説明

使用済核燃料の再処理方法

【課題】低コストにて安全性を向上させると共に、回収率に優れる使用済核燃料の再処理方法を提供する。
【解決手段】使用済核燃料の再処理方法であって、使用済核燃料を硝酸水溶液に溶解させ、得られた少なくともウランおよび/またはプルトニウム等を含む硝酸水溶液を、ハイドロフルオロカーボンとリン酸トリブチルとからなる混合有機溶媒と接触させることにより、ウランおよび/またはプルトニウム等を混合有機溶媒に移行させる第1抽出工程(S102)と、混合有機溶媒からウランおよび/またはプルトニウム等を再び水溶液に移行させる第2抽出工程(S103)と有する使用済核燃料の再処理方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用済核燃料の再処理方法に関し、特に、原子炉等で使用された使用済核燃料を再処理する場合に利用される湿式の使用済核燃料の再処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
核燃料は、原子炉等で一定の期間燃焼させると、それ以上燃焼できない使用済核燃料となる。近年、原子力発電等による電力の供給量が増加するに伴い、原子力発電所から発生する使用済核燃料が急増している。使用済核燃料の中には、燃え残りウラン、燃焼の過程で生成されるプルトニウム等超ウラン元素および核分裂生成物が含まれている。このウランとプルトニウムを回収して核燃料として再利用するための有効な処理方法が望まれている。
【0003】
従来から、使用済核燃料の再処理は、例えば、次のような方法で行われている。まず、原子力発電所で発生する使用済核燃料を塩素ガスで塩素化する。次に、得られた塩化物を溶融塩中に溶解し、低融点の液体金属と接触させることによって該金属より貴な不純物元素を液体金属中に抽出する。その後、この溶融塩を不溶解性固体電極を用いて電解することにより、金属ウランを回収する(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
また、現在、商用規模で使用済核燃料の再処理を行う技術としては、ピューレックス(Purex)法が知られている。このピューレックス法は、リン酸トリブチル(TBP)および希釈剤とするノルマルドデカン(n−dodecane)を用いた溶媒抽出法である。具体的には、使用済核燃料を強硝酸中で溶解した後、リン酸トリブチルとノルマルドデカンとからなる抽出溶媒を用いて、ウランおよびプルトニウムを共に硝酸溶液から抽出溶媒中に抽出して、硝酸水溶液中に残存する核分裂生成物と分離し、さらにウランとプルトニウムとを分離して回収するものである(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
さらに、使用済核燃料をフッ素および/もしくはフッ素化合物でフッ化し、揮発性の差により、ウラン,ウランとプルトニウムの混合物,核分裂生成物をそれぞれに分離し回収する使用済核燃料のフッ化物揮発処理法も知られている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2000−83697号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平08−146190号公報(段落0026)
【特許文献3】特開2000−83697号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示される使用済核燃料の再処理方法の場合には、次のような問題がある。使用済核燃料の再処理を行う際に、塩素ガスに処理用装置が直接に暴露されているため、処理用装置が腐食しやすいという問題がある。また、精製過程に多量の電力が必要となり、設備導入コスト、処理コストが共に高価になる問題点がある。さらに、水冷却方式を用いて処理用装置を冷却することが一般であるので、万一水と溶融塩が接触すると爆発的現象が生じるというシステムの安全性の問題もある。
【0007】
一方、特許文献2に開示されるピューレックス処理方法の場合には、ウランおよび/またはプルトニウム等の抽出性に優れているが、使用するn−ドデカン等の希釈剤は可燃性であるため、処理システムに対して安全性の問題がある。
【0008】
また、特許文献3に開示される使用済核燃料のフッ化物揮発処理法は、ウランおよび/またはプルトニウム等を高精製度で回収するため、工程が複雑になり、また、精製過程でウランおよび/またはプルトニウム等のフッ化物の分解によるウランおよび/またはプルトニウム等の回収率が低下となるという問題がある。
【0009】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、燃焼の可能性を排除して著しく安全性を向上させる使用済核燃料の再処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は、使用済核燃料の再処理方法であって、使用済核燃料を硝酸水溶液に溶解させ、得られた少なくともウランおよび/またはプルトニウム等を含む硝酸水溶液を、ハイドロフルオロカーボンとリン酸トリブチルとからなる混合有機溶媒と接触させることにより、ウランおよび/またはプルトニウム等を混合有機溶媒に移行させる第1抽出工程と、混合有機溶媒からウランおよび/またはプルトニウム等を再び水溶液に移行させる第2抽出工程と有する使用済核燃料の再処理方法としている。
【0011】
このため、低コストにて安全性を向上させると共に、使用済核燃料からウランおよび/またはプルトニウム等を効率良く回収できる。ハイドロフルオロカーボンとリン酸トリブチルとからなる混合有機溶媒を用いて、ウランおよび/またはプルトニウム等を混合有機溶媒に移行させる第1抽出工程を行うことによって、ウランおよび/またはプルトニウム等を使用済核燃料から効率的に抽出させることができる。また、可燃性のn−ドデカンの代わりに不燃性のハイドロフルオロカーボンを使用することによって、再処理システムの安全性を向上できる。また、ハイドロフルオロカーボンは、非常に揮発性が強いので、使用済核燃料の再処理を行った後、溶媒の回収をしやすい。
【0012】
また、別の本発明は、先の発明に加え、当該混合有機溶媒が30%容量リン酸トリブチル−70%容量ハイドロフルオロカーボンである使用済核燃料の再処理方法としている。このため、使用済核燃料からウランおよび/またはプルトニウム等を効率的に抽出させることができる。
【0013】
また、別の本発明は、先の発明に加え、ハイドロフルオロカーボンが1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタン(1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−decafluoropentane)である使用済核燃料の再処理方法としている。このため、使用済核燃料からウランおよび/またはプルトニウム等を効率的に抽出させることができると共に、使用済核燃料の再処理を行った後、溶媒の回収をよりしやすい。
【0014】
また、別の本発明は、先の発明に加え、硝酸水溶液の濃度が2M(M:mol/dm)以上である使用済核燃料の再処理方法としている。このため、使用済核燃料からウランおよび/またはプルトニウム等をより効率的に抽出させることができる。
【0015】
本発明に係る使用済核燃料の再処理方法において、再処理対象としては、使用済核燃料の中に、燃え残りウランおよび燃焼の過程で生成されるプルトニウム等が挙げられ、本発明は、特に、使用済核燃料からウランを回収するための再処理に適している。ただし、上述の再処理対象は一例に過ぎず、ウラン以外に、プルトニウムまたはネプツニウム等の他の物質でも良い。また、本発明により再処理することができる使用済核燃料とは、軽水炉または高速炉等の原子炉に燃え残り核燃料を挙げることができる。
【0016】
本発明に係る使用済核燃料の再処理方法において、使用済核燃料を溶解させる硝酸水溶液には、1M以上10M以下の濃度の硝酸水溶液を好適に用いることができる。特に、4Mの濃度の硝酸水溶液を用いるのがより好ましい。ただし、上述の硝酸水溶液の濃度を限定せず、使用済核燃料の物理状態等に応じて、硝酸水溶液の濃度を変えることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、燃焼の可能性を排除して著しく安全性を向上させる使用済核燃料の再処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明に係る使用済核燃料の再処理方法の好適な実施の形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態に何ら限定されるものではない。
【0019】
図1は、本発明の実施の形態に係る使用済核燃料の再処理方法の手順を示すフローチャートである。
【0020】
以下、使用済核燃料の再処理を行う工程手順につき、図1に基づいて説明する。
【0021】
(1)使用済核燃料の溶解工程(ステップS101)
この工程は、使用済核燃料を硝酸水溶液中に溶解させる工程である。まず、粉砕された使用済核燃料を処理容器に投入する。続いて、適量の適切な濃度を有する硝酸水溶液を処理容器に入れて混合する。使用済核燃料の再処理にあたって、硝酸水溶液は、適切な濃度に維持し、燃え残りウラン、燃焼の過程で生成されるプルトニウムおよび核分裂生成物を容易に溶解させる役割を有する。ここで、硝酸水溶液には、1M以上10M以下の濃度の硝酸水溶液を好適に用いることができる。特に、4Mの濃度の硝酸水溶液を用いるのがより好ましい。ただし、上述の硝酸水溶液の濃度を限定せず、使用済核燃料の粉砕状態等の物理状態に応じて、硝酸水溶液の添加量および濃度の制御を行い、高濃度の硝酸水溶液を使用するが可能となる。ただし、後続の処理工程の抽出に好ましい状態に調整するため、使用済核燃料を溶解させる高濃度の硝酸水溶液を適切な濃度に希釈するのが好ましい。また、混合方法は、マグネティックスターラーを用いた攪拌以外に、超音波分散、攪拌羽根を用いた攪拌等のどのような種類の混合方法であっても良い。また、混合水溶液を攪拌した後、全量を濾過するのが好ましい。なお、混合水溶液と不溶物との分離方法は、濾過以外に、遠心分離等の他の分離方法であっても良い。また、濾過した不溶物をさらに同じ濃度の硝酸水溶液で洗うのが好ましい。
【0022】
使用済核燃料の粉砕方法としては、公知の方法で行うことができる。例えば、軽水炉または高速炉からの使用済核燃料は、燃料集合体の状態にまましてせん断され、被覆管細片等を除去した後、使用済核燃料の粉末とする。また、使用済燃料に酸化熱処理を行い、使用済核燃料を粉体化することもできる。具体的には、例えば、使用済核燃料を燃料集合体の状態にままして、空気中で約500度以上酸化熱処理を行うことによって、使用済核燃料が粉体化され、この時の体積変化により被覆管が開裂して、被覆管から使用済核燃料粉末を分離することができる。
【0023】
(2)第1抽出工程(ステップS102)
この工程は、前工程にて得られた使用済核燃料を溶解した硝酸水溶液を、ハイドロフルオロカーボン(以後、HFCという。)とリン酸トリブチルとからなる混合有機溶媒と接触させて、使用済核燃料中に含まれたウランおよび/またはプルトニウム等を当該混合有機溶媒に移行させる工程である。この実施の形態では、混合有機溶媒は、30%容量リン酸トリブチル−70%容量HFCとするのが好ましい。このように組成を有する混合溶媒を調整することにより、ウランおよび/またはプルトニウム等を硝酸水溶液からより効率的に抽出させることができる。また、従来の再処理方法により使用されている可燃性のn−ドデカンの代わりに不燃性のHFCを使用することによって、再処理システムの安全性を向上できる。ここで、リン酸トリブチルはHFCに溶解し30%容量に限定せず、必要に応じて、適切に調整することができる。硝酸水溶液に含まれている使用済核燃料含有量および硝酸水溶液の濃度に応じて、混合有機溶媒の組成の調整を行うことが好ましい。また、HFCの中でも、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−decafluoropentaneを用いるのは最も好ましい。これは、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−decafluoropentaneの沸点が53.6℃であり、使用済核燃料の再処理を行った後、溶媒の回収をよりしやすいためである。
【0024】
また、HFCとリン酸トリブチルとからなる混合有機溶媒と硝酸水溶液を接触させる方法には、液ー液接触型の抽出器であれば特に限定されない。例えば、実験室レベルで行う場合には分液漏斗を使用し、大量に処理を行う場合には、公知の分液装置、ミキサーセトラー等の接触器を好適に使用することができる。分液漏斗を使用する場合には、抽出の対象となる使用済核燃料を含む硝酸水溶液に上述の混合溶媒の適当量を入れ、十分に振蕩することにより、静置して混合有機溶媒層と硝酸水溶液層の2層に完全に分離させた後、混合有機溶媒層を分取する。このため、硝酸水溶液に含まれるウランおよび/またはプルトニウム等を混合有機溶媒に選択的に抽出し、核分裂生成物は硝酸水溶液に残し高レベル廃液として除去される。
【0025】
また、必要に応じて、分離させた後硝酸水溶液層をさらに上述の混合有機溶媒と複数回接触されても良い。この結果、ウランおよび/またはプルトニウム等の抽出効率の向上が可能となる。ただし、必ずしも複数回の抽出を行う必要はない。
【0026】
(3)第2抽出工程(ステップS103)
この工程は、第1抽出工程により抽出された混合有機溶媒からウランおよび/またはプルトニウム等を再び水溶液に移行させる逆抽出工程である。この実施の形態では、ウランおよび/またはプルトニウム等を含有する混合有機溶媒を、水と接触させることによって、混合有機溶媒中に含まれたウランおよび/またはプルトニウム等を水相に移行させる。水は、特に限定されないが、好ましくは濾過等により異物粒子を除去した水、さらに好ましくは、異物粒子を除去することに加え、イオン交換樹脂を用いて処理して、金属イオンを除去した純水である。
【0027】
(4)後処理工程(ステップS104)
この工程は、水溶液に逆抽出されたウランおよび/またはプルトニウムを精製する工程である。この実施の形態では、公知の方法で行うことができる。例えば、まず、ウランおよび/またはプルトニウム等を含有する水溶液に還元剤が添加される。これによって、水溶液中のプルトニウムは、有機相に移りにくい原子価3の状態に転化される。次に、水溶液は、分配用抽出装置内に供給された後、有機溶液を用いた抽出処理が分配用抽出装置内で行われる。このため、ウランを主成分とするウラン有機溶液およびプルトニウムを主成分とするプルトニウム水溶液が、分配用抽出装置から得られる。その後、ウラン有機溶液およびプルトニウム水溶液は、それぞれの乾燥装置で固体に転換されることができる。ただし、上述の精製方法は一例に過ぎず、他の精製方法で後処理工程を行っても良い。
【0028】
以上、本発明に係る使用済核燃料の再処理方法の好適な実施の形態について説明した。その結果、安全性を向上させると共に、回収率に優れる使用済核燃料の再処理を行うことができる。
【実施例】
【0029】
次に、本発明に係る使用済核燃料の再処理方法の実施例および比較例について説明する。ただし、本発明は、以下の各実施例によって何ら限定されるものではない。なお、以下の各実施例および各比較例において、各共通の実施方法については、重複する説明を省略する。以下に説明する各実施例および各比較例において、水相に含むウランの濃度については、ICP発光分析装置(ICPS−7500、株式会社島津製作所製)を用いて、ICP分析法で測定したデータから把握した。
【0030】
A.処理手順
(実施例1)
まず、2M硝酸を含む0.01Mウラン水溶液と30%容量リン酸トリブチル−70%容量HFCの組成を有する混合有機溶媒とをそれぞれ用意した。次に、上述の水溶液と混合有機溶媒をそれぞれ同じ容量の割合で分液濾斗に投入し、十分に振蕩した後、1分間放置した。この結果、混合有機溶媒相が下、水溶液相が上で2層に完全に分離した。その後、上の混合有機溶媒相を分取した。このため、第1抽出工程によって、水溶液相に含まれるウランを混合有機溶媒に選択的に抽出した。また、ウランの抽出状況を確認するため、分取した水溶液相を測定用の試料とした。
【0031】
続いて、分離した混合有機溶媒と純粋な水をそれぞれ同じ容量の割合で再び分液濾斗に投入し、十分に振蕩して一定時間放置した後、2層に完全に分離した上の水溶液相を分取した。同じ抽出操作を繰り返して3回行った。この結果、第2抽出工程によって、混合有機溶媒に含まれるウランを水溶液相に選択的に逆抽出した。また、ウランの抽出状況を確認するため、毎回分取した水溶液相を測定用の試料とした。
【0032】
(実施例2)
この実施例では、2M硝酸を含む0.01Mウラン水溶液の代わりに、4M硝酸を含む0.01Mウラン水溶液を用意した。処理手順は、実施例1と同じ手順とした。第1抽出工程および第2抽出工程によるウランの抽出状況を確認するための測定用の試料がそれぞれ得られた。
【0033】
(比較例1)
まず、2M硝酸を含む0.01Mウラン水溶液と30%容量リン酸トリブチル−70%容量HFCの組成を有する溶液に10%容量n−ドデカンをさらに含む混合有機溶媒とをそれぞれ用意した。次に、上述の水溶液と混合有機溶媒をそれぞれ同じ容量の割合で分液濾斗に投入し、十分に振蕩した後、1分間放置した。この結果、混合有機溶媒相が下、水溶液相が上で2層に完全に分離した。その後、下の混合有機溶媒相を分取した。このため、第1抽出工程によって、水溶液に含まれるウランを混合有機溶媒に選択的に抽出した。また、ウランの抽出状況を確認するため、分取した水溶液を測定用の試料とした。
【0034】
続いて、分離した混合有機溶媒と水をそれぞれ同じ容量の割合で再び分液濾斗に投入し、十分に振蕩して一定時間放置した後、2層に完全に分離した上の水溶液相を分取した。同じ抽出操作を繰り返して3回行った。この結果、第2抽出工程によって、混合有機溶媒相に含まれるウランを水溶液に選択的に逆抽出した。また、ウランの抽出状況を確認するため、毎回分取した水溶液相を測定用の試料とした。
【0035】
(比較例2)
この比較例では、2M硝酸を含む0.01Mウラン水溶液の代わりに、4M硝酸を含む0.01Mウラン水溶液を用意した。処理手順は、比較例1と同じ手順とした。第1抽出工程および第2抽出工程によるウランの抽出状況を確認するための測定用の試料がそれぞれ得られた。
【0036】
(比較例3)
まず、2M硝酸を含む0.01Mウラン水溶液と30%容量リン酸トリブチル−70%容量ノルマルドデカンの組成を有する混合有機溶媒とをそれぞれ用意した。次に、上述の水溶液と混合有機溶媒をそれぞれ同じ容量の割合で分液濾斗に投入し、十分に振蕩した後、1分間放置した。この結果、混合有機溶媒相が下、水溶液相が上で2層に完全に分離した。その後、下の混合有機溶媒相を分取した。このため、第1抽出工程によって、水溶液に含まれるウランを混合有機溶媒に選択的に抽出した。また、ウランの抽出状況を確認するため、分取した水溶液相を測定用の試料とした。
【0037】
続いて、分離した混合有機溶媒と水をそれぞれ同じ容量の割合で再び分液濾斗に投入し、十分に振蕩して一定時間放置した後、2層に完全に分離した上の水溶液相を分取した。同じ抽出操作を繰り返して3回行った。この結果、第2抽出工程によって、混合有機溶媒に含まれるウランを水溶液に選択的に逆抽出した。また、ウランの抽出状況を確認するため、毎回分取した水溶液相を測定用の試料とした。
【0038】
(比較例4)
この例では、2M硝酸を含む0.01Mウラン水溶液の代わりに、4M硝酸を含む0.01Mウラン水溶液を用意した。処理手順は、比較例3と同じ手順とした。第1抽出工程および第2抽出工程によるウランの抽出状況を確認するための測定用の試料がそれぞれ得られた。
【0039】
B.分析結果
図2および図3は、実施例1、2および比較例1〜4の条件にてウランの抽出率を示す図である。
【0040】
図2および図3において、横軸における1に相当する縦軸の点は、第1抽出工程における混合有機溶媒によるウランの抽出率を示す。その数値は低いほど混合有機溶媒への抽出率は高い。図2に示すように、実施例1の場合には、50%の値を示した。これは、30%容量リン酸トリブチル−70%容量HFCの組成を有する混合有機溶媒によって、2Mの硝酸水溶液中からウランが約50%抽出されることを意味する。また、比較例1の場合には、実施例1の条件でのウランの抽出率と殆んど変化がない。つまり、10%容量n−ドデカンを加えても抽出効率が高くならないことを示した。また、比較例3の場合には、5%程の値を示した。これは、ウランに対する30%容量リン酸トリブチル−70%容量n−ドデカンの組成を有する混合有機溶媒の高い抽出能を示す。
【0041】
実施例2の場合には、16%の値を示した。これは、水溶液の硝酸濃度を4Mに上げることにより、30%容量リン酸トリブチル−70%容量HFCの組成を有する混合有機溶媒によるウランの抽出効率が著しく改善されることを示す。また、比較例2の場合には、実施例2の条件でのウランの抽出率と殆んど変化がない。これは、10%容量n−ドデカンを加える混合有機溶媒を用いる場合に、水溶液の硝酸濃度を4Mに上げてもウランの抽出効率が高くならないことを示した。また、比較例4の場合には、2%程の値を示した。これは、水溶液の硝酸濃度を4Mに上げることにより、30%容量リン酸トリブチル−70%容量n−ドデカンの組成を有する混合有機溶媒によるウランの抽出効率がある程度に改善されることを示したが、その傾向は30%容量リン酸トリブチル−70%容量HFCの組成を有する混合有機溶媒での抽出効果の変化が顕著である。
【0042】
一方、横軸における2,3および4に相当する縦軸の点は、第2抽出工程におけるそれぞれ1回目、2回目および3回目の水溶液によるウランの逆抽出率を示す。その数値は高いほど水溶液への逆抽出率は高いことを意味する。図2および図3に示すように、実施例1の場合には、1回目、2回目および3回目の水溶液によるウランの逆抽出率は、それぞれ88%、89%および89%の値を示した。また、比較例1の場合には、それぞれ91%、92%および92%の値を示した。また、比較例3の場合には、それぞれ40%、86%および90%の値を示した。一方、実施例2の場合には、それぞれ90%、95%および95%の値を示した。また、比較例2の場合には、それぞれ88%、93%および93%の値を示した。また、比較例4の場合には、それぞれ20%、75%および85%の値を示した。
【0043】
以上のような結果から、2Mの硝酸水溶液を用いる場合に、30%容量リン酸トリブチル−70%容量HFCの組成を有する混合有機溶媒によるウランの抽出効率は高くないが、4Mの硝酸水溶液では著しく改善され、従来のn−ドデカンーリン酸トリブチルの混合溶媒に遜色なく、工業的な使用は十分可能である。また、実施例1および実施例2では、比較例1〜4と比べて、30%容量リン酸トリブチル−70%容量HFCの組成を有する混合有機溶媒を用いることによって、逆抽出を1回のみ行っても、ウランが効率良く抽出されることができる。また、可燃性のn−ドデカンの代わりに不燃性のHFCを使用するため、使用済核燃料の再処理システムの安全性を向上できる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、使用済核燃料の再処理する産業において利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施の形態に係る使用済核燃料の再処理方法の手順を示すフローチャートである。
【図2】実施例1および実施例2にてウランの抽出率を示す図である。
【図3】比較例1〜4の条件にてウランの抽出率を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用済核燃料の再処理方法であって、
上記使用済核燃料を硝酸水溶液に溶解させ、得られた少なくともウランおよび/またはプルトニウム等を含む上記硝酸水溶液を、ハイドロフルオロカーボンとリン酸トリブチルとからなる混合有機溶媒と接触させることにより、上記ウランおよび/またはプルトニウム等を上記混合有機溶媒に移行させる第1抽出工程と、
上記混合有機溶媒から上記ウランおよび/またはプルトニウム等を再び水溶液に移行させる第2抽出工程と、
有することを特徴とする使用済核燃料の再処理方法。
【請求項2】
前記混合有機溶媒は、30%容量前記リン酸トリブチル−70%容量前記ハイドロフルオロカーボンであることを特徴とする請求項1に記載の使用済核燃料の再処理方法。
【請求項3】
前記ハイドロフルオロカーボンは、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタンであることを特徴とする請求項1または2に記載の使用済核燃料の再処理方法。
【請求項4】
前記硝酸水溶液の濃度は、2M以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の使用済核燃料の再処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−186399(P2009−186399A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−28616(P2008−28616)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【出願人】(390033961)株式会社日本ティーエムアイ (10)
【出願人】(502045057)
【出願人】(508042571)