説明

作業機械のフットレスト

【課題】運転席を移動させなくともオペレータの足を確実に支持することができる新規な作業機械のフットレストを提供する。
【解決手段】作業機械のキャビン内に設置される運転席前方の床板11上に設けられるフットレスト60であって、前記運転席の前後方向に延びる一対のスライドレール61,61と、各スライドレール61,61に沿って移動する一対のフットレスト本体62,62と、各フットレスト本体62,62を各スライドレール61,61上の任意の位置で固定するロック機構63とからなる。これによって、フットレスト60側をオペレータ方向に移動できるため、運転席を移動させなくともオペレータの足を確実に支持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベルなどの作業機械のキャビン(運転室)に設置されるフットレストに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、油圧ショベルなどの作業機械のキャビン内には、運転席前方の床板にフットレストが設けられており、その運転席に着座したオペレータがその両足を乗せた状態で各種の操作を行うようになっている(例えば、以下の特許文献1など)。
【0003】
すなわち、図7および図8に示すように、従来の油圧ショベルのキャビン10は、周囲の視認性を確保するため、その前後左右がガラス窓で区画されており、その中央にはオペレータが座る運転席(シート)20が設けられている。この運転席20の左右には、図示しないフロント作業機を操作する操作レバー30,30が設けられていると共に、その運転席20前方の床板21には、操作ペダル41,41を備えた走行レバー40,40などが設けられている。
【0004】
そして、これら操作ペダル41,41の両側にはフットレスト50,50が設けられており、その運転席20に座ったオペレータがそのフットレスト50,50に両足を乗せて体を安定させた状態で操作レバー30,30や走行レバー40,40などを把持してフロント作業や走行、旋回などの各種の操作を行うようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−98584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、このフットレスト50,50は、キャビン10の床板11上に固定ボルト12などによって固定された状態となっている。そのため、運転席20に座ったオペレータがフットレスト50,50上にしっかりと足を乗せて各種の操作作業を行うためには、オペレータ自身がその身長や体格に合わせて運転席20を前後にスライド移動させてその位置を調整しなければならない。
【0007】
しかしながら、運転席20を前後に大きく移動させると、それと同時にオペレータの着座位置も前後するため、その位置によってはキャビン10の床板11やピラー12、窓枠13などが邪魔になって視界が制限されてしまうことがある。
【0008】
そこで、本発明はこれらの課題を解決するために案出されたものであり、その目的は、運転席を移動させなくともオペレータの足を確実に支持することができる新規な作業機械のフットレストを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために第1の発明は、作業機械のキャビン内に設置される運転席前方の床板上に設けられるフットレストであって、前記運転席の前後方向に延びる一対のスライドレールと、当該各スライドレールに沿って移動する一対のフットレスト本体と、当該各フットレスト本体を前記各スライドレール上の任意の位置で固定するロック機構とからなることを特徴とする作業機械のフットレストである。
【0010】
このような構成によれば、オペレータの足を載せるフットレスト本体をスライドレールに沿って運転席の前後方向に移動させた後、ロック機構により任意の位置でそのフットレスト本体を固定することができる。これによって、運転席側を移動させなくともフットレスト本体を最適な位置にセットしてオペレータの足を確実に支持することができる。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、前記各スライドレールを、前記運転席前方の床板に形成された床窓を挟んでその両側にそれぞれ設けたことを特徴とする作業機械のフットレストである。このような構成によれば、さらに床板に形成された床窓の視認性を損なうことなく、床窓を覗いて前屈みになった状態のオペレータの足をしっかりと支持することができる。
【0012】
第3の発明は、第1または第2の発明において、前記フットレスト本体は、オペレータの全体を乗せるフットレスト板を有し、当該フットレスト板は、前記運転席に対してスライド方向前方側が後方側よりも高くなっていることを特徴とする作業機械のフットレストである。このような構成によれば、運転席側から斜め前方に延びるオペレータの足裏全体をフットレスト板がほぼ直角状態で受けることができるため、より確実にオペレータの足を支えることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、オペレータの足を直接載せるフットレスト本体をスライドレールに沿って運転席の前後方向に移動させた後、任意の位置でそのフットレスト本体を固定することができるため、運転席側を移動させなくともフットレストを最適な位置にセットしてオペレータの足を確実に支持することができる。これによって、オペレータの身長や体格にかかわらず、最適な運転姿勢や視界を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る作業機械100の実施の一形態を示す全体図である。
【図2】本発明に係る作業機械100のキャビン10を前方に移動させた状態を示す側面図である。
【図3】本発明に係る作業機械100のキャビン10内を示す側面図である。
【図4】本発明に係る作業機械100のフットレスト60の実施の一形態を示す側面図である。
【図5】図4中A−A線断面図である。
【図6】オペレータが本発明に係るフットレスト60に足を乗せた状態で床窓14からキャビン10の下方を覗きながら操作をしている状態を示す側面図である。
【図7】従来の作業機械のキャビン10内を側面からみた状態を示す斜視図である。
【図8】従来の作業機械のキャビン10内を後方からみた状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施の形態を添付図面を参照しながら説明する。図1および図2は、本発明に係る作業機械100の1つである高所作業用の油圧ショベルの実施の一形態を示したものであり、例えば港湾などにおいて輸送船の船倉に積み込まれた石炭などの資材を陸揚げするために用いられる。この作業機械100は、図示するように自走可能な下部走行体110上に上下方向に延びるポスト120が設けられていると共に、このポスト120の上端側に上部旋回体130が旋回可能に設けられ、さらにこの上部旋回体130に作業装置140が設けられた構成となっている。
【0016】
この上部旋回体130は、ポスト120の上端側に旋回輪131を介して旋回可能に取り付けられており、本体部132と、キャビン10と、キャブ移動装置135とから主に構成されている。本体部132は、旋回輪131上に取り付けられた旋回フレーム136を有しており、この旋回フレーム136の前部側には、作業装置140が俯仰動可能に設けられると共に、その後端部側には、作業装置140との重量バランスを取るカウンタウエイト137が設けられている。また、このカウンタウエイト137の前側には建屋カバー138が設けられており、この建屋カバー138内には、図示しない油圧ポンプを駆動するエンジン139が収容されている。
【0017】
キャブ移動装置135は、キャビン10を、図1に示すように本体部132に隣接する位置から図2に示すように本体部132の前方に移動させる機能を有する。すなわち、このキャブ移動装置135は、図2に示すように、基端側が本体部132の旋回フレーム136にピン結合された2本の平行リンクからなる基端側リンク35aと、この基端側リンク35aの先端側に中継ブラケット35bを介してピン結合された2本の平行リンクからなる先端側リンク35cと、自由端となった各先端側リンク35cの先端側にピン結合されたキャブ支持フレーム35dと、旋回フレーム36と基端側リンク35aとの間、および中継ブラケット35bと先端側リンク35cとの間にそれぞれ設けられた油圧シリンダからなる2本のリンクシリンダ35e、35fとから構成されている。
【0018】
そして、図2に示すように、このキャブ移動装置135は、エンジン139によって駆動される図示しない油圧ポンプからの圧油によって2本のリンクシリンダ35e、35fを伸縮させることにより、キャブ支持フレーム35dを旋回フレーム136に対して前後移動可能となっている。これによって、キャブ支持フレーム35d上に配置されたキャビン10を、本体部132に対して前後方向に移動させることができるようになっている。
【0019】
作業装置140は、図1に示すように上部旋回体130側に揺動自在に支持されたブーム141と、このブーム141の先端に揺動自在に軸支されたアーム142と、このアーム142の先端に取り付けられたクラムシェルバケット143とから主に構成されており、それぞれ図示しない油圧ポンプからの圧油によって伸縮するブームシリンダ144(図2参照)、アームシリンダ145、バケットシリンダ146によって動作するようになっている。また、ポスト120の中間には点検場150が設けられており、下部走行体110と上部旋回体130との間にそれぞれ設けられた階段151,152によって下部走行体110から上部旋回体130へのオペレータの移動を容易にしている。
【0020】
キャビン10は、オペレータが搭乗して各種の操作を行う作業場所であり、その前後・左右および上下がキャブフレームによって区画されると共に、特にその前後・左右は、オペレータの視界を確保すべくガラス窓で形成されている。また、このキャビン10内の中央部には、図3に示すように運転席(シート)20が設けられており、搭乗したオペレータが前向きに着座した状態で各種の操作が行えるようになっている。
【0021】
この運転席20は、キャビン10の底面を区画する床板11上に設けられたスライドレール24上に、シートサスペンション23を介して設けられており、このシートスライドレール24に沿って図示矢印に示すように前後方向にスライド移動可能となっている。また、この運転席20の両側には、アームレスト21がそれぞれ設けられていると共に、そのアームレスト21の前方には、作業装置140などを操作するための操作レバー22が設けられている。また、図中符号25は、キャビン内装パネルであり、その上端には、各種の情報を表示するモニター26と、エアコンの吹出口27などが設けられている。また、図中符号28は、エンジン始動と共に急に機械が動くのを防ぐためのロックレバーである。
【0022】
さらに、図3および図4に示すように、この運転席20前方の床板11上には、ガラス板が嵌め込まれた床窓14が設けられており、図6に示すように運転席20に着座した状態のオペレータがやや前屈みになったときに、この床窓14を介してキャビン11の下方を視認できるようになっている。なお、この床窓14は、オペレータが誤って踏み外さないように床窓用ガード15で覆われている。
【0023】
そして、この床窓14の両側には、本発明に係る左右一対のフットレスト60が設けられている。このフットレスト60は、図4および図5に示すように、この床窓14を挟んで運転席20の前後方向に延びる一対のスライドレール61,61と、これら各スライドレール61,61に沿って移動する一対のフットレスト本体62,62と、これら各フットレスト本体62,62を前記各スライドレール61,61上の任意の位置で固定するロック機構63とから構成されている。
【0024】
スライドレール61は、断面U字形をした金属レールからなっており、その両端を運転席20の前後方向、かつその開口部が上向きになるように配置して締結ボルト61aによって床板11上に固定されている。
【0025】
フットレスト本体62は、下向きU字形をした金属レールからなるスライド部材62aと、このスライド部材62a上に設置されたベース板62bと、この係合するベース板62b上に設けられたフットレスト板62cとから構成されている。そして、このスライド部材62aがスライドレール61を覆うようにこれと係合してその長手方向にスライド可能となっていると共に、このスライドレール61のスライド移動に伴ってフットレスト板62cも移動するようになっている。
【0026】
さらに、このフットレスト板62cは、側面くの字形に形成されており、運転席20に対してスライド方向前方側が後方側よりも高くなっている。そして、このフットレスト板62cは、その下面に形成されたブラケット62dと、ベース板62bの上面に形成されたブラケット62eとを固定ボルト62fによって連結することでベース板62bと一体となっている。また、図4に示すように、このフットレスト板62cの表面には滑り止めのための凸部が複数形成されている。なお、ベース板62bは、固定ボルト62gによってスライド部材62a上に固定されている。
【0027】
ロック機構63は、図5に示すように、スライドレール61の側面から水平に延びるラック板63aと、フットレスト本体62のスライド部材62aの側面に設けられたロック板63bとから構成されている。ラック板63aはその端部に櫛歯状の歯63cが形成されている。一方、ロック板63bは、断面く字形に屈曲して形成されており、その屈曲部外側がスライド部材62aの側面に回動自在にピン結合されている。さらに、このロック板63bとスライド部材62aとのピン結合部にはコイルバネ63dが設けられており、このコイルバネ63dによってロック板63bがピン結合部を軸として下側に揺動するように付勢されている。
【0028】
また、このロック板63aの屈曲部より下側には、嵌合孔63eが形成されており、図5に示すように、この嵌合孔63eにラック板63aの側面に形成された歯63cの一部が嵌まるようになっている。なお、図4中64は、スライドレール61の端部に嵌め込まれた樹脂製のカバーである。
【0029】
次に、このような構成をした本発明のフットレスト60の作用を説明する。前述したようにロック機構63のロック板63bは、コイルバネ63dによって下側に揺動するように付勢されているため、ラック板63aの櫛歯状の歯63cのいずれかと常時噛み合った状態となっている。そのため、フットレスト本体62のフットレスト板62cは、その位置で固定された状態となり、いずれの方向に力が加わってもずれたり移動したりすることはない。
【0030】
このような状態でオペレータが運転席20に座り、その両足をフットレスト60に乗せたときにその位置が遠すぎたり、近すぎて適当でない場合には、ロック機構63によるロックを解除してフットレスト本体62を前後方向に移動してその位置を調整する。具体的には、図5に示すように、ロック板63bの屈曲部よりも上方を手で押してスライド部材62a側に回動させれば、ロック板63bの嵌合孔63eとラック板63aの歯63cとの係合が外れてフットレスト本体62がフリーの状態になるため、そのままロック板63bの屈曲部よりも上方を押した状態でフットレスト本体62をスライドレール61に沿って前後させることによってそのフットレスト本体62を最適な位置に移動することができる。
【0031】
そして、このようにしてフットレスト本体62を最適な位置に移動したならば、そのままロック板63bを離せば、そのロック板63bがコイルバネ63dによって下側に揺動してその位置にあるラック板63aのいずれかの歯63cと係合する。係合後は、コイルバネ63dの付勢力によってそのロック板63bと歯63cとの係合状態が保持されるため、揺れや振動が加わってもその係合が簡単に外れることはない。
【0032】
このような構成をした本発明のフットレスト60は、スライドレール61に対するフットレスト本体62の移動が規制されてその位置で固定されるため、図6に示すように、そのフットレスト板62cにオペレータの足を乗せて力を加えた状態でもしっかりとオペレータの足を支持することができる。この結果、運転席20側を移動させなくともフットレスト60を最適な位置にセットしてオペレータの足を確実に支持することができる。これによって、オペレータの身長や体格にかかわらず、最適な運転姿勢や視界を確保することができる。
【0033】
また、図4に示すようにスライドレール61,61を、運転席20前方の床板11に形成された床窓14を挟んでその両側にそれぞれ設けたことから、図6に示すように床窓14からの視認性を損なうことなく、床窓14を覗いて前屈みになった状態のオペレータの足をしっかりと支持することができる。
【0034】
さらに、オペレータの足裏と接するフットレスト板62cは、運転席20に対してスライド方向前方側が後方側よりも高くなっていることから、同じく図6に示すように運転席20側から斜め前方に延びるオペレータの足からの荷重をほぼ直角状態で受けることができるため、より確実にオペレータの足を支持することができる。
【0035】
特に、図1および図2に示すようにオペレータが搭乗するキャビン10がキャブ移動装置135によって前方に大きく突き出すような状態で作業が行われる大型の作業機械100の場合は、図6に示すように前屈みの状態での作業が多くなる上に、揺れなどが比較的大きくなる傾向がある。そのため、本発明のフットレスト60によってオペレータの両足をしっかりと支持することは効率的な作業を行う上で極めて重要となる。
【符号の説明】
【0036】
100…作業機械
10…キャビン
11…床板
14…床窓
20…運転席
60…フットレスト
61…スライドレール
62…フットレスト本体
62c…フットレスト板
63…ロック機構
63a…ラック板
63b…ロック板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機械のキャビン内に設置される運転席前方の床板上に設けられるフットレストであって、
前記運転席の前後方向に延びる一対のスライドレールと、当該各スライドレールに沿って移動する一対のフットレスト本体と、当該各フットレスト本体を前記各スライドレール上の任意の位置で固定するロック機構とからなることを特徴とする作業機械のフットレスト。
【請求項2】
前記各スライドレールを、前記運転席前方の床板に形成された床窓を挟んでその両側にそれぞれ設けたことを特徴とする請求項1に記載の作業機械のフットレスト。
【請求項3】
前記フットレスト本体は、オペレータの足裏全体を乗せるフットレスト板を有し、当該フットレスト板は、前記運転席に対してスライド方向前方側が後方側よりも高くなっていることを特徴とする請求項1または2に記載の作業機械のフットレスト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−104221(P2013−104221A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248495(P2011−248495)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】