説明

使い捨てマイクロ流体デバイス用基板

本発明の実施形態は、マイクロ流体デバイスを製造するための紫外線硬化性ポリウレタン−メタクリレート(PUMA)基板に関する。PUMAは、光学的に透明であり、生体適合性であり、安定した表面特性を有する。実施形態は、ラピッドプロトタイピングの既存の方法に適合する2つの生産プロセスを含み、得られたPUMAマイクロ流体デバイスの特性決定が提示される。本発明の実施形態はまた、特に、高密度および高アスペクト比の特徴を含有するマイクロ流体システムについて、PUMA樹脂から製造されたチップの生産歩留まりを改善するための戦略に関する。マイクロ構造でのせん断面における運動を最小化する型解放処置を記載する。また、繊細な構造を破壊し得る過度の圧縮力を回避する、PUMA基板間の密着を形成するための単純ながら拡張可能な方法も提示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、米国仮特許出願第61/109,871/,号(名称「SUBSTRATE FOR MANUFACTURING DISPOSABLE MICROFLUIDIC DEVICES」、2008年10月30日出願、)の優先権を主張し、この出願の開示は、その全体が本明細書に参考として援用される。
【0002】
(発明の分野)
本開示は、概して、封入されたチャネルを有するデバイスおよびそのようなデバイスを作製するための方法に関する。より具体的には、本開示は、生物学的存在を蓄積するための、封入されたチャネルを有するマイクロ流体基板およびマイクロ流体チップに関する。
【背景技術】
【0003】
臨床診断における使用のためのマイクロ流体デバイスは、医学的用途の材料の要求に適合すると同時に完全に使い捨てとなり得るように、いかにしてこれらのデバイスを経済的に生産するかという商業化への課題に常に直面している。大部分はケイ素またはガラス基板上で開発されている第1世代のマイクロ流体デバイスは、半導体加工ツールに大きく依存している。これらの基板に対する加工に必要な高額の資本投資のため、ケイ素またはガラスベースのデバイスは、使い捨てとすることに十分安価に販売することができなかった。
【0004】
1990年代後半、ポリマーベースのラピッドプロトタイピング(例えば、成形またはエンボス加工)が、マイクロ流体デバイスの第2世代へとつながった。最も顕著には、ポリジメチルシロキサン(PDMS)が、ラピッドプロトタイピング複合マイクロ流体システムにおける非常に有望なポリマー基板材料となった。その複製の混合−鋳造−焼成法は、迅速で、極めて一貫性を有し、そして単純である。ラピッドプロトタイピングにおいて便利である程、PDMSは全てのマイクロ流体用途に対して普遍的な材料ではない。その弾性的性質は空気弁にとっては重要であるが、この同じ特性により、高流体圧に曝されると膨張しやすく、または高アスペクト比の特徴もしくは低アスペクト比のチャネルが関与すると崩壊しやすくなる。また、PDMSの恒久的表面改質では、その表面が疎水性の状態に再び戻る傾向が高いため、課題が残されている。
【0005】
最近、マイクロ流体デバイスの第3の波が最善のPDMS複製戦略となっており、ある種の用途における基板としてのPDMSの欠点のいくつかに対応している。生産速度を増加させるために、熱硬化の代わりに紫外線硬化が次第に好ましくなっている。非特許文献1および非特許文献2では、PDMSを補完する基板材料として、紫外線硬化される熱硬化性ポリマー(TPE)が探求された。Norland63(非特許文献3)、またはポリアクリレートの特製ブレンド(非特許文献4)等の市販の光学接着剤の紫外線硬化が提案されているが、常に樹脂または光開始剤の選択に起因して、妥当な時間内に薄層(約100μm)しか硬化することができない。この問題に対応するため、Fioriniらは、紫外線硬化後の熱硬化を使用して、典型的な厚さのマイクロ流体チップを製造した。さらに、これらの基板材料は、医学用途に対して評価されておらず、樹脂分解、反応性、溶媒残渣、または架橋副生成物に関してはほとんど知られていない。特に、上述の材料(PDMS、TPE、Norland光学接着剤、またはポリアクリレートの特製ブレンド)のいずれに対しても、注射試験、皮内試験、または移植試験に従い生体適合性を実証する業界ガイドライン(米国薬局方(USP)または国際標準化機構(ISO))に従う生体適合性試験が行われていない。
【0006】
上述のように、PDMSは使い捨てマイクロ流体デバイスの製造の魅力的な代用品であるが、その利点のうちの主なものには、製造の容易性、および簡易なオンチップ弁形成を可能とするその弾性的性質が含まれる。しかしながら、高アスペクト比レリーフ特徴または低アスペクト比マイクロチャネルの鋳造は、弾性PDMSにおいては極めて困難であり、低い剛性率に起因して、しばしばマイクロ構造が自重で屈曲するか、マイクロ構造が撓んだシーリングから離断するか、または動作圧が増加すると開口が拡張する。これらの機械的完全性の問題に対応するための取り組みには、h−PDMS(「硬質」PDMS)等のより硬いマイクロ流体基板の導入、および熱硬化性ポリマー(TPE)またはNorland63もしくはポリアクリレートのブレンドを含む市販の光学接着剤の紫外線硬化が含まれる。
【0007】
マイクロ流体デバイスの臨床用途への適用に対する関心が増大するとともに、製造上経済的であり、かつ規制認可に適合し得る基板材料を開発することが重要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Fiorini,G.S.;Lorenz,R.M.;Kuo,J.S.;Chiu,D.T.Analytical Chemistry 2004,76,4697−4704
【非特許文献2】Fiorini,G.S.;Yim,M.;Jeffries,G.D.M.;Schiro,P.G.;Mutch,S.A.;Lorenz,R.M.;Chiu,D.T.Lab on a chip 2007,7,923−926
【非特許文献3】Kim,S.H.;Yang,Y.;Kim,M.;Nam,S.W.;Lee,K.M.;Lee,N.Y.;Kim,Y.S.;Park,S.Advanced Functional Materials 2007,17,3494−3498
【非特許文献4】Zhou,W.X.;Chan−Park,M.B.Lab on a Chip 2005,5,512−518
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
マイクロ流体システムが、研究ツールから使い捨て臨床診断デバイスに移行するにつれて、規制要件および使い捨てデバイスの経済性の両方に適合する新たな基板材料が必要である。本発明の実施形態は、医療用途として認められ、マイクロ流体デバイスの製造の課題の全てに適合する、紫外線硬化性ポリウレタン−メタクリレート(PUMA)基板を導入する。PUMAは、光学的に透明であり、生体適合性であり、安定した表面特性を有する。我々は、ラピッドプロトタイピングの既存の方法に適合する2つの製造プロセスを報告し、得られたPUMAマイクロ流体デバイスの特性決定を示す。
【0010】
本発明の具体的実施形態は、臨床診断用途における使い捨てマイクロ流体基板として優れた品質を有する新たな紫外線硬化性ポリウレタン−メタクリレート(PUMA)樹脂に関する。特に、高密度および高アスペクト比の特徴を含有するマイクロ流体システムについて、PUMA樹脂から製造されたチップの生産歩留まりを改善するためのいくつかの戦略が検討される。具体的には、マイクロ構造でのせん断面における運動を最小化する型解放処置が記載される。また、繊細な構造を破壊し得る過度の圧縮力を回避するPUMA基板間の密着を形成するための単純ながら計測可能な方法が示される。また、PUMAマイクロ流体デバイスとの相互接続を形成するための2つの方法が詳説される。これらの製造上の改善は、高度に希釈された懸濁液からの細胞またはビーズを保持および濃縮することに好適な、密集した高アスペクト比のフィンを含有する精密濾過デバイスを生産するために配備された。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本開示の利点が容易に理解されるように、簡単に上述した本開示の態様のより具体的な説明を、特定の実施形態および添付の図面を参照することにより記述する。これらの図面は本開示の典型的な実施形態を示すに過ぎず、したがって本発明の範囲を制限するように解釈されないことを理解した上で、本開示は、添付図面を使用することにより、追加的な特異性および詳細とともに記述および説明される。
【図1−1】図1および1’は、SU−8マスター(左側)から、および深堀反応性イオンエッチング(DRIE)により製造されたケイ素マスター(右側)から複製することによりPUMAチップを生成するための処置を示す。
【図1−2】図1および1’は、SU−8マスター(左側)から、および深堀反応性イオンエッチング(DRIE)により製造されたケイ素マスター(右側)から複製することによりPUMAチップを生成するための処置を示す。
【図2−1】図2および2’は、(A)シラン化PDMSインプリントおよび(B)対応するPUMA複製のSEM画像を示す。挿入図:より高倍でのデザインの微細構造。
【図2−2】図2および2’は、(A)シラン化PDMSインプリントおよび(B)対応するPUMA複製のSEM画像を示す。挿入図:より高倍でのデザインの微細構造。
【図3−1】図3および3’は、様々なPUMA複製のSEM画像を示す。(A)2μm(H)×4μm(W)の狭窄部。(B)2層チャネル構造(水平チャネル:3μm(W)×3μm(H);垂直チャネル:10μm(W)×10μm(H))。(C)異なる幅の中実壁および周期的な間隔の柱からなる試験パターン。(D)(C)に示される高アスペクト比の柱の側面図。
【図3−2】図3および3’は、様々なPUMA複製のSEM画像を示す。(A)2μm(H)×4μm(W)の狭窄部。(B)2層チャネル構造(水平チャネル:3μm(W)×3μm(H);垂直チャネル:10μm(W)×10μm(H))。(C)異なる幅の中実壁および周期的な間隔の柱からなる試験パターン。(D)(C)に示される高アスペクト比の柱の側面図。
【図4−1】図4および4’は、(A)PUMA、PDMS、ガラス、およびTPE.の光透過特性を示す。(B)TPE、PUMA、およびPDMSの緑色蛍光(実線;510〜565nm、λexcitation=488nm)および赤色蛍光(点線;660〜711nm、λexcitation=633nm)の強度。挿入図:各ポリマーの最大(初期)自己蛍光。
【図4−2】図4および4’は、(A)PUMA、PDMS、ガラス、およびTPE.の光透過特性を示す。(B)TPE、PUMA、およびPDMSの緑色蛍光(実線;510〜565nm、λexcitation=488nm)および赤色蛍光(点線;660〜711nm、λexcitation=633nm)の強度。挿入図:各ポリマーの最大(初期)自己蛍光。
【図5−1】図5および5’は、(A)パーフルオロデカリン、(B)テトラヒドロフラン、(C)イソプロパノール、および(D)25μM Rhodamine B中に24時間含浸したPUMAディスクを示す(533nm励起での蛍光画像)。
【図5−2】図5および5’は、(A)パーフルオロデカリン、(B)テトラヒドロフラン、(C)イソプロパノール、および(D)25μM Rhodamine B中に24時間含浸したPUMAディスクを示す(533nm励起での蛍光画像)。
【図6−1】図6は、PUMA基板の界面動電特性を示す。(A)EOF測定に使用した回路の回路図。(1:−2kV Standford PS350電源;2:ホウ酸塩緩衝液を充填した50μm(H)×50μm(W)×3cm(L)チャネルを有するPUMAチップ;3:100kΩ抵抗、4:Keithley6485ピコ電流計;5:データ取得用PC)。(B)動電駆動流下での電流トレース。挿入図:veof測定の統計分布;N=68。(C)印加電場の関数としての電流トレース。(D)接合後のPUMAチップの経過日数の関数としてのveof
【図6−2】図6’は、PUMA基板の界面動電特性を示す。(A)EOF測定に使用した回路の回路図。(B)動電駆動流下での電流トレース。挿入図:veof測定の統計分布;N=68。(C)印加電場の関数としての電流トレース。(D)接合後のPUMAチップの経過日数の関数としてのveof
【図7−1】図7は、(A)PUMAチップの成形および硬化を示す配置図である。深さ2mmの陥凹部を有するPDMS型1にPUMA樹脂2を充填し、PTFEポスト3を埋め込む。一度樹脂が硬化したら剥離することができる界面セロファン(またはAclar)シート5を有する透明ポリプロピレンシート4で、樹脂の頂部を被覆する。1:PDMS型;2:PUMA樹脂;3:PTFEポスト;4:透明ポリプロピレンシート;5:セロファン(またはAclar)。(B)外部配管をチップに接続するための2つの方法を示す概略図。左:1/8インチ穴を有するPUMAチップ1を、1/8インチODポリウレタン配管3によって返し付きコネクタ2に接続することができ;漏洩を防止するために、配管の回りに追加のPUMA樹脂4を施してもよい。右:1/8インチ穴を有するPUMAチップ5を、1/16インチOD PTFE配管6に接続することができる。5:PUMA基板;6:1/16インチOD PTFE配管;7:ポリオレフィン熱収縮;8:止め輪;9:追加の接着剤;10:1/8インチ外径ポリウレタン配管;11:追加のPUMA樹脂。
【図7−2】図7’は、(A)PUMAチップの成形および硬化を示す配置図を示す。(B)外部配管をチップに接続するための2つの方法を示す概略図。
【図8−1】図8および8’は、(A)密集した高アスペクト比の柱のアレイのPUMA複製、(B)(A)と反対の極性を有するDRIE生成ケイ素マスター、および(C) (B)におけるケイ素マスターから作製されたPDMS複製の走査型電子顕微鏡画像を示す。
【図8−2】図8および8’は、(A)密集した高アスペクト比の柱のアレイのPUMA複製、(B)(A)と反対の極性を有するDRIE生成ケイ素マスター、および(C) (B)におけるケイ素マスターから作製されたPDMS複製の走査型電子顕微鏡画像を示す。
【図9−1】図9は、PDMS型からのPUMAチップの正確な解放のための特別設計解放引張器を示す。Workstationは、レバーを引くと下方に平行移動し、レバーを離すと、そのバネ駆動動作が上方に平行移動し、PUMAチップが正確に180度にPDMS型から引き離されることが確実となる。灰色の輪郭は、標準的なDremel Workstationコンポーネント1を示す。直径1インチのビニル吸引カップ2が穿孔され、装着され、1/8インチ(内径)Tygon配管を介して真空ポンプに接続された。対向吸引カップ3が下方に装着され、これもまた真空に接続された。金属ベース4は、対向吸引カップをWorkstationに固定するために使用された。
【図9−2】図9’は、PDMS型からのPUMAチップの正確な解放のための特別設計解放引張器を示す。
【図10−1】図10および10’は、(A)高アスペクト比構造の複製において立体鏡下で一般に観察される欠陥を示す。波状壁1は、通常、各複製動作間のPDMS型の不十分な清浄化によりもたらされ、一方規則的なアレイに囲まれた不規則な黒点2は、構造が互いに対し傾いていたことを示している(PDMS型からのPUMAの解放中の機械的損傷)。(B)損傷した高アスペクト比の柱のSEM画像であり、真空引張器は使用されていない。(C)前述された真空引張器を使用して完璧に解放されPUMAチップの光学画像である。
【図10−2】図10および10’は、(A)高アスペクト比構造の複製において立体鏡下で一般に観察される欠陥を示す。波状壁1は、通常、各複製動作間のPDMS型の不十分な清浄化によりもたらされ、一方規則的なアレイに囲まれた不規則な黒点2は、構造が互いに対し傾いていたことを示している(PDMS型からのPUMAの解放中の機械的損傷)。(B)損傷した高アスペクト比の柱のSEM画像であり、真空引張器は使用されていない。(C)前述された真空引張器を使用して完璧に解放されPUMAチップの光学画像である。
【図11−1】図11および11’は、封入されたチャネルを形成するためにPUMAチップを接合する方法を示す。PUMAチップは、まず酸素プラズマを使用し、続いて>75℃で23日間焼成することにより接合することができる。Oプラズマは、チップと底部カバーとの間のコンフォーマルな接触を改善する。高アスペクト比または繊細な構造に対しては、コンフォーマルな密着に使用される圧力を制御するために、真空包装機の使用が推奨される。良好なコンフォーマルな密着が達成されたら、単にチップを長期間の紫外線暴露に供するか、プログラム可能な赤外線加熱炉を使用するか、または超音波溶接により、恒久的接合を形成することができる。
【図11−2】図11および11’は、封入されたチャネルを形成するためにPUMAチップを接合する方法を示す。PUMAチップは、まず酸素プラズマを使用し、続いて>75℃で23日間焼成することにより接合することができる。Oプラズマは、チップと底部カバーとの間のコンフォーマルな接触を改善する。高アスペクト比または繊細な構造に対しては、コンフォーマルな密着に使用される圧力を制御するために、真空包装機の使用が推奨される。良好なコンフォーマルな密着が達成されたら、単にチップを長期間の紫外線暴露に供するか、プログラム可能な赤外線加熱炉を使用するか、または超音波溶接により、恒久的接合を形成することができる。
【図12−1】図12は、(A)PUMA樹脂に製造された高アスペクト比スリット(画像の右側)によるMCF−7癌細胞の保持を示す。公称流量は0.3ml/minであり;細胞は4%パラホルムアルデヒド中で15分間固定した。(B)PUMA樹脂から作製された高アスペクト比スリットによる15μm径ビーズの保持である。(A)および(B)に対し同じマイクロ流体デザインを使用したが、高アスペクト比スリットを備える濾過障壁は、マイクロチャネルの出口側に設置した。
【図12−2】図12’は、(A)PUMA樹脂に製造された高アスペクト比スリット(画像の右側)によるMCF−7癌細胞の保持または蓄積を示す。(B)PUMA樹脂から作製された高アスペクト比スリットによる15μm径ビーズの保持または蓄積である。
【図13】図13は、本開示の一実施形態によるマイクロ流体基板の断面図である。
【図14】図14は、本開示の一実施形態によるPUMA樹脂を使用したマイクロ流体基板を製造するための方法を示すフローチャートである。
【図15−1】図15A〜15Fは、本開示の一実施形態に従い、PUMA樹脂を使用して、およびSU−8マスターから複製することによりマイクロ流体基板を製造するための方法の段階を概略的に示す断面図である。
【図15−2】図15A〜15Fは、本開示の一実施形態に従い、PUMA樹脂を使用して、およびSU−8マスターから複製することによりマイクロ流体基板を製造するための方法の段階を概略的に示す断面図である。
【図16】図16A〜16Bは、本開示の一実施形態に従い、PUMA樹脂および深堀反応性イオンエッチングにより製造されたケイ素マスターを使用してマイクロ流体基板を製造するための方法の段階を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(概要)
本開示の実施形態は、生物学的存在を蓄積するためのマイクロ流体基板およびマイクロ流体チップに関する。そのような基板は、マイクロ流体デバイス等のデバイスとの使用に好適となり得る。いくつかの実施形態において、基板は、生体適合性材料で形成される。他の実施形態において、基板は、1つ以上の封入された流路を有するマイクロ流体チップを形成するために使用される。さらなる実施形態において、基板壁は、放射線を吸収する。
【0013】
一実施形態において、生物学的存在を蓄積するためのデバイスが提供される。デバイスは、生体適合性および放射線吸収性ポリマーの壁内で少なくとも部分的に画定される流路を含み得る。
【0014】
本開示の別の態様は、封入されたマイクロ流体流路を形成する方法に関する。この方法は、形成された基板を型から解放するステップを含み得る。この方法はまた、形成された基板を表面に対して押し付けるために真空を提供するステップと、形成された基板と表面との間の密着を形成するためにエネルギーを提供するステップとを含み得る。一実施形態において、形成された基板は、樹脂を放射線に暴露させることによって形成される。
【0015】
本開示の具体的実施形態は、臨床診断用途における使い捨てマイクロ流体基板としての使用のための、紫外線硬化性ポリウレタン−メタクリレート(PUMA)樹脂に関する。また、特に、高密度および高アスペクト比の特徴を含有するマイクロ流体システムのための、PUMA樹脂から製造されたチップの生成のための方法が開示される。例えば、PUMA樹脂からチップを生成するための方法の一実施形態は、マイクロ構造でのせん断面における運動を最小化する型解放プロセスを含む。また、繊細な構造を破壊し得る過度の圧縮力を回避することができる、PUMA基板間の密着を形成するための単純ながら拡張可能な方法も開示される。さらに、PUMAマイクロ流体デバイスとの相互接続を形成するための2つの方法も開示される。別の態様において、本開示は、密集した高アスペクト比のフィンを含有する精密濾過デバイスに関する。いくつかの実施形態において、精密濾過デバイスは、高度に希釈された懸濁液からの細胞またはビーズを保持および濃縮することに好適である。
【0016】
本開示のさらなる態様は、生物学的存在を蓄積するためのデバイスの使用に関し、デバイスは、PUMAの壁内に少なくとも部分的に画定される流路を含む。いくつかの実施形態において、デバイスは、電気泳動、電気クロマトグラフィー、高圧液体クロマトグラフィー、濾過、表面選択的捕捉、DNA増幅、ポリメラーゼ連鎖反応、サザンブロット分析、細胞培養、細胞増殖アッセイ、またはそれらの組み合わせに使用することができる。他の実施形態において、デバイスは、臨床診断に使用することができる。
【0017】
本明細書において使用される場合、「蓄積」は、局所的密度または濃度の増加を指す。蓄積は、静止した場所、材料のマトリックス内、または移動相内で生じ得る。蓄積の例には、凝集、濃縮、分離、単離、富化、収束、強度の増加、または静的または移動性であてもよい明確なバンドもしくはスポットの形成が含まれ得る。
【0018】
本明細書に記載の特定の実施形態に限定されず、「生物学的存在」は、細胞、細胞小器官、細胞下構造、細菌、ウイルス、タンパク質、抗体、DNAもしくはRNA(もしくはアプタマー)分子、アミノ酸、脂質分子、生体複合粒子または他の生物学的もしくは生体適合性材料を示し得る。例えば、一実施形態において、生物学的存在は、癌細胞等の細胞であってもよい。いくつかの実施形態において、デバイスは、希少または異型細胞等の存在度が低い生物学的存在を蓄積することに好適である。
【0019】
本明細書に記載の特定の実施例に限定されず、「生体複合粒子」は、生体複合ビーズ、ナノ粒子、磁性ナノ粒子、量子ドット、ポリマー分子、または色素分子を含み得る。
【0020】
(マイクロ流体デバイス用の基板およびそのような基板を含むマイクロ流体デバイスの実施形態)
図13は、本開示の一実施形態によるマイクロ流体チップ1330の断面図である。図13に示されるように、マイクロ流体チップ1330は、PUMA樹脂から形成されたPUMA基板等の基板1326を含み得る。マイクロ流体チップ1330はまた、基板1326に接合されたガラス部分1328を含み得る。一実施形態において、ガラス部分1328は、ガラス部分1328上の接着剤被覆層1332によって基板1326に接合されている。一実施形態において、接着剤被覆層1332は、PUMA等の医療グレード接着剤を含む。接着剤被覆層1332は、図示されるように、レリーフ特徴1336が密着され、それによりマイクロ流体チップ1330に1つ以上の流路1334を形成するように、エネルギー(例えば紫外線、熱)を付与することよって基板1326にコンフォーマルに接合され得る。一実施形態において、精密濾過チップ1330は、高度に希釈された懸濁液からの細胞またはビーズを保持および濃縮することに好適である。
【0021】
流路1334の壁は、ある特定の物理的および化学的特性を有する基板材料から構築される。これらの物理的および化学的特性は、放射線吸収、熱機械的応答、硬度、弾力性(弾性または非弾性)、化学組成、化学的または生物学的適合性、表面および界面挙動(例えば、接触角または吸着)ならびに電気的応答(例えば、動電フローの生成)を含む。
【0022】
一実施形態において、基板1326およびレリーフ特徴1336の壁は、ポリマー基板材料から構築される。一実施形態において、ポリマーは熱可塑性である。別の実施形態において、ポリマーは非弾性である。さらなる実施形態において、ポリマーは、ウレタン、アクリレート、メタクリレート、シリコーン、またはそれらの組み合わせを含む。一実施形態において、チップ1330等の生物学的存在を蓄積するためのマイクロ流体チップは、レリーフ特徴1336の壁等の壁の中に封入された1つ以上の流路1334を備え、壁は、医療グレードの接着剤を架橋させることによって形成される。
【0023】
いくつかの実施形態において、基板1326材料は、注射試験、皮内試験、もしくは移植試験、またはそれらの組み合わせによれば、生体適合性であるポリマーである。
【0024】
一実施形態において、レリーフ特徴1336を含むポリマーは、注射試験によれば、生体適合性である。注射試験は、米国薬局方(USP)または国際標準化機構(ISO)によって指定されているような、医療グレードのプラスチックの試験のためのガイドラインに従い行うことができる。例えば、注射試験は、前記ポリマーの抽出物を、塩化ナトリウム溶液、塩化ナトリウムを含むアルコール溶液、ポリエチレングリコール400の溶液、または植物油中で、50℃、70℃または121℃で調製することにより行うことができる。次いで抽出物は、マウスに注射される。ブランク標準を注射された動物と比較して、抽出物を注射された動物のいずれも反応性を示さない場合、ポリマーは生体適合性とみなされる。
【0025】
別の実施形態において、ポリマーは、皮内試験に従う生体適合性である。皮内試験は、米国薬局方(USP)または国際標準化機構(ISO)によって指定されているような、医療グレードのプラスチックの試験のためのガイドラインに従い行うことができる。例えば、皮内試験は、前記ポリマーの抽出物を、塩化ナトリウム溶液、塩化ナトリウムを含むアルコール溶液、ポリエチレングリコール400の溶液、または植物油中で、50℃、70℃または121℃で調製することにより行うことができる。次いで抽出物は、ウサギに注射される。ブランク標準を注射された動物と比較して、抽出物を注射された動物のいずれも反応性を示さない場合、ポリマーは生体適合性とみなされる。
【0026】
さらなる実施形態において、ポリマーは、移植試験に従う生体適合性である。移植試験は、米国薬局方(USP)または国際標準化機構(ISO)により指定されているような、医療グレードのプラスチックの試験のためのガイドラインに従い行うことができる。例えば、移植試験は、前記ポリマーのストリップを10×1mm以上に切り出し、ウサギに移植することによって行うことができる。対照標準を移植された部位と比較して、ポリマーストリップの移植部位が反応性を示さない場合、ポリマーは生体適合性とみなされる。
【0027】
いくつかの実施形態において、壁は、ポリマーから構築される。一実施形態において、ポリマーは熱可塑性である。別の実施形態において、このポリマーは非弾性である。別の実施形態において、ポリマーは、ウレタン、アクリレート、メタクリレート、シリコーン、またはそれらの組み合わせを含む。一実施形態において、生物学的存在を蓄積するための装置は、放射線を吸収する生体適合性の壁内に封入された流路を備え、壁は、医療グレードの接着剤を架橋させることによって形成される。
【0028】
本明細書においては、マイクロ流体デバイス製造のための新材料として、ポリウレタン−メタクリレート(PUMA)基板が紹介されるが、これは、供給業者により、米国薬局方(USP)クラスVI準拠として認定されている。USPクラスVI材料は、全身注射試験、皮内試験、および移植試験により試験され、生体適合性および非毒性であることが証明されている。PUMAマイクロ流体デバイスの物理的、光学的、および化学的、ならびに動電学的特性の特性決定とともに、我々は、マイクロ構造の2つの極めて強固な複製プロセスも報告するが、これらは、現在他のプロトタイピング法を利用している研究者がこの新たな基板の使用から利益が得られるように、既存の複製マスター(例えば、ケイ素上のSU−8フォトレジストまたはケイ素)に適合する。
【0029】
(C.マイクロ流体基板を製造するための方法)
本開示のさらなる態様は、上述の基板およびそのような基板を有するデバイスを製造するための方法に関する。図14は、本開示の一実施形態によるPUMA樹脂を使用したマイクロ流体基板を製造するための方法1400を示すフローチャートである。方法1400は、例えば、微細特徴をPUMA基板上に複製するために使用することができる。一実施形態において、方法1400は、PDMS型を形成するためにPDMSを鋳造するステップを含む(ブロック1402)。いくつかの実施形態において、PDMSを鋳造するステップは、例えばPDMSチャネルを有するPDMSインプリント(すなわち、レリーフに対して反対の極性)を生成するためにPDMSをSU−8マスター上に鋳造するステップを含み得る。他の実施形態において、および高アスペクト比特徴を複製するために、PDMS1402を鋳造するステップは、PDMSインプリントを深堀反応性イオンエッチング(DRIE)されたケイ素マスター上に鋳造するステップを含み得る。
【0030】
方法1400はまた、PUMA基板を形成するために、PUMA樹脂をPDMS型に鋳造するステップ(ブロック1404)を含む。方法1400は、さらに、PDMA型からPUMA基板を解放するステップ(ブロック1406)を含む。方法1400はまた、ステップ1406の後、PUMA基板をPUMA被覆ガラス基板に接合するステップ(ブロック1408)、およびPUMAチップを形成するために、紫外線および/または熱エネルギーを接合されたPUMA基板およびPUMA被覆ガラスに付与するステップ(ブロック1410)を含む。いくつかの実施形態において、PUMAチップは、例えば、使い捨てマイクロ流体デバイス等のマイクロ流体デバイスにおける使用に好適なマイクロ流体基板である。
【0031】
図15A〜15Fは、本開示の一実施形態に従い、PUMA樹脂を使用して、およびSU−8マスターから複製することによりマイクロ流体基板を製造するための方法、例えば図14に関して上述した方法の段階を概略的に示す断面図である。
【0032】
図15Aは、PDMS材料1506をSU−8マスター1502の上表面1508上に注ぐ(例えば鋳造する)ことにより、レリーフ特徴1504と反対の極性を有するPDMSインプリント(1510、図15Bに示されている)を生成するために使用される、レリーフ特徴1504を有するSU−8マスター1502を示す。PDMS材料が鋳造されると、図15Bに示されるように、PDMSインプリント1510はプラズマ中で酸化され、次いで、真空デシケータ内で(例えば、すでに形成されているPDMSインプリント1510に硬化直後のPDMSが付着することを防止するため)(トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル)トリクロロシランでシラン化される。追加のPDMSをシラン化PDMSインプリント1510の上に注ぎ、75℃で少なくとも2時間硬化させ、インプリント1510から慎重に分離することによって、PDMS複製1512(すなわち、SU−8マスター1502と同じ極性)が生成される。(SU−8マスター1502の)PDMS複製1512は、次いで、PUMA樹脂1516の型1514として使用することができる(図15C)。各複製間の清浄化により(以下でより詳説される)、PDMS「マスター」型1514は、複数回使用することができる。一実施形態において、PUMA樹脂1516はSU−8マスター1502からの解放が困難となり得るため、SU−8マスター1502のPDMS複製1512の生成が望ましい可能性がある。
【0033】
図15A〜15Bは、PDMS複製に使用される既存のSU−8マスターを利用する方法におけるステップを示している。しかしながら、別の実施形態において、SU−8マスター1502は、PUMA樹脂1516の所望の極性と同じ極性を有するレリーフ特徴1504を有するように構成され得る。この実施形態において、PDMS型1514は、PDMSインプリント1510を作製する追加のステップを必要とすることなく、Su−8マスターから直接作製することができる。
【0034】
再び図15Cを参照すると、PUMA樹脂1516をPDMS型1514に施し(例えば3mmの厚さで)、次いで、架橋反応の酸素阻害を防止するために、透明カバー1518、例えば透明ポリプロピレンの裏地(例えば、厚さ8ミル)に貼られたセロファンのシート等で被覆することができる。いくつかの用途においては、セロファンの代わりに、可塑剤を含有しないポリクロロ−トリフルオロエチレン(PCTFE)ポリマーであるAclarシート(Honeywell社製、Morristown、NJ)を使用することができる。流体貯蔵部または外部接続用の穴を形成するために、PTFEポスト(3mm(D)×3mm(H);図示せず)を、硬化前にPUMA樹脂1516に埋め込むことができる。得られるアセンブリ1520を、紫外線源に80秒置き(PUMA樹脂側1522からの暴露)、続いてさらに40秒置いて(PDMS型側1524からの暴露)、PUMA基板1526を形成することができる(図15D参照)。図15Dは、本方法において、PDMS型1514がPUMA基板1526から外される段階を示す。図15Eに示されるように、型1514から解放されたら、PUMA基板1526は、弱い機械的圧力を使用することによりPUMA被覆(硬化)ガラス1528にコンフォーマルに接合され、PUMAチップ1530を形成する。
【0035】
図15Fに示されるように、ガラス1528上のPUMA被覆1532とPUMA基板1526との間のコンフォーマルな接合は、PUMAチップ1530を紫外線フラッド源下にさらに10分間置くことにより、恒久的接合に変換される。PUMAチップ1530は、PUMA基板1526とPUMA被覆1532との間に形成された1つ以上の流路1534を有し得る。PUMA材料は、放射線吸収性であるため、流路1534の壁1536は、放射線(例えば、波長300〜500nm)を吸収することができる。
【0036】
各複製の間、PDMS型1514をイソプロパノールおよび水の中で超音波照射し、75℃で少なくとも15分間焼成することができる。
【0037】
図16A〜16Bは、本開示の一実施形態に従い、PUMA樹脂および深堀反応性イオンエッチング(DRIE)によって製造されたケイ素マスターを使用してマイクロ流体基板を製造するための方法、例えば図13に関して上述した方法の段階を概略的に示す断面図である。
【0038】
図16A〜Bに示されるように、高アスペクト比の特徴を複製するために、PUMA鋳造用のPDMS型は、DRIE−Siマスター上に鋳造されたPDMSインプリントであってもよい。図16Aは、PDMS型(図15Cに示されるPDMS型1514等)の生成に使用されるレリーフ特徴1604を有するDRIE−Siマスター1602を示す。図16Bに示されるように、PDMS材料1606をDRIE−Siマスター1602の上表面1608上に鋳造することにより、DRIE−Siマスター1602と反対の極性を有するPDMS型(図15Cに示されるPDMS型1514等)を形成することができる。図16A〜16Bに示されるステップから得られるPDMS型は、図15C〜15Fに示されるステップにおいて示されるようなPUMAチップの形成に使用することができる。
【0039】
図16A〜16Bに記載の手法は、傾倒しやすくなり得るか、または崩壊しやすくなり得る高アスペクト比のレリーフ特徴をPDMSに生成する必要性を排除する。さらに、図16A〜16Bに記載の手法は、マイクロ構造のアスペクト比が増加した場合等に、PDMSの2つの互いに噛み合った部分(例えば、図15Bに示される)を分離する際に生じ得る断裂の可能性を排除することができる。
【0040】
本開示は、以下の実施例によりさらに例示されるが、それにより限定されることを意図しない。
【0041】
(D.基板、装置、ならびにそのような基板および装置を作製および使用する方法の実施例および追加的実施形態)
(材料および方法)
光学的測定。紫外線硬化性PUMA樹脂(140−M Medical/Optical Adhesive、Dymax Corporation製)をPDMS型に注ぎ込むことにより、PUMA基板(25mm(W)×75mm(L)×2mm(H))を鋳造した。架橋反応の酸素阻害を防止するために、剥離可能なセロファンの界面シートを有する透明ポリプロピレンシート(厚さ8ミル)で樹脂の頂面を被覆した。樹脂および型を高強度紫外線源(ADAC Cure Zone 2 UV Flood Light Source、400W金属ハライドランプを装着、365nmで公称80mW/cmを供給)に1分間暴露させ、次いで裏返してさらに1分間暴露させた。次いで、硬化したPUMA基板を型から解放した。
【0042】
熱硬化性ポリエステル(TPE)片を、Polylite32030−10樹脂(Reichhold Company製、NC)を使用して上述したように調製した。
【0043】
1nm分解能のUV−VIS分光光度計(Beckman Coulter社製、DU720)を使用して、光透過スペクトルを収集した。TPE、PUMA、およびPDMSの試料は全て厚さ2mmであったが、ガラス基板は厚さ1mmであった。各材料に対して3つのスペクトルを収集し、平均化した。
【0044】
Nikon TE−2000本体をベースとした特別設計の共焦点顕微鏡を使用して、各材料からの自己蛍光を収集した。固体ダイオード励起488nmレーザ(Coherent Sapphire、Santa Clara、CA、USA)およびHeNe 633nmレーザからのレーザ励起を100×対物の背面口径に結合した(N.A.1.4)。蛍光は、アバランシェフォトダイオード(SPCM−AQR−14、Perkin Elmer社製、Fremont、CA、USA)により収集した。各材料からの蛍光は、緑色波長範囲(510〜565nm)および赤色波長領域(660〜710nm)の両方において、3回収集した。
【0045】
接触角測定。前項に記載した処置と同じ処置を使用して、PUMAスラブ(25mm(W)×75mm(L)×3mm(H))を調製した。増加したスラブ厚を補うために、紫外線硬化時間を80秒に延長し、続いてPDMS型を裏返してさらに40秒間型を通して暴露させた。表面上のプラズマ酸化の効果を決定するために、3つのPUMAスラブをプラズマチャンバ(PDC−001、Harrick Scientific Corp製、Ossining、NY)内で酸素プラズマに6分間供した(公称O圧力200mtorrで29.6WがRFコイルに印加された)。プラズマ酸化後の疎水性の回復を特性決定するために、これらの酸化PUMA基板をガラス瓶内に封入し、炉内で75℃において2日間焼成した。
【0046】
接触角を測定するために、静的液適法を使用し、周囲温度でPUMA基板上の1−μL MilliQ水滴の側面輪郭をCCDカメラで撮影した。水−PUMA界面と水−空気界面との間の静的接触角は、ImageJソフトウェアのDrop Analysisプラグインを使用して測定した。硬化PDMS上の接触角もまた、文献値との比較のために測定した。最低3回の測定を行った。
【0047】
溶媒適合性。小型の円形貯蔵部(6mm(D)×3mm(H))を有するPDMS型内にPUMA樹脂を鋳造し、紫外線下で硬化させることにより、小型のPUMAディスクを作製した。マイクロ流体用途において一般的に使用される20の異なる化学物質中に、ディスクを室温で24時間含浸した。実験の際簿にディスクの円形領域における変化を観察することにより、適合性を決定した。3回の試料を収集し、結果を平均化した。立体鏡下でCCDカメラを使用して各ディスクの頂面画像を撮像し、ImageJ処理ソフトウェアを使用して円形領域を測定した。
【0048】
検討される化学物質は、水性または有機溶媒、酸、塩基、および染料を含む。染料(Rhodamine B)の浸透を観察するために、Nikon AZ100顕微鏡によって533nm励起下においてPUMAディスクの蛍光画像を得た。
【0049】
電気浸透流。EOFを測定するためのマイクロ流体チャネルは、チャネルの両端に3mm(D)液体貯蔵部を有する直線チャネル(50μm(H)×50μm(W)×3cm(L))であった。電気回路および電流検出素子は、以前に説明された電流監視方法(Huang,X.H.;Gordon,MJ.;Zare,R.N.Analytical Chemistry 1988,60,1837−1838;およびLocascio,L.E.;Perso,C.E.;Lee,CS.Journal of Chromotography A 1999,857,275−284)に従う。負極性プログラム可能2kV DC電源(Stanford PS350)を、カソード貯蔵部内に含浸したPt電極に接続した。アノード貯蔵部内に含浸した第2の電極をKeithly6485ピコ電流計と直列に100kΩ抵抗に接続した。ピコ電流計により読み出された電流は、次いで、高電圧電源の出力も制御する特製のLab Viewプログラムを使用するコンピュータにより記録された。ホウ酸ナトリウム溶液(10mMおよび20mM)を緩衝液として使用した。溶液は、不慮の気泡の生成を低減するために、使用直前に超音波照射した。ゴム球で吸い上げることによりPUMAチャネルを充填し、次いで貯蔵部を排気して60μLのホウ酸塩溶液で再充填した。
【0050】
電気浸透移動度に対するチップの経過時間の効果を検討するために、3回の別個の生成運転から複数のチップを調製し、次いで単純に周囲条件下においてペトリ皿内で保存した。保存前、チャネルは乾燥しており、EOF測定の直前にのみ緩衝液で充填した。各チップは、1日のみ使用した(すなわち後日EOF測定に再利用しなかった)。
【0051】
(結果および考察)
一般的な物理的特性。PDMS、TPE、およびPUMAの主要な物理的および表面特性は、表1に要約される。
【0052】
【表1−1】

【表1−2】

Dymax140−M樹脂ベースのようなPUMAは、PDMS(Dow Corning社製Sylgard184)に匹敵する粘度を有し、したがってPDMSが可能な程微細な特徴を複製することが期待される。PDMSよりも極めて硬い硬化したPUMA樹脂は、高アスペクト比のマイクロ構造を生成することにより好適である。PUMAは硬化すると熱可塑性であり、供給業者によるその定格使用温度は−55℃と200℃との間であるが、我々は、>75℃である程度の軟化を認め、これを利用して接合することができる。PDMSに類似して(ただしTPEとは異なり)、PUMAは臭気が非常に低く、特別な換気下で取り扱う必要がない。
【0053】
特徴の複製。図1’は、SU−8マスター112(左側)から、および深堀反応性イオンエッチング(DRIE)によって製造されたケイ素マスター121(右側)から複製することによりPUMAチップを生成するための処置の単純化された図を示す。
【0054】
特徴の複製。図1は、SU−8マスター(左側)から、および深堀反応性イオンエッチング(DRIE)により製造されたケイ素マスター(右側)から複製することによりPUMAチップを生成するための処置の単純化された図を示す。
【0055】
図1’は、微細特徴をPUMA基板上に複製するために使用される2つの処置を示し、左側(ステップ100、101、105、106、107、および108)は、PDMSチャネルの生成を目的とするSU−8マスター112からのステップを示し、一方、右側(ステップ120、122、105、106、107、および108)は、深堀反応性イオンエッチング(DRIE)されたケイ素マスター121からのステップを示す。
【0056】
図1は、微細特徴をPUMA基板上に複製するために使用される2つの処置を示し、左側は、PDMSチャネルの生成を目的とするSU−8マスターからのステップを示し、一方右側は、深堀反応性イオンエッチング(DRIE)されたケイ素マスターからのステップを示す。
【0057】
図1’の左側(ステップ100、101、105、106、107、108)に従い、レリーフ特徴を有するSU−8マスター112を使用してPDMSインプリント111(すなわち、レリーフに対し反対の極性)を生成した。このPDMSインプリント111をプラズマ中で酸化し、次いで、真空デシケータ内で(トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル)トリクロロシランでシラン化したが、このプロセスは、すでに形成されているPDMSインプリント111に硬化直後のPDMSが付着することを防止した。追加のPDMSをシラン化インプリント111の上に注ぎ、75℃で少なくとも2時間硬化させ、インプリント111から慎重に分離することにより、PDMS複製113(すなわち、SU−8マスター111と同じ極性)を生成した。次いで、(SU−8マスターの)PDMS複製113を、PUMA樹脂131の型132として使用した。各複製間の清浄化により(以下でより詳説される)、PDMS「マスター」は、複数回使用することができた。このPDMS上のPDMSの複製は、PUMAがSU−8から良好に解放されないために必要であった。SU−8マスターが正しい極性を有する場合は、1つのPDMS複製のみで十分である。我々は、PDMS複製に使用される既存のSU−8マスターを使用してPUMAデバイスを作製することができるように、この処置を記載する。
【0058】
図1の左側に従い、レリーフ特徴を有するSU−8マスターを使用してPDMSインプリント(すなわち、レリーフに対して反対の極性)を生成した。このPDMSインプリントをプラズマ中で酸化し、次いで、真空デシケータ内で(トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル)トリクロロシランでシラン化したが、このプロセスは、すでに形成されているPDMSインプリントに硬化直後のPDMSが付着することを防止した。追加のPDMSをシラン化インプリントの上に注ぎ、75℃で少なくとも2時間硬化させ、インプリントから慎重に分離することにより、PDMS複製(すなわち、SU−8マスターと同じ極性)を生成した。次いで、(SU−8マスターの)PDMS複製を、PUMA樹脂の型として使用した。各複製間の清浄化により(以下でより詳説される)、PDMS「マスター」は、複数回使用することができた。このPDMS上でのPDMSの複製は、PUMAがSU−8から良好に解放されないために必要であった。SU−8マスターが正しい極性を有する場合は、1つのPDMS複製のみで十分である。我々は、PDMS複製に使用される既存のSU−8マスターを使用してPUMAデバイスを作製することができるように、この処置を記載する。
【0059】
正しいPDMS型132が得られた後、PUMA樹脂131を3mmの厚さまでPDMS型132に施し、次いで、架橋反応の酸素阻害を防止するために、透明ポリプロピレン裏地130(厚さ8ミル)に貼られたセロファンのシートで被覆した。重要な用途においては、セロファンの代わりに、可塑剤を含有しないポリクロロ−トリフルオロエチレン(PCTFE)ポリマーであるAclarシート(Honeywell社製、Morristown、NJ)を使用することができる。流体貯蔵部または外部接続用の穴を形成するために、PTFEポスト(3mm(D)×3mm(H))を、硬化前にPUMA樹脂に埋め込んだ。アセンブリ全体を、紫外線源134に80秒置き(樹脂側からの暴露)、続いてさらに40秒置いた(型側からの暴露)。型から解放されたら、PUMA基板153を、弱い機械的圧力を使用することにより別のPUMA被覆(硬化)ガラス(152および151)にコンフォーマルに接合し、封入されたチャネルを形成する。PUMAチップを紫外線フラッド源162下にさらに10分間置くことにより、このコンフォーマルな接合を恒久的接合に変換した。
【0060】
正しいPDMS型が得られた後、PUMA樹脂を3mmの厚さまでPDMS型に施し、次いで、架橋反応の酸素阻害を防止するために、透明ポリプロピレン裏地(厚さ8ミル)に貼られたセロファンのシートで被覆した。重要な用途においては、セロファンの代わりに、可塑剤を含有しないポリクロロ−トリフルオロエチレン(PCTFE)ポリマーであるAclarシート(Honeywell社製、Morristown、NJ)を使用することができる。流体貯蔵部または外部接続用の穴を形成するために、PTFEポスト(3mm(D)×3mm(H))を、硬化前にPUMA樹脂に埋め込んだ。アセンブリ全体を、紫外線源に80秒置き(樹脂側からの暴露)、続いてさらに40秒置いた(型側からの暴露)。型から解放されたら、PUMA基板を、弱い機械的圧力を使用することにより別のPUMA被覆(硬化)ガラスにコンフォーマルに接合した。PUMAチップを紫外線フラッド源下にさらに10分間置くことにより、このコンフォーマルな接合を恒久的接合に変換した。
【0061】
各複製の間に、PDMS型をイソプロパノールおよび水の中で超音波照射し、75℃で少なくとも15分間焼成した。
【0062】
高アスペクト比の特徴を複製するために、PUMA鋳造用の型は、図1’の右側(ステップ120、122、105、106、107、および108)に記載されるように、DRIE−Siマスター121上に鋳造されたPDMSインプリント123であった。この手法は、傾倒しやすい、または崩壊しやすい高アスペクト比のレリーフ特徴をPDMSに生成する必要性を排除する。さらに、図1’の左側の第2のステップ(ステップ101)に記載されるように、マイクロ構造のアスペクト比が増加すると、PDMSの2つの互いに噛み合った部分は、分離中に極めて断裂しやすい。
【0063】
高アスペクト比の特徴を複製するために、PUMA鋳造用の型は、図1の右側に記載されるように、DRIE−Siマスター上に鋳造されたPDMSインプリントであった。この手法は、傾倒しやすいか、または崩壊しやすい高アスペクト比のレリーフ特徴をPDMSに生成する必要性を排除する。さらに、図1の左側の第2のステップに記載されるように、マイクロ構造のアスペクト比が増加すると、PDMSの2つの互いに噛み合った部分は、分離中に極めて断裂しやすい。
【0064】
流体貯蔵部または相互接続用の穴を形成するためには、我々は、PTFEポストの埋没が単純な処置であることを見出した。PUMAは熱可塑性であるため、レーザ切断もまた、流体貯蔵部または相互接続穴を形成する上で効果的な方法である。穿孔は壁に大量の屑を生成し、接触点において基板の屈曲をもたらしたため、穿孔は推奨されない。
【0065】
複製忠実度。紫外線硬化プロセスにおける主な課題は、鋳造物の厚さに応じた紫外線量の制御である。紫外光は、樹脂を貫通するに従い減衰するので、樹脂の頂部が最初に硬化する。これにより、樹脂の頂部が過度に硬化し(硬すぎる)、一方PDMS型と接触した界面、特に微細特徴は、未硬化のままとなる。困難を悪化させることには、PUMAの架橋反応が、PDMSによってやや阻害される。弾性シリコーンは優れた型解放特性を有するが、過度の紫外線硬化は、樹脂と型との間の恒久的接合をもたらした。したがって、最適な紫外線暴露の時間枠が存在し、暴露は、樹脂の上から、および透明な型を通して、両方で行う必要がある。この枠は、各紫外線暴露源に対し、個々に綿密に設定しなければならない。時間枠が手作業により正確に従うには短すぎる場合、光子束を減少させることによって、例えば、より低い強度の光源を使用することによって、または強度を減衰させるために樹脂の上にガラス板を置くことによって、より許容差を与えることができる。
【0066】
図2’は、(A)シラン化PDMSインプリント210および(B)対応するPUMA複製220のSEM画像を示す。挿入図230は、より高倍でのデザインの微細構造を示す。図2’Aは、シラン化PDMSインプリント210のSEM画像を示し、図2’Bは、対応するPUMA複製220(インプリントと同じ極性)を示す。
【0067】
図2は、(A)シラン化PDMSインプリントおよび(B)対応するPUMA複製のSEM画像を示す。挿入図は、より高倍でのデザインの微細構造を示す。図2Aは、シラン化PDMSインプリントのSEM画像を示し、図2Bは、対応するPUMA複製(インプリントと同じ極性)を示す。
【0068】
このPUMA複製220は、図1’の左側(ステップ100、101、105、106、107、および108)に従い記載される2段階PDMS転写法を使用して生成した。複製忠実度は、図2’Bの挿入図230に示されるように、約2μmまでと良好であった。PDMSインプリント210のSEM画像は著しい表面割れ211を示していることが分かり、これらの割れ211は肉眼で視認できるほど十分長かったが、非常に微細で表面的であるようであった。プラズマ衝撃に供されたPDMSのSEM画像においては、酸素プラズマによるか、またはSEM試料調製中のAu/Pd薄膜被覆のスパッタリングによるこの表面割れの挙動が、一貫して観察された。ほとんどの場合、これらの表面割れは、PUMA複製220においては見られなかった。
【0069】
このPUMA複製は、図1の左側に従い記載される2段階PDMS転写法を使用して生成した。複製忠実度は、図2Bの挿入図に示されるように、約2μmまでと良好であった。PDMSインプリントのSEM画像は著しい表面割れを示していることが分かり、これらの割れは肉眼で視認できるほど十分長かったが、非常に微細で表面的であるようであった。プラズマ衝撃に供されたPDMSのSEM画像においては、酸素プラズマによる、またはSEM試料調製中のAu/Pd薄膜被覆のスパッタリングによるこの表面割れの挙動が、一貫して観察された。ほとんどの場合、これらの表面割れは、PUMA複製においては見られなかった。
【0070】
図3’は、様々なPUMA複製310、320、330、340のSEM画像を示す。図3’(A)は、2μm(H)×4μm(W)の狭窄部312を示す。図3’(B)は、2層チャネル構造(水平チャネル322:3μm(W)×3μm(H);垂直チャネル321:10μm(W)×10μm(H))を示す。図3’(C)は、異なる幅の中実壁(332、333)および周期的な間隔の柱331からなる試験パターンを示す。図3’(D)は、(C)に示される高アスペクト比の柱331の側面図を示す。
【0071】
図3は、様々なPUMA複製のSEM画像を示す。図3(A)は、2μm(H)×4μm(W)の狭窄部を示す。図3(B)は、2層チャネル構造(水平チャネル:3μm(W)×3μm(H);垂直チャネル:10μm(W)×10μm(H))を示す。図3(C)は、異なる幅の中実壁および周期的な間隔の柱からなる試験パターンを示す。図3(D)は、(C)に示される高アスペクト比の柱の側面図を示す。
【0072】
具体的には、図3’は、PUMAに複製されたマイクロ構造のさらなるSEM画像を示す。図3’Aは、頸部が幅4μmの高さ2μmのマイクロチャネル狭窄部312のPUMA複製310を示す。SEM画像において観察され得るように、チャネルのテーパ311の細部が良好に維持されていた。図3’Bは、2層構造であり、2つの直交するチャネル321および322は異なる高さであり、水平チャネル322は3μm(W)×3μm(H)であり、一方垂直チャネル321は10μm(W)×10μm(H)であった。2層構造は、型解放ステップにおいていかなる問題もなかった。
【0073】
具体的には、図3は、PUMAに複製されたマイクロ構造のさらなるSEM画像を示す。図3Aは、頸部が幅4μmの高さ2μmのマイクロチャネル狭窄部のPUMA複製を示す。SEM画像において観察され得るように、チャネルのテーパの細部が良好に維持されていた。図3Bは、2層構造であり、2つの直交するチャネルは異なる高さであり、水平チャネルは3μm(W)×3μm(H)であり、一方垂直チャネルは10μm(W)×10μm(H)であった。2層構造は、型解放ステップにおいていかなる問題もなかった。
【0074】
図3’Cは、PUMA上に複製された、異なる幅の交互する中実壁(332および333)および間隔(334および335)からなる試験パターンのSEM画像を示す。図3’Aおよび3’Bに示される複製(310および320)とは異なり、図3’Cにおける複製は、図1’に概説される処置の右側(ステップ120、122、105、106、107、および108)、すなわちDRIEエッチングされたSiマスター121を起点とする複製プロセスに従うことにより得られた。この試験パターンは、(1)紫外線架橋が、特徴の密度の関数として不均一である可能性があるかどうか、および(2)高密度特徴が、型解放による損傷をより受け易い可能性があるかどうかを試験するために開発された。マイクロ構造の高さは約40μmであった。図3’Dは、図3’Cの下半分の柱331の横からの図であり、これらの密集した柱341は、明確な直立した側壁を有し、傾倒や広がりの形跡はなかった。この場合に達成されたアスペクト比(H/W)は、約3.5であった。
【0075】
図3Cは、PUMAに複製された、異なる幅の交互する中実壁および間隔からなる試験パターンのSEM画像を示す。図3Aおよび3Bに示される複製とは異なり、図3Cにおける複製は、図1に概説される処置の右側、すなわちDRIEエッチングされたSiマスターを起点とする複製プロセスに従うことにより得られた。この試験パターンは、(1)紫外線架橋が、特徴の密度の関数として不均一である可能性があるかどうか、および(2)高密度特徴が、型解放による損傷をより受け易い可能性があるかどうかを試験するために開発された。マイクロ構造の高さは約40μmであった。図3Dは、図3Cの下半分の柱の横からの図であり、これらの密集した柱は、明確な直立した側壁を有し、傾倒や広がりの形跡はなかった。この場合に達成されたアスペクト比(H/W)は、約3.5であった。
【0076】
接触角。文献値との比較のために、我々の設定で測定された未処理PDMS上の水の接触角は102°であり、これはHillborgらによる報告値と一致している。紫外線硬化PUMA基板は72°の接触角を有していたが、これはPDMSと比較して大幅により親水性である。この値は、この樹脂の主成分であるポリウレタンの報告値に非常に近い。酸素プラズマによる処理は、PUMAの接触角をさらに53°まで低減させたが、これはまた酸化ポリウレタンの値と一致している。接触角のプラズマによる低下は焼成により逆転し、接触角は75°に戻ったが、これは未処理PUMA基板との統計的な一致の範囲内である。
【0077】
光学特性。硬化したPUMAは光学的に透明であり、1.504の屈折率を有する。図4’Aは、PUMA414、PDMS411、ガラス412、およびTPE413の光透過特性410を示す。図4’Bは、TPE、PUMA、およびPDMSの緑色蛍光(実線432、433、435;510〜565nm、λexcitationよび赤色蛍光(点線431、434、436;660〜711nm、λexcitation=633nm)強度を示す。挿入図:各ポリマーの最大(初期)自己蛍光。
【0078】
光学特性。硬化したPUMAは光学的に透明であり、1.504の屈折率を有する。図4(A)は、PUMA、PDMS、ガラス、およびTPEの光透過特性を示す。図4(B)は、TPE、PUMA、およびPDMSの緑色蛍光(実線;510〜565nm、λexcitation=488nm)および赤色蛍光(点線;660〜711nm、λexcitation=633nm)強度を示す。挿入図:各ポリマーの最大(初期)自己蛍光。
【0079】
一実施形態において、生物学的存在を蓄積するためのデバイスは、生体適合性および放射線吸収性ポリマーの壁内で少なくとも部分的に画定される流路を備える。別の実施形態において、生物学的存在を蓄積するためのデバイスは、生体適合性および放射線吸収性ポリマーの壁内に少なくとも部分的に画定される流路を備え、ポリマーは、ポリウレタン−メタクリレート(PUMA)を含む。さらなる実施形態において、生物学的存在を蓄積するためのデバイスは、生体適合性および放射線吸収性ポリマーの壁内で少なくとも部分的に画定される流路を備え、ポリマーは、ウレタン、アクリレート、メタクリレート、シリコーン、またはそれらの組み合わせを含む。
【0080】
一実施形態において、生物学的存在を蓄積するためのデバイスは、生体適合性および放射線吸収性ポリマーの壁内で少なくとも部分的に画定される流路を備え、ポリマーは、注射試験、皮内試験、移植試験、またはそれらの組み合わせによれば、生体適合性である。
【0081】
一実施形態において、生物学的存在を蓄積するためのデバイスは、生体適合性および放射線吸収性ポリマーの壁内に少なくとも部分的に画定される流路を備え、壁は、医療グレードの接着剤を架橋させることによって形成される。
【0082】
一実施形態において、生物学的存在を蓄積するためのデバイスは、生体適合性および放射線吸収性ポリマーの壁内で少なくとも部分的に画定される流路を備え、ポリマーは、300〜500nmの波長の放射線を吸収する。別の実施形態において、生物学的存在を蓄積するためのデバイスは、生体適合性および放射線吸収性ポリマーの壁内で少なくとも部分的に画定される流路を備え、ポリマーは、350〜500nmの波長の放射線を吸収する。
【0083】
一実施形態において、生物学的存在を蓄積するためのデバイスは、生体適合性および放射線吸収性ポリマーの壁内に少なくとも部分的に画定される流路を備え、ポリマーは、300〜500nm、または別の実施形態においては350〜500nmの波長の放射線の20%超を吸収する。図4’Aのトレース412に示されるように、PDMSは、300〜500nmの放射線の80%超を透過し、20%超を吸収しない。
【0084】
さらなる実施形態において、生物学的存在を蓄積するためのデバイスは、生体適合性および放射線吸収性ポリマーの壁内に少なくとも部分的に画定される流路を備え、ポリマーは、500〜1000nmの波長の放射線の20%未満を吸収するが、350〜500nmの波長の放射線の20%超を吸収する。図4’Aに示されるPUMA樹脂から製造された壁の光透過性は、可視スペクトル範囲(500〜1000nm)の光透過性(>80%の透過)を示し、放射線が樹脂により吸収されると紫外線範囲(350〜500nm)において急速に不透明(透過しない)となった。
【0085】
図4’Aは、200〜1000nm波長にわたる、それからチャネル壁が構築されるPUMAを通した光透過性をプロットしたものである。光透過性は、300〜500nmの範囲内で急激に低下したが、これは紫外線の強い吸収を示している。
【0086】
図4’Aは、200〜1000nmにわたるPUMA(トレース414)を通した光透過性を、TPE(トレース413)、PDMS(トレース411)、およびガラス(トレース412)の光透過性とともにプロットしたものである。PUMAは、可視範囲においてガラスと同様の光学的透明度を有するが、架橋用の紫外線光開始剤が数多く残存するため、紫外線範囲において鋭い吸収が予測される。
【0087】
図4Aは、200〜1000nmにわたるPUMAを通した光透過性を、TPE、PDMS、およびガラスの光透過性とともにプロットしたものである。PUMAは、可視範囲においてガラスと同様の光学的透明度を有するが、架橋用の紫外線光開始剤が存在するため、当然ながら紫外線範囲において鋭い吸収が予測される。したがって、PUMAは、TPE同様、紫外線吸収用途には特に好適ではない。
【0088】
一実施形態において、生物学的存在を蓄積するためのデバイスは、生体適合性および放射線吸収性ポリマーの壁内に少なくとも部分的に画定される流路を備え、壁は、自己蛍光性ではない。例えば、いくつかの実施形態において、壁は、488nmの照射下で自己蛍光性を示さない。他の実施形態において、壁は、633nmの照射下で自己蛍光性を示さない。
【0089】
図4’Bは、488nmおよび633nm励起下でのポリマー基板による自己蛍光性を示す。3つ全てのポリマー基板の自己蛍光レベル(431、432、433、434、435、436)は、他のプラスチック材料における観察と一致して経時的に減衰した。図4’Bの挿入図は、PDMS(424、425)、PUMA(422、423)、およびTPE(426、427)の最大自己蛍光レベルを比較したものであり、PUMAはTPEよりも低い自己蛍光性を示したが、PDMSより高い自己蛍光性を示した。この自己蛍光性のレベルは、蛍光検出が関連するほとんどの用途に好適である。しかしながら、高感度単一分子研究においては、基板からのバックグラウンド信号を効率的に排除することができる共焦点検出構成を使用することができる。
【0090】
図4Bは、488nmおよび633nm励起下でのポリマー基板による自己蛍光性を示す。3つ全てのポリマー基板の自己蛍光レベルは、他のプラスチック材料における観察と一致して経時的に減衰した。図4Bの挿入図は、PDMS、PUMA、およびTPEの最大自己蛍光レベルを比較したものであり、PUMAはTPEよりも低い自己蛍光性を示したが、PDMSより高い自己蛍光性を示した。この自己蛍光性のレベルは、蛍光検出が関連するほとんどの用途に好適である。しかしながら、高感度単一分子研究においては、基板からのバックグラウンド信号を効率的に排除することができる共焦点検出構成を使用すべきである。
【0091】
一実施形態において、生物学的存在を蓄積するためのデバイスは、生体適合性および放射線吸収性ポリマーの壁内に少なくとも部分的に画定される流路を備え、壁は、油、酸または塩基に対して耐性である。例えば、壁は、鉱物油、フロリナートオイル、パーフルオロデカリン、またはシリコーン油に対して耐性であってもよい。
【0092】
溶媒適合性。表2は、各化学物質中でのPUMAディスクの観察された膨潤比を一覧にしたものである。
【0093】
【表2】

PUMAは、染料、酸、塩基、水、ホルムアルデヒド、鉱物油、シリコーン油、フロリナート、およびパーフルオロデカリンに対して非常に耐性であることが判明した。純度100%のほとんどの有機溶媒は膨潤を引き起こしたが、PUMAは、アセトンおよびアセトニトリルに対して、TPEの膨潤比よりも低い膨潤比を有していた。メタノールおよびエタノール等の低分子量アルコールに対しては、PUMAは、約1.1の膨潤比を有していたポリウレタン単独と比較してより膨潤したようであることが分かる。
【0094】
図5’は、(A)パーフルオロデカリン、(B)テトラヒドロフラン、(C)イソプロパノール、および(D)25μM Rhodamine B中に24時間含浸したPUMAディスク510、520、530、および540を示す(533nm励起での蛍光画像)。図5’は、含浸の効果を例示するために、様々な有機化合物および染料中で24時間含浸した後のPUMAディスク510、520、530、および540の選択された画像を示す。水と混合しない油は、PUMAディスク510に影響しなかった(図5’A)。我々はまた、鉱物油、フロリナート、およびパーフルオロデカリン中で試料を90℃まで加熱することによりPUMAの追加試験を行ったが、円の領域における明確な変化または分解は観察されなかった。したがって、PUMAは、これらの油の多くを使用する液滴マイクロ流体工学における新たな用途に適合することができる。一方、アルコール、ヘプタン、DMSO、および、特にテトラヒドロフラン中では、著しい膨潤が観察され、大きな亀裂が観察された(図5’B、ディスク520)。いくつかの溶媒に対しては、均一な膨張を引き起こさず、いくつかのディスク530は、含浸の結果、中心に陥凹部532を形成した(図5’C、イソプロパノールの場合)。これは、浸透速度がより緩やかであるために、24時間後でもディスクの中心部はほぼ影響されないままであることに起因するものと思われる。
【0095】
図5は、(A)パーフルオロデカリン、(B)テトラヒドロフラン、(C)イソプロパノール、および(D)25μM Rhodamine B中に24時間含浸したPUMAディスクを示す(533nm励起での蛍光画像)。図5は、含浸の効果を例示するために、様々な有機化合物および染料中で24時間含浸した後のPUMAディスクの選択された画像を示す。水と混合しない油は、PUMAディスクに影響しなかった(図5A)。我々はまた、鉱物油、フロリナート、およびパーフルオロデカリン中で試料を90℃まで加熱することによりPUMAの追加試験を行ったが、円の領域における明確な変化または分解は観察されなかった。この事実により、PUMAは、これらの油の多くを使用する液滴マイクロ流体工学における新たな用途に適合するはずである。一方、アルコール、ヘプタン、DMSO、および、特にテトラヒドロフラン中では、著しい膨潤が観察され、大きな亀裂が観察された(図5B)。いくつかの溶媒に対しては、均一な膨張を引き起こさず、いくつかのディスクは、含浸の結果、中心に陥凹部を形成した(図5C、イソプロパノールの場合)。これは、浸透速度がより緩やかであるために、24時間後でもディスクの中心部はほぼ影響されずに残ることに起因するものと思われる。
【0096】
染料の浸透は、25μMのRhodamine B(図5’D)に含浸したPUMAディスク540に観察されたが、フルオレセインには観察されなかった。Rhodamine Bによる染料の浸透は残念であるが、Rhodamine Bはほとんどのポリマー材料に浸透することが知られているため、予想されることである。
【0097】
染料の浸透は、25μMのRhodamine B(図5D)に含浸したPUMAディスクに観察されたが、フルオレセインには観察されなかった。Rhodamine Bによる染料の浸透は残念であるが、Rhodamine Bはほとんどのポリマー材料に浸透することが知られているため、予想されることである。
【0098】
一実施形態において、生物学的存在を蓄積するためのデバイスは、生体適合性および放射線吸収性ポリマーの壁内で少なくとも部分的に画定される流路を備え、流路は、動電フローを生成する。
【0099】
電気浸透流。図6’Aは、EOF実験の電気回路を示す。図6’は、PUMA基板の界面動電特性を示す。図6’Aは、EOF測定に使用した回路の回路図である。(601:−2kV Standford PS350電源;602:ホウ酸塩緩衝液を充填した50μm(H)×50μm(W)×3cm(L)チャネル606を有するPUMAチップ;603:100kΩ抵抗、604:Keithley6485ピコ電流計;605:データ取得用PC)。図6’Bは、動電駆動電流下での電流トレース611、612、および613を示す。挿入図620は、veof測定の統計分布を示し、N=68である。図6’Cは、印加電場の関数としての電流トレース631および632を示す。図6’Dは、接合後のPUMAチップの経過日数の関数としてのveof(641)をプロットしたものである。未処理PUMAは、非常に強い電気浸透移動度を示し、EOFはカソードに向かって移動するが、これはPDMS、ガラス、およびTPEの場合と同じ方向である。これは、未処理PUMA表面もまた、使用した緩衝環境下において負電荷を示すことを示唆している。ホウ酸塩緩衝液中、PUMAの電気浸透移動度veofは5.5×10−4 cm−1sec−1であったが、これは石英ガラスキャピラリの場合に極めて匹敵するものであり、図6’Bの挿入図(620)は、電気浸透移動度測定の統計分布を示す。この値は、文献に報告されている熱硬化ポリウレタンの値よりも約2倍高い。図6’Bは、アノード貯蔵部を20mMホウ酸塩緩衝液と置き換えると電流611、612、および613がいかにして安定化したかを示している。EOFがアノード貯蔵部内の20mM緩衝溶液を駆動して以前チャネル内にあった10mM緩衝液を押し出すと、イオン強度が増加し、チャネル全体が20mM緩衝液で充填されるまで電流の増加をもたらした。電場が200V/cmから667V/cm(我々の電源からの最大出力)に増加すると、新たな定常状態に達する時間が予測通り減少した。我々が印加した電場の範囲内で、ジュール加熱は全く認められなかった。図6’Cは、印加電場の関数としての、10mMおよび20mMホウ酸塩緩衝液を使用して測定された電流631および632をプロットしたものである。667V/cmまでは、これらの関係は線形であり、ジュール加熱によるイオン伝導率の変化は示さなかった。
【0100】
電気浸透流。図6Aは、EOF実験の電気回路を示す。図6は、PUMA基板の界面動電特性を示す。図6Aは、EOF測定に使用した回路の回路図である。(1:−2kV Standford PS350電源;2:ホウ酸塩緩衝液を充填した50μm(H)×50μm(W)×3cm(L)チャネルを有するPUMAチップ;3:100kΩ抵抗、4:Keithley6485ピコ電流計;5:データ取得用PC)。図6(B)は、動電駆動流下での電流トレースを示す。挿入図は、veof測定の統計分布を示し、N=68である。(C)印加電場の関数としての電流トレース。図6(D)は、接合後のPUMAチップの経過日数の関数としてのveofをプロットしたものである。未処理PUMAは、非常に強い電気浸透移動度を示し、EOFはカソードに向かって移動するが、これはPDMS、ガラス、およびTPEの場合と同じ方向である。これは、未処理PUMA表面もまた、使用した緩衝環境下において負電荷を示すことを示唆している。ホウ酸塩緩衝液中、PUMAの電気浸透移動度veofは5.5×10−4Cm−1sec−1であったが、これは石英ガラスキャピラリの場合に極めて匹敵するものであり、図6Bの挿入図は、電気浸透移動度測定の統計分布を示す。この値は、文献に報告されている熱硬化ポリウレタンの値よりも約2倍高い。図6Bは、アノード貯蔵部を20mMホウ酸塩緩衝液と置き換えた場合に電流が安定化した様子を示している。EOFがアノード貯蔵部内の20mM緩衝溶液を駆動して以前チャネル内にあった10mM緩衝液を押し出すと、イオン強度が増加し、チャネル全体が20mM緩衝液で充填されるまで電流の増加をもたらした。電場が200V/cmから667V/cm(我々の電源からの最大出力)に増加すると、新たな定常状態に達する時間が予測通り減少した。我々が印加した電場の範囲内で、ジュール加熱は全く認められなかった。図6Cは、印加電場の関数としての、10mMおよび20mMホウ酸塩緩衝液を使用して測定された電流をプロットしたものである。667V/cmまでは、これらの関係は線形であり、ジュール加熱によるイオン伝導率の変化は示さなかった。
【0101】
PDMSまたはTPEとは異なり、PUMA表面は、高EOFを達成するために酸化する必要はなく、さらに、電気浸透移動度は、製造後著しく安定であった。図6’Dは、製造後の異なる日数で測定した電気浸透移動度641を示し、1回のみの生成運転からのサンプリングに関連したシステムのサンプリング誤差を回避するために、3回の生成運転から選択された様々な日数の異なるチップを各測定に使用した。図6’Dに示されるように、平均(水平線641)は、12日まではチップの日数に対して不変であった。しかしながら、チップが古くなるにつれて測定を妨害する気泡の頻度の増加が認められた。この観察の正確な原因は不明であるが、我々は、使用前に全ての溶液に超音波照射し、視認可能ないかなる泡も顕微鏡検査下で吸い出すことにより、一般的な気泡源を排除するように細心の注意を払った。我々は、窒素または真空下でのPUMAチップの保存が、おそらくは泡生成の発生を低減することに役立つ可能性があると推察する。
【0102】
PDMSまたはTPEとは異なり、PUMA表面は、高EOFを達成するために酸化する必要はなく、さらに、電気浸透移動度は、製造後著しく安定であった。図6Dは、製造後の異なる日数で測定した電気浸透移動度を示し、1回のみの生成運転からのサンプリングに関連したシステムのサンプリング誤差を回避するために、3回の生成運転から選択された様々な日数の異なるチップを各測定に使用した。図6Dに示されるように、平均(水平線)は、12日まではチップの日数に対して不変であった。しかしながら、チップが古くなるにつれて測定を妨害する気泡の頻度の増加が認められた。この観察の正確な原因は不明であるが、我々は、使用前に全ての溶液に超音波照射し、視認可能ないかなる泡も顕微鏡検査下で吸い出すことにより、一般的な気泡源を排除するように細心の注意を払った。我々は、窒素または真空下でのPUMAチップの保存が、おそらくは泡生成の発生を低減することに役立つ可能性があると推察する。
【0103】
一実施形態において、生物学的存在を蓄積するためのデバイスは、生体適合性および放射線吸収性ポリマーの壁内で少なくとも部分的に画定される流路を備え、デバイスは、臨床診断に使用される。
【0104】
PUMAは、臨床的状況における使い捨ての使用のためのマイクロ流体デバイス製造用の極めて有望な材料である。原材料がすでにUSPクラスVI準拠であることが認められているため、その化学的不活性、使用温度、生体適合性、および滅菌可能性は良く特性決定されており、この材料から製造されたデバイスは、規制認可に適合することが推定され得る。本論文は、高密度および高アスペクト比であっても高い忠実度のマイクロ構造複製を提供する、細かく調整された生成プロセスを報告した。この生成プロセスは、Si上SU−8マスターまたはDRIEエッチングされたSiマスターから製造された既存のPDMS型をベースとし得る。PUMAは、可視領域において光学的透明度を提供し、非弾性である。その表面特性は、PDMSと比較して極めて安定である。ほとんどがポリウレタンで構成されるPUMAは表面は、ポリウレタンと同様の生物付着耐性を有すると推定される。熱硬化に必要とされる数時間ではなく、数分(我々の処置では<2分であり、連続生成中の紫外線量の正確な計測には、コンベヤベルト上に紫外線源を装着してもよい)の時間を要する紫外線硬化プロセスは、より高い生成処理量に直結すると推測され、これは、使い捨てマイクロ流体デバイスの製造コストの低減に必要である。さらに、PUMAは熱可塑性であるため、封入されたマイクロ流体デバイスを形成するための接合が容易で強固であり、今回、我々は、コンフォーマルに密着したチップを、長期間紫外線源下に置いただけであった。超音波溶接、急勾配赤外線加熱炉(例えば、回路基板修復における半田のリフローにしばしば使用される)、または他の商業的な非溶媒結合手法は、品質管理において追加的な利点を提供し得る。これらの特性により、PUMAは、使い捨てマイクロ流体ベースの診断デバイスの製造における有用な基板であることが期待される。
【0105】
上に報告されるのは、非弾性であり、特に臨床診断用途における使い捨てマイクロ流体基板として優れた品質を有する、新たな紫外線硬化性ポリウレタン−メタクリレート(PUMA)樹脂の実施形態である。このPUMA基板は、光学的に透明であり、生物付着耐性であり、マイクロ流体用途において使用される多くの化学物質に適合し、典型的な厚さ(ほぼガラススライドの厚さ)まで硬化可能であり、封入されたデバイスを形成するために容易に接合可能であり、表面改質なしに石英ガラスキャピラリに匹敵する電気浸透流を生成することができる。供給業者により米国薬局方(USP)クラスVI準拠として認定されたこのPUMA樹脂は、その化学的不活性、使用温度、生体適合性、および滅菌可能性、つまり医療診断デバイス製造に必要な全ての品質について十分に試験されている。
【0106】
また、本出願において、封入されたマイクロ流体流路を形成する方法であって、
形成された基板を型から解放するステップと、
形成された基板を表面に対して押し付けるように、真空を提供するステップと、
形成された基板と表面との間の密着を形成するように、エネルギーを提供するステップと
を含む、方法も開示される。
【0107】
一実施形態において、マイクロ流体流路は、生物学的存在を流動させるように構成される。
【0108】
一実施形態において、形成された基板は、ポリウレタン−メタクリレート(PUMA)を含む。
【0109】
一実施形態において、形成された基板は、樹脂を放射線に暴露させることにより形成される。別の実施形態において、形成された基板は、樹脂を放射線に暴露させることにより形成され、放射線は、300〜500nmの波長を有する。さらなる実施形態において、形成された基板は、樹脂を放射線に暴露させることにより形成され、樹脂は、ウレタン、アクリレート、メタクリレート、シリコーン、またはそれらの組み合わせを含有する。
【0110】
一実施形態において、形成された基板は、90℃を超える角度で引き出すことにより型から解放される。別の実施形態において、形成された基板は、真空吸引を使用して型から解放される。
【0111】
いくつかの実施形態において、形成された基板を表面に対して押し付けるように提供される真空は、変形可能な袋またはバッグの中に含まれる。一実施形態において、変形可能な袋またはバッグには、成形された基板および表面が封入される。
【0112】
一実施形態において、形成された基板と表面との間の密着を形成するためのエネルギーは、紫外線である。別の実施形態において、形成された基板と表面との間の密着を形成するためのエネルギーは、熱エネルギーまたは赤外線である。さらなる実施形態において、形成された基板と表面との間の密着を形成するためのエネルギーは、酸化エネルギーである。
【0113】
以下の議論は、PUMA樹脂の紫外線鋳造における後半のステップである型解放、接合、および外部流体送達への相互接続に焦点を置く。型解放の間、高アスペクト比のマイクロ構造は、せん断により誘引される損傷を受けやすく、一方接合の間、それらは圧縮に関係した損傷を受けやすい。これらの2つのステップ中の損失は、紫外線鋳造の収率に関与してはならず、この収率は、紫外線量および樹脂の厚さが適切に最適化されれば極めて一貫する。我々は、型解放および接合ステップをトラブルシューティングするために多大なる努力を重ね、非一貫性および複製されたマイクロ構造に対する不慮の損傷を排除するための技法を開発した。その結果、品質管理が向上し、収率が改善した。これらの技法はまた、商業規模の生成にも容易に適合させることができる。
【0114】
(実験)
図7’を参照すると、ケイ素ウエハの深堀反応性イオンエッチング(DRIE)により成形マスターを調製し、これを(トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル)トリクロロシランで一晩シラン化したことを除いて、前述のラピッドプロトタイピング処置に従いポリジメチルシロキサン(PDMS)型711を調製した。PUMA樹脂712(Dymax140−M、Torrington、CT)を3mmの厚さまでPDMS型711に施し、次いで、架橋反応の酸素阻害を防止するために、透明ポリプロピレン裏地714(厚さ8ミル)に貼られたセロファン715のシートで被覆した(図7’A)。
【0115】
ケイ素ウエハの深堀反応性イオンエッチング(DRIE)により成形マスターを調製し、これを(トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル)トリクロロシランで一晩シラン化したことを除いて、以前に説明したラピッドプロトタイピング処置に従いポリジメチルシロキサン(PDMS)型を調製した。PUMA樹脂(Dymax140−M、Torrington、CT)を3mmの厚さまでPDMS型に施し、次いで、架橋反応の酸素阻害を防止するために、透明ポリプロピレン裏地(厚さ8ミル)に貼られたセロファンのシートで被覆した(図7A)。
【0116】
具体的には、図7’Aは、PUMAチップの成形および硬化を示す配置図を示す。深さ2mmの陥凹部を有するPDMS型711にPUMA樹脂712を充填し、PTFEポスト713を埋め込む。一度樹脂が硬化したら剥離することができる界面セロファン(またはAclar)シート715を有する透明ポリプロピレンシート714で、樹脂の頂部を被覆する。711:PDMS型;712:PUMA樹脂;713:PTFEポスト;714:透明ポリプロピレンシート;715:セロファン(またはAclar)。図7’Bは、外部配管をチップに接続するための2つの方法を示す概略図である。左:1/8インチ穴を有するPUMAチップ721を、1/8インチODポリウレタン配管723によって返し付きコネクタ722に接続することができ;漏洩を防止するために、配管の回りに追加のPUMA樹脂724を施してもよい。右:1/8インチ穴を有するPUMAチップ731を、1/16インチOD PTFE配管735に接続することができる。731:PUMA基板;735:1/16インチOD PTFE配管;736:ポリオレフィン熱収縮;737:止め輪;734:追加の接着剤;733:1/8インチ外径ポリウレタン配管;734:追加のPUMA樹脂。
【0117】
具体的には、図7(A)は、PUMAチップの成形および硬化を示す配置図を示す。深さ2mmの陥凹部を有するPDMS型1にPUMA樹脂2を充填し、PTFEポスト3を埋め込む。一度樹脂が硬化したら剥離することができる界面セロファン(またはAclar)シート4を有する透明ポリプロピレンシート5で、樹脂の頂部を被覆する。1:PDMS型;2:PUMA樹脂;3:PTFEポスト;4:透明ポリプロピレンシート;5:セロファン(またはAclar)。図7(B)は、外部配管をチップに接続するための2つの方法を示す概略図である。左:1/8インチ穴を有するPUMAチップ1を、1/8インチODポリウレタン配管2によって返し付きコネクタ3に接続することができ;漏洩を防止するために、配管の回りに追加のPUMA樹脂4を施してもよい。右:1/8インチ穴を有するPUMAチップ5を、1/16インチOD PTFE配管6に接続することができる。5:PUMA基板;6:1/16インチOD PTFE配管;7:ポリオレフィン熱収縮;8:止め輪;9:追加の接着剤;10:1/8インチ外径ポリウレタン配管;11:追加のPUMA樹脂。
【0118】
重要な用途においては、セロファンの代わりに、可塑剤を含有しないポリクロロ−トリフルオロエチレン(PCTFE)ポリマーであるAclarシート715(Honeywell社製、Morristown、NJ)を使用することができる。流体貯蔵部または外部接続用の穴を形成するために、PTFEポスト713(3mm(D)×3mm(H))を、硬化前にPUMA樹脂712に埋め込んだ。アセンブリ全体を高強度紫外線源(ADAC Cure Zone 2 UV Flood Light Source、400W金属ハライドランプを装着、365nmで公称80mW/cm2を供給)に80秒間置き(樹脂側からの暴露)、続いてさらに40秒間暴露させた(型側からの暴露)。型から解放されたら、PUMA基板を、弱い機械的圧力により別のPUMA被覆(硬化)ガラスにコンフォーマルに接合した。PUMAチップを紫外線フラッド源下にさらに10分間置くことにより、このコンフォーマルな接合を恒久的接合に変換した。
【0119】
重要な用途においては、セロファンの代わりに、可塑剤を含有しないポリクロロ−トリフルオロエチレン(PCTFE)ポリマーであるAclarシート(Honeywell社製、Morristown、NJ)を使用することができる。流体貯蔵部または外部接続用の穴を形成するために、PTFEポスト(3mm(D)×3mm(H))を、硬化前にPUMA樹脂に埋め込んだ。アセンブリ全体を高強度紫外線源(ADAC Cure Zone 2 UV Flood Light Source、400W金属ハライドランプを装着、365nmで公称80mW/cm2を供給)に80秒間置き(樹脂側からの暴露)、続いてさらに40秒間暴露させた(型側からの暴露)。型から解放されたら、PUMA基板を、弱い機械的圧力により別のPUMA被覆(硬化)ガラスにコンフォーマルに接合した。PUMAチップを紫外線フラッド源下にさらに10分間置くことにより、このコンフォーマルな接合を恒久的接合に変換した。
【0120】
また、本出願において、型の汚損を防止することにより形成された基板を型から解放する方法も記載される。型は、音響エネルギーの存在下で、一連の溶媒による長期間の洗浄に供される。
【0121】
各複製の間、PDMS型を、イソプロパノールおよび水の中で超音波照射し、75℃で少なくとも15分間焼成した。
【0122】
(結果および考察)
流体相互連結。図7’Bは、外部流体送達のためのPUMAチップの連結の2つの例を示す。これらの2つの連結法を用いて作製されたチップは、高体積流量(1〜10mL/min)または高流体抵抗が関与する用途に適用すると、通常最大40psiまで耐えた。図7’Bの左側は、外部配管の単純な取り付けを可能にする90℃屈曲部722の使用を示している。屈曲部722は、厚肉ポリウレタン(PU)配管723(1/8インチ外径(OD)、1/16インチ内径(ID))に挿入したが、これはせん断に対する機械的アンカーとして機能した。次いで、PU配管723を、PUMA基板721の1/8インチ穴(PTFEポストの埋没またはレーザ切断により形成された)に挿入し、追加の接着剤724 を結合部周囲に施した。このデザインは、返し付きコネクタからの外部配管の迅速な取り外しを可能にする。
【0123】
流体相互連結。図7Bは、外部流体送達のためのPUMAチップの連結の2つの例を示す。これらの2つの連結法を用いて作製されたチップは、高体積流量(1〜10mL/min)または高流体抵抗が関与する用途に適用すると、通常最大40psiまで耐えた。図7Bの左側は、外部配管の単純な取り付けを可能にする90℃屈曲部の使用を示している。屈曲部は、厚肉ポリウレタン(PU)配管(1/8インチ外径(OD)、1/16インチ内径(ID))に挿入したが、これはせん断に対する機械的アンカーとして機能した。次いで、PU配管を、PUMA基板の1/8インチ穴(PTFEポストの埋没またはレーザ切断により形成された)に挿入し、追加の接着剤を結合部周囲に施した。このデザインは、返し付きコネクタからの外部配管の迅速な取り外しを可能にする。
【0124】
第2のデザイン(図7’Bの右側)は、1/16インチOD(またはBecton Dickinson社製PE100配管と同等の寸法)のPTFE配管735とPUMAチップ731との連結を示す。(1)PE表面は接着剤接合に抵抗性を有し、(2)極めて弾性の配管は長さ方向に引くと容易に破断することから、我々は、PDMSベースのマイクロ流体デバイスとの連結に一般的に使用される従来のポリエチレン(PE)配管(例えば、PE100)が、PUMAチップとうまく機能しないことに気付いた。我々が見出した最良の配管は、1/16インチODのPTFE配管である。PTFE配管735に化学的に結合することはほぼ不可能であるが、これは、外表面をポリオレフィン熱収縮736で被覆することにより回避することができる。次いで、PTFE配管735は、1/16インチ径の穴に直接挿入して追加の樹脂で固定するか、または、せん断アンカーとしての補助PU配管733(1/8インチOD)で1/8インチの穴に挿入して追加の樹脂734で固定することができる。
【0125】
第2のデザイン(図7Bの右側)は、1/16インチOD(またはBecton Dickinson社製PE100配管と同等の寸法)のPTFE配管とPUMAチップとの連結を示す。(1)PE表面は接着剤接合に抵抗性を有し、(2)極めて弾性の配管は長さ方向に引くと容易に破断することから、我々は、PDMSベースのマイクロ流体デバイスとの連結に一般的に使用される従来のポリエチレン(PE)配管(例えば、PE100)が、PUMAチップとうまく機能しないことに気付いた。我々が見出した最良の配管は、1/16インチODのPTFE配管である。PTFE配管に化学的に結合することはほぼ不可能であるが、これは、外表面をポリオレフィン熱収縮で被覆することにより回避することができる。次いで、PTFE配管は、1/16インチ径の穴に直接挿入して追加の樹脂で固定するか、または、せん断アンカーとしての補助PU配管(1/8インチOD)で1/8インチの穴に挿入して追加の樹脂で固定することができる。
【0126】
PDMSチップとの比較。硬化したPUMA樹脂はショア硬度D60を有し、これは弾性PDMS(Dow Corning社製Sylgard184に対してはショアA50)よりも著しく硬い。独立した機械的に脆い特徴(特に支持されていない高い垂直柱またはウィスカー)の場合、PDMSは、その低い剛性率のために製造材料として使用することはできず、特徴は、重力下で単に傾いて倒壊する。
【0127】
図8’は、(A)密集した高アスペクト比の柱812および816のアレイのPUMA複製810、(B)(A)と反対の極性を有するDRIE生成ケイ素マスター820、および(C)(B)におけるケイ素マスター820から作製されたPDMS複製830の走査型電子顕微鏡画像を示す。
【0128】
図8は、(A)密集した高アスペクト比の柱のアレイのPUMA複製、(B)(A)と反対の極性を有するDRIE生成ケイ素マスター、および(C)(B)におけるケイ素マスターから作製されたPDMS複製の走査型電子顕微鏡画像を示す。
【0129】
図8’は、PUMAでは製造可能であるがPDMSでは製造可能でない特徴の一例を示す。図8’Aは、PUMA樹脂における複製810の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示し、複製のための試験パターンは、中実壁(811および817)と交互した密集した垂直柱(812および816)からなる。特徴の高さは約40μmであり、垂直柱(812、816)のアスペクト比は約3.5であった。複製または解放プロセスにおいて方向における問題がある場合のトラブルシューティングの一助となるように、屈曲部がデザインに組み込まれた。図8’Aにおいて明確なように、PUMAに生成された柱(812、816)は、傾倒の徴候のない明確な垂直プロファイルを有していた。
【0130】
図8は、PUMAでは製造可能であるがPDMSでは製造可能でない特徴の一例を示す。図8Aは、PUMA樹脂における複製の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示し、複製のための試験パターンは、中実壁と交互した密集した垂直柱からなる。特徴の高さは約40μmであり、垂直柱のアスペクト比は約3.5であった。複製または解放プロセスにおいて方向における問題がある場合のトラブルシューティングの一助となるように、屈曲部がデザインに組み込まれた。図8Aにおいて明確なように、PUMAに生成された柱は、傾倒の徴候のない明確な垂直プロファイルを有していた。
【0131】
図8’Bは、深堀反応性イオンエッチング(DRIE)を使用して生成されたケイ素マスター820のSEM画像を示す。このマスター820は、逆の極性を有し(すなわち、レリーフは陥凹部となる)、図8’Aと同じ極性でPDMSに特徴を複製することを意図するものであった。Siウエハ上のSU−8フォトレジストがマスターを生成するより一般的な手法であるが、ここでは、深い陥凹部における未硬化SU−8樹脂の完全除去を確実とするのは困難であるため、DRIEを使用してマスター820を生成した。深い陥凹部におけるSU−8の存在は、複製PDMSにおける特徴の収縮に寄与し、これは陥凹部におけるPDMSの不完全な充填から区別することができない。図8’Cは、図8’Bにおけるケイ素マスター820から成形されたPDMS830を示す。PDMS柱(831、832)は、長い湾曲した壁と同じ高さのものであり、これは良好な複製を示すにもかかわらず、自重を支えることができず、したがって傾いてしまったことがすぐに分かる。自重による倒壊またはたるみはまた、低アスペクト比のPDMSマイクロチャネルでも予測される。
【0132】
図8Bは、深堀反応性イオンエッチング(DRIE)を使用して生成されたケイ素マスターのSEM画像を示す。このマスターは、逆の極性を有し(すなわち、レリーフは陥凹部となる)、図8Aと同じ極性でPDMSに特徴を複製することを意図するものであった。Siウエハ上のSU−8フォトレジストがマスターを生成するより一般的な手法であるが、ここでは、深い陥凹部における未硬化SU−8樹脂の完全除去を確実とするのは困難であるため、DRIEを使用してマスターを生成した。深い陥凹部におけるSU−8の存在は、複製PDMSにおける特徴の収縮に寄与し、これは陥凹部におけるPDMSの不完全な充填から区別することができない。図8Cは、図8Bにおけるケイ素マスターから成形されたPDMSを示す。PDMS柱は、長い湾曲した壁と同じ高さのものであり、これは良好な複製を示すにもかかわらず、自重を支えることができず、したがって傾いてしまったことがすぐに分かる。自重による倒壊またはたるみはまた、低アスペクト比のPDMSマイクロチャネルでも予測される。
【0133】
解放プロセス。低アスペクト(H/W<1)の特徴においては、(1)硬化した樹脂から若干型を剥離することにより、または(2)樹脂と型との間にメスを差し込んで静かに樹脂を浮かせることにより、硬化したPUMA樹脂をPDMS型から解放することができることが判明した。ここで、解放中にレリーフ特徴を損傷する可能性は非常に低かった。しかしながら、高アスペクト比の特徴では、特に支持の不足により機械的に脆い特徴では、解放プロセスはチップ収率において重要な役割を担う。
【0134】
解放プロセスを改善するために、我々はPDMSに対しいくつかの表面改質プロセス(例えば、プラズマ酸化、(トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル)トリクロロシランによるシラン化、およびn−ドデシル−ベータ−D−マルトシド(DDM)、Gransurf71、およびGransurf77等の界面活性剤の薄い被覆)を試みた。これらの表面改質技術は複製プロセスを改善せず、シラン化の場合には、単に表面の疎水性が強すぎてPUMA樹脂が適切に湿潤しなかった。また、我々は、熱膨張(例えば、−80℃への急速冷凍または熱)の差の利用を試み、熱処理は硬化した樹脂から反対の方向へのPDMSの歪みをもたらしたが、硬化した樹脂はまた、歪んだPDMSに全体的に適応した。その結果、PUMA樹脂が歪み、続く平面基板へのコンフォーマルな密着が不可能となった。
【0135】
一実施形態において、封入されたマイクロ流体流路を形成する方法は、形成された基板を型から解放するステップを含み、形成された基板は、90度を超える角度で引き出すことにより型から解放される。別の実施形態において、封入されたマイクロ流体流路を形成する方法は、形成された基板を型から解放するステップを含み、形成された基板は、120度を超える角度で、または、他の実施形態において、150度を超える角度もしくは180度を超える角度で引き出すことにより、型から解放される。
【0136】
ある特定の実施形態において、封入されたマイクロ流体流路を形成する方法は、形成された基板を型から解放するステップを含み、形成された基板は、真空吸引を使用して型から解放される。
【0137】
また、本明細書において、90度を超える角度で反対の真空吸引力を加えることにより、形成された基板を型から解放するための装置および方法が記載される。図9’に関して議論されるように、そのような装置および方法は、せん断面における不慮の運動を最小化することにより、複製されたマイクロ構造およびチャネルへの機械的損傷を大幅に低減する。
【0138】
いかなる具体的な機構にも制限されることを望まないが、解放プロセスの間は不慮の機械的せん断が阻止されなければならない可能性があり、我々は、硬化した樹脂をPDMS型から分離するための単純な引張ステーションを考案した。分離の方向および速度を正確に制御することにより、マイクロ構造への損傷は大きく最小化される。
【0139】
図9’は、PDMS型922からのPUMA基板921の正確な解放のための特別設計解放引張器911を示す。引張器911は、レバー912を引くと下方に平行移動し、レバー912を離すと、そのバネ駆動動作が上方に平行移動し、PUMA基板921が正確に180度(方向919)にPDMS型922から引き離されることが確実となる。直径1インチのビニル吸引カップ914が穿孔され、装着され、1/8インチ(内径)Tygon配管913を介して真空ポンプに接続された。対向吸引カップ915が下方に装着され、これもまた真空917に接続された。金属ベース916は、対向吸引カップ915をWorkstation910に固定するために使用された。
【0140】
図9は、PDMS型からのPUMAチップの正確な解放のための特別設計解放引張器を示す。Workstationは、レバーを引くと下方に平行移動し、レバーを離すと、そのバネ駆動動作が上方に平行移動し、PUMAチップが正確に180度にPDMS型から引き離されることが確実となる。灰色の輪郭は、標準的なDremel Workstationコンポーネント1を示す。直径1インチのビニル吸引カップ2が穿孔され、装着され、1/8インチ(内径)Tygon配管を介して真空ポンプに接続された。対向吸引カップ3が下方に装着され、これもまた真空に接続された。金属ベース4は、対向吸引カップをWorkstationに固定するために使用された。
【0141】
図9’は、引張ステーション911の概略図を示す。これは、卓上型穿孔盤用に意図されたDremel Workstation 220−01アセンブリ910に基づいた。Workstationは、シャフトに沿った垂直の平行移動を制御するバネ駆動レバー912を備え、レバー912を離すと、上部マウントが停止部に衝突するまで上方に平行移動した。直径1インチのビニル吸引カップ914が、PUMA基板921への取付のために上部マウントに固定され、PDMS型922への取付のための第2のビニル吸引カップ915が金属ベース916に固定された。ダイヤフラム真空ポンプへの接続のために、貫通穴(直径1/16インチ)が吸引カップ914および915のベースに穿孔された。
【0142】
図9は、引張ステーションの概略図を示す。これは、卓上型穿孔盤用に意図されたDremel Workstation 220−01アセンブリに基づいた。Workstationは、シャフトに沿った垂直の平行移動を制御するバネ駆動レバーを備え、レバーを離すと、上部マウントが停止部に衝突するまで上方に平行移動した。直径1インチのビニル吸引カップが、PUMAチップへの取付のために上部マウントに固定され、PDMS型への取付のための第2のビニル吸引カップが金属ベースに固定された。ダイヤフラム真空ポンプへの接続のために、貫通穴(直径1/16インチ)が吸引カップのベースに穿孔された。
【0143】
紫外線硬化後、PUMA−PDMSアセンブリ(920、921および922)をベース吸引カップ915上に設置し、真空ポンプをオンにした。ベース吸引カップ915はPDMS型922を適所に保持し、一方で、硬化した樹脂(形成された基板)921の頂部上の透明ポリプロピレンカバー920に接触するまで上方吸引カップ914を徐々に引き下ろした。速度は、形成された基盤921に対し最小限の下向きの力が作用するように、十分緩やかであるべきである。真空計が大気圧からポンプの最終圧力まで降下したら(これは上部吸引カップ914とポリプロピレンカバー920との間に良好な真空密着が達成されたことを示す)、バネ駆動レバー912を離して、形成された基板921および型922を引き離した。
【0144】
紫外線硬化後、PUMA−PDMSアセンブリをベース吸引カップ上に設置し、真空ポンプをオンにした。ベース吸引カップはPDMS型を適所に保持し、一方で、硬化した樹脂の頂部上の透明ポリプロピレンカバーに接触するまで上方吸引カップを徐々に引き下ろした。速度は、樹脂に対し最小の下向きの力が作用するように、十分緩やかであるべきである。真空計が大気圧からポンプの最終圧力まで降下したら(これは上部吸引カップとポリプロピレンカバーとの間に良好な真空密着が達成されたことを示す)、バネ駆動レバーを離して、樹脂および型を引き離した。
【0145】
我々は、引張ステーション911の設計において、(1)力を均一に分散させるために、上部吸引カップ914およびベース吸引カップ915を適切に位置合わせしなければならないこと、ならびに(2)水平方向(マイクロ構造でのせん断面)の不慮の振動または運動を回避するために、全ての部品をしっかりと締結しなければならないことに気付いた。解放速度(速いほど良い)もまた、欠陥を低減することに役立った。
【0146】
我々は、引張ステーションの設計において、(1)力を均一に分散させるために、上部吸引カップおよびベース吸引カップを適切に位置合わせしなければならないこと、ならびに(2)水平方向(マイクロ構造でのせん断面)の不慮の振動または運動を回避するために、全ての部品をしっかりと締結しなければならないことに気付いた。解放速度(速いほど良い)もまた、欠陥を低減することに役立った。
【0147】
図10’Aは、高アスペクト比構造の複製において立体鏡下で一般に観察される欠陥を示す。波状壁1011は、通常、各複製動作間のPDMS型の不十分な清浄化によりもたらされ、一方規則的なアレイに囲まれた不規則な黒点1012は、構造が互いに対し傾いていたことを示している(PDMS型からのPUMAの解放中の機械的損傷)。図10’Bは、損傷した高アスペクト比の柱1021のSEM画像1020であり、真空引張器は使用されていない。図10’Cは、前述された真空引張器を使用して完璧に解放されたPUMA基板1030の光学画像である。
【0148】
図10Aは、高アスペクト比構造の複製において立体鏡下で一般に観察される欠陥を示す。波状壁1は、通常、各複製動作間のPDMS型の不十分な清浄化によりもたらされ、一方規則的なアレイに囲まれた不規則な黒点2は、構造が互いに対し傾いていたことを示している(PDMS型からのPUMAの解放中の機械的損傷)。図10(B)は、損傷した高アスペクト比の柱のSEM画像であり、真空引張器は使用されていない。図10(C)は、前述された真空引張器を使用して完璧に解放されたPUMAチップの光学画像である。
【0149】
図10’は、引張器により提供された型解放の改善を示す。図10’Aは、引張器の支援なしでのPUMA複製1010(図8’Aと同じパターン)の立体鏡下で撮影された画像である。2種類の欠陥が明らかであり、(1)長く湾曲した壁1011がリボン状の外観を有し、また(2)垂直柱1012が不規則であった。リボン様の長く湾曲した壁1011は、側方に屈曲した壁によるものであるが、これは複製運転間のPDMS型の不適切な清浄化に起因し、型と樹脂との間の接着を増加させる。新鮮な未使用のPDMS型は、硬化条件に厳密に従った場合、この問題を示さなかった。複製間のイソプロパノールおよび水による綿密な超音波照射により、波状壁1011の発生は大きく低減した。
【0150】
図10は、引張器により提供された型解放の改善を示す。図10Aは、引張器の支援なしでのPUMA複製(図8Aと同じパターン)の立体鏡下で撮影された画像である。2種類の欠陥が明らかであり、(1)長く湾曲した壁がリボン状の外観を有し、また(2)垂直柱が不規則であった。リボン様の長く湾曲した壁は、側方に屈曲した壁によるものであるが、これは複製運転間のPDMS型の不適切な清浄化に起因し、型と樹脂との間の接着を増加させる。新鮮な未使用のPDMS型は、硬化条件に厳密に従った場合、この問題を示さなかった。複製間のイソプロパノールおよび水による綿密な超音波照射により、波状壁の発生は大きく低減した。
【0151】
図10’Bは、立体鏡検査下で「不規則」とみなされた垂直ポスト1021のSEM画像を示す。不規則性は互いに傾いたポスト1021によるものであった。PUMAはPDMSよりも著しく硬いが、このスケールにおいては、特徴は機械的に脆い。図10’Cは、引張器を使用して完璧に解放されたPUMA複製1030の立体鏡画像を示す。垂直ポスト間の間隔は周期的であった(不規則な暗点がなかった)。
【0152】
図10Bは、立体鏡検査下で「不規則」とみなされた垂直ポストのSEM画像を示す。不規則性は互いに傾いたポストによるものであった。PUMAはPDMSよりも著しく硬いが、このスケールにおいては、特徴は機械的に脆い。図10Cは、引張器を使用して完璧に解放されたPUMA複製の立体鏡画像を示す。垂直ポスト間の間隔は周期的であった(不規則な暗点がなかった)。
【0153】
接合。図11’は、封入されたPUMAマイクロチャネルを形成するために使用され得るいくつかの方法を示す。図11’。封入されたチャネルを形成するためにPUMAを接合する方法。PUMAチップは、まず酸素プラズマ1121を使用し(ステップ1120)、続いて>75℃で2〜3日間焼成する(ステップ1125)ことにより接合することができる。Oプラズマ1121は、チップ(形成された基板)1128と底部カバー1126との間のコンフォーマルな接触を改善する。高アスペクト比または繊細な構造に対しては、コンフォーマルな密着に使用される圧力を制御するために、真空包装機(1141)の使用(1140)が推奨される。良好なコンフォーマルな密着が達成されたら、単にチップを長期間の紫外線暴露に供する(ステップ1150)か、プログラム可能な赤外線加熱炉を使用する(ステップ1160)か、または超音波溶接(ステップ1170)により、恒久的接合を形成することができる。
【0154】
接合。図11は、封入されたPUMAマイクロチャネルを形成するために使用され得るいくつかの方法を示す。図11。封入されたチャネルを形成するためにPUMAを接合する方法。PUMAチップは、まず酸素プラズマを使用し、続いて>75℃で23日間焼成することにより接合することができる。Oプラズマは、チップと底部カバーとの間のコンフォーマルな接触を改善する。高アスペクト比または繊細な構造に対しては、コンフォーマルな密着に使用される圧力を制御するために、真空包装機の使用が推奨される。良好なコンフォーマルな密着が達成されたら、単にチップを長期間の紫外線暴露に供するか、プログラム可能な赤外線加熱炉を使用するか、または超音波溶接により、恒久的接合を形成することができる。
【0155】
PUMAは熱可塑性であるため、加熱は、マイクロチャネル基板と蓋との間の恒久的接合を形成する効果的な手法である。しかしながら、マイクロ構造の損傷を回避するため、接合プロセス中は過剰の軟化または圧力を回避しなければならない。
【0156】
ある特定の実施形態において、封入されたマイクロ流体流路を形成する方法は、形成された基板を表面に押し付けるために真空を提供するステップを含む。一実施形態において、形成された基板を表面に対し押し付けるための真空は、変形可能な袋またはバッグの中に含まれる。例えば、袋またはバッグには、形成された基板および表面が封入され得る。
【0157】
また、本出願において、形成された基板を表面に押し付けて封入された流路を形成するために真空を提供するための装置および方法が記載される。そのような装置および方法は、図11’を参照して説明されたように、変形可能な袋またはバッグ内に真空を提供し、圧縮力を加えると同時にいかなる捕捉空気も除去して、形成された基板と接触表面との間の接触を改善する。
【0158】
図11’を参照すると、基板の剛性に起因して、PUMAのコンフォーマルな密着(ステップ1140)はPDMSの場合程単純ではない。捕捉された気泡を回避するための注意も必要である。我々の好ましい方法は、チップ1143をプラスチックバッグ1142に入れ、台所用品として市販されている真空包装機1141を使用して袋を真空引きし、収縮するバッグに依存してチップに対し均一に圧力を加えコンフォーマルな密着を形成することである。真空バッグ1142は、多くの場合、空気ポケットの捕捉を低減するための畝を有し、これらの畝は、PUMA基板1143上にインプリントを残す可能性があるが、これは真空バッグ1142を糸くずの出ない布で裏打ちすることにより回避することができる。
【0159】
基板の剛性に起因して、PUMAのコンフォーマルな密着はPDMSの場合程単純ではない。捕捉された気泡を回避するための注意も必要である。我々の好ましい方法は、チップをプラスチックバッグに入れ、台所用品として市販されている真空包装機を使用して袋を真空引きし、収縮するバッグに依存してチップに対し均一に圧力を加えコンフォーマルな密着を形成することである。真空バッグは、多くの場合、空気ポケットの捕捉を低減するための畝を有し、これらの畝は、PUMA基板上にインプリントを残す可能性があるが、これは真空バッグを糸くずの出ない布で裏打ちすることにより回避することができる。
【0160】
コンフォーマルな密着(ステップ1140)の後、封入されたチップを紫外線ランプ下に10〜15分間置いた(ステップ1150)。強力な紫外線および熱は、PUMA基板の軟化をもたらし、コンフォーマルな密着は、リフロープロセスの間に恒久的な結合となった。リフローは、通常、まだやわらかい間にチップ上に圧力が加えられない限りは、マイクロ構造の歪みをもたらすことはない。チップが冷却されたら、恒久的な密着は、高圧(20〜30psi)下で高流量(>1ml/min)に耐えることができるが、チップの底面を構成する顕微鏡カバースリップ(No.2)が、恒久的密着が失敗する前に破壊されることが通例的に観察された。この接合法1150は、我々の最適な方法であるが、以下に簡単に説明する他の接合技術が使用されてもよい。
【0161】
コンフォーマルな密着の後、封入されたチップを紫外線ランプ下に10〜15分間置いた。強力な紫外線および熱は、PUMA基板の軟化をもたらし、コンフォーマルな密着は、リフロープロセスの間に恒久的な結合となった。リフローは、通常、まだやわらかい間にチップ上に圧力が加えられない限りは、マイクロ構造の歪みをもたらすことはない。チップが冷却されたら、恒久的な密着は、高圧(20〜30psi)下で高流量(>1ml/min)に耐えることができるが、チップの底面を構成する顕微鏡カバースリップ(No.2)が、恒久的密着が失敗する前に破壊されることが通例的に観察された。この接合法は、我々の最適な方法であるが、以下に簡単に説明する他の接合技術が使用されてもよい。
【0162】
ある特定の実施形態において、封入されたマイクロ流体流路を形成する方法は、形成された基板と表面との間の密着を形成するように、エネルギーを提供するステップを含む。いくつかの実施形態において、エネルギーは、紫外線である。他の実施形態において、エネルギーは、熱エネルギーまたは赤外線である。さらに別の実施形態において、エネルギーは、イオンもしくは電子衝撃、酸素プラズマへの暴露、または酸化化学物質への暴露から得られる酸化エネルギーである。
【0163】
再び図11’を参照すると、コンフォーマルな密着を向上させるために、酸素プラズマ(ステップ1120)が使用され得るが、15分の酸素プラズマ1121後、コンフォーマルな接触は改善された。泡の捕捉はより少なく、密着領域が増加した。しかしながら、密着領域はPDMSとガラスとの間に典型的に見られるように100%には程遠いため、通常手作業による気泡の排除が依然として必要である。封入されたチップ(1128および1126)を75℃の炉に2日間置くと、恒久的な結合が形成されたが、この処置を使用すると、実験中に密着が失敗する頻度は、上述の第1の接合方法を使用して生成されたチップの場合よりも高い。
【0164】
コンフォーマルな密着を向上させるために酸素プラズマ使用することができるが、15分の酸素プラズマ後、コンフォーマルな接触が改善された。泡の捕捉はより少なく、密着領域が増加した。しかしながら、密着領域はPDMSとガラスとの間に典型的に見られるように100%には程遠いため、通常手作業による気泡の排除が依然として必要である。封入されたチップを75℃の炉に2日間置くと、恒久的な結合が形成されたが、この処置を使用すると、実験中に密着が失敗する頻度は、上述の第1の接合方法を使用して生成されたチップの場合よりも高い。
【0165】
熱可塑性物質の商業生産により類似した代替の非溶媒接合法が使用されてもよい。例えば、温度の急勾配を提供し、回路基板製造における半田のリフローにしばしば使用されるプログラム可能な赤外線加熱炉(ステップ1160)は、紫外線ランプよりも信頼性のある温度制御を提供するはずである。局所的溶融によるマイクロ構造の損傷を低減するために操作条件が適切に最適化される限り、熱可塑性物質を接合するための一般的技術である超音波溶接(ステップ1170)が使用されてもよい。
【0166】
熱可塑性物質の商業生産により類似した代替の非溶媒接合法が使用されてもよい。例えば、温度の急勾配を提供し、回路基板製造における半田のリフローにしばしば使用されるプログラム可能な赤外線加熱炉は、紫外線ランプよりも信頼性のある温度制御を提供するはずである。局所的溶融によるマイクロ構造の損傷を低減するために操作条件が適切に最適化される限り、熱可塑性物質を接合するための一般的技術である超音波溶接が使用されてもよい。
【0167】
一実施形態において、生物学的存在を蓄積するためのデバイスは、生体適合性および放射線吸収性ポリマーの壁内で少なくとも部分的に画定される流路を備え、生物学的存在は、癌細胞である。別の実施形態において、生物学的存在は、希少な細胞(例えば、存在度が低い細胞)である。細胞は、その濃度が1)流体中の全細胞集団の10%未満、2)流体中の全細胞集団の1%未満、または3)流体1ミリリットル当たり百万細胞未難である場合に、希少であるとみなすことができる。
【0168】
ある特定の実施形態において、生体適合性および放射線吸収性ポリマーの壁内で少なくとも部分的に画定される流路を備えるデバイスは、生物学的存在を蓄積するために使用され得る。流路は、さらに、電気泳動、電気クロマトグラフィー、クロマトグラフィー、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)、濾過、表面選択的捕捉(選択的抗体−タンパク質捕捉、DNAハイブリダイゼーション、酵素結合免疫測定法(ELISA)を含む)、DNA増幅、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、サザンブロット分析、細胞培養、増殖アッセイ、もしくはその他のアッセイ、またはそれらの組合せのために使用され得る。さらなる実施形態において、デバイスは、臨床診断に使用され得る。
【0169】
ある特定の実施形態において、ポリウレタン−メタクリレート(PMMA)の壁内で少なくとも部分的に画定される流路を備えるデバイスは、生物学的存在を蓄積するために使用され得る。流路は、電気泳動、電気クロマトグラフィー、クロマトグラフィー、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)、濾過、表面選択的捕捉(選択的抗体−タンパク質捕捉、DNAハイブリダイゼーション、酵素結合免疫測定法(ELISA)を含む)、DNA増幅、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、サザンブロット分析、細胞培養、増殖アッセイ、もしくはその他のアッセイ、またはそれらの組合せのために使用され得る。さらなる実施形態において、デバイスは、臨床診断に使用され得る。
【0170】
ある特定の実施形態において、生物学的存在を蓄積するためのデバイスは、生体適合性および放射線吸収性ポリマーの壁内で少なくとも部分的に画定される流路を備え、流路を画定する壁の少なくとも1つは、抗体で被覆される。
【0171】
表面選択的捕捉のための抗体の例には、pan−サイトケラチン抗体A45B/B3、AE1/AE3、もしくはCAM5.2(サイトケラチン8(CK8)、サイトケラチン18(CK18)、もしくはサイトケラチン19(CK19)を認識するpan−サイトケラチン抗体および乳癌抗原NY−BR−1に対するもの(B726P、ANKRD30A、アンキリン反復ドメイン30Aとしても知られる);B305DアイソフォームAもしくはC(B305D−A ro B305D−C;抗原B305Dとしても知られる);Hermes抗原(抗原CD44、PGP1としても知られる);E−カドヘリン(ウボモルリン、カドヘリン−1、CDH1としても知られる);癌胎児抗原(CEA;CEACAM5もしくは癌胎児抗原関連細胞接着分子5としても知られる);β−ヒト絨毛性腺刺激ホルモン(β−HCG;CGB、慢性性腺刺激ホルモン、βポリペプチドとしても知られる);カテプシン−D(CTSDとしても知られる);神経ペプチドY受容体Y3(NPY3Rとしても知られる;リポ多糖体関連タンパク質3、LAP3、融合;ケモカイン(CXCモチーフ、受容体4);CXCR4);腫瘍遺伝子ERBBl(c−erbB−1、上皮成長因子受容体、EGFRとしても知られる);Her−2Neu(c−erbB−2もしくはERBB2としても知られる);GABA受容体A、パイ(π)ポリペプチド(GABARAP、GABA−A受容体、パイ(π)ポリペプチド(GABA A(π)、γ−アミノ酪酸型A受容体パイ(π)サブユニットとしても知られる)、もしくはGABRP);ppGalNac−T(6)(β−1−4−N−アセチル−ガラクトサミニル−トランスフェラーゼ6、GalNAcトランスフェラーゼ6、GaINAcT6、UDP−N−アセチル−d−ガラクトサミン:ポリペプチドN−アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ6、もしくはGALNT6としても知られる);CK7(サイトケラチン7、サルコレクチン、SCL、ケラチン7、もしくはKRT7としても知られる);CK8(サイトケラチン8、ケラチン8、もしくはKRT8としても知られる);CK18(サイトケラチン18、ケラチン18もしくはKRT18としても知られる);CK19(サイトケラチン19、ケラチン19、もしくはKRT19としても知られる);CK20(サイトケラチン20、ケラチン20、もしくはKRT20としても知られる);Mage(メラノーマ抗原ファミリーA亜型もしくはMAGE−A亜型としても知られる);Mage3(メラノーマ抗原ファミリーA3、もしくはMAGA3としても知られる);肝細胞成長因子受容体(HGFR、乳頭状腎細胞癌2、RCCP2、癌原遺伝子met、またはMETとしても知られる);ムチン−1(MUC1、癌腫抗原15.3、(CA15.3)、癌腫抗原27.29(CA27.29としても知られる);CD227抗原、エピシアリン、上皮膜抗原(EMA)、多形上皮ムチン(PEM)、ピーナツ反応性尿ムチン(PUM)、腫瘍関連糖タンパク質12(TAG12));Gross Cystic Disease Fluid Protein(GCDFP−15、プロラクチン誘発性タンパク質PIPとしても知られる);ウロキナーゼ受容体(uPR、CD87抗原、プラスミノゲン活性化因子受容体ウロキナーゼ型、PLAURとしても知られる);PTHrP(副甲状腺ホルモン関連タンパク質;PTHLHとしても知られる);BS106(B511S、小乳房上皮ムチン、もしくはSBEMとしても知られる);プロスタテイン(Prostatein)様リポフィリンB(LPB、LPHB;抗原BUlOl、分泌グロビンファミリー1−Dメンバー2、SCGB1−D2としても知られる);マンマグロビン2(MGB2;マンマグロビンB、MGBB、ラクリグロビン(Lacryglobin)(LGB)リポフィリンC(LPC、LPHC)、分泌グロビンファミリー2Aメンバー1、もしくはSCGB2A1としても知られる);マンマグロビン(MGB;マンマグロビン1、MGB1、マンマグロビンA、MGBA、分泌グロビンファミリー2Aメンバー2、もしくはSCGB2A2としても知られる);乳房セリンプロテアーゼ阻害剤(マスピン、セリン(もしくはシステイン)プロテイナーゼ阻害剤クレードB(オボアルブミン)メンバー5、もしくはSERPINB5としても知られる);前立腺上皮特異的Ets転写因子(PDEF;無菌アルファモチーフ指向性ドメイン(Sterile alpha motif pointed domain)含有ets転写因子、もしくはSPDEFとしても知られる);腫瘍関連カルシウムシグナル伝達物質1(結腸直腸癌抗原CO17−1A、上皮糖タンパク質2(EGP2)、上皮糖タンパク質40kDa(EGP40)、上皮細胞接着分子(EpCAM)、上皮特異的抗原(ESA)、胃腸腫瘍関連抗原733−2(GA733−2)、KS1/4抗原、染色体膜成分4表面マーカー1(M4S1)、MK−1抗原、MIC18抗原、TROP−1抗原、もしくはTACSTD1);テロメラーゼ逆転写酵素(テロメラーゼ触媒サブユニット、もしくはTERTとしても知られる);トレフォイル因子1(乳癌エストロゲン誘発性配列、BCEI、胃腸トレフォイルタンパク質、GTF、pS2タンパク質、もしくはTFF1としても知られる);葉酸塩;またはトレフォイル因子3(腸トレフォイル因子、ITF、p1.B;もしくはTFF3としても知られる)が含まれるが、これらに限定されない。
【0172】
一実施形態において、生物学的存在を蓄積するためのデバイスは、生体適合性および放射線吸収性ポリマーの壁内で少なくとも部分的に画定される流路を備え、生物学的存在は、細胞、細胞小器官、細菌、ウイルス、タンパク質、抗体、DNA、または生体複合粒子である。
【0173】
応用。我々のPUMAチップの開発の原動力となる1つの動機は、精密濾過における応用のための高アスペクト比スリットの高密度アレイを製造する必要性であった。図12’は、高密度充填された細胞1211(図12’A)およびビーズ1223(図12’B)が、PUMAに生成された垂直柱またはフィン1213のアレイにより保持、捕捉、および蓄積された顕微鏡画像を示す。
【0174】
応用。我々のPUMAチップの開発の原動力となる1つの動機は、精密濾過への応用のための高アスペクト比スリットの高密度アレイを製造する必要性であった。図12は、高密度充填された細胞(図12A)およびビーズ(図12B)が、PUMAに生成された垂直柱またはフィンのアレイにより保持、捕捉、および蓄積された顕微鏡画像を示す。
【0175】
特に、図12’Aは、PUMA樹脂に製造された高アスペクト比スリット1214(画像の右側)によるMCF−7癌細胞1211の保持および蓄積を示す。公称流量は0.3ml/分であり;細胞は4%パラホルムアルデヒド中で15分間固定した。図12’Bは、PUMA樹脂から作製された高アスペクト比スリット1224による15μm径ビーズ1223の保持および蓄積を示す。(A)および(B)に対し同じマイクロ流体デザインを使用したが、高アスペクト比スリット1214を備える濾過障壁1213は、マイクロチャネル1221の出口1222側に設置した。
【0176】
特に、図12(A)は、PUMA樹脂に製造された高アスペクト比スリット(画像の右側)によるMCF−7癌細胞の保持を示す。公称流量は0.3ml/分であり;細胞は4%パラホルムアルデヒド中で15分間固定した。図12(B)は、PUMA樹脂から作製された高アスペクト比スリットによる15μm径ビーズの保持を示す。(A)および(B)に対し同じマイクロ流体デザインを使用したが、高アスペクト比スリットを備える濾過障壁は、マイクロチャネルの出口側に設置した。
【0177】
一態様において、「蓄積」は、別の類似種の枯渇を必要としない。蓄積は、種の絶対数の増加を指す。第2の種に対する比の増加をもたらす第2の種の枯渇による富化は、蓄積と同じではない。例えば、最初に種Aが10、種Bが10存在し(1:1比)、最後に種Aが10、種Bが2存在する(5:1比)場合、種Aの絶対数は増加していないため、これは富化であるが蓄積ではない。
【0178】
両方の実験において、同じマイクロ流体デザインを使用したが、柱1213間の距離は8μmであり、柱1213の高さは40μmであった。図12’Aにおいては、固定された培養癌細胞1211(4%パラホルムアルデヒド中で15分間固定されたMCF−7細胞)の希釈溶液を使用し、0.3ml/minでチップに流通させた。小領域に細胞を濃縮する能力は、特に細胞が高度に希釈された濃度で存在する場合、より正確で迅速な細胞計数を可能にするため、そのようなマイクロ流体フィルタは、臨床診断用途の既存のグリッド式手動血球計を補完するように機能し得る。図12’Bにおいては、直径15μmのビーズ1223を使用した。ビーズをマイクロチャネルに充填するこの能力はまた、親和性精製(例えば、ビーズが抗体と共役した場合)またはサイズ排除クロマトグラフィー等、広範な用途を見出すことができる。そのような精密濾過に基づく全ての用途において、ただ1つのフィンの複製の欠陥が全チップの欠陥へと繋がるため、濾過素子を高収率で製造することができることが急務である。本論文は、注意を払う限り、また記載されたマイクロ加工処置に従う限り、PUMAがそのような要求の厳しいマイクロ流体システムを製造するための重要な特性を有することを示す。
【0179】
両方の実験において、同じマイクロ流体デザインを使用したが、柱間の距離は8μmであり、柱の高さは40μmであった。図12Aにおいては、固定された培養癌細胞(4%パラホルムアルデヒド中で15分間固定されたMCF−7細胞)の希釈溶液を使用し、0.3ml/minでチップに流通させた。小領域に細胞を濃縮する能力により、特に細胞が高度に希釈された濃度で存在する場合、より正確で迅速な細胞計数が可能となるため、そのようなマイクロ流体フィルタは、臨床診断用途の既存のグリッド式手動血球計を補完するように機能し得る。図12Bにおいては、直径15μmのビーズを使用した。ビーズをマイクロチャネルに充填するこの能力はまた、親和性精製(例えば、ビーズが抗体と共役した場合)またはサイズ排除クロマトグラフィー等、広範な用途を見出すことができる。そのような精密濾過に基づく全ての用途において、ただ1つのフィンの複製の欠陥が全チップの欠陥へとつながるため、濾過素子を高収率で製造することができることが急務である。本論文は、注意を払う限り、また記載されたマイクロ加工処置に従う限り、PUMAがそのような要求の厳しいマイクロ流体システムを製造するための重要な特性を有することを示す。
【0180】
結論として、PUMAは、臨床診断用途のマイクロ流体チップの商業生産において極めて有望な基板である。PUMAは非弾性基板であるため、型解放中、または封入されたマイクロ流体デバイスを形成するための接合中は、高アスペクト比のマイクロ構造への損傷を避けるように特に注意が必要である。PUMA樹脂の紫外線硬化プロセスは極めて堅牢であるが、不適切な解放または接合は、チップ収率を大きく低減し得る。我々は、マイクロ構造でのせん断面における運動を最小化する解放引張器を使用することにより、我々の精密濾過チップにおいて使用されるもの等の高密度アレイにおいても、高アスペクト比のマイクロ構造を完璧に複製することができることを示した。コンフォーマルな密着中の過度の圧縮力を回避するため、真空包装機を使用してPUMA複製とチップの底面との間の空気を除去しながら、収縮する真空バッグを利用して、穏やかながら均一な圧縮力を作用させるべきである。コンフォーマルな密着が確立されたら、チップをさらに硬化および加熱するための紫外線ランプの使用、高収率および強固な接合を提供するプロセスを含む、様々な接合方式を使用して、このコンフォーマルな密着を恒久的な接合に変換することができる。高アスペクト比のマイクロ構造を複製するPUMAの能力は、広範な分析用途における使用が見出されるはずであり、PUMAは、使い捨てマイクロ流体デバイス、特に臨床的環境において使用されるものの製造において、既存の基板を補完すると考えられる。
【0181】
全ての目的において参照によりその全内容が本明細書に組み込まれる2つの記事のコピーを、別紙AおよびBとして本明細書に添付する。本発明の実施形態に従い使用するための材料の一例の製品シートを、別紙Cとして本明細書に添付する。
【0182】
技術の様々な実施形態を上に記載した。上で説明された詳細は、当業者が開示された実施形態を作製および使用することができるように十分な様式で実施形態を説明するために提供されることが理解される。しかしながら、詳細および利点のいくつかは、いくつかの実施形態の実践には必要でない可能性がある。さらに、様々な実施形態の関連した説明を不必要に不明瞭化することを避けるために、いくつかの周知の構造または機能は、詳細には示されていない、または説明されていない可能性がある。いくつかの実施形態は特許請求の範囲内であり得るが、図面に関連して詳細に説明されていない可能性がある。さらに、様々な実施形態の特徴、構造、または特性は、任意の好適な様式で組み合わされている可能性がある。さらに、上述のものに類似した機能を実行するために使用することができる他の技術が多く存在し、したがって特許請求の範囲は、本明細書に記載されるデバイスまたは方法に限定されるべきではないことが、当業者には理解される。いくつかのプロセスは所定の順番で記載されているが、代替の実施形態は、異なる順番のステップを有する方法を実行してもよく、いくつかのプロセスは、削除、移動、追加、分割、結合、および/または修正され得る。したがって、これらの方法はそれぞれ、様々な異なる様式で実行され得る。また、いくつかの方法は、連続的に行われるように示されている時があるが、これらの方法は、代わりに並行して行われてもよく、または異なる時間に行われてもよい。本明細書に記載される見出しは、利便性のみを目的とし、特許請求の範囲または意味を説明するものではない。
【0183】
説明において使用される用語は、特定された実施形態の詳細な説明に関連して使用されているとしても、その最も広い妥当な様式で解釈されることを意図する。
【0184】
明らかに文脈により異なる意味が求められない限り、説明および特許請求の範囲全体にわたり、「備える」、「備えている」等の単語は、排他的または網羅的な意味ではなく、包含的な意味で、つまり「含むが限定されない」という意味で解釈されるものとする。単数または複数を使用した単語はまた、それぞれ、複数または単数を含む。請求項が2つ以上の項目のリストに関連して「または」という単語を使用する場合、この単語は、単語の以下の解釈の全てを包含する:リスト中の項目のいずれか、リスト中の項目の全て、およびリスト中の項目の任意の組合せ。
【0185】
付随する出願用紙にリストされ得る任意の書類を含め、いかなる特許、出願およびその他の参考文献も、参照することにより本明細書に組み込まれる。説明された技術の態様は、必要に応じて、さらなる実施形態を提供するために、上述した様々な参考文献のシステム、機能、および概念を使用するように変更され得る。
【0186】
これらの変更および他の変更は、上記の発明を実施するための形態に照らして行うことができる。上記説明は、ある特定の実施形態を詳説し、企図される最良の形態を説明しているが、いかに詳細であっても、様々な変更を行うことができる。実施の詳細は著しく変動し得るが、それでも本明細書に開示される技術に包含される。上述のように、技術のある特定の特徴または態様を説明する際に使用される特定の用語は、その用語が、本明細書において、その用語が関連する技術の任意の具体的特性、特徴、または態様に制限されるように再定義されていることを暗示するように解釈されるべきではない。一般に、以下の特許請求の範囲において使用される用語は、上記の発明を実施するための形態の項が明示的にそのような用語を定義していない限り、特許請求の範囲を明細書に開示される具体的実施形態に限定するように解釈されるべきではない。したがって、実際の特許請求の範囲は、開示された実施形態だけでなく、全ての等価物もまた包含する。

付属書類A

使い捨てマイクロ流体デバイス製造のための新たなUSPクラスVl準拠基板

Jason S.Kuo、Laiying Ng、Gloria S.Yen、Robert M.Lorenz、Perry G.Schiro、J.Scott Edgar、Yongxi Zhao、David S.W.Lim、Peter B.Allen、Gavin D.M.Jeffries、およびDaniel T.Chiu

ワシントン大学化学部、Seattle、WA 98195−1700

連絡先:
Email:chiu@chem.washington.edu
Fax:+1 206 685 8665
Tel:+1 206 543 1655
受領日

(緒言)
臨床診断における使用のためのマイクロ流体デバイスは、医学的用途の材料の要求に適合すると同時に完全に使い捨てとなり得るように、いかにしてこれらのデバイスを経済的に生産するかという商業化への課題に常に直面している。大部分はケイ素またはガラス基板上1−8に開発されている第1世代のマイクロ流体デバイスは、半導体加工ツールに大きく依存している。これらの基板に対する加工に必要な高額の資本投資のため、ケイ素またはガラスベースのデバイスは、使い捨てとすることに十分安価に販売することができなかった。
【0187】
1990年代後半、ポリマーベースのラピッドプロトタイピング(例えば、成形またはエンボス加工)が、マイクロ流体デバイスの第2世代へとつながった9−21。最も顕著には、ポリジメチルシロキサン(PDMS)が、ラピッドプロトタイピング複合マイクロ流体システムにおける非常に有望なポリマー基板材料となった22−25。その複製の混合−鋳造−焼成法は、迅速で、極めて一貫性を有し、そして単純である。ラピッドプロトタイピングにおいて便利である程、PDMSは全てのマイクロ流体用途に対し普遍的な材料ではない26。その弾性的性質は空気弁にとっては重要であるが、この同じ特性により、高流体圧に曝されると膨張しやすく、または高アスペクト比の特徴もしくは低アスペクト比のチャネルが関与すると崩壊しやすくなる。また、PDMSの恒久的表面改質では、その表面が疎水性の状態に再び戻る傾向が高いため、課題が残されている27−29
【0188】
最近、マイクロ流体デバイスの第3の波が最善のPDMS複製戦略となっており、ある種の用途における基板としてのPDMSの欠点のいくつかに対応している26,30−38。生産速度を増加させるために、熱硬化の代わりに紫外線硬化が次第に好ましくなっている。Fioriniら26,38は、PDMSを補完する基板材料として、紫外線硬化された熱硬化性ポリマー(TPE)を探求した。Norland6339、またはポリアクリレートの特性ブレンド40等の市販の光学接着剤の紫外線硬化が提案されているが、常に樹脂または光開始剤の選択に起因して、妥当な時間内に薄層(約100μm)しか硬化することができない。この問題に対応するため、Fioriniら26は、紫外線硬化後の熱硬化を使用して、典型的な厚さのマイクロ流体チップを製造した。さらに、これらの基板材料は、医学用途に対して評価されておらず、樹脂分解、反応性、溶媒残渣、または架橋副生成物に関してはほとんど知られていない。
【0189】
マイクロ流体デバイスの臨床用途への応用に対する関心が増大するとともに、製造上経済的であり、かつ規制認可に適合し得る基板材料を開発することが重要である。本論文は、マイクロ流体デバイス製造のための新材料として、ポリウレタン−メタクリレート(PUMA)基板を紹介するが、これは、供給業者により、米国薬局方(USP)クラスVI準拠として認定されている。USPクラスVI材料は、全身注射試験、皮内試験、および移植試験により試験され、生体適合性および非毒性であることが証明されている41。PUMAマイクロ流体デバイスの物理的、光学的、および化学的、ならびに動電学的特性の特性決定とともに、我々は、マイクロ構造の2つの極めて強固な複製プロセスも報告するが、これらは、現在他のプロトタイピング法を利用している研究者がこの新たな基板の使用から利益が得られるように、既存の複製マスター(例えば、ケイ素上のSU−8フォトレジストまたはケイ素)に適合する。
【0190】
(材料および方法)
光学的測定。紫外線硬化性PUMA樹脂(140−M Medical/Optical Adhesive、Dymax Corporation製)をPDMS型に注ぎ込むことにより、PUMA基板(25mm(W)×75mm(L)×2mm(H))を鋳造した。架橋反応の酸素阻害を防止するために、剥離可能なセロファンの界面シートを有する透明ポリプロピレンシート(厚さ8ミル)で樹脂の頂面を被覆した。樹脂および型を高強度紫外線源(ADAC Cure Zone 2 UV Flood Light Source、400W金属ハライドランプを装着、365nmで公称80mW/cmを供給)に1分間暴露させ、次いで裏返してさらに1分間暴露させた。次いで、硬化したPUMA基板を型から解放した。
【0191】
熱硬化性ポリエステル(TPE)片を、Polylite32030−10樹脂(Reichhold Company製、NC)を使用して上述したように調製した10,26,38
【0192】
1nm分解能のUV−VIS分光光度計(Beckman Coulter社製、DU720)を使用して、光透過スペクトルを収集した。TPE、PUMA、およびPDMSの試料は全て厚さ2mmであったが、ガラス基板は厚さ1mmであった。各材料に対して3つのスペクトルを収集し、平均化した。
【0193】
Nikon TE−2000本体をベースとした特別設計の共焦点顕微鏡を使用して、各材料からの自己蛍光を収集した。固体ダイオード励起488nmレーザ(Coherent Sapphire、Santa Clara、CA、USA)およびHeNe 633nmレーザからのレーザ励起を、100×対物の背面口径に結合した(N.A.1.4)。蛍光は、アバランシェフォトダイオード(SPCM−AQR−14、Perkin Elmer社製、Fremont、CA、USA)により収集した。各材料からの蛍光は、緑色波長範囲(510〜565nm) および赤色波長領域(660〜710nm)の両方において、3回収集した。
【0194】
接触角測定。前項に記載した処置と同じ処置を使用して、PUMAスラブ(25mm(W)×75mm(L)×3mm(H))を調製した。増加したスラブ厚を補うために、紫外線硬化時間を80秒に延長し、続いてPDMS型を裏返してさらに40秒間型を通して暴露させた。表面上のプラズマ酸化の効果を決定するために、3つのPUMAスラブをプラズマチャンバ(PDC−001、Harrick Scientific Corp製、Ossining、NY)内で酸素プラズマに6分間供した(公称O圧力200mtorrで29.6WがRFコイルに印加された)。プラズマ酸化後の疎水性の回復を特性決定するために、これらの酸化PUMA基板をガラス瓶内に封入し、炉内で75℃で2日間焼成した。
【0195】
接触角を測定するために、静的液適法を使用し、周囲温度でPUMA基板上の1−μL MilliQ水滴の側面輪郭をCCDカメラで撮影した。水−PUMA界面と水−空気界面との間の静的接触角は、ImageJソフトウェアのDrop Analysisプラグインを使用して測定した。硬化PDMS上の接触角もまた、文献値との比較のために測定した。最低3回の測定を行った。
【0196】
溶媒適合性。小型の円形貯蔵部(6mm(D)×3mm(H))を有するPDMS型内にPUMA樹脂を鋳造し、紫外線下で硬化させることにより、小型のPUMAディスクを作製した。マイクロ流体用途において一般的に使用される20の異なる化学物質中に、ディスクを室温で24時間含浸した。実験の際簿にディスクの円形領域における変化を観察することにより、適合性を決定した。3回の試料を収集し、結果を平均化した。立体鏡下でCCDカメラを使用して各ディスクの頂面画像を撮像し、ImageJ処理ソフトウェアを使用して円形領域を測定した。
【0197】
検討される化学物質は、水性または有機溶媒、酸、塩基、および染料を含む。染料(Rhodamine B)の浸透を観察するために、Nikon AZ100顕微鏡によって533nm励起下においてPUMAディスクの蛍光画像を得た。
【0198】
電気浸透流。EOFを測定するためのマイクロ流体チャネルは、チャネルの両端に3mm(D)液体貯蔵部を有する直線チャネル(50μm(H)×50μm(W)×3cm(L))であった。電気回路および全流検出要素は、前記電流監視方法に従う42,43。負極性プログラム可能2kV DC電源(Stanford PS350)を、カソード貯蔵部内に含浸したPt電極に接続した。アノード貯蔵部内に含浸した第2の電極をKeithly6485ピコ電流計と直列に100kΩ抵抗に接続した。ピコ電流計により読み出された電流は、次いで、高電圧電源の出力も制御する特製のLab Viewプログラムを使用するコンピュータにより記録された。ホウ酸ナトリウム溶液(10mMおよび20mM)を、緩衝液として使用した。溶液は、不慮の気泡の生成を低減するために、使用直前に超音波照射した。ゴム球で吸い上げることによりPUMAチャネルを充填し、次いで貯蔵部を排気して60μLのホウ酸塩溶液で再充填した。
【0199】
電気浸透移動度に対するチップの経過時間の効果を検討するために、3回の別個の生成運転から複数のチップを調製し、次いで単純に周囲条件下においてペトリ皿内に保存した。保存前、チャネルは乾燥しており、EOF測定の直前にのみ緩衝液で充填した。各チップは、1日のみ使用した(すなわち後日EOF測定に再利用しなかった)。
【0200】
(結果および考察)
一般的な物理的特性。PDMS、TPE、およびPUMAの主要な物理的および表面特性は、表1に要約される。Dymax140−M樹脂ベースのようなPUMAは、PDMS(Dow Corning社製Sylgard184)に匹敵する粘度を有し、したがってPDMSが可能な程微細な特徴を複製することが期待される。PDMSよりも極めて硬い硬化したPUMA樹脂は、高アスペクト比のマイクロ構造を生成することにより好適である。PUMAは硬化すると熱可塑性であり、供給業者によるその定格使用温度は−55℃から200℃の間であるが、我々は、>75℃である程度の軟化を認め、これを利用して接合することができる。PDMSに類似して(ただしTPEとは異なり)、PUMAは臭気が非常に低く、特別な換気下で取り扱う必要がない。
【0201】
特徴の複製。図1は、微細特徴をPUMA基板上に複製するために使用される2つの処置を示し、左側は、PDMSチャネルの生成を目的とするSU−8マスターからのステップを示し、一方右側は、深堀反応性イオンエッチング(DRIE)されたケイ素マスターからのステップを示す。
【0202】
図1の左側に従い、レリーフ特徴を有するSU−8マスターを使用してPDMSインプリント(すなわち、レリーフに対し反対の極性)を生成した。このPDMSインプリントをプラズマ中で酸化し、次いで、真空デシケータ内で(トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル)トリクロロシランでシラン化したが、このプロセスは、すでに形成されているPDMSインプリントに硬化直後のPDMSが付着するをこと防止した。追加のPDMSをシラン化インプリントの上に注ぎ、75℃で少なくとも2時間硬化させ、インプリントから慎重に分離することにより、PDMS複製(すなわち、SU−8マスターと同じ極性)を生成した。次いで、(SU−8マスターの)PDMS複製を、PUMA樹脂の型として使用した。各複製間の清浄化により(以下でより詳説される)、PDMS「マスター」は、複数回使用することができた。このPDMS上のPDMSの複製は、PUMAがSU−8から良好に解放されないため必要であった。SU−8マスターが正しい極性を有する場合は、1つのPDMS複製のみで十分である。我々は、PDMS複製に使用される既存のSU−8マスターを使用してPUMAデバイスを作製することができるように、この処置を記載する。
【0203】
正しいPDMS型が得られた後、PUMA樹脂を3mmの厚さまでPDMS型に施し、次いで、架橋反応の酸素阻害を防止するために、透明ポリプロピレン裏地(厚さ8ミル)に貼られたセロファンのシートで被覆した。重要な用途においては、セロファンの代わりに、可塑剤を含有しないポリクロロ−トリフルオロエチレン(PCTFE)ポリマーであるAclarシート(Honeywell社製、Morristown、NJ)を使用することができる。流体貯蔵部または外部接続用の穴を形成するために、PTFEポスト(3mm(D)×3mm(H))を、硬化前にPUMA樹脂に埋め込んだ。アセンブリ全体を、紫外線源に80秒置き(樹脂側からの暴露)、続いてさらに40秒置いた(型側からの暴露)。型から解放されたら、PUMA基板を、弱い機械的圧力を使用することにより別のPUMA被覆(硬化)ガラスにコンフォーマルに接合した。PUMAチップを紫外線フラッド源下にさらに10分間置くことにより、このコンフォーマルな接合を恒久的接合に変換した。
【0204】
各複製間に、PDMS型を、イソプロパノールおよび水の中で超音波照射し、75℃で少なくとも15分間焼成した。
【0205】
高アスペクト比の特徴を複製するために、PUMA鋳造用の型は、図1の右側に記載されるように、DRIE−Siマスター上に鋳造されたPDMSインプリントであった。この手法は、傾倒しやすい、または崩壊しやすい高アスペクト比のレリーフ特徴をPDMSに生成する必要性を排除する。さらに、図1の左側の第2のステップに記載されるように、マイクロ構造のアスペクト比が増加すると、PDMSの2つの互いに噛み合った部分は、分離中に極めて断裂しやすい。
【0206】
流体貯蔵部または相互接続用の穴を形成するためには、我々は、PTFEポストの埋没が単純な処置であることを見出した。PUMAは熱可塑性であるため、レーザ切断もまた、流体貯蔵部または相互接続穴を形成する上で効果的な方法である。穿孔は壁に大量の屑を生成し、接触点において基板の屈曲をもたらしたため、穿孔は推奨されない。
【0207】
複製忠実度。紫外線硬化プロセスにおける主な課題は、鋳造物の厚さに応じた紫外線量の制御である。紫外光は、樹脂を貫通するに従い減衰するため、樹脂の頂部が最初に硬化する。これにより、樹脂の頂部が過度に硬化し(硬すぎる)、一方PDMS型と接触した界面、特に微細特徴は、未硬化のままとなる。困難を悪化させることには、PUMAの架橋反応が、PDMSによりやや阻害される。弾性シリコーンは優れた型解放特性を有するが、過度の紫外線硬化は、樹脂と型との間の恒久的接合をもたらした。したがって、最適な紫外線暴露の時間枠が存在し、暴露は、樹脂の上から、および透明な型を通して、両方で行う必要がある。この枠は、各紫外線暴露源に対し、個々に綿密に設定しなければならない。時間枠が手作業により正確に従うには短すぎる場合、光子束を減少させることによって、例えば、より低い強度の光源を使用することによって、または強度を減衰させるために樹脂の上にガラス板を置くことによって、より許容差を与えることができる。
【0208】
図2Aは、シラン化PDMSインプリントのSEM画像を示し、図2Bは、対応するPUMA複製(インプリントと同じ極性)を示す。このPUMA複製は、図1の左側に従い記載される2段階PDMS転写法を使用して生成した。複製忠実度は、図2Bの挿入図に示されるように、約2μmまでと良好であった。PDMSインプリントのSEM画像は著しい表面割れを示していることが分かり、これらの割れは肉眼で視認できるほど十分長かったが、非常に微細で表面的であるようであった。プラズマ衝撃に供されたPDMSのSEM画像においては、酸素プラズマによる、またはSEM試料調製中のAu/Pd薄膜被覆のスパッタリングによるこの表面割れの挙動が、一貫して観察された44。ほとんどの場合、これらの表面割れは、PUMA複製においては見られなかった。
【0209】
図3は、PUMAに複製されたマイクロ構造のさらなるSEM画像を示す。図3Aは、頸部が幅4μmの高さ2μmのマイクロチャネル狭窄部のPUMA複製を示す。SEM画像において観察され得るように、チャネルのテーパの細部が良好に維持されていた。図3Bは、2層構造であり、2つの直交するチャネルは異なる高さであり、水平チャネルは3μm(W)×3μm(H)であり、一方垂直チャネルは10μm(W)×10μm(H)であった。2層構造は、型解放ステップにおいていかなる問題もなかった。
【0210】
図3Cは、PUMAに複製された、異なる幅の交互する中実壁および間隔からなる試験パターンのSEM画像を示す。図3Aおよび3Bに示される複製とは異なり、図3Cにおける複製は、図1に概説される処置の右側、すなわちDRIEエッチングされたSiマスターを起点とする複製プロセスに従うことにより得られた。この試験パターンは、(1)紫外線架橋が、特徴の密度の関数として不均一である可能性があるかどうか、および(2)高密度特徴が、型解放による損傷をより受け易い可能性があるかどうかを試験するために開発された。マイクロ構造の高さは約40μmであった。図3Dは、図3Cの下半分の柱の横からの図であり、これらの密集した柱は、明確な直立した側壁を有し、傾倒や広がりの形跡はなかった。この場合に達成されたアスペクト比(H/W)は、約3.5であった。
【0211】
接触角。文献値との比較のために、我々の設定で測定された未処理PDMS上の水の接触角は102°であり、これはHillborgらにより報告値と一致している45。紫外線硬化PUMA基板は72°の接触角を有していたが、これはPDMSと比較して大幅により親水性である。この値は、この樹脂の主成分であるポリウレタンの報告値46に非常に近い。酸素プラズマによる処理は、PUMAの接触角をさらに53°まで低減させたが、これはまた酸化ポリウレタンの値46と一致している。接触角のプラズマによる低下は焼成により逆転し、接触角は75°に戻ったが、これは未処理PUMA基板との統計的な一致の範囲内である。
【0212】
光学特性。硬化したPUMAは光学的に透明であり、1.504の屈折率を有する。図4Aは、200〜1000nmにわたるPUMAを通した光透過性を、TPE、PDMS、およびガラスの光透過性とともにプロットしたものである。PUMAは、可視範囲においてガラスと同様の光学的透明度を有するが、架橋用の紫外線光開始剤が存在するため、当然ながら紫外線範囲において鋭い吸収が予測される。したがって、PUMAは、TPE同様、紫外線吸収用途には特に好適ではない。
【0213】
図4Bは、488nmおよび633nm励起下でのポリマー基板による自己蛍光性を示す。3つ全てのポリマー基板の自己蛍光レベルは、他のプラスチック材料における観察47と一致して経時的に減衰した。図4Bの挿入図は、PDMS、PUMA、およびTPEの最大自己蛍光レベルを比較したものであり、PUMAはTPEよりも低い自己蛍光性を示したが、PDMSより高い自己蛍光性を示した。この自己蛍光性のレベルは、蛍光検出が関連するほとんどの用途に好適である。しかしながら、高感度単一分子研究においては、基板からのバックグラウンド信号を効率的に排除することができる共焦点検出構成を使用すべきである。
【0214】
溶媒適合性。表2は、各化学物質中でのPUMAディスクの観察された膨潤比を一覧にしたものである。PUMAは、染料、酸、塩基、水、ホルムアルデヒド、鉱物油、シリコーン油、フロリナート、およびパーフルオロデカリンに対し非常に耐性であることが判明した。純度100%のほとんどの有機溶媒は膨潤を引き起こしたが、PUMAは、アセトンおよびアセトニトリルに対して、TPEの膨潤比26よりも低い膨潤比を有していた。メタノールおよびエタノール等の低分子量アルコールに対しては、PUMAは、約1.1の膨潤比を有していたポリウレタン単独46と比較してより膨潤したようであることが分かる。
【0215】
図5は、含浸の効果を例示するために、様々な有機化合物および染料中で24時間含浸した後のPUMAディスクの選択された画像を示す。水と混合しない油は、PUMAディスクに影響しなかった(図5A)。我々はまた、鉱物油、フロリナート、およびパーフルオロデカリン中で試料を90℃まで加熱することによりPUMAの追加試験を行ったが、円の領域における明確な変化または分解は観察されなかった。この事実により、PUMAは、これらの油の多くを使用する液滴マイクロ流体工学における新たな用途に適合するはずである。一方、アルコール、ヘプタン、DMSO、および、特にテトラヒドロフラン中では、著しい膨潤が観察され、大きな亀裂が観察された(図5B)。いくつかの溶媒に対しては、均一な膨張を引き起こさず、いくつかのディスクは、含浸の結果、中心に陥凹部を形成した(図5C、イソプロパノールの場合)。これは、浸透速度がより緩やかであるために、24時間後でもディスクの中心部はほぼ影響されずに残ることに起因するものと思われる。
【0216】
染料の浸透は、25μMのRhodamine B(図5D)に含浸したPUMAディスクに観察されたが、フルオレセインには観察されなかった。Rhodamine Bによる染料の浸透は残念であるが、Rhodamine Bはほとんどのポリマー材料に浸透することが知られているため、予想されることである。
【0217】
電気浸透流。図6Aは、EOF実験の電気回路を示す。未処理PUMAは、非常に強い電気浸透移動度を示し、EOFはカソードに向かって移動するが、これはPDMS、ガラス、およびTPEの場合と同じ方向である。これは、未処理PUMA表面もまた、使用した緩衝環境下において負電荷を示すことを示唆している。ホウ酸塩緩衝液中、PUMAの電気浸透移動度veofは5.5×10−4 cm−1sec−1であったが、これは石英ガラスキャピラリの場合に極めて匹敵するものであり、図6Bの挿入図は、電気浸透移動度測定の統計分布を示す。この値は、文献に報告されている熱硬化ポリウレタンの値46よりも約2倍高い。図6Bは、アノード貯蔵部を20mMホウ酸塩緩衝液と置き換えた場合に電流が安定化した様子を示している。EOFがアノード貯蔵部内の20mM緩衝溶液を駆動して以前チャネル内にあった10mM緩衝液を押し出すと、イオン強度が増加し、チャネル全体が20mM緩衝液で充填されるまで電流の増加をもたらした。電場が200V/cmから667V/cm(我々の電源からの最大出力)に増加すると、新たな定常状態に達する時間が予測通り減少した。我々が印加した電場の範囲内で、ジュール加熱は全く認められなかった。図6Cは、印加電場の関数としての、10mMおよび20mMホウ酸塩緩衝液を使用して測定された電流をプロットしたものである。667V/cmまでは、これらの関係は線形であり、ジュール加熱によるイオン伝導率の変化は示さなかった。
【0218】
PDMSまたはTPEとは異なり、PUMA表面は、高EOFを達成するために酸化する必要はなく、さらに、電気浸透移動度は、製造後著しく安定であった。図6Dは、製造後の異なる日数で測定した電気浸透移動度を示し、1回のみの生成運転からのサンプリングに関連したシステムのサンプリング誤差を回避するために、3回の生成運転から選択された様々な日数の異なるチップを各測定に使用した。図6Dに示されるように、平均(水平線)は、12日まではチップの日数に対して不変であった。しかしながら、チップが古くなるにつれて測定を妨害する気泡の頻度の増加が認められた。この観察の正確な原因は不明であるが、我々は、使用前に全ての溶液に超音波照射し、視認可能ないかなる泡も顕微鏡検査下で吸い出すことにより、一般的な気泡源を排除するように細心の注意を払った。我々は、窒素または真空下でのPUMAチップの保存が、おそらくは泡生成の発生を低減することに役立つ可能性があると推察する。
【0219】
(結論)
PUMAは、臨床的状況における使い捨ての使用のためのマイクロ流体デバイス製造用の極めて有望な材料である。原材料がすでにUSPクラスVI準拠であることが認められているため、その化学的不活性、使用温度、生体適合性、および滅菌可能性は良く特性決定されており、この材料から製造されたデバイスは、規制認可に適合することが推定され得る。本論文は、高密度および高アスペクト比であっても高い忠実度のマイクロ構造複製を提供する、細かく調整された生成プロセスを報告した。この生成プロセスは、Si上SU−8マスターまたはDRIEエッチングされたSiマスターから製造された既存のPDMS型をベースとし得る。PUMAは、可視領域において光学的透明度を提供し、非弾性である。その表面特性は、PDMSと比較して極めて安定である。ほとんどがポリウレタンで構成されるPUMAの表面は、ポリウレタンと同様の生物付着耐性を有すると推定される。熱硬化に必要とされる数時間ではなく、数分(我々の処置では<2分であり、連続生成中の紫外線量の正確な計測には、コンベヤベルト上に紫外線源を装着してもよい)の時間を要する紫外線硬化プロセスは、より高い生成処理量に直結すると推測され、これは、使い捨てマイクロ流体デバイスの製造コストの低減に必要である。さらに、PUMAは熱可塑性であるため、封入されたマイクロ流体デバイスを形成するための接合が容易で強固であり、今回、我々は、コンフォーマルに密着したチップを、長期間紫外線源下に置いただけであった。超音波溶接、急勾配赤外線加熱炉(例えば、回路基板修復における半田のリフローにしばしば使用される)、または他の商業的な非溶媒結合手法は、品質管理において追加的な利点を提供し得る。これらの特性により、PUMAは、使い捨てマイクロ流体ベースの診断デバイスの製造における有用な基板であることが期待される。
【0220】
(謝辞)
本研究に対するLife Sciences Discovery Fund(LSDF)、National Institutes of Health(EB005197)、およびKeck Foundationの支援に感謝の意を表します。
【0221】
(図面の説明)
図1.SU−8マスター(左側)から、および深堀反応性イオンエッチング(DRIE)により製造されたケイ素マスター(右側)から複製することによりPUMAチップを生成するための処置。
【0222】
図2.(A)シラン化PDMSインプリントおよび(B)対応するPUMA複製のSEM画像。挿入図:より高倍でのデザインの微細構造。
【0223】
図3.様々なPUMA複製のSEM画像。(A)2μm(H)×4μm(W)の狭窄部。(B)2層チャネル構造(水平チャネル:3μm(W)×3μm(H);垂直チャネル:10μm(W)×10μm(H))。(C)異なる幅の中実壁および周期的な間隔の柱からなる試験パターン。(D)(C)に示される高アスペクト比の柱の側面図。
【0224】
図4.(A)PUMA、PDMS、ガラス、およびTPEの光透過特性。(B)TPE、PUMA、およびPDMSの緑色蛍光(実線;510〜565nm、λexcitation=488nm)および赤色蛍光(点線;660〜711nm、λexcitation=633nm)強度。挿入図:各ポリマーの最大(初期)自己蛍光。
【0225】
図5.(A)パーフルオロデカリン、(B)テトラヒドロフラン、(C)イソプロパノール、および(D)25μM Rhodamine B中に24時間含浸したPUMAディスク(533nm励起での蛍光画像)。
【0226】
図6.PUMA基板の界面動電特性。(A)EOF測定に使用した回路の回路図。(1:−2kV Standford PS350電源;2:ホウ酸塩緩衝液を充填した50μm(H)×50μm(W)×3cm(L)チャネルを有するPUMAチップ;3:100kΩ抵抗、4:Keithley6485ピコ電流計;5:データ取得用PC)。(B)動電駆動流下での電流トレース。挿入図:veof測定の統計分布;N=68。(C)印加電場の関数としての電流トレース。(D)接合後のPUMAチップの経過日数の関数としてのveof
【0227】
(表の説明)
表1.PDMS、TPE、およびPUMAの物理的特性。
【0228】
製造業者から入手可能なより高粘度のバージョン。
【0229】
>5分のOプラズマ後。
【0230】
プラズマ処理後75℃で2日間焼成された。
【0231】
表2.様々な溶媒中で24時間含浸した後のPUMAディスクの面積比。
(参考文献)
【0232】
【表3−1】

【0233】
【表3−2】

【0234】
【表4】

【0235】
【表5】

【0236】
【表6】

【0237】
【表7】

【0238】
【表8】

【0239】
【表9】

【0240】
【表10】

【0241】
【表11】

付属書類B

ポリウレタン−メタクリレート(PUMA)使い捨てマイクロ流体デバイスに高アスペクト比構造を製造するための最適化された方法

Jason S.Kuo、Yongxi Zhao、Laiying Ng、Gloria S.Yen、Robert M.Lorenz、David S.W.Lim、およびDaniel T.Chiu

ワシントン大学化学部、Seattle、WA 98195−1700 USA

連絡先:
Email:chiu@chem.washington.edu
Fax:+1 206 685 8665
Tel:+1 206 543 1655
(要約)
我々は最近、臨床診断用途における使い捨てマイクロ流体基板として優れた品質を有する、新たな紫外線硬化性ポリウレタン−メタクリレート(PUMA)樹脂を報告した。本論文は、特に、高密度および高アスペクト比の特徴を含有するマイクロ流体システムについて、PUMA樹脂から製造されたチップの生産歩留まりを改善するためのいくつかの戦略について検討する。具体的には、マイクロ構造でのせん断面における運動を最小化する型解放処置を説明する。また、繊細な構造を破壊し得る過度の圧縮力を回避する、PUMA基板間の密着を形成するための単純ながら拡張可能な方法を示す。最後に、PUMAマイクロ流体デバイスとの相互接続を形成するための2つの方法を詳説する。これらの製造上の改善は、高度に希釈された懸濁液からの細胞またはビーズを保持および濃縮することに好適な、密集した高アスペクト比のフィンを含有する、精密濾過デバイスを生産するために配備された。
【0242】
キーワード.ポリジメチルシロキサン、PDMS、ポリウレタン−メタクリレート、PUMA、バイオチップ、マイクロ流体、紫外線硬化、鋳造、ラピッドプロトタイピング、臨床診断。
【0243】
(緒言)
ポリジメチルシロキサン(PDMS)は、使い捨てマイクロ流体デバイスの製造用の魅力的な基板であるが、その利点のうちの主なものには、製造の容易性、および簡易なオンチップ弁形成を可能とするその弾性的性質が含まれる1−4。しかしながら、高アスペクト比レリーフ特徴または低アスペクト比マイクロチャネルの鋳造は、弾性PDMSにおいては極めて困難であり、低い剛性率に起因して、しばしばマイクロ構造が自重で屈曲する5−7か、マイクロ構造がたわんだシーリングから離断するか、または動作圧が増加すると開口が拡張する。これらの機械的完全性の問題に対応するための取り組みには、h−PDMS(「硬質」PDMS)等のより硬いマイクロ流体基板の導入8,9、および熱硬化性ポリマー(TPE)4,10またはNorland6311もしくはポリアクリレートのブレンド12を含む市販の光学接着剤の紫外線硬化が含まれる。
【0244】
我々は最近、非弾性であり、特に臨床診断用途における使い捨てマイクロ流体基板として優れた品質を有する、新たな紫外線硬化性ポリウレタン−メタクリレート(PUMA)樹脂を報告した。このPUMA基板は、光学的に透明であり、生物付着耐性であり、マイクロ流体用途において使用される多くの化学物質に適合し、典型的な厚さ(ほぼガラススライドの厚さ)まで硬化可能であり、封入されたデバイスを形成するために容易に接合可能であり、表面改質なしに石英ガラスキャピラリに匹敵する電気浸透流を生成することができる。供給業者により米国薬局方(USP)クラスVI準拠として認定されたこのPUMA樹脂は、その化学的不活性、使用温度、生体適合性、および滅菌可能性、つまり医療診断デバイス製造に必要な全ての品質について十分に試験されている。
【0245】
本論文では、PUMA樹脂の紫外線鋳造における後半のステップである型解放、接合、および外部流体送達への相互接続に焦点を置く。型解放の間、高アスペクト比のマイクロ構造は、せん断により誘引される損傷を受けやすく、一方接合の間、それらは圧縮に関係した損傷を受けやすい。これらの2つのステップ中の損失は、紫外線鋳造の収率に関与してはならず、この収率は、紫外線量および樹脂の厚さが適切に最適化されれば極めて一貫する。我々は、型解放および接合ステップをトラブルシューティングするために多大なる努力を重ね、非一貫性および複製されたマイクロ構造に対する不慮の損傷を排除するための技法を開発した。その結果、品質管理が向上し、収率が改善した。これらの技法はまた、商業規模の生成にも容易に適合させることができる。
【0246】
(実験)
ケイ素ウエハの深堀反応性イオンエッチング(DRIE)により成形マスターを調製し、これを(トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル)トリクロロシランで一晩シラン化したことを除いて、以前に説明した13ラピッドプロトタイピング処置に従いポリジメチルシロキサン(PDMS)型を調製した。PUMA樹脂(Dymax140−M、Torrington、CT)を3mmの厚さまでPDMS型に施し、次いで、架橋反応の酸素阻害を防止するために、透明ポリプロピレン裏地(厚さ8ミル)に貼られたセロファンのシートで被覆した(図1A)。重要な用途においては、セロファンの代わりに、可塑剤を含有しないポリクロロ−トリフルオロエチレン(PCTFE)ポリマーであるAclarシート(Honeywell社製、Morristown、NJ)を使用することができる。流体貯蔵部または外部接続用の穴を形成するために、PTFEポスト(3mm(D)×3mm(H))を、硬化前にPUMA樹脂に埋め込んだ。アセンブリ全体を高強度紫外線源(ADAC Cure Zone 2 UV Flood Light Source、400W金属ハライドランプを装着、365nmで公称80mW/cmを供給)に80秒間置き(樹脂側からの暴露)、続いてさらに40秒間暴露させた(型側からの暴露)。型から解放されたら、PUMA基板を、弱い機械的圧力により別のPUMA被覆(硬化)ガラスにコンフォーマルに接合した。PUMAチップを紫外線フラッド源下にさらに10分間置くことにより、このコンフォーマルな接合を恒久的接合に変換した。
【0247】
各複製間に、PDMS型を、イソプロパノールおよび水の中で超音波照射し、75℃で少なくとも15分間焼成した。
【0248】
(結果および考察)
流体相互連結。図1Bは、外部流体送達のためのPUMAチップの連結の2つの例を示す。これらの2つの連結法を用いて作製されたチップは、高体積流量(1〜10mL/min)または高流体抵抗が関与する用途に適用すると、通常最大40psiまで耐えた。図1Bの左側は、外部配管の単純な取り付けを可能にする90℃屈曲部の使用を示している。屈曲部は、厚肉ポリウレタン(PU)配管(1/8インチ外径(OD)、1/16インチ内径(ID))に挿入したが、これはせん断に対する機械的アンカーとして機能した。次いで、PU配管を、PUMA基板の1/8インチ穴(PTFEポストの埋没またはレーザ切断により形成された)に挿入し、追加の接着剤 を結合部周囲に施した。このデザインは、返し付きコネクタからの外部配管の迅速な取り外しを可能にする。
【0249】
第2のデザイン(図1Bの右側)は、1/16インチOD(またはBecton Dickinson社製PE100配管と同等の寸法)のPTFE配管とPUMAチップとの連結を示す。(1)PE表面は接着剤接合に抵抗性を有し、(2)極めて弾性の配管は長さ方向に引くと容易に破断することから、我々は、PDMSベースのマイクロ流体デバイスとの連結に一般的に使用される従来のポリエチレン(PE)配管(例えば、PE100)が、PUMAチップとうまく機能しないことに気付いた。我々が見出した最良の配管は、1/16インチODのPTFE配管である。PTFE配管に化学的に結合することはほぼ不可能であるが、これは、外表面をポリオレフィン熱収縮で被覆することにより回避することができる。次いで、PTFE配管は、1/16インチ径の穴に直接挿入して追加の樹脂で固定するか、または、せん断アンカーとしての補助PU配管(1/8インチOD)で1/8インチの穴に挿入して追加の樹脂で固定することができる。
【0250】
PDMSチップとの比較。硬化したPUMA樹脂はショア硬度D60を有し、これは弾性PDMS(Dow Corning社製Sylgard184に対してはショアA50)よりも著しく硬い。独立した機械的に脆い特徴(特に支持されていない高い垂直柱またはウィスカー)の場合、PDMSは、その低い剛性率のために製造材料として使用することはできず、特徴は、重力下で単に傾いて倒壊する。
【0251】
図2は、PUMAでは製造可能であるがPDMSでは製造可能でない特徴の一例を示す。図2Aは、PUMA樹脂における複製の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示し、複製のための試験パターンは、中実壁と交互した密集した垂直柱からなる。特徴の高さは約40μmであり、垂直柱のアスペクト比は約3.5であった。複製または解放プロセスにおいて方向における問題がある場合のトラブルシューティングの一助となるように、屈曲部がデザインに組み込まれた。図2Aにおいて明確なように、PUMAに生成された柱は、傾倒の徴候のない明確な垂直プロファイルを有していた。
【0252】
図2Bは、深堀反応性イオンエッチング(DRIE)を使用して生成されたケイ素マスターのSEM画像を示す。このマスターは、逆の極性を有し(すなわち、レリーフは陥凹部となる)、図2Aと同じ極性でPDMSに特徴を複製することを意図するものであった。Siウエハ上のSU−8フォトレジストがマスターを生成するより一般的な手法であるが、ここでは、深い陥凹部における未硬化SU−8樹脂の完全除去を確実とするのは困難であるため、DRIEを使用してマスターを生成した。深い陥凹部におけるSU−8の存在は、複製PDMSにおける特徴の収縮に寄与し、これは陥凹部におけるPDMSの不完全な充填から区別することができない。図2Cは、図2Bにおけるケイ素マスターから成形されたPDMSを示す。PDMS柱は、長い湾曲した壁と同じ高さのものであり、これは良好な複製を示すにもかかわらず、自重を支えることができず、したがって傾いてしまったことがすぐに分かる。自重による倒壊またはたるみはまた、低アスペクト比のPDMSマイクロチャネルでも予測される。
【0253】
解放プロセス。低アスペクト(H/W<1)の特徴においては、(1)硬化した樹脂から若干型を剥離することにより、または(2)樹脂と型との間にメスを差し込んで静かに樹脂を浮かせることにより、硬化したPUMA樹脂をPDMS型から解放することができることが判明した。ここで、解放中にレリーフ特徴を損傷する可能性は非常に低かった。しかしながら、高アスペクト比の特徴では、特に支持の不足により機械的に脆い特徴では、解放プロセスはチップ収率において重要な役割を担う。
【0254】
解放プロセスを改善するために、我々はPDMSに対しいくつかの表面改質プロセス(例えば、プラズマ酸化、(トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル)トリクロロシランによるシラン化、およびn−ドデシル−ベータ−D−マルトシド(DDM)14、Gransurf71、およびGransurf77等の界面活性剤の薄い被覆)を試みた。これらの表面改質技術は複製プロセスを改善せず、シラン化の場合には、単に表面の疎水性が強すぎてPUMA樹脂が適切に湿潤しなかった。また、我々は、熱膨張(例えば、−80℃への急速冷凍または熱)の差の利用を試み、熱処理は硬化した樹脂から反対の方向へのPDMSの歪みをもたらしたが、硬化した樹脂はまた、歪んだPDMSに全体的に適応した。その結果、PUMA樹脂が歪み、続く平面基板へのコンフォーマルな密着が不可能となった。
【0255】
解放プロセスの間は不慮の機械的せん断が阻止されなければならないことを仮定して、我々は、硬化した樹脂をPDMS型から分離するための単純な引張ステーションを考案した。分離の方向および速度を正確に制御することにより、マイクロ構造への損傷は大きく最小化される。
【0256】
図3は、引張ステーションの概略図を示す。これは、卓上型穿孔盤用に意図されたDremel Workstation 220−01アセンブリに基づいた。Workstationは、シャフトに沿った垂直の平行移動を制御するバネ駆動レバーを備え、レバーを離すと、上部マウントが停止部に衝突するまで上方に平行移動した。直径1インチのビニル吸引カップが、PUMAチップへの取付のために上部マウントに固定され、PDMS型への取付のための第2のビニル吸引カップが金属ベースに固定された。ダイヤフラム真空ポンプへの接続のために、貫通穴(直径1/16インチ)が吸引カップのベースに穿孔された。
【0257】
紫外線硬化後、PUMA−PDMSアセンブリをベース吸引カップ上に設置し、真空ポンプをオンにした。ベース吸引カップはPDMS型を適所に保持し、一方で、硬化した樹脂の頂部上の透明ポリプロピレンカバーに接触するまで上方吸引カップを徐々に引き下ろした。速度は、樹脂に対し最小限の下向きの力が作用するように、十分緩やかであるべきである。真空計が大気圧からポンプの最終圧力まで降下したら(これは上部吸引カップとポリプロピレンカバーとの間に良好な真空密着が達成されたことを示す)、バネ駆動レバーを離して、樹脂および型を引き離した。
【0258】
我々は、引張ステーションの設計において、(1)力を均一に分散させるために、上部吸引カップおよびベース吸引カップを適切に位置合わせしなければならないこと、ならびに(2)水平方向(マイクロ構造でのせん断面)の不慮の振動または運動を回避するために、全ての部品をしっかりと締結しなければならないことに気付いた。解放速度(速いほど良い)もまた、欠陥を低減することに役立った。
【0259】
図4は、引張器により提供された型解放の改善を示す。図4Aは、引張器の支援なしでのPUMA複製(図2Aと同じパターン)の立体鏡下で撮影された画像である。2種類の欠陥が明らかであり、(1)長く湾曲した壁がリボン状の外観を有し、また(2)垂直柱が不規則であった。リボン様の長く湾曲した壁は、側方に屈曲した壁によるものであるが、これは複製運転間のPDMS型の不適切な清浄化に起因し、型と樹脂との間の接着を増加させる。新鮮な未使用のPDMS型は、硬化条件に厳密に従った場合、この問題を示さなかった。複製間のイソプロパノールおよび水による綿密な超音波照射により、波状壁の発生は大きく低減した。
【0260】
図4Bは、立体鏡検査下で「不規則」とみなされた垂直ポストのSEM画像を示す。不規則性は互いに傾いたポストによるものであった。PUMAはPDMSよりも著しく硬いが、このスケールにおいては、特徴は機械的に脆い。図4Cは、引張器を使用して完璧に解放されたPUMA複製の立体鏡画像を示す。垂直ポスト間の間隔は周期的であった(不規則な暗点がなかった)。
【0261】
接合。図5は、封入されたPUMAマイクロチャネルを形成するために使用され得るいくつかの方法を示す。PUMAは熱可塑性であるため、加熱は、マイクロチャネル基板と蓋との間の恒久的接合を形成する効果的な手法である。しかしながら、マイクロ構造の損傷を回避するため、接合プロセス中は過剰の軟化または圧力を回避しなければならない。
【0262】
基板の剛性に起因して、PUMAのコンフォーマルな密着はPDMSの場合程単純ではない。捕捉された気泡を回避するための注意も必要である。我々の好ましい方法は、チップをプラスチックバッグに入れ、台所用品として市販されている真空包装機を使用して袋を真空引きし、収縮するバッグに依存してチップに対し均一に圧力を加えコンフォーマルな密着を形成することである。真空バッグは、多くの場合、空気ポケットの捕捉を低減するための畝を有し、これらの畝は、PUMA基板上にインプリントを残す可能性があるが、これは真空バッグを糸くずの出ない布で裏打ちすることにより回避することができる。
【0263】
コンフォーマルな密着の後、封入されたチップを紫外線ランプ下に10〜15分間置いた。強力な紫外線および熱は、PUMA基板の軟化をもたらし、コンフォーマルな密着は、リフロープロセスの間に恒久的な結合となった。リフローは、通常、まだやわらかい間にチップ上に圧力が加えられない限りは、マイクロ構造の歪みをもたらすことはない。チップが冷却されたら、恒久的な密着は、高圧(20〜30psi)下で大流量(>1ml/min)に耐えることができるが、チップの底面を構成する顕微鏡カバースリップ(No.2)が、恒久的密着が失敗する前に破壊されることが通例的に観察された。この接合法は、我々の最適な方法であるが、以下に簡単に説明する他の接合技術が使用されてもよい。
【0264】
コンフォーマルな密着を向上させるために酸素プラズマ使用することができるが、15分の酸素プラズマ後、コンフォーマルな接触が改善された。泡の捕捉はより少なく、密着領域が増加した。しかしながら、密着領域はPDMSとガラスとの間に典型的に見られるように100%には程遠いため、通常手作業による気泡の排除が依然として必要である。封入されたチップを75℃の炉に2日間置くと、恒久的な結合が形成されたが、この処置を使用すると、実験中に密着が失敗する頻度は、上述の第1の接合方法を使用して生成されたチップの場合よりも高い。
【0265】
熱可塑性物質の商業生産により類似した代替の非溶媒接合法が使用されてもよい。例えば、温度の急勾配を提供し、回路基板製造における半田のリフローにしばしば使用されるプログラム可能な赤外線加熱炉は、紫外線ランプよりも信頼性のある温度制御を提供するはずである。局所的溶融によるマイクロ構造の損傷を低減するために操作条件が適切に最適化される限り、熱可塑性物質を接合するための一般的技術である超音波溶接が使用されてもよい。
【0266】
応用。我々のPUMAチップの開発の原動力となる1つの動機は、精密濾過への応用のための高アスペクト比スリットの高密度アレイを製造する必要性であった。図6は、高密度充填された細胞(図6A)およびビーズ(図6B)が、PUMAに生成された垂直柱またはフィンのアレイにより保持、捕捉、および蓄積された顕微鏡画像を示す。両方の実験において、同じマイクロ流体デザインを使用したが、柱間の距離は8μmであり、柱の高さは40μmであった。図6Aにおいては、固定された培養癌細胞(4%パラホルムアルデヒド中で15分間固定されたMCF−7細胞)の希釈溶液を使用し、0.3ml/minでチップに流通させた。小領域に細胞を濃縮する能力により、特に細胞が高度に希釈された濃度で存在する場合、より正確で迅速な細胞計数が可能となるため、そのようなマイクロ流体フィルタは、臨床診断用途の既存のグリッド式手動血球計を補完するように機能し得る。図6Bにおいては、直径15μmのビーズを使用した。ビーズをマイクロチャネルに充填するこの能力はまた、親和性精製(例えば、ビーズが抗体と共役した場合)またはサイズ排除クロマトグラフィー等、広範な用途を見出すことができる。そのような精密濾過に基づく全ての用途において、ただ1つのフィンの複製の欠陥が全チップの欠陥へとつながるため、濾過素子を高収率で製造することができることが急務である。本論文は、注意を払う限り、また記載されたマイクロ加工処置に従う限り、PUMAがそのような要求の厳しいマイクロ流体システムを製造するための重要な特性を有することを示す。
【0267】
(結論)
PUMAは、臨床診断用途のマイクロ流体チップの商業生産において極めて有望な基板である。PUMAは非弾性基板であるため、型解放中、または封入されたマイクロ流体デバイスを形成するための接合中は、高アスペクト比のマイクロ構造への損傷を避けるように特に注意が必要である。PUMA樹脂の紫外線硬化プロセスは極めて堅牢であるが、不適切な解放または接合は、チップ収率を大きく低減し得る。我々は、マイクロ構造でのせん断面における運動を最小化する解放引張器を使用することにより、我々の精密濾過チップにおいて使用されるもの等の高密度アレイにおいても、高アスペクト比のマイクロ構造を完璧に複製することができることを示した。コンフォーマルな密着中の過度の圧縮力を回避するため、真空包装機を使用してPUMA複製とチップの底面との間の空気を除去しながら、収縮する真空バッグを利用して、穏やかながら均一な圧縮力を作用させるべきである。コンフォーマルな密着が確立されたら、チップをさらに硬化および加熱するための紫外線ランプの使用、高収率および強固な接合を提供するプロセスを含む、様々な接合方式を使用して、このコンフォーマルな密着を恒久的な接合に変換することができる。高アスペクト比のマイクロ構造を複製するPUMAの能力は、広範な分析用途における使用が見出されるはずであり、PUMAは、使い捨てマイクロ流体デバイス、特に臨床的環境において使用されるものの製造において、既存の基板を補完すると考えられる。
【0268】
(参考文献)
【0269】
【表12】

【0270】
【表13】

【0271】
【表14】

【0272】
【表15】

【0273】
【表16】

【0274】
【表17】

【0275】
【表18】

付属書類C
【0276】
【表19】

【0277】
【表20】

【0278】
【表21】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的存在を蓄積するデバイスであって、生体適合性および放射線吸収性のポリマーの壁内に少なくとも部分的に画定される流路を備える、デバイス。
【請求項2】
前記ポリマーは、ポリウレタン−メタクリレート(PUMA)を含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記ポリマーは、300〜500nmの波長の放射線を吸収する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記ポリマーは、注射試験、皮内試験、移植試験、またはそれらの組み合わせによれば、生体適合性である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項5】
前記ポリマーは、ウレタン、アクリレート、メタクリレート、シリコーン、またはそれらの組み合わせを含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項6】
前記ポリマーは、熱可塑性である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項7】
前記ポリマーは、非弾性である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項8】
前記壁は、油、酸、および/または塩基に対して耐性である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項9】
前記生物学的存在は、細胞、細胞小器官、細菌、ウイルス、タンパク質、抗体、DNA、または生体複合粒子である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項10】
前記細胞は、試料中における存在度が低い、請求項9に記載のデバイス。
【請求項11】
前記細胞は、癌細胞である、請求項9に記載のデバイス。
【請求項12】
前記流路を画定する前記壁の少なくとも1つは、抗体によって被覆される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項13】
前記壁は、自己蛍光性ではない、請求項1に記載のデバイス。
【請求項14】
前記壁は、医療グレードの接着剤を架橋することによって形成される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項15】
生物学的存在を蓄積するために、ポリウレタン−メタクリレート(PUMA)の壁内に少なくとも部分的に画定される流路を備える、デバイスの使用。
【請求項16】
前記流路は、電気泳動、電気クロマトグラフィー、高圧液体クロマトグラフィー、濾過、表面選択的捕捉、DNA増幅、ポリメラーゼ連鎖反応、サザンブロット分析、細胞培養、細胞増殖アッセイ、またはそれらの組み合わせに使用される、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
前記デバイスは、臨床診断に使用される、請求項15に記載の使用。
【請求項18】
封入されたマイクロ流体流路を形成する方法であって、該方法は、
形成された基板を型から解放することと、
該形成された基板を表面に対して押し付けるために、真空を提供することと、
該形成された基板と該表面との間の密着を形成するために、エネルギーを提供することと
を含む、方法。
【請求項19】
前記マイクロ流体流路は、生物学的存在を流動させるように構成される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記形成された基板は、ポリウレタン−メタクリレート(PUMA)を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記形成された基板は、樹脂を放射線に暴露することによって形成される、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記放射線は、300〜500nmの波長を有する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記樹脂は、ウレタン、アクリレート、メタクリレート、シリコーン、またはそれらの組み合わせを含有する、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記形成された基板は、90度を超える角度で引き出すことによって前記型から解放される、請求項18に記載の方法。
【請求項25】
前記形成された基板を前記型から解放することは、真空吸引を使用して解放することを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項26】
真空を提供することは、変形可能な袋の中に真空を提供することを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項27】
前記エネルギーを提供することは、酸化エネルギー、紫外線放射、熱エネルギー、または赤外線放射から選択されるエネルギーを提供することを含む、請求項18に記載の方法。

【図1−1】
image rotate

【図1−2】
image rotate

【図2−1】
image rotate

【図2−2】
image rotate

【図3−1】
image rotate

【図3−2】
image rotate

【図4−1】
image rotate

【図4−2】
image rotate

【図5−1】
image rotate

【図5−2】
image rotate

【図6−1】
image rotate

【図6−2】
image rotate

【図7−1】
image rotate

【図7−2】
image rotate

【図8−1】
image rotate

【図8−2】
image rotate

【図9−1】
image rotate

【図9−2】
image rotate

【図10−1】
image rotate

【図10−2】
image rotate

【図11−1】
image rotate

【図11−2】
image rotate

【図12−1】
image rotate

【図12−2】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15A】
image rotate

【図15B】
image rotate

【図15C】
image rotate

【図15D】
image rotate

【図15E】
image rotate

【図15F】
image rotate

【図16A】
image rotate

【図16B】
image rotate


【公表番号】特表2012−507721(P2012−507721A)
【公表日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−534726(P2011−534726)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【国際出願番号】PCT/US2009/062426
【国際公開番号】WO2010/059351
【国際公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(502457803)ユニヴァーシティ オブ ワシントン (93)