説明

使用時に人体皮膚が接触する物品

【課題】表面にDLC膜を形成した使用時に人体皮膚が接触する物品を提供すること。
【解決手段】本発明は、使用時に人体皮膚が接触する物品において、前記物品の表面に炭素を主成分としたダイヤモンドライクカーボン膜を備えた物品である。このため、物品の表面を光沢のある黒色に着色することができ、商品性を向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡やドアノブのような使用時に人体皮膚が接触する物品の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
使用時に人体皮膚が接触する物品の表面に、商品性の向上を図る目的で着色した被膜を形成する技術がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、使用時に人体皮膚が接触する物品にあっては、皮膚に接触による違和感を与えず耐摩耗性があり、油成分の付着がなく、さらに黒色の光沢のある表面をもつものがなかった(特許文献1、2参照)。
【特許文献1】特開平6−167679
【特許文献2】特開2005−188045 本発明は、使用時に人体皮膚が接触する物品への黒色の光沢のある被膜のコーティングを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、使用時に人体皮膚が接触する物品において、前記使用時に人体皮膚が接触する物品の表面に炭素を主成分としたダイヤモンドライクカーボン膜を備えた物品である。
【発明の効果】
【0005】
本発明によると、使用時に人体皮膚が接触する物品の表面にダイヤモンドライクカーボン膜を備えたので、物品の表面を黒色の光沢ある被膜で覆うことが可能となる。したがって、商品の見栄えを良くし商品性を高める効果が得られる。さらに、皮膚にダイヤモンドライクカーボン膜が接するので、皮膚に接触による違和感を与えることがない。また、表面の耐摩耗性を向上し、膜内に汗等の油成分が浸透し、皮膚に油成分の付着がない。フレームを構成する金属表面を炭素を主体としたDLC膜で覆うため、静電気や金属アレルギーを防止する効果も期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0007】
使用時に人体皮膚が接触する物品として、たとえば腕時計ケース、腕時計バンド、ベルトのバックル、指輪、ネックレス、ブレスレット、イヤリング、ペンダント、ブローチ、ネクタイ止め、眼鏡のフレーム、カメラのボディ、ドアノブなどが挙げられる。
【0008】
図1は、使用時に人体皮膚が接触する物品の一つである眼鏡のフレーム1の外観図である。
【0009】
図1を参照すると、フレーム1は、レンズを支持するリム2と、一対のリム2をつなぐブリッジ3と、鼻に当接するノーズパッド4と、ブリッジ3とノーズパッド4とをつなぐクリングス5と、リム2とヒンジ6を介して接続し、前後方向に延びる左テンプル7aと右テンプル7bと、この左テンプル7aと右テンプル7bのそれぞれの端部に設けられた耳に架かるモダン8とを備える。リム2とブリッジ3とクリングス5と左右のテンプル7a、7bは金属製で、ノーズパッド4とモダン8は樹脂により構成される。
【0010】
フレーム1は、掛け心地のよさと共にデザインが重要であり、デザインの一つの要因として色合いがある。色合いは、種々の表面処理により、フレーム1の表面に施すことが可能である。しかしながら、これまでの表面処理技術では、フレーム1上に商品性のある黒色の光沢のある表面処理を施すことが困難であった。
【0011】
そこで、本発明の要旨とするところであるが、フレーム1の表面に炭素を主成分としたアモルファス構造体からなるダイヤモンドライクカーボン膜(以下、DLC膜)10を形成する。DLC膜10は、炭素を主成分として形成されており、その色合いは、黒色で光沢があり、フレーム1上に黒色の光沢のある表面処理を施すことができる。なお、DLC膜10の厚さは、例えば3μm以下である。
【0012】
DLC膜10は、アンバランスド・マグネトロン・スパッタ法(以下、「UBMスパッタ法」と称する)によって形成される。
【0013】
図2と図3を参照すると、UBMスパッタ法の原理は、アルゴン等の不活性ガスを導入した真空中でターゲット41を陰極として陽極の間でグロー放電させてプラズマを形成し、このプラズマ中のイオンをターゲット41に衝突させてターゲット41の原子を弾き飛ばし、この原子をターゲット41と対向して配置されたワーク21(フレーム1)上に堆積させて被膜を形成するようになっている。
【0014】
UBMスパッタ法は、さらにターゲット41の中心部と周辺部で異なる磁気特性を有する磁場42、43を備えたスパッタ蒸発源40a〜40dがプラズマを形成しつつ強力な磁場42により磁力線を発生し、発生した磁力線の一部がワーク21の近傍に達し、ワーク21にバイアス電圧を印加することによって、ターゲット41を構成する物質をワーク21上に堆積する。
【0015】
図3は、UBMスパッタ法に用いる装置50の基本構成を示す。真空チャンバ51には4つのスパッタ蒸発源40a〜40dが設けられる。その中央に配置された自公転式ワークテーブル56上にワーク21が置かれ、ワーク21にコーティングが行われる。スパッタ蒸発源40a〜40dには被膜材料となる平板状ターゲットが取り付けられる。真空チャンバ51にはアルゴン等の不活性ガスとメタンガス等の炭化水素ガスが所定量充填される。
【0016】
スパッタ蒸発源40a、40cにはターゲットとしてグラファイトを使用し、スパッタ蒸発源40b、40dにはターゲットとして金属を使用する。
【0017】
以上のように構成されたメガネフレーム1の作用を、次に説明する。
【0018】
フレーム1の素材として用いられる金属材料やプラスチック材料等の表面にUBMスパッタ法によりDLC膜10を形成する。DLC膜10をフレーム1の表面に形成することにより、DLC膜特有の光沢のある黒色でフレーム1の表面が覆われ、高級感を醸し出し、商品性を向上させることができる。DLC膜10は高硬度であるから、傷がつきにくく、耐摩耗性を向上するという効果もある。皮膚にDLC膜10が接するので、皮膚に接触による違和感を与えることがない。また、DLC膜10内に汗等の油成分が浸透し、皮膚に油成分の付着がない。さらにフレームを構成する金属表面を炭素を主体としたDLC膜11で覆うため、静電気や金属アレルギーを防止する効果も期待できる。
【0019】
図4は、第2の実施形態としてのドアノブ11の外観図である。
【0020】
ドアノブ11は、不図示のドアに取り付けられる取付部12と、ドア開閉時に把持されるノブ部13と、取付部12とノブ部13との間に位置し、ドアノブ11の開閉機構を覆う中間部14とから構成される。
【0021】
従来、ドアノブ11の多くは、アルミ材から形成され、その表面は着色されることなく、地金の色のまま用いられることが多い。一方、商品性向上の観点から着色されたドアノブ11が要求されつつある。しかしながら、ドアノブ11の表面に光沢のある黒色被膜を形成することは従来困難とされてきた。
【0022】
そこで、本発明では、ドアノブ11の表面に前述のUBMスパッタ法を用いてDLC膜15を形成する。DLC膜15をドアノブ11の表面に形成することにより、DLC膜15に特有の光沢のある黒色でドアノブ11が覆われ、第1の実施形態と同様に見栄えをよくし、商品性を高める効果を有すると共に、DLC膜15は、電気が帯電しにくいため、静電気を防止するという効果もある。
【0023】
なお、第2の実施形態では、使用時に人体皮膚が接触する物品の一例としてドアノブ11を用いて説明したが、ドアハンドル(図5)やレバーハンドル(図6)等の表面にDLC膜15を形成するようにしてもよい。
【0024】
本発明は上記の実施形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、使用時に人体皮膚が接触する物品の着色技術として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明を適用する眼鏡フレームの外観図である。
【図2】スパッタ法の原理を示す説明図である。
【図3】同じくUBMスパッタ装置の構成図である。
【図4】第2の実施形態としてのドアノブの外観図である。
【図5】ドアハンドルの外観図である。
【図6】レバーハンドルの外観図である。
【符号の説明】
【0027】
1 フレーム
2 リム
3 ブリッジ
4 ノーズパッド
5 クリングス
6 ヒンジ
7a 左テンプル
7b 右テンプル
8 モダン
11 ドアノブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用時に人体皮膚が接触する物品において、
前記物品の表面に炭素を主成分としたダイヤモンドライクカーボン膜を備えたことを特徴とする物品。
【請求項2】
前記使用時に人体皮膚が接触する物品は、眼鏡のフレームであることを特徴とする請求項1に記載の物品。
【請求項3】
前記使用時に人体皮膚が接触する物品は、ドアノブであることを特徴とする請求項1に記載の物品。
【請求項4】
前記使用時に人体皮膚が接触する物品は、ドアハンドルであることを特徴とする請求項1に記載の物品。
【請求項5】
前記使用時に人体皮膚が接触する物品は、レバーハンドルであることを特徴とする請求項1に記載の物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−122247(P2009−122247A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−294286(P2007−294286)
【出願日】平成19年11月13日(2007.11.13)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】