説明

作業用走行車

【課題】トランスミッション等の走行動力系に、高い耐久性を有する高価な回転センサを設けなくても、ある程度の精度を有する走行距離データが得られるようにする。
【解決手段】走行主変速操作を行う主変速レバー10と、該主変速レバー10の操作位置を検出する主変速レバーポテンショ15とを備えるコンバイン1であって、該コンバイン1の制御部20は、主変速レバー10の操作位置と実際の車速との関係を予め記憶し、走行中は、主変速レバーポテンショ15が検出した主変速レバー10の操作位置に基づいて車速を演算すると共に、この演算車速に基づいて走行距離を積算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンバイン等の作業用走行車に関し、特に、走行距離データを利用する作業用走行車に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンバイン等の作業用走行車は、作業性、操作性、安全性等の向上を図るために、各種の自動制御機能を備えている。例えば、コンバインでは、穀粒タンクのオーバーフローを防止するために、穀粒タンクに設けたモミセンサで穀粒タンクの満杯を検出すると共に、該満杯検出に応じてエンジンを自動停止させるモミ満杯停止制御が行われている(例えば、特許文献1参照)。通常、この種の満杯停止制御では、満杯検出に応じて満杯警報を行い、所定時間経過後にエンジンを自動停止させているが、モミの増加量は走行距離に比例するため、所定距離走行後にエンジンを自動停止させることが好ましい。
【特許文献1】特開2003−219725号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、作業用走行車において走行距離データを得るには、トランスミッション等の走行動力系に、高い耐久性を有する高価な回転センサを設ける必要があるため、大幅なコストアップを招来するという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、走行主変速操作を行う主変速操作具と、該主変速操作具の操作位置を検出する主変速操作位置検出手段とを備える作業用走行車であって、前記主変速操作具の操作位置と実際の車速との関係を予め記憶し、走行中は、前記主変速操作位置検出手段が検出した主変速操作具の操作位置に基づいて車速を演算すると共に、この演算車速に基づいて走行距離を積算することを特徴とする。このようにすると、トランスミッション等の走行動力系に、高い耐久性を有する高価な回転センサを設けなくても、ある程度の精度を有する走行距離データが得られるので、作業用走行車において走行距離データを利用するにあたり、大幅なコストアップを回避できる。特に、既存の主変速操作位置検出手段を利用する場合にあっては、新たな部品の追加を行うことなく、プログラムを変更するだけで走行距離データを得ることができる。
また、走行副変速操作を行う副変速操作具と、該副変速操作具の操作位置を検出する副変速操作位置検出手段とをさらに備え、副変速操作具の操作位置が基準位置以外のときは、主変速操作具の操作位置に基づいて演算される車速を補正すると共に、この補正車速に基づいて走行距離を積算することを特徴とする。このようにすると、副変速操作具が基準位置以外(例えば、倒伏材刈取用の副変速操作位置)に操作されている状況でも、演算される車速の誤差を補正し、精度の高い走行距離データが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
次に、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。図1及び図2において、1はコンバインであって、該コンバイン1は、茎稈を刈り取る前処理部2と、刈り取った茎稈から穀粒を脱穀し、それを選別する脱穀部3と、選別した穀粒を貯留する穀粒タンク4と、穀粒タンク4内の穀粒を機外に排出する穀粒排出オーガ5と、脱穀済みの排稈を後処理する後処理部6と、運転席7や各種の操作具が設けられる操作部8と、左右一対のクローラ走行装置からなる走行部9とを備えて構成されている。
【0006】
操作部8に設けられる操作具としては、走行主変速操作を行う主変速レバー(主変速操作具)10と、走行副変速操作を行う副変速レバー(副変速操作具)11と、作業機クラッチ(脱穀クラッチ)及び刈取クラッチの操作具に兼用される刈取作業機クラッチレバー12と、穀粒排出オーガ5の動力を入切操作する排出クラッチレバー13と、ホーン(図示せず)をON/OFF操作するホーンスイッチ14とが含まれる。
【0007】
主変速レバー10は、一本のレバー操作で、前進変速範囲及び後進変速範囲に亘る無段状の走行主変速操作が可能であり、その操作位置は、主変速レバーポテンショ(主変速操作位置検出手段)15によって検出される。
副変速レバー11は、三段階の走行副変速操作が可能である。つまり、通常の刈取作業では「標準(基準)」位置に操作され、倒伏材を刈り取る際には「倒伏」位置に操作され、路上走行時には「高速」位置に操作されるようになっており、「倒伏」位置への操作は、倒伏スイッチ16によって検出される。
刈取作業機クラッチレバー12は、三つの位置に操作可能であり、第一の位置では、作業機クラッチ及び刈取クラッチが切りとなり、第二の位置では、作業機クラッチが入り、刈取クラッチが切りとなり、第三の位置では、作業機クラッチ及び刈取クラッチが入りとなる。また、作業機クラッチが入りとなる位置(第二又は第三位置)への操作は、作業機クラッチスイッチ17によって検出される。
【0008】
運転席7の下方には、エンジン(図示せず)が搭載されている。エンジンの動力は、走行系、作業機系及び刈取系に分岐され、走行部9、脱穀部3及び前処理部2にそれぞれ伝動される。エンジンから取り出される走行動力は、図示しないHST及びトランスミッションを介して走行部9に伝動される。HSTは、走行主変速機構として用いられる静油圧式無段変速機構であり、主変速レバー10の操作に応じて無段状の走行主変速動作を行う。また、トランスミッションは、走行副変速機構(図示せず)を内装しており、副変速レバー11の操作に応じて走行副変速動作が行われる。
【0009】
穀粒タンク4は、揚穀筒18を介して脱穀部3から揚上搬送される選別済みの穀粒を貯留しており、貯留した穀粒は、穀粒排出オーガ5の駆動により機外に排出される。この排出作業は、穀粒タンク4が満杯状態になる前に行うことが好ましく、これを怠るとオーバーフローが発生する可能性がある。本実施形態のコンバイン1では、穀粒タンク4のオーバーフローを防止するために、穀粒タンク4に設けたモミセンサ19で穀粒タンク4の満杯を検出すると共に、この満杯検出に応じてエンジンを自動停止させるモミ満杯停止制御が行われるようになっている。
【0010】
図3に示すように、コンバイン1には、モミ満杯停止制御等を行うために制御部20が設けられている。制御部20は、マイコン(CPU、ROM、RAM、I/O等を含む)を用いて構成されており、その入力側には、前述したホーンスイッチ14、主変速レバーポテンショ15、倒伏スイッチ16、作業機クラッチスイッチ17、モミセンサ19等が接続される一方、出力側には、燃料遮断等によりエンジンを停止させるエンジン停止ソレノイド21、電子警報音を出音する電子ブザー22等が接続されている。そして、制御部20は、予め記憶したプログラム及びデータに基づき、モミ満杯停止制御等の自動制御を実行するようになっている。
【0011】
図4に示すように、モミ満杯停止制御では、まず、作業機クラッチスイッチ17がONか否かを判断し(S1)、この判断結果がYESの場合は、続いて、モミセンサ19がONであるか否かを判断する(S2)。ここで、モミセンサ19がOFFの場合は、刈取距離変数及び刈取時間変数をクリアすると共に、警報停止フラグに「0」をセットする(S3)。一方、モミセンサ19がONの場合は、警報停止フラグのセット値を判断し(S4)、該セット値が「0」の場合は、ホーンスイッチ14がONであるか否かを判断する(S5)。そして、ホーンスイッチ14がOFFの場合は、電子ブザー22を断続駆動して電子警報音を出音し(S6)、ホーンスイッチ14がONの場合は、警報停止フラグに「1」をセットすることで(S7)、電子警報音の出音を停止させる。つまり、本実施形態のモミ満杯停止制御では、モミセンサ19による穀粒タンク4の満杯検出に応じて満杯警報を行うにあたり、ホーンスイッチ14の操作に応じて満杯警報を停止させることができるようにしている。
【0012】
また、モミセンサ19がONの状態では、警報停止フラグのセット値に拘わらず、車速の演算及び刈取走行距離の積算を行う(S8)。そして、満杯検出後の刈取走行距離が設定値以上(例えば、20m以上)になったら(S9)、エンジン停止ソレノイドを駆動し、エンジンを自動的に停止させる(S10)。また、満杯検出後の刈取走行距離が設定値以上にならなくても、満杯検出後の刈取時間が設定値以上(例えば、60秒以上)になった場合は(S11)、エンジンを自動的に停止させる。
【0013】
上記の車速演算は、走行系動力の回転検出ではなく、主変速レバー10の位置検出に基づいて行われる。つまり、制御部20は、主変速レバー10の操作位置と実際の車速との関係を予め記憶しており、走行中は、主変速レバーポテンショ15が検出した主変速レバー10の操作位置に基づいて車速を演算すると共に、この演算車速に基づいて刈取走行距離の積算を行うようになっている。例えば、図5に示すように、主変速レバー10の操作位置(P、P)に対応する実際の車速(V、V)を予め記憶しておけば、これらの数値及び現在の主変速レバーポテンショ値Pを下記の式に代入することにより、現在の車速V(副変速レバーが「標準」位置の場合の車速)を近似値として演算することが可能になる。ただし、実際の車速(V、V)は、副変速レバー11を「標準」位置にして計測したものとする。
=P・(V−V)/(P−P
また、車速Vを演算した後は、所定時間t毎に走行距離S(=V・t)を演算し、これを積算することにより、満杯検知後の刈取走行距離が得られる。
【0014】
また、副変速レバー11が「倒伏」位置である場合は、車速を補正すると共に、補正した車速に基づいて刈取走行距離の積算を行う。具体的には、副変速レバー11を「倒伏」位置にした状態で、主変速レバー10の操作位置(P、P)に対応する実際の車速(V、V)を予め計測し、これを記憶しておけば、これらの数値及び現在の主変速レバーポテンショ値Pを下記の式に代入することにより、現在の車速V(副変速レバー11が「倒伏」位置の場合の車速)を近似値として演算することが可能になる。
=P・(V−V)/(P−P
尚、主変速レバーポテンショ値から車速の近似値を求める方法は、上記の方法に限定されないことは言うまでもない。例えば、主変速ポテンショ値を細区分し、各区分における車速を計測して変換テーブルとして記憶させても良い。
【0015】
叙述の如く構成された本実施形態によれば、走行主変速操作を行う主変速レバー10と、該主変速レバー10の操作位置を検出する主変速レバーポテンショ15とを備えるコンバイン1であって、該コンバイン1の制御部20は、主変速レバー10の操作位置と実際の車速との関係を予め記憶し、走行中は、主変速レバーポテンショ15が検出した主変速レバー10の操作位置に基づいて車速を演算すると共に、この演算車速に基づいて走行距離を積算するので、トランスミッション等の走行動力系に、高い耐久性を有する高価な回転センサを設けなくても、ある程度の精度を有する走行距離データが得られる。その結果、コンバイン1のモミ満杯停止制御等において走行距離データを利用するにあたり、大幅なコストアップを回避できる。
【0016】
また、走行副変速操作を行う副変速レバー11と、該副変レバー11の操作位置を検出する倒伏スイッチ16とをさらに備え、副変速レバー11の操作位置が「倒伏」位置のときは、主変速レバー10の操作位置に基づいて演算される車速を補正すると共に、この補正車速に基づいて走行距離を積算するようにしたので、副変速レバー11の操作位置に起因する演算車速の誤差を補正し、精度の高い走行距離データが得られる。
【0017】
尚、本発明は、前記実施形態に限定されないことは勿論であって、例えば、前記実施形態では、主変速操作具の操作位置に基づいて演算される車速や走行距離を、コンバインのモミ満杯停止制御で利用しているが、主変速操作具の操作位置に基づいて演算される車速や走行距離は、コンバインのモミ満杯停止制御に限らず、他の作業用走行車や各種の自動制御において利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】コンバインの側面図である。
【図2】コンバインの平面図である。
【図3】制御部の入出力を示すブロック図である。
【図4】モミ満杯停止制御の処理手順を示すフローチャートである。
【図5】主変速レバー位置(副変速レバー位置)と車速の関係を示す説明図である。
【符号の説明】
【0019】
1 コンバイン
4 穀粒タンク
8 操作部
9 走行部
10 主変速レバー
11 副変速レバー
12 刈取作業機クラッチレバー
15 主変速レバーポテンショ
16 倒伏スイッチ
17 作業機クラッチスイッチ
19 モミセンサ
20 制御部
21 エンジン停止ソレノイド
22 電子ブザー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行主変速操作を行う主変速操作具と、該主変速操作具の操作位置を検出する主変速操作位置検出手段とを備える作業用走行車であって、
前記主変速操作具の操作位置と実際の車速との関係を予め記憶し、走行中は、前記主変速操作位置検出手段が検出した主変速操作具の操作位置に基づいて車速を演算すると共に、この演算車速に基づいて走行距離を積算することを特徴とする作業用走行車。
【請求項2】
走行副変速操作を行う副変速操作具と、該副変速操作具の操作位置を検出する副変速操作位置検出手段とをさらに備え、副変速操作具の操作位置が基準位置以外のときは、主変速操作具の操作位置に基づいて演算される車速を補正すると共に、この補正車速に基づいて走行距離を積算することを特徴とする請求項1記載の作業用走行車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−306842(P2007−306842A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−138403(P2006−138403)
【出願日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】