説明

使用済み均一系触媒からの貴金属の回収

本開示は、有機相中に存在する使用済み均一系触媒からのPGM(白金族金属)の回収に関する。特に、PGM、特にRhが金属相で濃縮され、それらを公知の方法に従って精錬を利用できるようにする、高温冶金法が提供される。この目的のために、以下の工程:− 液体燃料を燃焼するために装備された浸漬型の噴射装置を有する、溶錬炉を提供する工程;− メタル相及び/又はマット相、及びスラグ相を含む溶融浴を提供する工程;− 使用済み均一系触媒及びO含有ガスを、噴射装置を通して供給し、その際、大部分のPGMがメタル相及び/又はマット相に回収される工程;− PGMを有するメタル相及び/又はマット相をスラグ相から分離する工程を含む、方法が開示されている。有機廃棄物のエネルギー量は、炉内の金属装入物の加熱及び/又は還元に効率的に利用され得る。高価な金属が高収率で回収され、且つ環境に有害な有機廃棄物が分解されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、有機相中に存在する使用済み均一系触媒からのPGM(白金族金属)の回収に関する。
【0002】
特に、PGM、特にRhが金属相で濃縮され、それらを公知の方法に従って精錬に利用できるようにした、高温冶金法が提供される。
【0003】
しばしばPGM、特にRhを含有する、可溶性の有機金属化合物が、均一系触媒反応において触媒として使用される複数の方法が開発されてきた。これらの化合物は、オレフィンの水素化、ヒドロホルミル化及びヒドロカルボキシル化などの様々な反応に有用である。
【0004】
前記化合物が化学的に非常に安定であるため、触媒溶液は、蒸留によって反応生成物からこれを分離した後に、反応系で再利用することができる。しかしながら、種々の高沸点の副生物が前記反応で形成され、さらに反応で使用される触媒が部分的に不活性化されるので、蒸留による反応生成物の回収時に得られる触媒含有残留物の一部を廃棄しなければならない。これは高沸点の副生物及び不活性化された触媒の凝集を防ぐために必要とされている。
【0005】
使用済み触媒とも呼ばれる、触媒含有残留物は、生態学的な観点から並びに経済的な観点から回収されるべき高価なPGMを含有する。
【0006】
複数の方法が、かかる使用済み触媒からのPGMの回収のために提案されてきた。一般的に、この方法は、用いられるプロセスのタイプに応じて、湿式又は乾式のいずれかに分類される。
【0007】
例えば、EP−A−0147824号から公知の湿式法では、ロジウムは取り除かれて、これをホスフィンスルホネート又はカルボキシレートを錯化剤として用いて粗使用済み生成物から抽出することによって回収される。貴金属のスルフィドとしての沈殿、US−4687514号によるTeなどの還元剤の添加による還元、又は活性炭上での吸収を含む、他の方法が記載されている。
【0008】
湿式法は、PGMの再生を可能にするが、生態学的な方法で廃棄の問題又は有機廃棄物の使用の問題を解決していない。更に、生成物の収率は、非常に安定な、初期のPGM錯体の分解に極めて依存する。
【0009】
例えば、US−3920449号から公知の乾式法では、金属類は、可溶性の貴金属の錯体及び有機リン化合物を含有する有機溶媒溶液を燃焼帯域で燃焼することによって、該有機溶媒溶液から回収される。燃焼生成物は速やかに水性の吸収液中に導入されて貴金属及び燃焼中に形成される酸化リンの粒子を捕捉する。US−5364445号は、ロジウム錯体及び配位子としての少なくとも1種の有機リン化合物並びに有機リン化合物を含有する有機溶液に塩基化合物を添加し、得られる混合物を1000℃未満の制御された温度下で灰まで燃焼し、且つこの灰を、還元剤を含有する溶液を使用して洗浄する工程を含む、ロジウムを回収するための類似の方法を提供する。
【0010】
従来の乾式法の欠点は有機フラクションの燃焼にある。熱回収及びオフガス濾過は直接的ではない。更に、すす中又は灰中のPGMを遊離させる重大なリスクがある。
【0011】
従って、本発明の課題は、環境に有害な有機廃棄物を分解する一方で、高価な金属の高い回収率を保証することである。PGM、特にRhは、容易に回収可能であり且つ精製可能な相で得られるべきである。有機物はそれらの統合されたエネルギーから評価されるべきである。
【0012】
この目的のために、使用済み均一系触媒からのPGMの回収方法において、以下の工程:
− 液体燃料を燃焼するために装備された浸漬型の噴射装置を有する、溶錬炉を提供する工程;
− メタル相及び/又はマット相、及びスラグ相を含む溶融浴を提供する工程;
− 使用済み均一系触媒及びO含有ガスを、噴射装置を通して供給し、大部分の(即ち、50質量%を上回る)PGMをメタル相及び/又はマット相に回収する工程;
− PGMを有するメタル相及び/又はマット相をスラグ相から分離する工程
を含む、前記回収方法が開示されている。
【0013】
典型的には、90%を上回るPGMが、メタル相及び/又はマット相に回収される;
【0014】
使用済み均一系触媒は、好ましくは10ppmを上回るPGM、好ましくはRhを含有する。この最少量が、この方法の経済性を保証するために必要とされている。
【0015】
全金属含量の少なくとも50質量%のCu、Ni、Co、Fe、及びPbのいずれか1種以上を含むメタル相及び/又はマット相などの金属を有する溶融相中にPGMを集めることが有利である。この相は好ましくは少なくとも50%のCuを含む。PGMはこれらの金属中で効率的に集められ、それらは公知の技術を用いて更に精錬することができる。
【0016】
十分な量の使用済み触媒が利用できる場合、液体燃料を完全に交換することが有利である。これは、バッチにわたる希釈を回避することによってメタル相及び/又はマット相におけるPGM濃度を最大にしやすい。
【0017】
有利には、使用済み均一系触媒及びO含有ガスを、噴射装置を通して供給する工程の間、複合金属装入物を炉に導入して精錬し、それによってメタル相及び/又はマット相、スラグ及び煙塵を生成する。この方法では、触媒中の廃有機材料のエネルギー量は、炉内の金属装入物の加熱及び/又は還元に効率的に利用されている。煙塵は、複合装入物の一部として精錬操作に再利用できる。前記複合金属装入物は、典型的にはPb、Cu及びFeを、酸化物及び/又は硫化物として含む。
【0018】
メタル相中のPGMを集めるための高温冶金法は、基材結合触媒を再利用するために広範に利用されている。これによって触媒は、可能であれば加湿などの単純な前処理の後に、溶錬炉に直接供給されて、オフガスによって微粒子の飛沫同伴を回避する。
【0019】
しかしながら、使用済み均一系触媒は、揮発性の有機化合物を含み、従って、該触媒は例えば、固体担体での含浸後でも、通常の方法で炉に供給することができない。実際に、かかる手順は、常に、PGM錯体を含む、有意な量の有機物の蒸発及び損失を招く。
【0020】
しかしながら、本開示によれば、蒸発による損失は、使用済み均一系触媒を、浸漬型のランス又は羽口のいずれかである、燃料噴射装置を通して直接溶融浴に噴射することによって大きく低減する又は回避することさえできることが示された。
【0021】
浸漬型のランスとは、圧縮ガス、典型的には酸素が豊富な空気を、概して下方向に従って、金属浴に導入するために設計された管を意味する。ランスはしばしば浴よりも上方に垂直に取付けられ、その際、その先端が炉内の浴面下に浸漬する。
【0022】
羽口とは、圧縮ガス、典型的には酸素が豊富な空気を、概して水平又は上方向に従って、浴に導入するために設計された管を意味する。羽口は、炉の底又は壁を穿孔する孔を通して浴面下に位置しているため、羽口はもともと浸漬している。
【0023】
ランス及び羽口は燃料噴射装置を備えてよい。この噴射装置は、例えば、管の先端で又はその近くで同軸位置に位置してよい。燃料は酸素により浴内で燃焼し、その結果、熱を動作に入力することに寄与する。本開示では、液体燃料を燃焼するために装備されたランス及び羽口のみが考慮されている。
【0024】
PGMとはRu、Os、Rh、Ir、Pd、及びPtを意味する。
【0025】
使用済み均一系触媒は非常に粘着性であってよく、400mPa・sを上回る粘度を有する。かかる生成物は、ポンプ及び管中の目詰りを回避するために前処理されるべきである。これはそれらの生成物を予備加熱及び/又は有機溶媒で希釈することを含んでよい。
【0026】
Cuベースの合金を扱う時、残留物中のPGMを回収するために銅の磨砕及び浸出を行う。PGM残留物の更なる処理は古典的な方法によって、例えば、灰吹法及び電解抽出によって行ってよい。
【0027】
実施例
このプロセスは0.7mの内径を有する、MgO−Cr煉瓦が並べられた、円筒形の鋼炉で行う。この炉は更にスラグ及び金属ための湯出し口が備えられ、上部では排気ガスのための及び噴射ランスの挿入のための開口部が備えられている。
【0028】
ランスは、空気/酸素噴射のための48mmの直径を有するRVS鋼の外側管、及び燃料噴射のための17mmの直径を有する内側同軸管を含む。内側管はその先端に噴射ノズルを備える。
【0029】
金属装入物を5時間にわたり添加する。これは
出発浴として500kgの鉛が豊富なスラグ;及び
4000kg(湿重量)のPb/Cu/貴金属複合装入物
からなる。
【0030】
ランスのパラメータは以下のものである:
全ガス流量265Nm/h;
空気流量224Nm/h;
流量41Nm/h;
酸素富化33.1%;
燃料(比較例1)又は使用済みRh(実施例)流量22kg/h;及び
火炎化学量論(λ)2.18。
【0031】
このプロセスは1200℃の浴温度で運転される。火炎化学量論は、5%未満のスラグ中のCu濃度によって示されるような強還元条件を十分に保証するように適合させることができる。
【0032】
オフガス及び煙塵を、最初に放射線チャンバで、次に断熱冷却器で、1200℃から約120℃に冷却する。この煙塵をバグハウスに集める。オフガス中のSOをNaOHスクラバーで中和する。
【0033】
比較例1
比較例(参照)では、従来の燃料のみを噴射する。金属装入物は制限された量のRhを含み、これはこの種の操作で再利用される材料の典型的な背景である。供給、生産、及び相のRh分布を表1に示す。装入物は17.8%の水分を含有し、これは4000kgの湿重量が実際に炉に供給されることを意味する。スラグ及び装入物の両方は、決定的ではない量の金属(合計の2〜5%の酸化物としてのNi、Zn、及びSn)、半金属(合計の4〜8%の酸化物としてのAs、Sb、及びTe)、及び他の酸化物(合計の4〜8%のAl及びMgO)を更に含有する。装入物中のSは硫化物及び硫酸塩の混合物である。
【表1】

【0034】
Rhはマット/合金相中で95%を上回る収率で集まる。貴金属は、従来の方法に従って、更に分離し且つ精錬することができる。
【0035】
実施例2
本発明による実施例では、同じ組成を有する金属装入物を処理するが、その際、燃料の代わりにRhを有する使用済み触媒を噴射する。この特定の使用済み触媒は、有機相中の均一系触媒であり、743ppmのRh含量、38MJ/kgの発熱量、及び70℃より高い引火点を有する。供給、生産、及び相のRh分布を表2に示す。
【表2】

【0036】
94%近くのマット/合金相中の全Rh収率が観察される。
【0037】
実施例1と実施例2との間の比較から、触媒を通して添加された92%を上回るRhが、マット及び/又は合金において回収されたことが計算され得る。この文脈では、90%を上回る収率が十分であると考えられる。
【0038】
煙塵中の少量のRhは、全部又は一部の炉への煙塵を再利用することによって回収することができる。かかる再利用は、この型の炉を操作した時に毎度のこととして行われる。この再利用のループにおけるRh部分の追加の滞留時間は、このプロセスの経済性に有意に影響を与えない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用済み均一系触媒からのPGMの回収方法において、以下の工程:
− 液体燃料を燃焼するために装備された浸漬型の噴射装置を有する、溶錬炉を提供する工程;
− メタル相及び/又はマット相、及びスラグ相を含む溶融浴を提供する工程;
− 使用済み均一系触媒及びO含有ガスを、噴射装置を通して供給し、その際、大部分のPGMがメタル相及び/又はマット相に回収される工程;
− PGMを有するメタル相及び/又はマット相をスラグ相から分離する工程
を含む、前記回収方法。
【請求項2】
使用済み均一系触媒が10ppmを上回るPGM、好ましくはRhを含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
溶融したメタル相及び/又はマット相が、全量の少なくとも50質量%のCu、Ni、Co、Fe及びPbのいずれか1種以上、好ましくは少なくとも50質量%のCuを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
使用済み均一系触媒が液体燃料を完全に交換する、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
使用済み均一系触媒及びO含有ガスを、噴射装置を通して供給する工程の間、複合金属装入物を炉に導入して精錬し、それによってメタル相及び/又はマット相、スラグ及び煙塵を生成する、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも大部分の煙塵を、前記炉に対する前記複合装入物の一部として再利用する、請求項5に記載の方法。

【公表番号】特表2012−526646(P2012−526646A)
【公表日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−510149(P2012−510149)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【国際出願番号】PCT/EP2010/002852
【国際公開番号】WO2010/130388
【国際公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(509126003)ユミコア ソシエテ アノニム (23)
【氏名又は名称原語表記】Umicore S.A.
【住所又は居所原語表記】Rue du Marais 31, B−1000 Brussels, Belgium