説明

係止用長繊維不織布

【課題】 フック状係止部材との剥離時に不織布表面上の繊維の毛羽立ちを抑え、また、繊維がフックに詰まり連なって剥ぎ取られることなく、フック状係止部材に対して、繰り返し結合しても結合強力が低下しないループを有する係止用長繊維不織布を提供する。
【解決手段】 表面に散在する非連続の部分的熱圧着部によって表裏一体化した不織布において、表面層の繊維配列の優位方向を一定間隔で横切ると共に、圧着線の線方向も区切ることのできるように実質的に連続した波線状の圧着部を平行に設けることにより、非圧着部の繊維の固定範囲を区切り、非圧着部内に両端を固定したループを形成する係止用長繊維不織布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、係止用長繊維不織布に関し、特に面ファスナー用として用いられる、フック状係止部材に対して繰り返し結合可能なループを有し、かつ毛羽たちの少ない係止用長繊維不織布に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の面ファスナーにおいては、天然繊維あるいは合成繊維からなる糸でループを形成した織編物とフック状係止部材とを、それぞれ結合しようとする二つの面にあらかじめ接着または縫製により固定させておき、フックをループに引掛けることで着脱可能に結合する方法が知られている。例えば、車両や飛行機等における座席のシートカバーの固定用や、使い捨てオムツの止着用として、トリコット生地などのループが形成された織編物とフック状係止部材を結合する場合があげられる。
【0003】
しかし、これらの用途に用いられるトリコット生地などのループにおいては、カットした時、ほつれ等が発生するため、製造工程上でトラブルを生じることがあったりする。また、その防止策として、ほつれ止め加工、引きつれ対応のために裏材を貼り合わせるなどする方法があるが、これらの方法は、コスト高となる。
【0004】
特許文献1のように、捲縮長繊維の不織布を用いれば、上記のような、ほつれ、コスト面の問題については解消される。しかし、このような一般的な不織布では貼り直し等で繰り返し結合を行うと、不織布の繊維がフックにより剥ぎ取られ、また、不織布の表面上を毛羽立たせる。毛羽立った繊維は他のループ糸を隠すように表面を覆ってしまい、また剥ぎ取られた繊維はフックに詰まった状態となる。このため、繰り返し結合した時、毛羽立った繊維とフックに詰まった状態の繊維が結合を阻害し、その結合強力を低下させる問題があった。
【0005】
特許文献2には、不織布に平行線エンボスを施した提案があるが、熱圧着部の縦横のバランスがよくなく、そのため不織布の寸法安定性が悪く、使用時に変形し易い等の問題がある。
特許文献3のように、熱圧着部がマトリックス状の不織布は、寸法安定性は良いが、連続した熱圧着部により、不織布の風合いは硬くなる等の問題があった。
【0006】
これらの改良として、特許文献4には、表面層の繊維優位配列方向を横切るように、連続した平行線状圧着部を有する係止材用不織布が開示されている。しかしながら、係止された繊維を固定する点では優れるものの、一定方向の配列と言っても、不織布繊維の配列は必ずしも一定ではなく、方向性にバラツキを有し、程度によって係止範囲で毛羽立ち、また平行線間隔より長い繊維長の毛羽立ちなどが生じる傾向があり、充分とは言い切れない。
【特許文献1】特開平2−193607号公報
【特許文献2】特開平11−335960号公報
【特許文献3】特開平11−75912号公報
【特許文献4】特開2003−9912号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、上記欠点を解消し、フック状係止部材に対して、繰り返し結合しても、結合強力が容易に低下しないループを有すると共に、使用時の毛羽立ち範囲が小さく、かつ毛羽長が短い係止用長繊維不織布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明者は、不織布材料における面ファスナーの使用され方について詳細検討し、面ファスナーの結合強力の方向性を調査したところ、その結合強力は全方位というより、むしろ一方向に必要であり、また実質的に連続した平行線状の圧着部が、少なくとも不織布表面層の繊維配列優位方向を横切ることが好ましいことが分った。しかしながら、係止材の向き、程度によって係止範囲で毛羽立ちが発生し、また圧着固定した平行線の間隔より長い毛羽立ちが起こるなどの問題があり、これらの点をさらに検討した結果、繊維の優位配列方向は、その優位方向に対し少なくとも±30゜程度の方向性のバラツキ範囲を有しており、実用上、繊維を固定する点では繊維配列効果で優れるものの、幾分かは、平行線方向に配列した繊維が固定点から切れて、毛羽たちしていることが分った。
【0009】
本発明者らは、さらに、フック形状の見直しも行った。最近では、フックの形状について改良が進んでおり、例えば、浅く小さいフックで、かつ高密度配置のフックになり、フック表面でも凹凸が殆ど感じないほど平滑で密集度の高い形状に改良されている。例えば、フックの高さが0.2mm程度で、配置密度が約250個/cmと多くなっているものもあり、従来の深く、少なく、しっかり係止するという係止方法から、浅く、数多く係止するという係止方法に変化しているものが多くなっている。そのため、最近のフックに適した係止材としては、不織布繊維のフックへの係止確率をより高めたものが必要であることが分った。
【0010】
本発明者らは、これらの点を考慮し、検討を進めた結果、不織布表面層の繊維優位配列方向を一定間隔で横切ると共に、圧着線の線方向もある程度角度をつけて区切ることのできるように、実質的に連続した波線状の圧着部を平行に設け、好ましくは、波線状の圧着部において、平行に設けた相隣る波線の間隔が波高より小さく配置して、繊維を固定することにより、非圧着部の繊維の固定範囲を区切ることが、繊維の切れ、毛羽立ちに有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本願で特許請求される発明は以下のとおりである。
(1)不織布表面層の繊維配列に優位方向を有する熱可塑性長繊維ウェブであって、該表面層の繊維配列の優位方向を横切るように、実質的に連続した波線状の圧着部を平行に設けてなることを特徴とする係止用長繊維不織布。
(2)前記平行に設けてなる相隣る波線の間隔が、波高より小さいことを特徴とする(1)に記載の係止用長繊維不織布。
【0012】
(3)不織布強力の縦横比が2.0〜8.0であり、かつ縦方向への繊維配列が優位であることを特徴とする(1)または(2)に記載の係止用長繊維不織布。
(4)波線状圧着部のピッチと波高の比が1.0〜4.0の範囲であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の係止用長繊維不織布。
【0013】
(5)波線状圧着部間の非圧着部の巾が2〜5mmであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の係止用長繊維不織布。
(6)波線状の圧着部の巾が0.3〜1.5mmであることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の係止用長繊維不織布。
【0014】
(7)波線状圧着部とは異なるパターンで、不織布の全面に亘って非連続の部分熱圧着部を散在させて表裏一体化した(1)〜(6)のいずれかに記載の係止用長繊維不織布。
(8)不織布を構成する繊維が捲縮を有する繊維であることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の係止用長繊維不織布。
【0015】
本発明において、波線状の圧着部の形状は、一線ごとにピッチ、波高が異なるものが組み合わされていても良いが、基本的には同じ波形状の繰り返されたものが好ましく、図1に示すような波の頂点が尖ったV形状のもの(1)、丸みを持つU形状のもの(2)、平面的な台形状もの(3)などの形状が有効である。
【0016】
さらに非圧着部の繊維の固定区画に関係する波線状のピッチ(p)と波高(h)の比(p/h)は、1.0〜4.0の範囲が好ましく、1.1〜3.5の範囲がより好ましい。上記比が4.0を越えると単なる平行線と類似して効果が弱く、また1.0未満では波線が密になり過ぎ、係止効果が弱くなると共にソフト性が低下する。なお、上記波線の水平となす角度(a)は30〜60°が好ましい。
【0017】
本発明において、繊維配列優位方向とは、不織布表面上の繊維配列が多い方向のことであり、その繊維配列方向を示す指標としては、不織布の強力縦横比にほぼ現れる。この縦横比は2.0〜8.0の範囲が好ましく、2.5〜6.0の範囲がより好ましい。強力の縦横比が2.0未満であると、ループを形成する繊維の方向性が乱れて配列されるため、結合強力に有効なフックへの引掛かりが少なくなるとともに、ループ内の各繊維の固定長が異なるため、フックを剥離する際に短い単糸から切れやすく、フック状係止部材との結合強力が低下する。強力の縦横比が8.0を超えると、不織布自体の横強力が低くなりすぎ、フック状係止部材との剥離時に不織布が引き裂かれ、破壊されることがある。
【0018】
係止用不織布の実用に当たって、テープ状にスリットした際のカット面の開放、ほつれの発生などが問題になる場合や、不織布の強力及び寸法安定性保持のために、係止用のループ形成に有効な波線状熱圧着部とは別に、ループ形成を阻害せず、かつ不織布の寸法安定性を保持するための部分熱圧着部を組合わせることが好ましい。ループ形成を阻害せず、かつ寸法安定性を保持するための部分熱圧着部とは、波線状圧着部の周辺に非連続に散在する丸、角等の点状の、前記波線状圧着部とは異なるパターンの部分熱圧着部のことであり、波線状熱圧着部と部分的に重なるものがあってもよい。この部分熱圧着部の面積率は、3〜50%が好ましく、より好ましくは5〜30%である。
【0019】
本発明において、波線の間隔に相当する非圧着部の巾は、波線状熱圧着部のピッチおよび波高を考慮して設定されるが、2〜5mmであることが好ましい。なお、ここで言う波線の間隔(図1の非圧着部の巾(c))は繊維の配向方向の間隔で示すものである。また、実質的に連続した波線状の圧着部の巾は、0.3〜1.5mmであることが、繊維固定の点で有用である。実質的に連続した波線状とは、断線状、または破線状でもかまわないが、全体として連続状の波線であることが好ましく、完全に連続した波線がより好ましい。
【0020】
本発明において、使用する繊維としては、圧着部の形成、強度等の点で熱可塑性繊維、とくに結晶性熱可塑性繊維が好ましく、例えば、軽量で比較的低融点で圧着しやすいポリプロピレン繊維等のポリオレフィン系繊維、単糸強度及び寸法安定性の良いポリエチレンテレフタレート繊維等のポリエステル系繊維、単糸強度及び布の柔軟性の良いナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維を、単独あるいは混合したものを挙げることができる。また、これらの繊維は複合繊維として用いてもよいが、コスト面やリサイクル可能な点から、単一成分で構成されている繊維がより好ましい。
【0021】
また、本発明の不織布は、フック状係止部材との剥離時に、単糸に張力がかかる点や、糸抜けが生じにくいなどでの強力面で有利であることから、前記繊維からなる長繊維ウェブから構成される。
【0022】
本発明において、不織布を構成する単繊維の繊度は、1.0〜11.0デシテックスが柔軟性、係止効果の点で好ましく、より好ましくは2.0〜9.0デシテックスである。単繊維繊度が1.0デシテックス未満であると、肌触りは柔軟であるが、単糸が切れやすく、フック状係止部材との結合強力が低下する。また、単繊維繊度が11.0デシテックスを超えると、単糸が切れにくくなるが、得られる不織布の風合いが硬くなり、係止材としての柔軟性を損なうことになる。
【0023】
本発明の繊維として、捲縮繊維を用いると、得られる不織布が嵩高になり、また、フック状係止部材の種々のフック形状に対し適応性がよくなるので、より好ましい。捲縮繊維としては、らせん状捲縮を有する連続フィラメントとして形成されているのが好ましい。捲縮数は2個以上/25mmが好ましく、多い方がより好ましい。捲縮らせん径は0.3〜2.0mmが好ましく、0.3〜1.0mmがより好ましい。捲縮らせん径が2.0mmを超える場合は、単位長当たりの捲縮数が少なくなるので、嵩高性が劣り、また0.3mm未満の場合は、らせん形状によって得られる空間が小さくなりすぎるため、嵩高性が劣ることになり、捲縮繊維の効果が発揮できなくなる。
【0024】
さらに、本発明の繊維は、糸断面が通常の丸型以外に、これを変形して特殊形状に形成されたものでもよい。単一成分での捲縮繊維では、捲縮発現の点から一手法として特殊形状も用いることができる。この場合、糸断面形状の少なくとも一部の凸部をまたは凹部を有する形状であればよい。また、単一成分での捲縮糸は、繊維製造時に糸条を不均一に冷却する非対称冷却法等により物理的に形成してもよく、また複合繊維では、貼合せ構造等のバイメタル効果によって捲縮を持つ繊維に形成することができる。
【0025】
本発明の不織布は部分的熱圧着で接合されるが、前述の実質的に連続した波線状の圧着部は、結合したフック状係止部材を剥離する時に、繊維が連なって長く剥ぎ取られることがなく、途切れさせると共に、これを平行に設けた際、波線の線方向も区切ることのできるようにすることから、この効果が得られるならば、この波線状の圧着部は、点状または断線状の圧着部が連なったものでもよいことを意味する。使用する用途、取付部位によって柔軟性を必要とする場合には、点状または/および断線状を連ね、実質的に線状としたものが好ましく、繊維が剥離されるのを途切れさせるためには、その圧着部間は0.3mm以下であることが好ましく、0.1mm以下がより好ましい。波線状圧着部の巾(太さ(d))は0.3〜1.5mmの範囲が好ましく、0.5〜1.0mmの範囲がより好ましい。線状圧着部の巾が0.3mm未満であると、圧着不十分となりやすく、フック状係止部材を剥離した時に、毛羽立つ繊維が切れずに連なって剥離し易くなり、長い毛羽立った繊維が残り表面を覆うので、繰り返しの結合が難しくなる。線状圧着部の巾が1.5mmを超えると、布として、柔軟性が劣るものとなる。また、散在する非連続熱圧着部は、形状が丸、角等の点状が一般的であって、該圧着部面積が0.03mm〜5mmのものが好ましく、その間隔は0.5mm〜4.0mmが好ましい。
【0026】
上記波線状圧着部及び散在する非連続圧着部は、繊維の熱圧着により形成されるが、その形成方法としては、彫刻を施したロールを用いる方法の他に、平板を押し当てる方法で行うことができるが、生産効率の点でロールを用いる方法が好ましい。一方を彫刻ロールとし、他方を平滑な金属ロールとする組合せ、また上、下共彫刻ロールとしてつき合わせる方法等がある。熱圧着程度は得られる不織布の強力、毛羽立ち性等の要求性能に応じて、上、下ロールの温度および接圧を設定することによって定められるが、温度は、強度および風合上、使用する繊維の融点以下に設定するのが好ましい。波線状圧着部及び散在する非連続圧着部は、同時にまたは二段階に分けて形成してもよい。
【0027】
本発明における波線状熱圧着部間の非圧着部とは、波線状熱圧着により形成された圧着部と圧着部の間の非圧着部分を示すもので、非圧着部分内の繊維は互いに接合することなく、圧着部間でループを形成している。図1に例示するように非圧着部の巾(c)は、波線状熱圧着部の間隔を示すもので、繊維の配向方向で少なくとも2〜5mmが好ましい。波線のピッチ、波高を考慮すると、圧着部間の最短間隔はこの0.5〜0.86倍になる。非圧着部の巾が2mm未満では、非圧着部内のループが小さく、フック状係止部材への引掛かりが少なくなり、結合強力が低下する。非圧着部の巾が5mmを超えると、フック状係止部材の剥離時に切断された繊維が長くなり、不織布の表面に毛羽立ち、非圧着部を覆ってしまい、繰り返し結合がしにくくなる。
【0028】
本発明の不織布の目付は、使用目的により任意に選択できるが、軽さ、強度等を勘案した取扱いの便宜から10〜150g/mが可能であり、実用上20g/m〜60g/mが好ましい。
なお、本発明で使用するフック状係止部材は繊維を引掛けることの可能なフック状、または突起状のものが配列された一般的なもので、図2に例示するようなものでよい。
【発明の効果】
【0029】
本発明の不織布は、表面層の繊維配列の優位方向を一定間隔で横切ると共に、圧着線の線方向も区切ることのできるように実質的に連続した波線状の圧着部を平行に設けることにより、非圧着部の繊維の固定範囲を区切り、非圧着部内に両端を固定したループを形成することができる。このループにフック状係止部材のフックが引掛かることにより、係止材として十分な結合強力を発揮し、また、フック状係止部材との剥離時にはループの周囲の圧着部が、剥ぎ取られる繊維による表面の毛羽立ちを途切れさせることで、表面上の毛羽立ちを小さくし、切断された繊維はフックに詰まることも少なく、繰り返し結合が可能となる。また、テープ状にスリットした際でもカット面の開放、ほつれの発生は解消される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
次に、実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、得られた不織布の性能は次のような方法で測定した。
(1)結合強力
高さ約0.25mmのきのこ状フックが1cmあたり約250個設けられた幅3cmのフック状係止部材と、実施例及び比較例で作成した不織布(幅3cm)とを、繊維配列の優位方向を横切る方向(機械巾(横)方向)を係止方向として、3cmの長さで700gのローラで加重結合した。島津製作所(株)製テンシロンを用いて、結合していない部分の上下をつかみ、つかみ巾100mm、試験速度300mm/minで引張試験をおこない、最大強力を読み取り、これを結合部の面積で除した値を結合強力(N/cm)とした。さらに繰り返し結合し、試験をおこなった。
【0031】
(2)結合後の毛羽評価
係止後の毛羽立ちはその毛羽立ち程度を官能的に等級で示した。係止の無いものを5級、散点状圧着部(丸0.45φ、1.5mm間隔)で熱圧着したものの5回係止後の毛羽立ち状態を1級とし、この中間レベルの僅かに毛羽立ったものを4級、かなり毛羽立ったものを2級、毛羽立っているがフックの引っ掛けの可能な程度のものを3級として、n=5の平均値で示した。実用可能なレベルを3級以上とする。
(3)引張強力
不織布の強力は、幅3cm、長さ20cmの試験片を島津製作所(株)製テンシロンを用いて、つかみ巾100mm、試験速度300mm/minで引張試験を行なって求めた。不織布の繊維配列優位方向を機械(縦)方向とし、対する90度の方向を巾(横)方向として強力を測定し、縦方向の強力値を横方向の強力値で除した値を強力の縦横比とした。
【0032】
(4)厚み
不織布の厚みは、ピーコック厚み測定器を用い、100g/cm荷重で測定し、n=5の平均値で示した。
(5)柔軟性
柔軟性はJIS−L1906に記載されるカンチレバー法で測定し、n=5の平均値で示した。値が低いほど柔軟である。
【実施例】
【0033】
[実施例1、2及び3]
ポリプロピレン(JIS−K7210の表1の条件で測定したMFR=40)を原料とし、丸断面のノズルから溶融押出した長繊維を紡口の近傍にて側方から冷却しながら、エアーサッカー等の牽引引取装置で引き取った。牽引引取装置を出た糸条は、帯電装置を通過させて開繊させた後、移動する金網コンベアー上にウェブとして捕集した。このウェブを搬送し、図1に示すようなV型波線状圧着部(a=45°、p=10mm、h=5mm、d=0.5mm)のc=4mm(実施例1)、3mm(実施例2)及び2mm(実施例3)でそれぞれ彫刻された加熱ロールと平滑ロール間に通し圧着表面温度138℃で部分的に接合し、波線状圧着部間で形成された非圧着部を有する不織布を得た。不織布の構成繊維2.8デシテックス、目付は40g/mであった。フック状係止部材との結合性能の結果を表1に示す。得られた不織布は、波線の間隔(c)が広くなるほど柔軟であり、係止後の毛羽立ちが増える傾向にあるが、合格レベルといえる。また波線の間隔がc=2mmと狭くなると、毛羽立ち難く、幾分硬めのものであるが、いずれも実用上問題なく、充分な結合強力を有するものであった。
【0034】
[実施例4及び5]
実施例1において、加熱ロールの彫刻した柄を表1に示すそれぞれのV型波線状圧着部にした加熱ロールを用い接合した以外は同様な方法を用い、不織布の構成繊維2.8デシテックス、目付40g/mの不織布を得た。フック状係止部材との結合性能の結果を表1に示す。得られた不織布は、波のピッチ(p)と波高(h)の比(p/h)が1.15と小さいもの(実施例4)は、係止後の毛羽立ちはやや多いが柔軟であり、比が3.47と大きいもの(実施例5)は逆の傾向が見られたが、いずれも実用上に支障の無いものであった。
【0035】
[実施例6]
実施例1において、異形のV型ノズルから溶融押出した長繊維を紡口の近傍にて側方から冷却し、牽引引取装置を出た糸条はらせん状捲縮を有していた。捲縮数は約10〜15個/25mm、らせん径約0.8mmの顕在捲縮糸のウェブが得られた。加熱ロールの彫刻柄を図1(2)のU型波線状圧着部(a=45°、p=10mm、h=5mm、c=4mm、d=0.5mm)として、以下実施例1と同様な方法を用いて、構成繊維2.8デシテックス、目付40g/mの不織布を得た。フック状係止部材との結合性能の結果を表1に示す。得られた不織布は通常の糸で構成されたものに比べ、係止後毛羽立ちがやや多めだが、係止し易く、風合いも柔軟で実用に充分耐えるものである。
【0036】
[実施例7及び8]
実施例1において、ポリエチレンテレフタレートを原料とし、加熱ロールの彫刻柄をそれぞれV型波線状圧着部(a=45°、p=10mm、h=5mm、c=4mm、d=0.5mm)(実施例7)、U型波線状圧着部(a=30°、p=10.4mm、h=3mm、c=2mm、d=0.8mm)(実施例8)、圧着表面温度235℃とした以外は同様な方法で構成繊維2.0デシテックス、目付40g/mの不織布を得た。フック状係止部材との結合性能の結果を表1に示す。得られた不織布は幾分硬めだが、結合強力が大きく、係止時の形態変化が少ないものである。
【0037】
[実施例9]
実施例1において、ナイロン6を原料とし、圧着表面温度200℃とした以外は同様な方法で構成繊維2.0デシテックス、目付40g/mの不織布を得た。フック状係止部材との結合性能の結果を表1に示す。得られた不織布は肌触りが柔軟であり、充分な結合強力を有する。
【0038】
[実施例10及び11]
実施例1において、捕集したウェブを繊維相互の接合のための散在した点状の圧着部(0.45mm径、1.5mm間隔、千鳥配列、圧着面積率7%)が彫刻された加熱ロールに通し、圧着表面温度135℃で部分的に接合し、次いで、実施例7で使用した波線状圧着部の加熱ロール(実施例10)、実施例8で使用した波線状圧着部の加熱ロール(実施例11)に通し、それぞれ圧着表面温度135℃で圧着し、構成繊維2.8デシテックス、目付40g/mの係止材用不織布を得た。得られた不織布は、実施例1に比べ、幾分硬めになるがソフトで係止後の毛羽の少ないものであった。
【0039】
[比較例1]
実施例10において、繊維相互の接合のための点状の部分熱圧着(0.45mm径、1.5mm間隔、千鳥配列、圧着面積率7%)のみで、波線状圧着部の加工を施さずに不織布を形成した。非圧着部は膨らみを持つが平面上で連続したものであった。
また、この不織布をフック状係止部材と結合したところ、初期の強力は十分な結合強力を有していたが、着脱をおこなうと一度の剥離で不織布表面の繊維はフックにより切れ、不織布の表面上が長い繊維が毛羽立ち、また、切れた繊維がフックに詰まり、数回後は結合しても十分な結合強力は得られず、繰り返しの使用に耐えないものであった。フック状係止部材との結合性能の結果を表1に示す。
【0040】
[比較例2]
実施例1において、波線状圧着部の替わりに平行線状圧着部を付与し形成される不織布を得た。この不織布をフック状係止部材と結合したところ、十分な結合強力を有していた。さらにこの係止材用不織布とフック状係止部材との結合を繰り返した。結合を数回繰り返しても強力は若干低下するがほぼ同程度の強力を保持し着脱可能であったが、不織布の表面の繊維は毛羽立ちが多く、比較的長い繊維が見られ、耐久使用には問題となるものであった。フック状係止部材との結合性能の結果を表1に示す。
【0041】
以上に述べたように、実施例で得た不織布をループ係止材として、フック状係止部材と結合したところ、十分な結合強力を有していた。さらにこの係止用長繊維不織布とフック状係止部材との結合を繰り返した。剥離時に非圧着部内のループ糸がフックにより張力をかけられた時、波線状圧着により両端を固定されているループ糸は非圧着部内で切断されるため、毛羽立つものの、比較例で示す平行線状圧着で固定したものに比べても繊維長も短く、不織布の表面上の毛羽立ちは少なく、ループが隠れることもなかった。また、フック内に切れて脱落した繊維が詰まることも少ないので、繰り返しの結合を阻害することにならなかった。5回繰り返しても同程度の強力を保持し着脱可能であった。さらに、不織布のカット面は、繊維の開放、ほつれなどの発生は無かった。
【0042】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に使用する加熱ロールの波線彫刻柄の一例を示す平面図。
【図2】本発明不織布を係止するフック部材の側面の顕微鏡写真を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布表面層の繊維配列に優位方向を有する熱可塑性長繊維ウェブであって、該表面層の繊維配列の優位方向を横切るように、実質的に連続した波線状の圧着部を平行に設けてなることを特徴とする係止用長繊維不織布。
【請求項2】
前記平行に設けてなる相隣る波線の間隔が、波高より小さいことを特徴とする請求項1に記載の係止用長繊維不織布。
【請求項3】
不織布強力の縦横比が2.0〜8.0であり、かつ縦方向への繊維配列が優位であることを特徴とする請求項1または2に記載の係止用長繊維不織布。
【請求項4】
波線状圧着部のピッチと波高の比が1.0〜4.0の範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の係止用長繊維不織布。
【請求項5】
波線状圧着部間の非圧着部の巾が2〜5mmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の係止用長繊維不織布。
【請求項6】
波線状の圧着部の巾が0.3〜1.5mmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の係止用長繊維不織布。
【請求項7】
波線状圧着部とは異なるパターンで、不織布の全面に亘って非連続の部分熱圧着部を散在させて表裏一体化した請求項1〜6のいずれかに記載の係止用長繊維不織布。
【請求項8】
不織布を構成する繊維が捲縮を有する繊維であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の係止用長繊維不織布。





【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−265782(P2006−265782A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−86401(P2005−86401)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】