説明

使用済の硫化水素用捕集剤の処理方法

【課題】 今まで廃棄物として処理するのが一般的であった「使用済みの硫化水素用捕集剤」を処理してすべての生成物が再利用可能とするための、前記使用済みの硫化水素用捕集剤の処理方法の提供。
【解決手段】 使用済みの硫化水素用捕集剤である硫化物に、硫化水素よりも強い酸を反応させて硫化水素を発生させ、ついで、この硫化水素を酸化剤により酸化することを特徴とする使用済みの硫化水素用捕集剤の処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭や石油の処理あるいは下水処理等で発生する硫化水素を酸化金属により化学的に捕捉した結果生成する使用済みの硫化水素用捕集剤の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭、石油の処理あるいは下水処理時などで発生する硫化水素の除去方法としては、乾式法と湿式法があるが、湿式法はアルカリ性吸収液を使用するため、大量の水を用いるので排水処理が問題となり、そのうえ熱効率も悪い。
そこで、硫化水素用捕集剤として酸化亜鉛のような金属酸化物を用い、下記式(1)の反応
S+ZnO → ZnS+HO ・・・(1)
により、硫化水素を除去する乾式法が主に用いられており、その代表的な技術としては、特許文献1および2などを挙げることができる。これらの方法で発生するZnSなどの金属硫化物を主体とする金属化合物は、廃棄物として処理するのが通常である。
【0003】
ただ特許文献3では前記硫化水素用捕集剤としてFeを用いた場合、
下記式(2)
Fe+3HS → Fe+3HO ・・・(2)
の反応により生成したFeに下記式(3)
Fe+3/2O → Fe+3S ・・・(3)
に示すように酸素含有ガスを吹き付けることにより、酸化鉄と硫黄に変化させる方法を提案している。しかしながら、酸素含有ガスの取扱いには常に困難が伴なうのが実情である。
【0004】
【特許文献1】特開昭60−87834号公報
【特許文献2】特開平9−234366号公報
【特許文献3】特開2000−297287号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、今まで廃棄物として処理するのが一般的であった「使用済みの硫化水素用捕集剤」を処理してすべての生成物が再利用可能とするための、前記使用済みの硫化水素用捕集剤の処理方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、硫化水素を回収するために使用した使用済みの硫化水素用捕集剤の処理において、せっかく一度捕集剤と吸収させた硫化水素を捕集剤から再度硫化水素として追い出して処理するという予想外のプロセスを採用することにより、捕集剤として用いた金属酸化物を再利用可能な形で回収できる「使用済みの硫化水素用捕集剤」の処理方法に関する。
【0007】
すなわち、本発明は、使用済みの硫化水素用捕集剤である硫化物に、硫化水素よりも強い酸を作用させて硫化水素を発生させ、ついで、この硫化水素を酸化剤により酸化することを特徴とする使用済みの硫化水素用捕集剤の処理方法に関する。
【0008】
本発明における硫化水素用捕集剤は、1つは金属酸化物であり、他の1つは活性炭であり、いずれも多孔質のものであることが好ましい。
金属酸化物は、硫化水素と反応して金属硫化物となって硫化水素を捕集する。このような金属酸化物の具体例としては酸化亜鉛、酸化鉄、酸化銅などを挙げることができる。これらを更に具体的に説明すれば、例えば破砕鉄鉱石、破砕亜鉛鉱、破砕銅鉱石、担体あるいはバインダーと金属酸化物との混合物、フライアッシュと金属酸化物との混合物などを挙げることができる。
活性炭の場合は、金属酸化物の場合のような反応を伴うことはなく、単に吸収、吸着するのみである。
【0009】
硫化水素用捕集剤が金属酸化物である場合には前記使用済みの硫化水素用捕集剤は、前記硫化水素用捕集剤が、硫化水素を吸収、反応して得られた硫化物と未反応の吸収反応剤とを含む組成物と考えることができる。硫化水素用捕集剤と硫化水素との反応は、捕集剤が粒子状で存在するため、粒子表面のみで硫化水素と反応しているため、表面層のみが硫化されているのが実情である。例えば硫化水素用捕集剤が酸化亜鉛である場合には、使用済みの硫化水素用捕集剤は、硫化亜鉛と酸化亜鉛の混合物、あるいは、硫化亜鉛、酸化亜鉛、担体および/またはバインダーとの混合物などであり、硫化水素用捕集剤が酸化鉄である場合には、使用済みの硫化水素用捕集剤は硫化鉄と酸化鉄の混合物、あるいは硫化鉄と酸化鉄、担体および/またはバインダーとの混合物などであり、硫化水素用捕集剤が酸化銅である場合には、使用済みの硫化水素用捕集剤は、硫化銅と酸化銅の混合物、あるいは硫化銅、酸化銅、担体および/またはバインダーとの混合物などである。
硫化水素用捕集剤として活性炭を用いた場合には、使用済みの硫化水素を吸収、吸着している活性炭に、直接酸化剤を作用させてもよいが、使用済みの硫化水素を吸収、吸着している活性炭から通常の手段により硫化水素を脱着させ、脱着した硫化水素に酸化剤を作用させる方が効率よく硫化水素を処理することができる。
【0010】
前記「硫化水素より強い酸」としては、硫酸、硝酸、塩酸、リン酸などの無機酸が好適である。
【0011】
前記酸化剤としては、とくに制限はないが、通常、過マンガン酸塩(Na塩、K塩など)、過酸化水素、過炭酸塩(Na塩、K塩など)、重クロム酸カリウム、重クロム酸ナトリウム、過酢酸などを挙げることができる。
【0012】
本発明を具体的に説明するための基本的フローシートを図1に示す。処理槽Aに、使用済みの硫化水素用捕集剤を投入する。使用済みの硫化水素用捕集剤に図1に示す処理液Aに相当する「硫化水素より強い酸」の水溶液、例えば硫酸水溶液を注入する。処理槽A中で両者を充分反応させ、発生した硫化水素は、処理槽Bに送る。一方、使用済みの硫化水素用捕集剤中の金属は酸化物として処理層A中で沈殿するので沈殿物として回収する。処理槽B中には酸化剤水溶液Bが存在しており、送られてきた硫化水素は酸化剤水溶液B中に供給される。酸化剤が過マンガン酸カリウムの場合は、処理槽Bにおいて、
3HS+2KMnO → 2MnO+3S+2HO+2KOH・・・(4)
の反応により、MnO及びSは沈殿し、その他は溶液状態なので容易に分別回収することが出来る。
このようにして、硫化水素用捕集剤である金属酸化物の回収は勿論、酸化剤として用いた過マンガン酸カリウムもMnOとして回収されると共に、HSはSの形で回収され、何れの成分も全て再利用が可能な形で回収されていることが分かる。
【0013】
酸化剤液Bとして過酸化水溶液を用いる場合は、
S+H → 2HO+S ・・・(5)
の反応により硫黄となるので、容易に回収することができる。
【0014】
本発明の工業的システムを図2に基づいてさらに具体的に説明する。以下の説明は、硫化水素用捕集剤として酸化鉄を、酸化剤として過マンガン酸カリウムまたは過酸化水素を用いたことを前提とするものである。
処理槽1に使用済みの硫化水素用捕集剤(すなわち酸化鉄が相当量硫化鉄に変化しているもの)を投入し、そこに処理液Aとして希硫酸を加える。すると使用済みの硫化水素用捕集剤中の硫化鉄が硫酸と反応し、
Fe+3HSO → Fe(SO+3H
硫酸鉄と硫化水素に変化する。そこで固形分は前記硫酸鉄と酸化鉄の形で処理槽1中に残るので、これを鉄成分として回収する。一方、発生したガス状の硫化水素は処理槽1より安全槽に送り、ここで随伴してきた液体成分を完全に除去し、硫化水素ガスのみを次の処理槽2に導入する。
処理液2は過マンガン酸カリウムの水溶液もしくは過酸化水素水であり、処理槽2の底部から導入された泡状の硫化水素は式(4)もしくは式(5)により酸化処理される。
すなわち、過マンガン酸カリウムを用いる場合には硫黄と二酸化マンガンと水酸化カリウムに変化する。
二酸化マンガンと硫黄は処理槽2の中で沈殿し、その他は溶液状態で処理槽2中に残留する。
硫化水素を完全に捕捉するため、もう1つの処理槽3を設け、処理槽2で捕捉できなかった硫化水素を含むガスを処理槽3に導入し、処理槽3中に存在する過マンガン酸カリウム水溶液と接触させ、残りのHSを完全に捕捉する。
処理槽2および3の底部から沈殿した二酸化マンガンと硫黄を回収し、KOHは処理槽2、3より水溶液の形で回収する。二酸化マンガンからの硫黄の分離は加熱による除去もしくは溶剤抽出等の手段を適宜用いれば容易に出来る。
過酸化水素を用いる場合には、前記式(5)の反応により硫化水素は硫黄へと酸化され、硫黄は処理槽2および3の中で沈殿するので、これを回収する。
【発明の効果】
【0015】
従来硫化水素を吸収、反応させた使用済みの硫化水素用捕集剤は、そのほとんどが産業廃棄物として廃棄処分するしかなかったが、本発明によりこれを産業廃棄物とすることなく、すべて資源として再利用できる道を開くことができた。
【実施例】
【0016】
以下に本発明の効果を確認するため下記の実験を行なった。
【0017】
実験例1
硫化ナトリウム九水和物2.4gに10%硫酸10mlを加えて発泡する気体を、5%過マンガン酸カリウム水溶液50mlに導入する。過マンガン酸カリウム水溶液の液の色である紫色が消失して排気には硫化水素が検出された。同様な実験でほぼ過マンガン酸カリウム水溶液の色が消える頃合に更に50mlの過マンガン酸カリウム水溶液を追加すると発泡が終了した時点でも排気中には硫化水素は検出されなかった。
【0018】
実験例2
硫化水素処理装置より回収された使用済み硫化水素用捕集剤10gに、10%硫酸10mlを加え、発泡するガスを0.05%の過マンガン酸カリウム水溶液20mlに吸収させた。排気からは硫化水素は検出されなかった。硫化水素用吸収反応剤を加えた水溶液は発泡終了後もpH1であった。残渣の固形物からは硫化水素は放出されず、硫酸鉄と酸化鉄の混合物の形で鉄を回収できた。硫化水素ガスを導入した過マンガン酸カリウム水溶液におけるKMnOはMnOに変化しており、系は僅かに紫色を残し、黒褐色の二酸化マンガンは沈殿物の形で回収できた。
【0019】
実験例3
実験例1の過マンガン酸カリウム水溶液の代わりに10%過酸化水素水を用いて同様な処理を行なった。その結果排気中に硫化水素は検出されず、処理液は白濁した。
【0020】
実験例4
硫化水素を吸着した活性炭を、高温加熱(およそ500℃)し、そこに空気を送風して得られたガスを過マンガン酸カリウムの水溶液の中に導入すると紫色の液は脱色され、式(4)に示す反応により黒褐色の二酸化マンガンが沈澱した。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の処理方法を実施するための基本的概念を示すフローシートである。
【図2】本発明の一層具体的な例を示すフローシートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用済みの硫化水素用捕集剤である硫化物に、硫化水素よりも強い酸を反応させて硫化水素を発生させ、ついで、この硫化水素を酸化剤により酸化することを特徴とする使用済みの硫化水素用捕集剤の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−111497(P2006−111497A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−301761(P2004−301761)
【出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【出願人】(501332688)有限会社 エー・イー・エル (6)
【出願人】(504226342)