説明

作物の栽培支援装置

【課題】 研究者、指導者および生産者が簡単に活用できる軽量で安価な作物の栽培支援装置を提供する。
【解決手段】 耕作地の気象データを収集するセンサ部と、センサ部が収集したデータを格納する蓄積部と、作物別に作成された予測理論を格納する予測理論格納部と、蓄積部のデータと予測理論格納部の理論とを参照してデータを解析する解析判定部と、解析判定部が出した結果を表示する表示部とを一体化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、研究者、指導者から生産者まで現場で簡単に利活用できる作物の栽培支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
作物を栽培する場合、多くの管理作業が必要である。変動する気象条件を的確に、簡単に把握することにより迅速な対応がとれれば、収量向上、良品質化のほか省力化、低コスト化においても有利になる。しかし、対応が十分でないため発生する被害は毎年全国各地で多品目において発生している。しかるに、一般に提供される気象データは気象観測網によるデータを元にしており大ざっぱな情報となっている。生産者はむしろ自らの耕作地のピンポイントの雨量や温度などに基づいて病害虫の発生予測や作物の生育量・障害予測などを欲している。また、インターネットなどを利用して農家の端末からデータセンタにデータを登録・参照したりEメールで通知するシステムも提案されてきたが、点在する耕作地に気軽に設置して測定データをその場で確認できるものではない。
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで、本発明は、使用者が簡単に利活用できる軽量で安価な作物の栽培支援装置を提供することを目的として次の点を解決しようとした。
(1)一つの装置でデータ収集、蓄積、解析判定、表示の一貫した動作をしなければならない。
(2)植物に最近接で設置できなければならない。
(3)データの収集・蓄積・解析を現地で即時行い具体的な集計値や予測値を表示しなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上記の目的を達するために次の構成を設ける。請求項1においては、耕作地の栽培環境データを収集するセンサ部と、センサ部が収集したデータを格納する蓄積部と、作物別に作成された予測理論を格納する予測理論格納部と、蓄積部のデータと予測理論格納部の理論とを参照してデータを解析する解析判定部と、解析判定部が出した結果を表示する表示部とを一体化し屋外防水型のケースに格納する。外部にデータベースや解析用コンピュータは不要であり単体で一連の動作を完結する。
【0005】
請求項2においては、センサ部には温度センサ、濡れ時間感知センサ、雨量センサを装備することを特徴とする。
請求項3においては、蓄積部に蓄積されたデータを現時点より所定の期間さかのぼって集計し、期間中のデータを表示部にグラフ表示し又は図式表示し又は数値表示を行う。
【0006】
請求項4においては、予測理論格納部は、生育予測、開花予測、施肥時期予測、収穫時期予測、冷害予測、病害感染予測、害虫発生時期予測をはじめとした作物栽培管理に関する各種予測理論に基づいたモデルを導入できる。
【0007】
請求項5においては、蓄積部は外部データ回収器へのデータ転送機能を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明による実施例を図1、図2に基づいて説明する。図1は、本発明の構成図である。
【0009】
続いて、本発明の予測理論を稲作に適用する場合を例にとって説明する。
【0010】
稲作においては気象条件を早く正確に把握し適切な栽培管理を実施するために生産者等が圃場ごとに活用できる機材として本発明が利用される。稲作モデルの場合は、圃場の観測データからいもち病の感染予測、低温・日照不足時の冷害予測、追肥適期予測、収穫適期予測などを表示する。
【0011】
気象観測網による一般に提供される気象データは広域的な活用にとどまり、観測地点などの制約を強く受けきめ細かな情報とはなりにくい。生産者が圃場ごとに容易に活用できるものが強く要望されている。また、上記一般に提供される気象データの要素にも制約があり、葉いもちの感染予測などでは葉面の濡れ時間などは予測値を用いている。本発明は、濡れ時間を実測するセンサを装備する。また、いもち病菌などの葉面付着胞子の流亡条件、空中飛散胞子の減少に関係する雨量を観測するための雨量センサを備えている。これらの装備により局地的な特異性があっても設置地点の条件が解析でき、また圃場内の植物体にきわめて近い位置での測定ができるなどの点で従来より予測精度の向上が大幅に図れる。
【0012】
次に、いもち病感染予測を例に本発明の動作を説明する。温度センサ、濡れ時間感知センサ、雨量センサのデータにより、前5日間の平均気温、湿潤時平均気温、感染に有効な濡れ時間の実測値を求め感染条件を予測する。
【0013】
次に、出穂期予測、冷害予測および追肥適期予測を例に本発明の動作を説明する。温度センサおよび日照時間センサのデータにより、気温データと緯度から算出される日長時間を基にDVR(発育速度)を算出しこれを積算したDVI(発育指数)を求め、1となる日を出穂期として予測する。この生育予測式を用いることで水稲の冷害発生上重要なポイントとなる育成時期(幼穂形成期、減数分裂期、出穂期)を推定し、さらに圃場気温の推移を加味することで幼穂保護のための深水管理などの冷害回避技術を表示する。そして、出穂予測期を基点として追肥適期日を推定し表示する。図2は、冷害予測を表示した図である。
【0014】
次に、収穫期予測については、出穂期を起点として各地の品種ごとの収穫適期までの積算値が概ね調べられているのでこの値をもとに各地の収穫適期を推定し表示する。
【0015】
以上、稲作を例に本発明の実施例を示したが,この実施形態にのみ本発明の範囲を限定するものでないことは言うまでもない。地域はもとより稲作以外の野菜栽培・果樹栽培・花キ栽培・芝管理などにおいても本発明は有効に機能する。また、商用電源がない圃場においては、バッテリや太陽光発電パネルなどを用いてもよいし、外部へのデータ回収に無線LANやPHSなどを利用してもよい。
栽培環境を把握するためには、温度計、湿度計などの計器による計測値のみで判断するか、観測機とコンピュータやネットワークなどの多くの機材を接続して使用せざるをえないのが現状である。特定の時期からその時点まで集計値が複雑な操作をせずに簡単に見られれば、生産現場ではその後の管理作業に大いに役立つ。
請求項3に示すように、作目を問わず圃場や施設内の温度管理,湿度管理,散水管理,日照量コントロール、病害虫防除、ほか様々な管理作業に幅広く活用できるように温度,湿度、日照時間、降雨量,濡れ時間など、操作時点から前3日間、前0〜10日間、前10〜20日間、前20〜30日間の平均値などの各種集計値を表示する。その数値表示、グラフ表示によって圃場や施設内の温度管理,湿度管理,散水管理,日照量コントロール、病害虫防除、ほか様々な管理作業を判断する上で、きわめて有用となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、研究者、指導者をはじめ生産者が簡単に栽培環境の情報を的確に把握できる軽量で安価な作物の栽培支援装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 全体構成図である。
【図2】 病害感染予測表示図である。
【符号の説明】
1 栽培支援装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耕作地の栽培環境データを収集するセンサ部と、上記センサ部が収集したデータを格納する蓄積部と、作物別に作成された予測理論を格納する予測理論格納部と、上記蓄積部のデータと予測理論格納部の理論とを参照してデータを解析する解析判定部と、上記解析判定部が出した結果を表示する表示部とからなる作物の栽培支援装置。
【請求項2】
上記センサ部は、温度センサ、濡れ時間感知センサ、雨量センサを装備することを特徴とする請求項1記載の作物の栽培支援装置。
【請求項3】
上記蓄積部に蓄積されたデータを現時点より所定の期間さかのぼって集計し、上記期間中のデータを上記表示部にグラフ表示し又は図式表示し又は数値表示を行うことを特徴とする請求項1および2のいずれかの項記載の作物の栽培支援装置。
【請求項4】
上記予測理論格納部は、生育予測、開花予測、施肥時期予測、収穫時期予測、冷害予測、病害感染予測、害虫発生時期予測をはじめとした作物栽培管理に関する各種予測理論に基づいたモデルを導入できることを特徴とする請求項1および3のいづれかの項記載の作物の栽培支援装置。
【請求項5】
上記蓄積部は、外部データ回収器へのデータ転送機能を有することを特徴とする請求項1から4のいづれかの項記載の作物の栽培支援装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−212008(P2006−212008A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−56566(P2005−56566)
【出願日】平成17年2月1日(2005.2.1)
【出願人】(391001619)長野県 (64)
【出願人】(000126447)アスザック株式会社 (9)