変形であり、以下の関連セクションで説明される。或いは、核は、ドナー細胞を手動で卵母細胞の中に注入することにより(Ritchie and Campbell, J. Reproduction and Fertility Abstract Series No.15, p69)、またはマウスで立証されている商業的に入手可能なピエゾ注入装置(Wakayama et al., 1998)を使用することにより導入してもよい。これら事象のタイミングは種に依存する。これらのプロトコールは、in vitroまたはin vivoで作製された接合体の使用と組合せて、in vivoおよびin vitroで成熟させたヒツジ、ウシ、およびブタの卵母細胞の使用を決定する。この手法は、これらの定義されたプロトコールに制限されない。
【0045】
II) 接合体
第二の核移植のレシピエントとして働くために、受精された接合体または卵母細胞(活性化の前、これと同時またはその後のもの)が必要とされる。不可欠ではないが、現時点では受精した接合体が好ましい。成熟した卵母細胞は、上記で概説した何れかの手法によって得ればよい。遺伝物質は、先に説明したようにして卵母細胞から除去すればよい。卵母細胞は、発生を活性化および刺激する何れかの物理的もしくは化学的刺激、またはその組み合わせを用いて、成熟した卵母細胞を処理することにより活性化させればよい。活性化刺激を適用するタイミングは、種および成熟の方法に依存して幾分変化するであろう。受精した接合体は、上記の供給源の何れかから得た成熟卵母細胞のin vitro受精によって得ればよく、或いは、成熟または刺激された、または刺激されないドナー動物を用いたAIに続いて、ex vivoで回収すればよい。
【0046】
<第一段階の核移植胚の再構築>
異なる細胞周期段階のドナー細胞を、胚の再構成のために使用してよい。使用する細胞質体レシピエントおよび必要とされる何等かの追加の処理は、ドナーおよびレシピエント細胞の細胞周期段階に応じて幾らか変化するであろう。表Aは、可能な一連の組合せを提供する。
実際には、一以上の前核様構造体、好ましくは二倍体または四倍体の生成を生じる何れかの方法を用いればよい。
【0047】
<第二段階の核移植>
第二段階において、第一の核移植により再構成された胚からの前核様構造体(好ましくは、核の膨潤形態として同定される)を、除核されたMII(活性化の前、活性化と同時、もしくは活性化の後)、または活性化された単為生殖体、または前核の除去によって除核された受精接合体に移植する。これらの細胞質体レシピエントは夫々が第二の核移植に適しているが、実際には、除核された受精接合体が好ましい選択である。第二の核移植の細胞質体レシピエントとして働くこの接合体は、in vivoまたはin vitroで作製すればよいが、実際には、in vivoで作製された接合体を使用するが現在選択される方法である。或いは、第一の核移植胚の発生から生じた何れかの細胞、または該胚から誘導された培養細胞集団を、第二の核移植胚を作製するための遺伝物質のドナーとして使用してもよい。
【0048】
<活性化された卵母細胞または接合体の供給源>
in vitroまたはin vivoの何れかの供給源から得られ、その後にin vitroで成熟した卵母細胞、またはin vitroで成熟された卵母細胞は、除核およびその後の活性化、または活性化およびその後の除核に続いて、第二の核移植のためのレシピエントとして使用できる。実際には、第二の核移植のためのレシピエント細胞質体は、受精接合体から調製するのが好ましい。第二の核移植のための細胞質体レシピエントの作製に必要な接合体は、如何なる適切な供給源(適切なドナー動物から回収されるin vivoで作製された受精接合体を含むが、これに限定されない)から得てもよい。接合体は、天然の交配、過剰排卵後の天然の交配、または新鮮または凍結された精子を用いたAIによって作製してもよい。或いは、受精接合体はin vitroで作製してもよい。in vitro受精は、過剰排卵を伴うか又は伴わない適切なドナー由来のin vivoで成熟した卵母細胞に対して行ってもよく、又は屠殺場の材料からの回収もしくはin vivoでの卵胞の吸引後にin vitroで成熟させた卵母細胞を用いることによって行ってもよい。実用上、第二の核移植のための接合体は、in vivoでの成熟および受精に従って得るのが好ましい。
【0049】
<接合体の除核>
成功した受精の後に、新たに形成された接合体中の雄および雌のクロマチンは脱凝集して、二つの前核を形成する。この遺伝物質は、受精後の何れかの時点で除去してよい。しかし、実際には、本発明の方法での選択は、前核の形成後に遺伝物質を除去する。細胞質の性質に起因して、受精接合体から前核を可視化および除去するのは困難なことが多い。必須ではないが、前核の可視化は、接合体を操作する前にこれを遠心することによって補助してもよい。
【0050】
<第一の核移植胚からの核体ドナーの調製>
第一の核移植で再構成された胚の中に形成された前核は、これを取り出して第二の細胞質体レシピエントに導入しなければならない。前核を可視化するために、好ましくは胚を遠心する。次いで、細胞質に取囲まれ且つ細胞膜に包まれた前核の吸引が、好ましくは微細手術によって行われる。このプロセスを容易にするために、必ずしも必要ではないが、細胞骨格を破壊する一以上の化合物、例えばサイトカラシンB又はノコダゾールでの処理によって胚を更に柔軟にしてもよい。遠心された胚は選択された薬剤の中で予備インキュベートされ、次いで操作チャンバーへと移送される。微細なガラスピペットを用いて、前核を含む核体を吸引する。
【0051】
<第二の核移植による胚の再構築>
第一の核移植胚から形成された核体を用いて、今度は前核様構造体の中に含まれている遺伝物質を、除核された第二のレシピエント細胞質体に移植する。ウイルス的、化学的または電気的手段による核体の細胞質体への融合を含む如何なる導入手段を用いてもよく、或いは、前核をレシピエント細胞の中に注入してもよい。前核のサイズに起因して、遺伝物質は細胞融合のプロセスにより導入されるのが好ましいが、これは必須ではない。細胞融合のために、核体は第二の細胞質体レシピエントの透明体の下に導入され、除核された接合体に接触して配置される。次いで、細胞融合を誘導する何等かの物理的、化学的またはウイルス的手段を適用すればよい。しかし、必須ではないが、電気的融合を使用するのが好ましい。電気的融合のために、適切な融合チャンバーの中の適切な培地の中に電極対を配置する。次いで、DC電気パルスを、電極対を通して細胞質体と核体との間の接触面に対して直角に流す。先ずAC電気パルスを使用して、細胞質体と核体を整列および/またはそれらの間の接触を増大させてもよい。電気パルスの持続時間、強度およびタイミングは、全て融合の頻度に影響し、実験によって最適化することができる。
【0052】
<第二の核移植胚の培養>
第二の核移植による胚の再構成に続いて、最終的な代理母レシピエントに移すのに適した発生段階に達するまで、適切な培地中において、in vivoで更なる発生を行ってよい。或いは、再構成された胚は、適切な同調した中間レシピエントの結紮した卵管の中で、最終代理母レシピエントへ移すのに適した発生段階に達するために充分な時間だけ培養してもよい。または、ブタ種における当該方法の現在の選択のように、第二の核移植で再構成された胚を直接に最終代理母に導入し、ホルモン治療によって妊娠を維持することができる(下記参照)。
【0053】
<最終代理母レシピエントへの導入>
再構築された胚は、分娩まで発生させるための同調された最終レシピエントに導入するのに適した何れかの段階まで、in vitroまたはin vivoの何れかの手段によって培養することができる。或いは、再構築された胚は、できるだけ早く、分娩まで発生させるために同調されたレシピエントに移してもよい。ブタ種においては、現在では後者の方法が選択されている。この状況において、最終レシピエントにおける妊娠の誘導および維持は、以下の手法の何れかによって達成することができる。導入時に、核移植再構成胚と同じ発生段階にあるin vivoで産生された胚を、核移植と共に導入してもよい。或いは、妊娠を維持するために、レシピエントをホルモンの組合せで処置してもよい(Christenson et al., J. Animal Science 1971;32: 282-286)。
【0054】
核移植法には、全ての段階のトランスジェニック動物を与えるための技術において既知の遺伝子改変が包含される。「トランスジェニック」の用語は、広義に、その生殖系列が組換えDNA技術による技術的介入を受けた如何なる動物をも意味する。これには、別の種からの遺伝物質の導入、並びにその生殖系列において内在性遺伝子が欠失、倍化、活性化または改変された動物が含まれる。 二重核移植法において、遺伝物質(ドナー核)は如何なる段階で改変されてもよい。最も好ましくは、組換え介入は第一の核移植工程の前に行われる。この組換え介入は、第一および第二の核移植工程の間で行ってもよい。
第一の核移植工程前の組換え介入のために、遺伝物質は、好ましくは細胞株改変の一部として改変され、または先に改変された動物から採取される。核移植工程のためのドナー核を同定するために、選別のレベルを導入することができる。或いは、またはこれに加えて、組換え介入は第一の核移植工程の後、第二の核移植工程の前に行うことができる。このシナリオにおいて、得られた細胞は、同一または異なる方法によって遺伝的に改変することができる。
【0055】
本発明は、除核されていない卵母細胞を、核移植による胚再構築のための細胞質体レシピエントとして使用することを含む。
核移植によって再構築された胚の発生は、レシピエント細胞質体およびドナー核の両者の細胞周期段階を含む多くの因子に依存する。初期マウス胚の卵割を同調させる能力は、細胞質体/核体の細胞周期の組み合わせの詳細な研究を可能にした。マウスにおける報告は、有糸分裂的に停止された細胞の、遺伝物質のドナーとして使用を示した(Kwon and Kono, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.93, 13010-13013)。
体細胞を核ドナーとして使用するとき、細胞周期のG0(静止)期で停止された細胞は、核移植により再構成された胚の分娩までの発生を指令できることが示された。静止細胞のクロマチンは凝集を受けることが報告されており、また、これら細胞は転写および翻訳の減少を示し、mRNAは活発に分解し、ポリリボゾーム内で変化を生じる(Whitfield, J.F., et al (1985))。「動物細胞増殖の制御(Control of Animal cell proliferation) 」(Boynton A.L. and Leffer, H.L.編集, p331-365, Academic Press Inc: London)において、静止細胞は、生存を維持するために必要なレベルにまでその代謝を減少させる。
【0056】
最近、他の研究者等は、転写的に不活性な遺伝子が、静止していない循環しているBリンパ球の核における動原体性のヘテロクロマチンに位置することを示した。静止した細胞を増殖周期に再導入する刺激は、不活性な遺伝子座の動原体領域への再配置を生じる(Brown et al., Mol. Cell Biol. 3, 207-217)。従って、静止細胞のクロマチンは、遺伝子発現の「再プログラミング」に関連した核移植後の構造変化を受け易い。
ドナー細胞およびレシピエント細胞の異なる細胞周期を利用する能力は、種に依存する。マウスでは、G2期またはM期の核が除核されたMII卵母細胞に導入されるときに、完全な組織された紡錘体が得られる。活性化に際して、「擬有糸分裂/減数分裂」事象が起き;極体が押出されて二倍体核が形成される。或いは、サイトカラシンBでの処理による極体放出の抑制は、二倍体核と共に四倍体胚を生じる。これら前核の夫々は、除核された接合体への核ドナーとして(成功裏に)使用することができる。ウシ、ヒツジ、およびブタにおいては、二倍体(G1)卵割球または体細胞から除核されたMII卵母細胞への核の導入に続く組織された紡錘体は観察されず、組織された紡錘体が実際に形成されないことを示唆する極体放出の報告は存在しない。同様に、ウシにおいては、G2核が除核されたMII卵母細胞に導入されるときに、組織された紡錘体は観察されないが、卵母細胞が除核されなければ、二つの組織された紡錘体が観察される。一つは元の卵母細胞MIIであり、二つ目はドナー核由来の染色体を形成する。
【0057】
紡錘体形成におけるこれらの相違は有利に使用することができる。細胞周期におけるG2期またはM期の核は、i)第一減数分裂の中期、即ち、MIとMIIの間の時点、またはii)MIIの時点の何れかにおいて、成熟卵母細胞に移植することができる。MIIでは二つの紡錘体が存在し、一つは母方のDNAに由来するものであり、他方は導入されたDNAに由来するものである。レシピエント卵母細胞の活性化は、当該技術において既知の方法、即ち、培養培地、操作培地または融合培地からカルシウムを除去することによって防止することができる。次いで、染色体に凝集される移植されたクロマチンは、レシピエント卵母細胞の種および加齢に応じた時間だけ、レシピエントの細胞質内で「馴らされる」。母方のクロマチンは、ドナークロマチンを含む完全な紡錘体の形成の後、或いは再構成された卵母細胞の活性化の後に除去すればよい。活性化は、紡錘体の一体性が維持されなければならないこと以外は、当該技術で普通の方法により達成すればよい。活性化に際し、導入されたDNAは擬有糸分裂/減数分裂を受け、極体を放出して二倍体胚を与える。或いは、極体の放出は、当該技術に一般的な化合物、例えばサイトカラシンBを用いて防止できるであろうし、こうして得られる接合体は二つの二倍体前核を有し、その夫々が、除核された接合体または活性化された除核卵母細胞への導入に使用され得るであろう。
【0058】
元の卵母細胞または母方のDNAは、多くの手段によって、同定の後に選択的に除去できるであろう。
1.活性化前の、第一極体の観察、並びに極体の下からの細胞質および減数分裂紡錘体の直接の吸引による。年齢が増大すると極体が分解するので、これはレシピエント卵母細胞の年齢に依存するであろう。
2.母方またはドナーのクロマチンは、再構成の前に、DNA特異的色素で選択的に染色してもよく、これにより、染色された染色体または未染色の染色体を活性化の前に選択的に除去することが可能になる。
3.活性化に続く、その後の染色体の除去またはその後の前核の除去。
4.G0特異的プロモータ配列によって駆動される特異的マーカー遺伝子を含んだ、トランスジェニック細胞の使用による。
【0059】
<非除核卵母細胞の使用の例>
上記で述べた第一の核移植手順での卵母細胞の作製について説明したプロトコールは、全て、非除核卵母細胞の使用のためにも適している。ドナー核の導入は、先に説明したように、電気的、化学的またはウイルス的に誘導された融合、または圧力のし様を含む何れかの手段による注入を使用して達成することができる。ドナー核の導入に続く除核は、当該技術で既知の何れかの方法によって達成することができる。種々の手順のタイミングは種の間で変化し、卵母細胞の起源に依存し、実験的に決定されるであろう。
【0060】
ドナー細胞は、DNAを染色するために、培地中の適切なDNA特異的蛍光色素、即ち、1μgのヘキスト3332の中に10分間配置し、続いて染色の内培地中でインキュベートすべきであろう。核の導入は、第一減数分裂終期の出現後の何れかのタイミングで行うことができ、その出現は、細胞壁上の小さな突起の出現により顕微鏡的に観察でき、これは当業者に周知である。レシピエント卵母細胞の操作および再構築は、活性化を防止するために、カルシウムのない培地中で行うのが好ましい。次いで、再構築された卵母細胞は、母方のDNAが除去されるまで培養することができる。減数分裂紡錘体の形成のために充分な時間が許容される(これは、種および培養条件によって変化し、また再構築のタイミングによっても変化するであろう)。分裂終期1レシピエントの場合、卵母細胞母方のクロマチンがMIIに達するために充分な時間が許容される。母方のクロマチンの除核は、MIIにおいて、染色されたクロマチンの可視化および同定のためにUV光に短時間曝することによって達成すればよい。或いは、ドナークロマチンの同定のために、前核形成の前および後の何れかの時点で、卵母細胞を活性化し、次いでUVに曝してもよい。母方のクロマチンの除去および活性化に続いて、推定の接合体は、出産まで発生させるために、同調した最終レシピエントへの移植に適した段階まで、当該技術で公知の何れかの手段によって培養される。除核されていない卵母細胞は、好ましくは、第一の核移植工程に用いられる。それは第二の導入工程に用いてもよい。
【0061】
本発明の第七の側面は、クローン性の多能性または全能性細胞(クローン性の多能性または全能性細胞集団を含む)を得るための方法であって、トランスジェニック胚またはトランスジェニック胎児、またはこのような胚または胎児から発生した成体から得たの細胞を、本発明の第四の側面に従って培養することを含む。第一から第六の側面の好ましい特徴は、この第七の側面にも適用される。
本発明のこの側面において、「多能性」および「全能性」の用語は、適切な刺激の下で、成体動物において示される幾つか(多能性)または全て(全能性)のタイプの組織に分化できる細胞の能力を意味する。
本発明の第八の側面は、本発明の第七の側面に従う方法によって得られた、多能性または全能性のクローン性細胞または細胞集団を提供する。第一から第7の側面の好ましい特徴は、この第八の側面にも適用される。
【0062】
本発明の第九の側面は、体細胞の遺伝物質を、該細胞の全能性を維持しながら改変する方法を提供する。この方法は、遺伝子ターゲッティング事象を含む。第一から第八の側面の好ましい特徴は、この第九の側面にも適用される。
本発明のこの側面において、「細胞の全能性」は、核移植の成功を支援するために、当該細胞の核の能力が影響されない能力を言う。
【0063】
本発明の第十の側面は、遺伝子ターゲッティング事象に先立つ、遺伝子発現の人工的誘導またはクロマチン変化の誘導の使用に関する。遺伝子ターゲッティング事象は、体細胞、生殖系細胞、ES細胞およびEG細胞を含む如何なる細胞でのものであってもよい。本発明のこの側面は、遺伝子発現の人工的誘導または細胞内におけるクロマチン変化の誘導を含み、何れも遺伝子ターゲッティングを可能にし、またはその頻度を増大させるものである。遺伝子ターゲッティングは、遺伝子発現の人工的誘導によって、または細胞内におけるクロマチン変化の誘導によって容易になる。クロマチン変化の誘導は、遺伝子ターゲッティングの前に、開いたクロマチン構造および/または標的遺伝子座での遺伝子発現を誘導するために、ヒストンの脱アセチル化を阻害する薬剤(例えば酪酸ナトリウムまたはトリコスタチンA)の使用を含む。遺伝子発現の人工的誘導は、好ましくは、適切な転写アクチベータの使用を含む。このようなアクチベータは、宿主細胞内で発現される「因子」であってよい。
細胞内における遺伝子ターゲッティングを可能にし、またはその頻度を増大させる、遺伝子発現の人工的誘導またはクロマチン変化の誘導に関する詳細は、このテキストにおいて後で説明する。このテキストで説明遺伝子ターゲッティングに関する全ての詳細は、それが体細胞だけでなく、生殖系細胞、ES細胞およびEG細胞にも関連する限り、本発明の第十の側面に含まれる。
【0064】
本発明の第十の側面は、核移植との組合せにおいて、何れかの細胞タイプにおける遺伝子発現の人工的誘導、またはクロマチン変化の誘導を含む。従って、本発明の第十の側面は、核移植のための何れかの細胞タイプを作製する方法であって、遺伝子ターゲッティングを容易にするための遺伝子発現の人工的誘導またはクロマチン変化の誘導を含んだ方法を包含する。また、このような方法は任意に、細胞から適切なレシピエント細胞への遺伝材料の導入(即ち、核移植工程)を含んでもよい。この方法は、クローン性の全能性もしくは多能性の細胞および/またはトランスジェニック胚もしくは動物を作製するために使用してもよい。この全能性もしくは多能性の細胞は、核移植後の細胞、または作製された胚または動物から直接得てもよい。第一から第九の側面の好ましい特徴は、第十の側面にも適用される。
【0065】
本発明の第十一の側面は、遺伝子ターゲッティングの位置による遺伝子変化を試験するための、遺伝子ターゲッティング事象後の細胞から得られた動物の使用を提供する。第一から第十の側面の好ましい特徴は、第十一の側面にも適用される。
本発明のこの側面に従えば、選択された細胞(またはそのポピュレーション)は遺伝子ターゲッティング事象を受ける。該遺伝子ターゲッティング事象は、本発明の第一の側面に従って説明した通りである。次いで、細胞を操作して動物を与える。この細胞は体細胞または非体細胞であってよい。体細胞の場合、動物を再生するために使用される方法は、好ましくは核移植であり、体細胞は好ましくは初代体細胞である。細胞は繊維芽細胞であってよい。核移植に関する詳細は上記で説明されており、参照文献はこのテキストの導入部分に与えられている。細胞が体細胞以外(例えばES細胞またはEG細胞)である場合、動物を再生する方法は、核移植または他の方法を含んでいてもよい。このような他の方法には、胚盤胞注入および遺伝子ターゲッティング:実際的アプローチ、Ed. Joner, A.L., Oxford University Press, 1992 、またはStewart, Dev. Biol. 161, 626-628, 1994に記載されたたものが含まれる。
【0066】
動物の発現型は、遺伝子ターゲッティング事象の望ましい効果が達成されたかどうか、または遺伝子ターゲッティング事象が何等かの有害な効果を生じたかどうかを反映し、これらは遺伝子ターゲッティングの位置による一以上の遺伝子変化である可能性がある。このような有害な効果は、内在性遺伝子の破壊、発癌遺伝子の活性化などを含む可能性があり、また動物に生理学的問題が現れる可能性がある。最も深刻で有害な効果には、先天性の障害および腫瘍形成頻度の増大が含まれる。これらの効果は、クローン的に同一な一組の動物における一貫した同じ問題の発生によって容易に同定することができる。
作製された動物(好ましくは生きて誕生した動物)は、遺伝子改変によって何らかの有害な効果が生じたかどうかを決定するために使用される。観察された何れか一以上の特定の有害な効果は、動物の生理または発生能力に対する悪影響を伴わずに、導入遺伝子の発現を支持する能力に基づいて、特定の遺伝子座が導入遺伝子を配置するための部位として適切であるかどうかを決定するために使用することができる。適切さの決定は結局のところ、当該遺伝子座に遺伝子ターゲッティングされた細胞の、提案された使用に依存する。遺伝子座がヒトの遺伝子療法で細胞を改変するために使用される場合、如何なる有害な効果も最小限にしなければならず、且つ所望の細胞タイプ(例えば、移植用)に現れてはならない。
【0067】
本発明の第十一の側面に従えば、遺伝子変化を試験するための動物の使用は、体細胞および非体細胞に関連し得る。非体細胞には、ES細胞およびEG細胞が含まれる。体細胞は、本発明の第一の側面に従って説明したものが含まれる。この細胞は、何れかの動物、特に哺乳動物由来であればよい。それらは、動物から直接的または間接的に誘導すればよい。間接的誘導には、幹細胞分化または治療的クローニングによるものが含まれる。本発明の第十一の側面と共に使用するための細胞は、ヒト細胞ではない。この細胞は遺伝子改変、核移植および動物の作製における容易な操作を可能にする動物から適切に誘導される。それは適切な遺伝子座の決定を可能にする作製された動物であるから、好ましい動物は、齧歯類(マウスを含む)ヒツジ、およびウシのような、核移植によってかかる手法のために共通に取扱われるものであればよい。
【0068】
本発明の第十二の側面は、ターゲッティング遺伝子療法のための遺伝子座を確認する方法であって、
−選択されたタイプの細胞を得ることと;
−選択された遺伝子座に望ましい遺伝子変化を導入することと;
−ターゲッティングされる細胞のクローン性ポピュレーションを増殖させることと;
−動物の生産によって、前記遺伝子変化が許容可能であることを立証することを含む方法を提供する。
【0069】
細胞は、本発明の第十一の側面について説明したものであってよい。立証は、好ましくは生きた誕生した動物の作製を含む。本発明の第十一の側面に従って上記で説明したように、動物を作製するプロセスは、遺伝子ターゲッティングに使用する細胞に依存する可能性がある。動物を作製するプロセスは、核移植または他の何れかの方法を含み得る。例えば、第一の例では、ES細胞またはEG細胞からキメラ動物を作製し、続いて、元のES細胞またはEG細胞からの親の遺伝子寄与が全ての細胞に存在する第二世代の動物を作製してもよい。第一から第十一の側面の好ましい特徴は、第十二の側面にも適用される。
遺伝子変化が許容可能であるかどうかの決定は、(本発明の第十一の側面について説明したように)当該遺伝子座でターゲッティングされた何れかの細胞の所期の用途に依存するであろう。好ましくは、遺伝的変化は、標的細胞のゲノムに対して予測不能または望ましくない影響を生じないものである。これは、健康で生きた誕生した動物に反映される。
本発明の第十三の側面は、本発明の第十二の側面に従って同定可能な、確認された遺伝子座を提供する。このような遺伝子座は、一旦同定されると、トランスジェニック動物の作製または以下に記載する遺伝子療法を含む如何なる方法にも使用できる。
【0070】
本発明の全ての側面について、二以上の遺伝子ターゲッティング事象が生じてもよいことは明かである。例えば、一つの初代細胞において、遺伝物質を除去または不活性化する遺伝子ターゲッティング事象、および導入遺伝子を導入するターゲッティング事象が存在してよい。また、三つ以上の遺伝子ターゲッティング事象も想定される。二以上の遺伝子ターゲッティング事象が、同じ継代世代または異なる継代世代において同時に、引き続いて、または連続的に起きる可能性がある。或いは、第二のまたは更なる遺伝子ターゲッティング事象は、本発明に従って元の体細胞から発生した胚、胎児または成体由来の細胞において生じてもよい。
【0071】
核移植による胚の再構築および生存する子孫作製のプロセスは、多工程からなる方法であり、次にその夫々の工程につてい説明する。また、本発明による遺伝子ターゲッティング法に関する更なる詳細を説明する。加えて、このテキストでは以下の用語が言及され、その完全な表現をここに記載する
ES細胞: 胚性幹細胞
EG細胞: 胚性生殖細胞
MII: 分裂中期II
PCR: ポリメラーゼ連鎖反応
HR: 相同組換え
AAV: アデノ関連ウイルス
DAF: 崩壊促進因子
MCP: 膜共因子タンパク質
CD59: 反応性溶解の膜阻害剤
HPRT: ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ
gpt: キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ
LIF: 白血病阻害因子
GFP: 緑色蛍光タンパク質
IRES: 内部リボゾームエントリー部位
AAT: アルファ1坑トリプシン
BLG: ベータラクトグロブリン
A1,3GT: α1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ。
【0072】
<レシピエント細胞または細胞質体>
卵母細胞、受精接合体、および二細胞胚が核移植のための細胞質体レシピエントとして使用されている。一般には、第二減数分裂の中期で停止した卵母細胞(未受精卵、またはMII卵母細胞)が、選択される細胞質体になってきている。卵母細胞発生のこの時点において、遺伝物質は減数分裂紡錘体上に配置され、機械的手段を用いて容易に除去される。幾つかの報告は、成熟の際、即ち、二重小胞段階(第一減数分裂の前期)と第二減数分裂の停止した中期との間でゲノムDNAを除去でき、得られた原形質体は核移植に使用できることを示している(Kato et al., Mol Reprod Dev 36, 276-8, 1993)。マウス(Kwon et al., Proc Natl Acad Sci USA, 93, 13010-3, 1996)、ウシ(Prather et al., J.Reprod Fertil Suppl 41, 1990)、およびブタ(Prather et al., Biol. Reprod. 41, 414-8, 1989)において、細胞質体レシピエントとしての受精接合体の使用が報告されている。ウシおよびブタにおいて、細胞質体レシピエントに接合体を使用して再構築された胚の発生は低く、また総じて前核の交換に限定されていて、発生の成功に不可欠の因子が前核と共に除去されることを示唆している。
【0073】
<ゲノム遺伝物質の除去による細胞質体レシピエントの調製>
一般に、このプロセスは除核と称されている。利用される大部分のレシピエントにおいて、ゲノムDNAは除去の時点で核膜内に囲まれていない。「除核」の用語で記述される本発明に従う遺伝物質の除去は、遺伝物質が核膜内に存在することを必要としない(存在しても存在しなくてもよく、または一部存在してもよい)。除核は、(レシピエント細胞に応じて)核、前核もしくは中期板を実際に除去することにより物理的に達成してもよく、または紫外線照射もしくは他の除核影響の適用のように、機能的に達成してもよい。遺伝物質の除去は、物理的または化学的手段によって可能である。核移植の所期の報告では、MII卵母細胞は、その一方の1/2が遺伝物質を含んでおり他方は含んでいないということに基づいて、単純に半分に切断された。この方法は、除去される卵母細胞の容積を減少するために改変された。これは、少量の細胞質を、ガラスマイクロピペットを用いて第一核体の下から直接吸引することによって、またはナイフを用いて極体の下の卵母細胞部分を除去することにより達成できる。卵母細胞の柔軟性を促進するために、細胞骨格を破壊するサイトカラシンBまたは他の薬剤で前処理してもよい。
【0074】
物理的除核とは対照的に、化学的処理はマウスにおける遺伝物質の完全な除去を生じることが示されている。トポイソメラーゼ阻害剤であるエクトポシドを用いた成熟卵母細胞の処理は、第一極体と共に全ての遺伝物質の排除を生じるが(Elsheikh et al., Jpn J Vet Res 45, 217-20, 1998)、この方法により作製された細胞質体レシピエントを用いた分娩までの発生は報告されておらず、また他の種におけるこの方法の報告も存在しない。サイトカラシンBを用いた処理と組合せたMII卵母細胞の遠心は、ハムスター卵母細胞およびウシ卵母細胞の除核を生じることが報告されている(Tathan et al., Hum Reprod 11, 1499-503, 1996)。このような細胞質体から再構築された胚の発生が報告されているが、発生の頻度は低い。
接合体を使用するときは、両方の前核の機械的吸引によって遺伝物質を除去すればよい。種に応じて、前核の可視化を容易にするために、除核の前に接合体を遠心してもよい。
【0075】
<遺伝物質の導入(胚の再構築)>
適切なレシピエント細胞または細胞質体を調製した後に、ドナー遺伝物質を導入しなければならない。下記を含む種々の技術が報告されている。
1.化学的、ウイルス的、または電気的手段により誘導される細胞融合。
2.何れかの方法による完全な細胞の注入。
3.溶解または損傷された細胞の注入。
4.核の注入。
何れかの種または種の組み合わせにおいて、これら方法の何れかを、個々のプロトコールに幾つかの修正を加えて使用すればよい。
【0076】
<再構築された胚の活性化>
核体由来のドナー遺伝物質の細胞質体への導入に加えて、発生を開始するためには細胞質体を刺激しなければならない。受精接合体を細胞質体レシピエントとして使用するときは、受精時の静止の侵入によって発生は既に開始されている。MII卵母細胞を細胞質体レシピエントとして使用するときは、該卵母細胞を他の刺激によって活性化しなければならない。卵母細胞の活性化を誘導し、初期胚発生を促進する種々の処理が報告されており、これらの処理にはDC電気刺激の印加、エタノール、イオノマイシン、イノシトール三リン酸(IP3)、カルシウムイオノホアA2387での処理、精子抽出物での処理、または卵母細胞内へのカルシウムの侵入もしくは内部保存カルシウムの放出を誘導して発生の開始を生じる他の何れかの処理が含まれるが、これらに限定されない。加えて、同時または異なる時点でのこれら処理の何れかの組合せ、またはタンパク質合成阻害剤(即ち、シクロヘキシミドまたはプロマイシン)もしくはセリンスレオニンタンパク質キナーゼ阻害剤(即ち、6-DMAP)との組合せを適用してもよい。
【0077】
<再構築された胚の培養>
核移植で再構築された胚は、最終レシピエントへの移植に適した段階まで、何れかの適切な培地または培養プロセスを使用してin vitroで培養すればよい。この再構築された胚は、さもなくば、それらをクローン化された全能性もしくは多能性細胞の作製に使用するまで、本発明の第二の側面に従ってin vitroで培養してもよい。或いは、動物を分娩まで成長させるための最終代理母レシピエントへの移植に適した段階に達するまで、適切な宿主動物(一般にはヒツジ)の結紮した輸卵管内において、胚をin vivoで培養してもよい。ウシ、ヒツジおよび他の種に由来する胚は、トランス種レシピエント内で培養してもよい。単純化して言えば、ヒツジはウシ、ヒツジおよびブタ種のための適切なレシピエントを与える。暫定レシピエントの輸卵管内にある間、再構築された胚への機械的損傷またはマクロファージによる攻撃を防止するために、胚は、寒天または同様の材料の保護層の中に埋め込まれる。
【0078】
<遺伝子ターゲッティングおよび胚性幹細胞>
外来DNA構築物と同族染色体配列との間の相同組換えによる遺伝子ターゲッティングは、ゲノムにおける予め定められた部位での正確な改変を可能にする。遺伝子ターゲッティングは、マウス胚性幹(ES)細胞において充分に確立されており、多くのマウス遺伝子の改変を行うために使用されている(Brandon et al., Curr. Biol. 5, 625-634, 758-765, 873-881, 1995に要約されている)。これは、ES細胞におけるin vitroで操作された遺伝子改変の完全体マウスへの導入を容易にすること、およびその結果として遺伝子ターゲッティング研究を容易にすることによって促進される(Paraioannou and Johnson, In: 遺伝子ターゲッティング: 実際的アプローチ. Ed. Hoyner, A.L. Oxford University Press, 1992、およびRamirez-Solis and Bradley Curr Opin. Biotech. 5, 528-533, 1994に概説あり)。マウスES細胞は初期胚から誘導された多能性細胞であり(Evans et al., Nature 292, 154-156, 1981)、これらはin vitroで成長させ、操作して前移植胚に再導入でき、その場合、これらは生殖細胞を含むキメラ動物の全ての細胞タイプに寄与できる(Robertson, E.J., Ed. 1987、奇形癌種および胚性幹細胞、実際的アプローチ、IRL Press, Oxford)。マウス以外の種、例えば家畜における、遺伝子ターゲッティングによる正確な遺伝子改変工学の潜在的な利益が多回数に亘って記載されている(例えば、Colman and Gamer, Pharmaceutical Forum 5, 4-7, 1996)。これには体液中のヒト治療用タンパク質の製造、疾患予防、必要な生産的形質の増大、細胞に基づく治療、遺伝子治療のための細胞に基づくデリバリー系、組織および臓器移植が含まれるが、これらに限定されない。
【0079】
従って、広範な種からES細胞株を誘導するために極めて多くの努力がなされてきた。しかし、完全なES細胞、即ち、キメラ動物の生殖系に寄与できるものは、マウス以外の如何なる哺乳動物種からも立証されていない。この点に関して、ヒトES細胞の状態(Thomson et al., Science 282, 1145-7, 1998)は、倫理的な制限のために未だ知られていない。ハムスター、ミンク、ヒツジ(Piedrahite et al., Theriogenology 34, 879-901, 1990)、ウシ(Stice et al., Biol. Reprod. 54, 100-110, 1996)、ブタ(Gerfen et al., Anim. Biotechnol. 6, 1-14, 1995)、およびアカゲザル(Thomson et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92, 7844-7848, 1995)由来のES細胞、または、ES様細胞の報告がある。これら全ての場合において、更に制限された「適切なin vitro条件で少なくとも三つの異なる系統に沿って分化できる細胞」の定義が、誘導された細胞がES細胞に相当するとの主張を支持するために使用されてきた。ブタ(Wheeler, Reprod. Gertil. Dev. 6, 1-6, 1994)およびラットのキメラの作製もまた報告されているが、何れの場合も、生殖系に対するES細胞の寄与は示されていない。
【0080】
胚性生殖(EG)細胞は、ES細胞に対して機能的に等価な未分化の細胞であり、それらはin vitroで培養および形質導入でき、次いで、キメラの体細胞系統および生殖細胞系統に寄与することができる。EG細胞は、成長因子類(白血病阻害因子、スチール因子および塩基性繊維芽細胞成長因子)の組合せと共に、始原生殖細胞、配偶子の子孫の培養体から誘導される(Matsui et al., Cell 70, 841-847, 1992; Resnick et al., Nature 359, 550-51, 1992)。
ウシ(Chemy, et al., Theriogenology 41, 175, 1994; Stokes, et al., Theriogenology 41, 303, 1994)、ブタ(Shim, et al., Biol. Reprod. 57, 1089-1095, 1997; Piedrahita et al., Biol. Teprod. 58, 1321-1329, 1998)およびラット(Mitani, et al., Theriogenology 41, 258, 1994)において、始原生殖細胞からEG株を単離するための幾つかの試みが成されている。培養EG細胞の胚盤胞注入によって、妊娠中期のキメラウシ胚の産生が導かれた(Stokes, Theriogenology 41, 303, 1994)。更に最近では、遺伝子操作されたEG細胞(Piedrahita, et al., Biol. Reprod. 58, 1321-1329, 1998)および正常EG細胞(Shim, et al., Biol. Reprod. 57, 1089-1095, 1997)から、雄キメラ子ブタが作製された。何れの場合も、試験に寄与したEG細胞が検出された。不運なことに、一匹の動物は死産であり、他の動物は生長できずに屠殺されたので、このアプローチの生殖系列伝達を達成する能力は確立できなかった。
しかし、完全に機能的な大きい動物のES細胞またはEG細胞がないことは、Schnieke et al.(上記で挙げた文献)によって示されたように、培養中の体細胞に対する遺伝子改変を可能にする核移植の開発、およびこれらの細胞を完全な動物を作製するための核ドナーとして使用することよって補われた。
【0081】
<体細胞における遺伝子ターゲッティング>
体細胞における遺伝子ターゲッティングに関しては、非常に少ない研究しか存在しない。遺伝子ターゲッティングされたクローンを誘導できる効率は、相同組換え(HR)事象の頻度およびランダム組込み事象の頻度の関数である。全ての哺乳動物細胞タイプにおいて、HR事象の頻度はランダム事象よりも顕著に低い。HR事象をランダム組込み事象のバックグラウンドから区別することは、遺伝子ターゲッティングされたクローンの単離に対する主な障害を提示する。公表された実験の結果は、体細胞において遺伝子ターゲッティングが起るのは稀であり、ランダム事象に対するHRの予測比率は、繊維肉腫での1:50または1:230(Itzhaki et al., Nat. Gene. 15, 258-265, 1997)、骨髄性白血病細胞での1:241(Natl. Acad. Sci. USA 90, 9832-9836, 1993)、膀胱癌での1:1000(Smithies et al., Nature 317, 230-234, 1985)から、赤白血球/リンパ芽球融合細胞での1:9700(Shesely et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88, 4294-4298, 1991)の範囲であることを示している。しかし、これらのデータは不死化細胞株の範囲から得られたものであり、異なる遺伝子ターゲッティング構築物を用いた異なる遺伝子座のターゲッティングを記載したものである。
【0082】
同じ構築物を使用して同じ遺伝子座をターゲッティングした少数の例において、比較可能なデータは、ランダム組込み事象に対するHRの比率は体細胞において著しく低い可能性があることを示している(Arbones et al., Nat. Genet. 6, 90-97, 1994)。B細胞のような免疫系の遺伝子組換え細胞は、特別の例外に相当する(Buerstedde et al., Cell 67, 179-188, 1991; Takata, M. et al., EMBO J. 13, 1341-1349, 1994)。
不死化細胞と初代体細胞との間での相同組換えの頻度の比較は、初代細胞では不死化細胞株におけるよりも相同組換えの頻度が低いことを示している(Finn et al., Mol. Cell. Biol. 9, 4009-4017, 1989; Thyagarajan et al., Nuc. Acid. Res. 24, 4084-4091, 1996)。不死化細胞は発生を支持しないかも知れず、または得られた動物において腫瘍を導き得る危険性のために、核ドナーとしては正常な正倍数体の非不死化細胞が好ましいので、このことは核移植による動物の作製にとって重要である。
【0083】
相同組換えの頻度が低いことの望ましくない結果として、遺伝子ターゲッティングされた細胞クローンの誘導を保証するために、選択された細胞タイプの大きなポピュレーションをトランスフェクトおよびスクリーニングすることが必要とされる。ES細胞およびEG細胞は長時間の培養を受けることができ、しかも完全な動物を誘導するために使用できるが、初代細胞は、培養中の寿命が制限され、またin vitroで生じる遺伝子変化によって、それらの核ドナーとしての能力が低下する可能性がある。これにより、高いバックグラウンドのランダム形質導入体の中から遺伝子ターゲッティングされた細胞クローンの同定を可能にするための、培養中の増殖および長期間の培養による初代細胞の大ポピュレーションの提供が妨げられる。従って、初代細胞での遺伝子ターゲッティングが実際に生じたとしても、その頻度は遺伝子ターゲッティングされた細胞クローンを実際に使用して、核移植による完全な動物の誘導を可能にするには低すぎるであろうとの予測が存在した。
【0084】
<遺伝子ターゲッティングの頻度に影響する因子>
遺伝子ターゲッティングの頻度に影響するものとして、数多くの因子が同定されている。上記で述べたように、体細胞でのターゲッティングに重要な因子に関する入手可能なデータは、ES細胞の場合よりも少ししか存在しない。
体細胞における遺伝子ターゲッティングの頻度は、ターゲッティングベクターにおける相同性領域の長さと共に劇的に増大することが示されている(Scheerer, et al., Mol. Cell. Biol. 14, 6663-6673, 1994)。
宿主細胞に対して同質遺伝子的なDNAの使用は、胚性幹細胞における遺伝子ターゲッティングの頻度を改善することが示されている(Deng et al., Mol. Cell. Biol. 12, 3365-3371, 1992; te Tiele et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89, 5128-5132, 1992)。しかし、これは体細胞では研究されていない。
【0085】
相同組換えの頻度に対する標的遺伝子の転写の影響は、幾つかの論争の主題である。遺伝子ターゲッティングの初期の幾つかの報告は、ターゲッティング改変は、使用した細胞タイプにおいて不活性である遺伝子に対して行われたターゲッティング改変を例示した(Smithies et al., Nature 317, 230-234, 1985; Johnson, et al., Science 245, 1234-1236, 1989)。しかし、遺伝子が活発に転写されるときは、それが不活性であるときよりも、遺伝子座における相同組換えはより頻繁であることが提案されている(Nickolof et al., Mol. Cell. Biol. 10, 4837-4845, 1990; Thyagarajan et al., Nucleic Acids Res. 23, 2784-2790, 1995)。ヒトHT1080細胞における遺伝子ターゲッティングの頻度と、インターフェロン誘導性の6〜16個の遺伝子転写状態との間の相関がなかったと報告したYanezおよびPorter(Gene Therapy, 5, 149-159, 1998)はこの提案に反論した。
【0086】
標的遺伝子座における二本鎖の破壊の存在は、CHO細胞における遺伝子ターゲッティングを刺激することが示されたが(Liang et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93, 8929-8933, 1996)、マウスLtk-細胞では示されなかった(Lukacsovich et al., Nuc. Acids Res. 22, 5649-5657, 1994)。しかし、二本鎖破壊は、CHO細胞において非正統的組換えのレベルを刺激することも示されている(Sargent et al., Mol. Cell Biol. 17, 267-277, 1997)。遺伝子異常を導入する結果としての危険は、このアプローチの核移植用細胞にとっての有用性を低減する。また、これはDNA損傷の導入(例えば化学的発癌物質、UV照射、γ線および光反応性分子)により相同組換えを刺激する他の方法にも適用される(Yanez and Porter, Gene Therapy, 5, 149-159, 1998による概説あり)。
遺伝子ターゲッティングを達成するためには、ベクターDNAは、エレクトロポレーション、最近ではマイクロインジェクションによって宿主細胞に導入されるべきであることが、当該分やの研究者によって広く認識されている。遺伝子ターゲッティングを記載した広範な文献の調査(Brandon et al., 前掲に要約されている)は、エレクトロポレーションが当該技術で遥かに好まれる方法であることを示している。
【0087】
また、この技術は、遺伝子ターゲッティングベクターを宿主細胞に導入する前に線形化すると、遺伝子他―ゲティングの頻度を劇的に増大させることを教示している(Yanez and Porter, 前掲)。ここでも、遺伝子ターゲッティングを記載した文献の調査は、遺伝子ターゲッティングベクターを線形で使用することを指示している。従って、体細胞の全ての標的遺伝子座について、体細胞における遺伝子ターゲッティングのためには線形DNAの使用が要求されるであろうと予測された。
Yanez and Porter(前掲)は、相同組換えの比率に影響する他の因子についても検討している。これには、宿主培養の成長条件、宿主細胞の細胞周期段階、線形化したトランスフェクトDNAの末端の改変、MSH2遺伝子の不活性化、およびポリADPリボースポリメラーゼ酵素活性の阻害が含まれる。
【0088】
<遺伝子ターゲッティング事象を富化および同定する方法>
恐らくは稀な遺伝子ターゲッティング事象を含む細胞を富化でき、または形質導入されたポピュレーションから識別できる幾つかの方法が存在する。
トランスフェクタントを複数のプールに分割し、典型的にはポリメラーゼ連鎖反応によって、各プールにおける標的クローンの存在をスクリーニングすることができる。次いで、陽性プールを次々に副分割し、単一クローンが単離されるまで再スクリーニングする(Shesely, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88, 4294-4298)。しかし、先に述べたように、反復精製は培養時間を延長するから、このようなスキームは核移植用の初代細胞には適さない。長期の培養では、初代細胞が静止状態になり、また遺伝子異常を生じるので望ましくない。
培養に費やす時間を増大することなくターゲッティング頻度を最大にし、ターゲッティングされたクローンの選別を可能にする遺伝子ターゲッティングベクターの使用は、核移植用の細胞に更に適している。エンハンサートラップ、プロモータトラップおよびポリアデニル化トラップのような遺伝子ターゲッティング戦略は、Hasty and Hradley(In: 遺伝子ターゲッテイング:実際的なアプローチ、Ed. Joyner, A.L. Oxford University Press, 1992)によって詳細に説明されている。
【0089】
<他の遺伝子ターゲッティング方法>
リンパ芽球細胞におけるβグロブリン遺伝子(Cole-Strauss, Science 273, 1386-1389, 1996)およびin vitroおよびin vivoでの第IX因子遺伝子(Kren, et al., Nature Med. 4, 285-290, 1998)をターゲッティングするための、キメラRNA/DNAオリゴヌクレオチドを用いた非常に高率の相同組換えが報告されている。不運なことに、この技術は導入が容易でなく、また他の研究者はこれを彼等の選択した遺伝子に適用するのに失敗した(Strauss, Nature Medicine 4, 274-275, 1998)。
また、アデノ関連ウイルス(AAV)に基づく遺伝子ターゲッティングベクターを用いて、高いターゲッティング頻度が観察されている。Russell et al.(Nature Genetics 18, 325-330, 1998)は、13の形質導入された初代ヒト繊維芽細胞のうちの11が、正しくターゲッティングされたヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子を有していたことを報告した。
これら二つの方法はいずれも、標的遺伝子座において数個のヌクレオチド変化を生じ得るだけ過ぎないので、操作できる改変のタイプには制限がある。これは、例えば停止コドンの挿入による遺伝子の不活性化、または個別のアミノ酸の置換による僅かな改変を可能にするが、遺伝子置換または導入遺伝子配置のために必要な大きな領域の挿入または置換を可能にするものではない。
【0090】
このテキストでは、定義された遺伝子座に予め定められた遺伝子改変(「遺伝子修飾」)を有する一方、核移植の後にi)胎児、ii)種々の動物、またはiii)多能性細胞集団の作製を支援する細胞の能力を維持する体細胞の作出、同定および単離を記述する。
この方法は哺乳動物種に適用可能であるが、好ましい種はヒツジ、ウシ(雌ウシおよび雄ウシ)、ヤギ、ブタ、ウマ、ラクダ、ウサギ、齧歯類およびヒトである。本発明は、ヒトの再生産クローニングに関するものではない。本発明はヒト組織細胞をその範囲内に含み、適用可能な場合には、ヒト胚、特に14日齢未満の胚を含む。
好ましくは、遺伝子ターゲッティングは、活性に転写され、または高頻度の遺伝子ターゲッティングを支持できる遺伝子座において、またはこれに隣接して行われる。また、効率的な脂質媒介形質導入システム、例えば「GenePorter」(Gene Therapy Systems社)の使用が好ましい。また、スーパーコイルまたは円環形態の遺伝子ターゲッティングベクターDNAの使用も好ましい。標的遺伝子座に対する長い相同性領域をベクターに含めてもよい。これら好ましい遺伝子ターゲッティング方法の組合せは、本発明の範囲内である。例えば、特に好ましい態様においては、円環形態(緩んだおよび/または超螺旋の)の遺伝子ターゲッティングベクターと組合せた脂質媒介性の形質導入システムは、宿主細胞において、転写活性の弱い遺伝子座での効率的な遺伝子ターゲッティングを達成することができる。
【0091】
多くの体細胞タイプは核移植を支持することができ、従って本発明に適している(例えば、哺乳類上皮細胞、筋肉細胞、胎児繊維芽細胞、成人繊維芽細胞、輸卵管上皮細胞、顆粒細胞および卵丘細胞)。胚性幹細胞およびその分化した誘導体、内非細胞および内皮下細胞を含む多くの他の細胞タイプもまた、核移植を支持するであろう。核移植と組合せた体細胞の遺伝子ターゲッティングは、ES細胞を単独で使用した遺伝子ターゲッティングよりも、更なる融通性を可能にする。ES細胞は、単一パターンの遺伝子発現を示す単一の細胞タイプである。核移植のために利用可能な体細胞の広範な選択性は、問題の遺伝子座が好ましくは転写的に活性であるか、または高頻度の遺伝子ターゲッティングを支持できるような細胞タイプを、遺伝子ターゲッティングのために選択することを可能にする。こうして、相同組換えの頻度を最大にすることができる。
この戦略は、遺伝子ターゲッティングを可能にし、またはその発現頻度を増大させるように、体細胞における遺伝子発現の人工的導入またはクロマチン変化の導入を含むように拡大することができる。クロマチン変化の導入は、ヒストンの脱アセチルを阻害して、遺伝子ターゲッティングの前に標的遺伝子座での開いたクロマチン構造および/または遺伝子発現を誘導する薬剤(例えば、酪酸ナトリウムまたはトリコスタチンA)の使用を含むことができる。
【0092】
<遺伝子発現およびヒストンのアセチル化>
遺伝子活性はコアヒストンのアセチル化と相関し(Jeppeson, Bioessays, 19, 67-74, 1997; Pazin and Kadonaga, Cell 89, 325-328, 1997による概説あり)、またヒストンの脱アセチルが遺伝子転写活性を調節する(Wolffe, et al., Science 272, 371-372, 1996)ことの強力な証拠がある。幾つかの遺伝子について、ヒストン脱アセチラーゼ活性をもったタンパク質が関与した抑制の詳細な機構が解明されている(例えばBrehm et al., Nature 391, 597-601, 1998; Magnagi-Jaulin et al., Nature 391, 601-604, 1998; Javarone et al., Mol. Cell Biol. 19, 916-922, 1999)。酪酸ナトリウムまたはトリコスタチンAのような化学薬剤によるヒストンデアセチラーゼ活性の阻害は、サイレント遺伝子を再活性化させ(Chen et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94, 5798-5803, 1997)、また転写抑制を阻害すること(Brehm et al., Nature 391, 597-601, 1998)が示されている。遺伝子ターゲッティングの頻度に対するヒストンデアセチラーゼ阻害剤の効果は、当該技術において未だ記述されていない。
【0093】
或いは、特定の遺伝子または遺伝子のクラスは、特定の転写アクチベータを使用して活性化させることができる。このような転写アクチベータは「因子」と称されてもよい。例えば、Weintraub et al(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86, 5434-5438, 1989)は、ヒトおよびラットの一次繊維芽細胞が、転写アクチベータのMyoDを形質導入されたときに、種々の筋肉遺伝子のスイッチを入れ、ラット細胞の場合には筋管を形成できることを示している。同様に、Tontonoz et al.(Cell 79, 1147-1156, 1994)は、レギュレータのPPARgおよびC/EBPaが相乗作用して、繊維芽細胞における脂肪生成を強力に促進することを示した。このテキストに記載されたプロトコールに関し、筋肉細胞または脂肪細胞における通常は活性な遺伝子に対するターゲッティングは、上記に記載したタイプの因子の導入によって行うことができる。しかし、転写因子を導入するために使用する方法は、細胞が核移植を支持する能力を損なわないことが重要である。
【0094】
転写因子の発現は、遺伝子ターゲッティングに先立つ発現構築物の一過性形質導入によって達成することができる。細胞の小ポピュレーションだけが、実際に外因性DNAをそれらのゲノムの中に組込むので、標的遺伝子座の遺伝子の活性化を行うように設計されたアクチベータの転写は、遺伝子ターゲッティングの前に発現されることができ、大部分の細胞はDNAを組込まないまま残されるであろう。組込まれた転写アクチベータ構築物DNAの存在または不存在は、個々のクローンおよび核移植のために使用された、組込まれたコピーのない細胞において決定することができる。必要な場合、転写アクチベータ発現構築物の組込まれたコピーは、部位特異的リコンビナーゼ酵素の認識部位、例えばCreのためのloxP部位、またはFLPリコンビナーゼのためのFRT部位に隣接しているときは、これを除去することができる(Kilby et al., Trends in Genetics, 9, 413-421, 1993)。
標的遺伝子座の選択は、当該遺伝子座が高頻度の遺伝子ターゲッティングを支持する能力に基づいて、または当該遺伝子の機能に基づいて行われる。標的遺伝子座での遺伝子ターゲッティングは、標的遺伝子発現が減少もしくは除去され、増大され、または変化せずに残るように行ってよい。遺伝子ターゲッティングは、必ずしも標的遺伝子の機能に影響しなくてもよく、実際に幾つかの状況では、標的遺伝子座の発現および機能は変化しないのが好ましい。
【0095】
初代体細胞の遺伝子ターゲッティングは、標的遺伝子座における遺伝子の不活性化、遺伝子のアップレギュレーション、遺伝子の改変、遺伝子の置換または導入遺伝子の配置を達成するように行われる。好ましい標的遺伝子座および改変の例には下記のものが含まれるが、これらに限定されない。
1.下記の遺伝子の不活性化、除去または改変:
―ヒトに対して異種反応性である抗原の存在の原因である遺伝子(例えば、α-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ);
―プリオンタンパク質およびその非ヒト動物における対応物の産生の原因であるPrP遺伝子座;
―ヒトにおける遺伝子病の原因であり、改変、不活性化、または欠失した形態が当該疾患の動物におけるモデルを提供できる遺伝子、例えば、嚢胞性繊維症膜貫通コンダクタンスレギュレータ遺伝子;
―1以上の遺伝子の発現を変化させるための調節領域または遺伝子、例えば、主要組織適合性クラスII分子の調節の原因であるRFXトランス活性化因子遺伝子;
―内在性ウイルス配列;
―食物不寛容性またはアレルギーを誘発する物質の原因である遺伝子;
―非ヒト動物において、糖タンパク質の特別な糖鎖残基の存在の原因である遺伝子、例えばシチジンモノホスホ-N-アセチルノイラミン酸ヒドロキシラーゼ遺伝子;
―免疫グロブリン遺伝子の体細胞再構成に関与する遺伝子、例えばRAG1、RAG2。
【0096】
2.下記遺伝子のアップレギュレーション:
―補体媒介性溶解の原因である遺伝子(例えばブタCD59、DAF、MCP);
―遺伝子発現の実験的調節を可能にする応答要素の導入により発現する遺伝子。
3.遺伝子置換:
―血液成分(例えば血清アルブミン)の産生に関与する遺伝子の、それらのヒト対応物による置換;
―食物不寛容性またはアレルギーを誘発する物質の原因である遺伝子の、より良好な(例えばヒトの)対応物による置換;
―免疫グロブリン遺伝子の、ヒト対応物による置換;
―表面抗原の原因である遺伝子の、ヒト対応物による置換。
4.予め定められた遺伝子座における導入遺伝子への配置:
―有利な導入遺伝子発現を与え得る遺伝子座への導入遺伝子の配置
―導入遺伝子を内在性調節領域の制御下に置く部位への導入遺伝子の配置。
【0097】
遺伝子ターゲッティングベクターおよび実験的方法は、ターゲッティング事象を有する初代細胞クローンを同定、単離、分析および増殖するために必要な時間が最小になるように設計される。培養時間の減少は、核ドナーとして使用される細胞が生存し、正常で且つ正倍数体である可能性を増大させるから、これは本発明の重要な側面である。核移植の結果に対して有害な、初代細胞のin vitro培養に関連して認識されたリスクには、制限された寿命による老化、遺伝子損傷の発生、染色体の正常な補体の喪失、および染色体テロマーの迅速な浸蝕が含まれる。
培養時間を最小にするために任意に採用し得る予防措置には、下記のものが含まれる:
1.可能な最も早い段階における、核ドナーとして使用するための細胞サンプルの冷凍保存;
2.ランダム組込みに対して、相同組換えの直接の選択または同定を可能にする遺伝子ターゲッティングベクターの使用;
3.初代細胞が被る代謝的傷害を低減するように設計された培養条件の使用。例えば、低酸素雰囲気または坑酸化剤の使用により、酸化的損傷範囲を最小にする。しかし、本発明はこのような条件の使用に限定されない。
【0098】
プロモータトラップ、またはポリアデニル化トラップ戦略の使用(Hasty and Bradley; In: 遺伝子ターゲッティング: 実際的アプローチ. Ed. Hoyner, A.L. Oxford University Press, 1992による概説あり)は、本発明の好ましい態様である。夫々の場合に、遺伝子ターゲッティングベクターは、遺伝子ターゲッティングベクターと標的遺伝子座との間の相同組換えがマーカー遺伝子を活性にする一方、大部分のランダムな組込みにおいてそれが不活性であるように設計される。マーカー遺伝子は、薬剤(例えば、ネオマイシン、G418、ヒグロマイシン、ゼオシン、ブラスチシジン、ヒスチジモール)に対する耐性を与える遺伝子、または他の選択マーカー(たとえばHPRT、gpt)、可視マーカー(例えばGFP)、または他の選択システム(例えば単鎖抗体/ハプテンシステム:Griffiths et al., Nature 312, 271-275, 1984)を含むことができる。逆に、相同組換えが負の選別マーカー遺伝子の除去をもたらすように、戦略を設計してもよい。例えば、正確にターゲッティングされた細胞において、部位特異的リコンビナーゼ遺伝子、例えばCreまたはFLPリコンビナーゼ(Kilby et al., Trends in Genetics 9, 413-421, 1993)が、例えばプロモータまたはポリアデニル化トラップによって活性化され、またリコンビナーゼが適切な認識部位(例えばloxPまたはFRT部位)に隣接したトキシン遺伝子の欠失を生じるように、ベクターを設計することができるであろう。
【0099】
遺伝子ターゲッティングベクターは、ランダム組換え事象に対する相同性ターゲッティングの頻度を最大にするように設計される。これは、標的遺伝子座に対して相同的なDNAの大きな領域を、遺伝子ターゲッティングベクターの中に組込むことによって達成される。これらの相同異性領域のサイズを最大にするのが望ましいが、実際には、これは構築物作製の制約、および信頼性の要求、ターゲッティング事象を同定するための単純な遺伝子スクリーン(例えば、PCR増幅)によって制限される。遺伝子ターゲッティングベクターにおける相同性DNAは、それが宿主細胞または同じ個体の他の細胞に由来するものであっても、そうでなくてもよい点において、宿主細胞に対して同質遺伝子系であってもよく、そうでなくてもよい。
遺伝子ターゲッティングは、導入遺伝子が選択マーカー遺伝子と共に、標的遺伝子座に共組込みされるように行うことができる。これは、導入遺伝子の高い発現を達成するのに適した部位を提供するために使用できるであろう。本発明の好ましい態様は、トランスジェニック動物の乳の中に外来タンパク質を発現させるように設計された導入遺伝子を、乳腺における豊富な発現を支持することが知られ、または予測される遺伝子座に配置することである。これは、例えば、乳タンパク遺伝子の内在性プロモータに隣接させて、構造遺伝子を配置することにより達成することができる。
【0100】
もう一つの例は、コラーゲン遺伝子の内在性プロモータに隣接させて遺伝子を配置することである。マーカー遺伝子が最終的な動物において望ましくない場合、それが組換え認識部位に隣接しているならば、特異的組換えシステム、例えば、Cre/loxP系、またはFLP/FRT系(Kilby et al., 前掲)の作用によってそれを除去すればよい。マーカー遺伝子の除去は、核移植の前の細胞において、または核移植により作製された動物(胎児を含む)から誘導された細胞において、或いは遺伝子改変を有し且つ核移植により作製された動物で開始され、または核移植によって誘導された動物のその後の交配の際に開始された系統からの卵母細胞、接合体もしくは胚において行ってもよい。Creリコンビナーゼを特異的に活性化して、雄配偶子を産生の際の組換えを行うために使用できる方法は、O'Gorman et al.(Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 94, 14602-14607, 1997)によって記述されている。
【0101】
核移植の前の細胞において、または核移植により作製された動物由来の細胞において、多ラウンドの遺伝子ターゲッティングを行ってもよい。遺伝子座の再ターゲッティングは、最初のラウンドのターゲッティングにマーカー遺伝子を含めることによって容易にしてもよく、その結果、その後のターゲッティングのときの該マーカー遺伝子の喪失によって、後続のターゲッティング事象を有するクローンの容易な同定または選別が可能になる。
先に述べたように、本発明の一部は、ゲノムにターゲッティングされた改変を含む動物の作出を提供する。ゲノムの全ての領域が改変に適した部位ではない。何故なら、それらがヘテロクロマチンに見られるような遺伝子サイレンシング要素に近接しているためであり、或いは、一定の部位に対する改変は内在性遺伝子発現に対して破壊的な影響を有する可能性があるからである。これらの潜在的に望ましくない結果は、核移植プロセスから得られる動物、特にターゲッティングされた遺伝子座においてホモ接合の動物で試験することができる。これは、戻し交配によって、または同じターゲッティングが両方の対立遺伝子で達成されている核ドナーを使用することによって、達成することができる。本発明の好ましい態様のかなりの部分は、遺伝子改変の好ましい部位としての標的遺伝子座の確認であることが請求されており、これは付帯的な遺伝子損傷がないこと、および核移植動物において試験したときの良好なレベルの導入遺伝子発現を与える能力のためである。このような確認は、ex vivoでの遺伝子治療を想定したときには極めて価値があるであろう。
【0102】
<ex vivo遺伝子療法>
ex vivo遺伝子療法は、治療的遺伝子産物を患者に供給する手段であり、ここでは生検により派生した細胞がin vitroで操作され、次いで同じ患者に戻される。ex vivo遺伝子操作された細胞の移植による遺伝子療法は、実験動物へのタンパク質の局部的および全身的供給のために使用されている。例えば、Hortelano et al.(Human Gene Therapy 10, 1281-8, 1999)およびRegulier et al.(Gene Therapy 5, 1014-1022, 1998)は、ヒト血液凝固因子IXおよびエリスロポエチンを夫々発現する筋原細胞の、マウスへの移植を記載している。Cao et al.(J. Mol. Med. 76, 782-789, 1998)およびMuller-Ladner et al.(Arthritis. Rheum. 42, 490-497, 1999)は、サイトカインおよびサイトカイン阻害剤を夫々発現する筋原細胞の、マウスへの移植を記載している。
【0103】
現在のところ、ex vivo遺伝子療法に使用する細胞の選択は、患者からの入手可能性、遺伝子操作を実行できる容易さ等によって指定される。成熟幹細胞がより容易に入手可能であれば、それらは自己持続するポピュレーションを形成する能力があり、また患者からアクセスするのが困難な細胞タイプへとin vitroで分化するように誘導され得るので、これらは遺伝子操作のための適切な標的を提供するであろう(Smith, Current Biology R802-804, 1998参照)。更に最近では、治療的クローニングを使用して、同様の目的物を得られるであろうことが提案されている(Trounson and Pera Reprod Fertil. Dev 10, 121-125, 1998)。治療的クローニングは、罹患または損傷した組織の置換または補充を必要とするヒト患者のための、細胞、組織および臓器を与える見込みのある未だ試みられていない核移植の応用である。概略的に言えば、生検により体細胞を得て、その核を卵母細胞に導入し、胚性幹(ES)細胞または他の多能制細胞を作製するために誘導および使用され、次いで移植に必要な細胞タイプに分化するように誘導される。核ドナー細胞が移植を必要とする患者から得られたときには、これは自家移植片を与えるであろう。脱凝集された胚からの全ての細胞は望ましい変化を有し、これにより移植前に細胞集団を増殖するための培養に要する時間を最小にするので、好ましくは、遺伝子ターゲッティングは治療的クローニングの前に、体細胞ドナーポピュレーションに対して行われるであろう。
【0104】
<ヒト移植用細胞の遺伝子改変>
幾つかの場合に、健康な操作されない細胞で十分であろうが、治療的クローニングまたはex vivo遺伝子治療により作製された組織の機能および効果は、遺伝子改変を必要とし、または遺伝子治療により増強されるであろう。遺伝子改変を使用して、内在性遺伝子にin situで変化を生じさせ、例えば遺伝子欠陥を修復または除去し、または導入遺伝子を添加することができるであろう。導入遺伝子は、種々の治療目的を達成するために加えることができ、その正確な性質は、治療すべき症状および移植すべき細胞に依存するであろう。例えば、導入遺伝子は下記のように設計することができる:
・移植された細胞の長寿を補助するように;
・移植細胞と宿主組織との相互作用を補助するように;
・移植された前駆体細胞の最終分化を補助するように;
・例えば成長因子の発現によって、宿主組織の再生を誘導するように;
・患者には不足し、存在せず、または機能的に低い因子を発現するように;
・必要であれば、移植された細胞の制御された除去を容易にするように;
・例えば癌治療のために、移植部位に近接した細胞に対して毒性をもった薬剤の供給源として作用するように。
【0105】
内在性遺伝子における変化は遺伝子ターゲッティングによってのみ達成できるが、導入遺伝子の付加は、ランダム組込み、または遺伝子ターゲッティングによって達成することができる。しかし、遺伝子ターゲッティングは、ヒト移植用細胞に導入遺伝子を追加する手段として、ランダム組込みに対する幾つかの重要な利点を提供する。
宿主ゲノムにランダムに組込まれた導入遺伝子は、文献に充分に立証されている「位置効果」を受ける。これは、導入遺伝子の最適発現より低い発現を導く可能性があり、また導入遺伝子を、組織または遺伝子発現パターンを混乱させ得る影響下に置く可能性があり、かつ、これらは必然的に予測不能である。対照的に、遺伝子ターゲッティングは、望ましい発現特徴を与えるように選択され得る予め定められた遺伝子座において、導入遺伝子の正確な配置を可能にする。
宿主ゲノムの幾つかの部位への導入遺伝子の組込みは、構造的な遺伝子配列を物理的に破壊し、または内在性遺伝子発現の異常もしくはダウンレギュレーションに導く可能性がある。従って、ランダムな組込みは、宿主細胞において発癌性を含む有害な発現型を生じる危険を有している。しかし、遺伝子ターゲッティングは、この点でその安全性に基づいて選択できる予め定められた部位において、導入遺伝子の配置を可能にする。
【0106】
体細胞における遺伝子ターゲッティングの頻度は、ランダム組込みの頻度に比較して一般に非常に低いと考えられるが、我々は、この特許明細書において、標的遺伝子座、宿主細胞のタイプおよびターゲッティングベクターの適切な組合せによって、非常に高い頻度のターゲッティングを導くことができることを示す。
従って、導入遺伝子を配置するための標的遺伝子座の望ましい基準は下記に要約した通りである。
1.当該遺伝子座は、要求されるべき豊富なレベルで、導入遺伝子の発現を支持すべきである。
2.当該遺伝子座は、導入遺伝子の組織特異的調節に過度に影響すべきではない。
3.標的遺伝子での導入遺伝子の組込みは、細胞の発現型に対して最小の影響を有するべきであり、または影響を有するべきでない。
4.標的遺伝子座は、好ましくは、生検で容易に得られ、また培養、形質導入および薬剤選別が可能な細胞において、高頻度の遺伝子ターゲッティングを支持すべきである。高頻度の遺伝子ターゲッティングは、実験方法を単純化し、また生検により患者からの採取が必要な組織の量を最小にし、またin vitro培養に必要な時間を最小にするであろうから、望ましいものである。
後述の例に完全に記載される我々の発見は、COLIA1遺伝子座が、これらの点において良好な標的遺伝子座の一例に相当することを示している。
【0107】
ex vivo遺伝子療法の大部分は、患者に欠乏しているタンパク質、例えば血友病患者のための血液凝固因子を与える手段として、遺伝的に改変された移植細胞を使用することである。このような細胞の遺伝子操作の主な目的は、移植細胞内において治療的産物の適切なレベルでの発現を達成することである。これは、導入遺伝子の発現が望まれる細胞タイプにおいて、活性が最適なプロモータの制御下にある標的遺伝子座に、導入遺伝子を別個の転写単位として配置することにより達成することができる。しかし、別の方法では、内在性遺伝子プロモータの制御下に導入遺伝子を配置する。移植される細胞タイプでの豊富な発現を指令するプロモータは、大量に必要とされるタンパク質の発現のために、または患者に移植される細胞の数が制限される場合に特に適していているであろう。例えば、内在性プロモータは、繊維芽細胞または内皮細胞における発現を指令してもよい。導入遺伝子は、それが二シストロン性メッセージを形成するように、mRNAの3'非翻訳領域内に導入遺伝子を挿入することによって、内在性遺伝子の発現を乱すことなく、導入遺伝子を内在性プロモータの制御下に配置することができる。導入遺伝子コード領域の翻訳は、内部リボゾームエントリー部位の挿入によって達成することができる。COLIA1 mRNAの一部としてのマーカー導入遺伝子の配置は、後述の実施例で説明される。
【0108】
<遺伝子ターゲッティング後の細胞の正常性に関する試験としての核移植>
本発明の重要な側面は、COLIA1遺伝子座での遺伝子ターゲッティングによる導入遺伝子配置を受けた細胞クローンからの核移植によって、正常で生存可能な動物を誘導できることである。
核移植による動物の作製は、ドナー細胞の正常性についての非常に厳格な試験を提供する。従って、ヒツジのような動物における核移植は、移植治療のためにヒト細胞で実施される前に、遺伝子ターゲッティング法を試験する厳格な手段を提供する。我々は、ヒツジのような動物における遺伝子ターゲッティングおよび核移植が、ヒト遺伝子ターゲッティングに適した標的遺伝子座を同定する手段を提供することを認めた。等価なヒト遺伝子座の安全性試験としての特定の動物種における核移植の価値は、ヒトおよび動物のゲノム間に高度のシンテニーが存在する領域において最も大きいであろう。
導入遺伝子に適したヒト標的遺伝子座を同定する手段、およびこれらの標的遺伝子座は、本発明の範囲内に包含される。治療的応用の範囲において、異なる導入遺伝子を配置するために同じ遺伝子座を使用できるので、動物核移植動物によって同定された一組の標的遺伝子座候補は、それらをヒトの治療に使用する前に、例えばヒト細胞培養体において更に特徴付けすることができる。
【0109】
この情報は、遺伝子療法のためのターゲッティング部位の選択に適用することができる。使用する細胞タイプの選択には何時でも、使用するポピュレーションが全て、同一の予め選択された改変を有することが不可欠であろう。これは、正しく改変された一次分化細胞または幹細胞タイプからの、細胞のクローニングを含むであろう。治療的クローニングが使用される場合は、全ての細胞が、その起源によって同一の遺伝子型を有するであろう。
本発明の夫々の側面における全ての好ましい特徴は、必要な変更を加えて、他の全ての側面に適用される。
我々は、三つの種における三つの遺伝子座での遺伝子ターゲッティングを例証した。夫々の場合に、達成された遺伝子ターゲッティングの頻度は、公表されたデータに基づいて初代細胞で予想され得た比率を著しく越えていた。
【0110】
ヒツジCOLIA1遺伝子座は、選択マーカー遺伝子単独および導入遺伝子と組合せた配置によってターゲッティングされた。COLIA1遺伝子は、ターゲッティングに用いた繊維芽細胞において、α-1(I)プロコラーゲン遺伝子を高レベルで発現した。マーカー遺伝子で得られた遺伝子ターゲッティングの頻度は、薬剤耐性クローン10個当り1よりも僅かに大きかった。これは、公表されたデータに基づいて初代細胞で予想し得た遺伝子ターゲッティングの比率を遥かに越えている。更に、ターゲッティングされた改変を有する細胞は核移植を支持するそれらの能力を維持し、また生きた子ヒツジの生産が立証された。従って、これは正確な予め定められた遺伝子改変を完全な動物に導入するin vitroで働く手段としての、核移植と組合せた体細胞の実際の使用を容易にする。
選択された初代細胞において、ヒツジβラクトグロブリン遺伝子が高効率でターゲッティングされた。なぜなら、標的遺伝子座での豊富な発現を与えたからである。
【0111】
ブタα1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子は初代繊維芽細胞においてターゲッティングされ、これは標的遺伝子において低レベルで発現すると評価された。ターゲッティングは、宿主細胞タイプにおいて低レベルで転写されるか、または不活性な遺伝子座での遺伝子ターゲッティングに適した新規な形質導入方法を用いて達成された。
ウシβラクトグロブリン遺伝子は、同じ新規な形質導入方法を使用することにより、標的遺伝子座を検出可能に転写していない初代繊維芽細胞において高効率でターゲッティングされた。
【0112】
本発明の具体的な態様を以下に列挙する。
(1)遺伝子ターゲッティング事象により体細胞の遺伝物質を改変することを含む、核移植のためのための体細胞を調製する方法。
(2)遺伝子ターゲッティング事象が相同組換えによって媒介される、(1)に記載の方法。
(3)改変が、遺伝子の不活性化、除去または改変、遺伝子のアップレギュレーション、遺伝子置換または導入遺伝子を配置することである、(1)または(2)に記載の方法。
(4)遺伝子ターゲッティング事象が、遺伝子ターゲッティングされた細胞:ランダムにターゲッティングされた細胞の比が1:100以上である結果を生じさせる、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)遺伝子ターゲッティング事象が、宿主体細胞において多量に発現されている遺伝子座において行われる、(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)構造遺伝子が内在性プロモーターに隣接して置かれる、(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(7)内在性プロモーターがコラーゲン遺伝子のプロモーターである、(6)に記載の方法。
(8)内在性プロモーターが乳タンパク質遺伝子のプロモーターである、(6)に記載の方法。
(9)内在性プロモーターが線維芽細胞において多量の発現を指令するものである、(6)に記載の方法。
(10)内在性プロモーターが内皮細胞における多量の発現を指令するものである、(6)に記載の方法。
(11)遺伝子ターゲッティング事象がリポフェクチンによって媒介される、(1)〜(10)のいずれかに記載の方法。
(12)遺伝子ターゲッティング事象が標的遺伝子座に相同な長い領域を含む遺伝子ターゲッティングベクターの使用を含む、(1)〜(11)のいずれかに記載の方法。
(13)遺伝子ターゲッティング事象が閉環形態の遺伝子ターゲッティングベクターの使用を含む、(1)〜(12)のいずれかに記載の方法。
(14)遺伝子ターゲッティング事象が細胞内における遺伝子発現の人工的誘導またはクロマチン変化を含む、(1)〜(13)のいずれかに記載の方法。
(15)遺伝子ターゲッティング事象がヒストンの脱アセチルを阻害する物質または細胞内における標的遺伝子座の転写を刺激する因子の発現によって容易化される、(1)〜(14)のいずれかに記載の方法。
(16)体細胞が初代体細胞である、(1)〜(15)のいずれかに記載の方法。
(17)体細胞が、上皮細胞、または線維芽細胞、または内皮細胞または筋肉細胞である、(1)〜(16)のいずれかに記載の方法。
(18)(1)〜(17)のいずれかに記載の方法を含む核移植方法および体細胞からレシピエント細胞へ遺伝物質を移植することを含む方法。
(19)体細胞からレシピエント細胞への遺伝物質の移植が動物胚を生じさせる、(18)に記載の方法。
(20)さらに、全能性または多能性細胞クローン集団を生じさせることを含む(18)または(19)に記載の方法。
(21)(1)〜(17)のいずれかに記載の方法によって得ることができる核移植に適したトランスジェニック細胞。
(22)(19)に記載の方法によって得ることのできるトランスジェニック胚またはトランスジェニック胎仔。
(23)請求項22記載の胚から分娩まで動物を発生させ、場合によりその動物を飼育することを含む、トランスジェニック動物の調製方法。
(24)(23)に記載の方法によって得られるトランスジェニック動物。
(25)ヒツジ、雌ウシ、雄ウシ、ヤギ、ブタ、ウマ、ラクダ、ウサギまたはげっ歯動物である(24)に記載のトランスジェニック動物。
(26)(24)または(25)に記載の動物から育てられたトランスジェニック動物。
(27)(22)に記載のトランスジェニック胚またはトランスジェニック胎仔からの細胞株を培養することを含む、多能性または全能性クローン細胞集団を得る方法。
(28)(27)に記載の方法によって得ることができる、多能性または全能性クローン細胞集団。
(29)遺伝子ターゲッティング事象を含む、細胞の全能性を維持しつつ体細胞の遺伝物質を改変する方法。
(30)遺伝子ターゲッティング事象が相同組換えによって媒介される請求項29に記載の方法。
(31)改変が遺伝子の不活性化、除去または改変、遺伝子のアップレギュレーション、遺伝子置換または導入遺伝子を配置することである、(29)または(30)に記載の方法。
(32)遺伝子ターゲッティング事象が、遺伝子ターゲッティングされた細胞:ランダムにターゲッティングされた細胞の比が1:100以上である結果を生じさせる、(29)〜(31)のいずれかに記載の方法。
(33)遺伝子ターゲッティング事象が、宿主体細胞において多量に発現されている遺伝子座において行われる、(29)〜(32)のいずれかに記載の方法。
(34)構造遺伝子が内在性プロモーターに隣接して置かれる、(29)〜(33)のいずれかに記載の方法。
(35)内在性プロモーターがコラーゲン遺伝子のプロモーターである、(34)に記載の方法。
(36)内在性プロモーターが乳タンパク質遺伝子のプロモーターである、(34)に記載の方法。
(37)内在性プロモーターが線維芽細胞における多量発現を指令するものである、(34)に記載の方法。
(38)内在性プロモーターが内皮細胞における多量発現を指令するものである、(34)に記載の方法。
(39)遺伝子ターゲッティング事象がリポフェクチンによって媒介される、(29)〜(38)のいずれかに記載の方法。
(40)遺伝子ターゲッティング事象が標的遺伝子座に相同な長い領域を含む遺伝子ターゲッティングベクターの使用を含む、(29)〜(39)のいずれか1項に記載の方法。
(41)遺伝子ターゲッティング事象が閉環形態の遺伝子ターゲッティングベクターの使用を含む、(29)〜(40)のいずれかに記載の方法。
(42)体細胞が初代体細胞である、(29)〜(41)に記載の方法。
(43)遺伝子ターゲッティング事象が細胞内における遺伝子発現の人工的誘導またはクロマチン変化を含む、(29)〜(42)のいずれかに記載の方法。
(44)遺伝子ターゲッティング事象がヒストンの脱アセチルを阻害する物質または細胞内における標的遺伝子座の転写を刺激する因子の発現によって容易化される、(29)〜(43)のいずれか1項に記載の方法。
(45)体細胞からレシピエント細胞へ遺伝物質を移植することを含む方法と組み合わせた(29)〜(44)のいずれかに記載の方法。
(46)細胞の遺伝子ターゲッティングにおける遺伝子発現の人工的誘導またはクロマチン変化の使用。
(47)遺伝子ターゲッティング事象による細胞の遺伝物質の改変における閉環状遺伝子ターゲッティングベクターの使用。
(48)細胞が体細胞または非体細胞である請求項46または47に記載の使用。
(49)遺伝子ターゲッティング事象がヒストンの脱アセチルを阻害する物質または細胞内における標的遺伝子座の転写を刺激する因子の発現によって容易化される、(46)〜(48)のいずれかに記載の使用。
(50)細胞の遺伝物質を適切なレシピエント細胞に移植する核移植と組み合わせた(46)〜(49)のいずれかに記載の使用。
(51)遺伝子ターゲッティング事象を受けた細胞から得られる動物の、前記遺伝子ターゲッティングの位置による遺伝的変化を試験するための使用。
(52)細胞が体細胞であり動物の作製が核移植を含む、(51)に記載の使用。
(53)体細胞が初代体細胞である(51)または(52)に記載の使用。
(54)細胞が線維芽細胞である、(52)または(53)に記載の使用。
(55)遺伝子ターゲッティング事象が(2)〜(13)に記載したものである、(51)〜(54)のいずれか1項に記載の使用。
(56)以下を含む、ターゲッティング遺伝子治療のための遺伝子座を確認するための方法:
− 選択した型の細胞を得ること;
− 選択した遺伝子座に所望の遺伝的改変を導入すること;
− ターゲッティングした細胞のクローン集団を増殖させること;および、
− 前記遺伝的改変が許容できるものであることを動物の作製によって証明すること。
(57)動物の作製が核移植を含む、(56)に記載の方法。
(58)細胞が線維芽細胞である、(57)に記載の方法。
(59)細胞が胚性幹(ES)細胞または胚性生殖(EG)細胞である、(56)に記載の方法。
(60)動物がキメラ動物である、(59)に記載の方法。
(61)(56)〜(60)のいずれかに記載の方法によって得られる確認された遺伝子座。
【0113】
以下の非限定的実施例によって、本発明を例示する。
【実施例1】
【0114】
遺伝子ターゲッティングによる、ヒツジ胎児繊維芽細胞のCOLIA1遺伝子座におけるneoマーカー遺伝子の配置
PoIIドーセット種胎児繊維芽細胞初代培養PDFF2が以前に記述されている(Schnieke et al., 前掲)。PDFF2ゲノムDNAを使用してクローン化DNA断片ライブラリーを作製し、該ライブラリーから、エクソン44から翻訳停止部位からおよそ14k 3'までのヒツジCOLIA1遺伝子の一部に対応する分子クローンを単離した。このヒツジCOLIA1分子クローンを、COLT-1遺伝子ターゲッティングベクターの構築のためのDNA供給源として用いた。
COLT-1は、neo選択マーカー遺伝子をCOLIA1遺伝子の発現を破壊することなく、COLIA1遺伝子の下流に配置するように設計されている。
【0115】
COLT-1ベクターを用いた遺伝子ターゲッティングは、PDFF2胎児繊維芽細胞における相同組換えの頻度を最大にするように設計された。
a.標的遺伝子座の選択、COLIA1遺伝子座は繊維芽細胞において高度に発現される。
b.COLT-1構築物は、該構築物が単独でG418耐性を与えないように、プロモータトラップとして設計された。COLIA1遺伝子座での相同組換えは、プロモーターを欠くが5'末端に翻訳を容易にする内部リボゾームエントリー部位(IRES)を有するneo遺伝子を導入する。相同組換えは、COLIA1翻訳停止部位の下流のCOLIA1転写領域へのIRESneo遺伝子の挿入を生じる。ターゲッティングされたCOLIA1遺伝子座の転写は、二シストロンメッセージを生じ、neoコード領域の翻訳は内部リボゾームエントリー部位での開始によって生じる。
c.COLIA1遺伝子に対して相同性のCOLT-1内の領域の長さは最大化された。
【0116】
COLT-1は下記からなっている:
―翻訳停止部位のおよそ2.5kb 5'の位置から前記停止部位の SspI部位131塩基3'までの、ヒツジCOLIA1遺伝子の3'末端の3 kb領域;
−IREShygroベクター(クローンテック社、Genbank受付番号U89672)の塩基1247〜1856に対応する内部リボゾームエントリー部位(IRES)領域
―バクテリアneo遺伝子、およびMcWhir et al.,(Nature Genetics 14, 223-226, 1996)により記載されたのと本質的に同じポリアデニル化部位を含むヒト成長ホルモン遺伝子の3'末端の一部を含む1.7 kbの領域
―翻訳停止部位のSspI部位131塩基3'から該停止部位のXhoI部位のおよそ8.4kb 3'までの、ヒツジCOLIA1遺伝子の3'末端の8.3kb領域および隣接領域;
―バクテリアクローニングベクターpSL1180(ファルマシア社)
【0117】
COLT-1ベクターのおよびターゲットされるCOLIA1遺伝子座の構造が図1に示されている。
下記に要約したように、制限酵素SalIで線形化されたCOLT-1DNAを、初期継代のPDFF2細胞の中に形質導入し、G418耐性細胞クローンを単離した。
第0日: 継代第3世代にある5×105個のPDFF2細胞に、製造業者の推奨する手順に従ってlipofectAMINE(Gibco、BRL Life Technologies)を使用することにより、6μgの線形化されたCOLT-1 DNAをトランスフェクションした。
第2日: トランスフェクションした細胞を二組の8ディッシュ(10cm)に分割し、G418を0.8mg/mlまたは3.0mg/mlで培地に添加した。
第11〜18日: コロニーを単離し、6ウエルのディッシュに再プレーティングした。PCR分析のためにサンプルを採取した。
第15〜19日: コロニーを25 cm2フラスコに増殖させた。PCR分析のために更なるサンプルを採取した。
第20〜25日: 増殖したクローンを凍結保存した。
全体を通して、2%O2、5%CO2、93%N2からなる雰囲気を用いた加湿組織培養インキュベータにおいて、L-グルタミン(2mM)、ピルビン酸ナトリウム(1mM)および10%ウシ胎児血清を補充した標準組織培養フラスコおよび皿内のBHK21(Glasgow MEM)培地中で、PDFF-2細胞を増殖させた。標準のトリプシン化によって細胞を継代した。
【0118】
ランダムに組込まれたCOLT-1のコピーとCOLIA1遺伝子座での相同組換えとを識別するために、PCR分析を使用した。使用したPCRスキームは図2に示されている。図2の上段部分は、IRESneoカセットがCOLIA1遺伝子の正しい位置に挿入されたときの、ターゲッティングされた遺伝子座の予測構造、および3.4kbの断片を増幅するために使用した二つのプライマーの位置を示している。図の下段部分のDNA配列AおよびBは、ターゲッティングされた遺伝子座の構造に対する核プライマーの正確な位置を示している。
スクリーニングすべき細胞のサンプルを、PCR溶解バッファー(50mM KCl、1.5mM MgCl2、10mM Tris pH8.5、0.5%NP40、0.5% Tween)+プロテイナーゼKの中で溶解し、65℃で30分間インキュベートした。プロテイナーゼを95℃で10分間不活性化し、「Expand long template PCR system」(Boehringer)を使用して、製造業者の推奨条件に従ってポリメラーゼ連鎖反応を実行した。サーマルサイクリング条件は下記の通りである。
【0119】
94℃ 2分
10サイクルの
94℃ 10秒
55℃ 30秒
68℃ 2分
20サイクルの
94℃ 10秒
60℃ 30秒
68℃ 2分+20秒/サイクル

68℃ 7分
【0120】
図3は、7つのG418耐性細胞クローンから増幅されたPCR産物の、代表的なアガロースゲル電気泳動を示している。これらの内の四つ(クローン6、13、14、26)は、相同組換えによるCOLIA1遺伝子座の中へのIRESneo遺伝子の組込みを示す、特徴的3.4kb断片の存在を示している。
PCRで分析された全63クローンにおいて、その内の7クローン(11%)は陽性であった。
三つのクローン(6、13、14)から増幅された断片のヌクレオチド配列を決定し、ヒツジCOLIA1遺伝子の配列と比較した。各クローンから増幅された断片の配列の一部を、図4に示した。夫々の場合に、各クローンから増幅された断片の配列は、ターゲッティングされた遺伝子座の5'接合部に亘って同一であり、またCOLT-1プラスミドと内在性COLIA1遺伝子との間で起きる相同組換え事象と一致していることを見ることができる。即ち、PCR断片は、COLT-1構築物内に存在するCOLIA1遺伝子5'からの配列を含んでおり、また線形化されたCOLT-1構築物の5'末端に存在することが知られている配列を含んでいない。
【実施例2】
【0121】
実施例2. COLT-1遺伝子ターゲッティングヒツジの作製
主として培養中にもっとも容易に増殖したという理由で、ターゲッティングされたクローン6および13を核移植のために選択した。これらのクローンの染色体数を核ドナーとしての適格性に対する基本的な要求として決定した。それぞれの場合において、総染色体数は各クローンが正倍数体であることを示した。
表2は、クローン6および13の染色体数を示したものである。
【0122】
表2.

1 染色体数53または54の展開数
【0123】
これらの細胞が元の胎児からバラバラにされ、核移植ラウンドのために準備が整った多数の凍結保存ストックを調製する時点までに経た培養の全期間は30日と計算された。この期間は4つの段階からなっている:初代細胞の作業用ストックPDFF-2の最初の樹立のための2および3日、遺伝子ターゲッティングが行われる間の20日間、クローン増殖および核移植のためのマルチストック準備のための5日間である。これらの段階の間、細胞を凍結保存した。
各細胞クローンの凍結保存ストックを融解し、1〜2日間増殖させ、以下のように核移植のために調製した。
【0124】
核ドナーとして働く細胞の調製
ドナー細胞は6穴組織培養皿にウェルあたり2x104個プレーティングし、L-グルタミン(2mM)、ピルビン酸ナトリウム(1mM)を添加した10%ウシ胎児血清を含むBHK21(Glasgow MEM)培地中で16〜24時間培養した。24時間後に培地を吸引し、細胞単層を0.5%ウシ胎児血清を含む培地で3回洗浄した。次にこの培養物を低血清培地(0.5%)中で37℃にて2〜5日間、対照培養物中の増殖細胞核抗原(PCNA)に対する染色による決定で細胞周期から脱出するまでインキュベーションした。
細胞をトリプシン処理によって収集し10%ウシ胎児血清を含む倍地中の懸濁物として2〜3時間保存してから核ドナーとして使用した。
【0125】
卵母細胞ドナー雌ヒツジの超刺激および卵母細胞の回収
卵母細胞のドナーとして働く雌ヒツジをプロゲスタゲンスポンジで14日間(Veramix, Upjohn, UK)同調させ、その後2日間続いて3.0mg/日(総量6.0mg)のヒツジ卵胞刺激ホルモン(FSH)(Ovagen, Immunochemical Products Ltd., New Zealand)の単一回注射によって過剰排卵を誘導した。排卵は2回目のFSH注射の24時間後に8mgのゴナドトロピン放出ホルモンアナログ(GnRH、Receptal, Hoechst. UK.)の単一回投与によって誘導した。
未受精中期II卵母細胞を1.0%ウシ胎児血清(FCS)を含むダルベッコのリン酸緩衝生理食塩水を用いてGnRH注射の24〜29時間後に卵管から流し出すことによって回収し、使用するまで37℃にて維持した。
【0126】
卵母細胞操作
回収した卵母細胞を37℃に維持し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)1.0%FCS中で洗浄し、37℃の10%ウシ胎児血清を含む無カルシウムM2培地に移した。染色体を除去するため(脱核)、卵母細胞を10%FCS、7.5μg/mlサイトカラシンB(Sigma)(サイトカラシンBは最適)および5.0μg/mlのHoechst33342(Sigma)を含む無カルシウムM2培地中に37℃にて20分間おいた。20μM硝子ピペットを用いて第1極体の直下から少量の細胞質を吸引した。脱核は吸引した細胞質部分をUV光にさらし、中期版の存在を調べることによって確認した。
【0127】
胚再構成
10〜20個の卵母細胞の群を脱核し、20μlの無カルシウムM2培地の液滴中、37℃、5%CO2、ミネラル油(SIGMA)下においた。hCG注射の32〜34時間後、単一細胞を脱核卵母細胞と接触させた。このクプレット(一対)(couplet)を蒸留水中の0.3Mマンニトール、0.1mM MgSO4、0.001mM CaCl2 200μlに入れて融合チャンバーに移した。融合と活性化は3VのACパルスを5秒間、続いて1.25kV/cm、80μ秒、3回のDCパルスをかけることによって誘導した。次にこのクプレットをTC199 10%FCS(この培地に7.5μg/mlのサイトカラシンBを添加することが最適である)中で洗浄し、この培地中、37℃、5%CO2にて1時間インキュベーションした。次にこのクプレットをTC199 10%FCS中で洗浄し、TC199 10%FCS中、37℃、5%CO2にて1晩培養した。あるいは、ドナー核は手動またはピエゾ電気補助注入または細胞融合を生じさせる他のどんな化学的若しくは物理的方法で移植してもよい。
【0128】
胚培養および評価
一晩培養後、融合したクプレットをPBS中の1%、および1.2%アガー(DIFCO)(または、他のどんな適切な保護被覆剤でもよい)に二重に埋め込み、同調させた雌ヒツジの結紮した卵管に移した。6日後、レシピエント雌ヒツジを犠牲にし、PBS、10%FCSを用いて卵管から洗い出すことによって胚を取り出した。2本の針を用いてアガー片から胚を分離し、顕微鏡により発生を評価した。桑実胚/胚盤胞期まで発生したすべての胚を同調させた最終レシピエント雌ヒツジの子宮角に可能な限り早く移した。
【0129】
核移植:COLT-1ターゲッティングヒツジの誕生
PDCOL6および13と名付けた2つのCOLT-1ターゲッティングされたクローンを用いた核移植の結果を表3にまとめた。
【0130】
表3.COLT-1ターゲッティングされた細胞クローンを用いた核移植

*1つは双子妊娠
【0131】
PDCOL6からの1頭の死産子ヒツジと1頭の生存子ヒツジのサザン解析を図6に示した。用いたハイブリダイゼーションプローブは、ベクターCOLT-1および2中に存在する5'相同領域を構成する3kbのCOLIA1断片である。この断片はターゲッティングアレルに特徴的な4.73バンド、および非ターゲッティングアレルからの7kbバンドを明らかにする。図7の上部は、COLT-1ターゲッティング遺伝子座を示しており、サザン解析に使用したハイブリダイゼーションプローブの位置および図6に見られる断片の起源を示している。
これらのデータは、解析したそれぞれの子ヒツジには野生型およびターゲッティングされたアレルの両方が存在していることを示している。
【実施例3】
【0132】
実施例3. 遺伝子ターゲッティングによる初代ヒツジ胎児線維芽細胞中のCOLIA1遺伝子座への導入遺伝子配置
COLT-2の構成を図5に示した。COLT-2はCOLT-1のIRES neo断片の3'末端に位置する唯一のEcoRV部位にAATC2導入遺伝子発現カセットを含むMluI断片を挿入することによって作製した。
AATC2はベクターpACTMAD6(特許出願WO 99/03981に記載)の5'部分からなり、ヒトα-1アンチトリプシンcDNAおよびpMADベクター(特許出願WO 99/03981に記載)の3'部分に結合したヒツジβ-ラクトグロブリンプロモーターおよびマウス心臓アクチン第1イントロンを含み、ヒツジβ-ラクトグロブリンエクソン7、ポリアデニル化部位および3側方領域を含んでいる。
制限酵素SacIIで直線化したCOLT-2 DNAを継代早期のPDFF2細胞にトランスフェクションし、G418耐性細胞クローンを実施例1のCOLT-1トランスフェクションについて記載した方法で単離した。
【0133】
この実験の時間経過を以下に示す:
第0日:5x25cm2フラスコ中の継代第2世代のPDFF2細胞に30μgのCOLT-2 DNAをトランスフェクションした。
第2日:トランスフェクション細胞を80x10cm直径ペトリ皿にプレーティングし、0.8mg/mlのG418選抜をかけた。
第11〜12日:384個の強いG418耐性コロニーを拾い、6穴培養皿の個々のウェルに移した。
第15日:104個のサンプルをPCR解析にかけた
第15日:15個の強いPCR +veクローンを25cm2フラスコに移した。
第18日:15個のクローンを凍結保存した。
【0134】
104の細胞サンプルのうち70をCOLT-1と同じ方法を用いてPCRによりスクリーニングした。これにより46の陽性シグナルが生成され、このことは66%のターゲッティング効率を示す。COLT-2ターゲッティングによる細胞クローンをPDCAATと名付けた。
PCR陽性PDCAAT細胞クローンの一群および一つのPCR陰性クローンのサザン解析を図8に示した。オートラジオグラフはベクターCOLT-1および2中に存在する相同性の5'領域を構成する3kb COLIA1断片とのハイブリダイゼーション結果を示している。ハイブリダイゼーションプローブの位置および断片の起源を示したCOLT-2ターゲッティング遺伝子座の構造の模式図を図7に示した。
COLIA1プローブはターゲッティングされたアレルに特徴的な4.73バンドおよび非ターゲッティングCOLIA1アレルからの7kbにハイブリダイズした。PDCAAT細胞クローン22、71、73、81、84、89、90、92および95は等モル割合で両方の断片が存在することを示していることが分かり、これは一つのCOLIA1アレルのターゲッティングと一致する。クローン86は非ターゲッティングアレルしか示さず、PCR陰性結果と矛盾しない。クローン87および99は、ターゲッティングされたアレル、および非ターゲッティングアレルの存在を示し、さらに標的遺伝子座の再配列かランダムな組込み事象を表すかもしれないバンドの存在を示している。これらが、同一の細胞クローンにおけるランダムな事象およびターゲッティング事象の両方の存在を示すのか、これらの培養物がオリゴクローン性であるのかは分かっていない。クローン78はターゲッティングされた断片の存在を非ターゲッティング断片よりも低い強度で示しているが、このこともおそらくはこれが純粋なクローンでないことを示すものであろう。クローン59および125からのDNAは切っていない。
【0135】
COLT-2ターゲッティング細胞クローンのノーザン解析
細胞クローンPDCAAT 81およびPDCAAT 90を75cm2フラスコでコンフルエントに増殖させ、全RNAを抽出しノーザン解析を標準的な方法で行った。各RNA 10μgの二重サンプルをホルムアルデヒドアガロースゲルおよびMOPS泳動バッファーを用いてゲル電気泳動にかけた。転写後、膜を半分に切断しノーザン解析用の2枚のフィルターを用意した。半分を4.1kbヒトCOLIA1 cDNAとハイブリダイズさせ、続いてマウスβ-アクチンcDNAとハイブリダイズさせた。もう半分をネオマイシンホスホトランスフェラーゼプローブとハイブリダイズさせ、次にマウスβ-アクチンcDNAとハイブリダイズさせた。結果を図9に示す。
【0136】
COLT-2 COLIA1ターゲッティング遺伝子座の転写は、停止コドンの後でCOLIA1転写物に融合したIRES-neo部分を有する2シストロン性メッセージを産生すると予想された。図9に示した結果はこれと矛盾しない。右上のオートラジオグラフィー(コラーゲンcDNAに対するハイブリダイゼーション)は28S rRNAの位置から評価するとおよそ4.8kbの単一mRNA種を示しており、これは内在性COLIA1 mRNAに対応する。興味深いことに、マウスおよびヒトはいずれも異なるポリA部位からの2種の内在性COLIA1 mRNA種を示すが、ヒツジは単一種を示す。PDCAATクローン81および90にはより大きな種が存在しており、COLIA1 IRES-neo融合mRNAに予測される大きさ(〜6.8kb)に一致する。左上のオートラジオグラフィーはneoプローブに対するハイブリダイゼーションを示すものである。PDCAAT 81および90に検出される単一のmRNA種は2シストロン性メッセージに予測される大きさである。非ターゲッティングPDFF-2細胞においてはneoプローブで検出されるmRNA種はなかった。マウスβ-アクチンcDNAとのハイブリダイゼーションは両方のフィルター上に装荷されたRNA量の指標として使用され、下方の2つのパネルに示してある。
【0137】
ノーザン解析はまたAATC2導入遺伝子のCOLILA1遺伝子座における挿入が繊維芽細胞中でBLGに指令されたAATの発現を導くかどうかを調べるために行った。ヒトα1-アンチトリプシンプローブを導入遺伝子の発現検出のために使用した。PDFF-2、PDCAAT81またはPDCAAT90細胞においてはAAT mRNAは検出されなかった。従って、COOLIA1遺伝子座における導入遺伝子の挿入は線維芽細胞においてBLG駆動AATの有意な漏れ発現を誘導しないと結論づけることができる。
【実施例4】
【0138】
実施例4.COLIA1遺伝子座に配置された導入遺伝子を有するヒツジの作製
核ドナーとしての資格に基本的な要求として実施例3由来の3つのPDCAAT細胞クローンの核型分析を行った。それぞれの場合に、総染色体数は各クローンが正倍数体であることを示した。表4は、細胞クローンPDCAAT81、90および95の染色体数を示す。
【0139】
表4.PDCAAT細胞クローン中の染色体数

1 染色体計測数53または54を有する展開数
【0140】
PDCAAT細胞クローン81および90を実施例2に記載の方法を用いた核移植のために使用した。核移植の結果を表5にまとめた。
【0141】
表5.COLT-2ターゲッティング細胞クローンを用いた核移植

*ひとつは双子妊娠
【0142】
核移植によって得られた子ヒツジの組織生検からゲノムDNAを調製した。細胞クローンPDCAAAT90由来の1頭の死産子ヒツジおよび1頭の生存子ヒツジのサザン解析を図6に示した。観察された特徴的な断片(図7参照)はそれぞの場合に野生型および標的化アレルの両方の存在を確認するものである。
【実施例5】
【0143】
実施例5. 標的遺伝子座における大量発現を与えるために選択された細胞における遺伝子座のターゲッティング
ヒツジβラクトグロブリン(BLG)遺伝子は妊娠後期および乳分泌期にヒツジ乳腺において特異的に発現する。この遺伝子座における遺伝子ターゲッティングは適切な宿主細胞型を選択することによって達成される。それは培養中に高レベルにBLGを発現する初代乳腺上皮細胞である。
【0144】
初代ヒツジ乳腺上皮(POME)細胞の調製
すべての操作は滅菌条件下で行った
1.妊娠第115日の雌ヒツジから乳腺組織を切り出し、5cm小片に切り、脂肪および主要な血管を除去した。
2.層流キャビネットフード中で乳腺組織の小片を新鮮な剥離培地で3回洗浄し、1cm小片に切った。
3.組織小片が膨張するまで組織小片に解離培地を注入した。
4.組織をペーストに細片化しコニカルフラスコに移し、組織1グラムあたり4mlの解離培地を加えた。
5.組織をロータリーシェーカー(〜200rpm)中37℃にて1〜5時間、組織が広口のパスツールピペットを容易に通るまでインキュベーションした。
6.乳腺組織の上皮成分を濃縮するために一連の異なる遠心工程を用いた。
a.100rpm、30秒間、細胞懸濁物を遠心分離した。
b.浮遊脂肪の吸引および廃棄した。
c.さらに30〜60分間ペレットを再消化して工程aを繰り返した。
d.上清を800rpmで3分間遠心した。
e.浮遊脂肪を吸引および廃棄した。
f.ペレットを増殖培地に再懸濁した。
g.上清を1500rpmで10分間遠心した。
h.上清を捨てた。
i.ペレットを増殖培地に再懸濁した。
【0145】
7.工程6fおよびiのペレットを合わせ、細胞をコラーゲン(Sigma C8919)またはファイブロネクチン(Sigma 4759)被覆組織培養フラスコに50μg/mlゲンタマイシン(Sigma G3197)を含む増殖倍中に2.5x105細胞で播いた。
8.POME細胞における乳遺伝子発現の誘導は、誘導培地中でコンフルエント単層を3日間生育させることにより行った。
【0146】
POME細胞調製および培養に使用した培地
剥離培地
M199(Gibco/BRL 22340-020) 500ml
100x抗生物質/抗真菌剤(Gibco/BRL 15240-039) 10ml
50mg/mlゲンタマイシン(Sigma G1397) 0.5ml
【0147】
解離培地
M199(Gibco/BRL 22340-020) 500ml
NaHCO3(Sigma S5716) 0.6g
トリプシン(Gibco/BRL170702-018) 0.75g
コラゲナーゼA(Boehringer 1088-793) 1.5g
ウシ胎児血清 25ml
【0148】
増殖培地
(1:1)DMEM/F12(Gibco/BRL 4196-039, 21765-029) 500ml
ウシ胎児血清 50ml
5mg/mlウシインシュリン(Gibco/BRL 13007-018) 0.5ml
10g/ml上皮成長因子(Sigma E4127) 0.5ml
5mg/mlリノレイン酸(Sigma L8384) 0.5ml
【0149】
誘導培地
(1:1)DMEM/F12(Gibco/BRL 4196-039, 21765-029) 500ml
ウシ胎児血清 50ml
5mg/mlウシインシュリン(Gibco/BRL 13007-018) 0.5ml
5mg/mlリノレイン酸(Sigma L8384) 0.5ml
5mg/mlヒツジプロラクチン(Sigma L6520) 0.5ml
1mMデキサメタゾン(Sigma D4920) 0.5ml
【0150】
培養POME細胞におけるBLG発現および誘導
4日および9日間培養して増殖させたPOME細胞におけるBLGの発現を解析した。POME細胞の培養物をファイブロネクチン(FN)またはI型コラーゲン被覆皿上で生育させた。細胞は増殖倍地中で連続的に増殖させるか、または誘導培地中で3日間生育させることにより乳遺伝子発現誘導をかけた。標準的な方法を用いて全RNAを抽出しノーザン解析にかけた。
図10はPOME細胞培養物のノーザン解析を示す。示したフィルターはヒツジBLGプローブとハイブリダイズさせたものである。全ての培養物が多量のBLG mRNAを第4日で発現し、培養9日以後にわずかに低下することが分かる。より遅い段階におけるPOME細胞の解析はBLG発現の更なる低下を示した。このことはPOME細胞の遺伝子ターゲッティングを誘導後短い期間内に行う必要があることを強く示す。誘導直後に凍結保存しておいたPOME細胞は同様な挙動を示し、簡便に使用することができた。
このノーザン解析で検出されたmRNAは培養中のBLG遺伝子の転写活性を表すものであり、乳腺のmRNA残渣物を示すものではない。なぜなら、誘導はそれぞれの場合に存在するBLGメッセージの量を顕著に増加させたからである。
【0151】
BLGプロモータートラップベクターBLAT-3の作製
BLAT-3は、IRES neoカセットをエクソン3に挿入することによりヒツジBLG遺伝子の破壊のために設計されたプロモータートラップ遺伝子ターゲッティングベクターである。
BLAT-3は以下から構成される:
ヒツジBLGの5'末端の、翻訳開始点の25塩基5'側のSacI部位からエクソン3内のClaI部位までの1.84kb領域。
IRESハイグロベクター(Clontech、Genbankアクセッション番号U89672)の塩基番号1247から1856に対応する0.6kbの内部リボゾームエントリー部位。
neo遺伝子(ネオマイシンホスホトランスフェラーゼをコードする)およびポリアデニル化部位を含むヒト成長因子遺伝子の3'末端部分を含み、McWhirら(Nature Genetics 14,223-226, 1996)に記載されたのと本質的に同じである、1.7bp領域。
エクソン3内のClaI部位からλファージ中のクローンの末端に対応するポリアデニル化部位のおよそ9kb 3'の位置までの12kbのヒツジβ-ラクトグロブリン遺伝子領域。
BLT-3ベクターの構造およびターゲッティング事象の検出に使用したPCRプライマーの位置は図11に示してある。
【0152】
ベクターBLAT-3を用いたPOME細胞におけるBLGのターゲッティング
以下に記載したように、SalIで直線化したBLAT-3 DNAを継代早期のPOME細胞にトランスフェクションし、G418耐性クローンを導いた:
第0日 6μgのDNAをlipofectAMINEを用いて1x25cm2フラスコ(あらかじめコラーゲン被覆してある)のPOME細胞をトランスフェクションした。
第1日 トランスフェクションした細胞を6x10cm直径のペトリ皿にプレーティングし、0.8mg/mlのG418選抜をかけた。
第14〜17日 G418耐性コロニーをコラーゲン被覆した6穴ディッシュに取り出した。
第21〜25日 サンプルをPCR解析のためにとり、クローンを凍結保存した。
【0153】
遺伝子ターゲッティング事象を受けたPOME細胞を同定するために用いたPCRスキームはBLAT3のIRES領域内の領域にハイブリダイズする一つのプライマー(プライマーCOLTPCR8)およびこのベクターに含まれないBLGプロモーターの領域にハイブリダイズする一つのプライマー(プライマーBLAT3-3)の使用に基づく。
これらのおよその位置は図11に示してあり、それぞれのプライマーの配列は以下の通りである:
BLAT3-3: TAAGAGGCTGACCCCGGAAGTGTT
COLTPCR8: GACCTTGCATTCCTTTGGCGAGAG
【0154】
スクリーニングすべき細胞のサンプルをプロテイナーゼKを加えたPCR溶解バッファー(50mM KCl、1.5mM MgCl2、10mM Tris pH8.5, 0.5%NP40, 0.5% Tween)中で溶解し、65℃にて30分間インキュベーションした。95℃、10分間にてプロテイナーゼKを不活性化し、ポリメラーゼ連鎖反応を「伸長長鎖テンプレートPCRシステム(Exapand long template PCR system)(Boehringer)」を用いて業者の推奨する方法に従って行った。サーマルサイクル条件は以下の通りである:
【0155】
94℃ 2分間

10サイクルの
94℃ 10秒間
60℃ 30秒間
68℃ 2分間

20サイクルの
94℃ 10秒間
60℃ 30秒間
68℃ 2分間+20秒間/サイクル

68℃ 5分間
【0156】
図12は16このG418耐性BLAT-3トランスフェクションPOME細胞クローンから増幅したPCR産物のアガロースゲル電気泳動を示す。これらのクローンのひとつ(クローン3)は特徴的な2.375kbの断片の存在を示し、これは相同組換えによるIRES neo遺伝子のBLG遺伝子座への組込みを示す。
【実施例6】
【0157】
実施例6. 初代ブタ胎児線維芽細胞における相同組換えによるα1,3ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子座のノックアウト
異種移植における主要な障害は、ドナー器官における補体依存性機構による血管内皮細胞を破壊する超急性移植拒絶反応(HAR)の出現である。炭水化物抗原、Galα1→3GalはHARに関与する主要な抗原であることが明らかにされている(Sandrinら、Transplant Rev8, 134-139, 1994)。大部分の哺乳動物はGal α1→3Gal構造を有するが、ヒトには欠損しており、ヒト血清はこの抗原性エピトープに対して強い抗体を有している(Galiliら、J Exp Med 160, 1519-1531, 1984)。この抗原性炭水化物構造はUDP−ガラクトースからN-アセチルラクトサミンへガラクトースを転移し(Galβ1→4GlcNAc)、Galα1→3Galβ1→4GlcNAcを生成する酵素、α1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼの作用によって形成される。α1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼノックアウトマウスが作製されており、それらのマウスの細胞はヒト血清による細胞障害性攻撃を受けにくい(Tearleら、Tranplantation, 61, 13-19, 1996)。これらの結果は、ブタ細胞または器官におけるα1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ活性の除去はそれらの組織が異種移植に使用された場合に劇的にHARを低減させるはずであることを示している。
【0158】
ブタα1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼcDNAはクローニングされており、トランスフェクション解析によりそれらのクローンが機能性α1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼをコードしていることが確認されている(Sandrinら、Xenotransplantation 1, 81-88, 1994)。近年、ブタα1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ(GT)完全長cDNA(3.2Kb)がクローニングされ、そのゲノム構成(24kb領域を囲む6つのエクソン)が報告されている(Katayama,A,ら、Glycoconjugate J, 15, 583-589, 1998)。目標は初代ブタ細胞中のα1,3GT遺伝子を相同組換えによってノックアウトすることであり、GT欠損ブタを作製するためにそのノックアウト細胞を体細胞核移植のための核ドナーとして使用することである。
【0159】
初代ブタPFF4胎児線維芽細胞の単離
妊娠33日のブタ胎児(ラージホワイトxヨークシャー交配種)を細胞単離のため、まず頭部および腸を除去し、DMEMで3回洗浄し、次に残りの胎児組織を滅菌したハサミで約20mlのDMEM中へ切り刻むことにより調製した。細かく刻んだ組織を次に50mlのポリプロピレン遠心管に移し、スピンしてDMEMを除去した。次に組織をコラゲナーゼ(40ml、100u/ml)により37℃にて1時間、振盪水槽中で消化した。組織塊を激しくピペッティングすることによりバラバラに壊し、得られた細胞懸濁液をスピンしてコラゲナーゼ溶液を除去した。消化した細胞懸濁液を次にDMEM+10%FBS+非必須および必須アミノ酸を含む3つのT-75フラスコにプレーティングした。細胞は2日後にコンフルエントになり、6つのT-75フラスコに継代した。2日後、フラスコを収穫し、細胞を100の1ml凍結バイアル中で凍結した。
【0160】
ブタα1,3 GTノックアウトベクター(pPL501)の構築
初代胎児培養物からの細胞、PFF4をゲノムDNA単離のために使用した。PFF4細胞のゲノムDNAを、ブタα-1,3GTノックアウトベクターの構築に使用するためのクローン同質遺伝子α-1,3GT DNA配列のPCRに使用した。ノックアウトベクターは、組換えの頻度を最大にするために10kbを超える相同性を取り込んだ置換型ベクターとして設計した。α-1,3 GT遺伝子は線維芽細胞中で発現するため相同組換え事象を促進するためにプロモータートラップストラテジーを使用した。
ブタα1,3 GTプロモータートラップノックアウトベクターpPL501は以下の三つの構成部分から構築した(図13):
(1)ブタ初代胎児線維芽細胞(PFF4)のα1,3 GT遺伝子からの9kbのPCR-生成ゲノム配列からなる5'組換えアーム;これはエクソン4の3'末端からの64塩基対から、イントロン4からイントロン6へ伸びており、エクソン7の5'末端からの81塩基対を含む;この9kb領域をクローニングするために使用したPCRプライマーは以下の通りである:
GAGTGGTTCTGTCAATGCTGCT(5')
GGAAGCTCTCCTCTGTTGTCTT(3')
【0161】
(2)IVS-IRES-neo-BGHpA発現カセット(pIRESneo;Clontech; GenBank アクセッション番号U89673より)を含む2.057kbのBamHI-XhoI断片からなるプロモーター無しの選択neoマーカー。
(3)やはりPFF4細胞からの、エクソン9からの1.8kb PCR-生成α1,3 GT配列(エクソン9の5'末端84bpから開始し、エクソン9の3'末端まで1844bp伸長する)からなる3'組換えアーム。この1.8kb配列をクローニングするために使用したPCRプライマーは以下の通りである:
GGTGGATGATATCTCCAGGATGCCT(5')
GCTGTTTAGTCATGAGGACTGGGT(3')
【0162】
プロモータートラップ構築物のランダム組込みはG418耐性を与えない。相同組換えは、α-1,3 GTプロモーターの下流、エクソン7へのプロモータ無しneo遺伝子の挿入を生じさせ、2シストロン性メッセージの転写が可能となる。ターゲッティングされた遺伝子座からのneoコード領域の翻訳は内部リボソームエントリー部位から開始する。相同組換えはIRES-neoカセットのエクソン7への挿入を生じさせるだけでなく、エクソン8の欠失を生じさせ、従って、α-1,3 GTコード領域の遮断を生じさせヌルアレルを作り出す。pPL501ベクターの構築中に9kb相同領域の5'接合部のシーケンシングにより配列多型性が明らかになった。これが二つのPFF4 α-1,3 GTアレル間の自然な多型性なのか、あるいはPCRエラーであるのか不明であったので、多型性5'組換えアームを用いた以外はpPL501と同一である第2のノックアウトベクターpPL502を作製した。pPL501とpPL502の両方を等モル量でトランスフェクションに使用した。
【0163】
α-1,3 GTターゲッティングベクターによる初代PFF4細胞のトランスフェクション
pPL501/502ノックアウトベクターの等モル量をスーパーコイル共有結合閉環形態で以下に要約したように継代初期のPFF4細胞にトランスフェクションし、G418耐性クローンを単離した:
第0日:継代第3世代のPFF4細胞を75cm2フラスコに40%コンフルエントで播いた。
第1日:24時間後、PFF4細胞は80%コンフルエントになり、40μlのGenePORTER試薬を用いて8μgのpPL501/502 DNAで業者の推奨に従って(Gene Therapy Systems)トランスフェクションした。
第2日:トランスフェクションした細胞を350μg/mlのG418を含む培地の入った8つの48穴プレートおよび8つの24穴プレートに分けた。
第16日:94個のG418Rコロニーを単離し、12穴培養皿に再プレーティングした。最も良く増殖したコロニー45個をPCR解析のためにサンプリングした。
第20〜25日:コロニーを25cm2フラスコで増殖させた。
第25〜31日:増殖させたコロニーを凍結保存した。
【0164】
これらを通して、PFF4細胞は非必須アミノ酸(1X)、塩基性線維芽細胞成長因子(2ng/ml)、10%ウシ胎児血清を添加したDMEM中、標準的な組織培養フラスコおよびディッシュにて、5%O2、5%CO2および90%N2を含む大気を用いて加湿組織培養チャンバー中で増殖させた。細胞は標準的なトリプシン処理によって継代した。
潜在的組換え体をスクリーニングするため、ランダム組込み体と相同組換え体とを区別するために設計したプライマーを用いてPCR解析を行った。これらのプライマーの配列は以下のとおりである。
Neo442s: CATCGCCTTCTATCGCCTTCTT (5')
α-Gte9a2: AGCCCATCGTGCTGAACATCAAGTC (3')
Neo422sプライマーはneo遺伝子の3'末端中の配列に結合するように設計されている;一方、α-gte9a2プライマーはターゲッティングベクターに含まれる領域の外側のGTエクソン9中の配列に結合する。これらのプライマーのターゲッティングされた遺伝子座の予測される構造に対する位置を図14に示した。
【0165】
PCRスクリーニングのため45個のG418Rコロニーから細胞を集め、PCR溶解フバッファー(40mM Tris-HCl pH8.9、0.9% Triton X-100、0.9% Nonidet P40、400μg/mlプロテイナーゼK)中で50℃にて15分間溶解した。5μlの溶解細胞(〜2-5000細胞)を65℃にて15分間インキュベーションし、続いてプロテイナーゼKを95℃、10分間にて不活性化した。「拡張高信頼性(Expanded High Fidelity)」Taqポリメラーゼ(Roche Molecular Biochemicals)を用いて業者の推奨する条件に従ってPCR増幅を行った。サーマルサイクル条件は以下の通りである:
94℃ 2分間
30サイクルの
94℃ 15秒間
64℃ 30秒間
68℃ 4分間
(サイクル10-30においては、20秒/サイクルの時間増加)

72℃ 7分間
【0166】
2.4kb産物の増幅(その3'末端は内在性遺伝子に起源がある)は、構築物の組込みはα-1,3 GT遺伝子座内の正しい部位への相同組込みによるものであることを示した。45個のG418Rコロニー中の15個(33%)はターゲッティング組込み事象に特徴的な2.4kb PCR断片の存在を示した。4つの独立のコロニーからのPCR産物をpCR-XL-TOPOベクターにサブクローニングし組換えを確認するためにシーケンシングした。図15に示した結果はシーケンシングした各PCR産物の3'末端の配列は正しい相同組換えに期待される配列に一致することを証明するものである。
これらのα-1,3 GTノックアウト細胞は、α-1,3ガラクトシルトランスフェラーゼ酵素欠損ブタ作製へ向けて、体細胞核移植の為の核ドナーとして機能するであろう。
【実施例7】
【0167】
実施例7 初代ウシ胎児線維芽細胞(HFF5)の相同組換えによるウシβ-ラクトブロブリン(BLG)遺伝子座のノックアウト
ウシβ−ラクトグロブリン(BLG)は牛乳タンパク質に対するヒトアレルギー応答に関与する主要なアレルゲンの一つである。ウシ細胞におけるBLG遺伝子をノックアウトして、体細胞核移植と組み合わせてBLG-欠損ウシを作製し、その結果無BLG牛乳を製造することは、よりアレルギー性の少ないかつよりヒト様乳幼児粉乳を作製する為の機会を与えるものである。
ウシBLGゲノムDNAおよびcDNAはクローニングされている(Hyttinenら、J Biotechnol, 61, 191-198, 1998; Alexanderら、Nucleic Acids Res., 17, 6739, 1989)。GenBankからの配列情報を用いて(GenBankアクセッション番号Z48305)、BLG遺伝子の一部を初代ウシ胎児線維芽細胞から再クローニングし、BLGノックアウトベクターの構築に使用した。BLG遺伝子は初代胎児線維芽細胞中では発現していないため、BLGノックアウトベクターは相同組換え事象を豊富にするためにポリAトラップストラテジーを取り入れるように設計した。
【0168】
初代ウシHFF5胎児線維芽細胞の単離
妊娠55日のホルスタインオス胎児を地元の屠殺場から集め単離のために調製した。胎児は初めに胎盤膜から取り出し、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)で室温にて3回洗浄した。新鮮なDMEMの20mlアリコート中、表面皮膚および皮下組織を小型のハサミを用いて骨格構造から剥がし、次に可能な限り細かく切り刻んだ。刻んだ組織を次にスピンダウンしDMEMを1mlのDMEMあたり100単位のコラゲナーゼ50mlと置換した。組織を37℃にて1時間水槽中で消化した。次に刻んだ組織をピペッティングを繰り返してバラバラに破壊し、得られた細胞懸濁液をスピンしコラゲナーゼ溶液を除去した。次に細胞ペレットを10%ウシ胎児血清、非必須アミノ酸(1X)および塩基性線維芽細胞成長因子(2ng/ml)およびゲンタマイシンを加えた完全なDMEM中に再懸濁した。細胞を4つのT-75フラスコに播いた。得られた細胞は単離後3日でコンフルエントであり、凍結した。
【0169】
ポリAトラップノックアウトベクター構築
ウシBLGポリAトラップノックアウトベクターpPL552を以下の構成部分から構築した(図16を参照せよ):
(1)初代ホルスタイン胎児線維芽細胞(HFF5)から単離されたDNA由来の、エクソン1内の最初のATGから89bp下流までのBLGプロモーター領域を含む10kbのPCR生成ゲノム配列からなる5'組換えアーム。このPC断片を生成するために使用したプライマーは以下のとおりである:
BoBLGpro:5' CCA GTG CTG ATT TGA TTT CCT ACT CAC GCC 3'
BoBOGpro7:5' ACC TTC TGG ATA TCC AGG CCC TTC ATG GTC 3'
(2)マウスホスホグリセレートキナーゼ(PGK)プロモーターを含む1415bpのXhoI-SmaI断片およびポリAシグナルを有しないneo遺伝子カセットを含む無ポリA選択マーカー(pKOTKneoV904(Lexicon Genetics Inc., Woodlands, Texas)に由来するpPL442から)。
(3)3'組換えアームはHFF5細胞からのBLGゲノム配列(GenBankアクセッション番号Z48305)のPCR生成1935bp NcoI−BamHI断片である。この3'アームはエクソン2の3'末端からの114bp、イントロン2、エクソン3およびイントロン3の5'末端からの885bpを含む。
【0170】
初代HFFF5細胞のBLGノックアウトベクターによるトランスフェクション HFF5細胞は37℃、5%CO2で10%ウシ胎児血清、非必須アミノ酸(1X)、および塩基性線維芽細胞成長因子(2ng/ml)を添加したDMEM培地中で維持した。選択培地には350μg/ml(活性濃度、Gibco-BRL)のG418を含ませた。
BLGノックアウトベクターpPL522 DNAを制限酵素によって直線化せずに(スーパーコイル、共有結合閉環形態)HFF5細胞へ以下のようにリポフェクチンによりGenePORTER(Gene Therapy Systems)を用いてトランスフェクションし、G418耐性コロニーを選抜した:
第0日:継代第1世代のHFF5細胞(バイアルあたり100万個の細胞)を液体窒素から融解し25cm2フラスコに播いた。
第1日:およそ60%コンフルエントの細胞を1μgの未消化pPL522 DNA(>70%がスーパーコイル)と20μlのGenePORTER試薬を含む2mlのトランスフェクション培地でトランスフェクションした。細胞を5%CO2中で37℃にてインキュベーションした。4時間後、2mlの増殖培地(DMEM+20%FCS)を添加した。
第2〜12日:トランスフェクション後24時間にトランスフェクションした細胞をトリプシン処理し、350μg/mlのG418を含む選択培地中、ウェルあたり2500〜5000個の細胞密度で24穴プレートに播いた。細胞を5%CO2中、37℃にてインキュベーションした。培地は選抜の間3日ごとに交換した。
第13〜15日:85個のコロニーを24穴プレートから12穴プレートへ継代した。1以上の区別可能なコロニーを含むウェルをプールとして収集した(1プールあたり8〜12コロニー)。合計21プールをPCR解析にかけた。
第15〜17日:12穴プレートからの52個の充分に単離された単一コロニーをコンフルエントになった後60mmディッシュに継代した。各コロニーのアリコートをPCR解析にかけた。
第17〜22日:各52の単一コロニーからの残りの細胞を凍結し(各コロニーについて2バイアル)、-70℃に保存した。
【0171】
G418耐性コロニーのPCRスクリーニング
G418耐性コロニーおよびプールを、ランダム組込みと相同組換え事象を区別するために設計したプライマーを用いてPCR解析によってスクリーニングした(図17)。5'プライマー(Neo442s)はノックアウトベクター内のneo遺伝子の3'末端に結合する。3'プライマー(BLG3'l)はノックアウトベクター中に存在する配列の外側にあるウシBLGエクソン4領域に結合する(ベクター中のBLG 3'相同アームの3'末端からおよそ260bp3'側)。プライマー配列は以下の通りである:
Neo442s: 5' CAT CGC CTT CTA TCG CCT TCT T 3'
BLG3'l: 5' CCA GCA CAA GGA CTT TGT TCT C 3'
【0172】
細胞をPCR溶解バッファー(40mM Tris-HCl pH8.9, 0.9% Triton-X100, 0.9% Nonidet P40, 400μg/mlプロテイナーゼK)中で50℃にて15分間溶解した。溶解細胞の5μl(5000-10000細胞)を65℃にて15分間インキュベーションし、続いて95℃にて10分間プロテイナーゼKを不活性化した。PCR増幅をExpand High Fidelity Taq(Roche Molecualar Biochemicals)および業者のプロトコルにより、以下のプログラムに従って行った:
94℃ 1分間
60℃ 1分間
72℃ 2分間
35サイクル
2.3kb産物の増幅(その3'末端は内在性遺伝子に由来するもので、構築物由来ではない)は、構築物の組込みがBLG遺伝子座内部の相同組換えによることを示す。
【0173】
PCR産物のサブクローニングおよびシーケンシング
52個の単一コロニーおよび21のプール(各プールは8〜12のコロニーを含む)のうち、5つの単一コロニー(9.6%)および17のプール(81%)が陽性PCR産物を示した。3つの単一コロニーからのPCR産物pCR-XL-TOPOベクター(Invitrogen)にサブクローニングし、3つの単一コロニーから各々2つのサブクローン(合計6つのクローン)をシーケンシングし、両方の端から400bpを超える配列を作製した。シーケンシングの結果、全てのサブクローンは正しい相同組換えが行われたならば期待される配列に合致することが示された(図18)。
【実施例8】
【0174】
実施例8 コラーゲン遺伝子座をターゲッティングされたヒツジの乳におけるトランスジェニックAATの検出
実施例4で作製したヒツジの誘導分泌乳を50mMリン酸ナトリムpH7.2で1:100に希釈し、10μlを等体積の非還元SDSサンプルバッファーで処理し、8〜16%Tris/グリシンSDSゲルに装荷した。等量の対照ヒツジ乳(tgAAT陰性)も装荷した。既知の濃度でtgATTを含むことが分かっている200ngのヒツジ乳を陽性対照として装荷した。
分離後、タンパク質をPVDF(ポリビニジフルオリド)膜に転写しPBS中の2%BSAで1時間ブロッキングした。このブロットを1%BSA/PBS/0.1%Tween-20(PBS-T)で1:2000に希釈したウサギ抗−ヒトAATポリクローナル抗体で30分間プロービングした。PBSで30分間以上5回洗浄した後、ヤギ抗-ウサギIgG-ホースラディッシュペルオキシダーゼ標識抗体(1%BSA/PBS-Tで1:5000希釈)を30分間加えた。上述の最後のPBS洗浄後、ブロットをDAB(ジアミノベンジジン)基質を用いて現像した(図19)。
【0175】

【0176】
現像したブロットをスキャンしtgAATの発現レベルを評価するためにデンシトメトリーを行った。tgAATバンドのピーク面積を用い、既知の陽性標準物質を対照にして各レーンに存在する量を計算した。最後に、これらの値を初期希釈について較正し、乳全体における発現レベルを得た(以下の表6)。搾乳にわたる発現レベルの変化は図20にグラフ表示した。
ターゲッティングされたヒツジ乳サンプルに見られる、より高分子量のバンドはIgGの質量に対応するものであり、これらの初期乳サンプルにおいてIgGレベルが特に高いのであれば(初乳−様)これに該当しそうである。ブロットにおけるこれらの出現は抗-IgG二次抗体の僅かな種間反応性によるものかもしれない。
【0177】
表6. 既知の陽性対照サンプルを基準としてデンシトメトリーによって評価したサンプル乳中のtgAATの発現レベル

【0178】
ヒツジはその乳中にtgAATを産生している。この量は、McClenaghan Mら(Animal Biotechnology 2 161-176 1991)に記載されたように複数のランダム遺伝子挿入を有するヒツジのAAT cDNA導入遺伝子について従来報告されていた最高レベル(18μg/ml)に有意に比較される。興味深いことに、そして最も驚くべきことは、この発見は、乳上皮でI型コラーゲンそれ自体は活性に発現していないにもかかわらず、COLIA1遺伝子座は導入遺伝子発現を許す環境を提供することがあることを示していることである;Warburtonら(J. Cell Physiol. 128 76-84 1986)。
この例では、未成熟雌ヒツジにおける乳分泌のホルモン誘導を本質的にEbertら(Biotechnology 12, 699-702, 1994)に記載された方法で行った。雌ヒツジは毎日2回、7日間エストラジオールベンゾエート(0.05mg/kg)およびプロゲステロン(0.1250mg/kg)を注射し、乳腺の発達およびプロラクチン放出を促進させた。最初の注射から18日後、雌ヒツジに毎朝デキサメタゾン(5ml/日)を3日間注射した。この誘導を通して、雌ヒツジは自然の昼光を模倣した光の下で飼育舎においた。最初の注射から21日後、乳腺を調べ搾乳を行った。
【実施例9】
【0179】
実施例9 二重核移植の説明
I)ブタ核移植のプロトコル
in vivo成熟ブタ卵母細胞の採集のための同調手順
in vivo成熟ブタ卵母細胞の採集のための適切な方法を以下に記載した。実際は、適切な卵母細胞を作り出すどんな方法を使用してもよい。
周期の第12〜16日(第0日は交尾期)から開始してオルトレノゲスト(Altrenogest)(Regu-Mate, 18mg/日、9AM)を5〜9日間与える。交尾期が得られない場合、オルトレノゲストを14日間与える。最後のオルトレノゲストを与える間に雌ブタにエストルメート(Estrumate)(IM, 1.0ml, 9AM)を注射する。最後のオルトレノゲストを与えた14時間後(11PM)、eCG(ウマじゅう毛性ゴナドトロピン、1500 IU IM)を注射する。eCG注射の80時間後(7AM)にhCG(ヒトじゅう毛性ゴナドトロピン、1000 IU, IM)を注射する。hCG注射の50時間後(9AM)に卵母細胞を採集する。
【0180】
第一段階核移植胚再構成
第一段階核移植のための多数のプロトコルが利用できる。それらの利用は、移植時のドナー細胞核の細胞周期段階によって規定される。
1.「MAGIC」(中期停止G1/G0受容細胞質体)(Metaphase Arrested G1/G0 Accepting Cytoplast)
除核卵母細胞を10%FCS無カルシウム培地中で39℃にて維持した。第一段階核移植において現在のところドナー遺伝物質はピエゾ補助注入によって除核卵母細胞に導入されることが好ましいが、これは本質的ではない。注入を助けるために細胞質レシピエントを13,000xGで5分間遠心してもよい。ドナー細胞を(場合により)12%のポリビニルピロリドンを含む培地に置き、細胞を注入ピペット中に吸い込み次に卵母細胞に注入する。細胞膜は適切な大きさのピペットを選択することによりおよび/またはピエゾ振動バーストおよびピペッティングの繰り返しにより意図的に損傷してもよい。注入ピペットの大きさは細胞の大きさに依存する。
【0181】
あるいは、核の移植は細胞融合によって達成してもよい。除核の後、できるだけ早く、ガラスピペットを用いて予め透明帯に作製しておいた穴を通じて単一の細胞を移して卵母細胞と接触させた。次に細胞質/細胞対(クプレット)を融合チャンバー内の融合培地(H2O中の0.1mM MgSO4&0.05mM CaCl2を添加した0.3M D-ソルビトール、オスモル濃度280mOsM)に移した。このクプレットを手動で電極の間に並べた。5秒間隔で1kV/cm、60μ秒間という2回のDCパルスをかけることによって融合を行った。次にこのクプレットを10%FCSを追加した無カルシウム培地中で37℃にて洗浄し、同じ培地中でオイル下において37℃、5%CO2でインキュベーションした。活性化の30分間前にこのクプレットを5μMのノコダゾールを含む10%FCS無カルシウム培地に移した。活性化は以下のように誘導し、活性化の後、再構成接合体をNCSU23、10%FCS中37℃、5%CO2にて更に3時間インキュベーションした。次に、これらをノコダゾールを含まない同じ培地中で37℃にて5分間、3回洗浄し、第2段階核移植胚再構成の核ドナーとして使用するに先立って前核を形成するのに充分な期間更に培養した。あるいは、ドナー核を手動またはピエゾ補助注入または細胞融合を生じさせる他の化学的若しくは物理的手段によって移植してもよい。
【0182】
2.「GOAT」(G0/G1活性化および移植)
除核卵母細胞を成熟培地に戻した。成熟開始から30〜42時間後、単一細胞を除核細胞と接触させた。このクプレットを融合培地(H2O中の0.1mM MgSO4&0.05mM CaCl2を添加した0.3M D-ソルビトール、オスモル濃度280mOsM)中、融合チャンバーに移した(下記参照)。5秒間隔で1kV/cmを60μ秒間という2つのDCパルスをかけることによって融合を行った。このクプレットをNCSU23 10%FCS中で洗浄し、37℃、5%CO2にて第2段階核移植胚再構成の核ドナーとして使用するに先立って前核を形成するのに充分な期間更に培養した。あるいは、ドナー核を手動またはピエゾ補助注入または細胞融合を生じさせる他の化学的若しくは物理的手段によって移植してもよい。
【0183】
3.「万能レシピエント」
除核卵母細胞を(以下に記載したように)活性化し、NCSU23、10%FCS中で37℃、5%CO2にて培養した。MPF活性の減衰後、単一細胞を卵母細胞と接触させ、以下に記載したように融合を誘導した。次にこのクプレットをNCSU23 10%中で37℃、5%CO2にて、第2段階核移植胚再構成の核ドナーとして使用するに先立って前核を形成するのに充分な期間更に培養した。あるいは、ドナー核を手動またはピエゾ補助注入または細胞融合を生じさせる他の化学的若しくは物理的手段によって移植してもよい。
【0184】
第2段階核移植胚再構成のための細胞質体の調製
適切な細胞質体は「万能レシピエント」に記載した様に除核卵母細胞の活性化により調製することができる。あるいは、現在好まれるように、細胞質体レシピエントはin vivoまたはin vivoで作製されたどんな接合体からも調製することができる。前核形成後、適切に緩衝化された培地中で、13,000xgにて5分間接合体を遠心してよく、これにより前核の視覚化が助けられる。しかし、これは必須ではない。遠心した接合体を(上述したような)適切な培地中でマニピュレーションチャンバーに置き、2つの前核を含む細胞質体部分をミクロピペットを用いて吸引する。
【0185】
第2段階核移植胚再構成
in vivo受精1-細胞ブタ接合体の採集のための同調法
in vivo成熟ブタ卵母細胞の採集のための適切な方法を以下に記載した。実用上は適切な卵母細胞を与えるどんな方法を使用してもよい。
周期の第12〜16日(第0日は交尾期)から開始して、オルトレノゲスト(Altrenogest)(Regu-Mate, 18mg/日、9AM)を5〜9日間与える。交尾期が得られない場合、オルトレノゲストを14日間与える。最後のオルトレノゲストを与える間に雌ブタにエストルメート(Estrumate)(IM, 1.0ml, 9AM)を注射する。最後のオルトレノゲストを与えた14時間後(11PM)、eCG(ウマじゅう毛性ゴナドトロピン、1500 IU IM)を注射する。eCG注射の79時間後(6AM)にhCG(ヒトじゅう毛性ゴナドトロピン、1000 IU IM)を注射する。hCG注射の24および36時間後に人工的に受精させる。hCG注射の50時間後に胚を採集する(昼)。
【0186】
第2段階核移植胚の再構成
第1の核移植胚からの前核の吸引によって形成された、細胞質の一部に取り囲まれた核体および結合した膜を、第2のレシピエント細胞質体の透明帯の下に置いて細胞質体と接触させる。核体と細胞質体の融合は以下の方法またはその他の何らかの方法で行う。あるいは、核体、前核又は細胞質の一部に取り囲まれた前核を第2の核移植胚に注入してもよい。
【0187】
再構成胚の培養
再構成胚は何らかの適切な培地および条件、例えば10%FCSを添加したNCSU培地で37℃、5%CO2の加湿大気を用いてin vitroで培養してよい。あるいは、ブタ種に現在選択されている方法のように、再構成胚を直接同調させた最終レシピエントに移して分娩まで発生させてもよい。同調したレシピエントへの胚の移植は良好な胚および胎児発生を支持することが分かっている。対照実験において、ブタ接合体を疑似操作して、核移植手順の間に生じる透明帯損傷を模倣した。この操作された胚を次に適切なレシピエントに移した。続いて、このレシピエントを犠牲にし移植した胚の発生を評価した(表7)。
【0188】
表7.in vivo由来ミクロ操作ブタ接合体を用いた胚発生および妊娠誘導。核移植ミクロ操作を模倣するため除核ピペットにより透明帯に2つの穴をあけた。次にこの胚をレシピエントに移植した。

操作された胚は胚盤胞期および健康な胎児まで発生することができた。
【0189】
融合および活性化
活性化のために卵母細胞を活性化培地(H2O中の0.1mM MgSO4 &0.05mM CaCl2を添加した0.3M D-ソルビトール、オスモル濃度280mMOsM)中で2つの平行な電極の間に置いた。活性化は5秒間隔で1kV/cm、60μ秒間という2回のDCパルスをかけることによって誘導した。この活性化手順は単為生殖胚を胚盤胞期まで発生させる(以下の表8を参照)。しかしながら、他の適切な培地、例えば、蒸留水中の0.3Mマンニトール、0.1mM MgSO4、0.001mM CaCl2も使用することができる(Willadsen、1986)。どんな適切なパルスも利用でき、例えば1.25kV/cmを80μ秒間という1回のDCパルスも利用できる。融合のためには、除核卵母細胞と細胞の間の接触境界を電極に平行にすることを加えて操作した胚を同様に処理する。融合は3Vを5秒間というAC電流と続いて5秒間隔で1.0kV/cm、60μ秒間のDCパルスをかけることによって誘導した。
【0190】
表8.異なる齢で電気的に活性化したブタ卵母細胞の胚盤胞期への発生

【0191】
胚培養および評価(全グループ)
再構成の後、胚は当業者に知られた種々の技術によって培養してよい。それらには以下が含まれる;最終的な代理レシピエントに移植するための段階まで適切な培地中でin vitro培養することまたは適切なレシピエント宿主の結紮卵管中でin vivo培養すること。あるいは、必須ではないがブタについて選択される方法のように、第2段階再構成胚を適切な同調最終レシピエント宿主の卵管に直接移し、分娩日まで発生させることである(表9および10を参照せよ)。
【0192】
表9.二重核移植ブタ胚の発生。第1段階核胚は二倍体初代線維芽細胞をin vivo成熟除核ブタ卵母細胞にピエゾ注入することによって再構成した。第2段階核移植はin vivo作製ブタ接合体使用。再構成胚を同調したレシピエント雌ブタの卵管に移し第6日に発生の評価のために回収した。

【0193】
表10:二重核移植胚の同調最終レシピエントへの直接移植後に生じた受胎

【0194】
核移植再構成胚用代理レシピエントの調製のための同調法
接合体のために使用した方法と、eCGなし、AIなし、1.5日遅れという以外は同じである。

代理レシピエントにおける妊娠を維持する方法
最終レシピエントにおいて妊娠を維持するために、再構成胚と同じ発生段階のin vivo生成胚を核移植胚とともに移植してもよい。あるいは、現在ブタの場合に好まれるように、最終レシピエントを以下のやり方でホルモン処理して妊娠を維持してもよい:妊娠第9日または10にeCG(1000IU)、その後3〜3.5日後にhCG(500IU)。
【実施例10】
【0195】
実施例10. 体細胞を核ドナーとして使用したクローンブタの作製
ブタ顆粒層細胞の単離:
顆粒層細胞を濾胞液の針吸引によって卵胞から採集した。卵巣を採取した動物は卵母細胞採集に使用したのと同じように調製した(以下の卵母細胞回収を参照せよ)。濾胞を10mlシリンジに接続した18ゲージの皮下注射針を用いて卵巣皮質に突き刺すことによって吸引した。直径2〜5mmの濾胞から濾胞液を採集し、15mlのコニカル遠心管に移し、1000rpmで10分間遠心した。細胞ペレットを10%FCS(Summit Biotech)、NEAA、2ng/ml bFGFおよび6μl/mlゲンタマイシンを含むDMEM(Gibco)に再懸濁した。細胞を数日増殖させて凍結保存した。
【0196】
核移植用の細胞調製
ドナー細胞を35mmディッシュあたり1〜5x104細胞でプレーティングし、NEAA(0.1mM)、bFGF(2ng/ml)および10%ウシ胎児血清を補充したDMEM培地中で100%コンフルエントに達するようにした。二倍体DNA含量を有する健全な細胞の数を最大にするために接触阻害を用いて同調させた。詳細には細胞周期データを参照せよ。
細胞をトリプシン処理によって採集し、無カルシウムリン酸緩衝NCSU-23培地中、38.5℃にて20〜120分間懸濁液として保存した後、核ドナーとして使用した。
【0197】
細胞周期解析(顆粒層細胞)
MII卵母細胞を第一段階核移植(NT)のためのレシピエント細胞質体として使用したので、生じる再構成胚の倍数性と適切な協調性を維持するように二倍体DNA含量を有するドナー細胞を選んだ。培養8日後の種々の細胞の集団の細胞周期内の位置をフローサイトメトリーを用いてDNA含量を測定することにより決定した。3つの集団を解析した:コンフルエント前の活発に増殖している顆粒層細胞、接触阻害された顆粒層細胞、48時間血清飢餓させた顆粒層細胞。
この実験の結果を表11にまとめた。血清飢餓の後、顆粒層細胞集団はG1にある細胞と一致するよりも低いDNA含量を有する構造体を大きな割合で(7.2%)含んでいることが明らかになった(それらはサブ-G1にある)。これらの構造体はアポトーシスおよび老化を受けている細胞に特徴的であり、従って、顆粒層細胞は血清飢餓にあまり耐性でないことを示している。より高い割合の細胞(90.3%)がG1/G0にあり、この集団中のアポトーシス性サブ-G1細胞がより少なかった(僅かに1.6%)ので、接触阻害(100%コンフルエント)による細胞の同調はより効果的であった。
【0198】
表11.顆粒層細胞の細胞周期解析。値は集団中の総細胞数に対するパーセンテージとして表してある。

【0199】
卵母細胞および接合体回収のための雌ブタの同調および過剰排卵
卵母細胞回収
交配雌ブタ(127kg−145kg(280-320lbs))を同調させ、過剰排卵させ、卵母細胞を採集した。雌ブタは餌に混入した18〜20mgのRegu-Mate(Altrenogest、Hoechst)の経口投与によって同調させた。Regu-Mateは発情周期段階に依存した計画に従って5〜14日間与えた。エストルメート(Estrumate)(250μg、Bayer)をRegu-Mate処理の最終日にIM投与した。過剰排卵は、最後のRegu-Mateを与えてから15〜17時間後に妊馬血清ゴナドトロピン(PMSG、Diosynth)1600 IUをIM注射することによって誘導した。1500単位のヒトじゅう毛性ゴナドトロピン(hCG、Intervet America)をPMSG注射の82時間後にIM投与した。卵母細胞をhCG注射の50〜52時間後にBSA(4g/l)を含むダルベッコのリン酸緩衝生理食塩水を用いて採集した。
【0200】
妊娠維持
妊娠は妊馬血清ゴナドトロピン(PMSG)およびヒトじゅう毛性ゴナドトロピン(hCG)の組み合わせによって維持した。PMSG(1000 IU)を発情周期第10日にIM注射した(発情開始を第1日とする)。ヒトじゅう毛性ゴナドトロピンは3〜3.5日後、周期の第13日にIM注射した。

接合体回収
交配雌ブタ(127kg−145kg(280-320 lbs))を同調させ、過剰排卵させ、接合体を採集した。雌ブタは餌に混入した18〜20mgのRegu-Mate(Altrenogest、Hoechst)の経口投与によって同調させた。Regu-Mateは雌ブタの発情周期段階に依存して5〜14日間与えた。エストルメート(Estrumate)(250g、Bayer)をRegu-Mate処理の最終日にIM投与した。過剰排卵は、最後のRegu-Mateを与えてから15〜17時間後に妊馬血清ゴナドトロピン(PMSG、Diosynth)1600 IUをIM注射することによって誘導した。1500単位のヒトじゅう毛性ゴナドトロピン(hCG、Intervet America)をPMSG注射の78時間後に投与した。次に、雌ブタをhCG注射の24〜36時間後に人工受精または自然交配させた。接合体はhCG注射の52〜54時間後にBSA(4g/l)含むダルベッコリン酸緩衝食塩水を用いて採集した。
【0201】
卵母細胞除核
回収した卵母細胞を38℃に維持し、4g/lのBSAを含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で洗浄し、38℃のリン酸緩衝無カルシウムNCSU-23培地に移した。染色体を除去するため(除核)、卵母細胞を初めに5μg/mlのサイトカラシンB(Sigma)(サイトカラシンBが最適)および7.5μg/mlのHoechst 33342(Sigma)を含むリン酸緩衝無カルシウムNCSU-23培地に38℃で20分間置いた。次に、第1極体直下から少量の細胞質を18μMのガラスピペットを用いて吸引した。除核は吸引したピペット中の細胞質部分をUV光にさらし、中期版の存在を調べることによって確認した。
【0202】
胚再構成(第1日)
10〜20個の卵母細胞のグループを除核し、38℃の20μlのリン酸緩衝無カルシウムNCSU-23の液滴中、ミネラル油(SIGMA)下に置いた。hCG注射の53-56時間後に、単一細胞を透明帯の下におき、除核細胞質と接触させた。このクプレットを700μlの蒸留水中の0.3Mマンニトール、0.1mM MgSO4、0.1mM CaCl2を含む融合チャンバー(モデル#BT-453、 BTX Inc. San Diego, CA)に移した。融合および活性化はECM2001 エレクトロマニピュレーター(BTX Inc., San Diego, CA)を用いて、5秒間の5VのACパルスに続いて1.5kV/cm、60μ秒間の2回のDCパルスをかけることによって誘導した。次にクプレットを炭酸緩衝化NCSU-23培地中で洗浄し、この培地中、5%CO2を空中に含む38.6℃の加湿雰囲気中で0.5〜1時間インキュベーションした。次に倒立顕微鏡を用いて300x倍率でクプレットを融合について調べた。融合した再構成胚をそれぞれ1.2kV/cm、60μ秒間の2回連続DCパルスを用いて人工的に活性化し、一晩培養した。
【0203】
二重核移植(第2日め)
二重核移植とは、第1日の核移植によって作製した核を用いて、第2日の除核接合体を再構成することをいう。
前日の(第1日)の核移植による核形成の評価:
前日の核移植によって再構成された胚を培養物から取り出し、バイオフュージュ(Biofuge)中で13,000rpm、15分間遠心して核形成を観察した。倒立顕微鏡を用いて300Xで観察することにより、疑似−前核の存在について胚を評価した。疑似-前核を有する胚を分画し、数を数え、空気中に5%CO2を含む38.6℃のインキュベーター内のNCSU-23含有培養プレート中に戻した。
接合体除核:
接合体をBiofuge13遠心機で13,000rpm、15分間遠心した。次にこの接合体を5.0μg/mlのサイトカラシンB(Sigma)を含む38℃のリン酸緩衝NCSU-23培地中に置き、20分間インキュベーションした。2つの前核を有する受精接合体を除核のために使用した。
核を除去するため、除核ピペット(25〜35μm)を透明帯を通して細胞質に挿入し、除核ピペットの開口部が前核の近くにあるようにした。除核系にゆっくりと陰圧をかけることにより前核および極体を両方とも吸引した。
【0204】
除核接合体の再構成
第1日再構成胚をサイトカラシンBおよびノコダゾールを含むリン酸緩衝NCSU-23培地中においた。30〜45μmの除核ピペットを操作のために用いた。疑似−前核を吸引して最小限の周辺細胞質を有する核体を調製した。これらの核体を除核接合体の卵黄周囲腔中にゆっくりと排出した。クプレットを700μlのSOR2培地を含む融合チャンバーに移した。5秒間の5V ACパルスに続く60μ秒間の1.2kV/cmの2回のDCパルスをかけることにより融合を誘導した。次にこのクプレットをNCSU-23培地で洗浄し、この培地中、38.6℃、5%CO2にて0.5〜1時間インキュベーションし、融合について調べた。融合したクプレットを発情周期同調レシピエント雌ブタの卵管に可能な限り素早く移した。初代顆粒層細胞を用いた核移植の結果を表12にまとめた。
【0205】
表12.ブタ顆粒層細胞を用いた核移植

1少なくとも3体の胎児;2少なくとも2体の胎児。ブタの子宮の解剖学的一のために超音波でブタの胎児の正確な数を測定するのは困難であった。
超音波画像により、妊娠期間第29日および第42日に妊娠状態が確認された。
【0206】
本発明の好ましい実施態様を記載したが、開示した詳細な説明および実施態様に種々の改変を加えることができること、およびその様な改変は本発明の範囲に含まれることは当業者には明らかであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子ターゲッティング事象により体細胞の遺伝物質を改変することを含む、核移植のための体細胞を調製する方法。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2011−188873(P2011−188873A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151655(P2011−151655)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【分割の表示】特願2000−601905(P2000−601905)の分割
【原出願日】平成12年3月3日(2000.3.3)
【出願人】(505226404)リビィビィコー インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】