説明

余寿命推定方法、メンテナンス・更新計画作成方法、余寿命推定システム及びメンテナンス・更新計画作成システム

【課題】診断対象機器の無駄な更新を未然に防いで資源の有効利用を図り、余寿命推定に用いる関数を単一にして記憶手段を小容量化し、コストを低減させた余寿命推定方法及び推定システムと、推定した余寿命に基づき適切な計画を作成可能としたメンテナンス・更新計画作成方法及び作成システムを提供する。
【解決手段】診断対象機器内のプリント基板上に堆積した塵埃に含まれる塩成分とプリント基板の周囲湿度とをパラメータとして、プリント基板上のパターン間が短絡する条件を、パターン間が短絡するときの短絡湿度と前記塩成分の堆積量との関係を示すマスターカーブとして予め求め、このマスターカーブと、プリント基板上に堆積した塵埃に含まれる塩成分の現時点の堆積量測定値と、周囲湿度の測定値と、プリント基板の清掃履歴または診断対象機器の導入時期に応じた塩成分の堆積速度と、を用いて、診断対象機器(プリント基板)の余寿命を推定演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の工業用機器の余寿命を推定する方法、この方法により推定した余寿命を用いて前記機器のメンテナンス・更新計画を作成する方法、及び、これらの方法を実施するための余寿命推定システム並びにメンテナンス・更新計画作成システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
工業用機器(例えば、インバータ、流量計、圧力計等)は工場やプラントの操業を支える重要な機器である。これらの機器が設置される周囲環境条件は一般に生産現場に近いこともあり、比較的悪い環境にあるといえる。周囲環境条件としては温度、湿度、浮遊塵埃、腐食性ガス等が挙げられるが、これらの環境条件は長期間に渡って機器にストレスを与え続ける。これらのストレスが徐々に蓄積された結果、各種機器は機能が低下、劣化し、ついには工場やプラントの操業停止に至り、ユーザは重大な損失を被ることになる。
【0003】
このような各種機器の機能低下や劣化に起因する工場やプラントの操業停止を未然に防止し、損失を発生させないためには、機器の状態を的確に把握すると共に、適切なメンテナンスや機器の更新を行う必要がある。
一般に、機器の状態把握は外観検査や特性試験等により、また、メンテナンスや更新は、稼動時間の管理等によって実現されている。
【0004】
ここで、特許文献1には、機器が設置された環境条件または汚損度測定値から汚損速度を求め、この汚損速度と経過時間とから将来の汚損度を推定する汚損度推定方法、及び、汚損度推定値に応じてメンテナンス方法を選択するようにした機器のメンテナンス方法が開示されている。
この従来技術によれば、機器を停止せずに汚損度を把握することができ、設置環境を含む広範囲な条件を考慮した汚損度推定値を用いてメンテナンスの方法を選択することにより、無駄のない効率的な機器管理やプラントの安定かつ安全な操業を可能にしている。
【0005】
しかしながら、上記従来技術では機器の汚損状態を推定するのみであり、汚損状態が機器の機能低下に与える影響やその具体的な現象については言及されていない。
機器の汚損が機器の機能低下に与える影響の一つとして、汚損物質(以下、塵埃という)中に含まれる塩(酸と塩基との中和反応により生成される化合物)によるプリント基板のパターン間の短絡が挙げられる。すなわち、プリント基板上に堆積した塵埃中に塩が含まれる場合、水分の存在により塩は電離し、プリント基板上のパターン間の抵抗値は低下する。塵埃中に含まれる塩の濃度が増加するほどパターン間抵抗は低下することになり、ついにはパターン間が短絡して機器が故障に到ることになる。
上記の現象は、機器の汚損が機器の機能低下に与える影響の一つであるが、特許文献1記載の従来技術では、このような短絡故障がいつ発生するか等を予測することは不可能であった。
【0006】
一方、特許文献2には、ユーザに提供された測定試料により電子回路基板(電気機器)が設置されている環境の汚損度(測定試料の表面に付着している汚損物質中のイオン性成分を塩化ナトリウムの量に換算した値)を測定して環境有害度の指標値とし、診断者が、この指標値に基づいて電子回路基板の導体間の絶縁抵抗を推定することにより劣化状態を診断するようにした電子回路基板の劣化寿命診断法が記載されている。
この従来技術によれば、導体間の絶縁抵抗と共に電子回路基板の余寿命を推定して表示出力することが可能になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−29783号公報(段落[0025]〜[0028]、図1〜図3等)
【特許文献2】特開2002−71666号公報(段落[0041]〜[0045]、図1,図9〜図11等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかるに、特許文献2に記載された従来技術では、寿命診断を行った電子回路基板を有する機器が寿命を迎える際に、メンテナンスを行うべきなのか、或いは機器を更新するべきなのかという判断ができないという欠点もある。
仮に、機器が寿命を迎えた際にメンテナンスを行うことで寿命が延びる場合には、更新せずにメンテナンスを行うべきであるが、その際に機器を更新してしまうと本来の余寿命より短い期間で機器を更新することになり、ユーザにとって、資源の有効活用、経費節減等の観点からは好ましくない結果を招いてしまう。
【0009】
更に、特許文献2に係る従来技術では、環境の温度・湿度の組み合わせ別に複数の劣化寿命診断関数をデータベースとして備えており、温度・湿度の組み合わせに応じて前記データベースから所定の劣化寿命診断関数を選択し、この劣化寿命診断関数に汚損度を代入して絶縁抵抗を推定しているので、データベースの容量が多くなったり、絶縁抵抗の演算処理が複雑である等の問題もある。
【0010】
そこで、本発明の解決課題は、診断対象機器の無駄な更新を未然に防いで資源の有効利用を図ると共に、余寿命推定に用いる関数を単一にして推定演算を簡素化した余寿命推定方法及び推定システムを提供し、更に、推定した余寿命を利用して診断対象機器の適切なメンテナンス・更新計画を作成可能としたメンテナンス・更新計画作成方法及び作成システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、請求項1に係る余寿命推定方法は、コンピュータシステムにより、診断対象機器内のプリント基板の余寿命を前記診断対象機器の余寿命として推定演算する余寿命推定方法において、
前記プリント基板上に堆積した塵埃に含まれる塩成分と前記プリント基板の周囲湿度とをパラメータとして、前記プリント基板上のパターン間が短絡する条件を、前記パターン間が短絡するときの短絡湿度と前記塩成分の堆積量との関係を示すマスターカーブとして予め求め、
前記マスターカーブと、前記プリント基板上に堆積した塵埃に含まれる前記塩成分の現時点の堆積量測定値と、前記周囲湿度の測定値と、前記プリント基板の清掃履歴または前記診断対象機器の導入時期に応じた前記塩成分の堆積速度と、を用いて、前記プリント基板の余寿命を推定演算するものである。
【0012】
請求項2に係るメンテナンス・更新計画作成方法は、コンピュータシステムにより、請求項1記載の余寿命推定方法により推定演算した余寿命を現時点に加算して得た第1の時期と、予め定められた前記診断対象機器のメンテナンスが困難になり社会的寿命を迎える第2の時期と、を比較し、
第1の時期が第2の時期に達しない時点では前記診断対象機器のメンテナンスを行い、第1の時期が第2の時期を超える時点では前記診断対象機器の更新を行う内容の計画を作成するものである。
【0013】
請求項3に係る余寿命推定システムは、コンピュータシステムにより、診断対象機器内のプリント基板の余寿命を前記診断対象機器の余寿命として推定演算する余寿命推定システムにおいて、
前記プリント基板上に堆積した塵埃に含まれる塩成分と前記プリント基板の周囲湿度とをパラメータとして、前記プリント基板上のパターン間が短絡する条件を、前記パターン間が短絡するときの短絡湿度と前記塩成分の堆積量との関係を示すマスターカーブとして記憶し、かつ、前記プリント基板上に堆積した塵埃に含まれる前記塩成分の堆積量測定値と、前記周囲湿度の測定値と、前記プリント基板の清掃履歴と、前記診断対象機器の導入時期とを記憶した記憶手段と、
前記記憶手段に記憶された現時点の前記塩成分の堆積量測定値と、前記清掃履歴または前記導入時期と、を用いて、前記塩成分の堆積速度を演算する塩成分堆積速度演算手段と、
前記記憶手段に記憶された前記マスターカーブと、現時点の前記塩成分の堆積量測定値と、前記周囲湿度の測定値と、前記塩成分堆積速度演算手段により演算された前記塩成分の堆積速度と、を用いて、前記プリント基板の余寿命を推定演算する余寿命計算手段と、を備えたものである。
【0014】
請求項4に係るメンテナンス・更新計画作成システムは、請求項3記載の余寿命推定システムにおいて、
前記記憶手段には、前記診断対象機器のメンテナンスが困難になる時期としての社会的寿命が更に記憶されており、
前記余寿命計算手段により推定演算した余寿命を現時点に加算して得た第1の時期と、前記社会的寿命を迎える第2の時期と、を比較し、第1の時期が第2の時期に達しない時点では前記診断対象機器のメンテナンスを行い、第1の時期が第2の時期を超える時点では前記診断対象機器の更新を行う内容の計画を作成するメンテナンス・更新計画作成手段を、更に備えたものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の余寿命推定方法及び推定システムによれば、診断対象機器の無駄な更新を未然に防いで資源の有効利用を図ることができ、また、プリント基板の余寿命推定に用いる関数を単一にすることによって推定演算の簡素化、当該関数の記憶容量の節減が可能である。
更に、本発明のメンテナンス・更新計画作成方法及び作成システムによれば、推定した余寿命を利用して診断対象機器の適切なメンテナンス・更新計画を容易に作成し、メンテナンスコストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】複数の塩成分堆積濃度における、プリント基板周囲の相対湿度とパターン間抵抗との関係を示す図である。
【図2】塩成分堆積量と短絡湿度との関係を示す図である。
【図3】塩成分堆積量の測定結果とプリント基板周囲の湿度測定結果を、図2のグラフ上に追記した図である。
【図4】診断対象機器のメンテナンス・更新計画の作成方法の説明図である。
【図5】実施形態に係る余寿命推定システム及びメンテナンス・更新計画作成システムの構成図である。
【図6】実施形態に係る余寿命推定システムによるディスプレイ上の表示例を示す図である。
【図7】実施形態に係るメンテナンス・更新計画作成システムによるディスプレイ上の表示例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
図1はプリント基板上に塩成分を含む塵埃を堆積させ、プリント基板の周囲湿度を変化させたときのパターン間抵抗の変化を示す結果の一例である。プリント基板上に塩成分を含む塵埃が存在する場合、図1に示すように、パターン間抵抗は湿度の上昇と共に低下していく。これは、プリント基板上に堆積した塵埃中に、湿度上昇に伴う水分量増加によって塩成分が電離(イオン化)し、これがプリント基板上のパターン間の導電率を上昇させるためである。また、塵埃中に含まれる塩成分の堆積量が増加するほどパターン間の導電率は上昇するので、パターン間抵抗は低下することになる。
なお、図1中に記載した塩成分堆積量は、以下の数式1により定義される。
【0018】
【数1】

【0019】
すなわち、塩成分堆積量とは、単位面積あたりに含まれる塩成分の絶対量を意味する。図1に示したように、塩成分堆積量が大きいほど、同じ湿度でもパターン間抵抗は小さくなる。ここで、パターン間抵抗の短絡閾値を予め求めておき、塩成分堆積量ごとのパターン間抵抗と相対湿度との関係から、短絡抵抗を求めることができる。つまり、図1におけるしきい値とパターン間抵抗の特性線とが交差した時の湿度を、短絡湿度と定義する。図1において、塩成分堆積量が「大」のケースでは、短絡湿度は約65%となる。
【0020】
このようにして塩成分堆積量を変化させて短絡湿度を求め、塩成分堆積量と短絡湿度との関係を示したものが図2である。
図2に示す塩成分堆積量と短絡湿度との関係はマスターカーブとして予め求めておくことが可能であり、両者の関係は近似式により関数fとして数式2のように定義することができる。なお、近似式の作成には、例えば最小二乗法を用いればよい。
【0021】
【数2】

【0022】
すなわち、短絡湿度は塩成分堆積量の関数として表すことができる。この関数fの逆関数をgとすると、塩成分堆積量は短絡湿度の関数として、数式3のように定義される。
【0023】
【数3】

【0024】
次に、実際に診断を行う対象機器(診断対象機器という)のプリント基板上の塵埃中に含まれる塩成分堆積量の測定結果とプリント基板の周囲湿度の測定結果を、図2のグラフ上に追記したものを図3に示す。
図3では、プリント基板上の塩成分堆積量測定結果をinow、プリント基板の周囲湿度測定結果をRHとして表してある。また、塩成分堆積量と短絡湿度との関係を示すマスターカーブと、プリント基板の周囲湿度測定結果との交点の塩成分堆積量をiRHとして表してある。
ここで、iRHは、数式3のRHをRHと置き換えることにより数式4によって求められる。
【0025】
【数4】

【0026】
数式4は、プリント基板の周囲湿度がRHのまま持続した場合に、プリント基板のパターン間が短絡するときの塩成分堆積量を示している。そこで、
塩成分堆積速度:V(mg/mm・年)、
現在の塩成分堆積量inowがiRHとなるまでの時間(つまり余寿命):Δt(年)
と定義すると、数式5が成立する。
【0027】
【数5】

【0028】
この数式5によれば、現在の塩成分堆積量inowに、塩成分堆積速度Vと時間Δtとを乗算したものを加えると、プリント基板のパターン間が短絡する塩成分堆積量iRHとなる。この式をΔtについて解くと、数式6が得られる。
【0029】
【数6】

【0030】
ここで、数式6における塩成分堆積速度Vは、プリント基板の清掃履歴の有無に応じて以下のように求めることができる。
まず、プリント基板の清掃履歴がある場合には、最新の清掃履歴(清掃を行った年月日)を用いて、数式7により塩成分堆積速度Vを求める。
【0031】
【数7】

【0032】
また、清掃履歴がない場合には、数式7における清掃履歴に代えて、診断対象機器の導入年月日を用いて数式8により塩成分堆積速度Vを求める。
【0033】
【数8】

【0034】
なお、前述した数式6は、プリント基板の余寿命推定値を示している。
すなわち、塩成分堆積量と短絡湿度との関係を示すマスターカーブと、診断対象機器のプリント基板上の塵埃中に含まれる塩成分堆積量inowと、プリント基板の周囲湿度RHと、塩成分堆積速度Vとを用いて、プリント基板の余寿命を推定することが可能である。
【0035】
次に、診断対象機器の社会的寿命の西暦年tslimitと塩成分堆積速度Vとを用いて、メンテナンス・更新計画を作成する。なお、診断対象機器の社会的寿命とは、診断対象機器が廃型となった後に使用部品の入手が困難になり、メンテナンスを行うことが困難になる時期であり、この社会的寿命は、診断対象機器の製作者が機器ごとに独自に設定しているものである。
【0036】
前述の数式6により、プリント基板の余寿命Δtが推定されているので、現時点の西暦年をtiniとすると、プリント基板のパターン間の短絡が推定される西暦年tlimitは、数式9によって表される。
【0037】
[数9]
limit=tini+Δt
【0038】
以下では、診断対象機器の社会的寿命の西暦年tslimit(請求項2,4における第2の時期)と、プリント基板のパターン間の短絡が推定される西暦年tlimit(請求項2,4における第1の時期)との比較結果に応じて、機器のメンテナンス・更新計画を決定する方法について説明する。
【0039】
(a)tslimit>tlimitの場合
この場合は、パターン間の短絡が推定される西暦年tlimitが社会的寿命の西暦年tslimitより短いので、西暦年tlimitに(または、安全を見込んで西暦年tlimitより少し前に)、プリント基板のメンテナンス(具体的には清掃)を行うように計画を作成する。次に、数式6において現在の塩成分堆積量inow=0として再びプリント基板のパターン間が短絡するまでの時間(余寿命)Δtを求め、数式9におけるtini=tlimitとして、新たにパターン間の短絡が推定される西暦年tlimitを求める。ここで、再びtslimitとtlimitとの比較を行い、以上の処理をtslimit<tlimitとなるまで繰り返す。
【0040】
(b)tslimit<tlimitの場合
この場合は、パターン間の短絡が推定される西暦年tlimitが社会的寿命の西暦年tslimitを超えており、西暦年tlimitの時点ではメンテナンスのために部品を供給できなくなっていることから、西暦年tlimitにメンテナンスではなく機器の更新を行うように計画を作成する。
【0041】
上述したメンテナンス・更新計画の作成方法について、図4を参照しつつ更に説明する。
図4は、横軸に西暦年を、縦軸に塩成分堆積量をとったグラフであり、西暦年tiniの現時点でプリント基板の余寿命診断を行った結果、現在の塩成分堆積量inowがしきい値であるiRHになるまでの時間(余寿命)がΔtとなった場合を示している。なお、前記同様に塩成分堆積速度をV、社会的寿命の西暦年をtslimitとする。
【0042】
最初に、西暦年tiniの現時点で、前述した数式9によりプリント基板のパターン間の短絡が推定される西暦年tlimitを計算する。図4において、この西暦年tlimitと社会的寿命の西暦年tslimitとを比較するとtslimit>tlimitであるため、西暦年tlimitではメンテナンス(清掃)を行う。この西暦年tlimitを、図4ではtlimit1と表記する。
西暦年tlimit1にて清掃を行うため、その時点での塩成分堆積量は0になる。
【0043】
次に、数式6において現在の塩成分堆積量iini=0として、再びプリント基板のパターン間が短絡されるまでの時間Δtを求め、数式9において、tini=tlimit1として新たにパターン間の短絡が推定される西暦年tlimitを計算する。この西暦年tlimitと社会的寿命の西暦年tslimitとを比較すると、依然としてtslimit>tlimitであるため、この西暦年tlimitでもメンテナンス(清掃)を行う。この西暦年tlimitを、図4ではtlimit2と表記する。
この西暦年tlimit2でも清掃を行うため、その時点での塩成分堆積量は0になる。
同様にして、更に新たな西暦年tlimitを求め、社会的寿命の西暦年tslimitと比較すると、この場合にはtslimit<tlimitとなるため、この西暦年tlimitでは機器の更新を行う。このときの西暦年をtlimit3と表記する。
【0044】
以上の結果から、西暦年tlimit1,tlimit2の時点ではメンテナンスを行い、西暦年tlimit3の時点では機器の更新を行う、という内容のメンテナンス・更新計画が作成されるものである。
【0045】
次に、図5は、この実施形態に係る余寿命推定システム及びメンテナンス・更新計画作成システムの構成図である。
ここで、余寿命推定システムは、短絡条件データベース10、現場環境測定結果データベース20、診断対象機器データベース30、塩成分堆積速度計算手段40、余寿命計算手段50、統括制御手段100、入出力インタフェース70、入力手段80及び出力手段90によって構成され、メンテナンス・更新計画作成システムは、上記すべての構成要素とメンテナンス・更新計画作成手段60とによって構成されている。
【0046】
これらの余寿命推定システム及びメンテナンス・更新計画作成システムは、パソコン等のコンピュータシステムのハードウェア及びソフトウェアにより構成されている。
短絡条件データベース10、現場環境測定結果データベース20、診断対象機器データベース30は、ハードディスク装置や各種のメモリデバイス等の外部記憶装置からなるものである。統括制御手段100、塩成分堆積速度計算手段40、余寿命計算手段50、入出力インタフェース70は、主としてコンピュータ本体のCPUからなる演算処理装置と、データベース制御用ソフトウェア、塩成分堆積速度及び余寿命計算用ソフトウェア、メンテナンス・更新計画作成用ソフトウェア等により構成されている。
【0047】
入力手段80は、システムに対する起動、停止、演算、出力等の指令や各種データを入力するためのもので、キーボードやタッチパネル等の入力装置からなり、出力手段90は、余寿命の推定結果やメンテナンス・更新計画等を表示出力、印刷出力、伝送出力するためのディスプレイ、プリンタ、データ伝送装置等からなっている。
また、統括制御手段100は、システム全体の動作を統括的に制御するためのものであり、ネットワーク等によって更に上位のコンピュータシステムに接続しても良い。
【0048】
短絡条件データベース10は、前述した塩成分堆積量と短絡湿度との関係を示すマスターカーブと、その近似式とを記憶しているデータベースである。このデータベース10の記憶データの構成例を、表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
現場環境測定結果データベース20は、診断対象機器の現場環境の測定結果を記憶しているデータベースであり、具体的な現場環境測定項目は以下のとおりである。
・現場環境測定年月日
・塩成分堆積量
・湿度
このデータベース20の記憶データの構成例を、表2に示す。
【0051】
【表2】

【0052】
診断対象機器データベース30は、診断対象機器の導入年月日及び清掃履歴を記憶しているデータベースである。なお、清掃履歴がない場合、このデータベース30には清掃履歴が記憶されない。
清掃履歴がある場合のデータベース30の記憶データの構成例を表3に、清掃履歴がない場合の記憶データの構成例を表4に示す。
【0053】
【表3】

【0054】
【表4】

【0055】
塩成分堆積速度計算手段40は、現場環境測定結果データベース20に格納されている現場環境測定年月日、塩分堆積量、及び、診断対象機器データベース30に格納されている導入年月日または清掃履歴(その年月日)を用いて、塩成分堆積速度Vを計算する。
清掃履歴がある場合は、表3における最新の清掃履歴(清掃履歴2)を用いて、前述した数式7により塩成分堆積速度Vを計算する。また、清掃履歴がない場合には、表4における導入年月日を用いて、前述した数式8により塩成分堆積速度Vを計算する。
【0056】
余寿命計算手段50は、短絡条件データベース10に格納されている塩成分堆積量と短絡湿度との関係を示す近似式、現場環境測定結果データベース20に格納されている塩成分堆積量及び湿度、並びに、塩成分堆積速度計算手段40によって得られた塩成分堆積速度Vを用いて、診断対象機器のプリント基板のパターン間が短絡するまでの時間、すなわち余寿命Δtを推定する。
最初に余寿命計算手段50は、塩成分堆積量と短絡湿度との関係を示す近似式に湿度測定結果RHを代入し、プリント基板の周囲湿度がRHのまま持続した場合にプリント基板のパターン間が短絡する塩成分堆積量iRHを求める。なお、iRHの計算には、前述した数式4を用いる。
【0057】
次に、余寿命計算手段50は、上記塩成分堆積量iRH、塩成分堆積量測定結果inow及び塩成分堆積速度計算手段40から出力された塩成分堆積速度計算結果Vを用いて、余寿命Δtを推定する。この余寿命Δtの計算には、前述した数式6を用いる。
こうして余寿命Δtを計算したら、コンピュータシステムのディスプレイ等からなる出力手段90に、図6に示す如く余寿命Δtを含む各種のデータ、グラフ等を表示すればよい。
【0058】
また、メンテナンス・更新計画作成手段60は、前述したように、診断対象機器の社会的寿命の西暦年tslimit及び塩成分堆積速度V等を用いて、メンテナンス・更新計画を作成する。
すなわち、数式6により計算されている余寿命Δt及び現在の西暦年tiniを用いて前述の数式9によりパターン間の短絡が推定される西暦年tlimitを算出し、前述した如く、社会的寿命の西暦年tslimitと西暦年tlimitとの比較によって図4に示したようなメンテナンス・更新計画を作成する。
こうして作成されたメンテナンス・更新計画に基づき、図7に示す如く、清掃及び機器更新をいつ行うかを示した一覧表形式の計画を作成し、この計画をディスプレイ等の出力手段90に表示すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、回路素子が実装されるプリント基板を備えた電気・電子機器を始めとして、各種産業に使用される機器の寿命推定、メンテナンス・更新計画の作成に利用可能である。
【符号の説明】
【0060】
10:短絡条件データベース
20:現場環境測定結果データベース
30:診断対象機器データベース
40:塩成分堆積速度計算手段
50:余寿命計算手段
60:メンテナンス・更新計画作成手段
70:入出力インタフェース
80:入力手段
90:出力手段
100:統括制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータシステムにより、診断対象機器内のプリント基板の余寿命を前記診断対象機器の余寿命として推定演算する余寿命推定方法において、
前記プリント基板上に堆積した塵埃に含まれる塩成分と前記プリント基板の周囲湿度とをパラメータとして、前記プリント基板上のパターン間が短絡する条件を、前記パターン間が短絡するときの短絡湿度と前記塩成分の堆積量との関係を示すマスターカーブとして予め求め、
前記マスターカーブと、前記プリント基板上に堆積した塵埃に含まれる前記塩成分の現時点の堆積量測定値と、前記周囲湿度の測定値と、前記プリント基板の清掃履歴または前記診断対象機器の導入時期に応じた前記塩成分の堆積速度と、を用いて、前記プリント基板の余寿命を推定演算することを特徴とする余寿命推定方法。
【請求項2】
コンピュータシステムにより、
請求項1記載の余寿命推定方法により推定演算した余寿命を現時点に加算して得た第1の時期と、予め定められた前記診断対象機器のメンテナンスが困難になり社会的寿命を迎える第2の時期と、を比較し、
第1の時期が第2の時期に達しない時点では前記診断対象機器のメンテナンスを行い、第1の時期が第2の時期を超える時点では前記診断対象機器の更新を行う内容の計画を作成することを特徴とするメンテナンス・更新計画作成方法。
【請求項3】
コンピュータシステムにより、診断対象機器内のプリント基板の余寿命を前記診断対象機器の余寿命として推定演算する余寿命推定システムにおいて、
前記プリント基板上に堆積した塵埃に含まれる塩成分と前記プリント基板の周囲湿度とをパラメータとして、前記プリント基板上のパターン間が短絡する条件を、前記パターン間が短絡するときの短絡湿度と前記塩成分の堆積量との関係を示すマスターカーブとして記憶し、かつ、前記プリント基板上に堆積した塵埃に含まれる前記塩成分の堆積量測定値と、前記周囲湿度の測定値と、前記プリント基板の清掃履歴と、前記診断対象機器の導入時期とを記憶した記憶手段と、
前記記憶手段に記憶された現時点の前記塩成分の堆積量測定値と、前記清掃履歴または前記導入時期と、を用いて、前記塩成分の堆積速度を演算する塩成分堆積速度演算手段と、
前記記憶手段に記憶された前記マスターカーブと、現時点の前記塩成分の堆積量測定値と、前記周囲湿度の測定値と、前記塩成分堆積速度演算手段により演算された前記塩成分の堆積速度と、を用いて、前記プリント基板の余寿命を推定演算する余寿命計算手段と、
を備えたことを特徴とする余寿命推定システム。
【請求項4】
請求項3記載の余寿命推定システムにおいて、
前記記憶手段には、前記診断対象機器のメンテナンスが困難になる時期としての社会的寿命が更に記憶されており、
前記余寿命計算手段により推定演算した余寿命を現時点に加算して得た第1の時期と、前記社会的寿命を迎える第2の時期と、を比較し、第1の時期が第2の時期に達しない時点では前記診断対象機器のメンテナンスを行い、第1の時期が第2の時期を超える時点では前記診断対象機器の更新を行う内容の計画を作成するメンテナンス・更新計画作成手段を、更に備えたことを特徴とするメンテナンス・更新計画作成システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−52961(P2011−52961A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−199131(P2009−199131)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)刊行物名:「富士時報」第82巻第2号 (2)発行日:平成21年3月10日 (3)発行者:富士電機ホールディングス株式会社 技術・事業戦略本部 技術戦略室
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】